特許第6193841号(P6193841)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6193841タイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193841
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物、及び空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 9/00 20060101AFI20170828BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20170828BHJP
   C08L 71/02 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20170828BHJP
   C08K 3/36 20060101ALI20170828BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   C08L9/00
   C08L7/00
   C08K3/06
   C08L71/02
   C08K3/04
   C08K3/36
   B60C1/00 B
   B60C1/00 Z
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-250111(P2014-250111)
(22)【出願日】2014年12月10日
(65)【公開番号】特開2016-108515(P2016-108515A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2016年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】北村 直也
(72)【発明者】
【氏名】時宗 隆一
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特許第5960732(JP,B2)
【文献】 国際公開第2013/046804(WO,A1)
【文献】 特開2012−057153(JP,A)
【文献】 特開昭63−213536(JP,A)
【文献】 特開平05−051491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L7/00−21/02
C08L71/02
C08K3/00−13/08
B60C1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブタジエンゴム、天然ゴム、及びイソプレンゴムの合計含有量がゴム成分100質量%中90質量%以上であり、
硫黄と、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される非イオン界面活性剤、並びにプルロニック型非イオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の非イオン界面活性剤とを含み、
ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを2〜70質量部、シリカを1〜5質量部含み、かつ
シランカップリング剤を含まず、
前記プルロニック型非イオン界面活性剤がポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物であるタイヤ用ゴム組成物。
【化1】
(式(1)中、Rは、炭素数6〜26の不飽和結合を有する炭化水素基を表す。dは整数を表す(ただし、0及び負の整数を除く)。)
【化2】
(式(2)中、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数6〜26の炭化水素基を表す。eは整数を表す(ただし、0及び負の整数を除く)。)
【請求項2】
ゴム成分100質量部に対して、前記非イオン界面活性剤を0.1〜5.0質量部含む請求項1記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
ゴム成分100質量部に対して、前記硫黄を0.1〜6.0質量部含む請求項1又は2記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ブタジエンゴムの含有量がゴム成分100質量%中30質量%以上である請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項5】
サイドウォール用ゴム組成物、クリンチ用ゴム組成物、及び/又はウイング用ゴム組成物として用いられる請求項1〜4のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載のゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有する空気入りタイヤ。
【請求項7】
前記タイヤ部材が、サイドウォール、クリンチ、及び/又はウイングである請求項6記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車用タイヤは、天然ゴムやジエン系合成ゴムを原料としたゴム組成物を用いているため、オゾンの存在下で劣化が進行することにより、クラックが生じるおそれがある。オゾン存在下でのクラックの発生やその進行を抑制するために、例えば、老化防止剤(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン(6PPD)、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−)ジヒドロキノリン(TMDQ)など)や石油系ワックスなどの添加剤がゴム組成物に配合されている。
【0003】
上記老化防止剤や石油系ワックスは、加硫ゴム中からタイヤなどのゴム表面に移行(ブルーム)することでオゾンからゴムを守る働きをする。しかしながら、上記老化防止剤や石油系ワックスが短期間で過剰にブルームする事が、白変色の原因となっている。また、オゾンにより劣化した老化防止剤が茶変の原因となり、同様に過剰にブルームする事で、茶変色がより強くなる。更に、タイヤ表面に析出したワックス等が凸凹である場合、光の乱反射が生じ、劣化した老化防止剤による茶変色がより目立ちやすくなり、タイヤの光沢も失われる。加えて、タイヤには、外観、耐クラック性、耐オゾン性の他、低燃費性、破壊強度、耐スコーチ性等の性能を確保することも要求されている。
【0004】
特許文献1には、ポリオキシエチレンのエーテル型非イオン性界面活性剤を配合することにより、タイヤの外観悪化を防止できることが記載されている。しかしながら、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性、耐変色性、タイヤの外観、低燃費性、破壊強度、耐スコーチ性をバランス良く改善するという点では改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平05−194790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記課題を解決し、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性、耐変色性、タイヤの外観、低燃費性、破壊強度、耐スコーチ性をバランス良く改善できるタイヤ用ゴム組成物、及びこれを用いた空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ブタジエンゴム、天然ゴム、及びイソプレンゴムの合計含有量がゴム成分100質量%中90質量%以上であり、硫黄と、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される非イオン界面活性剤、並びにプルロニック型非イオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の非イオン界面活性剤とを含み、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを2〜70質量部、シリカを1〜5質量部含み、かつシランカップリング剤を含まないタイヤ用ゴム組成物に関する。
【化1】
(式(1)中、Rは、炭素数6〜26の不飽和結合を有する炭化水素基を表す。dは整数を表す。)
【化2】
(式(2)中、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数6〜26の炭化水素基を表す。eは整数を表す。)
【0008】
ゴム成分100質量部に対して、上記非イオン界面活性剤を0.1〜5.0質量部含むことが好ましい。
【0009】
上記タイヤ用ゴム組成物は、ゴム成分100質量部に対して、上記硫黄を0.1〜6.0質量部含むことが好ましい。
【0010】
上記タイヤ用ゴム組成物は、上記ブタジエンゴムの含有量がゴム成分100質量%中30質量%以上であることが好ましい。
【0011】
上記タイヤ用ゴム組成物は、サイドウォール用ゴム組成物、クリンチ用ゴム組成物、及び/又はウイング用ゴム組成物として用いられることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、上記ゴム組成物を用いて作製したタイヤ部材を有する空気入りタイヤに関する。
【0013】
上記タイヤ部材が、サイドウォール、クリンチ、及び/又はウイングであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、ブタジエンゴム、天然ゴム、及びイソプレンゴムの合計含有量がゴム成分100質量%中90質量%以上であり、硫黄と、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される非イオン界面活性剤、並びにプルロニック型非イオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の非イオン界面活性剤とを含み、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを2〜70質量部、シリカを1〜5質量部含み、かつシランカップリング剤を含まないタイヤ用ゴム組成物であるので、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性、耐変色性、タイヤの外観、低燃費性、破壊強度、耐スコーチ性をバランス良く改善でき、これらの性能バランスに優れた空気入りタイヤを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ブタジエンゴム、天然ゴム、及びイソプレンゴムの合計含有量がゴム成分100質量%中90質量%以上であり、硫黄と、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される非イオン界面活性剤、並びにプルロニック型非イオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の非イオン界面活性剤とを含み、ゴム成分100質量部に対して、カーボンブラックを2〜70質量部、シリカを1〜5質量部含み、かつシランカップリング剤を含まない。
【0016】
本発明では、先ず、特定のゴム成分と特定量のカーボンブラックと硫黄とを配合したゴム組成物において、特定の非イオン界面活性剤を配合することにより、ワックス等の析出により形成されるタイヤ表面(ブルーム層)の凸凹が平滑化され、光の乱反射が抑制される。これにより、上述の茶変色や白変色を軽減するなど、耐変色性も向上する。また、タイヤ表面に適度な黒色外観と光沢を与えるなど、タイヤ外観が改善される。同時に、良好な操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性、低燃費性を維持又は改善できる。
【0017】
また、特定の非イオン界面活性剤を配合することにより、ゴム組成物と、特定の非イオン界面活性剤との相溶性が適度にコントロールされた結果、上述のように、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性、タイヤ外観、耐変色性、低燃費性がバランス良く改善されると推察される。
【0018】
しかし、特定の非イオン界面活性剤の配合で前述の効果が得られる一方で、製造工程におけるスコーチタイムが短くなり、ゴム焼けが生じる懸念がある。本発明では、このような特定の非イオン界面活性剤の配合により生じる新たな課題を、特定の非イオン界面活性剤に加え、更にシリカを併用し、かつシランカップリング剤を添加しないことにより解決し、スコーチタイムの短縮化を抑制するだけでなく、破壊強度の改善も可能となる。従って、本発明では、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性、耐変色性、タイヤの外観、低燃費性、破壊強度、耐スコーチ性の性能バランスを顕著に改善できる。
【0019】
本発明のゴム組成物では、ブタジエンゴム(BR)、天然ゴム(NR)、及びイソプレンゴム(IR)からなる群より選択される少なくとも1種のゴムが使用される。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、操縦安定性、低燃費性、破断時伸び、耐久性の点から、NR及び/又はIRと、BRとを併用することが好ましい。
【0020】
NRとしては、SIR20、RSS♯3、TSR20、TSR10、TSS#8等、IRとしては、IR2000等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
ゴム成分100質量%中のNRとIRの合計含有量は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは30質量%以上である。該合計含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。NRとIRの合計含有量が上記範囲内であると、本発明の効果がより好適に得られる。
【0022】
BRとしては特に限定されず、例えば、日本ゼオン社製のBR1220、宇部興産社製のBR130B、BR150B等の高シス含有量のBR、宇部興産社製のVCR412、VCR617等の1,2−シンジオタクチックポリブタジエン結晶(SPB)を含むBR、希土類元素系触媒を用いて合成されたブタジエンゴム(希土類系BR)等、タイヤ工業において一般的なものを使用できる。また、スズ化合物により変性されたスズ変性ブタジエンゴム(スズ変性BR)も使用できる。なかでも、シス含量は95質量%以上が好ましい。また、SPBを含むBRとスズ変性BRを併用することも好ましい。
【0023】
上記SPBを含むBRにおいて、SPBは、耐摩耗性、押し出し加工性の点で、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散していることが好ましい。SPBの融点は、180〜220℃が好ましい。SPBを含むBR中におけるSPBの含有量は、2.5〜20質量%が好ましい。ここで、SPBを含むBR中におけるSPBの含有量とは、沸騰n−ヘキサン不溶物の含有量を示す。
【0024】
上記スズ変性BRは、リチウム開始剤により1,3−ブタジエンの重合を行った後、スズ化合物を添加することにより得られ、更に該スズ変性BR分子の末端はスズ−炭素結合で結合されていることが好ましい。
【0025】
上記リチウム開始剤としては、アルキルリチウム、アリールリチウム等のリチウム系化合物、スズ化合物としては、四塩化スズ、ブチルスズトリクロライド等が挙げられる。また、スズ変性BRのスズ原子の含有量は50〜3000ppmが好ましく、スズ変性BRの分子量分布(Mw/Mn)は2以下であることが好ましい。なお、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)を用い、標準ポリスチレンより換算した値である。また、スズ変性BRのビニル含量は、好ましくは5〜50質量%である。なお、ビニル含量(1,2−結合ブタジエン単位量)は、赤外吸収スペクトル分析法によって測定できる。
【0026】
上記ゴム成分100質量%中のBRの含有量は、好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%以上である。該含有量は、好ましくは80質量%以下、より好ましくは75質量%以下である。BRの含有量が上記範囲内であると、良好な操縦安定性、低燃費性、破断時伸びを確保しつつ、良好な耐摩耗性、耐久性、耐亀裂成長性が得られる。
【0027】
本発明のゴム組成物では、ブタジエンゴム、天然ゴム、及びイソプレンゴムの合計含有量(好ましくはブタジエンゴム、及び天然ゴムの合計含有量)がゴム成分100質量%中90質量%以上、好ましくは95質量%以上であり、100質量%であってもよい。これにより、良好な操縦安定性、低燃費性、破壊強度、耐クラック性、耐オゾン性が得られる。
【0028】
BR、NR、IR以外に使用できるゴム成分としては、特に限定されず、スチレンブタジエンゴム(SBR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X−IIR)等のジエン系ゴムが挙げられる。ゴム成分は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0029】
本発明では、下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される非イオン界面活性剤、並びにプルロニック型非イオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の非イオン界面活性剤が使用される。
【0030】
下記式(1)及び/又は下記式(2)で表される非イオン界面活性剤のなかでも、本発明の効果(特に、操縦安定性、耐オゾン性)がより好適に得られるという理由から、下記式(2)で表される非イオン界面活性剤が好ましい。
【化3】
(式(1)中、Rは、炭素数6〜26の不飽和結合を有する炭化水素基を表す。dは整数を表す。)
【化4】
(式(2)中、R及びRは、同一若しくは異なって、炭素数6〜26の炭化水素基を表す。eは整数を表す。)
【0031】
式(1)のRは、炭素数6〜26の不飽和結合を有する炭化水素基を表す。Rの炭化水素基の炭素数が5以下の場合、ゴムへの浸透性が低く、ゴム表面に移行する速度が速くなりすぎる為、ゴム表面の外観が悪くなる傾向がある。またRの炭化水素基の炭素数が27以上の場合、原料が入手困難または高価であり、不適である。Rの炭化水素基の炭素数が上記範囲内であると、非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0032】
の炭化水素基の炭素数は、好ましくは8〜24、より好ましくは10〜22、更に好ましくは14〜20である。
【0033】
の炭素数6〜26の不飽和結合を有する炭化水素基としては、炭素数6〜26のアルケニル基、炭素数6〜26のアルキニル基が挙げられる。
【0034】
炭素数6〜26のアルケニル基としては、例えば、1−ヘキセニル基、2−ヘキセニル基、1−オクテニル基、デセニル基、ウンデセニル基、ドデセニル基、トリデセニル基、テトラデセニル基、ペンタデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基、イコセニル基、トリコセニル基、ヘキサコセニル基等が挙げられる。
【0035】
炭素数6〜26のアルキニル基としては、例えば、ヘキシニル基、へプチニル基、オクチニル基、ノニニル基、デシニル基、ウンデシニル基、ドデシニル基、トリデシニル基、テトラデシニル基、ペンタデシニル基、ヘプタデシニル基、オクタデシニル基、イコシニル基、トリコシニル基、ヘキサコシニル基等が挙げられる。
【0036】
としては、炭素数6〜26のアルケニル基が好ましい。
【0037】
d(整数)は、大きいほど親水親油バランスを表すHLB値が高くなり、ゴム表面に移行する速度が速くなる傾向がある。本発明において、dの値は特に限定されず、使用条件・目的等に応じて適宜選択できる。なかでも、dとしては、好ましくは2〜25、より好ましくは4〜20、更に好ましくは8〜16、特に好ましくは10〜14である。
【0038】
上記式(1)で表される非イオン界面活性剤としては、エチレングリコールモノオレエート、エチレングリコールモノパルミエート、エチレングリコールモノバクセネート、エチレングリコールモノリノレート、エチレングリコールモノリノレネート、エチレングリコールモノアラキドネート、エチレングリコールモノセチルエート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、入手の容易性、コストの点から、エチレングリコールモノオレエートが好ましい。
【0039】
式(2)のR及びRは、同一若しくは異なって、炭素数6〜26の炭化水素基を表す。R及びRの炭化水素基の炭素数が5以下の場合、ゴムへの浸透性が低く、ゴム表面に移行する速度が速くなりすぎる為、ゴム表面の外観が悪くなる傾向がある。またR及びRの炭化水素基の炭素数が27以上の場合、原料が入手困難または高価であり、不適である。R及びRの炭化水素基の炭素数が上記範囲内であると、非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0040】
及びRの炭化水素基の炭素数は、好ましくは8〜24、より好ましくは10〜22、更に好ましくは14〜20である。
【0041】
及びRの炭素数6〜26の炭化水素基としては、炭素数6〜26のアルケニル基、炭素数6〜26のアルキニル基、炭素数6〜26のアルキル基が挙げられる。
【0042】
炭素数6〜26のアルケニル基、炭素数6〜26のアルキニル基としては、上述のRの場合と同様の基が挙げられる。
【0043】
炭素数6〜26のアルキル基としては、例えば、へキシル基、へプチル基、2−エチルヘキシル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、イコシル基、トリコシル基、ヘキサコシル基等が挙げられる。
【0044】
及びRとしては、炭素数6〜26のアルケニル基、炭素数6〜26のアルキニル基が好ましく、炭素数6〜26のアルケニル基がより好ましい。
【0045】
e(整数)は、大きいほど親水親油バランスを表すHLB値が高くなり、ゴム表面に移行する速度が速くなる傾向がある。本発明において、eの値は特に限定されず、使用条件・目的等に応じて適宜選択できる。なかでも、eとしては、好ましくは2〜25、より好ましくは4〜20、更に好ましくは8〜16、特に好ましくは10〜14である。
【0046】
上記式(2)で表される非イオン界面活性剤としては、エチレングリコールジオレエート、エチレングリコールジパルミエート、エチレングリコールジパルミテート、エチレングリコールジバクセネート、エチレングリコールジリノレート、エチレングリコールジリノレネート、エチレングリコールジアラキドネート、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジセチルエート、エチレングリコールジラウレート等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、入手の容易性、コストの点から、エチレングリコールジオレエート、エチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジステアレート、エチレングリコールジパルミテートが好ましい。
【0047】
プルロニック型非イオン界面活性剤は、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー、ポリプロピレングリコールエチレンオキシド付加物とも呼ばれ、一般的には、下記式(I)で表わされる非イオン界面活性剤である。下記式(I)で表わされるように、プルロニック型非イオン界面活性剤は、両側にエチレンオキシド構造から構成される親水基を有し、この親水基に挟まれるように、プロピレンオキシド構造から構成される疎水基を有する。
【化5】
(式(I)中、a、b、cは整数を表す。)
【0048】
プルロニック型非イオン界面活性剤のポリプロピレンオキシドブロックの重合度(上記式(I)のb)、及びポリエチレンオキシドの付加量(上記式(I)のa+c)は特に限定されず、使用条件・目的等に応じて適宜選択できる。ポリプロピレンオキシドブロックの割合が高くなる程ゴムとの親和性が高く、ゴム表面に移行する速度が遅くなる傾向がある。なかでも、非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、ポリプロピレンオキシドブロックの重合度(上記式(I)のb)は、好ましくは100以下であり、より好ましくは10〜70、更に好ましくは10〜60、特に好ましくは20〜60、最も好ましくは20〜45である。同様に、ポリエチレンオキシドの付加量(上記式(I)のa+c)は、好ましくは100以下であり、より好ましくは3〜65、更に好ましくは5〜55、特に好ましくは5〜40、最も好ましくは10〜40である。ポリプロピレンオキシドブロックの重合度、ポリエチレンオキシドの付加量が上記範囲内であると、非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果がより好適に得られる。
【0049】
プルロニック型非イオン界面活性剤としては、BASFジャパン(株)製のプルロニックシリーズ、三洋化成工業(株)製のニューポールPEシリーズ、旭電化工業(株)製のアデカプルロニックL又はFシリーズ、第一工業製薬(株)製エパンシリーズ、日油(株)製のプロノンシリーズ又はユニルーブ等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
ゴム成分100質量部に対して、上記式(1)及び/又は上記式(2)で表される非イオン界面活性剤と、プルロニック型非イオン界面活性剤との合計含有量は、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、特に好ましくは1.0質量部以上である。0.1質量部以上にすることで、老化防止剤やワックスによる変色を防止する効果、サイドウォール表面に適度の光沢を与える効果が十分に得られる。また、上記含有量は、好ましくは5.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下、更に好ましくは3.0質量部以下である。5.0質量部を超えると、非イオン系界面活性剤が過度にブルーミングし、過度の光沢が出て外観が悪化する傾向がある。
【0051】
本発明では、ポリマー鎖に適度な架橋鎖を形成する為に、硫黄が使用される。これにより、上記非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果が良好に得られる。硫黄としては、ゴム工業において一般的に用いられる粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄、可溶性硫黄などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0052】
硫黄の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上である。0.1質量部未満であると、本発明の効果が充分に得られないおそれがある。硫黄の含有量は、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは5.0質量部以下、更に好ましくは4.0質量部以下、特に好ましくは3.0質量部以下である。6.0質量部を超えると、操縦安定性、耐オゾン性、耐変色性、タイヤの外観が悪化するおそれがある。
【0053】
本発明では、加硫剤として、硫黄以外にもアルキルフェノール・塩化硫黄縮合物(例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV200)を使用してもよい。
【0054】
本発明では、特定量のカーボンブラックが使用される。これにより、良好な補強性が得られ、良好な操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性が得られる。また、多量のカーボンブラックを配合することにより、外観の悪化が懸念されるが、本発明では、カーボンブラックの含有量を特定量とすることにより、外観の悪化を抑制できる。また、上記非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果が良好に得られる。
【0055】
具体的には、カーボンブラックの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、2質量部以上、好ましくは5質量部以上、より好ましくは25質量部以上である。2質量部未満では、充分な補強性が得られず、耐久性、操縦安定性が悪化する傾向がある。該含有量は、70質量部以下、好ましくは60質量部以下、より好ましくは50質量部以下である。70質量部を超えると、低燃費性が悪化するおそれがある。
【0056】
カーボンブラックとしては、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAFなどが挙げられるが、特に限定されない。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0057】
カーボンブラックのチッ素吸着比表面積(NSA)は、20〜200m/gが好ましく、30〜60m/gがより好ましい。なお、NSAが20m/g未満では、耐久性、操縦安定性が低下するおそれがある。NSAが200m/gを超えると、充分な低燃費性、加工性が得られないおそれがある。
なお、本明細書において、カーボンブラックのチッ素吸着比表面積は、JIS K 6217−2:2001によって求められる。
【0058】
本発明では、特定量のシリカが使用される。前記非イオン界面活性剤と少量のシリカを併用することで、耐スコーチ性、破壊強度が改善される。
具体的には、シリカの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、1〜5質量部である。1質量部未満では、スコーチの抑制効果や破壊強度の改善効果が充分に得られないおそれがある。5質量部を超えると、スコーチ時間が長くなり過ぎる(架橋が弱くなる)ため、加硫後物性が悪化する傾向がある。
【0059】
シリカとしては特に限定されず、例えば、乾式法シリカ(無水ケイ酸)、湿式法シリカ(含水ケイ酸)などが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、シラノール基が多いという理由から、湿式法シリカが好ましい。
【0060】
シリカの窒素吸着比表面積(NSA)は、好ましくは50m/g以上、より好ましくは80m/g以上、更に好ましくは150m/g以上である。50m/g未満では、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性が低下する傾向がある。該NSAは、好ましくは280m/g以下、より好ましくは240m/g以下である。280m/gを超えると、分散させるのが困難となり、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性が悪化する傾向がある。
なお、シリカのNSAは、ASTM D3037−93に準じてBET法で測定される値である。
【0061】
本発明のゴム組成物は、シランカップリング剤を含有しない。前記非イオン界面活性剤と少量のシリカを併用すると同時に、シランカップリング剤を配合しないことにより、耐スコーチ性、破壊強度が改善される。
【0062】
シランカップリング剤としては、ゴム工業において、従来からシリカと併用される任意のシランカップリング剤が挙げられる。具体的には、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)テトラスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)テトラスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)テトラスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)トリスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)トリスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)トリスルフィド、ビス(3−トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリエトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリエトキシシリルブチル)ジスルフィド、ビス(3−トリメトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(2−トリメトキシシリルエチル)ジスルフィド、ビス(4−トリメトキシシリルブチル)ジスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリエトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、2−トリメトキシシリルエチル−N,N−ジメチルチオカルバモイルテトラスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾリルテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラスルフィド、3−トリエトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド、3−トリメトキシシリルプロピルメタクリレートモノスルフィド等のスルフィド系;3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2−メルカプトエチルトリメトキシシラン、2−メルカプトエチルトリエトキシシラン等のメルカプト系;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル系;3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノ系;γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン等のグリシドキシ系;3−ニトロプロピルトリメトキシシラン、3−ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系;3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、2−クロロエチルトリメトキシシラン、2−クロロエチルトリエトキシシラン等のクロロ系;等が挙げられる。
【0063】
本発明では、オゾンによる亀裂の発生及び進行を抑制するために、ワックスを配合することが好ましい。本発明では、ワックスを配合しても上述のように、ワックス等の析出により形成されるタイヤ表面(ブルーム層)の凸凹を平滑化でき、光の乱反射が抑制されるため、上述の茶変色や白変色を軽減できる。また、タイヤ表面に適度な黒色外観と光沢を与えるなど、タイヤ外観が改善される。さらに本発明では、特定のゴム組成物であるため、良好な操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性は維持又は改善される。
【0064】
ワックスとしては特に限定されず、石油系ワックス、天然系ワックスなどが挙げられ、また、複数のワックスを精製又は化学処理した合成ワックスも使用可能である。これらのワックスは、単独で使用しても、2種類以上を併用してもよい。
【0065】
石油系ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられる。天然系ワックスとしては、石油外資源由来のワックスであれば特に限定されず、例えば、キャンデリラワックス、カルナバワックス、木ろう、ライスワックス、ホホバろうなどの植物系ワックス;ミツロウ、ラノリン、鯨ろうなどの動物系ワックス;オゾケライト、セレシン、ペトロラクタムなどの鉱物系ワックス;及びこれらの精製物などが挙げられる。
【0066】
上記ゴム組成物がワックスを含有する場合、ワックスの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.3質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上である。0.3質量部未満であると、充分な耐オゾン性が得られないおそれがある。また、該ワックスの含有量は、好ましくは6.0質量部以下、より好ましくは4.0質量部以下である。6.0質量部をこえると、それ以上の耐オゾン性の向上効果が望めず、コストが上昇するおそれがある。
【0067】
本発明のゴム組成物は、オイルを配合してもよい。オイルを配合することにより、加工性が改善され、タイヤに柔軟性を与える事ができ、本発明の効果がより良好に得られる。オイルとしては、例えば、プロセスオイル、植物油脂、又はその混合物を用いることができる。プロセスオイルとしては、例えば、パラフィン系プロセスオイル、アロマ系プロセスオイル、ナフテン系プロセスオイルなどを用いることができる。パラフィン系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のPW−32、PW−90、PW−150、PS−32などが挙げられる。また、アロマ系プロセスオイルとして、具体的には出光興産(株)製のAC−12、AC−460、AH−16、AH−24、AH−58などが挙げられる。植物油脂としては、ひまし油、綿実油、あまに油、なたね油、大豆油、パーム油、やし油、落花生湯、ロジン、パインオイル、パインタール、トール油、コーン油、こめ油、べに花油、ごま油、オリーブ油、ひまわり油、パーム核油、椿油、ホホバ油、マカデミアナッツ油、桐油等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、本発明の効果が好適に得られるという理由から、パラフィン系プロセスオイルが好ましい。
【0068】
上記ゴム組成物がオイルを含有する場合、オイルの含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは2.0質量部以上である。また、該オイルの含有量は、好ましくは60質量部以下、より好ましくは15質量部以下、更に好ましくは10質量部以下である。自らもタイヤ表面にブルームするオイルの含有量を上記範囲内とすることにより、上記非イオン界面活性剤のブルームを好適にコントロールでき、本発明の効果がより好適に得られる。なお、オイルの含有量が60質量部を超えると、低燃費性が悪化する傾向が有る。
【0069】
本発明のゴム組成物は、オゾンによる亀裂の発生及び進行を抑制するために、老化防止剤を含有することが好ましい。本発明では、老化防止剤を配合しても上述のように、良好な低燃費性、耐摩耗性を維持又は改善しつつ、茶変色や白変色を軽減でき、耐変色性、タイヤの外観を向上できる。
【0070】
老化防止剤としては特に限定されないが、なかでも、耐オゾン性能が良好であり、本発明の効果がより好適に得られるという理由から、アミン系老化防止剤が好ましく、特にp−フェニレンジアミン系老化防止剤が好ましい。
【0071】
p−フェニレンジアミン系老化防止剤としては、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−イソプロピル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N−1,4−ジメチルペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジ−2−ナフチル−p−フェニレンジアミン、N−シクロヘキシル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−メチルヘプチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1,4−ジメチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N,N’−ビス(1−エチル−3−メチルペンチル)−p−フェニレンジアミン、N−4−メチル−2−ペンチル−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン、N,N’−ジアリール−p−フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール−p−フェニレンジアミン、フェニルヘキシル−p−フェニレンジアミン、フェニルオクチル−p−フェニレンジアミンなどが挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なかでも、耐オゾン性能が良好であり、本発明の効果がより好適に得られ、経済性にも優れるという理由から、N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミンがより好ましい。
【0072】
上記ゴム組成物が老化防止剤を含有する場合、老化防止剤の含有量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上である。0.1質量部未満であると、充分な耐オゾン性が得られないおそれがある。該老化防止剤の含有量は、好ましくは3.0質量部以下、より好ましくは2.5質量部以下である。3.0質量部を超えると、老化防止剤のブルーム量が増大し、タイヤの外観が悪化するおそれがある。
【0073】
本発明のゴム組成物は加硫促進剤を含むことが好ましい。加硫促進剤の種類は特に制限はなく、通常用いられているものを用いることができる。加硫促進剤としては、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド−アミン系若しくはアルデヒド−アンモニア系、イミダゾリン系、又はキサンテート系加硫促進剤等が挙げられる。これら加硫促進剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
本発明で好適に使用可能なスルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えば、N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(TBBS)、N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)、N,N−ジシクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(DCBS)等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。なお、加硫促進剤の含有量は特に制限はなく、要望する加硫速度や架橋密度に合わせて自由に決めることが出来る。
【0075】
本発明のゴム組成物には、前記成分以外にも、ゴム組成物の製造に一般に使用される配合剤、例えば、酸化亜鉛、ステアリン酸、粘着付与剤などを適宜配合することができる。
【0076】
本発明のゴム組成物の製造方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、前記各成分をオープンロール、バンバリーミキサーなどのゴム混練装置を用いて混練し、その後加硫する方法などにより製造できる。
【0077】
本発明のゴム組成物は、タイヤの各部材(特に、タイヤの表面(外面)を構成し、良好な耐オゾン性、耐変色性、タイヤの外観が要求されるサイドウォール、クリンチ、及び/又はウイング等)に好適に使用できる。
【0078】
サイドウォールとは、ショルダー部からビード部にかけてケースの外側に配された部材であり、具体的には、特開2005−280612号公報の図1、特開2000−185529号公報の図1等に示される部材である。
【0079】
クリンチとは、サイドウォール下部に存在するリムとの接触部をカバーするゴム部であり、クリンチエイペックス又はラバーチェーファーともいう。具体的には、例えば、特開2008−75066号公報の図1等に示される部材である。
【0080】
ウイングとは、ショルダー部において、トレッドとサイドウォールの間に位置する部材であり、具体的には、特開2007−176267号公報の図1、3等に示される部材である。
【0081】
本発明の空気入りタイヤは、上記ゴム組成物を用いて通常の方法で製造できる。
すなわち、前記成分を配合したゴム組成物を、未加硫の段階でサイドウォール、クリンチ、ウイング等の形状にあわせて押出し加工し、他のタイヤ部材とともに、タイヤ成型機上にて通常の方法で成形することにより、未加硫タイヤを形成できる。この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することによりタイヤが得られる。
【0082】
本発明の空気入りタイヤは、たとえば乗用車用タイヤ、トラック・バス用タイヤ、二輪車用タイヤ、高性能タイヤ等として用いられる。なお、本明細書における高性能タイヤとは、グリップ性能に特に優れたタイヤであり、競技車両に使用する競技用タイヤをも含む概念である。
【実施例】
【0083】
実施例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらのみに限定されるものではない。
【0084】
以下、実施例及び比較例で使用した各種薬品について、まとめて説明する。
NR:RSS#3
BR1:日本ゼオン社製のBR1250H(リチウム開始剤を用いて重合したスズ変性BR、ビニル含量:10〜13質量%、Mw/Mn:1.5、スズ原子の含有量:250ppm)
BR2:宇部興産(株)製のVCR617(SPB含有BR、SPBの含有量:17質量%、SPBの融点:200℃)
BR3:宇部興産(株)製のBR150B(シス含量:97質量%)
カーボンブラック1:キャボットジャパン社製のショウブラックN220(NSA:111m/g)
カーボンブラック2:キャボットジャパン社製のショウブラックN550(NSA:42m/g)
シリカ:エボニックデグッサ社製のウルトラジルVN3(NSA:175m/g)
ワックス:大内新興化学工業(株)製のサンノックワックス
オイル:出光興産(株)製のプロセスオイルPW−32(パラフィン系プロセスオイル)
界面活性剤1:三洋化成工業社製のイオネットDO600(主成分が、式(2)のR及びR:−C1733、式(2)のe:12である化合物)
界面活性剤2:三洋化成工業社製のイオネットPO600(主成分が、式(1)のR:−C1733、式(1)のd:12である化合物)
界面活性剤3:三洋化成工業社製のニューポールPE−64(プルロニック型非イオン界面活性剤(PEG/PPG−25/30コポリマー)(上記式(I)のa+c:25、b:30))。
界面活性剤4:三洋化成工業社製のニューポールPE−74(プルロニック型非イオン界面活性剤(PEG/PPG−30/35コポリマー)(上記式(I)のa+c:30、b:35))。
界面活性剤5:関東化学(株)製のモノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン
界面活性剤6:関東化学(株)製のトリオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン
界面活性剤7:関東化学(株)製のポリオキシエチレンドデシルエーテル
界面活性剤8:東京化成工業(株)製のエチレングリコールジブチルエーテル
老化防止剤1:大内新興化学工業(株)製のノクラック6C(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−p−フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
V200:田岡化学工業(株)製のタッキロールV200(アルキルフェノール・塩化硫黄縮合物)
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
加硫促進剤:大内新興化学社製のノクセラーNS(N−tert−ブチル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
【0085】
表1、2に示す配合処方にしたがい、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、硫黄、V200及び加硫促進剤以外の薬品を180℃になるまで混練りした。次に、オープンロールを用いて、得られた混練り物に硫黄、V200及び加硫促進剤を添加して105℃になるまで練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。次に、得られた未加硫ゴム組成物を160℃で15分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。
【0086】
得られた加硫ゴム組成物を下記により評価し、結果を表1、2に示した。なお、表1、2の基準比較例をそれぞれ、比較例1、比較例16とした。
【0087】
<スコーチタイム>
JIS K 6300に準じて、130℃で所定の未加硫ゴム組成物のスコーチタイム(t10)を測定した。測定結果を、基準比較例を100として、下記計算式により指数表示した。指数が大きいほどスコーチタイムが長く、指数は100以上120未満を目標とした。
(スコーチタイム指数)=(基準比較例のスコーチタイム)/(各配合のスコーチタイム)×100
【0088】
<硬度測定>
JIS K6253に準拠し、25℃の温度で硬度計を用いて各加硫ゴム組成物の硬度を測定(ショア−A測定)し、基準比較例の硬度を100、92とした指数(各配合の硬度/基準比較例の硬度×100)を計算した。指数が大きいほど、操縦安定性に優れることを示す。なお、硬度指数は90以上を目標とした。
【0089】
<破断時伸び>
各加硫ゴム組成物から3号ダンベル型を用いて試験片を作成し、JIS K 6251「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−引張特性の求め方」に準じて、室温にて引張試験を実施し、破断時伸びEB(%)を測定し、基準比較例のEBを100とした指数(各配合のEB/基準比較例のEB×100)を計算した。指数が大きいほど、破壊強度に優れることを示す。なお、EB指数は100以上を目標とした。
【0090】
<低燃費性>
各加硫ゴム組成物から作成した試験片について、粘弾性スペクトロメーターVES((株)岩本製作所製)を用いて、温度70℃、初期歪み10%、動歪み±1%の条件下で、tanδを測定し、基準比較例のtanδを100として、下記計算式により指数表示した。指数が小さいほど、転がり抵抗特性(低燃費性)が優れている。なお、転がり抵抗指数は、102以下を目標とした。
(転がり抵抗指数)=(各配合のtanδ)/(基準比較例のtanδ)×100
【0091】
<耐オゾン性評価>
JIS K 6259「加硫ゴムおよび熱可塑性ゴム−耐オゾン性の求め方」に準じて、得られた加硫ゴム組成物から所定のサイズの試験片を作製し、動的オゾン劣化試験を行った。往復運動の周波数0.5±0.025Hz、オゾン濃度50±5pphm、試験温度40℃、引張歪み20±2%の条件下で、48時間試験した後の亀裂(クラックの発生の有無)の状態を観察することで、耐オゾン性を評価した。なお、評価方法は、JIS K 6259に記載の方式にしたがい、亀裂の数と大きさから指数化した数値を、耐オゾン性の指標とした。基準比較例の指標を100として、指数が大きいほど亀裂の数が少なく、亀裂の大きさが小さく、耐オゾン性に優れていることを示す。なお、耐オゾン性指数は98以上を目標とした。
【0092】
<耐変色性評価>
耐オゾン性試験を終えたサンプルを(株)ミノルタ製色彩色差度計(CR−310)を用い、a値、b値を求めた(L表色系)。指標を(a+b−0.5とし、基準比較例の指標を100とした指数(各配合の指標/基準比較例の指標×100)を計算した。指数が大きいほど、変色が少なく、耐変色性に優れることを示す。なお、耐変色性指数は100以上を目標とした。
【0093】
<外観評価>
耐オゾン性試験を終えたサンプルを屋外に持ち出し、下記指標にて外観評価を行った。
◎基準比較例より黒く、光沢がある
○基準比較例より黒く、やや光沢がある
△基準比較例と同等の茶色
×基準比較例より茶色い
【0094】
【表1】
【0095】
【表2】
【0096】
ブタジエンゴム、天然ゴム、及びイソプレンゴムを合計量が90質量%以上含むゴム成分、硫黄、特定の非イオン界面活性剤、カーボンブラック、シリカを所定量配合し、かつシランカップリング剤を添加していない実施例のゴム組成物では、操縦安定性、耐クラック性、耐オゾン性、耐変色性、タイヤの外観、低燃費性、破壊強度(EB)、耐スコーチ性の性能バランスを顕著に改善できた。
【0097】
そして、前記のような特定のゴム成分、特定量のカーボンブラック、硫黄に、更に特定の非イオン界面活性剤と少量のシリカの両成分を配合し、かつシランカップリング剤を添加していないゴム組成物をサイドウォールに適用したタイヤにおいて、前記性能バランスが改善された。また、クリンチ、ウイング配合で汎用されるカーボンブラックを含む配合でも、特定のゴム成分、特定量のカーボンブラック、硫黄、特定の非イオン界面活性剤、少量のシリカを配合し、かつシランカップリング剤を添加していないゴム組成物をクリンチ、ウイングに適用した場合、同様の効果が発揮された。