特許第6194621号(P6194621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194621
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】熱交換器及び吸着式ヒートポンプ
(51)【国際特許分類】
   F28D 15/02 20060101AFI20170904BHJP
   F28D 15/04 20060101ALI20170904BHJP
   F25B 17/08 20060101ALI20170904BHJP
【FI】
   F28D15/02 102H
   F28D15/02 101L
   F28D15/04 A
   F25B17/08 E
【請求項の数】15
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-88737(P2013-88737)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-211290(P2014-211290A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2015年12月11日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】岩田 隆一
(72)【発明者】
【氏名】廣田 靖樹
(72)【発明者】
【氏名】山内 崇史
(72)【発明者】
【氏名】志満津 孝
【審査官】 庭月野 恭
(56)【参考文献】
【文献】 特開平06−082116(JP,A)
【文献】 実開昭57−045113(JP,U)
【文献】 特開昭58−018095(JP,A)
【文献】 特開2000−121264(JP,A)
【文献】 特開2010−007905(JP,A)
【文献】 特開2004−028508(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0075306(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F28D 15/02,15/04
F25B 17/08,30/04,39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動流体の蒸発及び凝縮を行なう伝熱面と、
前記伝熱面に突出して設けられると共に、前記伝熱面の法線方向と交差する方向に開口する開口部を有し、前記伝熱面において凝縮し該伝熱面を移動する液状の前記作動流体を収容して一時的に保持する凹状の流体収容部を有する流体保持部材と、
前記流体保持部材に保持された作動流体との間で熱交換する熱交換流体が流通する流体流路と、
を備え、
前記作動流体が水であり、
前記熱交換流体の温度が5℃以上90℃以下であり、
前記流体保持部材は、前記開口部の内接円の直径又は前記開口部の内接楕円の短軸長さが2.48×10−3m以下であり、
前記流体保持部材は、棒材又は板材を、所定の間隔で前記伝熱面から突出する向きに前記伝熱面に配列することにより凹形に形成されている熱交換器。
【請求項2】
前記流体保持部材は、前記流体収容部に毛管現象を利用して液状の前記作動流体を保持する請求項1に記載の熱交換器。
【請求項3】
前記流体保持部材に保持される作動流体に働く毛管力が、該作動流体に働く体積力よりも大きい請求項1又は請求項2に記載の熱交換器。
【請求項4】
前記流体保持部材の前記凹状の流体収容部は、開口部の内接円の直径又は内接楕円の短軸長さが、下記式(1)で定義される毛管長κ−1以下である請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の熱交換器。
κ−1 = (σ/ρg)1/2 ・・・ 式(1)
〔式(1)において、κ−1は、毛管長(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、gは重力加速度(m/s)を表す。〕
【請求項5】
前記流体保持部材の前記凹状の流体収容部は、下記式(2)で表される関係を満たす請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の熱交換器。
Lc・σcosθ > ρaV ・・・式(2)
〔式(2)において、Lcは、開口部の周長さ(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、θは、凝縮した作動流体の、流体収容部の壁面における接触角(°)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、aは、凝縮した作動流体に働く加速度(m/s)を表し、Vは、凹状の流体収容部に保持される作動流体の体積(m)を表す。〕
【請求項6】
前記流体保持部材の前記凹状の流体収容部は、開口部の内接円又は開口部の内接楕円における、短軸長さに対する長軸長さの比率(長軸長さ/短軸長さ)が、1.0以上3.0以下である請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項7】
前記流体保持部材は、前記伝熱面に千鳥状に配列されている請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項8】
前記間隔が、下記式(1)で定義される毛管長κ−1以下である請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の熱交換器。
κ−1 = (σ/ρg)1/2 ・・・ 式(1)
〔式(1)において、κ−1は、毛管長(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、gは重力加速度(m/s)を表す。〕
【請求項9】
前記流体保持部材における前記流体収容部は、前記伝熱面の法線方向と直交する方向に開口しており、前記流体保持部材は、前記流体収容部に伝熱面を重力方向に流下する液状の前記作動流体を収容する請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項10】
壁面の少なくとも一部が前記伝熱面である蒸発凝縮室を備えた請求項1〜請求項のいずれか1項に記載の熱交換器。
【請求項11】
前記蒸発凝縮室と、前記流体流路と、が交互に配置されている請求項1に記載の熱交換器。
【請求項12】
壁面の少なくとも一部が前記伝熱面である前記蒸発凝縮室と、前記流体流路と、が交互に配置されており、
前記蒸発凝縮室は、蒸発凝縮室及び流体流路が交互に配置される方向において互いに対向する2つの伝熱面を有し、前記流体保持部材は、前記2つの伝熱面の少なくとも一方と接して形成された請求項1に記載の熱交換器。
【請求項13】
前記流体保持部材は前記2つの伝熱面の一方に接して形成され、かつ、前記流体保持部材が接していない他方の伝熱面と前記流体保持部材との距離が下記式(1)で定義される毛管長κ−1以下である請求項1に記載の熱交換器。
κ−1 = (σ/ρg)1/2 ・・・ 式(1)
〔式(1)において、κ−1は、毛管長(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、gは重力加速度(m/s)を表す。〕
【請求項14】
請求項1〜請求項1のいずれか1項に記載の熱交換器と、
作動流体の吸着及び脱着を行なう吸着材を含む吸着器と、
を備え、前記熱交換器と前記吸着器との間で作動流体を授受する吸着式ヒートポンプ。
【請求項15】
前記熱交換器の前記流体保持部材が保持できる最大量の液体の質量Aと、前記吸着器の前記吸着材が吸着できる最大量の作動流体を凝縮させたときの質量Bと、が質量A≧質量Bの関係を満たす請求項1に記載の吸着式ヒートポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器及び吸着式ヒートポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な吸着式ヒートポンプの一例として、熱交換流体が流通する管に液体状態の作動流体を吹きかけて蒸発させる蒸発器、及び、熱交換流体が流通する管で気体状態の作動流体を凝縮させて流下させる凝縮器を備えた吸着式冷凍機が知られている(例えば、非特許文献1参照)。また、蒸発器及び凝縮器の機能を兼ね備えた蒸発凝縮器として、一つの容器内で作動流体の蒸発及び凝縮を行なう蒸発凝縮器も知られている(例えば、特許文献1〜2参照)。
【0003】
また、気液分離室の一部に液相出口管に向かう溝付き部を設け、気液分離室で気液二相流を気相と液相とに分離し、液相を上記溝付き部によって液相出口管に導くように構成された気液分離装置が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−228951号公報
【特許文献2】特開2012−163264号公報
【特許文献3】特開2006−170589号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】「ユニオン産業の吸着式冷凍機 吸着式冷凍機の原理」、[online]、ユニオン産業株式会社、[平成24年11月22日検索]、インターネット<URL:http://www.union-reitouki.com/chiller/principle.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般に、一つの容器内で作動流体の蒸発及び凝縮を行なう蒸発凝縮器(熱交換器)は、作動流体を凝縮させるときは、凝縮した作動流体を重力の作用で落下させて容器内の下部に貯留し、作動流体を蒸発させるときには、容器の下部に貯留された作動流体を蒸発させる構成となっている。
【0007】
しかしながら、このような構成では、作動流体が伝熱面で凝縮した後、凝縮により液化した作動流体はこの伝熱面を伝ってその自重により垂れ落ちるため、作動流体を蒸発させるための有効伝熱面積を大きく保持しておくことができない。すなわち、伝熱面において、作動流体に対して凝縮させるための熱伝達を行なう領域は大きいが、凝縮された作動流体に対してこれを蒸発させるための熱伝達を行なう領域は、凝縮時より小さくなる。そのため、作動流体を蒸発させる際の伝熱面積のロスが大きく、蒸発効率が低いという課題がある。
したがって、凝縮した液を再び同一の熱交換器で蒸発させることは困難となる。また、蒸発器においても、貯留されている液の全量に対して、熱量を制御しながら必要量を蒸発気化させることは困難であり、例えばポンプで汲み上げて再度蒸発器に噴きかける等の操作が不可欠となる。
【0008】
また、上記従来の気液分離装置では、気液分離室の一部に溝付き部が設けられてはいるものの、かかる溝付き部は液相の流れを方向付けして排出するための手段であり、壁面に液体を保持し、留めておく機能は有していない。
【0009】
本発明は、上記に鑑みなされたものであり、作動流体との間の熱伝達性が高く、姿勢によらず作動流体が保持される液保持性をそなえた熱交換器、及び熱の利用効率に優れた吸着式ヒートポンプを提供することを目的とし、該目的を達成することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明の第1の態様に係る熱交換器は、
作動流体の蒸発及び凝縮を行なう伝熱面と、伝熱面に突出して設けられ、伝熱面の法線方向と交差する方向に開口する開口部を有し、伝熱面において凝縮し該伝熱面を移動する液状の作動流体を収容して一時的に保持する凹状の流体収容部を有する流体保持部材と、流体保持部に保持された作動流体との間で熱交換する熱交換流体が流通する流体流路と、を設け、作動流体が水であり、熱交換流体の温度が5℃以上90℃以下であり、流体保持部材は、開口部の内接円の直径又は開口部の内接楕円の短軸長さが2.48×10−3m以下であるとして構成されたものである。
【0011】
温度変化させる伝熱面において、雰囲気中の作動流体を凝縮して液化し、逆に凝縮した液体の作動流体を蒸発させることにより熱を利用する熱交換系において、従来から提案されている技術では、伝熱面で作動流体を凝縮させる際の伝熱面の面積に対する凝縮効率は確保されるものの、凝縮時に生成した液体の作動流体は、その自重で流下し、伝熱面に均一的に存在し得ないため、作動流体を蒸発させる際の伝熱面の面積に対する蒸発効率は、著しく低いのが通例であった。
このような事情に鑑み、本発明の第1の態様においては、伝熱面の法線方向と交差する方向に開口する開口部を有し、伝熱面において凝縮し該伝熱面を(例えば水平方向に対して重力方向側に)移動する液状の作動流体を前記開口部を通じて収容し一時的に保持する凹状の流体収容部(例えば伝熱面の法線方向と直交する方向が反重力方向である場合に該反重力方向に開口する開口部が設けられた凹形の流体収容部など)を有する流体保持部材を、伝熱面に配設することで、作動流体を凝縮させた際に体積力によって作動流体が伝熱面から脱離する現象、つまり伝熱面に作動流体が均一的に存在しない状態となる現象が抑制される。したがって、凝縮後の作動流体に有効に作用する伝熱面が拡大することになり、凝縮後に蒸発させる場合にも、伝熱面に均一的に作動流体が存在した状態が確保され、作動流体との間の熱交換効率が高められる。これにより、作動流体の凝縮と蒸発とを切り替える際の顕熱ロスが低減され、凝縮時又は蒸発時のいずれに関わらず、熱の有効利用が図られる。
また、凝縮後の液体の作動流体は、所定の凹形に形成された流体収容部に収容されることで、熱交換器の姿勢に関わらず、作動流体は安定的に保持されるので、熱交換効率が安定化し、顕熱ロスの低減効果が安定的に得られる。
したがって、第1の態様に係る熱交換器は、熱エネルギーの利用効率に優れている。
【0012】
第1の態様に係る熱交換器を構成する流体保持部材の流体収容部は、具体的な例として、伝熱面の法線方向と直交する方向(例えば反重力方向)に開口する開口部を有し、伝熱面を重力方向に流下する液状の作動流体を前記開口部を通じて収容する凹形の流体収容部を備えた構成にすることができる。
【0013】
ここで、「体積力」としては、作動流体に働く重力や作動流体に働くことがある慣性力(例えば遠心力)が挙げられる。
また、「体積力によって伝熱面の少なくとも一部から作動流体が脱離する現象」の概念には、重力によって伝熱面の少なくとも一部から作動流体が垂れ落ちる現象が含まれる。
【0014】
第1の態様に係る熱交換器は、壁面の少なくとも一部が伝熱面である蒸発凝縮室を備えた態様が好ましい。この態様では、有効伝熱面積を大きく確保しやすく、作動流体の蒸発及び凝縮の効率がより向上する。
【0015】
第1の態様に係る熱交換器が蒸発凝縮室を備えている場合、この蒸発凝縮室と熱交換流体が流通する流体流路とが交互に配置されていることが好ましい。蒸発凝縮室が、熱交換可能な流体流路間に配置されていることで、作動流体と熱交換流体との熱交換効率がより高められる。結果、作動流体の蒸発及び凝縮の効率がより向上する。
【0016】
この場合、蒸発凝縮室は、蒸発凝縮室及び流体流路がそれぞれ複数配置されている方向において互いに対向する2つの伝熱面を有し、流体保持部材が、2つの伝熱面の一方又は両方と接しているか、あるいは2つの伝熱面の一方又は両方との距離が、下記式(1)で定義される毛管長κ−1以下の範囲にあることが好ましい。
流体保持部材は、伝熱面を流れる液体状態の作動流体を引き込んで保持するものであるため、作動流体が液化される伝熱面と接していることが、作動流体の保持性の点で好ましく、流体保持部材が両方の伝熱面間を橋渡すように接して設けられている場合がより効果的である。但し、液化された作動流体を引き込んで保持できればよいため、流体保持部材が必ずしも伝熱面に接していなくてもよく、その場合には、下記式(1)で定義される毛管長以下の位置に流体保持部材を配置することで熱交換効率を高めることができる。
【0017】
κ−1 = (σ/ρg)1/2 ・・・ 式(1)
式(1)において、κ−1は、毛管長(m)を表し、σは、前記凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、ρは、前記凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、gは重力加速度(m/s)を表す。
【0018】
ここで、開口部の内接円の直径又は内接楕円の短軸長さは、開口部が偶数角形状(例えば、矩形状又は六角形状)である場合には、開口部の対辺間距離の最小値に相当する(以下、同様である)。
また、開口部の内接円の直径又は内接楕円の短軸長さは、開口部が長尺形状である場合には、この長尺形状の幅方向長さに相当する(以下、同様である)。
さらに、開口部の内接円の直径又は内接楕円の短軸長さは、開口部が円形状である場合は円の直径を示し、開口部が楕円形状である場合は楕円の短軸長さを示す(以下、同様である)。
また、重力加速度gは9.8(m/s)とする(以下、同様である)。
【0019】
また、第1の態様に係る熱交換器では、流体保持部材は、流体収容部に毛管現象を利用して作動流体を保持する態様に構成することができる。この態様では、作動流体の保持がより効果的に行なえる。
【0020】
「毛管現象」とは、液体状態の作動流体に対し、流体保持部材に引きつける力が働く現象をいう。ここでの「毛管現象」の原理は、一般的な毛管現象(液体中に毛管を立てたときに、毛管内の液面が毛管外の液面よりも上がる現象)の原理と同様である。
【0021】
第1の態様に係る熱交換器において、流体保持部材の流体収容部に保持された作動流体に働く毛管力が、作動流体に働く体積力よりも大きいことが好ましい。これにより、体積力によって作動流体が伝熱面から離脱する現象、例えば重力によって作動流体が伝熱面から垂れ落ちて伝熱面に留まらない現象がより抑制され、伝熱面における作動流体の保持力を高めることができる。
【0022】
流体保持部材の流体収容部に保持された作動流体に働く毛管力が、作動流体に働く体積力よりも大きい態様の好ましい例として、流体保持部材の凹状の流体収容部が、下記式(2)で表される関係を満たしていることが好ましい。
Lc・σcosθ > ρaV ・・・式(2)
式(2)において、Lcは、開口部の周長さ(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、θは、凝縮した作動流体の、流体収容部の壁面における接触角(°)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、aは、凝縮した作動流体に働く加速度(m/s)を表し、Vは、凹状の流体収容部に保持される作動流体の体積(m)を表す。
【0023】
式(2)において、左辺(Lc・σcosθ)は作動流体に働く毛管力を示し、右辺(ρaV)は作動流体に働く体積力を示している。
σ、θ、ρ、及びaが固定された条件下では、式(2)は、実質的にLcとVとの関係、ひいては凹部の周長さと凹部の深さとの関係を示している。
aで表される加速度としては、重力加速度g、遠心加速度が挙げられ、重力加速度gが好ましい。
【0024】
また、流体保持部材に有する凹状の流体収容部は、開口部の内接円の直径又は内接楕円の短軸長さが、上記の式(1)で定義される毛管長κ−1以下である凹形を有していることが好ましい。これにより、毛管現象をより効果的に利用することができ、伝熱面での作動流体の保持性に優れる。
式(1)で定義される毛管長κ−1については、既述の通りである。
【0025】
第1の態様に係る熱交換器における作動流体としては、特に制限はないが、水、アンモニア、メタノール、及びエタノールからなる群から選択される流体を用いた態様が好ましい。これらは、第1の態様に係る熱交換器を吸着器と組み合わせて吸着式ヒートポンプを構成した場合に、吸着器内の吸着材(例えば、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、粘土鉱物等)への吸脱着特性に優れる点で好ましい。
【0026】
第1の態様に係る熱交換器においては、作動流体が水であり、熱交換流体の温度が5℃以上90℃以下であり、流体保持部材の凹状の流体収容部が、開口部の内接円の直径又は内接楕円の短軸長さが2.48×10−3m以下である態様が好ましい。
開口部の内接円の直径又は内接楕円の短軸長さが毛管長κ−1よりも小さくなり、流体保持部材に保持された作動流体(水)に働く毛管力が作動流体(水)に働く重力よりも大きくなるので、毛管現象をより効果的に利用することができ、凹状の流体保持部材での作動流体の保持性が向上する。
【0027】
第1の態様における流体保持部材の凹状の流体収容部は、開口部の内接円又は内接楕円における、短軸長さに対する長軸長さの比率(長軸長さ/短軸長さ)が、1.0以上3.0以下である態様が好ましい。
長軸長さ/短軸長さの比率が上記範囲であることで、この比率が3.0を超える場合に比べ、流体収容部における壁面(底面及び側壁面)と熱交換流体との間での熱伝達効率が向上するので、作動流体の蒸発及び凝縮がより効率良く行なわれる。例えば、作動流体を蒸発させる際には、作動流体を取り囲む凹状の流体収容部の壁面(底面及び側壁面)全体を通じてこの作動流体を効率良く加熱するので、作動流体をより効率良く蒸発させることができる。
【0028】
第1の態様における流体保持部材を構成する凹状の流体収容部は、伝熱面に千鳥状に配列されていることが好ましい。流体収容部は、伝熱面を流れる液体状態の作動流体を捕えるものであるため、伝熱面に千鳥状に配列することで、例えば重力方向に流下する作動流体が流体収容部に接触しないまま落下するのを防ぎ、作動流体の保持性を効果的に高めることができる。
【0029】
また、流体保持部材は、棒材又は板材を用い、これらを所定の間隔をあけて伝熱面から突出する向きに伝熱面に配列することにより凹形に形成されることで、凹状の流体収容部が形成されている態様が好ましい。この場合、棒材等の配置間隙が、毛管現象を生じさせる「毛管」に相当する。
流体収容部が、連続面を有する材料で形成されている場合、その材料の温度変化に伴なう温度変化分の熱量ロスが発生する。そのため、配設しようとする流体収容部の大きさよりも小サイズの棒材や板材を用い、これらを所定の間隔をもって配列することによって所望とする形状を作製すると、棒材等の間の隙間分に相当する材料に由来する熱量ロスを減じることができる。これにより、熱交換器としての熱エネルギーの利用効率をより高めることができる。
この場合、棒材等の配置間隔は、既述のように、液体状態の作動流体を保持できればよいため、下記式(1)で定義される毛管長κ−1以下の範囲で設けることが可能である。式(1)で定義される毛管長κ−1については、既述の通りである。
κ−1 = (σ/ρg)1/2 ・・・ 式(1)
【0030】
次に、本発明の第2の態様に係る吸着式ヒートポンプは、
既述の第1の態様に係る熱交換器と、作動流体の吸着及び脱着を行なう吸着材を含む吸着器と、を設け、熱交換器と吸着器との間で作動流体を授受する構成としたものである。
【0031】
第2の態様に係る吸着式ヒートポンプは、作動流体を効率良く蒸発させることができる第1の態様に係る熱交換器を備えるため、熱の利用効率に優れる。
【0032】
また、第2の態様に係る吸着式ヒートポンプにおいて、熱交換器の流体保持部材が保持できる最大量の液体の質量Aと、吸着器の吸着材が吸着できる最大量の作動流体を凝縮させたときの質量を質量Bとが、質量A≧質量Bの関係を満たしていることが好ましい。
前記関係を満たしていることで、吸着器における吸着材から脱着した作動流体の全て(全質量)を、熱交換器における流体保持部材で保持することができる。これにより、熱交換器で作動流体を蒸発させる際の効率がより向上し、吸着式ヒートポンプにおける熱の利用効率がより向上する。
【発明の効果】
【0033】
本発明によれば、作動流体との間の熱伝達性が高く、姿勢によらず作動流体が保持される液保持性をそなえた熱交換器が提供される。また、
本発明によれば、熱の利用効率に優れた吸着式ヒートポンプが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】本発明の第1実施形態に係る熱交換器を示す概略斜視図である。
図2図1のA−A線断面図である。
図3図1のB−B線断面における伝熱面に流体保持部材が千鳥配置された配置例を示す概略図である。
図4】(a)は開口部が半円形状の流体保持部材の平面図であり、(b)は開口部が正三角形状の流体保持部材の平面図であり、(c)は開口部が台形状の流体保持部材の平面図であり、(d)は開口部が台形状の他の流体保持部材の平面図である。
図5】伝熱面に流体保持部材がマトリックス状に配置された配置例を示す概略図である。
図6】伝熱面に流体保持部材が配置密度を変化させて配置された配置例を示す概略図である。
図7】伝熱面に棒状突起材(ピン)を配置して形成された半円形状の流体保持部材が千鳥配置された配置例を示す概略図である。
図8】本発明の第5実施形態の吸着式ヒートポンプの構成を示す概略断面図である。
図9】吸着器に備えられる吸着材の具体的態様を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
以下、図面を参照して、本発明の熱交換器の実施形態を具体的に説明すると共に、該説明と併せて本発明の吸着式ヒートポンプの実施形態について説明する。但し、本発明においては、以下に示す実施形態に制限されるものではない。
【0036】
(第1実施形態)
本発明の熱交換器の第1実施形態を図1図4を参照して説明する。本実施形態は、複数の蒸発凝縮室と熱交換流体が流通する複数の流体流路とを交互に配置し、作動流体として水を用いて構成したものである。
【0037】
本実施形態の熱交換器10は、図1に示すように、作動流体F1の蒸発及び凝縮を行なう複数の蒸発凝縮室20と、熱交換流体F2が流通する複数の流体流路30と、を備えている。ここで、蒸発凝縮室20は、蒸発した作動流体F1(蒸気)が流通する蒸気流路としても機能する。
【0038】
蒸発凝縮室20及び流体流路30の各々は、図1に示すように、熱交換器10の筐体内に交互に配置され、蒸発凝縮室20と流体流路30とは筐体の壁で隔てられて両者間の物質の移動はないが、隣り合う蒸発凝縮室と流体流路とは互いに熱的に接続されている。つまり、蒸発凝縮室20の伝熱面は、筐体の壁を介して流体流路30を流通する熱交換流体との間で熱交換できるようになっている。具体的には、流体流路30の一端から供給され他端から排出される熱交換流体F2と、蒸発凝縮室20内の作動流体F1と、の間で熱交換が行なわれ、熱交換流体と熱交換した伝熱面において、作動流体は凝縮、蒸発する。
【0039】
蒸発凝縮室20には、図2のように、蒸発凝縮室を挟むように配置されている流体流路30とそれぞれ隣り合う、互いに対向する2つの面R(交互に配置された蒸発凝縮室20及び流体流路30の配置方向において対向する2面)が、伝熱面として機能する。
【0040】
熱交換器10は、蒸発凝縮室20と流体流路30とが交互に配置されていることにより、熱交換流体F2と作動流体F1との熱交換を効率よく行えるようになっている。
【0041】
熱交換器10では、蒸発凝縮室20は、一端が扁平矩形状の開口端である四角柱状空間とされている。一方、流体流路30は、両端が扁平矩形状の開口端である四角柱状空間とされている。そして熱交換器10は、蒸発凝縮室20の開口方向(作動流体F1の流れ方向)と流体流路30の開口方向(熱交換流体F2の流れ方向)とが側面視で直交する、直交流型の熱交換器として構成されている。
直交流型の熱交換器の構成としては、例えば、特開2012−172902号公報や特開2012−163264公報に記載の熱交換型反応器の構成を参照することができる。
【0042】
また、蒸発凝縮室及び流路の数は、図1に示す数に限定されるものではなく、蒸発凝縮室内に保持される作動流体F1の体積や、熱交換器10に入出力される熱量等を考慮して適宜設定される。
【0043】
また、図1では、蒸発凝縮室20間に一つの流体流路30が配置された構成となっているが、蒸発凝縮室20間に二つ以上の流体流路30が配置された構成であってもよい。
【0044】
図2及び図3に示すように、蒸発凝縮室20の、蒸発凝縮室20及び流体流路30の交互に配置されている方向において互いに向き合う2つの壁面である伝熱面Rには、それぞれ複数の流体保持部材24が配設されている。
【0045】
本実施形態では、流体保持部材24は、図2に示すように、互いに向き合う2つの伝熱面Rの間を橋渡すように両方の伝熱面に接触させて設けられている。幅長Wの流体保持部材24の両端が2つの伝熱面Rとそれぞれ接していることで、2つの伝熱面Rでそれぞれ凝縮して液化し、各面を重力方向に流下する液体状態の作動流体を捕えることができるようになっている。
【0046】
また、流体保持部材24は、図3に示すように、作動流体F1の流通方向のうち作動流体F1が蒸発凝縮室20から排出される方向(本実施形態では反重力方向(図3の上方向))に開口部が設けられた、長さL、高さ(深さ)H、及び幅長Wの四角柱状空間を有する凹形の液体収容部26を有している。この液体収容部26により、伝熱面で凝集し液化した作動流体F1が、該伝熱面を重力方向に流下する途中で捕えられ、毛管現象により、凹形の液体収容部26に液体状態で保持される。
すなわち、流体保持部材24では、毛管力が伝熱面に対して平行な方向に働く。これは、伝熱面から壁内部方向に凹部を形成した態様のように、毛管力が伝熱面に垂直な方向に働く態様とは異なる。
【0047】
本実施形態の流体保持部材24の開口部は、長さL、幅長Wの矩形状になっている。流体保持部材24の開口部の形状には、特に制限はなく、例えば、多角形状、円形状、楕円形状、長尺形状等が挙げられる。
【0048】
また、流体保持部材24は、図3に示すように、千鳥状に伝熱面の二次元方向に配列されている。この配列により、伝熱面を流下する作動流体F1が流体保持部材24と接触することなく、落下するのを回避することができる。
【0049】
なお、流体保持部材24の配置数は、図3に示される数に限定されるものではなく、蒸発凝縮室内に保持される作動流体F1の体積や、熱交換器10に入出力される熱量等を考慮して適宜設定される。
【0050】
流体保持部材24の材質は、筐体12、特に伝熱面と同様に熱伝導性の高い金属等の材質であってもよい。本実施形態のように、作動流体の凝縮、蒸発により熱利用を行なう系では、温度変化の大きい材質を用いると、温度変化分の熱量ロスが発生し、熱エネルギーの利用効率を損なうことから、流体保持部材は、熱容量の小さい材質で形成されていることが好ましい。熱容量の小さい材質としては、例えば、耐熱性樹脂等の樹脂材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアセタール(POM)、MCナイロン(登録商標)(クオドラントポリペンコジャパン社(日本ポリペンコ社)製)等)などを挙げることができる。
【0051】
また、熱交換器10における作動流体F1は、熱交換器10内で、蒸発しかつ凝縮する媒体である。作動流体F1としては、蒸発凝縮器において通常用いられる作動流体を用いることができ、例えば、水、アンモニア、炭素数1〜4のアルコール等が挙げられる。作動流体F1は、単一物質を用いてもよいし、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0052】
また、熱交換器10における熱交換流体F2は、伝熱面を通じて作動流体F1を加熱して蒸発させ、かつ伝熱面を通じて作動流体F1を冷却して凝縮させるための流体である。
熱交換流体F2としては、エタノール等のアルコール、水、油類、これらの混合物等、熱交換流体として通常用いられる流体(好ましくは液体)を用いることができる。熱交換流体F2としては、単一物質を用いてもよいし、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0053】
熱交換流体F2の温度(すなわち熱交換器10の作動温度)には、特に制限はないが、5℃以上90℃以下が好ましく、5℃以上80℃以下がより好ましく、5℃以上70℃以下が更に好ましく、5℃以上50℃以下が特に好ましい。
【0054】
熱交換器10を構成する筐体12(伝熱面を含む)の材質としては、金属(例えば、ステンレス鋼、アルミニウム、アルミニウム合金、等)等の、熱伝導性が高く、かつ、作動流体F1及び熱交換流体F2に対して耐食性を有する材質が好適である。
【0055】
なお、流体保持部材24の壁面(側壁面及び底面)には、公知の方法により表面処理(例えば親水化処理)が施されていてもよい。
【0056】
次に、熱交換器10の動作(蒸発及び凝縮)について説明する。
熱交換器10では、作動流体F1の凝縮を行なう際には、流体流路30に供給された熱交換流体F2の熱に基づき、伝熱面及び伝熱面の近傍に存在する気体状態の作動流体F1が冷却されて凝縮する。凝縮した作動流体F1は、流体保持部材24内に液体状態で保持される。
一方、作動流体F1の蒸発を行なう際には、流体流路30に供給された熱交換流体F2の熱に基づき、流体保持部材24内に保持されている液体状態の作動流体F1が加熱されて蒸発する。
【0057】
熱交換器10では、作動流体F1の蒸発及び凝縮を行なうための伝熱面に、凝縮した作動流体F1を液体状態で保持する複数の流体保持部材24を設けたことにより、作動流体F1を凝縮させる際にはこれら複数の流体保持部材24で作動流体F1を保持でき、作動流体F1を蒸発させる際には、これら複数の流体保持部材24に保持された状態のまま液体状態の作動流体F1を蒸発させることができる。すなわち、熱交換器10では、作動流体F1を蒸発させるための有効伝熱面積が、従来の蒸発凝縮器(具体的には、作動流体の凝縮後、重力の作用を受けて伝熱面から液体状態の作動流体が流下してしまう態様)に比べ、広く確保されている。
これにより、本実施形態の熱交換器10では、作動流体F1を蒸発させる際の熱交換効率に優れており、凝縮から蒸発に切り替える際に生じやすい顕熱ロスを大幅に低減することができる。
【0058】
また、伝熱面に流体保持部材24を設けて作動流体を伝熱面に保持することで、作動流体F1を凝縮させた際、伝熱面の面方向に依らず、液体状態の作動流体F1を伝熱面に均一的に保持することが可能になる。すなわち、熱交換器の姿勢に依らず、安定的な熱交換効率を保持することができ、熱エネルギーの利用効率の安定化に寄与する。
【0059】
熱交換器10の姿勢の一例としては、本実施形態のように、作動流体F1の流通方向(例えば蒸発凝縮室20外から蒸発凝縮室20内に向かう方向)を重力方向とする例が挙げられる。
【0060】
また、熱交換器10では、容器内の下部に貯留された作動流体(液体)全体を加熱してその液面(重力方向についての上面)のみから作動流体の蒸気を得る構成の従来の蒸発凝縮器と比較して、複数の流体保持部材24に保持された作動流体を加熱して各流体保持部材24から作動流体の蒸気を得ることができるので、作動流体F1(液体)の加熱及び蒸発の効率に優れる。
【0061】
また、熱交換器10では、作動流体F1を蒸発させる際の伝熱面積のロスを低減できるので、伝熱面全体の面積を小さくすることができ、熱交換器を小型化することができる。このため、熱交換器の熱容量を低減させることができる。熱交換器の熱容量を低減させることにより、蒸発・凝縮の動作切り替えに伴う顕熱ロスを低減できる。
【0062】
また、流体保持部材24の開口部の幅方向長さW(より好ましくは、幅方向長さW及び長手方向長さLの両方。以下同様。)は、下記式(1)で定義される毛管長κ−1以下であることが好ましい。これにより、流体保持部材24で作動流体F1をより効果的に保持できる。
なお、流体保持部材24の開口部の幅方向長さ(幅長)Wは、流体保持部材24の開口部の内接楕円の短軸長さに相当する。
【0063】
κ−1 = (σ/ρg)1/2 ・・・ 式(1)
式(1)において、κ−1は、毛管長(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、gは重力加速度(m/s)を表す。
【0064】
例えば、作動流体F1が、水、アンモニア、メタノール、又はエタノールである場合、σ、ρ及びκ−1は、それぞれ下記表1〜表4に示す通りである。表1〜表4において、「温度」は、液体状態の作動流体の温度を示している。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
【表3】
【0068】
【表4】
【0069】
上記の表1〜表4より、熱交換器10の作動温度(すなわち熱交換流体F2の温度)が5℃以上90℃以下(好ましくは5℃以上80℃以下、より好ましくは5℃以上70℃以下、特に好ましくは5℃以上50℃以下)である場合であって、作動流体F1が水、アンモニア、メタノール、又はエタノールであるときには、流体保持部材24の開口部の幅方向長さWを毛管長κ−1以下とすることが容易であることがわかる。例えば、加工性に優れた幅方向長さWの範囲内(例えば、幅方向長さWが0.01×10−3m以上の範囲内)に、この幅方向長さWを毛管長κ−1以下にできる範囲が存在することがわかる。
【0070】
幅方向長さWの上限値の好ましい範囲は、表1〜表4に示すように、作動流体F1の種類によって異なる。
例えば、熱交換流体F2の温度(熱交換器10の作動温度)が5℃以上90℃以下である場合であって、作動流体F1が水であるときは、流体保持部材24の開口部の幅方向長さWは、2.48×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上2.48×10−3m以下)であることが好ましい(表1参照)。また、熱交換流体F2の温度が5℃以上80℃以下である場合であって、第2流体F2が水であるときは、幅方向長さWは、2.55×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上2.55×10−3m以下)であることが好ましい(表1参照)。
また、熱交換流体F2の温度が5℃以上90℃以下である場合であって、作動流体F1がアンモニアであるときは、流体保持部材24の開口部の幅方向長さWは、0.96×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上0.96×10−3m以下)であることが好ましい(表2参照)。また、熱交換流体F2の温度が5℃以上80℃以下である場合であって、第2流体F2がアンモニアであるときは、幅方向長さWは、1.26×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上1.26×10−3m以下)であることが好ましい(表2参照)。
また、熱交換流体F2の温度が5℃以上90℃以下である場合であって、作動流体F1がメタノールであるときは、流体保持部材24の開口部の幅方向長さWは、1.47×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上1.47×10−3m以下)であることが好ましい(表3参照)。また、熱交換流体F2の温度が5℃以上80℃以下である場合であって、第2流体F2がメタノールであるときは、幅方向長さWは、1.53×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上1.53×10−3m以下)であることが好ましい(表3参照)。
また、熱交換流体F2の温度が5℃以上50℃以下である場合であって、作動流体F1がエタノールであるときは、流体保持部材24の開口部の幅方向長さWは、1.46×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上1.46×10−3m以下)であることが好ましい(表4参照)。また、熱交換流体F2の温度が5℃以上80℃以下である場合であって、第2流体F2がエタノールであるときは、幅方向長さWは、1.53×10−3m以下(より好ましくは0.01×10−3m以上1.53×10−3m以下)であることが好ましい(表4参照)。
【0071】
また、熱交換器10では、流体保持部材24に保持された作動流体F1に働く毛管力は、この作動流体F1に働く体積力よりも大きいことが好ましい。これにより、体積力によって伝熱面の少なくとも一部から作動流体F1が脱離する現象がより抑制されるので、伝熱面で作動流体F1をより効果的に保持できる。
なお、ここでいう体積力としては、重力以外にも、慣性力(例えば遠心力)等の、伝熱面の少なくとも一部から作動流体F1を脱離させる方向の力も挙げられる。
【0072】
より具体的には、熱交換器10では、下記式(2)で表される関係が満たされることが好ましい。
Lc・σcosθ > ρaV ・・・式(2)
式(2)において、Lcは、前記凹部の周長さ(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、θは、凝縮した作動流体と前記凹部の壁面との接触角(°)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、aは、凝縮した作動流体に働く加速度(m/s)を表し、Vは、前記凹部に保持される作動流体の体積(m)を表す。
【0073】
前記式(2)において、左辺(Lc・σcosθ)は、流体保持部材24に保持された作動流体F1に働く作動流体に働く毛管力を示し、右辺(ρaV)は、流体保持部材24に保持された作動流体F1に働く体積力を示している。
ここでいう体積力が重力である場合、aで表される加速度は、重力加速度gである。
【0074】
前記式(2)において、作動流体F1の種類が特定されれば、σ及びρが特定される。
また、作動流体F1と、凹部の側壁の材質及び凹部の側壁の表面性状と、が特定されれば、θが特定される。
また、熱交換器10に慣性力が加わらない条件下では、aは重力加速度gと定まる。
以上の点を考慮すると、σ、θ、ρ、及びaが特定された条件下では、式(2)は、実質的にはLcとVとの関係、即ち流体保持部材24の周長さ(2×幅方向長さW+2×長手方向長さL)と流体保持部材24の深さDとの関係を示している。
【0075】
本実施形態の熱交換器10では、流体保持部材24の開口部の形状を矩形状としたが、開口部の形状は矩形状以外の形状であってもよい。矩形状以外の形状としては、矩形状以外の四角形状(平行四辺形、台形などの形状)を含む多角形状、半円形状、三角形状、半楕円形状、長尺形状等が挙げられる。具体的には、図4に示すように、(a)で表される半円形状、(b)で表される三角形状、(c)又は(d)で表される台形状に形成されてもよい。
開口部の形状としては、伝熱面に配列する際の配列密度(すなわち伝熱面の単位面積当たりの液保持量)や加工性等の観点から、矩形状が好ましい。
【0076】
流体保持部材24の開口部の内接円及び内接楕円における、短軸長さ(本実施形態では幅長W)に対する長軸長さ(本実施形態では長さL)び比率〔長軸長さ(L)/短軸長さ(W)〕は、1.0以上3.0以下であることが好ましい。これにより、作動流体F1を取り囲む流体保持部材24の壁面全体(底面及び4つの側壁面)を通じてこの作動流体F1を効率よく加熱し、蒸発させることができる。
【0077】
本実施形態に係る熱交換器10は、上述した構成のほか、例えば、流体流路30の両端側に熱交換流体F2用の配管等との接続部が設けられていてもよい。また、蒸発凝縮室20の開口部側には、他の熱交換器や作動流体F1の蒸気管等との接続部(例えば、後述の接続部16)が設けられていてもよい。また、これらの接続部は、筐体12と一体となっていてもよい。
【0078】
(第2実施形態)
本発明の熱交換器の第2実施形態について図5を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態において伝熱面に配列した流体保持部材の配列形態を他の形態に変更した変形例を示すものである。なお、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0079】
本実施形態の熱交換器10を構成する蒸発凝縮室20の伝熱面には、図5に示すように、流体保持部材24がマトリックス状に配列されている。このように配列されることにより、伝熱面における複数の流体保持部材24の配列密度が高くなっており、伝熱面の単位面積当たりに保持できる液体状態の作動流体F1の量(伝熱面における単位面積当たりの液保持量)が高くなっている。
【0080】
なお、流体保持部材24の配列数は、図5に示す数に限定されるものではなく、蒸発凝縮室内に保持される作動流体F1の体積や、熱交換器10に入出力される熱量等を考慮して適宜設定される。
【0081】
(第3実施形態)
本発明の熱交換器の第3実施形態について図6を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態において伝熱面に配列した流体保持部材の配列形態を他の形態に変更した変形例を示すものである。なお、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0082】
本実施形態の熱交換器10を構成する蒸発凝縮室20の伝熱面には、図6に示すように、作動流体F1が蒸発凝縮室20外に排出される方向(本実施形態の反重力方向)に配列密度が小さくなるように流体保持部材24が配列されている。
【0083】
作動流体を蒸発させた場合、蒸発凝縮室20の開口部側に蒸発気化した作動流体が流れ、開口部近傍ほど、気体状態の作動流体が流通する流量が多くなる。そのため、蒸発凝縮室20の反重力方向に向かって流体保持部材24の配列数を減じることにより、室内の圧力損失をより低減することができる。
【0084】
(第4実施形態)
本発明の熱交換器の第4実施形態について図7を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態において伝熱面に配列した流体保持部材の形成態様を、棒材を配列した不連続面で形成した形態に変更した変形例を示すものである。なお、第1実施形態と同様の構成要素には同一の参照符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0085】
本実施形態の熱交換器10を構成する蒸発凝縮室20の伝熱面には、図7に示すように、棒状突起材(ピン)32を所定の間隔で配置することで、流体保持部材34の形状を所望とする半円形状としている。ここで、配列される棒状突起材32の間隔は、下記式(1)で定義される毛管長κ−1以下とされている。この範囲に間隔が調整されていることで、不連続面で構成されている流体保持部材34によっても、作動流体F1を効果的に保持することができる。
また、棒状突起材を用いることで、流体保持部材は隙間のある形状に構成されるので、隙間分に相当する材料起因の顕熱ロスが抑制され、軽量化も図れる。
したがって、作製しようとする流体保持部材より小サイズの棒状材料等の突起材を用いて隙間をあけて所望形状に成形することは、熱エネルギーの利用効率をより高めるのに有効である。
【0086】
κ−1 = (σ/ρg)1/2 ・・・ 式(1)
式(1)において、κ−1は、毛管長(m)を表し、σは、凝縮した作動流体の表面張力係数(N/m)を表し、ρは、凝縮した作動流体の密度(kg/m)を表し、gは重力加速度(m/s)を表す。
式(1)の詳細については、第1実施形態において既述した通りである。
【0087】
棒状突起材32の材質は、伝熱面と同様に熱伝導性の高い金属等の材質であってもよいが、作動流体の凝縮、蒸発により熱利用を行なう系では、温度変化の大きい材質を用いると、温度変化分の熱量ロスが発生し、熱エネルギーの利用効率を損なうことから、棒状突起材は、熱容量の小さい材質で形成されていることが好ましい。熱容量の小さい材質としては、例えば、耐熱性樹脂等の樹脂材料(例えば、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリアセタール(POM)、MCナイロン(登録商標)(クオドラントポリペンコジャパン社(日本ポリペンコ社)製)等)などを挙げることができる。
【0088】
本実施形態では、棒状の突起材を用いた場合を中心に説明したが、棒状のほか、板状などの突起材を使用してもよい。
棒状等の突起材の形状には、特に制限はないが、少なくとも一部が、角柱形状、円柱形状、楕円柱形状、角錐形状、円錐形状、又は楕円錐状である形状が好適である。
【0089】
(第5実施形態)
本発明の熱交換器及びこれを備えた吸着式ヒートポンプの第1実施形態を図8を参照して説明する。本実施形態は、第1実施形態の熱交換器と、作動流体を吸脱着する吸着材を備えた吸着器と、で吸着式ヒートポンプ(以下、単に「ヒートポンプ」ともいう。)を構成し、熱交換器と吸着器との間の作動流体の授受により作動するようにしたものである。
【0090】
本実施形態のヒートポンプ100は、図8に示すように、熱交換器10と、吸着器110と、を備えている。熱交換器10及び吸着器110は、接続部16と接続部116とによって接続されている。
【0091】
本実施形態における吸着器110は、第1実施形態の熱交換器10と同様の直交流型の熱交換器として構成されており、熱交換流体が流通する流体流路130と、吸着材122を含む吸着室120と、を備えている。流体流路130及び吸着室120は、交互に配置されている。
【0092】
吸着器110を構成する吸着室120は、熱交換器10の蒸発凝縮室20において、伝熱面に設けられた複数の流体保持部材24を、吸着材122に代えて構成されていること以外、熱交換器10の蒸発凝縮室20と基本的に同様の構成を有している。
【0093】
吸着式ヒートポンプ100では、熱交換器10の蒸発凝縮室20の開口部と、吸着器110の吸着室120の開口部と、が対向する位置にあり、かつ熱交換器10と吸着器110とが接続部16及び116により接続されている。これにより、熱交換器10の蒸発凝縮室20と吸着器110の吸着室120とが気密状態で連通されている。かかる構成により、熱交換器10の蒸発凝縮室20と吸着器110の吸着室120との間で、作動流体F1を流通できるようになっている。
【0094】
吸着室120には、熱交換器10の蒸発凝縮室20から放出された水蒸気が供給される。この吸着室120には、図8に示すように、各室の、吸着室120と流体流路130とが交互に並ぶ方向において互いに対向する2つの面(伝熱面)に板状の吸着材122が配設され、供給された水蒸気を吸着できるようになっている。
【0095】
吸着材122は、シリカゲル(物理吸着材)を用いて板状に成形したものであり、図9のように、2枚のシリカゲル板で構成されている。吸着室120の内壁面のうち、シリカゲル板の流体流路130と向き合う面Sと接する壁面は、伝熱面であり、この面を通じて隣り合う流体流路130との間で熱交換することができる。
【0096】
吸着材が用いられることにより、水蒸気の吸着(固定化)及び脱離に要する熱量を小さく抑えることができ、低エネルギーでも水蒸気の着脱が容易に行なえる。本実施形態では
【0097】
吸着材122の具体例としては、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲル、粘土鉱物等が挙げられる。
このうち、活性炭、メソポーラスシリカ、ゼオライト、シリカゲルが好ましく、活性炭、ゼオライト、シリカゲルが更に好ましく、ゼオライト、シリカゲルが特に好ましい。
作動流体F1として水を用いる場合には、吸着材としては、ゼオライト、シリカゲルが特に好ましく、ゼオライトが最も好ましい。
吸着材122は、吸着材(及び必要に応じバインダー等のその他の成分)を含む吸着材層の形態となっていてもよい。
【0098】
吸着器110の流体流路130を流通する熱交換流体は、流体流路130と吸着室を隔離する隔壁を通じ、吸着室内の吸着材との間で熱交換を行なうための流体である。この熱交換流体の具体例については、前述の熱交換流体F2の具体例と同様である。
【0099】
熱交換器10と吸着器110とを接続する接続部16及び接続部116には、それぞれ、フランジ部材等の熱交換器10と吸着器110とを気密状態で接続し得る部材を用いることができる。また、熱交換器10及び接続部16、吸着器110及び接続部116、並びに、接続部16及び接続部116のうちの少なくとも一つは、一体に成形されていてもよい。
【0100】
吸着式ヒートポンプ100の姿勢の一例としては、図8に示すように、熱交換器10を重力方向側に、吸着器110を重力方向とは反対側に、それぞれ配置させた姿勢が挙げられる。
しかし、熱交換器10は流体保持部材24を備えており、姿勢に依らず、液体状態の作動流体F1を保持できるものである。したがって、吸着式ヒートポンプ100の姿勢は、上記例のほか、吸着器110を重力方向側に、熱交換器10を重力方向とは反対側に、それぞれ配置させた姿勢、作動流体F1の流通方向が重力方向に対し交差(例えば直交)する姿勢等、その他の姿勢であってもよい。
【0101】
吸着器としては公知の吸着器を用いることができるが、例えば、特開2012−172902号公報や特開2012−163264公報に記載の熱交換型反応器の構成などを適宜参照することができる。
【符号の説明】
【0102】
10・・・熱交換器
12・・・筐体
20・・・蒸発凝縮室
24,34・・・流体保持部材(凹形)
32・・・棒状突起材(ピン)
36・・・流体収容部
30,130・・・流体流路
100 吸着式ヒートポンプ
110 吸着器
120 吸着室
F1 作動流体
F2 熱交換流体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9