【実施例】
【0021】
実施例1〜5
表1に示されるように、酸化アルミニウム粉末、酸化チタン粉末、グラファイト粉末、炭酸ナトリウムを所定の比率で均一に混合した後、1kgの粉末と1500mLのケイ酸ナトリウム溶液とを混合する比率で表面処理剤1〜5を調製した。そのうち、表面処理剤1〜3は、それぞれS50C中炭素鋼の表面(塗布層の厚さが約1.5mm)に塗布され、950℃に加熱して1時間保温した後、炉において冷却され、表層の微細構造から、鋼材が浸炭または脱炭したか否かを判断した。表面処理剤4、5は、それぞれSKD61合金鋼の表面(塗布層の厚さが約1.5mm)に塗布され、焼き入れ処理を行って、すなわち、その焼き入れ温度1030℃に加熱して2時間保温した後、1秒あたり7℃の冷却速度で強制空冷を実施し、表層の硬度分布から、鋼材が表面硬化したか否かを判断した。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明の表面処理剤は、異なる成分および重量割合の組成により、表面処理剤のカーボンポテンシャル(carbon potential)を変化させ、加熱した後の鋼材を、浸炭、脱炭、あるいは浸炭しない・脱炭しない・酸化もしないといった予期目標を達成させることができることを特徴の一つとしている。
【0024】
図1は、表面に表面処理剤1がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、950℃で1時間加熱して、炉冷した後の表層の微細構造を示す図であった。図において、白色の部分がフェライト(ferrite)であり、黒色の部分がパーライト(pearlite)であった。図面から、表面近傍のフェライトが、中心部より多いことがわかった。これは、表面処理剤1は、S50C中炭素鋼に対して酸化を防止できるが、脱炭効果が生じることを示した。
【0025】
図2は、表面に表面処理剤2がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、950℃で1時間加熱して、炉冷した後の表層の微細構造を示す図であった。実験結果から、表層の微細構造が中心部の微細構造と類似し、表面近傍のパーライトの含有量が中心部とほぼ同じであることを発見した。これは、表面処理剤2はカーボンポテンシャルがS50C中炭素鋼元々の炭素含有量とほぼ同じく、S50C中炭素鋼に対して浸炭も脱炭もせず、かつ、その表面が酸化しない輝く状態を保つことを示した。
【0026】
図3は、表面に表面処理剤3がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、950℃で1時間加熱して、炉冷した後の表層の微細構造を示す図であった。表面近傍のパーライトが明らかに中心部のパーライトより多かった。これは、表面処理剤3は浸炭能力が強く、S50C中炭素鋼に対して顕著な浸炭作用を生じることを示した。
【0027】
表層浸炭された鋼材は、表層に顕著な硬化を示すために、オーステナイトの状態から急冷して、マルテンサイトに形態変化させることが必要である。炭素鋼は、硬化能が小さいため、マルテンサイトに形態変化させるために、水冷が必要である。合金鋼は、硬化能が大きいため、油冷または強制空冷を採用すれば、マルテンサイトに形態変化させることができる。
【0028】
図4は、表面に表面処理剤4がスプレー塗装されたSKD61合金工具鋼を、1030℃で2時間加熱した後、1秒あたり7℃の冷却速度で強制空冷を実施して、得られた表層の硬度分布曲線を示す図であった。図面から、鋼材の表層が顕著な硬化を示し、表面近傍の硬度が約800HV程度と極めて高く、また、硬度が外から内へ徐々に減り650HVまで低下するが、それ以下には低下しないことがわかり、これにより、中心部の硬度が約650HV程度であり、全ての硬化層の厚さが約1000μm程度であることがわかった。これは、表面処理剤4は、SKD61合金工具鋼に対して顕著な浸炭作用が生じるため、焼き入れた後の表層の硬度が顕著に高まることを示した。
【0029】
図5は、表面に表面処理剤5がスプレー塗装されたSKD61合金工具鋼を、1030℃で2時間加熱して、強制空冷した後の表層の硬度分布を示す図であった。表層の硬度は中心部より高く、最も高い硬度が約720HV程度であった。これは、表面処理剤5は、SKD61合金工具鋼に対して浸炭効果を示すが、その浸炭能力が表面処理剤4より低いため、その硬化効果も表面処理剤4より低いことを示した。
【0030】
実施例6〜10
表2に示されるように、酸化アルミニウム粉末、酸化チタン粉末、木炭粉末、炭酸バリウムを所定の比率で均一に混合した後、1kgの粉末と1500mLのケイ酸ナトリウム溶液とを混合する比率で表面処理剤6〜10を調製した。そのうち、表面処理剤6、7、9は、それぞれS50C中炭素鋼の表面(塗布層の厚さが約1.5mm)に塗布され、930℃に加熱して2時間保温した後、水焼き入れを実施した。表面処理剤8、10は、それぞれS50C中炭素鋼の表面(塗布層の厚さが約1.5mm)に塗布され、1030℃に加熱して1時間保温した後、水焼き入れを実施した。各サンプルを焼き入れた後、その表面の硬化効果を知るために、それぞれマイクロビッカース硬さ試験機でその表層の硬度分布を測定した。
【0031】
【表2】
【0032】
図6は、表面に表面処理剤6がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、930℃で2時間加熱して、水焼き入れを実施した後の表層の硬度分布を示す図であった。中心部の硬度が約700HV程度であり、表層と中心部とを比べると、表層の硬度が顕著に低下し、表面近傍の硬度は300HV程度まで低下した。これは、表面処理剤6は、カーボンポテンシャルが低く、S50C中炭素鋼に対して浸炭を行うことができないだけでなく、脱炭も発生させるため、焼き入れた後の表層の硬度が顕著に低いことを示した。
【0033】
図7は、表面に表面処理剤7がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、930℃で2時間加熱して、水焼き入れを実施した後の表層の硬度分布を示す図であった。図面から、表層の硬度と中心部の硬度とが近く、表面の硬度が中心部の硬度より僅かに増加するだけであることがわかった。これは、表面処理剤7は、カーボンポテンシャルが高くなく、930℃ではS50C中炭素鋼に対して浸炭を軽く行うことしかできないことを示した。
【0034】
図8は、表面に表面処理剤8がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、1030℃で1時間加熱して、水焼き入れを実施した後の表層の硬度分布を示す図であった。表層と中心部とがほぼ同じ硬度を維持した。これは、表面処理剤8は、1030℃におけるカーボンポテンシャルが約0.5%C程度であって、S50C中炭素鋼の元々の炭素含有量と同じであり、S50C中炭素鋼に対して浸炭も脱炭もせず、焼き入れた後の表層と中心部とが同じ硬度を保って、かつ、その表面が酸化しない状態を保つことを示した。
【0035】
図9は、表面に表面処理剤9がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、930℃で2時間加熱して、水焼き入れを実施した後の表層の硬度分布を示す図であった。表層の硬度が中心部の硬度より高かった。これは、表面処理剤9は、930℃においてS50C中炭素鋼に対して浸炭作用が生じ、表層の炭素含有量を高め、焼き入れた後の表層の硬度を増加させることができることを示した。
【0036】
図10は、表面に表面処理剤10がスプレー塗装されたS50C中炭素鋼を、1030℃で1時間加熱して、水焼き入れを実施した後の表層の硬度分布を示す図であった。表層の硬度と中心部の硬度とを比べると、表層の硬度が顕著に高くなり、表面近傍の硬度は850HV程度と高かった。これは、表面処理剤10は、カーボンポテンシャルが高く、S50C中炭素鋼に対して顕著な浸炭作用を生じることができ、表層の炭素含有量を著しく高めて、焼き入れた後に顕著な表面硬化効果に達することを示した。
図6、7、8、9、10の実験結果を比較すると、炭素粉末の添加量を増加することにより、表面処理剤のカーボンポテンシャルを有効に高めることができることがわかった。
【0037】
上記の内容から、本発明の表面処理剤は、その成分組成および重量比率を変化させることにより、表面処理剤の浸炭能力またはカーボンポテンシャルを変化させることができ、浸炭された後の鋼材の表層に異なる浸炭量を与え、焼き入れた後に異なる程度の表面硬化効果を達成させ、異なる状況の要求を満足できることがわかった。
【0038】
本発明の表面処理剤は、鋼材を熱処理する際の酸化の発生を防止する機能を有することに加えて、脱炭をも防止するため、鋼材の浸炭処理にも応用することができる。よって、本発明の表面処理剤は、例えば、構造用炭素鋼、構造用合金鋼、浸炭用鋼、炭素工具鋼、合金工具鋼、金型用鋼、高速度鋼、軸受鋼、ばね鋼などの様々な鋼材に適用される。本発明の表面処利剤の適用温度は、各鋼材の熱処理の温度であり、特に、焼き入れの温度である。
【0039】
上記の内容をまとめると、従来技術に比べて、本発明の表面処理剤およびその鋼材熱処理での応用は、下記の有利点を有する:
(1)鋼材の表面に直接塗布して表面処理を行うことができ、操作しやすいこと、
(2)従来の浸炭処理の設備を省略できること、
(3)鋼材の一部領域を選択して表面浸炭処理を行って、焼き入れた後の鋼材の表面の一部を硬化する効果を達成できること、
(4)表面処理剤の成分組成および重量割合を変化させることにより、異なるカーボンポテンシャル(carbon potential)を有する表面処理剤を製造して、使用者に選択させることができること、および
(5)同時に異なるカーボンポテンシャルを有する表面処理剤を選んで用いて同じ鋼材の異なる部位にスプレー塗装することにより、異なる程度の表面硬化効果を生じさせ、使用上の要求を満足させることができること。
【0040】
上記の実施例は、例示的に本発明の鋼材の表面処理剤およびその表面処理剤を用いる鋼材の表面処理方法ならびに効果を述べるものに過ぎず、本発明を限定するものではない。本技術分野に習熟した者は、本発明の趣旨および範囲から逸脱しない限り、上記の実施例に各種変更と修正を施すことができる。したがって、本発明の主張する権利範囲は、特許請求の範囲に記載される。