(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193854
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】光子束の分光測定用の処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
G01T 1/36 20060101AFI20170828BHJP
G01T 1/17 20060101ALI20170828BHJP
G01N 23/08 20060101ALI20170828BHJP
A61B 6/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
G01T1/36 A
G01T1/17 H
G01N23/08
A61B6/00 333
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-522054(P2014-522054)
(86)(22)【出願日】2012年7月23日
(65)【公表番号】特表2014-527164(P2014-527164A)
(43)【公表日】2014年10月9日
(86)【国際出願番号】EP2012064439
(87)【国際公開番号】WO2013014132
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年6月16日
(31)【優先権主張番号】1156832
(32)【優先日】2011年7月26日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】514022361
【氏名又は名称】マルティクス エスア
(74)【代理人】
【識別番号】100071054
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 高久
(72)【発明者】
【氏名】マルシェ、エリック
(72)【発明者】
【氏名】ブドゥー、カロリーヌ
(72)【発明者】
【氏名】ラディソン、パトリック
【審査官】
藤本 加代子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/121988(WO,A1)
【文献】
特開2000−165199(JP,A)
【文献】
国際公開第2005/117276(WO,A1)
【文献】
特開2012−251999(JP,A)
【文献】
米国特許第05132540(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/17
G01T 1/36
A61B 6/00
G01N 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出器(15)の感光素子によって受け取られ得るX線光子束のエネルギーに関する分光測定のための処理方法であって、前記方法が次の連続的ステップ:
・前記感光素子によって受け取られた各X線光子を、電気信号であってその特性が考慮される前記X線光子のエネルギーを表わす電気信号へ変換するステップ(31)と、
・第一の低域通過フィルター(162)であってその遮断周波数が、前記X線光子束に応じて、前記X線光子束が大きいほど前記遮断周波数が高くなるように調整される第一の低域通過フィルター(162)を用いて、各々の電気信号を濾過するステップ(32)と、
・各々の濾過された電気信号の特性を決定するステップ(33)と、
・前記濾過された電気信号の特性に応じて、受け取られた前記X線光子束に関するエネルギー・スペクトル(351、352)を生成するステップ(34)と、
・第二の低域通過フィルター(165)であってその遮断周波数が、前記X線光子束に応じて、前記X線光子束が大きいほど前記遮断周波数が低くなるように調整される第二の低域通過フィルター(165)を用いて、前記エネルギー・スペクトル(351、352)を濾過するステップ(35)とを含む方法。
【請求項2】
複数のクラスが複数の明確なエネルギーの範囲であるヒストグラムの形態で、前記エネルギー・スペクトル(351、352)が生成され、各クラスの発生は、X線光子であってそのエネルギーが考慮される前記クラスのエネルギー範囲内にあるX線光子の数であり、前記第二の低域通過フィルターの遮断周波数が、前記ヒストグラムのクラスの数によって決定され、前記X線光子束が大きいほど、前記ヒストグラムがより少ないクラスを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記感光素子によって受け取られる各々のX線光子が、パルスであってその積分が考慮される前記X線光子のエネルギーに比例するパルスへと変換される、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記X線光子束が所定の取得インターバルの間に受け取られ、前記第一及び第二の低域通過フィルターの遮断周波数が、前の取得レベルに対して決定された前記X線光子束の関数として調整される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記X線光子束が次のステップ:
・前記前の取得インターバルの間に、前記感光素子によって受け取られた合計のX線光子エネルギーETを決定するステップと、
・前記前の取得インターバルの間に、前記感光素子によって受け取られた前記X線光子の平均X線光子エネルギーEMを決定するステップと、
・前記平均X線光子エネルギーEMに対する前記合計のX線光子エネルギーETの比率Neffを決定するステップであって、前記前の取得インターバルの期間にわたる前記比率Neffの割合が前記X線光子束を与えるステップと
により決定される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
検出器(15)の感光素子によって受け取られ得るX線光子束のエネルギーに関する分光測定のための処理装置であって、前記感光素子は各X線光子を、電気信号であってその特性が受け取られた前記X線光子のエネルギーを表わす電気信号へ変換し、前記装置(15)が:
・各電気信号を濾過する第一の低域通過フィルターを備えた整形回路(162)であって、前記第一の低域通過フィルターの遮断周波数が、前記X線光子束に応じて、前記X線光子束が大きいほど前記遮断周波数が高くなるように調整される、整形回路(162)と、
・各々の濾過された電気信号の特性を決定する測定回路(163)と、
・前記濾過された電気信号の特性に応じて、受け取られた前記X線光子束に対するエネルギー・スペクトル(351、352)を生成するスペクトル(164)を構成するための回路と、
・前記エネルギー・スペクトル(351、352)を濾過する第二の低域通過フィルターを備えた平滑化フィルター(165)であって、前記第二の低域通過フィルターの遮断周波数が、前記X線光子束に応じて、前記X線光子束が大きいほど前記遮断周波数が低くなるように調整される、平滑化フィルター(165)と
を備える処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイオン化放射、とりわけX線照射による画像化の分野にある。それは医用画像及び、荷物検査などの非破壊検査に適用される。それは光子束を処理するための装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
X線照射画像化システムは、特に空港又は安全な場所において荷物を検査するために用いられる。そのような画像化システムは、荷物をX線光子束の影響下に置くX線照射源と、荷物を通過したX線光子を受け取る半導体検出器とを備える。荷物によるX線照射の吸収に応じて、荷物の中身を解析することが可能である。荷物の中身の解析及びその危険性の評価は、多少複雑な、そしてそれが貨物室行きの荷物か、又は乗客によって機内に持ち込まれる手荷物かの問題に応じて自動判別されるステップである。いずれの場合においても、X線照射画像化システムの目的は、爆発物及び可燃物などの危険物質を検出することである。安全性に関する要求の進展と共に、例えば、互いに組み合わされると爆発物を生み出し得る、幾つかの物質の存在を識別するために、あらゆるタイプの物質を決定できることが必要になりつつある。現代のX線照射画像化システムの検出器は、一般的に2つの重ねられた高感度の素子を含む。第一の高感度素子は比較的高いエネルギーの光子を検出し、第二の高感度素子は比較的低いエネルギーの光子を検出する。二重エネルギーと称されるこれらの検出器は、照射の全期間にわたり光子を統合し、2つの異なるエネルギー範囲における2つの量の光子測定に導く。それらは、主として無機材料から有機材料を区別できるようにする。それらはまた、X線光子によって横切られた材料の密度と、従ってそれらの成分の決定を可能にする。しかしながら、この密度の決定は正確でなく、検出の不明確さをもたらす。この正確さの不足に関する1つの理由は、2つの高感度素子のエネルギー範囲が部分的に重なることから来る。実際に、現代のX線照射画像化システムは、複数の有機材料の中で、爆発物と一定の通常使われる材料を区別することに困難さを有する。
【0003】
つい最近、X線照射画像化システムは、光子束のエネルギーに関する分光測定に近づくように開発されている。これらのシステムは、各々が所与のエネルギーの範囲に合わせられた、幾つかの処理回路を備える。或るシステムは8つ迄の処理回路を含む。しかしながら、これらのシステムは一定の光子束にだけ適合するという欠点を示す。ここで、荷物の中にある材料の多様性を考慮すると、光子束は一般に10
4〜10
8光子/mm
2/s、すなわち10
4の比率で変動し得る。画像化システムが比較的小さい光子束に合わせられた場合、より大きな光子束は低下した計数機能をもたらし、光子はもはや個々にカウントされない。これは劣化した画像を生じる。反対に、画像化システムが比較的大きい光子束に合わせられた場合、各光子のエネルギーの測定は、受け取られた光子に関わらず正確さが乏しい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の目的はとりわけ、光子束に適合した、この光子束のエネルギーに関する分光測定を可能にすることにより、上述された欠点の全て又は幾らかを改善することである。このために、本発明の主題は、検出器の感光素子によって受け取られ得る光子束のエネルギーに関する分光測定のための処理方法である。本方法は次の連続的ステップ:
・感光素子によって受け取られた各光子を、電気信号であってその特性が考慮される光子のエネルギーを表わす電気信号へ変換するステップと、
・第一の低域通過フィルターであってその遮断(カットオフ)周波数が、光子束に応じて、光子束が大きいほど遮断周波数が高くなるように調整される、第一の低域通過フィルターを用いて、各々の電気信号を濾過(フィルタリング)するステップと、
・各々の濾過された電気信号の特性を決定するステップと、
・濾過された電気信号の特性に応じて、受け取られた光子束に関するエネルギー・スペクトルを生成するステップと、
・第二の低域通過フィルターであってその遮断周波数が、光子束に応じて、光子束が大きいほど遮断周波数が低くなるように調整される第二の低域通過フィルターを用いて、エネルギー・スペクトルを濾過するステップとを含む。
【0005】
複数のクラスが複数の明確なエネルギーの範囲であるヒストグラムの形態で、エネルギー・スペクトルは生成されることができ、各クラスの発生は、そのエネルギーが考慮されるクラスのエネルギー範囲内にある光子の数である。ヒストグラムの形態におけるスペクトルの生成は、ヒストグラムのクラス数を単純に決定することにより、第二の低域通過フィルターの遮断周波数の調整を可能にし、光子束が大きいほど、ヒストグラムはより少ないクラスを含む。
【0006】
特定の実施形態によれば、感光素子によって受け取られる各々の光子は、パルスであってその積分が考慮される光子のエネルギーに比例するパルスへと変換される。
【0007】
光子束が所定の連続的な取得インターバルの間に受け取られるとき、第一及び第二の低域通過フィルターの遮断周波数は、前の取得レベルに対して決定された光子束の関数として、所与の取得インターバルに対して調整されることができる。
【0008】
光子束は、例えば次のステップ:
・前の取得インターバルの間に、感光素子によって受け取られた合計の光子エネルギーE
Tを決定するステップと、
・前の取得インターバルの間に、感光素子によって受け取られた光子の平均光子エネルギーE
Mを決定するステップと、
・平均光子エネルギーE
Mに対する合計の光子エネルギーE
Tの比率N
effを決定するステップであって、前の取得インターバルの期間にわたる前記比率N
effの割合が光子束を与えるステップと
により決定される。
【0009】
本発明の主題はまた、検出器の感光素子によって受け取られ得る光子束のエネルギーに関する分光測定のための処理装置であり、感光素子は各光子を、電気信号その特性が受け取られた光子のエネルギーを表わす電気信号へ変換する。本装置は:
・各電気信号を濾過する第一の低域通過フィルターを備えた整形回路であって、第一の低域通過フィルターの遮断周波数が、光子束に応じて、光子束が大きいほど遮断周波数が高くなるように調整される、整形回路と、
・各々の濾過された電気信号の特性を決定する測定回路と、
・濾過された電気信号の特性に応じて、受け取られた光子束に対するエネルギー・スペクトルを生成するスペクトル構成のための回路と、
・エネルギー・スペクトルを濾過する第二の低域通過フィルターを備えた平滑化フィルターであって、第二の低域通過フィルターの遮断周波数が、光子束に応じて、光子束が大きいほど遮断周波数が低くなるように調整される、平滑化フィルターと
を備える。
【0010】
本発明の利点はとりわけ、受け取られた光子束に関わらず実質的に一定の画像品質の維持を可能にすることである。さらに、分光測定による物体の組成の解析もまた、実質的に一定であり得る。実際、比較的大きな光子束及び比較的難しいエネルギー・スペクトル解析をもたらす、余り減衰しない物体は、一般に少数の識別されるべき材料しか含まない。その反対に、比較的小さな光子束及び比較的容易なエネルギー・スペクトル解析をもたらす、大きく減衰する物体は、一般に幾つかの識別されるべき材料を含む。
【0011】
本発明は、添付図に関連して与えられている、以下に続く記述を読むことによって更に良く理解され、別の利点が明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】荷物検査用のX線照射画像化システムを概略的に表わす。
【
図2】本発明による例示的一処理装置を、模式的に表わす。
【
図3】本発明による例示的一処理方法を、図の形で表わす。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、医用画像及び、イオン化放射による物体の非破壊検査に適用される。それは、特に中間的エネルギーのX線照射画像化システム、すなわちエネルギーが約20keV〜180keVの間にあり、そして大きな光子束、つまりその光子束が10
4〜10
8光子/mm
2/sの間にある光子束を有するシステムに関する。
【0014】
図1は、荷物検査用のX線照射画像化システムを概略的に表わす。画像化システム10は、X線源11、矢印14で表わされる方向に荷物13を輸送できるコンベアベルト12、半導体検出器15及びその検出器15に接続された処理装置16を備える。
図1に表わされる検出器15は、L形の線形検出器である。それは2つの相互に直角な線上に配置された光ダイオード又は光導電体などの感光素子を含む。検出器15はまた、二次元検出器であり感光素子のマトリックスを含み得る。検出器15の感光素子がX線光子にさらされると、それはこのX線光子を電荷のパケットへと変換し、その数は光子のエネルギーに比例する。X線源はコンベアベルト12を越え、検出器15に向けて光子束を照射する。物体が無い場合に受け取られたX線束のスペクトルは、物体の解析に先立って決定される。従って、このスペクトルを、解析されるべき物体が存在する場合に受け取られたX線束のスペクトルと比較することにより、解析されるべき物体によって吸収されたX線束を決定することが可能である。
【0015】
図2は本発明による例示的一処理装置を、図式を通して表わす。処理装置16は、処理チェーンを形成する、積分器タイプの前置増幅器161、整形回路162、測定回路163、スペクトル発生器164、及び平滑化フィルター165を備える。処理装置16は、各種の感光素子から生じる電荷のパケットが連続的に処理される場合である、検出器15の感光素子の全体に対する単一の処理チェーンを備えるか、又は電荷のパケットが同時に処理される場合である、各感光素子に対する処理チェーンを備えることができる。前置増幅器161は、検出器15の感光素子の電荷パケットを受け取ることができ、そして各電荷のパケットを、その積分が電荷のパケットの電荷数に比例する電圧パルスへと変換できる。各電圧パルスの積分は、それゆえ受け取られた各X線光子のエネルギーに比例する。整形回路162は、以下で説明するように各電圧パルスを濾過し、測定回路163は各々の濾過された電圧パルスの特性を決定する。とりわけ、測定回路163は各電圧パルスの最大振幅及び、その積分を決定できる。X線束は、所与の取得期間の間に不連続なやり方で、又は経時的に連続したやり方で受け取られ得る。後者の場合、X線光子の受取りは経時的に連続した取得へと分割される。スペクトル発生器164は、各々の取得及び各感光素子に対して、考慮される感光素子によってこの取得期間にわたり受け取られたX線光子のエネルギー・スペクトルを構成する。エネルギー・スペクトルは、ヒストグラムであって複数のクラスが明確なエネルギー範囲であるヒストグラムの形で表わされることができ、各クラスの発生は、そのエネルギーが考慮されるクラスのエネルギー範囲内にある、X線光子の数である。
図2に関連して記述されている処理装置16において、X線光子のエネルギーは、その積分がX線光子のエネルギーに依存する電圧パルスへと変換される。従ってエネルギー・スペクトルは、電圧パルスの積分に応じて、電圧パルスを様々なクラスへとグループ分けすることにより構成され得る。エネルギー・スペクトルの生成中に、その特性(幅、形状等)が揃っているように見えない電圧パルスを無視することが可能である。これらの電圧パルスの無視を補償するために、乗法的因子が適用され得る。以下で説明されるように、平滑化フィルター165はエネルギー・スペクトルを濾過する。本発明は、検出器がX線光子を電荷のパケットへと変換する画像化システムに適用できるだけではない。それは、検出器処理装置組立品が光子を、少なくともその1つの特性が受け取られた光子のエネルギーを表わす電気信号へと変換する、あらゆる画像化システムに適用される。電気信号は等しく適切なアナログ信号又はデジタル信号であり得る。それは例えばインパルス信号である。処理装置は次にこれらの信号を、その特性に基づいてエネルギー・スペクトルを構成するために処理する。
【0016】
本発明による処理装置において、整形回路162は、その遮断周波数がX線光子束の関数として調整される低域通過フィルターを備える。X線光子束が大きいほど、遮断周波数は高くなる。言い換えれば、X線光子が、高い平均周波数と共に検出器15の感光素子により多く達するほど、積み重なりを避けるために短時間にわたる電圧パルスを考えることが、より多く必要である。各光子を別々に処理できるように、ここでは2つのX線光子が短すぎる期間に受け取られるときの積み重なりについて述べている。比較的弱いX線束に対して、濾過されたパルスの積分の測定は正確であることができ、ノイズはあまりない。所与の取得のX線光子束の全体に対して生成されるエネルギー・スペクトルは、それゆえわずかにノイズが生じる。ここでは精密な分光測定について述べている。反対に、比較的大きなX線光子束に対して、濾過されたパルスの積分の測定は、比較的ノイズが多い。所与の取得のX線光子束の全体に対して生成されるエネルギー・スペクトルは、それゆえ正確さが乏しい。しかしながら、より高い遮断周波数は、X線光子の計数機能を正しく確保できるようにする。検出器15の様々な感光素子によって受け取られるX線光子を数えることによって得られる画像は、従って劣化しない。受け取られた光子束の関数としての低域通過フィルターの遮断周波数調整は、それゆえ受け取られた光子束に関わらず実質的に一定の画質の維持を可能にする。分光測定に関して、大きく減衰している物体は精密な分光測定をもたらし、少なく減衰している物体は劣化した分光測定をもたらす。様々な感光素子に対して生成されるエネルギー・スペクトルに基づく物体を構成する材料の解析は、従って大きく減衰している物体に関するよりも、少なく減衰している物体に関して正確さが乏しい。それにも拘らず、少なく減衰している物体は一般に重ね合わされた材料を僅かしか含まない。従ってそれらの識別は、結果的に容易となる。反対に、物体が大きく減衰している場合、これは一般に多くの重ね合わされた材料を、それが含むという事実に起因する。したがって受け取られたX線束はあまり多くなく、より精密な分光測定をもたらす。それゆえ様々な材料が依然として識別され得る。整形回路162の低域通過フィルターの遮断周波数は、感光素子によって受け取られたX線光子束の関数として、検出器15の各感光素子に対して個々に調整され得るか、又は検出器15の感光素子の全体あるいは幾分かによって受け取られた平均のX線光子束の関数として、検出器15の全ての感光素子に対して包括的に調整され得る。
【0017】
経時的に連続する取得の場合、順序Aの所与の取得に対する遮断周波数の決定に関して考慮されるX線光子束は、順序A−1の、前の取得中に決定された光子束であり得る。荷物が一定速度で移動する荷物検査の用途に対して、各々の取得はmmのオーダーの長さに対応する。この長さは解析されるべき物体の長さに対して比較的小さいものであり、光子束の変化は比較的小さく、進行中の取得に対する光子束の良好な近似値をもたらす。
【0018】
検出器15の各感光素子によって受け取られたX線光子束は、2つの実施形態に従って決定され得る。第一の実施形態によれば、受け取られた全体の光子エネルギーE
Tは第一のステップにおいて決定される。このエネルギーは、前の取得中に考えられた感光素子によって届けられた信号の積分に対応する。それは次の方程式を通じて決定され得る:
【数1】
ここでs
tはt番目の信号サンプルであり、そしてPは取得におけるサンプル数である。第二のステップにおいて、受け取られたX線光子の平均の光子エネルギーE
Mが決定される。このエネルギーは次の方程式を通じて決定され得る。
【数2】
ここでE
iはi番目のエネルギー・クラス、N
iはこのエネルギー・クラスの光子(発生)数、そしてCはエネルギー・クラスの番号である。
第三のステップにおいて、平均の光子エネルギーE
Mに対する全体の光子エネルギーE
Tの比率が決定される。この比率N
effは、前の取得の間に受け取られたX線光子の有効数に対応する。この取得の持続時間が分かると、そこからX線光子束が推定できる。この第一の実施形態は、較正を必要としないという利点を示す。
【0019】
第二の実施形態によれば、受け取られた全体の光子エネルギーE
Tは、前に示したように第一ステップにおいて決定される。第二ステップにおいて、受け取られたX線光子束は、この積分と所定の値のテーブルとに基づいて決定される。値のテーブルは、較正の間に前もって確立される。その較正は様々なレベルの光子束に対して、光子束の各レベルに関連する信号の積分を決定することにある。この第二の実施形態は、リアルタイムの計算をほぼ必要としないという利点を示す。
【0020】
整形回路162の低域通過フィルターの遮断周波数調整は、第一のレベルにおいて受け取られたX線光子束への適合を可能にする。本発明による処理装置16は、第二のレベル、すなわちエネルギー・スペクトルの生成のレベルにおけるX線光子に更に適合させられ得る。このために、エネルギー・スペクトルは、その遮断周波数がX線光子束に応じて調整される、低域通過フィルターを備えている平滑化フィルター165によって平滑化される。X線光子束が大きいほど、遮断周波数は低い。低域通過フィルターは、例えばエネルギー・スペクトルのクラスの番号を調整することにより達成され得る。X線光子束が大きいほど、クラスの数はより少なくなり、エネルギーの範囲はその後広げられる。
【0021】
図3は、図の形で本発明による例示的一処理方法を表わす。この方法において、エネルギー・スペクトルの構築のために行われる濾過の遮断周波数は、光子束のレベルに応じて調整される。光子束のレベルは、例えば前の取得の間に決定される。
図3において、それは最小の光子束レベルと最大の光子束レベルとの間で様々な値を取り得る、ゲージ30によって象徴的に表わされている。第一ステップ31において、感光素子により受け取られた各光子は、その特性がそのエネルギーを表わす電気信号へと変換される。電気信号は例えば電圧パルスである。第二ステップ32において各電圧パルス、又はより一般的に、その特性が受け取られた光子のエネルギーを表わす各電気信号は、整形回路162の低域通過フィルターによって濾過される。X線光子束のレベルが大きいほど、この低域通過フィルターの遮断周波数はより高い。
図3において、フィルターの効果は2つのグラフ321及び322の形で表わされている。第一のグラフ321は小さい光束レベルに相当し、従って低い遮断周波数に相当する。第二のグラフ322は大きい光束レベルに相当し、従って高い遮断周波数に相当する。時間的領域において、低い遮断周波数はその形状が経時的に広がった信号を与え、高い遮断周波数は経時的な広がりが小さい、より大きい振幅の信号を与える。第三ステップ33において、各パルスの積分又は、より一般的に、各電気信号の特性が決定される。第四ステップ34においては、エネルギー・スペクトルが各取得及び各感光素子に対して構築される。各々のスペクトルは、取得の様々な電気信号の特性に応じて構築される。第五ステップ35において、エネルギー・スペクトルは低域通過フィルターによって濾過される。光子束が大きいほど、このフィルターの遮断周波数はより低い。
図3において、2つのエネルギー・スペクトル351及び352が表わされている。第一のスペクトル351は、小さい光子束レベルに対して得られる1つの例示的な濾過されたスペクトルを表わす。第二のスペクトル352は、大きい光子束レベルに対して得られる1つの例示的な濾過されたスペクトルを表わす。スペクトル351の解像度はスペクトル352のものよりも著しく低い。
【0022】
様々な信号処理作業が、エネルギー・スペクトルの構築の後に実行され得る。これらは、例えば積み重なりの修正、すなわち、その特性が単一の電気信号をその通りに識別できるようにする、単一の電気信号へと変換された2つの連続的な光子の、処理による削除を伴う。これらはまた電荷の分割の修正、すなわち、2つの隣接する感光素子により受け取られた単一の光子から生じる2つのパルスに基づく、単一パルスの再構成を含み得る。大きい光子束の電圧パルスが、高い遮断周波数すなわち短い時定数で濾過される限り、積み重なりの修正及び電荷の分割の修正は殆ど常時実行され得る。