(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態に係る卵殻及びそれを用いた容器について図面に基づき詳細に説明する。
図1は、卵殻20によって形成された容器10を示す斜視図である。容器10は、例えば、洋菓子等の食品用の容器、植物栽培用のポット、微生物や細胞等を培養するための培地用シャーレ等として用いられるものである。
図1に示すように、容器10は、内容物が充填される本体部11と、本体部11を支える台座部12と、を有する。
【0026】
本体部11及び台座部12は、鶏卵等の殻である卵殻20を切断して得られた卵殻21及び卵殻22によって形成されている。容器10の基本的な形状は、素材としての卵殻20の形状をそのまま利用したものであり、容器10には、自然の造形美を活かした意匠が表現されている。
【0027】
図2(A)は、容器10の平面図である。
図2(B)は、容器10の縦断面図であり、
図2(A)に示すA−A線断面を示している。
図2(C)は、容器10の底面図である。
図2(A)及び(B)に示すように、本体部11は、一部分が切除された卵殻21から構成されており、略カップ状の形態を成す。本体部11の上部には、平面視略円形状の開口部14が形成されている。
【0028】
図2(B)及び(C)に示すように、台座部12は、卵殻22から形成され、略リング状の形態を成す。詳しくは、台座部12は、下部の直径よりも上部の直径が小さく、略円錐台状の筒状に形成されている。台座部12の上部に形成された開口部15の直径は、本体部11の最大直径よりも小さい。本体部11の下部が台座部12の開口部15に挿入されるようにして、本体部11は、台座部12の上部に載置されて支持される。
【0029】
図3は、容器10の縦断面図であり、
図2(A)に示すA−A線断面を示している。
図3に示すように、卵殻21の外表面21a及び切断された端面21cは、コーティング層16によって覆われている。これにより、卵殻21の強度及び耐久性が高められると共に、本体部11の抗菌性が高められる。
【0030】
ここで、コーティング層16は、卵殻21の外表面21a及び端面21cに固着しており、卵殻21の気孔に入り込んでいる。即ち、卵殻21の気孔は、コーティング層16によって塞がれている。これにより、コーティング層16で覆われた卵殻21について優れた強度が得られる。
【0031】
上記のように、コーティング層16で強化された卵殻21からなる容器10の本体部11は、食品容器等としての使用に耐え得る十分な強度を有する。具体的には、本体部11は、内部に充填された内容物を食する時に加えられる外力や輸送時等に加えられる外力に対して耐えることができる。これにより、本体部11が破損することによる内容物の漏れや品質の劣化等を防止することができる。また、卵殻21の強度が高められることにより、食品容器等として容器10を繰り返し使用することができる。また、容器10は、食品容器等として用いられた後、栽培用プランターや、他の物品等を収納する容器等として使用されても良い。
【0032】
また、本体部11は、食品等の製造過程における加熱調理による温度上昇や、内部に充填された食品等が膨張する圧力にも耐えることができる。そのため、本体部11の内部に食品等の素材を充填して加熱調理することも可能であり、容器10を用いて販売等される加工食品等の調理効率を高めることができる。
【0033】
台座部12は、コーティング層16と同様に形成されたコーティング層17によって覆われている。詳しくは、台座部12を構成する卵殻22の外表面22a及び端面22cには、コーティング層16と同等のコーティング層17が固着している。コーティング層17は、卵殻22の気孔に入り込み、気孔を塞いでいる。台座部12の卵殻22にコーティング層17が形成されることにより、卵殻22の強度が高められ、卵殻22が壊れ難くなる。これにより、台座部12は、本体部11を好適に支えることができる。
【0034】
次に、コーティング層16について更に詳しく説明する。なお、上記のとおり、台座部12に形成されるコーティング層17は、コーティング層16と同等である。
コーティング層16を形成するコーティング剤としては、種々の材料を利用可能である。例えば、コーティング層16の主成分として、高分子材料が用いられても良い。高分子材料は、強度が高く、取り扱いも容易である。
【0035】
コーティング層16は、例えば、高分子材料からなる液状のコーティング剤が卵殻21の表面に塗布されて乾燥することにより形成されている。高分子材料からなるコーティング剤は、取り扱いが容易であり、卵殻21の表面に塗布し易い。即ち、コーティング剤として高分子材料を採用することにより、卵殻21の表面にコーティング層16を形成し易くなり、容器10の生産性を高めることができる。
【0036】
コーティング層16に用いられる高分子材料として、例えば、グルコマンナンが望ましい。グルコマンナンからなるコーティング層16は、例えば、容器10が食品容器等に用いられる場合に好適である。グルコマンナンは、こんにゃく芋等の食品に含まれている成分であるので、体内に摂取されたとしても安全である。
【0037】
また、グルコマンナンは、無味無臭であるため、内容物である食品等の風味を損なうことがない。また、グルコマンナンからなるコーティング層16は、耐熱性及び防湿性に優れるため、容器10は、加熱調理に用いられても良い。また更に、グルコマンナンは、微生物によって分解されるため、環境保護の観点において優れている。
【0038】
また、コーティング層16は、グルコマンナンと増粘性多糖類の混合物から形成されても良い。具体的には、例えば、コーティング層16は、グルコマンナンとキサンタンガムが質量比1:1で混合されたコーティング剤によって形成されても良い。これにより、グルコマンナンのみからコーティング層16が形成される場合と比較して、卵殻21の強度を更に高めることができる。
【0039】
増粘性多糖類としては、キサンタンガムに限定されず、例えば、カラギーナン等が用いられても良い。また、コーティング層16は、グルコマンナンと増粘性多糖類が混合されたものに限定されず、例えば、グルコマンナンにアルカリが加えられたコーティング剤によって形成されても良い。
【0040】
また、コーティング層16は、増粘性多糖類から形成されても良い。例えば、コーティング層16は、カラギーナンとローカストビーンガムとが質量比1:1で混合されたコーティング剤によって形成されても良い。増粘性多糖類は、食品等に含まれる成分であるため、人体に摂取されたとしても安全である。また、増粘性多糖類は、生分解性を有するため、例えば、土壌等に埋められることにより土壌に還元される。
【0041】
また、コーティング層16は、高分子材料としてポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートによって形成されても良い。ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートは、経口投与される薬剤のコーティング剤として用いられるものであり、口内に含まれたとしても安全である。
【0042】
また、コーティング層16は、他の高分子材料から形成されても良い。例えば、コーティング層16は、こんにゃく粉、ゼラチン、飴、蜜蝋、デンプン、キチン、キトサン、卵の中身のタンパク質、シルクタンパク質、難消化性タンパク質、コラーゲン、セルロース、液体セルロース、漆、にかわ、天然ゴム、ふのり、ガゴメコンブ等に含まれる粘成分、天然油脂系脂肪酸、セロハン、カゼイン、光硬化型接着剤、熱硬化性エストラマ、ナノ塗料等の各種塗料、合成樹脂等によって形成されても良い。
【0043】
コーティング層16が天然成分によって形成されることにより、使用後の容器10の処分を容易にすることができる。特に、蜜蝋やデンプン等、土壌に還元されるものによってコーティング層16が形成されることにより、容器10を植物用のポット等として好適に用いることができる。
【0044】
また、コーティング層16は、無機化合物から形成されても良い。無機化合物として、例えば、釉薬や珪酸、アルミナ、ファインセラミックス、金箔、銀箔、シリコン等が用いられても良い。これにより、卵殻21の強度及び耐久性を高めることができる。
【0045】
また、例えば、コーティング層16として、炭酸カルシウムが用いられても良い。これにより、卵殻21をその主成分と同じ成分である炭酸カルシウムによって覆うことができる。また、コーティング層16には、卵の殻からなる紛体が含まれても良い。また、コーティング層16として、人工骨に用いられるコラーゲンやハイドロキシアパタイト等が用いられても良い。
【0046】
また、前述のとおり、容器10は、植物栽培用のポット等として用いられても良い。上記のように、容器10は卵殻20から形成されており、コーティング層16もグルコマンナンや多糖類等の天然成分によって形成されている場合には、容器10は、土壌に埋められることにより土壌に還元される。そのため、容器10は、植物と共に土壌に埋め込まれても良く、育苗用容器等としても有用である。
【0047】
土壌中に埋められた容器10は、土壌に還元されるため、従来の合成樹脂製のポットのように容器10を掘り起こして回収し、洗浄、保管、管理等する必要がない。また、酸性の土壌では、卵殻20からなる容器10が埋められることによって、土壌が中和されてPh値が高くなり、土壌を改良することができる。また、容器10内に植えられた植物は、芽が伸びる上部以外が容器10によって包まれる。これにより、容器10は、養分流出の防止や保湿に優れた効果を発揮する。また、根の成長を阻害したくない場合には、容器10の下部のみを割って植え付ければ良い。
【0048】
図4(A)は、容器10の素材となる卵30の平面図である。
図4(B)は、卵30の正面図である。なお、卵30のやや太く形成される気室側を上とし、その反対側のやや尖っている端部側を下として説明する。また、
図4(A)及び
図4(B)に示す一点鎖線は、容器10を形成する際に、卵30が切断される箇所を示している。
【0049】
図4(A)及び
図4(B)に示すように、卵30は切断部31において切断され、これにより本体部11となる卵殻21が形成される。切断部31は、卵30の中心軸に対して略垂直であり、平面視において略円形状である。なお、切断部31及び切断部32は、容器10の意匠性を高めるために、例えば、略波状等に形成されても良い。
【0050】
また、卵30の上端から切断部31までの距離L2は、卵30の高さL1の3分の1以下が望ましい。即ち、本体部11になる卵殻21の高さL3は、卵30の高さL1の3分の2以上である。これにより、卵殻21は、容器10として好適な大きさになる。
【0051】
また、切断部31で切除された卵30の上部が更に切断部32で切断されることにより、台座部12となる卵殻22が形成される。このように、卵30の卵殻20から容器10の本体部11及び台座部12が形成されることにより、従来は廃棄されていた卵殻20を容器10として有効に再利用することができる。これにより、卵の殻の廃棄量を減らすことができる。また、食品用等の容器としてガラス製やプラスチック製等の容器や台座を別途購入する必要がなくなるので、ガラスやプラスチック等の消費量及び廃棄量を削減することもできる。
【0052】
また、前述のとおり、コーティング層16(
図3参照)には、卵の殻からなる紛体が含まれても良い。その場合において、本体部11となる卵殻21及び台座部12となる卵殻22が切除された後の卵殻20の残りの部分である卵殻23や、卵殻20を切除する際の切り屑等がコーティング層16に混入される紛体の材料として利用されても良い。これにより、卵殻20の略全体を有効に再利用することができる。
【0053】
切断部32は、卵30において切断部31よりも上方であり、切断部31と切断部32は略平行である。これにより、台座部12に本体部11を載置した際の安定性を高めることができる。
【0054】
また、一つの容器10を構成する本体部11と台座部12は、それぞれ別々の卵30から得られた卵殻21及び卵殻22から形成される。即ち、一の卵殻20を切除して得られた卵殻21は、他の卵殻20を切除して得られた卵殻22と組み合わされ、これにより容器10が構成される。これにより、容器10の生産効率が高められると共に、卵殻21と卵殻22とが好適に選定され、容器10の意匠性が高められる。
【0055】
なお、卵30は、自然物であるため、個体毎に大きさが異なる。そのため、卵30の高さL1に応じて、切断部31の位置を適宜変更することにより、本体部11の高さL3を調整しても良い。
【0056】
また、上記の例では卵30の上部が切除されて本体部11が形成されるとしたが、本体部11の構成はこれに限定されず、例えば、卵30の下部が切除されて、卵30の気室側の卵殻20が本体部11として使用されても良い。また、例えば、本体部11は、卵30を上下方向、即ち中心軸方向、に切断することにより形成されても良い。
【0057】
次に、
図5(A)ないし
図5(D)を参照して、コーティング層16、17が形成される位置を変更した例について説明する。なお、
図5(A)ないし
図5(D)は、それぞれの実施形態について、
図2(A)のA−A線断面に相当する断面を示している。また、全ての実施形態に関し、既に説明した実施形態と同一若しくは同様の作用効果を奏する構成要素については、同一の符号を付している。
【0058】
図5(A)は、本発明の他の実施形態に係る容器110の縦断面図である。
図5(A)に示す容器110のように、卵殻21の上部に形成された開口部14の縁部のみにコーティング層16が形成されても良い。ここで、開口部14の縁部とは、卵殻21の切断された端面21cとその近傍の外表面21a及び内表面21bである。このように開口部14の縁部がそこに固着したコーティング層16で覆われることにより、卵殻21の割れ易い縁部の強度を高めることができる。
【0059】
また、台座部12のコーティング層17は、卵殻22の上部の開口部15の縁部のみに形成されても良い。また、図示を省略するが、コーティング層17は、卵殻22の底部開口の縁部に形成されても良い。
【0060】
図5(B)は、本発明の更に他の実施形態に係る容器210の縦断面図である。
図5(B)に示すように、コーティング層16は、卵殻21の切断された端面21cに形成されない構成でも良い。
【0061】
図5(C)は、本発明の更に他の実施形態に係る容器310の縦断面図である。コーティング層16は、必ずしも卵殻21の外表面21a全体を覆っている必要はない。
図5(C)に示すように、コーティング層16は、卵殻21の外表面21aの一部分に形成されていても良く、例えば、略リング状等に形成されても良い。即ち、コーティング層16は、卵殻21の補強が必要な部分にのみ形成されていれば良い。
【0062】
図5(D)は、本発明の更に他の実施形態に係る容器410の縦断面図である。
図5(D)に示すように、コーティング層16は、卵殻21の内表面21bに形成されても良い。台座部12についても同様に、コーティング層17は、卵殻22の内表面22bに形成されても良い。
【0063】
なお、卵殻21及び卵殻22の表面に形成されるコーティング層16、17は、上記の例に限定されず、例えば、卵殻21、22の表面全体に形成されても良い。具体的には、コーティング層16は、卵殻21の外表面21a、内表面21b及び端面21cを全て覆うように形成されても良い。
【0064】
また、卵殻21及び卵殻22は、内表面21b及び内表面22bに卵殻膜が残された状態で容器10に用いられても良い。これにより、卵殻21及び卵殻22は、卵殻膜によって保護され、容器10の強度が高められる。また、内表面21bの卵殻膜の内側にコーティング層16が形成されても良い。これにより、卵殻21は、卵殻膜及びコーティング層16によって保護されて、強度が高められる。卵殻22についても、卵殻21と同様に、卵殻膜の上にコーティング層17が形成されても良い。
【0065】
また、卵殻21及び卵殻22は、卵殻膜が除去された状態で容器10に用いられても良い。具体的には、エタノールや水等によって、卵殻21及び卵殻22の卵殻膜が剥がされていても良い。これにより、卵殻膜の腐敗等の恐れがなくなり、容器10の保存性が高められる。また、卵殻膜が剥がされた内表面21b及び内表面22bにコーティング層16、17が形成されても良い。
【0066】
次に、
図6ないし
図9を参照して、容器10の製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、適宜
図1ないし
図4を参照するものとする。
図6は、本発明の実施形態に係る容器10の製造工程を示すフローチャートである。
図6に示すように、容器10の製造工程は、消毒工程S10と、第1コーティング工程S20と、割卵工程S30と、第2コーティング工程S40と、縁部コーティング工程S50と、印刷工程S60と、を備える。
【0067】
初めに、消毒工程S10が行われる。消毒工程S10では、食品用エタノール等によって卵30の表面が消毒される。そして、卵30は、消毒された後に所定時間放置されて、表面が自然乾燥する。
【0068】
次に、第1コーティング工程S20が行われる。第1コーティング工程S20では、卵30の表面にコーティング層16、17が形成される。例えば、コーティング層16、17がグルコマンナンを主成分として形成される場合、溶媒となる常温の水にグルコマンナンが加えられ、加熱混合されてコーティング剤が調製される。そして、調製されたコーティング剤が卵30の表面に塗布される。コーティング剤を塗布する方法は、例えば、液体状のコーティング剤に卵30を浸す方法や、卵30の表面にコーティング剤を噴霧する方法等である。なお、コーティング剤は、卵30の表面全体に塗布されても良いし、卵30の表面の一部分に塗布されても良い。
【0069】
そして、コーティング剤が塗布された卵30は、図示しない網目状の構造物の上に上部を下方に向けて並べられ、所定時間の自然乾燥が行われる。これにより、コーティング剤が硬化して、卵30の表面にコーティング層16、17が形成される。なお、乾燥方法は、温風加熱による乾燥や、凍結乾燥等であっても良い。
【0070】
卵30を乾燥させる際に卵30が載置される網目状の構造物として、具体的には、網目が略三角形状に形成されたものが用いられる。これにより、卵30と網目状の構造物との接地面積を小さくすることができる。その結果、コーティング剤の溜まりや接地跡を少なくすることができ、容器10の意匠性が高められる。
【0071】
また、例えば、コーティング層16、17がポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートによって形成される場合、有機溶剤にポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートが溶かされたコーティング剤が卵30の表面に塗布される。そして、コーティング剤の有機溶剤が揮発することにより、コーティング層16、17が形成される。
【0072】
また、例えば、コーティング層16、17がデンプン等を主成分として形成される場合、例えば、水とデンプンの混合液からなるコーティング剤が加熱されて、卵30の表面に塗布される。その後、卵30の表面に塗布されたコーティング剤が冷却されることにより、デンプンが硬化し、卵30の表面にコーティング層16、17が形成される。
【0073】
また、例えば、コーティング層16、17が光硬化型接着剤等によって形成される場合、液体状の光硬化型接着剤が卵殻20の表面に塗布された後、紫外線が照射される。これにより、光硬化型接着剤が硬化し、卵30の表面にコーティング層16、17が形成される。
【0074】
また、例えば、コーティング層16、17が漆等によって形成される場合、卵30の表面に漆が塗布された後、卵30は所定時間放置される。これにより、漆が酸化して硬化し、卵30の表面にコーティング層16、17が形成される。
【0075】
また、例えば、コーティング層16、17として、釉薬等が用いられる場合、釉薬は、卵30の表面に塗布された後に焼成される。これにより、コーティング層16、17が形成される。
【0076】
また、例えば、コーティング層16、17が炭酸カルシウム等によって形成される場合、卵30の表面に生石灰液が塗布された後、二酸化炭素が吹き付けられる。これにより、生石灰液の酸化カルシウムと二酸化炭素が化学反応して、炭酸カルシウムが形成される。
【0077】
なお、コーティング剤には、色素等が加えられても良い。これにより、卵殻21及び卵殻22の擦れや卵30の個体差等による容器10の色むらを減らすことができ、容器10の意匠性を高めることができる。
【0078】
次に、卵30の表面にコーティング層16、17が形成された後、割卵工程S30が行われる。割卵工程S30では、卵30は、切断部31及び切断部32において割卵機によって切断される。割卵機は、略円板状の回転式のカッタを有する。卵30は、回転するカッタに回転しながら当接することにより切断される。そして、卵30は、中身と卵殻21と卵殻22とに分離される。卵30の中身は、例えば、洋菓子等の材料として使用される。
【0079】
上記のように、第1コーティング工程S20によって卵30の表面にコーティング層16、17が形成された後に割卵工程S30が行われることにより、卵30はコーティング層16、17によって保護されているため、割卵時の卵殻20のひび割れ等を防止することができる。また、割卵機によって卵30の卵殻20が切断されることにより、卵30を手作業で割る場合と比べて、卵殻21及び卵殻22のひび割れが少なくなると共に強度が高くなる。また、割卵機を用いることにより、容器10の生産性を高めることができる。
【0080】
また、2枚のカッタを備えた割卵機を用いて、切断部31と切断部32が同時に切断されても良い。これにより、卵30の切断部31と切断部32が別々に切断される場合よりも工程数が削減され、割卵工程S30の作業効率が高められる。
【0081】
なお、卵30の表面に対するカッタの角度は任意に設定可能である。例えば、カッタは、卵30の表面に対して斜めに当てられても良い。これにより、卵殻21の切断された端面21cの面積を大きく形成することができ、卵殻21の縁部の強度が高められる。
【0082】
次に、割卵工程S30が行われた後、第2コーティング工程S40が行われる。第2コーティング工程S40では、第1コーティング工程S20において説明した方法によって、卵殻21の外表面21a及び卵殻22の外表面22aにコーティング層16及びコーティング層17形成される。また、第2コーティング工程S40では、卵殻21の内表面21bまたは卵殻22の内表面22bにコーティング層16、17が形成されても良い。
【0083】
なお、コーティング剤を自然乾燥させる際には、卵殻21は、開口部14が下方になるように載置される。また、卵殻22は、開口部15が上方になるように載置される。
【0084】
上記のように、第1コーティング工程S20及び第2コーティング工程S40が行われることにより、コーティング層16及びコーティング層17は、それぞれ複数の層状になって厚く形成される。そのため、卵殻21及び卵殻22の強度を高めることができる。
【0085】
次に、縁部コーティング工程S50が行われる。縁部コーティング工程S50では、第1コーティング工程S20と同等の方法によって、卵殻21の縁部及び卵殻22の縁部にコーティング層16及びコーティング層17がそれぞれ形成される。
【0086】
縁部コーティング工程S50が行われた後、容器10の外表面に印をつける印刷工程S60が行われても良い。印刷工程S60では、容器10の外表面に持ち位置等を示す印等が付けられても良い。これにより、卵殻21の強度を高めると共に、容器10が持ち上げられる際に加えられる外力によって破損してしまうことを防止できる。
【0087】
なお、持ち位置を示す印は、コーティング層16と同等の方法によって形成可能である。持ち位置を示す印を形成する素材としては、コーティング層16と同じ素材またはコーティング層16よりも摩擦係数の高い素材が用いられても良い。これにより、容器10を持ち上げる際に容器10が滑り落ちることを防止できる。また、持ち位置を示す印は、凹凸状やドット状等に形成されても良い。これにより、滑り止め効果が高められる。
【0088】
また、印刷工程S60では、模様やロゴマーク、文字等が印刷されても良い。模様やロゴマーク、文字等は、例えば、感熱性色素等による着色やレーザー加工等によって形成されても良い。また、印刷工程S60では、容器10の外表面に粘土等から形成された造形物が貼り付けられても良い。以上の工程により、容器10が完成する。なお、印刷工程S60は、コーティング層16が形成される前に、具体的には、第1コーティング工程S20や第2コーティング工程S40の前に、実行されても良い。即ち、模様や文字等の印刷や粘土等による造形物の外面を覆うようにコーティング層16が形成されても良い。
【0089】
なお、第1コーティング工程S20、第2コーティング工程S40及び縁部コーティング工程S50は、それぞれ複数回行われても良い。これにより、コーティング層16及びコーティング層17を多層状に厚く形成することができ、卵殻21及び卵殻22の強度を高めることができる。
【0090】
また、第1コーティング工程S20、第2コーティング工程S40及び縁部コーティング工程S50は、コーティング剤の種類を変えてそれぞれ複数回行われても良い。即ち、コーティング層16及びコーティング層17は、それぞれ異なる種類のコーティング剤によって多層状に形成されても良い。
【0091】
次に、
図7ないし
図9を参照して、容器10の他の製造方法の例を説明する。なお、
図7ないし
図9において、既に説明した実施形態と同一若しくは同様の工程については、同一の符号を付している。
【0092】
図7は、容器10の他の製造工程を示すフローチャートである。
図7に示す製造工程では、
図6に示す第1コーティング工程S20が行われない。このように、割卵工程S30の前にコーティング層16、17が形成されない方法でも良い。
【0093】
図8は、容器10の更に他の製造工程を示すフローチャートである。
図8に示す製造工程では、割卵工程S30の後に、
図6に示す第2コーティング工程S40が行われずに、縁部コーティング工程S50が実行される。このように、第2コーティング工程S40が行われない方法でも良い。
【0094】
図9は、開口部14の縁部のみにコーティング層16が形成される容器110(
図5(A)参照)の製造工程を示すフローチャートである。
図9に示すように、コーティング層16を形成する工程として、
図6に示す第1コーティング工程S20及び第2コーティング工程S40が行われずに、縁部コーティング工程S50のみが行われても良い。
【0095】
次に、
図10(A)ないし
図10(D)を参照して、容器10を用いた製品の製造方法について詳細に説明する。なお、以下の説明では、適宜
図1ないし
図4を参照するものとする。また、
図10(A)ないし
図10(D)では、同様の工程については、同一の符号を付している。
【0096】
図10(A)は、容器10を用いた製品の製造方法を示すフローチャートである。
図10(A)に示すように、容器10を用いた製品の製造工程は、充填工程S70と、梱包工程S100と、を具備する。
【0097】
初めに、充填工程S70が行われ、容器10の内部に内容物が充填される。内容物としては、例えば、調理不要な食品、調理済の食品または購入者によって加熱調理される食材等である。
【0098】
次に、梱包工程S100が行われ、容器10が所定の箱等に収納される。なお、容器10は、オブラート紙等によって包まれた状態で箱等に収納されても良い。これにより、容器10が外気から遮断されて内容物の品質劣化が抑制されると共に、容器10を補強することができる。そして、内部に内容物が充填されて梱包された容器10は、その後、出荷される。
【0099】
図10(B)は、容器10を用いた製品の他の製造方法を示すフローチャートである。
図10(B)に示すように、容器10を用いた製品の他の製造工程は、充填工程S70と、加熱調理工程S80と、梱包工程S100と、を具備する。
【0100】
初めに、充填工程S70が行われる。例えば、容器10がプリン等の洋菓子用の容器として用いられる場合、充填工程S70では、容器10の内部に調合された液体状の材料が充填される。
【0101】
次に、加熱調理工程S80が行われる。加熱調理工程S80では、容器10に充填された内容物が加熱調理される。そして、加熱調理が行われた後、容器10及びその内容物は、冷却される。そして次に、容器10を梱包する梱包工程S100が行われる。
【0102】
図10(C)は、容器10を用いた製品の更に他の製造方法を示すフローチャートである。
図10(C)に示すように、容器10を用いた製品の更に他の製造工程では、充填工程S70が行われた後、第3コーティング工程S90が行われても良い。第3コーティング工程S90では、容器10の外表面にコーティング層16が形成される。これにより、容器10の強度を高めることができる。
【0103】
図10(D)は、容器10を用いた製品の更に他の製造方法を示すフローチャートである。
図10(D)に示すように、第3コーティング工程S90は、加熱調理工程S80の後に行われても良い。
また、図示を省略するが、加熱調理工程S80の加熱と第3コーティング工程S90の乾燥が同時に実行される方法でも良い。
【実施例】
【0104】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。なお、本発明は、以下に挙げる実施例によって何ら限定されるものではない。以下の説明では、
図1ないし
図4を適宜参照するものとする。
【0105】
実施例1に係る試料P11の素材として、表面に傷やひびのない卵30を準備した。グルコマンナンとカラギーナンが質量比1:1で混合された混合物を0.5g量り取り、その混合物に無水アルコールを1ml加えて混ぜた。そして、その混合物に常温の水50mlを更に加えて攪拌した後、加熱して、濃度1%のコーティング剤を得た。そして、コーティング剤を卵30に注ぎかけ、手で卵30の全体にコーティング剤を塗布した。コーティング剤が塗布された卵30を所定時間放置して自然乾燥させ、コーティング剤を硬化させた。これにより、グルコマンナンとカラギーナンによって形成されたコーティング層16によって覆われた卵30である実施例1に係る試料P11を得た。
【0106】
また、コーティング層16の有無による卵30の強度を比較するための比較例1として、表面にコーティング層16が形成されていない卵30を準備し、試料P51〜試料P53とした。
【0107】
次に、測定装置として株式会社エー・アンド・デイ製のテンシロン万能材料試験機RTF−1250を用いて、試料P11及び試料P51〜試料P53の圧縮強度を測定した。具体的には、試料P11及び試料P51〜試料P53をビニール袋に入れた後、卵30の中心軸方向が水平になるように試料P11及び試料P51〜試料P53を繊維製のクッションの上に載置し、直径100mmの圧縮盤によって、試料P11及び試料P51〜試料P53を上から圧縮した。圧縮盤の下降速度、即ち圧縮速度は、10cm/minである。この時に測定される圧縮強度の第一極大点を破断点荷重として、実施例1に係る試料P11及び比較例1に係る試料P51〜試料P53の破断点荷重をそれぞれ測定した。
【0108】
図11(A)は、実施例1に係る試料P11の強度試験結果の一例を示す図である。
図11(B)は、比較例1に係る試料P51〜試料P53の強度試験結果の一例を示す図である。
図11(A)及び(B)に示すように、コーティング層16が形成された試料P11の破断点荷重は、39.2Nであり、コーティング層16が形成されていない試料P51〜53の破断点荷重の平均は、28.8Nであった。よって、卵30の表面にコーティング層16が形成されることにより、卵30の強度が向上することが認められた。
【0109】
次に、実施例2に係る試料P21〜試料P25の素材として、手動割卵器を利用した手割りによって卵30の卵殻20を切断して卵殻21を準備した。また、形成された卵殻21にひびが無いことを目視により確認した。コーティング剤として、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートをエタノールに溶解させた溶液を調製した。そして、調製されたコーティング剤を、試料P21〜試料P25の素材である卵殻21の外表面21a全体に噴霧して塗布した。コーティング剤が塗布された卵殻21を所定時間放置して、エタノールを揮発させ、コーティング層16を硬化させた。これにより、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートからなるコーティング層16で覆われた実施例2に係る試料P21〜試料P25を得た。
【0110】
また、内容物の有無による卵殻21の強度を比較するため、試料P21〜試料P25と同様の方法によって、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートからなるコーティング層16で覆われた容器10を作製し、その容器10を用いてプリンを作製した。このようにして、本体部11の内部に内容物としてのプリンが充填された実施例3に係る試料P31〜試料P35を得た。
【0111】
また、コーティング層16の有無による卵殻21の強度を比較するための比較例2として、試料P21〜試料P25の素材と同様の方法、即ち、手動割卵器の利用した手割りによって卵殻20を切断して、試料P61〜試料P65を作製した。
【0112】
次に、試料P21〜試料P25、試料P31〜試料P35及び試料P61〜試料P65の圧縮強度を測定した。具体的には、切断された端面21cが載置面に対して略垂直になるようにして試料P21〜試料P25、試料P31〜試料P35及び試料P61〜試料P65を繊維製のクッションの上に載置し、実施例1で説明した圧縮強度の測定方法と同様にして、試料P21〜試料P25、試料P31〜試料P35及び試料P61〜試料P65の破断点荷重をそれぞれ測定した。
【0113】
図12(A)は、実施例2に係る試料P21〜試料P25の強度試験結果の一例を示す図である。
図12(B)は、実施例3に係る試料P31〜試料P35の強度試験結果の一例を示す図である。また、
図12(C)は、比較例2に係る試料P61〜試料P65の強度試験結果の一例を示す図である。
【0114】
図12(A)に示すように、コーティング層16が形成された実施例2に係る試料P21〜試料P25の破断点荷重の平均は、8.9Nであった。これに対し、
図12(C)に示すように、比較例2となる試料P61〜試料P65の破断点荷重の平均は3.6Nであった。これらの結果を比較すると、コーティング層16が形成された試料P21〜試料P25の破断点荷重は、コーティング層16が形成されていない試料P61〜試料P65の破断点荷重に対して、約2.4倍であることが分かる。よって、卵殻21の表面にコーティング層16が形成されることにより、卵殻21の強度が高められることが示された。
また、
図12(A)に示す結果より、コーティング層16が形成された卵殻21は、食品容器を形成する素材として、十分な強度を有することが認められる。
【0115】
図12(B)に示すように、内容物が充填されている実施例3に係る試料P31〜試料P35の破断点荷重の平均は、8.8Nであり、内容物が充填されていない実施例2に試料P21〜試料P25の試験結果と略同等であった。よって、本体部11は、内容物の有無によらず、コーティング層16で覆われた卵殻21によって所定の強度が確保されており、加熱調理後であっても十分な強度を有することが認められた。
【0116】
次に、実施例4の試料P41及び試料P42の素材として、略円板状の回転式カッタを有する割卵機によって卵30を切断して、卵殻21を作製した。そして、卵殻21にひびが形成されていないことを目視により確認し、薄いエタノールで消毒した後、卵殻21を流水で濯ぎ、蒸し器に入れて8分蒸した。その後、卵殻21をドライヤで5分間乾燥させ、30分間自然乾燥させた。また、グルコマンナンとカラギーナンが質量比1:1で混合された混合物を0.25g量り取り、無水アルコール1ml加えて混ぜ、水50mlを更に加えて攪拌した。調製された溶液を加熱し、濃度0.5%のコーティング剤を得た。その調製されたコーティング剤を噴霧して卵殻21の外表面21a及び内表面21bに塗布した。そして、コーティング剤が塗布された卵殻21を所定時間放置して自然乾燥させてコーティング剤を硬化させた。これにより、グルコマンナンとカラギーナンからなるコーティング層16で覆われた卵殻21である実施例4に係る試料P41及び試料P42を得た。
【0117】
また、グルコマンナンとカラギーナンの混合物からなるコーティング層16の有無による卵殻21の強度を比較するための比較例3として、実施例4に係る試料P41及び試料P42と同様に、割卵機によって卵30を切断して、試料P71及び試料P72を作製した。そして、上記の試料P21〜試料P25、試料P31〜試料P35及び試料P61〜試料P65の測定方法と同様にして、試料P41、試料P42、試料P71及び試料P72の破断点荷重を測定した。
【0118】
図13(A)は、実施例4に係る試料P41及び試料P42の強度試験結果の一例を示す図である。また、
図13(B)は、比較例3に係る試料P71及びP72の強度試験結果の一例を示す図である。
【0119】
図13(A)に示すように、グルコマンナンとカラギーナンの混合物からなるコーティング層16が形成された試料P41及び試料P42の破断点荷重の平均は、10.3Nであった。これに対し、
図13(B)に示すように、コーティング層16が形成されていない比較例3に係る試料P71及び試料P72の破断点荷重の平均は7.8Nであった。これらの結果より、グルコマンナンとカラギーナンからなるコーティング層16が形成されることにより、卵殻21の強度が高められることが分かる。
【0120】
また、
図12(C)及び
図13(B)に示すように、割卵機によって切断された比較例3に係る試料P71及び試料P72は、手割りによって切断された比較例2に係る試料P61〜試料P65と比較して、およそ2倍の強度を有することが確認できた。この結果より、割卵機による割卵方法は、手割りによる割卵方法よりも、卵殻21の強度を高めることができることが示された。
【0121】
以上、本発明の実施形態及び実施例について説明したが、本発明は、上記の例に限定されるものではない。例えば、卵殻20の切断された一部分は、本体部11の蓋として利用されても良い。具体的には、上記の実施形態において卵殻20の台座部12に用いられていた部分を利用して、本体部11の上部を塞ぐ蓋が形成されても良い。これにより、卵の殻を蓋付きの容器として用いることができる。
【0122】
また、上記の例では、卵殻20を用いた容器10を挙げているが、コーティング層によって強化された卵の殻の用途は、容器10に限定されるものではない。コーティング層によって強化された卵の殻は、容器10以外の各種の物品、例えば、スピーカケースや照明用のケース等の素材として用いられても良い。
【0123】
また、コーティング層によって卵の殻を覆って強化する構成は、卵の殻が素材として用いられる場合に限定されるものではない。例えば、中身が入っている卵の殻を強化するために、卵の殻の表面にコーティング層が形成されても良い。これにより、卵の強度が高められ、輸送時等に割れにくく扱い易い卵を得ることができる。また、卵殻が割れ難くなることにより、例えば、卵の輸送や加工等、卵を取り扱う各種現場において、卵殻が破損することによる作業の中断や作業効率の低下を抑えることができる。
【0124】
また、例えば、コーティング層は、ワクチンを製造する際に用いられる卵の殻の強度を高めるために形成されても良い。具体的には、卵の殻の、ワクチン製造工程において開口が形成される付近の表面にコーティング層が形成されても良い。これにより、卵の殻の強度が高められ、卵の破損を防止することができる。
本発明は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、その他の種々の変更実施が可能である。