(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194405
(24)【登録日】2017年8月18日
(45)【発行日】2017年9月6日
(54)【発明の名称】盲点検知を備えた車両レーダシステム
(51)【国際特許分類】
G01S 7/02 20060101AFI20170828BHJP
G01S 13/93 20060101ALI20170828BHJP
G08G 1/16 20060101ALI20170828BHJP
【FI】
G01S7/02 216
G01S13/93 220
G08G1/16 C
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-501557(P2016-501557)
(86)(22)【出願日】2014年3月12日
(65)【公表番号】特表2016-516995(P2016-516995A)
(43)【公表日】2016年6月9日
(86)【国際出願番号】US2014024507
(87)【国際公開番号】WO2014150908
(87)【国際公開日】20140925
【審査請求日】2015年11月12日
(31)【優先権主張番号】61/798,009
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】598122843
【氏名又は名称】オートリブ エー・エス・ピー・インク
(74)【復代理人】
【識別番号】110000349
【氏名又は名称】特許業務法人 アクア特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】ドゥ メルスマン、バーナード
(72)【発明者】
【氏名】エリクソン、オロフ
(72)【発明者】
【氏名】アンダーソン、ロイ
【審査官】
請園 信博
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2012/089384(WO,A1)
【文献】
特表2014−506325(JP,A)
【文献】
特表2005−534038(JP,A)
【文献】
国際公開第2006/030832(WO,A1)
【文献】
特表2007−531872(JP,A)
【文献】
特開平08−152470(JP,A)
【文献】
米国特許第5008678(US,A)
【文献】
特開2007−183276(JP,A)
【文献】
特開平08−301029(JP,A)
【文献】
米国特許第6121916(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 − 7/42
13/00 − 13/95
G08G 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の盲点を観察する車両レーダシステムであって、前記車両は該車両の前端と該車両の後端との間に前記車両の走行ラインに沿った長手方向軸を有し、当該車両レーダシステムは、
前記車両に搭載されたレーダ送信機と、
前記レーダ送信機に接続された送信アンテナアレーとを含み、前記レーダ送信機と前記送信アンテナアレーとは、前記車両近傍の領域に放射線をパターン状に送信し、該パターンは第1放射ローブおよび第2放射ローブを有し、第1放射ローブおよび第2放射ローブの間にある前記パターンの空値領域は、前記車両の長手方向軸と実質的に直交する領域へ向いていて、
前記送信アンテナアレーのボアサイトは、前記空値領域から前記車両の後端へ向かって、前記車両から実質的に20度離れた方へ向いていることを特徴とする車両レーダシステム。
【請求項2】
前記送信アンテナアレーは少なくとも1つの平面アンテナセルを有することを特徴とする請求項1に記載の車両レーダシステム。
【請求項3】
前記送信アンテナアレーは、
前記車両近傍の領域に前記放射線を送信する第1アンテナセルおよび第2アンテナセルと、
第1アンテナセルと第2アンテナセルとの間にあり、第1アンテナセルおよび第2アンテナセルの少なくとも一方の位相を調節して前記放射線を方向付ける位相シフタとを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両レーダシステム。
【請求項4】
前記位相シフタは、第1および第2アンテナセル間で120度の位相差にすることを特徴とする請求項3に記載の車両レーダシステム。
【請求項5】
前記車両レーダシステムはさらに、前記車両近傍の領域における対象物からの放射線リターン信号を受信する少なくとも1つの受信アンテナアレーを含むことを特徴とする請求項1に記載の車両レーダシステム。
【請求項6】
前記受信アンテナアレーの少なくとも1つは、第1および第2受信アンテナを含むことを特徴とする請求項5に記載の車両レーダシステム。
【請求項7】
前記受信アンテナアレーの少なくとも1つは、少なくとも1つの平面アンテナセルを含むことを特徴とする請求項5に記載の車両レーダシステム。
【請求項8】
前記車両レーダシステムはさらに、前記放射線リターン信号を処理して前記対象物の速度および距離のどちらか一方を決定する処理装置を含むことを特徴とする請求項5に記載の車両レーダシステム。
【請求項9】
前記対象物を検知する前記車両近傍の領域は、前記車両の盲点を含むことを特徴とする請求項8に記載の車両レーダシステム。
【請求項10】
前記レーダシステムは、パルスドップラーレーダシステムであることを特徴とする請求項1に記載の車両レーダシステム。
【請求項11】
前記レーダシステムは、24GHzの周波数で稼働することを特徴とする請求項1に記載の車両レーダシステム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
(技術分野)
本発明は、車両レーダシステムに関し、とくに、盲点検知を備えた車両レーダシステムに関する。
【0002】
(関連技術の説明)
いくつかの車両用レーダシステムは主車両の直近の状況を観察し、安全性を高め、または盲点検知および側面衝突の助言などの快適特性を実現している。盲点検知レーダシステムは、非常に広範囲を網羅しなければならず、レーダ視野にある障害物を区別する能力を備えていなければならない。具体的には、例えば、レーダセンサは、低速で渋滞中の車両、すなわち本車両と同じ方向にほぼ同じスピードで走行している車両と、平坦な壁またはガードレールとを見分けることができなければならない。
【0003】
従来の車両用盲点検知/観察システムは、一般的に1つの広範レーダ送信パターンと複数の受信機アレーを具備している。受信機のビームは、ある方向に向けられているか、またはデジタル処理で形成されている。例えば、いくつかのシステムでは、切替可能な比較的細いビームが対象のエリアを探査する。この方法は、比較的高価な複数のアナログ受信機回路を必要とする点で不利である。他のシステムでは、単距離用の単一の広範送信アンテナを用い、複数の、例えば4つの受信機を個々に用いてデジタルビームの形成を可能にしている。デジタルビームを形成するこの方法もまた、実際上はシステムのコストを増す可能性がある。
【0004】
本発明は、これらの従来技術の問題を解消した、盲点検知を備えた車両レーダシステムに関する。本発明が対象とする車両は、自動車、バス、トラック、オートバイ、自転車等を含む、あらゆる種類の車両も該当し得る。本明細書では車両として自動車を参照しながら本発明を説明する。しかしながら、他の種の車両にも適用可能である。
【0005】
本発明によれば、固有の性質を備えた一定の送信(Tx)パターンを用いる。Txパターンは一定であって可変ではない。また、車両の走行方向に対して直交する方向については空値を有している。本発明では、このようなパターンを、2列のパッチを固定位相シフトで、すなわち列間の固定位相差で送信するネットワークにより実現可能である。固定位相差は、例えば120度にすることができる。本明細書において「レーダセンサ」または単に「センサ」と同義的に用いられるレーダ送受信機が、プラス20度で車両後方に向けて実装されている場合、Txパターンの空値は、空値が車両の走行方向に対して直交するよう、センサのボアサイトに対してマイナス20度に形成される。
【0006】
このTxパターン特性の結果、ゼロレンジレートすなわちドップラーのない例えば壁やガードレール等の静止物からのリターンが最小になる一方で、前方および後方のガードレールからのリターンが測定可能なドップラーシフトを有する。このことはガードレールの分類に役立つ。盲点検知ゾーンにある他の渋滞中の路上走行車両は、その車両が渋滞中である、すなわちレンジレートを有さないので、サイドローブおよび主要な後部ビームからドップラーシフトを伴わないリターンを提供する。
【0007】
1つの特徴によれば、車両の盲点を観察する車両レーダシステムを提供する。車両は、車両の前端と車両の後端との間に、車両の走行ラインに沿った長手方向軸を有する。車両レーダシステムは、車両に搭載されたレーダ送信機、および当該レーダ送信機に連結された送信アンテナアレーを含む。レーダ送信機および送信アンテナアレーは車両近傍の領域に、パターン状に放射線を送信する。パターンは、第1放射ローブおよび第2放射ローブを有する。第1ローブおよび第2ローブの間にあるパターンの空値領域は、車両の長手方向軸と実質的に直交する方へ向いている。
【0008】
ある実施形態では、アンテナのボアサイトは、車両から車両の後端へ向かって、空地領域から実質的に20度離れた方へ向いている。
【0009】
ある実施形態では、送信アンテナアレーは少なくとも1つの平面アンテナセルを有している。
【0010】
ある実施形態では、送信アンテナアレーは、領域に放射線を送信する第1アンテナセルおよび第2アンテナセルを含んでいる。第1アンテナセルと第2アンテナセルとの間にある位相シフタは、第1アンテナセルおよび第2アンテナセルの少なくとも一方の位相を調節して放射線を方向付ける。
【0011】
ある実施形態では、位相シフタは、第1および第2アンテナセル間を120度の位相差にする。
【0012】
ある実施形態では、システムはさらに、車両近傍の領域における対象物からの放射線リターン信号を受信する少なくとも1つの受信アンテナアレーを含んでいる。
【0013】
ある実施形態では、受信アンテナアレーの少なくとも1つは、第1および第2受信アンテナを含んでいる。
【0014】
ある実施形態では、受信アンテナアレーの少なくとも1つは、少なくとも1つの平面アンテナセルを含んでいる。
【0015】
ある実施形態では、システムはさらに、前記放射線リターン信号を処理し、少なくとも対象物の速度および距離の少なくとも一方を決定する処理装置を含んでいる。
【0016】
ある実施形態では、対象物を検知する車両近傍の領域は、車両の盲点を含んでいる。
【0017】
ある実施形態では、レーダシステムは、パルスドップラーレーダシステムである。
【0018】
ある実施形態では、レーダシステムは、24GHzの周波数で稼働する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
前述の特性並びに他の特性および効果は、添付の図面を参照しながら実施形態のより詳細な説明から明らかになろう。各図において、同様の部分は同じ参照符号で示す。図面は変倍や強調ではなく、本発明の原理を示すところに主眼を置いている。
【
図1】実施形態に係る盲点検知/観察用のレーダシステムを搭載した車両を例示した説明図である。
【
図2】実施形態に係る車両および当該車両近傍の詳細な説明図である。
【
図3】
図3Aおよび
図3Bは、実施形態に係る車両、および盲点検知レーダで観察された車両近傍の説明図である。
【
図4】実施形態に係るレーダ受信機が搭載された車両のリアバンパの説明図である。
【
図5】実施形態に係る車両の盲点の観察に用いられるレーダ送信パターンの一例を例示した説明図である。
【
図6】実施形態に係る盲点検知/観察用のレーダ送信パターンの生成に用いられる送信アンテナ回路の概略正面図である。
【
図7】実施形態で生成されたアンテナ送信パターンを測定した詳細な説明図である。
【
図8】実施形態に係るレーダ送受信機の一部であるプリント基板(PCD)の図である。
【
図9】実施形態に係る位相比較技術を2つの受信アンテナで受信した信号に適用して対象物の進行方位角を判断する方法を例示した説明図である。また
図9は、実施形態に係る、進行方位角の計算に用いられる幾何的な方程式も図示している。
【
図10】実施形態に係る送信パルス波形のタイミングを示した説明図である。
【
図11】実施形態に係る送信パルス波形および受信ゲートパルス波形のタイミングを例示した概略的なタイミングチャートである。
【
図12】実施形態に係る、レーダ送受信機またはセンサにおける送信および受信回路の概略的なブロック図である。
【
図13】実施形態に係るI信号およびQのIF信号の一方のサンプルホールド処理を例示した概略的なブロック図である。
図13Bは、本実施形態に係るIおよびQのIF信号の一方のサンプルホールド処理のタイミングチャートを例示した概略的なブロック図である。
【
図14】実施形態に係る、機内におけるRFすなわちレーダパルスの概略的なブロック図およびタイミングチャートである。
【
図15】実施形態に係る、車両の盲点での対象物検知に用いられる送信パルスおよび受信ゲートパルス間の相対的タイミングを例示した概略的なタイミングチャートである。
【0020】
図1は、実施形態に係る盲点検知/観察用のレーダシステムを搭載した車両10を例示した説明図である。
図1において、車両10は、車両10の前端12が、車両10の進行方向を向くように図示されている。車両10の進行方向は、矢印14で示す。車両の後端18は、リアバンパ16を含み、当該リアパンパに実施形態に係るレーダ送受信機20が装備されている。なお、本明細書において、レーダ送受信機20は同義的に「レーダセンサ」または単に「センサ」とも称す。詳細な実施形態において、盲点情報システム(BSIS)および後退時支援システムの条件に従い、レーダセンサ20は、最低限でも合計100度の視野を備えている。視野は、後方から近づいてくる車両をタイムリーに検知するために最低限でプラス50度の視野と、前方から近づいてくる車両の検知用に最低限でマイナス50度の視野とを含んでいる。車両の近傍の範囲は、警報必須区域22と警報可能区域24とを含んでいる。レーダシステムは、他の車両26のいずれかの部分が、「盲点」とも称される警報必須区域22のどこかに入った場合、警報を発信することが求められる。レーダシステムは、他の車両26が警報可能区域22のいずれかに入った場合、警報の発信を容認する。
【0021】
図2は、実施形態に係る車両10および当該車両10近傍の具体的な説明図である。上述のように、車両10は、前端12および後端18を含み、これらが矢印14で例示する前進方向を定めている。いくつかの実施形態において、警報必須区域22、すなわち車両10の盲点は、参照符号Bから参照符号Cまで縦に延び、また参照符号Gから参照符号Fまで横に延びるよう定義されている。上述のように、他の車両のいずれかの部分が警報必須区域22のいずれかに入った場合、警報が生成される。警報可能区域24は、警報必須区域22の外側で、参照符号Aから参照符号Dまで縦に延び、また参照符号Hから参照符号Eまで横に延びている。他の車両が警報可能区域24よりも十分に外側、すなわち警報不用区域25にある場合、警報は発せられない。
【0022】
なお
図2は、警報必須区域22、警報可能区域24、および車両10についての具体的な寸法の一例を図示している。当然のことであるが、これらの寸法は一例にすぎず、様々な区域および車両は他の寸法を有してよい。
【0023】
本発明の原理によれば、レーダシステムは車両10にすぐに隣接する領域を観察して、他の車両が車両10の盲点に入ると警報を発信する。
図3Aおよび
図3Bは、車両10、および車両10の近傍領域を示した説明図である。車両10の近傍領域は実施形態に係る盲点検知レーダで観察されている。車両10がベクトル14で示すようにある速度、すなわち方向および速さで前方に走行している。また、
図3Aおよび
図3Bは、存在し得る対象物30、31、32、33、34、35を概略的に例示している。これらは、それぞれの対象物に速度ベクトルで概略的に例示するように、車両10に対して静止していてもよいし、または車両10に対して横方向にまたは平行に、すなわち前方または後方に移動していてもよい。
図3Aは、警報が発せられ得る対象物の一例を示し、
図3Bは警報が発せられない対象物の一例を示している。
【0024】
図3Aを参照する。対象物30、32は、主に後方に移動しているが、車両に対して横移動成分を有している。これらは、合流する他の車である可能性があり、車両10の前方および側方から車両10の盲点に入るため、警報が発せられる。対象物31は、車両10の盲点に位置し、車両10と同じ方向に移動している。これは車両10と略同じ速さで走行し、すなわち車両10と共に渋滞している、または車両10よりもわずかに早く動いている、すなわち車両10を追い越している。対象物31にも警報が発せられる。
【0025】
図3Bを参照する。検出された対象物33、34、35は、車両10の後方で、両10の移動と略同じ速さで車両10と並行に移動していると検出される。これらの対象物33、34、35は、道路に静止していると判断され、ガードレール、または壁等の静止物である可能性がある。これらの対象物には警報を生成しない。
【0026】
図4は、実施形態に係る車両10のリアバンパ16の説明図である。
図4を参照すると、レーダ送受信機またはセンサ20は、リアバンパ16の内側に取り付けられている。実施形態では、2つのレーダセンサ20がバンパ16の右側および左側に取付けられている。実施形態では、レーダセンサ20は、長手方向軸11から長手角度ωに方位されている。具体的な実施形態では、角度ωは20度である。他の角度にしてもよく、ω=20度というのは、本明細書における一実施形態で用いられているにすぎない。方位角ωにより、レーダセンサ20のボアサイト17は、長手方向軸11と直交する車幅方向軸13から車両10の後方へ向けて角度ωに方位されている。
【0027】
図5は、実施形態に係る車両10の盲点の観察に用いられるレーダ送信パターンを例示した説明図である。
図5を参照すると、2つの送信パターンカーブ40、42が例示されている。本発明の原理によれば、送信パターンは、2つの送信アンテナセルアレーを用いることで得ることができる。位相シフタで各セルの位相を調整し、ビームをアンテナボアサイトまたはスクイントの方向に向ける。
図5は、太線で第1送信パターン40を例示し、細線で第2送信パターン42を例示している。太線のパターン40は、2つのアンテナセル送信間に略120度の位相差を導入することで生成されている。細線のパターン42は、2つのアンテナセル送信間に略65度の位相差を導入することで生成されている。位相差量および、位相差量による使用送信パターンの形状は、求められるパフォーマンス特性、およびシステムで用いられるアプリケーションの特徴に基づいて選択可能である。
【0028】
図5において、とくに一例として太線の送信パターン40を参照すると、送信パターン40は、第1主要ローブ44と、第2前方ローブ46とを有している。第1主要ローブ44は後方から盲点に入ってくる車両検知用に後方で高いゲインを提供する。道路静止対象物すなわち、ガードレールまたは壁等の道路に静止の対象物は、車両と相対的に移動しているため、道路静止対象物リターン、すなわち、道路静止対象物からのリターンは、ドップラーシフトを含んでいる。第2前方ローブ46は、前方から侵入する渋滞車両または割り込み車両の検知を可能にする。
【0029】
またパターン40は、ローブ44とローブ46との間に空値48を含んでいる。車両10(
図4)の長手方向軸11と直交する方向にある空値48は、対象物の分類を可能にする。具体的には、空値48は例えばガードレール等の道路静止対象物と、盲点区域を走行中の他の車両との識別を可能にする。走行方向と直交する空値48を用いて、ゼロレンジレート、すなわちドップラーの無い道路静止対象物からのリターンを最小にする。前方および後方における道路静止対象物からのリターンは、測定可能なドップラーシフトを有し、これが道路静止対象物の区別を容易にする。一方で、盲点領域で渋滞中の車両は、第2前方ローブ46および第1主要ローブ44からドップラーシフトのない、すなわちレンジレートのないリターンを返す。
【0030】
引き続き
図5を参照する。0度と180度とをつなぐ軸線は、車両10の長手方向軸11と平行である。90度と270度とをつなぐ軸線は、車両10の車幅方向軸13と平行である。レーダセンサ20のボアサイト17は、車幅方向軸13からプラス20度で後方へ向いている。したがって、パターン40の空値48をボアサイト17からマイナス20度前方で生成し、これにより車両10の長手方向軸11と直交して延びる車幅方向軸13上に空値48が置かれる。
【0031】
図6は、実施形態に係る盲点検知/観察用のレーダ送信パターンの生成に用いられる送信アンテナ回路50の概略正面図である。
図6を参照すると、送信アンテナ回路50は、車両10近傍の領域にレーダ信号を送信する2つのアンテナセル52、54を含んでいる。位相シフト回路56は、各アンテナセル52、54の送信60の位相を調整し、ビームをアンテナボアサイトおよびアンテナスクイントへ方向付ける。実施形態では、位相シフト回路56は、ダイオード58を含んでいる。
【0032】
実施形態において、位相シフト回路56は、要望の送信パターンの形状に応じて2つのアンテナセル52、54間に所定の位相差を導入する。具体的な実施形態では、位相シフト回路56は、アンテナセル52、54間で実質的に120度の位相差を生成し、これは
図5に例示する送信パターン40となる。他の具体的な実施形態では、位相シフト回路56は、アンテナセル52、54間で実質的に65度の位相差を生成する。これは
図5に例示する送信パターン42となる。本発明の目的の範囲内で、他の送信パターンを生成するために他の位相差が採用可能である。
【0033】
図7は、実施形態で生成されたアンテナ送信パターン40Aを測定した詳細な説明図である。
図7を参照すると、横軸はアンテナからの送信角度を示し、0度はアンテナボアサイト17に位置している。縦軸は、dBmで示す信号強度である。
図7に曲線で示すように、送信パターン40Aは、第1主要ローブ44Aと、第2前方ローブ46Aを含む。第1主要ローブ44Aは、後方に向かって最大ゲインを提供する。またパターン40Aは、ローブ44Aとローブ46Aとの間に空値48Aを含んでいる。空値48Aは、ボアサイトから実質的に前方へ向かってマイナス20度のところに位置している。後方へ向かってプラス20度に方位されているボアサイト17を用いて、空値48Aを、車両10の長手方向軸11と直交する向きにする。
【0034】
図8は、実施形態に係るレーダ送受信機20の一部であるプリント基板(PCD)70の図である。
図8を参照する。PCB70は、受信アンテナ回路64を含む受信部と、送信アンテナ回路50を含む送信部とを含んでいる。上述したように、送信アンテナ回路50は、車両10近傍の領域にレーダ信号を送信する2つのアンテナセル52、54を含んでいる。位相シフト回路56は、詳細に上述したように各アンテナセル52、54の送信の位相を調整して、ビームをアンテナボアサイトまたはスクイントに方位付ける。受信アンテナ回路64は2つの広幅パターンアンテナ列66、68を有することができる。実施形態では、アンテナ列66、68は、1/2波長分離れていて、位相比較技術/位相短パルス技術によるベアリング測定を可能にしている。またPCB70は、電子回路62を含んでいる。電子回路62は、所望の処理および他の機能を実行して、レーダ信号の送信および受信を行なうために用いられ、また本明細書で説明する多用な実施形態における多様な機能の実現用の処理を行うために用いられる。
【0035】
図9は、実施形態に係る位相比較技術を2つの受信アンテナ列66、68で受信した信号に適用して対象物の進行方位角θを判断する方法を例示した説明図である。また
図9は、実施形態に係る、進行方位角θの計算に用いられる幾何的な方程式も図示している。
【0036】
実施形態において、レーダ検知システムは24GHzの狭帯域パルスレーダ波を用いている。
図10は、実施形態に係る送信パルス波のタイミングを示した説明図である。
図10を参照すると、パルス波は、長い、すなわち100nsよりも大きい矩形送信パルスのパルス波である。
図10に例示する具体的な例では、矩形送信パルスの時間t
PULSEは実質的に150nsである。実施形態では、パルスの反復周波数(PRF)は、1.0MHzよりも大きい。したがって、近い範囲での検知のみが盲点レーダ検知システムに適している。これにより、パルスの反復期間(tPRF)は、1.0usよりも小さい。
図10に例示する具体的な例では、t
PRF=500nsである。
【0037】
実施形態では、受信ゲートをとても狭く、すなわち10ns以下に設定している。
図11は、実施形態に係る送信パルス波形および受信ゲートパルス波形のタイミングを例示した概略的なタイミングチャートである。再び
図11を参照すると、送信パルス幅は実質的に150nsで記載されている。受信ゲートパルスは、10ns幅で記載されている。したがって、受信ゲートパルスをとても狭く設定していて、範囲ステップ/ビン増加量が受信ゲートサイズの比である。この配列は、正確な対象物の位置検知に有利になるように、有効なずれ、および感度の欠落をもたらす。例えば、実施形態では、受信ゲートをある遅延の後に起動させ、10cmステップでの検知範囲増加を許容している。また、非常に近い範囲検知を実現している。ある実施形態では、0.2mのレンジ限界を達成した。
【0038】
図12は実施形態に係る、上述した送受信機またはセンサ20等のレーダ送受信機またはセンサにおける送信および受信回路の概略的なブロック図である。
図12を参照すると、送信トリガ信号TxTrigをパルス形成回路74で受信し、詳細に上述したタイミングの送信タイミングパルスを生成する。RF発振器76は、RF信号、例えば24GHzのレーダ信号を生成し、このレーダ信号は車両10の近傍の領域に向けて送信される。パルス生成回路74で生成される送信タイミングパルスはRF信号のゲート制御に用いられ、RFスイッチが送信タイミングパルスのタイミングでパルスレーダ信号を選択的に通過させることでアンテナ50へ送信される。送信アンテナ50は、車両10の近傍の盲点を含む領域に向けて、パルスレーダ信号を送信する。
【0039】
引き続き
図12を参照すると、受信アンテナ64は、送信されたレーダ信号の照射により対象物からリターンしたレーダ信号を受信する。アンテナ選択回路は、アンテナからのリターンレーダ信号を選択的に有効にするのに用いられ、1回につき1つの受信アンテナのみからのリターン信号を処理する。選択された受信信号は、低ノイズ増幅器(LNA)88で増幅される。受信レーダ信号は、位相シフタ88で所望の位相にシフトされ、Iミキサー82およびQミキサー84へ送られる。受信トリガ信号TxTrigはパルス形成回路80で受信され、受信可能パルス信号を生成し、RFスイッチ78で適用される。RF発振器76で生成されたRF信号はゲート制御され、パルス形成回路80で生成されたパルス信号によりパルスRF信号を選択的に通すRFスイッチ78を経由してIおよびQミキサー82、84へ送られる。このRFパルス信号と、増幅され位相がシフトされた受信レーダ信号とを組み合わせて、更なる処理用にリターン受信レーダ信号用のIおよびQのIF信号を生成する。
【0040】
図13Aは、実施形態に係るI信号およびQのIF信号の一方のサンプルホールド処理を例示した概略的なブロック図である。
図13Bは、本実施形態に係るIおよびQのIF信号の一方のサンプルホールド処理のタイミングチャートを例示した概略的なブロック図である。
図13Aおよび
図13Bを参照すると、IまたはQのIF信号は、サンプルスイッチ92でIミキサー82またはQミキサー84それぞれから受信される。サンプルスイッチ92が閉じること、ゆえにIまたはQのIF信号がサンプリングされることは、
図13に示すサンプルスイッチパルス波のタイミングに応じて制御される。サンプルスイッチは、走行時間(TOF)に従い、ある範囲と対応する時間で閉じられる。当該時間に、対象物反射信号があった場合、それをサンプルする。実施形態では、タイミングチャートで示されているサンプルされたI波またはQ波を、キャパシタ96を用いてフィルタリングまたは「ホールド」する。サンプリングおよびホールドされたIまたはQのIF信号を、ローパスフィルタ98でベースバンドIまたはQ信号にフィルタリングする。実施形態に係るベースバンドIまたはQ信号を、
図13Bにタイミングチャートで示す。サンプルホールドされたベースバンドIまたはQ信号は、アナログ−デジタル変換器(A/D)100へ送られ、そこで更なる処理用にデジタルデータへ変換される。
【0041】
図14は、実施形態に係る、車内におけるRFすなわちレーダパルスの概略的なブロック図およびタイミングチャートである。
図14を参照すると、送信パルスは時間で実質的に333nsになるよう例示されている。範囲Rにおける単一のポイントターゲット用に、送信パルスの立ち上がり後、タイミングt=2R/cにて受信処理装置で信号を利用できる。なおcは光速度である。R+ΔRにて別の対象物があり、ΔR<c*Xパルス幅/2=2mである場合、第2対象物による信号エネルギーをも受信処理装置で受け入れてよい。本実施形態では、受信ゲートは、継続時間にて13.3nsである。
【0042】
図15は、実施形態に係る、車両10の盲点での対象物検知に用いられる送信パルスおよび受信ゲートパルス間の相対的タイミングを例示した概略的なタイミングチャートである。
図15を参照すると、最も上のタイミング曲線は、送信パルス曲線である。これは、車両10の近傍の領域に送信されるレーダパルスの連続したタイミングを示している。2番目のタイミング曲線は、1つの受信アンテナの受信ゲートパルス波を示している。当然であるが、双方の受信アンテナで同様の波形を用いている。
図15に示すように、k個の送信パルスおよび受信パルスの第1組では、受信ゲートパルスは、送信パルスの立ち上がり後で、すなわちパルスレーダ信号が車両10の近傍の領域に送信された後で、所定期間X経過後に立ち上がるよう設定されている。遅延Xの値は、現時点で解析している範囲により設定される。換言すれば、受信ゲートは、所望の範囲にある対象物からのリターンがレーダ送受信機20に戻り得る時間周期で開く、すなわち起動している。各範囲でk個のパルスが送信される。k番目のパルスの後に、次のパルス、すなわち次に解析される範囲の第1受信ゲートパルスが、送信パルスの立ち上がり後、X+ΔXの遅延で生成される。追加される遅延ΔXは、レンジ分解能またはシステムの感度に応じて設定される。本実施形態では、遅延ΔXは実質的に10cmのレンジ分解能を基にしている。当然であるが他のレンジ分解能も可能である。次のk個の信号の組は、対応する送信パルスの立ち上がりの後にX+2ΔXのタイミングで開始できる。このパターンを、双方の受信アンテナで継続し、またシステムで検知される全ての領域で継続する。
【0043】
いくつかの従来の盲点観察検知システムでは、周波数変調波を採用している。このような波は、送受信機と送信回路との間でフィードスルー/カップリングに苦労し、超近傍範囲の検知能力に限界がある。これらの従来システムでは、よりコストを増大したり、またはハードウエアを複雑にしたり、受信機のダイナミックレンジを向上させたりすることでこの問題を解決している。本発明の原理によれば、詳細に上述したパルス波の採用により、これらの問題を軽くしている。これにより、より簡単でより費用効率の高い解決策を提供している。また本発明の原理によるパルス波は、周波数変調された方法よりも、処理(CPU)時間負荷を軽減するという効果を有する。また、本発明の原理によるパルス波形は、スイープバイスイープバイアスに関する範囲および速度の明確な測定を可能にする。これによりシステムの待ち時間を減らし、またそれぞれの目標物に対するドップラーサインの分析による障害物の分類が可能である。
【0044】
本発明の原理によれば、レーダのリターン信号は、受信アンテナで捉えられ、A/Dコンバータでデジタル化される前に、同期混合によって一般的には20kHzより低いベースバンドへ下方変換される。一般的に、該当する対象物のドップラー/速度に応じて設定されるベースバンド信号の有効な帯域幅は、24GHzのレーダシステムでは40kHz以下である。レーダ波は8〜16ビットの分解能でサンプリングされる128から1024のポイントを含んでいる。デジタル信号は、レーダ信号処理アルゴリズムで処理される。アルゴリズムは、位置検出、すなわち関連し得る目標物の範囲、相対速度、姿勢を提供する。特徴アルゴリズムとも称されるアプリケーションレイヤーは、レポートされた障害物のリストを判断可能であり、例えば警告または望ましい速さ等の最終的な決定を行う。
【0045】
本発明の原理について実施形態を参照しながら詳細に示しまた説明したが、本発明は、下記の請求の範囲にある本発明の概念の本質および権利範囲から逸脱しない限り、形態および詳細の多様な変更をしてよいことは当業者にとって当然のことである。