(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、本発明に係る電動車両の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。以下の説明で用いる各方向は、電動車両に乗った運転者から見た方向であり、左右方向は車体の車幅方向と一致する。
【0011】
図1は、本発明の実施形態に係る電動車両10の右側面図である。本実施形態の電動車両10は、電動二輪車であり、走行時には、前方から走行風を受ける。
図1に示すように、電動車両10は、車体フレーム12と、車体フレーム12の前部に設けられたフロントフォーク14と、フロントフォーク14に支持された前輪16と、車体フレーム12の後部に上下方向に揺動可能に取付けられたスイングアーム18と、スイングアーム18に支持された後輪20とを有している。
【0012】
図1に示すように、車体フレーム12は、ヘッドパイプ22と、ヘッドパイプ22から下方に傾斜しつつ後方へ延びるメインフレーム24と、メインフレーム24の後端に接続され、スイングアーム18を支持するピボットフレーム26と、メインフレーム24の後部およびピボットフレーム26の上部のそれぞれから後方に延びるリヤフレーム28とを有している。メインフレーム24は、ヘッドパイプ22から後方に延びる左右一対のフレーム部材30を有している。各フレーム部材30は、上下方向に間隔を隔てて配置された2本のパイプ部材30aを有している。
【0013】
また、
図1に示すように、電動車両10は、ステアリングハンドル32と、ステアリングハンドル32の後方においてメインフレーム24で支持されたダミータンク34と、ダミータンク34の後方においてリヤフレーム28で支持されたシート36と、ダミータンク34の下方においてメインフレーム24で支持されたバッテリユニット38と、バッテリユニット38の下方に配置されたインバータユニット40と、インバータユニット40の下方に配置されたモータユニット42とを有している。図示しないECU(Electronic Control Unit)は、各センサからの入力に応じて、インバータを含む各機器を制御する。ステアリングハンドル32には、左右一対のグリップ44aが設けられている。運転者は、シート36に跨ってグリップ44aを握り、ステアリングハンドル32を操作する。
【0014】
図1に示すように、バッテリユニット38は、複数のバッテリ46と、複数のバッテリ46を収容するバッテリボックス48と、バッテリボックス48に走行風を導入するための導風ダクト50と、バッテリボックス48に導入された走行風を後方へ排出するための排気ダクト52とを有している。導風ダクト50の前端開口50aは、ヘッドパイプ22よりも前方において前方に向けて開かれている。排気ダクト52の後端開口52aは、シート36の下方において後方に向けて開かれている。電動車両10の走行時には、走行風が、前端開口50aから導風ダクト50に取り込まれ、導風ダクト50を通してバッテリボックス48に供給される。この走行風が、複数のバッテリ46から熱を奪った後、排気ダクト52を後方へ流れ、後端開口52aから排出される。
【0015】
図1に示すように、モータユニット42は、動作時に発熱する駆動モータ54と、駆動モータ54の動力を「駆動輪」である後輪20に伝達するための動力伝達機構56と、駆動モータ54および動力伝達機構56を収容するケース58とを有している。駆動モータ54は、複数のバッテリ46からインバータ60(
図2)を介して供給される電力により駆動力を発生させるようにモータ動作する。また、駆動モータ54は、電動車両10の回生制動時に交流電流を発生させるように発電動作する。発電動作で発生した交流電流は、インバータユニット40のインバータ60(
図2)により直流に変換されて、複数のバッテリ46に蓄えられる。
【0016】
図2は、モータユニット42およびインバータユニット40を前後方向に延びる鉛直面で切断した断面を右方から示す断面図である。インバータユニット40は、駆動モータ54の動作モードをモータ動作と発電動作との間で切り換えることができるように構成されている。
図2に示すように、インバータユニット40は、IGBT(Insulated-Gate Bipolar Transistor)等のパワー半導体60aが実装されたインバータ60と、インバータ60を収容するインバータケース62と、インバータケース62に設けられた冷却器64とを有している。冷却器64には、冷却液を流すラビリンス(迷路)構造の流路64aが形成されている。流路64aは、仕切壁68によってインバータ60を収容する収容空間62aから隔離されており、入口66aおよび出口66bを除いた部分において密閉されている。インバータユニット40は、バッテリボックス48の下面に取付けられている。インバータ60は、図示しない導電線によって複数のバッテリ46(
図1)および駆動モータ54のそれぞれに電気的に接続されている。
【0017】
図3は、モータユニット42を水平面で切断した断面を上方から示す断面図である。
図2および
図3に示すように、モータユニット42のケース58は、前後に連なって形成されたモータ収容部70と変速機収容部72とを有している。モータ収容部70は、左右方向に延びる軸を有する有底円筒状に形成されており、モータ収容部70には、駆動モータ54が収容されている。駆動モータ54は、モータ軸74と、モータ軸74に取付けられたロータ76と、ロータ76の周囲に設けられた円環状のステータ78と、これらを収容する有底円筒状のモータケース80とを有している。モータケース80の外周面とモータ収容部70の内周面との間には、「冷却液」としてのオイルが供給される冷却ジャケット82が設けられている。
図3に示すように、モータ軸74の左右方向両端部は、モータ軸受け84によって支持されている。本実施形態のモータ軸受け84は、ボールベアリングである。モータ軸74の一方端部(本実施形態では右端部)には、駆動モータ54の駆動力を出力する出力ギヤ86が取付けられている。
【0018】
図3に示すように、駆動モータ54の後方には、多段式の変速機88が配置されており、駆動モータ54と変速機88との間には、クラッチ機構90が配置されている。クラッチ機構90は、クラッチ軸92と、クラッチ軸92の一方端部(本実施形態では右端部)に取付けられたクラッチ部94と、クラッチ軸92の周囲に回転自在に配置されたクラッチギヤ96とを有している。クラッチギヤ96は、駆動モータ54の出力ギヤ86に噛み合わされており、出力ギヤ86と共に回転される。クラッチ部94は、クラッチギヤ96の回転力をクラッチ軸92に伝達する伝達状態と、その回転力の伝達を遮断する遮断状態とを切り換えることができるように構成されている。
【0019】
図3に示すように、変速機88は、入力軸98と、入力軸98を回転可能に支持する軸受け98aと、入力軸98に対して平行に配置された出力軸100と、出力軸100を回転可能に支持する軸受け100aとを有している。本実施形態の入力軸98は、クラッチ機構90のクラッチ軸92と同じ部品である。入力軸98とクラッチ軸92とは別々に形成されてもよい。入力軸98には、複数の入力ギヤ102a,104aが取付けられており、出力軸100には、複数の出力ギヤ102b,104bが取付けられている。複数の入力ギヤ102a,104aと複数の出力ギヤ102b,104bとが一対一で噛み合うことによって、ギヤ比が異なる複数(本実施形態では2つ)のギヤ対102,104が構成されている。また、入力軸98には、ドグクラッチ106が取付けられている。ドグクラッチ106で出力ギヤ102bを出力軸100に接続すると、ギヤ対102を用いた変速段で出力軸100に回転力が伝達される。一方、ドグクラッチ106で出力ギヤ104bを出力軸100に接続すると、ギヤ対104を用いた変速段で出力軸100に回転力が伝達される。なお、多段式の変速機88に代えて、ベルト式の無段変速機を用いてもよいし、変速比が一定の減速機構を用いてもよい。出力軸100の一方端部(本実施形態では左端部)には、第1スプロケット108が取付けられており、第1スプロケット108と後輪20の第2スプロケット110(
図1)との間には、チェーン112が巻き掛けられている。
【0020】
図4は、駆動モータ54の動力伝達経路を示すブロック図である。
図4に示すように、モータユニット42において、駆動モータ54の駆動力は、クラッチ機構90のクラッチ部94、クラッチ機構90のクラッチ軸92、変速機88の入力軸98、変速機88の出力軸100およびチェーン112を経て後輪20(駆動輪)に伝達される。クラッチ機構90からチェーン112までの部分が動力伝達機構56である。クラッチ軸92には、クラッチ軸92から伝達される動力で駆動される機械駆動ポンプ114が接続されている。本実施形態の機械駆動ポンプ114は、図示しないインペラを有しており、このインペラがクラッチ軸92から伝達される回転力で回転される。本実施形態では、クラッチ軸92および機械駆動ポンプ114が、動力伝達経路におけるクラッチ部94よりも下流側に配置されている。したがって、クラッチ部94が回転力の伝達を遮断する遮断状態のときでも、クラッチ軸92および機械駆動ポンプ114は、後輪20(駆動輪)から伝達される回転力を受けて駆動され得る。
【0021】
なお、機械駆動ポンプ114は、駆動モータ54または動力伝達機構56で機械的に駆動されるように構成されていればよく、機械駆動ポンプ114が接続される部分は、クラッチ軸92に限定されない。例えば、機械駆動ポンプ114は、モータ軸74または出力軸100に接続されてもよく、入力軸98とクラッチ軸92とが別々に形成される場合には、入力軸98に接続されてもよい。また、機械駆動ポンプ114は、
図3に示す出力ギヤ86、クラッチギヤ96、入力ギヤ102a,104aおよび出力ギヤ102b,104bのいずれか一つに対して、中間ギヤ等(図示省略)を介して接続されてもよい。
図1に示すように、モータユニット42の右側面には、電動ポンプ116が取付けられている。
【0022】
図2に示すように、モータユニット42のケース58の下部には、モータ収容部70や変速機収容部72から流下してきたオイルを貯留する「第1貯留部」としてのオイルパン118が設けられている。オイルパン118は、駆動モータ54の下方に配置されており、オイルパン118の内部には、オイルに混入した異物を除去するためのストレーナ120が配置されている。ケース58には、オイルを循環させるための液体流路122を構成する孔124が形成されている。ストレーナ120は、液体流路122の上流側の端部を構成する孔124の入口124aに接続されている。ケース58の上部には、オイルを貯留する「第2貯留部」としてのオイル溜り126が設けられている。オイル溜り126は、駆動モータ54の上方に配置されており、オイルパン118とオイル溜り126とは、液体流路122を介して連通されている。
【0023】
図2に示すように、オイル溜り126は、ケース58の上部に形成された凹部128と、凹部128の上部開口を塞ぐ蓋体130とを有している。凹部128は、駆動モータ54と動力伝達機構56との間に配置されるように、駆動モータ54および動力伝達機構56のそれぞれの上方の領域に跨るように形成されている。本実施形態では、駆動モータ54と動力伝達機構56とが、水平方向に並んで配置されているので、駆動モータ54および動力伝達機構56のそれぞれの上部間に凹部128を形成し易い。凹部128の側壁部128aには、筒状の入口部132が設けられている。凹部128の底部128bには、駆動モータ54に向けて「冷却液」としてのオイルを重力により滴下させるための少なくとも一つの第1滴下孔134と、動力伝達機構56に向けて「潤滑液」としてのオイルを重力により滴下させるための少なくとも一つの第2滴下孔136とが形成されている。蓋体130は、ボルト等の固定部材138を用いて凹部128の上端面に液密的に取付けられている。
【0024】
オイル溜り126がオイルで満たされるまでの間に、第1滴下孔134および第2滴下孔136から排出されるオイルの単位時間当たりの排出量を排出量Qとし、入口部132からオイル溜り126に供給されるオイルの単位時間当たりの供給量を供給量Rとしたとき、第1滴下孔134および第2滴下孔136の数、口径および形状等は、排出量Qが供給量Rよりも小さくなるように定められている。したがって、入口部132からオイル溜り126にオイルを供給し続けると、オイル溜り126がオイルで満たされる。凹部128の内部空間は、入口部132、第1滴下孔134および第2滴下孔136を除いた部分において密閉されているので、オイル溜り126がオイルで満たされた後は、オイル溜り126に貯留されたオイルが機械駆動ポンプ114または電動ポンプ116の吐出圧で加圧される。
【0025】
図2に示すように、本実施形態では、複数の第1滴下孔134が、上下方向において駆動モータ54の頂部P1に対向するように、左右方向に間隔を隔てて配置されている。各第1滴下孔134の下端は、冷却ジャケット82の環状の空間に連通されている。したがって、各第1滴下孔134から滴下されたオイルは、駆動モータ54の頂部P1から前後に分かれて、駆動モータ54の表面を流下する。なお、各第1滴下孔134には、その流路断面積を小さくするように絞り部が形成されてもよい。この場合には、オイル溜り126に貯留されたオイルが加圧されたときに、第1滴下孔134からオイルを勢いよく噴射させることができる。
【0026】
図2に示すように、本実施形態では、複数の第2滴下孔136が、ギヤ対102,104(
図3)の噛合部P2に向くように、左右方向に間隔を隔てて配置されている。第2滴下孔136は、その口径が第1滴下孔134の口径よりも小さくなるように、筒状のノズル140によって形成されている。ノズル140の軸は、鉛直方向に対してやや後方に傾斜している。したがって、オイル溜り126に貯留されたオイルが機械駆動ポンプ114または電動ポンプ116の吐出圧で加圧されると、第2滴下孔136から噛合部P2に向けてオイルが勢いよく噴射される。なお、各第2滴下孔136には、ノズル140に代えて、その流路断面積を小さくするための絞り部が形成されてもよいし、ノズル140に絞り部が形成されてもよい。また、各第2滴下孔136は、モータ軸受け84、出力ギヤ86およびクラッチギヤ96の少なくとも一つに向けられていてもよい。
【0027】
図2に示すように、凹部128の底部128bは、駆動モータ54側から動力伝達機構56側に向けて低くなるように傾斜しており、第2滴下孔136の上端は、第1滴下孔134の上端よりも下方に配置されている。第1滴下孔134および第2滴下孔136のそれぞれからオイルが滴下されると、オイル溜り126に貯留されたオイルの液面高さが徐々に低下する。オイルの液面高さが第1滴下孔134の上端よりも低くなると、その後は、第2滴下孔136だけからオイルが滴下される。したがって、第2滴下孔136の口径が小さいにもかかわらず、第2滴下孔136から動力伝達機構56へ供給されるオイルの供給量が、第1滴下孔134から駆動モータ54へ供給されるオイルの供給量よりも少なくなり過ぎることを抑制できる。
【0028】
図2に示すように、モータユニット42の前方には、走行風を利用してオイルを冷却するためのオイルクーラ142が配置されている。ケース58の前面には、液体流路122を構成する孔124の出口124bが設けられている。出口124bとオイルクーラ142の入口142aとが、第1パイプ部材144、第1ホース146および第2パイプ部材148を介して接続されている。オイルクーラ142の出口142bとインバータユニット40に設けられた流路64aの入口66aとが、第2ホース150を介して接続されている。インバータユニット40に設けられた流路64aの出口66bとオイル溜り126の入口部132とが、第3ホース152を介して接続されている。また、オイル溜り126の第1滴下孔134とオイルパン118とは、冷却ジャケット82の環状の空間を介して連通されており、オイル溜り126の第2滴下孔136とオイルパン118とは、変速機収容部72の内部空間を介して連通されている。これにより、液体流路122のうちケース58の孔124を除いた部分が構成されている。
【0029】
図5は、オイル供給経路の構成を示すブロック図である。
図5に示すように、モータユニット42の液体流路122には、機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116が設けられている。これらの一方または両方によって、オイルパン118に貯留されているオイルが汲み上げられて液体流路122に吐出される。
図4に示すように、機械駆動ポンプ114は、駆動モータ54または後輪20(駆動輪)から回転力を受けて機械的に駆動され、駆動モータ54または後輪20(駆動輪)の回転数に比例した量のオイルを液体流路122に吐出する。電動ポンプ116は、図示しないモータを内臓しており、このモータの回転数は、電動ポンプ制御部(図示省略)で制御される。
【0030】
図5に示すように、オイルパン118に貯留されたオイルは、機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116によって汲み上げられて、液体流路122に吐出される。このオイルの一部は、オイルクーラ142に供給され、コア142c(
図2)の内部を上方に流れる過程で、コア142cの外表面を流れる走行風によって冷却される。オイルクーラ142で冷却されたオイルは、インバータユニット40に供給され、冷却器64の流路64a(
図2)を流れる過程で、インバータ60(
図2)から熱を奪う。
【0031】
図5に示すように、インバータユニット40を通過したオイルは、オイル溜り126に供給され、オイル溜り126に一時的に貯留されるとともに、第1滴下孔134および第2滴下孔136(
図2)から排出される。第1滴下孔134から排出されたオイルは、「冷却液」として駆動モータ54の頂部P1(
図2)に供給され、駆動モータ54の外周面を流下しながら、駆動モータ54から熱を奪う。第2滴下孔136から排出されたオイルは、「潤滑液」としてギヤ対102,104の噛合部P2(
図2)に供給され、ギヤ対102,104の表面を流下しながら、これらを潤滑する。駆動モータ54の外周面を流下したオイルおよびギヤ対102,104を流下したオイルは、オイルパン118で回収される。
【0032】
図5に示すように、機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116から液体流路122に吐出されたオイルの一部は、変速機側流路154(
図2)を通して動力伝達機構56に「潤滑液」として供給され、軸受け98a,100a(
図3)の表面を流下しながら、これらを潤滑する。機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116から液体流路122に吐出されたオイルの一部は、モータ側流路156(
図2)を通して駆動モータ54の左右両側のモータ軸受け84(
図3)に「潤滑液」として供給され、モータ軸受け84の表面を流下しながら、これらを潤滑する。軸受け98a,100a(
図3)を流下したオイルおよびモータ軸受け84を流下したオイルは、オイルパン118で回収される。
【0033】
電動車両10のメインスイッチをオフにしている状態では、機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116のいずれもが駆動されないため、動力伝達機構56および駆動モータ54の被潤滑部は、「潤滑液」としてのオイルが不足した状態にある。メインスイッチをオンにしたとき、電動ポンプ116が駆動され、「潤滑液」としてのオイルが被潤滑部に供給される。軸受け98a,100aおよびモータ軸受け84に対しては、電動ポンプ116から吐出された高圧のオイルを直ちに供給できるので、これらを迅速に潤滑できる。電動車両10の走行時には、駆動モータ54の駆動力によって機械駆動ポンプ114が駆動される。駆動モータ54を停止させた場合や、クラッチ部94を遮断状態にした場合にも、後輪20(駆動輪)の回転力によって機械駆動ポンプ114が駆動される。したがって、走行時には、電動ポンプ116の駆動時間を短くして消費電力を低減できる。電動車両10の走行時に、インバータユニット40および駆動モータ54等の発熱部が高温になったり、或いは、発熱部が高温になる条件(例えば、駆動モータ54のトルクが所定値を超えるなど)を満たすと、電動ポンプ116が駆動され、「冷却液」としてのオイルが発熱部に供給される。これにより、発熱部を効果的に冷却でき、発熱部の熱破壊を抑制できる。
【0034】
機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116のいずれか一方が駆動されると、液体流路122を通して、オイル溜り126にオイルが供給される。上述のように、オイル溜り126における排出量Qは供給量Rよりも小さいので、オイル溜り126にオイルを供給し続けると、オイル溜り126がオイルで満たされる。その後、さらにオイルを供給し続けると、オイル溜り126に満たされたオイルに機械駆動ポンプ114または電動ポンプ116の吐出圧が加えられ、
図2に示す第1滴下孔134および第2滴下孔136からオイルが勢いよく排出される。口径が小さい第2滴下孔136では、オイルの流速が増大するので、ノズル140の軸が鉛直線に対して傾斜しているにもかかわらず、その軸方向にオイルを噴射させることができ、噛合部P2に対してオイルを効率よく供給できる。第1滴下孔134および第2滴下孔136に絞り部が形成されている場合にも、オイルを噴射させることができ、オイルを効率よく供給できる。機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116の両方が停止されると、オイル溜り126へのオイルの供給が停止される。しかし、オイル溜り126には、オイルが貯留されているので、このオイルが無くなるまでは、駆動モータを冷却でき、かつ、ギヤ対102,104を潤滑できる。しかも、インバータユニット40の冷却器64は、オイル溜り126よりも上方に配置されており、機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116の両方が停止した場合も、自重によって冷却器64からオイル溜り126に冷却液が流れるように配管(第3ホース152)のレイアウトが設計されている。
【0035】
オイル溜り126は、ケース58の凹部128の上部開口を塞ぐ蓋体130を有しているので、凹部128に満たされた冷却液が外部に漏れることが防止される。また、第2滴下孔136の入口は、第1滴下孔134の入口よりも下方位置に形成されているので、発熱部分に比べて潤滑部分への滴下を長引かせることができる。また、インバータ60の熱を奪った冷却液がオイル溜り126に導かれるので、オイルクーラ140で冷却された冷却液が、直接にオイル溜り126に導かれる場合に比べて、冷却液の粘性が低下することになり、各滴下孔134,136での液の通過を促進させることができる。また、第1滴下孔134の方が第2滴下孔136よりも口径が大きいので、発熱部分への冷却液の供給量を増やすことができる。また、第2滴下孔136は、変速機88の入力ギヤ102a,104aと出力ギヤ102b,104bとの噛合部P2に向けて、冷却液を噴射するように絞る形状に形成されるので、少量の冷却液でギヤ対102,104を効果的に潤滑することができる。
【0036】
本実施形態によれば、駆動モータ54を効果的に冷却できるとともに、ギヤ対102,104を効果的に潤滑できる。また、機械駆動ポンプ114を駆動するための専用の動力源を設ける必要がないので、機械駆動ポンプ114を安価に製造できる。
【0037】
図2に示すように、「第2貯留部」としてのオイル溜り126がケース58の上部に一体に形成されているので、ケース58とは別にオイル溜り126を設ける必要がなく、オイル溜り126を安価に製造できる。なお、「第2貯留部」は、ケース58とは別に設けられてもよい。例えば、インバータユニット40における冷却器64の容量を大きくし、この冷却器64を「第2貯留部」として用いてもよい。この場合には、冷却器64の底部に第1滴下孔および第2滴下孔を形成してもよい。
【0038】
図2に示すように、「第2貯留部」としてのオイル溜り126が駆動モータ54と動力伝達機構56との間に配置されているので、駆動モータ54と動力伝達機構56との間の領域を有効に利用でき、オイル溜り126を形成することでケース58が大型化することを抑制できる。
【0039】
図3に示すように、動力伝達機構56は、クラッチ部94を有しており、機械駆動ポンプ114は、動力伝達経路におけるクラッチ部94よりも下流側に位置する部分から動力が伝達されるように構成されている。したがって、機械駆動ポンプ114は、クラッチ部94が遮断状態になった場合でも、後輪20(駆動輪)から回転力を受けて駆動し続けることができ、オイル溜り126にオイルを供給し続けることができる。
【0040】
図2に示すように、上述の実施形態では、オイル溜り126に第1滴下孔134および第2滴下孔136が設けられているが、第2滴下孔136は省略されてもよい。この場合でも、第1滴下孔134の数、口径および形状等は、オイル溜り126がオイルで満たされるように構成されることが望ましい。つまり、第1滴下孔134を通してオイル溜り126から自然に排出されるオイルの単位時間当たりの排出量を排出量Q´とし、入口部132からオイル溜り126に供給されるオイルの単位時間当たりの供給量を供給量R´としたとき、第1滴下孔134の数、口径および形状等は、排出量Q´が供給量R´よりも小さくなるように定められることが望ましい。
【0041】
図6は、オイル供給経路の変形例を示すブロック図である。
図6のブロック図は、
図5のブロック図から変更された部分だけを示している。
図6に示す変形例では、
図5に示すオイルクーラ142に代えてオイルクーラ160が設けられており、モータユニット42(
図2)の前方には、ラジエータ162が配置されている。オイルクーラ160とラジエータ162とは、冷却液を循環させる循環流路164で連通されている。循環流路164を流れる冷却液は、液体流路122を流れるオイルよりも熱伝導率が大きい液体(水等)である。循環流路164におけるラジエータ162の下流側には、インバータユニット166が設けられており、循環流路164におけるラジエータ162の上流側には、冷却液ポンプ168が設けられている。
【0042】
ラジエータ162では、ラジエータコア162aの内部を流れる冷却液と、ラジエータコア162aの表面を流れる走行風との間で熱交換が行われる。ラジエータ162で冷却された冷却液は、インバータユニット166に供給され、インバータ(図示省略)を冷却した後、オイルクーラ160に供給される。オイルクーラ160では、機械駆動ポンプ114および電動ポンプ116(
図5)からオイル流路160aに供給されたオイルと、インバータユニット166から冷却液流路160bに供給された冷却液との間で熱交換が行われる。オイルクーラ160でオイルから熱を奪った冷却液は、冷却液ポンプ168に吸引され、再びラジエータ162に供給される。この変形例では、オイルよりも熱伝導率が大きい冷却液によって、インバータユニット166およびオイルを効果的に冷却できる。
【0043】
図6に示す冷却液ポンプ168としては、電動ポンプが用いられてもよいし、駆動モータ54または動力伝達機構56(
図4)から伝達される回転力によって駆動される機械駆動ポンプが用いられてもよい。冷却液ポンプ168として機械駆動ポンプが用いられる場合、この冷却液ポンプ168は、機械駆動ポンプ114(
図4)と一体的に形成されてもよい。例えば、機械駆動ポンプ114および冷却液ポンプ168は、駆動モータ54または動力伝達機構56から伝達される回転力によって回転される共通の回転軸を有していてもよい。この場合には、機械駆動ポンプ114と冷却液ポンプ168とを別々に形成する場合よりも、冷却液ポンプ168を安価に製造できる。
【0044】
本発明に係る電動車両は、電動二輪車に限らず、例えばATV(All Terrain Vehicle:不整地走行車両)や小型運搬車等であってもよい。また、駆動源として燃料電池を搭載した電動車両や、駆動源として駆動モータ54およびエンジンの両方を搭載したハイブリッドタイプの電動車両であってもよい。