(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194600
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】複合めっき被膜およびそれを用いた薄型砥石
(51)【国際特許分類】
B24D 3/00 20060101AFI20170904BHJP
B24D 3/06 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
B24D3/00 310C
B24D3/00 320B
B24D3/06 B
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2013-42293(P2013-42293)
(22)【出願日】2013年2月15日
(65)【公開番号】特開2014-156004(P2014-156004A)
(43)【公開日】2014年8月28日
【審査請求日】2016年2月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 社団法人精密工学会東北支部 2012年度精密工学会東北支部学術講演会講演論文集 第63−64頁 平成24年12月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】593022021
【氏名又は名称】山形県
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸久
(72)【発明者】
【氏名】村岡 潤一
(72)【発明者】
【氏名】横山 和志
【審査官】
宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】
実開平03−044559(JP,U)
【文献】
特開2000−288943(JP,A)
【文献】
特開2006−055943(JP,A)
【文献】
特開2004−050364(JP,A)
【文献】
特開2000−042930(JP,A)
【文献】
特開2007−125636(JP,A)
【文献】
英国特許出願公告第00980799(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノカーボン材料および超砥粒が分散してなる2層以上の複数層で形成された複合めっき被膜であり、複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層を少なくとも1層有し、超砥粒が均一に分散してなる複合めっき層を少なくとも1層有することを特徴とする複合めっき被膜のみからなり、薄型円板形状の自立膜であることを特徴とする薄型電鋳砥石
【請求項2】
前記複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層において、めっき母相にナノカーボン材料を分散した複合めっき領域があり、めっき母相のみの弾性率に比べて120%ないし150%の値を有する複合めっき領域であることを特徴とする請求項1記載の薄型電鋳砥石
【請求項3】
前記複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層において、めっき母相にナノカーボン材料を分散した複合めっき領域があり、めっき母相のみの場合に比べて、鋼材との摺動による摩耗量が6%ないし30%の値である複合めっき領域であり、この複合めっき領域を有する層が最表面に存在することを特徴とする請求項1記載の薄型電鋳砥石
【請求項4】
前記複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層において、めっき母相にナノカーボン材料を分散した複合めっき領域があり、めっき母相のみの摩擦係数に比べて10%ないし90%の値を有する複合めっき領域であり、この複合めっき領域を有する層が最表面に存在することを特徴とする請求項1記載の薄型電鋳砥石
【請求項5】
前記超砥粒が、ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素のいずれかの超砥粒であることを特徴とする請求項1記載の薄型電鋳砥石
【請求項6】
前記ナノカーボン材料が、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンのいずれかのナノカーボン材料であることを特徴とする請求項1記載の薄型電鋳砥石
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、石英ガラスやシリコンウェハなどの硬脆材料の微細溝加工、切断加工に用いられる薄型砥石に関するもので、より詳細には、カーフロス(切断代)低減のための薄型化、高能率加工のための機械的強度向上などの要求に応えるために、高い剛性、低い摩擦係数、熱排出性、低い研削抵抗、切りくずの排出特性を付与した複合めっき被膜及びその複合めっき被膜からなる薄型砥石に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルや銅などの母層に機能性の粒子を複合させる複合めっき被膜は、めっき被膜の摺動性、伝導性、機械的強度などの機能性を向上させることを目的として広く用いられている。
【0003】
複合めっき被膜を用いた応用製品の一つに薄型砥石がある。薄型砥石は、ダイヤモンド砥粒や立方晶窒化ホウ素砥粒などの超砥粒を分散させたニッケルを主成分とする複合めっき被膜が切れ刃となる。前記複合めっき被膜のみから形成された薄型円板形状の自立膜のものを電鋳砥石といい、薄型の円板形状の台がねの上に前記複合めっき被膜を形成したものを電着砥石という。
【0004】
薄型砥石は、石英ガラスやシリコンウェハなどの硬脆材料の微細溝加工、切断加工に用いられる工具である。薄型砥石は、カーフロス低減のための薄型化、高能率加工のための機械的強度向上などの要求に応えるために、高い剛性、低い摩擦係数、熱排出性、低い研削抵抗、切りくずの排出特性を付与することが求められている。
【0005】
特許文献1や特許文献2によれば、薄型砥石の外周部に周期的なスリットを設けることで、切削時に生じる切りくずを排出しやすくして目詰まりを抑制し、研削抵抗を低減する効果が示されている。しかしながら、スリットを設けることで、刃先の剛性が低下してしまうという課題がある。
【0006】
特許文献3によれば、三層構造の電鋳砥石が提案されており、被加工物へのダメージが小さい銅電鋳層と剛性のあるニッケル電鋳層を組み合わせた電鋳ブレードが提案されている。この構造であれば、高い剛性とチッピングの小さい加工という利点を享受できるが、低い摩擦係数、低い研削抵抗、切りくずの排出特性などを同時に得ることができないという課題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】 特開2004−136431号公報
【特許文献2】 特開2008−100309号公報
【特許文献3】 特開平6−210570号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、機能性を付与した複合めっき被膜及びそれを用いた高性能な薄型砥石に関するもので、より詳細には、ナノカーボン材料を複合化することにより、高い剛性、低い摩擦係数、熱排出性をめっき被膜に付与し、さらに超砥粒を周方向に周期的に配置することにより低い研削抵抗、切りくずの排出特性を付与した複合めっき被膜及び薄型砥石を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、請求項1記載の
薄型電鋳砥石は、ナノカーボン材料および超砥粒が分散してなる
2層以上の
複数層で形成された複合めっき被膜であり、複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層を少なくとも1層有
し、超砥粒が均一に分散してなる複合めっき層を少なくとも1層有することを特徴とする複合めっき被膜のみからなり、薄型円板形状の自立膜であることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の
薄型電鋳砥石は、
前記複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層において、めっき母相にナノカーボン材料を分散した複合めっき領域があり、めっき母相のみの弾性率に比べて120%ないし150%の値を有する複合めっき領域であることを特徴とする。【0011】
請求項3記載の
薄型電鋳砥石は、
前記複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層において、めっき母相にナノカーボン材料を分散した複合めっき領域があり、めっき母相のみの場合に比べて、鋼材との摺動による摩耗量が6%ないし30%の値である複合めっき領域であり、この複合めっき領域を有する層が最表面に存在することを特徴とする。【0012】
請求項4記載の
薄型電鋳砥石は、
前記複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、その中心軸から放射状に砥粒列が配置され、その中心軸を中心とした周方向に周期的に砥粒列が配置された複合めっき層において、めっき母相にナノカーボン材料を分散した複合めっき領域があり、めっき母相のみの摩擦係数に比べて10%ないし90%の値を有する複合めっき領域であり、この複合めっき領域を有する層が最表面に存在することを特徴とする。【0013】
請求項5記載の
薄型電鋳砥石は、
前記超砥粒が、ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素のいずれかの超砥粒であることを特徴とする。【0014】
請求項6記載の
薄型電鋳砥石は、
前記ナノカーボン材料が、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンのいずれかのナノカーボン材料であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
請求項1記載の発明によれば、高弾性率で、摩擦係数が低く、熱伝導性に優れるナノカーボン材料が複合めっき被膜に含まれることでナノカーボンが有する機能を前記めっき被膜に付与することができる効果がある。さらに、加工に寄与する超砥粒が、複合めっき被膜を形成する基板面の任意の点を通る法線を中心軸とし、前記中心軸から放射状に砥粒列が形成されてなり、前記中心軸を中心とした周方向に周期的に前記砥粒列が配置されることで、砥粒列が存在し切れ刃となる領域が周方向に周期的に存在するとともに、砥粒列が存在しない領域は切りくずの排出することに寄与する効果がある。結果として、複合めっき被膜は、高い剛性、低い摩擦係数、熱排出性、低い研削抵抗、切りくずの排出特性を得る効果がある。
【0018】
さらに、前記複合めっき被膜が複数層で形成されることで、層ごとに(厚み方向に)機能を分担させることができ、たとえば、切りくずの排出性を重視した複合めっき被膜と高い剛性を重視した複合めっき被膜の構造を実現することができる。それらの機能を有する薄型砥石を提供することができる。
加えて、薄型円板形状の自立膜であることにより、カーフロス低減のための薄型化、高能率加工のための機械的強度向上などの要求に応えることができる電鋳砥石となる。【0019】
請求項2記載の発明によれば、前記複合めっき被膜において、少なくとも前記砥粒列が形成されていない領域のめっき被膜がナノカーボン材料によって補強された複合めっき領域であり、ナノカーボン材料の複合化によって弾性率が、ナノカーボン材料によって補強されていないめっき被膜に比べて120%ないし150%の値を有する複合めっき領域であることにより、高い剛性を有する複合めっき被膜なり、それを用いた薄型砥石は砥粒列による切れ味の良さとともに高い剛性を同時に有するものとなる。
【0020】
請求項3記載の発明によれば、前記複合めっき被膜において、少なくとも前記砥粒列が形成されていない領域のめっき被膜がナノカーボン材料によって補強された複合めっき領域であり、ナノカーボン材料によって鋼材に対しての摩耗量が、ナノカーボン材料によって補強されていないめっき被膜に比べて6%ないし30%である複合めっき領域であり、耐摩耗性が高い前記複合めっき領域を含む複合めっき層が少なくとも最表面に存在することにより、耐摩耗性を有する複合めっき被膜なり、それを用いた薄型砥石は砥粒列による切れ味の良さとともに耐摩耗性を同時に有するものとなる。
【0021】
請求項4記載の発明によれば、前記複合めっき被膜において、少なくとも前記砥粒列が形成されていない領域のめっき被膜がナノカーボン材料によって補強された複合めっき領域であり、ナノカーボン材料によって摩擦係数が、ナノカーボン材料によって補強されていないめっき被膜に比べて10%ないし90%の値である複合めっき領域であり、低摩擦係数である前記複合めっき領域を含む複合めっき層が少なくとも最表面に存在することにより、低い摩擦係数を有する複合めっき被膜なり、それを用いた薄型砥石は砥粒列による切れ味の良さとともに切りくずの潤滑性を同時に有するものとなる。
【0022】
請求項5記載の発明によれば、前記超砥粒が、ダイヤモンドまたは立方晶窒化ホウ素のいずれかの超砥粒であることにより、請求項1ないし請求項5に記載の複合めっき被膜を、石英ガラスやシリコンウェハなどの硬脆材料の微細溝加工、切断加工に用いる薄型砥石として用いることができる。
【0023】
請求項6記載の発明によれば、前記ナノカーボン材料が、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンのいずれかのナノカーボン材料であることにより、高い剛性、低い摩擦係数、熱排出性をめっき被膜に付与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
以下、図を参照して本発明を説明する。この図および説明は単なる一例に過ぎず、本発明の全般的な概念を制限するものではない。
【
図1】面直方向に一様であり、面内周方向に周期的な砥粒列を有する本発明の複合めっき被膜(薄型砥石)の概略図である。
【
図2】面内周方向に周期的な砥粒列を有する複合めっき被膜層を最表面に配置し、砥粒を均一に分散させた複合めっき被膜3の層を挟み込んだ構成である本発明の複合めっき被膜(薄型砥石)の概略図である。
【
図3(a)】面直方向に一様であり、面内周方向に周期的な砥粒列を有する本発明の複合めっき被膜および薄型電鋳砥石の光学顕微鏡写真である。
【
図3(b)】
図3(a)に示した複合めっき被膜(薄型砥石)の砥粒列を含む複合めっき領域1の拡大写真である。
【
図3(c)】
図3(a)に示した複合めっき被膜(薄型砥石)の砥粒列を含まない複合めっき領域2の拡大写真である。
【
図4】本発明のカーボンナノチューブ複合めっき被膜の弾性率と被膜中のカーボンナノチューブ含有量の関係を示すグラフである。
【
図5】本発明のカーボンナノチューブ複合めっき被膜の耐摩耗性を比較したグラフである。
【
図6】本発明のカーボンナノチューブ複合めっき被膜の摩擦係数を比較したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好ましい実施例を、添付した図面を参照して詳細に説明する。
【0028】
本発明の実施形態の一例である複合めっき被膜(薄型砥石)の概略図である
図1において、微粒子列を含む複合めっき被膜1の領域は、めっき母相はニッケルや銅などを主成分とするものであり、面直方向に一様であり、面内周方向に周期的である。微粒子を、ダイヤモンドや立方晶窒化ホウ素などの砥粒とし、
図1のように、複合めっき被膜を薄型円板状の自立膜とすれば、薄型電鋳砥石となり、円板形状の台がねの上に前記複合めっき被膜を形成すれば、薄型電着砥石となる。被加工物の切りくずの排出性や求める加工特性に応じて、砥粒列の幅、周期、本数は変化させることができる。前記砥粒列を含む複合めっき被膜1には、微粒子とは別にナノカーボン材料を含んでいても良い。
【0029】
図1において、砥粒列を含まない複合めっき被膜2は、単層カーボンナノチューブ、多層カーボンナノチューブ、グラフェン、フラーレンなどのナノカーボン材料によって機能性を付与される。特に複合めっき被膜に、高い剛性、低い摩擦係数、熱排出性などが改善あるいは付与されることにより、この複合めっき被膜を薄型砥石に用いたときに、被加工物との摩擦係数が低減され、この砥粒を含まない複合めっき被膜2の領域上を切りくずが速やかに排出される効果や、砥石を薄型化したときにも剛性が保たれる効果、加工熱の排出効果などが期待できる。また、ナノカーボン材料の複合化により、めっき母相の結晶粒は微細化し、配向性はランダム配向となることも複合めっき被膜の特性を改善する一因である。
【0030】
図2において示される実施形態の一例は、
図1で示した実施形態の複合めっき被膜を最表面に配置し、微粒子(砥粒)を均一に含む複合めっき被膜3の層を挟み込んだ構成である本発明の複合めっき被膜(薄型砥石)である。このように特性および形態の異なる複合めっき積層し、加工に寄与する層、剛性を与える層、切りくずを排出させる層、摩擦抵抗を低減させる層に役割を分担させた複合めっき被膜および薄型砥石を形成することができる。
図2では、砥粒を均一に含む中央の複合めっき被膜の層で加工能率を維持し、側面の周期的に砥粒列が存在する複合めっき被膜で切りくずの排出性、さらには加工抵抗の低減を実現する構成となっている。
【0031】
図3(a)は、
図1に概略図を示した面直方向に一様であり、面内周方向に周期的な砥粒列を有する本発明の実施形態の一例である薄型電鋳砥石の光学顕微鏡写真である。
図3(b)、
図3(c)は、それぞれ前記薄型電鋳砥石の砥粒列を含む複合めっき被膜1と砥粒列を含まない複合めっき被膜2の拡大光学顕微鏡写真である。この薄型電鋳砥石は、節線を3本有する共振周波数34kHzの屈曲振動モード超音波振動板上に形成したものである。ダイヤモンド砥粒は定在波の節部に配列し、めっき被膜に取り込まれ、節線の方向を砥粒列の配列方向1aとした砥粒列となる。ここで、ダイヤモンド砥粒は、平均粒径15μmのニッケル被覆ダイヤモンド砥粒(Element Six製)である。複合めっき被膜は、振動板上の内径40mmから外径50mmで囲まれた面を成膜領域として、前記ダイヤモンド砥粒を含むスルファミン酸ニッケルめっき浴(Ni(NH
2SO
3)
2・4H
2O:500g/L,NiCl
2・6H
2O:4g/L,H
3BO
3:33g/L)を用いて形成した。
【0032】
図4は、ニッケルを母相とする砥粒列を含まない複合めっき被膜2であり、カーボンナノチューブ(Nanocyl製MWCNT:平均直径9.5nm、平均長さ1.5μm)を含んだ複合めっき被膜2の弾性率を示したグラフである。カーボンナノチューブ複合ニッケルめっき被膜の成膜は、1g/Lのカーボンナノチューブを分散させたスルファミン酸ニッケル浴を用い、浴温度45℃で、常にホーン方式の超音波攪拌(24kHz、150W)を行いながら、DCめっき(めっき中に電流密度を変化させないめっき方法)およびPRめっき(周期的に電流密度を変化させるめっき方法)により超硬基板上に形成した。ここでは、DCめっきで形成したカーボンナノチューブ複合ニッケルめっき被膜を「低濃度CNT−Ni」、PRめっきでカーボンナノチューブ複合ニッケルめっき被膜を「高濃度CNT−Ni」とする。各めっき条件は次のとおりである。DCめっきの電流密度は、−5A/dm
2とした。PRめっきの電解条件は、周波数250mHzで正電解時間と逆電解時間の比を9:1とし、正電流密度を−1A/dm2、逆電流密度を6A/dm
2とした。ダイナミック超微小硬度計(島津製作所製DUH−200)により、荷重98mN、対稜角115°三角錐圧子、負荷・除荷速度2.65mN/sec、保持時間5secの条件で、めっき被膜表面から荷重−変位曲線を測定し、除荷率30%までの除荷曲線の傾きから弾性率を求めた。めっき被膜の炭素含有量は、XPSによって分析した。
【0033】
図4より、純ニッケルめっき被膜(Ni)の弾性率が最も低く、約150GPaであった。低濃度CNT−Niめっき被膜(カーボンナノチューブ数vol%)の弾性率は約200GPaであり、カーボンナノチューブの複合化とニッケル母相の配向性の変化により弾性率が120%程度向上していることが確認できる。高濃度CNT−Niめっき被膜(カーボンナノチューブ20vol%以上)の弾性率は、約220GPaであり、カーボンナノチューブの高濃度化により複合めっき被膜の弾性率が150%程度向上したことが確認できる。
図4の点線は、Haipin−Tsaiの式を用いてニッケルとカーボンナノチューブの弾性率を193.3GPa、1200GPaとして計算した複合めっき被膜の弾性率である。低濃度CNT−Niめっき被膜の測定結果と計算結果は良く一致している。一方、高濃度CNT−Niめっき被膜の実測値は、計算値に比べて低い値を示した。これは、カーボンナノチューブとニッケルの界面などでの滑りの影響などが考えられる。
【0034】
純Niめっき被膜、低濃度CNT−Niめっき被膜および高濃度CNT−Niめっき被膜について、協和界面科学製Triboster TS 501、φ3mmSUJ2鋼球を用いて、荷重200g、速度5mm/sec、100回の往復褶動試験を行い、摩耗深さから耐摩耗性を評価した結果を
図5に示す。通常ニッケルめっき被膜に比べて、低濃度カーボンナノチューブ複合ニッケルめっき被膜で摩耗量が約30%に減少し、高濃度カーボンナノチューブ複合めっき被膜で6%に減少することが分かった。ゆえに、カーボンナノチューブを多量に含有することにより、耐摩耗性が向上するといえる。
【0035】
同様に、純Niめっき被膜、低濃度CNT−Niめっき被膜および高濃度CNT−Niめっき被膜について、協和界面科学製Triboster TS 501、φ3mmSUJ2鋼球を用いて、荷重200g、速度5mm/sec、40回の往復摺動試験を行って求めた動的摩擦係数の測定結果を
図6に示す。通常ニッケルめっき被膜に比べて、低濃度カーボンナノチューブ複合ニッケルめっき被膜で摩擦係数が約90%に減少し、高濃度カーボンナノチューブ複合めっき被膜で10%に減少することが分かった。ゆえに、カーボンナノチューブを多量に含有することにより、摩擦係数が低減するといえる。
【0036】
以上のように、微粒子列(砥粒列)を周期的に有する複合めっき領域(層)とナノカーボン材料を複合することで高い剛性、高い耐摩耗性、低い摩擦係数を付与し、構成することにより、切りくずの排出性に優れ、加工抵抗の低い、さらに薄型化や高剛性に対応したこれまでにない高性能な薄型砥石を提供することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 微粒子列(砥粒列)を含む複合めっき被膜
1a 微粒子列(砥粒列)の配列方向
2 微粒子列(砥粒列)を含まない複合めっき被膜
3 微粒子を均一に含む複合めっき被膜(層)
4 薄型砥石外周部
5 薄型砥石内周部
6 薄型砥石側面
7 微粒子列(砥粒列)を周期的に有する複合めっき層