(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
様々な形で利用されているエネルギーについては、石油資源の枯渇に対する懸念から、代替燃料の模索や省資源が重要な課題となっている。その中にあって、種々の燃料を化学エネルギーに変換し、電力として取り出す燃料電池について、活発な開発が続けられている。
【0003】
燃料電池は、例えば『燃料電池に関する技術動向調査』(以下、非特許文献1)の第5頁に開示されるように、使用される電解質の種類によって、りん酸形燃料電池(PAFC)、溶融炭酸塩形燃料電池(MCFC)、固体酸化形燃料電池(SOFC)、固体高分子形燃料電池(PEFC)の4つに分類される。これら各種の燃料電池は、その電解質に応じて作動温度範囲に制約が有り、PEFCでは100℃以下の低温領域、PAFCでは180〜210℃の中温領域、MCFCでは600℃以上、SOFCは1000℃近くの高温領域で動作することが知られている。このうち、低温領域での出力が可能である一般的なPEFCは、燃料となる水素ガスと酸素ガス(若しくは空気)との化合反応に伴って生じる電力を取り出すが、比較的小型の装置構成で効率的な電力を取り出すことができる点で、実用化が急がれている。
【0004】
図1は、従来知られているPEFCの基本構成を示す、燃料電池の要部断面の模式図である。図中、材質として実質的に同一の構成若しくは機能を有する構成成分には、同一のハッチングを付して示してある。PEFCは、
図1に示すような、燃料極(ガス拡散電極)17a、固体高分子膜19及び空気極(ガス拡散電極)17cからなる膜−電極接合体(MEA)を、1対のバイポーラプレート11a、11cで挟んだセル単位を複数積層した構造からなる。前記燃料極17aはプロトンと電子とに分解する触媒層15aと、触媒層15aに燃料ガスを供給するガス拡散層13aとからなり、前記触媒層15aとガス拡散層13aとの間には水分管理層14aが形成されており、他方、空気極17cはプロトン、電子及び酸素含有ガスとを反応させる触媒層15cと、触媒層15cに酸素含有ガスを供給するガス拡散層13cとからなり、前記触媒層15cとガス拡散層13cとの間には水分管理層14cが形成されている。
【0005】
前記バイポーラプレート11aは燃料ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11aの溝を通して燃料ガスを供給すると、燃料ガスはガス拡散層13aを拡散し、水分管理層14aを透過して触媒層15aに供給される。供給された燃料ガスはプロトンと電子とに分解され、プロトンは固体高分子膜19を移動し、触媒層15cに到達する。他方、電子は図示しない外部回路を通り、空気極17cへと移動する。一方、バイポーラプレート11cは酸素含有ガスを供給できる溝を有するため、このバイポーラプレート11cの溝を通して酸素含有ガスを供給すると、酸素含有ガスはガス拡散層13cを拡散し、水分管理層14cを透過して触媒層15cに供給される。供給された酸素含有ガスは固体高分子膜19を移動したプロトン及び外部回路を通って移動した電子と反応し、水を生成する。この生成した水は水分管理層14cを通って、燃料電池外へ排出される。また、燃料極においては、空気極から逆拡散してきた水が水分管理層14aを通って、燃料電池外へ排出される。
【0006】
このようなガス拡散層13a及び水分管理層14a、又はガス拡散層13c及び水分管理層14cに必要な機能としては、低加湿条件下では固体高分子膜19を湿潤に保つための保湿性、高加湿条件下では燃料電池内に水が溜まり、フラッディングが起こるのを防ぐための排水性などがある。このようなガス拡散層13a及び水分管理層14a、又はガス拡散層13c及び水分管理層14cは、従来、カーボンペーパー等の導電性多孔質基材に、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素系樹脂を含浸、又はカーボン粉末とフッ素系樹脂とを混合したペーストを塗布することによって、フッ素系樹脂が存在、又はカーボン粉末及びフッ素系樹脂が存在する水分管理層14a、14cを形成するとともに、これらが存在しない領域をガス拡散層13a、13cとしていた。しかしながら、このようにして形成した水分管理層14a、14cは、フッ素系樹脂、又はカーボン粉末及びフッ素系樹脂を導電性多孔質基材に塗布しているとはいえ、導電性多孔質基材としてカーボンペーパー等を使用しており、このカーボンペーパーを構成するカーボン繊維は剛性が高いため、水分管理層14a、14c及び触媒層15a、15cを突き抜けてしまい、固体高分子膜を損傷し、短絡してしまう場合があった。
【0007】
本願出願人も、「ガラス繊維にアクリル樹脂及び/又は酢酸ビニル樹脂を含むバインダを付着せしめたガラス不織布からなるガス拡散電極用基材に、カーボンブラックと、ポリテトラフルオロエチレン樹脂又はポリフッ化ビニリデン樹脂とを含む導電性ペーストを被着焼成したガス拡散電極」(特許文献1)を提案したが、従来のカーボンペーパーと同様に、ガラス繊維は剛性が高いため、水分管理層14a、14c及び触媒層15a、15cを突き抜けてしまい、固体高分子膜を損傷し、短絡してしまう場合があった。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明のガス拡散電極用基材(以下、単に「電極基材」と表記することがある)は、導電性粒子を含有する有機樹脂製の導電性細繊維と、導電性粒子を含有する有機樹脂製、かつ前記導電性細繊維よりも平均繊維径の太い導電性太繊維とが混在する混在領域を有する不織布を備えている。
【0020】
本発明の不織布を構成する導電性繊維(以下、単に「導電性繊維」と表記した場合は、導電性細繊維と導電性太繊維の両方を指す)は、有機樹脂製であることによって柔軟であるため、導電性繊維が固体高分子膜を損傷し、短絡するということがない。なお、本発明の導電性繊維を構成する有機樹脂に、ダイヤモンド、グラファイト、無定形炭素は含まれない。
【0021】
これら導電性繊維を構成する有機樹脂は、疎水性有機樹脂であっても、親水性有機樹脂であっても良く、特に限定するものではない。前者の疎水性有機樹脂であると、フッ素系樹脂等の疎水性樹脂を含浸しなくても優れた水の透過性を示し、優れた排水性とガス拡散性を示すため、好適である。他方で、親水性有機樹脂であると、水分を保持することができるため、固体高分子膜を湿潤に保つことができ、十分な発電性能を発揮できる固体高分子形燃料電池を作製することができる。
【0022】
なお、導電性繊維は疎水性有機樹脂のみから構成されていても良いし、親水性有機樹脂のみから構成されていても良いし、疎水性有機樹脂と親水性有機樹脂が混合又は複合されていても良いが、特に、導電性繊維が疎水性有機樹脂のみから構成されていると、優れた排水性とガス拡散性を示すため、好適である。
【0023】
また、導電性細繊維を構成する有機樹脂と導電性太繊維を構成する有機樹脂とは、いずれも疎水性有機樹脂又は親水性有機樹脂から構成されていても良いし、いずれか一方が疎水性有機樹脂からなり、他方が親水性有機樹脂から構成されていても良い。なお、いずれも疎水性有機樹脂又は親水性有機樹脂から構成されている場合には、同じ有機樹脂から構成されていても、異なる有機樹脂から構成されていても良い。
【0024】
この「疎水性有機樹脂」とは、水との接触角が90°以上の有機樹脂であり、その例として、フッ素系樹脂、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体;ポリオレフィン系樹脂、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP);ポリエステル系樹脂、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、などを挙げることができる。また、これらの樹脂は単独で用いることもできるし、2種類以上混合又は複合して使用することもできる。これらの中でも特に、フッ素系樹脂は耐熱性、耐薬品性、疎水性が強いため、好適に用いることができる。
【0025】
他方、「親水性有機樹脂」とは、水との接触角が90°未満の有機樹脂であり、その例として、セルロース、例えば、レーヨン;ポリアミド系樹脂、例えば、ナイロン6、ナイロン66;アクリル系樹脂、例えば、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸;親水性基(アミド基、カルボキシル基、水酸基、アミノ基、スルホン酸基等)を有する樹脂、例えば、親水性ポリウレタン、ポリビニルピロリドン;ポリアクリロニトリル、酸化アクリル、ポリビニルアルコール系樹脂、などを挙げることができる。また、これらの樹脂は単独で用いることもできるし、2種類以上混合して使用することもできる。これらの中でもポリアクリロニトリルは耐熱性に優れ、また、固体高分子膜の膨潤によっても厚さが潰れにくいため空隙が維持され、結果としてガス拡散性が維持されるため、好適である。
【0026】
なお、導電性繊維の剛性が高く、結果として電極基材の剛性が高いことによって、固体高分子膜の膨潤及び収縮を抑制して、固体高分子膜の亀裂を防止でき、また、固体高分子膜の膨潤によっても電極基材の厚さが潰れにくく空隙が維持され、結果としてガス拡散性を維持しやすいように、導電性繊維は上記疎水性有機樹脂及び/又は親水性有機樹脂が熱硬化性樹脂であっても良い。前記熱硬化性樹脂は導電性太繊維と導電性細繊維の両方ともに含んでいても良いし、どちらか一方のみが含んでいても良い。また、上記熱硬化性樹脂に加えて硬化促進剤を含んでいても良い。
【0027】
この「熱硬化性樹脂」としては、例えば、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、熱硬化ポリイミド樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂などを挙げることができる。これらの中でも、フェノール樹脂およびエポキシ樹脂は耐熱性、耐酸性に優れ、熱処理によって電極基材の剛性を高めることができるため好適である。なお、導電性繊維が熱硬化性樹脂を含んでいる場合、熱硬化性樹脂のみから構成されていても良いし、熱硬化性樹脂が2種類以上混合又は複合されていても良いし、熱硬化性樹脂1種類以上と熱可塑性の疎水性有機樹脂又は親水性有機樹脂1種類以上とが混合又は複合されていても良い。
【0028】
本発明の導電性繊維はガス拡散電極として使用した場合に、電子移動性に優れているように、導電性粒子を含有している。なお、導電性繊維の外側表面にのみ導電性粒子が存在する状態にあると、導電性繊維内部における有機樹脂成分が抵抗成分となり、導電性に劣る傾向があるため、導電性繊維内部に導電性粒子を含有しているのが好ましい。また、導電性粒子は有機樹脂内に完全に埋没していても良いが、導電性に優れているように、導電性粒子の一部は導電性繊維を構成する有機樹脂から露出しているのが好ましい。このような導電性粒子を含有する導電性繊維は、例えば、有機樹脂と導電性粒子とを含む紡糸液を紡糸することによって製造することができる。
【0029】
なお、導電性繊維は、素材又は平均一次粒径の点で異なる2種類以上の導電性粒子を含有していても良い。また、導電性細繊維を構成する導電性粒子と導電性太繊維を構成する導電性粒子とは、素材又は平均一次粒径の点で同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0030】
この導電性粒子は特に限定するものではないが、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、金属粒子、金属酸化物粒子などを挙げることができる。これらの中でもカーボンブラックは耐薬品性、導電性及び分散性の点から好適に用いられる。この好適であるカーボンブラックの粒径は特に限定するものではないが、平均一次粒径が5nm〜200nm、より好ましくは10nm〜100nmのものを用いることができる。なお、導電性粒子の平均一次粒径は、脱落しにくく、また、繊維形態を形成しやすいように、後述の導電性繊維の繊維径よりも小さいのが好ましい。
【0031】
このような導電性繊維における導電性粒子と有機樹脂との質量比は特に限定するものではないが、10〜90:90〜10であるのが好ましく、20〜80:80〜20であるのがより好ましく、30〜70:70〜30であるのが更に好ましく、40〜70:60〜30であるのが更に好ましい。導電性粒子が10mass%を下回ると導電性が不足しやすく、他方、導電性粒子が90mass%を上回ると繊維形成性が低下する傾向があるためである。なお、導電性細繊維における導電性粒子と有機樹脂との質量比と、導電性太繊維における導電性粒子と有機樹脂との質量比とは、同じであっても良いし、異なっていても良い。
【0032】
なお、導電性に優れているように、導電性粒子は電極基材の10〜90mass%を占めているのが好ましく、20〜80mass%を占めているのがより好ましく、30〜70mass%を占めているのが更に好ましく、40〜70mass%を占めているのが更に好ましい。
【0033】
本発明の導電性繊維の平均繊維径は特に限定するものではないが、10nm〜10μmであるのが好ましい。平均繊維径が10μmを上回ると、電極基材における導電性繊維同士の接触点が少なく、導電性が不足しやすい傾向があり、他方、10nmを下回ると、繊維内部に導電性粒子を含有しにくい傾向があるためである。なお、導電性繊維の平均繊維径は導電性粒子が脱落しにくいように、導電性粒子の一次粒子径の5倍以上であるのが好ましい。
【0034】
なお、本発明においては、導電性細繊維と導電性太繊維の混在領域に、比較的小さい空隙から比較的大きい空隙を形成することによって、液水の密度を高めて排水性を高める作用と、液水の密度が低く供給したガスの拡散性に優れる作用とを期待できるように、導電性太繊維と導電性細繊維との平均繊維径の差が100nm以上であるのが好ましい。
【0035】
本発明における「平均繊維径」とは、40点における繊維径の算術平均値を意味し、また、「繊維径」とは、顕微鏡写真をもとに計測した値であり、導電性粒子が露出した導電性繊維のみから構成されている場合には、露出した導電性粒子を含めた直径を意味し、導電性粒子が露出した導電性繊維を含有していないか、導電性粒子が露出した導電性繊維を含有していても、導電性粒子が露出していない部分を有する導電性繊維を含んで構成されている場合には、導電性粒子が露出していない部分における直径を意味する。
【0036】
本発明の導電性繊維は電子の移動性に優れているように、また、導電性繊維の端部が少なく、固体高分子膜を損傷しにくいように、連続繊維であるのが好ましい。このような導電性連続繊維は、例えば、静電紡糸法又はスパンボンド法により製造することができる。
【0037】
本発明の電極基材は、前述のような導電性細繊維と導電性太繊維とが混在する混在領域を有する不織布を備えているが、不織布中における導電性細繊維と導電性太繊維の総量は、導電性に優れているように、不織布全体の10mass%以上であるのが好ましく、50mass%以上であるのがより好ましく、70mass%以上であるのが更に好ましく、90mass%以上であるのが更に好ましく、導電性細繊維及び導電性太繊維のみから構成されているのが最も好ましい。
【0038】
なお、導電性繊維以外の繊維として、疎水性有機繊維、例えば、フッ素繊維、ポリオレフィン繊維;親水性有機繊維、例えば、アクリル繊維、ナイロン繊維(例えば、ナイロン6、ナイロン66など)を含んでいることができる。
【0039】
本発明の電極基材は導電性繊維以外の繊維を含んでいる場合もあるが、導電性に優れているように、電気抵抗が150mΩ・cm
2以下であるのが好ましく、100mΩ・cm
2以下であるのがより好ましく、50mΩ・cm
2以下であるのが更に好ましい。本発明の「電気抵抗」は、5cm角に切断した電極基材(25cm
2)をカーボンプレートで両面側から挟み、カーボンプレートの積層方向に、2MPaで加圧下、1Aの電流(I)を印加した状態で、電圧(V)を計測する。続いて、抵抗(R=V/I)を算出し、更に、電極基材の面積(25cm
2)を乗じることによって得られる値である。
【0040】
なお、本発明の電極基材を構成する不織布は接着剤によって接着していても良いが、導電性に優れるように、接着剤によって接着していないのが好ましい。例えば、導電性繊維同士の絡合、溶媒による有機樹脂の可塑化による結合、又は熱による有機樹脂の融着による結合、により結合しているのが好ましい。なお、これらの併用によって結合していても良い。
【0041】
本発明の電極基材の目付は特に限定するものではないが、排水性、ガス拡散性、取り扱い性及び生産性の点から0.5〜200g/m
2であるのが好ましく、0.5〜100g/m
2であるのがより好ましく、0.5〜50g/m
2であるのが更に好ましい。また、厚さも特に限定するものではないが、1〜1000μmであるのが好ましく、1〜500μmであるのがより好ましく、1〜300μmであるのが更に好ましい。
【0042】
本発明における「目付」は、10cm角に切断した試料の質量を測定し、1m
2の大きさの質量に換算した値をいい、「厚さ」はシックネスゲージ((株)ミツトヨ製:コードNo.547−401:測定力3.5N以下)を用いて測定した値をいう。
【0043】
なお、本発明の電極基材を構成する不織布は、前述のような導電性細繊維と導電性太繊維とが混在する混在領域を有するものであるが、混在領域における導電性細繊維と導電性太繊維との質量比率は1〜99:99〜1であるのが好ましく、10〜90:90〜10であるのがより好ましく、20〜80:80〜20であるのが更に好ましい。導電性細繊維の質量比率が1mass%を下回ると、比較的小さい空隙が少なすぎてガス拡散性が悪くなる傾向があり、導電性細繊維の質量比率が99mass%を上回ると、比較的大きな空隙が少なすぎて液水の排出経路が少なく、排水性が悪くなる傾向があるためである。
【0044】
また、混在領域は不織布の厚さ方向全体にわたって存在していても良いし、不織布の厚さ方向における一部にのみ存在していても良いが、水排出性およびガス拡散性に優れるように、不織布の厚さの1%以上が混在領域からなるのが好ましい。
【0045】
なお、混在領域が不織布の厚さ方向における一部にのみ存在している場合には、不織布の片表面を含む領域が混在領域であっても良いし、両表面の間の領域に混在領域が存在していても良い。しかしながら、片表面を含む領域が混在領域であると、この混在領域を触媒層と当接させることによって、排水性及びガス拡散性に優れているため、好適な態様である。つまり、混在領域が触媒層と当接していると、触媒での反応によって生成する水、又は逆拡散してきた水を排出しやすく、しかも反応に必要な燃料ガス又は酸素含有ガスを均一に供給でき、結果として発電性能に優れると考えられるため、混在領域が触媒層と当接しているのが好ましい。
【0046】
このように、混在領域が不織布の厚さ方向における一部にのみ存在している場合、その残余領域は導電性細繊維のみからなる領域、導電性太繊維のみからなる領域、或いは、導電性細繊維と導電性太繊維以外の繊維からなる領域、導電性太繊維と導電性細繊維以外の繊維からなる領域、であることができる。
【0047】
なお、本発明の電極基材を構成する不織布は、不織布の厚さ方向において、混在領域を1箇所有していれば良く、2箇所以上に有していても良い。2箇所以上混在領域を有する場合、排水性及びガス拡散性の点から、厚さ方向に、平均繊維径が順に大きく、又は小さい混在領域を備えているのが好ましい。例えば、混在領域を3箇所有する場合、第1混在領域、第1混在領域よりも平均繊維径の大きい(又は小さい)第2混在領域、第2混在領域よりも平均繊維径の大きい(又は小さい)第3混在領域を備えた不織布であるのが好ましい。このような不織布の混在領域は、電極基材の厚さ方向における電子顕微鏡写真を撮影して確認することができる。
【0048】
更には、混在領域が不織布の一部にのみ存在している場合、混在領域は不織布の厚さ方向における一部にのみ存在している必要はなく、不織布の面方向における一部にのみ存在していても良い。このように、不織布の面方向における一部にのみ存在している場合、水排出性およびガス拡散性に優れるように、不織布の主面全体の1%以上が混在領域からなるのが好ましい。
【0049】
なお、混在領域が不織布の面方向における一部にのみ存在している場合には、混在領域が千鳥状、格子の交点状に規則正しく存在していても良いし、ランダムに存在していても良い。しかしながら、規則正しく混在領域が存在している方が、排水性及びガス拡散性に優れているため、好適な態様である。また、混在領域が不織布の面方向における一部にのみ存在している場合には、バイポーラプレートの流路と一致又は重複する位置に位置するように混在領域が存在していると、水排出性およびガス拡散性に優れるため、好適な態様である。
【0050】
このように、混在領域が不織布の面方向における一部にのみ存在している場合、その残余領域は導電性細繊維のみからなる領域、導電性太繊維のみからなる領域、或いは、導電性細繊維と導電性太繊維以外の繊維からなる領域、導電性太繊維と導電性細繊維以外の繊維からなる領域、であることができる。
【0051】
本発明の電極基材を構成する不織布は多孔性であることから、面方向においても、排水性およびガス拡散性に優れ、発電性能の高い燃料電池を作製することができるものである。この多孔性は空隙率にして20%以上の多孔性を有するのが好ましい。好ましくは空隙率が30%以上の多孔性を有し、より好ましくは空隙率が50%以上の多孔性を有する。なお、空隙率の上限は特に限定するものではないが、形態安定性の点から99%以下であるのが好ましい。この空隙率P(単位:%)は次の式から得られる値をいう。
P=100−(Fr1+Fr2+・・+Frn)
ここで、Frnは不織布を構成する成分nの充填率(単位:%)を示し、次の式から得られる値をいう。
Frn=[M×Prn/(T×SGn)]×100
ここで、Mは不織布の目付(単位:g/cm
2)、Tは不織布の厚さ(cm)、Prnは不織布における成分n(例えば、有機樹脂、導電性粒子)の存在質量比率、SGnは成分nの比重(単位:g/cm
3)をそれぞれ意味する。
【0052】
本発明の電極基材を構成する不織布の平均流量孔径は、液水の排出性およびガス拡散性に優れているように、10nm〜100μmであるのが好ましく、100nm〜50μmであるのがより好ましい。この平均流量孔径は、多孔性材料自動細孔径分布測定システム(パームポロメーター;ポーラスマテリアル社)を用い、測定液体として表面エネルギー15.7dyn/cm標準液を用いて測定した値である。
【0053】
本発明の電極基材を構成する不織布は、前述のような導電性細繊維と導電性太繊維とが混在する混在領域を有しているが、多孔性であるため、電極基材の空隙に何も充填されていない場合には、液水が混在領域における比較的空隙の大きい領域へ移動しやすく、また、生成水の水蒸気は比較的空隙の大きい領域で凝縮して液水となり、比較的空隙の大きい領域における液水の密度を高めることができるため、液水を押し出す作用が働いて、排水性に優れているとともに、排水したことによって空隙を確保でき、しかも比較的小さい空隙からなる領域には液水が存在しにくいため、供給したガスの拡散性に優れている。
【0054】
なお、電極基材を構成する不織布の空隙に、フッ素系樹脂及び/又はカーボンを含んでいると、前者のフッ素系樹脂を含有していることによって、液水が押し出されやすいため、排水性及びガス拡散性を高めることができ、後者のカーボンを含有していることによって、導電性を高めることができる。
【0055】
このフッ素系樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ペルフルオロアルコキシフッ素樹脂(PFA)、四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体(FEP)、エチレン・四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、エチレン・クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体、及び前記樹脂を構成する各種モノマーの共重合体、などを挙げることができる。
【0056】
また、カーボンとしては、例えば、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバーなどを挙げることができる。
【0057】
本発明の導電性細繊維と導電性太繊維とが混在する混在領域を有する不織布からなる電極基材は、例えば、次のようにして製造することができる。
【0058】
まず、第1有機樹脂と第1導電性粒子とを混合した第1紡糸液と、第2有機樹脂と第2導電性粒子とを混合した第2紡糸液を用意する。次いで、この第1紡糸液を紡糸して導電性太繊維を形成すると同時に、第2紡糸液を紡糸して導電性細繊維を形成し、これら導電性繊維を直接捕集し、集積することによって、導電性太繊維と導電性細繊維とが混在する混在繊維ウエブを形成する。この混在繊維ウエブ自体に強度があれば、そのまま混在繊維ウエブを不織布とすることができるし、強度を付与又は向上させるために、溶媒による第1有機樹脂及び/又は第2有機樹脂の可塑化、第1有機樹脂及び/又は第2有機樹脂の熱による融着、接着剤による接着等により結合して、不織布とすることもできる。なお、混在繊維ウエブを構成する導電性細繊維及び導電性太繊維は連続した長繊維であるのが好ましい。連続した長繊維であることによって、導電性及び強度の点で優れているだけでなく、繊維の端部が少なく、固体高分子膜を損傷しにくいためである。
【0059】
なお、混在繊維ウエブを形成する前に、第1紡糸液のみを紡糸して導電性太繊維のみからなる導電性太繊維領域、又は第2紡糸液のみを紡糸して導電性細繊維のみからなる導電性細繊維領域を形成することができるし、混在繊維ウエブを形成した後に、前記と同様にして、導電性太繊維領域又は導電性細繊維領域を形成することができる。
【0060】
なお、導電性太繊維又は導電性細繊維の紡糸方法としては、例えば、静電紡糸法、スパンボンド法、メルトブロー法、或いは特開2009−287138号公報に開示されているような、液吐出部から吐出された紡糸液に対してガスを平行に吐出し、紡糸液に1本の直線状に剪断力を作用させて繊維化する方法、を挙げることができる。これらの中でも静電紡糸法又は特開2009−287138号公報に開示の方法によれば、繊維径の小さい導電性太繊維又は導電性細繊維を紡糸できることから、薄い電極基材を製造することができ、結果として燃料電池の抵抗を下げることができ、また、燃料電池の体積を小さくすることができるため好適である。
【0061】
なお、静電紡糸法又は特開2009−287138号公報に開示の方法のように、溶媒に第1有機樹脂又は第2有機樹脂を溶解させた溶液に導電性粒子を混合する場合、溶媒として、紡糸時に揮散しにくいものを使用し、混在繊維ウエブを形成した後に、溶媒置換により紡糸溶媒を除去すると、導電性太繊維と導電性繊維とが可塑化結合した状態になりやすく、結果として導電性の高い不織布を製造することができ、また、不織布が緻密になり、燃料電池内での接触抵抗が低くなりやすいため好適である。
【0062】
なお、導電性太繊維又は導電性細繊維を連続繊維として巻き取り、次いで導電性太繊維又は導電性細繊維を所望繊維長に切断して短繊維とした後、公知の乾式法又は湿式法により混在繊維ウエブを形成し、溶媒による有機樹脂の可塑化、熱による有機樹脂の融着、接着剤による接着等により結合し、不織布とすることもできる。しかしながら、前述の通り、導電性太繊維又は導電性細繊維は連続した繊維であるのが好ましいため、連続した導電性太繊維又は導電性細繊維を直接捕集した混在繊維ウエブに由来する不織布であるのが好ましい。
【0063】
なお、導電性太繊維及び導電性細繊維を構成する有機樹脂が酸化アクリルである場合、ポリアクリルニトリル(PAN)及び/又はポリアクリルニトリル(PAN)共重合体と導電性粒子とを混合した紡糸液を用いて紡糸して、導電性太繊維と導電性細繊維とが混在する混在繊維ウエブを形成した後、空気中で温度200〜300℃で加熱することによって、ポリアクリルニトリル(PAN)及び/又はポリアクリルニトリル(PAN)共重合体を酸化アクリルとして、不織布の導電性を更に高めることもできる。或いは、ポリアクリルニトリル(PAN)及び/又はポリアクリルニトリル(PAN)共重合体と導電性粒子とを混合した紡糸液を用いて紡糸した導電性太繊維又は導電性細繊維を、空気中、温度200〜300℃で加熱することによって、ポリアクリルニトリル(PAN)及び/又はポリアクリルニトリル(PAN)共重合体を酸化アクリルとした導電性太繊維又は導電性細繊維を形成した後に、この導電性太繊維又は導電性細繊維を混合して、混在繊維ウエブを形成し、不織布を製造することもできる。
【0064】
また、導電性太繊維及び導電性細繊維を構成する有機樹脂が350℃を超えるような融点を有する耐熱性有機樹脂である場合、不織布をポリテトラフルオロエチレンディスパージョンなどのフッ素系ディスパージョンに浸漬して付与した後、温度300〜350℃で焼結することで、撥水性を高め、排水性及びガス拡散性の優れる不織布とすることができる。
【0065】
本発明のガス拡散電極は、上述のような不織布を備えている電極基材に触媒が担持されているため、短絡しにくく、しかも生成水の排水性及び供給したガスの拡散性に優れ、発電性能の優れる燃料電池を作製することができる。また、本発明のガス拡散電極は、導電性繊維表面(導電性細繊維又は導電性太繊維表面)に触媒が担持され、触媒同士の接触による電子伝導だけではなく、導電性繊維による電子伝導パスも形成されているため、電子伝導パスから孤立した触媒が少ない。更に、本発明の電極基材は排水性およびガス拡散性に優れることから、三相界面(ガス、触媒、電解質樹脂が会合する反応場)へガスを十分に安定して供給することができる。これらの理由で、効率的に触媒を利用でき、触媒量を少なくできるという効果を奏する。
【0066】
本発明のガス拡散電極は上述のような電極基材を備えていること以外は、従来のガス拡散電極と全く同様の構造を有する。例えば、触媒としては、白金、白金合金、パラジウム、パラジウム合金、チタン、マンガン、マグネシウム、ランタン、バナジウム、ジルコニウム、イリジウム、ロジウム、ルテニウム、金、ニッケル−ランタン合金、チタン−鉄合金などを挙げることができ、これらから選ばれる1種類以上の触媒を担持していることができる。
【0067】
なお、触媒以外にも、電子伝導体及びプロトン伝導体を含んでいるのが好ましく、電子伝導体として、カーボンブラック等の導電性繊維に含まれている導電性粒子と同様の導電性粒子が好適であり、触媒はこの導電性粒子に担持されていても良い。また、プロトン伝導体として、イオン交換樹脂が好適である。
【0068】
本発明のガス拡散電極においては、前述のような電極基材を用いているが、前述のような電極基材においては、混在領域における比較的空隙の大きい領域に液水が集中しやすく、集中した液水が押し出される形で排水性に優れ、排水によって生じた空隙を通じて、また、混在領域における比較的空隙の小さい領域が存在することによって、ガス拡散性に優れていると考えられるため、混在領域が不織布の片表面を含んでいる場合には、混在領域側が触媒層側となるように配置するのが好ましい。
【0069】
本発明のガス拡散電極は、例えば、次の方法で作製できる。
【0070】
まず、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、エチレングリコールジメチルエーテルなどからなる単一あるいは混合溶媒中に、触媒(例えば、白金などの触媒を担持したカーボン粉末)を加えて混合し、これにイオン交換樹脂溶液を加え、超音波分散等で均一に混合して触媒分散懸濁液とする。そして、前述のような電極基材に、混在領域が不織布の片表面を含んでいる場合には、混在領域側表面に、前記触媒分散懸濁液をコーティング、或いは散布し、これを乾燥して、ガス拡散電極を製造することができる。
【0071】
本発明の膜−電極接合体は前述のようなガス拡散電極用基材を備えているため、短絡しにくく、しかも生成水の排水性及び供給したガスの拡散性に優れているため、発電性能の優れる燃料電池を作製することのできる膜−電極接合体である。
【0072】
本発明の膜−電極接合体は前述のようなガス拡散電極用基材を備えていること以外は、従来の膜−電極接合体と全く同様であることができる。
【0073】
このような膜−電極接合体は、例えば、一対のガス拡散電極のそれぞれの触媒担持面の間に固体高分子膜を挟み、熱プレスすることによって接合し、製造できる。また、前述のような触媒分散懸濁液を支持体に塗布して触媒層を形成した後、この触媒層を固体高分子膜に転写し、その後、触媒層に前述のようなガス拡散電極用基材、混在領域が不織布の片表面を含んでいる場合には、混在領域側表面が触媒層と当接するように積層し、熱プレスする方法によっても製造できる。
【0074】
なお、固体高分子膜としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系樹脂膜、スルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜、アルキルスルホン化芳香族炭化水素系樹脂膜などを用いることができる。
【0075】
本発明の固体高分子形燃料電池は前述のようなガス拡散電極用基材を備えているため、短絡しにくく、しかも生成水の排水性及び供給したガスの拡散性に優れているため、発電性能の優れる燃料電池である。
【0076】
本発明の燃料電池は前述のようなガス拡散電極用基材を備えていること以外は、従来の燃料電池と全く同様であることができる。例えば、前述のような膜−電極接合体を1対のバイポーラプレートで挟んだセル単位を複数積層した構造からなり、例えば、セル単位を複数積層し、固定して製造できる。
【0077】
なお、バイポーラプレートとしては、導電性が高く、ガスを透過せず、ガス拡散電極にガスを供給できる流路を有するものであれば良く、特に限定するものではないが、例えば、カーボン成形材料、カーボン−樹脂複合材料、金属材料などを用いることができる。
【実施例】
【0078】
以下に、本発明の実施例を記載するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0079】
(実施例)
<第1紡糸溶液の調製>
フッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物をN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)に加え、ロッキングミルを用いて溶解させ、濃度10mass%の溶液を得た。
【0080】
次いで、導電性粒子として、カーボンブラック(デンカブラック粒状品、電気化学工業(株)製、平均一次粒子径:35nm)を前記溶液に混合し、撹拌した後、更にDMFを加えて希釈し、カーボンブラックを分散させ、カーボンブラックとフッ化ビニリデン・テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合物の固形質量比が40:60で、固形分濃度が13mass%の第1紡糸溶液を調製した。
【0081】
<第2紡糸溶液の調製>
紡糸溶液の固形分濃度を8mass%としたこと以外は第1紡糸溶液と同様にして、第2紡糸溶液を調製した。
【0082】
(実施例1)
<ガス拡散電極用基材の作製>
前記第1紡糸溶液を用いて、静電紡糸法により導電性太繊維(平均繊維径:800nm)を紡糸するとともに、前記第2紡糸溶液を用いて、静電紡糸法により導電性細繊維(平均繊維径:300nm)を紡糸し、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積して、連続した導電性太繊維と連続した導電性細繊維とが混在した混在領域のみ(厚さ方向、面方向のいずれの方向においても混在領域のみからなる)からなる混在繊維ウエブを作製し、この空隙には何も充填されていない混在繊維ウエブを不織布、つまり電極基材(目付:24g/m
2、厚さ:119μm、空隙率:89%、電気抵抗:23mΩ・cm
2、カーボンブラックの含有量:40mass%、導電性太繊維と導電性細繊維の質量比率=50:50)とした。
【0083】
この導電性太繊維、導電性細繊維のいずれもカーボンブラックを繊維内部に含有するとともに、カーボンブラックの一部が繊維表面から露出した状態にあり、導電性太繊維と導電性細繊維とは集積時に絡合し、結合した状態にあった。なお、いずれの導電性繊維の静電紡糸条件も次の通りとした。
【0084】
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:10cm
印加電圧:10kV
温度/湿度:25℃/35%RH
【0085】
(比較例1)
第1紡糸溶液を静電紡糸法により紡糸して得た導電性太繊維を、対向電極であるステンレスドラム上に、直接、集積して、連続した導電性太繊維のみからなる太繊維ウエブを作製し、この空隙には何も充填されていない太繊維ウエブを不織布、つまりガス拡散電極用基材(平均繊維径:800nm、目付:23g/m
2、厚さ:108μm、電気抵抗:23mΩ・cm
2、空隙率:88%、カーボンブラックの含有量:40mass%)とした。
【0086】
この導電性太繊維はカーボンブラックを繊維内部に含有するとともに、カーボンブラックの一部が繊維表面から露出した状態にあり、導電性太繊維同士は集積時に結合した状態にあった。なお、静電紡糸条件は次の通りとした。
【0087】
電極:金属性ノズル(内径:0.33mm)とステンレスドラム
吐出量:2g/時間
ノズル先端とステンレスドラムとの距離:10cm
印加電圧:15kV
温度/湿度:25℃/30%RH
【0088】
(比較例2)
第2紡糸溶液を用いたこと以外は比較例1と同様にして、連続した導電性細繊維のみからなる細繊維ウエブを作製し、この空隙には何も充填されていない細繊維ウエブを不織布、つまりガス拡散電極用基材(平均繊維径:300nm、目付:25g/m
2、厚さ:110μm、電気抵抗:24mΩ・cm
2、空隙率:87%、カーボンブラックの含有量:40mass%)とした。
【0089】
この導電性細繊維はカーボンブラックを繊維内部に含有するとともに、カーボンブラックの一部が繊維表面から露出した状態にあり、導電性細繊維同士は集積時に結合した状態にあった。
【0090】
(平均流量孔径の測定)
多孔性材料自動細孔径分布測定システム(パームポロメーター;ポーラスマテリアル社)を用い、測定液体として表面エネルギー15.7dyn/cm標準液を用いて、実施例1及び比較例1〜2のガス拡散電極用基材の平均流量孔径を測定した。この結果は表1に示す通りであった。
【0091】
【表1】
【0092】
<発電性試験>
エチレングリコールジメチルエーテル10.4gに対して、市販の白金担持炭素粒子(石福金属(株)製、炭素に対する白金担持量40質量%)を0.8g加え、超音波処理によって分散させた後、電解質樹脂溶液として、市販の5質量%ナフィオン溶液(米国シグマ・アルドリッチ社製、商品名)4.0gを加え、更に超音波処理により分散させ、更に攪拌機で攪拌して、触媒ペーストを調製した。
【0093】
次いで、この触媒ペーストを25cm
2の支持体(商品名:ナフロンPTFEテープ、ニチアス(株)製、厚さ0.1mm)に塗布し、熱風乾燥機によって60℃で乾燥し、当該支持体に対する白金担持量が0.4mg/cm
2の触媒層を作製した。
【0094】
他方、固体高分子膜として、Nafion NRE−212CS(商品名、米国デュポン社製)を用意した。この固体高分子膜の両面に、前記触媒層を夫々転写して積層した後、温度135℃、圧力2.6MPa、時間10分間の条件でホットプレスにより接合し、電極面積25cm
2の固体高分子膜−触媒層接合体を作製した。
【0095】
そして、前記固体高分子膜−触媒層接合体を用いて膜−電極接合体(MEA)を作製した。つまり、実施例1又は比較例1〜2のガス拡散電極用基材を前記固体高分子膜−触媒層接合体の両面に配置した後、ホットプレスによって、膜−電極接合体(MEA)をそれぞれ作製した。
【0096】
その後、締め付け圧1.5N・mで固体高分子形燃料電池セル『As−510−C25−1H』(商品名、エヌエフ回路設計ブロック(株)製)にそれぞれ組み付け、それぞれの発電性能を評価した。
【0097】
この標準セルは、バイポーラプレートを含み、膜−電極接合体(MEA)の評価試験に用いるものである。発電は燃料極側に水素ガス利用率70%、空気極側に空気ガス利用率45%を供給し、セル温度は80℃、バブラー温度80℃のフル加湿条件で、電位−電流曲線を測定した。この結果は表2に示す通りであった。
【0098】
【表2】
【0099】
表2の結果から、実施例1の電極基材を用いた燃料電池は、比較例1〜2の電極基材を用いた燃料電池と比べて、電流密度2.0A/cm
2時における電圧が高いものであった。このことから、本発明の導電性細繊維と導電性太繊維とが混在する混在領域を有する不織布を備えている電極基材は、多量の水が生成される状況下においても、排水性及びガス拡散性を維持でき、発電性能の優れる燃料電池を作製できることがわかった。
【0100】
<リーク電流評価>
前記<発電性試験>で調製した、実施例1又は比較例1〜2の電極基材を用いた膜−電極接合体(MEA、電極面積25cm
2)を、カーボンプレートで挟み、積層方向に2MPの圧力で締結し、セル単位をそれぞれ作製した。次いで、これらセル単位に対して0.2Vの電圧を印加し、リーク電流をそれぞれ測定した。その結果、全ての膜−電極接合体において、リーク電流は0.5mA以下であった。
【0101】
同様に、前記<発電性試験>後の膜−電極接合体に対しても、リーク電流を測定したが、リーク電流は0.5mA以下で、発電前後でのリーク電流の増加は確認されなかった。これらの結果から、本発明の電極基材は固体高分子膜を損傷しないことがわかった。