【実施例1】
【0012】
実施例1に係る感震式物品落下防止装置につき、
図1から
図9を参照して説明する。
図1に示される本発明の感震式物品落下防止装置(以下、落下防止装置という)1を装着した物品収納棚(以下、棚という)2は、左右方向に離間する側板4A,4Aと、各側板4A,4Aの上端部の対向面同士を連結している天板4B,4Bと、各側板4A,4Aの互いに対向し合う側面に支持された上下複数段の棚板5と、から成っており、各段の棚板5の上面に書籍15が複数載置されている。落下防止装置1は、後述するように各段の棚板5上面の両端に取付けられている。尚、本実施例において落下防止装置1は、書棚に取付けられる態様で説明するが、これに限らず例えば商品を陳列するための什器等に取付けて利用されてもよい。以下、棚2の正面視を基準に上下、左右及び前後方向として説明する。
【0013】
図2及び
図3に示すように、落下防止装置1は、側面視略矩形をなす左右1対の支持体7,7と、ストッパー部材6とを備えており、ストッパー部材6は、両支持体7の内部より前端部が突出する左右1対のアーム部8,8と、両アーム部8の前端部の対向面に左右両端が固着された横杆部9とを備えている。
【0014】
左右の各支持体7は、平板状の外側板7Aと、それとほぼ同じ大きさで対向する内側板7Bとを備えている。外側板7Aは上下端部が内側に屈曲されて上部屈曲部11及び下部屈曲部14が形成されてスペーサをとして機能するようになっており、これら上部屈曲部11及び下部屈曲部14に、内側板7Bの対向面を当接させ、複数のボルト・ナット13,13,…を、各留穴(図示せず)を介してそれぞれ螺合させることにより、外側板7Aと内側板7Bとは、それらの対向面間に所要の空間が形成されるようにして連結されている。
【0015】
支持体7,7の内部には、横杆部9を昇降させるための各種の部材が組み込まれている。尚、以下の説明においては、
図2における画面右側の支持体7の構造を説明し、他方の支持体7の説明を省略する。
【0016】
図3(a)に示されるように、上述したアーム部8は、支持体7における上下方向中央よりやや上方側に配置されるとともに、後端部8aを枢軸16により外側板7Aに対して軸支されており、枢軸16を支点として上下方向に回動し得るようになっている。
【0017】
内側板7Bは、前記下部屈曲部14とアーム部8の中央下端部8bとに架けて支持部としての巻バネ20が配置され、巻バネ20の下端は、下部屈曲部14の上面14aにボルト21により固定されている。また巻バネ20が伸長せずに鉛直線上に配置された状態では、巻バネ20を形成する線材が隙間の無い筒状を構成することから、巻バネ20のアーム部8の中央下端部8b側で受ける前記ストッパー部材の荷重(移動力のベクトルX)を広い筒断面で安定して支持できるようになっている。
すなわちアーム部8は、前記中央下端部8bが荷重点となっており、巻バネ20を介して下部屈曲部14の上面14aに支持されている。また、アーム部8の荷重点(中央下端部8b)と下部屈曲片上面14aのボルト21とが同じ鉛直線上に配置されており、支持体7が水平状態である場合にストッパー部材6の荷重(移動力のベクトルX)が巻バネ20を介して下部屈曲部14によりバランスよく支持されることになる。
【0018】
図3(a)及び(b)に示されるように、内側板7Bには、感震移動部としての振り子部材30,30’が巻バネ20の前後に軸支されている。振り子部材30,30’は、棒状部31と、その下方端に固定されたウエイト部32とからなり、この棒状部31の上方端が内側板7Bに対して固定された軸部33,33にそれぞれ枢支されていることにより、この軸部33を支点として前後方向Yに揺動し得るとともに、平常時は自重により垂直に垂下するようになっており、これら振り子部材30,30’と軸部33,33とにより感震作動手段3が構成されている。尚、振り子部材30’は、振り子部材30と同一構成であるため説明を省略する。
【0019】
次に、上記実施例の落下防止装置1の作用及び使用方法について
図4及び
図5を用いて説明する。
地震等の所定以上の揺れにより、棚2が前方向に振動した場合、
図4(a)に示すように、書籍15が後方側の下方角部15Bを中心として後方側に倒れこむようになるとともに、振り子部材30,30’のウエイト部32,32’がその場に残るようして振り子部材30,30’が同調した状態で後方向に振れることになる。これにより、巻バネ20前方側に配置された振り子部材30の規制解除部32aが巻バネ20の前方側中央部に衝突する。
【0020】
図4(b)に示されるように、巻バネ20は規制解除部32aの衝突により巻バネ20の一部が屈折変形し、ストッパー部材6の移動力のベクトルXが異なる方向にそれぞれ分断される。これにより、支持部である巻バネ20による支持機能が喪失する。こうして巻バネ20による支持力を失ったストッパー部材6は、
図5に示されるように、自重で枢軸16を支点として回動し、横杆部9が下方向に回動される。下部屈曲部14は、下方向に回動するアーム部8が当接して回動規制される規制部として機能するようになっており、これによれば、横杆部9が書籍15の上端よりも低い所定の高さで安定し、地震などの揺れによる書籍15の前方方向への飛び出しを防止できる。
【0021】
また、上記したように棚2が前方向へ動かされるような揺れが働いた場合、書籍15が自然状態の所定位置より後方側に移動するタイミングで感震作動手段3が作動し、横杆部9が下方向に回動されることになるため、横杆部9をその回動軌道上に書籍15が存在しない状態で回動させることができ、横杆部9が書籍15に接触しづらくなり、書籍15の落下を防止することができる。
【0022】
また、棚2が後方向に振動した場合、
図6(a)に示されるように、書籍15が前方側の下方角部15Aを中心として前方側に倒れこむようになるとともに、振り子部材30,30’のウエイト部32,32’がその場に残るようして振り子部材30,30’が同調した状態で前方向に振れることになる。これにより、巻バネ20の後方側に設置された振り子部材30’のウエイト部32’が前方向に揺動され、規制解除部32a’が巻バネ20の後方側中央部に衝突するようになるため、
図6(b)に示されるように、巻バネ20による支持力を失われ、ストッパー部材6が作動される。また、ストッパー部材6が作動されると、アーム部8の回動により巻バネ20が後方側に屈曲するようになり、その巻バネ20の屈曲により振り子部材30’が後方側に押し戻される。
【0023】
このように、地震などによる揺れの方向にかかわらず所定量以上の揺れであれば、巻バネ20の前後に配置された規制解除部32a,32a’が巻バネ20の前方側または後方側の何れかに力を加え、巻バネ20を屈曲または屈折させるように機能し、巻バネ20によるストッパー部材6の規制を解除可能な構造であるため、地震等の揺れ方向に関わらず確実に書籍15等の物品の落下を防止することができる。
【0024】
続いて、落下防止装置1を作動待機状態に復帰させる場合を
図7を用いて説明する。落下防止装置1の管理者は、
図7(a)及び(b)に示されるように、作動後に下方に下がった状態の横杆部9を巻バネ20が伸長する所定の高さまで一旦上方に押し上げ、手を離す。巻バネ20は、一旦伸長したのち自らの復元力により自然状態の直線形状に戻り、ストッパー部材6が巻バネ20を介して下部屈曲部14の上面14aに、その荷重が支持される。巻バネ20は、伸長したのち自然状態に戻る際に、自らの形状復帰によりストッパー部材6の荷重点(アーム部8中央下端部8b)と下部屈曲片上面14aとを相対的に引き合わせるように作用し、ストッパー部材6の荷重点と下部屈曲片上面14aのボルト21とを同じ鉛直線上に位置するように案内し、ストッパー部材6の荷重が安定する作動待機状態に復帰させることができる。
【0025】
また、
図3に示されるように、作動待機状態において、振り子部材30のウエイト部32と巻バネ20とが若干離間するように配置されているため、書籍15等の物品が落下しない程度の揺れや衝撃による規制解除部32aまたは32a’の巻バネ20への衝突を防止でき、落下防止装置1の誤作動を防止することができる。
【0026】
また、ストッパー部材6の支持部である巻バネ20は線材が筒状を呈することから、ストッパー部材6に与えられた移動力のベクトルXに対して異なる方向から加わる力に対しては巻バネ20が線材であることから屈折し易い。そのため、横杆部9の回動軌道上に書籍15が存在しない状態、即ちウエイト部32が棚2の後方向に移動する際において、即座にストッパー部材6及び横杆部9を移動させて物品の落下を防止することができる。
【0027】
また、振り子部材30,30’は、巻バネ20に対して前方側及び後方側にそれぞれ配置されるため、前方側及び後方側に配置される両振り子30,30’の振動周期、重りの重量、回転軸の位置などを個別に設定できるため、規制解除条件の自由度が増す。
例えば、前述したように、棚2が前方向へ動かされるような揺れが働いた場合には、振り子30の規制解除部32aが巻バネ20へ衝突し、横杆部9を書籍15に接触させずに回動させることができるため、感震作動手段3は前方向へ動かされるような揺れのタイミングで作動させることが望ましい。そのため、振り子30’の規制解除部32a’と巻バネ20との距離を振り子30の規制解除部32aと巻バネ20との距離よりも離すように設計する。これによれば、初動時期の揺れにおいて棚2が前方向へ動かされ、書籍15が落下してしまうような大きな揺れが働いた場合にのみ、規制解除部32a’が巻バネ20に衝突するようにし、横杆部9を書籍15に極力接触させずに回動させて確実に書籍15の落下を防止することができる。
【0028】
尚、前記実施例において巻バネ20は、アーム部8の荷重を受けている状態で巻バネ20を構成する線材同士が上下方向に当接するようなバネを利用する態様で説明されているが、これに限らず、アーム部8の荷重を受けている状態で巻バネ20を構成する線材間が離間するようなバネを用いてもよい。更に、巻バネ20は、螺旋バネに限らず、線材を三角,四角等の角形状に巻いて形成されたものであってもよいし、巻バネ20は圧縮コイルバネでも引張コイルバネのどちらでもよい。
【0029】
更に尚、ストッパー部材6を支持する支持部は、ストッパー部材6に与えられた移動力のベクトルXに対しては固定的にストッパー部材6を支持するとともに、前記移動力のベクトルXに対して異なる方向から加わる力によって移動力のベクトルXが異なる方向に分断されるような構造であれば前述した巻バネ20に限らない。
【実施例2】
【0030】
次に、実施例2に係る感震式物品落下防止装置につき、
図8ないし
図10を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する説明を省略する。
【0031】
図8に示されるように、振り子部材30は、軸部33の配置位置が前記実施例の配置位置よりも若干低い位置に内側板7Bに対して固定されており、振り子部材30’は、軸部33’の配置位置が前記実施例の配置位置よりも若干高い位置に内側板7Bに対して固定されている。つまり、振り子部材30,30’は、互いのウエイト部32,32’が高さ方向にずれて配置されている。
【0032】
図9(a)に示されるように、棚2が前方向に振動した場合、振り子部材30の規制解除部32aが巻バネ20の前方側下部に衝突するようになっているとともに、
図9(b)に示されるように、棚2が後方向に振動した場合、振り子部材30’の規制解除部32a’が巻バネ20の後方側上部に衝突するようになっている。
【0033】
また、地震等の揺れは、前後に揺れるだけでなく上下または左右にランダムに揺れる場合があり、規制解除部32a,32a’が巻バネ20に衝突する所定以上の揺れが、棚2に対して様々な方向からかかった場合、振り子部材30,30’が揺動方向が同調せずに異なる方向に揺動することがある。例えば、
図10に示されるように、棚2が様々な方向から所定以上の振動を受け、振り子部材30,30’のウエイト部32,32’が互いに巻バネ20に向けて揺動することがある。この場合、上記したように振り子部材30,30’は、互いのウエイト部32,32’が高さ方向にずれて配置されていることから、振り子部材30の、規制解除部32aが巻バネ20の前方側下部に衝突し、振り子部材30’の、規制解除部32a’が巻バネ20の後方側上部に衝突するようになる。したがって、規制解除部32a,32a’同士が巻バネ20を挟んだ前後両側で衝突し合うことがなく、振り子部材30,30’同士が干渉しないようになっているため、誤動作を防止できる。
【0034】
尚、本実施例では、同一形状の一対の振り子部材30,30’を用いた態様について説明したが、例えば、各棒状部の長さをそれぞれ異なる長さにして、各振り子部材の揺動半径がそれぞれ異なるようにすることにより、各規制解除部32a,32a’が巻バネ20に対して衝突する高さ位置を変更させてもよい。
【0035】
更に尚、感震作動手段の変形例として次のようなものもある。
図11に示されるように、感震作動手段3’を構成する振り子部材301は、巻バネ20の前後に垂直に延びる棒状部311,312上端に架設された架設部341と、を備え、樹脂や金属等の素材により一体成形されている。棒状部311,312は、それぞれ所定の重さを有して架設部341を回動中心として水平に均衡するようになっている。また棒状部311,312は、それぞれ巻バネ20の前後に衝突する規制解除部321,322を有している。この振り子部材301の架設部341は、アーム部8の荷重点(中央下端部8b)から直上から水平に延びる軸部81に枢支されている。
【0036】
振り子部材301は、上述した各種部位が一体成形されていることから、
図12(a)及び(b)に示されるように、振り子部材301が揺れを受けると、棒状部311,312及びウエイト部321,322が一体的に軸部81を支点として前後方向に揺動するようになっているため、揺動時において2つの規制解除部321,322が巻バネ20に衝突するタイミングがそれぞれ異なり、各規制解除部321,322同士の衝突を防止できるばかりか、構造を簡素化できる。
【実施例3】
【0037】
次に、実施例3に係る感震式物品落下防止装置につき、
図13及び
図14を参照して説明する。尚、前記実施例と同一構成で重複する説明を省略する。
【0038】
図13(a)に示される感震式物品落下防止装置10は、感震作動手段3”を構成する振り子部材300がアーム部8が軸支される枢軸16に対して吊支部材55により吊支されているとともに、振り子部材300から延びる囲繞部材60が巻バネ20の周囲近傍を囲むようにして配置されている。また、吊支部材55は、枢軸16に対して前後方向に回動可能な第1リング部56と、第1リング部56に対して左右方向に回動可能な第2リング部57とからなっており、振り子部材300は地震等における前後方向及び左右方向の揺れに対してそれぞれ揺動可能となっている。
【0039】
図13(b)に示されるように、囲繞部材60は、前方端に巻バネ20よりも大径に形成されたリング状部60aを備えており、感震式物品落下防止装置10の作動待機状態のリング状部60aには、巻バネ20がリング状部60aの内周面から所定間隔離間した状態で挿通可能となっている。
【0040】
図14(a)に示されるように、地震等の所定以上の揺れにより、棚2が前方向に振動した場合、ウエイト部320が後方向に揺動され、振り子部材300から延びる囲繞部材60のリング状部60aの前端側60bが巻バネ20の前方側に衝突する。囲繞部材60のリング状部60aの前方端の衝突により巻バネ20の一部が屈折変形し、ストッパー部材6の移動力のベクトルXが異なる方向にそれぞれ分断される。これにより、支持部である巻バネ20による支持機能が喪失し、横杆部9が下方向に回動されるようになっている。なお、特に図示しないが、棚2が左右方向に振動した場合も、上記と同様に、ウエイト部320が左右方向に揺動され、振り子部材300から延びる囲繞部材60の棒状体の左右部分が巻バネ20に衝突することで、巻バネ20による支持機能が喪失し、横杆部9が下方向に回動される。
【0041】
また、
図14(b)に示されるように、棚2が後方向に振動した場合、ウエイト部320が前方向に揺動され、振り子部材300から延びる囲繞部材60のリング状部60aの後端側60cが巻バネ20の後方側に衝突するようになっている。
このように囲繞部材60のリング状部60aで巻バネ20が囲まれていることにより、地震等の所定以上の揺れにより棚2が前後方向のどちらかに振動した場合であっても、リング状部60aの前端側60bまたは後端側60cが巻バネ20に衝突して巻きバネ20を屈曲させる規制解除部として機能し、物品の落下を防止することができる。
【0042】
尚、上記実施例3では、囲繞部材60は感震作動手段3”を構成する振り子部材300から延びるようにして設けられていたが、これに限られず、例えば
図15に示されるように、巻きバネ20を囲繞するように所定の重さを有した棒状体により囲繞部610及びアーム部620を形成してもよい。これによれば、棒状体の重さによりウエイトとしての感震移動機能を有するとともに、囲繞部610により巻バネ20に衝突する規制解除部として前端部610aおよび後端部610bを一体的に形成できるため、部品点数を減らすことができる。
【0043】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0044】
例えば、前記実施例では、巻バネ20の前後に振り子部材を1つずつ配置する態様について説明したが、これに限られず、巻バネ20の上下方向に沿って複数の打点を有するように、巻バネ20の前後に振り子部材を複数設けても構わない。
【0045】
また、上述した実施例では、感震作動手段にウエイトを備えた振り子部材を用いて説明したが、感震機能とストッパー部材6の移動力のベクトルXを分断する機能とを有する構成であれば、その構造は振り子部材に限定されるものではなく、例えば支持体7内に底面を設け、その上でウエイトが直接水平移動するようにしてもよいし、感震により作動するピストンを用いて支持部におけるストッパー部材6の移動力のベクトルXを分断せしめるようにしてもよい。
【0046】
また、ストッパー部材6の移動力は、ストッパー部材6の荷重に限らず、例えばスプリングなどの付勢手段によるものでもよい。
【0047】
また、物品の落下を防止する横杆部は棒状の部材に限らず、例えば落下防止機能の作動時に各棚板5の前面を覆うようなカバー部材としてもよい。更に、物品の高さ等の形状に合わせて横杆部の作動後の所定位置(高さ等)を調整可能としてもよい。