(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら、本発明にかかる実施の形態を詳細に説明する。
以下説明する実施形態は、航空機1に装備される防氷装置50の動作を制御する手順について二つの形態を含んでいるが、防氷システム10としての基本的な構成は共通している。そこで、はじめに防氷システム10の構成について説明し、その後に防氷装置50の制御手順について、二つの形態を順に説明する。
【0012】
[防氷システムの構成]
図1及び
図2に示される航空機1の防氷システム10は、操縦士の指令に従って、防氷装置50の動作を制御する。
防氷システム10は、防氷対象物、例えば、
図1に示される航空機1の主翼3(3R,3L)の前縁やエンジン4(4R,4L)の空気取り入れ口に着氷するのを防止する。
防氷システム10は、
図2に示すように、スイッチ20と、着氷検出器30と、制御装置40と、防氷装置50と、高度計70と、表示器80を備える。
制御装置40は、スイッチ20により選択された動作モードに基づいて、防氷装置50の動作を制御する。例えば、制御装置40は、着氷検出器30から取得する信号を参照して、防氷装置50の動作を制御する。または、制御装置40は、航空機1に設けられる高度計70から取得する信号を参照して、防氷装置50の動作を制御する。
【0013】
スイッチ20は、手動運転モード(以下、ONモードともいう)、自動運転モード(以下、AUTOモードともいう)、及び、停止モード(以下、OFFモードともいう)の3つの動作モードからいずれかを選択できるように構成されている。
【0014】
ONモードは、操縦士の操作によりスイッチ20を介して選択されている間、防氷装置50を継続して運転するモードである。AUTOモードは、着氷検出器30の検出結果に基づいて、防氷装置50を運転及び停止させるモードである。OFFモードは、それが選択されると、防氷装置50の運転が停止されるモードである。すなわち、ONモードまたはAUTOモードが選択されているときにOFFモードに選択が切り替えられると、防氷装置50の運転は停止される。
操縦士は、スイッチ20を操作することにより、3つのモードから自身が望む防氷装置50の動作モードを選択する。スイッチ20において選択された動作モードに対応する信号(以下、モード信号ということもある)は、制御装置40に伝達される。スイッチ20は、例えば、回転する位置に応じてONモード、AUTOモード及びOFFモードが選択できるダイヤル式のものが用いられる。
【0015】
着氷検出器30は、それ自体に着氷が生じたことを検出する機器である。着氷検出器30は、それ自体への着氷の有無を特定する信号(以下、着氷検知信号ということもある)を制御装置40に伝達する。この信号は、AUTOモードのときに、防氷装置50を作動させるか否かの判断に用いられる。
着氷検出器30は、航空機1の胴体2の左右に一つずつ設けられており、各々独立して着氷を検出するので、検出結果も独立して制御装置40に伝えられる。
着氷検出器30は、様々なものを適用することができ、例えば、着氷の有無による固有振動数の変動に基づく着氷検出器、着氷の有無による電極間の静電容量の変動に基づく着氷検出器、その他の公知の検出器を用いることができる。
【0016】
制御装置40は、スイッチ20で選択された動作モードに対応するモード信号に基づいて、以下説明するように、防氷装置50に指令を送る。
制御装置40は、ONモードに対応する信号(以下、ONモード信号ということもある)を取得すると、着氷検出器30からの着氷検知信号の如何にかかわらず、防氷装置50に運転を指令する信号(以下、ON指令信号ということもある)を送る。
また、制御装置40は、AUTOモード信号を取得すると、着氷検出器30からの着氷検知信号に基づいて、防氷装置50を運転させるか否かの判断をする。つまり、制御装置40は、着氷が生じている旨の着氷検知信号を取得すると、防氷装置50に運転を指令するON指令信号を送る。一方、制御装置40は、着氷が生じていない旨の着氷検知信号を取得すると、防氷装置50に運転停止を指令する信号(以下、OFF指令信号ということもある)を送る。すなわち、防氷装置50が運転している場合、その運転が停止される。また、防氷装置50が停止している場合には、そのまま停止が継続される。
また、制御装置40は、OFFモードに対応する信号(以下、OFFモード信号ということもある)を取得すると、着氷検出器30からの着氷検知信号の如何にかかわらず、防氷装置50に運転停止を指令するOFF指令信号を送る。
【0017】
また、制御装置40は、高度計70から航空機1の飛行高度に関する情報を取得する。飛行高度情報は、制御装置40に接続される表示器80に表示されることで操縦士に提供されるとともに、第2実施形態において、防氷装置50の動作制御に用いられる。制御装置40は、操縦士によって選択されている動作モード、つまりONモード、AUTOモード及びOFFモードを表示器80に表示させる。表示器80は、航空機1の操縦室90に設けられる。
【0018】
防氷装置50は、防氷対象物に着氷が生じることを防ぐ装置であり、主翼3及びエンジン4に設けられる。防氷装置50は、制御装置40から伝達される、各動作モードに対応する指令信号、つまり、ON指令信号またはOFF指令信号に基づいて動作する。
防氷装置50は、その目的を達成できる限り、その構成は任意であり、例えば、エンジンの抽気を利用して防氷対象物への着氷を防ぐ装置を適用することができる。
【0019】
[防氷システム10の動作について]
以上の構成を備える防氷システム10の動作について説明する。
操縦士は、機外の湿度、気温等の情報から、防氷装置50の運転が必要と判断した場合には、スイッチ20を操作してONモードを選択する。そうすると、ONモード信号を取得した制御装置40は、防氷装置50にON指令信号を送る。
操縦士は、防氷装置50の運転が不要と判断している場合には、スイッチ20を操作してOFFモードを選択する。そうすると、OFFモード信号を取得した制御装置40は、防氷装置50にOFF指令信号を送る。
また、操縦士は、防氷装置50の運転要否を防氷システム10が判断することを望む場合には、スイッチ20を操作してAUTOモードを選択する。そうすると、AUTOモード信号を取得した制御装置40は、着氷検出器30からの着氷検知信号を参照して、防氷装置50にON指令信号またはOFF指令信号を送る。
なお、操縦士によって選択された動作モードは、表示器80に表示される。
【0020】
[第1実施形態]
初めに、防氷装置50の制御手順に関する第1実施形態を、
図3を参照して説明する。第1実施形態は、例えば、操縦士が一旦、離陸前に防氷装置50の動作モードを設定した後に、スイッチ20の信号系統が故障することをも考慮して、防氷装置50を適切に動作させることができる。
なお、スイッチ20が故障するとは、操縦士がスイッチ20により選択した動作モードに従って、制御装置40に対し、対応するモード信号が適切に伝達されないことを言う。ここで、スイッチ20の故障は、例えば、データバス100(
図2)を介して取得したスイッチ20の接点情報と、自己が保持している正常な接点情報とを制御装置40が比較することにより、故障の有無を判定する。
したがって、例えば、OFFモードが選択されていた場合において、スイッチ20が故障していると、正しい接点情報がデータバス100から制御装置40に送られないため、操縦士の判断によりONモードに切り替えようとしても、モード信号が適切に伝達されないため防氷装置50を運転することができない。
【0021】
図3に示すように、操縦士は、スイッチ20を介してONモード、OFFモードおよびAUTOモードからいずれかの動作モードを選択する(S201)。また、制御装置40は、スイッチ20に故障が生じたか否かを判定する(S203,S207,S211)。
【0022】
[ONモード]
まず、操縦士がONモードを選択した場合の制御手順について説明する。
操縦士がONモードを選択した場合、制御装置40は、スイッチ20やその信号系統などに故障が検出されない限り、防氷装置50がONモードで運転されるように制御する(S203 N)。すなわち、スイッチ20から取得したONモード信号に基づいて、防氷装置50に対して運転を指令するON指令信号を送る。そして、制御装置40は、操縦士のスイッチ操作による動作モードの切り替えが行われない限り、故障の有無を検知しながら、ONモードを維持する(S205 N)。また、操縦士がスイッチ20を操作して動作モードの切り替えを行うと(S205 Y)、制御装置40は、選択された動作モード(OFFモード又はAUTOモード)における制御手順(後述)を実行する。
一方、制御装置40は、スイッチ20が故障したことを検出した場合(S203 Y)、防氷装置50の動作モードをONモードからAUTOモードに切り替えて、AUTOモードにおける制御手順を実行する。この場合、表示器80には、操縦士が選択した動作モード(ONモード)ではなく、制御装置40により切り替えられた動作モード(AUTOモード)が表示される。
【0023】
[AUTOモード]
次に、AUTOモードが選択されている場合の制御手順について説明する。
操縦士がAUTOモードを選択した場合、制御装置40は、スイッチ20やその信号系統などに故障が検出されない場合、防氷装置50がAUTOモードで運転されるよう制御する(S203 N)。すなわち、着氷検出器30から取得する着氷検知信号を参照ながら、防氷装置50にON指令信号またはOFF指令信号を送り、その動作を制御する。そして、制御装置40は、操縦士のスイッチ操作による動作モードの切り替えが行われない限り、故障の有無を検知しながら、AUTOモードを維持する(S207 N)。また、操縦士がスイッチ20を操作して動作モードの切り替えを行うと(S207 Y)、制御装置40は、選択された動作モード(ONモード又はOFFモード)における制御手順を実行する。
また、スイッチ20が故障したことを検出した場合も、制御装置40は、AUTOモードにより、防氷装置50を運転制御する(S207 Y)。
【0024】
[OFFモード]
次に、OFFモードが選択されている場合の制御手順について説明する。
操縦士がOFFモードを選択した場合、制御装置40は、スイッチ20やその信号系統などに故障が検出されない場合、防氷装置50がOFFモードで運転されるよう制御する(S211 N)。すなわち、スイッチ20から取得したOFFモード信号に基づいて、防氷装置50に対して運転停止を指令するOFF指令信号を送る。
そして、制御装置40は、操縦士のスイッチ操作による動作モードの切り替えが行われない限り、故障の有無を検知しながら、OFFモードを維持する(S213 N)。また、操縦士がスイッチ20を操作して動作モードの切り替えを行うと(S213 Y)、制御装置40は、選択された動作モード(ONモード又はAUTOモード)における制御手順を実行する。
一方、制御装置40は、スイッチ20が故障したことを検出した場合(S211 Y)、防氷装置50の動作モードをOFFモードからAUTOモードに切り替えて、AUTOモードにおける制御手順を実行する。この場合、表示器80には、操縦士が選択した動作モード(OFFモード)ではなく、制御装置40により切り替えられた動作モード(AUTOモード)が表示される。
【0025】
以上説明した第1実施形態の防氷システム10によれば、特に、防氷装置50の動作モードがONモード又はOFFモードに選択されている間に、スイッチ20の故障が検出されると、動作モードをAUTOモードに切り替える点に特徴を有する。そうすることにより、スイッチ20が故障することに伴い、相対的に信頼性が高まった着氷検出器30の着氷検知信号に基づいて防氷装置50の動作を確実に制御することができるため、航空機の機体防氷機能に関する非常時の安全性を一層向上することができる。
なお、防氷装置50がONモードで動作していた場合には、そのままONモードで動作し続ける選択肢もある。しかし、この選択肢の場合には、必要のないときにも防氷装置50を機能させることになる場合もある。例えば高温のエンジンの抽気を用いて防氷を行なうものとすれば、防氷対象物が高温に曝される機会が増えることになるが、これは防氷対象物の熱疲労の観点からすると好ましいことではない。そこで、本実施形態では、ONモードで動作している場合でも、AUTOモードに切り替える。
【0026】
[第2実施形態]
次に、
図4を参照して、防氷装置50の制御手順に関する第2実施形態を説明する。
第2実施形態は、防氷装置50の動作モードとしてONモード又はOFFモードが選択されている場合において、スイッチ20に故障が生じたとしても、所定の飛行条件を満たすまでは、AUTOモードに切り替えず、ONモード又はOFFモードを維持する。第2実施形態は、この点を除いて、第1実施形態と同様の制御手順を備えているので、以下の説明では、第1実施形態との相違点を中心に説明する。以下、航空機1が離陸する前に、操縦士によりONモード又はOFFモードが選択されている場合を説明する。
【0027】
[ONモード]
操縦士が離陸前にONモードを選択していた場合において、スイッチ20が故障したことを制御装置40が検出しても(S303 Y)、速やかに防氷装置50の動作モードをONモードからAUTOモードに切り替えない。高度計70から取得する飛行高度情報に基づき、制御装置40は、航空機1が所定の高度条件に達している否かを判断している(S305)。
航空機1の飛行高度が所定の高度条件に達していなければ、防氷装置50の動作モードは、離陸前に操縦士が選択したONモードを維持し、表示器80にはONモードが表示される(S305 N)。しかし、飛行高度が所定の高度条件に達すると、制御装置40は、防氷装置50の動作モードをONモードからAUTOモードに切り替えるとともに、表示器80にはAUTOモードが表示される(S305 Y)。
ここで、飛行高度を動作モードの切り替えの条件としているのは、飛行高度が低い範囲では、航空機1に着氷する環境が離陸前と同等と解されるためである。なお、所定の高度条件として、例えば、高度0〜400ftの範囲を設定することが望ましい。その理由は、この高度範囲は、地上(離陸前)と比較して着氷条件の変化が少なく、また、操縦士の操縦負担が比較的大きい範囲であるためである。
なお、制御装置40が故障を検知した後に、飛行高度の条件を判断しているが、これの順番は本発明を限定するものではない。
【0028】
[OFFモード]
また、操縦士が離陸前にOFFモードを選択していた場合も、ONモードと同様に制御装置40は動作する。
すなわち、スイッチ20が故障したことを制御装置40が検出しても(S303 Y)、速やかに防氷装置50の動作モードをONモードからAUTOモードに切り替えない。高度計70から取得する飛行高度情報に基づき、制御装置40は、航空機1が所定の高度条件に達している否かを判断する(S315)。
そして、航空機1の飛行高度が所定の高度条件に達していなければ、防氷装置50の動作モードは、離陸前に操縦士が選択したOFFモードを維持し、表示器80にはONモードが表示されている(S315 N)。しかし、飛行高度が所定の高度条件に達すると、制御装置40は、防氷装置50の動作モードをOFFモードからAUTOモードに切り替えるとともに、表示器80にはAUTOモードが表示される(S315 Y)。
【0029】
以上のONモードおよびOFFモードにおける、切り替え操作はラッチ回路により行うことができる。
なお、離陸前にAUTOモードが選択されている場合には、制御装置40は、第1実施形態と同様に防氷装置50の作動を制御する。
【0030】
第2実施形態によれば、離陸前に操縦士が動作モードをONモード又はOFFモードに設定した後であっても、離陸後一定の高度に達するまでの間は、スイッチ20の故障が検知された場合でも、防氷装置50の動作モードはAUTOモードに切り替えることなく、離陸前に選択したONモード又はOFFモードを維持する。つまり、第2実施形態は、一定の高度に達するまで、離陸前の操縦士の意思を優先させながら飛行することができるため、防氷に関する安全性をより高めることができる。また、巡航時と比べて不安定な飛行環境にある離陸高度においても、機体操縦の安定性を確保することができる。
さらに、一定の高度に達するまでは、表示器80には、離陸前に操縦士が設定した動作モードと同じものが表示されるため、操縦士は違和感を持つことなく、安心して操縦できる。
【0031】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
例えば、第2実施形態における所定の飛行条件は飛行高度以外にも、離陸後の飛行時間を所定の飛行条件に採用することができる。または、飛行速度を所定の飛行条件に採用することもできる。
また、第2実施形態は、離陸前にONモード又はOFFモードが選択されている例を説明したが、航空機1の飛行中のいずれのタイミングにおいても適用できる。