特許第6193555号(P6193555)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193555
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】冷凍サイクル装置
(51)【国際特許分類】
   F25B 1/00 20060101AFI20170828BHJP
   F25B 1/10 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   F25B1/00 311B
   F25B1/10 Q
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-247359(P2012-247359)
(22)【出願日】2012年11月9日
(65)【公開番号】特開2014-95510(P2014-95510A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2015年9月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001472
【氏名又は名称】特許業務法人かいせい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小村 正人
(72)【発明者】
【氏名】江原 俊行
(72)【発明者】
【氏名】井上 孝
(72)【発明者】
【氏名】堀田 忠資
(72)【発明者】
【氏名】貴志 健太郎
【審査官】 柿沼 善一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−263383(JP,A)
【文献】 特開2011−208841(JP,A)
【文献】 特開平10−325622(JP,A)
【文献】 特開2001−133058(JP,A)
【文献】 特開2008−032336(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F25B 1/00
F25B 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
容積変化して冷媒を圧縮する圧縮室へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート(1a)、前記圧縮室にて圧縮過程の冷媒に中間圧冷媒を合流させるインジェクションポート(1b)、および前記圧縮室にて圧縮された高圧冷媒を吐出する吐出ポート(1c)を有する圧縮機(1)と、
前記吐出ポート(1c)から吐出された冷媒を放熱させる放熱用熱交換器(2)と、
前記放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を前記中間圧冷媒となるまで減圧させる中間圧用減圧手段(3)と、
前記放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を前記低圧冷媒となるまで減圧させる低圧用減圧手段(5)と、
前記低圧用減圧手段(5)にて減圧された冷媒を蒸発させて、前記吸入ポート(1a)側へ流出させる蒸発用熱交換器(6)と、
前記中間圧用減圧手段(3)の作動を制御する中間圧制御手段とを備え、
前記中間圧制御手段は、前記インジェクションポート(1b)と連通する前記圧縮室における冷媒の圧力上昇度合を調整することによって、前記吐出ポート(1c)と連通する直前の前記圧縮室における冷媒圧力(P3)が予め決定された所定圧力に近づくように、前記中間圧用減圧手段(3)の作動を制御するものであることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項2】
容積変化して冷媒を圧縮する圧縮室へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート(1a)、前記圧縮室にて圧縮過程の冷媒に中間圧冷媒を合流させるインジェクションポート(1b)、および前記圧縮室にて圧縮された高圧冷媒を吐出する吐出ポート(1c)を有する圧縮機(1)と、
前記吐出ポート(1c)から吐出された冷媒を放熱させる放熱用熱交換器(2)と、
前記放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を前記中間圧冷媒となるまで減圧させる中間圧用減圧手段(3)と、
前記放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を前記低圧冷媒となるまで減圧させる低圧用減圧手段(5)と、
前記低圧用減圧手段(5)にて減圧された冷媒を蒸発させて、前記吸入ポート(1a)側へ流出させる蒸発用熱交換器(6)と、
前記中間圧用減圧手段(3)の作動を制御する中間圧制御手段とを備え、
前記中間圧制御手段は、前記吐出ポート(1c)と連通する直前の前記圧縮室における冷媒圧力(P3)が予め決定された所定圧力に近づくように、前記中間圧用減圧手段(3)の作動を制御するものであり、
前記冷媒圧力(P3)は、前記吸入ポート(1a)に連通している前記圧縮室における第1冷媒圧力(P1)および前記中間圧冷媒の圧力(Pm)から算出された値であることを特徴とする冷凍サイクル装置。
【請求項3】
前記所定圧力は、前記吐出ポート(1c)から前記中間圧用減圧手段(3)の冷媒入口へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力(Pd)であることを特徴とする請求項1または2に記載の冷凍サイクル装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガスインジェクションサイクルを構成する冷凍サイクル装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蒸気圧縮式の冷凍サイクルの能力もしくは成績係数(COP)を向上させるためのサイクル構成として、ガスインジェクションサイクル(エコノマイザ式冷凍サイクル)が知られている。この種のガスインジェクションサイクルでは、圧縮機の圧縮室にて昇圧過程の冷媒にサイクル側で生成した中間圧気相冷媒をインジェクションすることで冷凍サイクルの能力もしくは成績係数(COP)の向上を可能としている。
【0003】
さらに、ガスインジェクションサイクルを構成する冷凍サイクル装置に適用される圧縮機としては、例えば、特許文献1に開示されているように、圧縮室へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート、圧縮室にて圧縮過程の冷媒に中間圧気相冷媒を合流させるインジェクションポート、および圧縮室にて圧縮された高圧冷媒を吐出する吐出ポートを有するものが知られている。
【0004】
また、この特許文献1の圧縮機は、冷媒が圧縮室からインジェクションポートを介して圧縮機の外部へ逆流してしまうことを防止するためのインジェクションポート用の逆止弁、および冷媒が圧縮機の外部から吐出ポートを介して圧縮室へ逆流してしまうことを防止するための吐出ポート用の逆止弁の二つの逆止弁を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−107950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の圧縮機のように二つの逆止弁を備えることは、圧縮機の部品点数や組付工数を増加させ、圧縮機の製造コストを増加させてしまう原因となる。さらに、吐出ポート用の逆止弁は、圧縮機から冷媒を吐出する際の圧力損失を増加させるので、圧縮機の駆動動力を増加させてしまう原因となる。従って、吐出ポート用の逆止弁は、さらなるCOPの向上を狙う際の妨げとなりやすい。
【0007】
上記点に鑑み、本発明では、圧縮機から冷媒を吐出する際の圧力損失を低減させることによって、冷凍サイクル装置の成績係数を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記目的を達成するために案出されたもので、請求項1に記載の発明では、容積変化して冷媒を圧縮する圧縮室へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート(1a)、圧縮室にて圧縮過程の冷媒に中間圧冷媒を合流させるインジェクションポート(1b)、および圧縮室にて圧縮された高圧冷媒を吐出する吐出ポート(1c)を有する圧縮機(1)と、吐出ポート(1c)から吐出された冷媒を放熱させる放熱用熱交換器(2)と、放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる中間圧用減圧手段(3)と、放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる低圧用減圧手段(5)と、低圧用減圧手段(5)にて減圧された冷媒を蒸発させて、吸入ポート(1a)側へ流出させる蒸発用熱交換器(6)と、さらに、中間圧用減圧手段(3)の作動を制御する中間圧制御手段とを備え、
中間圧制御手段は、インジェクションポート(1b)と連通する圧縮室における冷媒の圧力上昇度合を調整することによって、吐出ポート(1c)と連通する直前の圧縮室における冷媒圧力(P3)が予め決定された所定圧力に近づくように、中間圧用減圧手段(3)の作動を制御するものである冷凍サイクル装置を特徴とする。
【0009】
これによれば、圧縮室が吐出ポート(1c)と連通した際に、圧縮室内の冷媒圧力が予め決定された所定圧力以上となるように、中間圧制御手段が中間圧用減圧手段(3)の作動を制御するので、吐出ポート(1c)を介してサイクルの高圧側の冷媒が圧縮室へ逆流してしまうことを抑制できる。
【0010】
従って、従来技術における吐出ポート用の逆止弁に対応する構成を廃止することができる。これにより、圧縮機(1)から冷媒を吐出する際の圧力損失を低減させることができ、圧縮機(1)の駆動動力を低減させることができるので、冷凍サイクル装置の成績係数を向上させることができる。さらに、圧縮機(1)の製造コストの低減を図ることもできる。
また、請求項2に記載の発明では、容積変化して冷媒を圧縮する圧縮室へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート(1a)、圧縮室にて圧縮過程の冷媒に中間圧冷媒を合流させるインジェクションポート(1b)、および圧縮室にて圧縮された高圧冷媒を吐出する吐出ポート(1c)を有する圧縮機(1)と、吐出ポート(1c)から吐出された冷媒を放熱させる放熱用熱交換器(2)と、放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる中間圧用減圧手段(3)と、放熱用熱交換器(2)下流側の冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる低圧用減圧手段(5)と、低圧用減圧手段(5)にて減圧された冷媒を蒸発させて、吸入ポート(1a)側へ流出させる蒸発用熱交換器(6)と、さらに、中間圧用減圧手段(3)の作動を制御する中間圧制御手段とを備え、
中間圧制御手段は、吐出ポート(1c)と連通する直前の圧縮室における冷媒圧力(P3)が予め決定された所定圧力に近づくように、中間圧用減圧手段(3)の作動を制御するものであり、冷媒圧力(P3)は、吸入ポート(1a)に連通している圧縮室における第1冷媒圧力(P1)および中間圧冷媒の圧力(Pm)から算出された値である冷凍サイクル装置を特徴とする。
これによれば、請求項1に記載の発明と同様の効果を得ることができる。
【0011】
また、所定圧力として、吐出ポート(1c)から中間圧用減圧手段(3)の冷媒入口へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力(Pd)を採用することにより、サイクルの高圧側の冷媒が吐出ポート(1c)を介して圧縮室へ逆流してしまうことを効果的に抑制できる。
【0012】
なお、この欄および特許請求の範囲で記載した各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の冷凍サイクル装置の全体構成図である。
図2】第1実施形態の冷凍サイクル装置の制御処理の要部を示すフローチャートである。
図3】第1実施形態の回転角の変化に対する圧縮室の容積および圧縮室内の冷媒圧力変化を示すグラフである。
図4】第2実施形態の冷凍サイクル装置の全体構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(第1実施形態)
図1図3により、本発明の第1実施形態を説明する。本実施形態の冷凍サイクル装置10は、ヒートポンプ式給湯機に適用されており、給湯水を加熱する機能を果たす。さらに、冷凍サイクル装置10は、図1の全体構成図に示すように、圧縮機1の圧縮室にて昇圧過程の冷媒にサイクル内の中間圧冷媒を合流させるガスインジェクションサイクルとして構成されている。
【0015】
より具体的には、冷凍サイクル装置10は、圧縮機1、水−冷媒熱交換器2、中間圧用膨張弁3、気液分離器4、低圧用膨張弁5、室外熱交換器6等を備えている。圧縮機1は、冷凍サイクル装置10において冷媒を吸入し、圧縮して吐出するもので、その外殻を形成するハウジングの内部に、スクロール型の圧縮機構、およびこの圧縮機構を回転駆動する電動モータを収容して構成された電動圧縮機である。
【0016】
スクロール型の圧縮機構は、ハウジングに固定された固定スクロールと、電動モータの回転軸に連結された可動スクロールとを有している。さらに、固定スクロールには、可動スクロール側に向かって突出する渦巻き状の固定側歯部が形成されており、一方、可動スクロールには、固定スクロール側に向かって突出して固定側歯部に噛み合う渦巻き状の可動側歯部が形成されている。
【0017】
そして、固定スクロールの固定側歯部と可動スクロールの可動側歯部が噛み合って複数箇所で接触することによって、回転軸方向から見たときに三日月形状に形成される圧縮室が複数個形成される。この圧縮室は、電動モータの回転軸の回転に伴って可動スクロールが公転運動することによって、回転軸回りに旋回しながら外周側から中心側へ容積を減少させながら移動して冷媒を圧縮する。
【0018】
また、圧縮機1のハウジングには、最外周側に移動している圧縮室に連通してハウジングの外部から圧縮室へ低圧冷媒を吸入させる吸入ポート1a、外周側から中心側への中間位置に移動した圧縮室に連通してハウジングの外部から圧縮室にて圧縮過程の冷媒に中間圧冷媒を合流させるインジェクションポート1b、および中心側へ移動した圧縮室に連通して圧縮室から高圧冷媒を吐出する吐出ポート1cが設けられている。
【0019】
さらに、インジェクションポート1bには、冷媒が圧縮室からインジェクションポートを介して圧縮機の外部へ逆流してしまうことを防止するための逆止弁が設けられている。これは、従来技術のインジェクションポート用の逆止弁に対応するものである。一方、本実施形態の吐出ポート1cには、従来技術の吐出ポート用の逆止弁に対応する構成は設けられていない。
【0020】
電動モータは、後述する制御装置から出力される制御信号によって、その作動(回転数)が制御されるもので、交流モータ、直流モータのいずれの形式を採用してもよい。そして、この制御装置による回転数制御によって、圧縮機1の冷媒吐出能力が変更される。また、圧縮機1の吐出ポート1cには、水−冷媒熱交換器2の冷媒通路の入口側が接続されている。
【0021】
水−冷媒熱交換器2は、圧縮機1の吐出ポート1cから吐出された高温高圧冷媒の有する熱を給湯水へ放熱させる放熱用熱交換器である。この水−冷媒熱交換器2としては、高圧冷媒を流通させる冷媒通路としての複数本のチューブを有し、隣り合う冷媒通路(チューブ)間に水通路を形成し、水通路内に給湯水と冷媒との間の熱交換を促進するインナーフィン等を配置して構成された熱交換器等を採用できる。水−冷媒熱交換器2の冷媒通路の出口側には、中間圧用膨張弁3の入口側が接続されている。
【0022】
中間圧用膨張弁3は、水−冷媒熱交換器2下流側の高圧冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる中間圧用減圧手段であって、制御装置から出力される制御信号によってその作動が制御される電気式膨張弁である。この中間圧用膨張弁3としては、冷媒を減圧させる絞り通路の開度を変更する弁体と、この弁体を変位させるステッピングモータからなる電動アクチュエータとを有して構成される電動式の可変絞り機構等を採用できる。中間圧用膨張弁3の出口側には、気液分離器4の入口側が接続されている。
【0023】
気液分離器4は、中間圧用膨張弁3にて減圧されて気相混相状態となった中間圧冷媒の気液を分離する気液分離手段である。気液分離器4の気相冷媒流出口には、前述した圧縮機1のインジェクションポート1bが接続されている。気液分離器4の液相冷媒流出口には、低圧用膨張弁5の入口側が接続されている。
【0024】
低圧用膨張弁5は、水−冷媒熱交換器2下流側の冷媒のうち気液分離器4にて分離された中間圧液相冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる低圧用減圧手段であって、その基本的構成は中間圧用膨張弁3と同様である。低圧用膨張弁5の出口側には、室外熱交換器6の冷媒入口側が接続されている。
【0025】
室外熱交換器6は、低圧用膨張弁5にて減圧された低圧冷媒を、図示しない電動送風ファンから送風された外気と熱交換させて蒸発させる蒸発用熱交換器である。具体的には、室外熱交換器6としては、複数枚の熱交換促進用のプレートフィンに、複数本の冷媒チューブを串刺し状に配置し、各冷媒チューブ同士を蛇行状に接続して構成された熱交換器等を採用できる。室外熱交換器6の冷媒出口側には、圧縮機1の吸入ポート1aが接続されている。
【0026】
なお、本実施形態の冷凍サイクル装置10では、冷媒として二酸化炭素を採用しており、圧縮機1の吐出ポートから中間圧用膨張弁3入口側へ至るサイクルの高圧側冷媒の圧力が、冷媒の臨界圧力以上となる超臨界冷凍サイクルを構成している。さらに、冷媒には、圧縮機1内部の各摺動部位を潤滑するオイル(冷凍機油)が混入されており、このオイルの一部は冷媒とともにサイクルを循環している。
【0027】
また、ヒートポンプ式給湯機は、冷凍サイクル装置10の他に、水−冷媒熱交換器2(具体的には、水通路)にて加熱された給湯水を貯湯する貯湯タンク、貯湯タンクと水−冷媒熱交換器2との間で給湯水を循環させる給湯水循環回路、および給湯水循環回路に配置されて給湯水を圧送する水ポンプ(いずれも図示せず)等を有している。
【0028】
次に、本実施形態の電気制御部の概要を説明する。制御装置は、CPU、ROMおよびRAM等を含む周知のマイクロコンピュータとその周辺回路から構成されている。制御装置の出力側には、前述の圧縮機1の電動モータ、中間圧用膨張弁3、低圧用膨張弁5、室外熱交換器6へ外気を送風する電動送風ファン、給湯水循環回路の水ポンプ等が接続され、制御装置は、これらの各種制御対象機器の作動を制御する。
【0029】
一方、制御装置の入力側には、圧縮機1の吐出ポート1cから吐出された高圧側冷媒圧力Pdを検出する高圧側圧力検出手段としての高圧側圧力センサ、圧縮機1のインジェクションポート1bから圧縮機1内へ流入する中間圧冷媒の圧力Pmを検出する中間圧側圧力検出手段としての中間圧側圧力センサ、中間圧冷媒の温度Tmを検出する中間圧側温度検出手段としての中間圧側温度センサ、圧縮機1の吸入ポート1aから吸入させる低圧冷媒の圧力Psを検出する低圧側圧力検出手段としての低圧側圧力センサ、低圧冷媒の温度Tsを検出する低圧側温度検出手段としての低圧側温度センサ、外気温Tamを検出する外気温検出手段としての外気温センサといった各種給湯器制御用のセンサ群が接続され、これらのセンサ群の検出信号が制御装置へ入力される。
【0030】
さらに、制御装置の入力側には、図示しない操作パネルが接続されている。この操作パネルには、ヒートポンプ式給湯機の作動信号あるいは停止信号を出力する作動スイッチ、給湯水の沸上温度(目標加熱温度)を設定する温度設定スイッチ等が設けられ、これらのスイッチの操作信号が制御装置へ入力される。
【0031】
なお、本実施形態の制御装置は、圧縮機1の電動モータや中間圧用膨張弁3等を制御する制御手段が一体に構成されたものであるが、本実施形態では、制御装置のうち、中間圧用膨張弁3の作動を制御する構成(ハードウェアおよびソフトウェア)を中間圧制御手段とする。もちろん、中間圧制御手段を、制御装置に対して別の制御装置によって構成してもよい。
【0032】
次に、上記構成における本実施形態のヒートポンプ式給湯機の作動を説明する。ヒートポンプ式給湯機に外部から電源が供給された状態で、操作パネルに設けられた給湯機の作動信号が制御装置に入力されると、制御装置が予め記憶回路に記憶している制御処理(制御プログラム)を実行する。
【0033】
より具体的には、この制御処理のメインルーチンでは、操作パネルの操作信号および上述した給湯器制御用のセンサ群により検出された検出信号を読み込み、読み込まれた操作信号および検出信号に基づいて、冷凍サイクル装置10の各種制御対象機器の制御状態(具体的には、各種制御対象機器へ出力される制御信号あるいは制御電圧)を決定する。
【0034】
例えば、圧縮機1の電動モータへ出力される制御信号については、操作パネルからの給湯温度設定信号および外気温センサにより検出された外気温Tamに基づいて、制御装置のROM(記憶回路)に記憶された制御マップを参照して決定される。具体的には、給湯温度設定信号による設定温度の上昇および外気温Tamの低下に伴って、圧縮機1の回転数(冷媒吐出能力)が増加するように決定される。
【0035】
また、中間圧用膨張弁3の電動アクチュエータに出力される制御信号については、圧縮機1の圧縮室が吐出ポート1cと連通した際に、圧縮室内の冷媒圧力が吐出ポート1cから中間圧用膨張弁3の冷媒入口へ至るサイクルの高圧側冷媒圧力Pdに近づくように決定される。より具体的には、図2のフローチャートに示すように決定される。なお、図2のフローチャートは、メインルーチンのサブルーチンとして実行される制御フローである。
【0036】
ここで、本実施形態のスクロール型の圧縮機構のように、圧縮室の容積を縮小させることによって冷媒を圧縮する圧縮機構では、圧縮室の容積縮小量に応じて圧縮室内の冷媒圧力の上昇量(昇圧量)を算出することができる。従って、インジェクションポート1bに連通した際の圧縮室内の冷媒圧力に基づいて、吐出ポート1cと連通した際の圧縮室内の冷媒圧力を算出することができる。
【0037】
そこで、本実施形態では、図2のフローチャートに示すように、中間圧用膨張弁3の電動アクチュエータに出力される制御信号を決定している。まず、ステップS1では、メインルーチンで読み込まれた外気温Tam、低圧冷媒の温度Tsから、吸入ポート1aに連通した圧縮室内の第1冷媒圧力P1を算出する。なお、低圧側圧力検出手段としての低圧側圧力センサが設けられる場合にはその検出値を用いて第1冷媒圧力P1を算出してもよい。
【0038】
さらに、ステップS1では、メインルーチンで読み込まれた中間圧冷媒の温度Tmから中間圧冷媒の圧力Pmを算出する。なお、中間圧側圧力検出手段としての中間圧側圧力センサが設けられている場合にはその検出値を用いて中間圧冷媒の圧力Pmを算出してもよい。以上により算出された第1冷媒圧力P1、中間圧冷媒の圧力Pmから、インジェクションポート1bに連通した圧縮室内の第2冷媒圧力P2を算出する。この第2冷媒圧力P2は、圧縮室と中間圧冷媒が流通する配管との連通が遮断される直前の圧力であり、インジェクションポート1bに連通している圧縮室内の最大圧力である。
【0039】
続くステップS2では、ステップS1にて算出された第2冷媒圧力P2から、吐出ポート1cと連通した際の圧縮室あるいは吐出ポート1cに連通する直前の圧縮室内の第3冷媒圧力P3を算出する。
【0040】
そして、ステップS3にて、第3冷媒圧力P3が高圧側圧力センサによって検出された高圧側冷媒圧力Pdよりも低くなっているか否かを判定する。ステップS3にて、第3冷媒圧力P3が高圧側冷媒圧力Pdよりも低くなっていると判定された場合には、ステップS4へ進み、中間圧用膨張弁3の絞り開度を予め定めた所定量増加させるように制御信号を決定して、メインルーチンへ戻る。
【0041】
このようにステップS4にて、中間圧用膨張弁3の絞り開度を増加させることにより、中間圧用膨張弁3における冷媒減圧量が減少し、インジェクションポート1bから圧縮室へ流入する冷媒の圧力が上昇する。その結果、吐出ポート1cと連通した際の圧縮室あるいは吐出ポート1cに連通する直前の圧縮室内の第3冷媒圧力P3が上昇して、高圧側冷媒圧力Pdに近づく。
【0042】
一方、ステップS3にて、第3冷媒圧力P3が高圧側冷媒圧力Pdよりも低くなっていない、すなわち第3冷媒圧力P3が高圧側冷媒圧力Pd以上となっていると判定された場合には、ステップS5へ進み、中間圧用膨張弁3の絞り開度を予め定めた所定量減少させるように制御信号を決定して、メインルーチンへ戻る。
【0043】
このようにステップS5にて、中間圧用膨張弁3の絞り開度を減少させることにより、中間圧用膨張弁3における冷媒減圧量が増加し、インジェクションポート1bから圧縮室へ流入する冷媒の圧力が低下する。その結果、吐出ポート1cと連通した際の圧縮室あるいは吐出ポート1cに連通する直前の圧縮室内の第3冷媒圧力P3が低下して、高圧側冷媒圧力Pdに近づく。
【0044】
また、低圧用膨張弁5の電動アクチュエータに出力される制御信号については、冷凍サイクル装置10の高圧側冷媒圧力Pdが目標高圧となるように決定される。この目標高圧は、外気温Tamおよび圧縮機1の冷媒吐出能力から推定される圧縮機1吐出冷媒温度に基づいて、予め制御装置のROMに記憶された制御マップを参照して、冷凍サイクル装置10の成績係数(COP)が略最大となるように決定される。
【0045】
また、室外熱交換器6へ外気を送風する電動送風ファンへ出力される制御電圧については、外気温Tamに基づいて、予め制御装置のROMに記憶された制御マップを参照して決定される。また、給湯水循環回路の水ポンプへ出力される制御電圧については、フィードバック制御手法等を用いて、水−冷媒熱交換器2の水通路から流出する給湯水の沸上温度が温度設定スイッチによって設定された目標加熱温度に近づくように決定される。
【0046】
そして、上記の如く決定された制御信号および制御電圧が各種制御対象機器へ出力される。その後、操作パネルによってヒートポンプ式給湯機の作動停止が要求されるまで、所定の制御周期毎に、上述の検出信号および操作信号の読み込み→各種制御対象機器の制御状態の決定→各種制御対象機器への制御電圧および制御信号の出力といった制御ルーチンが繰り返される。
【0047】
従って、本実施形態のヒートポンプ式給湯機を作動させると、冷凍サイクル装置10の圧縮機1から吐出された高温高圧冷媒が水−冷媒熱交換器2の冷媒通路へ流入する。水−冷媒熱交換器2の冷媒通路へ流入した高温高圧冷媒は、水−冷媒熱交換器2の水通路を流通する給湯水に放熱してエンタルピを低下させる。これにより、給湯水が加熱され、加熱された給湯水は、貯湯タンクへ流入して貯留される。
【0048】
一方、水−冷媒熱交換器2から流出した高圧冷媒は、中間圧用膨張弁3にて中間圧冷媒となるまで減圧されて気液分離器4へ流入する。気液分離器4にて分離された中間圧気相冷媒は、インジェクションポート1bから圧縮機1へ流入する。一方、気液分離器4にて分離された中間圧液相冷媒は、低段側膨張弁3にて低圧冷媒となるまで減圧されて室外熱交換器6へ流入する。
【0049】
室外熱交換器6へ流入した冷媒は、送風ファンから送風された外気から吸熱して蒸発する。そして、室外熱交換器6から流出した冷媒は、圧縮機1の吸入ポート1aから吸入されて再び圧縮される。
【0050】
本実施形態のヒートポンプ式給湯機は、以上の如く作動して、冷凍サイクル装置10の水−冷媒熱交換器2にて給湯水を加熱することができる。また、本実施形態の冷凍サイクル装置10はガスインジェクションサイクルを構成しているので、通常の冷凍サイクルよりも加熱能力もしくはサイクルの成績係数(COP)の向上を図ることができる。
【0051】
さらに、本実施形態の冷凍サイクル装置10では、図2のフローチャートで説明したように、吐出ポート1cと連通した際の圧縮室あるいは吐出ポート1cに連通する直前の圧縮室内の第3冷媒圧力P3が高圧側冷媒圧力Pdに近づくように、中間圧用膨張弁3の作動を制御している。従って、圧縮室が吐出ポート1cと連通した際に、吐出ポート1cを介してサイクルの高圧側の冷媒が圧縮室へ逆流してしまうことを抑制できる。
【0052】
このことを図3のグラフを用いて説明する。ここで、低段側容積変化率と高段側容積変化率が略同等に形成されている圧縮機を備えるガスインジェクションサイクルを構成する冷凍サイクル装置では、一般的に、水−冷媒熱交換器2における給湯水の加熱能力を充分に確保しつつ、冷凍サイクルのCOPの向上を狙うため、第1冷媒圧力P1に対する第2冷媒圧力P2の比P2/P1を2程度に制御している。
【0053】
このように比P2/P1が2程度に制御される従来技術の冷凍サイクル装置では、図3の太破線で示すように、吐出ポート1cと連通した際の圧縮室内の冷媒圧力が高圧側冷媒圧力Pdよりも低くなってしまう。このため、吐出ポート1cを介してサイクルの高圧側の冷媒が圧縮室へ逆流してしまうことを抑制するための吐出ポート側の逆止弁を設ける必要がある。
【0054】
これに対して、本実施形態では、図2のフローチャートで説明したように中間圧用膨張弁3の作動を制御することによって、比P2/P1を一般的な値(具体的には、2)より高い値(具体的には、3程度)としている。従って、図3の太実線で示すように、第2冷媒圧力P2を上昇させて、吐出ポート1cと連通した際の圧縮室内の第3冷媒圧力P3を高圧側冷媒圧力Pdに近づけることができる。
【0055】
その結果、圧縮室が吐出ポート1cと連通した際に、吐出ポート1cを介してサイクルの高圧側の冷媒が圧縮室へ逆流してしまうことを抑制でき、従来技術における吐出ポート用の逆止弁に相当する構成を廃止することができる。
【0056】
これにより、圧縮機1から冷媒を吐出する際の圧力損失を低減させることができるとともに、圧縮室から従来技術における吐出ポート用の逆止弁へ至る部位とを接続する空間(デッドボリューム)分の不必要な昇圧を行う必要がなくなる。従って、従来技術のガスインジェクションサイクルを構成する冷凍サイクル装置に対してCOPを向上させることができる。
【0057】
さらに、従来技術における吐出ポート用の逆止弁に対応する構成を廃止することで圧縮機1の部品点数や組付工数を減少させることができるので、圧縮機1の製造コストの低減を図ることができる。延いては、冷凍サイクル装置10全体としての製造コストの低減を図ることもできる。
【0058】
(第2実施形態)
第1実施形態では、気液分離手段である気液分離器4を用いて冷凍サイクル装置10を構成した例を説明したが、本実施形態では、図4に示すように、気液分離器4を廃止するとともに、内部熱交換器7を採用して冷凍サイクル装置10aを構成した例を説明する。なお、図4では、第1実施形態と同一もしくは均等部分には同一の符号を付している。
【0059】
より具体的には、本実施形態の冷凍サイクル装置10aでは、水−冷媒熱交換器2で熱交換を終えた高圧冷媒の流れを分岐する分岐部を設けている。そして、本実施形態の中間圧用膨張弁3は、前記の分岐部で分岐された一方の高圧冷媒を中間圧冷媒となるまで減圧させる。
【0060】
内部熱交換器7は、中間圧用膨張弁3にて減圧された中間圧冷媒と分岐部で分岐された他方の高圧冷媒とを熱交換させて、中間圧冷媒を加熱気化させるとともに、他方の高圧冷媒のエンタルピを低下させるものである。具体的には、高圧冷媒を流通させる外側管の内側に中間圧冷媒を流通させる内側管を配置する二重管方式の熱交換器等を採用することができる。
【0061】
内部熱交換器7における中間圧冷媒の流路の出口側には、圧縮機1のインジェクションポート1bが接続されている。また、内部熱交換器7において高圧冷媒の流路の出口側には、低圧用膨張弁5の入口側が接続されている。つまり、本実施形態の低圧用膨張弁5は、水−冷媒熱交換器2下流側の冷媒のうち内部熱交換器7から流出した高圧冷媒を低圧冷媒となるまで減圧させる。
【0062】
その他の構成および作動は第1実施形態と同様である。従って、本実施形態のように冷凍サイクル装置10aを構成しても、第1実施形態と全く同様に加熱能力もしくはCOP向上効果および製造コストの低減効果を得ることができる。
【0063】
(他の実施形態)
本発明は上述の実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、以下のように種々変形可能である。
【0064】
(1)上述の実施形態では、圧縮機としてスクロール型の圧縮機構を電動モータで回転駆動する電動圧縮機を採用した例を説明したが、圧縮機はこれに限定されない。
【0065】
例えば、圧縮機構としては、容積を縮小させることによって圧縮室内の冷媒を圧縮する容積型の圧縮機構であれば、ベーン型圧縮機構、ローリングピストン型圧縮機構等の各種形式のものを採用することができる。さらに、圧縮機構を駆動する駆動手段についても電動モータに限定されることなく、例えば、内燃機関(エンジン)を採用してもよい。
【0066】
また、上述の実施形態では、1つの圧縮機構を備える圧縮機1を採用しているが、インジェクションポート1bから中間圧冷媒を流入させて圧縮過程の冷媒に合流させることが可能であれば、例えば、2つの圧縮機構を1つのハウジング内に収容した圧縮機1を採用してもよい。
【0067】
さらに、2つの圧縮機を直列的に接続して1つの圧縮機1を構成してもよい。この場合は、低段側に配置される低段側圧縮機の吸入ポートが圧縮機1全体としての吸入ポート1aとなり、高段側に配置される高段側圧縮機の吐出ポートが圧縮機1全体としての吐出ポート1cとなり、低段側圧縮機の吐出ポートと高段側圧縮機の吸入ポートとの接続部に圧縮機1全体としてのインジェクション1bを設ければよい。
【0068】
(2)上述の実施形態では、図2のフローチャートのステップS3にて、第3冷媒圧力P3が高圧側冷媒圧力Pdよりも低くなっているか否かを判定した例を説明したが、高圧側冷媒圧力Pdの代わりに、高圧側冷媒圧力Pdの目標値となる目標高圧を用いてもよい。
【0069】
(3)上述の実施形態では、冷凍サイクル装置10、10aをヒートポンプ式給湯機に適用した例を説明したが、冷凍サイクル装置10、10aの適用はこれに限定されない。例えば、空調装置に適用して、空調対象空間へ送風される送風空気の温度を調整するために用いてもよい。
【0070】
(4)上述の実施形態では、冷凍サイクルの冷媒として二酸化炭素を採用した例を説明したが、冷媒はこれに限定されない。例えば、冷媒としてHFC系冷媒(具体的には、R134a)やHFO系冷媒(例えば、R1234yf)等を採用して圧縮機1から吐出された高圧冷媒の圧力が冷媒の臨界圧力を超えない亜臨界冷凍サイクルを構成してもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 圧縮機
1a 吸入ポート
1b インジェクションポート
1c 吐出ポート
2 水−冷媒熱交換器(放熱用熱交換器)
3 中間圧用膨張弁(中間圧用減圧手段)
5 低圧用膨張弁(低圧用減圧手段)
6 室外熱交換器(蒸発用熱交換器)
図1
図2
図3
図4