特許第6194036号(P6194036)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194036
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】分取液体クロマトグラフィ方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/16 20060101AFI20170828BHJP
   G01N 30/80 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G01N30/16 L
   G01N30/80 C
【請求項の数】4
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2016-30857(P2016-30857)
(22)【出願日】2016年2月22日
(62)【分割の表示】特願2012-85026(P2012-85026)の分割
【原出願日】2012年4月3日
(65)【公開番号】特開2016-95322(P2016-95322A)
(43)【公開日】2016年5月26日
【審査請求日】2016年2月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】391048533
【氏名又は名称】山善株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120019
【弁理士】
【氏名又は名称】八木 敏安
(72)【発明者】
【氏名】大倉 喜八郎
【審査官】 高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−340874(JP,A)
【文献】 特開昭62−027661(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0213822(US,A1)
【文献】 特開2007−163153(JP,A)
【文献】 特開2002−257805(JP,A)
【文献】 特開2001−356115(JP,A)
【文献】 特開平02−269964(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00−30/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカゲルを使用した分離カラムの前にインジェクターを接続して行う分取液体クロマトグラフィ方法であって、
前記インジェクターは、充填剤が充填されたシリンダーを有し、前記充填剤は乾燥シリカであり、
試料溶液が極性有機溶媒溶液であり、
上記極性有機溶媒は、インジェクターにトラップされ分離カラムに流入しない
ことを特徴とする分取液体クロマトグラフィ方法。
【請求項2】
充填剤は、使用する極性有機溶媒の体積に対して4〜100倍の乾燥体積である請求項1記載の分取液体クロマトグラフィ方法。
【請求項3】
シリンダーは、極性有機溶媒トラップ体積が表示されたものである請求項1又は2記載の分取液体クロマトグラフィ方法。
【請求項4】
max:極性有機溶媒トラップ体積
inj:インジェクター容量
a,b:極性有機溶媒種と充填剤種により決まる定数
でインジェクターの極性有機溶媒トラップ体積を算出し、極性有機溶媒トラップ体積より少ない極性有機溶媒量の試料溶液となるようにすることを特徴とする請求項1,2又は3記載の分取液体クロマトグラフィ方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体クロマトグラフィ方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィは、固定相が充填された分離カラムに、複数の成分を有する試料、及び、所定の混合比で混合された複数の溶媒からなる移動相に相当する溶離液を流すことにより、試料中の複数の成分を分離するものである。試料は、溶離液とともにカラムに流入し、カラムに充填された固定相に吸着しつつ溶離液の流下に伴って移動する。その際に、各成分の固定相との相互作用が異なることから、それぞれ所定時間後にカラムから排出され、これによって複数の成分を分離することができる。
【0003】
このような液体クロマトグラフィによる分離を効率よく行うための条件決定支援装置が特許文献1に記載されている。このような装置を使用することで、液体クロマトグラフィの負荷量(1回の操作で分離することができるサンプル量)やカラムサイズの決定を適切に行うことができ、効率のよい作業を行うことができる。
【0004】
しかしながら、溶解能が低い試料を液体クロマトグラフィによって分離する場合は、試料を溶解するために使用される極性有機溶媒が分離に悪影響を与えてしまうという問題がある。すなわち、極性有機溶媒が存在する状態であると、試料中の成分の固定相との相互作用が低下し、短時間でカラムから排出されやすくなってしまう。特許文献1に記載されたような条件決定支援装置においては、このようなサンプルを溶解させるための極性有機溶媒の影響を考慮していないものであることから、条件を充分に予測できなくなる場合がある。
【0005】
また、液体クロマトグラフィの分離カラムへの試料液及び溶媒の導入に際して使用される直載せ用のインジェクターが公知である(引用文献2)。このようなインジェクターは効率よく試料液を液体クロマトグラフィへ導入することができるものであるが、上述したような極性有機溶媒を試料の溶解に使用した場合の問題を改善するために用いられるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2007−163153号公報
【特許文献2】特開平2002−257805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記に鑑み、試料の溶解に極性有機溶媒を使用した場合にも有効に使用することができる条件決定支援装置を提供すること、及び、極性有機溶媒による液体クロマトグラフィの分離能への悪影響を抑えることができるインジェクターを提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、分離カラムの前にインジェクターを接続して行う液体クロマトグラフィ方法であって、前記インジェクターは、充填剤が充填されたシリンダーを有し、極性有機溶媒吸着能を有する乾燥充填剤であり、試料溶液が極性有機溶媒溶液であることを特徴とする液体クロマトグラフィ方法である。
【0009】
前記充填剤は、使用する極性有機溶媒の体積に対して4〜100倍の乾燥体積であることが好ましい。
前記シリンダーは、極性有機溶媒トラップ体積が表示されたものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の液体クロマトグラフィ方法は、極性有機溶媒による液体クロマトグラフィの分離能への悪影響を抑えることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】薄層クロマトグラフィによって各成分の移動度を実測する方法を示す説明図。
図2】液体クロマトグラフの模式図及びブロック図。
図3】液体クロマトグラフの制御用パーソナルコンピュータにおいて、条件決定支援プログラムが実現する機能を示すブロック図。
図4】条件決定支援プログラムがディスプレイに表示するウインドウを示す図。
図5】条件決定支援プログラムが各サイズのカラムに対する負荷量の計算結果を表示した様子を示す図。
図6】条件決定支援プログラムにおけるインジェクトカラム選択支援にかかるプログラムがディスプレイに表示するウインドウを示す図。
図7】条件決定支援プログラムが算出したインジェクトカラムの極性有機溶媒トラップ体積の結果を表示した様子を示す図。
図8】Lサイズのカラムを用いた場合の、負荷量と、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数との関係を二次元的に示す図。
図9】理論段数N、極性有機溶媒量V及び負荷量の関係を三次元的に示す図。
図10】式12で示される関係を示す図である。
図11】式14,15で示される関係を示す図である。
図12】インジェクトカラムにおけるVmax=aVinjの関係を示す図。
図13】実施例におけるガスクロマトグラフの結果を示す図。
図14】比較例におけるガスクロマトグラフの結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明を詳細に説明する。
(インジェクター)
本発明のインジェクターは、充填剤が充填されたシリンダーを有し、充填剤として極性有機溶媒吸着能を有する乾燥充填剤を使用するものである。すなわち、このような乾燥充填剤によって極性有機溶媒を吸着することで、極性有機溶媒の分離カラムへの流入を防止し、極性有機溶媒の分離能への影響を防止するものである。
【0013】
本発明で使用される極性有機溶媒吸着能を有する乾燥充填剤としては、シリカ等を挙げることができる。また、2種以上を混合して使用するものであってもよい。
【0014】
上記乾燥充填剤は、溶媒を含まず乾燥した状態でシリンダー中に充填されたものであり、更に、乾燥した状態で試料溶液を導入するものである。乾燥した状態で試料液を導入し、その後、溶媒を導入することで、極性有機溶媒が効率よくインジェクターシリンダー中の充填剤に吸着される。
【0015】
このようなインジェクターは、幾つかの種類のサイズのインジェクトカラムを準備し、使用する極性有機溶媒の体積に応じて適正なサイズのインジェクターを選択して使用するものであってもよい。
すなわち、インジェクトカラムに吸着可能な極性有機溶媒の量は予測される量であることから、試料液の体積に応じて使用するインジェクターのサイズを選択することで、より好適な分離を図ることができる。
【0016】
試料の溶解に極性有機溶媒を使用した場合、インジェクターを用いることで極性有機溶媒がトラップされる結果、分離カラムの理論段数低下を抑えることができる。このとき、シリンダーに使用できる極性有機溶媒の体積の最大量(以下、これを極性有機溶媒トラップ体積と記す)は、インジェクターの容量と一次関数の関係となることが決まっており、具体的には以下の関係式となる。
【数3】
max:極性有機溶媒トラップ体積
inj:インジェクター容量
a,b:極性有機溶媒種と充填剤種により決まる定数
なお、このような関係を示すグラフを図12に示した。
【0017】
本発明の態様においては、例えば、このような計算式に基づいて使用する極性有機溶媒種及び体積に応じて上記式に基づいて極性有機溶媒トラップ体積を使用のたびに算出するものであってもよいし、予め極性有機溶媒トラップ体積を算出しておいて、インジェクター毎の特数値として明確化しておいてもよい。
【0018】
使用する極性有機溶媒種に応じて、上記式に基づいて極性有機溶媒トラップ体積を算出する場合は、以下、詳述する液体クロマトグラフィの条件決定支援装置によって、極性有機溶媒トラップ体積を算出してもよい。このような態様とすることで、使用する極性有機溶媒ごとの極性有機溶媒トラップ体積の相違等を考慮することも容易であるし、正確な値を算出することができる点で好ましい。このような態様を取る場合において、インジェクター上部に注入された極性有機溶媒の体積がすぐに分かるように、充填部の上端部から注入された極性有機溶媒の体積を示すための目盛を表示したものであってもよい。試料液をインジェクターのシリンダーに注入すると、乾燥していた充填剤が湿ることによって、注入した試料液量を目視で観察することができる。
【0019】
また、上述した式によってインジェクターの極性有機溶媒トラップ体積を予め算出しておき、シリンダーに極性有機溶媒トラップ体積を表示したものであってもよい。例えば、注入した極性有機溶媒の注入限界量の部位に、シリンダー径方向に線を設け、これによって注入した極性有機溶媒の量が過大になっていないかどうかを容易に確認することができる。
【0020】
本発明のインジェクターは、使用する溶媒の種類によって、上述した極性有機溶媒トラップ体積が変化する場合もある。よって、同一のインジェクトカラムを使用した場合であっても、使用する溶媒によって極性有機溶媒トラップ体積が変化する場合がある。このような場合に対応するために、使用する極性有機溶媒に応じて上述した極性有機溶媒の体積の最大値を示すものであってもよい。
【0021】
上記乾燥充填剤は、使用できる極性有機溶媒の体積に対して4〜100倍の乾燥体積を有するような充填量として使用することが好ましい。上述したように極性有機溶媒トラップ体積は計算によって値を求めることができるが、一応の目安として想定される極性有機溶媒体積の4〜100倍となるような乾燥体積を有するような充填量とすることが好ましい。充分な乾燥体積がなければ、本発明のインジェクターによる極性有機溶媒吸着の効果が充分に得られない場合がある。上記乾燥空隙の量は、7〜20倍であることがより好ましい。
【0022】
本発明のインジェクターは、分離カラムの前に接続して使用するものである。すなわち、本発明のインジェクターより流出した流出液は、次いで液体クロマトグラフィの分離カラムに流出させて、そこで各成分の分離を行うものである。
【0023】
本発明のインジェクターの構造や形状は特に限定されるものではないが、例えば、特開平2002−257805号公報に記載したような形状を有するもの等を挙げることができる。
【0024】
本発明のインジェクターは、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、メタノール、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド等の極性有機溶媒を溶媒とする試料液を液体クロマトグラフィによって分離する際に特に好適に使用することができるものである。
【0025】
(液体クロマトグラフィの条件決定支援装置)
本発明の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置は、負荷量算出手段及び負荷量算出手段で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段を備え、前記負荷量算出手段は分離カラムの理論段数と負荷量との関係の極性有機溶媒量による変化をパラメータとして含むものである。すなわち、上述したような、試料液中に存在する極性有機溶媒による負荷量への影響を考慮して負荷量を算出することで、より高精度で液体クロマトグラフィの条件決定の支援を行うことができるものである。
【0026】
液体クロマトグラフィの分離カラムに対して試料液中の極性有機溶媒が流入した場合、試料中の分離対象成分の流出速度が変化してしまい、従来の条件決定支援装置では充分な支援を行うことができなくなるおそれがあることは上述したとおりである。よって、本発明においては、負荷量の算出において、分離カラムの理論段数と負荷量との関係の極性有機溶媒量による変化をパラメータとして考慮することを特徴とするものである。なお、上記極性有機溶媒は、テトラヒドロフラン、ジメチルスルホキシド、メタノール、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド等を指す。
【0027】
本発明の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置の具体的な態様について、以下に詳述し、その後、本発明の特徴である負荷量算出手段について説明する。
本発明の液体クロマトグラフは、複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf値の実測値を入力するための実測値入力手段と、この実測値入力手段で入力された移動度Rf値における、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段と、この負荷量算出手段で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段と、を備えるものであることが好ましい。
【0028】
この構成により、薄層クロマトグラフィで得られた移動度の結果(Rf値)から適切な負荷量を計算してユーザに呈示することができ、ユーザ側としてはこれを参考にしながら条件を決定することで、分離等の作業効率を向上させることができる。
【0029】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記実測値入力手段で入力された移動度Rf値から、当該複数の成分を所定の分離度で分離可能とするために必要な理論段数を求める第1演算手段と、前記理論段数と、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量との関係を予め記憶しておくための記憶手段と、この記憶手段に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段で求められた理論段数から負荷量を求めるための第2演算手段と、を備える。
【0030】
この構成により、適切な分離度を実現するための負荷量をユーザに提示できるので、良好なクロマトグラフィ結果が容易に得られる。
【0031】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記移動度Rf値及び使用する極性有機溶媒の体積から、液体クロマトグラフィの複数種類のカラムについて、前記負荷量を当該カラムの種類ごとに求めるものとする。前記負荷量出力手段は、前記カラムのそれぞれの種類について負荷量を出力するように構成されている。
【0032】
この構成により、例えば分離したい試料の負荷量が決まっている場合に、それを好適に分離できるカラムを複数種類の中から適切に選定できるよう、ユーザの条件決定過程を支援できる。
【0033】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置においては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記実測値入力手段は、ディスプレイ装置の表示画像の任意の点を指示可能なポインティング装置を含む。前記移動度Rf値の実測値は、前記ディスプレイ装置に描画された薄層板の画像上の点を前記ポインティング装置で指示することにより入力可能である。
【0034】
この構成により、事前に行われた薄層クロマトグラフィでの薄層板の状態をそのまま入力するかのような直感的で優れた操作性を提供でき、容易な操作で的確に移動度Rf値を入力できる。
【0035】
本発明の第2の観点によれば、以下のように構成する、液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムが提供される。即ち、コンピュータを、複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf値の実測値及び極性有機溶媒の使用体積を入力するための実測値入力手段、この実測値入力手段で入力された移動度Rf値における、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段、及び、この負荷量算出手段で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段として機能させる。
【0036】
この構成により、薄層クロマトグラフィで得られた移動度Rf値の結果から適切な負荷量を計算してユーザに呈示することができ、ユーザ側としてはこれを参考にしながら条件を決定することで、分離等の作業効率を向上させることができる。
【0037】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムにおいては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記実測値入力手段で入力された移動度Rf値から、当該複数の成分を所定の分離度で分離可能とするために必要な理論段数を求める第1演算手段と、前記理論段数と、液体クロマトグラフィのカラムへの試料の負荷量との関係を予め記憶しておくための記憶手段と、この記憶手段に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段で求められた理論段数から負荷量を求めるための第2演算手段と、を備える。
【0038】
この構成により、適切な分離度を実現するための負荷量をユーザに提示できるので、良好なクロマトグラフィ結果が容易に得られる。
【0039】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムにおいては、以下のように構成することが好ましい。即ち、前記負荷量算出手段は、前記移動度Rf値から、液体クロマトグラフィの複数種類のカラムについて、前記負荷量を当該カラムの種類ごとに求めるものとする。前記負荷量出力手段は、前記カラムのそれぞれの種類について負荷量を出力するように構成されている。
【0040】
この構成により、例えば分離したい試料の負荷量が決まっている場合に、それを好適に分離できるカラムを複数種類から適切に選定できるよう、ユーザの条件決定過程を支援できる。
【0041】
前記の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムにおいては、前記実測値入力手段において、前記移動度Rf値の実測値は、コンピュータのディスプレイ装置に描画された薄層板の画像上の点をポインティング装置で指示することにより入力可能であることが好ましい。
【0042】
この構成により、事前に行われた薄層クロマトグラフィでの薄層板の状態をそのまま入力するかのような直感的で優れた操作性を提供でき、容易な操作で的確に移動度Rf値を入力できる。
【0043】
本発明の液体クロマトグラフィの条件決定支援プログラムにおいては、更に、インジェクターの選択に関する支援を行うことができるよう構成されているものであってもよい。
【0044】
また、本発明の他の観点によれば、上記の構成の液体クロマトグラフィの条件決定支援装置を備える液体クロマトグラフが提供される。
【0045】
次に、発明の実施の形態を説明する。図1は薄層クロマトグラフィによって各成分の移動度Rf値を実測する方法を示す説明図である。
【0046】
まず図1を参照して、液体クロマトグラフィを行う前段階の工程としての薄層クロマトグラフィ(TLC)について説明する。この薄層クロマトグラフィは、分離する試料の各成分1,2の移動度Rf1,Rf2を実測するために行われるものである。
【0047】
薄層クロマトグラフィの方法を説明すると、先ず、固定相としてのシリカゲル粉末を細長い平板(例えば、ガラス板)の表面上に薄く均一に塗布して、シリカゲル薄層板11を作成する。そして、このシリカゲル薄層板11上のシリカゲルに、分離したい試料を1滴滴下し、試料スポット12を形成させておく。この滴下する試料は、少なくとも2つの成分(成分1と成分2)が混合したものである。
【0048】
次に、このシリカゲル薄層板11の下部を、図1の左側に示すように、容器13に貯溜した溶離液14に浸漬する。すると、薄層板11上のシリカゲル薄層に溶離液14が毛管現象によって吸い上げられてゆく。これに伴い、試料スポット12も上方へ移動するが、試料に含まれた各成分が上昇する速度は、溶離液14との親和性や固定相としてのシリカゲルとの相互作用等に依存し、成分ごとに異なる。従って、所定の時間が経過すると、図1の右側に示すように、試料スポット12に含まれていた成分1は12aの位置まで、成分2は12bの位置まで、それぞれ移動することになる。このようにして2つの成分の分離が実現される。
【0049】
以上の状態で、薄層板11を溶離液14に浸漬する前の試料スポット12の位置から、吸い上げられた溶離液14の上端位置までの距離L0を測定するとともに、試料の各成分の移動距離Lr1,Lr2を併せて測定する。そして、各成分の移動度Rf1,Rf2を、Rf1=Lr1/L0,Rf2=Lr2/L0の式に従って求める。求めた値は、後述する液体クロマトグラフのパーソナルコンピュータへ入力するために、適宜記録しておく。
【0050】
次に、図2及び図3を参照して液体クロマトグラフを説明する。図2は液体クロマトグラフの模式図及びブロック図、図3は液体クロマトグラフの制御用パーソナルコンピュータにおいて、条件決定支援プログラムが実現する機能を示すブロック図である。
【0051】
この液体クロマトグラフ21は、2つの容器31・32と、これらの容器31・32からそれぞれ延びる送液経路の相互接続箇所に設けられる電磁弁33と、ポンプ36と、溶離液34が貯溜される混合器35と、ポンプ37と、インジェクタ38と、カラム39と、検出器40と、フラクションコレクタ41とが、送液方向に従って上記の順に配置されている。また、液体クロマトグラフ21はパーソナルコンピュータ51を備えており、このパーソナルコンピュータ51は、上記の各装置を所望のクロマトグラフィ条件に従って制御する制御装置としての機能と、当該クロマトグラフィ条件をユーザが決定する際にそれを支援する条件決定支援装置としての機能を備えている。
【0052】
容器31には溶媒Aが貯溜され、容器32には溶媒Bが貯溜されている。なお、用いられる溶媒はA,Bの2種類に限定されず、使用状態や目的に応じて数を増やしても良い。一般に、溶媒A及び溶媒Bとしては、非極性分子と極性分子との組み合わせが用いられる。
【0053】
前記ポンプ36は、電磁弁33を介して溶媒A,Bを汲み上げるように構成している。電磁弁33は、前記パーソナルコンピュータ51からの制御信号に基づいて、汲み上げられる溶媒を溶媒A又は溶媒Bから選択し、かつその選択時間の割合を調整することで、所定の混合比の溶離液34とする。なお、この溶離液34は、上記の薄層クロマトグラフィ(図1)において使用された溶離液14と同じ種類のものが使用される。
【0054】
インジェクター38は試料を保持しており、混合器35からポンプ37により吸引され吐出された溶離液34がインジェクター38を通過することで、試料を送出するように構成されている。なお、当該インジェクターは、上述したような極性有機溶媒吸着能を有する乾燥充填剤を充填したものであってもよいし、それ以外のものであってもよい。
【0055】
カラム39は内部に固定相が充填された管状容器とされており、この固定相を試料が前記溶離液34とともに通過することで液体クロマトグラフィが行われる。この固定相としては、薄層クロマトグラフィ(図1)において薄層板11に積層されたものと同じものを使用することとし、本実施形態ではシリカゲルを使用している。
【0056】
なお、このカラム39は、カラム寸法(カラム径やカラム長さ)や前記固定相の種類等が異なる複数種類のものが用意されており、これらから1種類を適宜選択して液体クロマトグラフ21にセットして使用できるように構成している。
【0057】
検出器40は、前記カラム39の下流側に配置されており、当該カラム39で行われる液体クロマトグラフィの結果を検出するものである。この検出結果は、上記パーソナルコンピュータ51へ送信されるようになっている。また、フラクションコレクタ41は複数の試験管を備えており、検出器40の分析結果に基づいて、試料に含まれる成分ごとに各試験管に分取できるように構成されている。
【0058】
前記パーソナルコンピュータ51は汎用のものを使用しており、図2に示すように、CPU52と、メモリ53と、ハードディスク54と、外部とのインターフェース55と、キーボード56と、マウス(ポインティング装置)57と、ディスプレイ装置58と、を備えている。
【0059】
そして、前記パーソナルコンピュータ51は、前記薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf1,Rf2の実測値入力手段61と、実測値入力手段61で入力された移動度Rf1,Rf2における、液体クロマトグラフィのカラム39への試料の負荷量を算出する負荷量算出手段62と、この負荷量算出手段62で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段63と、を備えている。
【0060】
また、負荷量算出手段62は、実測値入力手段61で入力された前記移動度Rf1,Rf2から、当該2つの成分を所定の分離度Rsで分離可能とするために必要な理論段数Nを求める第1演算手段64や、前記理論段数Nと、前記カラム39への試料の負荷量との関係を記憶可能な記憶手段65や、この記憶手段65に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段64で求められた理論段数Nから負荷量を求める第2演算手段66を備えている。更に、使用したインジェクトカラム種及び使用した溶媒種に応じて、インジェクトカラムの極性有機溶媒トラップ体積を算出するための演算手段も備えたものであってもよい。
【0061】
具体的には、液体クロマトグラフィの制御プログラムや条件決定支援プログラム等を含む各種のソフトウェアがパーソナルコンピュータ51のハードディスク54に記憶されている。そして、上記ハードウェア及びソフトウェアが組み合わされることによって、図2に示す上記の各手段61〜66が構築されている。
【0062】
なお、上記のソフトウェアは、当該プログラムを記録したCD−ROM、FD、MO等の記録媒体を用いてインストールすることで、パーソナルコンピュータ51のハードディスク54に記憶させることができる。あるいは、上記インストールは、インターネット等のネットワークを介して行うことも可能である。
【0063】
上記のパーソナルコンピュータ51を用いて液体クロマトグラフィの条件設定を行うのであるが、この条件には、例えば、溶離液34の混合比や、カラム39へ流入させる溶離液34の流量等が含まれる。パーソナルコンピュータ51はこれらの条件に基づいて電磁弁33やポンプ36・37等を制御し、液体クロマトグラフィを行う。また、パーソナルコンピュータ51は、検出器40からの検出信号を解析し、ディスプレイ装置58に流出曲線を描画させたり、ハードディスク54等に結果を保存したりできるようになっている。
【0064】
ここで、上記液体クロマトグラフィの条件には、前述した複数種類のカラム39のうちどのカラムを選択して用いるのか、及び、前記インジェクタ38にセットする試料の量(負荷量)が含まれている。そして本実施形態では、上記の条件決定支援プログラムによって、ユーザが行うカラム39の種類の選択や負荷量を適切に決定できるよう、その決定過程を支援するようになっている。
【0065】
以下、この条件決定支援プログラムについて説明する。図4は条件決定支援プログラムがディスプレイに表示するウインドウを示す図、図5は各サイズのカラムに対する負荷量の計算結果を表示した様子を示す図、図8はLサイズのカラムを用いた場合の、負荷量と、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数との関係を示す図である。
【0066】
この条件決定支援プログラムが実行されると、上記ディスプレイ装置58には、例えば図4のようなGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を備えたウインドウ71が表示される。このウインドウ71には、上記の薄層クロマトグラフィで実測した移動度Rf1,Rf2の数値を入力するためのテキストボックス72,73と、薄層クロマトグラフィのシリカゲル薄層板11でのスポット位置を画面上で指示することで移動度Rf1,Rf2を指定するためのスポット指示領域74と、極性有機溶媒量を入力するためのテキストボックス84と、計算された負荷量の結果を表示する結果表示領域75と、負荷量の計算を指示するOKボタン76と、ウインドウ71を閉じて条件決定支援プログラムの実行を終了するためのキャンセルボタン77と、が配置されている。その他必要に応じて、極性有機溶媒種を入力するためのテキストボックス83、インジェクトカラムサイズを入力するテキストボックス85を設けてもよい。
【0067】
以上の画面構成で、ユーザはウインドウ71のテキストボックス72,73の部分にマウスポインタ80を合わせるようにマウス57を操作してクリックし、移動度Rf1,Rf2の数値を「0.5」や「0.3」等と、キーボード56から入力する。同様にテキストボックス83,84,85にもそれぞれ必要な値を記入する。これらのテキストボックス72,73に値を入力した後は、OKボタン76をクリックする。すると、試料の負荷量が後述する手順に従って計算され、その計算結果が結果表示領域75に表示される。
【0068】
この結果表示領域75はテーブル形式になっており、複数あるカラム39の種類のそれぞれについて、対応する負荷量の数値を一覧形式で出力できるようになっている。本実施形態では、「サイズ」の列にカラム39の種類(本実施形態の液体クロマトグラフ21では、S,M,L,2L,3L,4L,5Lとサイズの異なる計7つの種類のカラム39をセット可能である)を表示し、「g」の列に、当該サイズのカラム39を用いた場合に試料を何グラムセットすべきか(負荷量)を、各サイズについてそれぞれ表示する。例えば図5に示すように、「M」の行に「0.05」と表示され、「L」の行に「0.25」と表示される。
【0069】
この図5の表示から、ユーザは、例えば0.25グラムの試料を分取したい場合はLサイズのカラム39を用いれば良好な結果が得られるだろうという情報を得ることができる。従って、ユーザはこの情報を参考にして適切なカラム39のサイズを選定できるので、液体クロマトグラフィに無用に長い時間を要したり、分取がうまくいかずに分離をやり直したりすることがなくなり、分析作業を顕著に効率化できる。
【0070】
更に、別途、インジェクトカラムの選択支援のための表示領域を有するものであってもよい。例えば、上記ディスプレイ装置58には、例えば図6のようなGUI(グラフィカルユーザインタフェース)を備えたウインドウが表示される。図6に示したウインドウにおいては、サンプル溶媒、インジェクトカラムサイズ、メインカラム種選択するためのテキストボックスが表示される。タブによって使用する極性有機溶媒、インジェクトカラムサイズ、メインカラムサイズを選択すると、コンピューターによって自動的に計算された極性有機溶媒トラップ体積が示される。これによって、インジェクトカラムの選択の支援も行うことができる。
【0071】
なお、前記移動度Rf1,Rf2の入力は、テキストボックス72,73を用いてキーボード56から直接入力するのではなく、スポット指示領域74を用いて、マウス57の操作で行うこともできる。このスポット指示領域74には、前記薄層クロマトグラフィでの薄層板11を模した図形81が描かれ、この図形81内に、前記成分1,成分2のスポット位置12a,12bに対応する円状の2つのスポット図形82a,82bが描かれている。スポット指示領域74の下部の長い横線は、移動前の試料スポット12の位置に対応しており、上部の長い横線は、吸い上げられた溶離液14の位置に対応している。即ち、上下の長い横線の間の距離が、図1で図示する距離L0に対応している。
【0072】
図4の表示例では、上側のスポット図形82aはRf1=0.5の位置に描かれ、下側のスポット図形82bはRf2=0.3の位置に描かれている。これを変更するには、例えば下側のスポット図形82bにマウスポインタ80を合わせた状態でマウスボタンを押し下げ、この状態でマウスポインタを上方へ動かして、所望の位置でマウスボタンを離す。すると、スポット図形82bを上側、例えばRf2=0.4の位置へ移動させることができる(そのようにプログラムされている)。この移動と同時に、テキストボックス73に入力されている数値は、新しいスポット図形82bの位置に対応する数値(0.4)に自動的に変更される。また、成分1の移動度Rf1についても、上側のスポット図形82aを上記と同様にドラッグ操作することで、容易に設定することができる。
【0073】
以上により、図1の薄層クロマトグラフィ結果のスポット位置12a,12bをそのままディスプレイ装置58の画面上で指定する感覚で各成分の移動度Rf1,Rf2を指定でき、直感的で優れた操作性が実現されている。また、移動度Rf1,Rf2のマウス57による指示を更に容易とするために、スポット指示領域74には、前記の距離L0を適宜の間隔で等分する目盛78が描かれるとともに、スポット指示領域74の脇の位置には、操作方法を説明する説明文79が表示されている。
【0074】
なお、テキストボックス72,73から移動度Rf1,Rf2を直接数値で入力すると、その数値に対応した位置に、前記スポット指示領域74のスポット図形82a,82bが自動的に移動するようになっている。これにより、ユーザは移動度Rf1,Rf2の入力値の確認を容易に行うことができ、入力ミスが防止される。
【0075】
(負荷量の算出)
従来技術においては、理論段数Nを算出した後に負荷量との関係を求める際、理論段数Nと負荷量を求めていた。すなわち、2次元的な解析によって負荷量を求めていた。本発明においては、これらに加えて極性有機溶媒量Vを加えた三次元的な解析によって負荷量を求める点が特徴となる(図7)。以下、より具体的に、本発明においての負荷量の算出方法について詳述する。
【0076】
一般に試料の液体クロマトグラフィにおいて、当該試料の成分である成分1と成分2との分離の度合いを表す指標(流出曲線におけるピーク、バンドの接近度)として分離度Rsがあり、この分離度Rsは以下の式(1)のように表せることが知られている。
【数4】

なお、上記の式において、Nは理論段数、αは選択性因子、k’は保持比である。
【0077】
ここで前記保持比k’は、溶離液34とともに試料がカラム39に流入し始めてから溶離液34がカラム39から流出するまでの時間(所謂ボイドタイム)をt0とし、溶離液34とともに試料がカラム39に流入し始めてからカラム39から流出するまでの時間をtrとすると、下記の式(2)で表される。
【数5】
【0078】
そして、本実施形態の液体クロマトグラフ21では、目的物質のピーク時間trが上記ボイドタイムt0のほぼ4倍の値になるように、パーソナルコンピュータ51でクロマトグラフィ条件を適宜自動設定するよう構成している(tr=4×t0)。この条件を上記の式(2)に当てはめると、k’=3になる。
【0079】
また、本実施形態の液体クロマトグラフ21では、前記フラクションコレクタ41での各試験管への分取を好適に行うために必要十分な分離度の具体的な値として、Rs=1を設定している。従って、上記の式(1)にRs=1、k’=3を代入し、更にN=の形に変形することで、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数Nの式を下記の式(3)のように導くことができる。
【数6】
【0080】
そして、前記の選択性因子αは、具体的には下記の式(4)で表される。
【数7】
【0081】
上記の式(4)において、k1’及びk2’は、成分1及び成分2についての個別の保持比である。即ち、液体クロマトグラフィ開始から成分1のピークが現れるまでの時間をtr1、成分2のピークが現れるまでの時間をtr2としたときに、k1’及びk2’は、下記の式(5)で表される。
【数8】
【0082】
ここで、上述した薄層クロマトグラフィにおける各成分の移動度Rf1,Rf2は、固定相内の各成分の移動速度の溶離液移動速度に対する比として捉えることができる。一方、液体クロマトグラフィにおいては、固定相内の各成分の移動速度の溶離液移動速度に対する比は、上記のボイドタイムt0を、カラム39内を各成分が移動するのに要した時間tr1、tr2でそれぞれ除することで得られる。従って、各成分について、薄層クロマトグラフィでの移動速度の比(移動度Rf1,Rf2)と液体クロマトグラフィでの保持時間の比(t0/tr1,t0/tr2)とをそれぞれ等しいとおくことで、下記の式(6)を導くことができる。
【数9】
上記の式は、薄層クロマトグラフィと液体クロマトグラフィとを具体的に関係付ける重要な式として知られている。
【0083】
そして、上述の式(5)を変形することで、k1’及びk2’を、移動度Rf1,Rf2を用いて下記の式(7)のように表すことができる。
【数10】
【0084】
この式(7)の関係を式(4)へ代入し、得られたαを更に式(3)へ代入することで、下記の式(8)が導かれる。
【数11】
【0085】
ここで256/9≒28であり、またa=1/Rf1とおくことで、上記の式(8)は下記の式(9)のように変形できる。
【数12】
【0086】
以上により、分離度Rs=1を実現するために必要な理論段数Nと、移動度Rf1,Rf2の関係が得られる。即ち、上記の条件決定支援プログラムでは、上記のOKボタン76がクリックされると、テキストボックス72,73、84に入力されているRf1,Rf2、上記の式(9)を用いて、Rs=1を実現するために必要な理論段数Nを求めるようになっている。以上により、図3に示す第1演算手段64の機能が実現されている。例えば、図4のウインドウでの入力例に示すようにRf1=0.5,Rf2=0.3が指定されたとすると、式(9)から、N≒86が得られる。
【0087】
従来の技術においては、このようにして算出した理論段数Nに基づいてlogNと負荷量との関係に基づいて、負荷量を求めていた。本発明においては、更に極性有機溶媒量Vを更にもう一つのパラメータとして加えた三次元的な関係図に基づいて負荷量を求めるものである。これを図8〜12を参照しつつ、説明する。
【0088】
図8には、理論段数の対数logNと負荷量の対数logxとの関係が二次元的に示されている。図8に示されたグラフは、特定の理論段数に対して最大限の負荷量の値を示すグラフである。当該グラフより上の範囲においては充分な分離を行うことができず、下の範囲においては良好な分離を行うことができる。
【0089】
このようなグラフは実験結果に基づく経験的な知見から知られたものであり、一定の領域においてはグラフはx軸に対して平行となる
【数13】
(式中、Mはカラム毎によって決まる定数である)
の直線となり、ある値から
【数14】
(式中、Mおよびmはカラム毎によって決まる定数である)
の関係を満たすものとなる。
【0090】
当該関係式中のM,M,mは、カラムによる分離実験を行った実験結果から求めることができ、カラムごとの特性値となる。
上述した式(10)、式(11)で示した関係式は、極性有機溶媒量の影響を考慮しないものである。しかし、現実には試料液が極性有機溶媒を含有する場合、この関係式への影響を生じてしまうものである。図8に示したように、極性有機溶媒を試料液において使用しない場合はグラフ91のような関係を示すカラムにおいて、例えば、極性有機溶媒2mlを使用した場合、グラフ92のような関係を示すものとなる。
【0091】
そこで、本発明においては理論段数Nから負荷量xを算出するための計算式において、極性有機溶媒量V量をパラメータをして含む計算式を使用し、これによってより適切なカラム選択を行うものである。このようなカラム選択は、各カラム毎に極性有機溶媒によるカラムの分離能への影響を実験によって明らかにすることによって可能となったものである。以下にこのような式の一例を示す。
【0092】
本発明者の検討により明らかとなった理論段数N、負荷量x、極性有機溶媒量Vとの関係を三次元的に示すグラフを図9に示した。図9のうち、まずグラフ101、102、103に基づいて説明を行う。まず、関係式のうち、上述した式(10)は、下記式(12)
【数15】
(lは、カラム種及び極性有機溶媒種によって決まる比例定数。Mは、極性有機溶媒を使用しない場合の式(1)におけるMである)
と修正することができる。
この関係を図10として示す。図10は、図8、9に示したような負荷量と理論段数との関係を示すグラフにおいて、グラフが負荷量を示す軸と平行になる領域における理論段数Nの対数値と極性有機溶媒量Vとの関係を示すものである。
【0093】
すなわち、図8においてx軸に平行な直線の位置を示す値は、極性有機溶媒量を増加させるに従って値が小さくなるものである。
【0094】
更に、式(11)は、下記式(13)
【数16】
(lは、カラム種及び極性有機溶媒種によって決まる比例定数)
と修正することができる。
【0095】
このようにして、図8に示したような極性有機溶媒の使用による理論段数Nと負荷量xとの関係の変化を数式化することができる。したがって、各カラム及び使用した極性有機溶媒の種類ごとに上述した式のl、l、m、M、Mの定数を保管しておけば、入力された事項に応じてこれらの定数を呼び出すことで条件に合ったlogNとlogxとの関係式を得ることができる。このようにして得られた関係式と上述した算出式に得られたNの値に基づいて負荷量xの値を求めることができるものである。
【0096】
これを図8,9に基づいて更に具体的に説明する。
図9のグラフにおいてV=2mlの場合、式(12)(13)にV=2mlを代入することで、極性有機溶媒量による修正を加えた所定の式を求めることができる。これをグラフとして表わすと、図8中の破線で示されたグラフ102のような関係であることが明らかとなる。このような関係に基づいて理論段数(上述した例の場合はN=86)に対応した負荷量(上述した例の場合は0.25g)を知ることができる。
【0097】
(インジェクターを使用した場合の負荷量の計算)
本発明の条件決定支援装置においては、第1の本発明のインジェクターを使用した場合の負荷量への影響も考慮して算出式を得ることもできる。
上述したように、本発明のインジェクターは、極性有機溶媒を吸着することによって分離カラムの分離能力低下を防止するという効果を有するものである。よって、このようなインジェクターの機能もまた、上記式に対して影響を与えるものであることから、この点も考慮する必要がある。
【0098】
本発明者らの検討によって、上記インジェクターを使用した場合の式(12)は、
【数17】
(式中、Vmaxは、インジェクターが吸着することができる有機溶媒の最大量を示す)
であることが明らかとなった。この場合のNとVとの関係を示すグラフを図11に示した。なお、図11には、Vmax=2mlである場合について示している。図11は、図10と同様、図8、9に示したような負荷量と理論段数との関係を示すグラフにおいて、グラフが負荷量を示す軸と平行になる領域における理論段数Nの対数値と極性有機溶媒量Vとの関係を示すものである。
【0099】
更に、本発明者らの検討によって、上記インジェクターを使用した場合の式(12)は、
【数18】
と修正することができることが明らかとなった。
このような関係について、図9においてグラフ104,105,106としてVmax=2mlの場合の関係式を示した。
【0100】
上記式中のVmaxは、使用したインジェクターの種類及び使用した極性有機溶媒種によって決定される値である。したがって、あらかじめ測定することによって得られたインジェクターの種類と極性有機溶媒種とVmaxとの関係を保管しておき、入力されたインジェクターの種類及び極性有機溶媒種に応じてVmaxを呼び出すことによって、インジェクター種による補正を加えた式(16)(17)を得ることができ、これによって、NとXとの関係を数式化することができ、より適切なカラムクロマトグラフィの条件設定を行うことができる。
【0101】
上述したように、Vmaxは、Vinjとの間に、
【数19】
との関係式が成立する。よって、上記式をパーソナルコンピュータ51中に保管し、入力された極性有機溶媒種及びインジェクトカラムの種類に応じて極性有機溶媒トラップ体積を算出し、画面に表示するものとしてもよい。また、このような式によって算出されたVmaxを式14、式15におけるVmaxとして使用し、負荷量の算出を行うようなシステムとしてもよい。
【0102】
(その他)
以上に示すように、本実施形態の液体クロマトグラフ21が備えるパーソナルコンピュータ51は、複数の成分について、薄層クロマトグラフィを行ったときの各成分の移動度Rf1,Rf2の実測値及び極性有機溶媒の使用体積Vを入力するための実測値入力手段61と、この実測値入力手段61で入力された移動度Rf1,Rf2,Vから、液体クロマトグラフィのカラム39への試料の負荷量を求めるための負荷量算出手段62と、この負荷量算出手段62で求められた負荷量を出力する負荷量出力手段63と、を備える。
【0103】
負荷量の計算は上述したとおり各成分1,2の移動度Rf1,Rf2に加えて、極性有機溶媒の量等を考慮して行われるので、負荷量を合理的に計算することができる。即ち、極性有機溶媒を試料液溶媒として使用したときの影響を入力してこの入力内容に基づいて算出するものであることから、試料液の種類による変化にも充分に対応した形で負荷量をユーザに提示することができる。
【0104】
また、負荷量算出手段62は、前記実測値入力手段61で入力された移動度Rf1,Rf2から、当該複数の成分を所定の分離度(本実施形態ではRs=1)で分離可能とするために必要な理論段数Nを求める第1演算手段64と、前記理論段数Nと、液体クロマトグラフィのカラム39への試料の負荷量との関係(図7に例示する関係)を予め記憶しておくための記憶手段65と、この記憶手段65に記憶された関係に基づいて、前記第1演算手段64で求められた理論段数Nから負荷量を求めるための第2演算手段66と、を備える。
【0105】
従って、適切な分離度を実現するための条件をユーザに提示できるので、良好なクロマトグラフィ結果が容易に得られる。
【0106】
また、負荷量算出手段62は、前記移動度Rf1,Rf2から、液体クロマトグラフィのS,M,L,・・・の複数種類のカラム39について、前記負荷量を当該カラム39の種類ごとに求めている。そして、前記負荷量出力手段63は、図5に示すように、前記カラム39のそれぞれの種類(S,M,L,・・・)ごとに負荷量を出力するように構成されている。
【0107】
従って、例えば分離したい試料のグラム数が決まっている場合に、それを好適に分離できるサイズのカラム39をS,M,L,・・・の中から適切に選定できるよう、ユーザの条件決定過程を支援できる。
【0108】
更に、前記実測値入力手段61には、ディスプレイ装置58の表示画像の任意の点を指示可能なマウス57が含まれており、前記移動度Rf1,Rf2の実測値は、前記ディスプレイ装置58のスポット指示領域74に描画された薄層板図形81上の点を前記マウス57のドラッグ操作で指示することにより入力可能になっている。
【0109】
更に、前記実測値入力手段61には、極性有機溶媒量入力領域84において、極性有機溶媒量を入力することができるようになっている。また、極性有機溶媒種やインジェクトカラムサイズ等も反映させて液体クロマトグラフィの条件を決定する場合には、極性有機溶媒種入力領域83、インジェクトカラムサイズ85を設けるものであってもよい。
【0110】
以上に本発明の好適な実施形態を説明したが、以上は一例であって、例えば以下のように変更することができる。
【0111】
上記の実施形態ではサイズが異なる複数種類のカラムから適切なサイズのカラム39を選択する場合を示したが、これに限らず、例えば内部の固定相が異なる複数種類のカラムから適切なカラムを選択する場合にも、上記の支援プログラムを適用することができる。
【0112】
上記の条件決定支援プログラムと制御プログラムとを連動させるように構成することができる。例えば、図5の結果表示領域75において「L」の行をダブルクリックすれば、ウインドウ71が閉じられて条件決定支援プログラムが終了するとともに、液体クロマトグラフィの制御プログラムにおいて、Lサイズのカラム39を使用した場合に好適な条件パラメータが直ちに自動設定される、といったようにである。
【0113】
また、上述した負荷量の計算において、上記のRs=1、tr=4×t0等の条件は、分析の目的等を考慮して適宜変更することができる。
【0114】
図4に示すように、ウインドウ71が表示された当初の状態では、移動度Rf1のテキストボックス72には最初から「0.5」の数値(所謂デフォルト値)が入力されている。これは、Rf1=0.5とすると上記の式(9)でa=2となって計算が簡単になり、処理の都合が良いからである。ただし、デフォルト値を0.5にすることに限らず、他の値を採用しても構わない。
【0115】
(実施例)
シリンダー状のカラム中に14mlの乾燥シリカゲルを充填した。ここにカラム上部より1mlのメタノール(極性有機溶媒)を流入させた。その後、n−ヘキサン/酢酸エチル=70:30の混合溶媒を流速10ml/minで流した。溶出してきた初流を4ml×3回分取し、これらについて、ガスクロマトグラフィによる分析を行った。その結果のチャートを図13に示した。
その結果、メタノールに由来するピークは見出されずカラム中の乾燥シリカゲルに吸着されていることが明らかとなった。
なお、ガスクロマトグラフィは以下の条件で行ったものである。
測定機器:GC−17A(島津製作所社製)
使用カラム:島津CBP−M25−025(長さ 25m,内径 0.22mm,膜厚 0.25μm)
温度:40℃
注入口温度:250℃
検出器温度:280℃
キャリアガス:He
スプリット比: 100:1
注入量:1.0μm
検出器:FID
【0116】
(比較例)
乾燥シリカゲルにかえてガラスビーズを使用した以外は完全に同一の方法で上記実施例と同じ試験を行った。その結果のチャートを図13に示した。
その結果、メタノールに由来するピークが見られ、カラム中のガラスビーズではメタノールが吸着されないことが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明の液体クロマトグラフィ方法は、試料液の溶媒が極性有機溶媒である場合に、極性有機溶媒による影響を低下させ、良好な分離及び分離条件の正確な決定を行うことができるものである。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14