【実施例1】
【0021】
ここで、
図1は本発明の技術を、生体に対して注射を行う注射器に適用した注射器1の断面図である。注射器1は、本発明に係る注射目的物質に相当する注射液を、注射対象となる生体内の領域(例えば、動物の皮膚構造体)に直接に送り届ける注射針を有していない無針注射器である。なお、本実施例では、注射目的物質を液体としているが、これには生体内に注射される物質の内容や形態を限定する意図はない。上述の通り、例えば皮膚構造体に対して注射すべき物質はその治療目的に応じて様々であるため、皮膚構造体に届けるべき成分が当該治療目的に適応している限りにおいては、溶解していても溶解していなくてもよく、また注射目的物質も、エネルギーにより注射器1から皮膚構造体に対して射出され得るものであれば、その具体的な形態は不問であり、液体、ゲル状等様々な形態が採用できる。
【0022】
注射器1は、その本体としてハウジング2を有しており、その内部において先端部から後端部にかけてノズルホルダ5、ピストンホルダ3、点火器ホルダ12が一列に並べられている。そして、ハウジング2の後端部においてキャップ30が、ハウジング2の後方側面に設けられたネジ部と螺合することで、ノズルホルダ5、ピストンホルダ3、点火器ホルダ12に対して力を加え、これらの構成要素をハウジング2内に固定し、注射器1を使用可能状態とすることができる。具体的には後述するようにハウジング2の先端部に形成されている段部2cに対して、ノズルホルダ5、ピストンホルダ3、点火器ホルダ12をキャップ30によって挟持している。なお、本実施例において、「先端部」と称する場合は、後述するように注射液の射出方向(ピストン4の推進方向)における構成要素の端部を意味するものであり、一方で、「後端部」と称する場合は、先端部とは反対の側における構成要素の端部を意味するものである。
【0023】
ここで、ハウジング2には、上記の通りノズルホルダ5、ピストンホルダ3、点火器ホルダ12を収容するための空間を画定する内孔2aを有している。更に、ハウジング2の先端部において、内孔2aとハウジング2の外部とを連通するように形成される貫通孔2bが設けられている。貫通孔2bと内孔2aの中心は同軸上に設けられ、貫通孔2bの内径は、内孔2aの内径よりも小さく設定されている。そのため、ハウジング2の先端部側の内部には、段部2cが形成されている。
【0024】
ここで、点火器ホルダ12に取り付けられる点火器20の例について、
図2に基づいて説明する。点火器20は電気式の点火装置であり、表面が絶縁カバーで覆われたカップ21によって、点火薬22を配置するための空間が該カップ21内に画定される。そして、その空間に金属ヘッダ24が配置され、その上面に筒状のチャージホルダ23が設けられている。該チャージホルダ23によって点火薬22が保持される。この点火薬22の底部には、片方の導電ピン28と金属ヘッダ24を電気的に接続したブリッジワイヤ26が配線されている。なお、二本の導電ピン28は非電圧印加時には互いが絶縁状態となるように、絶縁体25を介して金属ヘッダ24に固定される。さらに、二本の導電ピン28が延出するカップ21の開放口側は、樹脂27によって導電ピン28間の絶縁性を良好に維持した状態で保護されている。
【0025】
このように構成される点火器20においては、キャップ30において接続された電源部(不図示)によって二本の導電ピン28間に電圧印加されるとブリッジワイヤ26に電流が流れ、それにより点火薬22が燃焼する。なお、この電圧印加は、電源部のボタンをユーザが押下することで実現される。そして、電圧印加の結果、点火薬22の燃焼による燃焼生成物はチャージホルダ23の開口部から噴出されることになる。そこで、本発明においては、点火器20での点火薬22の燃焼生成物が、点火器ホルダ12の内部に形成された燃焼室11内に流れ込むように、点火器ホルダ12に対する点火器20の相対位置関係が設定されている。
【0026】
なお、注射器1において用いられる点火薬22として、好ましくは、ジルコニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(ZPP)、水素化チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(THPP)、チタンと過塩素酸カリウムを含む火薬(TiPP)、アルミニウムと過塩素酸カリウムを含む火薬(APP)、アルミニウムと酸化ビスマスを含む火薬(ABO)、アルミニウムと酸化モリブデンを含む火薬(AMO)、アルミニウムと酸化銅を含む火薬(ACO)、アルミニウムと酸化鉄を含む火薬(AFO)、もしくはこれらの火薬のうちの複数の組合せからなる火薬が挙げられる。これらの火薬は、点火直後の燃焼時には高温高圧のプラズマを発生させるが、常温となり燃焼生成物が凝縮すると気体成分を含まないために発生圧力が急激に低下する特性を示す。なお、これら以外の火薬を点火薬として用いても構わない。
【0027】
ここで、
図1に示す燃焼室11内には何も配置されていないが、点火薬22の燃焼で生じる燃焼生成物によって燃焼しガスを発生させる公知のガス発生剤を、燃焼室11内に配置するようにしてもよい。仮に燃焼室11内にガス発生剤を配置させる場合、その一例としては、ニトロセルロース98質量%、ジフェニルアミン0.8質量%、硫酸カリウム1.2質量%からなるシングルベース無煙火薬が挙げられる。また、エアバッグ用ガス発生器やシートベルトプリテンショナ用ガス発生器に使用されている各種ガス発生剤を用いることも可能である。このようなガス発生剤の併用は、上記点火薬22のみの場合と異なり、燃焼時に発生した所定のガスは常温においても気体成分を含むため、発生圧力の低下率は小さい。さらに、当該ガス発生剤の燃焼時の燃焼完了時間は、上記点火薬22と比べて極めて長いが、燃焼室11内に配置されるときの該ガス発生剤の寸法や大きさ、形状、特に表面形状を調整することで、該ガス発生剤の燃焼完了時間を変化させることが可能である。このようにガス発生剤の量や形状、配置を調整することで、燃焼室11内での発生圧
力を適宜調整できる。
【0028】
次に、金属製のピストンホルダ3には、
図1に示す注射器1の使用前において、金属製のピストン4を保持する貫通孔31が形成されている。ピストンホルダ3は、ハウジング2の内孔2aの内径とほぼ一致する外径を有する胴部32と、胴部32より小さい外径を有する首部33を先端部側に有しており、貫通孔31は、胴部32の後端部側から首部33の先端部側までを貫通する孔である。そして、ピストン4は、この貫通孔31内を軸方向に沿って摺動可能となるように配置され、その一端(後端部側)が燃焼室11側に露出し、他端(先端部側)には封止部材4aが一体に取り付けられている。この封止部材4aは、ピストン4の摺動に伴って注射液が円滑に貫通孔14内を移動できるように、表面にシリコンオイルを薄く塗布したゴム製のものである。ピストン4や封止部材4aとピストンホルダ3内の貫通孔31との摩擦を低減するため、例えばフッ素ゴム製の封止部材を使用することが出来る。また貫通孔31表面にシリコン処理を行うことも出来る。
【0029】
さらに、注射器1の先端部側でピストンホルダ3に隣接して、注射液を射出するためのノズル部6を保持するノズルホルダ5が配置されている。ノズルホルダ5は、ハウジング2の内孔2aの内径とほぼ一致する外径を有する胴部51と、胴部51より小さい外径であって、ハウジング2の貫通孔2bの内径とほぼ一致する外径を先端部側に有する首部52を有している。更に、ノズルホルダ5には、ノズル部6を収容するための空間を画定する内孔5aが形成されており、内孔5aは、その先端部側において、ノズル部6の先端部分が外部に露出した状態で保持されるように、ノズル部6の表面形状に合わせてテーパー部5bが形成されている。
【0030】
一方で、ノズル部6は、ノズルホルダ5の内孔5aの内径とほぼ一致する外径を有するとともに、その先端部側には、ノズルホルダ5のテーパー部5bに対応するテーパー部が形成されることで、ノズルホルダ5内でのノズル部6の継続的な保持が可能とされる。ここで、ノズル部6には、注射器1から射出される注射液が最終的に流れる流路6aが形成され、流路6aは、注射器1の先端部側に開口する開口部6bを有する。更に、ノズル部6の中央部であって、
図1に示す状態において、ピストン4に取り付けられた封止部材4aに対向する部位に、液溜りを形成可能な程度の大きさを有する凹部6cが形成され、凹部6cは流路6aと繋がっている。なお、当該凹部6cについては、後述する。
【0031】
ノズル部6は、樹脂成形により大量生産が可能なものであり、注射液の射出ごとに新しいノズル部に交換可能であるように形成されている。この結果、ユーザは、注射液の注射を行う度に常に新しいノズル部6を使用でき、衛生的な注射が実現される。また、流路6aの形状や大きさ等は、注射器1から射出される注射液の、射出後の挙動を決定付ける要素である。したがって、ノズル部6が上記の通り交換可能に形成されることで、注射すべき注射液を目標とする生体内の領域に送り込むのに適した流路を有するノズル部6を選択でき、以て当該注射液の射出を好適に実現することが可能となる。
【0032】
上記までのように、ハウジング2内において、ノズル部6およびノズルホルダ5、ピストン4およびピストンホルダ3、点火器ホルダ12が配置されると、
図1に示す注射器1の使用前の状態では、ピストン4に取り付けられた封止部材4aと、ノズル部6の凹部6cとの間に、注射液を収容可能な収容空間13が形成される。
図1の注射器1では、注射液は、注射器1が組み立てられる際に収容空間13に装填されることになる。なお、
図1に示す構成では、注射液は完全に閉じられた空間に封入されておらず、注射器先端側は開放された状態となっている。しかし、ノズル部6の開口部6bの内径は極めて小さい(例えば100μm)ため、このように収容空間13が半閉空間であっても注射液の表面張力に
よって注射液は収容空間13に収容された状態が保持され得る。そして、後述するように、その装填された注射液は、点火器20での点火薬22の燃焼によって生じるエネルギー
で加圧されることでノズル部6の開口部6bから射出されることになる。
【0033】
ここで、注射器1への各構成要素の組み立て順序について、
図1および
図3に基づいて説明する。先ず、ハウジング2の後端部側からノズル部6を保持した状態のノズルホルダ5を挿入する。このとき、ノズル部6内の凹部6cには、注射液が装填された状態となっている。なお、
図3においては、各構成要素の存在を把握しやすいように、ノズルホルダ5とノズル部6は、分離された状態で示されている。このとき、ノズルホルダ5の胴部51と首部52とで形成される段状部分が、ハウジング2の段部2cに突き当たるまで、ノズルホルダ5をハウジング2内に挿入する。当該段状部分が段部2cに突き当たった状態で、ノズルホルダ5に保持されているノズル部6の開口部6bが、ハウジング2の先端部側に露呈した状態となる。
【0034】
次に、ハウジング2の後端部側から、ピストン4が貫通孔31に保持された状態のピストンホルダ3を挿入する。なお、
図3においては、各構成要素の存在を把握しやすいように、ピストンホルダ3とピストン4は、分離された状態で示されている。このとき、ピストンホルダ3の首部33がノズルホルダ5の内孔5a内に挿入し、ピストンホルダ3の胴部32と首部33とで形成される段状部分が、ノズルホルダ5の後端部に突き当たるまで、ピストンホルダ3をハウジング2内に挿入する。当該段状部分がノズルホルダ5の後端部に突き当たった状態で、ピストン4に取り付けられた封止部材4aと、ノズル部6の凹部6cとの間に、収容空間13が形成されることになる。なお、凹部6cの内径は、貫通孔31の内径と一致しており、ピストン4(もしくはピストン4に取り付けられた封止部材4a)は、凹部6cの内部にまで推進可能であり、封止部材4aが凹部6cの底面(先端部側の内壁面)に接触したとき、収容空間13の体積は、概ね零となる。
【0035】
次に、ハウジング2の後端部側から、点火器ホルダ12を挿入する。なお、上記の通り、点火器20によって生成される燃焼生成物が放出される燃焼室11の密封性を高めるために、ピストンホルダ3の後端部面と点火器ホルダ12の先端部面との間にOリング9が配置されている。ここで、点火器20による燃焼エネルギーをピストン4に効率的に伝えるために、燃焼室11の内径(φA)は、ピストン4の外径(もしくは、貫通孔31の内径)(φB)よりも若干大きく設計されている。そのため、ピストンホルダ3の後端部面が燃焼室11に露出し、点火器20からの燃焼エネルギーによる圧力を受け得る受圧面34が存在することとなる。
【0036】
点火器ホルダ12の挿入後は、点火器20が点火器ホルダ12に配置され、その後にキャップ30がハウジング2側に結合されることで、注射器1の組み立てが完了する。
【0037】
ここで、本実施例に係る注射器1では、
図1に示す状態において、ピストンホルダ3の首部33の先端部面と、ノズルホルダ5に保持された状態にあるノズル部6の後端部面とが直接に接触しない非接触状態が、形成されている。当該非接触状態においては、首部33の先端部面とノズル部6の後端部面との間に所定の距離Δdが確保され、例えばこのΔdはたとえば0.1mmに設定することが出来る。そして、首部33の先端部面とノズル部6の後端部面との間の距離Δdにより、上記非接触状態を形成するための空間である隔離空間8が存在することとなる。
【0038】
ここで、隔離空間8は、ピストンホルダ3とノズル部6との間に設けられた環状の空間とも言え、当該空間は、収容空間13側に開口部を有するとともに、ピストンホルダ3とノズルホルダ5との間の接触面8aにも繋がっている。なお、当該開口部は、注射器1の使用時、すなわちノズル部6の開口部6bを注射対象に接触させたときに、収容空間13内の注射液が隔離空間8内に流れ込まないように、収容空間13のピストン4寄りの位置に設けられている。より具体的には、注射器1において収容空間13に収容できる最大量
の注射液が収容された場合に、当該注射液が隔離空間8に流れ込まないように、隔離空間8の開口部の位置が決定されている。また、注射器1の概略的な構成を示す
図1においては、ピストンホルダ3とノズルホルダ5は隙間なく描写されてはいるが、ミクロな視点に立てばピストンホルダ3の表面の凹凸とノズルホルダ5の表面の凹凸により、完全な密閉空間を形成し得るものではない。そのため、ピストンホルダ3とノズルホルダ5との間の接触面8aには、ミクロな視点に立てば空気が流れ得る程度の流路が微小ながらも形成されていると言える。この点については、ノズルホルダ5とハウジング2との間の接触面8bについても同様である。したがって、隔離空間8は、収容空間13と、該収容空間13の外部(例えば、接触面8a、8b内の微小空気流路による空間や、注射器1の外部空間等)とを空気連通可能に繋ぐ空間と言うことができ、隔離空間8は、本発明に係る空気通路に相当する。
【0039】
このように構成される注射器1では、点火器20に対して電源部が接続され、電源部からの電流によって点火器20が作動する。すると点火薬22の燃焼によって、燃焼室11内に燃焼生成物が充満し、その圧力を注射液の射出のためのエネルギーとしてピストン4に伝える。エネルギーを受けてピストン4は貫通孔31を推進していき、収容空間13に収容されている注射液に圧力を加えていくことで、ノズル部6の流路6aを経て注射対象物に向かって注射液が射出されることになる。射出された注射液には圧力が掛けられているため、注射対象物の表面を貫通し、その内部に注射液が到達することで、注射器1における注射の目的を果たすことが可能となる。
【0040】
このような注射液の射出のためにピストン4が貫通孔31を推進し、収容空間13内に進入しようとするとき、収容空間13において注射液とともに存在する空気が、ピストン4によって加圧され、その一部が隔離空間8内に流れ込む。ここで、上記の通り、隔離空間8は、接触面8a、8bにミクロ的に存在する微小空気流路によって収容空間13の外部と空気連通可能に繋がっているため、隔離空間8内に流れ込んだ加圧空気は、当該微小空気流路を経て収容空間の13の外部に排出されることになる。この加圧空気の排出は、ピストン4と一体を為す封止部材4a(すなわち、ピストン4の一部となる封止部材4a)が、隔離空間8の収容空間13側の開口位置に差しかかり、その開口部が封止部材4aの側面で塞がれるまで継続される。なお、封止部材4aによって隔離空間8の開口部が一度塞がれると、注射液の射出が完了するまでその閉塞状態は継続される。
【0041】
このようにピストン4の推進初期においては、収容空間13内の空気が隔離空間8を通じて、その外部に排出され、その後、注射液の射出が主に行われていくことになる。注射液の射出が行われる際には、隔離空間8の開口部はピストン4(封止部材4a)によって閉塞されるため、注射液が隔離空間8内に流れ込むことを抑制できる。したがって、ノズル部6の開口部6bから射出される注射液に収容空間13内に存在していた空気が混入する割合を可及的に低減した状態で、該注射液を射出することが可能となる。注射液内に空気が混入した状態で開口部6bから射出されると、空気により注射液が拡散する傾向があり、その結果、注射液による注射対象物の貫通エネルギーが低下し、所望の部位に注射液を到達させることが困難となる。しかし、本願発明の注射器1においては、隔離空間8を介した空気排出によって注射液内の空気の混合量を抑制することができるため、注射器1の機能を好適に維持することができる。
【0042】
また、隔離空間8は、ノズル部6の保護の観点からも有用な構造と言える。ノズル部6は、射出時の注射液の流れを形成する流路6aを有しており、注射のための点火器20によって生じたエネルギーによってこの流路6aが変形等してしまうと、好適な注射液の射出が困難となってしまう。例えば、ピストンホルダ3の後端部面においては、受圧面34が形成されていることから、注射液の射出時に、点火器20によって生じたエネルギーは、ピストンホルダ3を注射器1の先端部側に押し出す力として作用する。このとき、仮に
、ピストンホルダ3が、ノズルホルダ5に保持された状態になっているノズル部6に接触していると、受圧面34が受けたエネルギーが不必要にノズル部6にまで伝わり、その結果、ノズル部6の変形、破損を引き起こし得る。
【0043】
しかし、注射器1においては隔離空間8の存在により、ピストンホルダ3がノズル部6に直接接触することを回避している。すなわち、隔離空間8により、距離Δdを介したピストンホルダ3とノズル部との非接触状態が形成されている。当該距離Δdは、受圧面34が燃焼エネルギーを受けたときに生じ得るピストンホルダ3の微小な変形、移動においても、首部33の先端部面とノズル部6の後端部面との非接触状態を維持し得る程度の値とされる。したがって、注射器1においては、点火器20での燃焼エネルギーの発生の前後において、首部33の先端部面とノズル部6の後端部面との非接触状態は維持されることになる。このように首部33の先端部面とノズル部6の後端部面とを、点火器20での燃焼エネルギーの発生の前後において、すなわち、注射液の射出の前後において非接触状態が維持可能となるように注射器1が設計されることで、ノズル部6に不必要に外力が掛かることで生じるノズル部6の変形、破損等を回避することができる。特に、ノズル部6が生産性の観点等から樹脂等の比較的強度が低い素材で形成されている場合には、ノズル部6内の流路が外力により変形等しやすいため、適切な注射液の射出を担保するという観点からも、本実施例に係る注射器1の構造は極めて有用なものと考えられる。
【0044】
<変形例1>
ここで、
図1に示す注射器1においては、
図4に示すようにノズル部6の後端部面6dは平面状に形成されている。したがって、この後端部面6dが隔離空間8の一部を画定することになる。一方で、
図4に示すこのような形態に代えて、
図5に示す後端部面6dを有するノズル部6を採用することもできる。詳細には、ノズル部6の後端部面6d上に、ノズル部6の中心に位置する凹部6cからその外側面に繋がる溝部6eが設けられるとともに、注射器1内にノズル部6が組み込まれたときに、後端部面6dがピストンホルダ3の首部33の先端部面と接触した状態となるように、ピストンホルダ3、ノズルホルダ5、ノズル部6が設計されてもよい。このようにノズル部6の後端部面6dが首部33の先端部面と接触状態にあっても、溝部6eが、収容空間13と、その外部とを空気連通可能となるように配置されることになり、以て上述したように、隔離空間8を介した空気排出によって注射液内の空気の混合量を抑制することができる。なお、
図5に示す溝部6eに相当する構成を、ピストンホルダ3側に設けても構わない。
【0045】
<変形例2>
図1に示す注射器1においては、ピストンホルダ3の後端部面に受圧面34が形成されているが、このような受圧面が形成されない場合であっても、すなわち、燃焼室11の内径(φA)がピストン4の外径(φB)よりも小さい場合であっても、上述した「首部33の先端部面とノズル部6の後端部面との非接触状態を維持する」構成は、有用である。点火器20による燃焼エネルギーを受けてピストン4が貫通孔31内を先端部側に推進する際、ピストンホルダ3は、ピストン4から摩擦力を受け、その力が、同じようにピストンホルダ3を先端部側に押し出す力として作用するからである。このようなケースにおいても、「首部33の先端部面とノズル部6の後端部面との非接触状態を維持する」構成が採用されることで、ノズル部6の変形等を回避し、適切な注射液の射出を担保することが可能となる。また、それと同時に、隔離空間8を介した空気排出が可能とされることで、空気混入による注射液の拡散を抑制することができる。
【実施例2】
【0046】
本発明に係る注射器1の第二の実施例について、
図6に基づいて説明する。
図6は、本実施例に係る注射器1の概略構成を示す、その断面図である。注射器1は、ハウジング102を有し、該注射器本体102の中央部には、その軸方向に延在し、軸方向に沿った径
が一定である貫通孔131が設けられている。そして、貫通孔131の一端は、該貫通孔131の径より大きい径を有する燃焼室111に連通し、残りの一端は、ハウジング102の先端部側に至る。更に、燃焼室111の、貫通孔131との連通箇所とは反対側に、点火器120が、その点火部が該連通箇所に対向するように、キャップ130を介してハウジング102に取り付けられている。なお、点火器120は、
図2に示す点火器20と実質的に同一であるため、その詳細な説明は省略する。また、ハウジング102の貫通孔131には、金属製のピストン104が、貫通孔131内を軸方向に沿って摺動可能となるように配置され、その一端が燃焼室111側に露出している。
【0047】
さらに、ハウジング102に対してノズル部106がキャップ110を介して取り付けられる。ノズル部106の内部には、注射液を収容するための収容空間113を形成する凹部106cと、注射液を外部に射出するための流路106aおよびその開口部106bが設けられている。そして、ノズル部106内の収容空間113に注射液が収容された状態で収容空間113を封止部材104aで封止し、その状態で、ノズル部106がハウジング102に対して固定される。このとき、封止部材104aの端面は、貫通孔131に保持されているピストン104の端面と接触した状態となる。したがって、収容空間113に収容された注射液は、点火器20での燃焼エネルギー発生によりピストン104が推進し、封止部材104aに押圧されることで、ノズル部106から射出されることになる。
【0048】
このように構成される注射器1は、
図1に示す注射器1と比較すると、ハウジング102自体がピストンホルダとしても機能する構成を有するものであり、更には、ノズルホルダの構成を省略するものでもある。ここで、ノズル部106において、収容空間113と注射器1の外部とを空気連通可能なように繋ぐ空気通路108が形成されている。空気通路108は、収容空間113内に収容されている注射液が、注射器1の使用時において空気通路108に流れ込まない位置に開口している点については、実施例1の場合と同様である。したがって、ピストン104の推進初期においては、収容空間113内の空気が空気通路108を通じて、その外部に排出され、その後、注射液の射出が主に行われていくことになる。注射液の射出が行われる際には、空気通路108の開口部は封止部材104aによって閉塞されるため、注射液が空気通路108内に流れ込むことを抑制できる。以上より、空気通路108を介した空気排出によって注射液内の空気の混合量を抑制し好適な注射液の射出が可能となる。
【0049】
<変形例>
図6に示す注射器1の変形例について、
図7に基づいて説明する。
図7に示す注射器1においては、封止部材104aがピストン104と一体的に取り付けられ、ハウジング2の貫通孔131に保持される。そして、注射液が収容空間113に収容されたノズル部106がハウジング102に対してキャップ110を介して取り付けられる。このように取り付けられた状態において、封止部材104aは、収容空間113に収容された注射液に対して対向する状態となる。ここで、ノズル部106の後端部面には、
図5に示すような溝部として形成される空気通路108が設けられている。このような空気通路108の一端は、注射器1の使用時において注射液が空気通路108に流れ込まない位置に開口しており、他端は、キャップ110とノズル部106との間の間隙部に開口している。そのため、ピストン104の推進初期においては、収容空間113内の空気が空気通路108を通じて、その外部に排出され、その後、注射液の射出が主に行われていくことになる。注射液の射出が行われる際には、空気通路108の開口部は封止部材104aによって閉塞されるため、注射液が空気通路108内に流れ込むことを抑制できる。以上より、空気通路108を介した空気排出によって注射液内の空気の混合量を抑制し好適な注射液の射出が可能となる。
【0050】
<その他の実施例>
本発明に係る注射器1によれば、上述した注射液を皮膚構造体に注射する場合以外にも、例えば、再生医療の分野において、注射対象となる細胞や足場組織・スキャフォールドに培養細胞、幹細胞等を播種することが可能となる。例えば、特開2008−206477号公報に示すように、移植される部位及び再細胞化の目的に応じて当業者が適宜決定し得る細胞、例えば、内皮細胞、内皮前駆細胞、骨髄細胞、前骨芽細胞、軟骨細胞、繊維芽細胞、皮膚細胞、筋肉細胞、肝臓細胞、腎臓細胞、腸管細胞、幹細胞、その他再生医療の分野で考慮されるあらゆる細胞を、注射器1により注射することが可能である。
【0051】
さらには、特表2007−525192号公報に記載されているような、細胞や足場組織・スキャフォールド等へのDNA等の送達にも、本発明に係る注射器1を使用することができる。この場合、針を用いて送達する場合と比較して、本発明に係る注射器1を使用した方が、細胞や足場組織・スキャフォールド等自体への影響を抑制できるためより好ましいと言える。
【0052】
さらには、各種遺伝子、癌抑制細胞、脂質エンベロープ等を直接目的とする組織に送達させたり、病原体に対する免疫を高めるために抗原遺伝子を投与したりする場合にも、本発明に係る注射器1は好適に使用される。その他、各種疾病治療の分野(特表2008−508881号公報、特表2010−503616号公報等に記載の分野)、免疫医療分野(特表2005−523679号公報等に記載の分野)等にも、当該注射器1は使用することができ、その使用可能な分野は意図的には限定されない。