【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決手段は、独立請求項の特徴によって特定される。本発明によれば、変調関数の自己相関は2値関数である。これは、自己相関関数が、ゼロでピークを有するとともに、他の全ての点で一定の値を有することを意味する。
【0010】
2値自己相関関数を有する変調関数の利点は、相関の計算によって追加の特徴がイオン移動度スペクトルの中に導入されないことである。
【0011】
好ましくは、この変調関数は2値関数である。したがって、この変調関数は、ビットの列によって表すことができる。これは、変調されたイオンビームがイオンの飛行方向に、変調関数の形状を有するようにイオンゲートでイオンビームを変調することが簡単であるという利点を有する。一変形例では、変調関数は、2値関数に基づいているが、2値関数のビット間で滑らかにされたステップを与える。これは、相関を計算する前に、変調関数を変調されたイオンビーム中のこれらの影響に適合させることによって、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏および変調ビーム中のイオンのテーリングまたは拡散を考慮に入れることができるという利点を有する。さらなる変形例では、変調関数は、2値関数に基づいているが、オーバーサンプリングされる。すなわち、2値関数のそれぞれの「0」および「1」の間に、複数の測定が行われる。代替として、変調関数は、非2値関数であり、これもオーバーサンプリングされ得る。
【0012】
以下には、変調関数が2値関数またはシーケンスであるとして説明されるくだりがある。このくだりでは、変調関数は、事実上、説明された2値関数またはシーケンスであり得る。しかし、この変調関数は、説明した2値関数またはシーケンスの基づいた関数であっても差し支えない。後者の場合には、この変調関数は、説明した2値関数またはシーケンスのビット間で滑らかにされたステップを与えることができ、および/またはオーバーサンプリングすることができる。
【0013】
好ましくは、変調関数は、疑似ランダムシーケンスである。これは、変調関数の特性が、ランダムシーケンスの特性に近いという利点を有する。したがって、イオン移動度スペクトル中の追加のピークをもたらす変調関数の繰り返しは、疑似ランダムシーケンスの長さがそれに応じて選ばれる場合には避けることができる。さらに、変調関数としての疑似ランダムシーケンスは、変調関数が例えば線形フィードバック・シフトレジスタなどで容易に生成できるという利点を有する。
【0014】
変調関数が、最大長シーケンスとして知られるタイプまたは1つまたは複数の最大長シーケンスによって表すことができるタイプの疑似ランダムシーケンスである場合、変調関数を生成するために線形フィードバック・シフトレジスタを使用することが有利である。そのような線形フィードバック・シフトレジスタでは、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットと呼ばれるいくつかのフィードバック・パターンが可能である。可能なタップ・セットの数は、特定の線形フィードバック・シフトレジスタの長さに依存する。変調関数は、タップ・セットおよび初期値のセットを選ぶことによって線形フィードバック・シフトレジスタで生成される。この初期値のセットは、線形フィードバック・シフトレジスタへ送られる。次いで、初期値のセットに基づいて、変調関数は、タップ・セットに従って線形フィードバック・シフトレジスタによって生成される。したがって、変調関数は、タップ・セットおよび初期値のセットに依存している。
【0015】
一変形例として、変調関数は、異なるやり方で生成されてもよい。例えば、1つもしくは複数の既知の疑似ランダムシーケンス、または他の変調関数は、データ記憶装置に記憶することができる。測定ごとに、データ記憶装置に記憶された特定の変調関数を使用することができる。
【0016】
さらなる変形例では、変調関数は、疑似ランダムシーケンスとは異なる関数とすることができる。例えば、変調関数は、ランダムシーケンスとすることができる。これは、この関数が、対応する特性を有するという利点を有する。代替として、この変調関数は、非ランダム関数であってもよい。
【0017】
変調関数が疑似ランダムシーケンスである場合、この変調関数は、最大長シーケンス、GMWシーケンス、ウェルチ・ゴング変換シーケンス、平方余剰シーケンス、6次余剰シーケンス、双子素数シーケンス、カサミ・パワー関数シーケンス、超卵形シーケンス、あるいは3つまたは5つの最大長シーケンスに由来するシーケンスであることが有利である。これは、変調関数が、特性がよく知られているシーケンスであるという利点を有する。シーケンスが3つから5つの最大長シーケンスに由来する場合、シーケンスは、例えば、3つまたは5つの最大長シーケンスの対応するビットの内容を加算することによって得ることができる。その場合には、2つの1または2つの0の加算は0になることができ、一方、0と1の加算または1と0加算は1になることができる(ビットに関するNAND演算)。
【0018】
一変形例として、変調関数は、これらの種類のうちの1つに属しない疑似ランダムシーケンスとすることができる。
【0019】
好ましくは、変調関数が、2値関数またはシーケンスの場合、この変調関数は、15ビットより大きい、好ましくは50ビットより大きい、特に100ビットより大きい長さを有する。これは、変調関数は、有意味のイオン移動度スペクトルを得るために十分なイオンが測定されている測定を可能にするのに十分に長いという利点を有する。
【0020】
代替として、変調関数は、15ビット以下の長さを有してもよい。これは、測定時間が短くあるべきである場合、および有意味のイオン移動度スペクトルを得るために利用可能なイオンが十分に存在する場合、有利であり得る。
【0021】
有利には、この方法は、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含む。これは、得られたイオン移動度スペクトルの分解能が、相関がシャープ化されるという点で改善されるという利点を有する。
【0022】
代替として、この方法は、相関を計算する前にフィルタで信号のエッジを強調するステップを含まなくてもよい。得られたイオン移動度スペクトルが、有効に測定された信号にできる限り近いものとすべき場合、信号のエッジを強調するステップの省略は、必要なフィルタリングは測定された信号の処理であるので有利であり得る。
【0023】
この方法が、フィルタで信号のエッジを強調するステップを含む場合、好ましくは、このフィルタは、n個の要素の有限差分フィルタ、エッジ強調フィルタ、または異なるタイプのシャープ化アルゴリズムを使用したフィルタである。これは、信号のエッジの強調は、処理されるべき信号の特定の特性に調整できる既知のシャープ化アルゴリズムで得られるという利点を有する。
【0024】
例えば、フィルタがn個の要素の有限差分フィルタであるとともに、信号が特定の時間幅を有するビンで測定される場合、このフィルタは、
【0025】
【数1】
の形態を有するアルゴリズムを含むことができ、ただし、nはフィルタの幅の尺度であり、D
iは信号のi番目のビンの大きさであり、F
iはフィルタ−値のi番目のビンである。フィルタ処理済(Filtered)の信号を得るために、各フィルタ−値F
iは、測定された信号の対応するビンD
iに加算される。そうするとき、フィルタ−値を信号に加える前に、フィルタ−値F
iおよび/または信号D
iに重み係数を乗じることが可能である。例えば、そのような重み係数は、フィルタの幅nに基づくことができ、0<=n<=n
maxで、
【0026】
【数2】
である。
【0027】
もちろん、フィルタの幅とは無関係である重み係数を使用することも可能である。さらに、信号をガウシアンまたは任意の他の平滑化関数でたたみこむことによってフィルタ−値を計算する前に信号D
iを平坦化することが可能である。その他の場合には信号中のノイズがフィルタ−値の誤差をもたらし得るので、これは有利であり得る。
【0028】
信号が、特定の時間幅を有するビンで測定されず、しかし測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間を記憶することによって測定される場合、この信号は、フィルタを適用する前に、特定の時間幅のビンへラスター化することができる。代替として、事象ごとに開始時間から経過した時間が記憶される場合、フィルタのアルゴリズムは、特定の時間幅を有するビンを仮定する代わりに、個々の事象間の時間差を考慮に入れるように適合されてもよい。次いで、アルゴリズムのパラメータnは、時間間隔の尺度になることができ、その範囲内で、特定のフィルタ−値F
iを計算するときに事象が考慮に入れられる。
【0029】
信号が、特定の時間幅を有するビンで測定またはラスター化される場合、考慮されるビンの数nは信号の特性に適合されることが有利である。フィルタが迅速に計算されるべきである場合、nを1となるように選ぶことが有利であり得る。この場合には、フィルタはラプラス・フィルタになる。さもなければ、信号が、特定の時間幅を有するビンで測定もされず、それに応じてラスター化もされない場合、信号の特性、事象が考慮される時間間隔に適合することが有利である。
【0030】
例えば、フィルタがエッジ強調フィルタである場合、このフィルタは、ガウシアンで信号をたたみこむことによってぼけ信号が計算されるとともに、信号とぼけ信号の間の差が信号に加算されるアルゴリズムを含むことができる。デジタル画像処理より知られているアンシャープ・マスキングの方法と同様に、アルゴリズムの3つのパラメータは、処理されるべき特定の信号に従って適合され得る。第1に、ガウシアンの幅が適合され得る。第2に、信号に差を加算する前に、差に特定の信号に適合される重み係数を乗じることができる。第3に、閾値パラメータは、パラメータの値がある閾値を上回る場合にフィルタが唯一適用されるように定めることができる。例えば、閾値パラメータは、測定された信号からのぼけ信号の偏差であり得る。
【0031】
この方法が、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含まない場合、好ましくは、この方法は、信号からぼけ信号を計算するステップ、および変調関数と信号とぼけ信号の間の差との相関が計算される前に、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップを含む。これは、得られたイオン移動度スペクトルの分解能が、相関がシャープ化されるという点で改善されるという利点を有する。
【0032】
この方法が上述のように2つの追加のステップを含む場合、および信号が、特定の時間幅を有するビンで測定されず、しかし測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間を記憶することによって測定される場合、この信号は、ぼけ信号を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化することができる。代替として、信号およびぼけ信号は、信号とぼけ信号の間の差を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化されてもよい。信号が特定の時間幅を有するビンで測定されるか、または測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間が測定され、続いてビンへラスター化されるかに関係なく、ビンの時間幅は、変調関数のビットの時間幅より小さいことが有利である。好ましくは、ビンの時間幅は、変調関数のビットの時間幅の1/3から1/10である。代替として、ビンの時間幅は、変調関数のビットの時間幅の1/10より大きい。
【0033】
代替として、この方法は、信号からぼけ信号を計算するステップも含まず、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップも含まないことができる。得られたイオン移動度スペクトルが、有効に測定された信号にできる限り近いものとすべき場合、これらの2つのステップの省略は、それらが測定された信号の処理であるので有利であり得る。
【0034】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、および信号が、特定の時間幅を有するビンで測定される場合、有利には、このぼけ信号は、関数で信号をたたみこむことによって計算される。そのような関数は、例えば、ガウシアン、ローレンチアン、または単一のピークを与える別の対称関数とすることができる。代替として、ぼけ信号は、たたみこみの計算とは異なる方法で計算することができる。
【0035】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、および測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間が測定され、続いてビンへラスター化される場合、ぼけ信号は、確率分布から求められる値によってイオンごとに測定された時間を補正することによって計算することが有利である。この確率分布に関しては、ガウス分布、または最も高い確率についての単一のピークを有する種々の対称的な確率分布が選ばれ得る。ぼけ信号の計算後、信号およびぼけ信号は、信号とぼけ信号の間の差を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化されることが有利である。好ましい変形例では、測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間が測定される場合、この信号は、ぼけ信号を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化される。この後者の場合には、ぼけ信号は、例えば、ガウシアン、ローレンチアン、または単一のピークを与える別の対称関数のような関数で信号をたたみこむことによって計算されることが有利である。しかし、一変形例では、ぼけ信号は、たたみこみの計算とは異なる方法で計算することができる。
【0036】
ぼけ信号が、関数で信号をたたみこむことによって、または個々のイオンごとに確率分布から求められる値によってこのイオンについて測定された時間を補正することによって計算される場合、関数または確率分布はそれぞれ、変調関数のビットの時間幅の半分より小さい半値半幅または標準偏差を有するように選ばれることが好ましい。代替として、関数または確率分布は、関数または確率分布がそれぞれ、変調関数のビットの時間幅の半分以上である半値半幅または標準偏差を有するように選ばれてもよい。
【0037】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、信号およびぼけ信号は、差を計算するために互いに対して重み付けされることが有利である。好ましい変形例では、ぼけ信号は、信号の積分強度の100%の積分強度を有するように重み付けされる。別の好ましい変形例では、ぼけ信号は、信号の積分強度の100%未満であるが信号の積分強度の90%より大きい積分強度を有するように重み付けされる。さらに別の好ましい変形例では、ぼけ信号は、信号の積分強度の100%未満であるが信号の積分強度の80%より大きい積分強度を有するように重み付けされる。代替として、ぼけ信号は、信号の積分強度の80%未満の積分強度を有するように重み付けされる。
【0038】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、この方法は、計算された相関の負の値をゼロの値または任意の正の値に設定する追加のステップを含むことが好ましい。これは、相関中の負の値はイオン移動度スペクトルの情報を何ら与えないので相関中の負の値が省かれるという利点を有する。
【0039】
代替として、この方法は、計算された相関の負の値をゼロの値または任意の正の値に設定するステップを含まない。
【0040】
有利には、可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔は、相関から選ばれる。これは、イオン移動度スペクトルの対象となる間隔が、さらなるデータ処理のために表示または使用できるという利点を有する。代替として、可能なイオン・ドリフト時間の特定の対象となる間隔は、相関から選ばれない。これは、対象となる間隔が相関全体に広がるようにあたかも選ばれるのと同じ効果を有する。したがって、この代替は、全てのデータが、さらなるデータ処理のためにそれぞれ表示または使用できるという利点を有する。
【0041】
この相関が、可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔について計算される場合、好ましくは、この方法は、できるだけ相関内の誤ったピークが、対象となる間隔の外側に位置するように変調関数を選択するステップを含む。これらの誤ったピークは、信号中の欠陥および/またはノイズの形態で測定された信号中にすでに存在しているイオン移動度スペクトル中の特徴群に属する。この欠陥は、例えば、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏、変調ビーム中のイオンのテーリング、変調ビーム中のイオンの拡散、および/またはドリフト領域内の気体流中の不均一性もしくは乱流によって引き起こされ得る。そのような不完全性は、変調されたイオンビームの形状の変化をもたらし得る。したがって、それらは、測定された信号中に意図せぬ特徴を導き得る。相関の計算の結果として、イオン移動度スペクトル中の特徴の位置は、測定された信号中の特徴の位置に比べてシフトされ得る。このシフティング挙動は、特徴および変調関数に依存する。例えば、変調関数が、線形フィードバック・シフトレジスタによって生成されるシーケンスである場合、イオン移動度スペクトル中のいくつかの特徴の位置は、線形フィードバック・レジスタのタップ・セットによって求められ、一方、これらの位置は、シーケンスを生成するのに使用される初期値のセットから独立している。本文脈では、「誤ったピーク」という用語は、イオン移動度スペクトル中のこの特定の特徴群に用いられる。したがって、変調関数を生成するための線形フィードバック・シフトレジスタを使用するとともに、特定の特徴によって引き起こされる誤ったピークの位置が知られている線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットを使用することが有利である。例えば、タップ・セットは、この方法を実施するために使用されるイオン移動度分光計の特性である特徴について予備的に評価されることが可能である。これらの特性の特徴は、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏、変調されたイオンビーム中のイオンのテーリング、変調されたイオンビーム中のイオンの拡散、および/またはドリフト領域内の気体流中の不均一性もしくは乱流であり得る。可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔が知られると、使用されるタップ・セットは、イオン移動度スペクトル中の誤ったピークが対象となる間隔の外側に位置するように選ぶことができる。これは、得られたイオン移動度スペクトルの誤解の機会が減少するという利点を有する。
【0042】
代替として、相関内の誤ったピークが対象となる間隔の外側に位置するように変調関数を選択するステップを省略することが可能である。これは、対象となる間隔が大きい場合、および利用可能な変調関数がそのような選択によって強く制限され過ぎる場合または利用可能な対応する変調関数が全くない場合、有利であり得る。
【0043】
好ましくは、この方法は、相関中の誤った特徴が低い高さを有するように変調関数を選択するステップを含む。「誤ったピーク」という表現と同様に、「誤った特徴」という表現が、信号中の欠陥および/またはノイズの形態で測定された信号中にすでに存在しているイオン移動度スペクトル中の特定の特徴群に対して本文脈において使用される。変調関数が、線形フィードバック・シフトレジスタによって生成されるシーケンスである場合、イオン移動度スペクトル中の誤った特徴の位置は、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セット、およびシーケンスを生成するのに使用される初期値のセットに依存する。加えて、誤った特徴の高さは、シーケンスを生成するのに使用される初期値のセットに依存する。
【0044】
したがって、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏、変調ビーム中のイオンのテーリング、変調ビーム中のイオンの拡散、および/またはドリフト領域内の気体流中の不均一性もしくは乱流のような特徴的な欠陥が、イオン移動度スペクトル中の誤った特徴の最小高さをもたらすように変調関数を選ぶことが好ましい。これは、得られたイオン移動度スペクトルの誤解の機会が減少するという利点を有する。
【0045】
代替として、相関中の誤った特徴が低い高さを有するように変調関数を選択するステップを省略することも可能である。
【0046】
好ましくは、この方法は、相関を計算するステップの後にともに実行される、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップ、および相関中の相関ノイズを抑制することによってノイズ抑制相関を計算するステップを含む。ここで、「相関ノイズ」という用語は、測定された信号中の統計ノイズのため、変調関数と信号の相関を計算するときに相関に含められるノイズに用いられる。これらの2つのステップを方法の中に含めることは、相関中の信号対ノイズ比が改善されるという利点を有する。この利点は、この方法が、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含むかどうかに関係なく得られる。
【0047】
さらに、この利点は、この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含むかどうかに関係なく得られる。それにも関わらず、この方法が、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含む場合、またはこの方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、結果はさらに改善される。
【0048】
有利には、相関ノイズのノイズ・レベルは、測定される最速のイオンの可能な飛行時間より短い飛行時間に対応する計算された相関の領域内で求められる。好ましい変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルは、測定される最も遅いイオンの飛行時間より長い飛行時間に対応する計算された相関の領域内で求められる。後者の変形例では、変調関数は、最も遅い可能なまたは見込まれるイオンの飛行時間より時間が長いように選ぶことができる。このように、測定される最も遅いイオンより長い飛行時間を表すことでノイズ・レベルを求めるのに使用できる計算された相関中の領域が得られる。代替として、相関ノイズのノイズ・レベルは、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の別の領域内で求められてもよい。
【0049】
好ましくは、相関ノイズのノイズ・レベルの第1の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の平均値または中央値を計算することによって計算される。これは、ノイズ・レベルが相関ノイズの平均振幅の尺度を与えるという利点を有する。一変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルの第1の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の最小値または最大値に基づくことができる。
【0050】
ノイズ・レベルの第1の値が、平均値または中央値を計算することによって求められるか、またはノイズ・レベルの最小値または最大値を用いることによって求められるかに関係なく、ノイズ・レベルの第1の値は、ノイズ・レベルの平均値、中央値、または最小値もしくは最大値を有し、またはこの値から何かの式によって計算される。後者の場合には、式は、スケール係数を用いた単純な乗算とすることができ、またはより複雑な式とすることができる。
【0051】
好ましい変形例では、ノイズ・レベルの第2の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の標準偏差を計算することによって計算される。さらに好ましい変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルの第2の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の剰余をベイズ推定プロセスにより計算することによって求められる。さらなる変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルの第2の値は、異なる方法によって求められる。例えば、ノイズ・レベルの第2の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内でノイズ・レベルの第1の値と信号の最小値または最大値の間の差を計算することによって求めることができる。
【0052】
ノイズ・レベルの第2の値が、標準偏差、剰余、または他の任意の量を計算することによって求められるかに関係なく、ノイズ・レベルの第2の値は、標準偏差、剰余、または他の量と同一とすることができ、または標準偏差、剰余、または他の量から何かの式によって計算することができる。後者の場合には、式は、スケール係数を用いた単純な乗算とすることができ、またはより複雑な式とすることができる。
【0053】
ノイズ・レベルの第2の値の計算は、ノイズ・レベルがバックグラウンド信号の平均振幅の尺度を与えるとともにバックグラウンド信号の散乱の振幅の尺度を与えるという利点を有する。両方の値は、ノイズ抑制相関を計算するために使用することができる。
【0054】
代替として、ノイズ・レベルは、単一の値であってもよい。この場合には、ノイズ・レベルの値は、上述のノイズ・レベルの第1の値、上述のノイズ・レベルの第2の値とすることができ、またはノイズ・レベルの第1の値および第2の値の和または差とすることができる。3つのいずれの場合でも、値は、ノイズ抑制相関を計算するために使用することができる。
【0055】
この方法が、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとを含む場合、求められたノイズ・レベルは、ノイズ抑制相関を計算するステップにおいて相関ノイズが抑制される量を求めるのに使用されることが有利である。これは、相関ノイズの抑制の量が、相関中の相関ノイズの有効量に適合されるという利点を有する。例えば、抑制を得るためのやり方の1つは、相関中の全ての値をそれがノイズ・レベルの範囲内かどうか検査することである。この値がノイズ・レベルの範囲内である場合、この値は、一定量まで減少、一定量で減少、または係数によって減少することができ、一方、この値がノイズ・レベルの範囲内にない場合、この値は維持することができる。これらの例では、好ましくは、ノイズ・レベルの単一の値またはノイズ・レベルの第1の値は、ノイズ抑制相関を計算するために使用することができる。別の例では、抑制は、どのくらいそれが相関ノイズである可能性があるか相関中の全ての値を検査することによって得ることができる。続いて、この値は、この値が相関ノイズである確度に比例した量だけ減少させることができる。この後者の例では、ノイズ・レベルの第1の値および第2の値は、ノイズ抑制相関を計算するのに使用されることが好ましい。これは、ノイズ・レベルの第1の値が、平均ノイズ・レベルの尺度を与え、一方、ノイズ・レベルの第2の値が、特定の値が相関ノイズである確度を求めるための確率分布の形状の尺度を与えるという利点を有する。代替として、相関ノイズは、異なる方法を用いて抑制されてもよい。
【0056】
測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとを含む場合、この方法は、好ましくは、推定信号を得るために変調関数でノイズ抑制相関をたたみこみ、推定相関を得るために推定信号と変調関数を相関させるステップを含み、その後に、変調関数と推定相関の相関を計算するステップと、測定したイオンの信号が見込まれない、結果として得られた相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとが繰り返される。これは、繰り返しにより、相関ノイズは、相関中の真のイオン信号が影響を受けないようにサイクル当たりより少量だけ抑制することができ、一方、繰り返し後の最終的な相関ノイズは、より強く抑制されるという利点を有する。
【0057】
好ましい変形例では、変調関数と推定信号の相関を計算するステップ、測定したイオンの信号が見込まれない結果として得られた相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとは、2回以上繰り返される。この変形例では、推定信号を得るために変調関数でノイズ抑制相関をたたみこむステップが、他のステップが繰り返される前に毎回繰り返される。これは、繰り返しごとに、相関ノイズが、相関中の本当の信号が影響を受けないようにより少量だけ抑制することができ、一方、繰り返しによって、相関ノイズは、より強く抑制されるという利点を有する。
【0058】
さらに好ましい変形例では、これらのステップは、例えば1回、2回、3回、5回または10回のように一定回数繰り返される。これは、この方法が制御容易であるという利点を有する。代替として、ノイズ抑制相関中のノイズ・レベルが閾値未満になるまで、またはノイズが抑制された相関中のノイズ・レベルがさらにかなり大きく減少させられなくなるまで、これらのステップは繰り返すことができる。そのような代替は、計算時間が最小化され、一方同時に、相関ノイズの最適な抑制が確実にされるという利点を有する。
【0059】
有利には、この方法のステップは、サイクル内で繰り返される。各サイクル中、イオンビームは、異なる変調されたイオンビームを生成するための変調関数のセットからの異なる変調関数によって制御されるイオンゲートで変調されることが好ましい。さらに、イオンの移動度を得るために各サイクル中に計算される相関を全相関に加算することが有利である。これは、異なる変調関数のセットを選ぶことによって、測定された信号中のノイズおよび系統誤差は、イオン移動度スペクトルの中で平均化できるという利点を有する。
【0060】
一変形例として、イオンゲートが同じ変調関数によって制御される間に、サイクル中の方法のステップを繰り返すことが可能である。これは、信号の統計、およびしたがってイオン移動度スペクトルの統計が改善されるという利点を有する。
【0061】
代替として、方法のステップは、1度だけ実行されてもよい。これは、測定時間が、より短くなるという利点を有する。
【0062】
方法のステップがサイクル中に繰り返される場合、サイクルを繰り返す前に予備的なステップを実行することが有利である。この予備的なステップでは、変調関数のセットは、変調関数ごとに、相関中の誤った特徴が相関の異なる位置に位置し、したがって誤った特徴が全相関中で平均されるように選択されることが好ましい。例えば、変調関数が疑似ランダムシーケンスであるとともに、変調関数が線形フィードバック・シフトレジスタによって生成される場合、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットは、誤った特徴の高さが最小であるように選ぶことができる。続いて、この線形フィードバック・シフトレジスタは、異なる初期値のセットとともにそれを与えることによって、異なる疑似ランダムシーケンスを生成するために用いることができる。これは、得られた疑似ランダムシーケンスによって、信号中の同じ欠陥に起因する誤った特徴を相関中の異なる位置に位置させるという利点を有する。したがって、イオン移動度スペクトル中の誤った特徴を生じさせる系統的な欠陥は、平均することができる。さらに、これは、相関が対象となる間隔について計算される場合、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットは、相関内の誤ったピークが対象となる間隔の外側に位置するように選ぶことができるという利点を有する。その場合には、誤ったピークは、イオン移動度スペクトル中で防ぐことができるとともに、同時に、誤った特徴は平均化することができる。
【0063】
一変形例では、変調関数の1つのセットまたは異なるセットを求めるために一度だけ予備的なステップを実行することが可能である。これらの変調関数のセットは、記憶され、次いで異なる測定に用いることができる。
【0064】
有利には、この相関は、円相互相関、逆アダマール変換、フーリエ変換、ラプラス変換、またはM変換を計算することによって計算される。これは、この相関が、知られた形式によって計算されるという利点を有する。代替として、異なる形式が、この相関を計算するために同様に用いられてもよい。
【0065】
好ましくは、イオンの移動度を測定する装置は、変調関数とし使用するために疑似ランダムシーケンスが生成可能である線形フィードバック・シフトレジスタを備える。これは、疑似ランダムシーケンスが、容易に計算可能であるという利点を有する。例えば、この線形フィードバック・シフトレジスタは、電子回路とすることができ、またはコンピュータ・ソフトウェアに基づいていることができる。別の例では、この線形フィードバック・シフトレジスタは、計算ユニットに備えられていることができる。
【0066】
一変形例として、この装置は、変調関数を記憶するための記憶装置を備えることができる。これは、線形フィードバック・シフトレジスタによって生成された疑似ランダムシーケンスを記憶装置に記憶することを可能にする。これは、変調関数が測定前に記憶装置に記憶される場合、測定速度が改善され得るという利点を有する。加えて、この記憶装置は、それが、所定の疑似ランダムシーケンスまたは他の変調関数を記憶することを可能にするという利点を有する。したがって、この装置は、記憶装置を備えるが、線形フィードバック・シフトレジスタを備えないことができる。後者の場合、イオンの移動度を測定する装置は、変調関数を生成するための別のユニットを備えることができる。例えば、このユニットは、所定の変調関数を生成するユニット、またはランダムシーケンスを変調関数として生成するユニットとすることができる。一変形例では、この装置は、そのようなユニットも備えなくてもよい。
【0067】
有利には、相関が計算可能である前に、信号のエッジを強調するためのフィルタが、計算ユニットによって信号に適用可能である。一変形例として、この装置は、信号のエッジを強調するためのフィルタが信号に適用可能である別個のフィルタ・ユニットを備えることができる。両変形例は、得られたイオン移動度スペクトルの分解能が改善されるという利点を有する。代替として、信号に適用可能な信号のエッジを強調するためのフィルタが存在しないことも可能である。
【0068】
好ましくは、この装置は、ステップのサイクル中の繰り返しが制御可能である制御ユニットを備え、これらのステップは、イオンゲートで変調されたイオンビームを生成することと、変調されたイオンビームをドリフト領域を通じてガイドすることと、検出器で信号を測定することと、変調関数と信号の相関を計算することとを含む。さらに、好ましくは、この装置は、イオンの移動度を求めるために、サイクル中に計算される相関の合計である全相関が計算可能である加算ユニットを備える。これによって、加算ユニットが別個のユニットであり、または加算ユニットが計算ユニットに含まれることが可能である。どちらの場合も、制御ユニットおよび加算ユニットは、測定された信号中のノイズおよび系統誤差を、ステップの各繰り返し中に、異なる変調関数のセットにおける異なる変調関数でイオンゲートを制御することによって、イオン移動度スペクトル中で平均化することができるという利点を有する。
【0069】
一変形例として、この装置は、制御ユニットおよび加算ユニットを備えることができるが、イオンゲートは、全ての繰り返し全体にわたって同じ変調関数によって制御可能とすることができる。これは、信号の統計、およびしたがってイオン移動度スペクトルの統計が改善できるという利点を有する。
【0070】
代替として、この装置は、そのような制御ユニットまたはそのような加算ユニットを備えなくてもよい。
【0071】
有利には、検出器は質量分析計である。これは、同じイオンが測定される場合に、移動度スペクトルと質量スペクトルとを得ることができるという利点を有する。代替として、イオン質量スペクトルが必要とされない場合、検出器は、イオンだけを検出し、イオン質量スペクトルを測定しない検出器であってもよい。後者の場合は、この装置がより簡素でより安価に組み立てできるという利点を有する。
【0072】
検出器が質量分析計の場合、好ましくは、この検出器は、飛行時間型質量分析計である。これは、飛行時間型質量分析計は高い走査速度で広範なイオン質量を測定できるため、飛行時間型質量分析計がイオン移動度分光計と最適に組み合わせることができるので有利である。一変形例では、検出器は、四重極質量分析計である。これは、四重極質量分析計の高い走査速度を得ることができる小さい範囲のイオン質量が測定されることになる場合に有利である。さらなる変形例では、検出器は、イオン・トラップ質量分析計である。代替として、検出器は、異なるタイプの質量分析計である。
【0073】
相関関数が、2値関数またはシーケンスであるとともに検出器が質量分析計である場合、この質量分析計は、相関関数のビット長に対応する繰り返し率でイオン質量スペクトルを求めることができることが好ましい。これは、質量分析計の走査速度が、イオン移動度分光計に適合されるという利点を有する。
【0074】
有利な変形例では、検出器が質量分析計である場合、この質量分析計は、得られるイオン移動度スペクトルの時間分解能またはその一部に対応する繰り返し率でイオン質量スペクトルを求めることを可能にすることが好ましい。これは、質量分析計の走査速度が、イオン移動度分光計に最適に適合されるという利点を有する。
【0075】
上記の発明は、飛行時間型質量分析計が検出器として使用されるとき、単一および直列の液体/ガス・クロマトグラフィの分野でも用いることができる。これらのデバイスでは、カラム上の物質の保持時間が測定される。これは、イオン移動度分光計におけるイオン・ドリフト時間に概念的および機能的に等価である。通常、この測定を行うために、既知の時間にあるときに、試料がカラムへ噴射され、物質特有の保持時間の後に単一のピークとして溶離する。そのようなデバイスに本発明を用いるとき、カラムへの試料の噴射は、2値関数である自己相関を有する変調関数を用いて時間で変調される。カラムの後の試料のこの時間依存性信号が測定される。続いて、この信号と変調関数の相関が計算される。もちろん、イオン移動度を測定する方法および装置の場合について上述された他の全ての特徴が、同様に用いることができる。
【0076】
特徴の他の有利な実施形態および組み合わせは、以下の詳細な説明および特許請求の範囲の全体から得られる。
【0077】
実施形態を説明するために用いた図面を以下に示す。