特許第6193603号(P6193603)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6193603非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法
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  • 特許6193603-非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法 図000015
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193603
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/00 20060101AFI20170828BHJP
   B09B 3/00 20060101ALI20170828BHJP
   C22B 7/02 20060101ALN20170828BHJP
   C22B 3/00 20060101ALN20170828BHJP
   C22B 15/00 20060101ALN20170828BHJP
   C22B 30/04 20060101ALN20170828BHJP
   C22B 30/06 20060101ALN20170828BHJP
   C22B 30/02 20060101ALN20170828BHJP
   C22B 25/06 20060101ALN20170828BHJP
   C22B 19/30 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
   C01G49/00 AZAB
   B09B3/00 304G
   !C22B7/02 B
   !C22B3/00
   !C22B15/00
   !C22B30/04
   !C22B30/06
   !C22B30/02
   !C22B25/06
   !C22B19/30
【請求項の数】13
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2013-82521(P2013-82521)
(22)【出願日】2013年4月10日
(65)【公開番号】特開2014-205584(P2014-205584A)
(43)【公開日】2014年10月30日
【審査請求日】2016年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】306039131
【氏名又は名称】DOWAメタルマイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100105256
【弁理士】
【氏名又は名称】清野 仁
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(74)【代理人】
【識別番号】100156834
【弁理士】
【氏名又は名称】橋村 一誠
(72)【発明者】
【氏名】鐙屋 三雄
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】加藤 真吾
(72)【発明者】
【氏名】不破 彰也
(72)【発明者】
【氏名】稲永 丈晴
【審査官】 増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−161803(JP,A)
【文献】 特開2013−095985(JP,A)
【文献】 特開2013−095986(JP,A)
【文献】 特開2013−095984(JP,A)
【文献】 特開2011−230938(JP,A)
【文献】 特開2005−161123(JP,A)
【文献】 特開2009−084124(JP,A)
【文献】 米国特許第04244734(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00
B09B 3/00
C22B 1/00−61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砒素とFeとCuとを含む非鉄製錬煙灰からスコロダイトを得る方法であって、
当該非鉄製錬煙灰をスラリー化してpH調整剤を添加し、当該非鉄製錬煙灰スラリーのpH値を1.5以上、3.0以下の範囲内に制御しながら酸化剤を添加し、酸化浸出して1次浸出終了スラリーとし、当該1次浸出終了スラリーを濾過し1次浸出液と1次浸出残渣とを得る1次浸出工程と、
当該1次浸出残渣をスラリー化して硫酸を添加し、酸性浸出して2次浸出終了スラリーとし、当該2次浸出終了スラリーを濾過し2次浸出液と2次浸出残渣とを得る2次浸出工程と、
当該2次浸出液へ前記1次浸出残渣を添加し、前記2次浸出液中の酸分を中和して中和スラリーを得た後、当該中和スラリーへ、当該中和スラリー中に溶存する5価砒素の3価砒素への還元を抑えながら3価Feを2価Feへ還元する液質調整剤を添加することにより、当該中和スラリー中に溶存する不純物元素であるBi、Pb、Sb、Snの少なくとも1種を低減させて元液作製終了スラリーとし、当該3価Feの2価Feへの還元後に、当該元液作製終了スラリーを濾過し、結晶化元液と中和殿物とを得る元液作製工程と、
当該結晶化元液からスコロダイトを生成する結晶化工程と、を有することを特徴とする非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項2】
前記1次浸出工程における1次浸出終了スラリーへアルカリを添加し、pH値が最大でも3.5以下となるように中和した後、前記1次浸出工程を終了することを特徴とする請求項1記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項3】
前記非鉄製錬煙灰スラリーへ酸を添加し、当該酸添加スラリーのpH値を0.1以上1.0以下として浸出する予備浸出工程を行い、当該予備浸出工程終了後、前記酸添加スラリーへ水および/または中和剤を添加して、前記酸添加スラリーの酸濃度を減じた後、当該酸添加スラリーを前記1次浸出工程へ供ずることを特徴とする請求項1または2に記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項4】
前記予備浸出工程と前記1次浸出工程とを、1つの反応槽で逐次的に行うことを特徴とする請求項3に記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項5】
前記元液作製工程で得られた中和殿物を、前記2次浸出工程に繰り返し、当該中和殿物中に含有される砒素を浸出することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項6】
前記2次浸出工程で得られた2次浸出液を、前記2次浸出工程へ繰り返し、前記2次浸出液中に含有される砒素を濃縮することを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項7】
前記元液作製工程で用いる液質調整剤が、金属Feおよび/または脱銅電解スライムであることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項8】
前記非鉄製錬煙灰スラリーへ、予めFe源を添加し、前記2次浸出液中に溶存するFeと砒素のモル比(Fe/Asモル比)が1以上となるようにすることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項9】
前記1次浸出工程で添加する酸化剤が、過酸化水素水であることを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項10】
前記元液作製工程で添加する液質調整剤が、金属Feおよび/または脱銅電解スライムおよび炭酸ストロンチウムであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項11】
前記1次浸出工程で添加するpH調整剤が、硫酸またはCaを含むアルカリであることを特徴とする請求項1から10のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項12】
前記結晶化工程とは、結晶化元液へ、大気圧下80℃以上で空気または酸素または空気と酸素との混合ガスを吹き込んでスコロダイトの生成反応を行い、当該スコロダイトの生成反応終了後のスラリーを濾過しスコロダイトを得るものであることを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【請求項13】
前記結晶化工程で得られたスコロダイトを、次バッチの前記結晶化工程におけるスコロダイトの生成反応の際に、種晶として用いることを特徴とする請求項1から12のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非鉄製錬工程にて生成する煙灰中に含まれる砒素(As)からスコロダイトを製造する、非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
砒素は環境負荷の大きな物質であり、その安定的な処理は環境保全の観点から重要である。非鉄製錬、特に銅製錬においては、鉱石中の砒素含有量が近年上昇する傾向にあり、砒素の高負荷操業体制の構築が急務となっている。この体制を構築するためには、製錬工程で発生する製錬炉煙灰に多くの砒素が濃縮することから、当該砒素を系外へ積極的に排出する必要がある。この為、当該砒素の排出は重要な技術要素である。この場合、排出される砒素は、最も安定な化合物である結晶性砒酸鉄(スコロダイト)とする処理を行って排出し、管理保管することが環境対策上好ましい。
【0003】
当該砒素の処理に関して、本出願人は特許文献1、2、3および4を出願している。
特許文献1は、非鉄製錬煙灰と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへのアルカリ剤添加により、所定pH値範囲内に制御し、浸出反応により、Cuを含む浸出液と砒素を含む浸出残渣とを得る方法である。そして、当該砒素を含む浸出残渣を酸で再浸出して砒素溶液を得、当該砒素溶液を硫化して砒素を硫化砒素として回収し、当該硫化砒素を結晶性砒酸鉄生成用の砒素原料源とするものである。
【0004】
特許文献2は、非鉄製錬煙灰と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへ硫酸を添加して1次浸出し、当該1次浸出工程終了後のスラリーを固液分離し、得られた1次浸出液へ中和剤を添加して中和を行い、当該中和工程終了後のスラリーを固液分離し、得られた中和後液に酸化剤を投入し、当該酸化工程終了後のスラリーを固液分離して酸化殿物を得、当該酸化殿物と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへ硫酸を添加して2次浸出し、2次浸出液として結晶性砒酸鉄生成用の原料となるヒ素溶液を得るものである。
【0005】
特許文献3は、非鉄製錬煙灰と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへのアルカリ剤添加により所定pH値範囲内に制御し、1次浸出を行い、当該1次浸出工程終了後のスラリーを固液分離し、得られた1次浸出残渣と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへ硫酸を添加して2次浸出し、当該2次浸出工程終了後スラリーを固液分離し、得られた2次浸出液にアルカリを添加して中和を行い、当該中和工程終了後のスラリーを固液分離し、得られた中和後液に酸化剤を投入し、当該酸化工程終了後のスラリーを固液分離して酸化殿物を得、当該酸化殿物と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへ硫酸を添加して3次浸出し、3次浸出液として結晶性砒酸鉄生成用の原料となるヒ素溶液を得るものである。
【0006】
特許文献4は、非鉄製錬煙灰と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへ硫酸を添加して1次浸出し、当該1次浸出工程終了後のスラリーへ中和剤等を添加してpH値調整後に酸化剤を投入して酸化浸出を行い、得られた酸化浸出残渣と水とを混合してスラリーを作製し、当該スラリーへ硫酸を添加して2次浸出し、2次浸出液として結晶性砒酸鉄生成用の原料となるヒ素溶液を得るものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009−161803号公報
【特許文献2】特願2011−241731号
【特許文献3】特願2011−241732号
【特許文献4】特願2011−241730号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述した特許文献1は、非鉄製錬煙灰から結晶性砒酸鉄生成用の砒素原料源を得る優れた方法である。しかし、砒素の高負荷操業体制の構築という観点からの本発明者らの検討によると、次の課題が明らかとなった。
1.非鉄製錬煙灰に含有される砒素を、硫化砒素とする為に硫化剤が必要となる。また、当該生成した硫化砒素を浸出するコストが発生し、さらに、結晶性砒酸鉄製造に必要なFe源を外部から供給する必要がある。すなわち、薬剤コストが高くなる場合がある。
2.非鉄製錬煙灰に含有される砒素を硫化砒素として回収する工程と、硫化砒素を浸出して再度砒素溶液を製造する工程とが必要である。さらに、生成する硫化砒素は3価砒素が殆どである。この為、当該3価砒素を5価砒素に酸化する工程も必要となる。この結果、非鉄製錬煙灰投入から、結晶性砒酸鉄生成用の原料液元液として適した液質の砒素含有溶液回収まで、さらには、結晶性砒酸鉄を回収出来るまでの処理工程が長くなる。
【0009】
特許文献2〜4は、上述した特許文献1を改良した発明で、非鉄製錬煙灰からの砒素の回収をする際、硫化剤を使用することなく、ほとんどの砒素を5価砒素溶液として回収出来、結晶性砒酸鉄を回収するまでの処理工程を短縮することが出来る非鉄製錬煙灰からの砒素の浸出方法である。
しかしながら、本明者らのさらなる検討の結果、特許文献2〜4においても次の課題が明らかとなった。
1.特許文献2〜4に共通した課題
特許文献2〜4に係る結晶性砒酸鉄生成用の原料となるヒ素溶液には、不純物元素(Bi、Pb、Sb、Sn等)が多量に含まれている場合があった。そして、ヒ素溶液に当該不純物元素が多量に含まれているとスコロダイト結晶製造に悪影響を及ぼすことがあり、当該不純物元素量の低減が望まれていた。さらに、当該ヒ素溶液中のFeは3価Feが大半であり、スコロダイトの結晶粒子を肥大化させる観点からは、当該ヒ素溶液中のFeを2価Feへ転換することが望まれていた。
2.特許文献2〜4の個別の課題
特許文献1と比較して、特許文献2、3は結晶性砒酸鉄を得るまでの期間が短縮されたが、さらに工程数の削減が望まれた。当該工程数の削減を実現したのが特許文献4の方法である。しかしながら特許文献4で得られるヒ素溶液は酸濃度が高い為、これを結晶化元液とするには中和処理等が求められる等の課題があった。
【0010】
本発明は、上述の状況のもとで為されたものであり、その解決しようとする課題は、非鉄製錬煙灰(本発明において「製錬煙灰」と記載する場合がある。)からの砒素の回収において、硫化剤を使用することなく、浸出可能な砒素を高濃度に含有する砒素溶液として回収出来、且つ、当該砒素溶液は、直接にスコロダイト結晶製造に供ずることが出来る程度に、当該スコロダイト結晶製造に悪影響を及ぼす不純物元素が低減されており、含有されるFeの大半が2価Feであり、液質(酸濃度)が適宜に調整されたものとしながら、処理工程の短縮と薬剤コストの削減を可能にする、非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の課題を解決するため、本発明者等は鋭意研究を行った。
そして、当該課題を解決するためには、先ず、上述した従来の技術に係る1次浸出工程において、浸出液中に残留する砒素のほぼ全量を1次浸出残渣へ入れ込むという工程、続いて2次浸出工程においては、得られた1次浸出残渣を酸性下浸出し、砒素を含有する2次浸出液を得、好ましくは、当該得られた2次浸出液を2次浸出工程へ繰り返して、2次浸出液中の砒素の濃縮を図る工程、続いて、当該砒素が濃縮した2次浸出液中の過剰な酸分を中和し、且つ、スコロダイト結晶製造に悪影響を及ぼす不純物元素(不純物重金属類)を除去し、且つ、溶存するFeの大半を2価Feに整えるという工程に想到した。つまり、これらの工程を実現できれば、当該砒素が濃縮した2次浸出液は、スコロダイト結晶製造工程へ適用可能な液質の砒素溶液となることに想到したものである。
【0012】
本発明者等は、上述の工程を実現する為の構成について、さらに研究を行った。
その結果、非鉄製錬煙灰へ水を加えてスラリーとした時点で、強酸性下で溶出した場合とほぼ同量の3価砒素が、既に当該スラリー中に溶存しているという現象を知見した。
当該知見より、本発明者らは、当該3価砒素を最適なpH領域で5価砒素へ酸化することで、1次浸出工程におけるスラリーに溶存する砒素の殆どを、5価砒素化合物として1次浸出残渣へ入れ込むことが可能であるとの構成に想到した。
【0013】
また、2次浸出液の過剰な酸分の中和には、当該1次浸出残渣の中和剤としての使用が可能であることを確認し、薬剤コストの削減が可能となり、さらに、当該中和スラリーに選定された液質調整剤を添加し攪拌反応させることで、当該スラリー中の5価砒素の還元を抑えながら3価Feを2価Feへ還元することで、溶存するBi、Sb、Pb、Sn等のスコロダイト結晶化反応に悪影響を及ぼす重金属の不純物元素が、低濃度まで除去される現象を知見した。上述の処理を終えたスラリーを濾過して得られる砒素溶液は、液質がスコロダイト結晶製造には最適であり、得られるスコロダイトは溶出特性に優れものであることを確認し、本発明を完成させた。
【0014】
即ち、上述の課題を解決する為の第1の発明は、
砒素とFeとCuとを含む非鉄製錬煙灰からスコロダイトを得る方法であって、
当該非鉄製錬煙灰をスラリー化してpH調整剤を添加し、当該非鉄製錬煙灰スラリーのpH値を1.5以上、3.0以下の範囲内に制御しながら酸化剤を添加し、酸化浸出して1次浸出終了スラリーとし、当該1次浸出終了スラリーを濾過し1次浸出液と1次浸出残渣とを得る1次浸出工程と、
当該1次浸出残渣をスラリー化して硫酸を添加し、酸性浸出して2次浸出終了スラリーとし、当該2次浸出終了スラリーを濾過し2次浸出液と2次浸出残渣とを得る2次浸出工程と、
当該2次浸出液へ前記1次浸出残渣を添加し、前記2次浸出液中の酸分を中和して中和スラリーを得た後、当該中和スラリーへ、当該中和スラリー中に溶存する5価砒素の3価砒素への還元を抑えながら3価Feを2価Feへ還元する液質調整剤を添加することにより、当該中和スラリー中に溶存する不純物元素であるBi、Pb、Sb、Snの少なくとも1種を低減させて元液作製終了スラリーとし、当該3価Feの2価Feへの還元後に、当該元液作製終了スラリーを濾過し、結晶化元液と中和殿物とを得る元液作製工程と、
当該結晶化元液からスコロダイトを生成する結晶化工程と、を有することを特徴とする非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第2の発明は、
前記1次浸出工程における1次浸出終了スラリーへアルカリを添加し、pH値が最大でも3.5以下となるように中和した後、前記1次浸出工程を終了することを特徴とする第1の発明に記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第3の発明は、
前記非鉄製錬煙灰スラリーへ酸を添加し、当該酸添加スラリーのpH値を0.1以上1.0以下として浸出する予備浸出工程を行い、当該予備浸出工程終了後、前記酸添加スラリーへ水および/または中和剤を添加して、前記酸添加スラリーの酸濃度を減じた後、当該酸添加スラリーを前記1次浸出工程へ供ずることを特徴とする第1または第2の発明に記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第4の発明は、
前記予備浸出工程と前記1次浸出工程とを、1つの反応槽で逐次的に行うことを特徴とする第3の発明に記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第5の発明は、
前記元液作製工程で得られた中和殿物を、前記2次浸出工程に繰り返し、当該中和殿物中に含有される砒素を浸出することを特徴とする第1から第4の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第6の発明は、
前記2次浸出工程で得られた2次浸出液を、前記2次浸出工程へ繰り返し、前記2次浸出液中に含有される砒素を濃縮することを特徴とする第1から第5の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第7の発明は、
前記元液作製工程で用いる液質調整剤が、金属Feおよび/または脱銅電解スライムであることを特徴とする第1から第6の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第8の発明は、
前記非鉄製錬煙灰スラリーへ、予めFe源を添加し、前記2次浸出液中に溶存するFeと砒素のモル比(Fe/Asモル比)が1以上となるようにすることを特徴とする第1から第7の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第9の発明は、
前記1次浸出工程で添加する酸化剤が、過酸化水素水であることを特徴とする第1から第8の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第10の発明は、
前記元液作製工程で添加する液質調整剤が、金属Feおよび/または脱銅電解スライムおよび炭酸ストロンチウムであることを特徴とする第1から第9の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第11の発明は、
前記1次浸出工程で添加するpH調整剤が、硫酸またはCaを含むアルカリであることを特徴とする第1から第10の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第12の発明は、
前記結晶化工程とは、結晶化元液へ、大気圧下80℃以上で空気または酸素または空気と酸素との混合ガスを吹き込んでスコロダイトの生成反応を行い、当該スコロダイトの生成反応終了後のスラリーを濾過しスコロダイトを得るものであることを特徴とする第1から第11の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
第13の発明は、
前記結晶化工程で得られたスコロダイトを、次バッチの前記結晶化工程におけるスコロダイトの生成反応の際に、種晶として用いることを特徴とする第1から第12の発明のいずれかに記載の非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、砒素、Fe、Cu等を含有する非鉄製錬煙灰から、スコロダイトの製造にとって最適な液質を有するスコロダイト結晶化元液を得ることが出来た。その結果、溶出特性およびハンドリング性に優れたスコロダイトの製造が可能になった。また処理工程の短縮化と、使用薬剤コストの削減も達成された。さらには、処理工程が短縮化されたことで、当該処理工程途中において工程外へロスする砒素量が減少し、前記非鉄製錬煙灰中に含有された砒素のスコロダイトヘの転換率(スコロダイトとして回収できる砒素の割合)が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、本明細書の「課題を解決するための手段」欄に記載した、「非鉄製錬煙灰を水でスラリーにした時点で、強酸性下で溶出した場合とほぼ同量の3価砒素が、既に当該スラリー中に溶存しているという現象を知見した。当該知見より、本発明者らは、当該3価砒素を最適なpH領域で5価砒素へ酸化することで、当該1次浸出工程におけるスラリーに溶存する砒素の殆どを1次浸出残渣へ入れ込むことが可能であるとの構成に想到した。」旨について、詳細に説明する。
【0018】
上述の構成の想到した本発明者らは、当該構成の効果の確認と、当該構成における最適条件の検討とのために、以下、試験I、IIを実施した。
尚、試験I、IIにおける攪拌操作には、4枚邪魔板付きの2段タービン羽を用い、反応温度は30℃〜40℃とした。
【0019】
[試験I]
試験Iにおいては、X銅製錬所熔錬炉で発生した、発生日の異なるロットに係る製錬煙灰試料A、Bの2試料を用い、1次浸出工程における3価砒素の溶出挙動について検討した。
【0020】
まず、製錬煙灰試料A、Bの2種製錬煙灰を、それぞれ350gを量り取り、それぞれ1リットルビーカーに移し、それぞれ純水を700mL加え30分間強攪拌を行って、製錬煙灰試料Aから高濃度のA製錬煙灰スラリーを、製錬煙灰試料Bから高濃度のB製錬煙灰スラリーを作製した。
当該スラリー作製時点で、A製錬煙灰スラリーとB製錬煙灰スラリーとの少量サンプリングを行った。A製錬煙灰スラリーのpH値は1.8、B製錬煙灰スラリーのpH値は2.1であった。
【0021】
次いで、A製錬煙灰スラリーとB製錬煙灰スラリーとの、それぞれへ95%硫酸を添加し、pH値を1.0に維持しながら30分間強攪拌による浸出を行い、少量サンプリングを行った。
同様の操作を繰り返し、A、B両製錬煙灰スラリーのpH値を0.5、次いで0.2と段階的に下げていきながら、少量サンプリングを行った。
当該サンプリング試料の分析結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
尚、表1中にて全砒素濃度とは、5価砒素と3価砒素との合計濃度を表すものである。
表1の結果より、製錬煙灰試料A、Bへ水を加えて、A製錬煙灰スラリーとB製錬煙灰スラリーとした時点で、製錬煙灰試料A、B中の3価砒素は、殆どがA製錬煙灰スラリーとB製錬煙灰スラリーとの中へ溶出していた。当該3価砒素の溶出水準は、強酸性下で溶出される3価砒素の溶出量と、ほぼ同量であることが判明した。
【0024】
[試験II]
試験IIにおいては、1次浸出工程における製錬煙灰スラリーのpH値が、砒素とその他の金属元素類へ与える影響について検討した。
具体的な試験条件と、得られた試験結果について説明する。
【0025】
1.X銅製錬所熔錬炉にて発生した、上記製錬煙灰試料A、Bとは発生日が異なるロットから得られた製錬煙灰試料Cへ純水を加えて攪拌し、パルプ濃度400g/LのC製錬煙灰スラリーを調製した。
2.当該C製錬煙灰スラリーへ硫酸を添加し、pH値0.25、温度75℃を維持しながら1時間浸出した。次いで、当該C製錬煙灰スラリーを、上述のスラリー調製に用いたのと同量の純水で希釈して再度75℃に昇温し、さらに10分間攪拌してC浸出スラリーを得た。当該C浸出スラリーを少量サンプリングした。この時点でのC浸出スラリーのpH値は0.6であった。
3.当該C浸出スラリーへ濃度200g/LのMg(OH)水溶液を添加し、pH値を1.02とした。ここで当該C浸出スラリーを少量サンプリングした。
4.当該C浸出スラリーへ濃度200g/LのCa(OH)水溶液を加えて、目標pH値の3.0まで、pH値が1.25、1.5、1.75、2.0、2.5.3.0となるように段階的に中和し、その都度サンプリングを実施した。尚、当該サンプリング操作は、C浸出スラリーが各段階のpH値に到達してから10分間後に行った。
5.上記4.にてサンプリングされた各サンプルを、孔径が0.2μmのMCE製フルターを介して濾過し、得られた濾液を分析へ供じた。
当該サンプリング試料の分析結果を表2に示す。
【0026】
【表2】
【0027】
表2から明らかなように、C浸出スラリーにおいて砒素と共存する各イオンは、当該C浸出スラリーの酸性度が減ずることで漸次低下して行くことが判明した。例えば、pH値が1.5に上昇したことで、Biは1/10へ、Pbは1/2へ、また、Moは1/3へ、そしてSb、Snは分析定量下限以下(<5mg/L)まで低下した。
さらに、pH値が2.0に上昇したことで、Bi、Pb、Moは、さらに低下する挙動を示した。
【0028】
以上の結果から、当該C浸出スラリーの酸性度を減ずる操作により、C浸出スラリーにおいて砒素と共存するBi、Pb、Sb、Sn、Mo等のイオンの大半を、当該C浸出中和スラリーの液層部分から析出除去できることが判明した。
【0029】
また、当該C浸出スラリーのpH値が1.5〜3であれば、当該C浸出スラリー中の5価砒素は砒素化合物となって、当該スラリーから析出する挙動を示した。この結果、C浸出スラリーに溶存する砒素イオンの大半が3価砒素となることが判明した。しかし、当該3価砒素も、pH値が3以上になると、液層部分から析出する挙動を取る為、酸化効率が低下する傾向となることが判明した。
【0030】
以上より、当該C浸出スラリーのpH値が1.5〜3、好ましくは1.75〜2.3の領域にあるとき、当該C浸出スラリーの液層部分中には、酸化抑制剤として作用する雑多なイオン類が共存せず、酸化操作を受ける対象である3価砒素が存在することを知見した。
当該知見より、本発明者らは、1次浸出工程における酸化浸出操作を当該pH領域で行うことにより、3価砒素の5価砒素への酸化を効率良く且つほぼ完全に行うことを可能とする構成に想到した。
【0031】
以上説明したように試験I、IIより、本発明者らは、製錬煙灰中に含有する浸出可能な3価砒素の殆どを、本発明に係る1次浸出工程における酸化浸出において、5価砒素へ効率良く酸化する構成に想到した。
【0032】
製錬煙灰中に含有する浸出可能な3価砒素の殆どを、本発明に係る1次浸出工程における酸化浸出において、5価砒素へ効率良く酸化する構成と、上述した試験I、IIの結果とから、本発明者らは、後述する1次浸出工程における酸化浸出の操業条件を設定することが出来た。
【0033】
以下、本発明を実施するための形態について、非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法を示すフローチャートである図1を参照しながら説明する。
非鉄製錬煙灰からのスコロダイト製造方法は、1次浸出工程、2次浸出工程、元液作製工程、結晶化工程、および、必要に応じて予備浸出工程を有する。
以下、本発明について各工程毎に詳細に説明する。
【0034】
[1]1次浸出工程
本発明に係る1次浸出工程は製錬煙灰を浸出し、易溶性Cuを1次浸出液へ、砒素を1次浸出残渣に入れ込むことで、製錬煙灰中のCuと砒素とを分離する工程である。
具体的には、製錬煙灰へ、水、工程水等の用水を加えて攪拌し、パルプ濃度200g/L〜600g/Lの高濃度の非鉄製錬煙灰スラリーを作製する。そして、当該非鉄製錬煙灰スラリーへpH調整剤、酸化剤、場合によりFe源を加えてpH調整や酸化処理を行って酸化浸出を実施して1次浸出終了スラリーを得、当該酸化浸出終了後に、前記1次浸出終了スラリーを濾過して1次浸出液と1次浸出残渣とを得る工程である。
以下、製錬煙灰、pH調製剤、酸化剤、Fe源添加の効果とFe源、1次浸出工程における操作、1次浸出残渣、1次浸出液の順に説明する。
【0035】
(製錬煙灰)
本発明は、砒素とCuとFeとを含むものであれば、非鉄製錬の各工程から発生する各種の製錬煙灰に適用可能である。当該製錬煙灰には、砒素以外に高価なCuやZn等の元素、鉱石由来の各種元素が含まれている。なかでも本発明は、銅製錬における熔錬工程から発生する銅製錬煙灰へ有効に適用出来る。
【0036】
(pH調整剤)
pH調整剤には、アルカリ剤と酸とがある。アルカリ剤であれば、汎用的に使用されるCa(OH)やCaCO等のCaを含むアルカリが好ましく挙げられる。酸であれば、製錬所において一般に製造されている硫酸が最適である。
【0037】
(酸化剤)
酸化剤としては、3価砒素を5価砒素へ酸化する能力のあるものであれば適用可能である。例えば、製錬所の熔錬炉から発生するSOガスを利用した酸素との混合ガスも可能であるが、中でも過酸化水素水はハンドリング性が良く、好ましい酸化剤である。
【0038】
(Fe源添加の効果とFe源)
製錬煙灰の種類によっては、2次浸出液へ浸出される砒素量に比して、2次浸出液へ浸出されるFe量の少ないものがある。このように、2次浸出液へ浸出される砒素量に比して、浸出されるFe量の少ない製錬煙灰を処理する場合には、Fe源を添加してFe量を補給することが好ましい(図1中の*1)。
【0039】
Fe源の添加時期は、最初の高濃度の非鉄製錬煙灰スラリー作製時から、後述する結晶化工程までの間であれば、どの段階でも添加可能である。これは、添加されたFe源が、最終的には結晶化工程においてスコロダイト結晶生成のFeとして使用されるからである。
尤も、最初の非鉄製錬煙灰スラリー作製時や予備浸出工程といった、1次浸出工程における酸化浸出開始前においてFe源を添加することで、当該1次浸出工程における酸化浸出の際、添加されたFeが、5価砒素の殿物化(1次浸出残渣への入れ込み)を促進するので好ましい構成である。
当該Fe源の添加量は、後述する2次浸出工程で得られる2次浸出液中に含有されるFeと砒素のモル比(Fe/Asモル比)が、1.0〜1.5となるように行うことが好ましい。
【0040】
添加するFe源としては、硫酸鉄のような鉄塩類でも良いが、予備浸出工程でも溶解可能な酸化鉄や鉄化合物でも良い。
また、Fe源として、非鉄製錬所において砒素を含む排水の処理時に発生する鉄殿物を用いることも好適である。当該鉄殿物には砒素に比べてFeが潤沢に含まれており、さらにCu等の有価金属も含まれている。この結果、Fe源として当該鉄殿物を用いた場合においては、1次浸出工程で容易に殿物化がなされ、且つ、当該鉄殿物に含まれるCu等の有価金属は1次浸出液側へ移行するので、Fe源の補給のみならず、Cu等の有価金属回収も為される。さらに、当該鉄殿物中の砒素は最終的にスコロダイトへ転換されるので、資源の有効活用、回収、および砒素の安定化の観点からも好ましい構成である。
【0041】
(1次浸出工程における操作)
本発明に係る1次浸出工程において、高濃度の非鉄製錬煙灰スラリーを作製した後、当該スラリー中に溶存する3価砒素の酸化にとって最も適切なpH領域である1.75〜2.3となるようにpH調整を行う。これは、当該1.75〜2.3のpH領域においては、酸化に悪影響を及ぼす重金属元素類が少なく、且つ、溶存する砒素の大半が被酸化対象の3価砒素となることから、効率良く3価砒素から5価砒素への酸化が実現出来るからである。
一方、本発明者らの検討によれば、製錬煙灰の差異により、パルプ濃度が500g/Lの非鉄製錬煙灰スラリーにおいて、pH値が1.2〜2.5の範囲の酸性を示すことが判明している。
そこで、当該非鉄製錬煙灰スラリーへ、pH調整剤(アルカリ剤または酸)の添加により、非鉄製錬煙灰スラリーのpH値を、上述した3価砒素の酸化にとって最適なpH値となるよう調整することが好ましい。
【0042】
pH調整後における非鉄製錬煙灰スラリーへの酸化剤(例えば、過酸化水素水)を添加し、含有される3価砒素を5価砒素へ酸化し1次浸出(酸化浸出)し、1次浸出終了スラリーを得た。そして、当該1次浸出終了後に、前記1次浸出終了スラリーを濾過し1次浸出液と1次浸出残渣とを得る。
当該酸化剤の添加は、当該スラリー内へ直接注入する方法が、酸化効率の観点から好ましい。
当該酸化剤注入および酸化反応の終了の目安は、当該非鉄製錬煙灰スラリーの液電位が、Ag/AgCl電極基準として550mv以上、好ましくは600mv以上を示した時点である。当該時点をもって、1次浸出は完了したと判断される。
例えば、酸化剤として過酸化水素水を用いた場合、非鉄製錬煙灰スラリーへの過酸化水素水の添加注入時間は10分間〜15分間が好ましい。当該添加注入時間によると酸化効率が高いからである。
【0043】
本発明に係る1次浸出における反応温度は、30〜40℃であっても十分に1次浸出が可能である。一般に過酸化水素水による3価砒素の酸化は、スラリーの温度が高い程良いとされる。しかし本発明に係る1次浸出では、敢て高温に加温する必要はない。
【0044】
以上の操作により、当該高濃度の非鉄製錬煙灰スラリー中に溶存する3価砒素を、効率良く5価砒素へ酸化することができる。そして、当該1次浸出に係るpH範囲で酸化生成した5価砒素は、瞬時に液中のFeやCu、またはZnと反応して5価砒素化合物を形成して殿物化され1次浸出残渣となる。この結果、液層部分(1次浸出液)からは溶存砒素が除去される。
【0045】
一方、本発明者らの検討によれば、上述のpH範囲、温度範囲で1次浸出を行い、3価砒素を5価砒素に酸化しても、製錬煙灰の差異によっては一部の5価砒素が液層部分に残留する場合のあることを知見した。このような場合は、当該1次浸出を終了した1次浸出終了スラリーへ、アルカリ剤を添加し、pH値をさらに上昇させることで、液層部分に残留する5価砒素を5価砒素化合物として1次浸出残渣へ入れ込むことが出来る。
【0046】
当該1次浸出終了スラリーのpH値をさらに上昇させる場合、当該スラリーのpH値が3.4〜3.5に達すると、Cuの沈積が早まり、砒素とCuとの分離が低下する傾向となる。当該砒素とCuとの分離が低下する結果、後述する2次浸出工程で得られる2次浸出液(元液作製工程へ供給する原液)のCu濃度が上昇することが懸念される。
従って、当該1次浸出終了スラリーのpH値をさらに上昇させる場合には、当該pH値は最大でも3.5以下とするのが好ましい。
尤も、当該pH調整処理終了時におけるpH値は、製錬煙灰の種類や性状、1次浸出終了スラリーの濃度の違いにより変化し得るものである。そこで当該pH値は、実際の処理対象となる製錬煙灰を対象として、予め試験を行い決定しておくことが好ましいと考えられる。
【0047】
(1次浸出残渣)
本発明に係る1次浸出残渣であって、初回バッチ処理において発生した1次浸出残渣は、後述する2次浸出工程の浸出原料となる。
一方、2回目以降のバッチ処理において得られた1次浸出残渣は、主に、後述する元液作製工程において、2次浸出液の過剰な酸分の中和剤として使用される。また、後述する様に、当該1次浸出残渣は、先に得られた2次浸出液を2次浸出工程へ繰り返し、当該2次浸出液中の砒素濃度を濃縮させる際の2次浸出用の原料として使うことも出来る。尚、当該元液作製工程において中和剤として添加された1次浸出残渣は、当該元液作製工程における液質調整反応終了後に中和殿物として回収され、2次浸出工程の浸出用原料として繰り返される。
【0048】
(1次浸出液)
本発明に係る1次浸出工程では、易溶性Cuの大半を1次浸出液側へ浸出する事が出来た。当該Cuの浸出率は70〜80%におよんだ。そして、1次浸出液としては、Cu濃度が30〜60g/L、砒素濃度が0.1g/L以下の液質のものが得られた。
当該1次浸出液は、別途、Cuの回収工程へ送り、例えばSX/EW(溶媒抽出/電解採取)法等により、当該1次浸出液に含まれるCuを電気銅として回収することが出来る。尚、当該1次浸出液の溶媒抽出後の抽出残分にはZn等が含まれているので、当該Znは中和処理により水酸化亜鉛として回収し亜鉛製錬所のZn原料として供給することが出来る。
【0049】
[2]予備浸出工程
製錬煙灰中に含有されるCu、Zn、Cd等は、上述の1次浸出工程で浸出され易い。この結果、後述する2次浸出工程においては、さほど浸出されない元素類である。
しかし、本発明者らの検討によれば、製錬煙灰の差異(熔錬炉のタイプの違い)により当該Cu、Zn、Cd等の元素類が1次浸出工程において浸出が十分になされず、2次浸出工程において2次浸出液へ多く浸出される場合があることを知見している。この場合、2次浸出液へ浸出されたこれら元素類が、元液作製工程を経て、結晶化元液に多く含有されることになる。すると、後述する結晶化工程において、これらの元素類を多く含有する 結晶化元液の粘性が増大し反応に支障を及ぼす場合がある。特に、Cdは溶出規制対象元素であり、得られたスコロダイトにおいてCd溶出値が規制基準値を超過することが懸念される。従って、このような場合は、Cu、Zn、Cd等の元素類を1次浸出工程において浸出させ、1次浸出液へ移行させる方策を行うことが好ましい。
当該Cu、Zn、Cd等の元素類を1次浸出液へ移行させる必要がある場合の手段として、予備浸出工程の実施が有効である。
【0050】
即ち、予備浸出工程は、必要に応じて、上述した1次浸出工程に先駆けて行うものである(図1中の*2)。
当該予備浸出工程は、非鉄製錬煙灰スラリーへ酸を添加し、当該酸添加スラリーのpH値を0.1以上、1.0以下とし、さらに当該酸添加スラリーの温度を50℃以上に加温した条件で浸出を行うものである。尚、添加する酸としては、硫酸が好適である。
【0051】
最適なpH値、温度といった予備浸出の条件は、処理対象である各製錬所で発生する製錬煙灰毎に検討して、決めることが好ましい。
尤も、本発明者らの検討によれば、当該予備浸出においてスラリーのpH値が1.0以下であれば、浸出されるべきCuの約70〜90質量%が浸出され、また浸出されるべきZn、Cdは約80〜90質量%が浸出される。さらに、スラリーのpH値が0.2〜0.3であれば、浸出されるべきCu、Zn、Cdの浸出がほぼ完了するという知見を得ている。一方、スラリーのpH値をpH値0.1以上とすれば、添加する酸の薬剤コストが抑制される。
また、スラリーの温度に関しては、室温(25℃)〜50℃間の範囲では、温度の上昇に伴ってCu、Zn、Cd等の浸出率は著しく向上し、50℃以上で当該浸出率の向上の程度が漸次減少していくという知見を得ている。
したがって、浸出の際のスラリー温度は50℃以上が好ましく、実機操業時の設備仕様等を考慮すれば、80℃程度を上限とすることが好ましい。
【0052】
予備浸出における浸出反応時間は、上述した浸出条件が満たされた時点から30分間以上必要であり、1時間でほぼ目的の浸出が達成される。
当該予備浸出終了時に、得られたスラリーへ、当該スラリーと同容量程度の加水を行い、スラリー濃度と酸濃度とを減じた後、上述した1次浸出工程に供ずれば良い。
尚、当該加水の目的は、1次浸出工程におけるアルカリ剤添加の際に、非鉄製錬煙灰スラリーの粘性増大を抑えるために行うものである。
尚、予備浸出工程と1次浸出工程とは、1つの反応槽で逐次的に行うことが出来る。また、予備浸出工程を1の反応槽で行い、反応終了スラリーを、2の反応槽へ移送し1次浸出工程を連続的に行うことも可能である。勿論、予備浸出工程と1次浸出工程とを多段の工程(例えば、2段連続工程)で行っても良い。
【0053】
[3]2次浸出工程
本発明に係る2次浸出工程は、上述した1次浸出工程で得られた1次浸出残渣、または、後述する元液作製工程で得られる中和殿物へ、用水や先に得られた2次浸出液を加えてスラリーとし、当該スラリーへ硫酸等の酸を添加して酸性浸出して2次浸出終了スラリーを得る。そして、当該酸性浸出終了後に、前記2次浸出終了スラリーを濾過し砒素やFe等を含有する2次浸出液と2次浸出残渣とを得る工程である。
当該2次浸出工程を実施するに際し、初回バッチ処理においては、
浸出の対象として、上述した1次浸出工程で得られた1次浸出残渣を用いる(図1中の*3)。2回目以降のバッチ処理においては、主に後述する元液作製工程で得られる中和殿物が浸出の対象となる。
また、2次浸出液を当該2次浸出工程へ繰り返し、当該2次浸出液中の砒素濃度を濃縮させる際には、中和殿物の他に1次浸出残渣を原料として使うことも出来る。
尚、元液作製工程にて後述の液質調整剤に脱銅電解スライムを用いた方法においては、当該脱銅電解スライムの過量分が未反応のまま中和殿物に含有される場合があるため、当該2次浸出工程の浸出反応終期に酸化性ガスを吹き込む酸化浸出ステージを設けることも出来る。
以下、2次浸出工程における操作、2次浸出液、2次浸出残渣の順に説明する。
【0054】
(2次浸出工程における操作)
上述したように、本発明に係る2次浸出工程においては、初回バッチにおいては1次浸出残渣を、2回目以降のバッチにおいては、後述する元液作製工程で得られる中和殿物を主に浸出対象とする。
当該浸出対象である1次浸出残渣スラリーまたは中和殿物スラリーのパルプ濃度(P.D.:g/L)は、発生する2次浸出液の液量が、後述の元液作製工程において1次浸出残渣添加による中和反応が担保出来るように調整を行う。
【0055】
浸出対象である1次浸出残渣スラリーまたは中和殿物スラリーへ酸を添加することにより、当該浸出対象スラリーのpH値を0.1以上0.5以下の範囲内とする。上述した予備浸出を行った場合は、当該予備浸出時におけるスラリーのpH値より低い値とする。添加する酸としては、硫酸が好適である。
そして、当該浸出対象スラリーを加温し、温度を50℃以上好ましくは80℃前後とし酸性浸出条件を満たし2次浸出終了スラリーを得る。
【0056】
2次浸出における酸性浸出反応時間は、上述した浸出条件が満たされた時点から30分間以上は必要であり、1時間でほぼ目的の浸出は達成される。
当該酸性浸出終了後に、前記2次浸出終了スラリーを固液分離することにより、2次浸出液と2次浸出残渣とを得る。
【0057】
(2次浸出液)
得られた2次浸出液は、主に砒素とFeとを含有する溶液である。
当該2次浸出液は、次工程である元液作製工程へ送られる。
一方、当該2次浸出液を再び2次浸出工程へ繰り返し、2次浸出工程における用水として用いる構成を採ることで、当該2次浸出液中の砒素濃度を濃縮する事が出来好ましい。これは、当該2次浸出液中の砒素が溶解度の大きい5価砒素であるので、相当高濃度まで砒素の濃縮が可能だからである。尤も、後述する結晶化工程における反応の際の、結晶化反応スラリーの粘性等を考慮すると、次工程である元液作製工程へ送る2次浸出液中の砒素濃度は、20〜40g/Lとすることが好ましい。
【0058】
(2次浸出残渣)
得られた2次浸出残渣には、2次浸出において浸出されなかったCu分の他に、Pb、Bi、Sb、Sn等の元素も含まれている。従って、当該2次残渣を銅製錬所の銅原料として供給することは勿論可能であるが、さらには、鉛製錬原料としても供給することも出来る。なぜならば、鉛製錬所は、Pb回収以外にCu、Bi、Sb、Snの回収工程を有するからである。当該2次浸出残渣を、銅製錬所、鉛製錬所のいずれの製錬所の原料として供給するかは、当該銅製錬所におけるPb、Bi、Sb、Sn等の工程内での滞留状況や経済性から判断すれば良い。
【0059】
[4]元液作製工程
本発明に係る元液作製工程は、上述した2次浸出液へ1次浸出残渣を添加して、当該2次浸出液に含有される過剰な酸分を中和して中和スラリーを得る。引き続き当該中和スラリーへ後述の液質調整剤を添加することで、当該中和スラリー中に溶存する5価砒素の3価砒素への還元を抑制しながら3価Feを2価Feへ還元する。そして、3価Feの2価Feへの還元により、スコロダイト結晶化反応に悪影響を及ぼす不純物元素(溶存重金属)を低濃度となるまで除去して元液作製終了スラリーを得る。そして、当該3価Feの2価Feへの還元終了後に、前記元液作製終了スラリーを濾過し、結晶化元液と中和殿物とを得る工程である。
【0060】
より詳しくは、当該中和スラリーへ後述の液質調整剤を添加することで、中和スラリー中に溶存する5価砒素の3価砒素への還元を抑制しながら、中和スラリー中に溶存する3価Feを2価Feへ還元すると伴に、当該中和スラリー中に共存するBi、Sb、Pb、Sn等の不純物元素を中和殿物へ移行させる工程である。そして、3価Feや当該不純物元素の含有量が低減された元液作製終了スラリーを得る。そして、当該3価Feの2価Feへの還元終了後に、前記元液作製終了スラリーを濾過しスコロダイト結晶化反応に直接供給可能な結晶化元液を得る工程である。
以下、結晶化元液、当該結晶化元液を得ることを可能にした液質調整剤の効果、液質調整剤、元液作製工程における操作、結晶化元液、中和殿物の順に説明する。
【0061】
(結晶化元液)
結晶化元液は、5価砒素と2価Feを含む溶液である。
本発明者らの検討によれば、結晶化元液中に3価Feと2価Feが含まれていた場合、結晶化反応初期に、当該3価Feによる5価砒素との結晶化反応が急速に進み、得られるスコロダイトが微細化するという現象を知見している。
さらに本発明者らの検討によれば、上述の2次浸出工程において、当該2次浸出液中の砒素濃度が20g/Lとなるパルプ濃度で浸出した場合、不純物元素の濃度が最大でBi=2,650mg/L、Sb=110mg/L、Pb=270mg/L、Sn=210mg/Lに達する場合のあることを知見している。そして、これらの不純物元素は、スコロダイト結晶化反応時に、その多くが沈積し、スコロダイト結晶粒子の微細化やスコロダイト自体の溶出特性を悪化させる原因であることを知見している。
【0062】
以上の知見より、結晶化元液の好ましい液質は、
(1)当該結晶化元液中に含有されるFeの大半(具体的には90%以上)が2価Feであること。
(2)当該結晶化元液中に含有される不純物濃度の低いこと。具体的には、(Bi+Pb+Sb+Sn)の合計値が500mg/L未満であり、且つ、Pbが100mg/L未満であることである。尚、不純物濃度は、低ければ低い程好ましい。
(3)当該結晶化元液中に含有される砒素において、5価砒素の割合が多いことが好ましい。具体的には、5価砒素と3価砒素との砒素の合計に占める5価砒素の割合が70%以上であることが好ましい。これは、スコロダイトの生成反応が5価砒素によるものであることと、結晶化反応終了時に3価砒素が酸化せずにそのまま残留することを抑制することで、得られるスコロダイトの溶出特性を良好に担保することが出来るからである。
【0063】
(液質調整剤の添加効果)
本発明者らは結晶化元液の作製に際し、5価砒素の3価砒素ヘの還元を抑制しながら、3価Feの2価Feへの還元を可能にする液質調整剤の検討を種々行った。そして、当該検討過程において2次浸出液へ適宜な液質調整剤を添加し、3価Feを2価Feへ還元させて当該液の液電位が低下していく過程において、共存するBi、Pb、Sb、Sn等の不純物類が析出物となり、当該液中から除去できるという画期的な現象を知見した。
【0064】
本発明者等は、上記析出物をX線回折により分析した結果、Biが砒酸ビスマス(BiAsO)となって析出していることが同定された。当該分析結果より、Bi以外のPb、Sb、Sn等の不純物も同様に砒酸化合物として析出し、除去されたものと考えられる。
【0065】
本発明者らは、当該Bi、Pb、Sb、Sn等の不純物類が析出物となり、当該液中から除去できるという現象に関して以下のように推定している。
Biは5価砒素イオン(砒酸イオン)が高濃度で存在する溶液中では、砒酸化合物である砒酸ビスマスを形成するため、Bi溶存濃度がg/Lオーダーでは溶存し得ないものである。すなわち、Biに限らず他重金属類も、Biと同様に、その溶存量の一部あるいは大半が砒酸イオンと、重金属類−砒酸錯イオンを形成し溶存していると考えられる。
そして、これらの重金属類−砒酸錯イオンは、液中に3価Feが含有され液電位が高い場合に安定して存在し得るものと推定される。
しかし、液中に適宜な液質調整剤を添加し、3価Feを2価Feへ還元し液電位が低下していくと、当該重金属類−砒酸錯イオンが壊れ、重金属類−砒酸化合物を形成し沈積していくものと推定している。しかし、実際の反応機構は現在のところ不明である。
【0066】
当該重金属類−砒酸化合物の沈積は、溶液中の3価Feの2価Feへの還元率が80%程度であっても進行する。しかし、より確実に進行させる為には、3価Feの2価Feへの還元率が90〜100%であることが好ましい。
【0067】
(液質調整剤)
液質調整剤としては、金属Fe、脱銅電解スライム、金属Cuの他、硫化亜鉛(ZnS)、亜鉛精鉱等を挙げることが出来る。中でも、金属Feは反応性が高く好ましい。
また脱銅電解スライムは、銅電解精製工場において実施される浄液工程(銅電解液に蓄積する砒素等の不純物を、電解採取により回収する工程)で、Cu、砒素が砒化銅形態等を形成し泥状の金属として電解析出することで発生する殿物である。そして、当該浄液工程は、銅電解精製工場において一般的に採用されている方法である。従って、当該脱銅電解スライムは、電気銅の品質を確保するために必然的に発生する殿物であり、銅電解工場を保有する製錬所であれば無代価で入手が出来ることからコスト的に有利である。
ここで、脱銅電解スライムは、熔錬炉煙灰、硫酸工場排水の処理で発生する硫化殿物と並ぶ、銅製錬における主要な三大砒素含有中間産物の一つである。すなわち、当該脱銅電解スライムを本発明における液質調整剤として用いることで、熔錬煙灰と脱銅電解スライムという、2種の主要な砒素含有中間産物に含有される砒素を、一挙に同時処理し安定なスコロダイトへ転換することを可能とするものである。
【0068】
(液質調整剤の添加操作)
液質調整剤の添加操作について、主な液質調整剤毎に説明する。
(1)金属鉄(Fe)、金属銅(Cu)を使用する場合
当該調整剤の添加量は、当該中和スラリー中に溶存する3価Feの2価Feへの還元に必要な量のみで良い。過剰な添加は、当該中和スラリー中に溶存する5価砒素を3価砒素へ還元するので回避することが好ましい。したがって、当該調整剤の反応性を事前に確認することが重要である。尚、金属鉄としてはFe粉が、金属銅としてはCu粉が、反応性、ハンドリング性の観点から好ましい。
【0069】
一方、金属鉄や金属銅として、安価なFeスクラップやCuスクラップを用いる場合には、別途専用の反応設備を設けることが好ましい。具体的には、FeスクラップやCuスクラップを充填したカラム、または、当該スクラップ類を装入したトロンメル分級機を多段とし、当該中和スラリーを通過させることで、3価Feの2価Feへの還元は達成される。
反応温度は特に制約されるものではなく室温でも良いが、高温(50〜70℃)である程、反応性は向上する。
反応時間は、用いる金属鉄、金属銅の形状(粉体形状、スクラップ状況、等)や反応設備により決定される。反応時間は、当該中和スラリー中に含有される3価Feの90〜100%が2価Feに還元する条件に設定する。
【0070】
尚、1次浸出工程における説明において、調整用元液中のFe含有量が、当該含有砒素をスコロダイトとして生成するに必要な量に満たない場合には、Fe源を添加する旨を説明した。しかしながら、当該液質調整剤としては金属Feを選択することで、1次浸出工程における鉄源の添加量を減量しながら、不足分のFeを供給することも可能である。
【0071】
(2)脱銅電解スライムを使用する場合
脱銅電解スライムの液質調整剤としての添加量は、(1)で説明した金属Feと同様であり、中和スラリー中に溶存する3価Feの2価Feへの還元に必要な量のみで良い。具体的には、当該中和スラリー中の溶存する3価Feの90〜100%を2価Feへ還元する量である。
液質調整剤として脱銅電解スライムを適用する場合における過剰な添加の場合は、当該脱銅電解スライムが未反応のまま中和殿物に入り2次浸出工程へ供給される。このため、2次浸出工程では、当該脱銅電解スライムを溶かし出すために、浸出反応終期にエアレーション等による酸化浸出を行うことが有効である。
【0072】
反応温度は、(1)で説明した金属鉄(Fe)、金属銅(Cu)と同様で、特に制約されるものではなく、室温でも良いが、高温(50〜70℃)程、反応性は向上する。
反応時間は、反応槽の攪拌強度や反応温度により変わるものであるが、当該中和スラリー中に含有される3価Feの90〜100%が2価Feに還元する条件に設定する。
【0073】
脱銅電解スライムを液質調整剤に用いる場合には、液質調整反応時においてCuと伴に3価砒素が溶出し、3価砒素濃度が増加することになる。従って、脱銅電解スライムの添加使用量は、液質調整反応終了時点での5価砒素と3価砒素の砒素合計量に占める3価砒素の割合が、30%を超さないように調整することが好ましい。ここで、脱銅電解スライムのみを使用した液質調整では、当該5価砒素と3価砒素の砒素合計量に占める3価砒素の割合を30%を超さないように調整することが困難な場合は、金属鉄(Fe)等の他の液質調整剤と併用することが好ましい。
【0074】
(3)炭酸ストロンチウムを併用する場合
以上、(1)(2)において、液質調整剤として金属鉄(Fe)、金属銅(Cu)、脱銅電解スライムを使用する場合について説明した。また、液質調整剤として硫化亜鉛、亜鉛精鉱を使用する場合も同様である。
しかしながら2次浸出液のPbの含有量が高い場合、または、Pbが溶出し易い性状の2次浸出液を処理する場合、過剰な酸分の中和剤として用いる1次浸出残渣からのPb溶出量が多い場合、または、これらの場合が重なってしまった場合には、液質調整剤が過剰添加される事態を回避する為に、炭酸ストロンチウムの併用添加が効果的である。
【0075】
炭酸ストロンチウムの添加は、固形分が多量に懸濁する中和スラリーに対しても行うことが出来る。固形分が多量に懸濁する中和スラリーに対する炭酸ストロンチウムの添加の効果は、当該中和スラリーから固形分を除いた濾過液に対して添加する場合の効果に劣るものではなく、有効な方法である。
炭酸ストロンチウムの添加のタイミングは、まず、最初に当該中和スラリーへ液質調整剤を投入し当該反応終了後に炭酸ストロンチウムを添加しても良いが、液質調整剤と炭酸ストロンチウムとを同時に添加することで、反応性がより向上する挙動を示す。
例えば、液質調整剤に金属鉄(Fe粉)を用いて調製した結晶化元液中にPbが102mg/L残留した場合、当該Fe粉添加による液質調整反応終了スラリーへ、炭酸ストロンチウムを当該スラリーに対して0.4g/Lの濃度で添加し1時間攪拌反応させる。すると、Pb濃度は40mg/Lへ低下することを知見した。一方、当該Fe粉と炭酸ストロンチウムとを同時に添加し1時間反応させた場合には、Pb濃度は15mg/Lまで低下することを知見した。
当該反応性が向上する挙動の理由に関し、当該中和スラリーでは液質調整剤の添加直後から漸次、Pb−砒酸錯イオンの破壊と一部再生が進むと考えられるが、炭酸ストロンチウムを同時に共存させることにより、当該Pb−砒酸錯イオンの再生が阻止されPb除去の反応性が向上するものと推定している。しかし、実際の反応機構は現在のところ不明である。いずれにしても、液質調整剤と炭酸ストロンチウムとの同時添加方法は、当該炭酸ストロンチウムの添加量削減と反応時間短縮の観点から有効であると考えられる。
【0076】
炭酸ストロンチウムの併用添加量は、中和スラリー1m当たり数10g〜数100gで良いが、当該添加量は事前に決定しておくことが望ましい。
当該炭酸ストロンチウムの併用添加により、中和スラリー中のPbを確実且つ安定的に基準値内(<100mg/L未満)に仕上げることが出来る。
【0077】
(元液作製工程における操作)
本発明に係る元液作製工程は、2ステージから成る。
第1ステージでは、上述の2次浸出液に1次浸出残渣を添加して過剰な酸分を中和し、当該中和スラリーのpHを0.2〜0.4へ調整するものである。
第1ステージに次いで逐次的に行われる第2ステージでは、当該第1ステージの反応を終了した中和スラリーへ上述の液質調整剤を所定量添加し、3価Feの2価Feへの還元と不純物の沈積による浄液とを行い、最終的にpH値を0.4〜0.9へ調整し元液作製終了スラリーを得るものである。
【0078】
液質調整剤に金属Feや脱銅電解スライム等の金属系調整剤を用いた場合には、中和スラリーのpH値は反応中に自然に上昇するため、アルカリを添加せずとも反応終了時には目標とするpH範囲内の値となる。当該反応は、当該液質調整剤自体の反応性や反応設備により異なるが、20分間から1時間以内に完了する。
また、反応温度は室温でも良いが、液質調整剤として金属鉄(Fe)、金属銅(Cu)、および脱銅電解スライムを用いた場合には、発熱反応を伴うため、最終液温が40〜50℃まで上昇する場合がある。
以上の操作により得られた最終反応が終了した元液作製終了スラリーを濾過へ供じ、結晶化元液と、中和殿物とを得る。
【0079】
(結晶化元液)
得られた結晶化元液は、スコロダイトの性状に悪影響を及ぼす不純物元素が低減された砒素溶液であり、且つ、含有されるFeのほぼ100%が2価Feに整えられている。従って、当該結晶化元液は、直接にスコロダイト結晶化生成反応に供ずることが出来る。
【0080】
(中和殿物)
元液作製工程で回収される中和殿物には、溶解可能な砒素が含まれている。そこで、当該中和殿物は、2次浸出工程へ送り高温強酸浸出にて当該砒素の浸出を完結させることが好ましい。
【0081】
[5]結晶化工程
本発明に係る結晶化工程は、元液作製工程で得られた結晶化元液中の砒素をスコロダイトの結晶へ転換し、スコロダイトと結晶化後液とを得る工程である。
以下、結晶化工程における操作、スコロダイト、結晶化後液の順に説明する。
【0082】
(結晶化工程における操作)
具体的には、当該元液へ80℃以上、好ましくは95℃恒温の大気圧下で、空気または酸素または空気と酸素との混合ガスを吹き込み酸化反応を行いスコロダイトの生成反応終了後のスラリーを得るものである。尚、当該結晶化元液にはCuが共存しており、当該元素は酸化の触媒として機能するため、ガス吹き込みの前半に空気を用い、後半に酸素を用いることも出来る。
6〜9時間の反応時間で、溶出特性に優れたスコロダイトが生成される。当該生成反応終了後のスラリーを濾過することで、スコロダイトと結晶化後液とを得る。
【0083】
(スコロダイト)
得られたスコロダイトは、pH値が3〜5で最も安定であり、このため酸性雨等の影響を受けることなく大気雰囲気下で安定的に貯蔵が出来るものである。
すなわち、当該スコロダイトは、砒素の長期保管には最も優れた物質である。
【0084】
(結晶化後液)
得られた結晶化後液には、砒素が0.5g/L〜1.5g/L、Feが10g/L〜15g/L、Cuが数g/L〜20g/L、Znが数g/L含まれているので、排水処理工程へ送りこれら金属の分離回収を行う。
例えば、当該排水処理工程の一例として、先ず、炭酸カルシウムを添加し、pH値を1前後とする中和を行い、石膏を回収する。当該回収された石膏は水洗して付着液分を除いた後、洗浄石膏として回収する。ついで、炭酸カルシウムを添加し、pH値を3.5前後とする中和し砒素含有殿物を回収する。当該回収された砒素殿物は熔錬炉へ繰り返し、再度煙灰として回収することが出来る。一方、砒素が回収された後の液にはCu、Fe、Zn等が含まれているので、銅回収工程へ供給することが出来、また1次浸出工程へ用水として繰り返す事も出来る。すなわち、構成は種々可能である。
【実施例】
【0085】
以下、実施例を参照しながら本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
[製錬煙灰]
本実施例における処理対象の製錬煙灰の組成を表3に示す。尚、当該実施例1に係る煙灰は、含有されるCu、Cd等が難溶性挙動を示したため、予備浸出処理の必要な煙灰であると判断された。
【0086】
【表3】
【0087】
[1]一次浸出工程
煙灰200kgへ、200Lの用水を添加してスラリーとした後、75%硫酸を添加してpH値を0.10(50℃)に調整し、1時間浸出を行った。反応終了後に、当該スラリーへFe源としてポリ硫酸第二鉄溶液(3価Feを11質量%以上含有するFe溶液)26.1kgを添加し、不足するFeを補った後、さらに用水200Lを添加してスラリー濃度を下げた。続いて濃度200g/LのCa(OH)ミルクを添加し、pH値を2.2(40℃)に調整した。その後、当該スラリーへ35%過酸化水素水を添加し、当該スラリーの液電位を550mV(vs;Ag/AgCl)超とし、3価砒素及び2価Feの酸化反応を行った。
尚、添加した35%過酸化水素水の量は5.9kgであり、添加時間は約10分間であった。
酸化反応後のスラリーを、フィルタープレスを用いて固液分離し、1次浸出液を回収した。さらにフィルタープレス内の残渣は通水洗浄し、1次浸出残渣と1次洗浄水を回収した。
当該1次浸出工程の操作は計6回行い、合計で1,601kg・wet(平均水分値が35.8質量%)の1次浸出残渣を回収した。回収した1次浸出残渣は、2次浸出工程以降の試験に供ずることとした。
発生した1次浸出液の平均組成を表4に、回収した1次浸出残渣の平均組成を表5に示した。
【0088】
【表4】
【表5】
【0089】
[3(1)]2次浸出工程(1回目のバッチ)
実施例1に係る1回目のバッチに係る2次浸出工程においては、1次浸出工程で得られた1次浸出残渣220kg・wetへ用水140Lを添加してスラリーとし、75%硫酸添加によりpH値を0.11(75℃)に調整した後、圧力0.5MPaの飽和蒸気を直接吹き込みながら当該温度を維持し1時間浸出した。浸出後のスラリーはフィルタープレスによって固液分離して2次浸出液を回収し、さらに通水洗浄した後、2次浸出残渣と2次洗浄水を回収した。
【0090】
[4(1)]元液作製工程(1回目のバッチ)
1回目のバッチに係る元液作製工程においては、1回目のバッチに係る2次浸出工程で得られた2次浸出液を用いた。当該2次浸出液270Lへ1次浸出残渣を添加し、40分間攪拌して過剰な酸分の中和を行い、当該中和スラリーのpH値を0.24(29℃)に調整した。この時点での当該中和スラリーの液電位は445mV(vs;Ag/AgCl電極)であった。
続いて、当該中和スラリーへ液質調整剤として工業用Fe粉6.7kgを添加して、30分間反応させ、1回目のバッチに係る元液作製工程を終了した。この時点でのスラリーは、pH値が0.69(40℃)、液電位が180mV(vs;Ag/AgCl)であった。
元液作製工程後のスラリーは、フィルタープレスによって固液分離して結晶化元液を回収し、さらにフィルタープレスを通水洗浄して、中和殿物と通水洗浄水を回収した。
【0091】
[3(2)]2次浸出工程(2回目のバッチ前半)
2回目のバッチに係る2次浸出工程の前半においては、1回目のバッチに係る元液作製工程で得られた中和殿物を処理対象とした2次浸出を行った。すなわち、当該中和殿物100kg・wet(水分が24質量%)を量り取り、これに用水90Lを加えてスラリーとし、75%硫酸添加によりpH値を0.10(75℃)に調整した後、圧力0.5MPaの飽和蒸気を直接吹き込みながら当該温度を維持し1時間浸出した。
浸出後のスラリーはフィルタープレスによって固液分離して、前半に係る2次浸出液を回収し、さらにフィルタープレスへ通水洗浄した後、前半に係る2次浸出残渣と2次洗浄水とを回収した。回収された2次浸出残渣は83kg・wet(水分が23質量%)であり、砒素が2.8質量%、Cuが2.6質量%、Feが3.2質量%含有されるものであった。尚、当該2次浸出残渣は、上述した2次浸出工程における被浸出物が、元液作製工程で生成した中和殿物となった時点、即ち、工程が定常状態となった時点におけるものである。
【0092】
[3(2)]2次浸出工程(2回目のバッチ後半)
2回目のバッチに係る2次浸出工程の後半においては、上記前半部で得られた2次浸出液160Lを用水として2次浸出工程へ繰り返し、1次浸出残渣190kg・wetを添加し、さらに75%硫酸添加によりpH値を0.16(75℃)に調整した後、圧力0.5MPaの飽和蒸気を直接吹き込みながら当該温度を維持し1時間浸出した。2次浸出後のスラリーはフィルタープレスによって固液分離して、後半部に係る2次浸出液を回収し、さらにフィルタープレスへ通水洗浄した後、後半部に係る2次浸出残渣と2次洗浄水を回収した。尚、当該2次浸出液中の砒素濃度は23.8g/Lであった。
【0093】
[4(2)]元液作製工程(2回目のバッチ)
2回目のバッチに係る元液作製工程では、2次浸出工程の後半部で得られた2次浸出液を用いた。当該2次浸出液255Lへ1次浸出残渣を添加し、40分間攪拌して過剰な酸分の中和を行い、当該中和スラリーのpH値を0.21(37℃)に調整した。この時点での当該スラリーの液電位は439mV(vs;Ag/AgCl電極)であった。ここで少量サンプリングをおこなった。当該サンプルの後の分析結果より、当該スラリーには、Pbが270mg/L、Biが910mg/L溶存し、且つ、2価Feが、全Fe濃度(2価Feと3価Feの合計濃度)に占める割合が、41%であることが判明した。
続いて、工業用Fe粉5.0kgを添加して35分間反応させ、還元浄液反応を終了した。この時点でのスラリーは、pH値が0.41(41℃)、液電位が230mV(vs;Ag/AgCl)であった。
2回目のバッチに係る元液作製工程後のスラリーを、フィルタープレスによって固液分離して2回目のバッチに係る結晶化元液を回収し、さらにフィルタープレスへ通水洗浄した後、2回目のバッチに係る中和殿物と通水洗浄水を回収した。
得られた結晶化元液の組成を表6に示した。尚、結晶化元液における2価Feが、全Fe濃度(2価Feと3価Feの合計濃度)に占める割合は92%であった。
【0094】
【表6】
【0095】
[5]結晶化工程
ここでは、工程が定常状態に入ってから産出された結晶化元液を用い、当該結晶化元液のスコロダイトへの結晶化工程の例を示す。
当該結晶化工程では、2回目のバッチに係る元液作製工程で得られた結晶化元液287Lを、撹拌手段を有する槽に充填し95℃に加温した。
液温が95℃に到達した時点を反応開始時とし、槽底から酸素ガスを30L/分のペースで吹き込みを開始した。
ここで攪拌は、気液混合が十分担保される強度とし、当該条件にて9時間時点まで反応を行った。尚、結晶化工程終了時のpH値は0.23(95℃)であり、結晶化後液中の砒素濃度は0.70g/Lであった。
【0096】
結晶化工程後のスラリーをフィルタープレスによって固液分離し、スコロダイトを得た。得られたスコロダイトに対し、洗浄槽を用いて600Lの用水によるリパルプ洗浄を1時間行った。
当該洗浄後のスコロダイトをフィルタープレスによって固液分離し、洗浄後のスコロダイトを回収した。
【0097】
以上の操作で回収したスコロダイトは、32.2kg・wet(水分20.5質量%)であった。そして当該回収したスコロダイトの一部を、溶出試験および組成分析へ供じた。
【0098】
得られた実施例1に係るスコロダイトは、平均粒子径が3.7μmであり、濾過性は良好であった。さらに、当該スコロダイトを米国環境保護庁(EPA)が定めるTCLP溶出試験に供じた結果、砒素のみならず規定される全ての重金属において基準値を満足するものであった。
【0099】
得られたスコロダイトの平均粒子径、組成と含有水分値を表7に示し、TCLP溶出試験の基準値と実施例1に係るスコロダイトの溶出試験の評価結果とを表8に示す。
【0100】
【表7】
【表8】
【0101】
製錬煙灰中に含有される砒素量、およびCu量を100%とした場合の、工程フローが定常状態となった場合の砒素の分配において、製錬煙灰中砒素の62.3%をスコロダイトとして回収可能であることが判明した。これは、当該製錬煙灰の浸出可能な砒素の約96%をスコロダイトへ転換できることを意味するものである。
【0102】
さらに、Cuの1次浸出液への分配は、実施例1においては74.3%であり、予備浸出を行わない場合と比べ約30ポイント向上した。すなわち1次浸出工程におけるCuの浸出率が向上したためであり、これには予備浸出の採用が大きく寄与したものと考えられる。一方、製錬煙灰中Cuについては、その74%をCu濃度の高い1次浸出液として回収可能である。
【0103】
(実施例2)
実施例2においては、元液作製工程において液質調整剤をFe粉から脱銅電解スライムへ代替した。当該脱銅電解スライムの組成を表9に示す。尚、当該脱銅電解スライムの含有水分値は9.7質量%であった。
【0104】
【表9】
【0105】
[1]1次浸出工程
実施例1と同様の煙灰を用い、実施例1と同様の操作を実施した。
【0106】
[3]2次浸出工程(1回目のバッチ)
実施例2に係る1回目のバッチに係る2次浸出工程では、1次浸出工程で得られた1次残渣220kg・wetへ用水140Lを加えてスラリーとし、75%硫酸添加によりpH値を0.21(73℃)に調整した後、圧力0.5MPaの飽和蒸気を直接吹き込みながら当該温度を維持し1時間浸出した。浸出後のスラリーはフィルタープレスによって固液分離して2次浸出液を回収し、さらに通水洗浄した後、2次浸出残渣と2次洗浄水を回収した。
【0107】
[4]元液作製工程(1回目のバッチ)
1回目のバッチに係る元液作製工程においては、2次浸出工程で得られた2次浸出液を用いた。当該2次浸出液280Lへ1次浸出残渣を添加し50分間攪拌し過剰な酸分の中和を行い、当該中和スラリーのpH値を0.24(27℃)に調整した。この時点での当該スラリーの液電位は451mV(vs;Ag/AgCl)であった。ここで少量サンプリングした。当該サンプルの後の分析結果より、当該スラリーには、Pbが285mg/L、Biが1,010mg/L溶存し、且つ、2価Feが、全Fe濃度(2価Feと3価Feの合計濃度)に占める割合は25%であることが判明した。
続いて当該中和スラリーへ脱銅電解スライム8.0kg・wetを添加して25分間反応させ、元液作製工程を終了した。この時点でのスラリーのpH値は0.39(28℃)、液電位は264mV(vs;Ag/AgCl)であった。
反応後のスラリーはフィルタープレスによって固液分離して結晶化元液を回収し、さらに通水洗浄した後、中和殿物と通水洗浄水を回収した。
得られた結晶化元液の組成を表10に示した。尚、結晶化元液における2価Feが、全Fe濃度(2価Feと3価Feの合計濃度)に占める割合はほぼ100%であった。
【0108】
【表10】
【0109】
[3(2)]2次浸出工程(2回目のバッチ前半)
2回目のバッチに係る2次浸出工程の前半においては、1回目のバッチに係る元液作製で得られた中和殿物を処理対象とした2次浸出を行った。すなわち、当該中和殿物110kg・wet(水分28質量%)を量り取り、ここへ用水90Lを加えてスラリーとし、75%硫酸添加によりpH値を0.10(74℃)に調整した後、圧力0.5MPaの飽和蒸気を直接吹き込みながら当該温度を維持し1時間浸出を行った。浸出後のスラリーはフィルタープレスによって固液分離して、前半に係る2次浸出液を回収し、さらにフィルタープレスへ通水洗浄した後、前半に係る2次浸出残渣と2次洗浄水を回収した。尚、回収した2次浸出残渣は85kg・wet(水分23.5質量%)であり、砒素が2.9質量%、Cuが3.0質量%、Feが4.6質量%含有されるものであった。尚、当該2次浸出残渣は、上述した2次浸出工程における被浸出物が、元液作製工程で生成した中和殿物となった時点、即ち、工程が定常状態となった時点におけるものである。
【0110】
[3(2)]2次浸出工程(2回目のバッチ後半)
2回目のバッチに係る2次浸出工程の後半においては、上記前半部で得られた2次浸出液160Lを用水として2次浸出工程へ繰り返し、1次浸出残渣190kg・wetを添加し、さらに75%硫酸添加によりpH値を0.26(73℃)に調整した後、圧力0.5MPaの飽和蒸気を吹き込みながら当該温度を維持し1時間浸出した。2次浸出後のスラリーはフィルタープレスによって固液分離して、後半部に係る2次浸出液を回収し、さらにフィルタープレスへ通水洗浄した後、後半部に係る2次浸出残渣と2次洗浄水を回収した。尚、当該2次浸出液中の砒素濃度は25.0g/Lであった。
【0111】
[4(2)]元液作製工程(2回目のバッチ)
2回目のバッチに係る元液作製工程では、2次浸出工程の後半部で得られた2次浸出液を用いた。当該2次浸出液250Lへ1次浸出残渣を添加し45分間攪拌し過剰な酸分の中和を行い、当該中和スラリーのpH値を0.26(35℃)に調整した。この時点の当該スラリーの液電位は432mV(vs;Ag/AgCl)であった。ここで少量サンプリングした。当該サンプルの分析結果より、当該スラリーには、Pbが445mg/L、Biが930mg/L溶存し、且つ、2価Feが、全Fe濃度(2価Feと3価Feの合計濃度)に占める割合は40%であることが判明した。
続いて脱銅電解スライム12.3kg・wetを添加して80分間反応させ、還元浄液反応を終了した。この時点でのスラリーは、pH値が0.60(34℃)、液電位が187mV(vs;Ag/AgCl)であった。
2回目のバッチに係る元液作製工程後のスラリーは、フィルタープレスによって固液分離して2回目のバッチに係る結晶化元液を回収し、さらにフィルタープレスへ通水洗浄した後、2回目のバッチに係る中和殿物と通水洗浄水を回収した。
【0112】
得られた結晶化元液の組成を表11に示した。尚、結晶化元液における2価Feが、全Fe濃度(2価Feと3価Feの合計濃度)に占める割合はほぼ100%であった。
【0113】
【表11】
【0114】
[5]結晶化工程(1回目バッチ)
当該結晶化工程では、1回目のバッチに係る元液作製工程で得られた結晶化元液311Lを、撹拌手段を有する槽に充填し、さらに工業用硫酸第一鉄19.0kgを添加し溶解し、95℃に加温した。
次いで、95℃に到達した時点を反応開始時とし、槽底から酸素ガスを30L/分のペースで吹き込みを開始した。当該吹き込みによる攪拌は、気液混合が十分保証される強度とし、当該条件にて9時間時点まで反応を行った。尚、結晶化工程終了時のpH値は0.27(95℃)であり、結晶化後液中の砒素濃度は0.65g/Lであった。
【0115】
結晶化工程後のスラリーをフィルタープレスによって固液分離し、スコロダイトを得た。得られたスコロダイトに対し、洗浄槽を用いて600Lの用水によるリパルプ洗浄を1時間行った。
当該洗浄後のスコロダイトをフィルタープレスによって固液分離し、1回目バッチの洗浄後のスコロダイトを回収した。
【0116】
以上の操作で回収したスコロダイトは、36.6kg・wet(水分22.5質量%)であった。そして当該回収したスコロダイトの一部を、溶出試験および組成分析へ供じた。
【0117】
得られたスコロダイトの平均粒子径、組成と含有水分値を表12に示し、TCLP溶出試験の基準値と、実施例2に係るスコロダイトの評価結果とを表13に示す。
【0118】
[5]結晶化工程(2回目バッチ)
結晶化工程では、2回目のバッチに係る元液作製工程で得られた結晶化元液267Lへ、工業用硫酸第一鉄20.2kg、および、前回の1回目バッチで得られたスコロダイト6.9kg・wetを種晶として添加した。
次いで95℃に加温し、95℃に到達した時点を反応開始時とし、槽底から酸素ガスを30L/分のペースで吹き込みを開始した。
当該吹き込みによる攪拌は、気液混合が十分担保される強度とし、当該条件にて9時間時点まで反応を行った。尚、結晶化工程終了時のpH値は0.21(95℃)であり、結晶化後液中の砒素濃度は0.55g/Lであった。
【0119】
結晶化工程後のスラリーをフィルタープレスによって固液分離し、スコロダイトを得た。得られたスコロダイトに対し、洗浄槽を用いて600Lの用水によるリパルプ洗浄を1時間行った。
当該洗浄後のスコロダイトをフィルタープレスによって固液分離し、2回目バッチに係る洗浄後のスコロダイトを回収した。
【0120】
以上の操作で回収したスコロダイトは、45.1kg・wet(水分19.5質量%)であった。そして当該回収したスコロダイトの一部を、溶出試験および組成分析へ供じた。
得られたスコロダイトの平均粒子径、組成と含有水分値を表12に示し、そして、TCLP溶出試験の基準値と実施例2に係るスコロダイトの評価結果とを表13に示す。
【0121】
[結晶化1バッチ目で得られたスコロダイトと、2バッチ目で得られたスコロダイトとの比較]
上述したように、結晶化1バッチ目と2バッチ目との両バッチで得られたスコロダイトを、米国環境保護庁(EPA)が定めるTCLP溶出試験に供じた結果、両バッチで得られたスコロダイト共、砒素のみならず規定される全ての重金属において基準値を満足するものであることが判明した。
さらに、種晶を添加した2回目バッチで得られたスコロダイトは平均粒子径が8.8μmであり、1回目バッチで得られたスコロダイトと比較して2倍近く肥大化されている事が判明した。
【0122】
【表12】
【表13】
【0123】
[2回目のバッチに係る製錬煙灰処理]
当初の製錬煙灰および脱銅電解スライム中に含有されていた砒素の総量を100%としたとき、上述した2次浸出工程における被浸出物が、元液作製工程で生成した中和殿物となった時点、即ち、工程が定常状態となった時点における砒素の分配に関しては、69%の砒素をスコロダイトとして回収可能であることが判明した。これは、当該製錬煙灰および脱銅電解スライムから浸出可能な砒素の、約98%をスコロダイトへ転換できることを意味するものである。
一方、Cuについては、1次浸出液と結晶化後液として合計88%が回収可能である。
尚、当該製錬煙灰と脱銅電解スライムと用いた本処理方法においては、当該製錬煙灰1tにつき、当該脱銅電解スライム約50kg・wetの処理が可能となる。
図1