特許第6193755号(P6193755)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193755
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】繊維製品用液体消臭剤組成物
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/368 20060101AFI20170828BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20170828BHJP
   A61L 9/14 20060101ALI20170828BHJP
   D06M 13/463 20060101ALI20170828BHJP
   D06M 15/09 20060101ALI20170828BHJP
   D06M 13/144 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   D06M13/368
   A61L9/01 K
   A61L9/14
   D06M13/463
   D06M15/09
   D06M13/144
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-265025(P2013-265025)
(22)【出願日】2013年12月24日
(65)【公開番号】特開2015-120987(P2015-120987A)
(43)【公開日】2015年7月2日
【審査請求日】2016年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100087642
【弁理士】
【氏名又は名称】古谷 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100098408
【弁理士】
【氏名又は名称】義経 和昌
(72)【発明者】
【氏名】笹田 浩司
(72)【発明者】
【氏名】鍬農 陽一
【審査官】 春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2007−209464(JP,A)
【文献】 特開2006−076997(JP,A)
【文献】 特開2001−037861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M13/00−15/715
A61L9/00−9/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(A1)で示される化合物 0.01質量%以上、5質量%以下、
(B)下記一般式(B1)で表される化合物及び下記一般式(B2)で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物 0.01質量%以上、5質量%以下、
(C)ジブチルヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソールから選ばれる一種以上の化合物 0.001質量%以上、1質量%以下、
(D)セルロースのヒドロキシ基が炭素数1以上、3以下のヒドロキシアルキル基により変性された、重量平均分子量8万以上、500万以下の水溶性変性セルロース 0.001質量%以上、0.5質量%以下、並びに、
(E)水
を含有する繊維製品用液体消臭剤組成物。
【化1】

〔式中、R1は、水素原子、炭素数1以上、5以下のアルキル基又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を示し、R2は、水素原子、炭素数1以上、6以下のアルキル基、又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を示し、R3及びR4は、炭素数1以上、5以下のアルカンジイル基を示す。R3及びR4は、同一でも異なっていてもよい。〕
【化2】

〔式中、R1bは、炭素数8以上、16以下の炭化水素基であり、R2b、R3bは、それぞれ独立に、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、R4bは炭素数1以上、6以下のアルカンジイル基である。Y-は陰イオン基である。〕
【化3】

〔式中、R5b〜R8bは、これらのうち、2つが、それぞれ独立に、炭素数8以上、14以下のアルキル基であり、残り2つが、それぞれ独立に、炭素数1以上、3以下のアルキル基である。Y-は陰イオン基である。〕
【請求項2】
25℃でのpHが、5以上、9以下である請求項1記載の繊維製品用液体消臭剤組成物。
【請求項3】
更にエタノールを0.5質量%以上、20質量%以下含有する請求項1又は2記載の繊維製品用液体消臭剤組成物。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項記載の繊維製品用液体消臭剤組成物を繊維製品に噴霧する、繊維製品の消臭方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繊維製品用液体消臭剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、衣料や寝具などの人体に接触する繊維製品の臭いを消臭する技術が盛んに研究されている。生活環境は地球温暖化やエコ意識・省エネ活動によるエアコン温度制限等に伴って、結果的に皮脂・汗の臭いや生活臭が気になりやすい環境になっていることが伺える。
【0003】
こうした背景によって、ワイシャツやブラウス等の汗の臭いが気になりやすい衣料や居住空間に漂う不快な臭いの不満を解消したいことが強く望まれている。これらの不満を解消するための消臭剤に関し、汗臭およびアルデヒド等に由来する複合臭の低減効果を訴求した商品も提案されている。特許文献1〜3には、ポリヒドロキシアミン、カチオン界面活性剤、抗酸化物質等の化合物を用いて人体に由来する汗などの臭いを消臭する技術が開示されている。
【0004】
また特許文献4には臭気源に直接噴霧することで高い消臭効果があり、その持続性に優れることを訴求した技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−209464号公報
【特許文献2】特開2007−63192号公報
【特許文献3】特開2007−229356号公報
【特許文献4】特開2001−37861号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記した人体由来の臭いは、香料によるマスキングや公知の消臭剤を用いることで短時間の臭いを消すことができるものの、消臭後放置した状態にすると再び独特の不快な臭い(本願では『戻り臭』と呼ぶ)が発生する。すなわち、一旦消臭された状態でも衣料や寝具に付着した皮脂や汗の成分が時間の経過によって変質し、再び臭いが発生し、戻り臭として認知される。
【0007】
本発明は、消臭性に優れ、且つ戻り臭を低減できる繊維製品用液体消臭剤組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
(A)下記一般式(A1)で示される化合物 0.01質量%以上、5質量%以下、
(B)下記一般式(B1)で表される化合物及び下記一般式(B2)で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物 0.01質量%以上、5質量%以下、
(C)ジブチルヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソールから選ばれる一種以上の化合物 0.001質量%以上、1質量%以下、
(D)重量平均分子量1万以上、500万以下の水溶性高分子化合物 0.001質量%以上、0.5質量%以下、並びに、
(E)水
を含有する繊維製品用液体消臭剤組成物に関する。
【0009】
【化1】
【0010】
〔式中、R1は、水素原子、炭素数1以上、5以下のアルキル基又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を示し、R2は、水素原子、炭素数1以上、6以下のアルキル基、又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を示し、R3及びR4は、炭素数1以上、5以下のアルカンジイル基を示す。R3及びR4は、同一でも異なっていてもよい。〕
【0011】
【化2】
【0012】
〔式中、R1bは、炭素数8以上、16以下の炭化水素基であり、R2b、R3bは、それぞれ独立に、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、R4bは炭素数1以上、6以下のアルカンジイル基である。Y-は陰イオン基である。〕
【0013】
【化3】
【0014】
〔式中、R5b〜R8bは、これらのうち、2つが、それぞれ独立に、炭素数8以上、14以下のアルキル基であり、残り2つが、それぞれ独立に、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基である。Y-は陰イオン基である。〕
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、消臭性に優れ、且つ戻り臭を低減できる繊維製品用液体消臭剤組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者らは鋭意努力したところ、戻り臭の原因は、皮脂や汗の成分が酸化あるいは腐敗して生じる臭いや、モラクセラ菌等の雑菌の繁殖による複合的な作用で産生する臭いであることを見出した。本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、前記の酸化や腐敗、あるいは雑菌の繁殖に効果的に作用し、戻り臭を低減しているものと推察される。
【0017】
<(A)成分>
本発明の(A)成分は、下記一般式(A1)で表される化合物である。一般式(A1)の化合物は、ポリヒドロキシアミンであり、塩であってもよい。
【0018】
【化4】
【0019】
〔式中、R1は、水素原子、炭素数1以上、5以下のアルキル基又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を示し、R2は、水素原子、炭素数1以上、6以下のアルキル基、又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を示し、R3及びR4は、炭素数1以上、5以下のアルカンジイル基を示す。R3及びR4は、同一でも異なっていてもよい。〕
【0020】
一般式(A1)において、R1は、水素原子、炭素数1以上、5以下のアルキル基又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を表す。
【0021】
1の炭素数1以上、5以下のアルキル基は、直鎖又は分岐鎖のいずれであってもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基が挙げられる。また、R1の炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基としては、ヒドロキシメチル基、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基、4−ヒドロキシブチル基等が挙げられる。
【0022】
1は、消臭性能及び入手性の観点から、上記の中では水素原子、メチル基、エチル基、ヒドロキシメチル基、又は2−ヒドロキシエチル基が好ましく、水素原子、ヒドロキシメチル基、又は2−ヒドロキシエチル基がより好ましい。
【0023】
2は、水素原子、炭素数1以上、6以下のアルキル基、又は炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基を表す。
【0024】
2の炭素数1以上、6以下のアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状、環状のいずれであってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、各種ブチル基、各種ペンチル基、各種ヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0025】
2の炭素数1以上、5以下のヒドロキシアルキル基としては、R1で示した上記のものが挙げられる。
【0026】
2は、消臭性能及び入手性の観点から、上記の中では水素原子、炭素数1以上、3以下のアルキル基、又はヒドロキシエチル基が好ましく、水素原子がより好ましい。
【0027】
3及びR4は、それぞれ、炭素数1以上、5以下のアルカンジイル基を表す。R3及びR4は、同一でも異なっていてもよい。炭素数1以上、5以下のアルカンジイル基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロパン−1,2−ジイル基、テトラメチレン基等が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0028】
(A)成分の具体例としては、例えば、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−ヒドロキシエチル−1,3−プロパンジオール、4−アミノ−4−ヒドロキシプロピル−1,7−ヘプタンジオール、2−(N−エチル)アミノ−1,3−プロパンジオール、2−(N−エチル)アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2−(N−デシル)アミノ−1,3−プロパンジオール、2−(N−デシル)アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール等、及びそれらと無機酸又は有機酸で中和した酸塩が挙げられる。酸としては、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸、炭酸、炭素数1以上、12以下の脂肪酸、炭素数1以上、3以下のアルキル硫酸から選ばれる1種以上が好ましい。
【0029】
これらの中では、消臭性能等の観点から、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、2−アミノ−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−ヒドロキシエチル−1,3−プロパンジオール、及びそれらと塩酸等の無機酸との塩から選ばれる1種以上が好ましい。
【0030】
(A)成分のポリヒドロキシアミン化合物は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。なお、(A)成分のポリヒドロキシアミン化合物は、常法により製造することができる。
【0031】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、消臭性の観点から、(A)成分を0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であり、そして、経済性の観点から、5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下含有する。
【0032】
<(B)成分>
本発明の(B)成分は、下記一般式(B1)で表される化合物及び下記一般式(B2)で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物である。
【0033】
【化5】
【0034】
〔式中、R1bは、炭素数8以上、16以下の炭化水素基であり、R2b、R3bは、それぞれ独立に、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、R4bは炭素数1以上、6以下のアルカンジイル基である。Y-は陰イオン基である。〕
【0035】
【化6】
【0036】
〔式中、R5b〜R8bは、これらのうち、2つが、それぞれ独立に、炭素数8以上、14以下のアルキル基であり、残り2つが、それぞれ独立に、炭素数1以上、3以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基である。Y-は陰イオン基である。〕
【0037】
式(B1)中、R1bは、好ましくは炭素数8以下、16以下、より好ましくは炭素数8以上、14以下のアルキル基又はヒドロキシアルキル基であり、R4bは、好ましくは炭素数1以上、3以下のアルカンジイル基であり、より好ましくはメチレンである。
【0038】
式(B1)及び(B2)中、Y-は無機又は有機の陰イオンであり、好ましくはハロゲンイオン、硫酸イオン、リン酸イオン、炭素数1以上、3以下のアルキル硫酸エステルイオン、又は炭素数1以上、12以下の脂肪酸イオンである。これらの中では、塩素イオン等のハロゲンイオン、硫酸イオン、炭素数1以上、3以下のアルキル硫酸エステルイオンがより好ましく、塩素イオンがより好ましい。
【0039】
(B)成分としては、下記一般式(B1−1)で表される化合物及び下記一般式(B2−1)で表される化合物から選ばれる一種以上の化合物がより好ましい。
【0040】
【化7】
【0041】
〔式中、R11bは、炭素数8以上、16以下、好ましくは12以下のアルキル基である。〕
上記式(B1−1)の化合物としては、炭素数12、14又は16、好ましくは炭素数12又は14の直鎖のアルキル基を有する塩化ベンザルコニウムが挙げられる。(B1−1)を使用する場合は、アルキル基の炭素数が異なる化合物の混合物であってもよい。
【0042】
【化8】
【0043】
〔式中、R12b及びR13bは、それぞれ、独立に、炭素数8以上、12以下のアルキル基である。〕
上記式(B2−1)の化合物としては、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、オクチルデシルジメチルアンモニウムクロリド、ジデシルジメチルアンモニウムクロリド等が挙げられる。
【0044】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、消臭性向上の観点から、(B)成分を0.01質量%以上、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、そして、スプレー時の噴霧性、例えば細かい噴霧液滴の発生と繊維製品への均一付着の観点から5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.8質量%以下含有する。
【0045】
<(C)成分>
本発明の(C)成分はジブチルヒドロキシトルエン及びブチルヒドロキシアニソールから選ばれる1種以上の化合物である。これらは一種単独でも二種以上を組み合わせても良い。
【0046】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、性能向上の観点から、(C)成分を、0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、そして、1質量%以下、好ましくは0.5質量%以下、より好ましくは0.2質量%以下含有する。(C)成分の含有量は、塗布後の風合い低減や消臭剤の配合安定性の観点から、組成物中、0.01質量%以上、0.2質量%以下が好ましい。
【0047】
<(D)成分>
本発明では、(D)成分として重量平均分子量1万以上、500万以下の水溶性高分子化合物を使用する。(D)成分について「水溶性」とは、20℃のイオン交換水100gに1g以上溶解するものをいう。
【0048】
(D)成分の重量平均分子量は、5万以上、また8万以上、そして、300万以下、また200万以下から選択できる。
【0049】
(D)成分としては、水溶性天然高分子化合物、セルロースやデンプンなどの天然高分子化合物のヒドロキシ基が炭素数1以上、3以下のアルキル基、ヒドロキシアルキル基、カチオン性基、アルキルカルボルシ基等により変性(又は本発明では“置換”ともいう)された水溶性変性天然高分子化合物、並びに不飽和カルボン酸重合体、ポリビニルアルコール、ポリアルキレングリコール等の水溶性合成高分子化合物を挙げることができる。
【0050】
水溶性天然高分子化合物及び水溶性変性天然高分子化合物としてはアラビアゴム、カラーギナン、グアガム、デンプン、キサンタンガム、水溶性変性セルロース、例えば、エチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カチオン化セルロース、カチオン化デンプン、アルギン酸ナトリウム、カチオン化グアガムなどを挙げることができる。
水溶性天然高分子化合物、水溶性変性天然高分子化合物及び水溶性合成高分子化合物の重量平均分子量は、好ましくは8万以上であり、好ましくは300万以下、より好ましくは200万以下である。
【0051】
水溶性合成高分子化合物である不飽和カルボン酸重合体としては、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸塩、ポリマレイン酸塩、並びにアクリル酸、メタクリル酸及びマレイン酸から選ばれる2種以上の共重合体から選ばれる高分子化合物が好ましい。また、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸と共重合可能な不飽和化合物と共重合していても差し支えない。不飽和カルボン酸重合体の重量平均分子量は、好ましくは10万以上、より好ましくは50万以上であり、好ましくは300以下である。
【0052】
水溶性合成高分子化合物であるポリビニルアルコールの重量平均分子量は、1万以上、好ましくは50万以上、より好ましくは300万以下である。ポリビニルアルコールの鹸化度は、好ましくは75モル%以上、より好ましくは80モル%以上、好ましくは100モル%以下、より好ましくは99モル%以下である。また、ビニルアルコールと共重合可能な不飽和化合物と共重合していても差し支えない。
【0053】
水溶性合成高分子化合物であるポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングルコール、エチレンオキシドとプロピレンオキシドのランダム付加物もしくはブロック付加物が挙げられる。また、アルキル基の炭素数が8以上、好ましくは10以上、20以下、好ましくは18以下であり、オキシエチレン基の平均付加モル数が50以上、好ましくは100以上、500以下、好ましくは300以下のポリオキシエチレンアルキルエーテルや、これをさらにジエポキシドで架橋した化合物も(D)成分として使用できる。ポリアルキレングリコールの重量平均分子量は、1万以上、好ましくは5万以下、より好ましくは4万以下である。
【0054】
なお、本発明において、これら(D)成分の高分子化合物の重量平均分子量は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によりアセトニトリルと水の混合溶液(リン酸緩衝液)を展開溶媒とし、ポリエチレングリコールを標準として求めたものをいう。
【0055】
(D)成分は、好ましくは重量平均分子量1万以上、500万以下の、水溶性天然高分子、及び水溶性変性天然高分子化合物から選ばれる水溶性高分子化合物であり、より好ましくは重量平均分子量1万以上、500万以下の、水溶性変性セルロース及び水溶性変性デンプンから選ばれる水溶性高分子化合物であり、より好ましくは重量平均分子量8万以上、300万以下、置換度0.8以上、3未満の、カルボキシエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、及びカチオン化セルロースから選ばれる水溶性変性セルロース、並びに重量平均分子量8万以上、300万以下のカチオン化デンプンの水溶性変性デンプンから選ばれる水溶性高分子化合物であり、更により好ましくは、重量平均分子量8万以上、200万以下であって、置換度が1以上、2.8以下のヒドロキシエチルセルロース又はヒドロキシプロピルセルロースである。
【0056】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、消臭効果の持続性の観点から、(D)成分を0.001質量%以上、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、そして、0.5質量%以下、好ましくは0.2質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下含有する。
【0057】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、20℃における粘度が好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは2mPa・s以上、そして、10mPa・s以下、より好ましくは8mPa・s以下である。(D)成分は、このような粘度となるように用いられることが好ましい。なお、粘度はJIS K 7117記載の方法によって測定することができる。
【0058】
<(E)成分>
本発明の消臭剤組成物において、(A)成分、(B)成分、(C)成分、(D)成分及び後述する任意成分以外の残部は水[(E)成分]とすることができる。
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、(E)成分を好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは96質量%以下含有する。これにより、噴霧後の繊維製品に対するべたつき感が低減でき、良好な風合いが得られる。使用する水は重金属や硬度成分を除去した精製水が挙げられ、イオン交換水を使用することが好ましい。
【0059】
<pHについて>
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、アルデヒド化合物等に由来する複合臭や、汗臭に対する消臭効果の観点から、25℃のpHが好ましくは5以上、より好ましくは6以上、より好ましくは6.5以上、そして、好ましくは9以下、より好ましくは8.5以下である。皮膚刺激低減の観点から、pHは6.5以上、8.5以下がより好ましい。pHは、JIS K 3362;2008の項目8.3に従って25℃で測定する。本発明の消臭剤組成物のpHは、塩酸等の酸、又は水酸化ナトリウム等のアルカリを添加することにより調整することができる。
【0060】
また、本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物に、pH変動抑制能を与える化合物を配合することは、消臭効果及び効果の持続性の点で好ましい。pH変動抑制能を与える化合物は、本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物1000mlを25℃でpH10にするために必要なN/10NaOH水溶液が10ml以上、200ml以下及び25℃でpH7にするために必要なN/10H2SO4水溶液が20ml以上、500ml以下となるようなpH変動抑制能を液体消臭剤に付与する一種以上の化合物が用いられる。具体的には、乳酸、グルコン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、クエン酸、フタル酸、酢酸、安息香酸、サリチル酸、ジエチルバルビツル酸の他、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、セリン、グルタミン酸、アスパラギン酸等のアミノ酸等の有機酸又はそれらの塩、りん酸、ホウ酸、塩酸等の無機酸又はそれらの塩、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、メチルモノエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン化合物、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の無機塩基等を使用することができる。これらの中でも、りん酸、塩酸、クエン酸、コハク酸から選ばれる酸と、トリエタノールアミン、モノエタノールアミン、メチルモノエタノールアミン、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムから選ばれる塩基との組み合わせが、より効果的な消臭効果を得ることができるため好ましい。
【0061】
<その他の成分>
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物には、以下の成分を配合することができる。
【0062】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、処理後の繊維製品からの液体消臭剤を揮発しやすくさせ、乾燥しやすくさせるために、エタノールを含有することが好ましい。本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、エタノールを0.5質量%以上、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、そして、20質量%以下、好ましくは15質量%以下、より好ましくは8質量%以下含有する。エタノールは変性エタノールを使用することができ、8−アセチル化蔗糖変性エタノール又はポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム変性エタノールを用いることが好ましい。
【0063】
また必要に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、更に、多価アルコール、界面活性剤、包接性の消臭基剤、他の消臭剤、及び一般に添加される各種の溶剤、油剤、ゲル化剤、硫酸ナトリウムやN,N,N−トリメチルグリシン等の塩、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤、殺菌・抗菌剤、香料、色素、紫外線吸収剤等の他の成分を添加することができる。溶剤としては、イソプロパノール等の低級(炭素数3〜4)アルコール等が挙げられる。
【0064】
多価アルコールは、固体表面に付着した臭気成分の揮発を抑制し、消臭成分である(A)成分のポリヒドロキシアミン化合物を安定に分散させ、臭気成分との接触を向上させて、消臭性能を更に高めることができる。用いることができる多価アルコールとしては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられる。これらの中では、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールが好ましい。多価アルコールの含有量は、消臭する悪臭の濃度、使用形態によっても異なるが、組成物中、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、そして、好ましくは30質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
【0065】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、消臭剤の浸透性を高める目的で界面活性剤を含有することができる。界面活性剤の種類は特に制限はなく、非イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤及び陰イオン性界面活性剤の中から選ばれる1種以上が挙げられる。界面活性剤は、アミンオキシドが好ましい。長鎖アルキル部分にアミド結合を有するアミンオキシドは、消臭源をマスキングまたは相殺することに用いられる消臭基剤用の香料や包接性消臭基剤、吸着性消臭基剤あるいは中和剤との併用による化学的消臭効果向上の点から好ましく、また上記以外の消臭効果、持続性及び衣料の風合いの点からも好ましい。
【0066】
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物が界面活性剤を含有する場合、消臭基剤の作用が効果的に発現する観点から、界面活性剤の含有量は、組成物中、好ましくは0質量%超、より好ましくは0.3質量%以上、そして、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。
【0067】
包接性の消臭基剤としては、シクロデキストリン等の包接化合物が挙げられる。包接化合物を消臭基剤として用いる場合は、本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物中に好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、そして、5質量%以下、より好ましくは3質量%以下含有される。また、吸着性の消臭基剤であるタルク等を用いることもできる。
【0068】
本発明では、その他、液体消臭剤組成物に含有することが知られている成分を本発明の効果を損なわない程度に配合することができる。具体的には、芳香によるマキング効果や殺菌効果を付与するために知られている香料、組成物のための防菌・防カビ剤、消臭剤組成物を着色するための染料や顔料等の色素、繊維製品の消臭において繊維製品に好ましい手触り感や着心地を与えるシリコーン化合物、エタノール以外の水溶性又は疎水性溶剤を含有することができる。
【0069】
<使用方法>
本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物は、消臭対象である繊維製品に噴霧して用いることが好ましい。噴霧にあたっては、本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物をスプレイヤー付き容器に充填してなる繊維製品用液体消臭剤物品を用いることが好ましい。本発明により、本発明の繊維製品用液体消臭剤組成物をスプレイヤー付き容器に充填してなる繊維製品用液体消臭剤物品が提供される。
【0070】
本発明繊維製品用液体消臭剤組成物を繊維製品に噴霧する方法に制限はないが、ミスト式或いはトリガー式のスプレイヤーを用いることが好ましい。本発明の消臭剤組成物をミスト式又はトリガー式のスプレイヤーを備えたスプレー容器に充填し、一回の噴霧量を0.1ml以上、1ml以下に調整したものが好ましい。使用するスプレー容器としては、トリガー式スプレイヤーを備えた容器がより好ましく、スプレイヤーの噴霧方式は、直圧型あるいは蓄圧型を用いることができるが、液滴を均一に発生させ、噴霧後の液だれの少なさから蓄圧式を用いることが好ましい。
【0071】
本発明で使用するスプレー容器は、液体を微粒子に噴霧することが出来るスプレーヤー部と、液体を充填する容器部から構成されるものが挙げられ、一般的に知れているものを使用することができる。該容器のスプレイヤー部としては、トリガー式のものが好ましく、1回のストロークで0.2g以上、好ましくは0.25g以上、そして、0.7g以下、好ましくは0.5g以下噴出するものが良好である。また、対象物から15cm離れた場所から噴霧したとき、1回のストロークで布に該液体消臭剤が付着する面積が、100cm2以上、好ましくは150cm2以上、そして、800cm2以下、好ましくは600cm2以下になる容器が好ましい。実開平4−37554号公報に開示されているような蓄圧式トリガーを用いると良好である。容器部の容量は、使用用途や形態目的等によって好ましい容量が決められるが、通常は片手で保持可能な容量が好ましい。
【0072】
本発明の消臭剤組成物を用いる消臭方法の対象物は、固体表面を有するものであれば特に制限はない。例えば、カーテン等の布地、スーツ、セーター等の衣料、カーペット、ソファー等の繊維製品に本発明の消臭剤組成物を付着させ、対象物の臭いを効果的に低減させることができる。また、衣料において効果的であり、衣料用スプレー式消臭剤組成物として使用することが好ましい。
【実施例】
【0073】
表1に示す成分を用いて表1に示す繊維製品用液体消臭剤組成物を調製し、下記のトリガー式スプレー容器に充填して、スプレー式消臭剤物品を得た。下記に示す消臭対象物を用いて、下記に示す消臭方法にて処理した後の消臭性能を調べた。また、消臭対象物を下記消臭方法により室内で処理を行い、その消臭直後、消臭24時間、7日後に陰干しした後の消臭性能を調べた。これらの結果を表1に示す。
【0074】
<消臭性能の評価>
1.消臭対象物の調製
24〜35歳代の研究職の男性10人が夏季に24時間着用した肌着(グンゼ製半袖アンダーシャツ、グンゼYG)を、ビニール袋に入れ、室温で3日間熟成させた。その後、背中部分を20cm×20cmに切断し、汗臭衣料の試験片として実験に供した。
【0075】
2.消臭方法
液体消臭剤組成物を充填した市販のトリガー式スプレイヤー付き容器(花王株社製、衣類用消臭剤リセッシュ手動式スプレイヤー付き容器、スプレイヤーは蓄圧型である。)を用いて、表1の液体消臭剤を充填した容器300ml入れ、1回のストロークで液体消臭剤は0.6g噴出するものを用い実験に供した。
消臭対象である上記消臭対象物をスプレーされた組成物が均一な液滴として噴霧出来るように地面に対して垂直に吊るし、上記トリガー式スプレーにより対象物から15cm離れた場所から2回吹き付け、噴霧直後の臭いと恒温室で30℃、RHで40%に設定した乾燥条件で24時間放置後の臭いと7日放置後の臭いを下記の基準で評価した。評価は下記条件で行われた。
【0076】
3.消臭性能評価
30歳代の男性及び女性10人(各5人ずつ)のパネラーに消臭対象物の臭いを嗅いでもらい、下記の六段階臭気強度表示法で評価し、平均点を求めた。平均点0以上1.0未満を◎、1.0以上2.0未満を○、2.0以上3未満を△、3以上5以下を×として評価した。表1に結果を示す。
0:無臭
1:何の臭いか分からないが、ややかすかに何かを感じる強さ(検知閾値のレベル)
2:何の臭いか分かる、容易に感じる弱い臭い(認知閾値のレベル)
3:明らかに感じる臭い
4:強い臭い
5:耐えられないほど強い臭い
【0077】
【表1】
【0078】
表中の成分は以下のものである。なお、組成物のpHは、pH調整剤として、1規定の塩酸又は1/10規定のNaOH水溶液を用いて調整した。
a−1:トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン〔一般式(A1)中、R1が炭素数1のヒドロキシアルキル基、R2が水素原子、R3及びR4がそれぞれ炭素数1以のアルカンジイル基である化合物〕
b−1:ジデシルジメチルアンモニウムクロライド
b−2:ドデシルジメチルベンジルアンモニウムクロライド
c−1:ジブチルヒドロキシトルエン
c−2:ブチルヒドロキシアニソール
d−1:ヒドロキシエチルセルロース[重量平均分子量(Mw)788,000、置換度(MS)2.5、水への溶解度1g/100g以上)]
可溶化剤:アミドプロピルアミンオキシド(ラウリン酸とジメチルアミノプロピルアミンとのアミド化合物を過酸化水素により反応させて得たもの)