(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194347
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】錠剤の製造方法および医薬品
(51)【国際特許分類】
B30B 11/08 20060101AFI20170828BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
B30B11/08 F
B30B11/08 C
A61K9/20
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-231591(P2015-231591)
(22)【出願日】2015年11月27日
(65)【公開番号】特開2017-94378(P2017-94378A)
(43)【公開日】2017年6月1日
【審査請求日】2016年7月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】507225551
【氏名又は名称】第一三共プロファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】萩原 章
(72)【発明者】
【氏名】小原 和也
【審査官】
豊島 唯
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭61−205697(JP,U)
【文献】
特開2011−218432(JP,A)
【文献】
特開2010−260100(JP,A)
【文献】
特開2000−301390(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B30B 11/08
A61K 9/20
A61J 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転盤を回転させながら、該回転盤の盤面上に複数形成した各臼孔に錠剤の原料である粉体を順次供給し、前記各臼孔の盤面開口を擦切り板で擦り切ることで前記各臼孔に供給された粉体の量を一定にし、前記各臼孔に対向する杵で当該各臼孔内の粉体を打圧する打錠機を用いて行われる錠剤の製造方法であって、
回転中の前記回転盤の盤面上の所定エリアを連続的にカメラで撮影して該盤面における前記粉体の固着開始の兆候を判定するステップを含み、
前記カメラで撮影した複数の画像から抽出した前記粉体の面積の平均が所定量を超え、かつ、前記粉体の面積の振れ幅が所定以下になったことにより、前記盤面における前記粉体の固着が開始していると判定する、錠剤の製造方法。
【請求項2】
回転盤を回転させながら、該回転盤の盤面上に複数形成した各臼孔に錠剤の原料である粉体を順次供給し、前記各臼孔の盤面開口を擦切り板で擦り切ることで前記各臼孔に供給された粉体の量を一定にし、前記各臼孔に対向する杵で当該各臼孔内の粉体を打圧する打錠機を用いて行われる錠剤の製造方法であって、
回転中の前記回転盤の盤面上の所定エリアを連続的にカメラで撮影して該盤面における前記粉体の固着開始の兆候を判定するステップを含み、
前記カメラで撮影した複数の画像から抽出した前記粉体の面積の平均が所定量を超え、かつ、
前記粉体の面積の振れ幅が所定以下になったこと、前記粉体の面積の分散値が所定以下になったこと、前記粉体の面積の時間経過に対する傾きが一定以上になったことから選択される少なくとも1つ以上の条件を満たすことにより、前記盤面における前記粉体の固着が開始していると判定する、錠剤の製造方法。
【請求項3】
前記カメラにより撮影される前記所定エリアが、ある臼孔に対して、前記回転盤の回転半径方向における内側および外側であって、付勢手段により前記擦切り板の押圧力が作用している前記盤面上の2箇所を少なくとも含み、前記カメラで撮影した画像から抽出した粉体の測定値に基づいて、前記盤面における前記粉体の固着開始の兆候を判定する、請求項1又は2に記載の錠剤の製造方法。
【請求項4】
回転している前記回転盤の盤面上の一定の距離にわたり前記カメラで連続的に撮影した複数の画像において、前記粉体の固着開始の兆候を判定したとき、前記打錠機の稼働を停止させる、請求項1〜3の何れかに記載の錠剤の製造方法。
【請求項5】
前記打錠機により、それぞれ異なる有効成分を含む粉体が少なくとも二層以上積層して1個の錠剤が製造される、請求項1〜4の何れかに記載の錠剤の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の何れかの製造方法により錠剤として製造される医薬品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、打錠機を用いて行われる錠剤の製造方法、およびそれにより製造される医薬品やサプリメント等に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品である錠剤は、通常、打錠機と称される粉体圧縮製造装置により大量生産されている。打錠機は、周縁部に多数の臼孔が形成された回転盤と、当該回転盤の垂直方向へ上下に移動可能な上杵および下杵とを有し、回転盤を連続的に回転しながら、下杵によって底が形成された臼孔内に錠剤の原料である粉体を順次供給し、前記各臼孔に対向する上杵で当該各臼孔内の粉体を打圧して錠剤を圧縮成形する装置である。
臼孔内への粉体の充填量を一定にするために、回転盤の臼孔内へ供給された粉体は、各臼孔の盤面開口に沿って摺動する擦切り板で擦り切られる。しかし、回転盤面上に残された原料粉体が少量でも固着すると、擦切り板がその固着した粉体を乗り越えギャップが生じ、正確な充填量が確保できなくなるおそれがある。特に医薬品の場合、有効成分の量が異なると、製品不良等の重大な問題を引き起こすこととなる。
【0003】
そのため、回転盤面に残存する不用粉体を除去する方法として、吸引による除去(例えば、特許文献1参照)、掻き取りによる除去(例えば、特許文献2参照)などが提案されているが、これらの方法を用いても、粉体の性状によっては回転盤面に固着した不用粉体を完全に除去することができない場合もある。特に、配合錠(多層錠)の場合には、極微量の粉体であっても他の層の粉体への混入(コンタミネーション)は有効成分の変質を引き起こすことがある。従って、粉体が回転盤に固着した状態で打錠機を連続稼動させると製造中のロット全てを規格外の製品不良として廃棄せざるを得ない等、医薬品製造業者に甚大な経済的損失をもたらすことにもなる。
そこで、例えば特許文献3には、回転盤面上の不用粉体を実質的に完全に取り除く方法として、不活性洗浄用粉体を回転盤面に供給し、撹拌翼で洗浄用粉体を回転盤面に擦り付けながら不用粉体を取り除き、洗浄用粉体とともに排出する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−95855号公報
【特許文献2】特開平4−80691号公報
【特許文献3】特許第5517713号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述した技術は、打錠機の回転盤面上に堆積する不用粉体を物理的に除去する方法として一定の効果が期待できる。しかし、一旦、粉体が固着状態となって回転盤面にこびり付くと、その固着した粉体を従来の吸引や掻き取る方法で取り除くことは困難である。上述したように医薬品の製造現場では、製造中のロット内でコンタミネーションが発生すると、そのロット全ての製品を廃棄しなければならない。そのため、打錠機の稼働中は、作業員が定期的に盤面の状態を監視したり、一定時間ごとに抜き取り検査を行ったりする等、作業員が常駐して異常の有無を監視する必要があった。
【0006】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、錠剤を製造する打錠機において回転盤面に粉体が固着することによる悪影響を未然に防止し、これにより医薬品等を製造する作業効率のロスを少なくするなどの技術を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明は、回転盤を回転させながら、該回転盤の盤面上に複数形成した各臼孔に錠剤の原料である粉体を順次供給し、前記各臼孔の盤面開口を擦切り板で擦り切ることで前記各臼孔に供給された粉体の量を一定にし、前記各臼孔に対向する杵で当該各臼孔内の粉体を打圧する打錠機を用いて行われる錠剤の製造方法であって、回転中の前記回転盤の盤面上の所定エリアを
連続的にカメラで撮影し
て該盤面における前記粉体の固着開始の兆候を判定するステップを含み、前記カメラで撮影した複数の画像から抽出した前記粉体の面積の平均が所定量を超え、かつ、前記粉体の面積の振れ幅が所定以下になったことにより、前記盤面における前記粉体の固着が開始していると判定する、錠剤の製造方法である。
【0008】
また、本発明は、回転盤を回転させながら、該回転盤の盤面上に複数形成した各臼孔に錠剤の原料である粉体を順次供給し、前記各臼孔の盤面開口を擦切り板で擦り切ることで前記各臼孔に供給された粉体の量を一定にし、前記各臼孔に対向する杵で当該各臼孔内の粉体を打圧する打錠機を用いて行われる錠剤の製造方法であって、回転中の前記回転盤の盤面上の所定エリアを連続的にカメラで撮影して該盤面における前記粉体の固着開始の兆候を判定するステップを含み、前記カメラで撮影した複数の画像から抽出した前記粉体の面積の平均が所定量を超え、かつ、前記粉体の面積の振れ幅が所定以下になったこと、前記粉体の面積の分散値が所定以下になったこと、前記粉体の面積の時間経過に対する傾きが一定以上になったことから選択される少なくとも1つ以上の条件を満たすことにより、前記盤面における前記粉体の固着が開始していると判定する、錠剤の製造方法である。
【0009】
前記カメラにより撮影される前記所定エリアが、ある臼孔に対して、前記回転盤の回転半径方向における内側および外側であって、付勢手段により前記擦切り板の押圧力が作用している前記盤面上の2箇所を少なくとも含み、前記カメラで撮影した画像から抽出した粉体の測定値に基づいて、前記盤面における前記粉体の固着開始の兆候を判定することが好ましい。
【0010】
更に、回転している前記回転盤の盤面上の一定の距離にわたり前記カメラで連続的に撮影した複数の画像において、前記粉体の固着開始の兆候を判定したとき、前記打錠機の稼働を停止させることが好ましい。
【0011】
また、前記打錠機により、それぞれ異なる有効成分を含む粉体が少なくとも二層以上積層して1個の錠剤が製造されることが好ましい。
【0012】
また、本発明は、前記製造方法により錠剤として製造される医薬品である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転盤面に粉体が固着することに起因する悪影響を未然に防止することができる。また、作業員が打錠機の状態を常時監視する必要がなく、これにより昼夜を問わずに操業ができる等、錠剤の製造作業の効率を、従来よりも格段に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施形態による打錠機の概略構成を模式的に示す平面図である。
【
図2】実施形態の打錠機により三層錠を製造する工程を説明するための図である。
【
図3】カメラによりモニタリングする回転盤面上の所定エリアを例示する斜視図である。
【
図4】所定エリアを中心とした反射対応領域の位置関係を説明するための縦断面図である。
【
図5】回転盤面に残存する粉体の面積に対応するピクセル数を時系列にプロットした一例を示すグラフである。
【
図6】実施例の条件で盤面に残存する粉体のピクセル数をモニタリングした結果を示すグラフである。
【
図7】実施例の条件で盤面に残存する粉体のピクセル数をモニタリングした結果を更に示すグラフである。
【
図8】実施例の条件で盤面に残存する粉体のピクセル数をモニタリングした結果を更に示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る錠剤の製造方法が用いられる打錠機の実施形態として、三層錠を連続的に圧縮成形するロータリー型の打錠機10を説明する。ここで、
図1は、打錠機10の概略構成を模式的に示す平面図、
図2は、打錠機10により三層錠を製造する工程を説明するための図である。
なお、本発明は、ここで説明する実施形態に限定されず、例えば単層または二層の錠剤の製造においても適用することができる。また、医薬品のみならず、他の例えばサプリメント等の製造にも本発明を適用することができる。
【0016】
打錠機10は、周縁部に多数の臼孔12、12、・・・が形成された回転盤11と、回転盤11の臼孔12、12、・・・内で垂直方向に上下に移動可能な下杵13、13、・・・と、下杵13、13、・・・に対向して同じく上下に移動する上杵14、14、・・・とを備えている。三層錠を製造する打錠機10では、回転盤11の周方向における3箇所に、錠剤の各層の原料粉体を臼孔12、12、・・・に供給するためのフィーダ装置21、22、23が設けられている。例えば、第一のフィーダ装置21は、三層錠の第一層目の有効成分を含む粉体を臼孔12に供給する装置であり、第二のフィーダ装置22は、第二層目の中間層粉体を臼孔12に供給する装置であり、第三のフィーダ装置23は、第三層目の有効成分を含む粉体を臼孔12に供給する装置である。
【0017】
回転盤11の盤面において各フィーダ装置21、22、23の下流側には、フィーダ装置21、22、23が臼孔12内へ供給した粉体の量をそれぞれ一定にするために、臼孔12の盤面開口上を摺動する擦切り板31、32、33が設けられている。また、第三層目のフィーダ装置23の下流位置には、三層に圧縮成形された錠剤を回収するための製品シュータ40が設けられている。
【0018】
図2を参照して、打錠機10による三層錠の製造工程の概略を説明する。
まず、第一のフィーダ装置21は、回転している回転盤11の面上で、三層錠の第一層目の有効成分(第一成分)を含む粉体を臼孔12内へ供給する。回転する回転盤11の盤面上を摺動する擦切り板31が、臼孔12の開口面を擦り切ることにより、臼孔12内に充填された第一成分の粉体の量が一定にされる。
第一の擦切り板31を通過した臼孔12内では、互いに対向する上杵14と下杵13とがカム機構により接近し、臼孔12に充填された第一成分の粉体が圧縮成形される。
【0019】
次に、第二のフィーダ装置22は、回転中の回転盤11の面上で、第一層目が圧縮された臼孔12に、中間層となる第二層目の粉体を供給する。擦切り板32が、臼孔12の開口面を擦り切ることにより、臼孔12内の中間層粉体の充填量を一定にする。そして、対向する上杵14と下杵13とにより中間層を含む粉体が圧縮成形される。
【0020】
続いて、第三のフィーダ装置23は、第一層目および第二層目が圧縮された臼孔12に、第三層目の有効成分(第二成分)を含む粉体を供給する。擦切り板33が、臼孔12の開口面を擦り切ることにより、第二成分の粉体量を一定にする。そして、対向する上杵14と下杵13とにより、第一および第二成分を含む粉体層が圧縮成形される。以上のような工程を経て、例えば医薬品である三層錠を、連続的に大量に製造することができる。
【0021】
ここで、各臼孔12内への粉体の充填量は、擦切り板31、32、33により一定にされるが、回転盤11の盤面上に粉体が残存し、擦切り板等との圧力により粉体が固着すると(粉体が回転盤上に付着し固まった状態で残ることを、本明細書では「固着」という。)、擦切り板がその固着した粉体を乗り越えるときにギャップが生じ、正確な充填量が確保できなくなる。特に、医薬品の有効成分の量や比率が異なると、効能の低下や副作用などの悪影響を引き起こすこととなる。また、複数の有効成分を別々に異なる賦形剤からなる粉体に含ませ、それら粉体を積層して1個の錠剤に成型した多層錠の場合、極微量の粉体であっても他の層の粉体への混入(コンタミネーション)は、有効成分の変質を引き起こすこともある。従って、粉体が回転盤に固着した状態で打錠機を連続稼動させるとロット全ての製品を規格外の製品不良として廃棄する等の甚大な経済的損失を被ることにもなる。
【0022】
そこで、本実施形態では、打錠機10を監視するシステムのコントローラ60が、カメラ51、52で撮影した画像に基づいて、回転盤11の盤面に残る粉体の固着開始の兆候を判定したときに、打錠機10の稼働を自動的に停止させるステップを含む。これにより、ロット全ての製品の廃棄等の甚大な損失を防ぐことができる。また、連続操業する打錠機10の監視のため作業員を常駐させておく必要がないので、錠剤の製造作業効率の向上に加え、夜間の無人運転を可能にする等、人件費のコスト低下も図ることができる。
【0023】
具体的に、発明者らは、まず、回転盤11の粉体の固着を的確に監視するのに好適なカメラの設置条件を、複数回の実験を通して検証した。その結果、例えば
図3に示すように、撮影により監視すべきエリアは、撮影対象の臼孔12に対して、回転盤11の回転半径方向における内側(つまり回転中心軸側)および外側(つまり回転外周側)の2箇所のエリア50a、50bを少なくとも含むことが好ましいことが解った。
【0024】
すなわち、カメラ51、52で撮影すべき所定エリア50a、50bは、フィーダの形状や擦切り板等による、直下への圧力差によって粉体の固着の発生頻度が比較的高いと推測される箇所を含むように設定されるべきことが好ましい。
【0025】
また、回転盤11等の表面は金属光沢を有しているため、盤面上の所定エリア50a、50bを撮影した画像には、反射した背後の金属部材の表面も写し込まれることとなる。そのため、後述するように画像を解析する際、その反射した金属表面が粉体として抽出されないようにする対策を講じることが好ましい。例えば
図4に示すように、カメラ51、52から見て、所定エリア50a、50bを中心とした反射対応領域である、回転盤11の中心側の胴体11b表面と、更には粉末の特性により、固着が黒系場合等の検出率向上のため、必要な場合には回転盤11に対向する上部回転盤11uに、非反射性部材36を配置することが好ましい。また、反射対応領域に、つや消しブラック等の反射を抑制するような塗料を塗布してもよい。
【0026】
コントローラ60は、カメラ51、52で撮影した画像から、回転盤11の盤面に残る粉体を画像処理により抽出する。コントローラ60は、例えば画像をブロブ解析して、粉体と判定したピクセルの個数に基づいて粉体の面積を演算することができる。ここで「ブロブ解析」とは、グレー階調を有する画像を「0」(白)または「1」(黒)の2値に変換して、対象物のブロブ(「塊」という意味)の有無、数、面積、長さ、方向などの形状的特徴を解析する画像処理手法をいう。
【0027】
図5は、事前の検証において、ブロブ解析によりカウントした白点の個数(残存する粉体面積に対応する。)を時系列にプロットした一例を示すグラフである。なお、
図5の縦軸に示す個数は、200×100=20,000ピクセル(6mm×3mm)の撮影エリアにおいて粉体(白)と判別したピクセルをカウントした値(以下、白点の「個数」という。)である。
【0028】
図5から解るように、粉体が盤面上に堆積し拡散した状態(粉体が回転盤に固着する前のいわば粉汚れ状態)では、白点の個数のバラツキ(振れ幅)が大きいが、個数の平均をとると1200前後の値で推移している。そして、ある時点から個数の振れ幅が収束し(例えば500前後)、個数の平均が上昇に転じた後、数十分程度で閾値である3500を超えることが観察される。このように、盤面上で粉体の固着が開始すると、撮影された粉体の個数の平均が上昇に転じ(つまり時間経過に対する傾きが急峻になり)、その振れ幅が小さくなる等の挙動が変化することが解っている。
【0029】
したがって、コントローラ60は、2台のカメラ51、52により時系列に撮影した複数の画像から、所定エリア50a、50bにおける粉体の面積の平均が所定量(例えば白点の個数の閾値:3500)を超えたことを一つの条件に、粉体の固着が開始していると判定することができる。粉体の固着を判定する閾値は、複数回の実験や運用実績に応じて設定できるが、後述する実施例では閾値を3500に設定している。
【0030】
また、コントローラ60は、紛体の面積(白点の個数)の振れ幅が所定以下(例えば1/4以下)になったことを一つの条件に、粉体の固着が開始していると判定することができる。または紛体の面積(白点の個数)の分散値(バラツキの指標)が所定以下になったことを一つの条件に、粉体の固着が開始していると判定してもよい。また、コントローラ60は、紛体の面積(白点の個数)の時間経過に対する傾きが一定以上になったことを、粉体の固着開始を判定する条件に加えてもよい。
【0031】
粉体の固着を判定するための閾値を下げると、粉体が固着していないにもかかわらず、測定値が閾値を超えて固着と誤判定する可能性が高まる。他方、閾値を高く設定すると、固着開始の判定が遅れ、不良製品の発生を許してしまうおそれが高まる。そこで、固着開始を正確に判定するため、コントローラ60は、回転している回転盤11の盤面上の一定の距離(例えば半周)にわたって連続的に撮影した全数の画像において、粉体の測定値が所定の閾値を超えたことを条件に固着が開始したと判定することが好ましい。
【実施例】
【0032】
表1に、本実施例による打錠機で製造した錠剤の有効成分および形状等(直径、厚さ、重さ)を示す。
【表1】
【0033】
なお、本実施例において、アゼルニジピンは血管の収縮を抑える薬であり、オルメサルタンは継続的に血圧を下げる薬である。錠剤の各層においてアゼルニジピンにはアルカリ性の賦形剤が用いられ、逆にオルメサルタンには酸性の賦形剤が用いられている。このレザルタス(登録商標)配合錠は、両有効成分の酸塩基反応による変性を防ぐために、両有効成分層の間に中性の賦形剤である乳糖等を含む中間層を設けた三層錠として提供されている。
【0034】
表2に、本実施例による打錠機の仕様とカメラの撮影条件を示す。
【表2】
【0035】
回転する盤面上において、
図3に示した所定の撮影エリア(50a、50b)を撮影するために、カメラによる撮影間隔を臼孔の移動に同期させた。ただし、撮影位置が徐々にずれるなどの累積誤差を防ぐため、回転盤が1回転する毎に同期をリセットしている。
【0036】
上記条件で打錠機の連続稼働を行い、2台のカメラで回転盤上の撮影エリアを時系列に撮影した。そして、カメラで撮影した撮影エリアの画像からブロブ解析により、回転盤の盤面に残る粉体の面積を、粉体と判定しカウントしたピクセルの個数に基づいて演算した。
粉体の残存面積(白点の個数)の平均が所定量を超えたことを条件(表3)に、打錠機の稼働を自動的に停止させるように設定した。つまり、表3の停止条件を満たすときには、回転盤面に残存する粉体の固着が既に開始していると推定され、これ以上稼動を続けると、製品としての医薬品の品質に有意な影響を及ぼす限界であると判断した。
【0037】
【表3】
【0038】
盤面上に粉体が拡散しているだけの状態(いわば固着していない状態)では、個々の画像からカウントされる粉体の個数に大きなバラツキが観察され(例えば
図4参照)、粉体が固着状態でなくても、カウント数が閾値を超える場合がある。このように医薬品の品質に悪影響を及ぼさない正常範囲にも関わらず、打錠機が頻繁に止まるという事態を避けるため、本実施例では回転中の回転盤面上の一定の距離にわたり、粉体の面積(白点の個数)が予め定めた閾値を連続して超えた時点で、打錠機の稼動を停止させることとした。なお、表3に示される閾値越えの回数は、回転盤の約半周(臼孔・杵が33個分)に相当する距離に対応している。
つまり、回転盤が1回転(約6秒)するうち、約半周分(約3秒)の面上で、連続して閾値を超える量の粉体を検出したときに打錠機の稼働を停止させるように設定した。
【0039】
打錠機の稼働停止の閾値の設定に際しては、事前の検証実験により得られた固着開始の個数の振れ幅2000〜5000に基づいて、当初閾値をその中間値である3000と設定した。しかし、今後、経時劣化によるカメラに入光する光量の低下や、カメラレンズへの粉末の付着の影響等を考慮し、閾値を3500と設定した場合において問題がないか検証を深めた。
図6〜8に、3ロットでそれぞれ3日間、粉体の個数を連続してモニタリングした結果を示す。何れのロットにおいても、打錠機の停止はなく、かつ、製品不良も生じていない。このように、本実施例における表3の停止条件の的確性および妥当性が、実証実験により確認されている。
【符号の説明】
【0040】
10 打錠機
11 回転盤
12 臼孔
13 下杵
14 上杵
21、22、23 フィーダ装置
31、32、33 擦切り板
35a、35b バネ
36 非反射性部材
40 製品シュータ
50a、50b 監視する所定エリア
51、52 カメラ
60 監視システムのコントローラ