(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194112
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】金属酸化物膜構造物
(51)【国際特許分類】
C23C 24/04 20060101AFI20170828BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20170828BHJP
C09D 7/12 20060101ALI20170828BHJP
H01L 21/3065 20060101ALN20170828BHJP
【FI】
C23C24/04
C09D1/00
C09D7/12
!H01L21/302 101G
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-525291(P2016-525291)
(86)(22)【出願日】2014年7月11日
(65)【公表番号】特表2016-532006(P2016-532006A)
(43)【公表日】2016年10月13日
(86)【国際出願番号】KR2014006276
(87)【国際公開番号】WO2015005735
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2016年1月13日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0082217
(32)【優先日】2013年7月12日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0133053
(32)【優先日】2013年11月4日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516003964
【氏名又は名称】ぺムヴィックス コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】FEMVIX CORP.
(73)【特許権者】
【識別番号】516003975
【氏名又は名称】キム、オク リュル
【氏名又は名称原語表記】KIM,Ok Ryul
(73)【特許権者】
【識別番号】516003986
【氏名又は名称】キム、オク ミン
【氏名又は名称原語表記】KIM,Ok Min
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】キム、オク リュル
(72)【発明者】
【氏名】キム、オク ミン
【審査官】
宮本 靖史
(56)【参考文献】
【文献】
特表2009−531543(JP,A)
【文献】
特表2005−525463(JP,A)
【文献】
特開2013−065844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 24/00−30/00
C09D 1/00−10/00
C09D101/00−201/10
H01L 21/302
H01L 21/3065
H01L 21/461
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材表面に形成された金属酸化物膜構造物であって、
XaYbで示される金属酸化物(X:金属元素、Y:酸素元素、a:金属元素の原子数、b:酸素元素の原子数)が膜構造物で形成されるとき、前記金属酸化物膜構造物の金属元素の原子%が、{a/(a+b)}×100(%)よりも大きく、非化学量論的特性を有し、
前記膜構造物が、金属酸化物パウダーが前記基材表面に噴射コートされて形成されることにより、
前記膜構造物は、ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子とで構成されるが、前記膜構造物を構成する粒子は、熱による成長及び熱による結晶質への変化を伴わず、
亀裂及び気孔のないことを特徴とする金属酸化物膜構造物。
【請求項2】
前記膜構造物の密度が、コーティング前の金属酸化物の密度の90%〜100%であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜構造物。
【請求項3】
前記ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子が、粒径が2nm〜500nmであることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜構造物。
【請求項4】
前記基材が、セラミック、金属、非金属、半金属、ポリマーのいずれか一つであることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜構造物。
【請求項5】
前記膜構造物が、酸化イットリウム(Y2O3)で形成されたものであって、イットリウム原子の重量%が60%〜97%であり、酸素原子の重量%が3%〜40%であることを特徴とする請求項1に記載の金属酸化物膜構造物。
【請求項6】
前記膜構造物は、輸送管の末端に噴射ノズルを収容するコーティングチャンバの内部の負圧により、前記輸送管に吸入される吸入気体と、気体供給装置から前記輸送管に供給された供給気体とが混合された輸送気体が、前記輸送管内に流入した固相パウダーを輸送し、前記噴射ノズルから噴射され、前記固相パウダーを、真空状態のコーティングチャンバの内部に設けられた基材に噴射コートさせることで形成されたことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか一項に記載の金属酸化物膜構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材表面に形成された金属酸化物(Metal Oxide)膜構造物に関し、金属酸化物膜を構成する金属元素の原子数と酸素原子の原子数が非化学量論的特性を示し、金属酸化物膜の密度が、コーティング前の金属酸化物の密度の90%〜100%として緻密に形成され、亀裂と気孔のない金属酸化物膜構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物は、金属原子と酸素原子が結合した形態の物質であって、コーティング材料として産業に用いられるが、金属酸化物は、表1に示すように、固有の密度を有している。
【0003】
金属酸化物としては、酸化イットリウム(Y
2O
3)、酸化アルミニウム(Al
2O
3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO)、酸化鉄(FeO)、酸化チタン(TiO
2)、酸化ジルコニウム(ZrO
2)、酸化クロム(Cr
2O
3)、酸化ハフニウム(HfO)、酸化ベリリウム(BeO)などがあり、前記金属酸化物は、下記の表1に示すように、金属酸化物を構成する各元素の原子数が、簡単な整数で示される化学量論的特徴を満たす物質である。
【0004】
各種の産業分野において、金属酸化物を用いて、任意の基材表面に金属酸化物膜を形成するにあたって、前記金属酸化物膜の密度がコーティング前の金属酸化物の密度に比べてある程度であるかが重要であるが、前記金属酸化物膜の密度が、前記コーティング前の金属酸化物の密度に近づくほど、物理的または化学的に好適な特性が発揮される。また、金属酸化物膜の密度が高いほど、表面の硬度も向上する。下記の表1は、金属酸化物の各元素の原子数、原子%、及び密度をまとめたものである。
【0005】
【表1】
【0006】
一方、半導体、発光ダイオード(LED)、太陽電池、ディスプレイ素子等を作製するときは、蒸着、エッチング、アッシング、拡散、洗浄等の工程を経るようになる。このとき、工程チャンバの内部の基材表面には、工程中、発生する不純物(パーティクル)が付着してから、工程中、脱離しながら、ウエハを汚染させることになるが、このようなパーティクルが、工程中、基材表面に付着することを最小化させ得る基材表面の耐パーティクル付着性(anti−particle adhesion)が要求される。
【0007】
また、表面の耐パーティクル付着性の悪い基材を用いる場合、パーティクルにより汚染した基材を洗浄するために、工程を中断し、前記基材を工程チャンバの外部に搬出し、洗浄(ex−situ cleaning)を行った後、洗浄された基材をチャンバの内部に装着した後、工程を行わなければならない。しかし、基材表面に耐パーティクル付着性が与えられた基材を用いると、工程を停止せず、工程チャンバが開放されなかった状態で、湿式または乾式方法で、原位置洗浄(in−situ cleaning)を行うことにより、外部洗浄(ex−situ cleaning)の周期を延長させ、生産性及び歩留まりを大いに向上させることができる。したがって、このような処理工程において、基材表面の耐パーティクル付着性が要求される。
【0008】
また、前記基材には、耐パーティクル付着性だけでなく、耐プラズマ性及び耐食性が要求される。前記基材は、蒸着工程において、窒化フッ素(NF
3)等のフッ素系ガスプラズマ雰囲気及び高温に露出し、しかも、エッチング工程でも、エッチングガスとして用いられる塩素系ガス(例えば、塩化ホウ素(BCl)等)、フッ素系ガス(例えば、フッ化炭素(CF
4)等)のような腐食性ガスに露出するからである。
【0009】
一方、結晶質粒子と非晶質粒子とからなる構造物を作るための先行技術を検討すると、下記の先行技術文献の非特許文献1及び非特許文献2が、PVD(Physical Vapor Deposition)の一種であり、コーティング物質(YSZ;yttria−stabilized zirconia)で構成されたターゲットにレーザを照射し、コーティング物質を、蒸気状態で、真空状態に置かれた基材に蒸着させる物理的な蒸着方法であるPLD(Pulsed Laser Deposition)を用いて、基材に非晶質コーティング層を形成させた後、前記非晶質コーティング層に数十〜数百℃の熱を加え、結晶化を進行させるメカニズムを提示している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】S.Heiroth et al,「Optical and mechanical properties of amorphous and crystalline yttria−stabilized zirconia thin films prepared by pulsed laser deposition」,Acta Materialia.2011,Vol.59,pp.2330〜2340.
【非特許文献2】S.Heiroth et al,「Crystallization and grain growth characteristics of yttria−stabilized zirconia thin films grown by pulsed laser deposition」,Solid State Ionics. 2011,Vol.191,pp.12〜23.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記問題点に鑑みなされたものであり、その目的は、金属酸化物を用いて、緻密で、かつ硬度に優れた金属酸化物膜構造物を提供することにある。
【0012】
また、本発明の他の目的は、フッ素系ガス、塩素系ガス等に対する耐食性及び耐プラズマ性に優れた酸化イットリウム(Y
2O
3)パウダーで、基材表面に酸化イットリウム層を形成させることにより、基材表面の耐パーティクル付着性を大いに向上させる膜構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述した目的を達成するために、本発明は、基材表面に形成された金属酸化物膜構造物であって、X
aY
bで示される金属酸化物(X:金属元素、Y:酸素元素、a:金属元素の原子数、b:酸素元素の原子数)が膜構造物で形成されるとき、前記金属酸化物膜構造物の金属元素の原子%が、{a/(a+b)}×100(%)よりも大きく示され、前記膜構造物は、ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子とで構成されるが、前記膜構造物を構成する粒子は、熱による成長及び熱による結晶質への変化を伴わず、亀裂及び気孔のないことを特徴とする金属酸化物膜構造物を提供する。
【0014】
このような金属酸化物膜構造物は、輸送管の末端に噴射ノズルを収容するコーティングチャンバの内部の負圧により、前記輸送管に吸入される吸入気体と、気体供給装置から前記輸送管に供給された供給気体とが混合された輸送気体が、前記輸送管内に流入した固相パウダーを輸送し、前記噴射ノズルから噴射され、前記固相パウダーを、前記真空状態のコーティングチャンバの内部に設けられた基材に噴射コートさせる固相パウダーの噴射コーティング方法を適用して製造することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明による金属酸化物膜構造物は、下記の効果により、半導体及び電子分野において幅広く用いられる。
1.半導体等の製造、処理工程において、基材表面に付着するパーティクルを画期的に減少させる。
2.半導体等の製造、処理工程を連続的かつ安定的に進行させることにより、工程歩留まり及び生産性を向上させる。
3.半導体等の製造、処理工程後、製品不良率を減少させる。
4.消耗性基材及び交替部品の外部洗浄の周期を延長させることができる。
5.多様な素材(セラミック、金属、非金属、半金属、ポリマー等)の基材にイットリア膜構造物を形成させることができ、多様な製品の製造、処理工程に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】イットリア(yttria、Y
2O
3)膜構造物の断面(スペクトル1)を示す写真である。
【
図2】イットリア膜構造物の断面(スペクトル1)に対するEDS(energy dispersive x−ray spectroscopy)元素分析の結果を示す図である。
【
図3】イットリア膜構造物の断面(スペクトル7)を示す写真である。
【
図4】イットリア膜構造物の断面(スペクトル7)に対するEDS(energy dispersive x−ray spectroscopy)元素分析の結果を示す図である。
【
図5】イットリア膜構造物に対する20nmスケールのTEM(transmission electron microscopy;透過顕微鏡)写真である。
【
図6】イットリア膜構造物に対する5nmスケールのTEM写真である。
【
図7】イットリア膜構造物に対する2nmスケールのTEM写真である。
【
図8】
図7に示すたイットリア膜構造物に対する電子回折パターン写真である。
【
図9】工程チャンバの内部において、NF
3ガスによる原位置洗浄を経た基材の表面に、イットリア膜構造物が形成される前と後のパーティクル付着量の比較及び変化グラフである。
【
図10】表面にイットリア膜構造物が形成される前後の基材において、工程を進行することによるウエハ上のパーティクルの個数を比較したグラフである。
【
図11】工程基材の表面に、溶射コートされたイットリア膜構造物が形成された場合と、本発明によるイットリア膜構造物が形成された場合において、工程チャンバの内部のウエハの累積枚数によるウエハ上のパーティクルの個数を比較したグラフである。
【
図12】本発明による金属酸化物膜構造物を製造するための固相パウダーのコーティング装置の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明を実施するための最善の形態は、基材表面に形成されたイットリア膜構造物であって、イットリウム原子の重量%が60%〜97%であり、酸素原子の重量%が3%〜40%であり、前記膜構造物は、ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子とで構成されるが、前記ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子は、粒径が2nm〜500nmであり、前記膜構造物を構成する粒子は、熱による成長及び熱による結晶質への変化を伴わず、亀裂及び気孔のないことを特徴とし、半導体等の製造工程中、基材表面に付着するパーティクルを減少させるイットリア膜構造物である。
【0018】
本発明は、基材表面に形成された金属酸化物膜構造物を提供する。
【0019】
本発明により、金属酸化物膜が形成される基材の材質は、セラミック、金属、非金属、半金属、ポリマーのいずれであってもよい。
【0020】
本発明の発明者は、基材表面に金属酸化物の一種であるイットリア(酸化イットリウム)をコートし、イットリウム元素の原子数と酸素原子の原子数が、非化学量論的特性を示すイットリア膜構造物を構成した。すなわち、前記膜構造物を構成するイットリウム元素の原子%が、前記酸化イットリウムが化学量論的な状態にあるときの原子%よりも大きく示された。すなわち、本発明は、金属酸化物をX
aY
bで示されるとき(X:金属元素、Y:酸素元素、a:金属元素の原子数、b:酸素元素の原子数)、前記金属酸化物膜構造物の金属元素の原子%が、{a/(a+b)}×100(%)よりも大きく示されるようにしたものである。
【0021】
図1及び
図3は、前記イットリア膜構造物の断面である(スペクトル1及びスペクトル7)。前記スペクトル1及びスペクトル7に対して、EDS(energy dispersive x−ray spectroscopy)を通じて元素分析を実施すると、
図2及び
図4に示すように、イットリウム(Y)元素と酸素(O)元素のピークが示された。また、前記膜構造物において、イットリアを構成している各元素の原子%を分析すると、下記のような特徴を把握することができる。
【0022】
第一に、表1に示すように、化学量論を満たすイットリア(Y
2O
3)は、二つのイットリウム(Y)原子と3つの酸素(O)原子で結合されており、イットリウム原子は40.00%の原子%、酸素原子は60.00%の原子%を示すが、本発明が提供する膜構造物は、スペクトル1及びスペクトル7において、酸素原子の原子%は、それぞれ21.39%、45.38%と示された。これは、イットリアが化学量論を満たすときの酸素原子の原子%が60%未満と示されたものである。また、前記膜構造物は、スペクトル1及びスペクトル7において、イットリウム元素の原子%は、それぞれ78.61%、54.62%と示され、前記化学量論性を満たすときの原子%は、40%以上と示された。
【0023】
すなわち、本発明において導出されたイットリア膜構造物は、非化学量論的な膜構造物となるものである。前記スペクトル1とスペクトル7に示される原子%の差は、酸化イットリウム膜が基材表面に形成されるときのコーティング条件によるものと言える。下記の表2は、前記イットリア膜が形成される前後の原子%の変化を要約したものである。
【0025】
第二に、金属酸化物であるイットリアで形成された膜構造物の密度は、4.88g/cm
3〜4.93g/cm
3と示された。これは、表1に示した酸化イットリウム密度(5.010g/cm
3)の97.4%〜98.4%に至る緻密な密度特性を示すものである。
【0026】
以上、金属酸化物であるイットリアを用いたイットリア膜構造物の特徴について説明したが、その他の金属酸化物も、イットリアと同一の傾向を示す。すなわち、基材表面に、本発明が提供する金属酸化物膜構造物が形成されると、金属酸化物膜を構成する金属元素の元素数と酸素原子の原子数が非化学量論的特性を示し、前記構造物の金属元素の原子%(原子数の百分率)は、前記金属酸化物が化学量論的に満たされるときの金属元素の原子%よりも大いに形成され、前記金属酸化物膜の密度は、コーティング前の金属酸化物の密度の90%〜100%である緻密な膜構造物が形成される。
【0027】
また、本発明が提供する金属酸化物膜構造物は、ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子とで構成されるが、前記膜構造物を構成する粒子は、熱による成長及び熱による結晶質への変化を伴わず、亀裂及び気孔のないことを特徴とする。
【0028】
図5は、基材表面に、金属酸化物の一種であるイットリア(Y
2O
3)層が形成された構造物に対する20nmスケールのTEM写真であって、これを観察すると、結晶質粒子と非晶質粒子とで形成され、気孔のないことが確認される。
【0029】
また、前記イットリア膜構造物は、平均粒径10nm〜500nmの結晶質粒子の周囲に、平均粒径2nm〜100nmの非晶質粒子が分布することがわかる。
図6は、前記イットリア膜構造物に対する5nmスケールのTEM写真であり、
図7は、前記イットリア膜構造物に対する2nmスケールのTEM写真である。
図6及び
図7により、前記イットリア膜構造物をさらに観察すると、結晶質粒子層間に非晶質粒子層が観察され、このような構造的な特性は、非晶質粒子層の電子回折パターンを撮影した
図8から確認される。
【0030】
前記イットリア膜構造物の非晶質粒子は、熱処理により成長し、結晶質に変化され、これにより、前記イットリア膜構造物は、多結晶電子回折パターンを有するナノ構造物に変化される。
【0031】
また、
図4乃至
図6では、亀裂のない状態が確認される。したがって、本発明によるイットリア膜構造物が表面に形成された基材を半導体製造工程等に適用すると、
図9及び
図10に示すように、工程中、基材表面及びウエハへのパーティクルの付着量が顕著に減少し、耐パーティクル付着性が発揮することがわかる。
図9は、工程チャンバの内部において、NF
3ガスによる原位置洗浄を経た基材の表面に、イットリア膜構造物が形成される前(Before、以下、「B基材」という。)と後(After、以下、「A基材」という。)のパーティクル付着量の比較及び変化グラフである。前記B基材とA基材の表面パーティクル付着量を比較すると、A基材のパーティクル付着量が顕著に減少したことがわかる。A基材がB基材よりもパーティクル付着量そのものが顕著に少ないことは言うまでもなく、A基材の適用時、付着したパーティクルの除去作業も速く進行し、NF
3ガスの洗浄時間も短縮し、この洗浄後、直ちに工程を再開することができるという特徴がある。すなわち、イットリア膜構造物が形成された基材を、半導体製造工程等に適用すると、パーティクルの付着が最小化し、原位置洗浄の時間が短くなり、パーティクルが速く減少しながら安定化する。
【0032】
図10は、B基材とA基材において、工程を進行することによるウエハ上のパーティクルの個数を比較したグラフである。ウエハ上に蒸着物質が数層生成され、厚さが累積されるほど、工程時間を経ることにより、基材表面に付着している不純物(パーティクル)が、ウエハの表面に落ちて付着してしまい、ウエハの不良を生じるので、パーティクルが多くなるほど、工程はさらに不良となり、工程を中断しなければならないこととなる。特に、微細工程であるほど、パーティクルの大きさ及び個数に敏感であるので、パーティクルを制御しなければならない。ところが、
図10のグラフをみると、B基材を適用した場合、多量のパーティクルが発生し、基材表面に累積し、付着したパーティクルが不規則に脱離して降り注ぐのに対して、A基材を適用した場合、ウエハ上のパーティクルが全体として50個以下に減少しながら安定化することがわかる。
【0033】
本発明が提供する金属酸化物膜構造物は、ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子とで構成されるが、結晶質粒子と非晶質粒子が混在した状態のコーティング層を形成することができる先行技術は、上述のように、物理的蒸着方法(PVD)の一種であるPLD方法で、YSZ粒子を基材に蒸着させ、蒸着層の全体を非晶質に形成させた後、数十〜数百℃の熱を加え、非晶質粒子が熱により成長され、一部を結晶質に変化させ、ここに、追加の熱処理を通じて、前記蒸着層の全体が結晶質層に形成されるようにしている。
【0034】
しかし、本発明は、上述した先行技術とは異なり、一回のコーティングのみで、ナノ結晶質粒子とナノ非晶質粒子とで構成された金属酸化物膜が形成されたものである。すなわち、本発明は、金属酸化物膜構造物の形成時及び形成後、コーティング層に追加の熱処理で、熱による成長及び熱による結晶質への変化を必要とする既存の先行技術とは異なり、これにより、本発明が提供する金属酸化物膜構造物の耐パーティクル付着性の効果も極めて優れる。
【0035】
耐パーティクル付着性について、金属酸化物の一種であるイットリアで形成されたイットリア膜構造物を挙げて説明すると、
図5乃至
図7に示すように、構造物層の表面が、先行技術である溶射コーティング及びPLD方法で具現された表面層とは異なるだけでなく、先行技術による場合は得られなかった
図8のような非晶質粒子層の電子回折パターンを有するなど、その構造的特徴が既存の先行技術による場合と比べて異なるからである。
【0036】
図11は、工程基材の表面に溶射コートされたイットリア膜構造物が形成された場合と、本発明によるイットリア膜構造物が形成された場合において、工程チャンバの内部のウエハの累積枚数によるウエハ上のパーティクルの個数を比較したグラフであるが、前者の場合、工程チャンバの内部のウエハの累積枚数が100枚に増加することにより、工程基材に付着しているパーティクルが落ち、継続的に5000個以上に増加して累積するのに対して、後者の場合、工程チャンバの内部のウエハの累積枚数が100枚に増加しても、パーティクルの個数が50個以下の水準を維持し、安定化した状態を示していることがわかる。前者によると、パーティクルが多くなるほど、工程不良の危険が高まり、工程を中断しなければならない状態に至ることになる。このような結果から、パウダーに熱を加えてコートする溶射コーティング処理された基材を適用した場合、多量のパーティクルが発生し、不安定なパーティクルの傾向が生じるのに対して、本発明により、熱を加えず、工程基材の表面にイットリア膜構造物を形成した基材を適用した場合、安定的なパーティクルの状態が得られることが確認される。したがって、本発明によるイットリア膜構造物の特徴が発現されると、工程中、基材表面及びウエハに付着するパーティクルの数が、熱が伴われる溶射コーティング技術が適用された場合と比べて、顕著に少なくなり、安定化した耐パーティクル付着性が発揮される。特に、微細工程であるほど、パーティクルの数に敏感であるので、本発明の適用時、効用が大きい。
【0037】
前記金属酸化物膜構造物は、輸送管の末端に噴射ノズルを収容するコーティングチャンバの内部の負圧により、前記輸送管に吸入される吸入気体と、気体供給装置から前記輸送管に供給された供給気体とが混合された輸送気体が、前記輸送管内に流入した固相パウダーを輸送し、前記噴射ノズルから噴射され、前記固相パウダーを、前記真空状態のコーティングチャンバの内部に設けられた基材に噴射コートさせる固相パウダーの噴射コーティング方法を適用して製造することができる。
【0038】
このような固相パウダーの噴射コーティング方法は、
図12に示すような、固相パウダー4の輸送路を提供する輸送管10と、気体供給装置20から供給する供給気体の流路となる気体供給管15と、前記輸送管10または気体供給管15の末端に結合された噴射ノズル30と、前記噴射ノズル30を収容するコーティングチャンバ40と、大気圧状態が維持される環境で収容された固相パウダー4を、前記輸送管10に供給する固相パウダー供給部(図示せず)と、前記コーティングチャンバ40の内部圧力を調節する圧力調節装置50と、を備え、前記圧力調節装置50の駆動で形成された前記コーティングチャンバ40の負圧により、大気圧状態の気体が前記輸送管10に吸入されるように構成され、吸入気体1と供給気体2が一緒に固相パウダー4の輸送気体3として作用するように構成された固相パウダーコーティング装置により具現される。
【0039】
前記固相パウダーコーティング方法と、固相パウダーコーティング装置についての内容は、大韓民国特許出願10‐2013‐0081638の「固相パウダーのコーティング装置及びコーティング方法」及び大韓民国特許出願10‐2014‐0069017の「固相パウダーのコーティング装置及びコーティング方法」において詳述されている。
【0040】
以上、本発明は、添付した図面と関連して説明されたが、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で、様々な修正及び変形が可能であり、様々な分野において使用可能である。したがって、本発明の請求の範囲は、本発明の真正な範囲内に属する修正及び変形を含む。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明が提供する金属酸化物膜構造物は、基材表面に形成される金属酸化物膜の密度と硬度が向上し、工程(例:半導体製造工程、ディスプレイ素子製造工程など)中、基材表面にパーティクルが付着することを最小化することにより、耐パーティクル付着性が要求されてきたが、問題解決が困難であった従来の金属酸化物コーティング層を産業的に代替することができる。