特許第6193729号(P6193729)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6193729-風洞装置 図000002
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  • 特許6193729-風洞装置 図000004
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193729
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】風洞装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 9/04 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   G01M9/04
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-228758(P2013-228758)
(22)【出願日】2013年11月1日
(65)【公開番号】特開2015-87366(P2015-87366A)
(43)【公開日】2015年5月7日
【審査請求日】2016年9月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000127570
【氏名又は名称】株式会社エー・アンド・デイ
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幸久
(72)【発明者】
【氏名】中西 梨奈
【審査官】 福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−221202(JP,A)
【文献】 特開平11−166879(JP,A)
【文献】 特開平10−293083(JP,A)
【文献】 特開2001−235393(JP,A)
【文献】 特開2006−208115(JP,A)
【文献】 実開昭51−131253(JP,U)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0089167(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアを送風するブロアと、
前記ブロアからのエアが貯留されるとともに圧力調節手段を備えたチャンバと、
前記チャンバに端部が接続される複数の管部材と、
前記複数の管部材にそれぞれ設けられ、該管部材を流れるエアの風量を調節する複数の弁部材と、
前記弁部材を制御することによって、前記チャンバから前記管を通って流れるエアの風量を制御する制御手段と、を備え、
前記ブロアから送風されたエアは、前記チャンバで圧力調節された後、前記複数の管部材を通り、前記弁部材によって風量が調節されて送風されることを特徴とする風洞装置。
【請求項2】
筒状体の内部が格子状に分割されることによって複数の筒状の格子空間が形成された格子ユニットを備え、
前記複数の格子空間には、前記複数の管部材の先端が接続されることを特徴とする請求項1に記載の風洞装置。
【請求項3】
前記制御手段には、前記各格子空間から吹き出すエアの風量の目標値が、制御パターンとして入力され、該制御パターンに応じて、前記複数の弁部材が同時に制御されることを特徴とする請求項1または2に記載の風洞装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は風洞装置に係り、特にエンジンや車の試験で用いられる風洞装置に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジン試験装置としてエンジンベンチが知られている。エンジンベンチは、供試エンジンが所定の性能を備えているかを評価する装置であり、供試エンジンは台上に取り付けられ、その出力軸がシャフトを介してダイナモメータに連結される。そして、ダイナモメータでエンジンの出力軸の回転力を吸収しながら、トルクや回転数を計測することによって、エンジンの性能が測定・評価される。
【0003】
このようなエンジンベンチでは、供試エンジンやラジエータ等を冷却するために風洞装置が使用される。風洞装置は、ブロアから冷却対象に向けてエアを吹き出して、冷却対象の周囲を送風状態にすることによって、冷却対象を冷却している。近年、エンジンベンチ用の風洞装置では、車の走行時における送風状態を再現することが望まれている。
【0004】
風洞装置は、所望の風量分布を再現できるように、従来から様々な提案が成されている。たとえば特許文献1の風洞装置は、ケーシング内が格子状に分割されるとともに、各格子空間にファンが設けられており、各ファンの回転数を個別に制御することによって、各格子空間からの風量を調節することができる。また、特許文献2の風洞装置は、ケーシング内が格子状に区画されるとともに各格子空間に開閉弁が設けられており、この開閉弁の開度を個別に制御することによって、各格子空間からの風量が調節される。特許文献3の風洞装置は、ケーシングが格子状に区画されるとともに、噴出し口に多数の可動翼板が設けられている。そして、多数の可動翼板を操作することによって全体の風量分布が調節される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公平5-64728
【特許文献2】特開平11-160195
【特許文献3】特開2012-112821
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の風洞装置は、冷却対象の周囲に所望の風量分布を正確に形成することが非常に難しいという問題があった。たとえば特許文献1の風洞装置は、各格子空間の内部にファンを設けているため、各格子空間の内部において既に風量分布のムラが発生している。このため、各格子空間の内部を所望の風量分布にすることができないので、全体としても所望の風量分布にすることができない。さらに、特許文献1の風洞装置は、各格子空間の内部にファンを設けるため小型化することができず、エンジンベンチ用には向かないという問題があった。
【0007】
特許文献2や特許文献3の風洞装置は、各格子空間の風量を個別に独立して調節することが難しいため、全体を所望の風量分布をすることができないという問題があった。たとえば、1つの格子空間の風量を弁等で調節すると、その影響で周囲の格子空間も風量が勝手に増減してしまうため、全体の風量分布も変化してしまう。そこで、従来の風洞装置は、弁や可動翼板を開閉した後に風量分布を計測し、所望の風量分布になっていない箇所の弁や可動翼板を再び開閉して風量分布を計測し、これを繰り返していた。このため、全体が所望の風量分布になるまでに多大な時間と労力を要するという問題があった。
【0008】
本発明はこのような事情に鑑みて成されたものであり、所望の風量分布を簡単に作ることができる風洞装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1に記載の発明は前記目的を達成するために、エアを送風するブロアと、前記ブロアからのエアが貯留されるとともに圧力調節手段を備えたチャンバと、前記チャンバに端部が接続される複数の管部材と、前記複数の管部材にそれぞれ設けられ、該管部材を流れるエアの風量を調節する複数の弁部材と、前記弁部材を制御することによって、前記チャンバから前記管を通って流れるエアの風量を制御する制御手段と、を備え、前記ブロアから送風されたエアは、前記チャンバで圧力調節された後、前記複数の管部材を通り、前記弁部材によって風量が調節されて送風されることを特徴とする風洞装置を提供する。
【0010】
本発明によれば、ブロアからのエアをチャンバで一定圧力に調節した後、複数の管部材に分けて風量を調節し、送風するようにしたので、管部材からは一定圧力のエアが所望の風量で安定して供給される。したがって、所望の風量分布を簡単に作成することができる。
【0011】
請求項2に記載の発明は請求項1において、筒状体の内部が格子状に分割されることによって複数の筒状の格子空間が形成された格子ユニットを備え、前記複数の格子空間には、前記複数の管部材の先端が接続されることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、各管において弁部材で風量をそれぞれ調節した後、各格子空間に供給するようにしたので、各格子空間に供給されたエアは、格子空間の内部において一方向に向かって整流状態のまま流れる。これにより、各格子空間から一定圧力のエアが整流状態のまま吹き出されるので、格子ユニットの前方において所望の風量分布を形成することができる。
【0013】
請求項3に記載の発明は請求項1または2の発明において、前記制御手段には、前記各格子空間から吹き出すエアの風量の目標値が、制御パターンとして入力され、該制御パターンに応じて、前記複数の弁部材が同時に制御されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、チャンバによって一定圧力に調節したエアを複数の管部材に分けて風量を調節して送風するようにしたので、所定の圧力のエアを所望の風量で安定して供給することができ、所望の風量分布を簡単に作成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施の形態の風洞装置の構成を示す模式図
図2】格子ユニットの正面図
図3】制御パターンを説明する説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面に従って本発明に係る風洞装置の好ましい実施形態について説明する。図1は、本発明が適用された風洞装置10の構成を示す模式図である。また、図2は格子ユニットの吹き出し口側から見た正面図である。なお、本実施の形態では、ラジエータ11を冷却するための風洞装置10の例で説明するが、冷却対象は、ラジエータ11に限定するものではなく、供試エンジンなどであってもよい。
【0017】
図1に示すように、風洞装置10は主として、格子ユニット12と、管14と、チャンバ16と、ブロア18とで構成される。ブロア18は、その吹き出し口がチャンバ16に接続されており、ブロア18から吹き出されたエアがチャンバ16に流入されるようになっている。
【0018】
チャンバ16は、ブロア18の吹き出し風量に対して十分な容量を有する大きさに形成されるとともに、圧力調整用のリリーフバルブ22が設けられている。このリリーフバルブ22によってチャンバ16の内部が一定の圧力に維持される。したがって、ブロア18からチャンバ16内に流入したエアは、チャンバ16内に貯留され、一定の圧力に維持される。
【0019】
チャンバ16には複数の管14が接続される。管14は、本実施の形態の例では後述の格子空間20と同じ数だけ設けられており、その先端はそれぞれ格子空間20に接続されている。したがって、チャンバ16内のエアは、複数の管14に分かれて流れた後、格子ユニット12の各格子空間20に供給される。
【0020】
格子ユニット12は、全体が角筒状に形成されており、その内部は、複数の平行な縦板30と複数の平行な横板32によって格子状に区切られている。これにより、図2に示すような複数の格子空間20が形成される。この格子空間20は、角筒状に形成されており、その一方側(ラジエータ11側)が開口されている。また、反対側の端面には、管14の先端がそれぞれ接続されている。格子空間20と管14は略同じ大きさで形成されており、管14から格子空間20にエアが流れる際にエアが拡張や圧縮されることなく、流れるようになっている。
【0021】
ところで、前述の管14にはそれぞれ、風量調節用のバルブ24と流量計26が設けられている。バルブ24は、各管14を流れる流量を調節するバルブであり、制御装置28によって制御される。一方、流量計26は、各管14を流れるエアの流量を測定するセンサであり、計量値を示す信号を制御装置28に出力する。制御装置28は、計量値に応じてバルブ24を制御し、これによって、各管14を流れる風量、すなわち各格子空間20に流れるエアの風量が制御される。
【0022】
制御装置28には予め、バルブ24の目標値が入力される。この目標値は、バルブ24ごとに入力することができ、さらには、複数のバルブ24の目標値が制御パターンとして入力できるようになっている。たとえば、全てのバルブ24を同じ開度に制御して均一の風量分布を作る制御パターンや、中央の格子空間20に対応するバルブ24を他より小さい開度に制御して中央の風量を小さくする制御パターンなどを選択できるようになっている。制御装置28は、これらの制御パターンが選択されると、複数のバルブの開度を同時に制御する。これにより、バルブに対応した格子空間20の風量が同時に調節される。
【0023】
図3(a)、図3(b)は制御パターンの例を示している。ここで、図3の縦方向に上からA、B、C…とし、横方向に左からa、b、c…とする。たとえば、上から2番目で左から3番目の格子空間20は、格子空間20Bcとする。また、図3において、「×」は、対応するバルブ24の全閉を意味し、無印は全開を意味し、「/」はそれ以外(部分的に閉じた状態)を意味している。
【0024】
図3(a)に示す制御パターンでは、格子空間20Cdに対応するバルブ24が全閉であり、その周囲の格子空間20Bc、20Bd、20Be、20Cc、20Ce、20Dc、20Dd、20Deに対応するバルブの開度を1/2としている。これにより、中央部の風量が小さく、且つ、その周囲は離れるほど風量が大きくなる風量分布を作成することができる。したがって、ラジエータ11を中央に配置した場合には、ラジエータ11の周囲で風量が大きい状況を再現することができる。
【0025】
図3(b)に示す制御パターンでは、中央下部の格子空間20Dd、20Edに対応するバルブ24が1/3の開度であり、上部の格子空間20Aa、20Ab、20Ac、20Ae、20Af、20Agに対応するバルブ24が1/3の開度である。これにより、中央下部と上部の風量が小さくなる。したがって、この位置に遮蔽物がある場合の状況を再現することができる。
【0026】
なお、バルブの制御パターンは上述した例に限定されるものではなく、右側または左側だけ風量を大きくするパターンや、一部分のみの風量を小さくするパターンなど、様々な対応が可能である。これにより、ラジエータ11の一部のみに大きな風量のエアが当たる場合や、逆に、ラジエータ11の一部のみにエアが当たりにくい状態を再現することができる。
【0027】
次に上記の如く構成された風洞装置10の作用について説明する。上述した風洞装置10は、ブロア18を駆動することによってチャンバ16にエアが供給される。チャンバ16にはリリーフバルブ22が設けられているため、チャンバ16内は常に略一定の圧力に維持される。チャンバ16内のエアは複数の管14に分かれた後、バルブ24によって流量制御され、各格子空間20に流れる。その際、チャンバ16で一定圧力に維持されたエアが流れるので、格子空間20の内部では、エアは一方向に向けて整流状態のまま流れる。また、各格子空間20にブロア18やバルブ24などの弁部材がないので、格子空間20内のエアはその整流状態のまま外部に吹き出される。したがって、各格子空間20からラジエータ11に向けて、整流状態のエアが吹き出される。全ての格子空間20から整流状態のエアが同一方向に向けて吹き出されるので、隣接する格子空間20からのエアが互いに干渉することなく、ラジエータ11に到達する。したがって、ラジエータ11の周囲に所望の風量分布を形成することができる。
【0028】
なお、上述した実施形態は、管14と同数の格子空間20を設けたが、これに限定するものではなく、たとえば、一つの格子空間20を大きく形成し、その格子空間20に複数の管14を接続するようにしてもよい。
【0029】
また、上述した実施形態は、格子ユニット12を設けた例であるが、これに限定されるものではなく、格子ユニット12を設けずに、複数の管14の先端を平行に並べて配置するようにしてもよい。ただし、格子空間12を用いた方が冷却対象まで整流状態が得られやすくなり、所望の風量分布を形成しやすくなる。
【符号の説明】
【0030】
10…風洞装置、11…ラジエータ、12…格子ユニット、14…管、16…チャンバ、18…ブロア、20…格子空間、22…リリーフバルブ、24…バルブ、26…流量計、28…制御装置、30…縦の仕切り板、32…横の仕切り板
図1
図2
図3