特許第6193867号(P6193867)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193867
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】イオンの移動度を求める方法および装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20060101AFI20170828BHJP
   H01J 49/06 20060101ALI20170828BHJP
   H01J 49/40 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G01N27/62 E
   H01J49/06
   H01J49/40
【請求項の数】14
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2014-537438(P2014-537438)
(86)(22)【出願日】2012年8月13日
(65)【公表番号】特表2014-532960(P2014-532960A)
(43)【公表日】2014年12月8日
(86)【国際出願番号】CH2012000185
(87)【国際公開番号】WO2013059947
(87)【国際公開日】20130502
【審査請求日】2015年6月2日
(31)【優先権主張番号】11405348.1
(32)【優先日】2011年10月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】514106915
【氏名又は名称】トフヴェルク アクチエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128646
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 恒夫
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100134393
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】クノヒェンムス,リヒャルト
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2008−527396(JP,A)
【文献】 特表2004−530281(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0236514(US,A1)
【文献】 米国特許第07417222(US,B1)
【文献】 国際公開第2004/097394(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0294647(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62
H01J 49/06
H01J 49/40
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンの移動度を測定する方法であって、
a. 変調されたイオンビームを生成するための変調関数によって制御されるイオンゲート(2)でイオンビーム(6)を変調するステップであって、前記変調関数が、線形フィードバック・シフトレジスタで生成される疑似ランダムシーケンスであり、前記変調関数の自己相関が、2値関数である、ステップと、
b. 前記変調されたイオンビームをドリフト領域(3)を通じてガイドするステップと、
c. 前記変調されたイオンビームが前記ドリフト領域(3)を通過した後に前記変調されたイオンビームの信号を測定するステップと、
d.前記イオンの前記移動度を求めるために前記変調関数と前記信号の相関を計算するステップと
を含む方法において、
可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔が、前記相関から選ばれ、
前記方法が、できるだけ前記相関中の誤ったピーク(50.1、50.2、50.3、50.4、50.5、50.6)が前記対象となる間隔の外側に位置するように、前記線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットを選択することで前記変調関数を選択するステップをさらに含む
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記変調関数は、最大長シーケンス、GMWシーケンス、ウェルチ・ゴング変換シーケンス、平方余剰シーケンス、6次余剰シーケンス、双子素数シーケンス、カサミ・パワー関数シーケンス、超卵形シーケンス、あるいは3つまたは5つの最大長シーケンスに由来するシーケンスであることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記相関の計算前に前記信号をフィルタ処理することによってフィルタで前記信号のエッジを強調するステップを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記フィルタは、n個の要素の有限差分フィルタ、エッジ強調フィルタ、または異なるタイプのシャープ化アルゴリズムを使用したフィルタであることを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記信号からぼけ信号を計算するステップ、および前記変調関数と前記信号と前記ぼけ信号の間の差との前記相関が計算される前に、前記信号から前記ぼけ信号を減じることによって前記信号と前記ぼけ信号の間の前記差を計算するステップを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項6】
前記相関中の誤った特徴(51.1、51.2)が低い高さを有するように、前記線形フィードバック・シフトレジスタへ送られる初期値のセットを選択することにより、前記変調関数を選択するステップを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記相関を計算する前記ステップの後にともに実行される、測定したイオンの信号が見込まれない前記計算された相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップ、および前記相関中の前記相関ノイズを抑制することによってノイズ抑制相関を計算するステップを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記相関が、円相互相関、逆アダマール変換、フーリエ変換、ラプラス変換、またはM変換を計算することによって計算されることを特徴とする請求項1乃至のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
イオンの移動度を測定する装置(1)であって、
a. イオンビーム(6)から変調されたイオンビームを生成するための変調関数によって制御されるイオンゲート(2)と、
b. 前記変調されたイオンビームをガイド可能であるドリフト領域(3)と、
c. 前記変調されたイオンビームが前記ドリフト領域(3)を通過した後に前記変調されたイオンビームの信号を測定可能である検出器(4)と、
d. 前記イオンの前記移動度を求めるために前記変調関数と前記信号の相関が計算可能である計算ユニット(5)と、
e.疑似ランダムシーケンスを前記変調関数としての使用のために生成可能である線形フィードバック・シフトレジスタ(30)と
を備える装置(1)において、
前記変調関数の自己相関は2値関数であり、
前記線形フィードバック・シフトレジスタ(30)は、できるだけ前記相関中の誤ったピーク(50.1、50.2、50.3、50.4、50.5、50.6)が、前記相関から選ばれる可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔の外側に位置するように選択されるタップ・セットを有する
ことを特徴とする装置(1)。
【請求項10】
前記相関が計算可能である前に、前記信号のエッジを強調するためのフィルタが、前記計算ユニット(5)によって前記信号に適用可能であることを特徴とする請求項に記載の装置(1)。
【請求項11】
a. 前記イオンゲート(2)で前記変調されたイオンビームを生成することと、前記変調されたイオンビームを前記ドリフト領域(3)を通じてガイドすることと、前記検出器(4)で前記信号を測定することと、前記変調関数と前記信号の前記相関を計算することとを含むステップのサイクル中の繰り返しが制御可能である制御ユニット(7)と、
b. 前記イオンの前記移動度を求めるために、前記サイクル中に計算される前記相関の合計である全相関が計算可能である加算ユニットと
を特徴とする請求項または10に記載の装置(1)。
【請求項12】
前記検出器(4)は、質量分析計であることを特徴とする請求項乃至11のいずれか1項に記載の装置(1)。
【請求項13】
前記質量分析計は、飛行時間型質量分析計であることを特徴とする請求項12に記載の装置(1)。
【請求項14】
前記質量分析計は、得られるイオン移動度スペクトルの時間分解能またはその一部に対応する繰り返し率でイオン質量スペクトルを求めることを可能にすることを特徴とする請求項12または13に記載の装置(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イオンの移動度を測定する方法および装置に関する。この方法は、変調されたイオンビームを生成するための変調関数によって制御されるイオンゲートでイオンビームを変調するステップと、変調されたイオンビームをドリフト領域を通じてガイドするステップと、変調されたイオンビームがドリフト領域を通過した後に変調されたイオンビームの信号を測定するステップと、イオンの移動度を求めるために変調関数と信号の相関を計算するステップとを含む。この装置は、イオンゲートと、変調されたイオンビームがそれを通じてガイド可能であるドリフト領域と、変調されたイオンビームがドリフト領域を通過した後に変調されたイオンビームの信号が測定可能である検出器と、イオンの移動度を求めるために変調関数と信号の相関が計算可能である計算ユニットとを備える。
【背景技術】
【0002】
上述の技術分野に関連する方法および装置が知られている。例えば、米国特許出願公開第2009/0294647(A1)号(Karsten Michelmann)には、質量分析計に結合されているイオン移動度分光計および対応する測定方法が説明されている。イオンビームは、連続変調関数で変調され、この変調関数の変調周波数は、大きな周波数範囲にわたって変化する。イオン質量スペクトルを得るために、測定されたイオン・スペクトルは、イオンビームの変調関数と相関している。
【0003】
別のイオン移動度分光計および対応する方法は、米国特許第7,417,222(B1)号(Sandia Corp)に開示されている。そこでは同様に、イオンビームは変調関数で変調され、測定された信号は変調関数と相関している。しかし、米国特許出願公開第2009/0294647(A1)号とは対照的に、変調関数は、2値関数とすることもできる。詳細には、バーカー・コードは、その自己相関が下方側波帯を与えるので好適な変調関数であるとして説明されている。
【0004】
やや異なる手法が、飛行時間型質量分析計の例に関して米国特許第6,900,431(B1)号(Predicant Biosciences,Inc.)に記載されている。ここでは、イオンビームは、最大長の疑似ランダムシーケンスに変調される。イオン・スペクトルの特性は、逆アダマール変換形式によって得られる。同様に、WO2004/097394A1(Smiths Group Plc)に開示されたイオン移動度分光計では、イオンビームは最大長の疑似ランダムシーケンスで変調され、測定されたイオン信号は行列代数によって解析される。しかし、後者の例では、行列代数の代わりに、フーリエ解析が使用されてもよい。加えて、より良い信号対ノイズ比を得るために、反転ビットを有する2つの変調シーケンスを使用することもできる。
【0005】
これらの既知の方法は、イオンビームが変調関数に従って変調され、イオンがドリフト領域を通過した後にイオン信号が測定され、イオン移動度が変調関数と測定されたイオン信号の相関を計算することによって得られることを共通して有する。イオン移動度を得るためのこの手順は、それがイオンの飛行時間を直接測定するかのように個々のイオンごとの開始時間を知ることが必要とされないので用いられる。したがって、同時に2つ以上のイオンのパルスまたはパケットをドリフト領域を通じて通すことが可能である。このことは、より多くのイオンを同じ期間内に測定できるという利点を有する。
【0006】
この手順の欠点は、相関の計算が、それ自体容易に特定できない特徴をイオン移動度スペクトルの中に導入することである。例えば、これらの特徴は、いくつかの特定のイオン種から得られた信号のように見えるイオン移動度スペクトル中の小さいピークであり得る。したがって、イオンの跡が検出される場合、そのような人為的に導入された特徴は、イオン移動度スペクトルの誤解をもたらす可能性がある。したがって、そのような誤解を防ぐために、イオン移動度スペクトル中の小さいピークは、可能性のある誤ったピークとして切り捨てられなければならない。このことは、達成可能なダイナミック・レンジをかなり大きく制限する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/0294647(A1)号
【特許文献2】米国特許第7,417,222(B1)号
【特許文献3】米国特許第6,900,431(B1)号
【特許文献4】WO2004/097394A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術により知られているものと同じ測定速度を実現しつつ、より高い信号対ノイズ比でイオン移動度を測定することを可能にする最初に述べた技術分野に関連する方法および装置を創出することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の解決手段は、独立請求項の特徴によって特定される。本発明によれば、変調関数の自己相関は2値関数である。これは、自己相関関数が、ゼロでピークを有するとともに、他の全ての点で一定の値を有することを意味する。
【0010】
2値自己相関関数を有する変調関数の利点は、相関の計算によって追加の特徴がイオン移動度スペクトルの中に導入されないことである。
【0011】
好ましくは、この変調関数は2値関数である。したがって、この変調関数は、ビットの列によって表すことができる。これは、変調されたイオンビームがイオンの飛行方向に、変調関数の形状を有するようにイオンゲートでイオンビームを変調することが簡単であるという利点を有する。一変形例では、変調関数は、2値関数に基づいているが、2値関数のビット間で滑らかにされたステップを与える。これは、相関を計算する前に、変調関数を変調されたイオンビーム中のこれらの影響に適合させることによって、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏および変調ビーム中のイオンのテーリングまたは拡散を考慮に入れることができるという利点を有する。さらなる変形例では、変調関数は、2値関数に基づいているが、オーバーサンプリングされる。すなわち、2値関数のそれぞれの「0」および「1」の間に、複数の測定が行われる。代替として、変調関数は、非2値関数であり、これもオーバーサンプリングされ得る。
【0012】
以下には、変調関数が2値関数またはシーケンスであるとして説明されるくだりがある。このくだりでは、変調関数は、事実上、説明された2値関数またはシーケンスであり得る。しかし、この変調関数は、説明した2値関数またはシーケンスの基づいた関数であっても差し支えない。後者の場合には、この変調関数は、説明した2値関数またはシーケンスのビット間で滑らかにされたステップを与えることができ、および/またはオーバーサンプリングすることができる。
【0013】
好ましくは、変調関数は、疑似ランダムシーケンスである。これは、変調関数の特性が、ランダムシーケンスの特性に近いという利点を有する。したがって、イオン移動度スペクトル中の追加のピークをもたらす変調関数の繰り返しは、疑似ランダムシーケンスの長さがそれに応じて選ばれる場合には避けることができる。さらに、変調関数としての疑似ランダムシーケンスは、変調関数が例えば線形フィードバック・シフトレジスタなどで容易に生成できるという利点を有する。
【0014】
変調関数が、最大長シーケンスとして知られるタイプまたは1つまたは複数の最大長シーケンスによって表すことができるタイプの疑似ランダムシーケンスである場合、変調関数を生成するために線形フィードバック・シフトレジスタを使用することが有利である。そのような線形フィードバック・シフトレジスタでは、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットと呼ばれるいくつかのフィードバック・パターンが可能である。可能なタップ・セットの数は、特定の線形フィードバック・シフトレジスタの長さに依存する。変調関数は、タップ・セットおよび初期値のセットを選ぶことによって線形フィードバック・シフトレジスタで生成される。この初期値のセットは、線形フィードバック・シフトレジスタへ送られる。次いで、初期値のセットに基づいて、変調関数は、タップ・セットに従って線形フィードバック・シフトレジスタによって生成される。したがって、変調関数は、タップ・セットおよび初期値のセットに依存している。
【0015】
一変形例として、変調関数は、異なるやり方で生成されてもよい。例えば、1つもしくは複数の既知の疑似ランダムシーケンス、または他の変調関数は、データ記憶装置に記憶することができる。測定ごとに、データ記憶装置に記憶された特定の変調関数を使用することができる。
【0016】
さらなる変形例では、変調関数は、疑似ランダムシーケンスとは異なる関数とすることができる。例えば、変調関数は、ランダムシーケンスとすることができる。これは、この関数が、対応する特性を有するという利点を有する。代替として、この変調関数は、非ランダム関数であってもよい。
【0017】
変調関数が疑似ランダムシーケンスである場合、この変調関数は、最大長シーケンス、GMWシーケンス、ウェルチ・ゴング変換シーケンス、平方余剰シーケンス、6次余剰シーケンス、双子素数シーケンス、カサミ・パワー関数シーケンス、超卵形シーケンス、あるいは3つまたは5つの最大長シーケンスに由来するシーケンスであることが有利である。これは、変調関数が、特性がよく知られているシーケンスであるという利点を有する。シーケンスが3つから5つの最大長シーケンスに由来する場合、シーケンスは、例えば、3つまたは5つの最大長シーケンスの対応するビットの内容を加算することによって得ることができる。その場合には、2つの1または2つの0の加算は0になることができ、一方、0と1の加算または1と0加算は1になることができる(ビットに関するNAND演算)。
【0018】
一変形例として、変調関数は、これらの種類のうちの1つに属しない疑似ランダムシーケンスとすることができる。
【0019】
好ましくは、変調関数が、2値関数またはシーケンスの場合、この変調関数は、15ビットより大きい、好ましくは50ビットより大きい、特に100ビットより大きい長さを有する。これは、変調関数は、有意味のイオン移動度スペクトルを得るために十分なイオンが測定されている測定を可能にするのに十分に長いという利点を有する。
【0020】
代替として、変調関数は、15ビット以下の長さを有してもよい。これは、測定時間が短くあるべきである場合、および有意味のイオン移動度スペクトルを得るために利用可能なイオンが十分に存在する場合、有利であり得る。
【0021】
有利には、この方法は、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含む。これは、得られたイオン移動度スペクトルの分解能が、相関がシャープ化されるという点で改善されるという利点を有する。
【0022】
代替として、この方法は、相関を計算する前にフィルタで信号のエッジを強調するステップを含まなくてもよい。得られたイオン移動度スペクトルが、有効に測定された信号にできる限り近いものとすべき場合、信号のエッジを強調するステップの省略は、必要なフィルタリングは測定された信号の処理であるので有利であり得る。
【0023】
この方法が、フィルタで信号のエッジを強調するステップを含む場合、好ましくは、このフィルタは、n個の要素の有限差分フィルタ、エッジ強調フィルタ、または異なるタイプのシャープ化アルゴリズムを使用したフィルタである。これは、信号のエッジの強調は、処理されるべき信号の特定の特性に調整できる既知のシャープ化アルゴリズムで得られるという利点を有する。
【0024】
例えば、フィルタがn個の要素の有限差分フィルタであるとともに、信号が特定の時間幅を有するビンで測定される場合、このフィルタは、
【0025】
【数1】
の形態を有するアルゴリズムを含むことができ、ただし、nはフィルタの幅の尺度であり、Dは信号のi番目のビンの大きさであり、Fはフィルタ−値のi番目のビンである。フィルタ処理済(Filtered)の信号を得るために、各フィルタ−値Fは、測定された信号の対応するビンDに加算される。そうするとき、フィルタ−値を信号に加える前に、フィルタ−値Fおよび/または信号Dに重み係数を乗じることが可能である。例えば、そのような重み係数は、フィルタの幅nに基づくことができ、0<=n<=nmaxで、
【0026】
【数2】
である。
【0027】
もちろん、フィルタの幅とは無関係である重み係数を使用することも可能である。さらに、信号をガウシアンまたは任意の他の平滑化関数でたたみこむことによってフィルタ−値を計算する前に信号Dを平坦化することが可能である。その他の場合には信号中のノイズがフィルタ−値の誤差をもたらし得るので、これは有利であり得る。
【0028】
信号が、特定の時間幅を有するビンで測定されず、しかし測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間を記憶することによって測定される場合、この信号は、フィルタを適用する前に、特定の時間幅のビンへラスター化することができる。代替として、事象ごとに開始時間から経過した時間が記憶される場合、フィルタのアルゴリズムは、特定の時間幅を有するビンを仮定する代わりに、個々の事象間の時間差を考慮に入れるように適合されてもよい。次いで、アルゴリズムのパラメータnは、時間間隔の尺度になることができ、その範囲内で、特定のフィルタ−値Fを計算するときに事象が考慮に入れられる。
【0029】
信号が、特定の時間幅を有するビンで測定またはラスター化される場合、考慮されるビンの数nは信号の特性に適合されることが有利である。フィルタが迅速に計算されるべきである場合、nを1となるように選ぶことが有利であり得る。この場合には、フィルタはラプラス・フィルタになる。さもなければ、信号が、特定の時間幅を有するビンで測定もされず、それに応じてラスター化もされない場合、信号の特性、事象が考慮される時間間隔に適合することが有利である。
【0030】
例えば、フィルタがエッジ強調フィルタである場合、このフィルタは、ガウシアンで信号をたたみこむことによってぼけ信号が計算されるとともに、信号とぼけ信号の間の差が信号に加算されるアルゴリズムを含むことができる。デジタル画像処理より知られているアンシャープ・マスキングの方法と同様に、アルゴリズムの3つのパラメータは、処理されるべき特定の信号に従って適合され得る。第1に、ガウシアンの幅が適合され得る。第2に、信号に差を加算する前に、差に特定の信号に適合される重み係数を乗じることができる。第3に、閾値パラメータは、パラメータの値がある閾値を上回る場合にフィルタが唯一適用されるように定めることができる。例えば、閾値パラメータは、測定された信号からのぼけ信号の偏差であり得る。
【0031】
この方法が、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含まない場合、好ましくは、この方法は、信号からぼけ信号を計算するステップ、および変調関数と信号とぼけ信号の間の差との相関が計算される前に、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップを含む。これは、得られたイオン移動度スペクトルの分解能が、相関がシャープ化されるという点で改善されるという利点を有する。
【0032】
この方法が上述のように2つの追加のステップを含む場合、および信号が、特定の時間幅を有するビンで測定されず、しかし測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間を記憶することによって測定される場合、この信号は、ぼけ信号を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化することができる。代替として、信号およびぼけ信号は、信号とぼけ信号の間の差を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化されてもよい。信号が特定の時間幅を有するビンで測定されるか、または測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間が測定され、続いてビンへラスター化されるかに関係なく、ビンの時間幅は、変調関数のビットの時間幅より小さいことが有利である。好ましくは、ビンの時間幅は、変調関数のビットの時間幅の1/3から1/10である。代替として、ビンの時間幅は、変調関数のビットの時間幅の1/10より大きい。
【0033】
代替として、この方法は、信号からぼけ信号を計算するステップも含まず、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップも含まないことができる。得られたイオン移動度スペクトルが、有効に測定された信号にできる限り近いものとすべき場合、これらの2つのステップの省略は、それらが測定された信号の処理であるので有利であり得る。
【0034】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、および信号が、特定の時間幅を有するビンで測定される場合、有利には、このぼけ信号は、関数で信号をたたみこむことによって計算される。そのような関数は、例えば、ガウシアン、ローレンチアン、または単一のピークを与える別の対称関数とすることができる。代替として、ぼけ信号は、たたみこみの計算とは異なる方法で計算することができる。
【0035】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、および測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間が測定され、続いてビンへラスター化される場合、ぼけ信号は、確率分布から求められる値によってイオンごとに測定された時間を補正することによって計算することが有利である。この確率分布に関しては、ガウス分布、または最も高い確率についての単一のピークを有する種々の対称的な確率分布が選ばれ得る。ぼけ信号の計算後、信号およびぼけ信号は、信号とぼけ信号の間の差を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化されることが有利である。好ましい変形例では、測定されたイオンごとに(すなわち、事象ごとに)開始時間から経過した時間が測定される場合、この信号は、ぼけ信号を計算する前に、特定の時間幅のビンへラスター化される。この後者の場合には、ぼけ信号は、例えば、ガウシアン、ローレンチアン、または単一のピークを与える別の対称関数のような関数で信号をたたみこむことによって計算されることが有利である。しかし、一変形例では、ぼけ信号は、たたみこみの計算とは異なる方法で計算することができる。
【0036】
ぼけ信号が、関数で信号をたたみこむことによって、または個々のイオンごとに確率分布から求められる値によってこのイオンについて測定された時間を補正することによって計算される場合、関数または確率分布はそれぞれ、変調関数のビットの時間幅の半分より小さい半値半幅または標準偏差を有するように選ばれることが好ましい。代替として、関数または確率分布は、関数または確率分布がそれぞれ、変調関数のビットの時間幅の半分以上である半値半幅または標準偏差を有するように選ばれてもよい。
【0037】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、信号およびぼけ信号は、差を計算するために互いに対して重み付けされることが有利である。好ましい変形例では、ぼけ信号は、信号の積分強度の100%の積分強度を有するように重み付けされる。別の好ましい変形例では、ぼけ信号は、信号の積分強度の100%未満であるが信号の積分強度の90%より大きい積分強度を有するように重み付けされる。さらに別の好ましい変形例では、ぼけ信号は、信号の積分強度の100%未満であるが信号の積分強度の80%より大きい積分強度を有するように重み付けされる。代替として、ぼけ信号は、信号の積分強度の80%未満の積分強度を有するように重み付けされる。
【0038】
この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、この方法は、計算された相関の負の値をゼロの値または任意の正の値に設定する追加のステップを含むことが好ましい。これは、相関中の負の値はイオン移動度スペクトルの情報を何ら与えないので相関中の負の値が省かれるという利点を有する。
【0039】
代替として、この方法は、計算された相関の負の値をゼロの値または任意の正の値に設定するステップを含まない。
【0040】
有利には、可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔は、相関から選ばれる。これは、イオン移動度スペクトルの対象となる間隔が、さらなるデータ処理のために表示または使用できるという利点を有する。代替として、可能なイオン・ドリフト時間の特定の対象となる間隔は、相関から選ばれない。これは、対象となる間隔が相関全体に広がるようにあたかも選ばれるのと同じ効果を有する。したがって、この代替は、全てのデータが、さらなるデータ処理のためにそれぞれ表示または使用できるという利点を有する。
【0041】
この相関が、可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔について計算される場合、好ましくは、この方法は、できるだけ相関内の誤ったピークが、対象となる間隔の外側に位置するように変調関数を選択するステップを含む。これらの誤ったピークは、信号中の欠陥および/またはノイズの形態で測定された信号中にすでに存在しているイオン移動度スペクトル中の特徴群に属する。この欠陥は、例えば、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏、変調ビーム中のイオンのテーリング、変調ビーム中のイオンの拡散、および/またはドリフト領域内の気体流中の不均一性もしくは乱流によって引き起こされ得る。そのような不完全性は、変調されたイオンビームの形状の変化をもたらし得る。したがって、それらは、測定された信号中に意図せぬ特徴を導き得る。相関の計算の結果として、イオン移動度スペクトル中の特徴の位置は、測定された信号中の特徴の位置に比べてシフトされ得る。このシフティング挙動は、特徴および変調関数に依存する。例えば、変調関数が、線形フィードバック・シフトレジスタによって生成されるシーケンスである場合、イオン移動度スペクトル中のいくつかの特徴の位置は、線形フィードバック・レジスタのタップ・セットによって求められ、一方、これらの位置は、シーケンスを生成するのに使用される初期値のセットから独立している。本文脈では、「誤ったピーク」という用語は、イオン移動度スペクトル中のこの特定の特徴群に用いられる。したがって、変調関数を生成するための線形フィードバック・シフトレジスタを使用するとともに、特定の特徴によって引き起こされる誤ったピークの位置が知られている線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットを使用することが有利である。例えば、タップ・セットは、この方法を実施するために使用されるイオン移動度分光計の特性である特徴について予備的に評価されることが可能である。これらの特性の特徴は、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏、変調されたイオンビーム中のイオンのテーリング、変調されたイオンビーム中のイオンの拡散、および/またはドリフト領域内の気体流中の不均一性もしくは乱流であり得る。可能なイオン・ドリフト時間の対象となる間隔が知られると、使用されるタップ・セットは、イオン移動度スペクトル中の誤ったピークが対象となる間隔の外側に位置するように選ぶことができる。これは、得られたイオン移動度スペクトルの誤解の機会が減少するという利点を有する。
【0042】
代替として、相関内の誤ったピークが対象となる間隔の外側に位置するように変調関数を選択するステップを省略することが可能である。これは、対象となる間隔が大きい場合、および利用可能な変調関数がそのような選択によって強く制限され過ぎる場合または利用可能な対応する変調関数が全くない場合、有利であり得る。
【0043】
好ましくは、この方法は、相関中の誤った特徴が低い高さを有するように変調関数を選択するステップを含む。「誤ったピーク」という表現と同様に、「誤った特徴」という表現が、信号中の欠陥および/またはノイズの形態で測定された信号中にすでに存在しているイオン移動度スペクトル中の特定の特徴群に対して本文脈において使用される。変調関数が、線形フィードバック・シフトレジスタによって生成されるシーケンスである場合、イオン移動度スペクトル中の誤った特徴の位置は、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セット、およびシーケンスを生成するのに使用される初期値のセットに依存する。加えて、誤った特徴の高さは、シーケンスを生成するのに使用される初期値のセットに依存する。
【0044】
したがって、イオンゲートの背後の領域内のイオン欠乏、変調ビーム中のイオンのテーリング、変調ビーム中のイオンの拡散、および/またはドリフト領域内の気体流中の不均一性もしくは乱流のような特徴的な欠陥が、イオン移動度スペクトル中の誤った特徴の最小高さをもたらすように変調関数を選ぶことが好ましい。これは、得られたイオン移動度スペクトルの誤解の機会が減少するという利点を有する。
【0045】
代替として、相関中の誤った特徴が低い高さを有するように変調関数を選択するステップを省略することも可能である。
【0046】
好ましくは、この方法は、相関を計算するステップの後にともに実行される、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップ、および相関中の相関ノイズを抑制することによってノイズ抑制相関を計算するステップを含む。ここで、「相関ノイズ」という用語は、測定された信号中の統計ノイズのため、変調関数と信号の相関を計算するときに相関に含められるノイズに用いられる。これらの2つのステップを方法の中に含めることは、相関中の信号対ノイズ比が改善されるという利点を有する。この利点は、この方法が、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含むかどうかに関係なく得られる。
【0047】
さらに、この利点は、この方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含むかどうかに関係なく得られる。それにも関わらず、この方法が、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによってフィルタで信号のエッジを強調するステップを含む場合、またはこの方法が、信号からぼけ信号を計算するステップと、信号からぼけ信号を減じることによって信号とぼけ信号の間の差を計算するステップとを含む場合、結果はさらに改善される。
【0048】
有利には、相関ノイズのノイズ・レベルは、測定される最速のイオンの可能な飛行時間より短い飛行時間に対応する計算された相関の領域内で求められる。好ましい変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルは、測定される最も遅いイオンの飛行時間より長い飛行時間に対応する計算された相関の領域内で求められる。後者の変形例では、変調関数は、最も遅い可能なまたは見込まれるイオンの飛行時間より時間が長いように選ぶことができる。このように、測定される最も遅いイオンより長い飛行時間を表すことでノイズ・レベルを求めるのに使用できる計算された相関中の領域が得られる。代替として、相関ノイズのノイズ・レベルは、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の別の領域内で求められてもよい。
【0049】
好ましくは、相関ノイズのノイズ・レベルの第1の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の平均値または中央値を計算することによって計算される。これは、ノイズ・レベルが相関ノイズの平均振幅の尺度を与えるという利点を有する。一変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルの第1の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の最小値または最大値に基づくことができる。
【0050】
ノイズ・レベルの第1の値が、平均値または中央値を計算することによって求められるか、またはノイズ・レベルの最小値または最大値を用いることによって求められるかに関係なく、ノイズ・レベルの第1の値は、ノイズ・レベルの平均値、中央値、または最小値もしくは最大値を有し、またはこの値から何かの式によって計算される。後者の場合には、式は、スケール係数を用いた単純な乗算とすることができ、またはより複雑な式とすることができる。
【0051】
好ましい変形例では、ノイズ・レベルの第2の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の標準偏差を計算することによって計算される。さらに好ましい変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルの第2の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の信号の剰余をベイズ推定プロセスにより計算することによって求められる。さらなる変形例では、相関ノイズのノイズ・レベルの第2の値は、異なる方法によって求められる。例えば、ノイズ・レベルの第2の値は、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内でノイズ・レベルの第1の値と信号の最小値または最大値の間の差を計算することによって求めることができる。
【0052】
ノイズ・レベルの第2の値が、標準偏差、剰余、または他の任意の量を計算することによって求められるかに関係なく、ノイズ・レベルの第2の値は、標準偏差、剰余、または他の量と同一とすることができ、または標準偏差、剰余、または他の量から何かの式によって計算することができる。後者の場合には、式は、スケール係数を用いた単純な乗算とすることができ、またはより複雑な式とすることができる。
【0053】
ノイズ・レベルの第2の値の計算は、ノイズ・レベルがバックグラウンド信号の平均振幅の尺度を与えるとともにバックグラウンド信号の散乱の振幅の尺度を与えるという利点を有する。両方の値は、ノイズ抑制相関を計算するために使用することができる。
【0054】
代替として、ノイズ・レベルは、単一の値であってもよい。この場合には、ノイズ・レベルの値は、上述のノイズ・レベルの第1の値、上述のノイズ・レベルの第2の値とすることができ、またはノイズ・レベルの第1の値および第2の値の和または差とすることができる。3つのいずれの場合でも、値は、ノイズ抑制相関を計算するために使用することができる。
【0055】
この方法が、測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとを含む場合、求められたノイズ・レベルは、ノイズ抑制相関を計算するステップにおいて相関ノイズが抑制される量を求めるのに使用されることが有利である。これは、相関ノイズの抑制の量が、相関中の相関ノイズの有効量に適合されるという利点を有する。例えば、抑制を得るためのやり方の1つは、相関中の全ての値をそれがノイズ・レベルの範囲内かどうか検査することである。この値がノイズ・レベルの範囲内である場合、この値は、一定量まで減少、一定量で減少、または係数によって減少することができ、一方、この値がノイズ・レベルの範囲内にない場合、この値は維持することができる。これらの例では、好ましくは、ノイズ・レベルの単一の値またはノイズ・レベルの第1の値は、ノイズ抑制相関を計算するために使用することができる。別の例では、抑制は、どのくらいそれが相関ノイズである可能性があるか相関中の全ての値を検査することによって得ることができる。続いて、この値は、この値が相関ノイズである確度に比例した量だけ減少させることができる。この後者の例では、ノイズ・レベルの第1の値および第2の値は、ノイズ抑制相関を計算するのに使用されることが好ましい。これは、ノイズ・レベルの第1の値が、平均ノイズ・レベルの尺度を与え、一方、ノイズ・レベルの第2の値が、特定の値が相関ノイズである確度を求めるための確率分布の形状の尺度を与えるという利点を有する。代替として、相関ノイズは、異なる方法を用いて抑制されてもよい。
【0056】
測定したイオンの信号が見込まれない計算された相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとを含む場合、この方法は、好ましくは、推定信号を得るために変調関数でノイズ抑制相関をたたみこみ、推定相関を得るために推定信号と変調関数を相関させるステップを含み、その後に、変調関数と推定相関の相関を計算するステップと、測定したイオンの信号が見込まれない、結果として得られた相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとが繰り返される。これは、繰り返しにより、相関ノイズは、相関中の真のイオン信号が影響を受けないようにサイクル当たりより少量だけ抑制することができ、一方、繰り返し後の最終的な相関ノイズは、より強く抑制されるという利点を有する。
【0057】
好ましい変形例では、変調関数と推定信号の相関を計算するステップ、測定したイオンの信号が見込まれない結果として得られた相関の領域内の相関ノイズのノイズ・レベルを求めるステップと、ノイズ抑制相関を計算するステップとは、2回以上繰り返される。この変形例では、推定信号を得るために変調関数でノイズ抑制相関をたたみこむステップが、他のステップが繰り返される前に毎回繰り返される。これは、繰り返しごとに、相関ノイズが、相関中の本当の信号が影響を受けないようにより少量だけ抑制することができ、一方、繰り返しによって、相関ノイズは、より強く抑制されるという利点を有する。
【0058】
さらに好ましい変形例では、これらのステップは、例えば1回、2回、3回、5回または10回のように一定回数繰り返される。これは、この方法が制御容易であるという利点を有する。代替として、ノイズ抑制相関中のノイズ・レベルが閾値未満になるまで、またはノイズが抑制された相関中のノイズ・レベルがさらにかなり大きく減少させられなくなるまで、これらのステップは繰り返すことができる。そのような代替は、計算時間が最小化され、一方同時に、相関ノイズの最適な抑制が確実にされるという利点を有する。
【0059】
有利には、この方法のステップは、サイクル内で繰り返される。各サイクル中、イオンビームは、異なる変調されたイオンビームを生成するための変調関数のセットからの異なる変調関数によって制御されるイオンゲートで変調されることが好ましい。さらに、イオンの移動度を得るために各サイクル中に計算される相関を全相関に加算することが有利である。これは、異なる変調関数のセットを選ぶことによって、測定された信号中のノイズおよび系統誤差は、イオン移動度スペクトルの中で平均化できるという利点を有する。
【0060】
一変形例として、イオンゲートが同じ変調関数によって制御される間に、サイクル中の方法のステップを繰り返すことが可能である。これは、信号の統計、およびしたがってイオン移動度スペクトルの統計が改善されるという利点を有する。
【0061】
代替として、方法のステップは、1度だけ実行されてもよい。これは、測定時間が、より短くなるという利点を有する。
【0062】
方法のステップがサイクル中に繰り返される場合、サイクルを繰り返す前に予備的なステップを実行することが有利である。この予備的なステップでは、変調関数のセットは、変調関数ごとに、相関中の誤った特徴が相関の異なる位置に位置し、したがって誤った特徴が全相関中で平均されるように選択されることが好ましい。例えば、変調関数が疑似ランダムシーケンスであるとともに、変調関数が線形フィードバック・シフトレジスタによって生成される場合、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットは、誤った特徴の高さが最小であるように選ぶことができる。続いて、この線形フィードバック・シフトレジスタは、異なる初期値のセットとともにそれを与えることによって、異なる疑似ランダムシーケンスを生成するために用いることができる。これは、得られた疑似ランダムシーケンスによって、信号中の同じ欠陥に起因する誤った特徴を相関中の異なる位置に位置させるという利点を有する。したがって、イオン移動度スペクトル中の誤った特徴を生じさせる系統的な欠陥は、平均することができる。さらに、これは、相関が対象となる間隔について計算される場合、線形フィードバック・シフトレジスタのタップ・セットは、相関内の誤ったピークが対象となる間隔の外側に位置するように選ぶことができるという利点を有する。その場合には、誤ったピークは、イオン移動度スペクトル中で防ぐことができるとともに、同時に、誤った特徴は平均化することができる。
【0063】
一変形例では、変調関数の1つのセットまたは異なるセットを求めるために一度だけ予備的なステップを実行することが可能である。これらの変調関数のセットは、記憶され、次いで異なる測定に用いることができる。
【0064】
有利には、この相関は、円相互相関、逆アダマール変換、フーリエ変換、ラプラス変換、またはM変換を計算することによって計算される。これは、この相関が、知られた形式によって計算されるという利点を有する。代替として、異なる形式が、この相関を計算するために同様に用いられてもよい。
【0065】
好ましくは、イオンの移動度を測定する装置は、変調関数とし使用するために疑似ランダムシーケンスが生成可能である線形フィードバック・シフトレジスタを備える。これは、疑似ランダムシーケンスが、容易に計算可能であるという利点を有する。例えば、この線形フィードバック・シフトレジスタは、電子回路とすることができ、またはコンピュータ・ソフトウェアに基づいていることができる。別の例では、この線形フィードバック・シフトレジスタは、計算ユニットに備えられていることができる。
【0066】
一変形例として、この装置は、変調関数を記憶するための記憶装置を備えることができる。これは、線形フィードバック・シフトレジスタによって生成された疑似ランダムシーケンスを記憶装置に記憶することを可能にする。これは、変調関数が測定前に記憶装置に記憶される場合、測定速度が改善され得るという利点を有する。加えて、この記憶装置は、それが、所定の疑似ランダムシーケンスまたは他の変調関数を記憶することを可能にするという利点を有する。したがって、この装置は、記憶装置を備えるが、線形フィードバック・シフトレジスタを備えないことができる。後者の場合、イオンの移動度を測定する装置は、変調関数を生成するための別のユニットを備えることができる。例えば、このユニットは、所定の変調関数を生成するユニット、またはランダムシーケンスを変調関数として生成するユニットとすることができる。一変形例では、この装置は、そのようなユニットも備えなくてもよい。
【0067】
有利には、相関が計算可能である前に、信号のエッジを強調するためのフィルタが、計算ユニットによって信号に適用可能である。一変形例として、この装置は、信号のエッジを強調するためのフィルタが信号に適用可能である別個のフィルタ・ユニットを備えることができる。両変形例は、得られたイオン移動度スペクトルの分解能が改善されるという利点を有する。代替として、信号に適用可能な信号のエッジを強調するためのフィルタが存在しないことも可能である。
【0068】
好ましくは、この装置は、ステップのサイクル中の繰り返しが制御可能である制御ユニットを備え、これらのステップは、イオンゲートで変調されたイオンビームを生成することと、変調されたイオンビームをドリフト領域を通じてガイドすることと、検出器で信号を測定することと、変調関数と信号の相関を計算することとを含む。さらに、好ましくは、この装置は、イオンの移動度を求めるために、サイクル中に計算される相関の合計である全相関が計算可能である加算ユニットを備える。これによって、加算ユニットが別個のユニットであり、または加算ユニットが計算ユニットに含まれることが可能である。どちらの場合も、制御ユニットおよび加算ユニットは、測定された信号中のノイズおよび系統誤差を、ステップの各繰り返し中に、異なる変調関数のセットにおける異なる変調関数でイオンゲートを制御することによって、イオン移動度スペクトル中で平均化することができるという利点を有する。
【0069】
一変形例として、この装置は、制御ユニットおよび加算ユニットを備えることができるが、イオンゲートは、全ての繰り返し全体にわたって同じ変調関数によって制御可能とすることができる。これは、信号の統計、およびしたがってイオン移動度スペクトルの統計が改善できるという利点を有する。
【0070】
代替として、この装置は、そのような制御ユニットまたはそのような加算ユニットを備えなくてもよい。
【0071】
有利には、検出器は質量分析計である。これは、同じイオンが測定される場合に、移動度スペクトルと質量スペクトルとを得ることができるという利点を有する。代替として、イオン質量スペクトルが必要とされない場合、検出器は、イオンだけを検出し、イオン質量スペクトルを測定しない検出器であってもよい。後者の場合は、この装置がより簡素でより安価に組み立てできるという利点を有する。
【0072】
検出器が質量分析計の場合、好ましくは、この検出器は、飛行時間型質量分析計である。これは、飛行時間型質量分析計は高い走査速度で広範なイオン質量を測定できるため、飛行時間型質量分析計がイオン移動度分光計と最適に組み合わせることができるので有利である。一変形例では、検出器は、四重極質量分析計である。これは、四重極質量分析計の高い走査速度を得ることができる小さい範囲のイオン質量が測定されることになる場合に有利である。さらなる変形例では、検出器は、イオン・トラップ質量分析計である。代替として、検出器は、異なるタイプの質量分析計である。
【0073】
相関関数が、2値関数またはシーケンスであるとともに検出器が質量分析計である場合、この質量分析計は、相関関数のビット長に対応する繰り返し率でイオン質量スペクトルを求めることができることが好ましい。これは、質量分析計の走査速度が、イオン移動度分光計に適合されるという利点を有する。
【0074】
有利な変形例では、検出器が質量分析計である場合、この質量分析計は、得られるイオン移動度スペクトルの時間分解能またはその一部に対応する繰り返し率でイオン質量スペクトルを求めることを可能にすることが好ましい。これは、質量分析計の走査速度が、イオン移動度分光計に最適に適合されるという利点を有する。
【0075】
上記の発明は、飛行時間型質量分析計が検出器として使用されるとき、単一および直列の液体/ガス・クロマトグラフィの分野でも用いることができる。これらのデバイスでは、カラム上の物質の保持時間が測定される。これは、イオン移動度分光計におけるイオン・ドリフト時間に概念的および機能的に等価である。通常、この測定を行うために、既知の時間にあるときに、試料がカラムへ噴射され、物質特有の保持時間の後に単一のピークとして溶離する。そのようなデバイスに本発明を用いるとき、カラムへの試料の噴射は、2値関数である自己相関を有する変調関数を用いて時間で変調される。カラムの後の試料のこの時間依存性信号が測定される。続いて、この信号と変調関数の相関が計算される。もちろん、イオン移動度を測定する方法および装置の場合について上述された他の全ての特徴が、同様に用いることができる。
【0076】
特徴の他の有利な実施形態および組み合わせは、以下の詳細な説明および特許請求の範囲の全体から得られる。
【0077】
実施形態を説明するために用いた図面を以下に示す。
【図面の簡単な説明】
【0078】
図1a-b】それぞれ、本発明による装置の概略図、および本発明による方法のステップを示すブロック図である。
図2】変調関数と単一種のイオンからの理想的な信号との相関のグラフである。
図3】変調関数のための疑似ランダムシーケンスを生成するために使用できる線形フィードバック・シフトレジスタの概略図である。
図4】最大長のシーケンス、およびあるイオン種の理想的な信号に見込まれるエッジを強調した対応する理想的なフィルタ処理済の信号のグラフである。
図5】種々の相関について、信号が異なるシャープ化パラメータでシャープにされている、変調関数と単一種のイオンからの理想的な信号の相関のグラフである。
図6】フィルタ処理済の信号に基づいたときおよびフィルタ処理していない信号に基づいたときのロイシン/イソロイシン混合物の測定について計算された2つの相関の比較のグラフである。
図7a-b】未処理信号、ぼけ信号、および信号とぼけ信号の間の差の比較、ならびに変調関数と未処理信号および差とからそれぞれ計算された2つの相関のさらなる比較を示すグラフである。
図8】変調関数と未処理信号および差とからそれぞれ計算された2つの相関のさらなる比較であって、信号は同様のイオン移動度を有する2つの異なるイオン種のシグネチャを伝えている、比較を示すグラフである。
図9】ノイズ除去ルーチンを繰り返して適用するためのノイズ除去ルーチンおよび繰り返し機能のブロック図である。
図10】ノイズ除去ルーチンを3回適用した後の相関とノイズ除去ルーチンを10回適用した後の相関とをそれぞれ比較して測定値から計算された相関のグラフである。
図11a】理想的な形状からの変調されたイオンビームの4つの異なる系統偏差のグラフである。
図11b】理想的な形状からの変調されたイオンビームの4つの異なる系統偏差のグラフである。
図11c】理想的な形状からの変調されたイオンビームの4つの異なる系統偏差のグラフである。
図11d】理想的な形状からの変調されたイオンビームの4つの異なる系統偏差のグラフである。
図12】テーリングおよびイオン欠乏が、特定種のイオンに起因しない相関中の誤ったピークを生じさせ得ることを示すシミュレーションした相関のグラフである。
図13】相関内の誤ったピークの位置が、線形フィードバック・シフトレジスタについて異なるタップ・セットを用いることによってシフトできることを示すシミュレーションした相関のグラフである。
図14】同じ線形フィードバック・シフトレジスタおよび同じタップ・セットで生成されるが、異なる初期値のセットで生成される4つの異なる変調関数のグラフである。
図15】いくつかの可能性のある最適化オプションを考慮に入れる方法のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0079】
各図では、同じ構成要素には、同じ参照符号が与えられる。
【0080】
図1aは、本発明によるイオン移動度分光計1の概略図を示す。このイオン移動度分光計1は、イオンの移動度を測定するために本発明による方法を実施するために使用することができる。図1bは、この方法の個々のステップを示すこの方法のブロック図を示す。
【0081】
イオン移動度分光計1は、イオンゲート2と、ドリフト領域3と、検出器4と、計算ユニット5とを備える。ドリフト領域3は、チューブ10によって閉じ込められている。イオンゲート2は、検出器4とは異なるチューブ10の反対端に配置されている。イオンゲート2は、知られたタイプのものである。このイオンゲート2は、ワイヤの格子を含む。反対の符号の電圧が格子の隣接したワイヤに印加される場合、イオンビーム6のイオンはチューブ10に入るのを阻止される。格子のワイヤに印加される電圧がない場合、イオンビーム6のイオンは、チューブ10に入ることができる。イオンゲート2の切り換えは、制御装置7によって制御される。イオンゲート2は、イオンがイオンゲート2を通過できる開状態と、イオンゲート2の通過するイオンが阻止される閉状態との間で切り換えることができる。イオンゲート2を通過するイオンビーム6のそれらのイオンは、チューブ10に入り、ドリフト領域3を通じて検出器4にドリフトし、この検出器4がイオン信号を発生させる。次いで、このイオン信号は、さらなる処理のために計算ユニット5へ送られる。
【0082】
測定を行うとき、イオンゲート2は、変調関数に従って切り替えるように制御装置7によって制御される。この変調関数は、値「1」または「0」を有するビットのシーケンスとして表すことができる2値関数である。値「1」は、イオンゲート2の開状態に対応する一方、「0」は、イオンゲート2の閉状態に対応する。変調関数は、その自己相関が、ゼロでピークを有するとともに他の点では一定の値を有する2値関数であるように選ばれる。イオンビーム6は、連続イオンビームとしてイオンゲート2に近づく。イオンビーム6は、チューブ10に入るとき、イオンゲート2によって変調されて、変調されたイオンビームを生成する。イオンの飛行方向に、この変調されたイオンビームは、変調関数に対応する形状を有する。変調されたイオンビームのイオンは、ドリフト領域3を通じてガイドされ、検出器4に到達し、そこで信号が発生する。この信号は、計算ユニット5へ送られ、そこで信号と変調関数の相関が計算される。この相関は、イオン移動度スペクトルに対応する。
【0083】
変調関数の自己相関が2値関数であるとき、信号と変調関数の相関の計算によって追加の特徴がイオン移動度スペクトルの中に導入されない。例えば、イオンビーム6がある単一種のイオンを含む場合、全てのイオンは、ドリフト領域3を通過するのに同じ時間がかかる。したがって、変調されたイオンビームが変調された関数の形状を正確に有する理想的な測定では、計算された相関は、変調関数の自己相関のように2値関数である。しかし、自己相関とは対照的に、計算された相関では、ピーク位置は、イオンの飛行時間を指し示す(図2参照)。
【0084】
上述のように、変調関数は2値関数である。より正確には、変調関数は、ビットの疑似ランダムシーケンスである。変調関数は、制御装置7に組み込まれている線形フィードバック・シフトレジスタ(LFSR)30によって生成される。図3は、このLFSR30の概略図を示す。上述の実施形態では、LFSR30は、別個の物理的な電子回路によって与えられたLFSRのフィボナッチ実装である。代替として、LFSR30は、ガロア実装であってもよい。一変形例では、LFSR30は、別個の物理的な電子回路によって与えられる代わりに、コンピュータ上で実行している何かのソフトウェアによって与えることができる。イオン移動度分光計1の他の実施形態では、LFSR30は、同様に用いることができるが、LFSR30によって生成される変調関数は、例えば、GMWシーケンス、ウェルチ・ゴング変換シーケンス、平方余剰シーケンス、6次余剰シーケンス、双子素数シーケンス、カサミ・パワー関数シーケンス、超卵形シーケンス、あるいは3つまたは5つの最大長シーケンスに由来するシーケンスとすることができる。後者の場合には、例えば、シーケンスは、3つまたは5つの最大長シーケンスの対応するビットの内容を加算することによって得ることができる。その場合、2つの1または2つの0の加算は0になることができ、一方、0と1の加算または1と0の加算は1になることができる(ビットに関するNAND)。この加算を実現するために、制御装置7は、LFSR30の後に配置される加算ユニットを備えることができる。
【0085】
代替として、図1に示されたイオン移動度分光計1は、所定の変調関数を記憶する記憶装置を備えることができる。その場合には、変調関数は、LFSR30によって生成され、記憶装置に記憶することができる。必要なときに、変調関数は、記憶装置から取り出すことができる。一変形例では、イオン移動度分光計は、所定の変調関数を記憶する記憶装置だけを備えることができ、LFSR30を含まない。そのとき、変調関数は、図3に示されたもののような別個のLFSRによって生成することができる。続いて、変調関数は、所定の変調関数としてイオン移動度分光計1の記憶装置に永久に記憶することができる。測定のために、この所定の変調関数は、記憶装置から取り出すことができる。
【0086】
一変形例では、上記のLFSR30以外の別の手段が、変調関数を生成するために用いられてもよい。そのような実施形態では、同じタイプの変調関数を使用することができ、この変調関数は、上記のように記憶することができる。
【0087】
図3に示されるように、LFSR30は、直列で接続されているいくつかのビット20.1,・・・20.5を有する。さらに、ビット20.1,・・・20.5は、直列でそれ自体接続されているXOR機能部21.1,・・・21.5と接続22.1,・・・22.5によって接続されている。接続22.1,・・・22.5は、オンまたはオフが個々に切り換えることができる。したがって、LFSR30のビット20.1,・・・20.5とXOR機能部21.1,・・・21.5の間の種々の接続パターンは、接続22.1,・・・22.5のオンまたはオフの切り換えによって実現することができる。それぞれのそのような接続パターンは、LFSRのタップ・セットと呼ばれる。疑似ランダムシーケンスを生成するために、特定のタップ・セットが選ばれ、LFSR30のビット20.1,・・・20.5が、初期値のセットに設定される。続いて、ビット20.1,・・・20.5の値およびタップ・セットに基づいて、ビット値が、XOR機能部21.1,・・・21.5によって生成される。このビット値は、LFSR30の第1のビット20.5へ送られる一方、LFSR30の他のビット20.1,・・・20.4の値は、LFSR30の終わりに向かって1ビットだけシフトされる。LFSR30の最後のビット20.1は、疑似ランダムシーケンスのあるビットを表す。ビット20.1,・・・20.5およびタップ・セットの現在値からビット値の生成を繰り返すことによるとともに、生成されたビット値をLFSR30へ送ることによって、疑似ランダムシーケンスが生成される。
【0088】
上述の実施形態では、LFSR30によって生成された疑似ランダムシーケンスは、最大長のシーケンスである。したがって、この疑似ランダムシーケンスは、2−1ビットの長さを有しており、ただし、mは、LFSR30のビット数である。例えば、m=7の場合、以下のタップ・セットが、最大長のシーケンスを得るために可能である。
タップ・セットm−7 1: [7、6]
タップ・セットm−7 2: [7、4]
タップ・セットm−7 3: [7、6、5、4]
タップ・セットm−7 4: [7、6、5、2]
タップ・セットm−7 5: [7、6、4、2]
タップ・セットm−7 6: [7、6、4、1]
タップ・セットm−7 7: [7、5、4、3]
タップ・セットm−7 8: [7、6、5、4、3、2]
タップ・セットm−7 9: [7、6、5、4、2、1]
【0089】
これらのタップ・セットの数字は、ビット20.1,・・・20.5とXOR機能部21.1,・・・21.5との開いた接続22.1,・・・22.5を特定する。所与の例では、m=7の場合、数字7は、生成されたビット値が送られる(矢印)第1のビット20.5への接続を特定し、一方、数字1は、最後から2番目のビット20.2とXOR機能部21.1との接続を特定する。図3に示されるように、LSFR30の出力は、XOR機能部21.1に常に接続されるとともに、生成されたビット値は、第1のビット20.5に常に送られる。
【0090】
シーケンスを生成するために、初期値のセットが選ばれ、LFSR30のビット20.1,・・・20.5が、それに応じて設定される。本文献では、初期値の設定は、10進数の形態で示される。LFSR30のビット20.1,・・・20.5を設定するために、この数字は、2進数の形態で表されることになる。
【0091】
イオン移動度分光計の分解能を向上させるために、信号は、変調関数と信号の間の相関の計算前にエッジを強調するためのフィルタを用いてフィルタ処理することができる。したがって、図1に示されたイオン移動度分光計1は、フィルタを備え得る。このフィルタは、n個の要素の有限差分フィルタ、エッジ強調フィルタ、または異なるタイプのシャープ化アルゴリズムを使用したフィルタとすることができる。フィルタは、計算ユニット5に組み込まれてもよく、または検出器4と計算ユニット5の間に位置する別個のユニットであってもよい。
【0092】
図4図5および図6は、n個の要素の有限差分フィルタの例に関してフィルタの挙動を示す。図4は、m=7の長さを有する図3に示されたLFSR30によって生成される最大長のシーケンス(破線)を示す。実線は、図示の最大長のシーケンスで変調されるあるイオン種の完全な測定に見込まれるフィルタ処理済の信号を示す。実際には、イオンは、イオン・ドリフト時間に対応する遅延を伴って検出器4に到達する。図4中ここでは、フィルタ処理済の信号と最大長のシーケンスの間の比較を可能にするために、フィルタ処理済の信号は、最大長のシーケンスに対応するように時間でシフトされる。
【0093】
イオン移動度分光計1では、信号は、特定の時間幅を有するビンで測定されるので、n個の要素の有限差分フィルタは、
【0094】
【数3】
の形態のアルゴリズムを備えており、ただし、nはフィルタの幅の程度であり、Dは信号のi番目のビンの大きさであり、Fはフィルタ−値のi番目のビンである。フィルタ処理済の信号を得るために、各フィルタ−値Fは、測定された信号の対応するビンDに加えられる。そうするとき、フィルタ−値を信号に加える前に、フィルタ−値Fおよび信号Dは、重み係数が乗じられる。これらの重み係数は、フィルタの幅nに基づいており、0<=n<=nmaxの場合、
【0095】
【数4】
である。
【0096】
図5は、図4に示された変調関数と信号の計算された相関を示しており、この信号は、種々のシャープ化パラメータnでフィルタ処理される。イオンの飛行時間を示すピークは、シャープ化パラメータnが増大するにつれてよりシャープになる。しかし、同時に、ピークの両側にオーバシュート40.1、40.2が存在し、これは、シャープ化パラメータnが増大するにつれてより強くなる。したがって、フィルタリングは、同様の飛行時間を有するイオンに起因するピークがより良く分解できるという効果を有する。これは、ロイシン/イソロイシン混合物についてのイオン移動度スペクトルの例に関して図6に示されており、そこには、ロイシンおよびイソロイシンの飛行時間をそれぞれ表すピークは、信号がフィルタ処理される場合、より良く分解することができる。
【0097】
変調関数と信号の間の相関の計算前にエッジを強調するためのフィルタで信号をフィルタ処理することによってイオン移動度分光計1の分解能を向上させる代わりに、イオン移動度分光計1の分解能は、この信号からぼけ信号を計算して、信号からぼけ信号を減じることで信号とぼけ信号の間の差を計算し、続いて変調関数と信号とぼけ信号の間の差との相関を計算することによって向上することができる。これらの計算を可能にするために、図1に示されたイオン移動度分光計1の計算ユニット5は、必要な機能性を提供する。これに対する変形例では、イオン移動度分光計1は、必要な機能性を提供する特別な計算ユニットを備えることができる。この変形例では、この特別な計算ユニットは、検出器と計算ユニット5の間に配置される。さらに、イオン移動度分光計の分解能のこのような向上を可能にするために、イオン移動度分光計1の検出器4は、変調関数のビットの時間幅より10倍良い時間分解能で変調されたイオンビームの信号を測定する。一変形例では、検出器によって与えられる時間分解能は、変調関数のビットの幅の3倍から10倍またはさらにそれ以上良いものであり得る。
【0098】
図7aおよび図7bは、イオン移動度分光計1の分解能を向上させる代替の方法を示す。このために、図7aは、ある単一のイオン種の未処理信号A、ぼけ信号B、および信号Aとぼけ信号Bの間の差Cを示す。信号Aは、変調関数のビット幅に比べて10倍オーバーサンプリングされる。ぼけ信号Bは、変調関数のビットの時間幅の1.5倍である半値全幅を有するガウシアンでたたみこまれた信号Aである一方、差Cは、信号Aからぼけ信号Bの減算である。したがって、差Cは、処理された信号とみなすことができる。
【0099】
図7bは、変調関数と未処理信号Aの相関を示しており、変調関数と未処理信号Aの相関と、変調関数と差Cの相関とを比較する。わかるように、変調関数と差Cの相関は、変調関数と未処理信号Aの相関よりシャープなピークを与える。同時に、変調関数と差Cの相関は、実際の情報を伝えないピークの両側に負の値を与える。したがって、これらの負の値は、ゼロまたは何らかの他の任意の値へ設定することができる。
【0100】
図7bと同様に、図8は、変調関数と未処理信号の相関を示しており、変調関数と未処理信号の相関と、変調関数と未処理信号とぼけ信号の間の差との相関とを比較する。図7bとは対照的に、図8に示された相関を計算するために使用された信号は、同様のイオン移動度を有する2つの異なるイオン種のシグネチャを含む。この例でも、変調関数と差の相関のピークは、変調関数と未処理信号の相関のピークよりシャープである。また、変調関数と差の相関における両ピークは、両ピークの両側に負の値を有する。これらの負の値にも関わらず、2つのピークの相対強度は、図8に示された両相関において同じである。したがって、互いに近くにある分解されるべき2つのイオン・シグネチャが存在する場合、ピークの両側の負の値は、何ら負の影響を有さない。したがって、これらの負の値は、ゼロまたは何らかの他の任意の値へ設定することができる。
【0101】
イオン移動度分光計の分解能を向上させるこの方法は、分解能の向上に対する見返りとして相関中の信号対ノイズ比を悪化させるので、この方法は、信号中の分解されるべきイオン・シグネチャに比べて信号中の統計ノイズが顕著な振幅を有する場合、あまり有用ではない。それにも関わらず、ぼけ信号をよりぼかすことによって相関中のより良い信号対ノイズ比を得るためのこの方法の有用性は増大し得る。そういうわけで、信号とともにたたみこみに使用されるガウシアンは、より幅広く選ぶことができる。しかし、ガウシアンの半値全幅は、変調関数のビットの時間幅よりずっと大きくなるべきではない。というのも、さもなければ、分解されるべきイオン・シグネチャは、かき消されることになる。理想的には、ガウシアンの半値全幅は、変調関数の1ビットの時間幅の程度である。相関中のより良い信号対ノイズ比を得るための代替的やり方として、ぼけ信号は、差を計算するときに未処理信号ほど大きく重み付けされなくてもよい。例えば、ぼけ信号の積分強度は、未処理信号の積分強度の90%または80%で重み付けすることができる。しかし、同じ程度に高い統計ノイズを含む信号中に分解されるべきイオン・シグネチャが存在する場合、ぼけ信号の積分強度は、未処理信号の積分強度の80%未満で重み付けすらされてもよい。ぼけ信号を少なく重み付けする場合、イオン移動度分光計の分解能を向上させる方法の影響は、ぼけ信号の積分強度の重み0%でこの方法がこれ以上相関に影響を及ぼさなくなるまで減じられる。したがって、未処理信号より小さくぼけ信号を重み付けすることは、信号対ノイズ比に対してシャープ化の量を最適化するのにより有効である。したがって、変調関数の1ビットの時間幅の程度の半値全幅を有するガウシアンが、ぼけ信号を計算するために使用される場合、およびシャープ化が、許容できる信号対ノイズ比を測定ごとに得るためにぼけ信号を重み付けることによって調整される場合、この方法は、最も有効である。
【0102】
相関および得られたイオン移動度スペクトルにおける信号対ノイズ比を改善するために、追加のノイズ除去ルーチンが、イオン移動度分光計1の計算ユニット5によって与えられる。代替として、このノイズ除去ルーチンは、計算ユニット5の後に配置されているさらなる計算ユニットによって与えられてもよく、またはイオン移動度分光計1は、そのようなノイズ除去ルーチンを全く与えなくてもよい。イオン移動度分光計1がノイズ除去ルーチンを与える場合、このルーチンは、図4から図6に示されるようにイオン移動度分光計1がフィルタまたは図7a、図7bおよび図8に示されるように分解能を向上させる代替の方法を与えるか、およびこのフィルタもしくはこの代替の方法が用いられるかまたは用いられないかに依存せずに用いることが可能である。
【0103】
ノイズ除去ルーチンは、相関中のいわゆる相関ノイズを抑制することを可能にする。この相関ノイズは、相関を計算するときに相関中の計算される測定された信号中の統計ノイズに起因する。ルーチンの第1のステップでは、相関ノイズのノイズ・レベルは、イオンのシグネチャが位置していない相関中の領域を解析することによって求められる。イオン移動度分光計1は、飛行時間測定を実行するので、使用される領域は、イオンがまだ検出器に到達していない相関の第1の部分に位置する。したがって、領域の最大の大きさは、最速のイオンの移動度によって制限され、ドリフト領域3に対応するイオンの飛行経路の長さに依存する。この領域は、ドリフト領域3を通過するために最速のイオンによって必要とされる時間より短くなければならない。ここで、イオン移動度分光計1では、この領域は、イオン移動度分光計1が構築されるときに定められる。この場合、最大速度より小さいドリフト速度を有するイオンだけが測定されるはずである。代替として、イオン移動度分光計1の変形例では、異なるドリフト速度を有する最速のイオンを含む種々の試料にルーチンを適用するために、領域は、各測定前に定められ得る。いずれの変形例でも、領域が知られるとともに相関が計算されると、ノイズ・レベルの第1の値は、領域内の相関の平均値を計算することによって求められる。さらに、ノイズ・レベルの第2の値は、同じ領域内の相関の標準偏差を計算することによって求められる。ルーチンの第2のステップでは、ノイズ抑制相関が、この相関から計算される。このステップでは、ノイズ抑制相関を得るために、μをノイズ・レベルの第1の値とし、σをノイズ・レベルの第2の値とした関数
【0104】
【数5】
が相関の各値に適用される。したがって、このノイズ抑制相関では、相関ノイズである可能性が大変高い値は、ゼロになるように減少させられるのに対して、イオン・シグネチャである可能性が大変高い値は維持され、一方、おそらく相関ノイズである値は、相関ノイズであるそれらの確率に応じて減少させられる。
【0105】
このルーチンの第2のステップの変形例では、ノイズ抑制相関が、異なったように計算することができる。例えば、相関の各値は、ノイズ・レベルの第1の値を平均値とし、ノイズ・レベルの第2の値を標準偏差とするガウス確率分布の累積分布関数におけるその位置について調べられ得る。続いて、相関の値にこの位置における累積分布関数の値を乗じることができる。代替として、スケール係数が、分布の値を5で割って続いて0.8を加えることによって、相関の値の位置における累積分布の値に基づいて計算されてもよい。次いで、ノイズ抑制相関のそれぞれの値を得るために、スケール係数に相関の値を乗じることができる。したがって、このノイズ抑制相関では、相関ノイズである可能性がある値は、元々計算された相関のそれぞれの値の80%を超えるいくらかになるように減少させられ、一方、相関ノイズである可能性が低い値は、元々計算された相関に比べてほぼ維持され続ける。
【0106】
上記のノイズ除去ルーチンの2つのステップに加えて、計算ユニット5または追加の計算ユニットはそれぞれ、ノイズ除去ルーチンを繰り返すための繰り返し機能を与える。これらのノイズ除去ルーチンのステップおよび繰り返し機能は、図9に示されている。図示されるように、ノイズ抑制相関は、推定信号を得るために変調関数でたたみこまれ、続いて、この推定信号は、推定相関を得るために変調関数と相関させられる。この推定相関に関して、ノイズ除去ルーチンへ送られるための改善された相関が与えられる。したがって、ノイズ除去ルーチンの2つのステップは、推定相関に適用されて、改善されたノイズ抑制相関を得るようになっている。この改善されたノイズ抑制相関は、イオン移動度スペクトルとして使用することができ、またはさらなる推定信号および推定相関を得るためのステップおよびノイズ除去ルーチンのステップは、再び繰り返すことができる。
【0107】
図1に示されるようなイオン移動度分光計1では、ノイズ除去ルーチンは、合計で10回実行される。これらの繰り返しの効果は、図10に示されており、そこでは測定された信号と変調関数の相関が、ノイズ除去ルーチンの3回の繰り返し後およびノイズ除去ルーチンの10回の繰り返し後に、ノイズ抑制相関と比較されている。矢印で指し示されるように、主要なイオン・ピークに加えて、より小さいイオン移動度を有するイオンのシグネチャが、元に戻される。
【0108】
代替の実施形態では、ノイズ除去ルーチンは、異なる一定回数で実行でき、またはノイズ抑制相関は、ノイズ抑制相関の計算の基になった相関に比べてあまり大きく変化しなくなるまで繰り返すことができる。
【0109】
実測定では、変調されたイオンビームが、変調関数の完全な形状を有することは決してない。常に、完全な形状からいくらかの系統偏差が存在することになる。そのような偏差の4つのタイプが、図11a、図11b、図11cおよび図11dに示されている。図11aでは、欠乏によって引き起こされる偏差が示されている。この場合には、イオンゲートが開状態に切り換えられるときに、イオンがドリフト領域に入り始める前にしばらく時間がかかる。したがって、変調されたイオンビーム中の変調関数のビットは、飛行時間の少ない方に向かって傾斜する。別の可能性のある系統偏差として、図11bは、イオンの遅延応答によって歪められている変調されたイオンビームを示す。これは、ドリフト領域内の不均一な気体流、または他の理由によって起こり得る。それは、RCフィルタによって矩形信号が歪むのと同様に変調されたイオンビーム中の変調関数のビットを歪ませる。さらなるタイプの偏差は、イオンのテーリングである。図11cに示されるように、この場合には、一部のイオンは、ドリフト領域を通過するときに遅延させられる。したがって、変調されたイオンビーム中の変調関数のビットは、飛行時間の高い方に向かってテールを得る。第4のタイプの系統偏差は、イオンの拡散によって引き起こされる。図11dは、その場合に、変調されたイオンビーム中の変調関数のビットのエッジが、ドリフト領域を通じてのイオンの通過中にどのように拡散されるかを示す。
【0110】
4つのタイプの系統偏差から、拡散は、時間対称である唯一のものである。したがって、拡散は、計算された相関中のピークの拡大だけを引き起こす。この拡大は、相関を計算する前に信号をフィルタ処理することによって少なくとも一部考慮に入れることができる。他の3つのタイプの系統偏差も、ピークの拡大を引き起こす可能性があり、これは信号をフィルタ処理し、したがって相関のシャープ化することによって考慮に入れることができる。しかし、加えて、それらの時間の非対称性により、それらはピーク位置のシフティングを引き起こし、相関の他の位置に特徴を生じさせ得る。例えば、図12に示されるように、テーリングおよび欠乏は、特定種のイオンに起因しない相関中の誤ったピーク50.1、50.2を生じさせ得る。加えて、これらの両偏差は、相関のベースラインに誤った特徴51.1、51.2を生じさせ得る。ピークのシフティング、誤ったピーク50.1、50.2、および誤った特徴51.1、51.2を考慮に入れるために、選ばれる異なる手法がある。例えば、シフティングは、それに応じてイオン移動度分光計を較正することによって考慮に入れることができる。
【0111】
図13は、誤ったピーク50.1、50.3,・・・50.6の対処法に関する手法を示す。図13は、イオンの一部がテーリングである、単一種のイオンの測定を仮定することによって計算されるシミュレーションした相関を示す。これらのシミュレーションした相関は、最大長の疑似ランダムシーケンスである変調関数に基づいている。図3に示されるように、シーケンスは、LFSR30によって生成される。LSFR30は、7ビットの長さを有する。シミュレーションした相関同士の間の差は、相関ごとに、LFSR30の異なるタップ・セットが、最大長の疑似ランダムシーケンスを生成するのに使用されるということである。図示の通り、誤ったピーク50.1、50.3,・・・50.6の位置は、LFSR30のタップ・セットに依存する。この位置は、最大長の疑似ランダムシーケンスを生成するのに使用される初期値のセットに依存しないので、この位置は、誤ったピーク50.1、50.3,・・・50.6が、対象となる間隔の外側に位置するようにタップ・セットを選ぶのに十分である。図13では、対象となる間隔が、例えば、任意の単位の400のドリフト時間と800のドリフト時間との間にある場合、その時、誤ったピーク50.1、50.3、50.6の位置が対象となる間隔の外側に位置するので、タップ・セット[7、4]、[7、6、4、2]、または[7、6、5、4]が使用できる。
【0112】
図12に示されたもののような誤った特徴51.1、51.2の対処法に関する手法の1つは、誤った特徴51.1、51.2が最小高さを有するようにLFSR30のタップ・セットを選ぶことである。さらに用いられ得る別の手法は、4つの異なる変調関数が示されている図14に示される。4つの変調関数全ては、図3に示されるようにLFSR30で生成された最大長の疑似ランダムシーケンスである。LFSR30は、7ビットの長さを有しており、タップ・セット[7、6、4、1]が使用されてきた。図14に示された4つの変調関数ごとに、異なる初期値のセットが使用されてきた。結果として、得られた変調関数の平均は、個々の変調関数より少ないステップを与える。この効果は、イオン移動度スペクトルを得る方法に使用することができる。そうするとき、異なる初期値のセットを用いることにより生成される異なる変調関数をサイクルごとに使用することによって、測定がサイクル中に繰り返される。続いて、得られた相関は、全相関に加えられる。変調関数ごとに、図12に示されたもののような誤った特徴51.1、51.2が、計算された相関のベースラインの異なる位置に位置するので、誤った特徴51.1、51.2は、平均化して取り去られる。
【0113】
この平均化オプションをイオン移動度分光計に組み込むために、このイオン移動度分光計は、異なる変調関数を用いて測定から得られた相関から全相関を計算するための加算ユニットを備えることができる。この加算ユニットは、計算ユニット5(図1a参照)の中に組み込むことはでき、またはこの加算ユニットは、計算ユニット5の後に配置される別個のユニットとすることができる。
【0114】
これらの最適化オプションを考えるとき、図1bに示されている本発明による方法は、拡張され得る。図15は、これらのオプションを考慮に入れる方法の概略を示す。この方法の個々のステップが示されている。
【0115】
この拡張された方法では、LFSRが、変調関数を生成するために使用される。したがって、LFSRのタップ・セットが、まず選ばれる。この選択は、テーリングまたはイオンの欠乏によって引き起こされた何らかの誤ったピークが相関の対象となる間隔の外側に位置するという基準、およびテーリング、イオンの欠乏または遅延応答によって引き起こされた誤った特徴が低い相関の強度を有するという基準に基づいている。第2のステップでは、LFSRの初期値の異なるセットが選ばれる。これらのセットは、テーリング、イオンの欠乏または遅延応答によって引き起こされた誤った特徴が相関中の異なる位置にあるように選ばれる。誤ったピークおよび誤った特徴は、完全な形状から変調されたイオンビームの系統偏差に依存するので、それらは、使用されているイオン移動度分光計の特性に従ってシミュレーションすることができる。したがって、LFSRのタップ・セットおよび初期値のセットの選択は、そのようなシミュレーションに基づくことができる。
【0116】
LFSRのタップ・セットおよび初期値のセットが選ばれると、方法のいくつかのステップが、サイクル内で繰り返される。各サイクル中、変調関数がまず生成される。
【0117】
この変調関数は、予備的に選ばれたタップ・セットと、予備的に選ばれた初期値のセットのうちの1つとに基づいている。各サイクル中、初期値のセットは異なっている。変調関数が生成されると、イオンビームは、変調関数に従ってイオンゲートによって変調される。次いで、変調されたイオンビームはドリフト領域を通じてガイドされ、イオンの信号が、イオンがドリフト領域を通過した後に測定される。続いて、測定された信号は、フィルタまたは信号をシャープにする上記の代替の方法でシャープにされ、変調関数とシャープにされた信号の相関が計算される。続いて、ノイズ除去ルーチンは、相関中の相関ノイズを抑制するために相関に適用される。その後、ノイズ除去ルーチンを再び適用する推定相関を得るために、ノイズ抑制相関は、変調関数でたたみこまれ、変調関数と相関させられる。このたたみこみ、変調関数との相関、およびノイズ除去ルーチンが合計で10回繰り返された後、最終的なノイズ抑制相関が、特定のサイクルの結果として得られる。各サイクルにおいて、この最終的なノイズ抑制相関は、別個の記憶装置に記憶され、またはサイクル中に計算された相関を加算する加算ユニットへ直接送られる。各サイクル中、相関が、別個の記憶装置に記憶される場合、相関は、最後のサイクルが実行された後に加算ユニットへ送ることができる。最後に、サイクル中に得られた全ての相関は、加算ユニットによって加算される。結果として得られた全相関は、イオン移動度スペクトルに対応する。
【0118】
この拡張された方法では、変調関数を生成するステップは、サイクル中に測定が繰り返される前に実行できる。その場合には、変調関数は、サイクル中に測定を繰り返す前に記憶装置に記憶される。続いて、各サイクル中、異なる変調関数が、記憶装置から取り出される。
【0119】
上記のイオン移動度分光計のさらなる実施形態では、検出器は質量分析計である。これによってイオン移動度スペクトルおよびそのイオンの質量スペクトルを得ることが可能になる。用いられる質量分析計は、飛行時間型質量分析計、四重極質量分析計、イオン・トラップ質量分析計、または別のタイプの質量分析計とすることができる。イオン移動度分光計および質量分析計の性能を最適化するために、質量分析計は、高い繰り返し率で質量スペクトルを得ることができる。詳細には、この質量分析計は、この高い繰り返し率で永久に動作可能であり得、またはこの質量分析計は、変調関数全体を用いることによって1つのイオン移動度スペクトルを測定するために必要である少なくとも時間間隔の間にこの高い繰り返し率で動作可能であり得る。例えば、イオン移動度分光計の変調関数は、長さが約250μmであるビットを含むことができる。この場合には、質量分析計は、250μm以内または250μmの一部分以内の質量スペクトルを繰り返し得ることができる。得られたイオン移動度スペクトルの時間分解能が250μmより良い場合、後者の場合は、特に有利である。例えば、イオン移動度スペクトルが、ドリフト領域内のイオンの拡散によって引き起こされる50μmの時間分解能を有する場合、質量分析計は、繰り返し率50μm、またはその一部分で質量スペクトルを得ることができる。もちろん、これらの特定のビット長、時間分解能、および繰り返し率は、例示の目的のための例に過ぎない。それらは、実行される測定の特定の要件に適合することができる。
【0120】
要するに、従来技術により知られているものと同じ測定速度を実現しつつ、より高い信号対ノイズ比でイオン移動度を測定することを可能にする方法および装置が提供されることに留意されたい。
図1a-b】
図2
図3
図4
図5
図6
図7a-b】
図8
図9
図10
図11a
図11b
図11c
図11d
図12
図13
図14
図15