【文献】
田井野徹他,THz波検出用基板吸収型超伝導トンネル接合素子,電子情報通信学会技術研究報告. ED, 電子デバイス,2006年12月 1日,106(403),53-57
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明の実施形態によるテラヘルツ波検出センサの構成を示すブロック図である。
本実施形態によるテラヘルツ波検出センサ1は、テラヘルツ波を検出してその検出領域に存在する物質S(例えば、麻薬等の違法薬物や爆薬等の危険物など)を判別可能に構成されており、一例として、集光装置10と、テラヘルツ波を受けてフォノンを生じる吸収体基板21を備えた基板吸収型の超伝導トンネル接合(Superconducting Tunnel Junction:STJ)素子としての基板吸収型STJ素子20と、冷却装置30と、基板吸収型STJ素子20の検出信号を増幅するプリアンプ40と、プリアンプ40の出力をA/D変換してデジタルデータとして出力するA/D変換器50と、A/D変換器50の出力に基づき物質Sを判別する物質判別装置60と、を備える。
【0013】
図2は、集光装置10、基板吸収型STJ素子20及び冷却装置30の概略断面図を示す図である。なお、
図2においては、図の簡略化のため、冷却装置30の後述する各シールド壁(36a〜36d)を線で示したが、言うまでもなく、各シールド壁は厚みを有している。
【0014】
前記集光装置10は、検出対象であるテラヘルツ波を基板吸収型STJ素子20の吸収体基板21(
図3参照)上に集めるものであり、例えば、
図2に示すように、集光レンズ2と、光学フィルタ3と、超半球レンズ4とを備えて構成されている。
【0015】
前記集光レンズ2は、テラヘルツ波を吸収体基板21の、例えば、後述する光集光面21a(
図3参照)に向けて集光するものであり、一般的な凸レンズである。この集光レンズ2は、例えば、超半球レンズ4における所定の角度内に光を入射するように設計され、後述するローパスフィルタ3aに接着等により固定されている。
【0016】
前記光学フィルタ3は、集光レンズ2と超半球レンズ4との間に設けられ、テラヘルツ波の周波数を含む光の透過帯域を有し、集光レンズ2を透過した光のうち上記透過帯域の周は通の光を通過させるものである。具体的には、光学フィルタ3は、例えば、ローパスフィルタ3aと、中間フィルタ3b及び3cと、バンドパスフィルタ3dとを備え、上記光の透過帯域は、略0.7THz〜略30THzの範囲内にある。
【0017】
前記ローパスフィルタ3aは、例えば、約100THz以下の周波数の光を通過させるフィルタである。このローパスフィルタ3aは、例えば、
図2に示すように、後述する300Kシールド36aの周壁に開けられた貫通孔を塞ぐように、集光レンズ2と一体的に300Kシールド36aの外壁に取り付けられている。
【0018】
前記中間フィルタ3b、3cは、それぞれ、例えば、約50THz以下の周波数の光を通過させるフィルタであり、
図2に示すように、後述する50Kシールド36b、4Kシールド36cの周壁に開けられた貫通孔を塞ぐようにそれぞれ取り付けられている。
【0019】
前記バンドパスフィルタ3dは、例えば、約0.7THz〜約30THzの周波数範囲の光を通過させるフィルタであり、例えば、
図2に示すように、後述する1Kシールド36dの周壁に開けられた貫通孔を塞ぐように、超半球レンズ3と一体的に1Kシールド36dの外壁に取り付けられている。
【0020】
前記超半球レンズ4は、吸収体基板21に密着させて設けられ、集光レンズ2及び各光学フィルタ(3a〜3d)を通過したテラヘルツ波を、吸収体基板21上の光集光面21a側の所定の受光点に集めるものであり、例えば、
図2に示すように、バンドパスフィルタ3dに接着等により固定され、1Kシールド36dの周壁に開けられた貫通孔を塞ぐように、バンドパスフィルタ3dと一体的に1Kシールド36dの外壁に取り付けられている。
【0021】
図3は、前記基板吸収型STJ素子20の構成を示しており、
図3(a)は平面図、
図2(b)は
図3(a)のA−A断面図である。
図3に示すように、基板吸収型STJ素子20は、例えば、吸収体基板21と、該吸収体基板21の光集光面21aと反対側の面21b(以下において、上面21bと言う)上に設けられるSTJ素子22と、を有して構成されている。
【0022】
前記吸収体基板21は、テラヘルツ波を受けてフォノンを生じるものであり、検出対象であるテラヘルツ波を吸収しやすいLiNbO
3(ニオブ酸リチウム)やLiTaO
3(タンタル酸リチウム)などからなる単結晶基板である。なお、以下において、吸収体基板21を単に基板21と呼ぶ。
【0023】
前記STJ素子22は、テラヘルツ波から生じさせたフォノンを検出して、テラヘルツ波に応じた電気信号を出力するものであり、例えば、基板21の上面21bに、超伝導電極材料の単層、もしくは超伝導エネルギーギャップの異なる二層の膜からなる下部電極22a、絶縁膜からなるトンネル障壁(トンネルバリア)22b、及び、超伝導電極材料の単層、もしくは超伝導エネルギーギャップの異なる二層の膜からなる上部電極22cが順に積層された構造を有する素子である。STJ素子22は、具体的には、基板21内に生じたフォノンを検出して、テラヘルツ波に応じた電気信号を、テラヘルツ波の検出信号として出力する。前記超伝導電極材料として、例えば、Al(アルミニウム)/ニオブ(Nb)の二層膜、トンネル障壁となる絶縁膜として、例えば、AlOx(酸化アルミニウム)などが用いられる。
【0024】
そして、基板21の上面21bには、配線用層23を積層し、この配線用層23の上に、STJ素子22を設けてある。配線用層23の材料としては、例えば、基板21と同じ材料を用いることができる。一例として、配線用層23は、LiNbO
3(ニオブ酸リチウム)やサファイアなどで形成される結晶薄膜(結晶基板)であり、基板21の上面21bに対して例えば接着剤で接合される。
【0025】
また、配線用層23の上には、グランド層(配線)24が形成されており、このグランド層24は下部電極22aに接続している。
【0026】
STJ素子22及びグランド層24は、SiO2(二酸化ケイ素)などからなる層間絶縁膜25によって覆われており、これにより、STJ素子22の下部電極22aと上部電極22cとの間の電気的絶縁がとられている。
【0027】
更に、STJ素子22上には、層間絶縁膜25に形成されたコンタクトホール25aを介して上部電極22cに接続する配線26が形成されており、この配線26は、信号検出用のPAD26aに接続される。このPAD26aは、プリアンプ40と配線接続されている。
【0028】
前記冷却装置30は、基板吸収型STJ素子20を約0.3Kまで冷却可能なものである。冷却装置30は、具体的には、
図2に示すように、小型機械式冷凍機31と、4Kポット32と、1Kポット33と、3Heポット34と、ガスハンドリングユニット35と、を備えた一般的な極低温冷凍機である。冷却装置30は、
図2に示すように、例えば、300Kシールド36a、50Kシールド36b、4Kシールド36c及び1Kシールド36dの4層構造で形成されており、各シールド内の温度を長時間低温に保持可能に形成される。各シールド36a〜36dは、例えば、銅等により筒状に形成される。
【0029】
前記小型機械式冷凍機31は、例えば、約4.2K程度の低温を発生し得る一般的な蓄冷式冷凍機であり、第1冷却ステージ31a、第2冷却ステージ31b及び冷却ヘッド31cを備えて構成される。前記第1冷却ステージ31aは、約50K程度の高温側の冷却ステージであり、前記第2冷却ステージ31bは、第1冷却ステージ31aの下面に接続され、約4.2K程度に到達する低温側の冷却ステージである。冷却ヘッド31cは、第2冷却ステージ31bの下面に接続される。なお、図示省略したが、小型機械式冷凍機31には、冷却用のコンプレッサーが接続される。
【0030】
前記4Kポット32は、筒状に形成され、約4.2K程度まで冷却された冷却ヘッド31cに接続されている。4Kポット32の外周には、図示省略するがコイルが巻かれている。このコイルによって4Kポット32内の磁場が消磁し、STJ素子22におけるテラヘルツ波の検出感度を向上させている。前記1Kポット33は、4Kポット32の底部に低熱伝導性の連通部(図示省略)を介して接続されている、つまり、4Kポット32と内部連通状態で連結接続されている。前記3Heポット34は、1Kポット33の底部に、図示省略する接続部を介して接続されている。各ポット32〜34は、例えば、無酸素銅等の高熱伝導性材料によって形成する。そして、3Heポット34の底部には、例えば、無酸素銅等の高熱伝導性材料で板状に形成された熱伝導ジグ34aが接続されている。この熱伝導ジク34に、基板吸収型STJ素子20が取り付けられている。
【0031】
前記ガスハンドリングユニット35は、各ポット32〜34へ、液体4He、4Heガス及び3Heガスを適宜供給したり、各ポット32〜34から各ガスを強制排気したりするものである。図示省略したが、ガスハンドリングユニット35と各ポット32〜34間等には、ガスの供給排気用の配管が接続されている。ガスハンドリングユニット35によるガスの供給排気制御により3Heポット34が最終的に約0.3Kまで冷却される。
【0032】
前記物質判別装置60は、STJ素子22から出力される電気信号(検出信号)をもとにテラヘルツ波を放射する物質Sを判別するものであり、例えば、プリアンプ40により増幅された基板吸収型STJ素子20の検出信号を、A/D変換器50を介してデジタル変換して得たデータに基づき、物質Sの種類等を判別する。
【0033】
ここで、本実施形態によるテラヘルツ波検出センサ1の動作を
図1及び
図2に基づいて説明する。なお、以下の説明では、テラヘルツ波検出センサ1を封筒に向けて設置する場合を一例にして説明する。
【0034】
まず、冷却装置30により、基板吸収型STJ素子20を約0.3Kまで冷却し、オペレータ等により、集光レンズ2が封筒の方向へ向くようにテラヘルツ波検出センサ1を設置し、検出準備を完了させる。
【0035】
ここで、封筒に同封された物質Sから自然放射されるテラヘルツ波は、封筒を透過して、外部へ放射されている。集光レンズ2及び超半球レンズ4は、この自然放射されているテラヘルツ波を基板21の光集光面21aにおける所定の受光点に集光させる。この際、集光レンズ2と超半球レンズ4間に設けられた光学フィルタ3は、集光レンズ2によって集光された光のうち約0.7THz〜約30THzの周波数範囲の光を透過させる。
【0036】
テラヘルツ波が光集光面21aの所定の受光点に集光されると、基板21はテラヘルツ波(すなわち、フォトンのエネルギー)を吸収し、このテラヘルツ波の吸収によって基板21内にはフォノンが発生する。基板21内で発生したフォノン群は基板21内を伝播し、その一部が配線用層23を介してSTJ素子22の下部電極22aに到達する。
【0037】
フォノンが下部電極22aに到達すると、下部電極22a内のクーパー対が破壊されて準粒子が生成される。基板吸収型STJ素子20は、下部電極22a内で生成された準粒子がトンネルバリア22bをトンネルする際に流れるトンネル電流を、上部電極22c、配線26及びPAD26aを介して検出信号として出力する。
【0038】
PAD26aから出力された検出信号(トンネル電流値)は、プリアンプ40で増幅される。そして、増幅された検出信号は、A/D変換器50でデジタルデータに変換されて物質判別装置60に出力される。物質判別装置60は、入力されたデジタルデータに基づき、封筒内の物質Sの種類を判別する。物質判別装置60は、例えば、物質Sが麻薬等の違法薬物や爆薬等の危険物である場合、違法薬物や爆薬の種類を別に設けるディスプレイ等に表示させるとともに、アラーム音を発生させる。なお、アラーム音は発生させず、種類と警報をディスプレイ等に表示することもできる。
【0039】
かかる本実施形態のテラヘルツ波検出センサ1によれば、テラヘルツ波から生じさせたフォノンを冷却状態にあるSTJ素子22によって検出しテラヘルツ波に応じた電気信号を出力する構成であるため、テラヘルツ波の検出効率を向上させることができる。これにより、物質から自然放射されるような微量なテラヘルツ波を検出することができる。
【0040】
また、本実施形態のテラヘルツ波検出センサ1は、物質から自然放射される微量なテラヘルツ波を検出することができるとともに、その検出信号に基づいて物質を判別する、いわゆる、パッシブ式の物質判別センサであるため、従来のアクティブ式の物質判別センサにおいて必要であった、テラヘルツ波を発生する光源及びテラヘルツ波の投光用の集光装置が不要となり、構成が簡易になる。
【0041】
また、本実施形態のように、基板21をテラヘルツ波のエネルギー吸収体とした基板吸収型STJ20素子を用いることで、テラヘルツ波の検出効率をより向上させることができる。
【0042】
ここで、約0.7THz〜約30THzの周波数範囲のテラヘルツ波は、衣や紙等を充分に通過する。したがって、本実施形態で一例を挙げた様に、封筒に同封された物質Sを未開封の状態で、その種類を判別することができる。また、物質Sは、封筒内に限らず、衣服やダンボールの中等に存在する場合でもよく、テラヘルツ波が透過可能なものであればどのようなもので覆われていてもよい。また、言うまでもないが、物質Sが単体で置かれている場合は、より精度よくテラヘルツ波を検知することができる。
【0043】
なお、本実施形態においては、冷却装置30の小型機械式冷凍機31は、第1冷却ステージ31a、第2冷却ステージ31b、冷却ヘッド31c及びコンプレッサーを備えて構成された場合で説明したが、これに限らず、コンプレッサーが不要なクライオスタッド式のものでもよい。
【0044】
また、本実施形態において、冷却装置30は、基板吸収型STJ素子20を約0.3Kまで冷却する場合で説明したが、これに限らず、約4.2Kまで冷却可能であればよい。基板吸収型STJ素子20の冷却温度が低いほど、テラヘルツ波の検出感度がより向上するが、基板吸収型STJ素子20を少なくとも略4.2Kまで冷却できれば、物質Sから自然放射されるテラヘルツ波を充分に検出することができるからである。この場合、冷却装置30は、約4.2Kまで冷却可能な小型機械式冷凍機31だけでよい。
【0045】
また、本実施形態においては、テラヘルツ波検出センサ1は、冷却装置30を備えた場合で説明したが、これに限らず、STJ素子22が冷却状態にあれば冷却装置30は備えなくてもよい。つまり、STJ素子22が充分(例えば、略4.2K)に冷やされてさえいればよく、センサ作動時に必ずしも冷却用の設備(冷凍装置)が付随していなくてもよい。
【0046】
図4は、上記実施形態の変形例を説明するための部分拡大図である。
図4に示すように、この変形例においては、センサの検査領域D(
図4の点線内)を切り換える領域切換装置としての一次元ガルバノミラー70を備えて構成されている。この一次元ガルバノミラー70は、例えば、半導体製造技術を用いて形成された一般的なガルバノミラーであり、集光レンズ2の外側に設置されている。これにより、集光レンズ2へ入射するテラヘルツ波の検査領域Dの場所を一次元的に移動させて、直線状にセンシングすることができる。この場合、走査中の各検査領域Dでそれぞれ検出信号を出力し、各検出信号に基づき物質Sの種類を判別するようにしてもよい。また、一次元ガルバノミラーに限らず、二次元ガルバノミラーを用いてもよく、この場合、検査領域Dの場所を二次元的に移動させて、面状にセンシングすることができる。この場合、走査中の各検出信号に基づき、物質Sの形状をディスプレイ等に表示すると共に、物質Sの種類を判別するようにしてもよい。なお、ガルバノミラーは、集光レンズ2の外側に限らず、例えば、300Kシールド36aの内側に配置して構成することもできる。また、領域切換装置は、上記のように、ガルバノミラー等の光学的な手段ではなく、例えば、300Kシールド36aで囲まれるセンサ本体全体を意図する方向へ回転等させる機械的な手段であってもよい。
【0047】
また、テラヘルツ波は、ミリ波より波長が短いので、一般的なミリ波による画像表示センサと比較して高い位置精度のセンシングを行うことが可能である。したがって、衣服や梱包物等の中に存在する比較的小さな物質Sであってもその形状及び位置を高精度に検知することができる。
【0048】
図5は、上記実施形態の別の変形例を説明するための部分拡大図である。
図5に示すように、この別の変形例においては、伝播経路が互いに異なるテラヘルツ波のそれぞれに応じた電気信号を生成可能に設けられた複数の超伝導トンネル接合素子22を備えて構成されている。具体的には、集光装置10と基板吸収型STJ素子20とからなる受光部80を、例えば、一列のアレイ状に複数配列して構成されている。これにより、各受光部80からの検出結果に基づいて、一度に線状のセンシングができる。また、一列状に限らず、二次元マトリクス状に配置してもよい、この場合、一度に物質Sの形状を検知することができる。また、前述の
図4に示すセンサの検査領域Dを切り換える領域切換装置を備える構成において、本変形例の構成を適用してもよい。
【0049】
なお、以上では、テラヘルツ波の検出信号に基づき、物質Sを判別する物質判別センサとしてのテラヘルツ波検出センサ1について説明したが、本発明はこれに限定するものではなく、物質判別することなく、単に、テラヘルツ波を検出するセンサであってもよい。この場合、この物質判別機能を有さないテラヘルツ波検出センサ1を、従来のアクティブ型の物質判別センサのセンサ部として用いてもよい。