(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193543
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】鉄筋構造
(51)【国際特許分類】
E04C 5/18 20060101AFI20170828BHJP
E04B 1/58 20060101ALI20170828BHJP
E04B 1/16 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
E04C5/18 101
E04B1/58 507A
E04B1/58 508A
E04B1/16 G
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-130669(P2012-130669)
(22)【出願日】2012年6月8日
(65)【公開番号】特開2013-253442(P2013-253442A)
(43)【公開日】2013年12月19日
【審査請求日】2015年4月20日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390029089
【氏名又は名称】高周波熱錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】特許業務法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】飯干 福馬
(72)【発明者】
【氏名】村田 義行
(72)【発明者】
【氏名】中村 佳史
【審査官】
西村 隆
(56)【参考文献】
【文献】
特開平04−016635(JP,A)
【文献】
特開平03−206221(JP,A)
【文献】
特開平02−088832(JP,A)
【文献】
特開2010−236217(JP,A)
【文献】
特開平01−137032(JP,A)
【文献】
特開昭58−204270(JP,A)
【文献】
米国特許第04409764(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04C 5/18
E04B 1/16
E04B 1/18
E04B 1/21
E04B 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉛直方向に延びて配筋された複数の柱用主筋及び前記柱用主筋の軸方向と交差する平面内において前記柱用主筋を囲んで配筋された4以上の柱用せん断補強筋を備える柱と、水平方向に延びて配筋された複数の梁用主筋及び前記梁用主筋の軸方向と交差する平面内において前記梁用主筋を囲んで配筋された複数の梁用せん断補強筋を備える梁とが接合した鉄筋構造であって、
前記梁用主筋は、前記梁の上側に配置される上部主筋と前記梁の下側に配置される下部主筋とを有し、
前記柱の前記梁と接合した柱梁接合部において、前記上部主筋と前記下部主筋との一部がそれぞれ配置され、前記柱用主筋を囲んで拘束する閉鎖型の補強部材が設けられ、前記4以上の柱用せん断補強筋のうち一部は、前記補強部材を挟んだ上下の位置であって前記上部主筋と前記下部主筋との間にそれぞれ設けられ、前記4以上の柱用せん断補強筋のうち残りは、前記柱梁接合部より上と下とにそれぞれ設けられ、前記柱梁接合部より上に設けられた柱用せん断補強筋と前記柱梁接合部に設けられた柱用せん断補強筋との間には前記上部主筋が配置され、前記柱梁接合部より下に設けられた柱用せん断補強筋と前記柱梁接合部に設けられた柱用せん断補強筋との間には前記下部主筋が配置され、
前記補強部材は、前記柱用主筋の軸方向における幅寸法が、前記柱用主筋の軸方向における前記柱用せん断補強筋の幅寸法よりも大きく、かつ、前記柱用主筋の軸方向において、前記柱梁接合部の上端と下端とにそれぞれ離隔しており、しかも、梁せいの4/1以上2/1以下である
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項2】
請求項1に記載の鉄筋構造において、
前記補強部材は、外枠と、前記外枠の内面を連結して前記外枠の内部を仕切る仕切り部とを備える
ことを特徴とする鉄筋構造。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の鉄筋構造において、
前記補強部材は、帯状部材の端部どうしを突き合わせて溶接で接合した閉じた枠形状である
ことを特徴とする鉄筋構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柱と梁とが交差接合される柱梁接合部が補強された鉄筋構造に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、柱や梁に鉄筋が使用される鉄筋構造においては、柱と梁とが交差接合される柱梁接合部は、柱に配筋される柱用主筋と、梁に配筋される梁用主筋とが連結され、さらにこの部分にせん断補強筋が配筋される。
【0003】
この柱梁接合部には、柱の軸力が作用する他、柱及び梁に荷重が繰り返し加えられることで、柱における柱梁接合部の上下に当たる部分に力が加わり、鉄筋構造に打設されるコンクリートにひび割れが発生して柱の強度を低下させる恐れがある。特に、地震時においては、柱の変位に比べて梁の変位が多く、この梁の変位により柱に対して上下方向(柱に対して垂直方向)の大きな力が加えられると、柱において梁の上下両側に当たる部分(すなわち、柱における柱梁接合部の上下両側の部分)にひび割れが発生する。このようなひび割れなどを防止するために、柱梁接合部を補強する必要がある。
【0004】
従来、柱用主筋を備える柱と、梁用主筋を備える梁とが接合した鉄筋構造が知られている(特許文献1)。
特許文献1で示される鉄筋構造では、柱梁接合部の上端部及び下端部におけるひび割れの進展を抑制するために、柱用主筋を囲む補強バンドが設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−236217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1に記載のような従来の鉄筋構造では、補強バンドが柱梁接合部の上下端に設けられているため、補強バンドが梁用主筋に隣接することになり、補強バンドを設けるときの作業性が考慮されていない。
また、補強バンドが柱梁接合部の上下端に設けられているため、柱に加わるせん断応力に対して柱の補強が必ずしも十分とはいえず、また、より大きな柱の補強も求められている。
【0007】
本発明の目的は、補強部材を設けるときの作業性がよく、また、せん断応力に対して柱の補強を十分に行うことができる鉄筋構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の鉄筋構造は、鉛直方向に延びて配筋された複数の柱用主筋及び前記柱用主筋の軸方向と交差する平面内において前記柱用主筋を囲んで配筋された
4以上の柱用せん断補強筋を備える柱と、水平方向に延びて配筋された複数の梁用主筋
及び前記梁用主筋の軸方向と交差する平面内において前記梁用主筋を囲んで配筋された複数の梁用せん断補強筋を備える梁とが接合した鉄筋構造であって、
前記梁用主筋は、前記梁の上側に配置される上部主筋と前記梁の下側に配置される下部主筋とを有し、前記柱の前記梁と接合した柱梁接合部において、
前記上部主筋と前記下部主筋との一部がそれぞれ配置され、前記柱用主筋を囲んで拘束する閉鎖型の補強部材が設けられ、
前記4以上の柱用せん断補強筋のうち一部は、前記補強部材を挟んだ上下
の位置であって前記上部主筋と前記下部主筋との間にそれぞれ設けられ、
前記4以上の柱用せん断補強筋のうち残りは、前記柱梁接合部より上と下とにそれぞれ設けられ、前記柱梁接合部より上に設けられた柱用せん断補強筋と前記柱梁接合部に設けられた柱用せん断補強筋との間には前記上部主筋が配置され、前記柱梁接合部より下に設けられた柱用せん断補強筋と前記柱梁接合部に設けられた柱用せん断補強筋との間には前記下部主筋が配置され、前記
補強部材は、前記柱用主筋の軸方向における幅寸法が、前記柱用主筋の軸方向における前記柱用せん断補強筋の幅寸法よりも大きく、かつ、前記柱用主筋の軸方向において、前記柱梁接合部の上端と下端とにそれぞれ離隔して
おり、しかも、梁せいの4/1以上2/1以下であることを特徴とする。
【0009】
この構成の本発明では、補強部材は、柱用主筋の軸方向において、柱梁接合部の上端と下端とにそれぞれ離隔しているため、補強部材が梁用主筋から離れ、補強部材を設けるときの作業性がよい。また、柱に加わるせん断応力は柱梁接合部の中央に最も大きく作用する。よって、せん断応力が最も大きく作用する部分を補強部材によって補強でき、せん断応力に対して柱の補強を十分に行うことができる。
【0010】
本発明では、前記補強部材は、外枠と、前記外枠の内面を連結して前記外枠の内部を仕切る仕切り部とを備える構成が好ましい。
この構成の本発明では、補強部材は、外枠と、外枠の内面を連結して外枠の内部を仕切る仕切り部とを備えるため、外枠が仕切り部によって補強される。このため、仕切り部によって補強された外枠と、仕切り部とで柱用主筋を囲むので、せん断応力に対して柱の補強をより向上できる。
【0011】
本発明では、前記補強部材は、帯状部材の端部どうしを突き合わせて溶接で接合した閉じた枠形状である構成が好ましい。
この構成の本発明では、補強部材は、帯状部材の端部どうしを突き合わせて溶接で接合した閉じた枠形状であるため、補強部材が全体として強固となり、せん断応力に対して柱の補強をより向上できる。また、補強部材全体を大きな強度とすることが溶接でできるので、強度を容易に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施形態に係る鉄筋構造を有する建物全体の模式図。
【
図2】本発明の実施形態に係る鉄筋構造の要部を示す断面図。
【
図3】本発明の第1実施形態に係る補強部材を示す斜視図。
【
図4】本発明の第2実施形態に係る補強部材を示す斜視図。
【
図5】本発明の第3実施形態に係る補強部材を示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の各実施形態を図面に基づいて説明する。
なお、各実施形態において、同一の構成部分には同じ符号を付すとともに、それらの説明を省略又は簡略化する。
【0014】
<第1実施形態>
図1は本実施形態の鉄筋構造1を適用した建物全体の模式図であり、
図2は鉄筋構造1の要部断面図であり、
図3は本実施形態の補強部材10Aを示す斜視図である。
【0015】
図1及び
図2に示すように、建物は、複数の柱2と、柱2と接合する複数の梁3とを備えた複数階建ての鉄筋コンクリート造りであり、鉄筋構造1にコンクリートCが打設されている。
柱2と梁3との接合形態としては、十字形接合S1、ト形接合S2、L形接合S3やT形接合S4があり、本実施形態は、これらの接合S1〜S4の柱梁接合部に適用される。以下では、十字形接合S1を例にとって説明する。
【0016】
柱2を構成する鉄筋構造は、鉛直方向に延びて等間隔に配筋された複数の柱用主筋21と、柱用主筋21の軸方向と交差する平面(
図2における紙面と垂直な平面)内において柱用主筋21を囲んで等間隔に配筋されて柱2のせん断強度を補強する複数の柱用せん断補強筋22とを備える。
柱用せん断補強筋22は、柱用主筋21の軸方向における所定の幅寸法T1を有する。幅寸法T1は梁せいT0の約1/70となっている(T1≒T0/70)。ただし、後述する柱梁接合部200の中央、すなわち後述する補強部材10Aが設けられる位置には、柱用せん断補強筋22は設けられていない。
【0017】
梁3を構成する鉄筋構造は、水平方向に延びて所定間隔を空けて配筋された複数の梁用主筋31と、梁用主筋31の軸方向と交差する平面(
図2における紙面と垂直な平面)内において梁用主筋31を囲んで等間隔に梁用主筋31の延出方向に配筋されて梁3のせん断強度を補強する複数の梁用せん断補強筋32とを備える。ただし、後述する柱梁接合部200の中央、すなわち後述する補強部材10Aが設けられる位置には、梁用せん断補強筋32は設けられていない。
梁用主筋31は、梁3の上端側に配筋される上部主筋31Aと、梁3の下端側に配筋される下部主筋31Bとを備える。
【0018】
このような柱2と梁3とは、柱梁接合部200で接合される。柱梁接合部200は、柱せいと同じ長さ、梁せいT0と同じ長さ、そして柱2及び梁3の幅(
図2における紙面と垂直な方向における柱及び梁の長さ)と同じ長さで囲まれた領域である。
【0019】
柱用主筋21の軸方向において、柱梁接合部200の上端と下端とにそれぞれ離隔して、複数の柱用主筋21を囲んで拘束する閉鎖型の補強部材10Aが設けられる。
補強部材10Aは、SS400などの一般構造用圧延鋼材や鉄といった金属製の板材や、あるいは繊維補強合成樹脂製の板材から形成され、枠形状の外枠101で構成される。
【0020】
外枠101は断面視四角形の枠であり、柱用主筋21の軸方向における幅寸法T2は、梁せいT0の約1/4から1/2であり(T0/4≦T2≦T0/2)、柱用せん断補強筋22の幅寸法T1よりも大きい(T2>T1)。外枠101は、4つの角のうち少なくとも1つの角において溶接で接合されており、1つの閉じた枠となっている。外枠101は、例えば、帯状部材である帯状の鋼板を四角形に折り曲げて、始端と終端とを突き合わせて溶接で接合したり、あるいは帯状部材である4枚の短冊状の鋼板を四角形に組み立て、それぞれの端部どうしを突き合わせて溶接で接合することにより形成される。このような接合部分の強度は、補強部材10Aを構成する板材自体の強度(母材強度)と同じ、あるいは母材強度以上となる。
【0021】
このような補強部材10Aは、上部主筋31A及び下部主筋31Bから所定距離離れて柱用主筋21の軸方向における中央に配筋され、補強部材10Aの内面は柱用主筋21と当接する。これによって、補強部材10Aは柱用主筋21を囲み、柱2に加わるせん断応力によって柱用主筋21が変形することを防止する。
【0022】
従って、本実施形態では、以下の作用効果を奏することができる。
(1)本実施形態の鉄筋構造1では、補強部材10Aは、柱用主筋21の軸方向において、柱梁接合部200の上端と下端とにそれぞれ離隔しているため、補強部材10Aが上部主筋31A及び下部主筋31Bから離れ、補強部材10Aを設けるときの作業性がよい。また、柱2に加わるせん断応力は柱梁接合部200の中央に最も大きく作用する。よって、せん断応力が最も大きく作用する部分を補強部材10Aによって補強でき、せん断応力に対して柱2の補強を十分に行うことができる。
【0023】
(2)また、補強部材10Aは、帯状部材の端部どうしを突き合わせて溶接で接合した閉じた枠形状である。このため、補強部材10Aが全体として強固となり、せん断応力に対して柱2の補強をより向上できる。また、補強部材10A全体を大きな強度とすることが溶接でできるので、強度を容易に向上させることができる。
【0024】
<第2実施形態>
次に、本発明の第2実施形態について説明する。
図4は、本実施形態の補強部材10Bを示す斜視図である。
図4に示すように、本実施形態では、第1実施形態と異なり、補強部材10Bは、外枠101と、外枠101の内面どうしを連結して外枠101内部を仕切る仕切り部102とを備える。
仕切り部102は、例えば、金属製の板材から形成された仕切り板103を十字形状に接合することで形成される。外枠101の内部は、4枚の仕切り板103によって4箇所の補強空間301に仕切られる。
このような仕切り部102を備える補強部材10Bによって、柱用主筋21が各補強空間301内に収容され、補強部材10Bは柱用主筋21を囲む。
【0025】
このような本実施形態の鉄筋構造1では、第1実施形態と同様の(1)及び(2)の作用効果を奏する上に、補強部材10Bは外枠101と仕切り部102とを備えるため、外枠101が仕切り部102によって補強される。このため、仕切り部102によって補強された外枠101と、仕切り部102とで柱用主筋21を囲むので、せん断応力に対して柱2の補強をより向上できる。
【0026】
<第3実施形態>
次に、本発明の第3実施形態について説明する。
図5は、本実施形態の補強部材10Cを示す斜視図である。
図5に示すように、本実施形態では、第1実施形態及び第2実施形態と異なり、補強部材10Cは、外枠101と、外枠101の内面どうしを連結して外枠101内部を仕切る仕切り部104とを備える。
【0027】
仕切り部104は、仕切り板103を枠形状に接合することで形成される。外枠101の内部は、4枚の仕切り板103によって、中央に形成される補強空間302と、4箇所の隅に形成される補強空間303とに仕切られる。
このような仕切り部104を備える補強部材10Cによって、柱用主筋21が各補強空間302,303内に収容され、補強部材10Cは柱用主筋21を囲む。
【0028】
このような本実施形態の鉄筋構造1では、第1実施形態と同様の(1)及び(2)の作用効果を奏する上に、第2実施形態と同様の作用効果も奏する。
【0029】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、前記第2実施形態では、仕切り部102は十字形状であり、第3実施形態では、仕切り部104は枠形状であったが、これには限定されず、外枠101の内面どうしを連結して外枠101内部を仕切る形状であれば他の形状であってもよい。
また、前記第1実施形態では、補強部材10Aは柱用主筋21を囲んで、補強部材10Aの内面は柱用主筋21と当接しており、補強部材10AはコンクリートCの内部に設けられていたが、これには限定されず、補強部材10Aが、コンクリートCの外表面に設けられてコンクリートCを囲んで拘束する形状であってもよい。
【0030】
また、前記第1ないし第3実施形態では、外枠101は、帯状部材の端部どうしを突き合わせて溶接で接合することにより形成された閉じた枠であったが、帯状部材の端部どうしが、溶接以外の接合方法により接合されていてもよい。あるいは、外枠101は、鋳物又は鍛造により一体に成形されたものであってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、柱と梁とが交差接合される柱梁接合部が補強された鉄筋構造として利用できる。
【符号の説明】
【0032】
1…鉄筋構造、2…柱、3…梁、10A,10B,10C…補強部材、21…柱用主筋、22…柱用せん断補強筋、31…梁用主筋、101…外枠、102…仕切り部、200…柱梁接合部