【実施例1】
【0031】
本発明に係る光学的距離計測装置の実施例1を以下に
図1及び
図2を参照しつつ説明する。本実施例は、走査ビームを測定対象物で反射する反射光学系の装置とされている。
図1は、実施例に係る反射光学系の装置の構成を示すブロック図である。
【0032】
この
図1に示すように、コヒーレントな照射光であるレーザー光が照射(出射)される光源であるレーザー光源21と、このレーザー光から平行光を得られるように収差補正されたコリメーターレンズ22とが順に配置されている。従って、本実施例では、レーザー光源21から出射されたレーザー光が、コリメーターレンズ22により平行光とされる。
【0033】
また、このコリメーターレンズ22に対して、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系25、入力されたレーザー光を2次元走査する2次元走査素子である2次元走査デバイス26、入力されたレーザー光を本来的には分離して出射するためのものであるビームスプリッター27が、さらに順に並んで配置されている。そして、
図1に示すように瞳伝達レンズ系25に向かう側のレーザー光の光路を光軸Lとしている。なお、この2次元走査デバイス26には、レーザー光を2次元走査する走査範囲や走査速度を調整する電圧等を変更するための制御手段であるコントローラ23が接続されている。
【0034】
さらに、ビームスプリッター27に隣り合って、2群のレンズからなる瞳伝達レンズ系30が位置し、この隣に対物レンズ31が測定対象物G1と対向して配置されている。つまり、これら部材も光軸Lに沿って並んでいることになる。以上より、レーザー光がこの光軸Lに沿って、瞳伝達レンズ系25、2次元走査デバイス26、ビームスプリッター27、瞳伝達レンズ系30、対物レンズ31を順に経て、測定対象物G1に照射される。この際、2次元走査デバイス26の動作により、このレーザー光が走査ビームとなって測定対象物G1上で2次元的に走査される。
【0035】
他方、光軸Lが通過する方向に対して直交する方向であってビームスプリッター27の隣の位置には、複数の光センサにより構成される受光素子群29が配置されている。そして、
図1に示す測定対象物G1にて反射した走査ビームは回折光となり、対物レンズ31、瞳伝達レンズ系30及びビームスプリッター27の順で戻って平行光となる。これに伴いこのビームスプリッター27で反射して、本来の光軸Lに対して直交する照射光の光軸Lに沿って受光素子群29に入射される。
【0036】
尚、この受光素子群29は、測定対象物G1のファーフィールド(遠視野)面に配置されているだけでなく、本実施例では2つの受光素子29A、29Bにより構成されている。但し、
図2に示すように、走査ビームLAのスポットの中心となる光軸Lに沿った方向に対して略垂直な面上であってこの光軸Lを通る境界線Sを挟んで、これら受光素子29A、29Bがそれぞれ配置されている。つまり、境界線Sの片側にずれて受光素子29Aが位置し、これと境界線Sの反対側にずれて受光素子29Bが位置していて、測定対象物G1で反射することで経由した走査ビームLAをこれら各受光素子29A、29Bが受光する。
【0037】
さらに、各受光素子29A、29Bは図示しない光電変換部を有した構造とされていて、各受光素子29A、29Bが走査ビームLAを受光してそれぞれ光電変換することになる。
この各受光素子29A、29B及び、2次元走査デバイス26の動作を操作する前述のコントローラ23は、信号比較器33にそれぞれ接続されている。これに伴って、信号比較器33が各受光素子29A、29Bからの信号及びコントローラ23からの信号により測定対象物G1の位相情報を得ることになる。そして、この信号比較器33が、最終的にデータを処理して測定対象物G1のプロフィル等の計測値を得るデータ処理部34に繋がっている。このため、本実施例では、これら信号比較器33及びデータ処理部34が計測部とされている。
【0038】
また、レーザー光源21は半導体レーザーであり、コヒーレントなレーザー光を発生する。このレーザー光をコリメーターレンズ22により平行光束にし、瞳伝達レンズ系25に入射させる。このとき、レーザー光の入射ビーム径は、瞳伝達レンズ系25との兼ね合いより、絞り機構(図示せず)等を用いて適正化しておくことにする。
【0039】
ここで、コリメーターレンズ22と2次元走査デバイス26との間に配置されている瞳伝達レンズ系25は、コリメーターレンズ22の出射面位置を次の2次元走査デバイス26に共役に伝達するための光学系である。この瞳伝達レンズ系25を通過したレーザー光は、2次元走査デバイス26を経由して走査ビームとなってビームスプリッター27に送られるが、このビームスプリッター27からの走査ビームは、対物レンズ31の瞳位置に共役にする瞳伝達レンズ系30を介して対物レンズ31に入射する。
【0040】
以上より、本実施例では、変調されていない状態のレーザー光がレーザー光源21より照射されるものの、2次元走査デバイス26により走査ビームとされたレーザー光が測定対象物G1に入射されて実質的に変調されると共に反射されて、受光素子群29で走査ビームのフーリエ変換パターンの変調信号を最終的に検出する。
【0041】
また、
図3に示すように、2次元走査デバイス26は、水平方向Xに沿ってレーザー光を繰り返して光軸Lを移動しつつ測定対象物G1上で走査する。但し、この繰り返しに際して
図3における1、2、3、4・・・のように垂直方向Yに沿って順次走査位置を変更していくことで、2次元走査を可能としている。そして、この2次元走査デバイス26の動作を調整するコントローラ23は、本装置の視野範囲を変更可能としている。つまり、コントローラ23が2次元走査デバイス26の水平方向の走査範囲をコントロールする電圧を変更したり、垂直方向の走査範囲を変更したりすることで、自由に3次元画像を拡大縮小して視野範囲を調整可能となる。尚この際、コントローラ23は横分解能を一定に保ったまま、視野範囲だけを変更できる。
【0042】
このようにレーザー光源21からの変調されていないレーザー光が、2次元走査デバイス26により走査され、実質的にこのレーザー光に印加される変調の基となる信号と測定対象物G1で反射して変調を受けた走査ビームの有する変調信号との位相差を電気的な変調信号周波数差の位相ずれとして、信号比較器33により検出できる。この時の位相ずれは、後述するが0次回折光と高次回折光との位相差に相当する。この時、もちろん両方の受光素子29A、29Bでそれぞれ受光して光電変換することもできるが、
図2に示す光軸Lを通る境界線Sを境界とした2分割受光領域の片側に位置する受光素子のみでも、位相ずれの情報である位相情報を検出できることが、本実施例の一つの特徴である。
【0043】
このように2分割受光領域の片側のみでも位相情報を検出できる理由としては、
図2に示す対物レンズ31の光軸L方向に対して略垂直な方向を境界線Sとし、この境界線Sで区分けされた片側にある一方の受光素子29Aのみでも十分に位相情報を検出でき、または、他の片側にある他方の受光素子29Bのみでも同じく十分に位相情報を検出できるからである。もちろん、両方の受光素子29A、29Bで情報を同時に検出することもできる。ただし、測定対象物G1から回折されて各々の受光素子29A、29Bに到達する光の位相は、光軸Lを境界とする受光素子29A、29B間で逆相になる。従って、受光素子29A、29Bで光電変換された相互に逆相の各々の位相情報の信号に基づいて信号比較器33がコントローラ23からの信号とを比較し、最終的にデータを処理してデータ処理部34が測定対象物G1のプロフィル等の光学的距離の計測値を得ることになる。
【0044】
つまり、信号比較器33が、前述の測定対象物G1で反射された走査ビームを光電変換した信号と走査ビームの基となるコントローラ23の走査を指示する信号により測定対象物G1の位相情報を得て、この信号比較器33と接続されたCPUやメモリ等からなるデータ処理部34にこの位相情報を送り込むことになる。これに伴い、データ処理部34でこの位相情報を平面に対する走査情報とともに記録していき、測定対象物G1の表面についてのプロファイル情報等の計測値を簡単に導くことができる。
【0045】
以上より、本実施例によれば、面内の分解能が高く、しかも面外において高さや屈折率分布に対する分解能が高く、また、通常の結像光学系では取得不可能な空間周波数を取得して測定対象物G1の有する空間周波数情報を正確に再現することで、実効上分解能が高く空間周波数の欠損のない光学的距離計測装置が提供されるようになる。
【0046】
これに伴って、このような本光学系を用いれば、2次元走査を行うたびに3次元計測データを取得することが可能となる。このため、本光学系によれば、細胞や微生物の状態変化や、この状態変化に伴うこれらの表面状態および内部状態の過渡的な変化等を、高速に観察、計測することができる。従って、製品化されている裸眼立体ディスプレイや偏光めがねを使用した3次元ディスプレイ等を用いることにより、3次元立体画像を表示することもできるので、教育や研究、医療において、有用な装置とすることができる。
【0047】
尚、本光学系においては、
図1に示す一つの2次元走査デバイス26を用いた例で説明をしたが、単純な一方向だけのデータが必要なアプリケーションであれば、この2次元走査デバイスを1次元走査デバイスに置き換えても同様な効果が得られることになる。これらの1次元走査デバイスとして、ガルバノミラー、レゾナントミラー、回転ポリゴンミラー等を採用することができる。
【0048】
また、一つの2次元走査デバイス26の替わりに、独立した1次元走査デバイスを、相互に直交したX方向用とY方向用の計2つ用意し、これらを瞳伝達レンズ系25の前後に配置することによっても2次元走査デバイス26と同様の機能を実現できる。なお、例えばマイクロマシーンの技術を用いたマイクロミラーデバイスを用いても良い。このマイクロミラーデバイスとしては、1次元用、2次元用ともに知られ製品化されている。さらに、1次元走査デバイスを1つと測定対象物G1を支持する図示しないテーブルとを相互に直交する形で採用することもできる。
【0049】
以上述べたように、走査ビームの受光素子群29で光電変換された信号とコントローラ23からの2次元走査デバイス26による走査の基準となる信号とを基にした測定対象物G1の位相情報から、定量的に光学的距離を算出することができる。
【実施例2】
【0050】
次に、本発明に係る光学的距離計測装置の実施例2を以下に
図4を参照しつつ説明する。本実施例は、走査ビームが測定対象物を透過する透過光学系の装置とされている。
図4は、本実施例に係る透過光学系の装置を示すブロック図である。主要な光学系は前記反射光学系の装置と同じなので説明を割愛するが、この透過光学系の装置では、実施例1と比較して対物レンズ31で集光された光が測定対象物G2を透過することになる。
【0051】
また、本実施例では、透過光学系であることからビームスプリッター27が不要になり、これに合わせて測定対象物G2を介した対物レンズ31と反対側の位置に、受光素子群29が配置されている。但し、実施例1と同様にこの受光素子群29は、測定対象物G2のファーフィールド面に配置されているだけでなく、2つの受光素子29A、29Bにより構成されている。
【0052】
つまり、透過光学系の本装置の場合、
図4に示すように対物レンズ31の光軸Lの延長線上に受光素子群29が配置されている。さらに、実施例1と同様に、走査ビームLAのスポットの中心となる光軸Lに沿った方向に対して略垂直な面上であってこの光軸Lを通る境界線Sを挟んで、受光素子29A、29Bがそれぞれ位置している。このことから、境界線Sの片側にずれて受光素子29Aが位置し、これと境界線Sの反対側にずれて受光素子29Bが位置していることになる。これに伴い、
図4の透過光学系の装置でも、
図1の反射光学系の装置と同様に受光素子群29上において空間的にほぼ等位相になる。
【0053】
従って、実施例1と同様に、受光素子群29を構成する受光素子29A、29Bでそれぞれ光電変換された位相情報の信号及び、コントローラ23からの2次元走査デバイス26による走査の基準となる信号により、信号比較器33が測定対象物G2の位相情報を得ることになる。最終的にデータを処理してデータ処理部34が測定対象物G2のプロフィル等の光学的距離の計測値を得ることができる。この結果として、本実施例によっても、実効上分解能が高く空間周波数の欠損のない光学的距離計測装置が提供されるようになる。
【0054】
特に、本実施例のように透過光学系の装置では、無染色、非侵襲で生きたままの細胞の状態変化をリアルタイムに観察できるので、iPS、ES細胞の正常かどうかの検査やがん細胞の有無検査等に大きな役割を果たすことができる。これは、電子顕微鏡のような高倍率であっても生体を殺した状態でないと観測できない測定器とは大きく異なる特徴である。
【0055】
他方、本実施例の変形例として、測定対象物G2を挟んで対物レンズ31と反対側となる測定対象物G2の背後であって受光素子群29の手前にレンズ40を
図5に示すように配置することが考えられる。つまり、測定対象物G2からの回折光となる走査ビームをこのレンズ40にて平行光としたのち、受光素子群29に導く形となる。このため、本変形例では、
図5に示すように測定対象物G2を透過した走査ビームのフーリエ変換パターンがレンズ40により平行光とされて受光素子群29で受光される。但し、このレンズ40により集光して受光素子群29に走査ビームを導いてもよい。
【0056】
次に、測定対象物を透過した走査ビームがどのような情報をもたらすかを説明する。
説明を簡単にするために、試料である測定対象物が高さhでピッチdの正弦波状の形状をしているものとすれば、光学的な位相θが以下の式で表される。
θ=2π(h/λ)sin(2πx/d−θ0)・・・・・(1)式
測定対象物から回折された光の振幅Eは、焦点距離fだけ離れた面においては、(1)式のフーリエ変換と対物レンズ31の開口とのコンボリューションとして、与えられるので、以下のように表される。ただし、(1)式の位相のフーリエ変換であるベッセル関数は±1次まで取るものとする。
【0057】
【数1】
【0058】
この(2)式を一般化して考えることができる。すなわち、位相パターンは、上記したピッチdがさまざまなピッチの集合体と考えられるので、0次回折光の振幅M
0とこの0次回折光に対する1次回折光の振幅M
1の位相差をθ
0とした場合、光の振幅Eは以下のように与えられる。空間周波数の正の領域では、下記(3)式で光の振幅Eが表され、また、空間周波数の負の領域では、下記(4)式で光の振幅Eが表される。
【0059】
【数2】
【0060】
これは、測定対象物で回折された光の±1次回折光が0次回折光に対して、定性的に常に逆位相同士となるからである。ここで、(3)式、(4)式の回折光は、光軸Lに沿った方向に対して略垂直な面上でこの光軸Lを通る境界線Sを挟んで2分割された領域にそれぞれ配置された受光素子群29の各受光素子29A、29Bでそれぞれ受光されることになる。
【0061】
ここで、上記実施例では、半導体レーザーとされるレーザー光源21を一定光量で発振させたレーザー光が、2次元走査デバイス26により速度vを有する走査ビームとして、測定対象物G1、G2上で走査されつつ照射されることになる。この測定対象物G1、G2の部分での回折光により、受光素子群29の何れか片側の例えば受光素子29Aでは以下の式のようにEを表すことができる。ここで、E
0は光の振幅である。また、本説明では受光素子29Aを用いるが、受光素子29Bでも同様のことが言える。
【0062】
【数3】
【0063】
したがって、受光素子群29の例えば受光素子29Aで観測される強度Iは下記(5)式で表される。ここで、I
0は照射された光強度である。
【0064】
【数4】
【0065】
また、測定対象物G1、G2に対して走査ビームは速度vで走査されるので、初期位相θ0はθ0=2πvt/d=2πftとなる。受光素子29Aで受光され光電変換された信号は、測定対象物G1、G2の有する空間周波数1/dが電気的な周波数fに変換されたことになる。
【0066】
次に、この光電変換された電気信号の強度Iの(5)式を実質的に直流成分と交流成分に分離する。この分離は、コンデンサによる平滑処理等で行ってもよいし、A/D変換したのちにデジタル的な処理により行ってもよい。この結果として下記(6)式、(7)式より直流成分DCと交流成分ACが得られる。
【0067】
【数5】
【0068】
通常の細胞や透明体を測定対象物G1、G2とした場合、周りの媒質と測定対象物G1、G2との間の屈折率差が非常に小さいので、0次回折光に比較して1次回折光を含む高次の回折光の強度は、非常に小さい。このため、M0>M1とみなせるのに伴って、(6)式、(7)式は下記(8)式、(9)式となる。
【0069】
【数6】
【0070】
次に、交流成分ACに2つの演算を施す。
具体的には、受光素子29Aから得た電気信号を90度の位相シフターの素子を介するか、或いはA/D変換したのちにヒルベルト変換を行うことなどにより、下記(10)式が得られる。また、交流成分ACの信号を微分回路に通すか、或いはデジタル的な差分を取ることにより、下記(11)式が得られる。
【0071】
【数7】
【0072】
そして、(10)式の信号と(11)式の信号の比を取ることにより、ε=2πfを得ることができる。さらに、Achの信号を微分回路に通すか、或いはデジタル的な差分を取ることにより、下記(12)式が得られる。
【0073】
【数8】
【0074】
他方、(12)式の信号と(9)式の信号の比を取ることによっても、同様にε=2πfを得ることができる。ただし、この時、2つのεは分母が正弦関数と余弦関数となるために、いずれかで計算した場合、値が無限大になることがある。このため、分母がより0に近いほうを採用しないなどの手法により、発散する問題を避けて計算精度を高めることができる。
以上より、改めて(1)式の位相情報を表記すると、下記(13)式となる。
【0075】
【数9】
【0076】
ここでΘ=2πx/d-θ0であり、θ0は初期位相を表しているのでこのθ0を無視すると、Θ=2πftのように書くことができる。この際、f=v/dと表わされるので、周波数fと空間周波数1/dが比例関係となる。
以上に対して、求めたいのは(13)式に基づいて下記(14)式による値である。
【0077】
【数10】
【0078】
上記したように、通常の細胞や透明体を測定対象物G1、G2とした場合、周りの媒質と測定対象物G1、G2との屈折率差が非常に小さいので、0次回折光に比較して1次回折光を含む高次の回折光の強度は、非常に小さい。これは(13)式の位相項において、0次のベッセル関数が大きな値となり、2次以降の値を無視できることに相当する。したがって、この(14)式のように書くことができ、この(14)式に基づき下記式が求まる。
【0079】
【数11】
【0080】
ここで、単一の空間周波数ではなく、いろいろな空間周波数よりなる測定対象物G1、G2を考えた場合、(3)式、(4)式のようにこの式を一般化することができる。
すなわち、最終的に下記(15) 式の位相を求めればよいことになる。
【0081】
【数12】
【0082】
そして、θ=(2π/λ)nhの式より光学的距離nhを算出することができる。例えば(8)式及び(10)式を基にして(15)式を計算して求めることができる。これらの演算は、ヒルベルト変換を複数回行ったり、或いは微分や差分を複数回行ったりすることでも、可能である。
【0083】
上記のように数学的には(15)式を求めることができるが、光学的にはM
0とM
1はレンズによって取得できる空間周波数が制限を受ける。対物レンズ31の光軸Lを境界とした片側に例えば受光素子29Aが配置されているが、カットオフ周波数の半分の空間周波数を中間周波数(a/λf)と定義すると、この受光素子29Aで得られる空間周波数は、いわゆるMTF曲線を表す
図6に示すグラフの実線A1のようになる。
具体的には、空間周波数が0の低域から中間周波数(a/λf)に向かうにつれて空間周波数は増加し、中間周波数から空間周波数が2a/λfの高域に向かうにつれて空間周波数は減少することになる。
これは、0次回折光と1次回折光の干渉のみが変調度に寄与するからである。つまり、低域から中間周波数までは、0次回折光と±1次回折光が重なる部分が生じるが、この部分では変調度に寄与せず、中間周波数から高域までは、0次回折光と1次回折光の重なる部分が減少していくからである。ここで、aは対物レンズ31の開口半径を、fは対物レンズ31の焦点距離を、また、λはレーザー光の波長を表す。
また、上記したようにεより周波数が算出されるが、走査速度はあらかじめわかっているので、この算出された周波数はパターンを構成している空間周波数の総体を表していることになる。したがって、空間周波数の逆数であるパターンの主要なピッチが走査方向に沿ってリアルタイムに計測することもできる。
【0084】
ここで、測定対象物G1、G2にレーザー光を速度vで走査しつつ照射して情報を取得すると、前述したように走査に伴い周波数変調をうけ、これが空間周波数と比例関係になる。 したがって、εとして算出した周波数は、走査している空間周波数を表していることになり、レンズ等の光学系で取得できなかった周波数を
図6のMTF曲線に当てはめ、このMTF曲線を実線B1のようにフラットにするような変換を取得データごとに行っていくこととする。この結果として、取得された空間周波数のゲインを随時変更することになり、本手法によりリアルタイムに正しい光学的距離を算出できるようになる。
【0085】
一方、横分解能を向上させる目的で、対物レンズ31の光軸Lに対して、傾けた光学系を配置し、0次回折光の一部と高い空間周波数を有する1次回折光をこの傾けた光学系において重ね合わせることで、MTFの改善を図る手法が例えば特開2015−4643等の公報により、知られている。この手法においても、MTF曲線がどのようになるかが予め分かっているので、上記手法によりさらに高い空間周波数まで修正が可能となる。このことで、横分解能を高くする必要のあるような測定対象物G1、G2に対しても、信頼度の高い光学的距離を測定することが可能となる。
【0086】
他方、周波数の測定が走査画素ごとに行えるので、測定対象物G1、G2を観察する観察者が強調したい空間周波数等を簡単に設定でき、見たい部分の強調や背景に隠れてしまうような部分を表示することができる。このように空間周波数を簡単にフレキシブルに変更できるのに伴い、空間周波数の帯域をいくつかに分け、それぞれの帯域において観察者がゲインを手動等で設定できるようにしておくことにより、画像に対して一種のイコライザーを自由に行うことがきるようになる。
【0087】
また、光学系の有する横分解能の限界は検出できる周波数の上限にあたるので、この上限の周波数よりも十分に高い周波数でサンプリングし、このサンプリングしたデータに基づき、時系列で流れてくるデータを加算することで、ランダムノイズを軽減することができる。この結果として、計測データの精度の向上および3次元画像の表示の際におけるノイズの軽減につながる。さらに、走査速度は一定なので、加算のデータ数を変更することにより、実質的に画像を表示する範囲を変更することが可能となる。したがって、照射に使用した対物レンズのNAを実質的に変更することなく、視野範囲をある程度任意に拡大縮小することが可能となる。
【0088】
すなわち、本手法によれば、横分解能を一定に保ったまま、視野範囲だけを変更することができるという大きな特徴を有する。さらに、走査素子であるMEMSや共振ミラー等に対して、水平走査方向の走査範囲をコントロールする電圧を変更して走査範囲を変更する機能と併用すれば、さらに自由に3次元画像の拡大縮小が、横分解能を変えることなく行うことができる。
【0089】
なお、一般的には屈折率差が非常に小さいのでM
1<M
0としたが、より具体的には(9)式、(10)式の比を算出し、2πftの量を(7)式に代入し、(6)式、(7)式よりM
1/M
0を求めてもよい。さらに、走査によりレーザー光とされる照射光を変調することにより、測定対象物G1、G2から離れたファーフィールドに配置し且つ光軸Lに沿った方向に対して略垂直な面上でこの光軸Lを通る境界線Sを挟み区分けされた片側の領域において受光素子29Aによりこの走査ビームを受光して検出(光電変換)することで、測定対象物G1、G2の光学的距離を簡単に検出できる。
【0090】
この一方、前記境界線Sで区分けされた領域と逆側の領域では、受光素子29Bにより位相が反転した量として走査ビームを受光して検出(光電変換)できる。このため、両方の領域の位相情報を独立して検出した後にこれら位相情報の平均値を算出すれば、ノイズ等の影響を軽減することができる。
【0091】
特に、細胞のように屈折率がわずかに異なるような物質で構成されるような物体を可視化するには、極めて微弱な検出信号となり、ノイズは極力抑え、信号を増幅しなくてはならない。このような場合、ノイズの帯域からできるだけ離れた周波数領域で信号を取得することが必要となる。
【0092】
以上のように、走査に基づく信号と受光素子29Aや受光素子29Bで検出された信号とにより、簡単に位相物体を可視化することができる。また、この信号を適正に処理することで、計測値を算出するとともに、取得した空間周波数を同定できる。これに基づき、測定対象物が本来有する空間周波数を再現し、より正確に測定対象物の光学的距離を算出することができる。
【0093】
また、透過光学系の場合には、前述の実施例により細胞や微小生物等の可視化を簡単な装置で実現できるので、ミクロな3次元デジタイザーとして教育やホビーで利用することができる。このようにすると、昨今の3次元プリンタと前述の実施例による装置とを組み合わせて使用することにより、生きたままの状態で染色等の処理をせずに、簡単に細胞分裂の経過や微小生物の細胞内部の器官の3次元立体像を、3次元模型として表すことができるようになる。
【実施例4】
【0097】
本発明に係る光学的距離計測装置の実施例4について
図8を参照しつつ、以下に説明する。
図8は、本実施例の光学的距離計測装置の構成を示す概略図である。本実施例は測定対象物G2を透過した走査ビームに対して横分解能を向上させつつ処理するために、例えば実施例2の透過光学系の装置の下部にこの図に示す傾けた光学系を配置するものである。尚、
図8において、瞳伝達レンズ系25、30、2次元走査デバイス26、信号比較器33及びデータ処理部34等の光学系は図示を省略し、また、受光素子群29の替わりに受光素子50を採用している。
【0098】
そして、本実施例では、対物レンズ31の光軸Lとされる0次回折光の光軸に対して、レンズ36を傾斜して設置している。具体的には、測定対象物G2を透過した0次回折光の一部と1次回折光の一部とを、0次回折光の光軸Lと1次回折光の光軸L1との間の中間的な傾き角を有した光軸L3だけ傾けた状態のレンズ36に取り入れる。このことで、0次回折光の一部だけでなく、同じレンズを用いた場合に比較してより高い空間周波数を有した1次回折光の一部を取り入れて、結像光学系にてこれら0次回折光と1次回折光の干渉を実現している。なお、図示しないものの、本実施例においては、光軸Lに対して対象な位置に同様な光学系が配置されている。
【0099】
さらに本実施例では、レンズ36を傾けて0次回折光の一部と1次回折光の一部を取得し、このレンズ36により平行光束にした回折光同士をレンズ52にて集光する。このレンズ52により回折光同士が焦点近傍で重なり合って、実質的に干渉する。ただし、0次回折光と±1次回折光との干渉ではないので、測定対象物G2自体の結像とは異なる。
【0100】
さらに、レンズ52の実効的な焦点距離を長くすることで、干渉縞のピッチを広げることができる。もし、レンズ36とレンズ52の焦点距離が同じであれば、当然等倍となり、測定対象物G2の空間周波数となる。これに対して、他方の−1次回折光の光学系にて干渉された結果は、ピッチがずれた干渉縞となる。しかしながら、干渉縞のピッチに対して受光素子が大きいと、±1次回折光を受光する素子の位置あわせが困難になる。
【0101】
そこで、拡大光学系53により干渉縞自体を拡大し、受光素子50の大きさにほぼ等しくすれば、±1次回折光で自然と逆位相となるので、0次回折光がバイアスになるような形で明暗が逆になる。この様にすれば、極めて簡単に空間周波数の高い領域まで、情報を取得することができ、MTFの改善が図れる。このことで、横分解能を高くする必要のあるような測定対象物G2に対しても、信頼度の高い光学的距離を測定することが可能となる。本実施例の場合、レンズ52を用いているので、このレンズ52に入射される0次回折光と1次回折光の位相差がそのまま反映される程度の波面収差は許容される。したがって、高額なレンズを用いる必要性はない。また、詳細には述べないが、拡大光学系53を省略し、レンズ52の焦点からずらせたデフォーカス位置に受光素子50を配置してもよい。この時、2次の波面の波面ひずみより干渉縞のコントラストを低下させることができ、実質的に0次回折光とそれ以外の回折光を重ね合わせた効果をもたらすことができる。
【0102】
ここで、具体的に受光素子の調整方法を簡単に述べる。
測定対象物G2から抽出される情報が位相情報である場合、1次回折光と0次回折光との間及び、−1次回折光と0次回折光との間の2系統で行い、一方の受光素子が最大光量のときに他方の受光素子でほぼ0になるように、受光素子を調整する。測定対象物G2から抽出される情報が強度情報である場合には、1次回折光と0次回折光との間及び、−1次回折光と0次回折光との間の2系統で行い、一方の受光素子が最大光量のときに他方の受光素子でも最大になるように、受光素子を調整する。
【0103】
なお、本実施例においては、焦点距離が多少異なるレンズであっても、お互いの受光素子の受けとる光量に大きな変化がなく、レンズ面内の波面収差が大きくなければ、干渉縞のピッチが多少変わる程度なので、そのまま用いることができる。また、取得できる空間周波数の限界は、1.5倍程度となる。この光学系は、レンズ系だけを用いて構成しているので、非常にシンプルで、外乱に対しても強い。
【0104】
さらに、上記実施例では、各受光素子が境界線で区画された何れかの側に位置しているが、境界線を跨いで受光素子を配置しても良い。この場合でも、境界線の片側にずれた形で受光素子が位置していれば良い。
【0105】
以上、本発明に係る各実施例を説明したが、本発明は前述の各実施例に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。