(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
当該速度計測装置が、速度データを取り扱うとともに位置データを取り扱うものであり、前記差分演算部が、速度データどうしの差分と位置データどうしの差分とからなる差分データを算出するものであって、
前記制御データ生成部が、速度と位置の双方の差分からなる前記差分データ由来のデータに基づいて前記制御データを算出するものであることを特徴とする請求項1記載の速度計測装置。
前記第4の速度データに遅延を含む処理を施すことにより前記第6の速度データを生成する第2の遅延処理部をさらに備えたことを特徴とする請求項1又は2記載の速度計測装置。
【背景技術】
【0002】
移動体に搭載されたIMU(Inertial Measurement Unit)
とGPS(Global Positioning System)受信機の双方とを使って、その移動体の速度を高精度に計測する速度計測装置が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【0003】
ここで、IMUからは、例えば100Hz等のクロックに同期して、ほぼリアルタイムで更新されたデータが出力される。ただし、IMUでは直接的には加速度が計測され、その加速度を積分することにより速度が計測される。このためIMUで計測される速度は、IMUで直接に計測される加速度のオフセット誤差が順次累積されることになる。したがって、この速度データを補正しないままにしておくと真の値から徐々に離れて行き、次第に大きな誤差を含むデータとなってしまうおそれがある。
【0004】
一方、GPS受信機での速度計測法の1つとして、GPS衛星から送られてくる電波の搬送波のドプラシフト量に基づいて速度(以下、「ドプラ速度」と称することがある)を計測する計測法が知られている。この計測法を採用すると高精度な速度計測を行なうことができる。しかしながら、例えば、木々やビル群等によってGPS衛星からの電波が反射されることなどに起因して同一信号の電波が複数方向から時間差を持って到達するという、いわゆるマルチパスの影響を受けると、計測される速度データに大きなノイズが重畳するなど、高精度な速度計測を行なうことのできる条件には制約がある。
【0005】
特許文献1,2には、IMU由来の速度データをGPS受信機由来のドプラ速度データに基づいて補正して出力速度データを生成する構成が開示されている。具体的には、それらの特許文献1,2には、GPS受信機由来の速度データと、そのGPS受信機由来の速度データは遅延を含むため、その遅延量に合わせるように遅延させた出力速度データとの差分データを生成し、その差分データに基づいて、IMU由来の速度データを補正するための補正データを算出し、その補正データを用いてIMU由来の速度データを補正して出力速度データを生成する速度計測装置が提案されている。
【0006】
ここで、特許文献1には、GPS由来のドプラ速度データの信頼度を評価して係数を算出し、その係数に応じて、信頼度が高いときにIMU由来の速度データを強く補正し、信頼度が低いときには補正量を低減させることが提案されている。
【0007】
また、特許文献2には、GPS受信機由来の速度データが、例えば20Hz等のクロックに同期した、IMUと比べゆっくりとした周期でしか速度データが得られないGPS受信機を採用し、そのGPS受信機由来の速度データに補間処理を施した構成が開示されている。GPS受信機由来の速度データは遅れを伴ったデータであって、しかも、この速度データに補間処理を施すことで遅れがさらに付加されることになる。特許文献2では、出力速度データを大きく遅延させることで、GPS受信機由来の、補間処理された速度データと、出力速度データとの同期を確保している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ここで、上掲の特許文献1,2において想定されているGPS受信機と比べ、速度データがさらにゆっくりとした周期で(例えば10Hzのクロックに同期して)出力されるGPS受信機を使用することを考える。ゆっくりとした周期で出力されるGPS受信機は安価に入手でき、コスト上有利である。このGPS受信機の場合、速度データの更新速度がゆっくりとしているだけでなく、例えば150ms程度の遅れを伴い、かつジッタを伴った速度データが出力される。この速度データに、IMU由来の速度データの周期に合わせるための補間処理を施すと、全体として例えば250ms程度もの遅れが生じることになる。このような大きな遅れを伴ったGPS由来の速度データとの同期をとるために、特許文献2に開示されたとおりに出力速度データを大幅に遅延させると、フィードバック経路上に大きな遅延が生じることになり、出力速度データが発散し、まともな出力速度データが得られないという問題が発生するおそれがある。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑み、IMU由来の、高速に更新される速度データによるリアルタイム性を確保しつつ、発散させることもなく正確な出力速度データを得ることのできる速度計測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成する本発明の速度計測装置は、
IMU由来の、第1の周期で更新される第1の速度データを補正データ分だけ補正して第2の速度データを生成する速度補正部と、
GPS受信機由来の、第1の周期よりも1周期の時間が長い第2の周期で更新される第3の速度データを補間処理することにより、上記第1の周期で更新される第4の速度データを生成する補間処理部と、
上記第2の速度データを制御データに基づく遅延量だけ遅延させることにより第5の速
度データを生成する遅延処理部と、
上記第4の速度データ由来の第6の速度データと上記第5の速度データとの間の差分デ
ータを算出する差分演算部と、
差分データに基づいて上記補正データを算出する補正データ算出部と、
差分データ、速度補正部に入力される補正データ、および補正データ算出部で差分データから補正データを算出する過程で算出される途中のデータの中から選択されたいずれかのデータの過去の複数のサンプリング周期にわたる積算値がこれを越えると発散のおそれが高まる閾値を越えないように調整された遅延量だけ第2の速度データを遅延させる制御データを生成することにより、上記第5の速度データを第6の速度データへの同期に近づけさせる制御データ生成部とを備えたことを特徴とす
る。
【0012】
ここで、本発明の速度計測装置では、第2の速度データがこの速度計測装置で求められる出力速度データとなる。
【0014】
本発明の速度計測装置は、差分データ
等のデータに基づいて、第2の速度データの発散を免れる範囲内で第2の速度データを遅延させる制御データを生成し、その制御データに基づいて第2の速度データを遅延させて第5の速度データを生成する構成としたものである。
【0015】
遅延量のみを考慮したときは、第2の速度データを第6の速度データの遅延量と同一の遅延量まで遅延させることが望ましい。ただし、これでは第2の速度データが発散してしまうおそれがある。
【0016】
本発明では、差分データ
等のデータをモニタリングして、発散を免れる程度に遅延させる構成としたため、リアルタイム性が確保された高精度の第2の速度データを得ることができる。
【0017】
ここで、本発明の速度計測装置が、速度データを取り扱うとともに位置データを取り扱うものであり、上記差分演算部が、速度データどうしの差分と位置データどうしの差分とからなる差分データを算出するものであって、
上記制御データ生成部が、速度と位置の双方の差分からなる差分データ由来のデータに基づいて制御データを算出するものであることが好ましい。
【0018】
速度データとともに位置データを取り扱う場合、第2の速度データの遅延量を定める制御データを、速度データどうしの差分と位置データどうしの差分とからなる差分データ由来のデータに基づいて算出すると、この装置で取り扱う速度と位置の双方について高精度なデータを生成することができる。
【0019】
さらに、本発明の速度計測装置は、上記第4の速度データに遅延を含む処理を施すことにより上記第6の速度データを生成する第2の遅延処理部をさらに備えたものであってもよい。
【0020】
後述する実施形態において例示するように、本発明の速度計測装置では、上記の第2の遅延処理部に相当する処理を行なうことがある。本発明の速度計測装置は、その場合であっても、発散を免れ、リアルタイム性が確保された高精度な速度データ(第2の速度データ)を得ることができる。
【0021】
さらに、本発明の速度計測装置において、上記
補正データ算出部が、IMU由来のデータとGPS由来のデータとに基づいてGPS由来のデータの信頼度を表わす良否係数を算出し、上記差分データ由来のデータに基づくとともに良否係数に基づいて、上記補正データを算出するものであることが好ましい。
【0022】
上記の良否係数を算出し、その良否係数を用いて補正データを算出すると、より正確な第2の速度データを算出することができる。
【発明の効果】
【0023】
以上の本発明によれば、リアルタイム性が確保され、かつ発散させることなく高精度な速度データを生成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
【0026】
ここでは、基本的な構成を第1実施形態として説明し、次いで、より具体的な構成を第2実施形態として説明する。
【0027】
図1は、本発明の第1実施形態としての速度計測装置の構成を示したブロック図である。
【0028】
この
図1に示す速度計測装置10は、一例として自動車に搭載され、その同じ自動車に搭載されたIMU1およびGPS受信機2の双方からデータを受け取ってこの自動車の速度を表わす速度データを生成して出力する装置である。この速度計測装置10で様々な態様の速度データを取り扱うため、相互の区別のために第1の速度データ、第2の速度データ・・・等の用語を用いている。
図1では、第1の速度データ、第2の速度データ、・・・等を、(1),(2),・・・等の記号で表している。この速度計測装置10において最終的に生成される出力速度データは、ここでは、第2の速度データと称する。
【0029】
IMU1は、慣性計測装置と呼ばれ、3軸のジャイロセンサと3軸の加速度センサが組み込まれていて、3次元の角速度と3方向の加速度が求められる。
【0030】
このIMU1では、角速度と加速度が、リアルタイムで、かつ例えば10ms等の第1の周期で求められて、それらを表わすデータが100Hzのクロックに同期して出力され、この速度計測装置10に入力される。IMU1から出力される角速度および加速度は、そのIMU1が搭載されている自動車の進行方向を基準としたときの角速度および加速度である。このIMU1からのデータは、速度計測装置10の速度算出部11に入力され、この速度算出部11では、その入力されたデータに基づいて、この速度計測装置10が搭載されている自動車(以下、単に「自動車」と称する)の速度が算出される。具体的には、加速度の積算による速度の算出と角速度から求められる角度に基づく座標変換とにより、自動車の進行方向基準ではなく、地軸基準の速度(北方向、東方向、下方向)の各速度が算出される。ここでは、この速度算出部11で算出された速度を表わすデータを「第1の速度データ」と称する。上述の通り、IMU1からは、第1の周期(例えば10ms間隔)でデータが出力され、速度算出部11においても第1の速度データがその第1の周期で繰り返し算出される。
【0031】
この第1の速度データは、速度補正部12に入力される。速度補正部12では、速度算出部11で算出されたIMU1由来の、第1の周期で更新される第1の速度データが、後述するようにして算出された補正データ分だけ補正されて、第2の速度データが生成される。上述の通り、この第2の速度データは、この速度計測装置10から出力される出力速度データであって、リアルタイム性が確保された出力速度データである。
【0032】
一方、GPS受信機2からは、GPS搬送波のドプラシフト量から求められるドプラ速度を表わす第3の速度データが出力される。この第3の速度データは、自動車の進行方向基準ではなく、地軸基準の、北向き、東向き、下向きの3軸の速度を表わす速度データである。このGPS受信機2から出力される第3の速度データは、上記の第1の周期よりも1周期の時間が長い第2の周期、例えば100msごとに更新されるデータである。しかも、このGPS受信機2から出力される速度データは、出力される時点において既に140〜150ms程度の遅れを伴い、かつジッタ(遅れのゆれ)を持った速度データである。
【0033】
GPS受信機2から出力された第3の速度データは、補間処理部13に入力され、この補間処理部13では、その第3の速度データを補間処理することにより、上記の第1の周期で更新される第4の速度データが生成される。この補間処理部13では、第2の周期(例えば100ms)で更新される第3の速度データが線形補間され、第1の周期1周期分の時間(例えば10ms)ごとに更新される第4の速度データが生成される。ここで、この補間処理部13では、GPS受信機2からの、第2の周期(例えば100ms)離れた隣接する2つの速度データのうちの時間的に後の速度データの出力を待って補間処理が実行されるため、この第4の速度データは、その補間処理により第2の周期1周期分(例えば100ms)だけ更に遅れたデータとなる。
【0034】
一方、速度補正部12から出力された第2の速度データは、遅延処理部14に入力され、この遅延処理部14において制御データに基づく遅延量だけ遅延されることにより第5の速度データとなる。制御データについては後述する。遅延処理部14における遅延処理により生成された第5の速度データは、差分演算部15に入力される。補間処理13での補間処理により生成された第4の速度データ由来の第6の速度データも、差分演算部15に入力される。
【0035】
ここで、後述する第2実施形態において具体例を示すように、本発明の態様によっては、補間処理部13と差分演算部15との間に、遅延を含む処理を施す第2の遅延処理部18が配置されることがある。そこで、ここでは、補間処理部13で生成される速度データを第4の速度データと称し、差分演算部15に入力される速度データを第6の速度データと称する。第2の遅延処理部18が配置されない態様のときは、第4の速度データがそのまま第6の速度データとなる。
【0036】
差分演算部15では、第6の速度データと第5の速度データとの間の差分が演算されて両速度の差分値を表わす差分データが算出され、補正データ算出部16と制御データ生成部17に入力される。補正データ算出部16では、入力された差分データに基づいて補正データを算出する。
【0037】
GPS受信機2では、ドプラ速度が生成されるとともに、速度分散に基づいて、その生成したドプラ速度の精度の指標となるドプラ精度指標が生成される。本実施形態の補正データ算出部16では、そのドプラ精度指標を受け取り、そのドプラ精度指標に基づいて、ある閾値を境にして精度が高いと判定されるときに差分データに補正係数を乗算して補正データとして出力し、低いと判定とされるときに補正量ゼロからなる補正データを出力する。
【0038】
前述の通り、速度補正部12では、速度算出部11で算出されたIMU1由来の第1の速度データを補正データに基づいて補正し、この速度計測装置10の出力速度データである第2の速度データを生成する。したがって、この実施形態における速度補正部12では、GPS受信機2で生成されるドプラ精度指標に応じて、GPS受信機2で生成されたドプラ速度の精度が高いと判定されたときに差分データに補正係数が乗算された補正データにより第1の速度データが補正されて第2の速度データが生成され、ドプラ速度の精度が低いと判定されたときには、第1の速度データがそのまま第2の速度データとして出力される。このようにして、この速度計測装置10では、高精度の第2の速度データが生成される。この第2の速度データは、IMU1からデータが出力される周期である第1の周期で更新され、かつリアルタイム性が確保されたデータである。
【0039】
ここで、GPS受信機2由来の差分演算部15に入力される第6の速度データは、第2の遅延処理部18が配置されていない態様においても、前述の通り大きな遅延を伴った速度データである。第2の遅延処理部18が配置された態様の場合は、遅延がさらに大きくなる。差分演算部15では、遅延した第6の速度データの遅延量と同一の遅延量の第5の速度データとの差分が求められることが望ましい。しかしながら、遅延処理部14は、速度補正部12から出力された第2の速度データのフィードバック経路上に配置された遅延要素である。したがって第2の速度データをこの遅延処理部14で大きく遅延させた第5の速度データを生成すると、第2の速度データが発散してしまい、まともな出力速度データとして成立しなくなるおそれがある。そこで、本実施形態では、以下の構成により発散を防いでいる。
【0040】
差分演算部15で生成された差分データは、補正データ演算部16とともに制御データ生成部17にも入力される。この制御データ生成部17では、入力された差分データに基づいて、第2の速度データの発散を免れる範囲内で第2の速度データを遅延させるための制御データが生成される。本実施形態における制御データ生成部17は、以下の演算により、第2の速度データの発散のおそれの有無を判定している。
【0041】
差分演算部15から出力される差分データを、
【0045】
は、差分速度の、それぞれ北向き、東向き、下向きの各成分を表わす。
としたとき、
【0049】
は、それぞれ、今回出力された差分データから
【0051】
周期前に出力された差分データに至る一連のn個の差分データであることを表わ している。すなわち
【0055】
周期分の差分データの2乗和を表わしている。
に基づき、ある閾値を、
【0061】
のときに発散のおそれがある、と判定し、
【0063】
の範囲内で大きな遅延を指示する制御データを生成している。
【0064】
この制御データ生成部17で生成された制御データは遅延処理部14に入力され、第2の速度データをその制御データに応じた遅延量だけ遅延させる。したがって差分演算部15には、第2の速度データが発散しないレベルで遅延された第5の速度データが入力される。これにより、速度補正部12からは、リアルタイム性が確保された高精度の第2の速度データが出力される。
【0065】
なお、ここでは、制御データ生成部17には差分データが入力され、制御データ生成部17ではその差分データに基づいて制御データが生成されている。ただし、速度補正部12での補正には補正データが用いられており、第2の速度データが発散するか否かは、この補正データに依存する。そこで、この補正データを制御データ生成部17に入力し、制御データ生成部17ではその補正データに基づく制御データを生成してもよい。
【0066】
次に、この第1実施形態と比べ、より具体的な実施形態である第2実施形態について説明する。
【0067】
図2は、本発明の第2実施形態としての速度計測装置の構成を示したブロック図である。この
図2に示すIMU1、GPS受信機2、および速度計測装置20も、
図1に示す第1実施形態の場合と同様、自動車に搭載されたものである。この
図2に示す第2実施形態の説明にあたっては、
図1に示す第1実施形態における要素と同一の要素については、説明を省略することがある。
【0068】
IMU1からは、100Hzのクロックに同期して、3次元の角速度と3方向の加速度のデータが出力され、ストラップダウンナビゲータ部21に入力される。このストラップダウンナビゲータ部21は、
図1に示す第1実施形態における速度算出部11と速度補正部12とを合わせたものに相当する。すなわち、このストラップダウンナビゲータ部21では、IMU1から出力された、自動車の進行方向基準の角速度と加速度に基づいて、地軸基準の速度データが算出される。また、このストラップダウンナビゲータ部21の場合、
図1の第1実施形態とは異なり、このストラップダウンナビゲータ部21においてその速度データがさらに積算処理されて位置データも生成される。このストラップダウンナビゲータ部21ではさらに、その生成された速度データと位置データが補正データに基づいて補正されて出力速度データと出力位置データが生成される。ストラップダウンナビゲータ部21自体は良く知られた構成であり、ここでのこれ以上の詳細は省略する。この
図2において、補正データは、
【0076】
は差分データにより表わされる差分値である。この差分値
【0078】
には速度の差分と位置の差分との双方が含まれている。詳細は後述する。
【0079】
GPS受信機2からは10Hzのクロックに同期して、ドプラ速度を表わす速度データと位置データが出力される。これらの速度データおよび位置データはいずれも地軸基準の3次元データである。これらの速度データおよび位置データは、10Hzのクロックに同期して100msごとに更新される。ただし、更新されるデータは実時間からすると既に150ms程度遅延し、しかも数msのジッタ(遅延のゆれ)を伴ったデータである。これら出力された速度データおよび位置データは補間処理部22に入力される。この補間処理部22は、第1実施形態における補間処理部13に相当する。GPS受信機2からはさらに、第1実施形態において説明した速度分散に基づくドプラ精度指標も出力される。このドプラ精度指標は補間処理部22を通過して良否係数算出部23に入力される。良否係数算出部23については後述する。
【0080】
補間処理部22では、GPS受信機2から出力されてきた100msごとの速度データおよび位置データが、線形補間により、IMU1由来のデータと同じ周期、すなわち10msごとの速度データおよび位置データに変換される。この変換により生成された10msごとの速度データおよび位置データは、同期ずれ補正部24に入力される。この同期ずれ補正部24では、IMU1から出力されるデータと、補間処理部22において補間処理された、GPS受信機2由来のデータとの間の、10ms未満の同期ずれが補正される(前掲の特許文献2参照)。ここで、IMU1から出力されるデータは、100Hzのクロックに同期したデータであるが、IMU1では、この100Hzのクロックの生成に水晶発振器を利用しており、実時間からすると誤差を含んでいる。
【0081】
一方、GPS受信機2から出力されるデータは、10Hzのクロックに同期したデータである。ただし、IMU1の場合と異なり、このGPS受信機2で生成される10Hzというクロックの周期は正確である。ただし、出力データ自体が150ms程度遅延しており、かつ数ms程度のジッタ(遅延のゆれ)を含んでいる。そこで、同期ずれ補正部24では、IMU1のクロック(100Hz)とGPS受信機2のクロック(10Hz)とを比較し、IMU1由来のデータとGPS受信機2由来のデータとの間の、クロック(100Hz)1周期未満の同期ずれを補正するように、補間処理部22から出力されたデータの遅れが補正される。
【0082】
なお、この同期ずれ補正部24では、速度データと位置データの双方について同期ずれを補正してもよいが、本実施形態の主目的は正確な速度データを生成することにあり、したがって、この同期ずれ補正部24では、速度データのみの同期ずれを補正するものであってもよい。
【0083】
同期ずれ補正部24から出力されたデータは、次に遅延処理部25に入力される。この遅延処理部25では、入力されてきた速度データおよび位置データが、後述する良否係数算出部23における良否係数βの算出に要する時間と同じ時間だけ遅延される。ここで、良否係数算出部23における良否係数βの算出演算は、100Hzのクロック(10ms周期)に同期して実行されるため、この良否係数算出部23における良否係数算出部に要する時間は10ms単位の時間である。したがって遅延処理部25でもそれと同じ10ms単位の時間だけ遅延される。
【0084】
本実施形態では、同期ずれ補正部24と遅延処理部25とを合わせたものが、第1実施形態において破線で示した第2の遅延処理部18(
図1参照)の一例に相当する。
【0085】
遅延処理部25から出力された速度データおよび位置データは、差分演算部26に入力される。
【0086】
一方、ストラップダウンナビゲータ部21から出力された出力速度データおよび出力位置データは、同期化処理部27を経由することで遅延を受けた後、差分演算部26に入力される。この同期化処理部27は、入力されてきた出力速度データおよび出力位置データを、後述する収束判定部28で生成された制御データに応じた遅延量だけ遅延させる。
【0087】
ここで、同期化処理部27は、第1実施形態(
図1参照)における遅延処理部14に対応し、収束判定部28は、第1実施形態における制御データ生成部17に対応する。ただし、この第2実施形態では速度データとともに位置データも取り扱っており、同期化処理部27および収束判定部28においても、速度データとともに位置データも取り扱われている。
【0088】
同期化処理部27で遅延処理を受けた出力速度データおよび出力位置データは、差分演算部26に入力される。差分演算部26では、同期化処理部27で遅延処理を受けた出力速度データおよび出力位置データと、遅延処理部25から出力された、GPS受信機2由来の速度データおよび位置データとの間の差分が算出されて、差分データが算出される。具体的には、遅延処理部25から出力された速度データ
【0107】
は、位置の下向きの成分
を表わす。
とし、同期化処理部27で遅延処理を受けた出力速度データ
【0126】
は、位置の下向きの成分
を表わす。
としたとき、差分演算部26では、差分値
【0141】
を表わす差分データは、収束判定部28と乗算部29とに入力される。本実施形態では、乗算部29と、良否係数算出部23と、拡張カルマンフィルタ部30の組合せが、第1実施形態(
図1参照)における補正データ算出部16に対応する。但し、この第2実施形態における補正データ算出アルゴリズムは、第1実施形態のものとは異なっている。詳細は後述する。
【0142】
収束判定部28では、入力されてきた差分データに基づいて、出力速度データおよび出力位置データを、それらが発散しない範囲内で遅延させる制御データを生成する。同期化処理部27は、この収束判定部28で生成された制御データに基づいて、出力速度データおよび出力位置データを発散しない範囲内で遅延させて、遅延処理部25から出力されるGPS受信機2由来の速度データおよび位置データとの同期に近づける。
【0143】
図3は、収束判定部における処理内容を示したフローチャートである。
【0144】
この収束判定部28では、先ず誤差2乗積算値
【0148】
によって算出される(ステップS1)。
【0156】
この収束判定部28では、次に、この算出した誤差2乗積算値
【0160】
と比較される(ステップS2)。誤差2乗積算値
【0164】
以下のときは、発散に至るまでに余裕があり、出力速度データおよび出力位置データの遅延量をさらに増加させるべきことを示している。
【0167】
と判定されたときは、遅延量を10ms増加させる(ステップS3)。
【0172】
と比較される(ステップS4)。この閾値
【0178】
を超えると発散のおそれが高まることを示している。ステップS4において、
【0180】
と判定されたときは、遅延量が10ms減少される(ステップS5)。
【0181】
このようにして遅延量が定められ、その遅延量だけ遅延させることを指示する制御データが出力される(ステップS6)。この遅延量の算出は、10ms周期で繰り返し行われる。この制御データは、前述の通り、同期化処理部27に入力され、同期化処理部27では出力速度データおよび出力位置データがその制御データに応じた遅延量だけ遅延される。これにより、出力速度データおよび出力位置データは発散が防止され、高精度なデータが維持される。
【0182】
なお、ここでは、収束判定部28では、速度データの場合と位置データの差分との双方を使って、遅延量算出の基礎となる誤差2乗積算値
【0184】
を算出しているが、速度データの発散の防止および精度維持を目的とする場合、速度データの差分のみに基づいて誤差2乗積算値
【0187】
また、この
図3に示すフローチャートは、遅延量算出アルゴリズムの一例を示したものであり、このアルゴリズムに限るものではない。例えば遅延量を一度定めればその後は安定的に動作する系の場合は、
図3のフローチャートのステップS4,S5を削り、遅延量ゼロから出発して、誤差2乗積算値
【0191】
を超えるまで遅延量を増加して、誤差2乗積算値
【0193】
がその閾値を超えた時点で遅延量算出の演算を終了させ、その時点以降は、その時点の遅延量を表わす制御データに固定してもよい。
【0194】
さらに、本実施形態では、収束判定部28において、差分演算部26で算出された差分値
【0196】
に基づいて制御データを算出しているが、収束判定部28では、以下において説明する乗算部29において生成される乗算値
【0198】
や拡張カルマンフィルタ部30から出力される補正値
【0204】
由来の値に基づいて制御データを算出してもよい。
【0205】
次に、
図2に戻って、良否係数算出部23、乗算部29および拡張カルマンフィルタ部30からなる補正データ算出処理について説明する(前掲の特許文献1参照)。
【0206】
良否係数算出部23には、補間処理部22での補間処理により生成されたGPS受信機2由来の速度データと、IMU1から出力された加速度および角速度のデータが入力される。
【0207】
良否係数算出部23では、GPS受信機2由来の速度データを微分して加速度データを算出するとともに、IMU1からデータに基づいて地軸基準の加速度データを算出する。この良否係数算出部23では、さらに、このようにして算出した両者の加速度データどうしの差分の2乗を算出し、その算出結果の移動平均値を算出する。さらに、この移動平均値を規格化処理することにより、0〜1の範囲内の値であって、0に近づくほど誤差が小さく、1に近づくほど誤差が大きいという、誤差の指標値を算出する。この良否係数算出部23では、
【0212】
ここで、ドプラ精度指標値は、前述したように、GPS受信機2において速度分散に基づいて算出される、ドプラ速度の精度の指標を表わす値である。また、
【0217】
良否係数算出部23で算出された良否係数
【0219】
は、乗算部29に入力され、乗算部29では、差分演算部26で算出された差分値
【0226】
は、拡張カルマンフィルタ部30に入力される。これは、誤差が小さく
【0228】
のときは、差分演算部26で算出された差分値
【0230】
がそのまま拡張カルマンフィルタ部30の入力として反映され、誤差が大きく
【0234】
は、ゼロあるいは小さい値でしか拡張カルマンフィルタ部30の入力として反映されないことを意味している。
【0235】
拡張カルマンフィルタ部30では、運動方程式に基づいてカルマン係数
【0237】
を算出し、IMU1由来のデータを補正するための補正値
【0239】
を表わす補正データを生成してストラップダウンナビゲータ部21に向けて出力する。この拡張カルマンフィルタ部30自体は広く知られているため、ここでのこれ以上の詳細説明は省略する。
【0240】
ストラップダウンナビゲータ部21では、IMU1由来の速度データおよび位置データを、拡張カルマンフィルタ部30から受け取った補正データにより表わされる補正値
【0242】
だけ補正することで、出力速度データおよび出力位置データを生成する。
【0243】
このようにして生成された出力速度データおよび出力位置データは、発散することなく、IMU1由来の100Hzクロックに同期した、リアルタイム性が確保されたデータである。しかも、GPS受信機2由来のデータによってオフセット誤差等がキャンセルされた高精度のデータである。
【0244】
図4は、第2実施形態における効果を示した図である。
【0245】
図4の横軸は時間(s)、横軸は速度(km/h)である。ここでは、加速時のドプラ速度(破線)と出力速度(実線)の変化を表わしている。ここで、ドプラ速度は、GPS受信機2の出力であり、出力速度は、ストラップダウンナビゲータ部21の出力である。
【0246】
ドプラ速度は、変化が粗く、かつ時間遅れがあることが分かる。これに対し、出力速度は、発散もなく、IMU1由来のリアルタイム性が確保されており、かつ滑らかに変化していることが分かる。
【0247】
なお、ここでは自動車に搭載された速度計測装置について説明したが、本発明の速度計測装置は自動車に搭載されるものには限られない。本発明の速度計測装置は、例えば船舶や飛行機等、自動車以外の移動体に搭載されるものであってもよい。