特許第6193995号(P6193995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6193995糊付け不良検知システム及び糊付け不良検知方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6193995
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】糊付け不良検知システム及び糊付け不良検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/892 20060101AFI20170828BHJP
【FI】
   G01N21/892 Z
【請求項の数】19
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-523921(P2015-523921)
(86)(22)【出願日】2014年5月23日
(86)【国際出願番号】JP2014063628
(87)【国際公開番号】WO2014208226
(87)【国際公開日】20141231
【審査請求日】2016年11月2日
(31)【優先権主張番号】特願2013-131749(P2013-131749)
(32)【優先日】2013年6月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160359
【氏名又は名称】吉野石膏株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094835
【弁理士】
【氏名又は名称】島添 芳彦
(72)【発明者】
【氏名】山崎 正彦
【審査官】 蔵田 真彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−74646(JP,A)
【文献】 特開2003−293515(JP,A)
【文献】 特開2008−184206(JP,A)
【文献】 特開平6−171008(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0061777(US,A1)
【文献】 古屋 喜作,「石膏の回収と再利用」,資源と素材,社団法人資源・素材学会,1991年 2月,Vol. 107, No. 2,p. 154-159
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84−21/958
JSTPlus(JDreamIII)
CiNii
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
石膏ボード用原紙の下紙及び上紙の間に石膏スラリーを挟んだ状態で上紙及び下紙の縁部を糊付けして、石膏ボードの縁部断面を形成してなる連続積層体を形成し、該積層体を成型ベルトによって搬送するように構成された石膏ボード製造装置に設けられ、前記上紙及び下紙の糊付け部の糊付け不良を光学的検出手段により検出する糊付け不良検出システムにおいて、
前記成型ベルト上の前記連続積層体の片側に配置され、前記石膏スラリーの乾燥・硬化過程の前記連続積層体の縁部に向かって、前記成型ベルトの搬送方向と交差する方向に延びるレーザー光を照射する発光部と、
前記発光部に対向して前記連続積層体の反対側に配置され、前記発光部のレーザー光を受光する受光部と、
前記連続積層体によって遮られた前記レーザー光の高さが所定値又は所定割合を超えるときに糊付け不良の発生を判定するための制御装置とを備え、
前記レーザー光は、少なくとも部分的に前記連続積層体の上面の上側を通過するとともに、前記連続積層体の縁部の隆起によって部分的に遮られるように位置決めされることを特徴とする糊付け不良検出システム。
【請求項2】
複数の前記発光部が前記成型ベルトの搬送方向に間隔を隔てて配置され、複数の前記受光部が前記成型ベルトの搬送方向に間隔を隔てて配置されることを特徴とする請求項1に記載の糊付け不良検出システム。
【請求項3】
前記レーザー光は、前記成型ベルトの搬送方向に直交する水平な光軸を有することを特徴とする請求項1又は2に記載の糊付け不良検出システム。
【請求項4】
前記制御装置は、正常時に前記受光部が受光すべき受光量を基準値として設定し、前記受光部が検出した受光量を前記基準値と比較して、糊付け不良発生の有無を判定することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の糊付け不良検出システム。
【請求項5】
正常時に前記受光部が受光すべき受光量は、製造すべき石膏ボードの板厚に基づいて製造開始前に予め設定され、或いは、糊付け不良検出システムが製造開始後に定常的に検出する受光量に基づいて製造開始後に初期設定され又は設定変更されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の糊付け不良検出システム。
【請求項6】
前記制御装置は、前記発光部及び前記受光部の作動を制御するとともに、前記受光部の検出値を受信して受光量の測定値を演算する制御・演算部と、
正常時に前記受光部が受光すべき受光量を基準値として記憶するとともに、糊付け不良を判定するための判定しきい値を記憶する記憶部と、
前記測定値と前記基準値とを比較し、判定しきい値に基づいて糊付け不良発生の有無を判定する比較判定部と、
該比較判定部が糊付け不良の発生を判定したときに糊付け不良の発生を表示又は警報する手段とを有することを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の糊付け不良検出システム。
【請求項7】
石膏ボード用原紙の下紙及び上紙の間に石膏スラリーを挟んだ状態で上紙及び下紙の縁部を糊付けして、石膏ボードの縁部断面を形成してなる連続積層体を形成し、該積層体を成型ベルトによって搬送するように構成された石膏ボード製造装置に光学的検出手段を設け、前記上紙及び下紙の糊付け部の糊付け不良を光学的検出手段によって検出する糊付け不良検出方法において、
前記成型ベルト上の前記連続積層体の片側に配置された発光部によって、前記石膏スラリーの乾燥・硬化過程の前記連続積層体の縁部に向かって、前記成型ベルトの搬送方向と交差する方向に延びるレーザー光を照射し、
前記レーザー光が少なくとも部分的に前記連続積層体の上面の上側を通過するとともに、前記連続積層体の縁部の隆起によって前記レーザー光が部分的に遮られるように、前記レーザー光を位置決めし、
前記発光部に対向して前記連続積層体の反対側に配置された受光部によって、前記発光部のレーザー光を受光し、
前記受光部の受光量を測定し、所定値又は所定割合以上の受光量低下の有無により糊付け不良発生の有無を判定することを特徴とする糊付け不良検出方法。
【請求項8】
複数の前記発光部を前記成型ベルトの搬送方向に間隔を隔てて配置し、複数の前記受光部を前記成型ベルトの搬送方向に間隔を隔てて配置し、水平な光軸を有する各レーザー光を前記成型ベルトの上流域及び下流域において前記連続積層体に照射することを特徴とする請求項7に記載の糊付け不良検出方法。
【請求項9】
前記受光部の受光量を測定値として制御装置に入力し、正常時に前記受光部が受光すべき受光量を基準値として設定し、前記受光部により検出された受光量の測定値を前記制御装置により前記基準値と比較し、前記測定値が前記基準値の所定割合以下に低減したとき、糊付け不良の発生を前記制御装置の表示手段又は警報手段により表示又は警報することを特徴とする請求項7又は8に記載の糊付け不良検出方法。
【請求項10】
前記所定割合を95〜85%の範囲内の値に設定したことを特徴とする請求項9に記載の糊付け不良検出方法。
【請求項11】
複数の前記受光部の少なくとも1つが検出した受光量に基づいて、糊付け不良の発生が判定されたときに、糊付け不良の発生を表示手段又は警報手段により表示又は警報することを特徴とする請求項8に記載の糊付け不良検出方法。
【請求項12】
各々の受光部が検出した受光量に基づいて判定された糊付け不良発生の判定結果が、いずれも糊付け不良の発生を示すとき、糊付け不良の発生を表示手段又は警報手段により表示又は警報することを特徴とする請求項8に記載の糊付け不良検出方法。
【請求項13】
石膏ボード製造開始後に前記受光部が定常的に受光する受光量を前記基準値として設定することを特徴とする請求項9又は10に記載の糊付け不良検出方法。
【請求項14】
前記基準値は、製造すべき石膏ボードの板厚に基づいて製造開始前に予め設定されることを特徴とする請求項9又は10に記載の糊付け不良検出方法。
【請求項15】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載された糊付け不良検出システムを有する石膏ボード製造装置。
【請求項16】
170〜300g/mの坪量を有する前記下紙を供給するための下紙供給装置を有することを特徴とする請求項15に記載の石膏ボード製造装置。
【請求項17】
請求項7乃至14のいずれか1項に記載された糊付け不良検出方法を用いた石膏ボード製造方法。
【請求項18】
170〜300g/mの坪量を有する前記下紙を原材料として前記石膏ボードを製造することを特徴とする請求項17に記載の石膏ボード製造方法。
【請求項19】
比重0.9以上の高比重石膏ボード、或いは、比重0.6以下の軽量石膏ボードを製造することを特徴とする請求項17又は18に記載の石膏ボード製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糊付け不良検出システム及び糊付け不良検出方法(Apparatus and Method for Detecting Glue-Joint Failure)に関するものであり、より詳細には、石膏ボード用原紙の糊付け部の糊付け不良を石膏ボード製造プロセスにおいて検出する糊付け不良検出システム及び糊付け不良検出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードは、石膏を主体とする芯部(コア)を石膏ボード用原紙で被覆してなる板状体として知られており、防耐火性、遮音性、施工性及び経済性等の優位性より、建築用内装材として多彩な建築物において使用されている。石膏ボードは、一般に、スラリー連続流し込み成型法により製造される。この成型法は、混合攪拌工程、成型工程及び乾燥・切断工程を含む。混合撹拌工程において、焼石膏、接着助剤、硬化促進剤、泡(又は泡剤)、その他の添加剤等、更には、混和材及び水が、混合撹拌機で混練される。成型工程において、混合撹拌機で調整した焼石膏スラリー又は泥漿(以下、「スラリー」という)が、石膏ボード用原紙の間に流し込まれ、板状且つ帯状の連続積層体が成形される。乾燥・切断工程において、搬送装置上で或る程度まで乾燥硬化した連続積層体が粗切断され、強制乾燥され、しかる後、製品寸法に切断される。
【0003】
このような石膏ボード製造過程においては、下紙原紙スタンドの石膏ボード用原紙ロールから繰り出された石膏ボード用原紙の下紙(以下、「下紙原紙」という。)は、連続走行するベルトコンベア装置の成型ベルト(上部走行帯又は上部軌道)によって連続搬送される。混合撹拌機が連続的に吐出するスラリーは、下紙原紙上に流し延べられる。下紙原紙の左右の縁部には、スコーリング装置又は研削装置等によって複数のスコア(折れ線又は折り曲げ線)が形成され、下紙原紙の各縁部は、スコアに沿って折り曲げられる。他方、石膏ボード用原紙の上紙(以下、「上紙原紙」という。)は、混合攪拌機の上流側に配置された上紙原紙スタンドの石膏ボード用原紙ロールから繰り出され、スラリー上に積層される。上紙原紙をスラリー上に積層する直前に上紙原紙の左右の縁部に糊を塗布又は塗着する糊付け装置(gluing device)が、石膏ボード製造装置に配設される。糊付け装置は、所定量の糊を上紙原紙の左右の縁部に連続的に塗布又は塗着する糊供給部を有する。
【0004】
糊付け装置によって糊付けされた上紙原紙の各縁部は、下紙原紙の各縁部に整合され且つ重ねられ、下紙原紙、スラリー及び上紙原紙からなる三層構造の連続積層体が、成型板又は成型ローラ等の成型装置に連続供給される。成型装置によって板状の連続帯に賦形された三層構造の連続積層体は、ベルトコンベア装置によって連続搬送され、ベルトコンベア装置上で或る程度まで乾燥硬化した後、粗切断装置によって粗切断され、しかる後、余剰の水分を除去する乾燥装置によって強制乾燥され、最終的に切断装置によって製品寸法に切断される。
【0005】
図12は、下紙原紙1及び上紙原紙2を糊付けした上記連続積層体Wの縁部構造を例示する部分断面図及び部分斜視部である。図12(A)には、正常に糊付けされた縁部の断面が示され、図12(B)及び図12(C)には、糊付け不良が発生した縁部の形態が示されている。
【0006】
図12(A)に示す如く、下紙原紙1及び上紙原紙2が糊付け部Gにおいて所望の如く接着すると、乾燥・硬化前のスラリーSを封入する矩形断面のエッジ部Eが形成される。厚さtの連続積層体Wは、図12(C)に矢印で示す成型ベルトの搬送方向に搬送される。図12(B)及び図12(C)に剥離部又は空隙部Kとして示す如く、糊付け部Gの不完全な接着により、上紙原紙2の縁部が下紙原紙1の縁部から部分剥離することがある。このような剥離部Kは、糊付け直後に発生し、或いは、スラリーSの乾燥・硬化時に発生する。糊付け直後に発生した僅かな剥離部Kは、スラリーSの乾燥・硬化過程において自然に再接着することもあるので、製造ラインにおいて剥離部Kの発生箇所を特定することは、極めて困難である。
【0007】
また、比重0.9以上の高比重石膏ボードを製造する製造ラインでは、比重0.9未満の標準的比重の石膏ボードを製造する製造ラインに比べ、このような剥離部Kが比較的高い頻度で発生する。これは、高比重石膏ボードにおいては、比較的厚く且つ坪量が大きい原紙が用いられること、そして、高比重のスラリーの重量又は荷重が下紙原紙及び上紙原紙に作用することに起因するものと考えられる。
【0008】
更には、石膏ボードの標準品(比重0.7〜0.8)よりも比重が小さい軽量の石膏ボード(以下、「軽量石膏ボード」という。)を製造する場合においても、石膏ボード全体の強度を担保するため、比較的重量が大きい原紙を使用されることがあり、従って、このような原紙を用いて軽量石膏ボードを製造する際においても、糊付け不良が発生する頻度が比較的多い。
【0009】
このような剥離部Kが残留した石膏ボード製品は、出荷不能な規格外品又は不良製品として製品群から除去せざるを得ず、この結果、製造ロスが増大して製造歩留りが悪化する。石膏ボード製造プロセスにおける製造歩留りを向上するには、糊付け不良の発生を早期且つ確実に検出し、糊付け装置の調節又は調整等により糊付け不良の原因を早期に解消又は改善することが望ましい。
【0010】
特開2000-74646号公報(特許文献1)には、石膏ボードのエッジ部の成型不良を検出すべくエッジ面(側端面)の角度を光学的検出手段で検出するエッジ角度検出装置が記載されている。このエッジ角度検出装置は、レーザー等の光源、CCD撮像装置及び画像処理装置等から構成される。光源は、上記連続積層体の側縁帯域に対して撮像用光を継続的に照射し、撮像装置は、エッジ面の反射光を受光し、エッジ部の画像を継続的に撮像する。画像処理装置は、エッジ面の映像を画像処理し、見掛け上のエッジ幅を計測し、エッジ幅の計測値に基づいてエッジ角度を検出する。
【0011】
また、特開平5-346319号公報(特許文献2)には、上記連続積層体の縁部又は表面に生じる不良を光学的検出手段により検出することを意図した面検査装置が記載されている。この検査装置は、連続積層体の縁部又は表面に線状又は面状の光を照射して輝線又は模様を縁部又は表面に表出せしめる投光器と、連続積層体の反射光を受光して連続積層体上の輝線又は模様を結像し、縁部又は表面に表れる輝線又は模様の傾斜又は変動を演算処理又は数値解析により検出する受光器とから構成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2000-74646号公報
【特許文献2】特開平5-346319号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、エッジ角度の不良を検出するエッジ角度検出装置(特許文献1(特開2000-74646号公報))では、上紙原紙及び下紙原紙の糊付け不良を検出することはできない。仮に、糊付け不良と関連したエッジ角度の変化又は変動をエッジ角度検出装置によって検出し得たとしても、これが、糊付け不良に起因するものか否か、判別することができず、従って、特許文献1のエッジ角度検出装置によって糊付け不良を検出することはできない。
【0014】
他方、連続積層体の縁部又は表面に輝線又は模様を光学的に形成し、輝線又は模様の傾斜又は変動を演算処理により検出する特開平5-346319号公報(特許文献2)の面検査装置によれば、模様の変化によって連続積層体の異常を検出し得るかもしれない。しかし、この種の異常が、糊付け不良であるか否かは、判別することができず、従って、特許文献2の面検査装置によっても糊付け不良を検出することはできない。
【0015】
また、特許文献1及び2の装置は、撮像用の光を光源又は投光器から連続積層体上に照射し、連続積層体の反射光を撮像装置又は受光器の結像部に結像せしめることにより製品の不良を検出する構成のものであるので、撮像用光の反射光と、製造現場の自然光又は人工光の反射光とを判別可能な環境又は条件が必要とされる。このため、特許文献1及び2の装置では、比較的大掛かりな暗幕等を検出装置系又は検査装置系の周囲に設置して、製造現場又は製造環境の自然光又は人工光が被検部に影響するのを制限し、撮像用光の反射光を明瞭に視認可能又は結像可能にする必要が生じる。しかし、このような暗幕等の設置は、石膏ボード製造装置の構造及び規模を考慮すると、実務的に困難である。
【0016】
更に、上述のとおり、糊付け箇所の剥離(図12の剥離部K)は、糊付け直後に発生するだけではなく、スラリーの乾燥・硬化時にも発生する。また、糊付け直後に発生した剥離部が、スラリーの乾燥・硬化過程において自然に再接着することもある。従って、製造ライン上のどこで剥離が発生するか、について予め想定することは極めて困難である。このため、製造ライン上の複数箇所において糊付け不良を検出することが望ましいが、撮像用の光を連続積層体に照射して、その反射光を結像する方式の検出装置又は検査装置(特許文献1及び2)を石膏ボード製造装置の複数箇所に設置すると、石膏ボード製造装置の構造が複雑化するだけではなく、装置全体の初期的な設備費又は初期投資が高額化してしまう。
【0017】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、上紙原紙及び下紙原紙の糊付け不良を簡易な構成で早期且つ確実に検出することができ、しかも、連続積層体の搬送方向に間隔を隔てた石膏ボード製造ラインの複数の位置において糊付け不良を検出する複数の検出装置系を比較的容易に隔設することができる糊付け不良検出システム及び糊付け不良検出方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、上記目的を達成すべく、石膏ボード用原紙の下紙及び上紙の間に石膏スラリーを挟んだ状態で上紙及び下紙の縁部を糊付けして、石膏ボードの縁部断面を形成してなる連続積層体を形成し、該積層体を成型ベルトによって搬送するように構成された石膏ボード製造装置に設けられ、前記上紙及び下紙の糊付け部の糊付け不良を光学的検出手段により検出する糊付け不良検出システムにおいて、
前記連続積層体の片側に配置され、前記成型ベルトの搬送方向と交差する方向に延びるレーザー光を前記連続積層体の縁部に向かって照射する発光部と、
前記発光部に対向して前記連続積層体の反対側に配置され、前記発光部のレーザー光を受光する受光部と、
前記連続積層体によって遮られた前記レーザー光の高さが所定値又は所定割合を超えるときに糊付け不良の発生を判定するための制御装置とを備え、
前記レーザー光は、少なくとも部分的に前記連続積層体の上面の上側を通過するとともに、前記連続積層体の縁部の隆起によって部分的に遮られるように位置決めされることを特徴とする糊付け不良検出システムを提供する。
【0019】
本発明は又、石膏ボード用原紙の下紙及び上紙の間に石膏スラリーを挟んだ状態で上紙及び下紙の縁部を糊付けして、石膏ボードの縁部断面を形成してなる連続積層体を形成し、該積層体を成型ベルトによって搬送するように構成された石膏ボード製造装置に光学的検出手段を設け、前記上紙及び下紙の糊付け部の糊付け不良を光学的検出手段によって検出する糊付け不良検出方法において、
前記連続積層体の片側に配置された発光部によって、前記成型ベルトの搬送方向と交差する方向に延びるレーザー光を前記連続積層体の縁部に向かって照射し、
前記レーザー光が少なくとも部分的に前記連続積層体の上面の上側を通過するとともに、前記連続積層体の縁部の隆起によって前記レーザー光が部分的に遮られるように、前記レーザー光を位置決めし、
前記発光部に対向して前記連続積層体の反対側に配置された受光部によって、前記発光部のレーザー光を受光し、
前記受光部の受光量を測定し、所定値又は所定割合以上の受光量低下の有無により糊付け不良発生の有無を判定することを特徴とする糊付け不良検出方法を提供する。
【0020】
本発明者の実験によれば、縁部の糊付け不良が発生すると、上紙及び下紙の糊付け部は、少なくとも連続積層体の厚さ(石膏ボードの板厚)の5〜10%、或いは、10%以上隆起する性質がある。本発明の上記構成によれば、発光部が投光したレーザー光は、少なくとも部分的に連続積層体の上面の上側を通過し、受光部によって受光されるが、連続積層体の縁部が隆起すると、縁部の隆起によってレーザー光が部分的に遮られる。従って、連続積層体が遮ったレーザー光の光量又は光量割合を検出することにより、早期且つ確実に糊付け不良の発生を判定し、糊付け不良の発生を作業員等に表示又は警報することができる。作業員等は、糊付け不良の表示又は警報に基づいて糊付け装置の調節又は調整等を行うことにより、糊付け不良の状態を早期且つ迅速に解消することができるので、多数の格外品を製造することなく、歩留り率を向上することができる。
【0021】
また、本発明者の実験によれば、糊付け箇所の剥離は、糊付け直後に発生するだけではなく、成型ベルト上におけるスラリーの乾燥・硬化中にも発生するので、石膏ボード製造ラインの複数の位置において糊付け不良発生の有無を検出することが望ましい。本発明の上記構成によれば、対をなす発光部及び受光部を検出装置系として石膏ボード製造ライン上の任意の位置に配置すれば良いので、複数の検出装置系を石膏ボード製造ラインの適所に比較的容易に隔設することができる。従って、本発明の上記構成によれば、石膏ボード製造ライン上の複数の位置において糊付け不良を検出する複数の検出装置系を比較的容易に石膏ボード製造ラインに隔設することができる。
【0022】
他の観点より、本発明は、上記構成の糊付け不良検出システムを有する石膏ボード製造装置を提供する。好ましくは、石膏ボード製造装置は、170〜300g/mの坪量を有する下紙(例えば、0.3mm以上(0.4mm以下)及び200g/mの紙厚及び坪量を有する下紙)を下紙搬送ラインに供給する下紙供給装置を有する。
【0023】
更に他の観点より、本発明は、上記構成の糊付け不良検出方法を用いた石膏ボード製造方法を提供する。好ましくは、170〜300g/mの坪量を有する下紙(例えば、0.3mm以上(0.4mm以下)及び200g/mの紙厚及び坪量を有する下紙)が原材料として使用され、比重0.9以上の高比重石膏ボード、或いは、比重0.6以下の軽量石膏ボードが製造される。
【発明の効果】
【0024】
本発明の糊付け不良検出システム及び糊付け不良検出方法によれば、上紙原紙及び下紙原紙の糊付け不良を簡易な構成で早期且つ確実に検出することができ、しかも、連続積層体の搬送方向に間隔を隔てた石膏ボード製造ラインの複数の位置において糊付け不良を検出する複数の検出装置系を比較的容易に隔設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1は、石膏ボードのエッジ部の各種形態を例示する石膏ボードの部分断面図である。
図2図2は、石膏ボードの製造工程を部分的且つ概略的に示す石膏ボード製造装置の部分断面図である。
図3図3は、石膏ボードの製造工程を部分的且つ概略的に示す石膏ボード製造装置の部分平面図である。
図4図4は、上流側の投光レーザーセンサ及び受光レーザーセンサと、連続積層体との位置関係を示す石膏ボード製造装置の断面図である。
図5図5は、糊付け不良検出システムの原理を説明するための概略断面図であり、9.5mmの石膏ボードの製造プロセスにおける糊付け不良の検出方法が示されている。
図6図6は、糊付け不良検出システムの原理を説明するための概略断面図であり、12.5mmの石膏ボードの製造プロセスにおける糊付け不良の検出方法が示されている。
図7図7は、レーザービームの受光率及び遮蔽率の変化を例示する線図(タイムチャート)であり、糊付け不良が全く発生していない状態が示されている。
図8図8は、レーザービームの受光率及び遮蔽率の変化を例示する線図(タイムチャート)であり、糊付け不良に至らない不陸又は凹凸が連続積層体の縁部に発生した状態が示されている。
図9図9は、レーザービームの受光率及び遮蔽率の変化を例示する線図(タイムチャート)であり、糊付け直後に糊付け不良が発生した状態が示されている。
図10図10は、レーザービームの受光率及び遮蔽率の変化を例示する線図(タイムチャート)であり、連続積層体の搬送過程において糊付け不良が発生した状態が示されている。
図11図11は、レーザービームの受光率及び遮蔽率の変化を例示する線図(タイムチャート)であり、糊付け直後に発生した糊付け不良が連続積層体の搬送過程においても検出された状態が示されている。
図12図12は、下紙原紙及び上紙原紙を糊付けした連続積層体の縁部構造を例示する部分断面図及び部分斜視部であり、図12(A)には、正常に糊付けされた縁部の断面が示され、図12(B)及び図12(C)には、糊付け不良が発生した縁部の形態が例示されている。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の好適な実施形態によれば、複数の発光部が成型ベルトの搬送方向に間隔を隔てて配置され、複数の受光部が成型ベルトの搬送方向に間隔を隔てて配置され、複数のレーザー光が成型ベルトの上流域及び下流域において連続積層体に照射される。好ましくは、各レーザー光は、成型ベルトの搬送方向に直交する水平な光軸を有する。
【0027】
糊付け不良検出システムは、複数の受光部の少なくとも1つが検出した受光量に基づいて、糊付け不良の発生が判定されたときに、糊付け不良の発生を表示手段又は警報手段等の視覚的又は聴覚的報知手段により報知(表示又は警報)する。変形例として、糊付け不良検出システムは、各々の受光部が検出した受光量に基づく糊付け不良発生の判定結果の全てが、糊付け不良の発生を示すとき、糊付け不良の発生を表示手段又は警報手段により表示又は警報する。
【0028】
好ましくは、受光部の受光量が測定値として上記制御装置に入力される。制御装置は、正常時に受光部が受光すべき受光量の基準値を設定し、受光部が検出した受光量の測定値を基準値と比較して、糊付け不良発生の有無を判定する。正常時に受光部が受光すべき受光量は、例えば、製造すべき石膏ボードの板厚に基づいて製造開始前に予め設定され、或いは、製造開始後に糊付け不良検出システムが定常的に検出する受光量に基づいて製造開始後に初期設定又は設定変更される。糊付け不良検出システムは、受光量の測定値が基準値の所定割合以下に低減したとき、糊付け不良の発生を制御装置の表示手段又は警報手段等により表示又は警報する。好ましくは、上記所定割合は、95〜85%の範囲内の値、例えば、90%に設定される。なお、この割合又は比率は、石膏ボードの板厚、種類等に基づいて適宜設定変更し得る性質のものである。
【0029】
本発明の好ましい実施形態において、上記制御装置は、制御・演算部、記憶部及び比較判定部を有する。制御・演算部は、発光部及び受光部の作動を制御するとともに、受光部の検出値を受信して受光量の測定値を演算する。記憶部は、正常時に受光部が受光すべき受光量を基準値として記憶するとともに、糊付け不良を判定すべく上記基準値に基づいて設定された判定しきい値を記憶する。比較判定部は、測定値と基準値とを判定しきい値に基づいて比較して、糊付け不良発生の有無を判定する。好ましくは、上記制御装置は、比較判定部が糊付け不良の発生を判定したときに糊付け不良の発生を表示又は警報する手段を更に有する。
【実施例】
【0030】
以下、添付図面を参照して本発明の好適な実施例について詳細に説明する。
【0031】
図1は、石膏ボードのエッジ部の各種形態を例示する石膏ボードの部分断面図である。
【0032】
板厚tの石膏ボードBは、石膏スラリーの硬化体からなる石膏コアCを上下の石膏ボード原紙、即ち、下紙原紙1及び上紙原紙2によって被覆した構造を有する。図1(A)には、スクエアエッジを有する石膏ボードBが示されている。石膏ボードBのエッジ部Eは、直角に設定されたエッジ角度αを有する。下紙原紙1は角部e1、e2において折り曲げられる。糊を塗布又は塗着した上紙原紙2の裏面縁部(図1において下面縁部)が下紙原紙1の縁部上面に重ねられ、糊付け部Gが形成される。図1(B)には、ベベルエッジを有する石膏ボードBが示されている。下紙原紙1は、角部e3、e4、e5において折り曲げられ、糊を塗布又は塗着した上紙原紙2の裏面縁部が下紙原紙1の縁部上面に重ねられ、糊付け部Gが形成される。図1(C)には、テーパーエッジを有する石膏ボードBが示されている。下紙原紙1は、e6、e7、e8において折り曲げられ、糊を塗布又は塗着した上紙原紙2の裏面縁部が下紙原紙1の縁部上面に重ねられ、糊付け部Gが形成される。
【0033】
図2及び図3は、石膏ボードの製造工程を部分的且つ概略的に示す石膏ボード製造装置の部分断面図及び部分平面図である。
【0034】
下紙スタンドの原紙ロール(図示せず)から繰り出された下紙原紙1が、石膏ボード製造装置の給紙テーブル9上に供給され、製造ライン上を矢印方向に搬送される。下紙原紙1には、スコーリング装置又は研削装置(図示せず)によって折れ線(スコア)が刻設される。例えば、スクエアエッジの場合、折れ線は、角部e1、e2に相応する位置に形成される。混合攪拌機(ミキサー)3が、下紙搬送ラインの上方に配置され、焼石膏、接着助剤、硬化促進剤、添加剤、混和材等の粉体原料P、泡F及び液体原料(水)Qが混合攪拌機3に供給される。混合攪拌機3は、これらの原料を混練し、管路4(4a、4b、4c)を介してスラリー(焼石膏スラリー)Sを下紙原紙1上に吐出する。管路4aは、下紙原紙1の幅方向中央領域に比較的低比重のスラリーSを吐出し、管路4b、4cは、下紙原紙1の両側の縁部分(エッジ領域)に比較的高比重のスラリーSを夫々吐出する。下紙原紙1は、スラリーSとともに製造ライン上を走行し、下紙原紙1の両側の縁部分は、ガイド部材5によって上側に折り曲げられる。
【0035】
上紙スタンドの原紙ロール(図示せず)から繰り出された上紙原紙2が、供給ローラ7を介してスラリーS上に給紙される。上紙原紙2の両側の縁部に所定量の糊を塗布又は塗着するための糊付け装置20が、供給ローラ7の近傍に配置される。糊付け装置20は、上紙原紙2の裏面縁部に上側から糊を連続供給する糊供給装置21を有する。糊供給装置21には、糊供給管23が接続され、糊供給管23は、糊供給源(図示せず)に接続される。
【0036】
下紙原紙1、スラリーS及び上紙原紙2は、上下の定盤8によって積層され、3層構造の連続積層体Wとして、石膏ボード成型装置30を通過する。成型装置30は、上下の水平プレート31、32を備える。下側プレート32は、下紙原紙1を水平に搬送するように石膏ボード製造装置の機枠(図示せず)に水平に固定される。昇降駆動装置33が上側プレート31の上側に間隔を隔てて配置され、上側プレート31に連結される。上側プレート31のレベルは、昇降駆動装置33によって微調整され、プレート31、32の間に形成される成型ゲート34の高さ寸法(ゲート寸法)Jは、下紙原紙1、スラリーS及び上紙原紙2の連続積層体Wに適切な成型圧力が作用するように厳密に管理される。連続積層体Wは、成型ゲート34を通過し、所望の板厚t(図1)を有する連続帯状の板体に成型される。
【0037】
成型装置30通過した連続積層体Wは、ベルトコンベア装置を構成する成型ベルト40の上側走行帯41により、後続工程(粗切断工程)に向かって搬送され、スラリーSの硬化反応が成型ベルト40上で進行する。粗切断ローラ45、46は、スラリー硬化反応が進行した連続帯状の積層体を粗切断し、これにより、石膏を主体とする芯部(コア)を石膏ボード用原紙で被覆してなる板状体、即ち、石膏ボードの原板が形成される。石膏ボードの原板は、乾燥機(図2及び図3に矢印Rで示す)に通され、強制乾燥され、しかる後、所定の製品長に切断され、かくして、石膏ボード製品が製造される。
【0038】
糊付け不良検出システム50を構成する製造ライン上流側及び下流側の投光レーザーセンサ51、52及び受光レーザーセンサ53、54が、成型ベルト40の外側に配置される。成型装置30と粗切断ローラ45、46とは、距離D1、離間する。上流側の投光レーザーセンサ51及び受光レーザーセンサ53は、対をなして配置され、センサ対51、53は、成型装置30から下流側に延在する距離D2の範囲内(D2=D1/4)の領域(以下、「上流域」という。)に配置される。下流側の投光レーザーセンサ52及び受光レーザーセンサ54は、対をなして配置され、センサ対52、54は、粗切断ローラ45、46から上流側に延在する距離D3の範囲内(D3=D1/4)の領域(以下、「下流域」という。)に配置される。上流域のセンサ対51、53と、下流域のセンサ対52、54とは、搬送方向に距離X、離間する。
【0039】
図4は、上流域の投光レーザーセンサ51及び受光レーザーセンサ53と、連続積層体Wとの位置関係を示す石膏ボード製造装置の断面図である。なお、図4に括弧書き符号で示すように、下流域の投光レーザーセンサ52及び受光レーザーセンサ54は、上流域のセンサ51、53と実質的に同じ構成を有する。
【0040】
石膏ボード製造装置の機枠60を構成する左右の横架材61には、軸受62、63が取付けられる。軸受62、63は、ベルトコンベア装置の上下の従動ローラ43、44を回転可能に支持する。成型ベルト40は、上側走行帯41及び下側走行帯42を構成する無端ベルトからなる。成型ベルト40は、多数の従動ローラ43、44及び駆動ローラ(図示せず)からなるローラ群に巻掛けられる。ベルトコンベア装置は、駆動装置(図示せず)を有し、駆動装置は、駆動ローラを回転駆動し、上側走行帯41を搬送方向に走行させ且つ下側走行帯42を逆走させる。
【0041】
センサ支持基台65を有するブラケット64が、各横架材61の上面に配設される。投光レーザーセンサ51が、片側(図4において左側)の基台65上に取付けられ、受光レーザーセンサ53が、反対側(図4において右側)の基台65上に取付けられる。センサ51は、所定高さHの可視光半導体レーザービームβを照射する。レーザービームβは、連続積層体Wの搬送方向と直交する水平光軸を有する。センサ53は、センサ51の発光部と対向する受光部を備える。連続積層体Wが上側走行帯41上に存在しない場合、センサ53は、所定高さHを有する細幅且つ縦長の薄い帯状レーザービームβをそのまま受光する。本例において、レーザービームβの下縁は、上側走行帯41の上面と同一レベルに位置し、レーザービームβの高さHは、30mmに設定される。なお、レーザービームβは、平面視(図3)においては、幅寸法(連続積層体Wの搬送方向におけるレーザービームβの寸法)を無視し得る細い直線状の光線である。
【0042】
センサ51、53は、制御信号線L1、L2を介してプログラマブルロジックコントローラ(PLC)等の制御ユニット70に接続される。制御ユニット70は、制御・演算部、記憶部、比較判定部及び駆動部を有する。制御・演算部は、センサ51〜54の作動を制御するとともに、センサ53、54の出力(検出信号)を受信する。記憶部は、正常時におけるセンサ53、54の受光量を基準値として記憶するとともに、センサ53、54が検出した受光量を測定値として記憶する。記憶部は又、正常時におけるセンサ53、54の受光量(基準値)の90%の受光量を判定しきい値として記憶する。比較判定部は、測定値及び基準値を判定しきい値に基づいて比較し、糊付け不良発生の有無を判定する。駆動部は、HMI(Human-Machine Interfaces) を構成するタッチパネル表示器71及び電子音警報器72等の作動を制御する。
【0043】
制御ユニット70は、制御信号線L3を介してタッチパネル表示器71に接続される。表示器71は、制御信号線L4を介して電子音警報器72に接続される。なお、図4に括弧書き符号で示すとおり、下流域のセンサ52、54も又、制御信号線L1"、L2"によって制御ユニット70に接続される。制御ユニット70、表示器71及び警報器72は、糊付け不良検出システム50の制御装置又は制御系を構成する。
【0044】
図5及び図6は、糊付け不良検出システム50の原理を説明するための概略断面図である。
【0045】
図5(A)には、板厚t=9.5mmの石膏ボードを製造するための連続積層体Wを上側走行帯41上に載せた状態が示されており、図6(A)には、板厚t=12.5mmの石膏ボードを製造するための連続積層体Wを上側走行帯41上に載せた状態が示されている。糊付け部G(図1)を適正に糊付けした正常な連続積層体Wにおいては、連続積層体Wの高さh1は、石膏ボードの板厚tと一致する。レーザービームβの高さHを30mmに設定した場合、センサ53の受光部が受光するレーザービームβの高さh2は、理論的には、h2=H−h1=20.5mm(図5(A))又は17.5mm(図6(A))である(但し、計測誤差の範囲は、無視する)。制御ユニット70の記憶部は、このような正常時におけるセンサ53(54)の受光量を基準値として記憶する。
【0046】
これに対し、糊付け部Gの糊付け不良が発生した場合、上紙原紙2の縁部は、図5(B)、図6(B)及び図12(B)(C)に示す如く浮き上がり、レーザービームβは、部分的に遮られる。即ち、センサ51(52)の発光部から見た連続積層体Wの高さは、見掛け上、隆起した糊付け部Gの高さを含む高さh3であり、センサ53(54)の受光部は、寸法Δh=h3−h1だけ高さh2の値が低減又は縮小したレーザービームβを受光する。従って、センサ53の受光部に入射するレーザービームβの高さh2は、20.5mm(図5(A))又は17.5mm(図6(A))よりもΔhだけ小さく、センサ53(54)の受光量は、正常時に比べ、Δh/[H−h1]の割合で低減する。制御ユニット70の記憶部は、このように変化したセンサ53(54)の受光量を測定値として記憶する。
【0047】
本例においては、連続積層体Wの規定高さ又は目標高さh1(=石膏ボードの板厚t)の約10%の値が、高さ低減値Δh=h3−h1の異常(従って、糊付け不良の発生)を示す基準として設定される。即ち、制御ユニット7は、Δh≧h1×約0.10(約10%)の条件が成立したとき(即ち、レーザービームβの高さ低減値Δhが約0.95mm(図5(B))又は約1.25mm(図6(B))以上の値に達したとき)、糊付け不良が発生したと判定するように設定される。このため、制御ユニット70は、正常時におけるセンサ53(54)の受光量(基準値)の90%の受光量を判定しきい値として設定し、この受光量を記憶部に記憶し、制御ユニット70の比較判定部は、センサ53の受光量が90%以下に低下したとき、糊付け不良が発生したと判定する。
【0048】
図7図11は、レーザービームβの受光量の変化を例示する線図(タイムチャート)であり、図7図11に示す線図は、タッチパネル表示器71(図4)の画面に表示される。図7図11において、縦軸は、センサ53、54の受光部によって検出されたレーザービームβの受光率(又は受光割合)η及び遮蔽率(又は遮蔽割合)λを示す指標である。受光率ηは、測定値/基準値の値であり、遮蔽率λは、[1−測定値]/基準値の値である。これらの数値は、Δhの値と密接に関連する。また、図7図11において、横軸は、時間軸である。上流側のセンサ51、53と下流側のセンサ52、54とは、搬送方向に距離Xだけ離間しているので、上流側のセンサ51、53が連続積層体Wの或る部位を検出する時刻T1と、下流側のセンサ52、54が同一部位を検出する時刻T2との時間差ΔTは、ベルトコンベア装置40の搬送速度と上記距離Xとによって定まる。
【0049】
図7には、連続積層体Wに糊付け不良が全く発生していない正常状態、即ち、基準値に相当する受光量がセンサ53、54によって検出された状態が示されている。この状態は、Δh=0の状態であり、連続積層体Wに糊付け異常が全く発生していない状態である。このような状態では、制御ユニット70は、電子音警報器72を起動させず、従って、電子音警報器72は警報音を発生しない。
【0050】
図8には、連続積層体Wの縁部に不陸又は凹凸等が若干発生しているが、計測誤差の範囲内、或いは、許容範囲内であって、実質的な糊付け不良が発生していないと見做される状態が示されている。これは、正規の石膏ボード製品が継続的に製造されている状態である。即ち、センサ53、54は、基準値×0.9を超える受光量(受光率η>0.9(90%))を検出しており、Δh<h1×約0.10の条件が維持されていると判断し得る。このような状態では、制御ユニット70の比較判定部は、糊付け不良が発生したと判定せず、従って、制御ユニット70は、電子音警報器72を起動させず、電子音警報器72は警報音を発生しない。
【0051】
図9には、センサ53が基準値×0.9以下の受光量(受光率η≦0.9(90%))を検出し、センサ54が基準値×0.9を超える受光量(受光率η>0.9(90%))を検出した状態が示されている。このように異なる受光量が検出される現象は、剥離部K(図12)が糊付け直後に発生した後、剥離部Kの隆起がスラリーSの乾燥・硬化に伴って縮小する場合に観られる。このような状態では、糊付け直後にΔh≧h1×約0.10の状態が発生し、従って、連続積層体Wに糊付け不良が発生していると判断し得るので、制御ユニット70は、電子音警報器72を起動し、電子音警報器72は、糊付け不良発生を作業員等に知らせる警報音を発生する。なお、このような受光量の変化が観られる場合、糊付け直後に発生した糊付け不良が自然に解消したものとして、糊付け不良が発生していないと判定することも可能である。
【0052】
図10には、センサ54が基準値×0.9以下の受光量(受光率η≦0.9(90%))を検出し、センサ53が基準値×0.9を超える受光量(受光率η>0.9(90%))を検出した状態が示されている。このように異なる受光量が検出される現象は、糊付け直後には正常な糊付け状態であるが、スラリーSの乾燥・硬化時に剥離部K(図12)が発生した場合や、糊付け直後に発生した微小な剥離部Kの隆起がスラリーSの乾燥・硬化に伴って増大した場合に観られる。このような状態では、成型ベルト40上でΔh≧h1×約0.10の状態が発生し、従って、連続積層体Wに糊付け不良が発生していると判断し得るので、制御ユニット70は、電子音警報器72を起動し、電子音警報器72は、糊付け不良発生を作業員等に知らせる警報音を発生する。
【0053】
図11には、剥離部K(図12)が糊付け直後に発生した後、スラリーSの乾燥・硬化時においても縮小せずに残留するといった典型的な糊付け不良の形態が示されている。即ち、図11に示す検出結果においては、センサ53、54の双方が基準値×0.9以下の受光量(受光率η≦0.9(90%))を検出している。制御ユニット70は、電子音警報器72を起動し、電子音警報器72は、糊付け不良発生を作業員等に知らせる警報音を発生する。
【0054】
制御ユニット70は、図7図11に示すセンサ53、54の検出結果をタッチパネル表示器71の画面に常時表示し、作業員等は、糊付け不良の発生を電子音警報器72の警報音により発生直後に認識することができる。作業員は、警報音発生を認識すると、タッチパネル表示器71の画面表示により糊付け不良の形態及び程度を確認し、糊付け不良の状態を解消すべく、糊付け装置20の糊供給装置21の糊供給量等を調節する。
【0055】
なお、投光レーザーセンサ51として、例えば、株式会社キーエンス製のデジタルレーザーセンサーLV−300Hを好適に使用し得る。また、受光レーザーセンサ53として、例えば、株式会社キーエンス製のデジタルレーザーセンサーLV−300Hを好適に使用し得る。更に、制御ユニット70を構成するプログラマブルロジックコントローラ(PLC)として、例えば、三菱電機株式会社製のMELSEC−Qシリーズのシーケンサを好適に使用し得る。また、タッチパネル表示器71として、例えば、株式会社キーエンス製のVT−3シリーズのタッチパネルディスプレイを好適に使用し、電子音警報器72として、例えば、株式会社パトライト製のシグナルホンを好適に使用し得る。
【0056】
次に、上記構成の糊付け不良検出システム50を備えた石膏ボード製造装置の作動について説明する。
【0057】
図2及び図3に示す如く、下紙原紙1は、ベルトコンベア装置40の搬送方向に連続的に供給され、混合攪拌機3は、スラリーSを下紙原紙1上に連続的に吐出する。スコーリング装置(図示せず)によって折れ線(スコア)を刻設した下紙原紙1の左右の縁部は、ガイド部材5によって上側に折り曲げられる。糊付け装置20によって左右の縁部に糊を塗布又は塗着した上紙原紙2は、下紙原紙1及びスラリーSの上に重ねられる。原紙1、2及びスラリーSは、定盤8及び成型装置30によって押圧・賦形されて3層構造の連続積層体Wに成形される。成型装置30の成型ゲート34を通過した連続積層体Wは、成型ベルト40の上側走行帯41によって連続搬送され、スラリーSの硬化反応が搬送中に進行する。連続積層体Wは、粗切断ローラ45、46によって粗切断され、後続する乾燥工程及び切断工程により、石膏ボード製品として最終加工される。
【0058】
糊付け不良検出システム50は、このような石膏ボード製造中に常時作動され、投光レーザーセンサ51、52は、連続積層体Wを横断するレーザービームβを常時照射する。受光レーザーセンサ53、54は、レーザービームβを常時受光し、レーザービームβの受光量検出値を制御ユニット70の制御・演算部に継続的に出力する。制御ユニット70は、センサ53、54の検出値に基づいて受光率η(及び遮蔽率λ)の数値及びグラフをタッチパネル表示器71の画面に表示する。
【0059】
制御ユニット70は、センサ53、54の検出値より得られた受光率η(又は遮蔽率λ)に基づいて糊付け不良の発生を所定の時間間隔(制御サイクル時間相当の時間間隔)で判定する。
【0060】
制御ユニット70は、糊付け不良が発生したと判定すると、電子音警報器72を起動し、電子音警報器72は、糊付け不良発生を作業員等に知らせる警報音を発生する。作業員は、警報音発生を認識して、タッチパネル表示器71の画面表示により糊付け不良の形態及び程度を確認するとともに、糊付け不良の状態を解消すべく、糊付け装置20の糊供給装置21の糊供給量等を調節する。
【0061】
このような糊付け不良検出システム50によれば、連続積層体Wの搬送方向に離間した複数の位置において糊付け不良発生の有無を検出することができるので、成型ベルト40上で糊付け部の剥離等が発生する形態の糊付け不良をも検出することができ、従って、糊付け不良を確実に検出することができる。また、上記構成の糊付け不良検出システム50によれば、センサ51〜54を製造ラインの適所に配置することにより、個々の製造プロセスに適した任意の位置において糊付け不良を検出することができ、しかも、センサの個数を増大して3箇所以上の多数箇所において糊付け不良を検出することも可能であるので、実用的且つ経済的に極めて有利である。
【0062】
更に、検出位置及び検出箇所数の最適化により、糊付け状態の不具合を確実且つ早期に発見することが可能となり、これにより、製造歩留りを向上して製造ロスを低減することが可能となる。本発明者等の実用化試験によれば、糊付け不良と関連した格外比率(一定期間内に製造された製品数中の格外品の比率)を糊付け不良検出システム50の採用により約1/100に低減し、歩留り率を大幅に向上することが可能となった。従って、上記構成の糊付け不良検出システム50の採用は、石膏ボードの生産性を向上する上で極めて有益である。
【0063】
また、近年において比較的需要が増大している高比重石膏ボード又は軽量石膏ボードの製造においては、紙厚が厚く且つ坪量が大きい紙が下紙原紙1として使用される。例えば、標準的な石膏ボードでは、下紙原紙1の紙厚及び坪量は、約0.19mm〜約0.21mm、約100〜約200g/m2であるのに対し、高比重石膏ボード又は軽量石膏ボードの製造に使用される下紙原紙1の紙厚及び坪量は、約0.34〜約0.36mm、約170〜約300g/m、好ましくは約200〜約300g/m、更に好ましくは、約230〜約250g/mである。このため、このような石膏ボードの製造に使用される下紙原紙は、反り易い性質を有する。また、高比重の石膏ボードの製造においては、高比重の未硬化スラリーが下紙原紙1の折り曲げ部を押し上げ、これに伴って、上紙原紙2が押し上げられる現象が発生し易い。このような高比重石膏ボード特有の紙質や、高比重スラリーの挙動又は性状等のために、高比重石膏ボードの製造においては、糊付け不良のトラブルが発生し易い。本発明者の調査によれば、高比重石膏ボード又は軽量石膏ボードの製造時に発生する糊付け不良の形態は、多くの場合、糊付け直後に上紙原紙及び下紙原紙が過渡的に接着した後、成型ベルト40による搬送中に糊付け部の剥離が発生する形態のものである。このような糊付け不良の形態は、従来の糊付け不良検出システムでは検出できなかった。これに対し、上記構成の糊付け不良検出システム50によれば、このような形態の糊付け不良を図10に示す如く確実に検出することができるので、極めて有利である。
【0064】
以上、本発明の好適な実施形態及び実施例について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態又は実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲内で種々の変形又は変更が可能である。
【0065】
例えば、上記実施例では、受光率=0.9(90%)を糊付け不良判定の判定しきい値として採用したが、判定しきい値は、石膏ボード製造装置の構造や、石膏ボードの種類等に相応して適宜設定変更することができる。
【0066】
また、上記実施例においては、上流側のセンサ53が基準値×0.9以下の受光量(受光率η≦0.9(90%))を検出し、下流側のセンサ54が基準値×0.9を超える受光量(受光率η>0.9(90%))を検出した状態においても、糊付け不良が発生したと判定しているが、このような場合には、糊付け不良がスラリーSの乾燥・硬化に伴って自然に解消したものとして、糊付け不良が発生していないと判定することも可能である。
【0067】
更に、上記実施例では、上流域及び下流域の2箇所において検出装置系(投光レーザーセンサ及び受光レーザーセンサ)を石膏ボード製造装置に配設しているが、3箇所以上の検出装置系を石膏ボード製造装置に配設しても良い。
【0068】
また、上記実施例においては、受光率に基づいて糊付不良を判定するように構成された制御系について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、異常値を一定値に固定し、様々な板厚のボードの糊付け不良を共通のしきい値を用いて検知し又は判定するようにすることも可能である。例えば、センサ53、54が受光するレーザービームβの高さh2の低減値Δhを測定し、低減値Δhの許容最大値Δhmaxを共通のしきい値として設定し、低減値Δh>Δhmaxが検出されたときに、糊付け不良の発生を判定することも可能である。
【0069】
加えて、上記実施例においては、糊付け不良検出システム50は、搬送方向に直交する水平光軸を有するレーザービームβを用いた構成のものであるが、レーザービームは、搬送方向に対して所定角度に傾斜した方向に配向することも可能である。
【0070】
更に、上記実施例においては、厚さ9.5mm及び12.5mmの石膏ボードの製造について例示的に説明したが、本発明は、これに限定されるものではなく、6mm、15mm、18mm、21mm、25mmの各板厚の石膏ボードの如く、様々な厚さの石膏ボードの製造に適用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、石膏ボード用原紙の下紙及び上紙の間に石膏スラリーを挟んだ状態で上紙及び下紙の縁部を糊付けし、石膏ボードの縁部断面を形成した連続積層体を成型ベルトによって搬送するように構成された石膏ボード製造装置に設けられ、上紙及び下紙の糊付け部の糊付け不良を光学的検出手段により検出する糊付け不良検出システム及び糊付け不良検出方法に適用される。
【0072】
本発明の糊付け不良検出システム及び糊付け不良検出方法によれば、上紙原紙及び下紙原紙の糊付け不良を簡易な構成で早期且つ確実に検出することができ、しかも、石膏ボード製造ライン上の複数の位置において糊付け不良を検出すべく、連続積層体の搬送方向に間隔を隔てた石膏ボード製造ラインの複数の位置に比較的容易に検出装置系を配設することができるので、その実用的価値は、顕著である。
【符号の説明】
【0073】
1 下紙原紙
2 上紙原紙
3 混合攪拌機
8 定盤
20 糊付け装置
21 糊供給装置
30 石膏ボード成型装置
40 成型ベルト
41 上側走行帯
42 下側走行帯
45、46 粗切断装置
50 糊付け不良検出システム
51、52 投光レーザーセンサ
53、54 受光レーザーセンサ
60 機枠
70 制御ユニット
71 タッチパネル表示器
72 電子音警報器
B 石膏ボード
C 石膏コア
E エッジ部
G 糊付け部
K 剥離部又は空隙部
S スラリー
W 連続積層体
X 距離
t 板厚
h 高さ
Δh 高さ低減値
α エッジ角度
β 可視光半導体レーザービーム
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