【課題を解決するための手段】
【0018】
抵抗溶接用電極の材質をW(タングステン)と、電気抵抗率が5×10
−6〜1×10
−3(Ω・cm)の導電性セラミックスをそれぞれ5体積%以上含む材料とする。
前記導電性セラミックスは金属の炭化物、窒化物、ホウ化物のいずれか1種または2種以上、およびこれらの固溶体から選択する。
前記金属は4a〜6a族金属のうちいずれか1種または2種以上であり、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Cr、Mo、Wの中から選ばれる。
【0019】
以下にそれぞれの例を挙げる。
単体金属の窒化物 TiN、ZrN、HfN、NbN、TaN、Cr
2N、CrN、Mo
2N、MoN、W
2N、WN
2、W
2N
3など
単体金属の炭化物 TiC、ZrC、HfC、VC、TaC,Cr
3C
2、MoC、WC、W
2Cなど
単体金属のホウ化物 TiB
2、ZrB
2、HfB
2、Cr
3B
2、CrB、NbB、Nb
3B
4、NbB
2、W
2B、WB、W
2B
5、Mo
2B、Mo
3B
2、MoB、MoB
2、Mo
2B
5など
複合窒化物 (Ti・Ta)N、(Ti・Mo)N、(Ti・W)Nなど
単体の炭窒化物 TiCN、ZrCNなど
複合炭窒化物 (Ti・Mo)CN、(Ti・W)CNなど
【0020】
これらの窒化物、炭窒化物やホウ化物等は1種でもよいし、複数でもよい。固溶体でもよいし、混合物でも構わない。
【0021】
以下説明のために、以上の金属窒化物、金属炭窒化物、金属ホウ化物などをまとめて「金属化合成分」と表現する。
【0022】
タングステンと金属化合成分とは溶接温度で全く、もしくは殆ど反応しないために、組織としては
図1に組織写真を示すように、独立したW相、金属化合成分相として存在する。なお、W(タングステン)は、10〜200ppm程度のK(カリウム)を、酸化物、窒化物、金属カリウム、炭化物或いは硼化物の形態でドープされたものが多用されている。本明細書中では、タングステンは上記ドープタングステンをも包含していることを付記しておく。
【0023】
前記金属化合成分は、総じて下記の特徴を有する。
(1)アルミニウム、銅、ニッケル、マグネシウム、チタン、真鍮、メッキ鋼板のメッキ成分などとの反応性が極めて小さく、化合物を生成しにくい
(2)硬さが高く、耐摩耗性が高い
(3)電気抵抗率が5×10
−6〜1×10
−3Ω・cm、銅(1.7×10
−6Ω・cm)やタングステン(5.5×10
−6Ω・cm)よりも高い。そのために、通電時に熱が発生しやすく、高い熱をワークに対して与えることができる
(4)空気中に多く含まれる酸素、窒素、水等と反応しにくい。そのために、熱を帯びた状態でも変質が少なく、安定した電気抵抗および溶接のための発熱量が得られる
(5)例えば金属製の電極上に耐溶着性の高い薄膜を形成する方法と異なり、研削等による再研磨が可能である。そのために、電極1ケあたりのコストが下がる
【0024】
一方、タングステンは高融点金属であり、熱伝導率が高融点金属の中でも高い。また、金属化合成分と反応を殆どしないという利点がある。一方、タングステン単体の抵抗溶接用電極は、ワーク材質によっては反応化合物を生成して抵抗溶接用電極表面に付着したり、付着物によって発熱量が安定しなかったり、あるいは前述のピックアップと呼ばれる現象が生じていた。
【0025】
この金属化合成分とタングステンとを複合材料化することにより、ワーク成分と溶着しにくく、安定した発熱を長期間にわたって得られる抵抗溶接用電極が得られる。ワークの成分はタングステンとは反応しやすいものもあるが、表面には金属化合成分も同時に表出しているために、反応が進みにくい。金属化合成分は一様に硬さがタングステンよりも高いために、タングステン単体の抵抗溶接用電極と比較して硬さおよび耐摩耗性が高まる。
【0026】
Wと金属化合成分は、それぞれ最低でも5体積%、両方で最低95%が必要である。
まずWが5体積%必要なのは、Wが高い破壊靱性値および高い熱伝導率を有するためである。
【0027】
金属化合成分は一般にセラミックス質と分類される成分であり、その硬さは高く、金属との反応性は小さいが、一方で金属成分よりも脆いという性質がある。抵抗溶接用電極はワークと接触し加圧するが、溶接工程の速度を上げるためには一定以上の速度でワークに接触させる必要がある。この際に、金属化合成分だけでは衝撃で破壊しやすい。Wは金属化合成分に対して靱性が非常に高く、通常の溶接条件では5体積%以上のWを含有していれば、電極としての靱性値を支障ない程度まで改善できる。Wが5体積%未満の場合、溶接自体は可能であるが、電極が脆くなる。その場合は電極に欠けが発生しやすいエッジ部や破壊の起点を作らないような電極形状とする必要が生じ、電極の形状が制限される。
また、Wの熱伝導率は150(W/m・K)程度と高い。そのため、溶接面で発生した熱を電極全体に伝導でき、その結果外部の局所的な温度変化などに対しても電極全体で温度変化が緩和され、溶接時にワークに与える熱量に差が生じにくくなる。その結果、安定した溶接が可能となる。
【0028】
金属化合成分が少なくとも5体積%必要なのは、5体積%未満の場合は耐溶着性を向上させる効果が十分発現せず、金属化合成分以外の成分でワークとの溶着現象が起こりやすくなるためである。また、金属化合成分が5体積%以上であれば、電極溶接面の硬さや耐摩耗性を使用に十分耐える程度に高めることができる。
【0029】
Wと金属化合成分は、両者の合計が少なくとも95体積%を必要とする。言い換えれば、5体積%未満であれば第3の成分を含んでいてもよい。第3の成分は金属化合成分に対して焼結助剤などの働きを有する成分、例えばアルミナ、スピネル、マグネシア、チタニア、イットリアなどを含むことが好ましい。この第3成分が5体積%を超えると、電極が脆くなったり、電気抵抗率が大きく変化したり、あるいは脱落した成分がワーク面に付着したりするおそれがある。
【0030】
また、本発明の抵抗溶接用電極は少なくとも溶接面が前記組成の焼結体を有する。たとえば、特許文献3の様に窒化物セラミックスのような薄膜をつける方法は有効であるが、熱膨張差などにより薄膜が剥離する危険性が高い上に、一定回数の溶接後に使用不可となればその電極は廃棄する他無く、コスト的に不利である。一方、本願発明の電極の少なくとも溶接面は焼結体であるために、焼結体の大きさを大きくすることで使用後にごく表面層のみを削り取る作業(再研磨)を行って再利用することができる。そのために、一度製造した電極はサイズが極端に小さくなるか、再研磨により焼結体部分が無くなるまで使用することができ、コスト削減に寄与する。
【0031】
抵抗溶接用電極は前記材質の焼結体を溶接面およびその付近にのみ用いて他の部分はシャンク部と組合せることも可能であるし、焼結体でシャンク部まで形成する構造でもよい。なお、後述のシャンク部を用いる場合は、溶接面を含む前記材質の部分は「チップ部」と表現する。
図2にはこれらの模式図を示す。
図2(2)には前記材料をチップ部として、溶接面を含む先端部にのみ前記材料を用いた模式図を、(1)にはシャンク部を含む抵抗溶接用電極全体を前記材料にて形成した例を示す。
また、
図2(3)に示すように、電極の長さ方向に凹凸をつけ、凹部にシャンク部材料2を進入させることにより、チップ部1が抜けない構造とすることも有効である。このような構造であれば、チップ部1とシャンク部2の電極の接合が完全でなくとも、チップ部1が抜け落ちるような不具合が生じない。この構造の製造に適しているのは後述の埋設固着法である。
【0032】
シャンク部は様々な材料が使用可能であるが、銅(純銅および添加物を加えた銅)、アルミニウムなどを用いることが好ましい。これらの材質は電気抵抗率が低く、通電によってシャンク部で発熱が殆ど起こらない。また、金属であり溶接時などに欠損が起こりにくい。空気中の酸素や水と反応しないか、反応してもごく表層部のみにとどまる。所望のシャンク形状を得るための鋳造、機械加工などが容易であり、素材も安価である。
チップ部とシャンク部とを接合する場合は、埋設固着や真空ロウ付けなどの手段を行なうことができる。
【0033】
埋設固着とは、チップ部と低融点の金属(シャンク材料を指す)を昇温し、溶融した低融点の金属がチップ部表面の一部または全部と接触した状態とし、そのまま降温してチップ部と固化した低融点金属を一体化する方法である。固化した低融点金属の部分に必要な加工を加え、所望の形状とした部分がシャンク部となる。埋設固着ではなく鋳ぐるみ、鋳包みなどと呼ばれることもある。
【0034】
真空ロウ付けは、真空雰囲気とした炉中にて、ロウ材を用いてチップ部とシャンク部を接合する方法である。ロウ材としては活性ロウ材と呼ばれるAgCuSnTiなどのロウ材を用いて行なう。
【0035】
チップ部とシャンク部とを接合する際に、例えばWの量が50%よりも低くなれば、前記接合方法で良好に接合できない場合がある。これは、金属化合成分の反応性が著しく低いために起こる現象であり、接合のしやすさと、ワークとの反応のしにくさはトレードオフの関係にある。前記接合方法にて良好な接合が行なえない場合は、
図3に示すように、チップ部の溶接面側である第1チップ部に前記Wと金属化合成分の複合材料を、チップ部の溶接面ではない部分である第2チップ部を第1チップ部よりW成分が多く金属化合成分が少ない組成の複合材料で構成し、第2チップ部とシャンク部とを接合する方法である。この方法を使えば、第1チップ部を例えばWが5体積%で残部が金属化合成分である第1チップ部の場合でも第2チップ部を介してシャンク部と接合できる。
【0036】
また、チップ部を傾斜機能材料とすることもできる。この傾斜機能材料は、ワークと接する側の金属化合成分含有率を多く(最大で95体積%)し、シャンクと接合する側のW含有を多く(最大で95体積%)し、その間は両者の間の傾斜的な組成を有する構造とする。この構造とすることにより、ワークと反応しにくく、シャンクと接合しやすいチップ部とすることができる。
【0037】
本発明の抵抗溶接用電極は、様々な抵抗溶接の形態に用いることができる。例として、円形状の比較的狭い範囲のみを溶接するスポット溶接、重ねた板材を連続線的に溶接するシーム溶接、あらかじめ被溶接材の一部に突起を形成してその部分に通電させ溶接を行なうプロジェクション溶接、突合せ抵抗溶接、ヒュージング溶接とも呼ばれる熱カシメ溶接などが挙げられる。これらに限らず、「一対の電極と、その電極間に挟まれた2以上の被溶接材とに電流を掛け、温度を上げて、被溶接材同士を接合する」どのような溶接方法にも用いることが可能である。
【発明の効果】
【0038】
本発明の抵抗溶接用電極は、ワーク(被溶接物)との反応が極めて小さい。そのために本発明の抵抗溶接用電極を使用すると以下の効果がある。
(1)ワークとの溶着が少ないために、溶接後のワーク面の凹凸が極めて少ない
(2)反応生成物の電極への付着による電気抵抗の変化が極めて少ない。よって、電流の印加による安定的な抵抗発熱を得られる。ワークの不良発生率が抑えられ、電流値や電極の調整も少なく済む
(3)反応性生物による溶接面の減耗が極めて少ないために、繰り返し溶接しても電極の形状変化が少ない。よって、従来の電極より長寿命を得られる
また、Wよりも硬質な炭化物、窒化物、ホウ化物などを5〜95体積%含むことにより
(4)ワークとの接触、加圧による機械的な摩耗が抑制できる。よって、従来の電極よりも長寿命が得られる
さらに、本発明の抵抗溶接用電極は、従来用いられているW材やCu材よりも電気抵抗が高い。そのために
(5)抵抗発熱を大きくでき、ワークの溶接時に形成される「ナゲット」が従来の電極よりも大きく形成しやすくなる
本発明の電極は、少なくとも溶接面には前記焼結体を使用している、そのために
(6)溶接面およびその周辺のわずかな量の再研磨により、電極を繰り返し使用することが可能であり、コスト面で有利である