(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
コハク酸エステルを回収する工程が液液分離工程を含み、ここで、コハク酸エステルを含む有機相が、塩化マグネシウムを含む水性溶液から分離される、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
コハク酸エステルが、コハク酸と、少なくとも2個の炭素原子を有するアルコールとのエステルであり、抽出溶媒が上記分離工程中に存在しない、請求項4に記載の方法。
コハク酸エステルが、コハク酸と、少なくとも3個の炭素原子を有するアルコールとのエステルであり、抽出溶媒が上記分離工程中に存在しない、請求項7に記載の方法。
コハク酸エステルが、コハク酸と、少なくとも4個の炭素原子を有するアルコールとのエステルであり、抽出溶媒が上記分離工程中に存在しない、請求項7に記載の方法。
炭素源が発酵ブロス中で微生物によって発酵されてコハク酸を形成し、そしてマグネシウムの酸化物、水酸化物もしくは炭酸塩から選択される塩基を添加することによって、上記コハク酸の少なくとも一部を中和し、それによってコハク酸マグネシウムを得る発酵工程をさらに含み、該発酵工程が上記工程aの前に行われる、請求項12に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
理論に縛られることを望まないが、反応混合物中における、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化亜鉛から選択される溶解した塩化物塩の存在がpHの低下をもたらし、それが反応速度の増加を結果すると考えられる。さらに、少なくとも5重量%の、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化亜鉛から選択される溶解した塩化物塩の存在が、改善された相分離プロセスおよび抽出プロセスをもたらすと考えられる。
【0011】
本発明に従う方法は、水性液体から開始する。上記水性液体は、コハク酸、アルコールおよび、上記液体の重量に基づいて計算して少なくとも5重量%の、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化亜鉛から選択される溶解した塩化物塩を含む。
【0012】
上記水性液体は、単相溶液であり得る。しかし、下記でより詳細に述べるように、上記酸、上記アルコールおよび上記塩の性質および量、ならびに抽出溶媒が存在するか否かに依存して、上記水性液体はまた、2相系(2の液相を含む)であり得、および/または固体成分、例えば酸粒子を含み得る。
【0013】
上記水性液体中のコハク酸濃度は、特に上記液体中の上記酸の溶解度に依存して、広範囲で変わり得る。最大値として、40重量%の値が挙げられ得る。最小として、1重量%の値が挙げられ得る。その値未満では、経済的運転が困難であり得る。水性液体は、溶液または懸濁物であり得る。一般に、溶液の使用が好ましい。したがって、1実施形態では、酸濃度が、上記水性液体中の上記酸の溶解度以下である。望むならば、上記酸の溶解度を高めるために水性液体の温度が高められ得る。
【0014】
上記水性液体はまた、上記酸と反応してエステルを提供するアルコールを含む。上記アルコールは、エステル化反応における使用に適する任意のアルカノールであり得る。例えば、アルコールは、1〜8の炭素原子を有するアルカノールであり得る。それは例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、2−エチルヘキサノール、および1−オクタノールから成る群から選択され得る。2級および3級アルコールが使用され得るが、得られる生成物に依存して、1級アルコールが好ましくあり得る。上記方法は、アルコールが上記反応混合物において少なくともいくらかの溶解度を有するならば、最良に作用する。上記反応混合物におけるアルコールの溶解度は、温度を高めることにより増加され得る。
【0015】
C1〜C8アルコールの使用が好ましいと考えられ、C1〜C4アルコールの使用がより好ましい。メタノール、エタノール、およびブタノールが特に使用され得る。
【0016】
水性液体中に存在するアルコールの量は、その系に存在するコハク酸の量によって決定される。エステル化されるカルボン酸基とアルコールとのモル比は一般に、1:1〜1:10、好ましくは1:1〜1:5の範囲である。
【0017】
酸およびアルコールに加えて、上記水性液体は、上記液体の重量に基づいて計算して少なくとも5重量%の、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化亜鉛から選択される溶解した塩化物塩を含む。溶解した塩の量が5重量%未満であると、本発明の有利な効果が得られないだろう。塩化物塩の量の最大は、本発明に従う方法において重要でない。一般的な値として、40重量%の最大が挙げられ得る。水性液体が、10〜30重量%、特に15〜25重量%の溶解した塩化物塩を含むのが好ましくあり得る。塩化物塩は、塩化マグネシウム、塩化カルシウムおよび塩化亜鉛から選択され得る。塩の混合物も適用され得る。塩化マグネシウムの使用が好ましいと考えられる。なぜならば、それは、高い分離効率およびおそらく高められた反応速度の確保において特に有効であると考えられるからである。さらに、塩化マグネシウムの使用は、熱分解工程を使用することにより、魅力的な統合された方法を可能にする。これは、下記でより詳細に述べられるであろう。
【0018】
コハク酸、アルコールおよび塩化物塩を含む水性液体は、種々のやり方で得られる。1実施形態では、コハク酸、アルコールおよび塩化物塩が、水中で一緒にされる。しかし、多くの特に魅力的な可能性がある。
【0019】
1実施形態では、コハク酸、アルコールおよび塩化物塩を含む水性液体が、コハク酸のマグネシウム塩、カルシウム塩または亜鉛塩を含む水性液体を提供する工程、上記水性液体をHClの添加により酸性化する工程、およびHClの添加の前、添加の後または添加と同時に上記アルコールを添加する工程によって得られる。酸性化工程は、コハク酸塩のコハク酸への転化および同時に対応する塩化物塩の形成を結果する。コハク酸塩およびHClの濃度を選択することにより、コハク酸および塩化物塩を上述した範囲で含む液体が得られ得る。
【0020】
望むならば、これらの成分の濃度が、種々のやり方で、例えばコハク酸または塩化物塩を添加することにより、または濃縮工程を行う(ここで、水が系から除去される)ことにより、高められ得る。
【0021】
HClの存在が反応速度をさらに高めることが分かった。したがって、1実施形態では、反応混合物が、追加のHClを、例えばコハク酸の量に基づいて計算して0.5〜5重量%の量で含む。HClは反応混合物に別個に添加され得るが、本発明の1実施形態では、酸性化プロセスが、コハク酸塩の中和に必要なHClの量と比較して過剰のHClを使用することにより行われる。この実施形態では、添加されるHClの過剰量が、例えばコハク酸塩をコハク酸に転化するために必要なHClの量に基づいて計算して、0.5〜5重量%の量であり得る。
【0022】
酸、アルコールおよび塩化物塩を含む水性液体は、反応条件に付され、それによって、コハク酸エステルを得る。
【0023】
反応条件は一般に、20〜150℃、特に30〜130℃、より特に50〜100℃の範囲の温度を含む。
【0024】
反応中の圧力は、水性液体が液状のままである限り、重要でない。一般に、反応は、1〜5バールの圧力で、好ましくは大気圧条件で行われるであろう。
【0025】
酸、アルコールおよび塩化マグネシウムを含む水性液体を反応条件に付し、それによってコハク酸エステルを得る工程は、最終の液体において行われ得る。しかし、形成中、例えば上述した酸性化反応中の液体において行うこともできる。同様に、後述する分離工程は、エステル化反応が終了した後に行われ得るが、エステル化工程中に行うこともでき、いくつかの実施形態では、連結された酸性化/エステル化工程中に行われる。種々の実施形態が後述される。
【0026】
本発明に従う方法における次の工程は、上述したように先の工程と組み合わせて行われ得るが、コハク酸エステルおよび、塩化カルシウム、塩化マグネシウムおよび塩化亜鉛から選択される塩化物塩を含む水性溶液を回収することである。エステルの特性に応じて、これが行われ得る種々の方法がある。
【0027】
特定のコハク酸エステルの場合に、生成物混合物が2相系を形成し得、ここでエステルと塩化物塩溶液が別々の液層を形成することが分かった。これは、より高級のアルコール、例えばC2以上の、特にC3以上の、特にC4以上のアルコールのコハク酸エステル、例えばコハク酸ジブチルの場合に特に当てはまる。コハク酸エステルの性質に加えて、2相系が形成されるかどうかは、媒体の塩濃度(より高い塩濃度は2相系の形成を促進する)およびエステル濃度(より高い塩濃度は2相系の形成を促進する)にも依存する。
【0028】
上記系は一般に、過剰のアルコールを含み、アルコールは、アルコールの特性に依存して、水層および/または有機層に存在し得る。エステルが形成されるとすぐに、生成物混合物の相分離が生じ始める。生成物は、別個の相を形成することによって反応混合物から効率的に除去されるので、相分離は、増加されたエステル化速度を結果する。さらに、相分離は、層を互いに分離することによって比較的純粋なエステルの単離を可能にし得る。なお、塩化物塩の高い濃度の存在は、相分離を改善する。それによって、水との混合物において相分離を示さないエステルが、本発明に従う塩含有系ではそれでも相分離を示し得る。
【0029】
「2相系」という用語は、互いに非混和性である2つの液体層が存在する系を意味する。2相系は、エステルを含む液体有機層(生成物層)および溶解した塩化物塩を含む水性層を含む。系に存在するカルボン酸エステルの少なくとも80%、特に少なくとも90%、より特に少なくとも95%、さらにより特に少なくとも98%が液体有機層中に存在することが好ましい。液体有機層は、典型的には、20重量%未満の水、より特に10重量%未満の水、さらにより特に5重量%未満の水を含む。
【0030】
有機相中のエステルと水性相との間の効率的な分離は、例えば、多段向流操作を実行することによって得られることができる。
【0031】
水性層は、上述したように、溶解した塩化物塩、および好ましくは5重量%未満のコハク酸エステル、より好ましくは2重量%未満のコハク酸エステル、さらにより好ましくは1重量%未満のコハク酸エステルを含む。
【0032】
水性層は、好ましくは、系に供給されたコハク酸の総量の5重量%未満、より好ましくは2重量%未満、さらにより好ましくは1重量%未満を含有する。
【0033】
本発明に従う方法は一般に、系に最初に供給されたコハク酸の量に基づいて計算された転化されたコハク酸の量で表されて、少なくとも90%の転化率を示す。好ましくは、転化率は少なくとも95%、より好ましくは少なくとも99%である。
【0034】
本発明に従う方法は、系に最初に供給された酸の量から計算された理論収量に基づいて計算された、上記方法から生じるエステルの量で表されて、少なくとも90%の収率まで運転されることができる。好ましくは、収率は少なくとも95%、より好ましくは少なくとも98%、さらにより好ましくは少なくとも99%である。本発明に従う方法は、適切な再循環工程がプロセス設計の中に組み込まれることが確保される場合は特に、そのような高い収率を得ることができることが見出された。
【0035】
本発明の一実施形態では、抽出剤は、塩化マグネシウム溶液からエステルを分離するために使用され、抽出溶媒としても示される抽出剤は、実質的に水と混和性でない。この方法は、水中のエステルの溶解度が、相分離が生じない、または限られた範囲内でのみ生じるようなものであるならば、魅力的でありうる。これは、条件に応じて、コハク酸ジメチルおよびコハク酸ジエチルに当てはまる。この場合には、抽出溶媒の使用は、水性液体からのエステルの分離を改善する。
【0036】
抽出溶媒の使用は、抽出剤およびエステルを含む液体有機層(生成物層)ならびに溶解した塩化物塩を含む水性層を含む2相系の形成をもたらす。系は一般に、過剰のアルコールを含み、過剰のアルコールは、アルコールおよび抽出溶媒の性質に応じて、水層および/または有機層中に存在しうる。
【0037】
抽出剤は、エステル化反応が終了したときに添加されうる。抽出剤が、エステル化反応中に存在することも可能である。これは、下記で説明するように、魅力的でありうる、またはありえない。コハク酸のエステル化反応は、最初の1のカルボン酸基がエステル化されてコハク酸モノエステルを形成し、その後、第2のカルボン酸基がエステル化されてコハク酸ジエステルを形成する、2工程反応である。抽出溶媒が存在する場合、コハク酸モノエステルは優先的に抽出溶媒中に吸収され得る。アルコールが水性相に残っている場合、これは、コハク酸モノエステルからジエステルへの転化を制限しうる。この効果が生じるかどうかは、抽出溶媒の性質およびアルコールの性質に依存する。アルコールと抽出溶媒との特定の組み合わせについて、日常の実験を用いて、この効果を調査することは当業者の範囲内である。それにもかかわらず、抽出溶媒が使用される場合、エステル化反応が終了した後にそれを反応媒体に添加することが好ましくありうる。
【0038】
適切な抽出溶媒の例は、脂肪族炭化水素および芳香族炭化水素、例えば、アルカンおよび芳香族化合物、ケトンならびにエーテルである。種々の化合物の混合物もまた使用されうる。
【0039】
適切な脂肪族アルカンの例は、C5〜C10の直鎖状、分岐状または環状のアルカン、例えば、オクタン、ヘキサン、シクロヘキサン、2−エチル−ヘキサンおよびヘプタンである。
【0040】
適切な芳香族化合物の例は、C6〜C10芳香族化合物、例えば、トルエン、キシレンおよびエチルベンゼンである。
【0041】
本発明において、適切なケトンの例は、C5+ケトン、より特にC5〜C8ケトンである。C5+は少なくとも5個の炭素原子を有するケトンを表す。C9+ケトンの使用は、あまり好ましくない。メチル−イソブチル−ケトン(MIBK)の使用が特に魅力的であることが見出された。
【0042】
適切なエーテルの例は、C3〜C6エーテル、例えば、メチルtert−ブチルエーテル(MTBE)およびジエチルエーテル(DEE)である。
【0043】
本発明において使用される抽出溶媒の量は一般に重要でない。最小量は、有効な分離プロセスを確保するために必要な量によって決定される。最大量は、さらなる抽出溶媒の添加が改善された分離をもたらさず、増加された反応器容積をもたらすのみである場合には、商業的運転によって決定される。一般的な範囲として、1:0.01〜1:10、特に1:0.1〜1:10の範囲内の(水+コハク酸+アルコール+塩+エステル):抽出溶媒の体積比が挙げられうる。2相にわたるコハク酸エステル、コハク酸、アルコールおよび水の配分については、相分離プロセスについて上述されているものが参照される。
【0044】
抽出溶媒を添加することが望ましいかどうかは、コハク酸エステルの性質、ならびに塩濃度、酸濃度、アルコール濃度およびエステル濃度のようなさらなる条件に依存する。コハク酸エステルが、それ自体、水または塩化物塩溶液と混和性でない場合、相分離が自発的に生じ、抽出溶媒の添加は必要ではない。コハク酸エステルが、コハク酸と、少なくとも2個の炭素原子、特に少なくとも3個の炭素原子、より特に少なくとも4個の炭素原子を有するアルコールとのエステルである場合は、特にこのことが当てはまる。この場合、不要な化合物の添加を防ぐために、抽出溶媒を添加しないことが好ましくありうる。しかし、望むならば、この場合には、抽出溶媒が添加されることができ、分配係数を変えることにより、有機相中のエステルの吸着を増加させるために、これを行うことが時には魅力的でありうる。コハク酸エステルが、塩溶液と混和性である場合、例えば、コハク酸ジメチルである場合には、相分離を通してエステルを回収することが望まれるならば、抽出溶媒を添加することが必要である。コハク酸ジエチルについては、抽出溶媒の使用もまた魅力的でありうる。
【0045】
上述したように、エステル化反応中の溶解した塩化物塩の存在は、反応速度の増加をもたらす。溶解した塩化物塩の存在が、相分離または抽出によるエステルの分離を促進し、および/または高め得ることがさらに見出された。特に、溶解した塩化物塩の濃度の増加は、有機層と水性層との間のエステルのより高い分配係数をもたらし得、改善されたエステル収率および水性層のより低い有機含有量を結果する。さらに、いくつかの場合には、相分離は、より高い濃度の溶解した塩化物塩でのみ起こる。したがって、相分離または抽出を含むプロセスによって、エステルが塩化物塩溶液から分離されるべき場合には、塩化物塩溶液は比較的高濃度を有することが好ましい。この実施形態では、水性液体中の塩化物塩濃度は、少なくとも10重量%、より好ましくは少なくとも15重量%、さらにより好ましくは少なくとも20重量%であることが好ましくありうる。
【0046】
相分離または抽出を含む工程によって、エステルが塩化物塩溶液から分離される場合には、種々の層の分離は、液液分離のための当該技術分野で知られている方法によって行われることができる。液液分離のための適切な装置および方法の例としては、デカンテーション、沈降、遠心分離、プレートセパレーターの使用、コアレッサーの使用およびハイドロサイクロンの使用が挙げられる。異なる方法および装置の組み合わせもまた用いられうる。
【0047】
本発明の方法は、エステル化に先立ってまたはエステル化中の水分除去工程をさらに含みうる。例えば、水は、アルコールを添加する前であるが、塩化水素を添加した後に除去されうる。このような工程は、塩化物塩のより高い濃度および/またはコハク酸塩のより高い濃度を可能にしうる。これは、エステル化反応速度を増加させ、および/または相分離を高めうる。そこまで濃縮させることができるところの好ましいコハク酸濃度は、水性混合物について上述されている。沈殿した塩の存在は、追加の利点を提供しないで、処理問題をもたらしうるので、上限は、溶液中の塩化物塩の溶解度から得られうる。
【0048】
上述したように、本発明において使用される塩化物塩は塩化マグネシウムであることが好ましい。この塩が好ましい1つの理由は、上記塩化物塩溶液のための魅力的な処理方法、すなわち、熱分解による方法を可能にするからである。したがって、本発明の一実施形態では、分離工程から生じる塩化マグネシウム溶液が、熱分解工程に供給され、そこで、酸化マグネシウムおよび塩化水素に転化される。熱分解のプロセスはまた、熱的加水分解(thermal hydrolysis)および熱加水分解という用語でも知られている。
【0049】
熱分解は一般に、少なくとも300℃の温度で実施される。好ましくは、熱分解は、少なくとも350℃の温度で実施される。エネルギーコストのために、温度は、好ましくは1000℃未満、より好ましくは800℃未満である。例えば、熱分解が実施される温度は、350〜600または400〜450℃でありうる。
【0050】
好ましくは、塩化マグネシウム溶液は、15〜40重量%、より好ましくは25〜35重量%の塩化マグネシウム濃度を有する。溶液中に存在する塩化マグネシウムの量が多すぎると、熱加水分解ユニットに入った後に、塩化マグネシウムの沈殿をもたらしうる。望ましい塩化マグネシウム濃度を得るために、水が、本発明の方法において回収された塩化水素溶液に添加される、または塩化水素溶液から除去されうる。
【0051】
熱分解を実施するための適切な装置は、当技術分野において知られている。例えば、噴霧焙焼炉または流動床焙焼炉が使用されることができる。このような装置は、例えば、SMS Siemag、Andritz.Tenova、CMIおよびChemlineで得られることができる。熱分解において得られた酸化マグネシウムは、固形状である。望むならば、酸化マグネシウムは、発酵プロセスにおいて、特に中和剤として使用するために再循環されることができる。MgOは、直接使用されることができるが、水と反応させることによって、水酸化マグネシウムに転化することも可能である。熱分解において得られた塩化水素は、望むならば、酸性化工程において使用されうる。
【0052】
上記方法は、発酵工程をさらに含み得、ここで、コハク酸塩を含む水性供給物が形成される。このような工程は、典型的には、微生物によって炭素源を発酵させてコハク酸を含む発酵培地を形成するサブステップ、および中和剤を添加することにより望ましいpHを確立してコハク酸塩を形成するために(部分的に)発酵培地を中和させるサブステップを含む。中和剤は、この場合、好ましくはカルシウム塩基、亜鉛塩基またはマグネシウム塩基、より特にマグネシウム塩基である。続いて、バイオマスは、望むならば、例えば、(限外)濾過、遠心分離もしくはバイオマスのデカンテーションによって、または発酵培地からのコハク酸塩(典型的には、コハク酸マグネシウム)の沈殿によって、発酵培地から分離されうる。上述したように、熱分解工程において得られた酸化マグネシウムは、中和剤またはその前駆体として沈殿工程において再循環されることができる。
【0053】
一実施形態では、本発明に従う方法は、触媒の存在下でコハク酸エステルを水素と反応させて1,4−ブタンジオールを形成するさらなる工程を含む。上記反応は、例えば、180〜300℃の範囲の温度および1〜40バールの圧力で行うことができる。水素と供給物とのモル比は、例えば、10:1〜400:1の範囲でありうる。触媒は、水素化金属、例えば、元素の周期表の6、7、8、9、10または11族の1種または複数の金属を含む、当該技術分野で知られている水素化触媒でありうる。亜鉛、銅、クロム、パラジウムまたはルテニウムの使用が好ましくありうるが、亜鉛と銅の組み合わせ、または銅とクロムの組み合わせの使用が特に魅力的でありうる。
【0054】
図1は、統合された方法に組み込まれている本発明に従う方法を図示する。発酵プロセスは、コハク酸を生成する発酵反応器(1)中で行われる。発酵中に塩基が添加され(図示せず)、コハク酸塩の形成をもたらす。塩基は、好ましくは、カルシウム塩基、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウムもしくは炭酸カルシウム、マグネシウム塩基、例えば、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウムもしくは炭酸マグネシウム、または亜鉛塩基、例えば、酸化亜鉛、水酸化亜鉛もしくは炭酸亜鉛である。マグネシウム塩基の使用が好ましい。コハク酸塩、好ましくはコハク酸カルシウム、コハク酸マグネシウムまたはコハク酸亜鉛、特にコハク酸マグネシウムを含む生成物流(2)は、発酵反応器から取り出され、酸性化/エステル化反応器に供給される。望むならば、バイオマス除去などの中間精製工程が当該技術分野で知られている様式で行われうる。酸性化/エステル化反応器(3)において、ライン(14)を通ってアルコールが添加され、ライン(9)を通って塩化水素が添加される。塩化水素は、気相または水中の溶液でありうる。塩化水素は、アルコールの添加に先立って、アルコールの添加と同時に、またはアルコールの添加の後に添加されうる。反応器は、エステル化条件に付される。次に、分離工程が行われる。図において、これは、分離工程(5)として示されるが、エステル化反応器中で行われうる。分離工程(5)は塩化物塩を含む水性流(6)を生じさせる。塩化物塩が塩化マグネシウムである場合、流れ(6)は熱分解工程(7)に供給されることができ、熱分解工程では、水性塩化マグネシウム溶液が分解されて酸化マグネシウムが形成され、ライン(8)を通って除去され、塩化水素がライン(9)を通って除去される。塩化水素は、図中に示されるように、ガスとして、または水性液体に吸収されて溶液を形成した後のいずれかで、酸性化工程に再循環されうる。酸化マグネシウムは、直接または水酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムに転化された後のいずれかで、発酵工程(1)に再循環されうる(図示せず)。分離工程(5)から除去された生成物流(10)は、コハク酸エステル生成物を含む。エステル化反応は一般に、余剰のアルコールの存在下で行われるので、一般に、アルコールも含む。生成物流(10)は、分離工程(11)に供給され得、ここで、アルコールがコハク酸エステルから分離される。上記分離工程は、例えば、蒸留工程でありうる。分離工程は、コハク酸エステルを含む生成物流(12)および、アルコール供給物(14)に供給されることができるアルコール流(13)を生じさせる。コハク酸および任意的に縮合生成物を含有しうる底部流(15)が存在しうる。この流れは、存在する場合には、エステル化工程に再循環され、あるいは処分されうる。
【0055】
図2は、
図1の方法の変形を示す。図(2)の方法において、抽出溶媒がライン(16)を通って分離工程(5)に添加される。生成物流(10)は、コハク酸エステル、アルコールおよび抽出溶媒を含む。この場合には、分離工程(11)は、アルコール流(13)、エステル流(12)、およびエステル化反応器(33)に供給される抽出溶媒再循環流(16)を生じさせる。分離工程(11)は、例えば、分別蒸留によって行われうる。さらに、
図2の方法において、酸性化工程およびエステル化工程は分離され、酸性化工程は、塩酸がライン(9)を通って供給されるところの酸性化反応器(31)中で行われる。コハク酸および塩化物塩を含む水性液体である酸性化された生成物は、アルコールがライン(14)を通って供給されるところのエステル化反応器(33)にライン(32)を通って供給される。
【0056】
抽出溶媒流は、エステル化反応が終了したとき、または上記反応の前もしくは間に、エステル化反応器に供給されることができる。上述のように、抽出溶媒は、エステル化反応が終了したときに添加されることが好ましくありうる。
【0057】
本発明の一実施形態では、エステル化工程および分離工程は単一の反応器中での単一工程において連結される。一実施形態では、この反応器は、向流操作で運転され、コハク酸が、上記の塩化物塩を含む溶液で、反応器の頂部に供給される。アルコールが反応器の底部に供給される。コハク酸エステルが反応器の頂部から取り出される。溶解した塩化物塩を含む水溶液は、反応器の底部から取り出される。この実施形態はまた、抽出溶媒の存在下で行われることができる。この場合、抽出溶媒は、反応器の底部に供給される。これは、種々の様式で、例えば、別々に、またはアルコールと組み合わせて行われうる。抽出溶媒は、コハク酸エステルとの混合物として反応器の頂部から取り出される。上述のように、この実施形態は、高い収率と一緒に高い転化率を得ることを可能にすることが見出された。この実施形態は、これに、またはこれによって限定されることなく、
図3に図示されている。
【0058】
図3は、頂部に入口(2)を備えた反応器(1)を示し、水性液体、例えば、コハク酸および可溶物を含む溶液が反応器に供給される。アルコール、および望むならば抽出溶媒は、ライン3を通って反応器の底部に供給される。反応器は、上述したエステル化条件にある。頂部流は、ライン(4)を通って反応器から取り出される。頂部流は、コハク酸エステル、および存在する場合は、抽出溶媒を含む。塩化物塩を含む底部流は、ライン(5)を通って取り出される。種々の液体中の成分、処理条件および得られた生成物の処理に関する情報については、上記の一般的な説明が参照される。
【0059】
種々の段落において上述されている本発明の種々の局面が組み合わせられ得ることは当業者に明らかである。
【0060】
図面は種々の統合された方法を示しているが、適切な様式で方法の種々の要素を組み合わせることは当業者の範囲内である。
【0061】
本発明および本発明の特定の実施形態は、これに、またはこれによって限定されることなく、以下の実施例および/または実施形態によって説明される。
【実施例1】
【0062】
コハク酸とブタノールとのエステル化−塩化マグネシウムを含有しない系との比較
恒温水槽によって80℃に加熱されたジャケット付きガラス容器が、コハク酸、水、1−ブタノール、任意的に塩化マグネシウムおよび任意的にHClで充填された。ブタノールがt=0で添加され、磁気撹拌が適用された。
【0063】
水性相のコハク酸濃度は、14.2%であった。コハク酸:BuOHのモル比は1:4であった。実験2および4において、酸性化の間に、2%のHCl過剰をシミュレートするHClの量が添加された。t=0での試料の組成は、以下の表に示される。
【0064】
【表1】
【0065】
時間での実験中、試料は、t=0、0.5、1、2、4、7および24時間に採取される。試料がGLC(面積%)によって分析される前に、上層の混合物の4滴が、1.5mlの溶媒(アセトンまたはメタノール)で希釈された。
【0066】
結果は、
図4に示される。この図から分かるように、塩化マグネシウムもHClも含有しない混合物1は、最低の反応速度を示す。反応速度は、HCl(混合物2)または塩化マグネシウム(混合物3)を添加することによって改善され得る。塩化マグネシウムとHClの組み合わせが用いられるときに(混合物4)、最良の結果が得られる。
【実施例2】
【0067】
塩化マグネシウムの存在下でのコハク酸とブタノールとのエステル化−濃度の変化、HClの存在
コハク酸、塩化マグネシウム、ブタノールおよび水の混合物が4つ調製された。それらの2つには、少量の塩酸が添加された。4つの混合物の組成は、表2に示される。
【0068】
【表2】
【0069】
混合物1は、30重量%コハク酸マグネシウム溶液を、2.00:1.00のHCl/MgSucモル比で20重量%HCl溶液を用いて酸性化した結果を表す。
【0070】
混合物2は混合物1に類似するが、例えば、エステル化に先立って、またはエステル化中の水分除去工程によって得ることができるように、存在する水の量は半分のみである。
【0071】
混合物3は、30重量%コハク酸マグネシウム溶液を、2.04:1.00のモル比で20重量%HCl溶液を用いて酸性化した結果を表す。この比率は、酸性化中の2%のHCl過剰に対応する。
【0072】
混合物4は混合物3に類似するが、例えば、エステル化に先立って、またはエステル化中の水分除去工程によって得ることができるように、存在する水の量は半分のみである。
【0073】
すべての混合物において、ブタノール:コハク酸のモル比は4.0:1.0であった。これは、コハク酸とブタノールとの完全なエステル化のための理論量の100%過剰に相当する。
【0074】
各混合物は、容器中で、磁気撹拌下、80℃の温度で7時間反応させた。1、2、4および6.5/7時間後、撹拌機は止められた。磁気撹拌を停止することは、非常に急速な沈降(数秒)を結果して、2つの分離された層を得た。上層の試料(生成物層)が取られた。試料は、反応の進行を確認するために、GC(面積%)によって分析された。結果は、
図5に示される。
【0075】
上記データは、エステル化反応の反応速度は、水濃度を減少させることによって(混合物1対2および混合物3対4を比較)増加させることができることを示す。上記データはさらに、反応速度が、過剰のHClを使用することによって増加され得ることを示す(混合物1対3および混合物2対4を比較)。
【0076】
実験4では、約4時間で平衡に達した。温度を上昇させることによって、1または2時間未満の滞留時間が達成されることができると予想される。この範囲の滞留時間は、連続プロセスを可能にする。
【実施例3】
【0077】
コハク酸とメタノールとのエステル化
一般的手順
反応容器が、コハク酸、水、および任意的にMgCl2、CaCl2および/または抽出溶媒で充填された。結果は、以下の表3に要約される。
【0078】
ガラス容器中の反応は、80℃で24時間行われた。オートクレーブ中の反応は、120℃で7時間行われた。
【0079】
【表3】
【0080】
表中の実験の、実験1、2および5は、塩化物塩が存在しないという点で比較例である。
【0081】
すべての実験について、コハク酸とメタノールとのモル比は1:4であった。コハク酸と塩化物塩(使用される場合)とのモル比は1:1であった。反応の開始時の有機相と水性相との体積比は1:1であった。すべての実験において、水性相中(メタノールおよびMIBKを除く)のコハク酸の初期濃度は14重量%であった。
【0082】
t=0で、メタノールが添加された。メタノールが添加された後、温度は数分以内に反応温度に戻った。2相系の場合には、磁気撹拌は、混合が制限因子になるのを防ぐために、超微粒子状のエマルジョンが形成されるような速度で適用された。
【0083】
特定の時間に、試料が分析のために採取された。2相系の場合、混合物を沈降させた。次いで、混合物または上層の4滴(約0.05ml)が、溶媒としてのブタノール1.5mlで希釈された。試料は、GLC(面積%)により分析された。レスポンスファクターが適用されなかったので、結果は半定量的である。
【0084】
結果は、
図6、7、8および9に示される。
【0085】
図6は、塩の存在または不存在下におけるコハク酸モノメチルの形成を示す。塩化マグネシウムを含む系の反応速度は、塩化マグネシウムを含まない系のものよりも早いことが分かる(実験1と3とのおよび実験2と4との比較)。
【0086】
図7は、コハク酸ジメチルの形成については、MIBKの存在が反応速度の減少をもたらすことを示す。理論に縛られることを望むものではないが、これは、MIBK相中に主として存在するコハク酸モノメチルによって引き起こされ得、一方、メタノールは水性相中に主として存在すると考えられる。これは、反応の終了時においてのみ、MIBKを抽出溶媒として添加することが好ましくありうることを示す。他の抽出溶媒については、状況は異なりうる。
【0087】
図8は、塩化カルシウムまたは塩化マグネシウムを含む系が、塩を含有しない系よりもコハク酸モノメチルの生成のためのより速い反応速度を示すことを示す。
【0088】
図9は、塩化物塩の存在または不存在下におけるコハク酸ジメチルの形成を示す。再び、塩を含有しない系は最低の反応速度を示す。