(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193983
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】過酸化物分散体
(51)【国際特許分類】
B01J 13/00 20060101AFI20170828BHJP
C08K 5/10 20060101ALI20170828BHJP
C08K 5/14 20060101ALI20170828BHJP
C08L 5/00 20060101ALI20170828BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20170828BHJP
A61K 31/327 20060101ALI20170828BHJP
A61K 9/10 20060101ALI20170828BHJP
A61K 47/14 20060101ALI20170828BHJP
C08K 5/00 20060101ALI20170828BHJP
A23L 29/10 20160101ALN20170828BHJP
A23L 5/00 20160101ALN20170828BHJP
【FI】
B01J13/00 B
C08K5/10
C08K5/14
C08L5/00
B01J13/00 D
A61P17/10
A61K31/327
A61K9/10
A61K47/14
C08K5/00
!A23L29/10
!A23L5/00 K
【請求項の数】14
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-517235(P2015-517235)
(86)(22)【出願日】2013年3月1日
(65)【公表番号】特表2015-530913(P2015-530913A)
(43)【公表日】2015年10月29日
(86)【国際出願番号】US2013028492
(87)【国際公開番号】WO2013187949
(87)【国際公開日】20131219
【審査請求日】2016年2月23日
(31)【優先権主張番号】61/660,148
(32)【優先日】2012年6月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500307340
【氏名又は名称】アーケマ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・エイチ・コゼル
(72)【発明者】
【氏名】ジョセフ・エム・グラベル
(72)【発明者】
【氏名】ティモシー・ベルフォード
(72)【発明者】
【氏名】トーマス・サルヴァドール
【審査官】
岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2011/0086959(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 13/00
A61K 9/10
A61K 31/327
A61K 47/14
A61P 17/10
C08K 5/00
C08K 5/10
C08K 5/14
C08L 5/00
A23L 5/00
A23L 29/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)平均粒子径10μm未満の水不溶性固体過酸化ベンゾイル35重量%以上と、
b)平均8〜12個のグリセリン繰り返し単位を有するポリグリセリン部分を含有するポリグリセリルエステルであって、1種以上のC6〜C12脂肪酸で部分的にエステル化されており、HLB値が12〜18のポリグリセリルエステルである界面活性剤0.1〜2.0重量%と
を含む、水性分散体。
【請求項2】
前記1種以上のC6〜C12脂肪酸が、オクタン酸、デカン酸およびこれらの混合物からなる群から選択される、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項3】
前記1種以上のC6〜C12脂肪酸が飽和脂肪酸である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項4】
前記界面活性剤が、ヒドロキシル基を有するポリグリセリルをベースにしており、前記ポリグリセリルのヒドロキシル基の25%〜60%がエステル化されている、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項5】
前記界面活性剤が、カプリル酸/カプリン酸ポリグリセリル−10である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項6】
前記界面活性剤が、食品用界面活性剤および/または薬学的に許容される界面活性剤である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項7】
高分子ゲル化剤をさらに含む、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項8】
前記高分子ゲル化剤が多価カチオンの存在下で架橋する、請求項7に記載の水性分散体。
【請求項9】
塩基をさらに含む、請求項7に記載の水性分散体。
【請求項10】
塩をさらに含む、請求項7に記載の水性分散体。
【請求項11】
前記過酸化ベンゾイルの平均粒子径が5μm未満である、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項12】
前記界面活性剤が構造(I):
(I) R1−[CH2−CH(OR2)−CH2O]n−R3
(式中、nの平均値は6〜14であり、R1、R2およびR3はそれぞれ独立してC8〜C10脂肪酸部分または水素であるが、但し、R1、R2またはR3の少なくとも1つがC8〜C10脂肪酸部分である)
を有する、請求項1に記載の水性分散体。
【請求項13】
g)平均粒子径5μm未満の過酸化ベンゾイル37.5〜42重量%;
h)水53.5〜62重量%;
i)ゲル化剤0.25〜1.5重量%;
j)平均8〜12個のグリセリン繰り返し単位を有するポリグリセリン部分を含有するポリグリセリルエステルであって、オクタン酸とデカン酸との混合物で部分的にエステル化されており、HLB値が12〜18のポリグリセリルエステル0.1〜2.0重量%;
k)架橋剤0.01〜0.05重量%;および
l)塩基0.25〜1.0重量%。
を含む水性分散体。
【請求項14】
請求項1に記載の水性分散体の製造方法であって、平均粒子径が10μmより大きい過酸化ベンゾイルを前記界面活性剤の存在下、水中で粉砕する工程を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通常は固体の有機過酸化物の水性分散体に関する。分散体は、高濃度の過酸化物を含有するペーストまたは液体であり、過酸化物は小粒子(例えば、平均で直径10μm未満)の形態で存在する。ペーストはポンプ圧送可能/注入可能となるように剪断減粘性であるかまたは十分な流動性があるため、それらの取り扱いおよび使用が容易になる。
【背景技術】
【0002】
過酸化物は、一般的特性として、可燃性で爆発性の傾向があり、一部の過酸化物は他のものよりかなりこのような特性を示す。例えば、過酸化ベンゾイルは、乾燥するとショック、摩擦、または静電気により分解し得る。この特性は、これらの物質の使用者、ならびにその製造業者および中間取扱業者に危険をもたらす。従って、難燃性有機過酸化物組成物を提供することが、長い間目的となっていた。
【0003】
水溶性または水分散性過酸化物により提供される安全性および最終用途の利点が認識されてきた。しかし、商業的に重要な多くの過酸化物は水不溶性である。さらに、比較的高濃度の水不溶性固体過酸化物を含有する分散体は、典型的にはかなり粘度が高く、そのため取り扱いおよび処理が困難である。この問題は、過酸化物の粒子径が小さくなるにつれ特に悪化する。例えば、過酸化物を水中で粉砕してその粒子径を10μm未満に小さくすると、水性分散体は非常に濃厚なペーストを形成することが多い。粉砕を再度実施できる程度に、分散体が「緩くなり」、軟化することが可能となるように一定時間粉砕を中断しない限り、それ以上粉砕することはかなり困難になる。これらの難点のため、所望の小さい粒子径を達成するのに必要な時間が著しく長くなる。水不溶性過酸化物には粒子径が小さい方が有利となる最終用途が多いため、ポンプ圧送および/または注入により取り扱うことができる粒子径の小さい過酸化物の高濃縮水性分散体、ならびにこのような水性分散体を好都合に且つ効率的に製造し得る方法が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、a)平均粒子径10μm未満の水不溶性固体有機過酸化物約40重量%以上と、b)1種以上のC6〜C18脂肪酸のポリグリセリルエステルである界面活性剤とを含む水性分散体を提供する。別の態様では、本発明は、平均粒子径が10μmより大きい有機過酸化物を、1種以上のC6〜C18脂肪酸のポリグリセリルエステルである界面活性剤の存在下、水中で粉砕する工程を含む、このような水性分散体の製造方法を提供する。このような界面活性剤を使用すると、処理中に水性分散体の粘度を低下させるのに役立つ。
【発明を実施するための形態】
【0005】
本発明の水性分散体は、通常は固体(即ち、室温で固体)の有機過酸化物と、界面活性剤とを含む。
【0006】
好適な有機過酸化の例としては、芳香族ジアシルパーオキサイド、例えば、過酸化ベンゾイル、o−メチルベンゾイルパーオキサイド、o−メトキシベンゾイルパーオキサイド、o−エトキシベンゾイルパーオキサイド、o−クロロベンゾイルパーオキサイドおよび2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド;脂肪族ジアシルパーオキサイド、例えば、過酸化デカノイル、過酸化ラウロイルおよび過酸化ミリストイル;ケトンパーオキサイド、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルパーオキサイドおよび1−ヒドロペルオキシシクロヘキシルパーオキサイド;アルデヒド過酸化物、例えば、1−ヒドロキシヘプチルパーオキサイド;ペルオキシジカーボネート、例えば、ジセチルペルオキシジカーボネート、ジ(4−t−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカーボネート、およびアシルペルオキシアルキルカーボネート、例えば、アセチルペルオキシステアリルカーボネート等ならびにこれらの混合物がある。室温で通常は固体であり、実質的に水に不溶性の他の有機過酸化物を使用することもできる。出発有機過酸化物は任意の好適な方法で得ることができ、固体(乾燥)形態であっても、または水との混合物の形態であってもよい。より詳細に後述するように、有機過酸化物は典型的には、始めは比較的大きい粒子径(例えば、10μmより大きい)を有し、その後、界面活性剤と水の存在下、任意の好適な手順でその粒子径を小さくして、本発明の水性分散体を得る。
【0007】
本水性分散体は、有機過酸化物を約35重量%以上含む。本発明の特徴の1つは、本発明により有機過酸化物を約35重量%以上含有する水性分散体の製造が可能となることであり、本分散体は剪断減粘性または流動性液体であるため、分散体はポンプ圧送可能または注入可能である。これまで、約35重量%以上の有機過酸化物を含有するポンプ圧送可能な分散体の製造は困難であった。本明細書では、剪断減粘性は、剪断速度が増加するにつれ、粘度が低下することを意味する。従って、分散体を撹拌または混合すると、本発明の過酸化物分散体の粘度は低下し、それは注入可能またはポンプ圧送可能となり、使用し易くなる。本発明の幾つかの実施形態では、水性分散体は十分な流動性があるため、撹拌または混合されなくても注入することができる。水性分散体中の過酸化物の濃度は、所望に応じてまたは必要に応じて調節することができるが、典型的には有機過酸化物の濃度は約30重量%以上且つ約75重量%以下であるか、または約35〜60重量%、または約37〜約53重量%以下、または約37〜約42重量%である。
【0008】
水性分散体を提供するのに十分な水が存在し、水は液体マトリックスとして機能し、その中に有機過酸化物の粒子が分散している。典型的には、水性分散体の含水率は、約25〜70重量%、約40〜65重量%、約42〜約63重量%、または約53〜約63重量%、または約58重量%〜約63重量%である。水のpHは、所望に応じてまたは必要に応じて、塩基、酸、および緩衝剤等の1種以上のpH調節剤を添加することにより調節することができる。塩などの可溶性種も存在してもよい。
【0009】
水と有機過酸化物の他に、本発明の組成物は1種以上の界面活性剤も含む。一実施形態では、界面活性剤は薬学的に許容される界面活性剤である。薬学的に許容される界面活性剤は、生物に著しい刺激を引き起こさず、本発明の分散体と配合される投与化合物の生物学的活性および特性を阻害しない界面活性剤を指す。別の実施形態では、界面活性剤は食品用界面活性剤である。食品用界面活性剤は、食料品中に少なくともある一定のレベル以下存在することが規則により認められている界面活性剤を指す。使用される界面活性剤は、薬学的に許容される界面活性剤と食品用界面活性剤の両方であってもよい。
【0010】
驚くべきことに、1種以上のC6〜C18脂肪酸のポリグリセリルエステル、または好ましくは1種以上のC6〜C12脂肪酸のポリグリセリルエステル、または好ましくは1種以上のC8〜C12脂肪酸のポリグリセリルエステルは、有機過酸化物の平均粒子径を10μm未満、且つ好ましくは2μm超に小さくするのに使用される粉砕工程中、自由流動性液体のままである分散体を提供するのに特に有効であることが判明した。即ち、他のタイプの界面活性剤を使用すると粉砕中に非常に濃厚なペーストが形成され、それにより、所望する特定の小さい粒子径を達成するのに必要な時間が著しく増加する。従って、本発明は、処理効率の実質的な改善を提供する。
【0011】
脂肪酸のポリグリセリルエステルはまた、当該技術分野で「脂肪酸のポリグリセリンエステル」および「ポリグリセリン脂肪酸エステル」とも称される。それらは、重合したグリセリンを食用脂、油または脂肪酸と反応させることにより生成する混合部分エステルと記載することができる。脂肪酸のポリグリセリルエステルである市販の界面活性剤は、少量のモノグリセリド、ジグリセリド、およびトリグリセリド、遊離グリセリンおよびポリグリセリン、遊離脂肪酸および/または遊離脂肪酸の塩を含み得る。ポリグリセリル成分の重合度は変わり得る。本発明の様々な実施形態では、界面活性剤のポリグリセリルセグメントは、1分子当たり平均2、3、4、5、6、7、8もしくは9個以上、および/または20、19、18、17、16、15、14、13、12もしくは11個以下のグリセリル繰り返し単位を含有する。特定の一実施形態では、1分子当たり平均約10個のグリセリル繰り返し単位が存在する。
【0012】
粒子径が比較的大きい(例えば、平均粒子径が10μmより大きい)有機過酸化物を水中で粉砕して粒子径を小さくする(例えば、10μm未満または5μm未満の平均粒子径、幾つかの実施形態では好ましくは2μmより大きい平均粒子径にする)工程に、比較的短鎖の脂肪酸でエステル化されたポリグリセリルを界面活性剤として使用すると、このような粉砕工程中に粘度を低下させるのに役立つことが予想外に判明した。得られる水性分散体は剪断減粘性である。従って、ポリグリセリルのエステル化に使用される脂肪酸は、主としてC6〜C18脂肪酸、またはC6〜C12脂肪酸、またはC8〜C12脂肪酸(即ち、1分子当たり6〜18個、6〜12個、または8〜12個の炭素原子を含有する脂肪酸)であるが、エステル化されたポリグリセリル中にそれより短鎖および/または長鎖の脂肪酸も少量存在してもよい。例えば、本発明の様々な実施形態では、界面活性剤中に存在する脂肪酸部分の50以上、60以上、70以上、80以上、90以上、または実質的に全部がC6〜C18またはC6〜C12脂肪酸部分である。異なるC6〜C18、またはC6〜12、C8〜C12脂肪酸部分の混合物が存在してもよい。脂肪酸部分は直鎖であってもまたは分岐鎖であってもよく、飽和であってもまたは不飽和であってもよい。典型的には、脂肪酸部分は、一般構造−OC(=O)R(式中、RはC5〜C11アルキル基である)に対応するモノカルボキシレート部分である。一実施形態では、界面活性剤中に存在する脂肪酸部分は主として飽和脂肪酸であるため、界面活性剤のヨウ素価は10未満または5未満となる。好適なC6〜C18脂肪酸の例としては、ヘキサン酸(カプロン酸としても知られる)、オクタン酸(カプリル酸としても知られる)、デカン酸(カプリン酸としても知られる)およびドデカン酸(ラウリン酸としても知られる)、テトラデカン酸(ミリスチン酸としても知られる)ヘキサデカン酸(パルミチン酸としても知られる)、オクタデカン酸(ステアリン酸としても知られる)およびこれらの混合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。一実施形態では、C6〜C12脂肪酸は、オクタン酸とデカン酸との混合物である(場合により他の脂肪酸が少量存在する)。
【0013】
典型的には、ポリグリセリルは脂肪酸部分で部分的にエステル化されており、1つ以上のヒドロキシル基はエステル化されないままになっている。例えば、界面活性剤は1分子当たり平均1〜3個の脂肪酸部分を含有し得る。特定の実施形態では、ポリグリセリル中の使用可能なヒドロキシル基の約25%〜約60%、または約30%〜約50%が脂肪酸部分でエステル化されている。
【0014】
界面活性剤は、一般構造(I):
(I) R
1−[CH
2−CH(OR
2)−CH
2O]
n−R
3
(式中、nの平均値は約6〜約14であり、R
1、R
2およびR
3はそれぞれ独立してC6〜C18脂肪酸部分または水素であるが、但し、R
1、R
2またはR
3の少なくとも1つはC6〜C18脂肪酸部分である)に対応し得る。一実施形態では、R
1、R
2またはR
3の少なくとも1つは水素である。構造(I)は直線上に配置されたグリセリル繰り返し単位を示すが、式は分岐鎖のポリグリセリルも包含することが理解される。
【0015】
本発明に有用な例示的な界面活性剤としては、カプリル酸/カプリン酸ポリグリセリル−10、カプリル酸ポリグリセリル−10、カプリン酸ポリグリセリル−10、ラウリン酸ポリグリセリル−10、ならびにポリグリセリル成分が1分子当たり平均8、9、11または12個のグリセリン繰り返し単位を含有する類似物質が挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の界面活性剤として使用するのに好適なC6〜C18脂肪酸のポリグリセリルエステルとC6〜C12脂肪酸のポリグリセリルエステルは、様々な供給業者、例えば、Lonzaから市販されている。
【0016】
本発明の様々な態様では、界面活性剤はHLB値が少なくとも12、13、または14、および/またはHLB値が18、17または16以下であってもよい。例えば、界面活性剤のHLB値は12〜18または14〜16であってもよい。
【0017】
本発明の一実施形態では、水性分散体中に存在する唯一のタイプの界面活性剤は、C6〜C18もしくはC6〜C12脂肪酸のポリグリセリルエステル、またはこのような界面活性剤の混合物である。他の実施形態では、このようなポリグリセリルエステルは、存在する界面活性剤の全量の50、60、70、80、90または95重量%以上を占める。
【0018】
界面活性剤は、水および有機過酸化物と、有機過酸化物の粉砕中に水性分散体の粘度を低下させるのに有効な量で配合することができる。典型的には、水性分散体中の界面活性剤の濃度は、少なくとも0.1重量%且つ2.0重量%以下である。
【0019】
水性分散体中には、水、界面活性剤および有機過酸化物に加えて、他の成分が存在してもよい。例えば、生成物を安定で均質な分散体として維持することを助け、有機過酸化物の粒子の沈降を抑制するために、1種以上のゲル化剤を水性分散体に組み込んでもよい。ゲル化剤は、水に入れるとゲルを形成することができる物質である。高分子ゲル化剤、とりわけ特定の多糖類などの天然起源の高分子ゲル化剤は本発明に特に有用である。好適な高分子ゲル化剤としては、アルギネート(アルギン酸の塩)、カラギーナン、ジェランガム、グアーガムペクチン質(例えば、ペクチン酸、ペクチン、ペクテート)、およびキサンタンガムが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ゲル化剤は、食品または医薬品に含有されるのに好適となるように選択することができる。一実施形態では、ゲル化剤は、架橋によりさらにゲル化することができる。例えば、高分子ゲル化剤は、その主鎖に沿ってまたは主鎖のペンダント基として、架橋剤と相互作用または反応することができる1種以上の異なるタイプの官能基を含有してもよい。このような官能基は、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基またはこれらの塩(カルボン酸塩、スルホン酸塩)であってもよい。好適な架橋剤は、多価カチオン(例えば、2価および3価のカチオン)を提供する種を含んでもよい。例示的な多価カチオンとしては、アルミニウム(3+)、バリウム(2+)、カルシウム(2+)、銅(2+)、鉄(2+)、ストロンチウム(2+)、および亜鉛(2+)が挙げられる。カチオンは、食品として安全な塩および/または医薬として安全な塩の形態で供給されてもよい。架橋剤として有用な、好適な塩の具体例としては、以下のもの(その水和物を含む)およびそれらの混合物:炭酸カルシウム、塩化カルシウム、エデト酸カルシウム二ナトリウム、乳酸カルシウム、硝酸カルシウム、シュウ酸カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸二カルシウム、クエン酸三カルシウム、リン酸三カルシウム、ならびにそれらに対応するバリウム類似体、銅類似体、ストロンチウム類似体および亜鉛類似体が挙げられる。高分子ゲル化剤および架橋剤の量は所望に応じて変わり得る。ゲル化剤は、粒子状有機過酸化物が経時的に水性分散体から沈降する傾向を低減するのに有効な量で利用されてもよい。
【0020】
様々な実施形態では、水性分散体は0.25重量%以上、または0.4重量%以上の高分子ゲル化剤を含有する。他の実施形態では、水性分散体は1.5重量%以下、または0.75重量%以下の高分子ゲル化剤を含有する。例えば、水性分散体は0.25〜1.5重量%の高分子ゲル化剤を含んでもよい。使用する場合、架橋剤の量は、一般的に、高分子ゲル化剤の存在量に応じて変わり得る。例えば、高分子ゲル化剤の濃度が比較的低い場合、架橋剤の濃度も比較的低くてもよい。
【0021】
様々な実施形態では、水性分散体は0.1重量%以上〜3重量%、または好ましくは約0.25重量%以上〜1重量%の塩基または安定剤または緩衝剤を含有する。好適な塩基/安定剤/緩衝剤の例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸カリウム(一塩基性および二塩基性塩)、およびクエン酸ナトリウム等が挙げられる。
【0022】
架橋剤の典型的な濃度は、例えば、0.01〜0.075重量%であってもよい。
【0023】
一実施形態では、水性分散体の組成は次の通りである:
a)平均粒子径5μm未満の過酸化ベンゾイル37.5〜42重量%;
b)水53.5〜62重量%;
c)高分子ゲル化剤0.25〜1.5重量%;
d)平均8〜12個のグリセリン繰り返し単位を有するポリグリセリン部分を含有するポリグリセリルエステルであって、オクタン酸とデカン酸との混合物で部分的にエステル化されており、HLB値が12〜18のポリグリセリルエステル(例えば、カプリル酸/カプリン酸ポリグリセリル−10)0.1〜2.0重量%;
e)塩/架橋剤0.01〜0.05重量%;および
f)塩基/安定剤/緩衝剤0.25〜1.0重量%。
【0024】
水性分散体は、任意の方法を使用して製造することができる。例えば、水性分散体は、有機過酸化物の所望の粒子径(例えば、20μm未満、もしくは15μm未満、もしくは10μm未満、もしくは5μm未満、または3〜5μm、もしくは2〜5μm、もしくは1〜5μm、もしくは3〜10μm、もしくは2〜10μm、もしくは1〜10μm)を達成するまで、水と界面活性剤との存在下で有機過酸化物を粉砕/摩砕することにより製造することができる。粒子径は、ASTM UOP 856−07、レーザー光散乱による粉末の粒度分布(Particle Size Distribution of Powder by Laser Light Scattering)を使用して求めることができ、D50体積パーセントで報告される。
【0025】
粉砕は、ローター/ステーター方式のミル、水平ボールミル、または、最も好ましくは、垂直バスケットミル(Hockmeyer Companyにより供給されるものなど)などの当該技術分野で既知の任意の好適な装置で行うことができる。粉砕中の温度は、有機過酸化物が分解しないように制御されなければならない。典型的には、粉砕は40℃以下の温度で行われる。高分子ゲル化剤が水性分散体中に含まれ得る場合、粉砕工程後に、それを水性分散体に添加することが好ましい可能性がある。水性分散体はまた、米国特許第4,039,475号明細書、米国特許第4,092,470号明細書、米国特許第4,734,135号明細書、および米国特許第4,440,885号明細書に開示されるものなどの当該技術分野で既知の方法を使用して製造することもでき、それらの開示内容全体が本明細書に援用される。当該技術分野で既知の音波処理および超音波印加/方法も好適である。
【0026】
本発明の水性分散体は、食品工業および医薬品工業を含む、有機過酸化物の利用が望ましい様々な最終用途に有用である。例えば、水性分散体は、食品用漂白剤としてまたは抗ニキビ剤の成分として使用することができる。
【実施例】
【0027】
実施例1(比較例)
次の目標組成(記載する量は重量%である)を有する水性分散体を製造する:
過酸化ベンゾイル 53.3
水 44.15
ゲル化剤 0.5
モノオレイン酸デカグリセリン 1.5
架橋剤 0.05
塩基 0.5
【0028】
使用する界面活性剤は、Lonzaにより供給される、Polyaldo 10−1−Oモノオレイン酸デカグリセリン(オレイン酸でエステル化されたポリグリセリル)である。使用する過酸化ベンゾイルは、75重量%の過酸化ベンゾイルを含有する過酸化ベンゾイル/水混合物である(従って、製剤の実際の過酸化ベンゾイル含有率は40重量%である)。過酸化ベンゾイルを粉砕して平均粒子径を2μmに小さくする時、材料は非常に濃厚なペーストを形成し、そのため粉砕工程の速度が著しく遅くなる。粉砕を再開できるように、ペーストを「休ませ」、十分軟化させるため、粉砕を定期的に中断しなければならない。このため、過酸化ベンゾイルを粉砕して平均粒子径2μmにするための粉砕時間が非常に長くなる。
【0029】
実施例2(本発明の実施例)
次の目標組成(記載する量は重量%である)を有する水性分散体を製造する:
過酸化ベンゾイル 53.3
水 45.325
実施例1のゲル化剤 0.25
カプリル酸/カプリン酸ポリグリセリル−10 0.6
実施例1の架橋剤 0.025
実施例1の塩基 0.5
【0030】
使用する界面活性剤はPolyaldo 10−1−CCであり、これは、その供給業者であるLonzaにより「デカン酸、デカグリセリンとの混合モノエステル、およびオクタン酸」と記載されている。使用する過酸化ベンゾイルは、75重量%の過酸化ベンゾイルを含有する過酸化ベンゾイル/水混合物である(従って、製剤の実際の過酸化ベンゾイル含有率は40重量%である)。カプリル酸/カプリン酸ポリグリセリル−10界面活性剤では、モノオレイン酸デカグリセリン界面活性剤と比較して、予想外に粉砕効率が改善される。最も顕著な改善は、界面活性剤が3倍少なくて済み、分散体は全粉砕工程中、自由流動性液体のままである(即ち、粉砕を定期的に停止する必要がない)ことである。驚くべきことに、カプリル酸/カプリン酸ポリグリセリル−10界面活性剤を使用すると、実施例2の低い界面活性剤レベルでも、モノオレイン酸デカグリセリンを界面活性剤として使用する場合と比較して2倍速く平均粒子径2.5μmに達することができる。生成物は全工程中ずっと流体のままであるため、温度制御はずっと良好であり、分解の危険性が著しく低減する。界面活性剤のレベルが低くなるため、分散体の安定化に必要なゲル化剤(カラギーナン)が比較的少なくて済む。比較的少ないカラギーナンで済むため、粉砕により得られるペースト中に均質に分散させることがずっと容易になる。