【課題を解決するための手段】
【0018】
以下では、人間の音環境内における所望の知覚空間的な方向または位置における音源の位置付けの方法が開示される。
【0019】
新規な方法は、人間の聴覚系の、音環境内の異なる空間的な方向または位置に配置された音源を区別する能力、および空間的に分離された音源の内の選択された1つまたは複数に集中する能力を利用する。
【0020】
新規な方法を使用した新規な聴覚装置システムも開示される。
【0021】
新規な方法によれば、人間の音環境内で音源が異なる空間的な位置または方向に位置すると人間が知覚するように、異なる音源からの信号が人間の耳に提示される。このようにして、人間の聴覚系のバイノーラル信号処理を利用して、異なる音源からの信号を分離し、彼または彼女が音源の所望の1つを聞くことに集中する、あるいは音源の2つ以上を同時に聞いて理解する、ユーザの能力を向上させる。
【0022】
会話信号が、人間の両耳において、逆位相、すなわち、互いに対して180°シフトした位相で提示されると、信号の具体的な到来方向は知覚されないが、多くのユーザが、逆位相で提示された会話信号が他の音源から分離し易く、理解し易いと感じることも分かっている。この効果は、150°以上かつ210°以下の範囲の位相シフトによって得ることができる。
【0023】
人間は、人間の持つバイノーラル音声の位置付け能力を利用して、3次元空間で音源の検出および位置付けを行う。
【0024】
聴覚への入力は、2つの信号、つまり、以下ではバイノーラル音声信号と称する、各鼓膜における音圧から成る。従って、ある空間的音場によって発生した鼓膜における音圧が、正確に鼓膜で再現されると、人の聴覚系は、再生された音声と、空間的音場自体によって発生した実際の音声とを区別できない。
【0025】
聞き手の左耳および右耳に対してある方向および距離に位置する音源からの音波の伝達は、音色変化、両耳間時間差、および両耳間スペクトル差等の何らかの直線歪みを含む、2つの伝達関数(一方は左耳用で、他方は右耳用)の形で表現される。一方が左耳用で、他方が右耳用であるこのような2つの伝達関数のセットは、頭部伝達関数(HRTF)と呼ばれる。HRTFの各伝達関数は、基準に対する、関係する外耳道内またはその付近の特定点において平面波によって発生した音圧p(左の外耳道ではp
Lであり、右の外耳道ではp
Rである)の比として定義される。従来的に選択される基準は、聞き手が不在の状態で、頭部のちょうど真ん中の位置で平面波によって発生するであろう音圧p
lである。
【0026】
HRTFは、頭部の周囲の回折、肩からの反射、外耳道内の反射等を含む、聞き手の耳への音伝達に関連する全ての情報を含み、従って、HRTFは、各人ごとに異なる。
【0027】
以下では、便宜上、HRTFの伝達関数の一方も、HRTFと称する。
【0028】
HRTFは、聞き手の両耳に対する音源の方向および距離と共に変化する。どのような方向および距離に関しても、HRTFの測定が可能であり、例えば電子的に、例えばフィルタを用いて、HRTFをシミュレーションすることが可能である。このようなフィルタが、マイクロフォン等のオーディオ信号源と、聞き手のそれぞれの耳に向けて音声を放射するための聞き手が装着するスピーカとの間の信号経路に挿入される場合、聞き手は、耳の中の音圧が実際通りに再現されるので、スピーカによって生成された音声が、対象とするHRTFをシミュレートするフィルタの伝達関数によって定義される距離および方向に位置する音源からのものであると知覚することができる。
【0029】
空間的に符号化された情報を解釈する際の脳によるバイノーラル処理により、幾つかのプラスの効果、つまり、改善された信号源分離、改善された到来方向(DOA)推定、および改善された奥行き/距離知覚が生じる。
【0030】
人間の聴覚系が音源に対する距離および方向に関する情報をどのように引き出すかは完全に分かってはいないが、人間の聴覚系が、この決定において多数のキューを使用することは分かっている。それらのキューの中には、スペクトルキュー、残響キュー、両耳間時間差(ITD)、両耳間位相差(IPD)、および両耳間レベル差(ILD)がある。
【0031】
バイノーラル処理において最も重要なキューは、両耳間時間差(ITD)および両耳間レベル差(ILD)である。ITDは、音源から両耳への距離の差から生じる。このキューは、主に、約1.5kHzまで有用で、この周波数を超えると、聴覚系は、もはやITDキューを分析することができない。
【0032】
レベル差は、回折の結果であり、音源と比較した両耳の相対位置によって決定される。このキューは、2kHzより上で優位であるが、聴覚系は、全スペクトルにわたってILDの変化に等しく敏感である。
【0033】
難聴は低周波数になる程軽くなる傾向があるので、聴覚障害者は、ITDキューから最も恩恵を受けると主張されてきた。
【0034】
指向性伝達関数は、頭部伝達関数または頭部伝達関数の近似である。頭部伝達関数の近似は、指向性伝達関数を備えるバイノーラルフィルタの出力信号に基づくバイノーラル音声信号を聴き取る人間が、方向キューによって定義される方向に存在する音源から音声が放射されたと知覚するように、入力信号に方向キューを付与したものである。
【0035】
人間に音源の方向または位置の知覚を与える新規な方法が提供される。その方法は、
ユーザに対する前記音源の位置を示す少なくとも1つの移動可能なシンボルをディスプレイに表示するステップと、
前記音源の知覚方向を選択するために、前記少なくとも1つの移動可能なシンボルを所望の位置に移動させるステップと、
前記選択された前記音源の知覚方向に対応する指向性伝達関数を備えるバイノーラルフィルタを選択するステップと、
前記選択された指向性伝達関数を備える前記バイノーラルフィルタの出力信号に基づいて、前記人間の耳にバイノーラル音声信号を放射するステップであって、それによって前記音声信号が前記選択された方向に位置する前記音源から放射されたものと前記人間が知覚するようにするステップを備えている。
【0036】
新規な方法によれば、スパウスマイクロフォン、メディアプレーヤ、ヒアリングループシステム、テレビ会議システム、ラジオ、テレビ、電話、アラーム付き機器等からのモノラルオーディオ信号等の、特定の音源によって放射されたモノラルオーディオ信号が、バイノーラルフィルタを用いてフィルタリングされて、聞き受けたモノラルオーディオ信号が、選択された空間における方向に位置するそれぞれの音源によって放射されたものと人間によって知覚される。
【0037】
さらに、新規な聴覚装置システムが提供される。その聴覚装置システムは、
第1のスピーカを収容する第1のハウジングと、第2のスピーカを収容する第2のハウジングを備える聴覚装置であって、前記第1および第2のスピーカから前記聴覚装置システムのユーザのそれぞれの耳へ向けて音声を放射するために、前記第1および第2のハウジングが前記ユーザの前記それぞれの耳に装着されるように構成された聴覚装置と、
入力信号を有しており、前記第1および第2のスピーカに接続されており、前記第1および第2のスピーカにバイノーラル信号を提供するための指向性伝達関数を有するバイノーラルフィルタであって、それによって前記入力信号が前記指向性伝達関数によって定義される方向に位置する音源から放射されたものと前記ユーザによって知覚されるバイノーラルフィルタと、
前記聴覚装置システムを制御するように構成された制御装置であって、
前記ユーザに対する少なくとも1つの音源の位置を示す少なくとも1つの移動可能なシンボルを表示するように構成されたディスプレイと、
前記ディスプレイを制御するように接続されたプロセッサと、
前記ディスプレイ上の前記少なくとも1つの移動可能なシンボルをユーザが位置決めするためのユーザインタフェースを備えており、
前記プロセッサがさらに、前記ディスプレイ上の前記少なくとも1つの移動可能なシンボルの位置に少なくとも部分的に基づいて、前記バイノーラルフィルタの前記指向性伝達関数の選択を制御するように構成されている制御装置を備える。
【0038】
第1および第2のスピーカは、バイノーラル補聴器の一部であってもよい。すなわち、バイノーラル補聴器の左耳および右耳のレシーバが、それぞれ第1および第2のスピーカを構成してもよい。
【0039】
バイノーラルフィルタは、入力信号に等しいものの、位相がそれぞれ異なる量だけシフトされており、それによって位相が相互にシフトしている出力信号を提供するように構成されていてもよい。
【0040】
バイノーラルフィルタは、代替的または追加的に、入力信号に等しいものの、それぞれ異なるゲインが乗算された出力信号を提供するように構成されていてもよい。
【0041】
バイノーラルフィルタは、頭部伝達関数を有していてもよい。
【0042】
聴覚装置システムは、異なる信号源から到来する異なる入力信号に適用される異なる指向性伝達関数を備える複数のバイノーラルフィルタを有していてもよい。それらのバイノーラルフィルタのうちの1つが、上記のバイノーラルフィルタである。
【0043】
入力信号を生成する信号源を備える装置は、スパウスマイクロフォン、メディアプレーヤ、ヒアリングループシステム、テレビ会議システム、ラジオ、テレビ、電話、場内放送、アラーム付き機器等であってもよい。
【0044】
バイノーラルフィルタの1つまたは複数が、第1のおよび/または第2のハウジングに収容されていてもよい。
【0045】
信号源を備える装置が、バイノーラルフィルタを備えていてもよい。
【0046】
聴覚装置は、制御装置からのデータを送信するためのデータインタフェースを備えていてもよい。
【0047】
データインタフェースは、有線インタフェース、たとえばUSBインタフェースであってよく、または、ブルートゥース(Bluetooth)(登録商標)インタフェース、たとえば低エネルギーのブルートゥース(Bluetooth Low Energy)インタフェースなどの無線インタフェースであってよい。
【0048】
聴覚装置は、入力信号を提供するために、制御装置、または聴覚装置にオーディオ信号を送信可能な信号源を備える他の装置からオーディオ信号を受信するためのオーディオインタフェースを備えていてもよい。
【0049】
オーディオインタフェースは、有線インタフェースであってもよいし、無線インタフェースであってもよい。
【0050】
データインタフェースおよびオーディオインタフェースは、例えばUSBインタフェースや、ブルートゥースインタフェースなどの、単一のインタフェースに組み込まれていてもよい。
【0051】
聴覚装置は、たとえば、聴覚装置と制御装置の間で制御データを交換するための低エネルギーのブルートゥースデータインタフェースと、聴覚装置、制御装置および信号源を備える他の装置の間でオーディオデータを交換するための有線オーディオインタフェースを有していてもよい。
【0052】
制御装置と、信号源を備えるいくつかのまたは全ての装置がそれぞれ、聴覚装置のバイノーラルフィルタの制御と同様の手法で制御装置によって制御可能な指向性伝達関数を備えるバイノーラルフィルタを有していてもよい。制御装置と、信号源を備えるいくつかのまたは全ての装置のバイノーラルフィルタによって出力されるバイノーラルオーディオ信号は、聴覚装置に送信される。これによって、バイノーラルフィルタは、これらの信号のために聴覚装置の内部で必要とされることがなく、それによって聴覚装置内の電力および信号処理のリソースが節約される。
【0053】
異なる信号源の知覚空間分離は、聴覚装置システムのユーザがそれらの信号源から放射されたモノラルオーディオ信号の会話を理解し、ユーザがオーディオ信号の所望の1つを聞くことに集中することを助ける。
【0054】
例えば、第1のバイノーラルフィルタは、それによって対応する第1の音源の知覚位置が頭部の外側へと、聴覚装置システムのユーザに対して横方向にシフトされる第1の両耳間時間差を導入するために、互いに対して位相シフトされた聴覚装置システムのユーザの右耳用および左耳用の信号を出力するように構成されてもよい。
【0055】
右耳用および左耳用の出力信号が互いに対して180°位相シフトされると、方向感覚は失われるが、多くの人間は、互いに対して180°位相シフトされた会話信号が他の信号源から分離し易く、理解し易いと感じる。
【0056】
さらなるバイノーラルフィルタを設けることによって、第2のスパウスマイクロフォン、メディアプレーヤ、ヒアリングループシステム、テレビ会議システム、ラジオ、テレビ、電話、アラーム付き機器等から受信した第2のモノラル信号等の他のモノラル信号を、受信した第2のモノラルオーディオ信号が、他の選択された知覚位置および知覚方向とは異なる、第2の位置に位置する音源によって放射されている、および/または空間における第2の方向から到来しているとユーザが知覚するように第2のバイノーラルフィルタを用いてフィルタリングし、音源のさらなる分離が得られてもよい。
【0057】
例えば、それによって第2の音源の対応する位置が、聴覚装置システムのユーザに対して横方向、好ましくは、第1の音源の反対方向にシフトされる第2の両耳間時間差を導入するために、第2のバイノーラルフィルタは、互いに対して位相シフトされた聴覚装置システムのユーザの右耳用および左耳用の信号を出力するように構成されてもよい。
【0058】
代替的または追加的に、それによって対応する第1の音源の知覚位置が、聴覚装置システムのユーザに対して横方向にシフトされる第1の両耳間レベル差を得るために、第1のオーディオ入力信号に第1の右ゲインおよび第1の左ゲインをそれぞれ乗じたものに等しい、聴覚装置システムのユーザの右耳用および左耳用の信号を出力するように第1のバイノーラルフィルタを構成してもよい。
【0059】
代替的または追加的に、それによって対応する第2の音源の知覚位置が、聴覚装置システムのユーザに対して横方向、好ましくは、第1の音源の反対方向にシフトされる第2の両耳間レベル差を得るために、第2のオーディオ入力信号に第2の右ゲインおよび第2の左ゲインをそれぞれ乗じたものに等しい、聴覚装置システムのユーザの右耳用および左耳用の信号を出力するように第2のバイノーラルフィルタを構成してもよい。
【0060】
新規な聴覚装置システムのユーザが、周囲の異なる位置に第1のオーディオ信号源および第2のオーディオ信号源が位置すると知覚するためには、第1の両耳間時間差および第1の両耳間レベル差のペアが、第2の両耳間時間差および第2の両耳間レベル差のペアと異なっている必要がある、例えば、第1および第2の両耳間レベル差は、第1および第2の両耳間時間差が異なっていれば同一でもよく、その逆でもよい。
【0061】
共にユーザの頭部の外に位置すると知覚されるオーディオ信号の知覚信号源の知覚空間分離は、ユーザが第1および第2のモノラルオーディオ信号の会話を理解し、ユーザが第1および第2のモノラルオーディオ信号の所望の1つを聞くことに集中することを助ける。
【0062】
指向性伝達関数は、頭部伝達関数、または頭部伝達関数の近似であってもよい。
【0063】
例えば、頭部伝達関数は、KEMAR等のマネキンを用いて決定されてもよい。このようにして、聴覚装置システムのユーザが聴覚装置を装着している時の方向感覚を維持するのに十分な正確さのものとなり得る、各人ごとの頭部伝達関数の近似が提供される。
【0064】
方位角は、ユーザの前方視方向を基準として水平面に投影された音源に対する知覚方位角度である。前方視方向は、ユーザの頭部の中心およびユーザの鼻の中心を通って引かれた仮想線によって定義される。従って、前方視方向に位置する音源は、0°の方位角値を有し、正反対の方向に位置する音源は、180°の方位角値を有する。ユーザの前方視方向に対して垂直な垂直面の左側に位置する音源は、−90°の方位角値を有し、ユーザの前方視方向に対して垂直な垂直面の右側に位置する音源は、+90°の方位角値を有する。
【0065】
本開示の全体を通して、一方の信号が他方の信号の関数である場合、例えば、一方の信号は、他方の信号のアナログ−デジタル変換またはデジタル−アナログ変換によって形成されてもよく、または一方の信号は、電子信号への音響信号の変換またはその逆によって形成されてもよく、または一方の信号は、他方の信号のアナログまたはデジタルフィルタリングまたはミキシングによって形成されてもよく、または一方の信号は、他方の信号の周波数変換等の変換によって形成されてもよい、等の場合、この一方の信号は、他方の信号を表すと言われる。
【0066】
さらに、特定の回路によって、例えば信号プロセッサにおいて処理される信号は、問題の回路の入力から回路の出力までの問題の信号の信号経路の一部を形成するアナログまたはデジタル信号を特定するために使用され得る名前で特定されてもよい。例えば、マイクロフォンの出力信号、すなわちマイクロフォンオーディオ信号(処理済みマイクロフォンオーディオ信号を含む)は、マイクロフォンの出力からスピーカの入力までの信号経路の一部を形成するアナログまたはデジタル信号の特定に使用されてもよい。
【0067】
新規な聴覚装置システムは、各周波数チャネルにおいて入力信号の少なくとも一部を個々に処理する複数の周波数チャネルへと入力信号を分配するマルチチャネルの第1および/または第2の補聴器を備えるバイノーラル補聴器を備えていてもよい。
【0068】
複数の周波数チャネルは、歪曲周波数チャネルを含んでいてもよく、例えば、周波数チャネルの全てが歪曲周波数チャネルでもよい。
【0069】
バイノーラル補聴器は、異なるタイプの音環境に応じて適切に新規な回路または他の従来の回路を作動させるために選択できるように、難聴補正の他の従来の方法に応じて使用される回路を追加的に設けてもよい。異なる音環境には、会話、ガヤガヤと話す会話、レストランの騒々しさ、音楽、交通騒音等が含まれてもよい。
【0070】
バイノーラル補聴器は、例えば、デジタル信号プロセッサ(DSP)を含んでいてもよく、これの処理は、実際に行われる信号処理の調整を行うための様々なパラメータを各々有する選択可能な信号処理アルゴリズムによって制御される。マルチチャネル補聴器の各周波数チャネルにおけるゲインは、そのようなパラメータの例である。
【0071】
選択可能な信号処理アルゴリズムの1つは、新規な方法に従って動作する。
【0072】
例えば、様々なアルゴリズムは、従来の雑音抑制、すなわち、不要な信号の減衰および所望の信号の増幅のために提供されてもよい。
【0073】
異なる音環境から得られたマイクロフォン出力信号は、非常に異なる特性、例えば、平均および最大音圧レベル(SPL)および/または周波数成分を有していてもよい。従って、信号処理アルゴリズムのアルゴリズムパラメータの特定の設定が特定の音環境において最適な信号品質を持つ処理済み音声を提供する特定のプログラムと各タイプの音環境を関連付けてもよい。このようなパラメータのセットは、一般的に、広帯域ゲイン、周波数選択性フィルタアルゴリズムのコーナー周波数または傾きに関連するパラメータ、および例えば自動ゲイン制御(AGC)アルゴリズムのニーポイントおよび圧縮率を制御するパラメータを含んでいてもよい。
【0074】
各アルゴリズムの信号処理特性は、補聴器ディスペンサのオフィスでの初回のフィッティング時に決定され、バイノーラル補聴器の不揮発性メモリ領域にプログラムされてもよい。
【0075】
バイノーラル補聴器は、バイノーラル補聴器のユーザが対象とする音環境において所望の難聴補正を得るために利用可能な信号処理アルゴリズムの1つを選択できるように、例えば、補聴器ハウジングまたはリモコン装置のボタン、トグルスイッチ等のユーザインタフェースを有していてもよい。
【0076】
一方または両方の補聴器は、テレコイルを備えていてもよい。テレコイルは、テレコイルにおける磁場を、対応するアナログオーディオ信号に変換する。そのオーディオ信号の瞬時電圧は、テレコイルにおける磁場の強度とともに連続的に変化する。テレコイルは、例えば教会、講堂、劇場、映画館等の公共の場で、または、駅、空港、ショッピングモール等において場内放送を用いて、大勢の人々に話している話者からの会話の信号対雑音比を増加させる。話者からの会話は、誘導ループシステム(「ヒアリングループ」とも呼ばれる)を用いて磁場に変換され、テレコイルは磁気的に送信された会話信号を磁気的にピックアップするために使用される。
【0077】
テレコイルの出力オーディオ信号は、制御装置によって選択された指向性伝達関数を備えるバイノーラルフィルタに入力されてもよい。それによって、ユーザの耳で再生されるテレコイル信号が、指向性伝達関数によって定義される方向に位置する音源から放射されたものとユーザによって知覚されるように、テレコイル信号の到来の知覚方向をユーザが選択することができる。
【0078】
一方または両方の補聴器は、1つまたは複数のマイクロフォンと、テレコイルと、例えば無指向性のマイクロフォン信号、または指向性のマイクロフォン信号、またはテレコイル信号を、単独でまたは任意の組み合わせで、オーディオ信号として選択するためのスイッチを備えていてもよい。
【0079】
典型的には、アナログオーディオ信号は、アナログ−デジタル変換器における対応するデジタルオーディオ信号への変換によって、デジタル信号処理に適したものとされ、それによってアナログオーディオ信号の振幅が二進数で表現される。このように、デジタル値のシーケンスの形式の離散時間離散振幅のデジタルオーディオ信号が、連続時間連続振幅のアナログオーディオ信号を表現する。
【0080】
制御装置のプロセッサは、聴覚装置にオーディオ信号を送信可能な様々な装置を表現する識別可能なシンボルを表示するように、制御装置のディスプレイを制御するように構成されている。したがって、聴覚装置にオーディオ信号を送信可能なそれぞれの装置は、他の装置を表現するシンボルとは異なるシンボルによって表現することができる。1つのシンボルはユーザを表現する。
【0081】
ユーザは、制御装置のユーザインタフェースを使用して、ディスプレイ上の所望の位置にシンボルを移動させることができる。例えば、スマートフォンの技術分野で周知であるように、ディスプレイは、ユーザがタッチしたシンボルをドラッグすることによりシンボルを移動させることを可能にする、タッチセンシティブディスプレイであってもよい。
【0082】
シンボルがディスプレイ上の所望の位置に移動されると、プロセッサは、ユーザを表現するシンボルに対する音源を表現するシンボルのディスプレイ上の位置に対応した指向性伝達関数を選択するために、対応するバイノーラルフィルタをシンボルによって表現される音源からのそれぞれの入力信号に接続するように制御する。それによって、ユーザは、ディスプレイ上のそれぞれのシンボルの位置によって示される方向に、あるいは位置に、音源が位置しているものと知覚する。
【0083】
好ましくは、ディスプレイ上のそれぞれのシンボルの位置によって示される方向は、ユーザの前方視方向を基準にして示されている。
【0084】
聴覚装置は、ユーザが聴覚装置をユーザの頭部上のその意図された動作位置に装着したときに、ユーザの頭部の姿勢を検知するための姿勢センサユニットを含んでいてもよく、プロセッサは、さらに、検知されたユーザの頭部の姿勢に少なくとも部分的に基づいて、バイノーラルフィルタの指向性伝達関数の選択を調整するように構成されていてもよい。
【0085】
このようにして、少なくとも1つの音源が、バイノーラルフィルタの指向性伝達関数の選択の後のユーザの頭部の姿勢の変化に関わりなく、ユーザの環境に対して固定されたままとなるように知覚されるであろう。従って、ユーザが自分の頭部を左に30°回転した場合、プロセッサは、ユーザが少なくとも1つの音源が音環境内で固定された位置に留まっていると知覚するように、すなわち、知覚方向の変化速度がユーザの頭部の姿勢の変化速度と対応するように、対応する少なくとも1つの音源の知覚方向が右に30°回転するような指向性伝達関数を選択するように構成されていてもよい。
【0086】
ユーザの頭部の姿勢は、環境に対して固定された基準座標系に対するユーザの現在の位置において鉛直方向軸と2つの水平方向軸を有する頭部座標系の向きとして定義してもよい。
【0087】
頭部座標系は、その中心がユーザの頭部の中心に位置するように定義される。ユーザの頭部の中心は、ユーザの左右の耳の鼓膜のそれぞれの中心間を結んだ線の中点として定義される。
【0088】
頭部座標系のX軸は、ユーザの鼻の中心を通って前方を指しており、Y軸は、左耳の鼓膜の中心を通って左耳の方を指しており、Z軸は、上方を指している。
【0089】
頭部のヨーは、ユーザの位置における水平面への現在のX軸の投影と、水平方向の基準方向、例えば、指向性伝達関数の選択がなされるときの前方視方向、あるいは磁北または真北との間の角度である。頭部のピッチは、現在のX軸と水平面との間の角度である。頭部のロールは、Y軸と水平面との間の角度である。頭部座標系のX軸、Y軸およびZ軸は、頭部X軸、頭部Y軸および頭部Z軸とも表記される。
【0090】
姿勢センサユニットは、聴覚装置の姿勢を決定するための加速度計を備えていてもよい。姿勢センサユニットは、ユーザが聴覚装置を身に着けているときに、同じ水平方向の変位を検出するための間隔を置いて配置された2つの加速度計の個々の変位の決定に基づいて、頭部のヨーを決定することができる。ヨー値が変化している間に、頭部のピッチおよび頭部のロールが変化しない場合には、このような決定は正確である。
【0091】
代替的に、あるいは追加的に、姿勢センサユニットは、水平方向の基準方向に対するユーザの位置における水平面への頭部X軸の投影の回転を検知するために配置された、第1のジャイロスコープ、例えばソリッドステートまたはMEMSのジャイロスコープを使用して、頭部のヨーを決定してもよい。
【0092】
同様に、姿勢センサユニットは、ユーザが聴覚装置をユーザの頭部上の意図された動作位置に装着したときに、頭部のピッチおよび/または頭部のヨーを決定するための、さらなる加速度計および/またはさらなるジャイロスコープを有していてもよい。
【0093】
例えば地球の真北または磁北に対する頭部のヨーの決定を容易にするために、姿勢センサユニットは、更に、磁力計などのコンパスを含んでいてもよい。
【0094】
従って、姿勢センサユニットは、頭部のヨー、または頭部のヨーおよび頭部のピッチ、または頭部のヨー、頭部のピッチおよび頭部のロールの情報をそれぞれ提供する、1軸、2軸または3軸のセンサを有していてもよい。
【0095】
従って、聴覚装置は、3軸全てについてソリッドステートまたはMEMSのジャイロスコープ、加速度計および磁力計の何れかを有する、ユーザの頭部の姿勢を決定するための、完全な姿勢方位基準装置(AHRS)を備えていてもよい。AHRSのプロセッサは、センサデータに基づいて、頭部のヨー、頭部のピッチおよび頭部のロールのデジタル値を提供する。
【0096】
従って、プロセッサは、ユーザが少なくとも1つの音源が音環境内において固定された位置に留まっていると知覚するように、ユーザの頭部の姿勢のヨーの変化を補償する、知覚方向のヨーが変化した指向性伝達関数を選択するように構成されていてもよい。
【0097】
同様に、プロセッサは、ユーザが少なくとも1つの音源が音環境内において固定された位置に留まっていると知覚するように、ユーザの頭部の姿勢のピッチの変化を補償する、知覚方向のピッチが変化した指向性伝達関数を選択するように構成されていてもよい。
【0098】
同様に、プロセッサは、ユーザが少なくとも1つの音源が音環境内において固定された位置に留まっていると知覚するように、ユーザの頭部の姿勢のロールの変化を補償する、知覚方向のロールが変化した指向性伝達関数を選択するように構成されていてもよい。
【0099】
バイノーラルフィルタの指向性伝達関数の選択は、例えばディスプレイ上の選択シンボルをタッチすることによって、あるいは移動可能なシンボルを所定の期間、例えば5秒間にわたって移動させないことによって、あるいは別の適切な方法によって、ユーザがユーザインタフェースを用いて特定のユーザコマンドを入力したときに、実行されてもよい。
【0100】
スマートフォンの技術分野で周知であるように、シンボルをディスプレイの端までドラッグすることで、シンボルをディスプレイから削除することができる。スマートフォンの技術分野で周知であるように、ディスプレイの端から選択可能なシンボルのパレットをドラッグして、パレットから選択されたシンボルをディスプレイ上にドラッグすることにより、新しいシンボルをディスプレイに追加することができる。
【0101】
本開示を通して、「オーディオ信号」という用語は、マイクロフォンまたはテレコイルまたは他の入力信号の出力からプロセッサの入力までの信号経路の一部を形成する、任意のアナログまたはデジタル信号を識別するために使用され得る。
【0102】
本開示を通して、「難聴補正済オーディオ信号」という用語は、信号プロセッサの出力から出力トランスデューサの入力までの信号経路の一部を形成する、任意のアナログまたはデジタル信号を識別するために使用され得る。バイノーラル補聴器は、会話、ガヤガヤと話す会話、レストランの騒々しさ、音楽、交通騒音等の多数の音環境カテゴリの1つにユーザの音環境を自動的に分類可能であってもよく、それに応じて、当該分野で公知のように、適切な信号処理アルゴリズムを自動的に選択してもよい。
【0103】
新規な聴覚装置システムにおける信号処理は、専用のハードウェアによって実行されてもよく、または1つまたは複数の信号プロセッサにおいて実行されてもよく、または専用のハードウェアと1つまたは複数の信号プロセッサとを組み合わせて実行されてもよい。
【0104】
本明細書において使用される、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「制御装置」、「システム」等の用語は、ハードウェア、ハードウェアおよびソフトウェアの組み合わせ、ソフトウェア、または実行中のソフトウェアのいずれかの、CPU関連の構成要素を指すように意図されたものである。
【0105】
たとえば、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「制御装置」、「システム」等は、プロセッサで実行中のプロセス、プロセッサ、オブジェクト、実行ファイル、実行スレッド、および/またはプログラムでもよいが、それらに限定されることはない。
【0106】
例として、「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「制御装置」、「システム」等の用語は、プロセッサで実行中のアプリケーションおよびハードウェアプロセッサの両方を指す。1つまたは複数の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「制御装置」、「システム」等、またはそれらのどのような組み合わせも、プロセスおよび/または実行スレッド内に存在してもよく、1つまたは複数の「プロセッサ」、「信号プロセッサ」、「制御装置」、「システム」等、またはそれらのどのような組み合わせも、1つのハードウェアプロセッサ上に、場合によっては、他のハードウェア回路との組み合わせで局在してもよく、および/または2つ以上のハードウェアプロセッサ間で、場合によっては、他のハードウェア回路との組み合わせで分配されてもよい。
【0107】
また、プロセッサ(または同様の用語)は、信号処理を実行することができるどんな構成要素でも、またはそのような複数の構成要素のどんな組み合わせでもよい。たとえば、信号プロセッサは、特定用途向け集積回路(ASIC)プロセッサ、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)プロセッサ、汎用プロセッサ、マイクロプロセッサ、回路要素、または集積回路であってよい。
【0108】
聴覚装置システムは、第1のスピーカを収容する第1のハウジングと、第2のスピーカを収容する第2のハウジングを備える聴覚装置であって、前記第1のスピーカおよび前記第2のスピーカからユーザのそれぞれの耳に向けて音声を放射するために、前記第1のハウジングと前記第2のハウジングが、前記ユーザの前記それぞれの耳に装着されるように構成されている聴覚装置と;入力信号を有しており、前記第1のスピーカおよび前記第2のスピーカに接続されたバイノーラルフィルタであって、前記第1のスピーカおよび前記第2のスピーカにバイノーラル信号を提供するために指向性伝達関数を有しており、それによって前記入力信号が前記指向性伝達関数によって定義される方向に位置する音源によって放射されたものと前記ユーザに知覚されるようにするバイノーラルフィルタと;前記聴覚装置システムを制御するように構成された制御装置であって、前記ユーザに対する少なくとも1つの音源の位置を示す少なくとも1つの移動可能なシンボルを表示するディスプレイと、プロセッサと、前記ディスプレイ上で前記少なくとも1つのシンボルを前記ユーザが位置決めするためのユーザインタフェースを備える制御装置と;を備えており、前記プロセッサが、前記ディスプレイ上の前記少なくとも1つの移動可能なシンボルの位置に少なくとも部分的に基づいて、前記バイノーラルフィルタの前記指向性伝達関数を決定するように構成されている。
【0109】
場合によっては、前記バイノーラルフィルタは、入力信号をそれぞれ異なる値で位相シフトしたものに等しい出力信号を提供するように構成されている。
【0110】
場合によっては、前記バイノーラルフィルタは、入力信号にそれぞれ異なるゲインを乗算したものに等しい出力信号を提供するように構成されている。
【0111】
場合によっては、前記指向性伝達関数は、頭部伝達関数である。
【0112】
場合によっては、前記聴覚装置システムは、それぞれ異なる指向性伝達関数を備える複数のバイノーラルフィルタを備えており、そのうちの1つが前記バイノーラルフィルタである。
【0113】
場合によっては、前記入力信号は、スパウスマイクロフォン、メディアプレーヤ、ヒアリングループシステム、テレビ会議システム、ラジオ、テレビ、電話、場内放送、アラーム付き機器からなるグループから選択された装置によって生成される。
【0114】
場合によっては、前記第1の補聴器ハウジングおよび前記第2の補聴器ハウジングの一方が、前記バイノーラルフィルタを収容している。
【0115】
場合によっては、前記バイノーラルフィルタが、前記入力信号を生成するように構成されている。
【0116】
場合によっては、前記第1のスピーカおよび前記第2のスピーカは、バイノーラル補聴器の一部である。
【0117】
場合によっては、前記バイノーラル補聴器は、前記入力信号としてテレコイル出力信号を提供するように構成されているテレコイルを備えている。
【0118】
聴覚装置のユーザに音源の位置の知覚を与える方法は:ディスプレイ上で前記ユーザに対する前記音源の位置を示す少なくとも1つの移動可能なシンボルを表示するステップと;前記音源の知覚方向を選択するために、前記少なくとも1つの移動可能なシンボルを所望の位置へ移動させるステップと;前記音源の前記選択された知覚方向に対応する指向性伝達関数を備えるバイノーラルフィルタを選択するステップと;前記指向性伝達関数を備える前記選択されたバイノーラルフィルタに基づいて、前記ユーザの耳にバイノーラル音声信号を放射するステップであって、それによって前記音声信号が前記選択された知覚方向に位置する前記音源から放射されたものと前記ユーザが知覚するステップを備えている。
【0119】
上記および他の態様および特徴は、以下の詳細な説明を読むことで明白になるであろう。