(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194019
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】鋼板の熱処理方法およびその実施のための装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/58 20060101AFI20170828BHJP
C23C 2/02 20060101ALI20170828BHJP
C21D 9/573 20060101ALI20170828BHJP
C21D 1/46 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
C21D9/58 101
C23C2/02
C21D9/573 101Z
C21D1/46 A
【請求項の数】20
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-556578(P2015-556578)
(86)(22)【出願日】2013年2月6日
(65)【公表番号】特表2016-512572(P2016-512572A)
(43)【公表日】2016年4月28日
(86)【国際出願番号】IB2013050979
(87)【国際公開番号】WO2014122499
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2015年10月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】515214729
【氏名又は名称】アルセロールミタル
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ラルニコル,マイウェン・ティフェン・ソジグ
(72)【発明者】
【氏名】ボルディニョン,ミシェル・ロジェ・ルイ
(72)【発明者】
【氏名】ファンデン・エインデ,グザビエ・マルク・ジャック・エドモン・ロベール
(72)【発明者】
【氏名】ファリーニャ,アナ・イザベル
(72)【発明者】
【氏名】ヘルケンス,パスカル
(72)【発明者】
【氏名】ノビル,ジャン−フランソワ
(72)【発明者】
【氏名】スマッル,ジュリアン・クリストファー・ミシェル
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第03158515(US,A)
【文献】
特開昭60−145327(JP,A)
【文献】
特開2012−012692(JP,A)
【文献】
特開昭58−164733(JP,A)
【文献】
米国特許第03390021(US,A)
【文献】
特開昭58−145306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 9/52− 9/66
C21D 1/02− 1/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの溶融酸化物浴(5、16)の中に鉄合金シート(1)を浸漬することにより、走行時に鉄合金シート(1)上で熱処理を行なう工程を含む、鉄合金シート(1)の熱処理方法であって、
・溶融酸化物浴(5、16)の粘度は、3.10−1Pa.sより低く、浴(5、16)の表面は非酸化性雰囲気に接しており、溶融酸化物は鉄に対して不活性であり、浴(5、16)の入口における鉄合金シート(1)の温度と浴(5、16)の温度との間の差(ΔΤ)は25℃から900℃の間であり;
・浴(5、16)の出口における鉄合金シート(1)の表面に残存する酸化物の残留物が除去される、鉄合金シート(1)の熱処理方法。
【請求項2】
浴(5、16)に入る時の鉄合金シート(1)の温度が、浴(5、16)の温度より低く、結果として鉄合金シート(1)が加熱される、請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項3】
鉄合金シート(1)が、溶融酸化物浴(5、16)中への浸漬前に予熱される、請求項2に記載の熱処理方法。
【請求項4】
溶融酸化物浴(5、16)の温度が、600℃から900℃の範囲内にある、請求項2または3のいずれか一項に記載の熱処理方法。
【請求項5】
溶融酸化物浴(5、16)の温度が、700℃から850℃の間にある、請求項4に記載の熱処理方法。
【請求項6】
鉄合金シート(1)が、溶融酸化物浴(5、16)の中で加熱された後に冷却される、請求項1から5のいずれか一項に記載の熱処理方法。
【請求項7】
溶融酸化物浴(5、16)が初めは
・45%w≦B2O3≦90%w;
・10%w≦Li2O≦55%w;
・0%w≦Na2O≦10%w;
からなり、
ここで、Na2Oは、存在する場合には、少なくとも部分的に、CaO、K2O、SiO2、P2O5、Mn2Oのうちの1つまたはいくつかと置き換えられ得る、請求項2から6のいずれか一項に記載の熱処理方法。
【請求項8】
溶融酸化物浴(4、16)が、初めは45%w≦B2O3≦55%wおよび40%w≦LiO2≦50%wからなる、請求項7に記載の熱処理方法。
【請求項9】
浴(5、16)に入る時の鉄合金シート(1)の温度が、浴(5、16)の温度より高く、結果として鉄合金シート(1)が冷却される、請求項1に記載の熱処理方法。
【請求項10】
溶融酸化物浴(5、16)の温度が600℃から700℃の間である、請求項9に記載の熱処理方法。
【請求項11】
溶融酸化物浴(4、16)が初めは
・45%w≦B2O3≦70%w;
・30%w≦Li2O≦55%w;
・10%w≦Na2O≦20%w;
からなり、
ここで、Na2Oが、少なくとも部分的に、CaO、K2O、SiO2、P2O5、Mn2Oのうちの1つまたはいくつかと置き換えられ得る、請求項9または10に記載の熱処理方法。
【請求項12】
冷却工程が、請求項9から11に記載の方法を使用することにより実施される、請求項6に記載の熱処理方法。
【請求項13】
鉄合金シート(1)が最後にコーティング工程を受ける、請求項1から12のいずれか一項に記載の熱処理方法。
【請求項14】
鉄合金シート(1)が鋼板である、請求項1から13のいずれか一項に記載の熱処理方法。
【請求項15】
溶融酸化物浴(5、16)の粘度が、2.10−1Pa.sより低い、請求項1から14のいずれか一項に記載の熱処理方法。
【請求項16】
3.10−1Pa.sより低い粘度を有する溶融酸化物浴(5、16)を含む、請求項1から15のいずれか一項に記載の熱処理方法を実施するための装置であって、
・浴(5、16)の表面が非酸化性雰囲気に接しており;
・溶融酸化物が鉄に対して不活性であり;
・装置が、浴の出口において鉄合金シート(1)の表面に残存する溶融酸化物の残留物を除去するための手段を含む、装置。
【請求項17】
溶融酸化物浴(5、16)の上流に設けられた、鉄合金シートを予熱するための手段(12)を含む、請求項16に記載の装置。
【請求項18】
溶融酸化物浴(5、16)の下流に設けられた、鉄合金シート(1)をコーティングするための手段(7)を含む、請求項16または17に記載の装置。
【請求項19】
溶融酸化物浴(5、16)とコーティング手段(7)との間に設けられた、鉄合金シート(1)を冷却するための手段(11)を含む、請求項18に記載の装置。
【請求項20】
溶融酸化物浴(5、16)の粘度が、2.10−1Pa.sより低い、請求項16から19のいずれか一項に記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄合金シートの熱処理方法、特に鋼板の熱処理方法、およびこのような方法の実施のために設計された装置に関する。
【背景技術】
【0002】
冷延鋼板は、これらの加工性を改良するために、加熱帯、均熱帯、第1冷却帯および第2冷却帯ならびに場合により過時効帯をこの順で有する連続焼鈍炉により熱処理され、これを通してストリップが連続的に走行する。
【0003】
連続焼鈍炉の加熱帯は、直接燃焼焼鈍炉またはラジアントチューブ焼鈍炉を含むことができる。これらの2つの型の焼鈍炉は、ストリップをその再結晶温度まで加熱するために単独でまたは組み合わせて使用することができる。しかしながら、直接燃焼焼鈍炉またはラジアントチューブ焼鈍炉で、ストリップの温度を制御し、ストリップの表面全体に沿ったその温度の良好な均一性を確実にすることは難しい。さらに、シートを加熱するためにこれらの炉を使用することは、シートの表面への酸化物の形成につながる可能性があり、そのため、さらに酸洗いおよび/またはショットブラスティング工程によって酸化物が除去されなければならない。
【0004】
これらの問題を解決するために、文献FR−A−2 524 004は、走行する鋼ストリップを焼鈍する方法を開示しており、この前記ストリップは、炉内を走行する代わりに、950℃以上で維持された溶融ガラス浴内を走行する。次いで、ストリップは、ストリップの表面上に形成された凝固したガラス被膜を備えた状態で溶融ガラス浴から取り出され、次に、ガラス被膜を破壊するまたは剥離するために、このストリップは400℃より低い温度まで冷却され、好ましくは300℃以下まで冷却される。950℃において測定した浴の粘度は、20Pa.sを超えない。冷却工程は、例えば、ストリップ表面上に、ガス、好ましくは不活性ガス、または液体水を噴出させることにより行なわれる。
【0005】
この方法は、表面を酸化させずにストリップを焼鈍することを可能にするが、この方法には高温でガラス浴を維持することが必要であり、したがって、多大なエネルギーが必要となる。さらに、このような高温では、浴を構成する溶融ガラスが蒸発する。この蒸気は有害であり、蒸気は回収されねばならない。さらに、浴は定期的に補充されねばならない。その理由は、ストリップ上に沈積したガラスを補填せねばならないことからだけではなく、蒸発が追加の消費につながることからでもある。
【0006】
この方法は、さらにストリップの表面上のガラス被膜の形成を含んでおり、この方法は、前記のように、400℃より低い温度でストリップを冷却する工程、およびガラス被膜を除去する工程が追加されることを意味する。これらの工程は、鋼ストリップの生産を減速させ、400℃より低い温度において冷却することは、亜鉛めっきが処理の次の工程において必要な場合に、走行するストリップが再加熱されねばならないことを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】仏国特許出願公開第2524004号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
(発明の要旨)
したがって、本発明の目的は、前述の欠点を回避するまたは制限すること、および、エネルギー消費を総合的に削減し、ストリップの生産を減速せずに、シートの表面全体に沿った温度の均一性を保証する、鉄合金シート、特に鋼板の連続的な熱処理方法を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的のために、本発明の主題は、少なくとも1つの溶融酸化物浴の中に鉄合金シートを浸漬することにより、走行時に前記シート上で熱処理を行なう工程を含む、鉄合金シートの熱処理方法であり、
・前記溶融酸化物浴の粘度は、3.10
−1Pa.sより低く、好ましくは2.10
−2Pa.sより低く、前記浴の表面は非酸化性雰囲気に接しており、前記溶融酸化物は鉄に対して不活性であり、浴の入口における前記鉄合金シートの温度と前記浴の温度との間の差は、25℃から900℃の間であり、好ましくは50℃から250℃の間であり、
・前記浴の出口における前記鉄合金シートの表面に残存する酸化物の残留物は除去される。
【0010】
第1の実施形態では、浴の入口における前記鉄合金シートの温度は、浴の温度より低く、結果として前記鉄合金シートは加熱される。
【0011】
前記鉄合金シートは、前記溶融酸化物浴の中へ浸漬する前に予熱されてもよく、このような予熱は、任意の標準的手段によって行なうことができ、または前記溶融酸化物浴より低い温度でシートを別の溶融酸化物浴に浸すことによって行なうことができる。
【0012】
前記溶融酸化物浴の温度は、600℃から900℃の範囲内にあってもよく、好ましくは700℃から850℃の間にあってもよい。
【0013】
前記鉄合金シートは、前記溶融酸化物浴の中で加熱された後に冷却されてもよい。
【0014】
溶融酸化物浴には初めに以下が含まれてもよく、
・45%w≦B
2O
3≦90%w;
・10%w≦Li
2O≦55%w;
・0%w≦Na
2O≦10%w;
Na
2Oは、存在する場合には、少なくとも部分的に、CaO、K
2O、SiO
2、P
2O
5、Mn
20のうちの少なくとも1つまたはいくつかと置き換えられ得る。
【0015】
溶融酸化物浴の組成は、初めに45%w≦B
2O
3≦55%wおよび40%w≦LiO
2≦50%wであってもよい。
【0016】
別の実施形態では、浴の入口における前記鉄合金シートの温度は、浴の温度より高くてもよく、結果として前記鋼板は冷却される。
【0017】
前記溶融酸化物浴の温度は600℃から700℃の間であってよい。
【0018】
溶融酸化物浴には初めに以下が含まれてもよく、
・45%w≦B
2O
3≦70%w;
・30%w≦Li
2O≦55%w;
・10%w≦Na
2O≦20%w;
Na
2Oは、少なくとも部分的に、CaO、K
2O、SiO
2、P
2O
5、Mn
2Oのうちの1つまたはいくつかと置き換えられ得る。
【0019】
加熱工程の後の鉄合金シートの前記冷却工程は、前記溶融酸化物浴の中で行なわれてもよい。
【0020】
前記鉄合金シートの表面に残存する溶融酸化物の残留物は、例えば、機械装置(ブラシ、カーボンフェルトなど)などの任意の適切な手段および/またはガス吹き付けノズルによって除去されてもよい。
【0021】
鉄合金シートは、最後にコーティング工程を受けてもよい。
【0022】
鉄合金シートは鋼板であってもよい。
【0023】
さらに、発明の主題は、3.10
−1Pa.sより低い粘度、好ましくは2.10
−2Pa.sより低い粘度である溶融酸化物浴を含む、前記熱処理方法を実施するための装置であって、
・前記浴の表面が非酸化性雰囲気に接しており;
・前記溶融酸化物が鉄に対して不活性であり;
・前記浴の出口において前記鉄合金シートの表面に残存する溶融酸化物の残留物を除去するための手段を含む、装置でもある。
【0024】
これは、溶融酸化物浴の上流に設けられた、鉄合金シートを予熱するための手段を含んでもよい。
【0025】
これは、溶融酸化物浴の下流に設けられた、鉄合金シートをコーティングするための手段を含んでもよい。
【0026】
これは、好ましくは溶融酸化物浴とコーティング手段の間にある、鉄合金シートを冷却するための手段を含んでもよい。
【0027】
浴の出口で鉄合金シートの表面に残存する溶融酸化物の残留物を除去するための手段は、ブラシおよび/またはガス吹き付けノズルを含んでもよい。
【0028】
基本的に、本発明は、シートが浴を出た後に、特に、その後シートが、亜鉛めっき、ガルバニーリング、アルミニウム処理などのコーティング工程を受ける場合、シート上に存在し得る溶融ガラスの完全除去を必要とする点で、FR−A−2 524 004の方法と異なる。本発明の方法の利点は、さらに、浴に入る前に鋼板表面に存在し得る酸化鉄層が、浴の中で除去されるということであり、また、浴を出た後に、その表面をさらに洗浄することなく、シート表面はコーティング工程の準備ができるということである。
【0029】
本発明の特徴および利点は、添付図面を参照することによって、以下の説明、例から、より明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】本発明の第1の実施形態による連続焼鈍ラインの概略図である。
【
図2】本発明の第2の実施形態による連続焼鈍ラインの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
図1に例示されるように、本発明の第1の実施形態では、冷延鋼板1は、このラインの異なるモジュールを連続的に走行し、一群の輸送ロール2によって移動される。
【0032】
鋼板は、焼鈍モジュール9によって先ず搬送される。この焼鈍モジュールは、鉄に対して不活性な溶融酸化物の浴5を含む容器3から構成される。言いかえれば、これらの酸化物は、酸素含有雰囲気で起こることとは反対に、その表面およびシート1の最も外側の領域と化学的に反応しない。ストリップが酸化物浴へ入る場合、特にストリップ温度が室温に近ければ、鋼ストリップは酸化物浴へ入る前に好ましくは脱脂される。浴5の温度T
Bは、鋼板1が浴5に入る時に、鋼板1の温度T
Eより高く、この温度における粘度ηは、3.10
−1Pa.sより低く、好ましくは2.10
−2Pa.sより低い。浴の温度T
Bは、例えば、600℃から900℃の間で設定され、好ましくは700℃から850℃の間で設定される。浴は、誘導加熱手段、浸漬バーナーまたは抵抗加熱手段などの加熱手段(図示せず)によって前記温度T
Bで維持される。使用することができる的確な加熱手段は、容器3を作製するために使用された材料により決まり得る。浴5の初期組成は、例えば、(両端値を含み、他のすべての内容物に対して)重量で45%から90%の間のB
2O
3、重量で10%から55%の間のLi
2O、および、場合によって10%までのNa
2Oである。Na
2Oは、部分的にまたは全面的にCaO、K
2O、SiO
2、P
2O
5、Mn
2Oのうちの1つまたはいくつかと置き換えることができる。浴がストリップ表面の酸化に起因するアルミニウム、シリコン、マンガン、クロムまたは鉄の酸化物のような酸化物によって余儀なく汚染されるので、浴組成が装置の操作中に変わり得ることを理解しておく必要がある。重要なことは、装置の操作中に、組成のこれらの変化が、浴の粘度を要求される制限の範囲外に設定することになるような浴粘度の変化をもたらさないということである。
【0033】
浴5の好ましい初期組成は、45%w≦B
2O
3≦55%wおよび40%w≦LiO
2≦50%wであり、これは二元素共晶Li
2O−B
2O
3、すなわち53%wのB
2O
3および47%wのLiO
2を包囲する。浴5の組成は共晶組成に近いものであり、浴5はより低い温度において機能することを可能にし、浴の挙動はより容易に予測可能である。
【0034】
浴の最大の粘度は、3.10
−1Pa.sであり、好ましくは2.10
−2Pa.sである。浴についてのこのように非常に低い粘度の必要条件は、なおさら重要である。なぜならば、これがシート上で引きずられているガラスの残留物の量を低減するからである。このようなガラス残留物は、本発明の枠内において望ましくなく、除去されなければならない。
【0035】
浴5は、例えばN
2およびH
2ガス(例えばN
2+1%のH
2)から構成される非酸化性雰囲気の下に置かれる。浴5は、その温度均一性を改良するように、バブリング手段または任意の他の周知の撹拌装置などの撹拌手段(図示せず)によって撹拌され得る。
【0036】
鋼板1は、前記浴5に浸漬され、前記浴5の比粘度値ηのおかげで、鋼板1は、浴5の出口で測定される温度が、T
Eより高い温度T
Oまで均一に加熱される。浴5が非酸化性雰囲気の下に置かれ、浴を構成する溶融酸化物が鉄に対して不活性であるので、鋼板1は浸漬中に酸化されず、例えば酸洗いおよび/またはショットピーニングによるシート表面の湯垢を取り除く工程は、焼鈍後に必要とされない。
【0037】
本発明者らは、鋼板1が浴に入る時の鋼板1の温度T
Eと浴の温度T
Bとの差ΔΤが、250℃より高い場合、浴の酸化物がシート1上で凝固し、鋼板1が浴に入る際に、鋼板1の表面で酸化物の薄膜を形成する危険があることを認識した。しかしながら、この凝固された酸化物は、十分な浴の撹拌が実施されるならば、および/またはライン速度を減少させて鋼板を浸ける時間を増加させるならば、再び溶解することになる。この問題を制限するまたは抑制する別の方法は、鋼板が浴へ入る際に、鋼板上で高温(約900℃)において液体酸化物の流れを注入することである。このことは、循環ポンプによってストリップ上にそれを再注入する前に、第2の溶融酸化物のるつぼを据えつけ、鋼板の熱処理に使用された主幹のるつぼ内に回収された酸化物の再加熱を主目的とすることにより行なうことができる。言いかえれば、この第2のるつぼは主として「熱交換器」である。この第2のるつぼは、Mn、Al、Si、Crのような元素の汚染を液体酸化物から取り除くことにも利用することができる。
【0038】
これらの複雑さを回避するために、鋼板1は、浴3の中へ鋼板を浸漬する前に、例えば誘導電気炉(図示せず)の中で、場合によって先ず予熱され得る。したがって、ΔΤはより確実に満足な値(250℃以下)まで低下させることができる。
【0039】
しかし、差ΔΤが25℃より低い場合、鋼板1と浴5の間の熱交換は、あまりに低すぎて、鋼板を効率的に加熱するまたは冷却することができないことも分かった。あまりにも低い熱交換をより確実に回避するには、ΔΤを少なくとも50℃にすることで得られる。
【0040】
したがって、ΔΤは、場合によりシートが浴に入る時の温度T
Eと浴の温度T
Bとの組み合わせ作用により25℃から900℃の間で維持されねばならない。好ましいΔΤの範囲は50℃−250℃である。本発明のすべての実施形態に有効となる、より正確なΔΤの範囲を定義することは可能ではない。特に、低いストリップ温度については、最適なΔΤ値は、ストリップの厚さに依存し、ストリップの走行速度に依存し、浴撹拌の強度に依存する。ΔΤの範囲の上限のパラメーターである浴温の上限に関して、これは酸化物浴の許容される蒸発速度および高温における容器3の機械的耐性によって、求められる。
【0041】
焼鈍モジュール9の後で、鋼板1は、洗浄モジュール10内を走行し、鋼板表面上に残存する残留溶融酸化物は除去される。これらの残留溶融酸化物は、浴5の比粘度ηの値のおかげで、容易に、迅速に表面から取り除かれ得、この工程は生産を減速しない。前記洗浄モジュールは、ガスノズル11、ブラシまたは鋼板1の表面に残存する溶融酸化物または凝固酸化物の除去を可能にする任意の他の手段のうち1つまたはいくつかを含むことができる。酸化物が、ガス吹き付けによって除去される場合、ガス吹き付けによってガラス小滴を除去することを不可能にするガラス小滴の凝固を回避するため、ガスは高温である(少なくとも550℃)ことが好ましい。ガラス小滴が既に凝固している場合、高温(470℃−600℃)において実施されるブラッシングは最適である。
【0042】
次いで、鋼板1は、従来知られているように、鋼板1が溶融亜鉛または亜鉛合金の浴4に浸漬される亜鉛めっきモジュールなどのコーティングモジュール7内を走行する。鋼板1の温度T
Sが、鋼板1が亜鉛めっき浴4に入る際に、あまりに高すぎて、亜鉛コーティングのよい接着を保証することができない、または、コーティング蒸発を回避できない場合、鋼板1は、コーティングモジュール7の前に置かれた冷却モジュール(図示せず)内を場合によって走行してもよい。この冷却モジュールは、例えば、鋼板1に水またはガスを噴出させるノズルを備えることができ、または本発明の第2の実施形態に記載されるような冷却モジュールであってもよい。亜鉛めっき浴4から出た後で、シート1は、当技術分野で知られているように、コーティング膜の厚さを調節することを可能にするワイピング装置8(ガス吹き付け装置など)によって処理される。
【0043】
その入口から酸化物浴5を含んでいる容器3の中へ、亜鉛めっき浴4からその出口へと、鋼板1は、中性(N
2)雰囲気または還元性(N
2−H
2)雰囲気が維持される1つまたはいくつかの筒口部6による非酸化性雰囲気の下に置かれ得る。
【0044】
図2に示された本発明の第2の実施形態において、冷延鋼板1は、輸送ロール2によってそのラインの異なるモジュール内を連続的に走行する。この冷延鋼板1は、ストリップが鋼の再結晶温度に到達することを可能にする加熱モジュール12内を先ず走行する。この加熱モジュール12は、概略的に示されるような誘導電気炉、または任意の他の周知の加熱装置であってよい。
【0045】
冷延鋼板1は、その後、保温帯13内を走行し、この保温帯では温度は再結晶を可能にするのに十分な時間一定に維持される。次に、鋼板1は、温度T
E’において、冷却モジュール14内を走行する。この冷却モジュールは、鉄に対して不活性な溶融酸化物からなる浴16を含んでいる容器15から構成されている。浴16の粘度η’は、3.10
−1Pa.sより低く、好ましくは2.10
−2Pa.sより低く、温度は鋼板の温度T
E’より低い温度T
B’である。浴の温度T
B’は例えば、600℃から700℃の間に設定される。浴16は、高温ストリップによって注入された熱量を除去するのに必要な、冷却手段によって温度T
Bにおいて維持される。この冷却手段は、浴の内部に置かれてもよくまたは浴の外部に置かれてもよく、要求される温度において維持された少量の溶融酸化物を含んでいる別の容器の中に例えば置かれてもよい。浴16は、N
2およびH
2ガスから例えば構成される非酸化性雰囲気の下に置かれる。浴16は、バブリング手段または任意の他の周知の撹拌装置などの撹拌手段によって撹拌される。鋼板1は、浴16中に浸漬される。また、前記浴16の比粘度η’のおかげで、鋼板1は、浴16の出口におけるT
E’より低い温度T
S’まで均一に冷却される。浴の入口の鋼板1の温度T
E’と浴の温度T
B’の間の差ΔΤ’は、本発明の第1の実施形態について明らかにした同じ理由で25℃から900℃の間でなければならない。
【0046】
冷却モジュールの後で、鋼板1は、鋼板表面に残存する残留溶融酸化物が除去される洗浄モジュール20内を走行する。これらの残留溶融酸化物は、浴16の比粘度η’のおかげで、容易に、迅速に表面から取り除くことができ、この工程は生産を減速しない。前記洗浄モジュールは、鋼板1の表面に残存する溶融酸化物を除去することができるブラシ21、ガスノズルまたは任意の他の手段を含むことができる。
【0047】
洗浄モジュール20の後の到達温度が後続の生産工程用に十分に低くはない場合、鋼板1は、鉄に対して不活性な溶融酸化物からなる他の浴(図示せず)に浸漬させてもよく、前記浴の粘度は、また、3.10
−1Pa.sより低く、好ましくは2.10
−2Pa.sより低く、浴の温度は鋼板の温度T
S’より低いT
B2である。
【0048】
既に見てきたように、溶融酸化物浴16または第2の実施形態の浴の粘度値は、第1の実施形態のものと同じである。板表面上の溶融ガラスの流出を少なくする要件とシート1上に残存するガラスの除去を容易にする要件が同一であるので、これは論理的である。しかし、浴16の温度は、第1の実施形態(例えば、約600℃−700℃であってもよい)におけるよりも一般に低いので、浴の組成が、このより低い温度においてこの粘度を得られるように適合されなければならない。そのような組成の一例は、重量で45%から70%の間のB
2O
3(両端値を含み、以下のすべての内容物に対して)、重量で30%から55%の間のLi
2O、および10%から20%の間のNa
2Oである。Na
2Oは、部分的にまたは全面的にCaO、K
2O、SiO
2、P
2O
5、Mn
2Oのうちの1つまたはいくつかと置き換えられ得る。したがって、浴16は、Na
2Oおよび/または機能的に同様の酸化物を比較的高含有量有することができるので、浴のより低い融解温度を保証する。
【0049】
第1および第2の実施形態について好ましい例として使用された浴成分は、以下の特性を示す。
【0050】
B
2O
3は低温(460℃)で溶解するが、液体状態におけるその粘度は非常に高い。したがって、主としてLi
2O、さらにNa
2Oおよび/または他の前述の酸化物を添加することによって浴粘度を減少させなければならない。
【0051】
Li
2Oが好ましい。なぜならばこの酸化物が非常に安定であり、鋼の他のいかなる合金元素によっても還元されないからである。
【0052】
Na
2Oも、粘度に強力な影響を及ぼすため使用することができる。しかしながら、これは、凝固ガラスの吸湿性を大きく増大させるので、この材料の取り扱いがさらに困難になる。さらに、Na
2Oは鋼ストリップを侵し、容易に蒸発する。したがって、比較的高温において設定される浴中でNa
2Oを大量に使用することは勧められず、そこにおいて、浴の粘度は、この成分が無いまたは少量で、十分に低い。
【0053】
本明細書の全体にわたって明らかなように、本発明による熱処理方法は、溶融酸化物浴を含んでいるるつぼからなるモジュールを使用して、鉄合金シートを冷却するまたは加熱するために、使用することができる。このようなモジュールは、標準的炉または冷却機に代えて、または、標準的炉または冷却機に加えて標準的な製造ライン上で適所に使用することができる。このようなモジュールはコンパクトであり、既存の生産ラインの中で容易に実装できまたは、新規生産ラインの中で容易に実装できることは言うまでもない。