【課題を解決するための手段】
【0006】
ピストン・リングを備えた少なくとも1つのピストンを受容する、ピストン・エンジン用シリンダは、潤滑油を受容し分配するスリット状切抜き穴を含む。シリンダはピストンのための摺動面を含み、摺動面は、上死点区域から、シリンダ上に配置されている一列の掃気スリットまで延在している。スリット状切抜き穴は摺動面に配置されている。
【0007】
上死点区域は、最上部ピストン・リングの死点がある平面として定義される。
【0008】
スリット状切抜き穴は、第1の部分と第2の部分とを含み、第1の部分は、第1の端部と第2の端部とを含み、第1の端部は、シリンダ内部空間への第1の開口部を有し、第2の端部は、シリンダ内部空間への第2の開口部を有し、第2の部分は、第2の端部と第3の端部とを含み、第3の端部は、シリンダ内部空間への第3の開口部を有し、ピストン・リングが第1の開口部又は第3の開口部の1つと第2の開口部との間の位置にある場合、潤滑油路が、ピストン・リングの上方にあるシリンダ内部空間とピストン・リングの下方にあるシリンダ内部空間との間に形成され得るように、第1の開口部と第3の開口部とが、スリット状切抜き穴を通過するピストン・リングの下方に配置され、同時に、第2の開口部が、スリット状切抜き穴を通過するピストン・リングの上方に配置される。
【0009】
潤滑油供給のための潤滑油源は、ピストン・リング及びシリンダの内壁の摺動対のために、シリンダの内部空間内に設けられている。潤滑油は、潤滑油源から、ピストン空間内への、シリンダの内壁に設けられている入り口開口部経由で移動する。或いは又はそれに付加して、潤滑油供給はピストン経由で起こる可能性もある。このため、入り口開口部は、潤滑油をピストン空間内に搬送するために、シリンダの内壁に設けられている。さらに、潤滑油供給のための入り口開口部が
連続通路内に配置されている状態で、摺動面に沿って延在する
連続通路が形成されるように、端部が互いに連結されている複数のスリット状切抜き穴が設けられている。
【0010】
試験により、スリット状切抜き穴は、摩擦システムにプラス効果をもたらすために潤滑油源を有する必要がないことが分かった。この目的のために、スリット状切抜き穴は、潤滑油源に接続され得る入り口開口部を有する潤滑油溝の形態で設けられている。潤滑油溝は、通常、切削手段によりシリンダの内壁上に作られる。当然、シリンダの内壁は、シリンダ・ライナの内壁を意味する可能性もある。入り口開口部は、周囲方向に潤滑油の分配を可能にするように設計されている。入り口開口部の上流に配置されている潤滑油路は、詳細には、シリンダの内壁に対して接線方向に延在することができる。入り口開口部は、スリット状切抜き穴として作製されている潤滑油溝内へ開くことができる。或いは又はこれに付加して、入り口開口部で始まり、実質的にシリンダ軸に対して垂直に配向されている平面に配設される、追加の潤滑油溝を設けることもできる。この付加的な潤滑油溝は、入り口開口部からの距離が大きくなるにつれて連続的に減少する深さを有し得る。さらに、その幅もまた、入り口開口部からの間隔が大きくなるにつれて縮小し得る。
【0011】
また、ノズル又は逆止め弁を備えた制限点などの搬送要素を、潤滑油源と入り口開口部との間に配置することができる。
【0012】
スリット状切抜き穴は、シリンダの内壁上の潤滑油の分配を改善するために潤滑油源から間隔を空けて配置されている。
【0013】
スリット状切抜き穴は、詳細には、上死点区域から、ピストン行程の最大20%、好ましくはピストン行程の最大10%、特に好ましくはピストン行程の最大5%に相当する距離を置いて配置することができる。
【0014】
意外なことに、スリット状切抜き穴、及び
連続通路が形成されるように端部が互いに連結された複数のスリット状切抜き穴を設けられた往復ピストン・エンジンは、先行技術から既知の解決策と比較して、潤滑油消費量が低いことが分かった。したがって、摩擦対の摺動特性に修正が施されず、ピストン・エンジンの作動条件も変更されなかったとしても、潤滑油源から供給される潤滑油搬送量は、従来の解決策と比べて減少し得る。
【0015】
連続通路は、1つ又は複数の入り口開口部経由でシリンダの内部空間に到達した潤滑油の分配に使用される。
【0016】
潤滑油損失が低減し得るであろうことが分かったので、これに起因して、先行技術の解決策から予測されることと比較して、本発明による解決策により、予測に反して潤滑油消費量が低下し得る。
【0017】
ピストンが圧縮行程を実行する場合、ピストン・リングはシリンダの内壁に沿って摺動する。多くの場合、複数のピストン・リングはピストンに取り付けられている。このため、内壁にある潤滑油は、作動空間に最も近接したピストン・リングにより少なくとも部分的に運び上げられる。作動空間は、燃料が中にあるシリンダの内部空間の領域として理解される。シリンダの垂直配置では、これが最上部ピストン・リングである。
【0018】
ピストン・リングにより運び上げられた潤滑油は、ピストン・リング上に集まり、従来の解決策では、作動空間内に移動し、そこで燃料と共に消費されると考えられる。この潤滑油がスリット状切抜き穴に衝突した場合、このスリット状切抜き穴は潤滑油で満たされる。第2の開口部がピストン・リングの上方にあるようになり、第1の開口部と第3の開口部とがピストン・リングの下方にあるようになる位置にピストン・リングが来るとすぐに、均圧化が生じる。
【0019】
この均圧化は、スリット状切抜き穴が上死点区域に近接しているほど速く生じる。即ち、均圧化は上死点区域からの距離に左右される。
【0020】
均圧化は、スリット状切抜き穴経由で第1の開口部と第3の開口部とへ潤滑油を運び戻すことに影響を及ぼす。これは、潤滑油が、作動空間からピストン・リングを通過し、掃気スリットを有する吸気側の方向に側流で流動することを意味する。複数のピストン・リングがピストン上に配置されている場合、側流は、次いで、作動空間を第1のピストン・リングと第2のピストン・リングとにより画定されている中間空間に制限する第1のピストン・リングを通過して導かれる。作動空間と中間空間との間には圧力差があり、潤滑油はそれに基づいて中間空間の方向に搬送される。
【0021】
改善したオイル分配に加えて、さらなる利点が、特に、ピストン行程の最大約20%の領域内に上死点区域の下方にスリット状切抜き穴を配置することにより生じる。潤滑油の側流はスリット状切抜き穴により発生し、該側流は、往復ピストン・エンジンの作動空間が吸気側の空間に又は2つのピストン・リング間にある中間空間に連結されるようにピストン・リングを通過して流動し、それにより、作動空間内に掛かっているより高い圧力が低下する。このように、潤滑油がスリット状切抜き穴を通って搬送される側流により均圧化が生じる。作動領域に面している第1のピストン・リングの表面上に掛かる圧力は、それに応じて減少する。これに起因して、シリンダの内壁におけるピストン・リングの摩擦が小さくなるので、結果として、ピストン・リング及びシリンダの内壁の磨耗が低減する。したがって、ピストン・リング及びシリンダの耐用年数が増加する。
【0022】
均圧化があまりに速く生じるので、潤滑油は、スリット状切抜き穴を通って吹き飛ばされる。均圧化は、詳細には、複数のピストン・リングが存在する場合は段階的に生じる。これは、均圧化が、作動空間により近接して配設されている各ピストン・リングによって生じ、作動空間からより遠く離れて配設されているピストン・リングに向かうことを意味する。しかしまた、これに起因して、先行技術と比較して流速が段階的に低下する。スリット状切抜き穴が設けられていない場合、圧力補償は、ピストン・リングから吸気空間までしか生じない。即ち、最初に作動空間内に掛かっている圧力は、この段階で吸気空間内の圧力まで下げられなければならない。これにより、高流速は、潤滑油が掃気スリット内に持って来られるようにする。このこともまた、段階的な均圧化と共に起こり得るが、掃気スリットに進入する潤滑油の部分は大幅に減少する。この目的のために、複数のピストン・リングがピストンに取り付けられていることが有利である。スリット状切抜き穴が適用されていない領域で、ピストン・リングが作動空間を気密式に閉鎖することができるように、作動空間に隣接したピストン・リング又は吸気空間に隣接したピストン・リングの少なくとも1つに、開ロック又は気密ロックが備わっているようにすることができる。
【0023】
スリット状切抜き穴の特に好適な実施例によれば、第1の部分と第2の部分とは、平面上への摺動面の突出において経路を形成しており、第1の経路と第2の経路との間に、0°より大きく180°未満の角度が含まれている。このスリット状切抜き穴はV字形状を有し、「V」の先端は、上死点区域から最小の間隔を有する。その角度は、詳細には鈍角として作られており、好ましくは100°と180°の間、特に好ましくは130°と175°の間、具体的には150°と170°の間である。
【0024】
スリット状切抜き穴は、詳細には、スリット状切抜き穴の第1の部分又は第2の部分の1つが、長さと幅と深さとを有するように作製されており、長さは、幅又は深さより長くなっている。
【0025】
この場合のスリット状切抜き穴は、修理又は保守なしでシリンダの全平均作動時間の間使用することができるので、深さは0.4mmより大きくなることが好ましい。ピストン・リングは、シリンダの内壁の表面に接触して材料損失を生じる可能性があり、それによりシリンダの内径が増大することになり、結果として、スリット状切抜き穴の深さが減少する。スリット状切抜き穴に、概ね予想される材料の除去により生じる深さ損失より大きい深さが与えられた場合、スリット状切抜き穴は作動中に修理される必要がない。
【0026】
複数のスリット状切抜き穴は、詳細には、摺動面に沿って延在する
連続通路が形成されるように、その端部が互いに連結されて設けられることが可能である。この
連続通路は、シリンダの内部空間内への1つ又は複数の入り口開口部経由で移動する潤滑油の分配に役立つ。
連続通路は、スリット状切抜き穴よりも、上死点区域から大きい距離を置いて配置されている。
連続通路は、シリンダ、特にシリンダ・ライナの摺動面上に円周方向に延在していることが好ましい。
【0027】
入り口開口部は、潤滑油供給のために
連続通路内に配置することができる。また、複数の入り口開口部は、特に、内壁が潤滑油で均一に濡れるように、シリンダの内壁一面により均一に潤滑油を分配するために設けることができる。ピストン行程の最後の30%の圧縮行程中、作動空間内の内圧が増大することにより潤滑油の必要量が増すので、入り口開口部又は
連続通路は、上死点区域の下方のピストン行程の約30%の距離に相当する位置に配置されることが好ましい。
【0028】
実施例の1つによるスリット状切抜き穴は、その第2の端部に頂点を有し、隣接したスリット状切抜き穴の頂点は、上死点区域から測定して等間隔の所に配設されている。頂点は、上死点区域から最小の空間を有するスリット状切抜き穴の点である。
【0029】
複数のスリット状切抜き穴は、一列に配置することができる。頂点は、上死点区域から同じ間隔を置いて一列に配置されている。一列のスリット状切抜き穴では、複数のスリット状切抜き穴の上を、ピストン・リングが実質的に同時に通り抜ける。
【0030】
一列のスリット状切抜き穴の数は、スリット状切抜き穴の長さ及び2つの隣接したスリット状切抜き穴間の間隔次第で、合計5個から80個になることが好ましい。長さ、及び列内での2つの隣接したスリット状切抜き穴の互いの間隔は、シリンダの内壁がスリット状切抜き穴と潤滑油供給源との間で潤滑油によって濡れるように選択されることが好ましい。
【0031】
特に有利な実施例によれば、間隔の長さは、列を有する平面上へのスリット状切抜き穴の長さの突出より大きい。スリット状切抜き穴の長さは、第1の部分又は第2の部分の長さの1つと定義され、種々の長さがあれば、より大きな長さが決定的長さと定義されるべきである。隣接したスリット状切抜き穴の2つの頂点の間隔は、詳細には、2つの隣接した入り口開口部の間隔と等しくすることができる。スリット状切抜き穴の頂点は、詳細には、入り口開口部の軌道上にあることが可能である。
【0032】
代替の実施例によれば、隣接したスリット状切抜き穴の頂点は、互いにずらされて配置されている。複数のスリット状切抜き穴は、詳細には、複数の列に配置することができる。
【0033】
列は、好ましくはピストン・リングの高さに相当する傾斜より小さい傾斜を有し得る。したがって、一列のスリット状切抜き穴の傾斜角度は、最大1°になる。この寸法は、ピストン・リングの作動の滑らかさの増大に役に立つ。このため、スリット状切抜き穴の縁部とピストン・リングとの間の接触は、常に一点でのみ起こる。ピストン・リングの縁部とスリット状切抜き穴の縁部との局所接触は、結果として傾斜角度により防止され、それによりスリット状切抜き穴の縁部内にせん断力が導入されないので、縁部において材料の除去がほとんど発生しない。したがって、傾斜の監視により、シリンダの耐用年数が増加する結果となる。
【0034】
スリット状切抜き穴の幅は、0.5mmと3mmの間であることが好ましいが、どの場合においても、最も狭いピストン・リングの幅の80%未満、好ましくは70%未満、特に好ましくは60%未満とすべきである。これにより、ピストン・リングがスリット状切抜き穴内で傾斜するはずはなく、接触せずに切抜き上を摺動することが確実になる。
【0035】
スリット状切抜き穴の長さは、10mmと100mmの間、好ましくは10mmと50mmの間、特に好ましくは10mmと30mmの間になる。
【0036】
スリット状切抜き穴の数及び/又は深さ及び/又は長さ及び/又は幅は、互いに異なる可能性がある。隣接した列のスリット状切抜き穴は、互いにずらされて配置されていることが有利である。潤滑油でのシリンダの内壁の理想的な濡れは、シリンダ・ジャケットの最小限の弱体化を伴うずらしにより達成される。
【0037】
スリット状切抜き穴の数は、摺動面1m
2当たり10個以上、具体的には50個以上、特に好ましくは100個以上である。摺動面の部分は種々の荷重に耐えなければならないので、摺動面1m
2当たりのスリット状切抜き穴の数は可変とすることができる。さらに、スリット状切抜き穴はまた、掃気スリットの領域又はそれらの下方に設けることができる。
【0038】
前述の実施例によるシリンダ内での潤滑油分配のための方法は、特に機械加工によりスリット状切抜き穴を製造するステップを含む。
【0039】
このシリンダは、大型エンジン、好ましくは大型ディーゼル・エンジンで使用され、該大型エンジンは、例えば2サイクル・エンジン又は4サイクル・エンジンであり得る。
【0040】
本発明は、添付図面を参照して、以下にさらに詳細に説明される。