(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193741
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】車両用ディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 55/225 20060101AFI20170828BHJP
F16D 65/02 20060101ALI20170828BHJP
F16D 65/095 20060101ALI20170828BHJP
F16D 65/097 20060101ALI20170828BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20170828BHJP
F16D 125/06 20120101ALN20170828BHJP
【FI】
F16D55/225
F16D65/02 B
F16D65/095 K
F16D65/097 C
F16D65/095 D
F16D65/095 E
F16D65/18
F16D125:06 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-242203(P2013-242203)
(22)【出願日】2013年11月22日
(65)【公開番号】特開2015-102135(P2015-102135A)
(43)【公開日】2015年6月4日
【審査請求日】2016年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光
(72)【発明者】
【氏名】波多腰 弦一
【審査官】
山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−184728(JP,A)
【文献】
特開2007−211808(JP,A)
【文献】
特開2005−330978(JP,A)
【文献】
特開2007−107591(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 55/225
F16D 65/02
F16D 65/095
F16D 65/097
F16D 65/18
F16D 125/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に固設されるキャリパブラケットに支持され、ディスクロータを跨いで配置されるキャリパボディの一対の作用部に、ディスクロータ側が開口した複数のシリンダ孔を対向してそれぞれ形成し、前記各シリンダ孔に、開口部を前記ディスクロータ側に向けてコップ状のピストンをそれぞれ内挿すると共に、ディスクロータの両側に一対の摩擦パッドを配置し、該摩擦パッドの背面に板状のシム板を取り付けた車両用ディスクブレーキにおいて、
前記シム板は、前記複数のシリンダ孔にそれぞれ内挿されたピストンのうち、車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンの内側に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出する押圧片を形成し、該押圧片を、前記車両前進時における最もディスク回出側に配置したピストンのディスク回入側の内周面に当接させて、前記摩擦パッドをディスク回出側に付勢し、
前記押圧片が、摩擦パッドのディスク回出側でピストンの内周面に当接することにより、摩擦パッド全体をディスク回出側に付勢する
ことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
車体に固設されるキャリパブラケットに支持され、ディスクロータを跨いで支持されるキャリパボディの作用部に複数のシリンダ孔を、反作用部に前記シリンダ孔に対応して複数の反力爪をそれぞれ形成し、前記各シリンダ孔に、開口部をディスクロータ側に向けてコップ状のピストンをそれぞれ内挿すると共に、ディスクロータの両側に一対の摩擦パッドを配置し、該摩擦パッドの背面に板状のシム板を取り付けた車両用ディスクブレーキにおいて、
作用部側に配置される前記シム板は、前記複数のシリンダ孔にそれぞれ内挿されたピストンのうち、車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンの内側に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出させて押圧片を形成し、該押圧片を、前記車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンのディスク回入側の内周面に当接させて、前記ディスクロータの作用部側の摩擦パッドをディスク回出側に付勢し、
反作用部側に配置される前記シム板は、前記車両前進時における最もディスク回出側に配置される反力爪と最もディスク回出側に配置される反力爪に隣接する反力爪との間に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出する押圧片を形成し、前記反作用部側に配置される前記シム板の押圧片を、最もディスク回出側に配置される反力爪に隣接する前記反力爪のディスク回出側面に当接させて、前記反作用部側の摩擦パッドをディスク回出側に付勢し、
前記作用部側の押圧片が、前記作用部側の摩擦パッドのディスク回出側でピストンの内周面に当接することにより、前記作用部側の摩擦パッド全体をディスク回出側に付勢すると共に、前記反作用部側の押圧片が、前記反作用部側の摩擦パッドの前記車両前進時における最もディスク回出側に配置される反力爪と該最もディスク回出側に配置される反力爪に隣接する反力爪との間で当接することにより、前記反作用部側の摩擦パッド全体をディスク回出側に付勢する
ことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
前記摩擦パッドと前記シム板との間に、断熱用のインシュレータを配置したことを特徴とする請求項1又は2記載の車両用ディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車や自動二輪車等に用いられる車両用ディスクブレーキに関し、詳しくは、摩擦パッドの背面にシム板を備えた車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディスクブレーキでは、摩擦パッドのガタ付きを防止するために、パッドスプリングによって、摩擦パッドを車両前進時におけるディスク回出側に付勢し、摩擦パッドの裏板のディスク回出側面を、キャリパボディ又はキャリパブラケットのいずれか一方に設けたトルク受け面に、常時、当接させるものがあった。このパッドスプリングとして、線材を螺旋状に折曲して形成し、中心部を摩擦パッドの裏板にリベットにて取り付けたものがあり、線材の先端側をピストンのディスク回入側の内周面に当接させることにより、摩擦パッドをディスク回出側に付勢していた(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭60−184728号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上述の特許文献1のものでは、パッドスプリングやリベットを使用することから部品点数が増加してコストが嵩み、また、螺旋状に形成したパッドスプリングをピストンの内周面に当接させるように組み付けるのに手間が掛かり、組み付け性が良くなかった。
【0005】
そこで本発明は、摩擦パッドのガタ付きを抑えると共に、コストの低減化と組み付け性の向上とを図ることができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキは、車体に固設されるキャリパブラケットに支持され、ディスクロータを跨いで配置されるキャリパボディの一対の作用部に、ディスクロータ側が開口した
複数のシリンダ孔
を対向してそれぞれ形成し、前記各シリンダ孔に、開口部を前記ディスクロータ側に向けてコップ状のピストンをそれぞれ内挿すると共に、ディスクロータの両側に一対の摩擦パッドを配置し、該摩擦パッドの背面に板状のシム板を取り付けた車両用ディスクブレーキにおいて、前記シム板は、
前記複数のシリンダ孔にそれぞれ内挿されたピストンのうち、車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンの内側に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出する押圧片を形成し、該押圧片を、
前記車両前進時における最もディスク回出側に配置したピストンのディスク回入側の内周面に当接させて、前記摩擦パッドをディスク回出側に付勢し、
前記押圧片が、摩擦パッドのディスク回出側でピストンの内周面に当接することにより、摩擦パッド全体をディスク回出側に付勢することを特徴としている。
【0009】
さらに、車体に固設されるキャリパブラケットに支持され、ディスクロータを跨いで支持されるキャリパボディの作用部に複数のシリンダ孔を、反作用部に前記シリンダ孔に対応して複数の反力爪をそれぞれ形成し、前記各シリンダ孔に、コップ状のピストンを開口部を前記ディスクロータ側に向けてそれぞれ内挿すると共に、ディスクロータの両側に一対の摩擦パッドを配置し、該摩擦パッドの背面に板状のシム板を取り付けた車両用ディスクブレーキにおいて、
作用部側に配置される前記シム板は、前記複数のシリンダ孔にそれぞれ内挿されたピストンのうち、車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンの内側に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出させて押圧片を形成し、該押圧片を、前記車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンのディスク回入側の内周面に当接させて、前記ディスクロータの作用部側の摩擦パッドをディスク回出側に付勢し、反作用部側に配置される前記シム板は、前記車両前進時における最もディスク回出側に配置される反力爪と最もディスク回出側に配置される反力爪に隣接する反力爪との間に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出する押圧片を形成し、前記反作用部側に配置される前記シム板の押圧片を、最もディスク回出側に配置される反力爪に隣接する前記反力爪のディスク回出側面に当接させて、前記反作用部側の摩擦パッドをディスク回出側に付勢し、前記作用部側の押圧片が、前記作用部側の摩擦パッドのディスク回出側でピストンの内周面に当接することにより、前記作用部側の摩擦パッド全体をディスク回出側に付勢すると共に、前記反作用部側の押圧片が、前記反作用部側の摩擦パッドの前記車両前進時における最もディスク回出側に配置される反力爪と該最もディスク回出側に配置される反力爪に隣接する反力爪との間で当接することにより、前記反作用部側の摩擦パッド全体をディスク回出側に付勢することを特徴としている。
【0010】
また、前記摩擦パッドと前記シム板との間に、断熱用のインシュレータを配置すると好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、シム板を摩擦パッドに取り付けるだけで、シム板に一体形成した押圧片により、摩擦パッドをディスク回出側に押圧させることから、組み付け性の向上を図ることができると共に、従来のようにパッドスプリングを用いることがないので、部品点数を増加させることがなく、コストの低減化を図ることができる。
【0012】
また、2ポットピストン対向型のディスクブレーキでは、押圧片をピストンのディスク回入側の内周面に当接させることにより、摩擦パッドをディスク回出側に良好に押圧させることができる。
【0013】
さらに、4ポット以上のピストン対向型のディスクブレーキでは、押圧片をいずれか1つのピストンのディスク回入側の内周面に当接させることにより、摩擦パッドをディスク回出側に良好に押圧させることができる。
【0014】
また、前記いずれか1つのピストンを車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンとしたことにより、押圧片が、摩擦パッドのディスク回出側でピストンの内周面に当接するので、摩擦パッド全体を効率的にディスク回出側に付勢することができる。
【0015】
また、シングルポットピンスライド型のディスクブレーキでは、作用部側の押圧片を、ピストンのディスク回入側の内周面に当接させると共に、反作用部側の押圧片を、ディスク回入側の反力爪のディスク回出側面に当接させることにより、摩擦パッドをディスク回出側に良好に押圧させることができる。
【0016】
さらに、2ポット以上のピンスライド型のディスクブレーキでは、作用部側の押圧片をいずれか1つの前記ピストンの内側に形成し、いずれか1つの前記ピストンのディスク回入側の内周面に当接させると共に、反作用部側の押圧片をいずれか1つの前記反力爪と、該いずれか1つの反力爪に隣接する反力爪の間に形成し、隣接する反力爪のディスク回出側面に当接させることにより、摩擦パッドをディスク回出側に良好に押圧させることができる。
【0017】
また、前記いずれか1つのピストンを、車両前進時における最もディスク回出側に配置されるピストンとし、作用部側の押圧片を、最もディスク回出側に配置されるピストンのディスク回入側の内周面に当接させると共に、前記いずれか1つの反力爪と、該いずれか1つの反力爪に隣接する反力爪とを、最もディスク回出側に配置される反力爪と、最もディスク回出側に配置される前記反力爪に隣接する反力爪とし、反作用部側の押圧片を、隣接する反力爪のディスク回出側面に当接させることにより、作用部側では、押圧片が、摩擦パッドのディスク回出側でピストンの内周面に当接し、反作用部側では、押圧片が、摩擦パッドのディスク回出側で前記隣接する反力爪のディスク回出側面に当接するので、摩擦パッド全体を効率的にディスク回出側に付勢することができる。
【0018】
さらに、摩擦パッドとシム板との間に、断熱用のインシュレータを配置することにより、ピストン側や反力爪側への制動熱の伝達を極力遮断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの一部断面正面図である。
【
図2】同じく車両用ディスクブレーキの背面図である。
【
図4】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの平面図である。
【
図7】本発明の一形態例を示す摩擦パッドとシム板の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1乃至
図7は本発明の車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図で、図中の矢印Aは、車両前進走行時のディスクロータの回転方向を示し、以下の説明で用いるディスク回入側と回出側とは、車両前進走行時の場合とする。
【0021】
この車両用ディスクブレーキ1は、図示しない車輪と一体に回転するディスクロータ2と、該ディスクロータ2の一側部で車体に固設されるキャリパブラケット3と、該キャリパブラケット3に一対のスライドピン4,5を介してディスクロータ軸方向へ移動可能に支持されるピンスライド型のキャリパボディ6と、前記ディスクロータ2の両側部に対向配置される一対の摩擦パッド7,7とを備え、各摩擦パッド7の背面には、シム板8が取り付けられている。
【0022】
キャリパブラケット3は、ディスクロータ2の一側部に沿って配設される板状部3aと、キャリパボディ6のディスクロータ回出側でディスクロータ2の外側を跨いで他側部方向へ突出するパッド支持腕3bとを備えている。板状部3aのディスク回入側端部には一方のスライドピン4が突設され、パッド支持腕3bの内部には、他方のスライドピン5を挿通させるピン孔3cが穿設される。さらに、パッド支持腕3bのキャリパボディ側には、トルク受け面3dをそれぞれ備えた一対のパッドガイド部3e,3eがディスクロータ2を挟んで設けられている。
【0023】
キャリパボディ6は、ディスクロータ2の一側部に配設される作用部6aと、ディスクロータ2の他側部に配置される反作用部6bと、これらをディスクロータ2の外側を跨いで連結するブリッジ部6cとを備えている。作用部6aのディスク回入側のディスク半径方向内側と、ディスク回出側のディスク半径方向外側とには、車体取付腕6d,6eがそれぞれ突設され、車体取付腕6eには、前記他方のスライドピン5が突設され、該他方のスライドピン5を前記キャリパブラケット3のピン孔3cに挿通すると共に、前記板状部3aに突設された一方のスライドピン4を車体取付腕6dに形成したピン収容孔(図示せず)に挿通することにより、キャリパボディ6がキャリパブラケット3にディスク軸方向に移動可能に支持されている。また、作用部6aと反作用部6bには、ディスクロータ2の外周面よりも外側位置に、ハンガーピン支持腕6f,6gがブリッジ部6cのディスク回入側面よりも突出して設けられており、両ハンガーピン支持腕6f,6gにハンガーピン9がディスクロータ2の外周を跨いでディスク軸方向に架設されている。
【0024】
作用部6aには、ディスクロータ側が開口した2つのシリンダ孔6h,6iがディスクロータ2側を開口して設けられ、また、反作用部6bには3つの反力爪6j,6k,6mがディスク周方向に離間して設けられている。各シリンダ孔6h,6iには、コップ状のピストン10a,10bが開口部をディスクロータ側に向けて移動可能にそれぞれ収容されており、該ピストン10a,10bとシリンダ孔6h,6iとの間には、液圧室11がそれぞれ画成されている。
【0025】
摩擦パッド7は、ディスクロータ2の側面に摺接するライニング7aと、キャリパブラケット3及びキャリパボディ6に保持される裏板7bとからなっており、ライニング7aは4つのブロックをディスク周方向に併設した構成になっている。裏板7bには、ブリッジ部6cの内側から、ディスク回入側及びディスク半径方向外側へ湾曲して突出する吊下げ片7cと、同じくブリッジ部6cの内側から、ディスク回出側に突出する耳片7dとが設けられている。摩擦パッド7,7は、吊下げ片7cの先端部にハンガーピン9を挿通し、耳片7dをパッドガイド部3eに収容し、作用部6aと反作用部6bとの間にディスクロータ2を挟んでディスク軸方向に移動可能に吊持される。また、裏板7bの背面には、インシュレータ12と、該インシュレータ12を覆う前記シム板8が取り付けられている。
【0026】
作用部側,反作用部側の各インシュレータ12は、断熱性に優れた材料、例えばセラミックスや金属,合成樹脂等を薄板に形成したものであって、裏板7bの吊下げ片7cの外縁形状に添った外縁形状を有した吊下げ部12aが設けられ、該吊下げ部12aにハンガーピン9が挿通される。また、インシュレータ12のディスク内周側及びディスク外周側の外縁部は、裏板7bのディスク内周側及びディスク外周側の外縁部と同一外縁部形状に形成される。
【0027】
作用部側,反作用部側の各シム板8は、制動時のブレーキ鳴きやライニング7aの偏摩耗を防止するものであって、熱伝導率が比較的小さなステンレス鋼等の金属製の薄板により形成され、裏板7bの吊下げ片7cの外縁形状に添った外縁形状を有した吊下げ部8aが設けられ、該吊下げ部8aにハンガーピン9が挿通される。各シム板8のディスク内周側及びディスク外周側の外縁部は、裏板7bのディスク内周側及びディスク外周側の外縁部と同一外縁部形状に形成されると共に、ディスク内周側及びディスク外周側の外縁部とディスク回出側の外縁部とには、複数の爪片8bが設けられている。
【0028】
また、作用部側のシム板8は、ディスク回出側に設けられるピストン10aの内側に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出する第1押圧片8c(本発明の押圧片)が形成され、反作用部側に配置されるシム板8は、ディスク回出側に設けられる反力爪6iと、該反力爪6iに隣接する反力爪6kとの間に配置される板材の一部を切り起こして、ディスク回入側に向けて漸次反ディスクロータ側に突出する第2押圧片8d(本発明の押圧片)が形成されている。
【0029】
インシュレータ12とシム板8とは、インシュレータ12を摩擦パッド7の裏板背面に重合し、さらにインシュレータ12の外側にシム板8を重ね合わせて、該シム板8の複数の爪片8bを裏板7bの外縁部に係着することにより、裏板7bに一体に装着される。インシュレータ12とシム板8とを装着した摩擦パッド7,7は、吊下げ片7cと吊下げ部8a,12aにハンガーピン9を挿通することによってディスク軸方向に移動可能に吊持される。
【0030】
さらに、作用部側の摩擦パッド7は、シム板8の第1押圧片8cをディスク回出側のピストン10aのディスク回入側の内周面10cに当接させることにより、ディスク回出側に付勢され、耳片7dのディスク回出側端面7eがトルク受け面3dに当接し、反作用部側の摩擦パッド7は、シム板8の第2押圧片8dを、反力爪6kのディスク回出側面6nに当接させることによりディスク回出側に付勢され、耳片7dのディスク回出側端面7eがトルク受け面3dに当接する。
【0031】
このように形成した車両用ディスクブレーキ1は、車両前進時における制動時に、昇圧された作動液が液圧室11へ供給されると、ピストン10a,10bがシリンダ孔開口部側へ移動し、作用部側の摩擦パッド7をディスクロータ2側に押動し、摩擦パッド7のライニング7aをディスクロータ2の一側面へ押圧する。この反力によって、キャリパボディ6がスライドピン4,5の案内で作用部方向へ移動し、各反力爪6j,6k,6mが反作用部側の摩擦パッド7をディスクロータ2側に押動し、摩擦パッド7のライニング7aをディスクロータ2の他側面へ押圧する。
【0032】
この制動時に、ライニング7aに高温の制動熱が発生し、この制動熱が裏板7bに伝わるが、ピストン10a,10bは、シム板8とインシュレータ12とを介して裏板7bと当接することからピストン側への制動熱の伝達が極力遮断され、また、反力爪側への制動熱の伝達も極力遮断される。また、ピストン10a,10bと各反力爪6j,6k,6mとは、制動時にシム板8を介して裏板7bと当接することから、制動時にブレーキ鳴きやライニング7aの偏摩耗を防止することができる。さらに、作用部側と反作用部側の摩擦パッド7,7は、第1押圧片8cと第2押圧片8dとで、それぞれディスク回出側に付勢され、各耳片7dのディスク回出側端面7eがトルク受け面3dに当接した状態となっていることから、摩擦パッド7,7のガタ付きを抑制することができる。さらに、シム板8に一体に形成された第1押圧片8cと第2押圧片8dとで、摩擦パッド7,7をディスク回出側に付勢することから、従来のようにパッドスプリングを用いる必要がなく、部品点数を減少させコストの低減化を図ることができると共に、組み付け性の向上を図ることができる。
【0033】
尚、本発明は上述の形態例に限るものではなく、2ポットピストン対向型のディスクブレーキや、4ポット以上のピストン対向型のディスクブレーキや、シングルポットピンスライド型のディスクブレーキにも適用することができる。
【0034】
また、4ポット以上のピストン対向型のディスクブレーキの場合では、押圧片は、最もディスク回出側に配置されるピストンに対応して形成するものに限らず、その他のピストンに対応する押圧片を形成することもできる。
【0035】
さらに、2ポット以上のピンスライド型のディスクブレーキの場合では、上述の形態例に限らず、作用部側の押圧片を、最もディスク回出側に配置されるピストンに対応して形成するものに限らず、その他のピストンに対応する押圧片を適宜形成することもできる。さらに、反作用部側の押圧片も、最もディスク回出側に配置される反力爪に隣接する反力爪に対応して形成するものに限らず、隣接する反力爪よりもディスク回入側に配置されるその他の反力爪に対応する押圧片を適宜形成することもできる。
【0036】
また、上述の形態例のように、キャリパブラケットにトルク受け面を設けたものに限らず、キャリパボディにトルク受け面を設けたものでも差し支えない。さらに、インシュレータを用いないものでもよく、摩擦パッドやシム板の外縁部の形状は任意である。
【符号の説明】
【0037】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパブラケット、3a…板状部、3b…パッド支持腕、3c…ピン孔、3d…トルク受け面、3e…パッドガイド部、4,5…スライドピン、6…キャリパボディ、6a…作用部、6b…反作用部、6c…ブリッジ部、6d,6e…車体取付腕、6f,6g…ハンガーピン支持腕、6h,6i…シリンダ孔、6j,6k,6m…反力爪、6n…ディスク回入側面、7…摩擦パッド、7a…ライニング、7b…裏板、7c…吊下げ片、7d…耳片、7e…ディスク回出側端面、8…シム板、8a…吊下げ部、8b…爪片、8c…第1押圧片、8d…第2押圧片、9…ハンガーピン、10a,10b…ピストン、10c…内周面、11…液圧室、12…インシュレータ、12a…吊下げ部