特許第6194222号(P6194222)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194222
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】静電荷像現像用トナーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G03G 9/087 20060101AFI20170828BHJP
   C08G 63/16 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G03G9/08 381
   G03G9/08 331
   C08G63/16
【請求項の数】7
【全頁数】38
(21)【出願番号】特願2013-216196(P2013-216196)
(22)【出願日】2013年10月17日
(65)【公開番号】特開2015-79124(P2015-79124A)
(43)【公開日】2015年4月23日
【審査請求日】2016年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100131635
【弁理士】
【氏名又は名称】有永 俊
(72)【発明者】
【氏名】吉田 友秀
【審査官】 野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−134488(JP,A)
【文献】 特開2011−064867(JP,A)
【文献】 特開2011−128434(JP,A)
【文献】 特開2012−022088(JP,A)
【文献】 特開2010−072215(JP,A)
【文献】 特開2011−081241(JP,A)
【文献】 特開2010−276719(JP,A)
【文献】 特開2011−053494(JP,A)
【文献】 特開2013−025258(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 9/00 − 9/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上である結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子と、を含む凝集体Xを、水系媒体中で得る工程I、及び
前記凝集体Xを融着する工程II、を有する、静電荷像現像用トナーの製造方法であって、
前記第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーが、フマル酸及びイソフタル酸から選ばれる1つ以上であり、
結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖内部を形成するカルボン酸モノマーの70モル%以上が飽和脂肪族ジカルボン酸であり、
前記飽和脂肪族ジカルボン酸が、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びドデカン二酸から選ばれる1つ以上である、静電荷像現像用トナーの製造方法
【請求項2】
非晶質ポリエステル系樹脂(B)のポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上である、請求項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項3】
工程Iが、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子を水系媒体中に分散させてなる水系分散体(a)と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を水系媒体中に分散させてなる水系分散体(b)を使用するものである、請求項1又は2に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項4】
水系分散体(a)が、結晶性ポリエステル(A)に水系媒体を添加し、転相乳化する工程を含む方法によって得られるものである、請求項に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項5】
水系分散体(a)が、結晶性ポリエステル(A)及び有機溶媒を混合して混合物を得る工程(工程1)、この混合物に水系媒体を添加し、転相乳化して樹脂粒子の粗製分散体を得る工程(工程2)、この粗製分散体から有機溶媒を留去して樹脂粒子の水系分散体を得る工程(工程3)、を含む方法によって得られるものである、請求項又はに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項6】
結晶性ポリエステル(A)が、前駆体結晶性ポリエステルと第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを反応させる工程を含む製造方法を経て得られるものである、請求項1〜のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【請求項7】
工程Iは、前記結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を、前記水系媒体中で凝集させて、コア用凝集体xを得る工程Iaと、前記水系媒体中に更にシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を混合し、前記コア用凝集体x及び前記非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を凝集させて、前記凝集体Xを得る工程Ibと、を有する、請求項1〜のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、静電荷像現像用トナーの製造方法、及びその方法によって得られる静電荷像現像用トナーに関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真の分野においては、電子写真システムの発展に伴い、高画質化及び高速化に対応した電子写真用のトナーの開発が要求されている。
高画質化に対応して、粒径分布が狭く、小粒径のトナーを得る方法として、微細な樹脂粒子等を水系媒体中で凝集、融着させてトナーを得る、凝集合一法(乳化凝集法又は凝集融着法ともいう)によるトナーの製造が行われている。バインダー樹脂には、低温定着性に優れたポリエステル樹脂が用いられ、複数の性能を同時に満たすために、複数の樹脂を混合して用いることも検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、帯電度の環境安定性、加重保存安定性の向上を目的として、炭素数2〜10の脂肪族ジオールを含むアルコール成分と、炭素数8〜12の脂肪族ジカルボン酸化合物を含むカルボン酸成分とを縮重合反応に付した後、40℃以下になるまで冷却後、特定の温度で加熱処理して結晶性ポリエステルを得、結晶性ポリエステルを含む水系分散液を得、結晶性ポリエステルを含む水系分散液を、非晶質樹脂を含む水系分散液と混合し、次いで凝集工程に付すことにより凝集粒子の水系分散液を得、合一工程に付すことにより合一粒子の水系分散液を得る工程を有する、トナー用結着樹脂の製造方法が開示されている。
特許文献2には、低温定着性、耐熱保存性、耐ホットオフセット性の向上を目的として、水酸基を有する非晶性ポリエステルとポリイソシアネートを付加させてプレポリマーを
合成し、結晶性ポリエステル、非晶性ポリエステル、プレポリマー、アミノ基を有する化合物、離型剤及び着色剤を含む組成物を有機溶媒中に溶解又は分散させて第一の液を調製し、該第一の液を、樹脂粒子を含む水系媒体中に乳化又は分散させて第二の液を調製し、該第二の液から前記有機溶媒を除去して第一の粒子を含む液を調製し、該第一の粒子を含む液を熟成して第二の粒子を含む液を調製し、前記水酸基を有する非晶性ポリエステル、前記プレポリマー、前記第一の粒子、前記第二の粒子が特定の条件を満たすことを特徴とする、結晶性ポリエステル、非晶性ポリエステル、ウレア変性ポリエステル、離型剤及び着色剤を含むトナーの製造方法が開示されている。
【0004】
特許文献3には、低温定着性、耐熱保存性の向上を目的として、ポリエステル樹脂(a)を90重量%以上含む樹脂を含有する樹脂粒子(A)、ワックスと軟化点が75〜105℃であるポリエステル樹脂(b)とを重量比95/5〜55/45で含有する離型剤粒子、及び凝集剤を、水性媒体中で混合して凝集粒子(1)を得、凝集粒子(1)に、シェルとなるポリエステル樹脂(c)を含有する樹脂粒子(B)を混合して、凝集粒子(2)を得、凝集粒子(2)を構成する粒子を融着して、コアシェル粒子を得る工程を含む静電潜像現像用トナーの製造方法が開示されている。
特許文献4には、低温定着特性、耐熱保管性、定着分離性能の向上、及びドキュメントオフセットの抑制を目的として、結着樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂とスチレン−アクリル系樹脂を含有し、結着樹脂が該結晶性ポリエステル樹脂を5質量%以上30質量%以下含有し、該スチレン−アクリル系樹脂が構成成分としてメチルメタクリレート由来の構造単位を該結着樹脂とワックスの合計に対して、1質量%以上10質量%以下含有し、シェル層を構成する樹脂がスチレン−アクリル変性ポリエステル樹脂を含有する、結着樹脂とワックスを含有して成るコア粒子と該コア粒子を被覆して成るシェル層とを有するコア・シェル構造の静電荷像現像用トナーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−107341号公報
【特許文献2】特開2012−189967号公報
【特許文献3】特開2012−128024号公報
【特許文献4】特開2012−255957号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電子写真印刷の高速化に伴い、印刷時には少ないエネルギーで定着する必要があり、そのため、用いられるトナーには低温での定着性が求められている。低温定着性を高めるために、融点の低い結晶性樹脂を用いる試みがなされているが、トナーの高温での保存性、いわゆる耐熱保存性の低下が問題となっている。特に、結晶性樹脂と非晶質樹脂が相溶すると、耐熱保存性はより悪化する。
結晶性樹脂の結晶性を維持するためには、同時に用いられる非晶質樹脂と相溶させないことが必要である。しかし、結晶性樹脂がトナー中で偏在すると、トナー表面への露出が起きやすいためか、帯電性が悪化するという問題がある。
本発明の課題は、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れる静電荷像現像用トナーを得ることができる静電荷像現像用トナーの製造方法、及び当該製造方法により得られる静電荷像現像用トナーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性を左右する要因は、トナー中の樹脂の分散状態にあると考え、検討を行った。その結果、特定の結晶性ポリエステルを含有する樹脂粒子と、非晶質ポリエステルを含有する樹脂粒子を凝集し、融着させることにより、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れる静電荷像現像用トナーを得ることができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の〔1〕及び〔2〕を提供する。
〔1〕ポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上である結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子と、を含む凝集体Xを、水系媒体中で得る工程I、及び前記凝集体Xを融着する工程II、を有する、静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔2〕上記の製造方法によって得られる、静電荷像現像用トナー。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れる静電荷像現像用トナーを得ることができる静電荷像現像用トナーの製造方法、及びその方法によって得られる静電荷像現像用トナーを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[静電荷像現像用トナーの製造方法]
本発明の静電荷像現像用トナーの製造方法は、ポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上である結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子と、を含む凝集体Xを、水系媒体中で得る工程I、及び前記凝集体Xを融着する工程II、を有する。
以下、「静電荷像現像用トナー」のことを単に「トナー」ということがある。
【0011】
本発明の製造方法によって得られた静電荷像現像用トナーが、低温定着性、耐熱保存性、帯電性が優れる理由は定かではないが、次のように考えられる。
本発明の製造方法においては、結晶性ポリエステルを含有する樹脂粒子と非晶質ポリエステルを含有する樹脂粒子を水系媒体中で凝集、融着してトナーを得る。
本発明に用いられる結晶性ポリエステル(A)は、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上である結晶性ポリエステルである。また、非晶質ポリエステル(B)は、モノマーが二重結合を有するものなどからなり、ポリエステル鎖末端のカルボキシ基の第二解離定数が低いと考えられ、凝集体を形成する際に、本発明に用いられる結晶性ポリエステル(A)と凝集性が近く、均一に凝集するものと考えられる。このため、結晶性ポリエステル(A)の偏在が起きず、融着の加熱時におけるトナー表面への露出も起きにくいため、耐熱保存性、帯電性が良好であると考えられる。また、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子はそれのみで結晶性を保っているため、一定の結晶の大きさが維持でき、低温定着性も優れるものと考えられる。
【0012】
<工程I>
工程Iは、ポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上である結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子と、を含む凝集体Xを、水系媒体中で得る工程である。
【0013】
工程Iは、前記結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を、前記水系媒体中で凝集させて、コア用凝集体xを得る工程Iaと、前記水系媒体中に更にシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を混合し、前記コア用凝集体x及び前記非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を凝集させて、前記凝集体Xを得る工程Ibと、を有していてもよい(工程Iの第1態様)。このようにして得られる凝集体Xを用いて、後述する工程IIを実施することにより、コア用凝集体に由来する部分をコア、シェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子に由来する部分をシェルとする、コアシェル構造のトナーを得ることができる。
【0014】
また、上記工程Ibは省略してもよい。すなわち、工程Iは、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を、前記水系媒体中で凝集させて、凝集体Xを得る工程を有していてもよい(工程Iの第2態様)。このようにして得られる凝集体Xを用いて、後述する工程IIを実施することにより、単一構造、すなわち非コアシェル構造のトナーを得ることができる。
以下、工程Iの第1態様について説明するが、工程Iの第2態様は、工程Iの第1態様において、工程Ibを省略したものである。
【0015】
(結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子)
結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子は、結晶性ポリエステル(A)を含有する。
【0016】
この結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲内で結晶性ポリエステル(A)以外の成分を含有してもよいが、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れる静電荷像現像用トナーを得る観点から、結晶性ポリエステル(A)以外の成分は含有しないことが好ましい。結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子中における結晶性ポリエステル(A)の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%、より更に好ましくは99〜100質量%であり、より更に好ましくは実質的に100質量%である。
【0017】
本発明において、結晶性ポリエステル(A)等の樹脂の結晶性は、軟化点と示差走査熱量計(DSC)による吸熱の最大ピーク温度との比、即ち、「軟化点/吸熱の最大ピーク温度」で定義される結晶性指数によって表される。一般に、この結晶性指数が1.4を超えると樹脂は非晶質であり、0.6未満では結晶性が低く非晶質部分が多い。本発明において、「結晶性」の樹脂とは、結晶性指数が0.6〜1.4、好ましくは0.8〜1.2、更に好ましくは0.9〜1.1である樹脂をいい、「非晶質」の樹脂とは、結晶性指数が1.4を超えるか、0.6未満の樹脂をいう。
上記の「吸熱の最大ピーク温度」とは、実施例に記載する測定方法の条件下で観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度のことを指す。最大ピーク温度が軟化点と20℃以内の差であれば、最大ピーク温度を結晶性樹脂(結晶性樹脂)の融点とし、軟化点との差が20℃を超えるピークは非晶質樹脂のガラス転移に起因するピークとする。
樹脂の結晶性は、原料モノマーの種類とその比率、及び製造条件(例えば、反応温度、反応時間、冷却速度)等により調整することができる。
【0018】
この結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子の体積中位粒径は、凝集の容易性の観点、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは120nm以上、より更に好ましくは150nm以上であり、また、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは195nm以下である。
この結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子は、結晶性ポリエステル(A)に水系媒体を添加し、転相乳化することにより好適に製造することができる。
【0019】
≪結晶性ポリエステル(A)≫
結晶性ポリエステル(A)は、ポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上である樹脂である。
本発明に用いられる結晶性ポリエステル(A)の軟化点は、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上、より更に好ましくは79℃以上、より更に好ましくは80℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下、より更に好ましくは85℃以下、より更に好ましくは82℃以下である。
また、本発明に用いられる結晶性ポリエステル(A)の融点は、同様の観点から、好ましくは55℃以上、より好ましくは60℃以上、更に好ましくは70℃以上、より更に好ましくは75℃以上、より更に好ましくは76℃以上であり、また、好ましくは95℃以下、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは85℃以下、より更に好ましくは80℃以下である。
【0020】
結晶性ポリエステル(A)の酸価は、同様の観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上、より更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、また、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは35mgKOH/g以下、更に好ましくは30mgKOH/g以下、より更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
なお、軟化点、融点、及び酸価は、原料モノマー組成、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0021】
この結晶性ポリエステル(A)は、カルボン酸とアルコールとを重合してなる結晶性ポリエステル部分のみからなる結晶性ポリエステルであっていてもよく、本発明の効果を阻害しない程度に非晶質部分等の他の部分を有していてもよい。結晶性ポリエステル(A)のうち、カルボン酸とアルコールとを重合してなる結晶性ポリエステル部分の含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは99モル%以上である。
【0022】
[樹脂のポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、pKa2が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合]
結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合は、70モル%以上である。
当該割合が70モル%未満であると、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得ることができない。当該観点から、当該割合は、好ましくは72モル%以上、より好ましくは75モル%以上、更に好ましくは78モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下、好ましくは95モル%以下、より好ましくは92モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。なお、当該割合は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0023】
この第二解離定数(pKa2)が5以下のジカルボン酸モノマーとしては、特に制限はないが、カルボキシ基に隣接して不飽和結合を有するジカルボン酸化合物であることが好ましい。当該ジカルボン酸化合物は、不飽和結合を有するため、水系媒体中で非晶質ポリエステルと均一に凝集し、得られるトナーの帯電性、低温定着性、耐熱保存性を向上させるという効果を奏する。
この第二解離定数(pKa2)が5以下のジカルボン酸モノマーとしては、具体的には、好ましくはフマル酸(pKa2:4.4)、テレフタル酸(pKa2:4.8)、イソフタル酸(pKa2:4.5)及びシュウ酸(pKa2:4.2)から選ばれる1つ以上であり、より好ましくはフマル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸から選ばれる1つ以上であり、更に好ましくはフマル酸及びイソフタル酸から選ばれる1つ以上である。
【0024】
結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖末端のカルボキシ基を形成するカルボン酸は、第二解離定数(pKa2)が5よりも大きいカルボン酸モノマーを含んでいてもよい。
この第二解離定数(pKa2)が5よりも大きいカルボン酸モノマーとしては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。また、これらカルボン酸の酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステルであってもよい。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0025】
第二解離定数(pKa2)が5よりも大きい脂肪族ジカルボン酸は、好ましくはアジピン酸(pKa2:5.4)、アゼライン酸(pKa2:5.4)、ドデカン二酸(pKa2:5.4)、コハク酸(pKa2:5.6)、セバシン酸(1,8−オクタンジカルボン酸)(pKa2:5.5)、スベリン酸(pKa2:5.5)イタコン酸(pKa2:5.5)マロン酸(pKa2:5.7)マレイン酸(pKa2:6.1)、シトラコン酸(pKa2:6.2)ドデセニルコハク酸(pKa2:6.7)から選ばれる1つ以上であり、より好ましくはコハク酸及びセバシン酸(1,8−オクタンジカルボン酸)から選ばれる1つ以上である。
第二解離定数(pKa2)が5よりも大きい芳香族ジカルボン酸は、好ましくはフタル酸(pKa2:5.3)である。
結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖末端のカルボキシ基を形成するカルボン酸は、3価以上の多価カルボン酸を含んでいてもよい。
この3価以上の多価カルボン酸は、好ましくはトリメリット酸、ヘミメリット酸から選ばれる1つ以上である。
【0026】
〔ポリエステル鎖内部のカルボキシ基を形成するカルボン酸〕
結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖内部のカルボキシ基を形成するカルボン酸は、70モル%以上が飽和脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。これにより、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得ることができる。当該観点から、結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖内部のカルボキシ基を形成するカルボン酸中における、飽和脂肪族ジカルボン酸の含有量は、より好ましくは72モル%以上、更に好ましくは75モル%以上、より更に好ましくは78モル%以上であり、また、より好ましくは98モル%以下、更に好ましくは90モル%以下、より更に好ましくは85モル%以下である。なお、当該数値は、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0027】
飽和脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸及びドデカン二酸から選ばれる1つ以上が挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が好ましく、コハク酸、アジピン酸及びセバシン酸から選ばれる1つ以上がより好ましく、コハク酸及びセバシン酸から選ばれる1つ以上が更に好ましく、セバシン酸がより更に好ましい。
【0028】
結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖内部のカルボキシ基を形成するカルボン酸は、上記の飽和脂肪族ジカルボン酸以外のカルボン酸を含んでいてもよい。
当該カルボン酸としては、前述の、第二解離定数(pKa2)が5以下のジカルボン酸モノマーが挙げられる。
【0029】
〔カルボン酸〕
結晶性ポリエステル(A)のカルボン酸の総量中における、すなわちポリエステル鎖末端のカルボキシ基を形成するカルボン酸及びポリエステル鎖内部のカルボキシ基を形成するカルボン酸の総量中における、第二解離定数(pKa2)5以下のジカルボン酸モノマーの含有量は、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは1モル%以上、より好ましくは3モル%以上、更に好ましくは5モル%以上、より更に好ましくは10モル%以上であり、また、好ましくは70モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは30モル%以下、より更に好ましくは20モル%以下である。
また、結晶性ポリエステル(A)のカルボン酸の総量中における、飽和脂肪族ジカルボン酸の含有量は、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは30モル%以上、より好ましくは60モル%以上、更に好ましくは70モル%以上、より更に好ましくは80モル%以上であり、また、好ましくは98モル%以下、より好ましくは95モル%以下、更に好ましくは90モル%以下、より更に好ましくは88モル%以下である。
【0030】
〔アルコール〕
結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖を形成するアルコールとしては、特に制限はないが、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
このアルコールは、ポリエステルの結晶性を高める観点から、脂肪族ジオールが好ましい。脂肪族ジオールとしては、同様の観点から、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,11−ウンデカンジオール等が挙げられ、好ましくは1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールであり、より好ましくは1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールであり、更に好ましくは1,10−デカンジオールである。
脂肪族ジオールの含有量は、同様の観点から、アルコール成分中、好ましくは60モル%以上、より好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは90〜100モル%、より更に好ましくは95〜100モル%、より更に好ましくは100モル%である。
【0031】
結晶性ポリエステル(A)の原料モノマーであるアルコール成分100モル部に対するカルボン酸成分の割合は、反応性及び物性調整の観点から、好ましくは90モル部以上、より好ましくは95モル部以上、更に好ましくは98モル部以上、より更に好ましくは100モル部以上であり、また、好ましくは150モル部以下、より好ましくは120モル部以下、更に好ましくは110モル部以下である。
【0032】
≪結晶性ポリエステル(A)の製造方法≫
結晶性ポリエステル(A)は、前駆体結晶性ポリエステルと第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを反応させる工程を含む製造方法を経て得られることが好ましい。これにより、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを、ポリエステル鎖末端に選択的に形成させることができる。
同様の観点から、前駆体結晶性ポリエステルは、カルボン酸成分とアルコール成分との縮重合における反応率が95%以上であることが好ましい。
【0033】
結晶性ポリエステル(A)の製造に際しては、先ず、前駆体結晶性ポリエステルの原料を配合し、好ましくは両原料の反応率が95%以上になるまで縮重合反応(第1の縮重合反応)させ、前駆体結晶性ポリエステルを得る。次いで、この前駆体結晶性ポリエステルに、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを配合し、縮重合反応(第2の縮重合反応)させることにより、結晶性ポリエステル(A)を得ることができる。
ここで、第1の縮重合反応で配合するカルボン酸は、第二解離定数(pKa2)5以下のジカルボン酸モノマーを含んでいてもよい。また、第2の縮重合反応で配合するカルボン酸は、第二解離定数(pKa2)5よりも大きいカルボン酸モノマーを含んでいてもよい。しかし、第1の縮重合反応では、結晶性ポリエステル(A)を構成する結晶性ポリエステルの原料のうち、第二解離定数(pKa2)5以下のジカルボン酸モノマー以外の原料を配合することが好ましい。また、第2の縮重合反応において、結晶性ポリエステル(A)を構成する結晶性ポリエステルの原料のうち、第二解離定数(pKa2)5以下のジカルボン酸モノマーを配合するのが好ましい。
【0034】
なお、第1の縮重合反応のときに、エステル化触媒を配合してもよく、更にエステル化助触媒を配合してもよい。また、第2の縮重合反応のときに、重合禁止剤を配合してもよい。
第1の縮重合反応の反応温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、また、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
第2の縮重合反応の反応温度は、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、また、好ましくは250℃以下、より好ましくは240℃以下、更に好ましくは230℃以下である。
【0035】
〔エステル化触媒〕
上記縮重合に好適に用いられるエステル化触媒としては、チタン化合物及びSn−C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0036】
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−O結合を有する錫(II)化合物、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく挙げられ、Sn−O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、中でも、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)が更に好ましい。
【0037】
上記エステル化触媒の存在量は、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、結晶性ポリエステル(A)のアルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上、より更に好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0038】
〔エステル化助触媒〕
エステル化助触媒は、用いなくてもよいが、用いてもよい。エステル化助触媒としては、ピロガロール化合物が好ましい。このピロガロール化合物は、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するものであり、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、反応性の観点から、没食子酸が好ましい。
【0039】
〔重合禁止剤〕
重合禁止剤は、特に制限はないが、4−t−ブチルカテコールが好ましい。
【0040】
(非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子)
非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲内で非晶質ポリエステル(B)以外の成分を含有してもよいが、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れる静電荷像現像用トナーを得る観点から、非晶質ポリエステル(B)以外の成分は含有しないことが好ましい。非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子中における非晶質ポリエステル(B)の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%、より更に好ましくは99〜100質量%であり、より更に好ましくは実質的に100質量%である。
【0041】
この非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子の体積中位粒径は、凝集の容易性の観点、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは80nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは120nm以上、より更に好ましくは140nm以上であり、また、好ましくは250nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは160nm以下、より更に好ましくは150nm以下である。
この非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子は、非晶質ポリエステル(B)に水系媒体を添加し、転相乳化することにより好適に製造することができる。
【0042】
≪非晶質ポリエステル(B)≫
非晶質ポリエステル(B)の軟化点は、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上、更に好ましくは80℃以上、より更に好ましくは82℃以上、より更に好ましくは83℃以上であり、また、好ましくは120℃以下、より好ましくは110℃以下、より好ましくは105℃以下、更に好ましくは100℃以下、より更に好ましくは95℃以下、より更に好ましくは90℃以下である。
また、本発明に用いられる非晶質ポリエステル(B)のガラス転移温度は、同様の観点から、好ましくは25℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは35℃以上、より更に好ましくは40℃以上であり、また、好ましくは70℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは55℃以下、より更に好ましくは50℃以下である。
【0043】
非晶質ポリエステル(B)の酸価は、同様の観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上、より更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、また、好ましくは35mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下、より更に好ましくは20mgKOH/g以下である。
なお、軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、原料モノマー組成、分子量、触媒量等の調整又は反応条件の選択により容易に調整することができる。
【0044】
この非晶質ポリエステル(B)は、カルボン酸とアルコールとを重合してなる非晶質ポリエステル部分のみからなる非晶質ポリエステルであっていてもよく、本発明の効果を阻害しない程度に結晶性部分等の他の部分を有していてもよい。非晶質ポリエステル系樹脂(B)のうち、カルボン酸とアルコールとを重合してなる非晶質ポリエステル部分の含有量は、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、更に好ましくは95モル%以上、より更に好ましくは99モル%以上である。
【0045】
〔カルボン酸〕
非晶質ポリエステル(B)のカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の一方又は双方を含むことが好ましく、双方を含むことがより好ましい。また、これらカルボン酸の酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステルであってもよい。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0046】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸、が挙げられる。これらの中でも、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、テレフタル酸が好ましい。
芳香族ジカルボン酸の含有量は、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、カルボン酸成分中、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、更に好ましくは25モル%以上であり、また、好ましくは45モル%以下、より好ましくは40モル%以下、更に好ましくは35モル%以下である。
脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸を含有することが好ましい。
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸(1,10−デカンジカルボン酸)が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の例には、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等の炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸も含まれる。これらの中でも、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、フマル酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が好ましく、フマル酸及びドデセニルコハク酸がより好ましい。
【0047】
脂肪族ジカルボン酸の含有量は、同様の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、更に好ましくは60モル%以上、より更に好ましくは65モル%以上であり、また、好ましくは90モル%以下、より好ましくは85モル%以下、更に好ましくは80モル%以下、より更に好ましくは75モル%以下である。
【0048】
〔ポリエステル鎖末端のカルボキシ基を形成するカルボン酸〕
非晶質ポリエステル(B)は、ポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上であることが好ましい。これにより、非晶質ポリエステル(B)と結晶性ポリエステル(A)との凝集性が近くなり、均一に凝集する。そのため、結晶性ポリエステルの偏在が起きず、融着の加熱時におけるトナー表面への露出も起きにくいため、耐熱保存性、帯電性が良好になるものと考えられる。
当該観点から、当該割合は、好ましくは72モル%以上、より好ましくは75モル%以上、更に好ましくは78モル%以上であり、また、好ましくは95モル%以下、より好ましくは92モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である。
【0049】
この第二解離定数(pKa2)が5以下のジカルボン酸モノマーとしては、特に制限はないが、カルボキシ基に隣接して不飽和結合を有するジカルボン酸化合物であることが好ましい。当該ジカルボン酸化合物は、不飽和結合を有するため、水系媒体中で本発明の結晶性ポリエステルと均一に凝集し、得られるトナーの帯電性、低温定着性、耐熱保存性を向上させる効果を奏する。
この第二解離定数(pKa2)が5以下のジカルボン酸モノマーとしては、具体的には、好ましくはフマル酸(pKa2:4.4)、テレフタル酸(pKa2:4.8)、イソフタル酸(pKa2:4.5)及びシュウ酸(pKa2:4.2)、から選ばれる1つ以上であり、より好ましくはフマル酸、テレフタル酸及びイソフタル酸から選ばれる1つ以上であり、更に好ましくはフマル酸及びテレフタル酸から選ばれる1つ以上である。
【0050】
非晶質ポリエステル(B)のポリエステル鎖末端のカルボキシ基を形成するカルボン酸は、第二解離定数(pKa2)が5よりも大きいカルボン酸モノマーを含んでいてもよい。
この第二解離定数(pKa2)が5よりも大きいカルボン酸モノマーとしては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸が好ましい。また、これらカルボン酸の酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステルであってもよい。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0051】
第二解離定数(pKa2)が5よりも大きい脂肪族ジカルボン酸は、好ましくはドデセニルコハク酸(pKa2:6.7)、コハク酸(pKa2:5.6)、セバシン酸(1,8−オクタンジカルボン酸)(pKa2:5.5)、マレイン酸(pKa2:6.1)、アジピン酸(pKa2:5.4)、アゼライン酸(pKa2:5.4)、ドデカン二酸(pKa2:5.4)、スベリン酸(pKa2:5.5)イタコン酸(pKa2:5.5)マロン酸(pKa2:5.7)、シトラコン酸(pKa2:6.2)から選ばれる1つ以上であり、より好ましくはドデセニルコハク酸、コハク酸及びセバシン酸(1,8−オクタンジカルボン酸)から選ばれる1つ以上であり更に好ましくはドデセニルコハク酸である。
第二解離定数(pKa2)が5よりも大きい芳香族ジカルボン酸は、好ましくはフタル酸(pKa2:5.3)である。
非晶質ポリエステル(B)のポリエステル鎖末端のカルボキシ基を形成するカルボン酸は、3価以上の多価カルボン酸を含んでいてもよい。
この3価以上の多価カルボン酸は、好ましくはトリメリット酸、ヘミメリット酸から選ばれる1つ以上である。
【0052】
〔アルコール〕
非晶質ポリエステル(B)のポリエステル鎖を形成するアルコールとしては、特に制限はないが、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられる。これらのアルコールは、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
このアルコールは、ポリエステルの非晶質性を高める観点から、芳香族ジオールを含有することが好ましく、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有することがより好ましく、下記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物であることが更に好ましい。
【0053】
【化1】
【0054】
(式中、Rは、炭素数2又は3のアルキレン基を示す。x及びyはアルキレンオキシ基の平均付加モル数であり、正の数を示し、xとyの和は、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2以上であり、また、好ましくは16以下、より好ましくは5以下、更に好ましくは3以下である。)
【0055】
前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物として、具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等が挙げられる。
前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、トナーの低温定着性、耐熱保存性及び帯電性の観点から、アルコール成分中、好ましくは70〜100モル%、より好ましくは80〜100モル%、更に好ましくは90〜100モル%含有される。
【0056】
非晶質ポリエステル(B)の原料モノマーであるアルコール成分100モル部に対するカルボン酸成分の割合は、反応性及び物性調整の観点から、好ましくは90モル部以上、より好ましくは93モル部以上、更に好ましくは95モル部以上、より更に好ましくは98モル部以上であり、また、好ましくは150モル部以下、より好ましくは120モル部以下、更に好ましくは110モル部以下である。
【0057】
≪非晶質ポリエステル(B)の製造方法≫
非晶質ポリエステル(B)は、前駆体非晶質ポリエステルと第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを反応させる工程を含む製造方法を経て得られることが好ましい。これにより、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを、ポリエステル鎖末端に選択的に形成させることができる。
同様の観点から、前駆体非晶質ポリエステルは、カルボン酸成分とアルコール成分との縮重合における反応率が95%以上であることが好ましい。
【0058】
非晶質ポリエステル(B)の製造に際しては、先ず、前駆体非晶質ポリエステルの原料であるカルボン酸及びアルコールを配合し、好ましくは両原料の反応率が95%以上になるまで縮重合反応(第1の縮重合反応)させ、前駆体非晶質ポリエステルポリエステルを得る。次いで、この前駆体非晶質ポリエステルに、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを配合し、縮重合反応(第2の縮重合反応)させることにより、非晶質ポリエステル(B)を得ることができる。
ここで、第1の縮重合反応で配合するカルボン酸は、第二解離定数(pKa2)5以下のジカルボン酸モノマーを含んでいてもよい。また、第2の縮重合反応で配合するカルボン酸は、第二解離定数(pKa2)5よりも大きいカルボン酸モノマーを含んでいてもよい。しかし、第1の縮重合反応では、非晶質ポリエステル(B)を構成する非晶質ポリエステルの原料のうち、第二解離定数(pKa2)5以下のジカルボン酸モノマー以外の原料を配合することが好ましい。また、第2の縮重合反応において、非晶質ポリエステル(B)を構成する非晶質ポリエステルの原料のうち、第二解離定数(pKa2)5以下のジカルボン酸モノマーを配合するのが好ましい。
なお、第1の縮重合反応のときに、エステル化触媒を配合してもよく、更にエステル化助触媒を配合してもよい。また、第2の縮重合反応のときに、重合禁止剤を配合してもよい。
【0059】
第1の縮重合反応の反応温度は、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上、更に好ましくは230℃以上であり、また、好ましくは250℃以下、より好ましくは245℃以下、更に好ましくは240℃以下である。
第2の縮重合反応の反応温度は、好ましくは180℃以上、より好ましくは190℃以上、更に好ましくは200℃以上であり、また、好ましくは230℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは215℃以下である。
【0060】
〔エステル化触媒〕
上記縮重合に好適に用いられるエステル化触媒としては、チタン化合物及びSn−C結合を有していない錫(II)化合物が挙げられ、これらは1種又は2種以上を併せて使用することができる。
【0061】
チタン化合物としては、Ti−O結合を有するチタン化合物が好ましく、総炭素数1〜28のアルコキシ基、アルケニルオキシ基又はアシルオキシ基を有する化合物がより好ましい。
Sn−C結合を有していない錫(II)化合物としては、Sn−O結合を有する錫(II)化合物、Sn−X(Xはハロゲン原子を示す)結合を有する錫(II)化合物等が好ましく挙げられ、Sn−O結合を有する錫(II)化合物がより好ましく、中でも、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)が更に好ましい。
【0062】
上記エステル化触媒の存在量は、反応性、分子量調整及び樹脂の物性調整の観点から、結晶性ポリエステル(A)のアルコール成分とカルボン酸成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.3質量部以上、より更に好ましくは0.5質量部以上であり、また、好ましくは3質量部以下、より好ましくは2質量部以下、更に好ましくは1質量部以下である。
【0063】
〔エステル化助触媒〕
エステル化助触媒は、用いなくてもよいが、用いてもよい。エステル化助触媒としては、ピロガロール化合物が好ましい。このピロガロール化合物は、互いに隣接する3個の水素原子が水酸基で置換されたベンゼン環を有するものであり、ピロガロール、没食子酸、没食子酸エステル、2,3,4−トリヒドロキシベンゾフェノン、2,2’,3,4−テトラヒドロキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、エピガロカテキン、エピガロカテキンガレート等のカテキン誘導体等が挙げられ、反応性の観点から、没食子酸が好ましい。
【0064】
〔重合禁止剤〕
重合禁止剤は、特に制限はないが、4−t−ブチルカテコールが好ましい。
【0065】
(水系媒体)
前述のとおり、工程Iでは、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子と、を含む凝集体Xを、水系媒体中で得る。
水系媒体としては水を主成分とするものが好ましい。
水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1〜5の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のジアルキル(炭素数1〜3)ケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が挙げられる。これらのなかでは、トナーへの混入を防止する観点から、樹脂を溶解しない有機溶媒である、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶媒がより好適に使用できる。
水系媒体中の水の含有量は、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、95質量%以上が更に好ましく、100質量%が更に好ましい。水は、脱イオン水又は蒸留水が好ましい。
【0066】
前述のとおり、工程Iは、前記結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を、前記水系媒体中で凝集させて、コア用凝集体xを得る工程Iaと、前記水系媒体中に更にシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を混合し、前記コア用凝集体x及び前記非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を凝集させて、前記凝集体Xを得る工程Ibと、を有していてもよい(工程Iの第1態様)。また、上記工程Ibは省略してもよい(工程Iの第2態様)。その場合には、工程Iaと工程Iは同じ意味であり、得られる凝集体は、コア用凝集体xではなく、凝集体Xである。
次に、工程Ia及び工程Ibについて説明する。
【0067】
(工程Ia)
工程Iaは、前記結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を、前記水系媒体中で凝集させて、コア用凝集体xを得る工程である。
コア用凝集体xを構成する粒子としては、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子以外の粒子を含んでいてもよいが、これら2種の粒子のみを含むことが好ましい。コア用凝集体xを構成する粒子中における、当該2種の粒子の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは99質量%以上である。
【0068】
工程Iaでは、前記結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子の供給源として、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子を水系媒体中に分散させてなる水系分散体(a)を使用することが好ましい。同様に、前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子の供給源として、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を水系媒体中に分散させてなる水系分散体(b)を使用することが好ましい。
これら水系分散体(a)及び水系分散体(b)を混合して混合分散体を得、当該混合分散体中でこれら樹脂粒子を凝集させて、コア用凝集体xを得ることが好ましい。
凝集を効率的に行うために凝集剤を添加することが好ましい。また、着色剤、荷電制御剤、離型剤、導電性調整剤、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、及び老化防止剤等の添加剤を添加してから凝集させてもよい。該添加剤は、水系分散体としてから使用することもできる。
次に、水系分散体(a)、水系分散体(b)及び添加剤について説明する。
【0069】
≪水系分散体(a)≫
この水系分散体(a)は、結晶性ポリエステル(A)に水系媒体及び必要に応じて界面活性剤を添加し、転相乳化する工程を含む方法によって、好適に得ることができる。
また、この水系分散体(a)は、結晶性ポリエステル(A)及び有機溶媒を混合して混合物を得る工程(工程1)、この混合物に水系媒体を添加し、転相乳化して樹脂粒子の粗製分散体を得る工程(工程2)、この粗製分散体から有機溶媒を留去して樹脂粒子の水系分散体を得る工程(工程3)、及び得られた水系分散体に界面活性剤を混合する工程(工程4)を経ることにより、好適に製造することができる。ただし、工程1,3及び4の少なくとも1つを省略してもよい。
次に、工程1〜4について説明する。
【0070】
〔工程1〕
工程1では、結晶性ポリエステル(A)及び有機溶媒を混合して混合物を得る。
有機溶媒としては結晶性ポリエステル(A)の分散性を向上する観点から、溶解性パラメータ(SP値:POLYMER HANDBOOK THIRD EDITION 1989 by John Wiley & Sons,Inc)で表したとき、好ましくは15.0MPa1/2以上、より好ましくは16.0MPa1/2以上、更に好ましくは17.0MPa1/2以上であり、また、好ましくは26.0MPa1/2以下、より好ましくは24.0MPa1/2以下、更に好ましくは22.0MPa1/2以下である。
【0071】
具体例としては、次の有機溶媒が挙げられる。なお、次の有機溶媒の名称の右側のカッコ内はSP値であり、単位はMPa1/2である。すなわち、具体例としては、エタノール(26.0)、イソプロパノール(23.5)、及びイソブタノール(21.5)等のアルコール系溶媒;アセトン(20.3)、メチルエチルケトン(19.0)、メチルイソブチルケトン(17.2)、及びジエチルケトン(18.0)等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル(16.5)、テトラヒドロフラン(18.6)、及びジオキサン(20.5)等のエーテル系溶媒;酢酸エチル(18.6)、酢酸イソプロピル(17.4)等の酢酸エステル系溶媒が挙げられる。これらの中では、結晶性ポリエステル(A)の分散性を向上する観点から、ケトン系溶媒及び酢酸エステル系溶媒が好ましく、メチルエチルケトン、酢酸エチル及び酢酸イソプロピルからなる群から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、更にトナーの耐熱保存性の観点から、酢酸エチル及び/又は酢酸イソプロピルが更に好ましく、更に酢酸エチルがより更に好ましい。
【0072】
有機溶媒と結晶性ポリエステル(A)との質量比(有機溶媒/結晶性ポリエステル(A))は、結晶性ポリエステル(A)の分散性を向上する観点から、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.05以上、更に好ましくは0.1以上であり、また、好ましくは5以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1以下、より更に好ましくは0.8以下、より更に好ましくは0.6以下である。
【0073】
本発明に用いられる中和剤としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、及び水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;アンモニア、トリメチルアミン、エチルアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、及びトリブチルアミン等の有機塩基が挙げられる。これらの中でも、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、pKaが12以下である中和剤が好ましく、pKaが10以下である中和剤がより好ましく、また、同様の観点からpKaが8以上である中和剤がより好ましい。なかでもアンモニア(pKa=9.3)、トリエチルアミン(pKa=9.8)が好ましく、アンモニアがより好ましい。
結晶性ポリエステル(A)の中和剤による中和度は、同様の観点から、好ましくは60モル%以上、より好ましくは70〜100モル%、更に好ましくは80〜100モル%、より更に好ましくは90〜100モル%、より更に好ましくは95〜100モル%である。なお、樹脂の中和度(モル%)は、下記式によって求めることができる。
中和度={[中和剤の質量(g)/中和剤の当量]/〔[樹脂の酸価(mgKOH/g)×樹脂の質量(g)]/(56×1000)〕}×100
【0074】
なお、混合物には、本発明の効果に影響しない範囲で、更に任意の成分を添加してもよい。例えば、無機塩、前述以外の有機溶媒、後述する界面活性剤等が挙げられる。
【0075】
当該混合物は、上述した結晶性ポリエステル(A)、有機溶媒、及び必要に応じて中和剤を混合することにより得ることができる。
混合物の製造方法において、各原料の添加順序に限定はないが、結晶性ポリエステル(A)及び有機溶媒を混合した後、中和剤を混合することが好ましい。
混合の際は、アンカー翼等の一般的に用いられる混合撹拌装置、外部循環撹拌装置等で撹拌することが好ましい。
【0076】
混合時の温度は、工程温度の安定化、工程時間の短縮、溶液の低粘度化などの観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは75℃以下である。また、撹拌は、著しい分相や不溶物の存在等が無い状態となるまで行うのが好ましく、撹拌時間は、撹拌速度や温度条件にもよるが、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上であり、また、好ましくは5時間以下、より好ましくは3時間以下である。
【0077】
〔工程2〕
工程2は、上記の混合物に水系媒体及び必要に応じて界面活性剤を添加し、転相乳化して樹脂粒子の粗製分散体を得る工程である。
水系媒体としては水を主成分とするものが好ましい。
水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等の炭素数1〜5の脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のジアルキル(炭素数1〜3)ケトン;テトラヒドロフラン等の環状エーテル等の水に溶解する有機溶媒が挙げられる。これらのなかでは、トナーへの混入を防止する観点から、樹脂を溶解しない有機溶媒である、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系有機溶媒がより好適に使用できる。
水系媒体中の水の含有量は、樹脂の乳化安定性を向上させる観点から、80質量%以上が好ましく、90〜100質量%がより好ましく、95〜100質量%が更に好ましく、100質量%がより更に好ましい。水は、脱イオン水又は蒸留水が好ましい。
【0078】
水系媒体を添加する際の温度は、樹脂の乳化安定性を向上させる観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは60℃以上、より更に好ましくは65℃以上であり、また、好ましくは90℃以下、より好ましくは85℃以下、更に好ましくは80℃以下、より更に好ましくは75℃以下である。
なかでも樹脂の乳化安定性を向上させる観点から、結晶性ポリエステル(A)の融点以上が好ましい。
水系媒体の添加速度は、小粒径の樹脂組成物粒子を得る観点から、転相が終了するまでは、結晶性ポリエステル(A)100質量部に対して、好ましくは0.1質量部/分以上、より好ましくは0.5質量部/分以上、更に好ましくは1質量部/分以上、より更に好ましくは3質量部/分以上、より更に好ましくは4質量部/分以上であり、また、好ましくは50質量部/分以下、より好ましくは30質量部/分以下、更に好ましくは20質量部/分以下、より更に好ましくは10質量部/分以下、より更に好ましくは8質量部/分以下である。転相後の水系媒体の添加速度には制限はない。
【0079】
水系媒体の使用量は、後の凝集工程で均一な凝集体(凝集体X又は凝集体x)を得る観点から、結晶性ポリエステル(A)100質量部に対して、好ましくは100質量部以上、より好ましくは150質量部以上、更に好ましくは200質量部以上、より更に好ましくは300質量部以上、より更に好ましくは400質量部以上であり、また、好ましくは2000質量部以下、より好ましくは1500質量部以下、更に好ましくは1000質量部以下、より更に好ましくは700質量部以下、より更に好ましくは500質量部以下である。
また、後の凝集工程で均一な凝集体を得る観点から、水系媒体と前記有機溶媒との質量比(水系媒体/有機溶媒)が70/30〜98/2になるように前記水系媒体を添加することが好ましい。当該観点から、より好ましくは80/20以上、更に好ましくは85/15以上であり、また、より好ましくは95/15以下、更に好ましくは90/10以下である。
【0080】
界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤が挙げられる。なかでも、結晶性ポリエステル(A)の分散性の観点から、非イオン性界面活性剤及び/又はアニオン性界面活性剤が好ましく、アニオン性界面活性剤がより好ましい。
【0081】
非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル類あるいはポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノステアレート、ポリエチレングリコールモノオレエート等のポリオキシエチレン脂肪酸エステル類、オキシエチレン/オキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられ、これらの中でも樹脂の乳化安定性の観点から、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類が好ましい。
【0082】
アニオン性界面活性剤としては、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩等が挙げられ、これらの中でも樹脂の乳化安定性の観点から、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩がより好ましい。
カチオン性界面活性剤としては、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、ジアルキルジメチルアンモニウムクロライド等が挙げられる。
結晶性ポリエステル(A)の分散性と樹脂の乳化安定性の観点から、界面活性剤のなかでも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類及びポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩が好ましく、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル硫酸塩がより好ましい。
【0083】
〔工程3〕
工程3は、この粗製分散体から有機溶媒を留去して樹脂粒子の水系分散体を得る工程である。
有機溶媒の除去方法は、特に限定されず、任意の方法を用いることができるが、水と溶解しているため蒸留するのが好ましい。また、有機溶媒は、完全に除去されず水系分散体中に残留していてもよい。この場合、有機溶媒の残存量は、水系分散体中、1質量%以下が好ましく、0.5質量%以下がより好ましく、実質的に0質量%が更に好ましい。
【0084】
蒸留によって有機溶媒の除去を行う場合、撹拌を行いながら、使用する有機溶媒の沸点以上の温度に昇温して留去するのが好ましい。また、結晶性ポリエステル(A)の分散安定性を維持する観点から、減圧下で、その圧力における使用する有機溶媒の沸点以上の温度に昇温して留去するのがより好ましい。なお、減圧した後昇温しても、昇温した後減圧してもよい。結晶性ポリエステル(A)の分散安定性を維持する観点から、温度及び圧力を一定にして留去するのが好ましい。
【0085】
〔工程4〕
工程4は、得られた水系分散体に界面活性剤を混合する工程である。
工程4において添加する界面活性剤の量は、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、工程1〜4で添加する界面活性剤の総添加量の、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80〜100質量%、更に好ましくは90〜100質量%、より更に好ましくは95〜100質量%、より更に好ましくは99〜100質量%である。
また、工程4において添加する界面活性剤の量は、同様の観点から、結晶性ポリエステル(A)100質量部に対して、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、更に好ましくは2質量部以上であり、また、好ましくは15質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは5質量部以下である。
【0086】
界面活性剤添加時は、アンカー翼等の一般的に用いられる混合撹拌装置、外部循環撹拌装置等で撹拌することが好ましい。
アンカー翼等の混合撹拌装置を用いた場合、撹拌の周速は、分散性の観点から、好ましくは20m/分以上、より好ましくは40m/分以上、更に好ましくは60m/分以上、より更に好ましくは80m/分以上であり、また、好ましくは200m/分以下、より好ましくは150m/分以下、更に好ましくは100m/分以下である。
【0087】
工程4の界面活性剤添加時の温度は、界面活性剤の水への分散性などの観点から、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは50℃以下、好ましくは40℃以下、好ましくは35℃以下である。
【0088】
工程1〜工程4を含む水系分散体の製造工程を経て得られる水系分散体の固形分濃度は、分散体の安定性及び取扱い容易性等の観点から、適宜水を加えることにより、好ましくは3質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、また、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは25質量%以下である。
【0089】
得られた水系分散体(a)中における結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子の体積中位粒子径(D50)は、トナーの生産性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは120nm以上、より更に好ましくは130nm以上、より更に好ましくは150nm以上であり、また、好ましくは300nm以下、より好ましくは250nm以下、更に好ましくは210nm以下、より更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは195nm以下である。
【0090】
≪水系分散体(b)≫
この水系分散体(b)は、結晶性ポリエステル(A)に代えて非晶質ポリエステル(B)を用いること以外は上記の水系分散体(a)と同様にして、好適に製造することができる。
なお、得られた水系分散体(b)中における非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子の体積中位粒子径(D50)は、トナーの生産性の観点から、好ましくは50nm以上、より好ましくは70nm以上、更に好ましくは90nm以上、より更に好ましくは100nm以上、より更に好ましくは110nm以上であり、また、好ましくは250nm以下、より好ましくは220nm以下、更に好ましくは200nm以下、より更に好ましくは180nm以下、より更に好ましくは150nm以下である。
【0091】
≪凝集剤≫
凝集剤は、第四級塩のカチオン性界面活性剤、ポリエチレンイミン等の有機系凝集剤;無機金属塩、無機アンモニウム塩等の無機系凝集剤が用いられる。トナーの粒径分布、耐熱保存性及び印刷物の光沢性の観点から、無機系凝集剤が好ましく、なかでも無機金属塩が好ましい。
無機金属塩としては、例えば、硫酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、硝酸カルシウム、塩化バリウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、及び塩化アルミニウムの少なくとも1種が挙げられ、好ましくは塩化カルシウムである。無機金属塩の中心金属の価数は、トナーの粒径分布、耐熱保存性、印刷物の光沢性の観点から、2価以上であることが好ましい。
【0092】
凝集剤を添加する場合、その添加量は、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び非晶質複合樹脂(B)を含有する樹脂粒子の総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上、更に好ましくは0.01質量部以上、より更に好ましくは0.1質量部以上、より更に好ましくは0.2質量部以上であり、また、好ましくは10質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは1質量部以下、より更に好ましくは0.8質量部以下、より更に好ましくは0.5質量部以下である。
凝集剤は、水系媒体に溶解させて添加することが好ましく、凝集剤の添加時及び添加終了後は十分撹拌することが好ましい。
【0093】
凝集工程において、系内の固形分濃度は、均一な凝集を起こさせるために、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは10質量%以上であり、また、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは30質量%以下である。
凝集工程において、凝集剤を均一に分散し、均一な凝集を起こさせる観点から、凝集剤の添加時の温度は、好ましくは10℃以上、より好ましくは15℃以上、更に好ましくは18℃以上であり、また、好ましくは40℃以下、より好ましくは35℃以下、更に好ましくは30℃以下である。凝集剤を添加した後の保持温度は、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは47℃以上であり、また、好ましくは65℃以下、より好ましくは60℃以下、更に好ましくは55℃以下である。
【0094】
≪着色剤≫
着色剤としては、特に制限はなく公知の着色剤が挙げられ、目的に応じて適宜選択することができる。具体的には、カーボンブラック、無機系複合酸化物、クロムイエロー、ハンザイエロー、ベンジジンイエロー、スレンイエロー、キノリンイエロー、パーマネントオレンジGTR、ピラゾロンオレンジ、バルカンオレンジ、ウオッチヤングレッド、パーマネントレッド、ブリリアンカーミン3B、ブリリアンカーミン6B、デュポンオイルレッド、ピラゾロンレッド、リソールレッド、ローダミンBレーキ、レーキレッドC、ベンガル、アニリンブルー、ウルトラマリンブルー、カルコオイルブルー、メチレンブルークロライド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、及びマラカイトグリーンオクサレート等の種々の顔料;アクリジン系、キサンテン系、アゾ系、ベンゾキノン系、アジン系、アントラキノン系、インジコ系、チオインジコ系、フタロシアニン系、アニリンブラック系、ポリメチン系、トリフェニルメタン系、ジフェニルメタン系、チアジン系、及びチアゾール系等の各種染料が挙げられる。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0095】
着色剤の添加量は、画像品質を向上する観点から、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子の総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.5質量部以上、更に好ましくは1.0質量部以上、より更に好ましくは2.0質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下、更に好ましくは8質量部以下、より更に好ましくは5質量部以下である。
この着色剤は、着色剤微粒子を含有する着色剤分散液として添加してもよい。この着色剤微粒子の体積中位粒径(D50)は、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。
【0096】
≪荷電制御剤≫
荷電制御剤としては、クロム系アゾ染料、鉄系アゾ染料、アルミニウムアゾ染料、及びサリチル酸金属錯体等が挙げられる。各種荷電制御剤は1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。
荷電制御剤を添加する場合、その添加量は、画像品質を向上する観点から、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び非晶質複合樹脂(B)を含有する樹脂粒子の総量100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.3質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、より更に好ましくは0.6質量部以上であり、また、好ましくは8質量部以下、より好ましくは7質量部以下、更に好ましくは5質量部以下、より更に好ましくは2質量部以下である。
この荷電制御剤は、荷電制御剤微粒子を含有する荷電制御剤分散液として添加してもよい。この荷電制御剤微粒子の体積中位粒径(D50)は、好ましくは100nm以上、より好ましくは300nm以上であり、また、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下である。
【0097】
(工程Ib)
工程Ibは、前記水系媒体中に更にシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を混合し、前記コア用凝集体x及び前記非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を凝集させて、前記凝集体Xを得る工程である。
すなわち、工程Iaにより、水系媒体中には、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を含むコア用凝集体xが存在する。工程Ibでは、このコア用凝集体xを含んでいる当該水系媒体中に、更にシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を混合し、コア用凝集体x及びシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を凝集させる。これにより、コア用凝集体xの最表面にシェル用非晶質ポリエステル(C)が付着し、コア用凝集体xと、その表面を覆うシェル用非晶質ポリエステル(C)とからなる凝集体Xを得る。
【0098】
凝集体Xを構成する粒子としては、シェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子以外の粒子を含んでいてもよいが、シェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子のみを含むことが好ましい。凝集体Xを構成する粒子中における、シェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、更に好ましくは95質量%以上、より更に好ましくは99質量%以上である。
凝集後、必要に応じて凝集停止剤を加えてもよい。なお、凝集停止剤を用いる場合、凝集停止剤として界面活性剤を用いることが好ましく、アニオン性界面活性剤を用いることがより好ましい。アニオン性界面活性剤のうち、アルキルエーテル硫酸塩、アルキル硫酸塩、及び直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましく、アルキルエーテル硫酸塩を用いることが更に好ましい。
【0099】
≪シェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子≫
このシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子は、本発明の効果を阻害しない範囲内でシェル用非晶質ポリエステル(C)以外の成分を含有してもよいが、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れる静電荷像現像用トナーを得る観点から、シェル用非晶質ポリエステル(C)以外の成分は含有しないことが好ましい。シェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子中におけるシェル用非晶質ポリエステル(C)の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90〜100質量%、更に好ましくは95〜100質量%、より更に好ましくは99〜100質量%であり、より更に好ましくは実質的に100質量%である。
【0100】
このシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子の体積中位粒径は、凝集の容易性の観点、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、更に好ましくは100nm以上、より更に好ましくは110nm以上であり、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下、更に好ましくは140nm以下、より更に好ましくは130nm以下である。
このシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子は、シェル用非晶質ポリエステル(C)に水系媒体を添加し、転相乳化することにより好適に製造することができる。
このシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子の供給源としては、シェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を水系媒体中に分散させてなる水系分散体(c)を使用することが好ましい。
この水系分散体(c)は、結晶性ポリエステル(A)に代えてシェル用非晶質ポリエステル(C)を用いること以外は上記の水系分散体(a)と同様にして、好適に製造することができる。
【0101】
≪シェル用非晶質ポリエステル(C)≫
シェル用非晶質ポリエステル(C)は、カルボン酸成分及びアルコール成分を縮重合させることにより得られる。
【0102】
シェル用非晶質ポリエステル(C)のカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられ、脂肪族ジカルボン酸及び芳香族ジカルボン酸の一方又は双方を含むことが好ましく、双方を含むことがより好ましい。また、これらカルボン酸の酸無水物及びそれらのアルキル(炭素数1以上3以下)エステルであってもよい。これらのカルボン酸成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0103】
芳香族ジカルボン酸の具体例としては、テレフタル酸、フタル酸、イソフタル酸が挙げられる。これらの中でも、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、テレフタル酸が好ましい。
芳香族ジカルボン酸の含有量は、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、カルボン酸成分中、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは80モル%以上、より更に好ましくは90モル%以上であり、また、好ましくは99モル%以下、より好ましくは97モル%以下、更に好ましくは95モル%以下である。
脂肪族ジカルボン酸としては、炭素数2〜6の脂肪族ジカルボン酸を含有することが好ましい。
【0104】
脂肪族ジカルボン酸の具体例としては、シュウ酸、マロン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、コハク酸、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸が挙げられる。また、脂肪族ジカルボン酸の例には、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸等の炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸も含まれる。これらの中でも、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、フマル酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が好ましく、フマル酸及びドデセニルコハク酸がより好ましい。
【0105】
脂肪族ジカルボン酸の含有量は、同様の観点から、カルボン酸成分中、好ましくは1モル%以上、より好ましくは2モル%以上、更に好ましくは3モル%以上、より更に好ましくは5モル%以上であり、また、好ましくは80モル%以下、より好ましくは70モル%以下、更に好ましくは20モル%以下、より更に好ましくは10モル%以下である。
【0106】
シェル用非晶質ポリエステル(C)の原料モノマーであるアルコール成分としては、脂肪族ジオール、芳香族ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられるが、芳香族ジオールが好ましい。これらのアルコール成分は、単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
シェル用非晶質ポリエステル(C)のアルコール成分は、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、前述の式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物を含有することが好ましい。
【0107】
前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物として、具体的には、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン付加物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシエチレン付加物等が挙げられる。
前記式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物は、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、アルコール成分中、好ましくは70モル%以上100モル%以下、より好ましくは80モル%以上100モル%以下、更に好ましくは90モル%以上100モル%以下含有される。
【0108】
シェル用非晶質ポリエステル(C)の原料モノマーであるアルコール成分100モル部に対するカルボン酸成分の割合は、反応性及び物性調整の観点から、好ましくは80モル部以上、より好ましくは85モル部以上、更に好ましくは90モル部以上、より更に好ましくは95モル部以上であり、また、好ましくは115モル部以下、より好ましくは110モル部以下、更に好ましくは105モル部以下である。
【0109】
トナーのシェル部の耐熱性をコア部よりも高くして、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、シェル用非晶質ポリエステル(C)の軟化点は、結晶性ポリエステル(A)の軟化点よりも高いことが好ましい。当該観点から、このシェル用非晶質ポリエステル(C)と結晶性ポリエステル(A)の軟化点の温度差は、好ましくは5℃以上、より好ましくは10℃以上、更に好ましくは15℃以上、より更に好ましくは20℃以上、より更に好ましくは25℃以上であり、また、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、更に好ましくは34℃以下、より更に好ましくは32℃以下、より更に好ましくは30℃以下である。
【0110】
このシェル用非晶質ポリエステル(C)の軟化点は、好ましくは85℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは95℃以上、より更に好ましくは100℃以上、より更に好ましくは105℃以上であり、また、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下、更に好ましくは130℃以下、より更に好ましくは120℃以下、より更に好ましくは115℃以下である。
また、このシェル用非晶質ポリエステル(C)のガラス転移温度は、同様の観点から、好ましくは45℃以上、より好ましくは50℃以上、更に好ましくは55℃以上、より更に好ましくは60℃以上であり、また、好ましくは85℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは75℃以下、より更に好ましくは70℃以下である。
【0111】
また、同様の観点から、このシェル用非晶質ポリエステル(C)のガラス転移温度は、非晶質ポリエステル(B)のガラス転移温度よりも高いことが好ましく、当該温度差は、好ましくは15℃以上、より好ましくは20℃以上であり、また、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下である。
【0112】
このシェル用非晶質ポリエステル(C)の酸価は、同様の観点から、好ましくは1mgKOH/g以上、より好ましくは5mgKOH/g以上、更に好ましくは10mgKOH/g以上、より更に好ましくは12mgKOH/g以上であり、また、好ましくは40mgKOH/g以下、より好ましくは35mgKOH/g以下、更に好ましくは20mgKOH/g以下、より更に好ましくは18mgKOH/g以下である。
【0113】
<工程II>
工程IIは、前記凝集体Xを融着する工程である。
工程IIにおける系内の温度は、目的とするトナーの粒径、粒度分布、形状制御及び粒子の融着性の観点、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは75℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下である。また、撹拌速度は、凝集体Xが沈降しない速度が好ましい。
【0114】
<後工程>
工程IIにより得られた融着粒子を、適宜、ろ過等の固液分離工程、洗浄工程、乾燥工程に供することにより、本発明の静電荷像現像用トナーを好適に得ることができる。
洗浄工程では、添加した非イオン性界面活性剤も洗浄により完全に除去することが好ましく、非イオン性界面活性剤の曇点以下での水系溶液での洗浄が好ましい。洗浄は複数回行うことが好ましい。
また、乾燥工程では、振動型流動乾燥法、スプレードライ法、冷凍乾燥法、フラッシュジェット法等、任意の方法を採用することができる。トナーの乾燥後の水分含量は、帯電性の観点から、好ましくは1.5質量%以下、更には1.0質量%以下に調整することが好ましい。
更に流動性を向上する等の目的のために外添剤を添加しても良い。外添剤としては、表面を疎水化処理したシリカ微粒子、酸化チタン微粒子、アルミナ微粒子、酸化セリウム微粒子、及びカーボンブラック等の無機微粒子;ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、及びシリコーン樹脂等のポリマー微粒子等、公知の微粒子が使用できる。
【0115】
外添剤の個数平均粒子径は、トナーの流動性の観点から、好ましくは4〜200nm、より好ましくは8〜30nmである。
外添剤を添加する場合、その添加量は、トナーの流動性、帯電度の環境安定性及び保存安定性の観点から、外添剤による処理前のトナー100質量部に対して、好ましくは0.1質量部以上、より好ましくは0.2質量部以上、更に好ましくは0.5質量部以上、より更に好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは8質量部以下、より好ましくは5質量部以下、更に好ましくは4質量部以下、より更に好ましくは3質量部以下である。
【0116】
トナーの体積中位粒子径(D50)は、トナーの耐熱保存性、耐久性及び低温定着性の観点から、好ましく3.0μm以上、より好ましくは3.5μm以上、更に好ましくは4.0μm以上、より更に好ましくは4.5μm以上であり、また、好ましくは8.5μm以下、より好ましくは8.0μm以下、更に好ましくは7.5μm以下、より更に好ましくは7.0μm以下、より更に好ましくは5.0μm以下である。
【0117】
また、トナーの粒径分布の変動係数(CV値)(%)は、同様の観点から、好ましくは40%以下、より好ましくは35%以下、更に好ましくは30%以下であり、また、トナーの生産性を向上させる観点から、5%以上が好ましく、10%以上がより好ましく、15%以上が更に好ましい。なお、CV値は、下記式で表される値であり、実施例に記載の方法で求められる。
CV値(%)=[粒径分布の標準偏差(μm)/体積中位粒径(μm)]×100
【0118】
[静電荷像現像用トナー]
本発明の静電荷像現像用トナーは、前述の製造方法により製造することができる。
前述の工程Iの第1態様(工程Ia及びIbを実施)を採用することにより、シェル用非晶質ポリエステル(C)をシェル部分に含有するコアシェル型の静電荷像現像用トナーを得ることができる。また、前述の工程Iの第2態様(工程Iaを実施)を採用することにより、非コアシェル型(単一構造)の静電荷像現像用トナーを得ることができる。
【0119】
結晶性ポリエステル(A)及び非晶質ポリエステル(B)の総量とシェル用非晶質ポリエステル(C)との質量比〔結晶性ポリエステル(A)及び非晶質ポリエステル(B)の総量/シェル用非晶質ポリエステル(C)〕は、低温定着性と耐熱保存性を両立し、帯電性が優れるトナーを得る観点から、好ましくは60/40以上、より好ましくは70/30以上、更に好ましくは80/20以上、より更に好ましくは85/15以上であり、また、好ましくは100/0以下、より好ましくは99/1以下、更に好ましくは95/5以下、より更に好ましくは90/10以下である。
【0120】
上述した実施形態に関し、本発明は以下の静電荷像現像用トナーの製造方法及び静電荷像現像用トナーを開示する。
〔1〕ポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上、好ましくは72モル%以上、より好ましくは75モル%以上、更に好ましくは78モル%以上であり、また、好ましくは100モル%以下、好ましくは95モル%以下、より好ましくは92モル%以下、更に好ましくは90モル%以下である結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子と、を含む凝集体Xを、水系媒体中で得る工程I、及び前記凝集体Xを融着する工程II、を有する、静電荷像現像用トナーの製造方法。
【0121】
〔2〕第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーが、カルボキシ基に隣接して不飽和結合を有するジカルボン酸化合物である、〔1〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔3〕第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーが、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸及びシュウ酸から選ばれる1つ以上である、〔1〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔4〕結晶性ポリエステル(A)のポリエステル鎖内部を形成するカルボン酸モノマーの70モル%以上が飽和脂肪族ジカルボン酸である、〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔5〕飽和脂肪族ジカルボン酸が、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸及びドデカン二酸の少なくとも1種である、請求項4に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【0122】
〔6〕非晶質ポリエステル系樹脂(B)のポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合が、70モル%以上、より好ましくは72モル%以上、更に好ましくは75モル%以上、より更に好ましくは78モル%以上であり、また、より好ましくは98モル%以下、更に好ましくは90モル%以下、より更に好ましくは85モル%以下である、〔1〕〜〔5〕のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔7〕前記結晶性ポリエステル(A)の融点が55〜95℃、好ましくは60℃以上、より好ましくは70℃以上、更に好ましくは75℃以上、より更に好ましくは79℃以上、より更に好ましくは80℃以上であり、また、好ましくは100℃以下、より好ましくは95℃以下、更に好ましくは90℃以下、より更に好ましくは85℃以下、より更に好ましくは82℃以下である、〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔8〕工程Iが、結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子を水系媒体中に分散させてなる水系分散体(a)と、非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を水系媒体中に分散させてなる水系分散体(b)を使用するものである、〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔9〕水系分散体(a)が、結晶性ポリエステル(A)に水系媒体を添加し、転相乳化する工程を含む方法によって得られるものである、〔8〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔10〕水系分散体(a)が、結晶性ポリエステル(A)及び有機溶媒を混合して混合物を得る工程(工程1)、この混合物に水系媒体を添加し、転相乳化して樹脂粒子の粗製分散体を得る工程(工程2)、この粗製分散体から有機溶媒を留去して樹脂粒子の水系分散体を得る工程(工程3)、を含む方法によって得られるものである、〔8〕又は〔9〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【0123】
〔11〕結晶性ポリエステル(A)が、前駆体結晶性ポリエステルと第二解離定数(pKa2)が5以下であるジカルボン酸モノマーを反応させる工程を含む製造方法を経て得られるものである、〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔12〕前記前駆体結晶性ポリエステルのカルボン酸成分とアルコール成分との縮重合における反応率が95%以上である、〔11〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔13〕水系分散体(a)が、結晶性ポリエステル(A)に水系媒体及び界面活性剤を添加し、転相乳化する工程を含む方法によって得られるものである、〔8〕又は〔9〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔14〕工程3で得られた水系分散体に界面活性剤を混合する工程4を有する、〔10〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔15〕工程2において、前記水系媒体と前記有機溶媒との質量比(水系媒体/有機溶媒)が70/30〜98/2になるように、より好ましくは80/20以上、更に好ましくは85/15以上になるように、また、より好ましくは95/15以下、更に好ましくは90/10以下になるように、前記水系媒体を添加する、〔10〕又は〔14〕に記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
【0124】
〔16〕工程Iは、前記結晶性ポリエステル(A)を含有する樹脂粒子及び前記非晶質ポリエステル(B)を含有する樹脂粒子を、前記水系媒体中で凝集させて、コア用凝集体xを得る工程Iaと、前記水系媒体中に更にシェル用非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を混合し、前記コア用凝集体x及び前記非晶質ポリエステル(C)を含有する樹脂粒子を凝集させて、前記凝集体Xを得る工程Ibと、を有する、〔1〕〜〔15〕のいずれかに記載の静電荷像現像用トナーの製造方法。
〔17〕〔1〕〜〔16〕のいずれかの製造方法によって得られる、静電荷像現像用トナー。
【実施例】
【0125】
樹脂、樹脂粒子、トナー等の各性状等については次の方法により測定、評価した。
【0126】
[樹脂の酸価]
樹脂の酸価は、JIS K 0070の方法に基づき測定した。ただし、測定溶媒のみJIS K 0070の規定のエタノールとエーテルの混合溶媒から、アセトンとトルエンの混合溶媒(アセトン:トルエン=1:1(容量比))に変更した。
【0127】
[樹脂の軟化点、ガラス転移温度等]
(1)軟化点
フローテスター「CFT−500D」((株)島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/分で加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
(2)吸熱ピークの最高温度
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、室温(20℃)から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した試料をそのまま1分間静止させ、その後、昇温速度10℃/分で180℃まで昇温しながら測定した。観測される吸熱ピークのうち、最も高温側にあるピークの温度を吸熱ピークの最高温度とした。
【0128】
(3)融点
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温しながら測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピークの温度を融点とした。
(4)ガラス転移温度
示差走査熱量計「Q−100」(ティー・エイ・インスツルメント・ジャパン(株)製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/分で0℃まで冷却した。次に昇温速度10℃/分で150℃まで昇温しながら測定した。吸熱ピークの最高温度以下のベースラインの延長線とピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
(5)結晶性指数
上記のようにして測定された軟化点と吸熱の最大ピーク温度との比、即ち、「軟化点/吸熱の最大ピーク温度」を算出し、結晶性指数とした。
【0129】
[樹脂のポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、pKa2が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合]
下記条件により13C NMRスペクトルを測定し、ポリエステル鎖末端のカルボキシ基を形成するカルボン酸モノマーの種類を同定、定量し、樹脂のポリエステル鎖末端のカルボキシ基のうち、pKa2が5以下であるジカルボン酸モノマーに起因するカルボキシ基の割合を算出した。
・測定機:Mercury−400(VARIAN社製)
・観測核:13
・樹脂サンプル:1g
・測定溶媒:CDCl3 3mL
・磁場強度:14.09637[T] (600[MHz])
・スキャン回数:6400
・緩和時間:15秒
【0130】
[ポリエステルのポリエステル鎖内部を形成するカルボン酸モノマー中における、飽和脂肪族ジカルボン酸モノマーの割合(モル%)]
前記条件により13C NMRスペクトルを測定し、ポリエステル鎖内部を形成するカルボン酸モノマーの種類を同定、定量し、ポリエステルのポリエステル鎖内部を形成するカルボン酸モノマー中における、飽和脂肪族ジカルボン酸モノマーの割合を算出した。
【0131】
[凝集体の体積中位粒径(D50)]
凝集体の体積中位粒径は以下の通り測定した。
・測定機:「コールターマルチサイザーIII」(ベックマンコールター社製)
・アパチャー径:50μm
・解析ソフト:「マルチサイザーIIIバージョン3.51」(ベックマンコールター社製)
・電解液:「アイソトンII」(ベックマンコールター社製)
・分散液:ポリオキシエチレンラウリルエーテル「エマルゲン109P」(花王(株)製、HLB:13.6)を前記電解液に溶解させ、濃度5質量%の分散液を得た。
・分散条件:前記分散液5mLに試料10mg(固形分換算)を添加し、超音波分散機にて1分間分散させ、その後、電解液25mLを添加し、更に、超音波分散機にて1分間分散させて、試料分散液を作製した。
・測定条件:前記試料分散液を前記電解液100mLに加えることにより、3万個の粒子の粒径を20秒で測定できる濃度に調整した後、3万個の粒子を測定し、その粒度分布から体積中位粒径(D50)を求めた。
【0132】
[樹脂粒子、着色剤粒子、荷電制御剤粒子及び離型剤粒子の体積中位粒径(D50)及びCV値]
(1)測定装置:レーザー回折型粒径測定機「LA−920」((株)堀場製作所製)
(2)測定条件:測定用セルに蒸留水を加え、吸光度が適正範囲になる濃度で体積中位粒径(D50)を測定した。
【0133】
また、CV値(%)は下記の式に従って算出した。
CV値(%)=(粒径分布の標準偏差/体積中位粒径(D50))×100
【0134】
[水系分散体、着色剤分散液、荷電制御剤分散液及び離型剤粒子の固形分濃度]
赤外線水分計「FD−230」((株)ケツト科学研究所製)を用いて、試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、試料の水分(質量%)を測定した。固形分は下記式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100−M
M:試料の水分(質量%)=[(W−W0)/W]×100
W:測定前の試料質量(初期試料質量)
W0:測定後の試料質量(絶対乾燥質量)
【0135】
[トナーの低温定着性]
複写機「AR−505」(シャープ(株)製)の定着機を装置外での定着が可能なように改良した装置にトナーを実装し、未定着の状態で印刷物を得た(印字面積:2cm×12cm、付着量:0.5mg/cm2)。その後、総定着圧が40kgfになるように調整した定着機(定着速度300mm/sec)を用い、定着ロールの温度を80℃から240℃へと5℃ずつ順次上昇させながら、各温度で未定着状態の印刷物の定着試験を行った。得られた印刷物の画像部分にセロハン粘着テープ「ユニセフセロハン」(三菱鉛筆(株)製、幅:18mm、JIS Z1522)を貼り付け、定着機の定着ロールとは別の、30℃に設定した定着ローラーに通過させた後、テープを剥がした。テープを貼る前と剥がした後の光学反射密度を反射濃度計「RD−915」(グレタグマクベス社製)を用いて測定し、両者の比率(剥離後/貼付前×100)が最初に90%を越える定着ロールの温度を最低定着温度とした。最低定着温度が低いほど、低温定着性が優れる。なお、定着紙には、「CopyBond SF-70NA」(シャープ(株)製、75g/m2)を使用した。
【0136】
[トナーの耐熱保存性]
25mL容の容器(直径約3cm)にトナー10gを入れ、温度60℃ 、湿度80% の環境下で72時間放置した。48時間放置後、12時間毎にトナー凝集の発生程度を目視にて観察し、以下の評価基準に従って、耐熱保存性を評価した。凝集が認められない時間が長いほど、耐熱保存性が優れる。
(評価基準)
A:72時間後も凝集は認められない。
B:60時間後で凝集は認められないが72時間後では凝集が認められる。
C:48時間後で凝集は認められないが60時間後では凝集が認められる。
D:48時間後で凝集が認められる。
【0137】
[トナーの帯電性]
25℃、相対湿度50%にてトナー2.1gとシリコーンフェライトキャリア(関東電
化工業(株)製、平均粒子径:40μm)27.9gとを50ccの円筒形ポリプロピレ
ン製ボトル((株)ニッコー製)に入れ、縦横に10回ずつ振り、その後、ターブラーミ
キサーを用いて90r/minの速度にて混合し、1時間混合した。そのときの帯電量を
、q/mメーター(EPPING社製)を用いて測定した。帯電量の絶対値が高いほど、
帯電性が良好である。
なお測定機器、設定等は下記の通りである。
・測定機器:EPPING社製q/m−meter
・設定:メッシュサイズ:635メッシュ(目開き:24μm、ステンレス製)
・ソフトブロー、ブロー圧(1000V)
・吸引時間:90秒
・帯電量(μC/g)=90秒後の総電気量(μC)/吸引されたトナー量(g)
【0138】
[ポリエステル等の製造]
製造例1〜4
(結晶性ポリエステルA−1〜A−4の製造)
表1に示す、フマル酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、130℃から210℃まで10時間かけて昇温した後、210℃で反応を行い、反応率が95%以上に到達したのを確認した。その後、210℃、8kPaの減圧下にて1時間反応させた後、180℃まで冷却した。その後、表1に示すフマル酸及びラジカル重合禁止剤(4−t−ブチルカテコール)を加え、2時間かけて210℃まで昇温した。その後、210℃にて1時間反応後、8kPaにて表1に記載の酸価に達するまで反応を行って結晶性ポリエステルA−1〜A−4を得た。樹脂の物性は表1に示す。なお、本発明における反応率とは、生成水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
【0139】
製造例5
(結晶性ポリエステルA−5の製造)
表1に示す、イソフタル酸以外のポリエステルの原料モノマー及びエステル化触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、130℃から210℃まで10時間かけて昇温した後、210℃で反応を行い、反応率が95%以上に到達したのを確認した。その後、210℃、8kPaの減圧下にて1時間反応させた後、180℃まで冷却した。その後、表1に示すイソフタル酸及びラジカル重合禁止剤(4−t−ブチルカテコール)を加え、1時間かけて235℃まで昇温した。その後、235℃にて5時間反応後、8kPaにて表1に記載の酸価に達するまで反応を行って結晶性ポリエステルA−5を得た。樹脂の物性は表1に示す。
【0140】
製造例6
(結晶性ポリエステルB−1の製造)
表2に示す、1,10−デカンジオール全量、コハク酸全量、フマル酸35部相当(1369g)、エステル化触媒、ラジカル重合禁止剤(4−t−ブチルカテコール)を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、130℃から210℃まで10時間かけて昇温した後、210℃で反応を行い、反応率が95%以上に到達したのを確認した。その後、210℃、8kPaの減圧下にて1時間反応させた後、180℃まで冷却した。その後、表2に示す残りのフマル酸35部相当(1369g)を加え、2時間かけて210℃まで昇温した。その後、210℃にて1時間反応後、8kPaにて表2に記載の酸価に達するまで反応を行って結晶性ポリエステルB−1を得た。樹脂の物性は表1に示す。なお、本発明における反応率とは、生成反応水量(mol)/理論生成水量(mol)×100の値をいう。
【0141】
製造例7
(結晶性ポリエステルB−2の製造)
表2に示す、ポリエステルの原料モノマー、エステル化触媒およびラジカル重合禁止剤を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃から210℃まで6時間かけて昇温した。その後、210℃、8kPaの減圧下にて表2に記載の酸価に達するまで反応を行って結晶性ポリエステルB−2を得た。樹脂の物性は表2に示す。
【0142】
製造例8
(結晶性ポリエステルB−3の製造)
表2に示す、ポリエステルの原料モノマー、エステル化触媒およびラジカル重合禁止剤を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、180℃から210℃まで6時間かけて昇温した。その後、210℃、8kPaの減圧下にて表2に記載の酸価に達するまで反応を行って結晶性ポリエステルB−3を得た。樹脂の物性は表2に示す。なお、製造例3ではフマル酸を重合後期に反応系に添加しているが、本製造例8ではフマル酸を重合初期に反応系に添加する点が異なる。
【0143】
製造例9
(シェル用非晶質ポリエステルD−1の製造)
表3に示す、ドデセニル無水コハク酸以外のポリエステルの原料モノマー、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温した後、235℃にて10時間反応を行い、反応率が95%以上に到達したのを確認した。その後、235℃、8kPaの減圧下で1時間反応させた後、表3に示すようにドデセニル無水コハク酸、及びラジカル重合禁止剤(4−t−ブチルカテコール)を加え、235℃、常圧にて1時間反応後、8kPaにて表3に記載の酸価に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステルD−1を得た。
【0144】
製造例10
(コア用非晶質ポリエステルD−2の製造)
表3に示す、フマル酸以外のポリエステルの原料モノマー、エステル化触媒及びエステル化助触媒を、温度計、ステンレス製撹拌棒、流下式コンデンサー及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコに入れ、窒素雰囲気にてマントルヒーター中で、235℃まで2時間かけて昇温した後、235℃にて10時間反応を行い、反応率が95%以上に到達したのを確認した。その後、235℃、8kPaの減圧下で1時間反応させた後、180℃まで冷却した。その後、表3に示すようにフマル酸及びラジカル重合禁止剤(4−t−ブチルカテコール)を加え、2時間かけて210℃まで昇温した。その後、210℃にて1時間反応後、8kPaにて表3に記載の酸価に達するまで反応を行って、非晶質ポリエステルD−2を得た。
【0145】
【表1】
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
[水系分散体の製造]
水系分散体製造例1
(水系分散体A−1の製造)
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート、温度計及び窒素導入管を備えた3L容の容器に、結晶性ポリエステルA−1 150g、酢酸エチル75gを仕込み、70℃にて2時間かけて溶解させた。得られた溶液に、20質量%アンモニア水溶液(pKa:9.3)を、樹脂の酸価に対して中和度100モル%になるように添加し、30分撹拌して、混合物を得た(工程1)。70℃に保持したまま、280r/分(周速88m/分)で撹拌しながら、イオン交換水675gを77分かけて添加し、転相乳化して、樹脂粒子の粗製分散体を得た(工程2)。継続して70℃に保持したまま、酢酸エチルを減圧下で留去して、樹脂粒子の水系分散体を得た(工程3)。
その後、280r/分(周速88m/分)の撹拌を行いながら水系分散体を30℃に冷却した後、アニオン性界面活性剤「エマールE27C」(ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、花王(株)製、固形分28質量%)を16.7g混合し、完全に溶解させた(工程4)。その後、水系分散体の固形分濃度を測定し、イオン交換水を加えることにより、水系分散体の固形分濃度を20質量%に調整した。得られた水系分散体中の樹脂粒子の体積中位粒径は187nmであった。
【0149】
水系分散体製造例2〜10
(水系分散体A−2〜D−2の製造)
水系分散体製造例1において、工程1で用いた樹脂を、表4〜表6に示す樹脂にした以外は、製造例1と同様にして、水系分散体を得た。得られた水系分散体中の樹脂粒子の体積中位粒径および固形分濃度を表4〜表6に示す。
【0150】
【表4】
【0151】
【表5】
【0152】
【表6】
【0153】
[着色剤分散液の製造]
水系分散体製造例11
銅フタロシアニン「ECB−301」(大日精化工業(株)製)50g、非イオン性界面活性剤「エマルゲン150」(ポリオキシエチレンラウリルエーテル、花王(株)製)5g及びイオン交換水200gを混合し、ホモジナイザーを用いて10分間分散させて、着色剤粒子を含有する着色剤分散液を得た。着色剤粒子の体積中位粒径(D50)は120nmであり、固形分濃度は22質量%であった。
【0154】
[荷電制御剤分散液の製造]
水系分散体製造例12
荷電制御剤としてサリチル酸系化合物「ボントロンE−84」(オリエント化学工業(株)製)50g、非イオン性界面活性剤として「エマルゲン150」(花王(株)製)5g及びイオン交換水200gを混合し、ガラスビーズを使用し、サンドグラインダーを用いて10分間分散させて、荷電制御剤粒子を含有する荷電制御剤分散液を得た。荷電制御剤粒子の体積中位粒径(D50)は400nmであり、固形分濃度は22質量%であった。
【0155】
[離型剤分散液の製造]
水系分散体製造例13
パラフィンワックス(日本精蝋(株)製、商品名:「HNP9」、融点:85℃)50g、カチオン性界面活性剤(花王(株)製、商品名:「サニゾールB50」)5g及びイオン交換水200gを95℃に加熱して、ホモジナイザーを用いて、パラフィンワックスを分散させた後、圧力吐出型ホモジナイザーで分散処理し、離型剤粒子を含有する離型剤分散液を得た。離型剤粒子(パラフィンワックス)の体積中位粒径(D50)は450nm、固形分濃度は22質量%であった。
【0156】
[静電荷像現像用トナーの製造]
実施例1
水系分散体A−1を60g、水系分散体D−2を240g、着色剤分散液8g、離型剤分散液10g、荷電制御剤分散液2g及び脱イオン水52gを3L容の容器に入れ、アンカー型の撹拌機で100r/分(周速31m/分)の撹拌下、20℃で0.1質量%塩化カルシウム水溶液150gを30分かけて滴下した。その後、撹拌しながら50℃まで昇温した。3時間たった時点で体積中位粒径が4μmに達した凝集体xを得た。その後、トナーのシェル用原料として水系分散体D−1を33g加え、撹拌してシェル凝集体xの周りに非晶質ポリエステルを形成させた。その後、凝集停止剤としてアニオン性界面活性剤「エマールE27C」(花王(株)製、固形分28質量%)4.2gを脱イオン水37gで希釈した希釈液を添加して、凝集体Xを得た。次いで80℃まで昇温し、80℃になった時点から1時間80℃を保持した後、加熱を終了した。これにより融着粒子を形成させた後、20℃まで徐冷し、150メッシュ(目開き150マイクロメートル)の金網でろ過した後、吸引ろ過を行い、洗浄、乾燥工程を経てトナー粒子を得た。
【0157】
(外添工程)
上記トナー粒子100質量部に対して、疎水性シリカ「NAX−50」(日本アエロジル(株)製、個数平均粒子径40nm)1.0質量部、疎水性シリカ「R972」(日本アエロジル(株)製、個数平均粒子径16nm)0.6質量部、酸化チタン「JMT−150IB」(テイカ(株)製、個数平均粒子径15nm)0.5質量部を、ST、A0撹拌羽根を装着した10Lヘンシェルミキサー(三井鉱山(株)製)に投入し、3000rpmにて2分間撹拌して、トナーを得た。得られたトナーの評価結果を表7に示す。
【0158】
実施例2〜6及び比較例1,2
実施例1において、用いた水系分散体を表7,8に示す水系分散体の種類と量に変更した以外は、実施例1と同様にして、トナーを得た。得られたトナーの評価結果を表7,8に示す。
【0159】
【表7】
【0160】
【表8】
【0161】
表7,8から、実施例の静電荷像現像用トナーは、比較例の静電荷像現像用トナーに比べて、いずれも低温定着性、耐熱保存性及び帯電性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0162】
本発明の製造方法により得られる静電荷像現像用トナーは、低温定着性、耐熱保存性及び帯電性が優れるため、電子写真法に用いられるトナーとして好適に使用できる。本発明の方法によれば、このような特性を有するトナーを効率的に製造することができる。