(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
複数の鉄心片を積層して構成され、表面にカルプレートが配置された積層鉄心本体を、樹脂注入型と受け型で挟持し、前記積層鉄心本体の積層方向に形成された樹脂充填部に、前記樹脂注入型から前記カルプレートを介して樹脂を注入した後、前記樹脂充填部に充填された前記樹脂を硬化させる積層鉄心の製造方法において、
予熱した前記カルプレートを前記積層鉄心本体の表面に配置し、しかも、前記積層鉄心本体が、前記カルプレートよりも低い温度に予熱されて、前記樹脂を前記樹脂充填部に注入することを特徴とする積層鉄心の製造方法。
複数の鉄心片を積層して構成され、表面にカルプレートが配置された積層鉄心本体を、樹脂注入型と受け型で挟持し、前記積層鉄心本体の積層方向に形成された樹脂充填部に、前記樹脂注入型から前記カルプレートを介して樹脂を注入した後、前記樹脂充填部に充填された前記樹脂を硬化させる積層鉄心の製造方法において、
予熱した前記カルプレートを前記積層鉄心本体の表面に配置し、しかも、前記樹脂充填部が、前記積層鉄心本体よりも高い温度に局所的に予熱されて、前記樹脂を前記樹脂充填部に注入することを特徴とする積層鉄心の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記したように、挿入孔への樹脂の注入に際し、積層鉄心本体の全体を予め樹脂注入温度まで加熱(予熱)する場合、積層鉄心本体を昇温させるために時間を要し、また、昇温のための熱量も増大する。このため、製造コストの増大を招いていた。
なお、昇温時間の問題を解消するため、例えば、一度に多数の積層鉄心本体を予熱可能な容積を備える設備を使用することも考えられるが、この場合、設備コストがかかるという問題がある。更に、樹脂を充填した後に積層鉄心本体を冷却する必要があるのだが、積層鉄心本体や、例えば、これを載置し搬送する搬送治具も高温となっているため、それらの冷却にも時間を要し、積層鉄心の生産効率が低下する。
【0005】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、積層鉄心を従来よりも低コストで効率よく製造可能な積層鉄心の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的に沿う本発明に係る積層鉄心の製造方法は、複数の鉄心片を積層して構成され、表面にカルプレートが配置された積層鉄心本体を、樹脂注入型と受け型で挟持し、前記積層鉄心本体の積層方向に形成された樹脂充填部に、前記樹脂注入型から前記カルプレートを介して樹脂を注入した後、前記樹脂充填部に充填された前記樹脂を硬化させる積層鉄心の製造方法において、
予熱した前記カルプレートを前記積層鉄心本体の表面に配置し、前記樹脂を前記樹脂充填部に注入する。
【0007】
本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記積層鉄心は回転子であり、前記樹脂充填部は、前記積層鉄心本体に設けられた永久磁石の挿入孔とすることができる。
【0008】
本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記積層鉄心は固定子又は回転子であり、前記樹脂充填部は、貫通孔及び凹部の少なくとも一方からなり、積層された前記鉄心片同士を結合する結合部とすることができる。
【0009】
本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記積層鉄心本体が、前記カルプレートよりも低い温度に予熱されていることが好ましい。
【0010】
本発明に係る積層鉄心の製造方法において、前記樹脂充填部が、前記積層鉄心本体よりも高い温度に局所的に予熱されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る積層鉄心の製造方法は、積層鉄心本体の表面に配置するカルプレートを予熱するので、従来のように積層鉄心本体の全体を樹脂注入温度まで予熱するための時間や熱量、また、大型の設備が不要となり、更には、樹脂充填後の積層鉄心本体の冷却時間を短縮できる。
従って、積層鉄心を、従来よりも低コストで効率よく製造できる。
【0012】
特に、積層鉄心本体を従来よりも低い樹脂注入温度、即ち、カルプレートよりも低い温度まで予熱したり、樹脂充填部を積層鉄心本体よりも高い温度で局所的に予熱した場合には、上記効果に加え、樹脂充填部へ安定した樹脂の注入ができる。
【0013】
なお、樹脂として熱硬化性樹脂を使用する場合、予熱されたカルプレートにより、例えば、タブレット状の熱硬化性樹脂の原料を溶融(液状に)できるため、熱硬化性樹脂の樹脂充填部への注入作業を、スムーズに実施できる。
また、樹脂として熱可塑性樹脂を使用する場合、樹脂注入型からカルプレートを介して樹脂充填部に注入する熱可塑性樹脂の流動性を維持できるため、熱可塑性樹脂の樹脂充填部への注入作業を、スムーズに実施できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
まず、本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造方法を適用して製造する積層鉄心について説明する。
この積層鉄心には、
図1(C)に示す回転子積層鉄心(ロータ)10と、
図2(A)、(B)に示す固定子積層鉄心(ステータ)30、35がある。
【0016】
図1(C)に示す回転子積層鉄心10は、環状の鉄心片11を順次積層して形成される積層鉄心本体12を有する。なお、積層鉄心本体12を構成する1層の環状の鉄心片11は、周方向に連結部が設けられていない一体構造のものであるが、円弧状の鉄心片部を環状に連結できる分割構造のものでもよい。
この積層方向に隣り合う鉄心片11同士は、例えば、かしめや溶接を用いて結合しているが、回転子積層鉄心の積層方向に形成された樹脂充填部の一例である結合部(図示しない)に、樹脂を充填して結合することもできる。この結合部は、回転子積層鉄心の径方向内側及び/又は径方向外側に形成された凹部や貫通孔の少なくとも一方で構成できる。
このように、結合に樹脂を使用する場合、結合部での層間短絡がなくなることで、回転子積層鉄心の磁気的特性を向上できる。
なお、結合には、かしめ、溶接、及び樹脂のいずれか2以上を併用することもできる。
【0017】
積層鉄心本体12の中央には、軸孔(シャフト孔)13が形成され、この軸孔13を中心としてその周囲に、積層鉄心本体12の積層方向に形成された貫通孔からなる永久磁石14の挿入孔(樹脂充填部の一例)15が複数形成されている。なお、軸孔13には、内側に突出する図示しないキー(凸条)が設けられ、積層鉄心本体12に形成された挿入孔15の位置(即ち、角度)を特定できるようになっている。
各挿入孔15に挿入された永久磁石14は、充填した樹脂16により、各挿入孔15内に固定されている。
上記した結合部に充填する樹脂や、挿入孔15に充填する樹脂16には、熱硬化性樹脂(例えば、エポキシ樹脂)を使用できるが、熱可塑性樹脂でもよい。
【0018】
図2(A)に示す固定子積層鉄心30は、環状の鉄心片31を順次積層して形成される積層鉄心本体32を有する。なお、積層鉄心本体32を構成する1層の環状の鉄心片31は、周方向に連結部が設けられていない一体構造のものでもよく、また、円弧状の鉄心片部を環状に連結できる分割構造のものでもよい。
この積層方向に隣り合う鉄心片31同士は、固定子積層鉄心30の積層方向に形成された貫通孔からなる結合部(樹脂充填部の一例)33に、樹脂34を充填して結合している。この結合部33は、積層鉄心本体32の周方向に等ピッチで、複数形成されている。
【0019】
なお、結合部の構成は、これに限定されるものではなく、例えば、
図2(B)に示す固定子積層鉄心35のように、環状の鉄心片36を順次積層して形成される積層鉄心本体37を有し、固定子積層鉄心35の積層方向に形成された凹部からなる結合部(樹脂充填部の一例)38でもよい。この凹部からなる結合部38は、積層鉄心本体37の周方向に等ピッチで、複数形成されている。また、凹部は、回転子積層鉄心35の径方向外側に形成しているが、径方向内側に形成することもでき、更には、径方向外側と径方向内側の双方に形成することもできる。
このように、結合に樹脂(熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂)を使用した場合、結合部での層間短絡がなくなるので、固定子積層鉄心の磁気的特性を向上できる。
上記した結合には、更に、かしめ及び溶接のいずれか一方又は双方を併用することもできる。
【0020】
続いて、本発明の一実施の形態に係る積層鉄心の製造方法を適用した回転子積層鉄心10の製造方法について、
図1(A)〜(C)を参照しながら説明する。
まず、厚みが、例えば、0.15〜0.5mm程度の電磁鋼板からなる条材から、複数の鉄心片11を打ち抜く。そして、予め設定した枚数積層することで、積層鉄心本体12を製造する。
ここで、複数の鉄心片11の積層方法には、前記した、かしめ、溶接、及び樹脂のいずれか1を使用することも、また、いずれか2以上を併用することもできる。なお、樹脂を使用する場合は、上記した積層鉄心本体12の積層方向に、結合部となる貫通孔及び凹部のいずれか一方又は双方を形成しておく。
【0021】
次に、このように構成した積層鉄心本体12の各挿入孔15に、挿入孔15よりも断面が小さい未着磁の永久磁石14を挿入する。なお、各挿入孔15には、着磁済みの永久磁石を挿入してもよい。
この積層鉄心本体12は、
図1(B)に示す搬送治具17に載置され、コンベア等の搬送手段(図示しない)により、下流側へ搬送される。なお、搬送治具17は、積層鉄心本体12を載置する台板18と、この台板18の中央に立設され、積層鉄心本体12の軸孔13に挿入(嵌入)可能な軸部(シャフト)19とを有しており、軸部19には、軸孔13のキーに符合するキー溝(図示しない)が設けられている。なお、搬送治具は、積層鉄心本体12を載置できれば、上記構成に限定されるものではない。
【0022】
そして、
図1(A)に示す、樹脂注入温度まで予め加熱(予熱)された金属製のカルプレート20を、
図1(B)に示すように、搬送治具17に載置され、永久磁石14が挿入された積層鉄心本体12の表面に配置する。
ここで、カルプレート20は、使用する樹脂の種類等に応じて、例えば、150〜170℃程度に、予め加熱されている。なお、加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、気体(熱風)やヒータ等を使用できる。
また、上記した積層鉄心本体12も、カルプレート20よりも低い温度、例えば、60〜100℃に予熱されていてもよく、挿入孔15も、積層鉄心本体12よりも高い温度(例えば、カルプレート20と同程度の温度)に局所的に予熱されていてもよい。このように、積層鉄心本体12又は挿入孔15を予熱しておくことで、樹脂の流動性を維持でき、安定した樹脂の注入ができる。
なお、挿入孔15の予熱は、永久磁石14の挿入前でもよく、また、挿入後でもよい。
【0023】
上記したカルプレート20は、平面視して矩形(正方形又は長方形)又は円形となっており、その大きさは、積層鉄心本体12の外径より大きく、周縁が、積層鉄心本体12の外側に突出している。
このカルプレート20の中央には、積層鉄心本体12の軸孔13と同径の貫通した孔21が形成され、この孔21には、内側に突出する図示しないキー(凸条)が設けられている。また、カルプレート20には、樹脂流路22と、これに連通する樹脂注入孔23が形成されている。この樹脂注入孔23の数は、1つの樹脂流路22に対して、1個としているが、それぞれ別の挿入孔15に連通する2以上の複数個でもよい。
【0024】
これにより、搬送治具17の軸部19を、積層鉄心本体12の軸孔13とカルプレート20の孔21に挿入(嵌入)することで、積層鉄心本体12に対するカルプレート20の位置決めができる。なお、この位置決めは、カルプレート20の樹脂注入孔23が、積層鉄心本体12の挿入孔15の位置と対応するように行われている。
また、積層鉄心本体12に結合部となる貫通孔や凹部を形成した場合は、この結合部の位置に対応して、この結合部と前記した樹脂流路に連通する樹脂注入孔を、カルプレートに形成することができる。しかし、前記した樹脂流路とは独立した別の樹脂流路と、この樹脂流路と結合部を連通する樹脂注入孔を、カルプレートに形成することもできる。
【0025】
上記したように、搬送治具17に載置され、表面にカルプレート20が配置された積層鉄心本体12を、
図1(C)に示すように、樹脂注入型24と受け型25で挟持する。
この樹脂注入型24には、タブレット状の樹脂16を装入する樹脂溜めポット26と、この樹脂溜めポット26内を上下方向に昇降可能なプランジャー(図示しない)とが設けられている。なお、樹脂溜めポット26は、各挿入孔15に樹脂16を充填するためのものであるが、各結合部に樹脂を充填するために使用することもでき、また、各結合部に樹脂を充填するため、樹脂注入型に別途樹脂溜めポットを設けることもできる。
また、樹脂注入型24の中央部には、搬送治具17の軸部19の先端部が嵌入する逃げ部27が形成されている。
受け型25には、搬送治具17の台板18に符合する位置決めピン(図示しない)が設けられている。
なお、結合部となる凹部に樹脂を充填する場合には、凹部の開放側にポールやプレート等の堰を設ける。
【0026】
これにより、樹脂溜めポット26内の樹脂16を、樹脂溜めポット26内で加熱して、又は、カルプレート20の熱で加熱して、液状にした後、プランジャーによって樹脂溜めポット26内から押し出すことができる。
この押し出された液状の樹脂16は、樹脂溜めポット26の下流側端部に連通し、樹脂注入型24の下部表面とカルプレート20の上部表面との間に形成された樹脂流路22を通り、樹脂注入孔23を介して、最終的に挿入孔15に注入され、充填される。なお、積層鉄心本体12に結合部を形成した場合は、樹脂溜めポット26内(又は別途設けた樹脂溜めポット内)から押し出された液状の樹脂が、樹脂流路と樹脂注入孔を介して、結合部に注入され、充填される。
【0027】
上記した方法により、各挿入孔15内に、液状の樹脂16を充填した後は、樹脂16を硬化させて、挿入孔15内に永久磁石14を固定する。また、結合部に、液状の樹脂を充填した後は、樹脂を硬化させて、積層方向に隣り合う鉄心片11同士を結合する。
【0028】
以上の方法により、回転子積層鉄心10を製造した後は、樹脂注入型24と受け型25を取り外し、更に、カルプレート20と搬送治具17を取り外して使用する。
このように、カルプレート20を使用することによって、不要な樹脂をカルプレート20と共に、積層鉄心本体12から除去できる。
なお、使用にあっては、永久磁石14を着磁し、回転子積層鉄心10の軸孔13に軸(シャフト)を挿通する。
【0029】
続いて、本発明の他の実施の形態に係る積層鉄心の製造方法を適用した固定子積層鉄心30(固定子積層鉄心35も同様)の製造方法について、
図2(A)を参照しながら説明するが、この製造方法は、前記した回転子積層鉄心10の製造方法と略同様の方法であるので、以下、簡単に説明する。
まず、厚みが、例えば、0.15〜0.5mm程度の電磁鋼板からなる条材から、複数の鉄心片31(鉄心片36も同様)を打ち抜く。そして、予め設定した枚数積層することで、積層鉄心本体32(積層鉄心本体37も同様)を製造する。
ここで、複数の鉄心片31の積層には、樹脂34を使用するため、上記した積層鉄心本体32の積層方向に、貫通孔からなる結合部33(凹部からなる結合部38も同様)を形成しておく。なお、積層には、前記したかしめ及び/又は溶接を併用することもできる。
【0030】
そして、予め加熱(予熱)された金属製のカルプレートを、積層鉄心本体32の表面に配置する(
図1(A)、(B)参照)。なお、カルプレートには、樹脂流路と、これに連通する樹脂注入孔が形成されており、この樹脂注入孔の数は、1つの樹脂流路に対して、1個としているが、それぞれ別の結合部に連通する2以上の複数個でもよい。また、積層鉄心本体32にカルプレートを載置するに際しては、積層鉄心本体32に対するカルプレートの位置決めができるように、例えば、搬送治具を使用できる。
ここで、カルプレートは、使用する樹脂34の種類等に応じて、例えば、150〜170℃程度に、予め加熱されている。なお、加熱方法は、特に限定されるものではなく、例えば、気体(熱風)やヒータ等を使用できる。
また、前記した回転子積層鉄心10のときと同様、積層鉄心本体32をカルプレートよりも低い温度に予熱しておいてもよく、結合部33を積層鉄心本体32よりも高い温度に局所的に予熱しておいてもよい。
【0031】
上記したように、表面にカルプレートが配置された積層鉄心本体32を、前記した樹脂注入型24及び受け型25と略同様の構成の樹脂注入型と受け型で挟持する(
図1(C)参照)。
これにより、樹脂注入型の樹脂溜めポット内の樹脂34を、樹脂溜めポット内で加熱して、又は、カルプレートの熱で加熱して、液状にした後、プランジャーによって樹脂溜めポット内から押し出すことができる。
この押し出された液状の樹脂34は、樹脂溜めポットの下流側端部に連通し、樹脂注入型の下部表面とカルプレートの上部表面との間に形成された樹脂流路を通り、樹脂注入孔を介して、最終的に結合部33に注入され、充填される。
【0032】
上記した方法により、結合部33に、液状の樹脂34を充填した後は、樹脂34を硬化させ、積層方向に隣り合う鉄心片31同士を結合する。
以上の方法により、固定子積層鉄心30を製造した後は、樹脂注入型と受け型を取り外し、更に、カルプレート(更には搬送治具)を取り外して使用する。
【0033】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。例えば、前記したそれぞれの実施の形態や変形例の一部又は全部を組合せて本発明の積層鉄心の製造方法を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
前記実施の形態においては、樹脂注入型を上型とし、受け型を下型として、積層鉄心本体の上方から、樹脂を樹脂充填部に注入し充填した場合について説明したが、これに限定されるものではなく、樹脂注入型を下型とし、受け型を上型として、積層鉄心本体の下方から、樹脂を樹脂充填部に注入し充填することもできる。