(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般式:
【化1】
[式中、
Rは、水素又はトリチウムであり;そして
Fは、フルオロ又は
18フルオロである]
で表される化合物又は薬学的に許容し得る酸付加塩に関する。
【0002】
式Iの化合物は、2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール、
3H−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール及び[18F]−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールを含む。
【0003】
類似の一般基本構造を持つ化合物が、アルツハイマー病を診断するためのアミロイド沈着物のインビボイメージングのために、WO2009/102498に記載されている。3つのN原子を持つ三環式化合物は具体的に記載されていない。
【0004】
本化合物が、タウ凝集体及び関係のあるβ−シート凝集体(さらに他のβ−アミロイド凝集体又はα−シヌクレイン凝集体を含む)の結合及びイメージングのために、とりわけアルツハイマー病患者におけるタウ凝集体の結合及びイメージングにおける使用のために使用され得ることが示された。
【0005】
アルツハイマー病(AD)は、認知機能低下、不可逆的な記憶消失、見当識障害及び言語障害によって特徴付けられる進行性の神経変性障害である(Arch. Neurol. 1985, 42(11), 1097-1105)。ADの脳切片の検視は、β−アミロイド(Aβ)ペプチドからなる大量の老人斑(SP)及び過剰リン酸化されたタウタンパク質のフィラメントによって形成された多数の神経原線維変化(NFT)を明らかにしている。
【0006】
タウは、微小管関連タンパク質のファミリーに属しており、主にニューロンで発現して、そこで軸索輸送のためのトラックとしてのニューロン微小管ネットワークを構成するための、チューブリン単量体から微小管への構築において重要な役割を担っている(Brain Res. Rev. 2000, 33(1), 95-130)。タウは、第17染色体上に位置する単一遺伝子から翻訳され、その発現は、ヒト成人脳において6種の異なるアイソフォーム(結合ドメインの数によって区別され得る)を生成する、選択的スプライシング機構によって発生的に調節されている。タウの過剰リン酸化、ミスフォールディング及び凝集を導く基本的な機構は、十分に理解されていないが、タウ凝集体の沈着は、細胞内レベルと脳トポグラフィーのレベルの両方で定型の時空間的経路に従う。
【0007】
第17染色体に関係しているパーキンソニズムを伴う前頭側頭型認知症(FTD)を導くタウ遺伝子の突然変異の最近の発見は、神経変性障害の病因におけるタウに起因する主要な役割を補強し、異なるニューロン集団において発現される別々のセットのタウアイソフォームが異なる病理を導き得るという事実を明確に示した(Biochim. Biophys. Acta 2005, 1739(2) 240-250)。病的なタウの蓄積によって特徴付けられる神経変性疾患は、「タウオパチー」と呼ばれる(Ann. Rev. Neurosci. 2001, 24, 1121-1159)。AD及びFTDに加えて、他のタウオパチーは、進行性核上麻痺(PSP)、タングル優位型認知症(tangle-predominant dementia)、ピック病、前頭側頭葉変性症(FTLD)、ダウン症候群などを含む。
【0008】
新皮質領域の進行性の関与と認知症の重症度の増加との間の直接的相関が確立され、このことは、NFTなどの病的なタウ凝集体が神経変性プロセスの信頼できる指標であることを示唆している。ADにおけるNFTの関与の程度は、ブラークステージ(Braak stage)によって定義される(Acta Neuropathol. 1991, 82, 239-259)。NFTの関与が主に脳の内側嗅領域(transentorhinal region)に限定される場合にはブラークステージI及びIIと定義され、海馬などの辺縁領域が関与する場合にはステージIII及びIVと診断され、そして、広範囲に及ぶ新皮質関与が認められる場合にはステージV及びVIと診断される。
【0009】
現在、タウ凝集体の検出は、生検又は剖検材料の組織学的分析によってのみ可能である。タウ病理のインビボイメージングは、ヒト脳におけるタウ凝集体の沈着への新たな見識を提供するであろうし、そして、タウ病理の程度を非侵襲的に検査すること、タウ沈着の経時変化を定量化すること、認知とのその相関を評価すること、かつ抗タウ療法の有効性を分析することが可能となるであろう。生体脳中のタウ凝集体を検出するための潜在的なリガンドは、血液脳関門を通過し、かつタウ凝集体に対して高い親和性及び特異性を有しなければならない。この目的のために、優れたニューロイメージング放射性トレーサーは、適切な親油性(logD 1〜3)及び低分子量(<450)を有し、血液からの速やかなクリアランス及び低い非特異的結合を示さなければならない。
【0010】
本出願の目的は、アルツハイマー病を発症する可能性のあり得る脳内に過剰のタウ凝集体を有する潜在患者を同定することによって診断法を改善するであろう、イメージングツールを見いだすことである。それはまた、疾患の進行をモニタリングすることにも有用であろう。抗タウ凝集体薬が利用可能になれば、脳内のタウタングルのイメージングは、治療をモリタリングするための重要なツールを提供し得る。
【0011】
本発明のさらなる目的は、タウ凝集体沈着物をイメージングする方法であって、
− 哺乳動物に検出可能な量の組成物を導入すること
− 式Iの化合物がタウ凝集体沈着物と会合するのに十分な時間をおくこと、及び
− 1つ以上のタウ凝集体沈着物と会合した化合物を検出すること
を含む方法である。
【0012】
本発明のさらなる目的は、潜在患者を同定するために使用され得る、式Iの化合物と薬学的に許容し得る担体とを含有する医薬組成物である。
【0013】
本明細書において使用される一般用語の以下の定義は、問題となっている用語が単独で現れるか又は組み合わせで現れるかにかかわらず適用される。
【0014】
本明細書において使用される場合、用語「低級アルキル」は、1〜7個の炭素原子を有する直鎖又は分岐の炭素鎖を含む、飽和の、すなわち、脂肪族の炭化水素基を示す。「アルキル」の例は、メチル、エチル、n−プロピル及びイソプロピルである。
【0015】
3Hは、トリチウム原子を示す。
【0016】
Fは、フルオロ原子又は
18フルオロ原子を示す。
【0017】
用語「脱離基」は、ハロゲン又はスルホナートを示す。スルホナートの例は、トシラート、メシラート、トリフラート、ノシラート又はブロシラートである。
【0018】
用語「薬学的に許容し得る塩」又は「薬学的に許容し得る酸付加塩」は、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、マレイン酸、酢酸、コハク酸、酒石酸、メタン−スルホン酸、p−トルエンスルホン酸などの無機酸及び有機酸との塩を包含する。
【0019】
式Iの化合物が、タウ凝集体及び関係のあるβ−シート凝集体(さらに他のβ−アミロイド凝集体又はα−シヌクレイン凝集体を含む)の結合及びイメージングのために使用され得ることが見いだされた。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図A】
図Aは、ブラークステージVのAD患者から得られたヒト大脳皮質切片とインキュベートした
3H−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールのオートラジオグラム。放射性リガンド濃度は、3.2nMであった。放射性リガンドは、層状に分散したパターンのタウ凝集体の点状染色である。
【0021】
本発明の1つの実施態様は、2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール、
3H−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール及び[18F]−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールである、式Iの化合物である。
【0022】
本発明の1つの実施態様は、2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールである、Rが水素であるさらなる式Iの化合物である。
【0023】
本発明の1つの実施態様は、Rがトリチウムであるさらなる式Iの化合物、例えば、以下の化合物
3H−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールである。
【0024】
本発明の1つの実施態様は、Fが
18フルオロであるさらなる式Iの化合物、例えば[18F]−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールである。
【0025】
式I中のRの位置付けは、Rがトリチウムである場合が、最も有力である。しかし、トリチウムはまた、分子の他の位置にも少量見いだされ得る。通常、Rの1つだけがトリチウムである。
【0026】
式Iの化合物は、タウ凝集体、β−アミロイド凝集体、α−シヌクレイン凝集体又はハンチンチン凝集体の結合及びイメージングにおいて使用され得る。
【0027】
式Iの化合物の好ましい使用は、アルツハイマー病患者におけるタウ凝集体の結合及びイメージングにおける使用である。
【0028】
さらに、式Iの化合物は、タウ結合研究において使用され得る。
【0029】
式Iの化合物は、哺乳動物の脳におけるタウ凝集体の画像診断に好適である。
【0030】
本発明はまた、哺乳動物の脳におけるタウ凝集体沈着物の画像診断に使用される。
【0031】
式I:
【化2】
で表される本化合物及びその薬学的に許容し得る塩は、以下に記載するプロセスによって調製され得、本プロセスは、以下を含む:
a)式2(X=Cl、Br):
【化3】
で表される化合物を、式3:
【化4】
[式中、R’は、水素又は低級アルキルである]
で表される好適なボロン酸又はボロン酸エステルとカップリングさせて、式I:
【化5】
[式中、Rは、水素である]
で表される化合物を与えること、そして所望であれば、得られた化合物を薬学的に許容し得る酸付加塩又は式I(式中、Rは、トリチウムである)の化合物に変換すること;
又は
b)式4:
【化6】
で表される化合物を、フッ化カリウム又はフッ化テトラブチルアンモニウムから選択される好適なフッ素化試薬とカップリングさせて、式I:
【化7】
[式中、置換基Rは、水素である]
で表される化合物を与えること、そして所望であれば、得られた化合物を薬学的に許容し得る酸付加塩又は式I(式中、Rは、トリチウムである)の化合物に変換すること
c)式I:
【化8】
[式中、Rは、水素である]
で表される化合物を、触媒、例えばイリジウム、ルテニウム、ロジウム又はパラジウム含有錯体の存在下、好適な溶媒、例えばジクロロメタン、クロロベンゼン、DMF、DMSO又はそれらの混合物中でトリチウムガスと反応させて、式I:
【化9】
[式中、Rは、トリチウムである]
で表される化合物を与えること、そして所望であれば、得られた化合物を薬学的に許容し得る酸付加塩に変換すること、又は
d)水性[18]フッ化物イオンの照射終了前に、式:
【化10】
で表される化合物をジメチルスルホキシドに溶解し、超音波処理して、式:
【化11】
で表される化合物にすること、そして所望であれば、得られた化合物を薬学的に許容し得る酸付加塩に変換すること。
【0032】
以下のスキーム1〜2は、式Iの化合物の調製のためのプロセスをより詳細に記載する。出発物質は、公知の化合物であるか、又は当技術分野において公知の方法に従って調製され得る。
【0033】
本発明の式Iの化合物の調製は、逐次又は収束合成経路で実施され得る。本反応及び生じた生成物の精製を実施するのに必要な技能は、当業者に公知である。以下のプロセスの説明において使用される置換基及び指数は、特に反対の記載のない限り、先に本明細書に示した意味を有する。
【0034】
詳細に述べると、式Iの化合物は、以下に示す方法によって、実施例に示す方法によって、又は同様の方法によって製造され得る。個別の反応工程における適切な反応条件は、当業者に公知である。反応シーケンスは、スキーム1〜2に表示したものに限定されず、出発物質及びそれらのそれぞれの反応性に依存して、反応工程のシーケンスは、自由に変更され得る。出発物質は、市販のものであるか、あるいは以下に示す方法と同様の方法によって、本記載若しくは実施例で引用した参考文献に記載されている方法によって、又は当技術分野において公知の方法によって調製され得るかのいずれかである。
【0035】
【化12】
【0036】
スキーム1に従って、式I(式中、Rは、水素である)の化合物は、保護4−アミノ−ピリジン5(X=Cl、Br)及び2,6−ジ−ハロゲン化ピリジンボロン酸6(R’=H、低級アルキル)から開始して調製され得る。DMFのような好適な溶媒中、例えばPd(OAc)
2及びPPh
3のような触媒系並びに例えばトリエチルアミンのような塩基を使用した遷移金属触媒クロスカップリング条件は、ビピリジン7を生じる。脱保護及び分子内環化は、DMFのような好適な溶媒中、例えば炭酸カリウムのような塩基及び例えば18−クラウン−6のような活性化剤を使用したワンポット手順として実施され得、1,6−ジアザカルバゾール中間体2を与える。式Iの化合物への最後の変換は、DMFのような好適な溶媒中、適切なピリジンボロン酸3、例えばPd(dppf)Cl
2のような触媒及び例えば炭酸カリウムのような塩基を使用した直接的な遷移金属触媒クロスカップリング反応によって達成され得る。あるいは、最初に1,6−ジアザカルバゾール2を、例えばDMFのような好適な溶媒中で、好適な試薬、例えば二炭酸ジ−tert−ブチルと反応させることによって保護中間体8に変換し、続いて、DMFのような溶媒中、適切なピリジンボロン酸3、例えばPd(dppf)Cl
2のような触媒及び例えば炭酸カリウムのような塩基を使用した遷移金属触媒クロスカップリング反応によって中間体9にする。次いで、脱保護は、式Iの化合物へと導く。
【0037】
【化13】
【0038】
スキーム2に従って、式I(式中、Rは、水素である)の化合物は、式4(X=Br、Cl、ニトロ)の化合物(スキーム1に記載した式Iの化合物の合成に従って調製した)を、例えばDMF又はDMSOのような好適な溶媒中、例えばフッ化カリウム又はフッ化テトラブチルアンモニウムのような好適なフッ素化試薬で処理することによって調製され得る。
【0039】
式I(式中、Rはトリチウムであり、又はFは
18Fである):
【化14】
で表される化合物は、特定の実施例に記載するように従来の方法で調製され得る。式Iの化合物は、トリチウムと
18Fを同時に含有しない。
【0040】
化合物の単離及び精製
本明細書に記載される化合物及び中間体の単離及び精製は、所望であれば、例えば、濾過、抽出、結晶化、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー、厚層クロマトグラフィー、分取低圧若しくは高圧液体クロマトグラフィー又はこれらの手順の組み合わせなどの任意の好適な分離又は精製手順によって実施され得る。好適な分離及び単離手順の具体的例示については、本明細書の以下の調製及び実施例を参照することによって得られ得る。しかし、当然ながら、他の等価な分離又は単離手順も使用され得る。式Iのキラル化合物のラセミ混合物は、キラルHPLCを使用して分離され得る。
【0041】
式Iの化合物の塩
式Iの化合物は、塩基性であり、対応する酸付加塩に変換され得る。この変換は、少なくとも化学量論量の適切な酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸、リン酸など、及び有機酸、例えば酢酸、プロピオン酸、グリコール酸、ピルビン酸、シュウ酸、リンゴ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、フマル酸、酒石酸、クエン酸、安息香酸、ケイ皮酸、マンデル酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、サリチル酸など)で処理することによって達成される。典型的には、遊離塩基を、ジエチルエーテル、酢酸エチル、クロロホルム、エタノール又はメタノールなどの不活性有機溶媒に溶解し、類似の溶媒中の酸を加える。温度は、0℃〜50℃で維持される。得られた塩は、自然に沈殿するか、又はより極性の小さい溶媒の添加によって沈殿し得る。
【0042】
式Iの塩基性化合物の酸付加塩は、少なくとも化学量論当量の好適な塩基(例えば、水酸化ナトリウム又はカリウム、炭酸カリウム、重炭酸ナトリウム、アンモニアなど)で処理することによって、対応する遊離塩基に変換され得る。
【0043】
本化合物を、本明細書の以下に示す試験に従って調べた。
【0044】
タウ放射性リガンド−インビトロ置換アッセイ
このインビトロ結合アッセイは、天然のタウ凝集体に対する化合物の親和性を評価する。本化合物を、十分に確立されているタウ特異的放射性リガンド[
3H]T808と共インキュベートし、ヒトアルツハイマー病(AD)脳切片を使用したインビトロオートラジオグラフィーによって化合物の[
3H]T808結合の置換効力を決定する(
図Bを参照のこと)。
【0045】
材料
ADヒト脳は、Banner Sun Health Research Institute(Sun City, AZ, USA)から購入する。ADの病理診断は、神経病理学データに基づいた標準的なNIA-Reagan Institute基準に従ってなされる。放射性リガンド[
3H]T808は、社内で合成された([
3H]−2−[4−(2−フルオロ−エチル)−ピペリジン−1−イル]−ベンゾ[4,5]イミダゾ[1,2−a]ピリミジン、放射化学的純度99.0%)。参照として、非放射性T808(2−[4−(2−フルオロ−エチル)−ピペリジン−1−イル]−ベンゾ[4,5]イミダゾ[1,2−a]ピリミジン)が使用される。オートラジオグラフィーのために、FujiFilm Imaging Plates(BAS-IP TR 2025)を切片に曝露させて、FujiFilm IP reader(BAS-5000)で読み取る。
【0046】
方法
クライオスタット(Leica CM3050)にて、−17℃のチャンバー温度及び−15℃の対象物温度で10μm厚のヒトAD脳切片を作製する。切片をHistobond+顕微鏡スライド(Marienfeld Laboratory Glasware)に移す。室温で3時間乾燥させた後、切片を−20℃で保存する。切片を放射性リガンド(10nM)及びそれぞれの非放射性化合物(様々な濃度で)と50mMトリス緩衝液(pH7.4)中、室温で30分間インキュベートする。50mMトリス緩衝液(pH7.4)中4℃で3×10分間洗浄し、蒸留H
2O中4℃で3回素早く浸漬させた後、切片を4℃で3時間乾燥させる。切片をFujiFilm Cassette(BAS 2025)中に入れ、Imaging Plateで5日間曝露させ、その後、1画素あたり25μMの解像度で走査する。
【0047】
データ解析
オートラジオグラムの関心領域(ROI)中のシグナル強度(Dens−PSL/mm2)を、ソフトウェアMCID解析(version 7.0, Imaging Research Inc.)で定量化する。白質中の非特異的結合シグナルを減算することによって、化合物の非存在下又は存在下での[
3H]T808結合の特異的結合(SB)を計算し、それによってSB
[3H]T808 only及びSB
compundを得る。様々な化合物による置換%を以下のように計算する:
置換%=100−(SB
compund/SB
[3H]T808 only)*100。
【0048】
検証データ
各実験で、非放射性T808を陽性内部対照として使用する。等モル量の放射性T808及び非放射性T808の共インキュベーションは、特異的結合をおそよ50%低下させることが期待される。
【0049】
参考文献
A.K. Szardenings et al. ‘Imaging agents for detecting neurological disorders’. US Patent Application US20110182812
W. Zhang et al., ‘A highly selective and specific PET tracer for imaging of tau pathologies’. Journal of Alzheimer’s Disease 31 (2012) 601-612
【0050】
【表1】
【0051】
図A:
ブラークステージVのAD患者から得られたヒト大脳皮質切片とインキュベートした
3H−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールのオートラジオグラム。放射性リガンド濃度は、3.2nMであった。放射性リガンドは、層状に分散したパターンのタウ凝集体の点状染色を示す。
【0052】
式Iの化合物及びその薬学的に許容し得る塩は、医薬製剤の形態で使用され得る。医薬製剤は、注射用液剤の形態で投与され得る。
【0053】
式Iの化合物及びその薬学的に許容し得る塩は、医薬製剤の製造ため、薬学的に不活性な無機又は有機の担体と共に加工され得る。液剤及びシロップ剤の製造に好適な担体は、例えば、水、ポリオール、ショ糖、転化糖、グルコースなどである。アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油などの佐剤は、式Iの化合物の水溶性塩の水性注射用液剤に使用され得るが、原則として必要ではない。坐剤のための好適な担体は、例えば、天然又は硬化油、ロウ、脂肪、半液体又は液体ポリオールなどである。
【0054】
加えて、医薬製剤は、保存剤、可溶化剤、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色剤、香料、浸透圧を変動させるための塩、緩衝剤、マスキング剤又は酸化防止剤を含有することができる。これらはまた、さらに他の治療有用物質を含有することができる。
【0055】
用量は、広い範囲内で変更され得、当然ながら、各々の特定の症例における個別の要件に適合されるだろう。
【0056】
実験項:
実施例1
2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール
【化15】
【0057】
工程1:N−[3−(2,6−ジクロロ−3−ピリジル)−4−ピリジル]カルバミン酸tert−ブチル
予熱したフラスコで排気とアルゴンの再充填を数回行って、アルゴン雰囲気下、3−ヨードピリジン−4−イルカルバミン酸tert−ブチル(4.56g、14.2mmol)、2,6−ジクロロピリジン−3−イルボロン酸(5.46g、28.4mmol)、Pd(OAc)
2(320mg、1.42mmol)及びトリフェニルホスフィン(371mg、1.41mmol)を投入した。DMF(137mL)中のトリエチルアミン(4.32g、5.94mL、42.7mmol)を加え、反応混合物を100℃に加熱し、3時間撹拌した。溶媒をほぼ完全に蒸発させた。水を加え、粗生成物の懸濁液を酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を水(3×)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、溶媒を蒸発させた。ジクロロメタンによる粗生成物のトリチュレーションは、所望の生成物1.92gを与えた。ジクロロメタン相を蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル及び酢酸エチル/ヘプタン勾配を使用する)によって精製して、N−[3−(2,6−ジクロロ−3−ピリジル)−4−ピリジル]カルバミン酸tert−ブチルを合計3.39g(純度約90%、収率63%)で明黄色の固体として生成した。
MS: m/z =340.1 (M+H)
+。
【0058】
工程2:2−クロロ−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール
DMF(15.8mL)中のN−[3−(2,6−ジクロロ−3−ピリジル)−4−ピリジル]カルバミン酸tert−ブチル(264mg、776μmol)、炭酸カリウム(215mg、1.55mmol)及び18−クラウン−6(226mg、854μmol)の懸濁液を100℃に加熱し、アルゴン雰囲気下で3時間撹拌した。水を加え、粗生成物の懸濁液を酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を、水(2回)、ブラインで洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、溶媒を蒸発させた。少量のメタノールによる粗生成物のトリチュレーションは、2−クロロ−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール(105mg、収率63%)を明黄色の固体として与えた。
MS: m/z = 204.3 (M+H)
+。
【0059】
工程3:2−クロロ−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール−9−カルボン酸tert−ブチルエステル
脱水DMF(1.5mL)中の水素化ナトリウム(26.5mg、607μmol)の懸濁液を0℃に冷却し、アルゴン下、脱水DMF(3.0mL)中の2−クロロ−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール(103mg、506μmol)の溶液を加えた。撹拌を0℃で10分間、室温で30分間続けた。0℃に冷却した後、脱水DMF(0.75mL)中の二炭酸ジ−tert−ブチル(132mg、141μL)を加え、撹拌を室温で一晩続けた。水を加え、反応混合物を酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を水(2回)及びブラインで洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、蒸発させた。フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル及びメタノール/ジクロロメタン勾配を使用する)によって精製した後に、2−クロロ−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール−9−カルボン酸tert−ブチルエステルをオフホワイトの固体として得た(113mg、73.5%)。
MS: m/z = 304.1 (M+H)
+。
【0060】
工程4:2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール−9−カルボン酸tert−ブチルエステル
マイクロ波容器に、アルゴン雰囲気下、2−クロロ−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール−9−カルボン酸tert−ブチルエステル(100mg、329μmol)、2−フルオロ−5−(4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン−2−イル)ピリジン(147mg、658μmol)、炭酸カリウム(137mg、988μmol)及び1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン−パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン錯体(10.8mg、13.2μmol)を投入し、容器を密閉し、排気して、アルゴンを再充填した。DMF(7mL)を加え、反応混合物を90℃に加熱し、17時間撹拌した。反応混合物を濾過した。濾液に水を加え、反応混合物を酢酸エチルで2回抽出した。合わせた有機層を水(3×)で洗浄し、Na
2SO
4で乾燥させ、濾過し、蒸発させた。少量のメタノールによる粗生成物混合物のトリチュレーションは、2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール(m/z = 265.1 (M+H)
+)を明赤色の固体として与えた(23mg、純度80%、21%)。液体を蒸発させ、フラッシュクロマトグラフィー(シリカゲル及びメタノール/ジクロロメタン勾配を使用する)によって精製して、2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール−9−カルボン酸tert−ブチルエステルをオフホワイトの固体として与えた(12mg、10%)。
MS: m/z = 365.2 (M+H)
+。
【0061】
工程5:2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール
ジクロロメタン(0.5mL)中の2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール−9−カルボン酸tert−ブチルエステル(22mg、60.4μmol)及びトリフルオ酢酸ロ(33.3μL、432μmol)の明黄色の溶液を室温で一晩撹拌した。0℃に冷却した後、トリエチルアミン(70μL、503μmol)を加え、揮発性物質を全て除去した。粗物質を分取HPLC(Gemini C18カラム及び0.1%トリエチルアミンを含有する水/アセトニトリル勾配を使用する)によって精製して、2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールをオフホワイトの固体として与えた(14mg、88%)。
MS: m/z = 265.1 (M+H)
+。
【0062】
実施例2
3H−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール
【化16】
2mlのトリチウム化フラスコ中、2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール(2.0mg、7.6μmol;実施例1)及びクラブトリー触媒(9.14mg、11.4μmol)をジクロロメタン(0.8mL)及びDMF(0.2mL)に溶解した。フラスコをトリチウムマニホールド(RC-TRITEC)に取り付け、凍結脱気によって脱気した。トリチウムガスを導入し、明橙色の溶液を、トリチウム雰囲気中、450mbarで4時間激しく撹拌した。溶液を液体窒素によって冷却し、反応容器中の過剰のトリチウムガスを、廃棄トリチウム用のウラニウムトラップ上に再吸収させた。溶媒を凍結乾燥により取り除き(lyophilized off)、エタノールと水の9:1混合物(3×1mL)及びトルエン(2×1mL)を用いて不安定なトリチウムを凍結乾燥によって除去した。残っている茶色がかった油状物をエタノール(1.5mL)に溶解し、SCX−2陽イオン交換体上に移した。残っている触媒をMeOH(10mL)により溶出させて、廃棄し、生成物をMeOH中のNH
3(3.5N、10mL)により溶出させて、別々に回収し、減圧下で濃縮した。粗生成物を、溶出剤としてアセトニトリル、水及びpH7緩衝液を使用し、分取HPLC(XBridge Prep、5μm、10×250mm)によって精製した。37MBq(1mCi)の標記化合物が得られ、MS分析法によって99%の放射化学的純度及び936GBq/mmol(25.3Ci/mmol)の比放射能が決定された。この化合物をpH7緩衝液/DMSO溶液として保存した。
MS: m/z = 265.1 [M+H]
+、267.1 [M(
3H
1)+H]
+、269.1 [M(
3H
2)+H]
+。
【0063】
実施例3
[18F]−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール
【化17】
【0064】
a)2−(6−ニトロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール
【化18】
50mLのフラスコ(蒸発させて、Arでパージした)中、2−クロロ−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール−9−カルボン酸tert−ブチルエステル(285mg、938μmol)、2−ニトロピリジン−5−ボロン酸ピナコールエステル(469mg、1.88mmol)、1,1’−ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン−パラジウム(II)ジクロリドジクロロメタン錯体(34.5mg、42.2μmol)及びK
2CO
3(389mg、2.81mmol)を合わせた。DMF(24mL)を加え、管を密閉し、蒸発させて、Arでパージした。反応混合物を90℃に加熱し、18時間撹拌した。セライト、その後、小さいシリカゲルパッド(中性、60A、32〜63メッシュ)に通して濾過し、続いて、十分なDMFですすいで、蒸発乾固させた。褐色の固体をDMF(20mL)に溶解し、ほぼ透明な溶液が生じるまでDMSOを加えた。濾過後、溶媒をほぼ蒸発乾固させた。分取HPLCによる精製は、標記化合物(37mg、13%)を黄色の固体として与えた。MS m/z: 292.2 [M+H] +。
【0065】
b)[18F]−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロール
【化19】
照射終了(EOB)前に、前駆体(0.7±0.3mg)をジメチルスルホキシド400μLに溶解し、超音波処理した。EOB時に、[18O]濃縮水のプロトン照射によって生成した水性[18F]フッ化物イオンをイオン交換カラム上に捕捉した。Krytpofix 2.2.2/炭酸カリウムのストック溶液(アセトニトリル:水(1:1)600μLに溶解した、Kryptofix 2.2.2 48mg及び炭酸カリウム10mg)150μL、続いて、アセトニトリル250μLでイオン交換カラムから反応バイアル中へと溶出させた。窒素流を通してフッ化物溶液を110℃で蒸発乾固させ、さらにアセトニトリル(各250μL)の2回の添加によって共沸乾燥させた。反応バイアルをマイクロ波キャビティ(Resonance Instruments)に遠隔移送し(remotely transferred)、圧縮空気で2分間冷却した。前駆体を加え、次いで、50ワットで240秒間マイクロ波処理した後、溶液を水1mLでクエンチした。
【0066】
反応溶液をトリエチルアミン(TEA)緩衝液(pH7.2)3mLで希釈し、次いで、セミ分取HPLCカラム(XBridge Cl8、10μm、10×150mm)上に注入し、メタノール:TEA(15:85)緩衝液(pH7.2)を用いて15mL/分で溶出させた。
【0067】
HPLC溶出を254nmにてインライン放射能検出器でモニタリングした。セミ分取クロマトグラムを観察して、[18F]生成物のピークを水50mL中に回収し、自動SPEモジュールを使用してこれを再構築した。生成物溶液をWaters C-18 SepPak Plusに通して溶出させ、Milli-Q水10mLで洗浄し、次いで、無水エタノール1mL、続いて、生理食塩水10mLを用いて、0.22μmのMillipore FG滅菌フィルターを通して、最終生成物バイアル中に溶出させた。
【0068】
品質管理分析用に最終ボトルからアリコートを取り出した。分析HPLC(XBridge C18、3.5μm、4.6×100mm)(メタノール:TEA(40:60)緩衝液(pH7.2)を用いて2mL/分で溶出させ、350nmでモニタリングする)を実施して、放射化学的純度及び化学的純度、比放射能並びに化学的同一性を決定した。
【0069】
57分の[18F]−2−(6−フルオロ−ピリジン−3−イル)−9H−ジピリド[2,3−b;3’,4’−d]ピロールの放射合成法は、330.5mCiの平均的な最終生成物を生成し、非崩壊補正収率は26.1%(n=2)であった。最終生成物は、24,684mCi/μmoleの平均比放射能及び99%の放射化学的純度を有していた。