【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明は、無針注射器から注射目的物質(注射液等)が注射器外部に射出される際に、注射目的物質が流れる流路の長さに着目した。注射目的物質が射出されるノズルとして複数の流路が設けられている場合、各流路の長さが異なると、流路の内壁面から注射目的物質が受ける抵抗力にばらつきが生じる。そこで、本発明は当該流路の長さを略等しくすることで、射出される注射目的物質に対する抵抗力のばらつき
を抑制することを可能とした。
【0008】
具体的には、本発明は、注射針を介することなく、注射目的物質を生体の注射対象領域に注射する無針注射器であって、前記注射目的物質を封入する封入部と、前記封入部に封入された前記注射目的物質に対して加圧する加圧部と、前記加圧部によって加圧された前記注射目的物質が射出口から前記注射対象領域に対して射出される射出部と、を備える。そして、当該無針注射器において、前記射出部は、その先端部が、注射器の使用時において前記射出口を含む所定の領域が前記注射対象領域に対して接触状態となるように外部に突出し、且つ所定の厚さを有する隔壁部と、前記隔壁部において前記射出口を含む流路が複数形成されたノズル部であって、該複数の流路のそれぞれは、加圧された前記注射目的物質が流れ込み、且つ各流路に沿った該注射目的物質の通過距離が略等しくなるように形成されたノズル部と、を有するように構成される。
【0009】
本発明に係る無針注射器では、封入部に封入されている注射目的物質に対して加圧部によって圧力が加えられることで、封入部から射出部に設けられた複数の流路のそれぞれに注射目的物質の移動が促される。その結果、各流路の射出口から注射目的物質が注射対象領域に対して射出される。この注射目的物質は、注射対象領域の内部で効能が期待される成分を含むものであり、上記のように加圧部により加えられる圧力がその射出時の駆動源である。そのため、加圧部による射出が可能であれば、注射目的物質の無針注射器内の収容状態や、液体やゲル状等の流体、粉体、粒状の固体等の注射目的物質の具体的な物理的形態は問われない。
【0010】
たとえば、注射目的物質は液体であり、また固体であっても射出を可能とする流動性が担保されればゲル状の固体であってもよい。更には、注射目的物質は、粉体の状態であってもよい。そして、注射目的物質には、生体の注射対象領域に送り込むべき成分が含まれ、当該成分は注射目的物質の内部に溶解した状態で存在してもよく、又は当該成分が溶解せずに単に混合された状態であってもよい。一例を挙げれば、送りこむべき成分として、抗体増強のためのワクチン、美容のためのタンパク質、毛髪再生用の培養細胞等があり、これらが射出可能となるように、液体、ゲル状等の流体に含まれることで注射目的物質が形成される。
【0011】
また、注射目的物質への加圧源は加圧による射出が可能である限りにおいて、様々な加圧源を利用することができる。たとえば、バネ等による弾性力を利用したもの、加圧されたガスを利用したもの、火薬の燃焼で発生するガスの圧力を利用したもの、加圧のための電気的アクチュエータ(モータやピエゾ素子等)を利用したものが、加圧源として挙げられる。また、ユーザの手動によって加圧を達成させる形態も採用し得る。
【0012】
ここで、射出部は、複数の流路のそれぞれの射出口を注射対象領域に対して接触状態となるように突出した形状を有する隔壁部に当該複数の流路を含むノズル部が形成される。換言すれば、隔壁部に複数の流路の射出口を含む所定の領域が配置されることで、ユーザが各流路の射出口を注射対象領域に接触させやすくするとともに、接触させた後に、その接触状態を維持しやすくなる。そして、隔壁部自体は、所定の厚さ(隔壁部全体にわたって一定の厚さ)を有するものであって、その厚さを利用して複数の流路が形成される。したがって、厳密には隔壁部の厚さ方向に対して各流路がどの向きに設定されるかによるが、各流路の流路長さ、すなわち、各流路を加圧された注射目的物質が流れるときの通過距離に、隔壁部の厚さが反映されることになる。
【0013】
そして、本発明に係る無針注射器では、ノズル部が、隔壁部に設けられた複数の流路を有し、その複数の流路について、各流路に沿った注射目的物質の通過距離がそれぞれ略等しくなるように、各流路が形成されている。このように各流路間で通過距離が等しくなる
ことで、各流路を流れる注射目的物質が流路の内壁面から受ける抵抗力のばらつきが抑制される。そのため、各流路から射出された射出後の注射目的物質の注射対象領域での挙動にばらつきが生じるのを抑制でき、以て、安定的に所望の注射深さを実現することが可能となる。
【0014】
ここで、上記無針注射器において、前記隔壁部は、球面の一部に相当する形状となるように突出し、前記ノズル部における複数の流路は、前記隔壁部において該隔壁部の球面形状に応じて放射状に配置されてもよい。隔壁部の形状を球面の一部に相当する形状とすることで、注射器の使用時にユーザが突出部を注射対象領域に接触させたときに感じる痛感を和らげることが可能となる。なお、痛感抑制の観点に立てば、隔壁部の形状を、その他の適切な曲面を有する形状としても構わない。また、ノズル部における複数の流路が放射状に配置されることで、各流路を流れる注射目的物質が流路の内壁面から受ける抵抗力のばらつきを抑制しながら、注射目的物質を広範囲に射出することが可能となり、注射器としての利便性を更に高めることが可能となる。
【0015】
また、上述までの無針注射器において、前記射出部の先端部は、注射器の使用時には、前記隔壁部以外の部位では、前記隔壁部を囲むように配置され且つ平面状の接触平面部を介してのみ前記注射対象領域に接触するように、前記射出部が構成されてもよい。このように、無針注射器の使用時において、先端部における隔壁部以外の注射対象領域との接触については、接触平面部を介してのみ接触状態が形成されることで、隔壁部と注射対象領域との密着性を上げることができる。すなわち、隔壁部以外に、注射対象領域の方に向けて突出した接触部位を設けないようにすることで、接触平面部を注射対象領域に接触させたときに隔壁部をより密着させて注射対象領域に接触させた状態を必然的に形成することが可能となり、以て、安定した注射深さの実現を図りやすくなる。
【0016】
ここで、上記の無針注射器において、前記加圧部は、駆動源からの駆動力によって前記注射目的物質を押圧するプランジャを有し、また、前記封入部は、前記プランジャの先端部表面と、前記射出部の先端部の内壁面によって画定される空間を有し、該空間を該プランジャが該突出部に対して相対的に進行することで該プランジャによる注射目的物質の押圧が行われるように構成されてもよい。そして、前記先端部の内壁面は、前記隔壁部の外側表面に対応し且つ前記複数の流路のそれぞれの流入口が開口する隔壁側凹部と、前記接触平面部に対応した隔壁内側平面部とを有し、前記プランジャの先端部表面は、前記隔壁側凹部に相似したプランジャ側突出部と、前記隔壁内側平面部に相似したプランジャ側平面部とを有し、その場合、前記プランジャが前記封入部内の注射目的物質を押圧する際に、前記プランジャ側平面部が前記隔壁内側平面部に接触することで、該封入部内における該プランジャの進行が阻止される。
【0017】
すなわち、プランジャの先端部表面と、封入部の注射目的物質を封入する空間を形成する先端部の内側表面(内表面)とを対応する形状とすることで、プランジャが駆動源からの駆動力で封入空間を進行した際に、当該封入空間に封入されていた注射目的物質を効率的に加圧して複数の流路に向かって押し出すことが可能となる。また、プランジャの進行自体は、プランジャの先端部表面の一部であるプランジャ側平面部と、射出部の先端部の内壁面の一部である隔壁内側平面部との接触によって阻止されることから、注射目的物質は、プランジャ側突出部と隔壁側凹部との間に収容されながら、隔壁側凹部に開口する流入口を経て複数の流路へと円滑に流れ込むことが可能となる。
【0018】
なお、プランジャの進行において、プランジャ側突出部と隔壁側凹部とが、プランジャ側平面部と隔壁内平面部との接触よりも早く接触してしまうと、複数の流路の流入口が開口していないプランジャ側平面部と隔壁内側平面部に挟まれた空間に注射目的物質が流れ込み、そこに滞留してしまいやすくなるため、効率的な注射目的物質の射出が難しくなる
可能性もある。そこで、上記に示すように、プランジャが封入部内の注射目的物質を押圧する際には、プランジャ側平面部が隔壁内側平面部に先に接触して該プランジャの進行が阻止される構成とするのが好ましい。更には、注射液の効率的な射出の観点に立てば、プランジャ側平面部が隔壁内側平面部に接触した時点における、プランジャ側突出部と隔壁側凹部との間の距離は、可及的に短くなるのが好ましい。
【0019】
また、プランジャ側平面部が隔壁内側平面部に先に接触して該プランジャの進行が阻止される構成の更なる利点として、無針注射器の機械的強度の設計がしやすくなる点が挙げられる。注射器の射出性能に大きく影響を与える複数の流路が形成されていない箇所でプランジャの進行を止めることで、注射目的物質が流路から受ける抵抗のばらつきを考慮する必要なく、プランジャの進行を確実に阻止できるように、プランジャ側平面部や隔壁内側平面部の厚さを大きくする等、強度補強に関する自由な設計が可能となる。
【0020】
ここで、上述までの無針注射器において、前記突出部は、前記複数の流路が形成された前記隔壁部と、前記隔壁部を前記射出部の本体側に保持するための部材であって、該隔壁部とは独立して構成される保持部材と、を含むように構成されてもよい。複数の流路が形成された隔壁部と、それを保持する保持部材とを別の構成とすることで、無針注射器における複数の流路の製造が容易となる。また、隔壁部の複数の流路の製造については、パンチング等の製造手法を利用でき、また、既定の開口径を有する多孔板部材を利用し当該多孔板部材を曲げ加工して成形してもよい。また、保持部材による保持の態様としては、圧入、係合的な手法によるスナップフィット、螺合的な手法によるネジ込み、弾性部材による締め付け等が採用できる。
【0021】
また、上述までの無針注射器において、前記複数の流路は、前記隔壁部の外側表面から突出した微小突起であって、該突起の内部に、加圧された注射目的物質が流れる貫通路が形成された複数のマイクロニードルで形成されてもよい。複数の流路がマイクロニードルとして形成されることで、射出部を注射対象領域に接触させたときに注射対象領域に対してマイクロニードルの突起が刺さった状態で、その内部の貫通路を経て注射目的物質を射出することができる。そのため、注射目的物質を注射対象領域の内部の所望の領域に、より確実に届けることが可能となる。なお、マイクロニードル自体は従来技術に係るものであり、例えば、米国特許第7,456,112号明細書、米国特許第6,881,203号明細書、米国特許6,503,231号明細書などに開示されている。