【実施例】
【0040】
・アルカリ不透過性材料及びアルカリ保持材料の試験
Cガラスと表わされる、ナトリウムイオンの重量濃度が少なくとも5%である、2mmの最小厚みを有するガラス基材を用いる。この試験材料を、この基材に100nmの厚みで直接堆積させる。
【0041】
この組合せ体を続いて、空気中で約1atmの圧力で、30分間600℃でアニールする。
【0042】
アニール後に、ナトリウムイオンの重量濃度を、SIMS(二次イオン質量分析)法によって、この層中の50nmの深さで測定する。これをC50と表わす。この濃度を、上記保持材料の試験用については、アニール前の標準サンプルについても測定する。これもC50と表わす。
【0043】
アルカリ不透過性材料の試験では、アニール後にC50/Cガラス≦0.001の場合に合格である。
【0044】
アルカリ保持材料の試験では、アニール前にC50/Cガラス≦0.001であり、そしてアニール後にC50/Cガラス≧0.3の場合に合格である。
【0045】
例えば、ナトリウムイオンの濃度を測定するために、SIMS測定を次のパラメーターを用いて実行することができる:
−Cs原子との摩擦(エネルギー=3keV);
−Ga原子での解析(エネルギー=15keV)。
【0046】
上記の測定方法は、例として与えられている。別の形態では、ナトリウムイオンの重量濃度の解析方法は、任意の適切な方法である。
【0047】
アルカリ不透過性材料は、例えば、窒化ケイ素又は窒化アルミニウムで作製される。
【0048】
アルカリ保持材料は、例えば、酸化ケイ素、酸化スズ、又は酸化亜鉛が少量成分であるスズ及び亜鉛の複合酸化物で作製される。
【0049】
上記の窒化物及び酸化物は、それぞれ窒素及び酸素について、準化学量論的、化学量論的、又は過化学量論的であってもよいということに留意すべきである。
【0050】
アルカリ保持層及び/又はアルカリ不透過性層を、特にこの層をマグネトロン堆積する場合には、例えばアルミニウム等の金属でドープする。
【0051】
アルカリバリア積層体の全てのアルカリ不透過性層及び全てのアルカリ保持層について、それぞれ同じ材料を用いてもよい。
【0052】
アルカリ不透過性の第一層2Aは、例えば3nm以上の厚みを有し、例えば5nm以上の厚みを有し、かつ30nm以下の厚みを有し、20nm以下の厚みを有し、15nm以下の厚みを有する。
【0053】
アルカリ保持層2Bは、例えば20nm以上の厚みを有し、例えば25nm以上の厚みを有し、かつ60nm以下の厚みを有し、40nm以下の厚みを有し、35nm以下の厚みを有する。
【0054】
アルカリ不透過性の第二層2A’は、例えば3nm以上の厚みを有し、例えば5nm以上の厚みを有し、かつ30nm以下の厚みを有し、20nm以下の厚みを有し、15nm以下の厚みを有する。
【0055】
別の形態では、アルカリバリア積層体は、少なくとも2つの追加層、すなわちアルカリ不透過性の第二層上に形成された第二のアルカリ保持層、例えばアルカリ不透過性の第二層の直接上に形成された第二のアルカリ保持層、及び第二のアルカリ保持層上に形成されたアルカリ不透過性の第三層、例えば第二のアルカリ保持層の直接上に形成されたアルカリ不透過性の第三層を有する。
【0056】
第二のアルカリ保持層は、例えば20nm以上の厚みを有し、例えば25nm以上の厚みを有し、かつ60nm以下の厚みを有し、40nm以下の厚みを有し、35nm以下の厚みを有する。
【0057】
アルカリ不透過性の第三層は、例えば3nm以上の厚みを有し、例えば5nm以上の厚みを有し、かつ30nm以下の厚みを有し、20nm以下の厚みを有し、15nm以下の厚みを有する。
【0058】
伝導性基材の他の部分を以下に記載する。
【0059】
電極コーティング4は、特に、少なくとも1つのモリブデン系層を含む。例えば、電極コーティングは、特許文献1に記載されている。
【0060】
明細書を通じて、用語「電極コーティング」は、電子を伝導する少なくとも1つの層、すなわち電子の移動度で定義される伝導率を有する少なくとも1つの層を含む、電流輸送コーティングを意味するものと理解される点に留意すべきである。
【0061】
明細書を通じて、「モリブデン系」は、実質的な量のモリブデンで構成されている材料、すなわちモリブデンのみで構成されている材料(したがって、金属)、モリブデンを主に含む金属合金、モリブデン系の化合物、例えば二硫化モリブデン、二セレン化モリブデン、二硫化モリブデン、二セレン化化合物Mo(S,Se)
2、又は酸化モリブデン、窒化モリブデン若しくは酸窒化モリブデンMo(O,N)を意味しているものと理解される。
【0062】
通常、表記(S,Se)は、S
xSe
1−x(0≦x≦1)の混合物を示す。
【0063】
例として、電極コーティング4は、
図1及び
図2に示されるように、例えば1層のみを含む。この層は、モリブデンで作製されており、300nm〜500nmの厚みを有し、例えば300nm〜450nmの厚みを有する。
【0064】
明細書を通じて、「1層のみ」は、1つの同じ材料で作られている1層を意味するものと理解される。しかし、この単一層は、特許文献1に記載されたような、特徴付けることができる界面がその間に存在する、1つの同じ材料の複数の層の重ね合せによって得ることもできる。
【0065】
通常は、マグネトロン堆積チャンバー中で、複数のターゲットによって、1つの同じ材料の複数の層を、誘電性基材上に連続して形成するであろう。これによって、最終的に、同じ材料の、すなわちモリブデンの1層のみを形成する。
【0066】
別の形態では、電極コーティング4が複数の導電層を含む場合、例えば、コーティング4の上部層をモリブデン層として、電極コーティング4にセレン化に対する抵抗を与える。そして、モリブデンで作製された上部層を、薄くすることができ、例えば50nm以下の厚みにすることができる。
【0067】
誘電性基材1、アルカリバリア積層体2、及び電極コーティング4で形成された伝導性基材は、光源に対して光活性層の背面に位置すること、すなわち光活性層の後に入射光を受光することが意図される。したがって、これは背面伝導性基材である。
【0068】
誘電性基材1は、例えばガラスの性能を有するシートである。しかし、別の形態では、これは透明ではない。
【0069】
このシートは、平坦であってもよく、凸面であってもよい。また、任意の寸法を有していてもよく、特に少なくとも1つの寸法が1メートル超であってもよい。
【0070】
これは有利には、ガラスシートである。
【0071】
このガラスは、クリア(clear)又はエクストラ−クリア(extra−clear)であってもよく、あるいは、例えばブルー、グリーン、アンバー、ブロンズ、若しくはグレーに着色されていてもよい。
【0072】
ガラスシートの厚みは、典型的には0.5〜19mmの間であり、特に2〜12mmの間であり、実際には4〜8mmでもよい。また、50μm以上の厚みを有するガラスフィルムであってもよい(この場合、バリア積層体及び電極コーティングを、例えばロールツーロールプロセスで堆積する)。
【0073】
一般的には、この基材は、任意の適切な種類であり、アルカリ、例えばナトリウムイオン及び/又はカリウムイオンを含む。この基材は、例えばソーダ−ライム−シリカガラスである。
【0074】
ソーダ−ライム−シリカ型のガラスを、フロートガラスプロセスによって得ることができる。したがって、これは、比較的安く、この種の材料について知られている全ての品質、例えばその透明性、水に対する不透過性及び硬度を示すガラスである。
【0075】
用語「ソーダ−ライム−シリカ型」は、その組成に、シリカ(SiO
2)を形成酸化物として含み、かつナトリウムの酸化物(ソーダ、Na
2O)及びカルシウムの酸化物(ライム、CaO)を含むガラスであると理解される。この組成は、好ましくは次の構成成分を、以下に規定される重量制限内で様々となる含有量で含む:
SiO
2:60〜75%
B
2O
3:0〜5%、好ましくは0
CaO:5〜15%
MgO:0〜10%
Na
2O:5〜20%
K
2O:0〜10%
BaO:0〜5%、好ましくは0。
【0076】
別の形態では、これはソーダ−ライム−シリカガラスではない。
【0077】
一般的に、誘電性基材は、少なくとも5重量%のNa
2Oを示す構成成分の組成を有するシリカ系ガラスで作製される。
【0078】
本発明の他の1つの主題は、上述の伝導性基材の製造方法である。
【0079】
この方法は、次の工程を本質として含む:
−誘電性基材1上にアルカリ不透過性の第一層2Aを形成する工程;
−アルカリ不透過性の第一層2A上に、例えばアルカリ不透過性の第一層2Aの直接上に、アルカリ保持層2Bを形成する工程、ここでアルカリ保持層2Bのアルカリ不透過性の第一層2Aに対する厚みの比は2以上であり、かつアルカリ保持層2Bは、アルカリ不透過性の第一層2A以外の材料で作られている;
−アルカリ保持層2B上に、例えばアルカリ保持層2B上の直接上に、アルカリ不透過性の第二層2A’を形成する工程、これはアルカリ保持層2B以外の材料で作られている;
−アルカリ不透過性の第二層2A’上に、例えばアルカリ不透過性の第二層2A’の直接上に、モリブデン系層を含む電極コーティング4を形成する工程。
【0080】
本発明の他の1つの主題は、上述の伝導性基材、及びその伝導性基材に形成されている光吸収剤の層、例えば黄銅鉱系の光吸収剤の層を含む半導体デバイスである。
【0081】
これは、例えば、銅Cu、インジウムIn、並びにセレンSe、及び/又は硫黄の黄銅鉱の層である。これは、例えばCuInSe
2(CIS)型の材料であってもよい。これは、またさらにガリウムを含む材料(CIGS)となることができる。
【0082】
通常、これは、伝導性基材への吸収剤の堆積中又は堆積前にアルカリイオンを添加することによって形成される吸収剤の層である。米国特許第5,626,688号は、この種の方法を記載している。
【0083】
吸収剤へのアルカリイオンの拡散を防ぐアルカリバリア積層体の存在との組合せで、このような方法は、吸収剤の層へのアルカリイオンの精確な添加を可能とする利点を示す。
【0084】
本発明の他の1つの主題は、上記の半導体デバイスを含む太陽電池である。伝導性基材は、光源に対して光活性層の背部に位置すること、すなわち光活性層の後に入射光が通過することが意図される。
【0085】
例えば、
図2に示すように、このセルは以下を含む:
−上記の伝導性基材;
−モリブデン系層を含む電極コーティング4に直接形成されている、p型のCu(In,Ga)Se
2のドーピング層6;
−Cu(In,Ga)Se
2の層上に形成されており、例えばCdSで構成されている、緩衝層と呼ばれる、n型のドーピング層8;
−例えばZnO:Alである透明電極コーティング10、ここで、この透明電極コーティング10と緩衝層との間に、例えば真性の(intrinsic)ZnOの保護層12の挿入があってもよい。
【0086】
しかし、別形態では、このセルは、緩衝層を含まず、これはCu(In,Ga)Se
2の層が、それ自身でp−nホモ接合となることが可能であることに留意すべきである。
【0087】
他の1つの形態では、光吸収剤の層は、Cu
2(Sn,Zn)(S,Se)の式の黄錫亜鉛鉱(kesterite)又は黄錫鉱(stannite)に基づく層、又は金属化合物のセレン化のみによって形成されている必要はないが、例えば硫黄化によっても形成されている黄銅鉱に基づく層、例えばCu
y(In,Ga)(S,Se)
2型の層。
【0088】
通常、p型の層又はp−nホモ接合を含む層の光活性層は、アルカリ元素の添加によって得られる。別形態では、緩衝層16は、例えばIn
xS
y、Zn(O,S)、又はZnMgOである。
【0089】
透明電極コーティング18は、別形態では、ガリウム若しくはホウ素でドーピングされている酸化亜鉛の層、又はITO層を含む。一般的に、これは、任意の適切な種類の透明導電性材料(TCO)となる。
【0090】
良好な電気的接触及び良好な伝導率のために、続いて、金属グリッドを透明電極コーティング10に、例えばマスクを通じて、例えば電子ビームによって、随意に堆積してもよい(
図2に示していない)。例えば、これは、例えば約2μmの厚みを有するAl(アルミニウム)グリッドに、例えば50nmの厚みを有するNi(ニッケル)グリッドを、Al層を保護するために堆積させたものである。
【0091】
セルを続いて保護する。このために、セルは、例えば図示するように正面電極コーティング10を覆い、かつ熱硬化性プラスチック製の積層中間層14によって基材1に積層される対向基材1’を含んでもよい。これは、例えばEVA製、PU製、又はPVB製の積層中間層である。
【0092】
本発明の他の1つの主題は、上記の半導体デバイス及び太陽電池の製造方法であり、これは、光吸収剤の層の形成工程を含む。
【0093】
光吸収剤の層の形成工程は、セレン系ガス及び/又は硫黄系ガスを含む雰囲気中で、300℃超の温度で実行されるセレン化及び/又は硫黄化の工程を含む。
【0094】
吸収剤の層は、例えば次の方法で形成されるCIGS層である。
【0095】
Cu、In、及びGaに基づく金属積層体を、スパッタリングによって、常温で電極コーティング6上に堆積し、続いてセレン系雰囲気中で、高温、例えば約600℃でセレン化する。
【0096】
アルカリイオンは、例えば、電極コーティング4上に、セレン化ナトリウム(Na
2Se)の層の堆積によって導入されており、そして、例えば2×10
15のナトリウム原子/cm
2の水準で導入されている。
【0097】
セレン化ナトリウムのこの層の上に金属積層体を堆積する。
【0098】
例えば、金属積層体は、Cu/In/Ga/Cu/In/Ga...型の多層構造を有する。しかし、別の形態では、これは、Cu−Ga/In合金型の2層構造、又はCu/In/Ga型の3層を含む。
【0099】
例えば、セレン層を、続いて熱蒸着によって金属積層体に堆積する。
【0100】
続いて、金属積層体を、例えばS又はH
2S等のガス状の硫黄で構成されている雰囲気中で、少なくとも300℃、例えば400℃、例えば600℃で加熱して、そしてCu(In,Ga)(S,Se)
2の層を形成する。
【0101】
別の形態では、セレン化を、セレンの層を堆積させずに、硫黄を富化した雰囲気にさらす前に、Se又はH
2Seに基づくガス状のセレンを含む雰囲気によって行う。
【0102】
硫黄化工程は、緩衝層なしで、例えばCdSなしで、随意に行うことができる。
本発明の態様としては、以下の態様を挙げることができる:
《態様1》
以下を具備する太陽電池用伝導性基材:
アルカリイオンを含む誘電性基材(1);
前記基材(1)に形成されている、モリブデン系層を含む電極コーティング(4)であって、ここで前記伝導性基材は、前記基材(1)上に形成されており、かつ前記基材(1)と前記電極コーティング(4)との間に位置する複数の層の積層体を含み、この積層体は、以下を含む:
前記基材(1)上に形成されている、アルカリ不透過性の第一層(2A);
前記アルカリ不透過性の第一層(2A)上に形成されており、かつ前記アルカリ不透過性の第一層(2A)の材料以外の材料で作製されている、アルカリ保持層(2B)、ここで前記アルカリ保持層(2B)の、前記アルカリ不透過性の第一層(2A)に対する厚みの比は、2以上である;
前記アルカリ保持層(2B)上に形成されており、かつ前記アルカリ保持層(2B)の材料以外の材料で作製されている、アルカリ不透過性の第二層(2A’)。
《態様2》
前記アルカリ保持層(2B)の、前記アルカリ不透過性の第一層(2A)に対する厚みの比が、3以上である、態様1に記載の伝導性基材。
《態様3》
前記アルカリ不透過性の第一層(2A)が、30nm以下、例えば20nm以下、又は例えば15nm以下の厚みを有する、態様1又は2に記載の伝導性基材。
《態様4》
前記アルカリ保持層(2B)が、60nm以下、例えば40nm以下、又は例えば35nm以下の厚みを有する、態様1〜3のいずれか一項に記載の伝導性基材。
《態様5》
前記アルカリ保持層(2B)の前記アルカリ不透過性の第二層(2A’)に対する厚みの比が、2以上、例えば3以上である、態様1〜4のいずれか一項に記載の伝導性基材。
《態様6》
前記アルカリ不透過性の第二層(2A’)が、30nm以下、例えば20nm以下、又は例えば15nm以下の厚みを有する、態様1〜5のいずれか一項に記載の伝導性基材。
《態様7》
前記アルカリ不透過性の第一層(2A)と、前記アルカリ不透過性の第二層(2A’)とが、1つの同じ材料で作られている、態様1〜6のいずれか一項に記載の伝導性基材。
《態様8》
アルカリ不透過性の各層(2A,2A’)が、窒化ケイ素又は窒化アルミニウムに基づいている、態様1〜7のいずれか一項に記載の伝導性基材。
《態様9》
アルカリ保持層(2B)の前記層又は各層が、酸化ケイ素、又は酸化スズ、例えば亜鉛とスズとの複合酸化物に基づいている、態様1〜8のいずれか一項に記載の伝導性基材。
《態様10》
態様1〜9のいずれか一項に記載の伝導性基材、及び前記基材上に形成されている光吸収剤の層(6)、例えば黄銅鉱系の層を含む半導体デバイス。
《態様11》
態様10に記載の半導体デバイスを含む、太陽電池。
《態様12》
以下を本質とする工程を含む、伝導性基材の製造方法である:
−アルカリを含む誘電性基材(1)上にアルカリ不透過性の第一層(2A)を形成する工程;
−前記アルカリ不透過性の第一層(2A)上にアルカリ保持層(2B)を形成する工程、ここで前記アルカリ保持層(2B)の前記アルカリ不透過性の第一層(2A)に対する厚みの比は2以上であり、かつ前記アルカリ保持層(2B)は、前記アルカリ不透過性の第一層(2A)以外の材料で作られる;
−前記アルカリ保持層上(2B)に、アルカリ不透過性の第二層(2A’)を形成する工程、これは前記アルカリ保持層(2B)以外の材料で作られる;
−前記アルカリ不透過性の第二層(2A’)上に、モリブデン系層を含む電極コーティング(4)を形成する工程。