特許第6194377号(P6194377)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194377
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】センサ及びセンサシステム
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/327 20060101AFI20170828BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
   G01N27/327 353R
   G01N27/327 353T
   G01N27/327 353J
   G01N27/416 338
【請求項の数】12
【全頁数】33
(21)【出願番号】特願2016-19074(P2016-19074)
(22)【出願日】2016年2月3日
(62)【分割の表示】特願2012-536223(P2012-536223)の分割
【原出願日】2011年9月30日
(65)【公開番号】特開2016-105106(P2016-105106A)
(43)【公開日】2016年6月9日
【審査請求日】2016年2月3日
(31)【優先権主張番号】特願2010-222142(P2010-222142)
(32)【優先日】2010年9月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】314005768
【氏名又は名称】パナソニックヘルスケアホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105050
【弁理士】
【氏名又は名称】鷲田 公一
(72)【発明者】
【氏名】内山 素記
(72)【発明者】
【氏名】河野 拓生
【審査官】 櫃本 研太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−243380(JP,A)
【文献】 特表2007−526474(JP,A)
【文献】 特開2003−185619(JP,A)
【文献】 特開2010−032501(JP,A)
【文献】 米国特許第04325936(US,A)
【文献】 КУЛИС Ю.Ю, ЧЕНАС Н.К,Ферментативное окисление глюкозы на модифицированны,Biokhimiya,1981年10月,Vol.46 No.10,p.1780-1786
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/26−27/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料が入るように形成された、開口部を備える試料室と、
前記試料室内に配置された少なくとも一対の電極と、
前記試料室内に形成された試薬層と、
を有し、
前記試薬層は、酸化還元酵素と
電子受容体と、
下記一般式(I)で表される複素環式化合物と、を含有し、下記第一の要件及び第二の要件を満足する、センサ。
【化1】
(R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基及び炭素数1〜12の炭化水素基からなる群から選択される置換基を表し、
前記炭化水素基は、アミノ基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよく、
〜Aのうちの2個又は3個が窒素原子であって、他は炭素原子であり、
一般式(I)中のA〜Aのうちの2個が窒素原子であるときは、Aが窒素原子であり、A及びAが炭素原子である。)
(第一の要件)
前記電子受容体が9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン酸又はその塩である。
(第二の要件)
前記複素環式化合物がイミダゾール及びヒスチジンを含まず、
一般式(I)中のA〜Aのうちの2個が窒素原子であるときは、R〜Rのうち、少なくとも1個の基が水素原子以外の置換基である。
【請求項2】
前記複素環式化合物が窒素原子を3個以上有する、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項3】
前記一般式(I)において、R〜Rの少なくとも1つの基が、
m−(a+b+c)(R(R(Rで表される鎖式炭化水素基であり、
nは2以下の自然数を表し、
mはn+1以上2n+1以下の自然数を表し、
a、b及びcはそれぞれ独立してn以下の自然数を表し、
〜Rは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる群から選択される置換基を表す、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項4】
前記R〜Rの少なくとも1つは、アミノ基を有する置換基である、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項5】
前記複素環式化合物の五員複素環がトリアゾールである、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項6】
前記複素環式化合物として、ヒスタミン、2−アミノーイミダゾール、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有する、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項7】
前記酸化還元酵素として、グルコース脱水素酵素を含有する、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項8】
前記酸化還元酵素に合う補酵素をさらに含有する、
請求項7に記載のセンサ。
【請求項9】
前記酸化還元酵素は、PQQ依存性又はFAD依存性を有する、
請求項8に記載のセンサ。
【請求項10】
前記試薬層は、固体である、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項11】
前記試薬層は、少なくとも前記一対の電極の両方に接するように配置された、
請求項1に記載のセンサ。
【請求項12】
請求項1に記載のセンサと、
前記少なくとも一対の電極の電流値を測定する測定部と、
前記測定部による測定結果に基づいて、前記液体試料中の対象物質の濃度を算出する算出部と、
を有するセンサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、センサ及びセンサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液体試料中の標的物質を検出するセンサが提案されている。センサの一例である血糖センサにおいては、液体試料は血液であり、標的物質はグルコースである。
【0003】
血糖センサのうち、特に多く提案されているのは、電気化学式の血糖センサである。電気化学式の血糖センサは、酵素及び電子受容体を備える。この酵素は、血液中のグルコースと特異的に反応(酵素−基質反応)することでグルコースを酸化する。電子受容体は、酸化によって発生した電子を受容することで、酸化体から還元体になる。還元体となった電子受容体は、例えば電極で電気化学的に酸化される。この酸化によって得られる電流の大きさから、血液中のグルコース濃度、すなわち血糖値が簡便に検出される。
【0004】
一般的なセンサの製造では、酵素及び電子受容体は、試薬液中に溶解した状態で基板上に塗布される。試薬液が乾燥することで、試薬層が形成される。形成された試薬層が液体試料中に溶解することで、酵素−基質反応が進行する。
【0005】
このような試薬組成物として、グルコースデヒドロゲナーゼ等の酸化還元酵素、キノン類化合物等の電子受容体、及び添加剤としてのヒスチジンやイミダゾールを含有する試薬組成物が知られている(例えば、特許文献1、2、4参照。)。また、試薬組成物としては、PQQ(ピロロキノリンキノン)依存性のグルコースデヒドロゲナーゼ等の酸化還元酵素、及びピリジルイミダゾール配位子を有する遷移金属錯体を含有する試薬組成物が知られている(例えば、特許文献3参照。)。また、キノン化合物とイミダゾールとを含有する溶液において、キノン化合物の電位が特定のpHで負側にシフトすることが知られている(例えば、非特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−171428号公報
【特許文献2】特開2001−343350号公報
【特許文献3】特表2006−509837号公報
【特許文献4】特開2009−247289号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Bioelectrochemistry, 64, (2004), p.7 - 13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
発明者らは、試薬液又は試薬層が保存期間を経る前と後とでは、電圧を印加したときの電流値が変化し得ることを見出した。このような電流値の変化は、センサによる測定精度を低下させる。つまり、従来の試薬液及び試薬層は、保存安定性に改善の余地がある。
【0009】
本発明は、この問題点に鑑みて、保存期間の前後での電流値の変化が抑制される新たな試薬組成物を備えるセンサ及びセンサシステムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するための手段として、本発明は以下の構成を有する。
【0011】
[1]液体試料が入るように形成された、開口部を備える試料室と、前記試料室内に配置された少なくとも一対の電極と、前記試料室内に形成された試薬層と、を有し、前記試薬層は、酸化還元酵素と電子受容体と、下記一般式(I)で表される複素環式化合物と、を含有し、下記第一の要件及び第二の要件を満足する、センサ。
【0012】
【化1】
【0013】
(R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基及び炭素数1〜12の炭化水素基からなる群から選択される置換基を表し、前記炭化水素基は、アミノ基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよく、A〜Aのうちの2個又は3個が窒素原子であって、他は炭素原子であり、一般式(I)中のA〜Aのうちの2個が窒素原子であるときは、Aが窒素原子であり、A及びAが炭素原子である。)
【0014】
(第一の要件)
前記電子受容体が9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン産又はその酸である。
(第二の要件)
前記複素環式化合物がイミダゾール及びヒスチジンを含まず、
一般式(I)中のA〜Aのうちの2個が窒素原子であるときは、R〜Rのうち、少なくとも1個の基が水素原子以外の置換基である。
[2]前記複素環式化合物が窒素原子を3個以上有する、[1]に記載のセンサ。
[3]前記一般式(I)において、R〜Rの少なくとも1つの基が、Cm−(a+b+c)(R(R(Rで表される鎖式炭化水素基であり、nは2以下の自然数を表し、mはn+1以上2n+1以下の自然数を表し、a、b及びcはそれぞれ独立してn以下の自然数を表し、R〜Rは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、カルボキシル基及びアミノ基からなる群から選択される置換基を表す、[1]に記載のセンサ。
[4]前記R〜Rの少なくとも1つは、アミノ基を有する置換基である、[1]に記載のセンサ。
[5]前記複素環式化合物の五員複素環がトリアゾールである、[1]に記載のセンサ。
[6]前記複素環式化合物として、ヒスタミン、2−アミノーイミダゾール、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールからなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有する、[1]に記載のセンサ。
[7]前記酸化還元酵素として、グルコース脱水素酵素を含有する、[1]に記載のセンサ。
[8]前記酸化還元酵素に合う補酵素をさらに含有する、[7]に記載のセンサ。
[9]前記酸化還元酵素は、PQQ依存性又はFAD依存性を有する、[8]に記載のセンサ。
[10]前記試薬層は、固体である、[1]に記載のセンサ。
[11]前記試薬層は、少なくとも前記一対の電極の両方に接するように配置された、[1]に記載のセンサ。
[12][1]に記載のセンサと、前記少なくとも一対の電極の電流値を測定する測定部と、前記測定部による測定結果に基づいて、前記液体試料中の対象物質の濃度を算出する算出部と、を有するセンサシステム。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセンサ及びセンサシステムが含む試薬組成物は、複素環式化合物により、保存期間の前後での電流値の変化が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】センサの概略構成を示す分解斜視図。
図2】センサシステムの概略構成を示す斜視図。
図3】センサシステムの概略構成を示すブロック図。
図4】イミダゾール及び9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン酸ナトリウム(PQSA)を含有する試薬液についてのサイクリックボルタモグラムであり、調製直後(初期)の試薬液については点線で、調製から21時間後の試薬液については実線で表す。
図5】イミダゾールを含まずPQSAを含有する試薬液についてのサイクリックボルタモグラムであり、調製直後(初期)の試薬液については点線で、調製から21時間後の試薬液については実線で表す。
図6】イミダゾールを含有する調製直後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値(初期)からの、同組成を有し調製から21時間保存された後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値の乖離度を示すグラフ。
図7】イミダゾールを含まない調製直後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値(初期)からの、同組成を有し調製から21時間保存された後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値の乖離度を示すグラフ。
図8】調製直後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値に対する、25℃、湿度5%で24時間保存した試薬液で作製されたセンサの応答電流値の変化率を示すグラフである(添加剤:3−アミノ−1,2,4−トリアゾール)。
図9】25℃、湿度5%で24時間保存したセンサの応答電流値に対する、30℃、湿度80%の環境に24時間暴露させたセンサの応答電流値の変化率を示すグラフである(添加剤:3−アミノ−1,2,4−トリアゾール)。
図10】3−アミノ−1,2,4−トリアゾール存在下及び非存在下でのPQSAのサイクリックボルタモグラム。
図11】3−アミノ−1,2,4−トリアゾール存在下及び非存在下での2,6−ジメチルベンゾキノンのサイクリックボルタモグラム。
図12】3−アミノ−1,2,4−トリアゾール存在下及び非存在下でのフェリシアン化カリウムのサイクリックボルタモグラム。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<1.試薬組成物>
試薬組成物は、複素環式化合物と、電子受容体と、酸化還元酵素と、を含有する。
【0018】
(1−1)複素環式化合物
試薬組成物は、複素環式化合物として、以下に説明される化合物から選択される少なくとも一種の化合物を含有することができる。複素環式化合物は、下記式(I)で表される。式(I)で表される複素環式化合物は、酸化還元酵素の存在下における電子受容体の酸化電位の正側へのシフトを抑制することができる。
【0019】
【化2】
【0020】
式(I)中、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、アミノ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基又は炭素数1〜12の炭化水素基を表す。
〜Rは、複素環の水溶性を保持できる置換基であることが好ましく、付加基(後述のアミノ基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基)を有しない炭化水素であれば炭素数1〜4であることが好ましく、付加基を有する炭化水素であれば炭素数1〜12であることが好ましい。
【0021】
また式(I)中、前記炭化水素基は、アミノ基、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群より選択される少なくとも一種の置換基を有していてもよい。
炭化水素基は、鎖式、環式のいずれであってもよい。鎖式炭化水素基は、分岐していても、直鎖であってもよい。鎖式炭化水素基は、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれであってもよい。
【0022】
例えば、一般式(I)において、R〜Rの少なくとも1つの基が、Cm−(a+b+c)(R(R(Rで表される鎖式炭化水素基であってもよい。nは2以下の自然数を表し、mはn+1以上2n+1以下の自然数を表し、a、b及びcはそれぞれ独立してn以下の自然数を表し、R〜Rは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基、カルボキシル基、又はアミノ基を表す。飽和炭化水素基においては、mは2n+1で表される。
【0023】
具体例として、R〜Rは、それぞれ独立して、水素原子、−NH、−CH、−CHOH、−CNH及び−CH−CH(NH)−COOHであってもよい。
【0024】
また式(I)中、A〜Aのうちの2個又は3個が窒素原子であって、他は炭素原子であってもよい。具体的には、複素環式化合物は、置換されていてもよいイミダゾール又はトリアゾールであってもよい。A〜Aのうちの2個が窒素原子であるときは、Aが窒素原子であり、A及びAが炭素原子である。A〜Aのうちの2個が窒素原子であるときは、R〜Rのうち、少なくとも1個の基が水素原子以外の置換基であることが好ましい。
【0025】
前記複素環式化合物は、少なくとも3個の窒素原子を含有してもよい。つまり、複素環及び置換基に含まれる窒素原子の数の合計は、3個以上であってもよい。この場合、例えば、複素環中含まれる窒素原子の数が2であるときは、その複素環には1個以上の置換基が結合しており、全ての置換基に含まれる窒素原子の数の合計は1以上である。また、複素環中に含まれる窒素原子の数が3であるときは、その複素環は置換基を有していなくてもよいし、窒素を含んでいてもよい置換基を有することもできる。複素環に含まれる窒素の数に関わらず、複素環式化合物は、窒素を含まない置換基を有していてもよい。
【0026】
また、複素環は五員環であってもよく、より具体的には2個以上、好ましくは2個又は3個の窒素原子を含有する五員複素環であってもよい。五員複素環は、例えば、イミダゾール、トリアゾールであってもよい。トリアゾールとしては、1,2,4−トリアゾールが好ましく用いられる。
【0027】
窒素原子を含む置換基の一例として、アミノ基を含有する置換基が挙げられる。アミノ基を含有する置換基は、アミノ基自体、及び1個以上のアミノ基で置換された炭化水素基を包含する。アミノ基を有する前記複素環式化合物は、酸化還元酵素の存在下における電子受容体の酸化電位の正側へのシフトの抑制に加えて、高温高湿環境下においても上記のシフト抑制効果を奏する。このように、アミノ基を有する前記複素環式化合物は、環境安定性にも優れている。
【0028】
式(I)で表される前記複素環式化合物としては、例えば、イミダゾール、ヒスタミン、ヒスチジン、2−アミノ−イミダゾール、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールが挙げられる。これらの複素環式化合物は、電子受容体の酸化電位の正側へのシフトを抑制する観点から好ましい。
【0029】
これらの中でも、ヒスタミン、ヒスチジン、2−アミノ−イミダゾール、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール、2−メチルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール及び3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールは、さらに環境安定性にも優れている観点からより好ましい。
【0030】
(1−2)電子受容体
電子受容体は、電子伝達物質またはメディエータと言い換えられてもよい。電子受容体は、可逆的に酸化体及び還元体となることができる。電子受容体は、直接、または別の電子受容体と協働して、物質間における電子の移動を媒介することができる。電子受容体は一種でも二種以上でもよい。
【0031】
前記電子受容体としては、例えばキノン類化合物、鉄シアノ錯体、フェナジンメトサルフェート及びその誘導体、メチレンブルー及びその誘導体、及び、フェロセン及びその誘導体、が挙げられる。
【0032】
前記鉄シアノ錯体としては、例えばフェリシアン化錯塩が挙げられる。フェリシアン化錯塩としては、例えばフェリシアン化カリウムが挙げられる。
【0033】
キノン類化合物とは、キノンを含有する化合物である。キノン類化合物には、キノン及びキノン誘導体が含まれる。キノン誘導体としては、キノンに種々の官能基(置換基と言い換えてもよい)が付加された化合物が挙げられる。
【0034】
キノン類化合物におけるキノンとしては、(a)ベンゾキノン、(b)ナフトキノン、(c)アントラキノン、(d)フェナントレンキノン、及び(e)フェナントロリンキノン等が挙げられる。フェナントレンキノンとして、特に具体的には、9,10−フェナントレンキノンが挙げられる。各キノンの構造式の具体例を、以下に示す。なお、下記式では異性体の表示を省略しているが、キノンには、下記式に示されるキノンの異性体も包含される。
【0035】
【化3】
【0036】
一種のキノン誘導体が、2種類以上の官能基を有していてもよい。
また、キノン誘導体における付加官能基(置換基)の一例として、親水性官能基が挙げられる。親水性官能基としては、スルホ基(−SOH)、カルボキシル基(−COOH)、リン酸基(−PO)等が挙げられる。なお、スルホ基、カルボキシル基、及びリン酸基には、これらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩等)も含まれる。
【0037】
なお、置換基は、置換されていてもよい炭素数1〜16の炭化水素基であってもよい。炭化水素基に付加される置換基としては、上述の親水性官能基が好適である。また、炭化水素基としては、メチル基、エチル基等のアルキル基、ビニル基、及びフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基等のアリール基などがある。
【0038】
キノン誘導体は、ベンゼン環を含む置換基を有していてもよい。上述の親水性官能基(塩を含む)は、置換基中のベンゼン環に付加されていてもよい。言い換えると、親水性官能基は、ベンゼン環を介してキノンに結合していてもよい。
【0039】
例えば、前記キノン類化合物は、(a)前記スルホ基は、1−スルホン酸、2−スルホン酸、3−スルホン酸、4−スルホン酸、及び2,7−ジスルホン酸である、(b)前記カルボキシル基は、2−カルボン酸である、及び(c)前記リン酸基は、2−リン酸である、の少なくとも一項目を満たしてもよい。例えば、上述のキノン(a)〜(e)に、下記の置換基の少なくとも1つが付加されていてもよい。なお、“置換基”には、以下に示す置換基の位置異性体も包含される。
【0040】
【化4】
【0041】
置換基において、1つのベンゼン環に2つ以上の官能基が付加されていてもよいし、1つのベンゼン環に2種類以上の官能基が付加されていてもよい。
【0042】
さらに、上述の親水性官能基とベンゼン環との間に、他の原子が介在していてもよい。そのような電子受容体の例として、下記化合物A、B、H’、I、I’、及びJが挙げられる。下記のスキームには、各化合物の合成スキームが示されている。下記スキーム中のp−TsOHは、p−トルエンスルホン酸を意味する。
【0043】
化合物Aは、9,10−フェナントレンキノンを65%硝酸中で還流することによって得られる。化合物Bは、水酸化ナトリウム存在化においてチオ硫酸ナトリウムで化合物Aを還元することによって得られる。化合物Bは、亜硝酸ナトリウムによるジアゾニウム塩化を経てアミノ基をヨウ素へ置換することにより化合物Cとなる。化合物Cは、ブチルリチウムによってヨウ素をリチウムへ置換した後に2−イソプロポキシ−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロランと反応させることによって化合物Dとなる。化合物H’は、化合物Dに4−ヨードベンゼンスルホン酸ナトリウムを反応させて得られる。化合物Iは、化合物Dに4−ヨード安息香酸ナトリウムを反応させて得られる。化合物Jは、化合物Dに5−ヨードイソフタル酸ジナトリウムを反応させて得られる。化合物I’は、化合物Iとアミノエタンスルホン酸との縮合反応によって得られる。化合物I’における置換基は、スルホ基と、ベンゼン環と、スルホ基とベンゼン環との間のアミノカルボキシル(−CONH−)と、を有する。
【0044】
【化5】
【0045】
化合物A、B、H’、I、I’、及びJ、並びに9,10−フェナントレンキノン−2,7−ジスルホン酸ジナトリウムの水への溶解度を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
各化合物の酸化還元電位は、表2に示す通りである。酸化還元電位(E0’)は、次のように算出された。すなわち、後述の実施例と同条件で、Ag|AgClを基準電極としたサイクリックボルタンメトリーを行った。酸化還元電位(E0’)は、酸化電流がピークを示すときの電位値(Eox)と還元電流がピークを示すときの電位値(Ered)との平均値[(Ered+Eox)/2]として算出された。
【0048】
表2に示すように、これらの化合物は比較的低い酸化還元電位を示す。このように低い酸化還元電位を示す電子受容体は、センサに好ましく用いられる。
【0049】
【表2】
【0050】
キノンにおける置換基の位置は、特に限定されるものではない。例えば、9,10−フェナントレンキノンにおいては、1、2、3、4、及び7位のうちの少なくとも1つの位が、置換基の位置として好ましく選択される。
【0051】
試薬組成物は、キノン誘導体として、具体的には、9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン酸、9,10−フェナントレンキノン−1−スルホン酸、9,10−フェナントレンキノン−3−スルホン酸、9,10−フェナントレンキノン−4−スルホン酸、9,10−フェナントレンキノン−2,7−ジスルホン酸、9,10−フェナントレンキノン−2−カルボン酸、及び9,10−フェナントレンキノン−2−リン酸からなる群より選択される少なくとも一種の化合物を含有していてもよい。
【0052】
なお、キノン類化合物の製造方法としては、従来の方法が好適に用いられる。
キノンは従来、医薬、農薬、工業の分野で使用されている。キノンは、例えば芳香族炭化水素から製造可能である。具体的には、アントラキノンはアントラセンの酸化により容易に製造される。
また、親水性官能基を有するキノン類化合物の製造方法は、キノンに親水性官能基を導入する工程を含んでもよい。例えば、キノンに親水性官能基としてスルホ基を付加する方法としては、キノンと発煙硫酸とを反応させる方法などがある。
【0053】
また、親水性官能基を有するキノン類化合物の揮発性は、そのキノン類化合物の主要素であるキノンよりも低い傾向がある。よって、キノン類化合物が親水性官能基を付加されている場合、キノン類化合物は、試薬層4中に含まれることで、電子受容体として機能する点において有利である。
【0054】
(1−3)酵素
試薬組成物は、一種類以上の酵素を含有していてもよい。酵素としては、酸化還元酵素が用いられる。酸化還元酵素は、酸化酵素及び脱水素酵素を包含する。酸化還元酵素の例として、
−グルコースを基質とする酵素としては、グルコースオキシダーゼ、グルコースデヒドロゲナーゼが好ましく;
−乳酸を基質とする酵素としては、乳酸オキシダーゼ、又は乳酸デヒドロゲナーゼが好ましく、;
−コレステロールを基質とする酵素としては、コレステロールエステラーゼ、又はコレステロールオキシダーゼが好ましく;
−アルコールを基質とする酵素としては、アルコールオキシダーゼが好ましく;
−ビリルビンを基質とする酵素としては、ビリルビンオキシダーゼが好ましく;
挙げられる。
【0055】
試薬組成物は、酵素に合う補酵素を含有していてもよい。
酵素は、その補酵素依存性について、特に限定されるものではない。例えば、酵素は、NAD(nicotinamide adenine dinucleotide)、NADP(nicotinamide adenine dinucleotide phosphate)、PQQ(Pyrroloquinoline quinone)、又はFAD(flavin adenine dinucleotide)等の補酵素に対して依存性を有してもよい。
【0056】
酵素の補酵素は、FAD又はPQQであることが好ましい。これらの補酵素に対応する酵素において、補酵素は、その酵素タンパク質に結合するか、又は含有される。よって、センサの作製及び測定の実行時に、酵素とは別途に補酵素を添加する必要がない。その結果、センサの構成、製造工程及び測定工程が簡素化される。
【0057】
NAD及びNADP依存性酵素を用いる場合は、例えば、酵素蛋白質に結合しない状態で機能する補酵素NAD及びNADPを、別途に添加してもよい。例えば、酵素は、FAD依存性酸化酵素、NAD依存性、PQQ依存性、又はFAD依存性脱水素酵素等であってもよい。酸化酵素及び脱水素酵素の具体例は、上述したとおりである。
【0058】
(1−4)組み合わせの要件
なお、前述した全ての複素環式化合物はそれぞれ、前述した電子受容体のそれぞれと組み合わせることによって、少なくとも前述の電子受容体のシフト抑制効果を得ることが可能である。本発明は、これらの組み合わせのうち、以下の第一及び第二の要件のいずれかの要件を満足する。第一の要件では、酸化還元酵素と式(1)の化合物は特に限定されない。第二の要件では、酸化還元酵素と電子受容体は特に限定されない。
(第一の要件)
前記電子受容体が、ナフトキノン、アントラキノン、フェナントレンキノン、フェナントロリンキノン並びにこれらのキノン誘導体からなるキノン類化合物の群から選択される一以上である。
(第二の要件)
前記複素環式化合物がヒスチジンを含まず、
式(I)中のA〜Aのうちの2個が窒素原子であるときは、R〜Rのうち、少なくとも1個の基が水素原子以外の置換基である。
【0059】
(1−5)その他の成分
試薬組成物は、本発明の効果が得られる範囲において、複素環式化合物、酸化還元酵素、及び電子受容体以外の他の成分を含んでいてもよい。このような他の成分としては、例えば試薬組成物がセンサに適用されたときに、
−酵素又は電子受容体の保存性を高める、
−酵素と標的物質との反応性を高める、
−標的物質に対する応答性を高める、又は
−標的物質の濃度に対する応答電流値の直線性を高める、
といった効果を示す物質が好ましく用いられる。
【0060】
前記他の成分としては、例えば糖アルコールが挙げられる。糖アルコールとしては、例えばソルビトール、マルチトール、キシリトール、マンニトール、ラクチトール、還元パラチノース、アラビニトール、グリセロール、リビトール、ガラクチトール、セドヘプチトール、ペルセイトール、ボレミトール、スチラシトール、ポリガリトール、イジトール、タリトール、アリトール、イシリトール、還元澱粉糖化物、イシリトールなどの鎖状の多価アルコールや、環式糖アルコールが挙げられる。また、前記他の成分としては、これらの糖アルコールの立体異性体、置換体、及び誘導体も挙げられる。
【0061】
さらに前記他の成分としては、分子内に少なくとも一つのアミノ基、あるいはカルボニル基を有する有機酸、もしくは有機酸塩が挙げられる。このような有機酸及びその塩としては、アミノ酸、その置換体、その誘導体、及びそれらの塩が挙げられる。前記アミノ酸としては、例えばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、セリン、トレオニン、メチオニン、アスパラギン、グルタミン、アルギニン、リシン、フェニルアラニン、プロリン、サルコシン、ベタイン、及びタウリンが挙げられる。前記アミノ酸及びその塩等の中でも、グリシン、セリン、プロリン、トレオニン、リシン、タウリンは、特に結晶化阻害の効果が高く好適である。これらの化合物は、最終的な応答性の向上の観点から好ましい。
【0062】
試薬組成物は、緩衝剤をさらに含有していてもよい。例えば、試薬組成物は、NaHPO及びNaHPO等のリン酸ナトリウム、KHPO及びKHPO等のリン酸カリウム、N−(2−アセトアミド)−2−アミノエタンスルホン酸(ACES)、トリスヒドロキシメチルアミノメタン(tris(hydroxymethyl)aminomethane:Tris)等を含んでいてもよい。
【0063】
また、緩衝剤には、緩衝液が含まれる。つまり、試薬組成物は、リン酸ナトリウム緩衝液、ACES緩衝液、Tris緩衝液等の緩衝液を含有していてもよい。
【0064】
また、試薬組成物は、クエン酸−3Na及び塩化カルシウム(CaCl)の一方又は両方等の添加剤をさらに含有していてもよい。クエン酸−3Na及び塩化カルシウムは、試薬組成物がセンサに用いられたときに、グルコース濃度に対するセンサの応答電流の直線性をより向上させることができる。
【0065】
また、試薬組成物は、親水性高分子をさらに含有してもよい。試薬組成物が親水性高分子を含有することで、試薬組成物がセンサの試薬層に適用されたときに、電極表面からの試薬層の剥離が抑制される。親水性高分子は、さらに、試薬層表面の割れを抑制する効果も有している。このような親水性高分子としては、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリリジンなどのポリアミノ酸、ポリスチレンスルホン酸、ゼラチン及びその誘導体、アクリル酸及びその塩の重合体、メタクリル酸及びその塩の重合体、スターチ及びその誘導体、無水マレイン酸及びその塩の重合体、アガロースゲル及びその誘導体が好適に用いられる。
【0066】
(1−6)試薬組成物の形状
試薬組成物は、液体であってもよいし、固体であってもよい。液体である場合、試薬組成物が含有する媒体としては、例えば、水(緩衝液を含む)、アルコール(エタノール、メタノール、プロパノール等を含む)、有機溶媒(ベンゼン、トルエン、キシレン等を含む)等が挙げられる。液状の試薬組成物を、「試薬液」と称することがある。前記媒体は水であることが、生体試料への適合性の観点から好ましい。
【0067】
(1−7)各成分の量
試薬液における複素環式化合物の濃度は、0.001mM以上であることが好ましく、0.01mM以上であることがより好ましく、0.1mM以上であることがさらに好ましく、1mM以上であることがさらに好ましい。また、試薬液における複素環式化合物の濃度は、10mM以下、5mM以下、又は4mM以下に設定可能である。
【0068】
電子受容体と複素環式化合物との分子比率は、10,000:1〜1:1,000であることが好ましく、1,000:1〜1:100であることがより好ましく、100:1〜1:10であることがさらに好ましい。
【0069】
酵素1U当たりの複素環式化合物の量は、好ましくは0.005〜250nmolであり、より好ましくは0.1〜40nmolである。
【0070】
酵素1U当たりの電子受容体の量は、好ましくは0.05〜2,500nmolであり、より好ましくは1〜400nmolである。
【0071】
なお、本発明においては、一部のジアミン系化合物が、本発明における前記複素環式化合物と同様に、酸化還元酵素の存在かにおける電子受容体の酸化電位の正側へのシフトを抑制する効果を有する。本発明では、このような一部のジアミン系化合物を複素環式化合物に代えて用いることも可能である。前記一部のジアミン系化合物としては、例えばエチレンジアミン、オルニチン、リシン、アルギニンなどが挙げられる。
【0072】
<2.センサ>
本発明のセンサは、液体試料が入るように形成された試料室と、前記試料室内に配置された少なくとも一対の電極と、前記試料室内において、少なくとも前記一対の電極の両方に接するように配置された試薬層と、を有する。前記試薬層は、前述した本発明の試薬組成物から形成される。本発明のセンサは、前記試薬層を本発明の試薬組成物で形成する以外は、液体試料中の標的物質を電気化学的に検出する公知のセンサと同様に構成することができる。
【0073】
また、本発明のセンサは、
(a)基板上に、少なくとも一対の電極を設けること、
(b)基板上に、前述した本発明の試薬組成物を、前記一対の電極の両方に接触するように塗布すること、及び
(c)前記(b)で塗布された試薬組成物を乾燥させること、を含む方法によって製造することができる。
【0074】
本発明のセンサの製造方法は、本発明の試薬組成物を試薬層の形成に用いる以外は、液体試料中の標的物質を電気化学的に検出する公知のセンサの製造方法と同様に行うことができる。
【0075】
本発明のセンサでは、前述した本発明の試薬組成物を用いる。この試薬組成物は前述した複素環式化合物を含有する。前記センサでは、乾燥している試薬層中の成分が雰囲気中の湿気によりわずかに溶解したときに、試薬組成物中における成分が一時的に高濃度になり、酵素を失活させることがある。しかしながら、本発明のセンサやその製造方法では、前記複素環式化合物を含有する試薬組成物を用いることによって、このような組成物中の成分の濃度変化による酵素の失活を抑制することができる。
【0076】
以下、本発明のセンサを、図示の一例に基づいて説明する。
【0077】
(2−1)センサの概略構成
図1に示すセンサ1は、液体試料中の標的物質を検出すること及び/又は定量するセンサの一例である。センサ1は、図1に示すように、基板2、導電層3、試薬層4、スペーサ5、カバー6を有する。
【0078】
(2−2)基板
図1に示すように、基板2は板状の部材である。基板2は絶縁性を有する。基板2を構成する材料としては、例えば、
−ポリエチレンテレフタレート、ビニルポリマー、ポリイミド、ポリエステル、及びスチレニクス等の樹脂;
−ガラス;並びに
−セラミックス;
等が挙げられる。
【0079】
基板2の寸法は、具体的な数値に限定されない。例えば、基板2の幅は、好ましくは3〜20mm、より好ましくは5〜10mmである。また、基板2の長さは、好ましくは20〜40mmである。また、基板2の厚みは、好ましくは0.1〜1mmである。基板2の幅、長さ及び厚みの全てが、上記範囲内にあることが好ましい。
【0080】
(2−3)導電層
図1に示すように、導電層3は、基板2上に略均一な厚みに形成されている。導電層3は、3つの電極31〜33を含む。電極31は作用電極、電極32は対電極、電極33は検知電極と称されることがある。なお、検知電極33は省略可能である。
また、導電層3は、上記3電極の他に、ヘマトクリット値を測定するためのHct電極(図示せず)を設けた4つの電極から構成される場合もある。
【0081】
電極31〜33のそれぞれの一部分は、キャピラリ51に面するように配置される。電極31〜33の他の一部分は、センサ1の導入口52とは逆の端部において、スペーサ5及びカバー6で覆われずに露出している。これらの露出部分は、リードとして機能する。つまり、これらの露出部分は、測定器101から電圧の印加を受けたり、電流を測定器101に伝えたりする接続部分にあたる。
【0082】
各電極は、
−導電性材料を用いた印刷等;又は
−基板2を導電性材料で覆った後、レーザアブレーション等で非導電トラックを形成すること;
で形成されてもよい。例えば、基板2にパラジウムをスパッタリングすることによって導電層3を形成し、レーザアブレーションにより、非導電トラックを形成することができる。非導電トラックは、好ましくは0.01〜0.5mm、より好ましくは0.05mm〜0.3mmの幅を有する。
【0083】
なお、導電層3の構成材料は、導電性材料(導電性物質)であればよく、特に限定されるものではない。導電性材料の例としては、
−金属、金属混合物、合金、金属酸化物、及び金属化合物に代表される無機導電性物質等;
−炭化水素系導電性ポリマー及びヘテロ原子含有系導電性ポリマー等の有機導電性物質;又は
−これらの物質の組み合わせ;
が挙げられる。導電層3の構成材料としては、パラジウム、金、白金、炭素などが好ましく、パラジウムが特に好ましい。
【0084】
導電層3の厚さは、その形成方法及び構成材料により変更可能である。例えば、スパッタリングによって導電層3が形成された場合、導電層3の厚さは、好ましくは0.1〜20nmであり、より好ましくは1〜10nmである。印刷により導電層3が形成された場合、導電層3の厚さは、好ましくは0.1〜50μmであり、より好ましくは1〜30μmである。
【0085】
(2−4)試薬層
図1に示すように、試薬層4は、電極31〜33に接するように配されている。試薬層4は、電極31及び32と共に、センサ1の活性部として機能する。活性部とは、電気化学的に活性な領域であって、液体試料中の特定の物質に反応し、電気信号を生じる部分である。具体的には、試薬層4は、酵素及び電子受容体を含む。
【0086】
試薬層4は、少なくとも電極31及び32(第1の電極及び第2の電極)の一部に接触するように配置されていればよい。また、試薬層4は、さらに電極33に接触するように配置されていてもよい。
【0087】
試薬層4は、電子受容体、複素環式化合物及び酵素を含有する。具体的には、試薬層4は、本発明の試薬組成物を含有していてもよい。
【0088】
試薬層4における電子受容体の含有量は、センサが機能できる程度の量に設定可能であり、1回の測定当たり又はセンサ1個当たりにつき、好ましくは1〜500nmol、より好ましくは10〜200nmol程度に設定される。
【0089】
試薬層4における酵素の含有量は、標的物質の検出が可能な程度に設定され、1回の測定当たり又はセンサ1個当たりにつき、好ましくは0.2〜20U(ユニット)、より好ましくは0.5〜10U程度に設定される。
【0090】
酵素1U当たりの電子受容体の量及び複素環式化合物の量については、試薬組成物における各成分の量と同様の値が好ましい。
【0091】
なお、本実施形態では電子受容体は試薬層4中に含まれるが、電子受容体は電極に含有されていてもよい。電極に含有される電子受容体としては、上述の試薬組成物に含有され得る電子受容体として挙げられた化合物が好適に用いられる。
【0092】
試薬層4が基質を酸化する酵素を含む場合における、電子受容体の働きについて説明する。酵素は、基質を酸化することで、基質からの電子を受け取り、補酵素に電子を与える。その結果、補酵素は、酸化体から還元体になる。酸化体である電子受容体は、還元体になった補酵素から電子を受け取って、補酵素を酸化体に戻す。その結果、電子受容体自身は還元体となる。還元体となった電子受容体は、電極31又は32に電子を与えて、自身は酸化体となる。このようにして、電子受容体は、酵素と電極間の電子移動を媒介する。
【0093】
上記補酵素は、酵素タンパク質(酵素分子)に結合することで、酵素タンパク質に保持されてもよい。また、補酵素は、酵素タンパク質から分離した状態で存在していてもよい。
【0094】
試薬層4は、種々の方法によって形成可能である。形成方法としては、例えば印刷法、塗布法等が挙げられる。
【0095】
具体的な方法として、液状の上述の試薬組成物を、マイクロシリンジなどを用いて、電極31及び32上に一定量滴下した後、適切な環境に静置して乾燥させることにより、試薬層4を形成することができる。なお、必要に応じて、電極33上にも水溶液を滴下してもよい。水溶液の滴下量は特定の数値に限定されないが、好ましくは0.1〜20μL、より好ましくは0.5〜5μLである。
【0096】
試薬層4の形状は、具体的な形状に限定されない。この形状は、矩形状や円形状などであってもよい。試薬層4の面積(基板2の平面方向における面積)は、デバイスの特性及びサイズに応じて決定される。この面積は、好ましくは1〜25mm、より好ましくは2〜10mmであってもよい。
【0097】
塗布される水溶液が含む、酵素及び電子受容体並びにその他の成分の含有量は、必要とされるデバイスの特性やサイズに応じて選択される。
【0098】
(2−5)スペーサ5及びキャピラリ51
図1に示すように、スペーサ5は、カバー6と基板2上に形成された導電層3との間に空隙を設けるための部材である。
【0099】
具体的には、スペーサ5は、板状の部材であって、電極31〜33のリード部分及び後述のキャピラリ51部分を除いて、導電層3の全体を覆うようになっている。スペーサ5は、電極31〜33のリード部分とは逆の端部を露出させる矩形の切り欠きを備える、スペーサ5がこの切り欠きを備えることで、スペーサ5、導電層3、及びカバー6とで囲まれたキャピラリ51が形成される。このように、スペーサ5は、キャピラリ51の側壁を提供し、さらにキャピラリ51の長さ、幅、高さ等を規定することができる。
【0100】
キャピラリ51の容量は、0.05〜5.0μL(マイクロリットル)程度で、好ましくは0.1〜1.0μL(マイクロリットル)程度に設定される、スペーサ5の厚みは0.02〜0.5mm程度であり、好ましくは0.1〜0.2mm程度である。スペーサ5が備える切り欠きの長さは、好ましくは1〜5mmである。スペーサ5が備える幅は、0.25〜4mm程度であり、好ましくは0.5〜2mm程度である。なお、これらの寸法は、キャピラリ51が所望の容量になるように適宜選択されればよい。例えば、長さが3.4mm、幅が1.2mmの切り欠きを備える厚さ0.145mmのスペーサ5を用いた場合、長さが3.4mm、幅が1.2mm、高さが0.145mm、容量が0.6μLのキャピラリ51が提供される。
【0101】
キャピラリ51は、試料室の一例である。キャピラリ51は、その開口部である導入口52から毛細管現象によって液体試料を吸引し、電極31〜33上に保持する。
【0102】
(2−6)カバー
図1に示すように、カバー6はスペーサ5全体を覆う板状の部材である。カバー6は、表面から裏面まで貫通する孔を備える。この孔は、キャピラリ51から外部に通じる通気口61として機能する。通気口61は、液体試料がキャピラリ51に吸引されるとき、キャピラリ51内の空気をキャピラリ外へ排出するための排気孔である。このように空気が排出されることで、液体試料がキャピラリ51内に容易に吸引されやすい。
【0103】
通気口61は、導入口52から離れた位置に、つまり、導入口52から見てキャピラリ51の奥に設けられることが好ましい。導入口52がこのように配置されることで、液体試料が、導入口52からキャピラリ51の奥まで、速やかに移動することができる。
【0104】
また、通気口61は、センサ1の前記導電層に載置された試薬層4よりも奥側に配置されていることが好ましい。
【0105】
<3.センサシステム>
本発明のセンサシステムは、前述した本発明のセンサと、前記少なくとも一対の電極間の電流値を測定する測定部と、前記測定部による測定結果に基づいて、前記液体試料中の対象物質の濃度を算出する算出部と、を有する。本発明のセンサシステムは、本発明のセンサを用いる以外は、液体試料中の標的物質を電気化学的に検出する公知のセンサシステムと同様に構成することができる。
以下、本発明のセンサシステムを、前述したセンサ1を含む一例に基づいて説明する。
【0106】
上述のセンサ1は、図2に示すセンサシステム100で用いられる。センサシステム100は、センサ1及び測定器101を有する。
【0107】
図2及び図3に示すように、測定器101は、表示部102、装着部103、切替回路107、基準電圧源108、電流/電圧変換回路109、A/D変換回路110、演算部111、操作部113及び電源部112を備える。測定器101は前述の測定部に相当する。測定器101は、さらに、センサ1の各電極に対応するコネクタを有する。図3には、前記装着部103内に設けられているコネクタ104〜106が描かれている。
【0108】
表示部102は、測定器101の状態、測定結果、操作内容等を表示する。表示部102は、具体的には液晶表示パネルによって実現される。
【0109】
図2に示すように、装着部103には、センサ1が着脱可能に挿入される。図3に示すように、コネクタ104〜106は、センサ1が装着部103に装着されることで、それぞれセンサ1の電極31〜33に接続される。
【0110】
切替回路107は、コネクタ104〜106を、基準電圧源108に接続することも、電流/電圧変換回路109に接続することもできる。基準電圧源108は、コネクタ104〜106を介して、電極31〜33に電圧を印加する。
【0111】
電流/電圧変換回路109は、センサ1からの電流を、コネクタ104〜106を介して受け取り、電圧に変換して、A/D変換回路110に出力する。
A/D変換回路110は、電流/電圧変換回路109からの出力である電圧値(アナログ値)をデジタル値に変換する。
【0112】
演算部111は、CPU(Central Processing Unit)並びにROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)等の記録媒体を有する。演算部111は、標的物質の濃度算出を行ったり、測定器101内の各部の動作を制御したりする。演算部111は前述の算出部に相当する。
【0113】
演算部111の濃度算出機能について説明する。演算部111の記憶媒体中には、試料中の標的物質の濃度の決定に用いられる換算テーブル、この濃度の補正量の決定に用いられる補正量テーブル等が記憶される。演算部111は、A/D変換回路110からのパルスに基づいて、換算テーブルを参照することにより、標的物質の仮の濃度を算出する。演算部111は、さらに、補正量テーブル中の補正量を用いて、標的物質の最終的な濃度を決定する。こうして算出された濃度は、表示部102に表示される。
【0114】
また、演算部111は、濃度算出機能以外に、切換回路107の切替制御、基準電圧源108の電圧制御、濃度測定や補正量選択時の時間の測定(タイマ機能)、表示部102への表示データ出力、及び外部機器との通信機能等を有する。演算部111の各種機能は、CPUが、図示しないROM等に格納されたプログラムを読み出して実行することにより実現される。
【0115】
操作部113は、測定器101の表面部に設けられる。操作部113は、使用者が測定データや設定データを参照する時などに使用する操作ボタンなどから構成される。
【0116】
電源部112は、上記の各電気回路、表示部、演算部などへ電源を供給する電池等から構成される。
【0117】
<4.センサシステムの使用>
本発明のセンサシステムは、標的物質の濃度測定方法に好適に用いることができる。この濃度測定方法は、(a)少なくとも電子受容体及び酵素を含む試薬組成物と、液体試料と、を接触させること、(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び、(c)上記(b)の検出結果に基づいて、液体試料中の標的物質の濃度を測定すること、を含む。そして前記試薬組成物には、前述した本発明の試薬組成物を用いる。
【0118】
本発明の濃度測定方法では、前述した試薬組成物を試薬層の材料に用いることから、前述した試薬層の吸湿による酵素の失活が生じない試薬層が用いられる。よって、本発明の濃度測定方法は、より高い測定精度で標的物質の濃度を測定することができる。
【0119】
以下、センサシステム100による濃度測定について説明する。
【0120】
センサ1が装着部103に差し込まれると、コネクタ104〜106が、電極31〜33にそれぞれ接続される。また、センサ1が装着部103へ装着されることによって、装着部103内のスイッチ(図示せず)が押下される。押下されることでスイッチがONとなり、演算部111はセンサ1が装着されたと判断し、測定器101を試料待機状態とする。試料待機状態とは、演算部111の制御の下、基準電圧源108がコネクタ104及び106を介して、作用電極31及び検知電極33間への電圧印加を開始し、かつ電流/電圧変換回路109が電流測定を開始した後であって、液体試料がまだ測定に供されていない状態である。
【0121】
使用者が、センサ1の導入口52に液体試料を点着させると、毛細管現象によって、導入口52からキャピラリ51に液体試料が引き込まれる。液体試料としては、例えば、血液、汗、尿等の生体由来の液体試料や、環境由来の液体試料、食品由来の液体試料等が用いられる。例えば、センサ1を血糖値センサとして用いる場合、使用者は、自身の指、掌、又は腕等を穿刺して、少量の血液を搾り出し、この血液を液体試料として、センサ1での測定に供する。
【0122】
液体試料が作用電極31及び検知電極33に到達すると、演算部111が、電流/電圧変換回路109を介して受け取る電流値が変化する。この変化から、演算部111は、液体試料がセンサ1に正しく吸引されたと判断する。こうして液体試料の吸引が検知されることにより、測定が開始される。
【0123】
センサ1内では、液体試料中に試薬層4中の酵素及び電子受容体等の成分が溶解する。こうして、センサ1の電極31及び32上で、液体試料、酵素、及び電子受容体が互いに接触する。
【0124】
演算部111の制御により、切替回路107は、コネクタ104とコネクタ105とを基準電圧源108及び電流/電圧変換回路109に接続する。こうして、作用電極31と対電極32との間に電圧が印加され、作用電極31と対電極32との間に生じた電流が、電流/電圧変換回路109に伝達される。
【0125】
電流/電圧変換回路109へ流れた電流は電圧へ変換される。そして、この電圧はA/D変換回路110によりさらにデジタル値へと変換される。演算部111は、このデジタル値から、特定成分の濃度を算出する。演算部111により算出された値は、表示部102に表示される。その際、使用者へのその他の情報が共に表示することができる。
【0126】
測定終了後は、使用者はセンサ1を装着部103から取り外すことができる。
【0127】
なお、基準電圧源108は、2つの電極31及び32間に、目的の電気化学反応を起こすのに十分な電圧を与えられるようになっている。この電圧は主に、利用する化学反応及び電極に応じて設定される。
【0128】
以上の説明から明らかなように、センサシステム100を用いることで、
(a)液体試料と、電子受容体と、酵素と、を接触させること、
(b)上記(a)によって生じた電流を検出すること、及び
(c)上記(b)の検出結果に基づいて、標的物質の濃度を測定すること、
を含む濃度測定方法が実行される。
【0129】
また、血液などの液体試料を対象とする場合、センサシステム100において、
(i)上記液体試料に、上記標的物質を基質とし、電子受容体と、上記電子受容体に電子を供与する酵素と、を溶解させること、
(ii)上記(i)により得られた溶液において生じた電流を検出すること、及び
(iii)上記(ii)の検出結果に基づいて、上記標的物質の濃度を測定すること、
を含む濃度測定方法が実行される。
【0130】
[親水性官能基を有するキノン類化合物の利点]
親水性官能基を有するキノン類化合物は、試薬組成物が、水を媒体とする試料(例えば血液)を検知対象とするセンサに適用される場合に、特に好ましく用いられる。
電子受容体が親水性官能基を有するキノン類化合物である場合、電子受容体の分子と酵素分子とが、試料中で衝突する機会が増大する。その結果、反応の速度が増大し、標的物質に由来する電流量が増大すると共に、測定に要する時間も短縮され得る。
【0131】
また、電子受容体が親水性官能基を有するキノン類化合物である場合、作用電極中又は作用電極上に、電子受容体を固定化するために必要な充填剤成分又は結合剤成分を配合する必要がない。すなわち、電子受容体が試料に溶解して機能する場合には、前述したように、電子受容体を含む溶液を電極上に滴下及び乾燥させることによって、簡単に電極上に電子受容体を配置することができる。
【0132】
電子受容体は、センサを構成する一対の電極の少なくとも一部、すなわち第1の電極の少なくとも一部及び第2の電極の少なくとも一部に共に接するように配置されることが好ましい。第1の電極及び第2の電極は、作用極及び対極に相当する。電子受容体がこのように配置されることで、各電極の電位が安定するので、測定の精度が向上する。第1及び第2の電極間に電圧が印加されることにより電気化学反応が進行して測定が実施されるので、電子受容体が両極の一部に接している場合、対極として機能する側の電極では電子受容体の還元反応により電極には安定した電子受容体の還元電位が与えられる。一方、作用極として機能する側の電極の電位は、上記電子受容体の還元電位に上記印加電圧を加えたものとなり、電位が安定する。
【0133】
センサの長期的な安定性等を考慮すると、親水性官能基が付加されていないキノンは、電極中に含まれることが好ましい。すなわち、キノンと導電性材料との混合物により、電極が形成されることが好ましい。充填剤成分や結合剤成分を配合して電子受容体分子を作用電極中又は作用電極上に固定化する方法が知られている。
【0134】
[電子受容体の酸化還元電位の好ましい範囲及びその利点]
センサ1による標的物質の検出では、センサ1による標的物質の正確な検出を妨害する妨害物質が試料中に含有されることがある。妨害物質は干渉物質と称されることもある。妨害物質としては、アスコルビン酸、尿酸、及びアセトアミノフェン等が挙げられる。測定の対象が非生体試料(血液及び尿等の生体試料以外の試料)である場合、妨害物質とは、その非生体試料に含まれる易酸化性物質である。
【0135】
背景技術において前述したとおり、妨害物質の酸化に必要な電位が、電子受容体の酸化に必要な電位よりも低い場合に、妨害物質はセンサの測定結果に影響を与える。その結果、測定結果に誤差が生じる。例えば、試料が血液である場合、電子受容体を酸化するために必要な電極の電位が血液中に含まれるアスコルビン酸等を酸化するために必要な電極の電位よりも有意に高い(正である)ことによって、誤差がもたらされる。
【0136】
電子受容体を酸化するために必要な電極の電位は、電子受容体自身の酸化還元電位に依存する。よって、電子受容体の酸化還元電位がより負であることは、妨害物質の影響を軽減するという点において好ましい。妨害物質の影響は、妨害物質の酸化電位よりも正であっても、その酸化電位になるべく近い酸化還元電位を持つ電子受容体を用いることによって軽減できる。影響をより低減するには、妨害物質の酸化電位よりも負の酸化還元電位を持つ電子受容体を用いることが好ましい。
【0137】
また、酵素が標的物質を酸化する場合、電子受容体の酸化還元電位は、補酵素のそれよりも正であることが好ましい。これによって、電子受容体は、補酵素から電子を容易に受容することができる。
【0138】
なお、酵素が標的物質を還元する場合、電子受容体の酸化還元電位は、補酵素のそれよりも負であることが好ましい。これによって、電子受容体は、補酵素へ電子を容易に供与できる。このように標的物質を還元反応によって検出する場合には、補酵素、電子受容体、妨害物質(易還元性物質)の電位の関係は、標的物質を酸化によって検出する場合と逆の関係になる。
【0139】
以下では、標的物質が酸化によって検出される場合について説明する。
補酵素の具体的な酸化還元電位は以下の通りである。補酵素であるFAD及びPQQは、酵素タンパク質に結合した状態で、酵素タンパク質と協働して典型的に機能する。これらの補酵素の酸化還元電位は、それぞれ約−300及び約−200mVである。また、NADは、酵素蛋白に結合せずに機能する。NADの酸化還元電位は、約−520mVである。
【0140】
さらには、一般に、電子受容体の電子受容能は、電子受容体の酸化還元電位が補酵素のそれに対してより正であるほど、大きくなる傾向がある。すなわち、電子受容体の酸化還元電位と補酵素のそれとの差が大きいほど、エネルギーレベルの差が大きい。よって、電子受容体の電子受容速度は大きくなる。したがって、センサの測定高感度化及び迅速化の点においては、電子受容体の酸化還元電位が正側に高いことが好ましい。
【0141】
以上のように、誤差が少なくかつ感度が良いセンサ及び測定方法を実現するためには、電子受容体の酸化還元電位の正側は妨害物質の酸化還元電位によって、負側は電子受容能に関連する補酵素の酸化還元電位によって、制限される。この範囲は、非常に狭く制限されることがある。
【0142】
例えば、特許文献2では、NAD依存性酵素を有すると共に、電子受容体として、窒素原子を含む複素環化合物であるフェナントロリンキノンを有するセンサが開示されている。フェナントロリンキノンの酸化還元電位は約0mVであり、NADのそれは約−520mVである。つまり、この文献のセンサにおいて、電子受容体と補酵素との間には、約520mVの電位差がある。なお、アスコルビン酸の酸化電位は約−140mVであるので、電子受容体がフェナントロリンキノンである場合、上記理由により、妨害物質の影響を完全に回避することはできない。
【0143】
ところで、上述したように、PQQ依存性又はFAD依存性酵素を有するセンサは、低い製造コストで製造可能であるという利点を有する。しかしながら、PQQ及びFADはNADと比べて酸化還元電位が高いために、PQQ依存性及びFAD依存性酵素に適用できる電位が低い電子受容体の探索は容易ではない。現在、妨害物質の影響を低減させるために、かつ、製造コストの抑制のために、PQQ依存性及びFAD依存性酵素にも適用できる酸化還元電位が低い電子受容体が望まれている。
【0144】
しかし、補酵素がFAD又はPQQである場合、それらの電位はより正側にあるので、上記範囲は特に狭い。
電子受容体の例である、9,10−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン酸、1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノンの酸化還元電位は、それぞれ順に、−180mV、−140mV、−16mV、−5mVである。これら酸化還元電位は0mVよりも負であり、NADの電位よりも正、さらにはFAD及びPQQの電位よりも正である。特に、9,10−フェナントレンキノン、9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン酸の酸化還元電位は、アスコルビン酸の酸化電位(約−140mV)よりも負である。すなわち、これらの電子受容体は、PQQ依存性又はFAD依存性酵素を有するセンサに適用可能である。また、これらの電子受容体は、妨害物質が検出結果に与える影響を低減することもできる。
【0145】
ただし、電位の関係だけで補酵素からの電子受容能が決まるわけではない。キノン類化合物の電子受容能は、例えば、キノン類化合物の電荷と酵素の活性部位付近の電荷との関係、及びキノン類化合物の分子サイズと酵素の活性部位空間の大きさとの関係などに影響を受ける。
【0146】
酵素がFAD依存性酵素又はPQQ依存性酵素である場合、電子受容体は9,10−フェナントレンキノン(その誘導体を含む)であることが好ましい。9,10−フェナントレンキノンは、アントラキノンのように芳香環が横1列に連結しておらず、コンパクトな分子サイズを有している。よって、9,10−フェナントレンキノンは、酵素の活性部位空間に侵入しやすいものと推測される。また、9,10−フェナントレンキノンは、電荷も有していないため、酵素の活性部位の電荷の影響も受けにくいものと予想される。
【実施例】
【0147】
[1]複素環式化合物による電子受容体の酸化電位の変動抑制
以下に示すように、複素環式化合物は、保存期間の前後での電子受容体の酸化電位の変動を抑制すると共に、電子受容体の電位を負側にシフトさせるという効果を示す。以下では特に、電子受容体としてキノン類化合物を例に挙げて実験を行った結果を示す。
【0148】
[1−1]9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン酸ナトリウム(PQSA)の調製
下記式(i)で表される9,10−フェナントレンキノン−2−スルホン酸ナトリウム(PQSA)を、次の操作によって得た。
【0149】
【化6】
【0150】
すなわち、市販の9,10−フェナントレンキノンを発煙硫酸にてスルフォニル化後、異性体の分取を行い、さらにNa塩化して、目的化合物であるPQSAを得た。反応式は以下の通りである。
【0151】
【化7】
【0152】
PQSAは、水に対して80mMという高い溶解度を示した。
【0153】
[1−2]試薬組成物(試薬液)の調製
下記組成を有する試薬液A及びBを調製した。
【0154】
<試薬液A>
添加剤:イミダゾール(下記式に示す) 7.5mM
電子受容体:PQSA 7.5mM
酵素:FAD依存性グルコースデヒドロゲナーゼ(FAD−GDH) 3.5MU/L(リットル)
緩衝液:100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
【0155】
【化8】
【0156】
<試薬液B>
イミダゾールを含まない以外は組成Aと同様の組成である。
【0157】
[1−3]センサ電極の作製
試薬液A及びBの特性を測定するためのセンサ電極を作製した。この電極は、試薬層4が含まれていないこと以外は図1に示す構成と同様である。詳細は次の通りである。
【0158】
まず、長さが30mm、幅が7mm、厚みが0.2mmのポリエチレンテレフタレートを主成分として含む基板2に、パラジウムをスパッタリングすることにより、厚みが8nmの導電層3を形成した。その後、レーザアブレーションにより、幅が0.1mmの非導電トラックを形成することで、電極31及び32を形成した。電極31は作用電極、電極32は対電極に相当する。3.4mmの長さ及び1.2mmの幅を有する切り欠きを備えるスペーサ5(厚さ0.145mm)と、カバー6とを、電極を形成した基板に順に貼付することで、0.6μLの容量を有するキャピラリ51を備えるセンサ電極を作製した。
【0159】
[1−4]サイクリックボルタンメトリー
得られた試薬液について、上記センサ電極を用いてサイクリックボルタンメトリーを行った。参照電極として、銀/塩化銀(飽和塩化カリウム)電極(以下Ag|AgClと記載する)を用いた。参照電極は、塩橋を介してセンサ電極の通気口61に連結された。測定にはポテンショスタットを用いた。各種電極及びポテンショスタットは、電気化学で一般的に用いられるものを使用した。これらの設備は、例えばビー・エー・エス社などから入手することが可能である。
【0160】
サイクリックボルタンメトリーにおいては、作用極に印加する電位を、時間に対して線形に走査した。掃引速度は0.1V/秒に設定された。まず、第1の電位を作用極に与え、その電位からより負の第2の電位まで、電極電位を負側に掃引した。続いて、第2の電位から第1の電位まで電極電位を正側に折り返す掃引を行った。第1の電位及び第2の電位は、0.2V及び0.5Vであった。
【0161】
調製直後(初期)の試薬液Aについての上記のサイクリックボルタンメトリーで正側に掃引した場合の酸化電位と酸化電流の関係を図4に点線で示し、21時間後の試薬液A(25℃、湿度(RH)5%で21時間保存された試薬液A)についての同結果を図4に実線で示す。また、同様に調製直後の試薬液Bについてのサイクリックボルタンメトリーで得られた結果を図5に点線で示し、21時間後の試薬液B(25℃、湿度(RH)5%で21時間保存された試薬液B)についての結果を図5に実線で示す。
【0162】
[1−5]センサの作製
図1に示す構成を有するセンサを作製した。詳細は次の通りである。
まず、長さが30mm、幅が7mm、厚みが0.2mmのポリエチレンテレフタレートを主成分として含む基板2に、パラジウムをスパッタリングすることにより、厚みが8nmの導電層3を形成した。その後、レーザアブレーションにより、幅が0.1mmの非導電トラックを形成することで、電極31〜33を形成した。電極31は作用電極、電極32は対電極、電極33は検知電極として機能するよう設計した。
【0163】
下記の組成を有する試薬液C及びDを調製した。
【0164】
<試薬液C>
添加剤:イミダゾール 7.5mM
酵素:FAD−GDH 4U/センサ
電子受容体:PQSA 0.46wt%(15mM)
高分子:カルボキシメチルセルロース 0.25wt%
緩衝液:リン酸バッファー(濃度:0.2wt%,pH 6.5)
NaHPO 0.11wt%(9mM)
KHPO 0.04t%(3mM)
HPO 0.05wt%(3mM)
【0165】
<試薬液D>
イミダゾールを含有しない以外は組成Cと同様の組成である。
【0166】
各試薬液1.2μLを、マイクロシリンジを用いて直径2.2mmの円形状に塗布することにより、試薬層4を形成した。試薬層4を形成した後、3.4mmの長さ及び1.2mmの幅を有する切り欠きを備えるスペーサ5(厚さ0.145mm)と、カバー6とを、電極を形成した基板に順に貼付することで、0.6μLの容量を有するキャピラリを備えるセンサを作製した。
【0167】
なお、下記の試薬液C及びDのそれぞれについて、
−調製した直後の試薬液を用いた場合、及び
−調製してから25℃、湿度5%の環境下で21時間経過した後の試薬液を用いた場合
の2種類のセンサを作製した。
【0168】
[1−6]応答電流値の測定
所定の濃度を有するグルコース溶液を用いて、各センサの応答電流値を測定した。
調製直後の試薬液Cを用いて作製されたセンサの応答電流値からの、21時間後の試薬液Cを用いて作製されたセンサの応答電流値の乖離度を、図6に示す。
調製直後の試薬液Dを用いて作製されたセンサの応答電流値からの、21時間後の試薬液Dを用いて作製されたセンサの応答電流値の乖離度を、図7に示す。乖離度は、調製直後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値を基準に(つまり0%としたときの)、21時間後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値の変化率(%)で示している。
【0169】
[1−7]結果
[サイクリックボルタンメトリー]
図5に示すように、試薬液B(イミダゾールを含まない)において、PQSAの酸化電位は、初期測定時から21時間経過したときには、正側にシフトした。このような電位の変化は、電子受容体と酵素とが水溶液中で共存することによって生じると考えられる。
【0170】
図4図5とを比較すると、複素環式化合物が試薬液にイミダゾール(7.5mM)が添加されたことで、PQSAの電位のピークが負側にシフトしたことが分かる。また、図4の点線と実線とを比べると、酸化電位のピークの正側へのシフトが抑制されたことが分かる。
他の複数種類の複素環式化合物についても同様の効果が得られることを、発明者らは確認した。
【0171】
[センサの応答電流値]
図6図7とを比較すると、試薬液が複素環化合物を含有することで、初期の応答電流値からの、21時間経過後の応答電流値の乖離が抑制され、複素環化合物を含まない場合と比較して、改善していることが分かる。
【0172】
[2]種々の複素環式化合物を用いた実験
[2−1]試薬液の調製
添加剤として、イミダゾール、ヒスタミン、ヒスチジン、2−アミノイミダゾール、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール、3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾール、2−メチルイミダゾール、又は1,2−ジメチルイミダゾールを添加することで、添加剤の種類及び濃度以外は試薬液Cと同様の組成を有する試薬液をそれぞれ調製した。各添加剤の濃度は、後述の図及び表に示すとおりである。
【0173】
【化9】
【0174】
また、複素環式化合物に代えて、ジアミン系化合物(エチレンジアミン、ブタンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサンジアミン、エチレンアミン、オルニチン、リシン、アルギニン)をそれぞれ添加した試薬液を調製した。
【0175】
[2−2]試薬液の保存安定性
調製された試薬液を用いて、[1−5]と同様の操作により、センサを作製した。また、調製後に25℃、湿度5%で24時間保存した試薬液を用いてセンサを作製した。
【0176】
[2−3]センサの安定性試験(暴露試験)
調製された直後の試薬液を用いて、[1−5]と同様の操作により、センサを作製した。作製されたセンサを、高温多湿環境下(30℃80%RH,24時間)で暴露放置した。
暴露前のセンサと暴露後のセンサとを用いて、所定の濃度を有するグルコース溶液に対する応答電流値を測定した。
【0177】
[2−4]結果
表3に示すように、他の複素環式化合物も、電子受容体の酸化電位の正側へのシフトを防止する効果、すなわち試薬液の安定性を高める効果、を示した。また、いくつかのジアミン系化合物は、試薬液の安定性を高める効果を示した。
【0178】
しかしながら、表3に示すように、ジアミン系化合物が試薬層に添加されたセンサの電流値は、センサが暴露を経ることで、応答電流値が大きく低下した。ジアミン系化合物が添加された場合と、添加されなかった場合とで比較すると、ジアミン系化合物が添加された方が、アルギニンを除き、電流値の低下率が大きかった。
【0179】
このような電流値の低下が起きるのは、添加剤は溶液内において低濃度で共存する場合はメディエータの安定性に寄与するが、乾燥した試薬層が湿気によってわずかに溶解した場合、すなわち高濃度で共存した場合には、酵素を失活させてしまうためと推測される。
【0180】
これに対して、表3に示すように、ヒスタミン、ヒスチジン、2−アミノイミダゾール、4,5−ビス(ヒドロキシメチル)イミダゾール、1,2,4−トリアゾール、3−アミノ−1,2,4−トリアゾール、4−アミノ−1,2,4−トリアゾール又は3,5−ジアミノ−1,2,4−トリアゾールが添加された試薬層を有するセンサでは、暴露試験後も応答電流値の変動が比較的低く抑えられた。
【0181】
【表3】
【0182】
[3]添加物の濃度
異なる濃度(0.01〜6mM)の3−アミノ−1,2,4−トリアゾールを含有する試薬液をそれぞれ調製した。また3−アミノ−1,2,4−トリアゾールを含有しない以外は同じ組成の試薬液も調製した。調製直後の各試薬液を用いてセンサを作製し、一方で、調製後25℃、湿度5%で24時間保存した試薬液でセンサを作製した。それぞれのセンサを用いて、所定の濃度のグルコース溶液についての応答電流値を測定した。
【0183】
保存前後での応答電流値の変動率を、図8に示す。図8では、調製直後の試薬液を用いて作製されたセンサの応答電流値を0%として、保存によるセンサの応答電流値の変化率が前記変動率として示されている。図8に示すように、検討した濃度範囲(0.01〜6mM)の全体において、複素環式化合物の添加により、試薬液の安定性向上の効果が見られた。特に、1〜6mMにおいて、顕著な効果が見られた。
【0184】
同じ組成を有し、かつ調製直後の試薬液を用いてセンサを作製した。センサについて、30℃、湿度80%、24時間の条件で暴露実験を行った。暴露させていないセンサ(すなわち、通常の条件(25℃、湿度5%)で24時間保存されていたセンサ)と暴露させたセンサとを用いて、所定の濃度のグルコース溶液について応答電流値を測定した。
【0185】
暴露前後での応答電流値の変動率を、図9に示す。図9では、暴露させていないセンサの応答電流値を0%として、暴露による応答電流値の変化率が前記変動率として示されている。図9に示すように、特に0.1〜6mMにおいて、暴露による応答電流値の低下の抑制効果が見られた。
【0186】
[4]酸化還元電位への影響
下記組成を有する試薬液E、Fについて、サイクリックボルタンメトリーを行った。用いた電極は以下の通りであった。
−作用極:グラッシーカーボン電極、
−対極:白金ワイヤー、
−参照電極:Ag|AgCl
【0187】
<試薬液E>
添加剤:3−アミノ−1,2,4−トリアゾール 5mM
電子受容体:PQSA 2mM
緩衝液:100mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
【0188】
<試薬液F>
電子受容体として2,6−ジメチルベンゾキノンを用いた以外は試薬液Eと同様の組成である。
<試薬液G>
電子受容体として、フェリシアン化カリウムを用いた以外は試薬液Eと同様の組である。
【0189】
図10図12に示すように、全ての試薬液E、F、Gについて、酸化電位の負側への移行が見られた。
【0190】
以上のことから、本発明のトリアゾールなどの特定の含窒素化合物を添加剤として、酸化還元酵素と電子受容体を含有する試薬に添加することにより、PQSA、2,6−ジメチルベンゾキノンなどのキノン系化合物、またはフェリシアン化カリウムなどの鉄シアノ錯体などの電子受容体の多くに、酸化電位の負側への移行の効果が見られた。本発明をセンサに応用することにより、生体試料の特定成分の測定などにおいて、妨害物質等の影響を抑制することができる。
【0191】
本出願は、2010年9月30日出願の特願2010−222142に基づく優先権を主張する。当該出願明細書に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0192】
本発明では、酸化還元酵素及び電子受容体を含有する試薬組成物において、複素環式化合物がさらに含有されることにより、保存期間の前後での電流値の変化が抑制される。この試薬組成物は、センサの試薬層に好ましく適用される。したがって、標的物質の電気化学的な検出において、より精度の高い検出結果を得ることができる。本発明は、標的物質の電気化学的な検出の分野におけるさらなる発展に寄与することが期待される。
【符号の説明】
【0193】
1 センサ
2 基板
3 導電層
31 作用電極
32 対電極
33 検知電極
4 試薬層
5 スペーサ
51 キャピラリ
52 導入口
6 カバー
61 通気口
100 センサシステム
101 測定器
102 表示部
103 装着部
104〜106 コネクタ
107 切替回路
108 基準電圧源
109 電流/電圧変換回路
110 A/D変換回路
111 演算部
112 電源部
113 操作部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12