(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194054
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】一部の効用機に部分的に酸を投入する多重効用淡水化装置及びこれを用いた淡水化方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/04 20060101AFI20170828BHJP
B01D 1/26 20060101ALI20170828BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20170828BHJP
C02F 5/08 20060101ALI20170828BHJP
C02F 5/10 20060101ALI20170828BHJP
C02F 1/22 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
C02F1/04 A
B01D1/26 Z
C02F5/00 610J
C02F5/08 C
C02F5/10 620D
C02F5/10 620C
C02F5/10 620A
C02F5/10 620B
C02F5/10 620E
C02F5/10 620F
C02F1/22 D
【請求項の数】18
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-93046(P2016-93046)
(22)【出願日】2016年5月6日
(65)【公開番号】特開2016-209873(P2016-209873A)
(43)【公開日】2016年12月15日
【審査請求日】2016年5月9日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0063983
(32)【優先日】2015年5月7日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】598026253
【氏名又は名称】斗山重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】特許業務法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】チョン ヒョン チョル
(72)【発明者】
【氏名】アムル モハメド ムハムド サイード アフメド
(72)【発明者】
【氏名】イム スン ウォン
(72)【発明者】
【氏名】ムハンムド アドナン サルーシュ
【審査官】
菊地 寛
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭49−017373(JP,A)
【文献】
特開2008−149226(JP,A)
【文献】
特表2010−515569(JP,A)
【文献】
特開平03−127699(JP,A)
【文献】
特表2014−511402(JP,A)
【文献】
特開平08−071535(JP,A)
【文献】
特開昭55−059879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/02−1/18
B01B 1/00−1/08
B01D 1/00−8/00
C02F 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の熱交換チューブが内部の熱交換空間に配置され、前記熱交換チューブの内部に高温の蒸気が通過され、外部の表面に供給水が供給されて蒸気と供給水との間の熱交換により供給水から蒸気及び濃縮水が生成される直列接続型の複数の効用機(100)と、
前記複数の効用機(100)のそれぞれに前記供給水を並列的に供給する供給水配管(200)と、
を備え、
外部から高温の蒸気が前記複数の効用機(100)のうち最上流に配置される効用機(100A)に供給され、熱交換により供給水から生成される蒸気が隣り合う効用機(100B)に供給されて最下流に配置される効用機(100N)に至るまで連続的な熱交換が行われ、
前記供給水配管(200)には、外部から流入する供給水にスケールの生成を抑えるための添加剤を投入するための少なくとも一つ以上の添加剤投入部(210)と、流入する供給水を加熱するための少なくとも一つ以上の予熱器(220)と、が配備され、
前記添加剤投入部(210)は、高分子系のスケール抑制剤を投入する少なくとも一つ以上の第1の投入部(211)と、酸を投入する少なくとも一つ以上の第2の投入部(212)と、を備え、
前記第1の投入部(211)及び第2の投入部(212)は、それぞれ別々の供給水配管(200A、200B)にそれぞれ配備され、前記第1の投入部(211)が配備される供給水配管(200)にのみ前記予熱器(220)が配備されることを特徴とする多重効用淡水化装置。
【請求項2】
前記第1の投入部(211)は、前記供給水配管(200)上における前記第2の投入部(212)よりも上流側に配備されることを特徴とする請求項1に記載の多重効用淡水化装置。
【請求項3】
前記第1の投入部(211)から投入されるスケール抑制剤は、複数の効用機(100)の全てに供給される供給水に投入され、前記第2の投入部(212)から投入される酸は、高温部(H)に相当する効用機(100)に供給される供給水にのみ投入され、
前記高温部(H)は、最上流に配置される効用機(100A)を有する上流側の一部の効用機(100)であることを特徴とする請求項1に記載の多重効用淡水化装置。
【請求項4】
前記高温部(H)は、供給水が炭酸カルシウムに飽和されたときのpH値(pHs)及び測定される供給水のpH値(pHf)により算出された供給水に対するスケール又は腐食の形成の憂慮度を示す硬度指数の温度による傾向性に基づいて指定される所定のレベル以上にスケールの形成の憂慮が高くなる少なくとも一つ以上の効用機(100)であり、
前記硬度指数は、下式1により算出される前記pHs値及び前記pHf値に基づいて下式2により算出されるライザー安定指数(RSI)値、又は下式3により算出されるランゲリア飽和指数(LSI)値であることを特徴とする請求項3に記載の多重効用淡水化装置。
[数1]
pHs=−log(K2SW)+log(Ksp)−log(TA)−log([Ca2+])
・・・・・・式1
(式中、K2SWは、炭酸の2次解離定数であり、前記Kspは、供給水内のカルサイトの溶解度積定数であり、前記[Ca+2]は、供給水内のカルシウムイオンの濃度であり、前記TAは、合計のアルカリ度である。)
[数2]
RSI=2pHs−pHf ・・・・・・式2
[数3]
LSI=pHf−pHs ・・・・・・式3
【請求項5】
前記高温部(H)は、塩水の温度が86〜110℃の最上流効用機(100A)を有する一部の上流側の効用機(100)であることを特徴とする請求項3に記載の多重効用淡水化装置。
【請求項6】
前記高温部(H)は、塩水の温度が65〜90℃の最上流効用機(100A)を有する一部の上流側の効用機(100)であることを特徴とする請求項3に記載の多重効用淡水化装置。
【請求項7】
前記第2の投入部(212)の下流側の前記供給水配管(200)の上には、脱炭装置(230)及び/又は脱気装置(240)が配備されることを特徴とする請求項1に記載の多重効用淡水化装置。
【請求項8】
前記第2の投入部(212)は、前記供給水配管(200)の上に複数配備されて、前記高温部(H)に相当する複数の効用機(100)に投入される酸の量を調節することを特徴とする請求項3に記載の多重効用淡水化装置。
【請求項9】
複数の熱交換チューブが内部の熱交換空間に配置され、前記熱交換チューブの内部に高温の蒸気が通過され、外部の表面に供給水が供給されて蒸気と供給水との間の熱交換により供給水から蒸気及び濃縮水が生成される直列接続型の複数の効用機(100)と、
前記複数の効用機(100)のそれぞれに前記供給水を並列的に供給する供給水配管(200)と、
を備え、
外部から高温の蒸気が前記複数の効用機(100)のうち最上流に配置される効用機(100A)に供給され、熱交換により供給水から生成される蒸気が隣り合う効用機(100B)に供給されて最下流に配置される効用機(100N)に至るまで連続的な熱交換が行われ、
前記供給水配管(200)には、外部から流入する供給水にスケールの生成を抑えるための添加剤を投入するための少なくとも一つ以上の添加剤投入部(210)と、流入する供給水を加熱するための少なくとも一つ以上の予熱器(220)と、が配備され、
前記添加剤投入部(210)は、高分子系のスケール抑制剤を投入する少なくとも一つ以上の第1の投入部(211)と、酸を投入する少なくとも一つ以上の第2の投入部(212)と、を備え、
前記第1の投入部(211)及び第2の投入部(212)は、それぞれ別々の供給水配管(200A、200B)にそれぞれ配備され、前記第1の投入部(211)が配備される供給水配管(200)にのみ前記予熱器(220)が配備された多重効用淡水化(MED)装置(A)を用いる淡水化方法であって、
前記供給水に高分子系のスケール抑制剤を投入する第1の添加剤投入ステップと、
前記スケール抑制剤が投入された供給水に酸を投入する第2の添加剤投入ステップと、
前記供給水を前記複数の効用機(100)のそれぞれに並列的に供給する供給水供給ステップと、
を含むことを特徴とする多重効用淡水化方法。
【請求項10】
前記高分子系のスケール抑制剤は、エチレン性不飽和共単量体を重合単位として含むアクリル酸重合体であり、
前記酸は、硫酸、硝酸又はリン酸をはじめとする無機酸、カルボキシル基又はスルホン酸基をはじめとする有機酸、又はこれらの混合物から選ばれることを特徴とする請求項9に記載の多重効用淡水化方法。
【請求項11】
前記第1の添加剤投入ステップにおいて投入されるスケール抑制剤は、複数の効用機(100)の全てに供給される供給水に投入され、前記第2の添加剤投入ステップにおいて投入される酸は、高温部(H)に相当する効用機(100)に供給される供給水にのみ投入され、
前記高温部(H)は、最上流に配置される効用機(100A)を有する上流側の一部の効用機(100)であることを特徴とする請求項9に記載の多重効用淡水化方法。
【請求項12】
前記高温部(H)は、供給水が炭酸カルシウムに飽和されたときのpH値(pHs)及び測定される供給水のpH値(pHf)により算出された供給水に対するスケール又は腐食の形成の憂慮度を示す硬度指数の温度による傾向性に基づいて指定される所定のレベル以上にスケールの形成の憂慮が高くなる少なくとも一つ以上の効用機(100)であり、
前記硬度指数は、下式1により算出される前記pHs値及び前記pHf値に基づいて下式2により算出されるライザー安定指数(RSI)値、又は下式3により算出されるランゲリア飽和指数(LSI)値であることを特徴とする請求項11に記載の多重効用淡水化方法。
[数1]
pHs=−log(K2SW)+log(Ksp)−log(TA)−log([Ca2+]) ・・・・・・・・・・・・・・・ 式1
(式中、K2SWは、炭酸の2次解離定数であり、前記Kspは、供給水内のカルサイトの溶解度積定数であり、前記[Ca2+]は、供給水内のカルシウムイオンの濃度であり、前記TAは、合計のアルカリ度である。)
[数2]
RSI=2pHs−pHf ・・・・・・式2
[数3]
LSI=pHf−pHs ・・・・・・・式3
【請求項13】
前記高温部(H)は、塩水の温度が86〜110℃の最上流の効用機(100A)を有する一部の上流側の効用機(100)であることを特徴とする請求項11に記載の多重効用淡水化方法。
【請求項14】
前記高温部(H)は、塩水の温度が65〜90℃の最上流の効用機(100A)を有する一部の上流側の効用機(100)であることを特徴とする請求項11に記載の多重効用淡水化方法。
【請求項15】
前記第2の添加剤投入ステップは、前記スケール抑制剤及び酸が投入された供給水から二酸化炭素及び/又は空気を除去する脱炭/脱気ステップを更に含むことを特徴とする請求項11に記載の多重効用淡水化方法。
【請求項16】
前記第2の添加剤投入ステップにおいて前記供給水に複数回酸を投入して前記高温部(H)に相当する複数の効用機(100)に投入される酸の量を調節することを特徴とする請求項11に記載の多重効用淡水化方法。
【請求項17】
前記複数の効用機(100)の全体又は一部から回収される前記濃縮水の全部又は一部を前記供給水側に回収して前記効用機(100)に再供給するリサイクルステップを更に含むことを特徴とする請求項10に記載の多重効用淡水化方法。
【請求項18】
外部から前記最上流に配置される効用機(100A)に供給される高温の蒸気が供給水との熱交換により凝縮されて形成される凝縮水を他の効用機(100)の凝縮水とは別途に分離して回収することを特徴とする請求項10に記載の多重効用淡水化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温の一部の効用機に部分的に酸を投入する多重効用淡水化装置及びこれを用いた淡水化方法に係り、より詳しくは、高温部Hに相当する効用機にのみ部分的に酸を更に投入して、スケール抑制剤とともに供給水のスケール及び腐食のリスクを極力抑えることにより、多重効用淡水化装置の塩水の最高の温度(top brine temperature:TBT)を上昇させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海水の淡水化(Desalination)設備は、海水及び汚水などから生活用水や工業用水として用いられる淡水を生産する設備であり、多段フラッシュ蒸留(Multistage Flash Distillation:MSF)法、多重効用蒸留(Multi−effect Distillation:MED)法などが汎用される。これらに加えて、膜ろ過法として圧力を用いる逆滲透(Reverse Osmosis:RO)法などが用いられるが、近年では、上述した色々な方法のうち2以上の方法を組み合わせて淡水の生産量及び効率性を高めるためのハイブリッドタイプなども用いられている。
【0003】
中でも、多重効用蒸留法による淡水化設備は、多数の段を有する効用機が配備され、各段の内部空間である熱交換空間には、内部に高温の蒸気が通過し、且つ、外部に供給水が噴霧される複数の熱交換チューブが設けられる。
また、各効用機は、1段目から蒸気供給管に繋がれて蒸気が順次に供給されるようになっており、各効用機において生成される生産水は、淡水回収管に流れ込んで淡水ポンプにより排出され、濃縮水排出管を介して高濃度の濃縮水が外部に排出されるようになっている。
【0004】
まず、1段目の効用機100Aに高温の蒸気が供給され、噴霧ノズルを介して供給水が噴霧されながら熱交換チューブの表面において熱交換が行われる。これにより、効用機の内部の熱交換空間において蒸気が生成されるとともに、熱交換チューブの内部の蒸気が凝縮されて淡水が生成され、生成された蒸気は、蒸気供給管を介して次段の効用機100Bに対する熱源として働いて最下流の効用機100Nに至るまで連続的な熱交換が行われる。
【0005】
従来の多重効用蒸留(MED)法、若しくは多段フラッシュ蒸留(MSF)法などの淡水化設備においては、供給水に含まれている硬度物質により形成されるスケールを防ぐために各種の試みがなされてきた。酸を処理してスケールの形成を抑えるための方法が講じられたが、これは、腐食に対するリスクがあるという問題があり、しかも、脱炭/脱気設備の付設を余儀なくされるが故に追加的な電力消耗などの問題があるため業界に嫌われる方法であり、高分子系のスケール防止剤の開発により姿を消した。
【0006】
しかしながら、新たに開発されたスケール防止剤だけでは、複数の効用機のうち、特に、上流側の「高温部」に相当する効用機に対するスケール形成のリスクを完全に解消することができず、淡水化設備の塩水の最高の温度(TBT)を所定のレベル以上に高く設定して運転することができない結果、相対的に全体の設備の経済性や効率性に劣っているという問題があった。
【0007】
この理由から、特許文献1(「淡水化装置及び淡水化方法」、2012年02月12日付け公開)などでは、淡水化設備の前段にナノフィルタ(NF)、逆滲透膜(RO membrane)などを設けてスケール生成物質を予め取り除くことにより、淡水化設備の塩水の最高温度を高める方案を提示したが、この場合、追加的な前処理のための大規模設備が必要になるため、全体の工程のCAPEX及びOPEXを上昇させてしまい、非効率的であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】大韓民国公開特許公報第2010−0016519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術に鑑みてなされたものであって、本発明の目的は、全体の効用機に高分子系のスケール抑制剤を注入する一方で、相対的に高温部に相当する効用機にのみ部分的に酸を注入することにより、腐食及びスケールに対する危険性を極力抑えながらも淡水化設備の塩水の最高温度を極大化させる淡水化装置及び淡水化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するためになされた本発明の一実施形態による多重効用淡水化装置は、複数の熱交換チューブが内部の熱交換空間に配置され、前記熱交換チューブの内部に高温の蒸気が通過され、外部の表面に供給水が供給されて蒸気と供給水との間の熱交換により供給水から蒸気及び濃縮水が生成される直列接続型の複数の効用機100と、前記複数の効用機100のそれぞれに前記供給水を並列的に供給する供給水配管200と、を備え、外部から高温の蒸気が前記複数の効用機100のうち最上流に配置される効用機100Aに供給され、熱交換により供給水から生成される蒸気が隣り合う効用機100Bに供給されて最下流に配置される効用機100Nに至るまで連続的な熱交換が行われ、前記供給水配管200には、外部から流入する供給水にスケールの生成を抑えるための添加剤を投入するための少なくとも一つ以上の添加剤投入部210と、流入する供給水を加熱するための少なくとも一つ以上の予熱器220と、が配備され、
前記添加剤投入部210は、高分子系のスケール抑制剤を投入する少なくとも一つ以上の第1の投入部211と、酸を投入する少なくとも一つ以上の第2の投入部212と、を備え、前記第1の投入部211及び第2の投入部212は、それぞれ別々の供給水配管200A、200Bにそれぞれ配備され、前記第1の投入部211が配備される供給水配管200にのみ前記予熱器220が配備されることを特徴とする。
【0011】
好ましくは、前記添加剤投入部210は、高分子系のスケール抑制剤を投入する少なくとも一つ以上の第1の投入部211と、酸を投入する少なくとも一つ以上の第2の投入部212と、を備える。
【0012】
また、好ましくは、前記酸は、硫酸、硝酸、又はリン酸をはじめとする無機酸、カルボキシル基又はスルホン酸基をはじめとする有機酸、又はこれらの混合物から選ばれる。
このとき、好ましくは、前記第1の投入部211は、前記供給水配管200上における前記第2の投入部212よりも上流側に配備される。
【0013】
更に、好ましくは、前記第1の投入部211から投入されるスケール抑制剤は、複数の効用機100の全てに供給される供給水に投入され、前記第2の投入部212から投入される酸は、高温部Hに相当する効用機100に供給される供給水にのみ投入され、前記高温部Hは、最上流に配置される効用機100Aを有する上流側の一部の効用機100である。
【0014】
このとき、好ましくは、前記高温部Hは、供給水が炭酸カルシウムに飽和されたときのpH値(pH
s)及び測定される供給水のpH値(pH
f)により算出された供給水に対するスケール又は腐食の形成の憂慮度を示す硬度指数の温度による傾向性に基づいて指定される所定のレベル以上にスケールの形成の憂慮が高くなる少なくとも一つ以上の効用機100である。
【0015】
このとき、好ましくは、前記硬度指数は、下式1により算出される前記pH
s値及び前記pH
f値に基づいて下式2により算出されるライザー安定指数(RSI)値、又は下式3により算出されるランゲリア飽和指数(LSI)値である。
【0016】
[数1]
pH
s=−logK
2SW+logK
sp−logTA−log[Ca
2+] …式1
(式中、K
2SWは、炭酸の2次解離定数であり、前記K
spは、供給水内のカルサイトの溶解度積定数であり、前記[Ca
+2]は、供給水内のカルシウムイオンの濃度であり、前記TAは、合計のアルカリ度である。)
【0017】
[数2]
RSI=2pH
s−pH
f …式2
[数3]
LSI=pH
f−pH
s …式3
【0018】
また、好ましくは、前記高温部Hは、塩水の温度が86〜110℃の最上流効用機100Aを有する一部の上流側の効用機100であるか、或いは、塩水の温度が65〜90℃の最上流効用機100Aを有する一部の上流側の効用機100である。
更に、好ましくは、前記第2の投入部212の下流側の前記供給水配管200の上には、脱炭装置230及び/又は脱気装置240が配備される。
【0019】
更にまた、好ましくは、前記第2の投入部212は、前記供給水配管200の上に複数配備されて、前記高温部Hに相当する複数の効用機100に投入される酸の量を調節する。
更にまた、好ましくは、前記第1の投入部211及び第2の投入部212は、それぞれ別々の供給水配管200A、200Bにそれぞれ配備され、前記第1の投入部211が配備される供給水配管200にのみ前記予熱器220が配備される。
【0020】
また、上記目的を達成するためになされた本発明の一実施形態による多重効用淡水化方法は、複数の熱交換チューブが内部の熱交換空間に配置され、前記熱交換チューブの内部に高温の蒸気が通過され、外部の表面に供給水が供給されて蒸気と供給水との間の熱交換により供給水から蒸気及び濃縮水が生成される直列接続型の複数の効用機100と、
前記複数の効用機100のそれぞれに前記供給水を並列的に供給する供給水配管200と、を備え、外部から高温の蒸気が前記複数の効用機100のうち最上流に配置される効用機100Aに供給され、熱交換により供給水から生成される蒸気が隣り合う効用機100Bに供給されて最下流に配置される効用機100Nに至るまで連続的な熱交換が行われ
、前記供給水配管200には、外部から流入する供給水にスケールの生成を抑えるための添加剤を投入するための少なくとも一つ以上の添加剤投入部210と、流入する供給水を加熱するための少なくとも一つ以上の予熱器220と、が配備され、前記添加剤投入部210は、高分子系のスケール抑制剤を投入する少なくとも一つ以上の第1の投入部211と、酸を投入する少なくとも一つ以上の第2の投入部212と、を備え、前記第1の投入部211及び第2の投入部212は、それぞれ別々の供給水配管200A、200Bにそれぞれ配備され、前記第1の投入部210が配備される供給水配管200にのみ前記予熱器220が配備された多重効用淡水化MED装置Aを用い
る淡水化方法であ
って、
前記供給水に高分子系のスケール抑制剤を投入する第1の添加剤投入ステップと、前記スケール抑制剤が投入された供給水に酸を投入する第2の添加剤投入ステップと、前記供給水を前記複数の効用機100のそれぞれに並列的に供給する供給水供給ステップと、を含むことを特徴とする多重効用淡水化方法。
【0021】
好ましくは、前記第1の添加剤投入ステップにおいて投入されるスケール抑制剤は、複数の効用機100の全てに供給される供給水に投入され、前記第2の添加剤投入ステップにおいて投入される酸は、高温部Hに相当する効用機100に供給される供給水にのみ投入され、前記高温部Hは、最上流に配置される効用機100Aを有する上流側の一部の効用機100である。
【0022】
また、好ましくは、前記高温部Hは、供給水が炭酸カルシウムに飽和されたときのpH値(pH
s)及び測定される供給水のpH値(pH
f)により算出された供給水に対するスケール又は腐食の形成の憂慮度を示す硬度指数の温度による傾向性に基づいて指定される所定のレベル以上にスケールの形成の憂慮が高くなる少なくとも一つ以上の効用機100である。
【0023】
このとき、好ましくは、前記硬度指数は、下式1により算出される前記pH
s値及び前記pH
f値に基づいて下式2により算出されるライザー安定指数(RSI)値、又は下式3により算出されるランゲリア飽和指数(LSI)値である。
【0024】
[数1]
pH
s=−logK
2SW+logK
sp−logTA−log[Ca
2+] …式1
(式中、K
2SWは、炭酸の2次解離定数であり、前記K
spは、供給水内のカルサイトの溶解度積定数であり、前記[Ca
+2]は、供給水内のカルシウムイオンの濃度であり、前記TAは、合計のアルカリ度である。)
【0025】
[数2]
RSI=2pH
s−pH
f …式2
[数3]
LSI=pH
f−pH
s …式3
【0026】
更に、好ましくは、前記高温部Hは、塩水の温度が86〜110℃の最上流の効用機100Aを有する一部の上流側の効用機100であり、前記高温部Hは、塩水の温度が65〜90℃の最上流の効用機100Aを有する一部の上流側の効用機100である。
【0027】
更にまた、好ましくは、前記第2の添加剤投入ステップは、前記スケール抑制剤及び酸が投入された供給水から二酸化炭素及び/又は空気を除去する脱炭/脱気ステップを更に含む。
【0028】
更にまた、好ましくは、前記第2の添加剤投入ステップにおいて前記供給水に複数回酸を投入して前記高温部Hに相当する複数の効用機100に投入される酸の量を調節する。
更にまた、好ましくは、本発明の一実施形態による多重効用淡水化方法は、前記複数の効用機100の全体又は一部から回収される前記濃縮水の全部又は一部を前記供給水側に回収して前記効用機100に再供給するリサイクルステップを更に含む。
【0029】
好ましくは、外部から前記最上流に配置される効用機100Aに供給される高温の蒸気が供給水との熱交換により凝縮されて形成される凝縮水を他の効用機100の凝縮水とは別途に分離して回収する。
【発明の効果】
【0030】
以上述べたように、本発明の高温の一部の効用機に部分的に酸を投入する多重効用淡水化装置及びこれを用いた淡水化方法は、比較的に簡単な方法を用いて効果的に淡水化装置内のスケール及び腐食に対するリスクを極力抑え、塩水の最高温度(TBT)を上昇させて蒸気の消耗量及び蒸発器の材料費を節減する他、設備の熱エネルギー効率を極大化させるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
本開示の上記及び他の態様は、添付図面とともに説明する前記実施形態の以下の記載を参照することにより明らかになり、容易に理解されるであろう。
【
図1】本発明の一実施形態による多重効用淡水化装置Aの概略的な工程図である。
【
図2】本発明の他の実施形態による多重効用淡水化装置Aの概略的な工程図である
【
図3】本発明の更に他の実施形態による多重効用淡水化装置Aの概略的な工程図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態により高温部Hの塩水の温度範囲を算定するための温度によるライザー安定指数(RSI)値を示すグラフである。
【
図5】本発明の第2の実施形態により高温部Hの塩水の温度範囲を算定するための温度によるライザー安定指数(RSI)値を示すグラフである。
【
図6】本発明の一実施形態による多重効用淡水化方法に対する工程流れ図(フローチャート)である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に添付図面を参照しながら、本開示の実施の形態について詳細に説明する。 本発明の具体的な実施形態について、添付図面と結び付いて詳細に説明する。本明細書において言及されている用語の技術的な意味は辞書的な意味に優先し、本明細書に記載の技術的な意味及び当該技術分野において通常の知識を有する者により理解される意味として優先的に解釈さるべきである。
【0033】
本明細書の全体に亘って、ある部材が他の部材の「上」にあるとしたとき、これは、ある部材が他の部材に接している場合だけではなく、両部材の間に更に他の部材が存在する場合も含む。
【0034】
本明細書の全体に亘って、ある部分がある構成要素を「備える」としたとき、これは、特に断りのない限り、ある他の構成要素を排除することを意味するわけではなく、他の構成要素を更に備えることを意味する。
【0035】
「第1の」、「第2の」などの用語は、ある構成要素を他の構成要素から区別するためのものであり、これらの用語により権利範囲が限定されてはならない。例えば、第1の構成要素は第2の構成要素と命名され、同様に、第2の構成要素も第1の構成要素と命名される。
【0036】
各ステップにおいて、識別符号は、説明の便宜のために用いられるものであり、識別符号は、各ステップの順序を説明するものではなく、各ステップは、文脈上明らかに特定の順序を記載しない限り、明記された順序とは異なる順序に行われる。すなわち、各ステップは、明記された順序に従って行われてもよく、実質的に同時に行われてもよく、明記された順序とは反対の順序に従って行われてもよい。
【0037】
本発明は、まず、直列接続型の複数の効用機と、これらのそれぞれに供給水を並列的に供給する供給水配管と、を備える多重効用淡水化装置を提供する。
図1は、本発明の好適な一実施形態による多重効用淡水化装置Aの工程概略図である。
【0038】
複数の効用機100は、複数の熱交換チューブが内部の熱交換空間に配置され、これらの内部に外部(蒸気源)から高温の蒸気が通過され、外部の表面には供給水が供給されて蒸気と供給水との間の熱交換により、供給水から蒸気及び濃縮水が生成される。
【0039】
これらの複数の効用機100を備える多重効用淡水化装置は、多段フラッシュ蒸留(MSF)器又は多重効用蒸留(MED)器を備え、多段フラッシュ蒸留器の場合には、脱気装置を更に備えることが好ましい。
【0040】
具体的に、複数の効用機100のうち最上流に配置されて直接的に外部の蒸気が供給される効用機100Aに供給水が供給され、これから生成される蒸気は、隣り合う次の効用機100Bの熱交換チューブの内部に供給されて再び熱交換が行われ、最終的に最下流に配置される効用機100Nに至るまで連続的な熱交換が行われる。
【0041】
このとき、供給水配管200には、外部から流入する供給水にスケールの生成を抑えるための添加剤を投入するための少なくとも一つ以上の添加剤投入部210が配備され、流入した供給水を加熱するための少なくとも一つ以上の予熱220が配備される。
添加剤投入部210は、高分子系のスケール抑制剤を投入する少なくとも一つ以上の第1の投入部211と、酸を投入する少なくとも一つ以上の第2の投入部212と、を備える。
【0042】
前記高分子系のスケール抑制剤として公知の高分子重合体が用いられるが、アクリル酸重合体を用いることが好ましい。このときに用いられるアクリル酸重合体は、全てのエチレン性不飽和単量体を基準として30重量%以下、好ましくは、20重量%以下、更に好ましくは、10重量%以下のエチレン性不飽和共単量体を重合単位として含むが、好適なエチレン性不飽和共単量体の例としては、メタクリル酸、マレイン酸、マレイン酸無水物、ビニルスルホン酸、アルリスルホン酸及び2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸及びこの塩が挙げられ、更にこれらの共単量体の混合物が挙げられる。
【0043】
このとき、第1の投入部211は、第2の投入部212よりも供給水配管220上における上流側に配備され、これにより、第1の投入部211を介して全ての効用機100A〜100Nに供給される供給水にスケール抑制剤が投入される一方で、第2の投入部212を介して最上流の効用機100Aを有する一部の高温部Hに相当する効用機100にのみ部分的にスケール抑制剤とともに酸が投入される。
【0044】
このように高温部Hにのみ制限的に酸を投入することにより、腐食に対するリスクなしに効果的に高い温度に設定した効用機100に対してもスケール形成のリスクが極力抑えられるので、全体の設備の最高の塩水の温度(TBT)を上昇させて運転することができて蒸気の消耗量及び蒸発器の材料費が節減され、蒸発器及びチューブの材質として高温部Hにのみ限定的に高い等級のものが使用できて経済性に富むので、別途の追加設備なしにも全体のシステムの熱効率が極大化される。
【0045】
このときに用いられる酸は、様々な無機酸又は有機酸の内から選ばれる少なくとも一種以上であり、特に限定されない。無機酸としては、硫酸、硝酸、リン酸などが用いられ、有機酸としては、酢酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などカルボキシル基を含む有機酸又はスルホン酸基を含む有機酸が適切に選ばれて用いられ、更にこれらの混合物も使用可能である。
【0046】
効率よく酸を投入して全体の設備のスケール及び腐食に対するリスクを極力抑えて塩水の最高温度を上昇させるためには、温度区間を分けて高温部Hの効用機100をどのように設定するかが主な問題になる。
【0047】
高温部Hは、供給水が炭酸カルシウムに飽和されたときのpH値である「pH
s」値及びリアルタイム的に測定される供給水のpH値である「pH
f」(fは、供給水の略字である)により算出される「供給水に対するスケール又は腐食の形成の憂慮度」を示す硬度指数を用いて設定する。
【0048】
具体的に、硬度指数は、温度が上昇することに伴い、次第に腐食の憂慮度は下がるのに対し、スケールの形成の憂慮度は上がる傾向にあるが、最下流の効用機100Nから上流側に進むにつれて塩水の温度が上昇して所定のレベル以上にスケールの形成の憂慮が高くなる効用機100を基準として、その上流側の効用機100を包括して高温部Hとして指定することが好ましい。
【0049】
このため、下流側の相対的に低温部に相当する効用機100に対しては、スケール抑制剤の投入を通じて腐食に対するリスクとともに所定のレベルまでスケールの形成に対するリスクを減らしながらも、高温部に相当する効用機100に供給される供給水には更に酸を投入することにより、スケールの形成に対するリスクが更に極力抑えられるので、より高い塩水の温度で最上流の効用機100Aを運転することが可能になる。
【0050】
硬度指数としては、pH
s値及びpH
f値に基づいて算出される種々の指数が採用され、好ましくは、下式1により算出されるpH
s値に基づいて下式2により計算されるライザー安定指数(RSI)値、又は下式3により算出されるランゲリア飽和指数(LSI)値が用いられる。これらに加えて、Puckoriusスケーリング指数(Puckorius Scaling Index:PSI)などの他の炭酸飽和指数も使用可能である。
【0051】
pH
s=−log(K
2SW)+log(K
sp)−log(TA)−log([Ca
2+]) …式1
(式中、K
2SWは、炭酸の2次解離定数であり、前記K
spは、供給水内のカルサイトの溶解度積定数であり、前記[Ca
+2]は、供給水内のカルシウムイオンの濃度であり、前記TAは、合計のアルカリ度である。)
【0052】
RSI=2pH
s−pH
f …式2
LSI=pH
f−pH
s …式3
【0053】
代表的に、ライザー安定指数(RSI)値について説明すると、計算されたライザー安定指数(RSI)値が6〜7になるときに比較的に安定的な形の供給水であると認められ、ライザー安定指数(RSI)値が上がるにつれて腐食のリスクが高くなり、ライザー安定指数(RSI)値が下がるにつれてスケールの形成のリスクが次第に高くなる。
【0054】
このようなライザー安定指数(RSI)値は、温度に依存的なpH
s値により温度が上がるにつれて線形的に下がり、現在の供給水のpH値(pH
f)が上がるにつれて温度によるライザー安定指数(RSI)値のグラフがy軸(ライザー安定指数(RSI)値)の(−)方向に平行に移動し、現在の供給水のpH値(pH
f)が下がるにつれてy軸の(+)方向に平行に移動する。
【0055】
したがって、通常、8内外のpH値を有する海水を基準としたとき、低温部に相当する下流側の効用機100に対しては、スケールの形成の憂慮度を投入されるスケール抑制剤だけである程度打ち消すことができ、所定の温度以上の高温部に相当する効用機100に対しては、酸を更に投入して温度によるライザー安定指数(RSI)値に対するグラフをy軸の(+)方向に平行に移動させてライザー安定指数(RSI)値が6〜7というより安定的な領域に収まるように制御することにより、高温部Hの効用機100のスケールに対するリスクが極力抑えられ、これにより、より高い温度に高温部Hが設定できて上昇された塩水の最高温度で運転することが可能になる。
【0056】
一方、酸を投入する第2の投入部212の下流側の供給水配管200の上には、酸の投入により生成される二酸化炭素及び空気を取り除くための脱炭装置230及び脱気装置240が配備される。これらの脱炭装置230及び脱気装置240は別々のユニットにより構成され、一つのユニットにおいて2種類の役割を果たすように統合されたユニットにより構成されてもよい。酸の投入だけでスケールを制御しなければならなかった従来の設備に比べて、高温部Hに供給される流量に対してのみ酸を投入すればよいので、脱炭装置230や脱気装置240をはじめとしてブースタポンプなどの設備のコンパクト化が図られて経済性に富んでいる。
【0057】
このように、塩水の最高温度(TBT)の上昇及び酸の投入により更に生成される二酸化炭素(CO
2)などは、再石灰化プラントなどの後処理設備において利用可能である。
第1の投入部211や第2の投入部212を供給水配管200の上に複数備えるか、或いは、たとえ単一の第1の投入部211や第2の投入部212を供給水配管200の上に設けたとしても、複数の個所に投入可能な配管を設けるなどして、供給水に投入されるスケール抑制剤の量や酸の量を調節することにより、源水の条件に応じて変わる状況に対応してスケール及び腐食に対するリスクをリアルタイムにて制御することができるが、源水の条件をモニタリングする位置は、供給水配管200における予熱器220の前段及び/又は後段から適切に選べばよい。
【0058】
また、
図2に示すように、温度区間による効用機100の分類を、高温部Hだけではなく、中温部及び低温部などと同じ方式を用いて更に行って、中温部に相当する効用機100にはスケール抑制剤を再び投入するように制御する。このように、効用機100を複数の群に分けて、温度や塩度などによるスケール形成のリスクに適するようにスケール抑制剤及び酸の投入量を制御して効果的に設備を運転する。
【0059】
更に、
図3に示すように、一つの供給水配管200の上に第1の投入部211及び第2の投入部212をこの順に設けるか、或いは、別々の供給水配管200A、200Bに第1の投入部211及び第2の投入部212を設けることにより、高温部Hに投入される供給水と、高温部Hではない効用機100に投入される供給水の流量や温度などを一層効率よく管理する。この場合、高温部Hではない効用機100に投入される供給水配管200Aの上にのみ予熱器220を設けて熱の効率をなお一層最適化させる。
【0060】
一方、供給水の状態や運転条件に応じてスケール形成のリスクがやや低い場合には、スケール抑制剤成分又は酸成分が含まれて効用機100から排出される濃縮水の全部又は一部を供給水側に回収(リサイクル)してここに含まれているスケール抑制剤及び酸成分を再活用することにより、第1の投入部211及び第2の投入部212におけるスケール抑制剤及び酸の使用量が低減される。具体的には、酸処理の施されている高温部H側の効用機100の濃縮水を再び高温部Hに投入される供給水配管200側に回収して活用してもよく、低温部に相当する効用機100の濃縮水の一部を循環させて最初の供給水配管200側から再び投入してもよい。
【0061】
また、一般的に、発電プラントなどにおいて生成される外部の熱源から高温の蒸気が供給される場合、蒸気内に含まれている各種の有害物質や添加物などにより淡水化設備の最終処理水が汚れる虞があるため、発電プラント及び多重効用淡水化設備が組み合わせられたハイブリッド設備は、主として飲用水化を保証するためにスチームトランスフォーマを備えなければならない。しかしながら、本発明は、外部から直接的に蒸気が供給される最上流の効用機100A内に形成される凝縮水を他の効用機100とは別途に分離して回収してスチームトランスフォーマの役割を行わせることにより、熱蒸気圧縮機(TVC)やスチームトランスフォーマを除外し、その結果、負荷が変更され易く、しかも、熱の損失が極力抑えられる。
【0062】
以下、本発明の高温の一部の効用機に部分的に酸を投入する多重効用淡水化装置及びこれを用いた淡水化方法についての実施形態について説明する。しかしながら、これは、本発明の最適な一実施形態に過ぎず、本発明の技術的思想をいずれも代弁するものではないため、本発明の出願時点においてこれらに代え得る種々の均等物及び変形例があり得ることを理解しなければならない。
【0063】
[第1実施形態]
<高温部Hの塩水の温度に86〜110℃を設定>
一般に、スケール形成が懸念されるため、多重効用蒸留(MED)設備においては、運転可能な塩水の最高温度が約70℃未満に制限されてきたが、本発明においては、部分的な酸の投入により多重効用蒸留(MED)設備の塩水の最高の温度を少なくとも5℃以上と大幅に上昇させることができ、海水の条件や酸の投入量、システムの設計などに応じて塩水の最高の温度を約75〜130℃のレベルまで上昇させることができる。
【0064】
具体的に、本発明の第1の実施形態により塩水の温度が86〜110℃の上流側の効用機100を高温部Hに設定して多重効用淡水化装置Aを運転することができる。
【0065】
図4を参照すると、酸が投入されていない通常の海水は約8.2のpH値を示すが、約86℃のレベルに至ってからはライザー安定指数(RSI)値が下がってスケール形成のリスクをスケール抑制剤投入だけで十分に打ち消すことができなくなる。この領域に相当する効用機100から高温部Hに設定して腐食のリスクがない程度に適正な量の酸を投入することになるが、海水のpH値を約5.6のレベルまで下げると、スケール形成のリスクが極力抑えられて安定的に運転可能になるので、塩水の最高の温度を約110℃のレベルまで上昇させることができる。
【0066】
[第2の実施形態]
<高温部Hの塩水の温度に65〜90℃を設定>
一方、本発明は、第2の実施形態により高温部Hの塩水の温度をやや下げても、それに適したレベルの酸の投入量及び投入時点などが効率よく算出可能である。
具体的に、塩水の温度が約65〜90℃の上流側の効用機100を高温部Hに設定して多重効用淡水化装置Aを運転することができるが、約65℃の塩水の温度の前後で高くなったスケール形成のリスクを酸の投入により安定的な区間に調節することにより、スケール及び腐食のリスクなしに効率よく設備が運転可能になる。
【0067】
また、上述した実施形態に本発明の技術的な思想が限定されるものではなく、上述した実施形態は単に本発明の技術的な特徴を理解し易いように例示的に提示されたものに過ぎないため、本発明の技術的な思想は、特許請求の範囲の記載及びこれらと均等な範囲を網羅する。なお、上述した実施形態により本発明の技術的な効果及びメリットが限定されるものではないということはいうまでもない。
【符号の説明】
【0068】
A:多重効用淡水化装置
H:高温部
100(100A、100B、100C、100N) 効用機
200(200A、200B) 供給水配管
210 添加剤投入部
211 第1の投入部
212 第1の投入部
220 予熱器
230 脱炭装置
240 脱気装置