【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記した目的を達成するためになされたもので、その一態様においては、次の要素を備えている、乗り物のための配電網を提供するものである。
− 第1の電源、および第1の電源から電力を供給される少なくとも1つの第1の電子部品を有している第1の回路と、
− 第2の電源、および起動可能であり、第2の電源から電力を供給される少なくとも1つの第2の電子部品を有している第2の回路。
この配電網は、さらに、次のものを備えている。
− 第1の回路と第2の回路との間に配置されており、第1の構成において、第1の回路と第2の回路との間での、第1の電流値の電流交換を可能にし、第2の構成において、第1の回路と第2の回路との間での、第1の電流値より低い第2の電流値の電流交換を可能にする接続手段と、
− 接続手段の構成を制御する制御ユニット。
【0011】
本発明において、交換される電流の第1および第2の電流値は、RMS値、すなわち実効値である。
【0012】
接続手段が第1の構成を呈しているときと、第2の構成を呈しているときとで、電流交換は、同じ向きに起こる場合もあるし、互いに異なる向きに起こる場合もある。接続手段が、第1の構成を呈しているとき、または第2の構成を呈しているときに、電流は、例えば第1の回路から第2の回路に流れる。
【0013】
配電網を上記以外に変更することなく、特に電源の数、またはそれらの電源が出力する電力に関する変更を行うことなく、接続手段を、第1の構成から第2の構成に切り換えると、接続手段を介して交換される電流の電流値は減少する。
【0014】
第1の構成において、第1の回路と第2の回路との間で交換される電流の第1の電流値と、第2の構成において、第1の回路と第2の回路との間で交換される電流の第2の電流値との比の絶対値は、少くとも2、特に少くとも3、4、5、さらには少くとも10である。
【0015】
本発明の上述の態様によれば、2つの回路を用いることにより、第2の電子部品の起動によって第2の回路にもたらされる擾乱を可能な限り低減させることができる。そのため、第1の電子部品の動作は、第2の電子部品の起動によって、ほとんど、または全く影響を受けることはない。第1の回路を安定回路、第2の回路を擾乱回路と呼ぶことができる。
【0016】
第1の電源は、事実上、第1の電子部品だけに電力を供給することができる。接続手段が第2の構成を呈しているときには、第1の回路と第2の回路との間の電流交換は少なく、さらにはなくなるために、第1の電子部品は、それらの正しい動作が保証される適切な電圧値を有する安定した電圧を受ける。
【0017】
第2の電子部品の1つによって消費される電力と、第1の電子部品の1つによって消費される電力との比も、第2の電子部品全てによって消費される電力と、第1の電子部品全てによって消費される電力との比も、1以上となり、特に1〜5の範囲となることがある。
【0018】
第1の電子部品とは、例えば特に前照灯または任意の照明システム、ラジオ、テレビジョン、全地球測位システム(GPS)、空調システム、アンチロックブレーキシステム(ABS)、電子安定制御装置(ESP)、可聴警告装置、電動式パワーステアリング、各種のコンピュータから選ばれる、快適性、および/または安全性に関する部品である。
【0019】
第2の電子部品とは、例えば熱エンジンの吸気系統に空気を送るようになっているコンプレッサである。このコンプレッサは、ある場合には、例えば乗り物のターボチャージャを支援する。しかしながら、本発明は、このような例示的な第2の電子部品に限定して適用されるものではなく、起動することができ、かつ第1の電子部品に対して上述の電力比を示すいかなる電子部品にも適用することができる。
【0020】
上記のような1個の第2の電子部品、または複数の第2の電子部品の全てによって消費される電力は、1kW以上である場合がある。
【0021】
本発明の第1の実施例によれば、接続手段はスイッチを有している。このスイッチは、接続手段が第1の状態を呈しているときには閉じられており、接続手段が第2の状態を呈しているときには開かれている。
【0022】
この実施例において、接続手段が第2の構成を呈しているときには、第1の回路と第2の回路との間で交換される電流の第2の電流値は0である。この実施例において、接続手段が第2の構成を呈しているときには、2つの回路間の結合は完全に断たれている。したがって、第1の電子部品の動作は、第2の電子部品の起動によって擾乱されることはない。
【0023】
ある一例においては、このスイッチは、開かれた構成から閉じられた構成に切り替わるときに、線形動作することができる。
【0024】
本発明の接続手段の第2の実施例によれば、接続手段は、可変インピーダンス素子を有しており、この可変インピーダンス素子の、接続手段が第1の構成を呈しているときのインピーダンス値は、接続手段が第2の構成を呈しているときのインピーダンス値よりも低い。この可変インピーダンス素子は、例えば可変抵抗器である。インピーダンス値は、この可変インピーダンス素子の動作範囲の全て、または一部にわたって線形に変化することができる。
【0025】
接続手段は、第2の構成を有しており、そのインピーダンス値を増加させることによって、第1の構成を呈している場合に比して、2つの回路間の電流交換を抑制することができる。そのため、第2の構成においては、インピーダンス素子は、第1の電源から第2の電子部品への電力供給を妨害する。したがって、第1の回路は、第2の電子部品の起動によって、ほとんど影響を受けることはない。
【0026】
第2の構成におけるインピーダンス値と、第1の構成におけるインピーダンス値との比は最小でも10、例えば数10である場合がある。
【0027】
接続手段は、上述の素子のうちのうちのただ1つの要素だけから構成されている場合がある。接続手段は、例えば1つのスイッチ、または1つの可変抵抗器である。
【0028】
第1および第2の電源は、蓄電ユニット、とりわけバッテリである場合がある。各電源は、例えば直列および/または並列に接続された、いくつかのバッテリを有している。
【0029】
第1の回路のバッテリは、例えばおよそ12Vの電圧を出力し、第2の回路のバッテリは、例えば12〜30Vの範囲の電圧を出力する。より一般的に述べると、第2の回路のバッテリから出力される電圧は、第1の回路のバッテリから出力される電圧と同じ値を有する場合もあるし、異なる値を有する場合もある。
【0030】
制御ユニットは、第2の電子部品の起動、および/または停止を制御するように構成されている場合がある。
【0031】
制御ユニットは、第2の電子部品の起動に先立って、接続手段のその時点における構成を検出するように構成されている場合があり、接続手段が第1の構成を呈しているときには、第2の電子部品の起動に先立って、または第2の電子部品の起動と同時に、接続手段が第2の構成に切り替わるように、接続手段を制御する。
【0032】
制御ユニットは、1つにまとめられている場合もあるし、いくつかの別々のサブユニットで構成されている場合もある。各サブユニットは、1つ以上のタスクに対して専用とされる。制御ユニットは、例えばマイクロコントローラ、または任意のプログラム可能な回路を有している。制御ユニットは、例えばアナログまたはデジタルの任意の論理回路を有している。
【0033】
第2の電子部品が起動したときに、接続手段が第1の構成を呈していることは許されない場合がある。したがって、2つの回路間の電流交換を相対的に多くすることが許されるか否か、または相対的に少なくすることが許されるか否かは、第2の電子部品が起動状態にあるか、停止状態にあるかによる場合がある。
【0034】
配電網は、第1、および/または第2の電源に電力を供給するために、駆動されたときに、配電網に電流を注入する少なくとも1つのオルタネータを備えている場合がある。この場合には、オルタネータは、配電網内の電源の充電、および/または配電網内の電子部品への電力供給を全面的にまたは部分的に担うことができる。
【0035】
制御ユニットは、オルタネータが駆動されたときに、第1、および/または第2の電源が電力を供給されるように、接続手段を制御するように構成されている場合がある。
【0036】
接続手段を第1の構成にすることによって、例えばオルタネータから、第1の電源および第2の電源に電力を供給することが可能になる。制御ユニットは、例えばオルタネータが配電網に電流を注入するように、オルタネータを制御し、またオルタネータをこのように制御するときに、接続手段が第1の構成を呈するように、接続手段を制御する。
【0037】
オルタネータから配電網に電流を注入させるときに、必要に応じて、制御ユニットは、第2の電子部品のその時点の状態を特定した上で、接続手段が第1の構成を呈するように、接続手段を制御すべきか否かを決定することができる。すなわち、制御ユニットは、第2の電子部品が起動しているときに、接続手段を、第2の構成に切り替わるように制御するか、または第2の構成に維持させる場合があり、また第2の電子部品が起動していないときに、接続手段を、第1の構成を呈するように制御する場合がある。
【0038】
電源の少なくとも1つは、接続手段を介して、オルタネータによって充電される場合がある。
【0039】
必要に応じて、接続手段が第2の構成を呈しているときでさえ、2つの電源の同時充電が、オルタネータによって実行される場合がある。しかしながら、この場合には、2つの電源のうちの、接続手段を介して充電される電源は、接続手段を介さずに充電される電源ほど効果的に充電されない。
【0040】
オルタネータは、第1の回路の一部分を構成している場合があり、自身が駆動されたときに、少なくとも接続手段が第1の構成を呈していれば、第2の電源に電力を供給する。この場合、オルタネータは、接続手段の構成にかかわりなく、駆動されるとすぐに、第1の電源に電力を供給する。
【0041】
上述の各例とは無関係に、または組み合わせて、配電網は、接続手段に加えてスイッチを備えており、このスイッチとオルタネータとは、オルタネータが、スイッチの位置に依存して、第1の電源または第2の電源に接続されるように、配電網に配置されている場合がある。
【0042】
ここで、「接続」とは、オルタネータが、スイッチの位置に依存して、2つの電源のどちらかの電源の端子間に接続される「直接接続」と、何らかの要素が、2つの電源のどちらかの電源とオルタネータとの間に配置される「間接接続」との両方を意味している。
【0043】
スイッチが、オルタネータと2つの電源のうちの一方とを接続すると、他方の電源は、接続手段を介して、オルタネータによって充電される場合がある。
【0044】
オルタネータは、第2の回路の一部分を構成している場合があり、自身が駆動されたときに、少なくとも接続手段が第1の構成を呈していれば、第1の電源に電力を供給する。この場合、オルタネータは、接続手段の構成にかかわりなく、駆動されるとすぐに、第2の電源に電力を供給する。
【0045】
上述の例の全てにおいて、接続手段は、第1の回路と第2の回路との間に、次のようになるように取り付けられている場合がある。
− 少なくとも接続手段が第1の構成を呈しているときに、第1の電源と第2の電源とのうちの少なくとも一方は、接続手段を介して充電され、
− 接続手段が第2の構成を呈しているときに、特に第2の電子部品が起動している場合には、第1の回路と第2の回路との間の電流交換は、相対的に起こりにくくなり、したがって、第1の電源から出力される電力のうちの、第2の電子部品によって消費される部分は少なくなる、さらには存在しなくなる。
【0046】
制御ユニットは、第2の電子部品の起動の際に、接続手段が第2の構成を呈するように、第2の電子部品と接続手段とを同期して制御する場合がある。接続手段は、第2の電子部品の停止の際に、第1の構成を呈するようになされる場合もあるし、第2の電子部品が起動していないときでさえ、第2の構成に維持されている場合もある。
【0047】
オルタネータが駆動され、配電網に電流を注入するときに、第2の電子部品の起動は許可される場合もあるし、許可されない場合もある。
【0048】
接続手段は、少なくとも第1の構成を呈しているときに、第2の電源が第1の電源に電力を供給することを阻止するように構成されている場合がある。この場合には、第2の電源から出力される電力は、もっぱら第2の電子部品への電力供給だけに用いられる。これを可能にするために、接続手段に、例えばダイオードなどの一方向素子を設けることができる。
【0049】
配電網は、スタータを備えている場合がある。このスタータは、第1の回路の一部分を構成している場合もあるし、第2の回路の一部分を構成している場合もある。
【0050】
本発明の例示的な一実施形態において、第1の電源、第2の電源、スタータ、および接続手段は、少なくとも接続手段が第1の構成を呈しているときに、スタータが、第1の電源と第2の電源との両方から電力を供給されるように、配電網に配置されている。そのような場合には、各電源は、スタータによって消費される電力の一部しか供給しない。それによって、各電源のサイズを小さくすることができ、各電源のサイズは、乗り物のエンジンの最初の常温始動を可能にするような定格に定められる。
【0051】
本発明は、別の一態様として、さらに、次のものを備えている、乗り物のための配電網を管理する方法を提供するものである。
− 第1の電源、および第1の電源から電力を供給される少なくとも1つの第1の電子部品を有している第1の回路と、
− 第2の電源、および起動可能であり、第2の電源から電力を供給される少なくとも1つの第2の電子部品を有している第2の回路と、
− 第1の構成において、第1の回路と第2の回路との間での、第1の電流値の電流交換を可能にし、第2の構成において、第1の回路と第2の回路との間での、第1の電流値より低い第2の電流値の電流交換を可能にする接続手段と、
− 接続手段の構成を制御する制御ユニット。
この方法において、制御ユニットは、少なくとも第2の電子部品が起動するときに、接続手段が、第1の回路と第2の回路との間の電流交換を少なくするか、さらには阻止するように、接続手段を作用させる。
【0052】
配電網は、駆動されたときに、配電網に電流を注入するオルタネータを備えている場合がある。
【0053】
制御ユニットは、第2の電子部品の起動、および/または停止を制御し、第2の電子部品の起動、停止を行わせる、第2の電子部品に対する制御は、それぞれ接続手段に第2の構成、第1の構成をとらせる、接続手段に対する制御と同期させられる場合がある。
【0054】
本発明の、配電網にかかわる態様に関して上述した特徴の全て、またはそのいくつかは、本発明による、配電網を管理する方法に関する特徴でもある。
【0055】
本発明は、例えば自動車に適用される。