【実施例】
【0062】
実施例1:以下の例示された細胞培養および細胞分離の材料および方法
1.1 細胞株
実施例において使用した細胞株は、ヒトIgGクラスの治療抗体を産生する組換えCHO DG44細胞株であった。
【0063】
1.2 緩衝液/培地
泡を防ぐために、Antifoam Dow Emulsion; Biesterfeld Spezialchemie GmbHを使用した。pHを調節するために、1mol/L炭酸ナトリウムを使用した。
【0064】
1.3 培養
1.3.1 実験システム
CHO細胞株(前記を参照されたい)をフェドバッチ培養で培養した。シードトレインは振盪フラスコからの接種から開始し、それぞれの連続培養の培養体積(20Lから3,000L)が漸増する4回連続したシードトレイン培養および10,0000L主発酵からなった(
図9を参照されたい)。
【0065】
温度を、全ての培養においてダブル加熱ジャケットによって自動調節する。PH調節を、蠕動ポンプを用いたアルカリ性溶液(塩基)添加によって、ならびにマスフロー(mass flow)を介した気体CO
2の導入によって行う。溶存酸素を、空気および窒素ならびに圧力および攪拌速度によって自動調節する。
【0066】
1.3.2 接種培養
培養は、振盪フラスコの中で段階的に体積を2Lまで増やして行われる。培養パラメータは、約37℃、相対湿度
>70%での空気および5%CO
2の供給であった。振盪速度として125rpmを使用した。2Lフラスコ中で望ましい細胞密度に達したら、20Lバイオリアクターに接種した。
【0067】
1.3.3 400Lまでのシードトレイン
N-4工程(20L)を、選択圧および3%のリアクター体積(RV)供給/日を用いて行った。N-3からN-1の工程において、細胞を選択圧なしで、これも3%RV供給/日で増殖させた。温度を37℃で調節した。pH値を約pH7で調節した。加圧空気を使用することによって、pO
2を約30%で調節した。シードトレイン(工程N-4からN-2)の間に試料を毎日採取し、細胞濃度、pH、pCO
2、重量オスモル濃度、および生成物濃度を求めた。分析法については、実施例1.4を参照されたい。シードおよび接種トレインを含む小規模で開始する産生プロセスを実施した。n-1スケール(例えば、
図10を参照されたい)では、産生用バイオリアクターNの高接種細胞密度を実現するために、日常的に用いられるバッチ操作を、高細胞密度を生じる大規模灌流に置き換えた。産生スケールにおいて低接種細胞密度につながる非灌流形式を使用する確立したプロセスを、高細胞密度につながる灌流要素を用いた改良プロセスと比較した。前記の分離装置を用いたプロセスの結果、操作、および比較の詳細を以下に示した。
【0068】
1.3.4 3,000Lスケールでの灌流プロセス
灌流培養のないプロセスと比較して5日間の灌流で高細胞密度に到達することを目的とした灌流培養として、N-1工程を実施した(例えば、
図10を参照されたい)。
【0069】
N-2工程まで、確立したプロセスに従ってシードトレインを実施した。N-1培養のみ変更を施した。
【0070】
全灌流システムは、3,000Lバイオリアクター、バイブレータおよび連結したスパイラル直交流式熱交換器を備える本明細書において報告された分離装置、供給物添加(モデル624Di)、灌流液(perfundate)ドレン(モデル624Di)、および循環(モデル620U)のための3つの蠕動ポンプ(Watson Marlow Inc.)、灌流培地用および廃棄物(灌流液)用の2つの培地タンク(それぞれ体積3,000L)からなった。試料装置は灌流液ラインおよびバイオリアクターに設けられた。
【0071】
分離装置を用いて、培養上清から細胞を分離し、バイオリアクターに戻して生細胞を再利用した。
【0072】
それぞれ5日間、2回連続して灌流発酵を行った。1回目の3,000L操作を1回目のバイオリアクターの播種密度の4倍の播種密度で分割し、産生用バイオリアクターに同時接種することによって、2回目の灌流発酵に接種した(
図10)。
【0073】
最初に、細胞をバッチモードで1〜2日間増殖させ、次いで、前記で概説したように、第1の灌流操作のために灌流を開始した。灌流中、始めに3時間ごとにバイオリアクターからの試料および灌流液を採取した。2日目の後に、試料を6時間ごとに採取したが、供給体積流量を3時間ごとに調節した。
【0074】
産生培養中に試料も毎日採取した。
【0075】
1.3.5 可変培養体積での培養
N-1シードトレイン培養から以後のバイオリアクターへの接種を、異なるスケール(2Lから400Lまで)のシステムにおいて異なるパラメータ(表1を参照されたい)、例えば、本実験のメインターゲットである異なる細胞密度を用いて行った。他のパラメータを細胞密度の増加に合わせた。1つの条件は、本明細書において報告された灌流モードと比較して細胞密度の低い確立した参照プロセスを表している。細胞は、高細胞密度で接種された後に誘導期も制限も示さない。それによって、全発酵時間(シードトレインおよび主培養)を短くすることができ、それによって、同等の収量をシングルバッチで得ることができる。
【0076】
灌流培養を用いることによって利用可能になる、利用可能な高い接種細胞密度が細胞の増殖または品質に影響を及ぼすかどうか確かめるために、異なるパラメータを使用した。
【0077】
培地および供給原料は全ての培養において同じであった。培養中の個々の事象のタイムスケジュール、例えば、供給の開始時間を、培養体積および参照産生プロセスに基づく開始細胞密度に従って調整した。例えば、セトラー/灌流のないプロセス(参照プロセス)と比較して接種細胞密度が増えているのであれば、時点をさらに早い時点に変えた。
【0078】
増殖期の間に温度を約37℃で調節し、pH値を約pH7に調節し、pO
2を、加圧空気を用いて30%に設定した。
【0079】
(表1)培養の概要
【0080】
1.4 分析方法
1.4.1 細胞密度
細胞密度は、CEDEX HiRes自動細胞カウンター(Roche Innovatis, Bielefeld)を用いて製造業者の説明書に従ってトリパンブルー法によって求めた。細胞密度を標準的な接種密度の16倍超にすることによって、細胞培養液をPBS-pufferで1:5に希釈した。測定された全ての細胞に対する生細胞の比が生存率を示した。
【0081】
1.4.2 基質濃度
培養物中のグルコース、乳酸、グルタミン、およびアンモニウムの濃度は、BIOPROFILE flex analyzer(Nova Biomedicals, Waltham)を用いて求めた。この測定法はバイオセンサーまたはイオン選択性電極に基づく。
【0082】
1.4.3 pHおよびpCO
2の測定
バイオリアクター中のpH値は、pHメーター(WTW, Inolab)によって毎日、外部より管理した。pCO
2値は、AVL Compact 3血液ガス分析器(Roche, Switzerland)に従って毎日チェックした。
【0083】
1.4.4 重量オスモル濃度
灌流中の浸透圧および供給の変化をチェックするために、重量オスモル濃度を毎日測定した。Osmomat 030(Gonotec, Berlin, Germany)を使用した。測定法は、純水および溶液の凝固点の比較測定に基づく。水の凝固点は0℃であるが、食塩濃度1mOsmol/kgの溶液の凝固点は-1.858℃である。
【0084】
1.4.5 乳酸デヒドロゲナーゼ活性
乳酸デヒドロゲナーゼ活性(LDH)は発酵中の細胞曝露と関連がある。ダメージを受けた細胞は生細胞より多くのLDHを培地に送り出す。測定法はマイクロタイタープレート上での酵素アッセイに基づく。LDHが存在すると、NADHはNAD
+に酸化され、ピルビン酸が乳酸に還元される。NADHの減少速度は340nmでの吸光度によって測定される。
【0085】
1.5 抗体分析
抗体価を、Poros Aアフィニティカラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によって定量した。
【0086】
実施例2:シードトレイン培養
1.1 400Lまでのシードトレイン
実施例1において概説したように、これを実施した。接種細胞密度に達したら、20L〜400Lのバイオリアクターにおける供給は規定の体積流速から開始した。20Lバイオリアクターを1回分割し、バックアップの目的で80Lバイオリアクターに2回接種した。
【0087】
1.2 分離装置の設計
分離装置が大規模なために、装置に適用する前に培養物を冷却するのに十分な熱交換器も組み立てなければならなかった。細胞に対するストレスおよび圧力を小さくするために、スパイラル直交流式熱交換器(MCE AG, Germany)を使用した。
【0088】
内部では、セトラーは65個の着脱可能なステンレス鋼プレートからなった。全沈降面積を、7m
2または10m
2、例えば、8m
2に設定した。セトラーを水平線から60°の角度で傾斜させた。傾斜は必要に応じて回転ホイールによって変えることができる。電磁バイブレータを取り付けた。電磁バイブレータを15分ごとに10〜20秒間、自動的に作動させた。角度の調整および振動の間隔は、細胞が効率的に再利用されることを確実なものにした。
【0089】
使用前に、機器全体を無菌化または滅菌し(CIPおよびSIP)、微生物が存在しないかどうか試験した。標準的な操作手順および無菌試験に対応する機器の設計資格(DQ)、設置資格(IQ)、以下の操作資格(OQ)、および性能資格(PQ)は異常を示さなかった。
【0090】
1.3 灌流
1.3.1 手順
培養物の灌流を開始するために、バイオリアクターの細胞培養流体をディップチューブに通して熱交換器にポンプで入れた。熱交換器にポンプは培養物を10〜15℃に冷却した。これは、バイオリアクター外にある間の、すなわち、制御されていない条件下の間の細胞代謝の低下として役立った。
【0091】
循環ポンプは、約390L/hの体積流速で培養物の流速を一定に制御した。総ループ体積は約200Lであった。灌流供給速度はバイオリアクター内での細胞密度によって調節された。
【0092】
1.3.2 細胞増殖
2回の連続した灌流(P1およびP2)の間の生細胞密度(VCD)および細胞生存率の比較を
図11に示した。どちらの場合も、100%超(約130%)の細胞密度に達した。<85%の生存率のアンダーカット(undercut)は行われなかった。
【0093】
1.3.3 細胞捕捉(グレード/効率)
本明細書において概説されたように、分離装置は上清からの細胞の分離において良好に機能した。分離効率および灌流体積を
図12に示した。分離効率(捕捉レベル)は期間全体にわたって
>0.9=90%であった。捕捉が<95%に低下したら、振動時間を延長した。
【0094】
細胞増殖を支持するには、バイオリアクター体積の0.9倍の最大灌流供給回転率、すなわち2,400L/d(システム全体の3,000L-循環中の200L流体に相当する)で十分であった。どちらの灌流の分離効率も95%超のままであった。これらの結果は、セトラー角度またはポンプを調整することによって灌流を最適化することなく得られた。
【0095】
図12から分かるように、どちらの灌流試験も、少なくとも95%の同等の細胞捕捉(
図12の上の部分)および同等の灌流速度の増加を示す。P1はフェドバッチの2日後に灌流を開始したのに対して、P2はフェドバッチのわずか1日後に灌流を開始したことに留意しなければならない。従って、P2の曲線はP1の曲線より早く開始する。
【0096】
灌流速度の最適化は、より良い細胞還流のためにはセトラー角度を調整することによって、または高い細胞密度のためには供給の最適化によって実現することができる。
【0097】
1.4 培養
1.4.1 細胞増殖および生存率
例示的な発酵番号1、3、4、および5(前記の表1を参照されたい)を産生培養と比較した。
【0098】
発酵に異なる細胞密度で接種した。それに応じて、供給開始時間を調整した。10,000L培養(2L体積と100%の接種細胞密度を用いた試験3)と比較して同等の生成物濃度を短期間で得るために、接種細胞密度を333%(400L体積を用いた試験1および2L体積を用いた試験4)ならびに666%(2L体積を用いた試験5)まで増やした。産生プロセスの対照として、100%の接種細胞密度による2つの発酵も行った。
【0099】
シードトレインのN-1発酵において用いられる灌流は以後の発酵において細胞の細胞増殖に影響を及ぼさない。すなわち、誘導期を特定できなかった。
【0100】
図13は、平均10,000L発酵と比較した2L培養の細胞増殖を示す。
【0101】
確立した産生プロセスと、セトラー操作から得られた高い接種細胞密度とを比較した(
図14を参照されたい)。細胞の生存率、細胞増殖、代謝の違いは観察されなかった。灌流は細胞の増殖および生存率に影響を及ぼさなかった。
【0102】
図15/16は、参照産生プロセス(破線)と比較した、333%の接種細胞密度を用いた3つの発酵(1x400Lおよび2x2L)の生細胞密度および生存率を示す。400Lの体積および2Lの体積では約5日目で既に最大細胞密度に達したのに対して、産生プロセスの体積では7日目に最大細胞密度に達したので、高接種細胞密度によって培養時間は約2日短くなった。また、高接種細胞密度は指数細胞増殖の間に誘導期を引き起こさなかった。
【0103】
図17および
図18において比較した場合、培養の比較性を示すために、生細胞密度および生存率の曲線は約+2日シフトした。これは、本明細書において報告された分離装置の使用が細胞の増殖特性に影響を及ぼさないという事実の証拠を提供する。
【0104】
図19/20および
図21/22に示したように、666%の接種細胞密度を用いて類似した結果が得られた。この図の中では、666%の接種細胞密度を用いた2つの2L培養の細胞増殖および生存率を示した。図から分かるように、培養の4日後には既に最大細胞密度に達し、これによりプロセス時間は約3日、短くなった(
図19/20の曲線が約+3日シフトした
図21/22に示した)。従って、666%の接種細胞密度では、分離装置は後の培養において細胞増殖および生存率に対して影響を及ぼさない。
【0105】
666%の接種細胞密度を用いた細胞増殖の誘導期は観察されなかった。濃縮した細胞懸濁液を得るためにセトラーを用いて666%の高細胞密度で接種することによって、細胞増殖の制限も阻害も認めることはできなかった。装置およびこの機器の悪影響は観察されなかった。
【0106】
1.4.2 抗体の産生
100%の接種細胞密度を用いた2L培養の培養時間にわたる生成物濃度を
図28に示した。高接種曲線の比較から、高接種細胞密度で本明細書において報告された分離装置を使用することによって、プロセス時間全体を4〜5日、短縮できることがはっきりと分かる。
【0107】
従って、N-1シードトレイン発酵において本明細書において報告された分離装置を用いた前記のセクションにおいて概説したように、主培養に高細胞密度で接種することができる。さらに、細胞はN-1シードトレイン発酵において高細胞密度まで増殖するが、主培養への接種後に誘導期は観察することができない。細胞はすぐに指数増殖し始める。それによって、N-1シードトレイン発酵において分離装置を使用しない参照産生発酵と比較した時に、培養中のさらに早い時点で細胞密度および生成物濃度に関する対応する値に達した。細胞培養の成績および生成物の力価は有意差を示さず、操作時間を全体的に、接種細胞密度に応じて、それぞれ、少なくとも2日または少なくとも4日、短縮することができる。一例として、このプロセスを使用すると、産生時間を25%短縮することができる。
【0108】
2. 結果
本発明は、新規の沈降装置、特に、細胞培養および細胞分離における大規模使用量(例えば、2,000L/日〜3,000L/日のレベル)に適した新規の沈降装置に関する。
【0109】
N-1工程のシードトレインにおける高細胞密度に関して、参照プロセス(確立した産生プロセス)と比較してシードトレイン発酵における分離装置を使用した主培養の曲線を2〜4日短縮することができるという事実に加えて、シードトレイン発酵において分離装置を使用した主培養とシードトレイン発酵において分離装置を使用していない主培養との間で細胞増殖を良好に比較することができた。
【0110】
装置は細胞培養に影響を及ぼさず、これによって高い捕捉率が得られた。
【0111】
本発明の要点は、本発明の装置を用いて、高い時間空間収率(time-space yield)のために高接種細胞密度を用いることによって、次に続く産生培養(N工程)において同等の細胞増殖(誘導期なし)および安定した生成物量を提供することである。
【0112】
本発明の装置を用いて得られた細胞懸濁液による接種後に、異なる接種細胞密度は全て誘導期または阻害を示さなかった。
【0113】
前記をまとめると、本明細書において報告された分離装置を使用することによって、生成物濃度に悪影響を及ぼすことなく、必要とされる主発酵時間を少なくとも約2〜4日、短縮することが可能である。従って、1回の産生作業(campaign)、すなわち、シードトレイン発酵および主発酵に必要な時間を全体的に短縮することによって、同じ時間で、例えば、1年で、さらに多くの作業を行うことができる。すなわち、産生施設の拡大、すなわち、バイオリアクター体積の拡大を避けることができる。