特許第6193905号(P6193905)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193905
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】散布作業機
(51)【国際特許分類】
   B05B 17/00 20060101AFI20170828BHJP
   B05B 12/08 20060101ALI20170828BHJP
   A01M 7/00 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   B05B17/00 101
   B05B12/08
   A01M7/00 D
【請求項の数】7
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-53738(P2015-53738)
(22)【出願日】2015年3月17日
(65)【公開番号】特開2016-172233(P2016-172233A)
(43)【公開日】2016年9月29日
【審査請求日】2017年1月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141174
【氏名又は名称】株式会社丸山製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100176245
【弁理士】
【氏名又は名称】安田 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 大悟
【審査官】 富永 久子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−259366(JP,A)
【文献】 特開2008−182972(JP,A)
【文献】 特開2012−196157(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B17/00−17/08
A01M1/00−99/00
B05B1/00−3/18;7/00−9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両(2)に装着されて複数の噴霧ノズル(10)から薬剤を噴霧することにより薬剤を散布する散布装置(3)を備えた散布作業機(1)であって、
前記複数の噴霧ノズル(10)における噴霧圧力を調整可能な圧力調整手段と、
前記散布装置(3)に取り付けられ得る複数の種類の噴霧ノズル(10)の中から一または複数の種類の噴霧ノズル(10)が組み合わされて配列されたノズルパターンの候補を出力する制御装置(20)と、を備え、
前記制御装置(20)は、
前記車両(2)の走行速度範囲と、前記散布装置(3)の噴霧圧力範囲と、複数の前記ノズルパターンについての噴霧圧力および総噴霧量の相関と、それぞれの前記ノズルパターンについての散布幅とを記憶する記憶部(28)と、
単位面積当たりの目標散布量を入力し、入力した前記目標散布量と、前記記憶部(28)に記憶された前記相関と前記散布幅とに基づいて、前記走行速度範囲内かつ前記噴霧圧力範囲内において前記目標散布量で薬剤を散布し得る前記ノズルパターンの候補を一または複数出力する演算部(24)と、を備えることを特徴とする、散布作業機。
【請求項2】
前記演算部(24)は、前記走行速度範囲内の数値である前記車両(2)の目標走行速度を入力し、前記目標走行速度において前記目標散布量で薬剤を散布し得る前記ノズルパターンの候補を一または複数出力することを特徴とする、請求項1に記載の散布作業機。
【請求項3】
前記演算部(24)は、前記走行速度範囲内の数値である前記車両(2)の目標走行速度と、前記噴霧圧力範囲内の数値である目標噴霧圧力とを入力し、それぞれの前記ノズルパターンについて、前記目標走行速度および前記目標噴霧圧力における単位面積当たりの推定散布量を演算し、前記推定散布量と前記目標散布量との差が許容値以下である前記ノズルパターンの候補を一または複数出力することを特徴とする、請求項1に記載の散布作業機。
【請求項4】
前記制御装置(20)は、一または複数の前記ノズルパターンの候補を表示する表示機(22)を備え、
前記演算部(24)は、それぞれの前記ノズルパターンの候補について、前記目標散布量における、前記車両(2)の走行速度と前記散布装置(3)の噴霧圧力との相関図(33)を前記表示機(22)に表示させることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の散布作業機。
【請求項5】
前記制御装置(20)は、一または複数の前記ノズルパターンの候補を表示する表示機(22)を備え、
前記演算部(24)は、それぞれの前記ノズルパターンの候補について、前記目標走行速度における、前記散布装置(3)の噴霧圧力と単位面積当たりの推定散布量との相関図(34)を前記表示機(22)に表示させることを特徴とする、請求項2または3に記載の散布作業機。
【請求項6】
前記制御装置(20)は、一または複数の前記ノズルパターンの候補を表示する表示機(22)を備え、
前記演算部(24)は、前記推定散布量と前記目標散布量との差がもっとも小さい一つの前記ノズルパターンの候補を前記表示機(22)に表示させる、または、前記推定散布量と前記目標散布量との差が小さい順に、複数の前記ノズルパターンの候補を前記表示機(22)に表示させることを特徴とする、請求項3に記載の散布作業機。
【請求項7】
前記制御装置(20)は、前記噴霧ノズル(10)の種類または特性を入力可能な入力装置(23)を備えており、前記入力装置(23)が操作されることで、前記ノズルパターンに含まれる前記噴霧ノズル(10)の種類または特性を前記記憶部(28)に記憶させることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の散布作業機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本発明は、薬液散布を行う散布作業機に関する。
【背景技術】
【0002】
このような技術として、特許文献1〜3に記載された制御装置が知られている。これらの制御装置は、薬剤タンクに貯留された薬剤をポンプにより吸引して複数のノズルから吐出させるブームスプレーヤに搭載される。たとえば、特許文献1に記載の制御装置では、10a当たりの薬剤の散布量が設定され、この散布量とトラクタの走行速度とから、演算式を用いて、ノズルの吐出圧が制御される。吐出圧を求めるための演算式は、吐出流量の2次関数で表される。2次関数の係数は、ノズルの3点の吐出圧に対する吐出流量から求められる。
【0003】
特許文献2に記載の制御装置では、所定の圧力に対するノズルに固有の散布量を入力することで、ノズル定数を設定している。また特許文献3に記載の制御装置では、ある種類のノズルを用いて、圧力を所定値にして散布を行い、所定時間内の流量を測定し、ノズル1個当たりの散布量を求める。そして、圧力に対するノズル1個当たりの散布量の測定結果から、その種類のノズルのノズル定数を算出している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−178819号公報
【特許文献2】特開2002−292322号公報
【特許文献3】特開2002−273294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した従来の技術では、ノズルを選定するには、取扱説明書に記載されたノズル選定表等から、目標とする単位面積当たりの散布量となる組み合わせを選定する必要がある。その際、吐出圧力および走行速度が一定の場合におけるノズル1個の単位面積当たりの散布量を元にして、作業機に取り付けられた複数のノズルの噴霧量の合計が目標とする単位面積当たりの散布量となるように、算定を行う。また、取扱説明書では、使用可能なノズルについて、圧力および走行速度ごとの反当散布量(単位面積当たりの散布量)が表で示されている。あるいは、使用可能なノズルについて、圧力や走行速度に対する個別噴霧量や総噴霧量が図で示されている。これらの表や図を元にして、目標とする反当散布量からノズルを選定したり、作業時の走行速度や噴霧圧力を決定したりする。
【0006】
従来の技術では、目標とする単位面積当たりの散布量を定めてから、作業機に使用するノズルを選定するために散布量の計算を行う必要がある。この計算には、噴霧量の計算方法、噴霧量と噴霧圧力との関係、作業機の能力の限界値を理解して行う必要があるため、ノズルの選定は容易ではない。たとえば、作業者が散布量を任意の値に変更しようとした場合、上記した内容を理解した人にノズルを選定してもらったり、作業者自身が煩わしい計算を行ったりする必要がある。
【0007】
本発明は、噴霧ノズルを適切かつ容易に選定することができる散布作業機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、車両(2)に装着されて複数の噴霧ノズル(10)から薬剤を噴霧することにより薬剤を散布する散布装置(3)を備えた散布作業機(1)であって、複数の噴霧ノズル(10)における噴霧圧力を調整可能な圧力調整手段と、散布装置(3)に取り付けられ得る複数の種類の噴霧ノズル(10)の中から一または複数の種類の噴霧ノズル(10)が組み合わされて配列されたノズルパターンの候補を出力する制御装置(20)と、を備え、制御装置(20)は、車両(2)の走行速度範囲と、散布装置(3)の噴霧圧力範囲と、複数のノズルパターンについての噴霧圧力および総噴霧量の相関と、それぞれのノズルパターンについての散布幅とを記憶する記憶部(28)と、単位面積当たりの目標散布量を入力し、入力した目標散布量と、記憶部(28)に記憶された相関と散布幅とに基づいて、走行速度範囲内かつ噴霧圧力範囲内において目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を一または複数出力する演算部(24)と、を備えることを特徴とする。
【0009】
この散布作業機(1)によれば、演算部(24)は、それぞれのノズルパターンについての噴霧圧力および総噴霧量の相関と、散布幅とに基づいて、目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を出力する。しかも、演算部(24)は、車両(2)の走行速度範囲内で、かつ、散布装置(3)の噴霧圧力範囲内において、目標散布量を実現できるようなノズルパターンの候補を出力する。そのようなノズルパターンを選定すれば、圧力調整手段によって噴霧ノズル(10)の噴霧圧力を調整することにより、目標散布量で薬液を散布することができる。よって、作業者は、煩わしい計算等をする必要がなく、適切かつ容易に噴霧ノズル(10)を選定することができる。
【0010】
演算部(24)は、走行速度範囲内の数値である車両(2)の目標走行速度を入力し、目標走行速度において目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を一または複数出力する。この場合、目標走行速度に応じたノズルパターンを容易に選定することができる。
【0011】
演算部(24)は、走行速度範囲内の数値である車両(2)の目標走行速度と、噴霧圧力範囲内の数値である目標噴霧圧力とを入力し、それぞれのノズルパターンについて、目標走行速度および目標噴霧圧力における単位面積当たりの推定散布量を演算し、推定散布量と目標散布量との差が許容値以下であるノズルパターンの候補を一または複数出力する。この場合、目標走行速度および目標噴霧圧力に応じて、目標散布量により近いノズルパターンを選定することができる。
【0012】
制御装置(20)は、一または複数のノズルパターンの候補を表示する表示機(22)を備え、演算部(24)は、それぞれのノズルパターンの候補について、目標散布量における、車両(2)の走行速度と散布装置(3)の噴霧圧力との相関図(33)を表示機(22)に表示させる。この場合、作業者は、走行速度と噴霧圧力との相関図(33)を見ながらノズルパターンを選定することができる。また、目標散布量において、走行速度をある値に定めたときの設定すべき散布圧力を容易に確認できる。
【0013】
制御装置(20)は、一または複数のノズルパターンの候補を表示する表示機(22)を備え、演算部(24)は、それぞれのノズルパターンの候補について、目標走行速度における、散布装置(3)の噴霧圧力と単位面積当たりの推定散布量との相関図(34)を表示機(22)に表示させる。この場合、作業者は、噴霧圧力と推定散布量との相関図(34)を参照しながらノズルパターンを選定することができる。よって、目標走行速度で車両(2)を走行させた場合における、必要な噴霧圧力を容易に把握することができる。
【0014】
制御装置(20)は、一または複数のノズルパターンの候補を表示する表示機(22)を備え、演算部(24)は、推定散布量と目標散布量との差がもっとも小さい一つのノズルパターンの候補を表示機(22)に表示させる、または、推定散布量と目標散布量との差が小さい順に、複数のノズルパターンの候補を表示機(22)に表示させる。この場合、作業者は、目標散布量により近いノズルパターンを容易に選定することができる。
【0015】
制御装置(20)は、噴霧ノズル(10)の種類または特性を入力可能な入力装置(23)を備えており、入力装置(23)が操作されることで、ノズルパターンに含まれる噴霧ノズル(10)の種類または特性を記憶部(28)に記憶させる。この場合、記憶部(28)に記憶させる噴霧ノズル(10)のタイプに制限がなくなり、汎用性が向上する。たとえば、取扱説明書に記載されていない噴霧ノズル(10)や、規定外の噴霧ノズル(10)を使用する際にも、適切なノズルパターンを選定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、一または複数種類の噴霧ノズル(10)の組み合わせであるノズルパターンを適切かつ容易に選定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る散布作業機の全体構成を示す図である。
図2図1の散布装置の配管系統図である。
図3】(a)は図1中の制御装置の構成を示すブロック図、(b)は(a)の不揮発性記憶装置内に記憶された情報を示す図である。
図4図3の制御装置によって実行されるノズルパターン決定処理を示すフロー図である。
図5】表示機に表示されるノズル特性の変更画面例である。
図6】ノズル特性を示す表である。
図7】ノズルパターンの一例である。
図8】表示機に表示される計算結果の表示画面例である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態のスピードスプレーヤ(散布作業機)1は、たとえば果樹園等の圃場に薬剤を散布するための農作業機である。スピードスプレーヤ1では、複数種類の噴霧ノズル10が組み合わせて使用される。スピードスプレーヤ1は、走行部である車輪2aを有する車両2と、車両2に装着された薬液の散布装置3とを備える。車両2の前部には、作業者が着座する空間を形成するキャビン4が設けられている。車両2は、エンジンで発生した動力によって走行可能になっている。車両2は、車両2が走行可能な速度の範囲(能力限界値)である、所定の走行速度範囲を有する。車両2の走行速度は、キャビン4内の操作部に設けられたシフトレバー(図示せず)により設定可能になっている。
【0020】
散布装置3は、薬液を貯留するための薬液タンク7と、薬液タンク7内の薬液を噴霧ノズル10に供給して噴霧させる動力噴霧機6とを有する。車両2の中央部には薬液タンク7が装着されており、車両2の後部には動力噴霧機6が装着されている。動力噴霧機6は、動力源であるエンジンと、薬液を噴霧するための噴霧用ポンプ6a(図2参照)とを有する。車両2の最後部には、動力噴霧機6を冷却するとともに、噴霧ノズル10から噴霧された薬液を所定の方向および範囲に送るための送風機8が装着されている。動力噴霧機6と送風機8との間において、複数の噴霧ノズル10が円弧状に配列されている。噴霧ノズル10は、一列の円弧状に配列されてもよいし、複数列の円弧状に配列されてもよい。
【0021】
図2は、散布装置3の配管系統図である。薬液タンク7には、給水ラインL1が接続されており、給水ラインL1に設けられた給水ポンプ11によって、薬液タンク7内に給水可能になっている。給水ポンプ11は、エンジンで発生した動力によって駆動される。給水ラインL1には、ストレーナ12が設けられている。薬液タンク7内には、撹拌装置が設けられてもよい。薬液タンク7には、噴霧ラインL2が接続されており、噴霧ラインL2に設けられた噴霧用ポンプ6aによって、調圧弁(圧力調整手段)14、分水器15およびコック17を介して、各噴霧ノズル10から薬液を噴霧可能になっている。調圧弁14には三方コック16が設けられており、噴霧用ポンプ6aから送られた薬液の一部を、戻りラインL3を介して薬液タンク7に戻せるようになっている。
【0022】
調圧弁14は、複数の噴霧ノズル10における噴霧圧力を調整可能になっている。調圧弁14は、手動で操作されるタイプであってもよいし、電動タイプであってもよい。調圧弁14が電動タイプである場合、噴霧ラインL2には噴霧圧力を検出するための圧力計等が設けられ、制御装置20の表示機22上で調圧弁14を操作して噴霧圧力を設定する構成であってもよい。散布装置3の動力噴霧機6は、噴霧ノズル10における噴霧圧力の範囲(能力限界値)である、所定の噴霧圧力範囲を有する。
【0023】
複数の噴霧ノズル10は、複数種類の散布ノズルを含んでいる。噴霧ノズル10の組み合わせ・個数・配列は、薬剤散布の目的や圃場等によって、複数のパターンが予め定められている。複数のノズルパターンの中から、実際に用いるノズルパターンが作業者によって決定されると、そのノズルパターンに応じた噴霧ノズル10が、散布装置3に取り付けられる。なお、噴霧ノズル10の種類は、従来の噴霧ノズルと同様であってもよい。
【0024】
図1および図3(a)に示されるように、スピードスプレーヤ1は、複数のノズルパターンの中から、一または複数のノズルパターンの候補を作業者に提示する制御装置20を備えている。制御装置20は、ノズルパターンの候補の抽出・決定処理を行うコンピュータ21と、コンピュータ21に接続されて画像を表示する表示機22と、作業者がコンピュータ21に情報を入力可能な入力装置23とを備えている。
【0025】
コンピュータ21は、たとえばCPU(Central Processing Unit)によって構成される主演算装置(演算部)24と、たとえばハードディスクによって構成される主記憶装置26と、コンピュータ21の情報の出入力口であるインターフェース27と、たとえばROM(Read Only Memory)によって構成される不揮発性記憶装置28とを有する。表示機22は、インターフェース27に接続されており、たとえば液晶ディスプレイによって構成される。入力装置23は、インターフェース27に接続されており、たとえばキーボード、タッチパネルまたはスイッチ等を含む。これらのコンピュータ21、表示機22および入力装置23は、本実施形態のスピードスプレーヤ1におけるノズルパターンの抽出・出力のみに使用されるのではなく、たとえば自動調圧、速度連動散布、バックカメラモニタ等の複合機能のうちの一つとして運用され得る。なお、ノズルパターンの抽出・出力のみに使用されるコンピュータ21、表示機22および入力装置23が設置されてもよい。
【0026】
図3(b)に示されるように、コンピュータ21の不揮発性記憶装置28には、ノズルパターンの候補の出力を行うためのソフトウェア29が保存されている。このソフトウェア29は、主演算装置24にノズルパターンの候補の抽出・決定処理を実行させるための処理プログラムを含んでいる。なお、コンピュータ21に、ソフトウェア29を記憶した不揮発性記憶装置28が備わる場合に限られず、ソフトウェア29がコンピュータ読取可能媒体に記憶され、その媒体がコンピュータに挿入されて、主演算装置24がソフトウェア29にアクセスしてもよい。
【0027】
不揮発性記憶装置28には、散布装置3の諸元値、すなわち、車両2の走行速度範囲、動力噴霧機6の吐出量と噴霧圧力範囲、変速段数に対する走行速度または目標走行速度、散布装置3に取り付けられる噴霧ノズル10の個数、噴霧ノズル10の組み合わせであるノズルパターン、各々の噴霧ノズル10の特性(すなわち噴霧圧力と噴霧量の相関)、噴霧ノズル10の散布幅、噴霧ノズル10の噴霧時の常用圧力、および作業者が目標とする単位面積あたりの薬剤の散布量(目標散布量)が記憶されている。
【0028】
上記したソフトウェア29は、上記した各値および走行速度を設定するためのユーザインターフェースを含む。また、ソフトウェア29は、目標走行速度、散布幅、噴霧ノズル10の特性に関するパラメータおよび噴霧時の常用圧力を変更するためのユーザインターフェースと、その変更を不揮発性記憶装置28に保存する機能とを含む。ソフトウェア29は、後述する各種の演算を行い、表示機22に対してその演算結果を表示させ、目標値を変更するためのユーザインターフェースを含む。
【0029】
続いて、制御装置20によって実行されるノズルパターンの抽出・出力処理について説明する。制御装置20のコンピュータ21は、スピードスプレーヤ1の始動とともに動作を開始し、不揮発性記憶装置28に保存されているソフトウェア29をアクセスし、処理プログラムを自動的に実行する。以下、図4を参照して、ソフトウェア29の動作について説明する。
【0030】
まず、主演算装置24は、個々の噴霧ノズル10の特性の変更が必要か否かを問い合わせる旨のメッセージを、表示機22に表示させる(ステップS01)。変更が必要と判断された場合(ステップS02;Yes)、主演算装置24は、表示機22に変更画面を表示させ、作業者によって入力装置23を用いて変更値が入力され(ステップS03)、変更が保存される(ステップS04)。これにより、変更値が設定され、不揮発性記憶装置28に変更値が記憶される。一方、変更は不要と判断された場合(ステップS02;No)、主演算装置24は、ステップS05の処理を実行する。
【0031】
図5は、表示機22に表示されるノズル特性の変更画面例である。図5に示されるように、表示機22には、ある噴霧ノズル10の特性が表示される。より詳細には、ある噴霧ノズル10につき、異なる3点の圧力における1分間の噴霧量が表示される。表示機22には、3点の圧力における各噴霧量を示す特性表と、この特性がグラフ化された特性グラフとが表示される。上記のステップS02〜S04において、これらの特性値は変更できるようになっている。ステップS04において変更が保存されると、変更後の特性表および特性グラフが表示される。この変更設定により、新たな噴霧ノズル10の特性が不揮発性記憶装置28に追加で記憶され、噴霧ノズル10を含むノズルパターンが不揮発性記憶装置28に追加で記憶される。
【0032】
このように、作業者によって主演算装置24が操作されることで、ノズルパターンに含まれる噴霧ノズル10の種類または特性が不揮発性記憶装置28に記憶される。よって、噴霧ノズル10のタイプに制限がなくなり、汎用性が向上する。たとえば、取扱説明書に記載されていない噴霧ノズル10や、規定外の噴霧ノズル10を使用する際にも、適切なノズルパターンを選定することができる。
【0033】
続いて、主演算装置24は、不揮発性記憶装置28に記憶されているすべてのノズル特性から、噴霧圧力−噴霧量特性(MPa−L/min)を計算する(ステップS05)。このステップS05では、具体的には、図6に示されるような3点の圧力値と、各圧力値に対する噴霧量とに基づいて噴霧圧力−噴霧量特性を計算する。この計算を可能とするため、散布装置3において使用可能な噴霧ノズル10が販売される際には、図6に示される3点のデータが提供される。
【0034】
より詳細には、これら3点のデータに基づき、下記式(1)および式(2)に示されるように最小二乗法を用いて、2次関数によるフィッティングを行い、係数a,b,cをそれぞれ求める。
【数1】

【数2】

ここで、
P:噴霧圧力[MPa]
Q:噴霧量[L/min]、である。
【0035】
次に、主演算装置24は、不揮発性記憶装置28に記憶されているすべてのノズルパターンに対して、散布装置3全体の噴霧圧力−噴霧量特性(MPa−L/min)を計算する(ステップS06)。主演算装置24は、ステップS06で計算したすべてのノズルパターンについての噴霧圧力および総噴霧量の相関を、不揮発性記憶装置28に記憶させる。
【0036】
このステップS06では、具体的には、ある噴霧ノズルnの圧力に対する流量特性が下記式(3)によって求められ、式(3)に基づき、散布装置3全体の噴霧量すなわち総噴霧量が下記式(4)によって求められる。
【数3】

【数4】

ここで、
,b,c:噴霧ノズルnにおける2次関数フィッティングによる各係数
(P):ノズルパターンによって決まる個別のノズル流量特性(噴霧圧力Pの関数)
:散布装置3全体の噴霧量[L/min]
N:散布装置3に取り付けられる噴霧ノズル10の個数、である。
【0037】
続いて、主演算装置24は、目標とする単位面積当たりの散布量すなわち目標散布量、目標とする走行速度すなわち目標走行速度、および、目標とする噴霧圧力すなわち目標噴霧圧力の各値を問い合わせる旨のメッセージを、表示機22に表示させる(ステップS07)。主演算装置24は、表示機22に入力画面を表示させ、作業者によって入力装置23を用いて、目標散布量、目標走行速度および目標噴霧圧力が入力される(ステップS08)。
【0038】
続いて、主演算装置24は、すべてのノズルパターンの中から、一または複数のノズルパターンを抽出する(ステップS09)。このステップS09では、ステップS08で入力された目標散布量と、ステップS06で求めた噴霧圧力および総噴霧量の相関と、不揮発性記憶装置28に記憶された散布幅とに基づいて、目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を一または複数出力する。なお、主演算装置24は、散布装置3の能力の限界を超える設定のノズルパターンを除去する。すなわち、主演算装置24は、動力噴霧機6の走行速度範囲内かつ噴霧圧力範囲内において、目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を一または複数出力する。
【0039】
ステップS09における演算について具体的に説明する。1分当たりに散布装置3が薬液を噴霧する面積S[10a/min]は、下記式(5)で表される。
【数5】

ここで、
W:散布幅[m]
V:目標走行速度[km/h]、である。
【0040】
さらに、ある走行速度に対する単位面積当たりの散布量は、下記式(6)で表される。
【数6】

ここで、
(P):散布装置3全体の噴霧量[L/min](噴霧圧力Pの関数)
L:単位面積(10a=1000m)当たりの散布量[L/10a]、である。
【0041】
このように、あるノズルパターンについて、単位面積当たりの散布量すなわち推定散布量Lは、噴霧圧力および総噴霧量の相関Q(P)と、目標走行速度Vと、散布幅Wとによって表される。よって、上記のステップS09において、主演算装置24は、それぞれのノズルパターンについて、目標走行速度Vおよび目標噴霧圧力Pにおける単位面積当たりの推定散布量Lを演算することができる。そして、主演算装置24は、推定散布量Lと目標散布量との差を演算し、演算した差が許容値以下であるノズルパターンの候補を一または複数出力する。ここで用いられる差の値は、たとえば、予め不揮発性記憶装置28に記憶させておくことにより、この演算に用いることができる。
【0042】
主演算装置24は、ノズルパターンの抽出結果を表示機22に表示させる(ステップS10)。ステップS09の処理の結果、たとえば、図7に示されるようなノズルパターンが、表示機22に表示される。この例では、直径1.1mmの噴霧ノズル10が9個、直径1.2mmの噴霧ノズル10が6個、直径1.5mmの噴霧ノズル10が14個、配列されている。したがって、この場合の散布装置3全体の噴霧量Q[L/min]は、
=9×f1.1(P)+6×f1.2(P)+14×f1.5(P)と計算される。
【0043】
主演算装置24は、ノズルパターン抽出結果から、第一候補を設定する(ステップS11)。図8の表示画面例に示されるように、主演算装置24は、推定散布量と目標散布量との差がもっとも小さい一つのノズルパターンの候補を第一候補として一番上に表示させる。さらに、主演算装置24は、推定散布量と目標散布量との差が小さい順に、複数のノズルパターンの候補を表示機に表示させる。
【0044】
また、主演算装置24は、噴霧圧力−走行速度特性を計算する(ステップS12)。ある単位面積当たりの散布量に対する車両2の走行速度は、下記式(7)で表される。
【数7】

ここで、
L:単位面積(10a=1000m)当たりの目標散布量[L/10a]である。
このように、走行速度Vは、噴霧圧力および総噴霧量の相関Q(P)と、目標散布量Lと、散布幅Wとによって表される。よって、主演算装置24は、上記の式(7)に基づいて、噴霧圧力−走行速度特性を計算することができる。
【0045】
次に、主演算装置24は、噴霧圧力−単位面積当たりの散布量特性を計算する(ステップS13)。主演算装置24は、上記の式(6)に基づいて、噴霧圧力−単位面積当たりの散布量特性を計算することができる。
【0046】
主演算装置24は、以上の計算結果を表示機22に表示させる(ステップS14)。主演算装置24は、表示機22に、4つの情報を表示させる。第一の情報は、ステップS11の処理に基づく情報であり、候補となったノズルパターンを列挙した表31である。第二の情報は、ステップS10の処理に基づく情報であり、各ノズルパターンにおける噴霧ノズル10の配列を示す配列図32図7と同様の図)である。第三の情報は、ステップS12の処理に基づく情報であり、目標散布量における、走行速度と噴霧圧力との相関図33である。第四の情報は、ステップS13の処理に基づく情報であり、目標走行速度における、噴霧圧力と推定散布量との相関図34である。
【0047】
たとえば、図8に示される例では、表31において、ノズルパターン1が第一候補として表示されている。表31中でノズルパターン1が作業者によって選ばれている間、ノズルパターン1に対応する配列図32、相関図33および相関図34(上記第二〜第四の情報)が並べて表示されている。表31において、第二候補としてはノズルパターン5が表示されており、第三候補としてはノズルパターン6が表示されている。作業者がこれらの候補を選ぶと、各候補に対応する配列図32、相関図33および相関図34(上記第二〜第四の情報)が並べて表示されるようになっている。なお、ステップS11において、表31に第一候補のみを表示するようにしてもよい。
【0048】
目標散布量における走行速度と噴霧圧力との相関図33において、入力装置23の操作により、目標散布量の値を変更できるようになっている。目標散布量の値が変更されると、主演算装置24は、上記の式(7)に基づいて、噴霧圧力−走行速度特性を計算し、相関図33を更新する。また、目標走行速度における噴霧圧力と推定散布量との相関図34において、入力装置23の操作により、目標走行速度の値を変更できるようになっている。目標走行速度の値が変更されると、主演算装置24は、上記の式(6)に基づいて、噴霧圧力−単位面積当たりの散布量特性を計算し、相関図34を更新する。
【0049】
このように、制御装置20の主演算装置24は、推定散布量と目標散布量との差が許容値以下であるノズルパターンの候補を一または複数出力するので、目標散布量により近いノズルパターンを選定することができる。
【0050】
また、主演算装置24は、目標散布量における、車両2の走行速度と散布装置3の噴霧圧力との相関図33を表示機に表示させるので、作業者は、走行速度と噴霧圧力との相関図33を見ながらノズルパターンを選定することができる。また、目標散布量(たとえば目標とする反当散布量)において、走行速度をある値に定めたときの設定すべき散布圧力を容易に確認できる。スピードスプレーヤ1が無段階変速機を備える場合には、好ましい噴霧圧力となるスピードスプレーヤ1の走行速度を知ることができる。
【0051】
また、主演算装置24は、目標走行速度における、散布装置の噴霧圧力と単位面積当たりの推定散布量との相関図34を表示機に表示させるので、作業者は、噴霧圧力と推定散布量との相関図34を参照しながらノズルパターンを選定することができる。よって、目標走行速度で車両2を走行させた場合における、必要な噴霧圧力を容易に把握することができる。
【0052】
主演算装置24は、推定散布量と目標散布量との差が小さい順に、複数のノズルパターンの候補を表示機に表示させるので、作業者は、目標散布量により近いノズルパターンを容易に選定することができる。
【0053】
ステップS14に続いて、主演算装置24は、ステップS11で並べた複数のノズルパターンの候補のうち、どのパターンを第一候補として選定するか問い合わせる旨のメッセージを、表示機22に表示させる(ステップS15)。この場合の第一候補とは、たとえば、作業者が、使用すると決めたノズルパターンである。変更が有ると判断された場合(ステップS16;Yes)、主演算装置24は、ステップS12の処理に戻る。一方、変更が無いと判断された場合(ステップS16;No)、終了するか否かが判断される(ステップS17)。終了しないと判断されると(ステップS17;No)、主演算装置24は、ステップS07の処理に戻り、終了すると判断されると(ステップS17;Yes)、ノズルパターンの抽出処理を終了する。
【0054】
以上一連の処理によって、目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの抽出・表示が行われる。ノズルパターンの選定が終了し、作業者によって、使用するノズルパターンが決定されたら、そのノズルパターンにて噴霧ノズル10の組替えを行い、薬液散布作業を行う。薬液散布時、走行速度をシフトレバーにより設定することができる。散布圧力は、調圧弁14で設定することができる。なお、コンピュータ21の入力装置23によって散布圧力を操作することもできる。目標散布量(たとえば目標とする反当散布量)を目標値にするための走行速度や噴霧圧力の制御は、シフトレバーや入力装置23を用いた手動操作で行ってもよいが、制御装置20による自動制御とすることもできる。
【0055】
スピードスプレーヤ1によれば、主演算装置24は、それぞれのノズルパターンについての噴霧圧力および総噴霧量の相関と、散布幅とに基づいて、目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を出力する。しかも、主演算装置24は、車両2の走行速度範囲内で、かつ、散布装置の噴霧圧力範囲内において、目標散布量を実現できるようなノズルパターンの候補を出力する。そのようなノズルパターンを選定すれば、調圧弁14によって噴霧ノズル10の噴霧圧力を調整することにより、目標散布量で薬液を散布することができる。よって、作業者は、煩わしい計算等をする必要がなく、適切かつ容易に噴霧ノズル10を選定することができる。
【0056】
噴霧量の計算方法、動力噴霧機6の限界値を知らなくとも、誰でも最適なノズルパターンを選択することができる。しかも、コンピュータ21に対して数点(目標散布量、目標走行速度、目標噴霧圧力等)の設定を行うのみで、目標とする単位面積当たりの散布量を実現し得る噴霧ノズル10の種類や個数の情報が得られる。
【0057】
取扱説明書にない噴霧ノズル10を用いる場合や、複数種類の噴霧ノズル10を組み合わせて用いる場合でも、従来のような煩わしい計算を行うことなく、簡単にノズルパターンを選定することができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。たとえば、ステップS05およびステップS06のように、個々の噴霧ノズル10の特性に基づいてノズルパターンの噴霧圧力と総噴霧量の相関を求める場合に限られず、予め求めておいたノズルパターンの噴霧圧力と総噴霧量の相関を不揮発性記憶装置28に記憶し、それをステップS09以降の処理に用いてもよい。
【0059】
主演算装置24は、目標散布量と、走行速度範囲内の数値である車両2の目標走行速度を入力し、目標走行速度において目標散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を一または複数出力してもよい。すなわち、目標噴霧圧力の入力を省略してもよい。この場合、目標走行速度に応じたノズルパターンを容易に選定することができる。
【0060】
主演算装置24は、目標散布量と、噴霧圧力範囲内の数値である目標噴霧圧力を入力し、目標噴霧圧力において単位面積当たりの散布量で薬剤を散布し得るノズルパターンの候補を一または複数出力してもよい。すなわち、目標走行速度の入力を省略してもよい。
【0061】
上記実施形態では、複数種類の噴霧ノズル10が組み合わせて使用されるスピードスプレーヤ1について説明したが、本発明は、一種類の噴霧ノズル10が複数使用されるスピードスプレーヤに適用することもできる。その場合、噴霧ノズルの特性表示、走行速度の範囲の表示において、本発明は効果を奏する。本発明は、複数の噴霧ノズルを備える散布装置が搭載された散布作業機であれば、スピードスプレーヤ以外の散布作業機にも適用可能であり、例えば、ブームスプレーヤ等に適用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1…スピードスプレーヤ(散布作業機)、2…車両、3…散布装置、10…噴霧ノズル、14…調圧弁(圧力調整手段)、20…制御装置、22…表示機、23…入力装置、24…主演算装置(演算部)、28…不揮発性記憶装置(記憶部)、33…相関図、34…相関図。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8