(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
水素、塩素、及びハロゲン系化合物から成るグループから選択したエッチングガスを用いて、前記エッチングプロセスを実行することを特徴とする請求項4に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
正極30の容量及び速度能力を増加させる1つの方法は、その表面を薄い炭素(カーボン)層で被覆(コーティング)するステップを含み、このことは、その導電性を改善し、
正極材料の大部分を電解質との反応から保護する。この種の取り組みは、(LiCoO
2、LiMn
2O
4、及びLiFePO
4のような)すべての
正極材料に適用することができ、有益な結果を伴う。
【0011】
LiCoO
2は、あらゆる
正極材料のうち最高の容量を有し、230mAh/gを有する。LiCoO
2は、非常に高い電子及びLi
+の伝導度も有して、優れた速度能力をもたらす。LiCoO
2正極の主要な問題のいくつかは、それらの高いコスト及び電解質との不安定な反応である。このことは最終的に、容量の減少及び貧弱なサイクル挙動をもたらす。
【0012】
図2Aに、およそ10μmの平均粒径を有する基礎LiCoO
2粒子のSEM像を示す。
図2Bに、溶解系プロセスによってカーボンブラックで被覆したLiCoO
2粒子のSEM像を示す。LiCoO
2化合物用の炭素被覆(カーボンコーティング)は、種々の特性を向上させる。例えば、接触抵抗の減少、及び
正極の大部分に至るリチウムイオンの拡散性の増加を達成することができる。
【0013】
LiCoO
2正極の主要な問題の1つが、高温での、コバルト(Co)の電解質中への溶解であり、セルの膨潤及び容量減少をもたらす。炭素被覆したLiCoO
2正極は、
図3Aに見られるように溶出の減少を示す。具体的には、85℃で、むき出しのLiCoO
2正極は100時間の貯蔵後に約1000ppmのCo溶出が生じる。これとは対照的に、炭素被覆したLiCoO
2正極は、同じ温度で同量の時間後に、300ppmしか溶出が生じない。炭素被覆は、電解質分解、及びこれに伴う
正極/電解質の境界面におけるガス発生を防止するものと考えられる。この改善の電気化学的な結果を
図3Bに示し、ここで、炭素被覆した試料の放電曲線は、1重量%の炭素被覆による質量の付加にもかかわらず、ほぼ10%の容量増加が生じている。従って、炭素被覆はLiCoO
2正極の性能を向上させるものと考えられる。
【0014】
LiMn
2O
4は第2の
正極材料である。この材料は、廉価であり、広く入手可能であり、そして環境に優しいので、将来有望である。この材料は、優れた速度能力を、約150mAh/gの理論容量と共に有する。しかし、この材料は、高温(55℃以上)での大幅な容量減少の問題がある。温度が増加すると、マンガン(Mn)が電解質と反応して腐食するものと考えられる。炭素被覆は、腐食を低減することによってLiMn
2O
4構造の電気化学的安定性を増加させることが示されている。
【0015】
図4Aに、炭素キセロゲル(乾膠体)で被覆したLiMn
2O
4粒子塊のSEM像を示す。個々の粒子は約40nmである。これらの粒子は、処理中に互いに結合して、何十ミクロンのオーダーの粒径を有する塊を形成する。
【0016】
図4Bに、被覆した、及び被覆なしのLiMn
2O
4について、50サイクルにわたって平均した放電容量を示す。被覆なしのLiMn
2O
4粒子は、電解質中に含まれる微量のHFと反応して、容量減少をもたらすものと考えられる。炭素被覆は、このHFに対する保護被覆として機能し、従って
正極の溶出を防止することができる。炭素被覆は、
正極からの酸素の発生を低減することによって、セルが容量の減少なしに、より高電圧で動作することも可能にする。このことは最終的に、電池を、過充電及び過放電に対してより耐性のあるものにする。
【0017】
第3の
正極材料LiFePO
4は、低コストであり、環境に優しく、そして170mAh/gという同程度の容量を有するので、いくつかの利点を有する。LiFePO
4は、他の
正極材料よりも、過充電及び過放電に対する耐性もある。しかし、貧弱な電子伝導度が、この材料が高サイクル速度の市場に参入するのを妨げていた。LiFePO
4は10
-9s/cmの導電率を有するのに対し、LiCoO
2は10
-3s/cmである。放電時にFe
3+を低減するためには高い導電率が必要であるので、この化学物質にとっては、この低い導電率が貧弱な速度性能に形を変える。
【0018】
図5Aに、ゾル−ゲル・プロセスを用いて750℃で、炭素で被覆したLiFePO
4の1μm径粒子のSEM像を示す。このプロセスは炭素の繊維状被覆を生じさせ、この被覆は大きい表面積を有するだけでなく、高導電率でもある。
【0019】
図5Bに、異なる量及び種類の炭素を含むいくつかのLiFePO
4セルの電気化学的速度性能を示す。種々の組成の重量測定容量を、放電レート(Cレート、放電率)の関数として測定した。その組成は、1%のフェロセンで被覆した
正極、6%のピロメリット酸(PA:pyromellitic acid)で被覆した
正極、及び6%のPA及び1%のフェロセンカルボン酸(FCA)で被覆した
正極を含む。他の検討では、0.7重量%の炭素のLiFePO
4への添加でも、室温導電率を2桁増加させることができることが示されている。
【0020】
概して、
図5Bは、LiFePO
4セルについては、炭素試料の重量%が高いほど、より高い速度でより良好に動作することを示しているが、炭素の性質がより重要である。より高いsp
2結合濃度が、より良好な導電率及び速度をもたらす。
【0021】
リチウム化合物を
正極用に被覆することに加えて、
負極を炭素の薄層で被覆することも有益であり得る。黒鉛(グラファイト)
負極とは異なり、シリコン及びゲルマニウムのような次世代の
負極材料は、不安定な固体電解質相間(SEI:solid electrolyte interphase)層を形成することが知られ、保護層を有することが有益であり得る。このSEI層は、
負極と電解質との間の反応生成物で組成され、Li
+及び
負極材料を消費するので、不可逆な容量損失に寄与し得る。黒鉛は安定なSEI層を形成することが知られているので、高度の黒鉛被覆が、非炭素
負極材料のSEI安定性を改善する、ということになる。
【0022】
シリコン及びゲルマニウムも、リチオ化時の体積膨張の問題があり、この体積膨張は、炭素の体積膨張率10%に比べて、300%にもなり得る。黒鉛被覆は、シリコン及びゲルマニウムに圧縮応力を与えるものと見られており、この圧縮応力は大きな体積変化の影響を低減することができる。代案として、SiCまたはGeC合金を作製することも、炭素の小さい体積膨張率を利用することによって、これらの
負極材料のクラッキング(亀裂)及び粉砕を低減することができる。炭素が提供する構造的安定性に加えて、炭素被覆及び合金は、導電率を増加させ、電解質と電極との境界面における接触抵抗を低下させることができる。高度に黒鉛状の炭素は高い導電率を有することが知られ、従って、電池のための電荷輸送を増進する。
【0023】
プラズマ蒸着した炭素膜を
図6に示す。プラズマ電力が減少すると共に、重合の度合いが増加することを示すことができる。重合の度合いが増加すると共に、フラーレン層の安定化効果が増加している。被覆なしの薄膜の容量が、従来の黒鉛電極より低い値に安定化する前に、急速に減少している。
【0024】
炭素被覆は、導電性でなければならないだけでなく、電解質溶液にとって適切な浸透性も有さなければならないことが知られている。この問題を解決する1つの方法は、大きな表面積を有するが導電性も高い多孔質の炭素層を堆積させることである。従って、多孔質の黒鉛状炭素構造を
正極及び
負極材料上に堆積させて、種々の化学物質について、高く安定なサイクル動作能力を生み出す新たな方法を説明する。
【0025】
図7を参照すれば、1つの好適なプラズマ処理装置100が例示されている。プラズマ処理装置100は、閉鎖空間103を規定するプロセスチャンバ102を含む。ガス源104は、主ガスを、質量流量(マスフロー)コントローラ(MFC)106を通して、プロセスチャンバ102の閉鎖空間103に供給する。ガスバッフル(ガス調節板)170をプロセスチャンバ102内に配置して、ガス源104からのガスの流れを偏向させることができる。圧力計108は、プロセスチャンバ102の内部の圧力を測定する。真空ポンプ112は、排気ガスを、プロセスチャンバ102から排気口110を通して真空排気する。排出バルブ114は、排気口110を通る排気コンダクタンス(導通性)を制御する。
【0026】
プラズマ処理装置100はさらに、ガス圧コントローラ116を含むことができ、ガス圧コントローラ116は、質量流量コントローラ106、圧力計108、及び排気バルブ114に電気接続されている。ガス圧コントローラ116は、圧力計108に応答するフィードバックループ内で、排気コンダクタンスを排気バルブ114で制御するか、プロセスガスの流量を質量流量コントローラ106で制御するかのいずれかによって、プロセスチャンバ102内の所望圧力を維持するように構成することができる。
【0027】
プロセスチャンバ102は、略水平方向に延びる誘電材料で形成された第1部分120を含むチャンバ上部118を有することができる。チャンバ上部118は、第1部分120からある高さまで略垂直方向に延びる誘電材料で形成された第2部分122も含む。チャンバ上部118はさらに、第2部分122を横切って水平方向に延びる導電性かつ伝熱性の材料で形成された蓋124を含む。
【0028】
このプラズマ処理装置はさらに、プロセスチャンバ102内にプラズマ140を発生するように構成された発生源101を含む。発生源101は、RF電力を平面アンテナ126及び螺旋(ヘリカル)アンテナ146の一方または両方に供給してプラズマ140を発生させるための電源のようなRF源を含むことができる。RF源150をインピーダンス整合回路網(インピーダンス・マッチング・ネットワーク)152によってアンテナ126、146に結合して、RF源150からRFアンテナ126、146へ伝達される電力を最大にすることができ、インピーダンス整合回路網152は、RF源150の出力インピーダンスをRFアンテナ126、146のインピーダンスに整合させる。
【0029】
このプラズマ処理装置は、プラテン134に電気接続されたバイアス電源190を含むこともできる。このプラズマドーピング・システムはさらに、コントローラ156及びユーザインタフェース・システム158を含むことができる。コントローラ156は、所望の入力/出力機能を実行するようにプログラムすることのできる汎用コンピュータまたは汎用コンピュータのネットワークとすることができるか、あるいはこれらを含むことができる。コントローラ156は、通信装置、データ記憶装置、及びソフトウェアを含むこともできる。ユーザインタフェース・システム158は、タッチスクリーン、キーボード、ユーザ・ポインティング(指示)装置、ディスプレイ、プリンタ、等のような装置を含んで、ユーザが、コマンド及びまたはデータを入力すること、及び/または、コントローラ156を通してプラズマドーピング装置を監視することを可能にすることができる。シールド(遮蔽)リング194をプラテン134の周りに配置して、注入されるイオン分布の均一性を、加工片(ワークピース)138のエッジ(縁部)付近において改善することができる。1つ以上のファラデーカップ199のようなファラデーセンサをシールドリング194内に配置して、イオンビーム電流を検出することもできる。
【0030】
動作中には、ガス源104が、加工片138に導入すべき所望ドーパントを含む主ガスを供給する。発生源101は、プラズマ140をプロセスチャンバ102内に発生するように構成されている。発生源101は、コントローラ156によって制御することができる。プラズマ140を発生するために、RF源150が、RFアンテナ126、146の少なくとも一方においてRF電流を共振させて、振動磁界を生成する。この振動磁界は、プロセスチャンバ102内にRF電流を誘導する。プロセスチャンバ102内のこの誘導電流が、主ドーパントガスを励起しイオン化してプラズマ140を発生する。
【0031】
バイアス電源190は、プラテン信号を供給して、プラテン134、従って加工片138にバイアスをかけて、プラズマ140からのイオン109を加工片138に向けて加速させる。イオン109は正に帯電したイオンとすることができ、従って、プラテン信号のオン期間をプロセスチャンバ102に対する負電圧パルスにして、正に帯電したイオンを誘引することができる。他の実施形態では、イオン109を負に帯電したイオンとすることができ、従って、プラテン信号のオン期間を正電圧パルスにして、負に帯電したイオンを誘引することができる。両者の場合に、プラテン134にバイアスをかけて、所望のイオンを加工片138に向けて誘引する。プラテン信号の振幅は、所望のエネルギーを供給するように選択することができる。
【0032】
多孔質炭素を堆積によって作製するために、C
xH
y、C
xB
yH
z、C
xP
yH
z、C
xN
yH
z、その他(ここにx、y、zは正の整数)を含む炭素系分子のような反応ガスを、プラズマ処理チャンバ102内に導入する。チャンバ102内の圧力は、約5〜40mTorr(0.67〜5.33Pa)のような非常に低圧に維持することが好ましい。一部の実施形態では、5mTorr(0.67Pa)に近い圧力のようなより低いチャンバ圧が、より大きい細孔径及びより高い多孔率を生じさせる。例えば、約5mTorrのチャンバ圧が50〜60%の多孔率を生じさせることができるのに対し、20mTorr(2.67Pa)のチャンバ圧は30〜40%の多孔率を生じさせる。
図11に、チャンバ圧と多孔率との代表的な関係を示す。さらに、ガスフラックス及び注入エネルギーを増加させることによって、堆積速度を増加させることができ、結果的により厚い膜が生じる。
【0033】
一部の実施形態では、約2kW〜5kWのRF電力を用いて反応ガスをイオン化する。炭素堆積については、興味深い2つの特性:即ち細孔径及び多孔率が存在する。細孔径は、希釈ガスの種類を制御することによって影響を与えることができる。一部の実施形態では、希釈ガスが水素、ヘリウム、ネオンまたはアルゴンを含むことができる。細孔径を変化させる他の方法は、希釈ガスの量を変化させることによる方法である。一部の実施形態では、水素及びヘリウムが、他の希釈ガスよりも均質な微小構造及び厚い膜を生じさせる。
図12に、異なる希釈ガスの細孔径に対する影響を示す。ヘリウムを希釈ガスとして使用することによって、水素で生成されるよりもずっと大きい細孔が生成される。同様に、ネオンを希釈ガスとして使用することによって、ヘリウムまたは水素よりも大きいが、より不均一な細孔が生成される。アルゴンを希釈ガスとして使用することによって、より少数の、より小さい細孔が生成される。
【0034】
1つの特定実施形態では、10mTorr(1.33Pa)のチャンバ圧を使用する。50%のCH
4を含むガス、3kVの注入エネルギー、及び3kWのRF電力を用いて、
図13に示すような多孔質炭素層を作製する。
【0035】
細孔径及び多孔率も、イオンの角度分布の調整によって制御することができる。例えば、法線方向に入射するイオンは多孔質シリコンを作製できないことがあるのに対し、5°より大きい入射角を有するイオンは、多孔質シリコンの作製を可能にする。
【0036】
他の実施形態では、プラズマシースの修正を用いて、イオンの入射角、従って細孔径を変化させることができる。
【0037】
図8は、プラズマシース修正器を有するプラズマ処理装置のブロック図である。プラズマ140は現在技術において知られているように発生する。このプラズマ140は全体的に、準中性のイオン及び電子の集合体である。これらのイオンは正の電荷を有するのに対し、電子は負の電荷を有する。プラズマ140は、例えばプラズマ140の大部分において約4〜40eV/cmの電界を有することができる。プラズマ140を含むシステムでは、プラズマ140からのイオン202が加工片138に向けて誘引される。これらのイオン202は、加工片138内に注入されるのに十分なエネルギーを伴って誘引することができる。プラズマ140は、プラズマシース242と称する加工片に近接した領域によって束縛することができる。プラズマシース242は、プラズマ140よりも少数の電子を有する領域である。従って、負電荷と正電荷との差が、プラズマシース242中にシース電位を生じさせる。このプラズマシース242からの発光は、プラズマ140よりも少数の電子が存在するので、より小強度であり、従って、少数の励起−弛緩の衝突しか発生しない。従って、プラズマシース242は時として「暗黒部(ダークスペース)」と称される。
【0038】
プラズマシース修正器201は、プラズマシース242内の電界を修正して、プラズマ140とプラズマシース242との境界241の形状を制御するように構成されている。従って、プラズマ140からプラズマシース242を越えて誘引されるイオン202は、広範囲の入射角で加工片138に当たることができる。このプラズマシース修正器201は、例えば、フォーカシングプレート(焦点調整板)またはシース・エンジニアリング・プレートと称されることがある。
【0039】
図8の実施形態では、プラズマシース修正器201が一対のパネル212及び214を含み、これらのパネル間に水平間隔(G)を有する開口が規定される。パネル212及び214は、絶縁体、半導体、または導体とすることができる。他の実施形態では、プラズマシース修正器201が1つのパネルのみ、あるいは3つ以上のパネルを含むことができる。パネル212及び214は、薄い平坦な形状を有する一対のシートとすることができる。他の実施形態では、パネル212及び214が、管状、くさび状のような他の形状を有することができ、及び/または、開口231に近接した傾斜エッジを有することができる。パネル212及び214は、加工片138の前面によって規定される平面251上に垂直間隔(Z)をおいて配置することもできる。一実施形態では、垂直間隔(Z)は約1.0〜10.0mmにすることができる。
【0040】
イオン202は、異なるメカニズムによって、プラズマ140からプラズマシース242を越えて誘引することができる。一例では、加工片138にバイアスをかけて、プラズマ140からのイオン202を、プラズマシース242を越えて誘引することができる。他の例では、プラズマ140を発生するプラズマ源及びプラズマ140を包囲する壁面に正のバイアスをかけて、加工片138を接地することができる。1つの特定実施形態では、このバイアスをパルスにすることができる。さらに他の例では、電界または磁界を用いて、プラズマ140からのイオンを加工片138に向けて誘引する。
【0041】
プラズマシース修正器201が、プラズマシース242内の電界を修正して、プラズマ140とプラズマシース242との境界の形状を制御することが有利である。一例では、プラズマ140とプラズマシース242との境界241が平面251に対して凸形状を有することができる。例えば、加工片138がバイアスをかけられると、イオン202がプラズマシース242を越えて、パネル212と214との間の開口231を通って、広範囲の入射角で誘引される。例えば、軌道経路271に従うイオン202は、平面251に対して+θ°の角度で加工片138に当たることができる。軌道経路270に従うイオン202は、同じ平面251に対して約0°の角度で加工片138に当たることができる。軌道経路269に従うイオン202は、平面251に対して−θ°の角度で加工片238に当たることができる。従って、入射角の範囲は、約0°を中心として+θ°〜−θ°とすることができる。これに加えて、経路269及び271のような一部のイオン軌道経路は互いに交差することがある。パネル212と214との間の水平間隔(G)、パネル212及び214の平面251上の垂直間隔(Z)、パネル212及び214の誘電率、あるいはプラズマ140の他のプロセスパラメータを含む(がこれらに限定されない)複数の要素に応じて、入射角(θ)の範囲を、約0°を中心として+60°〜−60°の間にすることができる。
【0042】
プラズマシース修正の利用により、多孔質炭素を堆積させることができる。この実施形態では、水素、ヘリウム、ネオンまたはアルゴンで希釈したCH
4を、先駆ガスとして用いることができる。上述したように、シース修正を利用して、多孔質炭素の細孔径及び多孔率を制御することができる。一部の実施形態では、細孔径及び多孔率は開口231(
図8参照)の幅と共に変化する。一部の実施形態では、開口231の幅の増加が、より小さい細孔径及びより高い多孔率を生じさせる。一部の実施形態では、0.5cm〜2.0cmの開口幅を用いる。開口幅を変化させることは、必然的に入射角分布を変化させる。これに加えて、有効なプラズマ相互作用密度が変化する。
【0043】
開口231の幅が入射角(θ)の範囲に影響することが知られているので、入射角に影響する他のパラメータも、多孔率及び細孔径に影響し得る。例えば、開口231の水平間隔(G)、パネル212及び214の平面251上の垂直間隔(Z)、パネル212及び214の誘電率、あるいは、チャンバ圧、ガスフラックス及びRF電力のようなプラズマ140の他のプロセスパラメータを用いて、多孔質炭素の細孔径及び多孔率を修正することもできる。これに加えて、パネル212及び214の互いに対する高さを変化することによって生成される二峰性(バイモーダル)の入射角分布、あるいは0°を中心としない広い入射角分布を用いて、粒径及び配向を制御することもでき、これらの入射角分布も多孔率レベルに影響し得る。
【0044】
一部の実施形態では、大きな外表面積が有益である。大きな外表面積は、リチウム拡散を増進することによって薄膜
正極の性能を改善する。このことは、電池のより高速な充電及び放電を可能にする。定義により、多孔質炭素は、その多数の細孔により大きな内表面積を有する。外表面積を増加させるために、多孔質材料の堆積に続いて、短いプラズマエッチングを実行する。一部の実施形態では、1平方センチメートル当たり1E16(1×10
16)原子から3E16(3×10
16)原子までの範囲の注入量での注入において、1kVのような低エネルギープラズマ処理を用いて多孔質材料をエッチングすることができる。そのエッチングガスは、H
2、Cl
2、BCl
3、HBr、CF
4、CHF
3、及び他のハロゲン系化合物とすることができる。一部の実施形態では、エッチングガスを、上記のガス及びアルゴン、及び/または窒素の混合物にして、エッチング速度を改善し、エッチング形状を整えることもできる。
【0045】
一実施形態では、大きな表面積を有する親水性表面を作製するために、SiCl
4プラズマ及びCl
2プラズマの混合物を使用する。塩素は、一般に使用されるエッチング剤であり、多孔質炭素の最上層を迅速に除去して内部の細孔を露出させる働きをする。SiCl
4をエッチング化学物質に添加することは、多孔質表面上にSiCl
4種を生成する働きをする。エッチングステップの完了時に、基板ウェハーを弱塩基性(例えばpH>8.0)の温水槽中に浸漬させることができる。このステップは、表面上のSiCl
xを加水分解して細孔を超親水性にするのに役立つ。四塩化シリコンは、実際には塩素によるSiエッチングの副生成物であるが、その量は、十分なSiCl
xを生成するには不十分なことがあり、従って、SiCl
4の添加を必要とする。
【0046】
本明細書に記載した細孔開口プロセス中には、基板にバイアスを印加すべきであり、このバイアスは1〜2kVの範囲内とすることができる。通常のCl
2エッチングプロセスに比べて、このバイアスは少し高く、例えば2〜4kVにすべきであり、このバイアスは、SiCl
x及び/またはClイオンが細孔内に貫入し、エッチングに比べてイオン注入を増進するのに役立つ。しかし、このバイアスは、塩素官能基を基板表面下に深く埋め込まないくらい十分に低くすべきである。これに加えて、シース内の衝突を低減し、高濃度のSiCl
x官能基が表面上に発生する確率を改善するためには、約5mTorr(0.67Pa)のようなより低いプロセス圧を必要とする。
【0047】
この能力の意義は、高い表面動力学特性を有する構造、並びに親水性表面を維持することにある。表面積を増加させることは、電気化学反応が行われるためのより大きな活性領域を与えることによって、薄膜電極の性能を大幅に改善する。このことは、電池のより高速な充電及び放電を可能にし得る。電解質が電極のより完全な湿潤(濡れ)を生じさせるためには、親水性の特性が望ましい。このことは、より均一なリチウム・インターカレーション(挿入)及び増加した速度能力に形を変える。
【0048】
sp
2またはsp
3結合を用いて炭素原子どうしを結合することができることが知られている。sp
3結合の方がより望ましくないことがある、というのは、この結合はダイヤモンド中に見出され、ダイヤモンドは絶縁性であり得る。これとは対照的に、sp
2結合は黒鉛中に見出されるものであり、より導電性が高い。これら2種類の炭素結合の比率を制御することが、高性能の多孔質炭素層の作製にとって重要であり得る。この比率は、CH
4ガス濃度、電力エネルギー、温度、及び圧力を含む種々のプラズマ・パラメータによって制御することができる。例えば、高いCH
4濃度及びチャンバ圧が、強力なsp
2堆積を促進するために有利であり得る。これに加えて、sp
2堆積が炭素イオンを必要としないことがあり、従って、RFプラズマを、300Wのようなより低い電力モードで動作させることができる。これに加えて、sp
3結合の形成を防止するに当たり、低い注入エネルギー及び低い温度が有益であり得る。
【0049】
図9に、2つの異なる注入エネルギーを用いて250℃で堆積させた炭素層のラマンスペクトルを示す。
図9Aは、プラテンに200Vより高いバイアスをかけた際のラマンスペクトルを示す。比較的大量のsp
3結合が生成されていることがわかる。これとは対照的に、
図9Bは、プラテンに50
V〜200Vのバイアスをかけた際のラマンスペクトルを示す。sp
3結合の量の低減がわかる。
【0050】
他の実施形態では、sp
2を有しsp
3でドーピングした多孔質炭素を用いて、多孔質層の性能を改善することができる。
【0051】
これに加えて、多孔質炭素の堆積及び随意的なエッチングプロセス後に、材料に(アルゴンあり、またはアルゴンなしの)酸素処理のような別個の親水化処理を施すことができる。このことは、多孔質層と電極との相互作用を改善する。
【0052】
図10に、本発明による電極の形成を例示するフローチャートを示す。ステップ400では、電極材料をプラズマチャンバ内に導入する。一部の実施形態では、電極を
正極材料とすることができ、この
正極材料は、アルミニウムの層を含むことができ、このアルミニウム上にリチウム系材料層を有する。他の実施形態では、電極をシリコンのような
負極材料とすることができる。ステップ410では、上述したように、多孔質炭素を電極材料上に堆積させる。希釈ガスのガス種及び濃度、ガス圧、注入角度、注入エネルギー、RF電力レベル、及び温度のような堆積に用いる特定パラメータを、必要に応じて変化させる。十分な量の炭素が堆積した後に、ステップ420に示すように、多孔質炭素を随意的にエッチングすることができる。このエッチングを用いて、多孔質材料の外表面積を増加させることができる。随意的に、ステップ430に示すように、多孔質炭素に親水化処理を施すことができる。一部の実施形態では、ステップ420に示すエッチングプロセスが、多孔質炭素をより親水性にする働きもし、これにより、別個の親水化処理の必要がなくなる。
【0053】
他の実施形態では、上述したように多孔質炭素を処理した1つ以上の電極を用いて、リチウムイオン電池を製造する。例えば、従来の
負極及び電解質を、上述したように多孔質炭素で処理した
正極と共に用いて、高性能電池を製造することができる。他の実施形態では、多孔質炭素で処理した
負極を用いて高性能電池を製造することができる。さらに他の実施形態では、従来の
正極及び電解質を、上述したように多孔質炭素で処理した
負極と共に用いて、高性能電池を製造することができる。
【0054】
本明細書に開示する方法は、従来のプロセスに対して有利である。競合する方法は、ピレンの熱分解、アスコルビン酸の熱水分解、クエン酸系のゾル−ゲル処理、アセチレンブラックの改良メカニカル活性化、及び遊星ボールミル粉砕で支援される噴霧熱分解である。これらの技術は、700℃を超える動作温度を必要とすることが多く、高い重量%のCを生じさせる。このことは、過度の質量を加えることによって
正極のエネルギー密度を低減する。提案するプロセスは室温で動作することができ、このことは、Fe、Co、及びMnのような
正極中の金属の酸化を防止する。
【0055】
提案するプロセスは、バイアスを印加した気固反応を含み、この気固反応は、表面の均一な被覆を可能にするだけでなく、
正極粒子内に貫入してない表面領域を被覆する利点も与える。この種のプロセスは、一般的な溶液系プロセスよりも、電極中に必要とするCの重量%が少なく、より高いエネルギー密度を生じさせる。注入を用いることは、サイクル動作中の注入/堆積層のより良好な粘着性及び安定性を可能にする。
【0056】
提案する技術の他の利点は、炭素層のsp
2/sp
3比に対する制御である。プラズマ・パラメータを調整して、高いsp
2/sp
3比を生じさせて、導電性を改善し電気化学性能を向上させることができる。
【0057】
本発明は、本明細書に記載した特定実施形態に範囲を限定されない。実際に、本明細書に記載した実施形態及び変更に加えて、本発明に対する他の種々の実施形態及び変更が、以上の説明及び添付した図面より、通常の当業者にとって明らかである。従って、こうした他の実施形態及び変更は実際に、本発明の範囲内に入る。さらに、本明細書では、本発明を、特定環境における特定目的での特定の実現に関連して説明してきたが、本発明の有用性はこれらに限定されず、そして本発明は、多数の環境において多数の目的で有益に実現することができることは、通常の当業者の認める所である。従って、以下に記載する特許請求の範囲は、本明細書に記載した本発明の全体の幅及び範囲を考慮して解釈すべきである。