(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に、本発明に係る流体制御バルブ及び流体制御方法の実施形態について図面に基づいて説明する。
【0028】
A.第1実施形態
(本発明の概略について)
図1は、本発明の第1実施形態に係る流体制御バルブ1の断面図であって、閉状態を示す。第1実施形態の流体制御バルブ1は、弁閉の際に発生するダイアフラム弁体(弁体の一例)4の変形による摩耗を低減することに特徴を有するものである。
【0029】
従来、ダイアフラム弁は、弁体を弁座に対して垂直に当てたり、弁体の環状シール面や弁座の弁座面の面粗度を上げたりする等、弁体の環状シール面と弁座の弁座面とが当接する状態の改善や当接力の抑制によって、パーティクル対策を行ってきた。しかし、この方法だけでは、十分にパーティクルの数を減らすことができなかった。例えば、半導体デバイスは、毎年微細化され、半導体製造に影響するパーティクルが年々小さくなっている。例えば、流体制御バルブは、市販のパーティクルカウンタで測定できる20nmのパーティクルを極力減らすことが求められている。よって、従来のパーティクルの数を減らす対応では、問題になるパーティクルが小さくなったら、更に別の対策が必要になり、パーティクルの微細化といたちごっこになっていた。そこで、発明者は、パーティクル発生原因を排除する必要性に気付き、パーティクルの根本的な発生原因を実験やシミュレーションを重ねて発見した(後述の効果確認試験結果参照)。
【0030】
図30は、ダイアフラム弁体1000の弾性変形のイメージ図である。ダイアフラム弁体1000は、薄膜部1000aが接続する部分を細くして首部1000bを形成されている。これにより、流体制御バルブは、同じバルブサイズでも、ダイアフラム弁体1000を収容するダイアフラム室の容積を広げて薄膜部1000aの可撓領域を広げ、流体からの受圧面積を調整できる。ダイアフラム弁体1000は、弁座側端面1000cを備える弁体部1000dが、首部1000bと同軸となるように、首部1000bの直径より大きく設けられている。弁座側端面1000cは、環状シール突起1000fが首部1000bより径外側に設けられ、弁座開口部の内径(オリフィス径)を大きくして制御流量を多くする。かかるダイアフラム弁体1000を備える流体制御バルブは、首部1000bに付与された駆動力が弁体部1000dを介して環状シール突起1000fの環状シール面1000eに伝達され、環状シール面1000eを3〜50MPaの面圧で弁座にシールさせる。このようなダイアフラム弁体1000は、図中K1方向の駆動力が付与される力点より、環状シール面1000eが弁座に当接してシールする作用点K2が、径外側にずれている。そのため、弁閉動作をする度に、図中K3に示すように、環状シール面1000eに径外方向へ広がろうとする力が発生する。この場合、図中想像線Mに示すように、ダイアフラム弁体1000は、環状シール面1000eを弁座に対して横滑りさせるように変形し、環状シール面1000eが弁座に擦れて摩耗していた。この摩耗部分が、弁開閉動作中に環状シール面1000eからちぎれ、パーティクルになると、発明者らは考えた。そして、発明者らは、これらのことをシミュレーションと実験で裏付けた。そして、発明者らは、弁体の変形を抑制又は防止するように環状シール突起付近の形状を工夫した。
【0031】
(流体制御バルブの概略構成)
図1に示すように、流体制御バルブ1は、流体を制御する弁部2と、弁部2に駆動力を付与する駆動部3を備える。流体制御バルブ1は、例えば、半導体製造装置に取り付けられ、ウエハに供給する薬液の流量を制御する。この場合、流体制御バルブ1は、腐食性の高い薬液を制御することがあるので、ダイアフラム弁体4により駆動部3と弁部2との間が仕切られている。
【0032】
駆動部3は、シリンダボディ31とシリンダカバー32とによりシリンダ本体33が構成されている。ピストン35は、ピストン本体35aがシリンダ本体33内に形成されたピストン室34に摺動可能に装填され、ピストン室34を第1室34aと第2室34bに気密に区画している。ピストン本体35aには、シャフト35bが一体に設けられている。シャフト35bの下端部は、シリンダ本体33から弁部2側へ突出し、弁部2のダイアフラム弁体4に連結されている。圧縮ばね36は、ダイアフラム弁体4にシール荷重を付与するものであり、第1室34aに縮設されてピストン35を弁部2の弁座24側へ向かって常時付勢している。シリンダ本体33には、第1室34aに連通して吸排気を行う吸排気ポート33aと、第2室34bに連通して操作エアを供給する操作ポート33bが形成されている。
【0033】
かかる駆動部3は、圧縮ばね36のばね力と第2室34bの内圧とのバランスによってピストン35を軸線に沿って往復直線運動させ、ダイアフラム弁体4を所定のストローク移動させる。かかる駆動部3は、圧縮ばね36と環状シール部材を除いて、構成部品がフッ素樹脂を材質としており、腐食性の高い雰囲気でも使用できるようにされている。
【0034】
弁部2は、バルブボディ21に内蔵され、ダイアフラム弁体4の環状シール突起414が弁座24の弁座面24aに当接又は離間することにより流体制御を行う。バルブボディ21とダイアフラム弁体4は、耐腐食性を確保するために、フッ素樹脂で形成されている。さらに、ダイアフラム弁体4は、環状シール突起414のシール性を高めるために、バルブボディ21(弁座24)の硬度と同一又はバルブボディ21(弁座24)の硬度より低いフッ素樹脂とすることが好ましい。本実施形態では、バルブボディ21(弁座24)の材質をPFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)硬度D60〜64とし、ダイアフラム弁体4の材質をPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)硬度D53〜58とする。
【0035】
バルブボディ21は、直方体形状をなし、流体を入出力するための第1ポート21aと第2ポート21bが対向する側面に開設されている。バルブボディ21の上面には、開口部21eが円柱形状に開設され、開口部21eより外側に装着孔21fが環状に形成されている。弁部2は、バルブボディ21の装着孔21fにダイアフラム弁体4の外縁部43が嵌め込まれ、バルブボディ21とシリンダ本体33との間で外縁部43を挟持することにより、ダイアフラム室22と非接液室23が形成されている。ダイアフラム弁体4の弁本体41は、シャフト35bに連結され、ダイアフラム室22内で図中上下方向に移動する。非接液室23は、シリンダ本体33に形成された呼吸孔33cに連通し、薄膜部42が弁本体41の移動に従ってスムーズに変形できるようにしている。
【0036】
第1連通流路21cは、第1ポート21aとダイアフラム室22を連通させるようにバルブボディ21にL字形に形成され、ダイアフラム室22の底面中央部に開口している。ダイアフラム室22の底面は、第1連通流路21cが開口する開口部の外周に沿って弁座24が設けられている。弁座24は、ダイアフラム室22の軸線に対して直交する平坦面になるように加工された弁座面24aを備える。第2連通流路21dは、第2ポート21bをダイアフラム室22に連通させるようにL字形に形成され、弁座24より外側に開口している。
【0037】
(弁体の構成)
図2は、
図1に示すダイアフラム弁体4の断面図である。ダイアフラム弁体4は、柱状の弁本体41が、駆動部3(
図1参照)に連結され、弁座24に当接又は離間する。弁本体41の外周面には、薄膜部42が接続し、その薄膜部42の外縁部に外縁部43が肉厚に設けられている。弁本体41は、円柱部411と、肩部412と、首部413が同軸上に設けられている。尚、本実施形態では、弁体部410は、円柱部411と肩部412により、構成されている。
【0038】
円柱部411は、円柱形状をなし、弁座24に対向する弁座側端面411aを備える。首部413は、外周面413aに薄膜部42が接続しており、ダイアフラム室22(
図1参照)の容積を確保するために、直径が円柱部411の直径より小さくされている。首部413は、シャフト35bに開設された雌ねじ部35c(
図1参照)に螺合する雄ねじ部413bが上部に設けられている。肩部412は、円柱部411と首部413との間に介在し、円柱部411から首部413へ向かって縮径するように設けられ、ダイアフラム室22(
図1参照)を流れる流体が滞留したり乱流を発生させたりすることを防いでいる。また、首部413の縮径により、外縁部43の外径寸法を小さくできるため、バルブボディ21をコンパクトにできる。
【0039】
弁本体41の弁座側端面411aには、環状シール突起414が弁本体41の軸心を中心に環状に突設されている。環状シール突起414は、首部413の外周面413aが肩部412の外周面412aに接続する接続位置T(以下「T部」ともいう。)より外側に設けられている。そのため、弁本体41は、シール荷重が加えられる位置より外側の位置で弁座24にシールし、弁座開口部の面積(オリフィス径)を広げている。
【0040】
環状シール突起414は、シール荷重が加えられても倒れにくい剛性を有するように、弁座側端面411aから環状シール突起414の先端までの高さCが設定される。本実施形態では、環状シール突起414の高さCを、弁座に当接していない場合における環状シール面414a(環状シール部の一例)の径方向中心位置の直径(「環状シール部の径」の一例である。以下「幅方向中心径A」ともいう。)に対して10分の1に設定している。
【0041】
環状シール突起414は、弁座側端面411a側から先端部(弁座側)へ向かって縮径するように設けられている。すなわち、環状シール突起414の内周面414bと外周面414cには、弁座側端面411aから先端部へ向かって傾斜を大きくするテーパが設けられている。環状シール突起414は、先端部が弁本体41の軸線に対して直交するようにフラットに加工されて環状シール面414aを形成されている。これにより、環状シール突起414は、環状シール面414aに対して単位面積当たりに作用するシール荷重が高くされ、流体漏れを防止し、環状シール面414aが弁座面24aに対して滑りにくい。また、駆動部3がコンパクトになる。尚、環状シール面414aの径方向幅寸法B(以下「幅寸法B」ともいう。)は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して100分の1以上10分の1以下とすることが望ましい。
【0042】
ダイアフラム弁体4は、環状シール面414aが径方向に変位する変位量を、6.175μm以下として、環状シール面414aが弁座24に擦れて摩耗しにくくしている。この剛性を持たせるために、ダイアフラム弁体4は、円柱部411(弁座側端面411a)の直径D(以下「端面直径D」ともいう。)が太くされると共に、凸部416が環状シール突起414の内側に設けられている。
【0043】
しかも、端面直径Dは幅方向中心径Aに対して1.3倍以上に設定され、環状シール突起414から円柱部411の外周面411bまでの拡径幅寸法Eが厚くされている。これにより、弁本体41は、駆動部3がダイアフラム弁体4に荷重を加える方向に沿って環状シール突起414を弁座面24aに対して垂直に押し付けやすくなり、環状シール面414aの変位量を抑制できる。
【0044】
更に、弁本体41は、環状シール面414aの径方向中心位置における軸線方向の肉厚Fが、幅方向中心径Aに対して0.7倍以上に設定されている。これにより、弁本体41は、シール荷重を加えられて環状シール突起414を弁座24にシールさせる場合に、環状シール面414aからその上方にかけて発生する変形を抑制する剛性を有する。また、弁本体41は、駆動部3の荷重を弁体部410に広く分散させることができる。尚、弁本体41は、環状シール面414aの変位量を6.175μm以下にできるなら、肉厚Fを幅方向中心径Aの0.7倍以下に設定しても良い。この場合には、ダイアフラム室22の容積を広げて流体の滞留を防いだり、バルブサイズを小さくしたりすることができる。
【0045】
凸部416は、弁座側端面411aの環状シール突起414より内側に、首部413と同軸となるように形成され、弁座側端面411aを弁座側から補強している。弁本体41は、凸部416が弁本体41(円柱部411)に接続する基端部の直径H(以下「基端部直径H」ともいう。)が、駆動部から荷重を受ける受圧面と弁座側端面との間において最も細い部分の直径J(以下、「細部直径J」という。)以上となるように、凸部416を設けられている。すなわち、凸部416は、基端部の外周位置U(以下「U部」ともいう。)が、細部直径Jの真下もしくは細部直径Jより径方向の外側に位置するように設けられている。これにより、弁本体41は、シール荷重を加えられる部分が凸部416により肉厚にされて剛性を高められる。また、凸部416は、弁本体41に接続する基端部の高さIが、環状シール突起414の高さ(弁座側端面411aから環状シール突起414の環状シール面414aまでの高さ)Cに対して0.7倍以上にされている。これにより、弁本体41は、中心部の肉厚が厚くされ、剛性が高くされる。
【0046】
弁本体41は、環状シール突起414と凸部416の間に環状凹溝415が形成され、凸部416に発生した弾性変形が環状シール突起414へ伝達されにくくしている。
【0047】
(流体制御バルブによる流体制御方法)
次に、上記構成を有する流体制御バルブ1を用いた流体制御方法を説明する。例えば、流体制御バルブ1は、第1ポート21aが薬液供給源に接続され、第2ポート21bが半導体製造装置の反応室に接続される。
【0048】
(流体制御バルブの概略動作)
流体制御バルブ1は、ウエハに薬液を供給しない待機状態のときには、操作ポート33bに操作流体が供給されない。この場合、圧縮ばね36の付勢力がピストン35を介してダイアフラム弁体4に作用し、ダイアフラム弁体4の環状シール突起414が弁座24の弁座面24aに密着してシールされる。このとき、弁部2は、第1ポート21aと第2ポート21bの間を遮断し、第2ポート21bから反応室へ薬液を供給しない。
【0049】
ウエハに薬液を供給する場合には、流体制御バルブ1は、操作ポート33bに操作流体が供給される。第2室34bの内圧が圧縮ばね36の付勢力より大きくなると、ピストン35が圧縮ばね36に抗して反弁座側へ移動する。ダイアフラム弁体4は、ピストン35と一体的に上昇し、環状シール突起414を弁座面24aから離間させる。これにより、流体制御バルブ1は、弁本体41のストロークに応じて薬液を第1ポート21aから第2ポート21bへ流し、反応室へ供給する。
【0050】
ウエハへの薬液供給を停止する場合には、流体制御バルブ1は、操作ポート33bから操作流体を排気する。すると、ピストン35が圧縮ばね36に付勢されて弁座方向に移動し、ダイアフラム弁体4の首部413を弁座方向に押圧する。ダイアフラム弁体4は、ピストン35と一体的に下降し、環状シール突起414の環状シール面414aを弁座面24aに当接させた後、シール荷重を環状シール突起414に加えて環状シール面414aを弁座面24aに押し付けて圧接させる。これにより、流体制御バルブ1は、待機状態となる。
【0051】
(弁閉の際に発生する弁体の変形による摩耗とその低減方法)
流体制御バルブ1では、ダイアフラム弁体4が、細部直径Jが環状シール面414aの幅方向中心径Aより小さい。そのため、ダイアフラム弁体4は、環状シール面414aを弁座面24aに押し付けてシールする作用点が、駆動部3の駆動力を弁座側端面411aに伝える部分の力点より径外側にずれている。ダイアフラム弁体4は、弁閉動作時に、環状シール突起414の環状シール面414aを弁座面24aに当接させた後、更に、駆動部3によりシール荷重を環状シール突起414に付与されて環状シール面414aを弁座面24aに押し付ける。この場合、ダイアフラム弁体4は、弁座24に支持されていない弁本体41の中心部が弁座側へ弾性変形しようとする。この弾性変形量が大きくなればなるほど、ダイアフラム弁体4は、環状シール面414aを径外側へ向かって大きく変位させるように弾性変形する。この環状シール突起414の弾性変形が大きいと、環状シール面414aが弁座面24aに擦られる量が増え、摩耗しやすくなる。この環状シール面414aの摩耗が、パーティクルとなる。
【0052】
しかし、本実施形態では、上記弁閉の際に発生する環状シール面414aの摩耗を低減するために、環状シール面414aが径外方向に変位する変位量を抑制できる形状をダイアフラム弁体4自身が有するため、パーティクルの発生自体が抑制又は防止される。よって、半導体デバイスが微細化するのに伴って半導体製造に影響するパーティクルが小さくなっても、それに対応できるようにパーティクルの発生を抑制又は防止できる。
【0053】
(弁閉の際に発生する環状シール面の摩耗を低減する方法の具体的な説明)
流体制御バルブ1は、環状シール面414aを弁座面24aに当接させてから、環状シール面414aを弁座面24aに押し付けて所定のシール荷重でシールさせるまでの押し付け動作中に、環状シール面414aが弁座24に対して径外方向にずれる変位量が抑制される。具体的には、その変位量は、6.175μm以下(幅方向中心径Aの12.4×10
-4倍以下、又は、幅寸法Bに対して6.18×10
-2倍以下)に抑制される。このように、環状シール面414aの変位量が抑制されると、環状シール面414aが弁座面24aに擦れて摩耗しにくくなるので、半導体製造に影響するパーティクルの発生を低減できる。しかも、弁本体41の変形による摩耗を抑えることで、弁開閉動作を繰り返してもシール性が低下しない。これにより、流体制御バルブ1の耐久性が向上する。また、流体制御バルブ1は、必要シール力を削減し、駆動部3をコンパクトにできる。これらを実現するのに必要な形状をダイアフラム弁体4が備えている。
【0054】
ダイアフラム弁体4は、端面直径Dが幅方向中心径Aに対して1.3倍以上であるため、弁座側端面411a付近の剛性を高くされている。そのため、ダイアフラム弁体4は、押し付け動作中に、弁座側端面411aの変形が抑制され、環状シール突起414が弁座側端面411aに引っ張られにくくなる。これにより、ダイアフラム弁体4は、押し付け動作中に、環状シール突起414が環状シール面414aを弁座面24aに対してずらすように変形しにくくなり、環状シール面414aの摩耗が低減される。よって、流体制御バルブ1は、弁閉の際に発生するダイアフラム弁体4(弁本体41)の変形による環状シール面414aの摩耗を低減し、パーティクルの発生を抑制又は防止できる。
【0055】
また、ダイアフラム弁体4は、弁本体41の中で最も細い部分の径、すなわち細部直径Jが、幅方向中心径Aより小さいので、弁座側端面411aが環状シール突起414より内側を弁座24側に押される。しかし、流体制御バルブ1は、環状シール面414aの径方向への変位量が抑制されるので、環状シール面414aの摩耗を低減して、パーティクルの発生を低減できる。
【0056】
また、ダイアフラム弁体4は、環状シール面414aの径方向中心位置における軸線方向の肉厚Fが、幅方向中心径Aに対して0.7倍以上であるので、駆動部3から荷重を受けて生じる変形が弁座側端面411aから離れた位置で分散し始める。そのため、弁座側端面411a付近では、垂直方向への変形が生じやすい。よって、本実施形態の流体制御バルブ1によれば、環状シール面414aを弁座面24aに垂直に押し付けやすく、環状シール面414aが径方向に変位する変位量を抑制できる。
【0057】
また、ダイアフラム弁体4は、環状シール突起414より内側に弁座側端面411aから弁座24側へ突出する凸部416を有するので、駆動部3から荷重を受ける部分の剛性が高く、弁座側端面411aが環状シール突起414の内側の部分を弁座24側へ突出させるように変形しにくい。よって、流体制御バルブ1は、環状シール突起414が弁座側端面411aの変形につられて撓みにくく、環状シール面414aの変位量を抑制できる。
【0058】
特に、凸部416は、基端部直径Hが細部直径J以上であるため、駆動部3から受ける荷重全体を支え、弁本体41を径外方向に変形させにくい。よって、流体制御バルブ1は、弁座側端面411aの変形を抑制し、環状シール面414aの変位量を低減できる。
【0059】
更に、凸部416は、基端部から先端面416aまでの高さIが、弁座側端面411aから環状シール面414aまでの高さCに対して0.7倍以上であるので、環状凹溝415が深く形成される。これにより、凸部416から環状シール突起414へ変形が伝達しにくい。そのため、押し付け動作中に環状シール面414aが弁座面24aに対してずれにくく、摩耗しにくい。よって、流体制御バルブ1は、弁閉の際に発生するダイアフラム弁体4の変形による摩耗を低減できる。
【0060】
以上の通り、流体制御バルブ1及び流体制御方法は、弁閉の際に発生するダイアフラム弁体4の変形による摩耗を低減することができる。流体制御バルブ1は、弁閉の際に発生するダイアフラム弁体4の変形による僅かな摩耗を低減するので、微細なパーティクルの発生を抑制又は防止することができる。
【0061】
(効果確認試験)
発明者らは、環状シール面の変位量に対して、(a)端面直径Dが与える効果、(b)肉厚Fが与える効果、(c)凸部が与える効果、(d)環状凹溝が与える効果、(e)基端部直径Hが与える効果、(f)凸部高さIが与える効果、(g)端面直径Dと肉厚Fの組み合わせが与える効果、(h)凸部と端面直径Dとの組み合わせが与える効果、(i)凸部と肉厚Fと高さGの組み合わせが与える効果を調べる試験を行った。
【0062】
効果確認試験には、
図3に示すように形状が異なる比較例1〜3と実施例1〜13を用いた。
図3は、効果確認試験に使用した比較例1〜3と実施例1〜13の設定条件を示す表である。
図4〜
図6は、実施例10の弁体104と、実施例1の弁体204と、実施例2の弁体304を示す断面図である。尚、実施例4は、上記ダイアフラム弁体4(
図2参照)に相当する。以下の説明及び引用する図面において、比較例1〜3と実施例1〜3,5〜13の構成のうち、実施例4のダイアフラム弁体4と共通する構成については、
図2と同様の符号を使用し、説明を適宜省略する。また、以下の説明では、「ダイアフラム弁体4」を「弁体4」ともいう。
【0063】
効果確認試験では、Dassault Systemes Solid Works Corp.製の解析ソフトウエアを使用した。試験では、比較例1〜3と実施例1〜13について、環状シール面414aを弁座24に当接させ始めてから、50Nのシール荷重で環状シール面414aを弁座面24aに押し付けるまでの押し付け動作中に、物性値弾性係数500MPa、密度2200Kg/m
3に設定した弁本体841,1441,1541,241,341,441,41,541,641,1043,1141,741,141,1242,1342,943が発生する変位量を解析した。この解析結果を
図7〜
図22に示す。
図23は、比較例1〜3及び実施例1〜13における環状シール面414aの変位量と、実施例10の環状シール面414aの変位量を100%とした場合における比較例1〜3及び実施例1〜13の環状シール面414aの変位量の割合と、幅方向中心径Aに対する環状シール面414aの変位量の割合と、幅寸法Bに対する環状シール面414aの変位量の割合とを示す表である。
【0064】
<(a)端面直径Dが環状シール面の変位量に与える効果について>
図3に示すように、端面直径Dだけが異なる比較例1,2及び実施例7,10を比較する。
図3及び
図4に示すように、実施例10は、環状シール面414aの幅方向中心径Aが5.0mm、環状シール面414aの幅寸法Bが0.1mm、環状シール突起414の高さCが0.5mmに設定された。また、実施例10は、端面直径Dが、幅方向中心径Aに対して1.30倍となる6.5mmに設定された。実施例10は、環状シール突起414の外周面414cが弁座側端面411aに接続する接続位置S(以下「S部」ともいう。)から円柱部1411の外周面411bまでの拡径幅寸法Eが0.25mmに設定された。実施例10は、環状シール面414aの径方向中心位置における軸線方向の肉厚Fが3.7mmに設定された。実施例10は、環状シール面414aから円柱部1411の上端位置Vまでの高さGが2.65mmに設定された。更に、実施例10は、細部直径Jが4mmに設定された。尚、比較例1は、凸部も環状凹溝も備えない。
【0065】
これに対して、
図3に示すように、比較例1,2及び実施例7は、端面直径Dと拡径幅寸法Eを除き、実施例10と同様に構成されている。比較例1の端面直径Dは、6.0mmであり、幅方向中心径Aに対して1.2倍である。比較例1の拡径幅寸法Eは0mmである。比較例2の端面直径Dは、6.25mmであり、幅方向中心径Aに対して1.25倍である。比較例2の拡径幅寸法Eは0.125mmである。実施例7の端面直径Dは、7.5mmであり、幅方向中心径Aに対して1.5倍である。実施例7の拡径幅寸法Eは0.75mmである。
【0066】
図7に、比較例1の変位量解析結果を示す。図中X86,X88に示すように、比較例1の弁本体841は、円柱部843の変位量が中心部から径外側へ向かって大きい。円柱部843は、変位量の変化率が外周面411bに近いほど大きい。そして、円柱部843は、環状シール突起414の図中上側部分の変位量が、環状シール突起414に近づくほど大きくなっている。よって、比較例1は、図中Y11に示すように、押し付け動作中に円柱部843が駆動部3の荷重により押し潰されて弁座側端面843a側を径外方向に膨らませるように変形することが分かる。また、比較例1は、図中X85,X86に示すように、弁座側端面843aの中心部の変位量と外縁部の変位量との差が大きい。よって、比較例1の弁座側端面843aは、図中Y12に示すように、中心部を弁座側へ凸状に突き出し、外縁部を反弁座側へせり上げるように、湾曲して変形し、環状シール突起414を径外方向に押し出すようにして弁座面24aに押し付けることが分かる。
【0067】
そして、
図7のX81〜X85に示すように、比較例1は、環状シール突起414のQ部とR部とS部の変位量がP部の変位量より大きい。よって、比較例1は、押し付け動作中に、環状シール突起414が先端部を径外方向に広げるように撓んで変形することがわかる。
図23に示すように、比較例1は、環状シール面414aの変位量が9.428μmである。その変位量は、幅方向中心径Aに対して18.90×10
-4倍、又は、環状シール面414aの幅寸法Bに対して9.43×10
-2倍である。
【0068】
図8に、比較例2の変位量解析結果を示す。比較例2の弁本体1441は、図中X146,X148に示すように、円柱部1442の変位量が中心部から径外側へ向かって大きい。その変位量の変化率は比較例1より小さい。これは、比較例2は、比較例1より拡径幅寸法Eが大きく、剛性が高いため、中心部の変形が径外方向に伝わりにくいためと考えられる。しかし、比較例2は、図中X146,X145に示すように、弁座側端面1442aの中心部と外縁部との間の変位量の差が比較例1と同様に大きい。よって、比較例2は、弁座側端面1442aが比較例1と同様に大きく変形することが分かる。また、図中X141〜X144に示すように、比較例2は、Q部、R部、S部の変位量がP部より大きく、比較例1と同様、環状シール突起414が先端部を径外方向に大きく広げるように撓んで変形することがわかる。
図23に示すように、比較例2は、環状シール面414aの変位量が7.233μmである。その変位量は、幅方向中心径Aに対して14.47×10
-4倍、環状シール面414aの幅寸法Bに対して7.23×10
-2倍である。
【0069】
図19に、実施例10の変位量解析結果を示す。実施例10の弁本体141は、図中X17,X18に示すように、円柱部1411の中心部から径外側へ向かって変位量が大きくなる。その変位量の変化率は比較例2と同様に抑制されている。そして、実施例10は、図中X15〜X18に示すように、弁座側端面1411aの中心部と外縁部との変位量の差が比較例2より小さい。よって、実施例10は、比較例2と比べ、弁座側端面1411aの変形が抑制され、環状シール突起414を弁座面24aに押し付けやすいことがわかる。
【0070】
また、
図19のX11〜X14に示すように、実施例10は、比較例1,2と比べて、P部、Q部、S部の変位量が小さい。よって、実施例10は、比較例1,2と比べて、環状シール突起414が径外方向へ撓みにくく、環状シール面414aの内周側の変位を抑制できることがわかる。
図23に示すように、実施例10は、環状シール面414aの変位量が6.175μmである。その変位量は、幅方向中心径Aに対して12.40×10
-4倍、又は、環状シール面414aの幅寸法Bに対して6.18×10
-2倍である。
【0071】
図16に、実施例7の変位量解析結果を示す。実施例7の弁本体1043は、図中X106,X108に示すように、円柱部411の中心部から径外側へ向かって変化量が大きくなっている。その変化率は実施例10より小さい。しかも、円柱部411では、軸線を中心に変位量がほぼ同心円状に変化している。よって、実施例7は、押し付け動作中に円柱部411が垂直方向に変形し、環状シール突起414を弁座面24aに垂直に押し付けやすいことがわかる。また、実施例7は、図中X101〜X104に示すように、P部、Q部、R部、S部の変位量が実施例10より小さい。よって、実施例7は、実施例10より、環状シール突起414が先端部を径外方向に広げるように撓みにくく、Q部とR部の変位量が低減することがわかる。
図23に示すように、実施例7は、環状シール面414aの変位量が4.887μmである。その変位量は、幅方向中心径Aに対して9.77×10
-4倍、又は、環状シール面414aの幅寸法Bに対して4.89×10
-2倍である。
【0072】
図25は、幅方向中心径Aに対する端面直径Dの割合(D/A)と、環状シール面414aの変位量との関係を示すグラフである。D/Aが1.2である比較例1は、押し付け動作中に生じる環状シール面414aの変位量が9.428μmである。D/Aが1.25である比較例2は、押し付け動作中に生じる環状シール面414aの変位量が7.233μmである。D/Aが1.30である実施例10は、押し付け動作中に生じる環状シール面414aの変位量が6.175μmである。D/Aが1.5である実施例7は、押し付け動作中に生じる環状シール面414aの変位量が4.887μmである。これらより、環状シール面414aの変位量の減少率は、端面直径Dが幅方向中心径Aに対して1.3倍以上になると、急に緩やかになる。これは、端面直径Dが1.3倍以上になり、拡径幅寸法Eが大きくなると、円柱部の中心部に生じた径外方向の変形を支えるのに必要な厚さの壁が環状シール突起414より外側に形成され、弁本体の剛性が高くなるためと考えられる。よって、端面直径Dは、幅方向中心径Aに対して1.3倍以上にすることが好ましい。
【0073】
ここで、発明者らは、実施例10に基づいて
図4に示す弁体104を作製し、その弁体104についてパーティクル試験を行った。このパーティクル試験は、前処理として、純水が流れるラインに、評価バルブ(弁体104を装着したバルブ)を設置し、弁全開状態で3時間続けて純水1,000mL/minを流しながら評価バルブのフラッシングを行った。その後、純水が流れるラインに、評価バルブを設置し、評価バルブの下流側にパーティクルカウンタを設置し、評価バルブのシール荷重を50Nに設定し評価バルブを600分間かけて15,000回弁開閉動作させながら純水1,000mL/minを流し、評価バルブを通過した純水のうち75mL/minをパーティクルカウンタに通水させた。パーティクルカウンタで、20nm以上のパーティクルの個数の積算値を1min毎に測定し、その積算値より15,000回弁開閉動作の間に1mL当たりに含まれるパーティクル値を測定した。弁体104を装着した評価バルブのパーティクル試験結果を
図24に示す。
【0074】
図24に示すように、弁体104がパーティクル試験中に測定されたパーティクルは、1mLあたり17.78個であった。
【0075】
これに対して、発明者らは、環状シール面414aの変位量が6.175μm以上9μm以下の未対策のサンプルについても、パーティクル試験を実施した。試験方法は、上記と同様であるので説明を割愛する。その結果、サンプルがパーティクル試験中に測定されたパーティクルは、797.8個であった。これらのパーティクル試験より、環状シール面414aの変位量が6.175μmを超えると、パーティクル発生量が急激に増加することがわかった。よって、弁体は、環状シール面414aの変位量を6.175μm以下にすることにより、パーティクルの発生量を効果的に低減できる。
【0076】
発明者らは、パーティクル試験終了後の弁体104について環状シール面414aの顕微鏡写真を撮影した。顕微鏡写真の倍率を500倍に設定した場合、弁体104は、環状シール面414aのQ部にバリが確認され、環状シール面414aのR部にバリが確認されなかった。環状シール面414aのR部にバリが発生しないのは、環状シール面414aが径外方向へ移動する際に、R部に発生したバリが環状シール面414aと弁座面24aとの間に巻き込まれてなめされるためと考えられる。
【0077】
更に、発明者らは、顕微鏡写真の倍率を500倍から2000倍に上げ、Q部付近の状態を確認した。弁体104は、
図26及び
図27のZ1に示すような細かい皺や、図中Z2に示すように、細かい擦り傷などが発生していることがわかる。また、弁体104は、図中Z3に示すように、バリが環状シール面414aのQ部から内周面414b側へ引き出されて捲り上げられるようにして発生していることが分かる。これらより、弁体104は、弁開閉動作を開始すると、環状シール面414aがQ部を弁座に擦りつけて小さな擦り傷を作り、それらの擦り傷が弁開閉動作を重ねる間に捲れあがってバリとなり、それらのバリが環状シール面414aから離脱してパーティクルになると考えられる。よって、環状シール突起414が環状シール面414aを径方向に変位させるように変形することを抑制すれば、Q部の摩耗が低減し、パーティクルカウンタで測定できるパーティクルはもちろん、パーティクルカウンタで測定できない微細なパーティクルの発生も低減できると考えられる。
【0078】
<(b)肉厚Fが環状シール面の変位量に与える効果について>
図3に示すように、肉厚Fだけが相違する比較例3、実施例2、実施例7を比較する。比較例3は、環状シール突起414の中心位置における軸線方向の肉厚Fが、環状シール面414aの幅方向中心径A(5mm)に対して0.6倍である3mmに設定されている。実施例7は、環状シール突起414の中心位置における軸線方向の肉厚Fが、環状シール面414aの幅方向中心径A(5mm)に対して0.74倍である3.7mmに設定されている。実施例2は、環状シール突起414の中心位置における軸線方向の肉厚Fが、環状シール面414aの幅方向中心径A(5mm)に対して0.9倍である4.5mmに設定されている。尚、比較例3と実施例2と実施例7の弁本体1541,341,1043は、高さGが同じであり、肩部1542,3411,412により肉厚Fの大きさを調整されている。
【0079】
図9に比較例3の変位量解析結果を示す。図中X156,X158に示すように、比較例3の弁本体1541は、弁体部1540の変位量が中心部から径外側へ向かって大きい。図中X158に示すように、弁体部1540は、環状シール突起414の図中上側部分の変位量が、環状シール突起414に近づくほど大きい。更に、弁本体1541は、弁座側端面411aの中心部と外縁部との変位量の差が大きい。よって、比較例3は、押し付け動作中に円柱部411が弁座側端面411a側を径外方向に膨らませるように変形し、環状シール突起414を弁座面24aに垂直に押し付けにくいことが分かる。そして、図中X151〜X154に示すように、環状シール突起414は、内周面414b側より外周面414c側の方が変位量が大きく、先端部を径外側に広げるように撓むことが分かる。
図23に示すように、比較例3は、環状シール面414aの変位量が6.449μmである。その変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して12.90×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して6.45×10
-2倍である。
【0080】
図16のX108に示すように、実施例7の弁本体1043は、環状シール突起414の図中上側部分の変位量が軸線を中心に同心円状に変化している。よって、弁本体1043は、弁体部1042が垂直方向に変形しやすく、環状シール突起414を弁座面24aに垂直に押し付けやすい。また、図中X101〜X104に示すように、実施例7は、P部、Q部、R部、S部の変位量が比較例3より小さい。よって、実施例7は、比較例3より撓みにくい。
図23に示すように、実施例7は、環状シール面414aの変位量が4.887μmである。その変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して9.77×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して4.89×10
-2倍である。
【0081】
図11に実施例2の変位量解析結果を示す。図中X36,X38に示すように、実施例2の弁本体341は、環状シール突起414の図中上側部分の変形量が、実施例7より更に軸線を中心に同心円状に変化している。また、図中X31,X32に示すように、実施例2は、実施例7と比べ、環状シール突起414のP部とQ部の変形量が小さい。よって、実施例2は、実施例7と比べ、円柱部411及び環状シール突起414が垂直方向に変形しやすい。
図23に示すように、実施例2は、環状シール面414aの変位量が4.037μmである。その変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して8.07×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して4.04×10
-2倍である。
【0082】
よって、弁体は、肉厚Fだけ大きくしても、環状シール面414aの変位量を抑制できる。これは、弁体は、肉厚Fが厚いと、駆動部3から受ける荷重を弁座側端面から離れた位置で分散させ、弁座方向(垂直方向)に作用させやすくなるためと考えられる。
【0083】
<(c)凸部が環状シール面の変位量に対して与える効果について>
図3に示すように、凸部416の有無だけが異なる実施例1の弁体204と実施例10の弁体104とを比較する。実施例1は、実施例10に対して凸部416を設けた点だけが相違する。実施例10については上述したので説明を割愛する。実施例1の凸部416は、基端部直径Hが4mmである。また、凸部416は、先端面416aから弁座側端面1411aまでの高さIが、環状シール突起414の高さCと同じ0.5mmである。
【0084】
図10のX21〜X24に示す実施例1のP部〜S部付近の変位量は、
図19のX11〜X14に示す実施例10のP部〜S部付近の変位量より小さく、実施例1は実施例10より環状シール突起414の変形が小さいことが分かる。そして、
図23に示すように、、実施例10は、環状シール面414aの変位量が6.175μmである。その変位量は、環状シール面414aの幅寸法Bに対して6.18×10
-2倍、又は、幅方向中心径Aに対して12.40×10
-4倍である。一方、実施例1は、環状シール面414aの変位量が5.064μmである。その変位量は、環状シール面414aの幅寸法Bに対して5.06×10
-2倍、又は、幅方向中心径Aに対して10.10×10
-4倍である。よって、実施例1は、凸部416を備えることにより、環状シール面414aの変位量が実施例10の環状シール面414aの変位量に対して82%に抑制される。
【0085】
また、実施例1は、環状シール突起414のP部上方の変位量(
図10のX26)が実施例10のP部上方の変位量(
図19のX16参照)より小さい。また、実施例1は、
図10のX26,X27に示すように、実施例10よりも変位量が軸線を中心に同心円状に変化している。よって、実施例1は、実施例10よりも、弁本体241の弁座側端面1411a付近が径外方向に変形しにくい(シール荷重を付与される垂直方向に変形しやすい)ことがわかる。
【0086】
よって、実施例1は、凸部416を備えることにより、弁座側端面1411aが弁座側に湾曲するように変形すること、及び、環状シール突起414が径外方向に撓むように変形することを抑制し、環状シール面414aの変位量を低減できる。これは、実施例1は、実施例10と比べ、円柱部1411が凸部416により中心部を補強され、剛性を高くされるためと考えられる。
【0087】
発明者らは、実施例1に基づいて
図5に示す弁体204を作製し、弁体204についてパーティクル試験を行った。この試験結果を
図24に示す。尚、パーティクル試験の方法は上述したパーティクル試験と同様なので、説明を割愛する。
【0088】
図24に示すように、弁体204がパーティクル試験中に測定されたパーティクルは、1mLあたり4.44個であった。よって、弁体204は、弁体104より、パーティクルを発生しにくい。また、弁体204は、パーティクル試験で測定されたパーティクルの数が、弁体104に対して4分の1と少なかった。よって、弁体204は、凸部416を備えることにより、パーティクルの量を低減できる。
【0089】
発明者らは、パーティクル試験終了後の弁体204について環状シール面414aの顕微鏡写真を撮影した。顕微鏡写真の倍率を500倍に設定した場合、弁体204は、環状シール面414aのQ部にもR部にもバリが確認されなかった。更に、発明者らは、顕微鏡写真の倍率を500倍から2000倍に上げ、弁体204について、環状シール面414aのQ部付近の状態を確認した。弁体204の顕微鏡写真とそのイメージ図を
図28及び
図29に示す。弁体204は、
図28及び
図29のZ4に示すように、環状シール面414aのQ部に皺も、擦り傷も、バリも確認されない。それどころか、弁体204は、Q部表面の凹凸がなじんだ状態になっている。よって、弁体204は、パーティクルカウンタで測定できるパーティクルはもちろんのこと、パーティクルカウンタで測定できないような微細パーティクルが発生することも抑制又は防止できると考えられる。
【0090】
<(d)環状凹溝が環状シール面の変位量に与える効果について>
図3に示すように、環状凹溝415の有無だけが異なる実施例8,9を比較する。実施例8は、凸部1143と環状シール突起414との間に環状凹溝1144が形成されている。凸部1143は、基端部直径が4mm、高さIが0.4mmで形成されている。実施例9は、凸部7416と環状シール突起414との間に環状凹溝が形成されていない。凸部7416の高さIは、凸部1143と同じである。
【0091】
図18に、実施例9の変位量解析結果を示す。X76に示すように、弁本体741は、凸部7416において径外方向に生じた変形がダイレクトに環状シール突起414に伝達されている。そのため、図中X71〜X74に示すように、環状シール突起414は、凸部7416によって径外方向に押し出されている。
図23に示すように、実施例9は、環状シール面414aの変位量が4.302μmである。その変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して8.60×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して4.30×10
-2倍である。
【0092】
図17に、実施例8の変位量解析結果を示す。弁本体1141は、凸部1143において径外方向に生じた変形が環状凹溝1144から環状シール突起414に伝わりにくい。そのため、図中X111〜X115に示すように、環状シール突起414は、主に垂直方向への変形が生じ、環状シール面414aを弁座面24aに対してほぼ垂直方向に押し付ける。
図23に示すように、実施例8は、環状シール面414aの変位量が3.736μmである。その変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して7.47×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して3.74×10
-2倍である。
【0093】
以上より、弁体は、凸部と環状シール突起との間に環状凹溝を形成することにより、凸部だけを備える弁体より環状シール面の径外方向への変位量を抑制できる。
【0094】
<(e)基端部直径Hが環状シール面の変位量に与える効果について>
図3に示すように、基端部直径Hだけが異なる実施例1と実施例13を比較する。実施例1は、凸部416の基端部直径Hが、細部直径Jと同じ4mmに設定されている。また、実施例13は、凸部944の基端部直径Hが、細部直径J(4mm)より小さい2mmに設定されている。実施例1の環状凹溝415は、実施例13の環状凹溝945より、幅広に設けられている。
【0095】
図22に、実施例13の変位量解析結果を示す。図中X96に示すように、弁本体943は、凸部944の範囲では、弁座方向の変形が生じる。しかし、図中X97に示すように、弁本体943は、凸部944より外側であって首部413の外周面413aより内側の部分において、径外方向の変形が生じている。その変形は、図中X98に示すように、環状シール突起414の図中上側部分を介して円柱部1411の外周面411bへダイレクトに伝わる。そして、図中X91〜X94に示すように、環状シール突起414は、内周面414bより外周面414cの方が変形量が大きい。
図23に示すように、実施例13は、環状シール面414aの変位量が6.162μmである。この変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して12.30×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して6.16×10
-2倍である。
【0096】
一方、
図10に示すように、実施例1は、実施例13と比べ、全体的に、変位量が弁本体241の軸線を中心に同心円状に変化している。図中X21〜X26に示すように、弁体204は、環状シール突起414のP部より外側の変形量が実施例13より小さい。そして、X21〜X24に示すように、弁体204は、P部、Q部、R部、S部の変形量が実施例13より小さい。
図23に示すように、実施例1は、環状シール面414aの変位量が5.064μmである。この変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して10.10×10
-4倍、幅寸法Bに対して5.06×10
-2倍である。
【0097】
従って、弁体は、基端部直径Hを細部直径J以上にすることにより、環状シール面の変位量を抑制できる。これは、凸部416が、駆動部の荷重全体を支えて、広く分散させることができるためと考えられる。
【0098】
<(f)凸部高さIが環状シール面の変位量に与える効果について>
図3に示すように、凸部の高さIだけが異なる実施例1,11,12を比較する。実施例1は、凸部416の高さIが、環状シール突起414の高さCと同じ0.5mmである。実施例11は、凸部1243の高さIが、環状シール突起414の高さCに対して0.7倍となる0.35mmである。実施例12は、凸部1343の高さIが、環状シール突起414の高さCに対して0.6倍となる0.3mmである。
図10,
図20,
図21に、実施例1,11,12の変位量解析結果を示す。
【0099】
図10のX26、X27に示すように、実施例1は、凸部416の変形が環状凹溝415に遮られて環状シール突起414に伝わりにくく、環状シール突起414が主として垂直方向に変形している。それに対して、
図20のX126,X128及び
図21のX138に示すように、実施例11,12は、凸部1243、1343の径外方向の変形が環状凹溝1244,1344を超えて環状シール突起414の図中上側部分に伝わりやすい。また、
図20のX123に示すように、実施例11は、R部の変位量が実施例1よりも大きい。また、
図21のX133に示すように、実施例13は、環状シール突起414の外周面414cの変位量が実施例1,10よりも大きい。
図23に示すように、環状シール面414aの変位量は、実施例1が5.064μm、実施例11が5.644μm、実施例12が5.678μmmである。よって、凸部416は、高さIが高いほど、環状シール面414aの変位量が抑制される。これは、高さIが高いほど、凸部で変形を広く分散して、環状シール面414aに伝わる変形量を抑制できるためと考えられる。また、環状凹溝が深く形成され、凸部の変形が環状シール突起に伝わりにくくなるためと考えられる。
【0100】
<(g)端面直径Dと肉厚Fの組み合わせが環状シール面の変位量に与える効果について>
図3に示すように、端面直径Dと肉厚Fが異なる実施例2,3を比較する。実施例2は、端面直径Dが7.5mm、肉厚Fが4.5mmである。一方、実施例3は、端面直径Dが8.5mm、肉厚Fが5.4mmである。
図11及び
図12に、実施例2,3の変位量解析結果を示す。
【0101】
実施例3は、
図12のX41〜X44に示すP部、Q部、R部、S部の変位量が、実施例2(
図11のX31〜X35参照)と比べて小さく、環状シール突起414が垂直方向に変形している。また、実施例3の弁体部440は、実施例2の弁体部340と比べ、変位量が軸線を中心に同士円状に変化している。
図23に示すように、実施例2は、環状シール面414aの変位が4.037μmであった。その変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して8.07×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して4.04×10
-2倍である。一方、実施例3は、環状シール面414aの変位量が3.224μmであった。その変位量は、環状シール面414aの幅方向中心径Aに対して6.45×10
-4倍、又は、幅寸法Bに対して3.22×10
-2倍である。
【0102】
よって、実施例3は、実施例2より円柱部4411と弁座側端面4411aの変形が小さく、環状シール突起414を弁座面24aに垂直に押し付けることができる。また、実施例3は、実施例2より環状シール突起414が弁座面24aに垂直に押し付けられて変形しにくく、環状シール面414aの変位量が抑制される。これは、実施例3は、実施例2より端面直径Dと肉厚Fが大きいことにより、駆動部3の荷重を弁座側端面4411aから離れた位置で広く分散させ、環状シール突起414を弁座24に対して垂直に押し付けることができるからと考えられる。
【0103】
発明者らは、実施例2,3に基づいて弁体304,404を作製し、パーティクル試験を行った。パーティクル試験の方法は、上述したパーティクル試験と同様であるので、説明を割愛する。このパーティクル試験の結果を、
図24に示す。
【0104】
図24に示すように、弁体304がパーティクル試験中に測定されたパーティクルの数は、1mL当たり2.22個であった。このパーティクルの数は、実施例10に対しては約9分の1に低減されている。一方、
図24に示すように、弁体404は、パーティクル試験中にパーティクルが測定されなかった。よって、円柱部411の端面直径Dと肉厚Fを大きくするほど、パーティクルを抑制する効果が大きくなる。剛性が高くなるからである。
【0105】
また、発明者らは、パーティクル試験を終了した弁体304,404について環状シール面414aの顕微鏡写真を倍率2000倍で撮影した。弁体304,404は、何れも、環状シール面414aにバリが確認されなかった。弁体404は、弁体304と比べ、Q部の表面が滑らかであった。これは、弁体404は、弁体304より環状シール突起414が垂直方向に押し付けられてなめされるためと考えられる。
【0106】
よって、弁体は、端面直径Dと肉厚Fが大きいほど、パーティクルカウンタで測定できるパーティクルはもちろんのこと、パーティクルカウンタで測定できない微細なパーティクルの発生も抑制又は防止することができると考えられる。
【0107】
<(h)凸部と端面直径Dとの組み合わせが環状シール面の変位量に与える効果について>
ところで、実施例3のように、端面直径Dを大きくすると、ダイアフラム室22が広くなるため、バルブボディ21が大きくなる。また、弁座側端面4411aに作用する流体圧力が高くなるため、シール荷重を強くするために駆動部が大きくなる。一方、肉厚Fが大きいと、ダイアフラム室22内に滞留部が形成されやすくなる。また、ダイアフラム室22が広くなるため、バルブボディ21が大きくなる。そこで、発明者らは、
図3に示すように、端面直径Dと肉厚Fが実施例3より小さく、凸部416を備える実施例4について、変位量を解析した。実施例4の弁体4の変位量解析結果を
図13に示す。
【0108】
図3に示すように、実施例3は、端面直径Dが8.5mm、肉厚Fが5.4mmで、凸部を備えない。一方、実施例4は、端面直径Dが7.5mmで、肉厚Fが4.5mmで、凸部416を備える。
図12及び
図13に、実施例3,4の変位量解析結果を示す。
【0109】
図13に示すように、実施例4の弁本体41は、凸部416により中心部の剛性が高められ、実施例3(
図12参照)と比べ、中心部が径外方向に変形しにくい。そして、
図13のX6,X7に示すように、弁本体41は、凸部416が径外方向に変形しても、その変形が環状凹溝415により環状シール突起414に伝わりにくい。更に、実施例4の弁本体41は、
図13のX1〜X4に示すように、環状シール突起414のP部、Q部、R部、S部の変位量が実施例3(
図12のX41〜X44参照)と同程度に抑制される。
図23に示すように、環状シール面414aの変位量が3.687μmである。実施例3は、環状シール面414aの変位量が3.224μmである。
【0110】
このように、実施例4は、端面直径Dを実施例3に対して約0.88倍、肉厚Fを実施例3に対して約0.83倍と小さくしても、凸部416と環状凹溝415を備えることで、環状シール面414aの変位量が実施例3と同程度にされる。よって、実施例4は、実施例3と比べ、駆動部3とバルブボディ21をコンパクトにできる。これにより、実施例4では、環状シール面414aの変位量を抑制して摩耗を減らし、パーティクルを抑制できると共に、バルブサイズをコンパクトにできる。また、実施例4は、弁本体41の劣化を抑制するので、初期のシール力を長期間維持でき、バルブのメンテナンス間隔を広げることができる。
【0111】
<(i)凸部と肉厚Fと高さGの組み合わせが環状シール面の変位量に与える効果について>
図3に示すように、肉厚Fと高さGが異なる実施例4,5,6を比較する。実施例4,5,6は、T部の位置や凸部416と環状凹溝415が同様に設けられている。実施例4,5,6は、高さGの大きさと肩部412,543,643の傾斜角度により、肉厚Fの大きさが調整されている。実施例4は、肉厚Fが、環状シール面414aの幅方向中心径A(5mm)に対して0.9倍となる4.5mmである。また、実施例4は、高さGが2.65mmである。実施例5は、肉厚Fが、環状シール面414aの幅方向中心径A(5mm)に対して0.8倍となる4.0mmである。また、実施例5は、高さGが2.15mmである。実施例6は、肉厚Fが、環状シール面414aの幅方向中心径A(5mm)に対して0.7倍となる3.5mmである。また、実施例4は、高さGが1.65mmである。実施例4〜6の弁体4,504,604の変位量解析結果を、
図13〜
図15に示す。
【0112】
図13、
図14、
図15に示すように、実施例4,5,6は、凸部416によって弁本体41,541,641の中心部が剛性を高められ、径外方向に変形しにくい。凸部416に生じた径外方向の変形は、環状凹溝415により環状シール突起414に伝わりにくい。また、
図13、
図14、
図15に示すように、弁本体41,541,641は、変位量が軸線を中心に同心円状に変化しており、垂直方向に変形しやすい。
図13のX5〜X7、
図14のX55〜X57、
図15のX65〜X67に示すように、弁座側端面411a,5411a,6411aの変形が同程度に抑制され、環状シール突起414を弁座面24aに垂直に押し付けている。更に、
図13のX1〜X4、
図14のX51〜X54、
図15のX61〜X64に示すように、実施例4,5,6は、P点、Q点、R点、S点の変位量が同程度であり、環状シール突起414が垂直方向に変形している。
図23に示すように、実施例4は、環状シール面414aの変位量が3.687μmである。実施例5は、環状シール面414aの変位量が4.100μmである。実施例6は、環状シール面414aの変位量が4.685μmである。
【0113】
よって、弁体は、高さGを小さくしてダイアフラム室の容積を広げても、肩部の傾斜を大きくして肉厚Fを確保すれば、環状シール面の変位量を抑制できる。また、弁体は、高さGが低く、肩部の傾斜が大きくなることにより、流体がダイアフラム室に滞留しにくくなる。これにより、滞留した流体が劣化したり、固化してパーティクルになったりする不具合が生じ難くなる。
【0114】
<環状シール面の変位量とパーティクルの数との関係について>
上述したパーティクル試験の結果より、環状シール面の変位量とパーティクルの発生数との関係をまとめると、
図24に示すようになる。
図24に示すように、環状シール面414aの変位量が6.175μm、5.064μm、4.037μm、3.224μmと小さくなるほど、パーティクル発生量は、17.78個、4.44個、2.22個、0個と低減する。更に、環状シール面414aの変位量が6.175μmを超え、9μm以下の未対策のサンプルは、パーティクルの発生数が797.8個と急激に増加する。よって、弁体は、環状シール面414aの変位量を6.175μm以下とすることにより、パーティクルを効果的に低減させることができる。
【0115】
特に、
図26〜
図29に示すように、環状シール面414aの変位量が6.175μmである実施例10の弁体104と、環状シール面414aの変位量が5.064μmである実施例1の弁体204とでは、弁体204の方が環状シール面414aの荒れが少なく、バリが生じにくい。そのため、実施例1の弁体204は、実施例10の弁体104より、環状シール面414aから微細パーティクルが発生することを効果的に抑制又は防止できると考えられる。よって、流体制御バルブは、弁体が環状シール面の変位量を少しでも小さく形状を備えることで、半導体製造上問題となるパーティクルが微細化しても、パーティクル発生原因自体を排除できる。また、弁体を長寿命化して、流体制御バルブ1のメンテナンス負担を軽減できる。
【0116】
<その他>
発明者らは、ダイアフラム弁体104の弁座側端面411aに環状シール突起414を設けずに弁座側端面411aをフラットにし、弁座24の開口部外周に沿って凸部を設ける構成についても検討した。しかし、この構成では、本実施形態のダイアフラム弁体104ほど、弁閉の際に発生する環状シール面の摩耗やパーティクルを低減できなかった。
【0117】
B.第2実施形態
続いて、本発明の第2実施形態に係る流体制御バルブについて説明する。第2実施形態の流体制御バルブは、弁体の材質のみが第1実施形態の流体制御バルブ1のダイアフラム弁体4(実施例4)と相違する。ここでは、第2実施形態の弁体の符号を「4A」とし、その他の符号は第1実施形態で使用したものをそのまま使用する。
【0118】
第2実施形態の弁体4Aは、PFA製の丸棒を切削することにより、第1実施形態のダイアフラム弁体4と同じ形状に成形されている。PFAは、PTFEより硬度が高く、摩耗しにくい。そのため、弁体4Aは、第1実施形態に係るPTFE製のダイアフラム弁体4と比べ、シール荷重を受けても、円柱部411や環状シール突起414が変形しにくい。よって、第2実施形態の流体制御バルブは、第1実施形態の流体制御バルブ1と比べ、弁体4Aの環状シール面414aが弁座面24aに対して擦れにくく、弁閉の際に発生する弁体4Aの変形による摩耗を抑制するので、パーティクルの発生を低減できる。
【0119】
ここで、発明者らは、弁体4Aとダイアフラム弁体4の各環状シール面414aについて、使用前の初期時と、5000回弁開閉動作した後に、それぞれ顕微鏡写真を撮影した。弁体4Aは、初期時と5000回動作後とで、環状シール面414aに殆ど変化がなく、環状シール面414aに皺や傷が殆ど確認されなかった。一方、ダイアフラム弁体4は、5000回動作すると、環状シール面414aの内側縁部付近に微細な皺や傷が確認された。よって、環状シール突起414をPFAで形成すると、弁閉の際に発生する環状シール面414aの摩耗を抑制又は低減でき、微細パーティクルを発生しにくくなる。
【0120】
また、発明者らは、弁体4Aとダイアフラム弁体4について、摩耗パーティクル捕集試験を行った。試験装置は、上流側から順に、5μm以上の異物を除去する一次側フィルタ、試験対象(弁体4Aを装着した流体制御バルブ、又は、ダイアフラム弁体4を装着した流体制御バルブ)、50nm以上の異物を除去する二次側フィルタを配置することにより構成した。試験は、一次側フィルタに純水を毎分30mlずつ供給しながら試験対象に40000回弁開閉動作を行わせた後、二次側フィルタが捕集したパーティクルの数を測定することにより行った。一次側フィルタが純水に含まれる異物を除去するので、二次側フィルタに捕集されたパーティクルは、弁体4,4Aの摩耗により発生したパーティクルと考えられる。
【0121】
試験結果は、ダイアフラム弁体4を装着した流体制御バルブでは、摩耗パーティクル捕集数が41個であった。一方、弁体4Aを装着した流体制御バルブでは、摩耗パーティクル捕集数が14個であった。よって、PFAで形成した弁体4Aは、PTFEで形成されたダイアフラム弁体4より、摩耗パーティクル捕集数を65%も低減できた。この試験結果より、環状シール突起414は、PTFEで形成するよりPFAで形成する方が、摩耗パーティクルが発生しにくいことを確認できた。
【0122】
C.第3実施形態
続いて、本発明の第3実施形態に係る流体制御バルブについて説明する。
図31に、本発明の第3実施形態に係る流体制御バルブに使用される弁体9の断面図を示す。
図32、
図33に、第1及び第2変形例の弁体109,209を示す。弁体9,109,209は、異なる材質で形成された2部品を結合して構成する点が第2実施形態の弁体4Aと相違し、その他の構成は第2実施形態の弁体4Aと共通する。以下の説明では、第2実施形態と共通する構成には、第2実施形態と同じ符号を使用して説明を適宜省略し、第2実施形態と相違する点を中心に説明する。
【0123】
第2実施形態で説明したように、弁体4Aは、PFAで形成されるため、弁閉の際に発生する環状シール面414aの摩耗が低減し、摩耗パーティクルの発生を抑制できる。しかし、PFAは、素材入手困難性の問題などにより、切削による成形が困難である。そこで、
図31に示すように、第3実施形態の弁体9は、弁本体93の首部413と肩部412(弁体部410)との間で第1部品91と第2部品92とに分割されている。第1部品91はPTFEで形成され、第2部品92はPFAで形成されており、インサート成形により第1部品91と第2部品92とが一体化されている。第1部品91は、薄膜部42と、外縁部43と、弁本体93の首部413とを備える。一方、第2部品92は、弁本体93の肩部412と円柱部411と環状シール突起414と環状凹溝415と凸部416を備える。
【0124】
PFAは、PTFEでは難しい溶融成形が可能である。また、PFAは、PTFEより融点が低い。一方、PTFEは、素材を入手しやすく、PFAより切削による成形が容易である。そこで、弁体9は、第1部品91がPTFE製の丸棒を削り出すことにより形成されている。そして、第2部品92は、第1部品91に軸線方向に突出するように設けられた連結凸部91aを金型に挿入した状態で連結凸部91aの周りに溶融したPFAを流し込んで固化させることにより、形成されている。そのため、第2部品92は、円柱部411や環状シール突起414や環状凹溝415や凸部416が、溶融成形により簡単に精度良く形成される。また、首部413を備える第1部品91をPFAより硬度の低い樹脂(例えばPTFE)で形成し、環状シール突起414を備え、第1部品91に結合する第2部品92をPFAで形成するので、環状シール突起414がPFAで形成された弁体9を形成しやすい。
【0125】
弁体9は、第1部品91が第2部品92にインサート成形されているので、第1部品91と第2部品92との間に隙間が殆どない。しかも、弁体9は、連結凸部91aの外周面に凹凸が周方向に形成され、その凹凸にPFAが充填された状態で第2部品92と第1部品91が結合されている。そのため、流体制御バルブが弁開閉動作を繰り返しても、第2部品92と第1部品91との間に隙間ができにくい。よって、弁体9を装着する流体制御バルブは、第1部品91と第2部品92との間に微細パーティクルが入り込みにくく、また、薬液等が第1部品91と第2部品92との間に入り込んで固化し、パーティクルを発生させにくい。更に、弁体9は、環状シール突起414や円柱部411がPFAで形成されて変形しにくいので、弁閉の際に発生する環状シール面414aの摩耗を抑制して、パーティクルを低減できる。
【0126】
図32に示す第1変形例の弁体109は、第1部品191の弁座側端面411aに圧入溝191aが環状に形成され、その圧入溝191aにリング状の第2部品192を圧入している。環状シール突起414は、第2部品192により構成されている。第1部品191はPTFEで形成され、第2部品192はPFAで形成されている。弁体109は、環状シール突起414がPFAで形成されて変形しにくいため、弁閉の際に発生する環状シール面414aの摩耗が抑制されることにより、パーティクルの発生が低減される。尚、弁体109は、第2部品192と圧入溝191aの内壁との間に隙間ができ、ゴミが入り込む恐れがある。また、弁体109は、第2部品192を圧入溝191aに圧入することで第1部品191と第2部品192を結合するので、製品間で、円柱部411、環状シール突起414、環状凹溝415、凸部416の寸法にばらつきが生じる恐れがある。
【0127】
図33に示す第2変形例の弁体209は、第1部品291に雄ねじ部291aを突設し、その雄ねじ部291aを第2部品292の雌ねじ部292aに螺合する点だけが、第3実施形態の弁体9と相違する。弁体209は、円柱部411と環状シール突起414がPFAにより形成されて変形しにくいので、弁閉の際に発生する環状シール面414aの摩耗を抑制することにより、パーティクルの発生を低減できる。尚、弁体209は、雄ねじ部291aと雌ねじ部292aとの間に必ず隙間が生じ、その隙間に微細なゴミが入り込む恐れがある。
【0128】
よって、弁体を2部品で構成する場合には、弁体9のように、第1部品91と第2部品92とをインサート成形により一体化するのが、最もパーティクル抑制効果が高い。弁体109,209は、第1部品191,291と第2部品192,292の間に形成される隙間を樹脂等で埋める処理をすれば、弁体9と同様のパーティクル抑制効果が得られる。また、圧入、ねじ締結であれば、インサート用金型が不要であり、どのような形状にも適用できて汎用性が高い。
【0129】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、色々な応用が可能である。
【0130】
(1)例えば、上記実施形態では、流体制御バルブ1を半導体製造装置に適用したが、別の装置に適用しても良い。
【0131】
(2)例えば、上記実施形態では、弁体部410が円柱部411と肩部412を備えるが、弁本体を円錐形状にしても良い。
【0132】
(3)例えば、上記実施形態では、流体制御バルブ1をダイアフラム弁として構成したが、ベローズバルブや電磁弁等の薄膜部を備えない弁体に、ダイアフラム弁体4の環状シール突起414付近の形状を適用し、環状シール面の変位量を抑制するようにしても良い。
【0133】
(4)例えば、上記実施形態では、薄膜部42を首部413に接続した。これに対して、薄膜部42は、
図34に示す第3変形例の弁体4Bに示すように、肩部412と首部413との接続部分に接続しても良いし、
図35に示す第4変形例の弁体4Cに示すように、円柱部411に接続しても良い。
【0134】
(5)例えば、上記実施形態では、ダイアフラム弁体4の雄ねじ部413bを駆動部3の雌ねじ部35cに螺合することにより、ダイアフラム弁体4と駆動部3を連結した。これに対して、
図36に示す第5変形例の弁体4Dのように、首部413に雌ねじ部420を形成し、その雌ねじ部420に螺合する雄ねじ部を駆動部3のピストン35に設けることにより、弁体4Dを駆動部3に連結しても良い。
【0135】
(6)ダイアフラム弁体4の材質は変性PTFE(変性ポリテトラフルオロエチレン)硬度D55〜60、又は、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)硬度D60〜64であっても良い。
【0136】
(7)バルブボディ21(弁座24)の材質はPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)硬度D53〜58、又は、変性PTFE(変性ポリテトラフルオロエチレン)硬度D55〜60であっても良い。
【0137】
(8)環状シール面414aのコーナ部面取りやコーナ部R面取りがあっても良い。この場合、フラットな面の内周と外周との間の中心位置の直径が「環状シール部の径」に相当する。また、環状シール面414aは、フラット以外にも、環状シール突起414の先端部をR形状にした環状シール部にしても良い。この場合、環状シール部が弁座と対向する頂点部分の直径が「環状シール部の径」に相当する。これらの場合でも、ダイアフラム弁体4の弁本体41に生じる圧縮変形を垂直方向にのみ発生させるように、環状シール突起414周辺の形状を構成すれば(例えば、円柱部411の直径や凸部416や、環状凹溝415など)、上記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0138】
(9)環状凹溝415の底面は、弁座側端面411aと同等か、ほぼ同じ高さであっても良い。
【0139】
(10)弁座側端面411aは、フラット形状に限らず、斜面や曲面であっても良い。
【0140】
(11)パーティクル発生を抑えるために必要な環状シール面414aの変位量は、径方向の外側変位量に限らず、内側変位量であっても良い。
【0141】
(12)環状シール突起は、円筒形状に設け、弁座側から反弁座側まで径方向の肉厚を一定にしても良い。
【0142】
(13)環状シール突起の突起形状は、弁体の径方向軸芯側の壁形状と、径方向反軸芯側の壁形状とが異なる形状であっても良い。その壁の形状や突起の高さは、環状シール面(環状シール部)の変位量が小さくなるように設定すれば良い。
【0143】
(14)D/Aは、上記実施形態に限らず、1.35,1.40,1.45等であっても良い。
図25に示すように、D/Aが大きくなれば、環状シール面414aの変位量は低下し、パーティクルの発生を抑えることができる。