(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記モータの動力を遮断したときの前記所定速度と前記設定目標速度の差を前記計時手段で計時した時間で割って加速度を求める加速度算出手段を設け、前記判別手段は、閾値と比較する値として前記時間の代わりに前記加速度算出手段で求めた加速度として、該加速度が予め設定されている閾値内か否かを判別するようにした請求項1に記載の主軸の劣化状態の検査機能を有する工作機械。
求められた加速度と主軸を含む回転体の慣性モーメントより回転抵抗トルクを求める手段を設け、前記判別手段は、閾値と比較する値として前記加速度の代わりに、前記の求めた回転抵抗トルクとし、該回転抵抗トルクが予め設定されている閾値内か否かを判別するようにした請求項2に記載の主軸の劣化状態の検査機能を有する工作機械。
主軸の劣化状態の検査機能の実行可能条件を予め記憶手段に記憶しておき、主軸の劣化状態の検査指令がなされたとき、記憶した実行可能条件を満たすか判別して主軸の劣化状態の検査の実行の可否を判別する手段を設けた請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の主軸の劣化状態の検査機能を有する工作機械。
主軸の動作履歴を記憶する記憶手段を設け、前記実行可能条件は、前記記憶手段に記憶された動作履歴が、予め決められた動作履歴を満たしているかである請求項8に記載の主軸の劣化状態の検査機能を有する工作機械。
主軸の劣化状態の検査を実行した日時を記憶する記憶手段を設け、前記実行可能条件は、記憶手段に記憶された前回の検査日時からの経過時間が予め設定された閾値を超えているかである請求項8又は請求項9に記載の主軸の劣化状態の検査機能を有する工作機械。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
主軸の劣化状態を測定しようとすると、前述した特許文献1に記載された軸受摩擦測定方法及び軸受摩擦測定装置を適用することはできない。特許文献1に記載された軸受摩擦測定方法は、専用の軸受摩擦測定装置を必要とするもので、機械に取り付けられた軸受を検査するものではない。そのため、主軸頭を分解することなく、工作機械として使用可能の状態の主軸に対し、その劣化状態(主軸軸受の劣化状態)を検出することはできない。
【0006】
そこで、本発明の目的は、工作機械に組み込まれている主軸の劣化状態を検査できる機能を備えた工作機械を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、ワークを加工する工具を保持する、軸受で回転可能に支持された主軸と、該主軸を駆動するモータと、前記主軸若しくはモータの回転角度位置を測定するエンコーダ
と、工具交換装置を備えた工作機械において、前記エンコーダの出力より主軸若しくはモータの回転速度を求める速度算出手段と、
工具交換時において、主軸から工具が取り外され、次の工具が装着される前の間に、クランプ機構を動かし、主軸を回転可能状態にし、前記主軸若しくはモータを所定速度で回転させた後、前記モータの動力を遮断して前記主軸を慣性回転させる手段と、前記モータの動力を遮断した後、前記速度算出手段で求められる回転速度が設定目標速度に達するまでの慣性回転時間を測定する計時手段と、前記計時手段で測定された時間を閾値と比較する値とし、該値が予め設定されている閾値内か否かを判別する判別手段と、前記判別手段で閾値外と判別されたときアラームを出力するアラーム出力手段と
、を備えることを特徴とする主軸の劣化状態の検査機能を有するものとした。
【0008】
請求項2に係る発明は、請求項1に係る発明の工作機械に、さらに、前記モータの動力を遮断したときの前記所定速度と前記設定目標速度の差を前記計時手段で計時した時間で割って加速度を求める加速度算出手段を設け、前記判別手段では、閾値と比較する値として前記時間の代わりに前記加速度算出手段で求めた加速度として、該加速度が予め設定されている閾値内か否かを判別するようにした。
請求項3に係る発明は、さらに、求められた加速度と主軸を含む回転体の慣性モーメントより回転抵抗トルクを求める手段を設け、前記判別手段は、閾値と比較する値として前記加速度の代わりに求めた回転抵抗トルクとし、該回転抵抗トルクが予め設定されている閾値内か否かを判別するようにした。
【0009】
請求項4に係る発明は、ワークを加工する工具を保持する、軸受で回転可能に支持された主軸と、該主軸を駆動するモータと、前記主軸若しくはモータの回転角度位置を測定するエンコーダ
と、工具交換装置を備えた工作機械において、前記エンコーダの出力より主軸若しくはモータの回転速度を求める速度算出手段と、
工具交換時において、主軸から工具が取り外され、次の工具が装着される前の間に、クランプ機構を動かし、主軸を回転可能状態にし、前記主軸若しくはモータを所定速度で回転させた後、前記モータの動力を遮断して前記主軸を慣性回転させる手段と、前記モータの動力を遮断した後、設定所定時間を計時する計時手段と、前記計時手段で設定所定時間を計時したとき、前記速度算出手段で算出される回転速度を検出する手段と、前記モータの動力を遮断したときの前記所定速度と計時手段で前記
設定所定時間を計時したときに検出された回転速度及び前記設定所定時間に基づいて、閾値と比較する値を求める手段と、求められた閾値と比較する値が予め設定されている閾値内か否かを判別する判別手段と、前記判別手段で閾値外と判別されたときアラームを出力するアラーム出力手段と
、を備えることを特徴とする主軸の劣化状態の検査機能を有する工作機械とした。
【0010】
請求項5に係る発明は、ワークを加工する工具を保持する、軸受で回転可能に支持された主軸と、該主軸を駆動するモータと、前記主軸若しくはモータの回転角度位置を測定するエンコーダ
と、工具交換装置を備えた工作機械において、前記エンコーダの出力より主軸若しくはモータの回転速度を求める速度算出手段と、
工具交換時において、主軸から工具が取り外され、次の工具が装着される前の間に、クランプ機構を動かし、主軸を回転可能状態にし、前記主軸若しくはモータを所定速度で回転させた後、前記モータの動力を遮断して前記主軸を慣性回転させる手段と、前記主軸の慣性回転時に前記エンコーダの測定値より、閾値と比較する値を算出する比較値算出手段と、前記比較値算出手段で算出された値が予め設定されている閾値内か否かを判別する判別手段と、前記判別手段で閾値外と判別されたときアラームを出力するアラーム出力手段と
、を備えることを特徴とする主軸の劣化状態の検査機能を有する工作機械とした。
【0011】
請求項6に係る発明は、請求項4、5における工作機械において前記閾値と比較する値を、主軸減速時の加速度若しくは回転抵抗トルクとした。
請求項7に係る発明は、請求項1乃至請求項6に係る発明において、主軸近辺の複数の温度に対する閾値と比較する値を基準データとして予め求め記憶するか若しくは該データから求めた関数を記憶しておき、前記基準データ若しくは関数に基づいて補正量を求め、前記閾値と比較する値を補正するか、閾値を補正するようにした。
【0012】
請求項8に係る発明は、請求項1乃至請求項7に係る発明において、主軸の劣化状態の検査機能の実行可能条件を予め記憶手段に記憶しておき、主軸の劣化状態の検査指令がなされたとき、記憶した実行可能条件を満たすか判別して主軸の劣化状態の検査の実行の可否を判別する手段を設けた。さらに、請求項9に係る発明は、主軸の動作履歴を記憶する記憶手段を設け、前記実行可能条件を、前記記憶手段に記憶された動作履歴が、予め決められた動作履歴を満たしている否かとした。請求項10に係る発明は、主軸の劣化状態の検査機能の実行した日時を記憶する記憶手段を設け、前記実行可能条件を、記憶手段に記憶された前回の検査日時からの経過時間が予め設定された閾値を超えているか否かとした。請求項11に係る発明は、
軸受、モータ又はハウジングに主軸近辺の温度を検出する温度センサを設け、前記実行可能条件は、該温度センサからの温度が、予め設定した温度に到達したことが検出されたことであるとした。
【0013】
請求項12に係る発明は、ワークを加工する工具を保持する、軸受で回転可能に支持された主軸と、該主軸を駆動するモータと、前記主軸若しくはモータの回転角度位置を測定するエンコーダを備えた工作機械において、前記エンコーダの出力より主軸若しくはモータの回転速度を求める速度算出手段と、前記主軸若しくはモータを所定速度で回転させた後、前記モータの動力を遮断して前記主軸を慣性回転させる手段と、前記主軸の慣性回転時に所定周期毎に読み込まれた前記エンコーダの出力に基づいて減速の加速度を求める加速度算出手段と、前記所定周期毎に、前記エンコーダから読み込まれた回転角度位置と前記加速度算出手段で求められた加速度を記憶する位置・加速度記憶手段と、所定閾値以上の加速度が同一回転角度量毎に発生しているか判別する手段と、所定閾値以上の加速度が同一回転角度量毎に発生していると判別されたとき、例えば軸受の打痕等により振動発生というアラームを出力する主軸の劣化状態の検査機能を有するものとした。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、工作機械を使用可能な状態で、主軸の劣化状態を検査できるので、通常の使用状態で主軸の劣化状態を予知できる。また、工作機械や工作機械の主軸頭を分解する必要がなく、簡単に主軸の劣化状態を検査できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、工作機械の主軸の劣化状態を検査する機能を備えた工作機械であり、従来の工作機械のハードウェア構成と何ら変わりはない。本発明は、工作機械を制御する数値制御装置等の制御装置内に、主軸劣化状態の検査機能を実施するためのソフトウェアを格納しておき、該ソフトウェアによって主軸劣化状態の検査処理を行うことによって、主軸劣化状態を検出するようにしたものである。
【0017】
図1は、本発明の一実施形態の要部ブロック図である。本発明と関係する部分の要部のみを図示している。符号1は工作機械を制御する数値制御装置等の制御装置、符号2は主軸モータ制御装置、符号3は主軸モータ、符号4は前記主軸モータ3で駆動される主軸、符号5は主軸若しくは主軸モータ3に取り付けられている主軸の回転角度位置を検出するエンコーダである。該エンコーダ5で検出される回転角度位置は主軸モータ制御装置2及び制御装置1にフィードバックされている。
【0018】
制御装置1から速度指令が主軸モータ制御装置2に出力されると、該主軸モータ制御装置2は、該指令速度とエンコーダ5からフィードバックされる回転角度位置に基づいて、主軸4若しくはモータが指令された速度になるようにフィードバック制御する。この主軸4若しくはモータ3のフィードバック制御は従来と同じである。本発明は、この主軸モータ制御装置2の主軸若しくはモータのフィードバック制御とエンコーダ5から出力される主軸若しくはモータの回転角度位置信号を利用して、主軸の劣化状態を検出するようにしたものである。
【0019】
図2は、制御装置1内のメモリに格納された主軸劣化状態検査処理の第一の態様におけるソフトウェアのアルゴリズムを示すフローチャートである。主軸劣化状態検出指令が手動、若しくはプログラムから入力されると、制御装置1のプロセッサは
図2に示す処理を開始する。
まず、予め決められている所定速度V0(例えば100回/分)の速度指令を主軸モータ制御装置2に出力し(ステップa1)、エンコーダ5からフィードバックされる回転角度位置信号を所定周期毎読み取り回転速度を求め、指令した速度V0か否か判別し(ステップa2)、主軸若しくはモータの回転速度が該指令速度V0に達するまで待ち、主軸若しくはモータが該指令速度V0の状態となると、主軸モータ3への動力を遮断すると同時にタイマをスタートさせる(ステップa3、a4)。主軸モータ3の動力が遮断されても、主軸はしばらく慣性で回転し続ける(惰走する)。エンコーダ5からのフィードバック信号に基づいて主軸の回転停止を検出すると(ステップa5)、そのときのタイマの値Tを読む(ステップa6)。この読み取ったタイマの値Tは惰走時間(慣性回転時間)を意味し、この惰走時間Tが予め設定されている閾値1と閾値2(閾値1<閾値2)の範囲内か判別する(ステップa7)。閾値1と閾値2の範囲内であれば主軸は劣化していないとして、この主軸劣化状態の検査処理を終了する。
一方、閾値1と閾値2の範囲外であれば主軸は劣化しているとしてアラーム信号を出力し、制御装置1の表示器等にアラーム表示等を行い(ステップa8)、当該処理を終了する。惰走時間(慣性回転)が短く、タイマで測定された時間Tが閾値1以下となるような場合は、主軸2及びその軸受が劣化し摩擦抵抗が大きくなっていると推測できる。また、タイマで測定された時間Tが閾値2より大きいときには、軸受のグリスの油保持力が劣化していることが推測できる。
【0020】
上述した主軸劣化状態の検査処理では、主軸若しくはモータの回転速度が指令速度V0から零になるまでの時間、すなわち惰走時間Tを求めて、この惰走時間Tによって、主軸劣化状態を検出するようにしたが、主軸若しくはモータの回転速度が零になるまで待たずに、所定目標速度に達するまでの時間を求め、この時間によって、主軸劣化状態を検出するようにしてもよい。例えば、ステップa1での主軸若しくはモータへの指令回転速度V0を「100回/分」とし、ステップa5では、主軸若しくはモータの回転速度が「60回/分」に達したかを判別し、主軸若しくはモータの回転速度が100回/分から60回/分になるまでの惰走時間(慣性回転時間)Tを求めて、この時間Tで主軸劣化状態を検査するようにしてもよい。
さらには、数段に分けて、主軸若しくはモータの回転速度が60回/分、30回/分、0回/分に達したときタイマの値(惰走時間)を求め(例えば、T1、T2、T3)、求められた複数の時間T1、T2、T3によって主軸の劣化状態を詳細に推測できるようにしてもよい。
【0021】
上述した第一態様の主軸劣化状態の検査処理では、惰走時間Tによって主軸劣化状態を検出するようにしたが、主軸が惰走で回転しているとき、主軸回転速度は減速するが、その減速加速度によって、主軸劣化状態を検出するようにしてもよい。
図3は、減速加速度により主軸劣化状態を検査する第二の態様の処理のソフトウェアのアルゴリズムを示すフローチャートの一部を示すもので、
図2に示した第一の態様のステップa7、a8が
図3に示すステップb1〜b3に代わるもので、この変わる部分のみ図示している。すなわち、
図2の破線でかこった部分が
図3のフローチャートに代わるものである。この第二の態様では、
図2のステップa6まで実行した後、タイマの値で求められる惰走時間Tで、惰走開始時の速度V0から惰走終了時の速度0を引き速度変化量(V0−0=V0)を割って、減速加速度αを求める(ステップb1)。求めた加速度αが設定されている下限閾値1と上限閾値2の範囲内か判別し(ステップb2)、範囲内であれば、劣化していないとして当該処理を終了し、範囲外であれば、アラームを出力して(ステップb3)、当該処理を終了する。
【0022】
この第2の態様においても、主軸若しくはモータの回転速度が「0」になるまでの時間を求めるのではなく、決められた速度に達する時間を求めて、加速度を求めてもよい。例えば、惰走開始の速度(指令速度)がV0(ステップa1での指令速度)で、主軸モータ3への動力を遮断し惰走開始してから主軸若しくはモータの速度がV1(ステップa5で検出する速度)に達するまでの時間がT1(ステップa6で読みだされた速度)であれば、加速度α=(V0−V1)/T1として求められる。この求められた加速度で主軸劣化状態を検査する。
【0023】
また、複数の速度領域に分けて加速度を求めるようにしてもよい。惰走開始速度(指令速度)をV0、惰走開始して主軸若しくはモータの速度がV1、V2、V3に達するまでの時間T1、T2、T3を求め、各領域の加速度α1=(V0−V1)/T1 、α2=(V0−V2)/T2、α3=(V0−V3)/T3を求め、各領域の加速度に基づいて、主軸劣化状態を詳細に推測することができる。
【0024】
図4は、回転抵抗トルクにより主軸劣化状態を検査する第三の態様の処理のソフトウェアのアルゴリズムを示すフローチャートの一部を示すもので、
図2に示した第一の態様のステップa7、a8が
図4に示すステップc1〜c4に代わるもので、この変わる部分のみ図示している。すなわち、
図2の破線でかこった部分が
図4のフローチャートに代わるものである。この第三の態様では、
図2のステップa6まで実行した後、惰走開始時の主軸若しくはモータの速度V0から惰走終了時の速度0を差し引いた速度変化量(V0−0=V0)をタイマの値で求められる惰走時間Tで割って、減速加速度αを求める(ステップc1)。求めた加速度αに予め設定されている主軸を含めた主軸と共に回転する回転体の慣性モーメントIを乗じて回転抵抗トルクAを求める(ステップc2)。求めた回転抵抗トルクAが予め設定されている下限閾値1と上限閾値2の範囲内か判別し(ステップc3)、範囲内ならば、劣化していないとして当該処理を終了し、範囲外であれば、アラームを出力して(ステップc4)、当該処理を終了する。
【0025】
この第三の態様でも、加速度αを求めるまでは、
図3に示す第二の態様と同じであるから、第二の態様のように、加速度αを求める方法を、主軸の惰走時の速度が所定速度に達するまでの惰走時間によって求める方法や、複数の速度領域に分けて加速度を求める方法を採用し、求めた各加速度に慣性モーメントを乗じてそれぞれ回転抵抗トルクを求め、この回転抵抗トルクに基づいて主軸劣化状態を検査するようにしてもよいものである。
【0026】
なお、第2、第3の態様においては、主軸を慣性回転(惰走回転)させた後、決められた速度に達する時間を求めるようにしたが、逆に、主軸を慣性回転(惰走回転)させた後、所定時間経過後の速度(なお、速度がゼロとならないような所定時間とする)を求めて、この求めた速度と惰走回転開始時の速度の差を所定時間で除して加速度、さらに回転抵抗トルクを求めてもよい。
【0027】
図5は、所定周期毎に主軸の減速加速度を求めて主軸劣化状態を検査する第四の態様の処理のソフトウェアのアルゴリズムを示すフローチャートである。
制御装置1のプロセッサは、主軸劣化状態検出指令が手動若しくはプログラムから入力されると、
図5に示す処理を開始し、予め決められている所定速度V0の速度指令を主軸モータ制御装置2に出力し(ステップd1)、エンコーダ5からフィードバックされる回転角度位置信号から主軸若しくはモータの回転速度が指令した速度V0に達しているか否か判別し(ステップd2)、主軸若しくはモータの回転速度が該指令速度V0に達するまで待ち、主軸若しくはモータ速度が該指令速度V0の状態となると、主軸モータ3への動力を遮断する(ステップd3)。次に、所定周期毎、エンコーダ5から出力される主軸若しくはモータの回転角度位置を読み取り回転速度を求めメモリに記憶し(ステップd4)、かつ主軸若しくはモータの回転速度が設定速度V1以下になった判別する(ステップd5)。設定速度V1(V1=0をも含む)以下になっていなければ、ステップd4に戻り、以下、主軸若しくはモータの回転速度が設定速度V1以下になるまで、ステップd4、d5の処理所定周期毎を繰り返し実行する。
【0028】
主軸若しくはモータの回転速度が設定速度V1以下になると、ステップd6に進み、メモリに記憶された各周期毎に求めた各周期の回転速度より加速度を求める(今周期と前周期の回転速度の差を周期時間で割って求める)。次に、予め設定されている下限閾値1以下の加速度がないか検査する(ステップd7)。すべての加速度が下限閾値1より大きい場合は、上限閾値2以上の加速度がないか判別する(ステップd8)。求められているすべての加速度が下限閾値1と上限閾値2の範囲内であれば、当該主軸劣化状態検査処理を終了する。
一方、求められている加速度の中で、下限閾値1以下のものがあるとき、又は、上限閾値2以上のものがあるときは、アラームを出力し(ステップd9)、当該処理を終了する。
【0029】
なお、この第四の態様においても、ステップd7で求めた加速度αに主軸を含めた主軸と共に回転する回転体の慣性モーメントIを乗じて、回転抵抗トルクを求め、該回転抵抗トルクが設定下限閾値及び上限閾値の範囲内かを判別するようにしてもよいものである。
【0030】
図6は、
図5に示した第四の態様と同様に、所定周期毎に主軸若しくはモータの減速加速度を求めて主軸劣化状態を検査する第五の態様の処理のソフトウェアのアルゴリズムを示すフローチャートである。
この第五の態様は、求めた各周期の加速度の平均値によって主軸の劣化状態を検査するものである。この第五の態様は、
図5に示した第四の態様のステップd7〜d9の処理が
図6に示すステップe1〜e3に代わるもので、この変わる部分のみ図示している。すなわち、
図5の破線でかこった部分が
図6のフローチャートに代わるものである。
【0031】
各周期毎の加速度が求めた(
図5のステップd6)後、制御装置1のプロセッサは、各加速度の平均値α1を求める(ステップe1)。求めた加速度の平均値α1が設定されている下限閾値1と上限閾値2の範囲内か判別し(ステップe2)、範囲内であれば、劣化していないとして当該処理を終了し、範囲外であれば、アラームを出力して(ステップe3)、当該処理を終了する。
軸受は一般に温度が変化すると、グリスの抵抗が変わり回転抵抗が変化するため、慣性回転の加速度を用いて軸受の状態を検査する場合は、常温で行うことが望ましい。しかし、工場で使用中の工作機械は、機械の稼働により軸受温度が上昇している。また十分に冷えるまで機械を停止させると、工場の生産効率を下げてしまう。
そこで、機械が熱的に安定するまで、稼働した後の、初期状態の軸受抵抗をその機械の固有情報として記憶し、その値と、現在の値を比較することで、機械を長時間停止させなくても検査が可能になる。
【0032】
また、軸受やモータ、ハウジングなど主軸近辺の温度を検出する温度センサを設け、該温度センサで設定した温度に到達したことが検出されたとき、上述した各態様の主軸劣化状態検査処理を開始するようにして、温度の影響をなくして主軸劣化を検査する。
【0033】
さらに、温度の影響を考慮して、温度補正を行って主軸劣化状態検査処理を行うようにしてもよく、
図7は、この温度補正を行う主軸劣化状態検査処理の第六の態様におけるソフトウェアのアルゴリズムを示すフローチャートである。
まず、主軸の軸受温度と主軸の回転トルクの関係を事前に測定し制御装置1のメモリに登録しておく。
図8は、この軸受温度と回転抵抗トルクの関係の測定結果を表わす図である。
図8において、符号10で示す曲線は、軸受温度に対する回転抵抗トルクの関係を示す軸受初期状態での測定結果であり、基準となる回転抵抗温度曲線である。また、符号Tesは、軸受劣化状態を評価するための評価基準温度である。そこで、主軸の回転抵抗トルクを測定したとき、その測定値Aが
図8に示す点で、この測定時の温度がTe1だとすると、軸受初期状態の回転抵抗温度曲線上における測定時の温度Te1と評価基準温度Tesでの回転抵抗トルクの差を求め、測定値Aの回転抵抗トルクは、評価基準温度Tesでは、この差分だけ変化するものとして、軸受劣化状態評価用推定値A’を求め(測定時の温度Te1及び評価基準温度Tesでの軸受初期状態の回転抵抗温度曲線上の回転抵抗トルク値がそれぞれp、qとすると、回転抵抗トルクの差p−qを補正量δとして求め、軸受劣化状態評価用推定値A’=A−δ=A−(p−q)として求められる)、該軸受劣化状態評価用推定値A’が、予め設定している下限閾値、上限閾値の範囲内か否かで主軸劣化状態を判別するようにする。
【0034】
図8に示すような軸受初期状態の軸受温度に対する回転抵抗温度曲線データを制御装置1のメモリに格納し登録する。若しくは、該軸受温度に対する回転抵抗温度曲線を近似した近似関数を予め設定しておく。その後、任意の時点で、主軸劣化状態検出指令を手動若しくはプログラムから入力されると、制御装置1のプロセッサは
図7に示す処理を開始する。
主軸若しくはモータを予め決められている所定速度V0で回転させ、主軸若しくはモータが該指令速度V0の状態となった後に、主軸モータ3への動力を遮断し、該遮断した後、主軸の回転が停止するまでの時間Tを測定する際の処理は第一の態様と同じである。すなわち、
図7のステップf1〜f6までの処理は
図2のステップa1〜a6の処理と同じである。タイマの値を読み惰走時間Tを求めた後(ステップf6)、軸受やモータ、ハウジングなどに取り付けられた温度センサで検出する温度Teを読む(ステップf7)。惰走開始時の主軸若しくはモータの速度V0から惰走終了時の速度0を引き、その速度変化量(V0−0=V0)を惰走時間Tで割って、減速加速度αを求める(ステップf8)。求めた加速度αに予め設定されている主軸を含めた主軸と共に回転する回転体の慣性モーメントIを乗じて回転抵抗トルクAを求める(ステップf9)。
【0035】
予め登録されている軸受初期状態の軸受温度に対する回転抵抗温度曲線データ若しくはその近似関数を用いて、検出温度Teにおける軸受初期状態の回転抵抗トルク(
図8におけるp点)と、評価基準温度における軸受初期状態の回転抵抗トルク(
図8におけるq点)より補正量δを求め(ステップf10)、ステップf9で求めた回転抵抗トルクAをこの補正量δだけ補正して、補正された回転抵抗トルクA’(=A−δ)を求める(ステップf11)。補正された回転抵抗トルクA’が、設定されている下限閾値1と上限閾値2の範囲内か判別し(ステップf12)、範囲内であれば、劣化していないとして当該処理を終了し、範囲外であれば、アラームを出力して(ステップf13)、当該処理を終了する。
なお、この第六の態様では、求めた回転抵抗トルクAに対して温度補正を行い、補正された回転抵抗トルクA’(=A−δ)を求めて閾値と比較するようにしたが、閾値を温度補正するようにしてもよい。すなわち、下記式のように、どちらを補正しても実質的に同じである。
【0036】
閾値1<A’=A−δ<閾値 → 閾値1+δ<A<閾値+δ
この第六の態様では、回転抵抗トルクを温度補正して求め、主軸劣化状態を検査するようにしたが、第一、第二、第四、第五の態様で示した主軸劣化状態を検査するめために用いた惰走時間Tや減速加速度αに対しても、この第六の態様のように温度補正して、主軸劣化状態を検査するようにしてもよい。この場合、
図8に示した、軸受初期状態の軸受温度に対する回転抵抗温度曲線の代わりに、軸受温度に対する惰走時間を示す軸受初期状態の惰走時間曲線や、軸受温度に対する減速加速度特性を示す軸受初期状態の加速度曲線を予め求め、そのデータ、若しくは近似関数を制御装置1のメモリに登録しておき、この曲線データ又は近似関数に基づいて補正量を求め、惰走時間、加速度を温度補正するようにしてもよいものである。
【0037】
次に、軸受の打痕等によって、生じる主軸回転の微細な振動成分を検出し主軸劣化状態を検出する第七の態様について説明する。
図9は、主軸を惰走回転したとき、軸受の打痕によって生じる主軸回転速度の変化を示す図であり、主軸回転角度に対して周期的に速度が変化しており、この周期的な速度変化によって、主軸の軸受に打痕があることが推察できる。
図10は、この軸受の打痕等が原因として生じる主軸回転の微細な振動を検出し、主軸劣化状態検査処理の第七の態様のソフトウェアのアルゴリズムを示すフローチャートの一部である。この第七の態様では、
図2に示すステップa1〜a3の処理と同じ処理を行った後、
図10に示す処理を実行する。
【0038】
主軸若しくはモータを所定速度V0で駆動させた後、主軸モータの動力を遮断し(ステップa1〜a3)、主軸を惰走回転させて、該主軸若しくはモータの回転速度が設定速度V1に達するまで、所定周期毎にエンコーダ5から出力される主軸回転位置を読み取り、回転速度を求めて回転位置と速度を記憶し(ステップg1、g2)、主軸若しくはモータの回転速度が設定速度V1に達すると、メモリに記憶されている各周期に検出した回転速度より加速度を求め、該加速度を回転位置に対応して求め記憶する(ステップg3)。次に、求めた加速度の中で、設定されている下限閾値、上限閾値の閾値範囲外となる加速度が有るか判別し(ステップg4)、なければ、当該処理を終了する。
一方、下限閾値、上限閾値の閾値範囲外となる加速度があれば、その加速度の回転角度位置を求める(ステップg5)。求めた回転角度位置より下限、上限の閾値範囲外となる加速度発生位置が周期的か否か判別する(ステップg6)。すなわち、下限、上限の閾値範囲外となる加速度発生位置の位置差が所定範囲内でほぼ等しいか否か判別し、所定範囲内で主軸回転角度に対して周期的に発生していると判別されたときには、軸受の打痕等により振動発生というアラームを出力し(ステップg7)、周期的ではない場合には、通常のアラームを出力し(ステップg8)、当該処理を終了する。
【0039】
なお、上述した第七の態様では、軸受の打痕等により振動発生をプロセッサで判別するようにしたが、ステップg4〜g8の処理を行う代わりに、ステップa1〜a3及びステップg1〜g3まで実行して、得られた主軸の回転位置に対応する加速度を制御装置1の表示器の表示画面に表示して、作業員がこの表示画面により軸受の打痕により振動発生などの主軸劣化状態を検出するようにしてもよい。また、
図9に示すように、加速度ではなく、主軸回転角度に対する速度を表示画面に表示することによってでも、作業員は軸受の打痕により振動が発生していることなどを検出することはできる。
【0040】
上述した主軸劣化状態検査処理の各態様では、主軸の慣性回転時の惰走時間、加速度、回転抵抗トルクの差異によって主軸劣化状態を判別しているが、主軸の慣性回転の減速加速度は、主軸に装着されている工具によって異なる。そのため、この主軸劣化状態検査処理を実行するときには、工具を主軸から取り外した状態で実施するか、特定の工具を取り付けた状態で実施する必要がある。
主軸から工具を取り外したり、特定の工具を装着して主軸劣化状態検査処理を実行するとすれば、機械に詳しい保守担当者しかこの検査を行うとかができず、十分な検査を行うには手間がかかる。
そこで、工具交換装置の付いた工作機械においては、工具交換の途中で、工具を取り外し、新たな工具を装着するまでの間に、主軸劣化状態検査処理を実行させるようにすれば、保守時でなくともこの主軸劣化状態を検査することができる。なお、通常工具交換中は、工具のクランプ機構で主軸を押しているため、主軸は回転できない。そのため、クラン
プ機構を動かし、主軸を回転可能状態にして主軸劣化状態検査処理を実行させる必要がある。
【0041】
上述した各主軸劣化状態検査処理は、作業者が、制御装置1より主軸劣化状態検査処理を指令することによって実行させることも、又、上述したように、工具交換時に実行させることも、さらには、工作機械が実行する加工の加工プログラムの中に主軸劣化状態検査処理指令をプログラムすることによって、加工サイクル毎に毎回行うようにしてもよい。さらに、別途定めた条件が一致したときのみ、加工プログラム中にプログラムされた主軸劣化状態検査処理指令を実行するようにしてもよい。この別途定めた条件としては、前回の主軸劣化状態検査から所定時間(例えば24時間)以上経過している、又は、過去8時間機械の稼働がなく、主軸モータの温度と室温との差が3度C以上を満たしているとき等が想定される。
【0042】
さらに、主軸劣化状態検査処理を行った日時を制御装置1内に記憶しておき、主軸劣化状態検査処理の指令が指令されたとき、前回実施した日時からの経過時間と閾値を比較し、閾値以上経過しているときのみ主軸劣化状態検査処理を許可するようにしてもよい。
【0043】
また、主軸劣化状態検査を工作機械が自動的に行うのではなく、作業員が手動で行うこともできる。この方法は、手動で制御装置1を操作して、主軸を所定速度V0で回転させた後、主軸モータの動力を遮断すると共に時間の測定を開始し、主軸を慣性で回転させて回転速度が所定値V1(速度零をも含む)に達したときの時間を求めて、その時間(慣性回転時間、惰走時間)により、又は、その時間と主軸の惰走開始速度と測定終了時の主軸速度に基づいて求められる加速度、回転抵抗トルクにより、主軸劣化状態を検査する。
【0044】
また、一般的な数値制御工作機械の主軸モータには、回転位置センサや温度監視機能が搭載されているため、本発明を実施するには追加でセンサを搭載する必要はないが、より測定結果の信頼性を高めるために、温度センサなどを追加することを行ってもよい。また、測定結果は、制御装置のメモリに保存し、変化の経過を表示画面に表示することで、保守担当者がより詳細に劣化の経過を分析することも可能になる。