(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステアリングホイールと転舵輪との間のトルク伝達経路を連結するユニバーサルジョイントと、運転者の操舵操作に応じて前記転舵輪の転舵を補助するためのトルクであるアシストトルクを出力するアクチュエータと、を備える車両用操舵制御装置であって、
車両の運転者が操舵操作する前記ステアリングホイールから前記トルク伝達経路を介して前記転舵輪側に伝達するトルクであるピニオン側トルクを検出するピニオン側トルク検出部と、
前記ユニバーサルジョイントに入力された操舵角と、前記入力された操舵角に基づき前記ユニバーサルジョイントから出力される出力角と、の比に基づく入出力トルク比を演算するトルク比演算部と、
前記ピニオン側トルク検出部が検出したピニオン側トルク及び前記トルク比演算部が演算した入出力トルク比に基づいて、前記ピニオン側トルク検出部が検出したピニオン側トルクを前記ステアリングホイールで発生するトルクに変換したハンドル端トルクを算出する第一ハンドル端トルク算出部と、
前記第一ハンドル端トルク算出部が算出したハンドル端トルクに応じたハンドル端アシストトルクを算出し、前記ハンドル端アシストトルク及び前記入出力トルク比に基づいて前記アシストトルクの指令値を算出するアシストトルク算出部と、を備えることを特徴とする車両用操舵制御装置。
前記アシストトルク算出部は、前記ピニオン側トルク検出部が検出したピニオン側トルクを前記トルク比演算部が演算した入出力トルク比により補正して、前記アシストトルクの指令値を算出することを特徴とする請求項1から請求項10のうちいずれか1項に記載した車両用操舵制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
(第一実施形態)
以下、本発明の第一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
(構成)
図1は、本実施形態の車両用操舵制御装置1を備えた車両の概略構成を示す図である。また、
図2は、本実施形態の車両用操舵制御装置1の概略構成を示すブロック図である。
本実施形態の車両用操舵制御装置1を備えた車両は、SBWシステムを適用した車両である。なお、SBWシステムとは、一般的に、ステア・バイ・ワイヤ(SBW:Steer By Wire、以降の説明では、「SBW」と記載する場合がある)と呼称するシステムである。したがって、車両用操舵制御装置1は、SBWシステムを形成する装置である。
【0010】
ここで、SBWシステムでは、車両の運転者によるステアリングホイール(操舵輪)の操舵操作に応じてアクチュエータ(例えば、転舵モータ)を駆動制御して、転舵輪を転舵する制御を行うことにより、車両の進行方向を変化させる。転舵モータの駆動制御は、ステアリングホイールと転舵輪との間に介装するクラッチを、通常状態である開放状態に切り替えて、ステアリングホイールと転舵輪との間のトルク伝達経路を機械的に分離した状態で行う。
【0011】
そして、例えば、断線等、SBWシステムの一部に異常が発生した場合には、開放状態のクラッチを締結状態に切り替えて、トルク伝達経路を機械的に接続することにより、運転者がステアリングホイールに加える力を用いて、転舵輪の転舵を継続する。これに加え、運転者によるステアリングホイールの操作状態(操舵量、操舵トルク、操舵速度等)に応じて、転舵モータからアシストトルクを出力するEPS(Electric Power Steering)制御を行なう。なお、車両の構成を、例えば、車室内に配置した制御切り替えスイッチを備える構成として、運転者が制御切り替えスイッチを操作することにより、SBWシステムによる制御からEPS制御への切り替えを、運転者により任意に行なうことが可能な構成としてもよい。
【0012】
図1及び
図2中に示すように、本実施形態の車両用操舵制御装置1は、転舵モータ2と、転舵モータ制御部4と、クラッチ6と、反力モータ8と、反力モータ制御部10を備える。
転舵モータ2は、転舵モータ制御部4が出力する転舵モータ駆動電流に応じて駆動する電動モータであり、上述した目標転舵角に応じて回転して、転舵輪を転舵制御する転舵アクチュエータを形成する。また、転舵モータ2は、転舵モータ駆動電流に応じて駆動することにより、転舵輪を転舵させるための転舵トルクを出力する。なお、転舵アクチュエータとしては、電動モータ以外に、動力シリンダーや、ソレノイドを備えた油圧回路等を用いることが可能である。
また、転舵モータ2は、回転可能な転舵モータ出力軸12を有する。
【0013】
転舵モータ出力軸12の先端側には、ピニオンギヤを用いて形成した転舵出力歯車12aを設けてある。
転舵出力歯車12aは、ステアリングラック14に挿通させたラック軸18の両端部間に設けたラックギヤ18aと噛合する。
また、転舵モータ2には、転舵モータ角度センサ16と、転舵モータトルクセンサ2tを設ける。
転舵モータ角度センサ16は、転舵モータ2の回転角である転舵モータ回転角を検出し、この検出した転舵モータ回転角を含む情報信号を、転舵モータ制御部4を介して、反力モータ制御部10へ出力する。
【0014】
転舵モータトルクセンサ2tは、転舵モータ2が駆動時に発生させるトルクである転舵モータトルクを検出する。そして、転舵モータトルクセンサ2tは、検出した転舵モータトルクを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。なお、以降の説明では、転舵モータトルクを、「トルクセンサ値Vtm」と記載する場合がある。また、転舵モータトルクセンサ2tが検出した転舵モータトルクは、操舵トルクに変換してもよい。
なお、本実施形態では、転舵モータトルクセンサ2tが検出した転舵モータトルクを、運転者がステアリングホイール32に加えているトルクである操舵トルクに変換する。そして、この変換した操舵トルクを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する場合について説明する。
【0015】
ステアリングラック14は、円筒形状に形成してあり、転舵モータ出力軸12の回転、すなわち、転舵出力歯車12aの回転に応じて車幅方向へ変位するラック軸18を挿通させる。
また、ステアリングラック14の内部には、ラック軸18の外径面を全周から覆うストッパ部14aを二つ設ける。二つのストッパ部14aは、それぞれ、ステアリングラック14の内部において、転舵出力歯車12aよりも車幅方向右側及び左側に設ける。なお、
図1中では、二つのストッパ部14aのうち、転舵出力歯車12aよりも車幅方向右側に設けたストッパ部14aの図示を省略する。
【0016】
ラック軸18の、ステアリングラック14に挿通させて内部に配置した部分のうち、ストッパ部14aよりも車幅方向右側及び左側の部分には、それぞれ、ストッパ部14aとラック軸18の軸方向で対向する端当て部材18bを設ける。なお、
図1中では、二つの端当て部材18bのうち、ストッパ部14aよりも車幅方向右側に設けた端当て部材18bの図示を省略する。
ラック軸18の両端は、それぞれ、タイロッド20及びナックルアーム22を介して、転舵輪24に連結する。また、ラック軸18とタイロッド20との間には、タイヤ軸力センサ26を設ける。
タイヤ軸力センサ26は、ラック軸18の軸方向(車幅方向)に作用する軸力を検出し、この検出した軸力(以降の説明では、「タイヤ軸力」と記載する場合がある)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
【0017】
転舵輪24は、車両の前輪(左右前輪)であり、転舵モータ出力軸12の回転に応じてラック軸18が車幅方向へ変位すると、タイロッド20及びナックルアーム22を介して転舵し、車両の進行方向を変化させる。なお、本実施形態では、転舵輪24を、左右前輪で形成した場合を説明する。これに伴い、
図1中では、左前輪で形成した転舵輪24を、転舵輪24Lと示し、右前輪で形成した転舵輪24を、転舵輪24Rと示す。
転舵モータ制御部4は、反力モータ制御部10と、CAN(Controller Area Network)等の通信ライン28を介して、情報信号の入出力を行う。
また、転舵モータ制御部4は、転舵位置サーボ制御部30と、転舵側前回処理内容記憶部MAを有する。
【0018】
転舵位置サーボ制御部30は、転舵モータ2を駆動させるための転舵モータ駆動電流を演算し、この演算した転舵モータ駆動電流を、転舵モータ2へ出力する。
ここで、転舵モータ駆動電流は、上述した転舵トルクを制御して、ステアリングホイールの操作に応じた目標転舵角を算出し、この算出した目標転舵角に応じて転舵モータ2を駆動制御するための電流である。
転舵モータ駆動電流の演算は、反力モータ制御部10が出力する転舵モータ電流指令と、実際に転舵モータ2へ通電している電流(転舵モータ実電流)の指令値(以降の説明では、「転舵モータ実電流指令It」と記載する場合がある)に基づいて行う。具体的には、転舵モータ実電流指令Itを用いて転舵モータ電流指令を補正し、転舵モータ駆動電流を演算する。
【0019】
また、転舵位置サーボ制御部30は、転舵モータ実電流指令Itを計測し、この計測した転舵モータ実電流指令Itに基づいて、転舵モータ2の温度Ttを推定する。そして、推定した転舵モータ2の温度Ttを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。これは、電流の通電による抵抗発熱に起因するモータ類(転舵モータ2、反力モータ8)の過熱を推定するためである。
なお、転舵モータ実電流指令Itは、例えば、転舵モータ2に基板温度センサ(図示せず)を内蔵し、この内蔵した基板温度センサを用いて計測する。
【0020】
ここで、転舵モータ実電流指令Itに基づいて転舵モータ2の温度Ttを推定する方法としては、例えば、大電流域では、計測した実際の電流値を用いて転舵モータ実電流指令Itを求める。具体的には、計測した実際の電流値と予め記憶している電流閾値とを比較し、計測した実際の電流値が電流閾値よりも大きい場合は、計測した実際の電流値を、転舵モータ実電流指令Itとして採用する。
一方、小電流域では、転舵モータ2の回転数とトルクとの関係を定めたモータNT特性を用い、転舵モータ2の回転数に基づいて、転舵モータ実電流指令Itを推定する。具体的には、計測した実際の電流値を転舵モータ実電流指令Itとして採用せず、モータNT特性を用い、転舵モータ2の回転数に基づいて推定した電流値を、転舵モータ実電流指令Itとして採用する。
【0021】
そして、上記のように採用した転舵モータ実電流指令Itを用いて、転舵モータ2の温度Ttを推定する。
なお、転舵側前回処理内容記憶部MAに関する説明は、後述する。
クラッチ6は、運転者が操作するステアリングホイール32と転舵輪24との間に介装し、反力モータ制御部10が出力するクラッチ駆動電流に応じて、開放状態または締結状態に切り替わる。なお、クラッチ6は、通常状態では、開放状態である。
【0022】
ここで、クラッチ6の状態が開放状態に切り替わると、ステアリングホイール32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に分離させて、ステアリングホイール32の操舵操作が転舵輪24へ伝達されない状態とする。一方、クラッチ6の状態が締結状態に切り替わると、ステアリングホイール32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に連結させて、ステアリングホイール32の操舵操作が転舵輪24へ伝達される状態とする。
また、ステアリングホイール32とクラッチ6との間には、操舵角センサ34と、操舵トルクセンサ36と、反力モータ8と、反力モータ角度センサ38を配置する。
【0023】
操舵角センサ34は、例えば、ステアリングホイール32を回転可能に支持するステアリングコラムに設ける。
また、操舵角センサ34は、ステアリングホイール32の現在の回転角(操舵角)である現在操舵角を検出する。そして、操舵角センサ34は、検出したステアリングホイール32の現在操舵角を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。なお、以降の説明では、現在操舵角を、「現在操舵角θH」と記載する場合がある。
ここで、近年の車両は、ステアリングホイール32の操舵角を検出可能なセンサを、標準的に備えている場合が多い。このため、本実施形態では、操舵角センサ34として、車両に既存のセンサである、ステアリングホイール32の操舵角を検出可能なセンサを用いた場合について説明する。
【0024】
操舵トルクセンサ36は、操舵角センサ34と同様、例えば、ステアリングホイール32を回転可能に支持するステアリングコラムに設ける。
また、操舵トルクセンサ36は、運転者がステアリングホイール32に加えているトルクである操舵トルクを検出する。そして、操舵トルクセンサ36は、検出した操舵トルクを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。なお、以降の説明では、操舵トルクを、「トルクセンサ値Vts」と記載する場合がある。
なお、反力モータ8及び反力モータ角度センサ38に関する説明は、後述する。
【0025】
また、クラッチ6は、開放状態で互いに離間し、締結状態で互いに噛合する一対のクラッチ板40を有する。なお、
図1中及び以降の説明では、一対のクラッチ板40のうち、ステアリングホイール32側に配置するクラッチ板40を、「操舵輪側クラッチ板40a」とし、転舵輪24側に配置するクラッチ板40を、「転舵輪側クラッチ板40b」とする。
操舵輪側クラッチ板40aは、ステアリングホイール32と共に回転するステアリングシャフト42に取り付けてあり、ステアリングシャフト42と共に回転する。
転舵輪側クラッチ板40bは、ピニオン軸44の一端に取り付けてあり、ピニオン軸44と共に回転する。
ピニオン軸44の他端は、ピニオン46内に配置してある。
ピニオン46には、ラックギヤ18aと噛合するステアリングギヤ(図示せず)を内蔵する。これに加え、ピニオン46には、ピニオン軸トルクセンサ46tを設ける。
【0026】
ピニオン軸トルクセンサ46tは、ピニオン軸44に加わるトルクであるピニオン軸トルクを検出する。そして、ピニオン軸トルクセンサ46tは、検出したピニオン軸トルクを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。なお、以降の説明では、ピニオン軸トルクを、「トルクセンサ値Vtp」と記載する場合がある。
なお、本実施形態では、ピニオン軸トルクセンサ46tが検出したピニオン軸トルクを、運転者がステアリングホイール32に加えているトルクである操舵トルクに変換する。そして、この変換した操舵トルクを含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する場合について説明する。
ステアリングギヤは、ピニオン軸44と共に回転する。すなわち、ステアリングギヤは、ピニオン軸44を介して、転舵輪側クラッチ板40bと共に回転する。
【0027】
反力モータ8は、反力モータ制御部10が出力する反力モータ駆動電流に応じて駆動する電動モータであり、ステアリングホイール32へ操舵反力を出力可能な反力アクチュエータを形成する。なお。操舵反力の出力は、ステアリングホイール32と共に回転するステアリングシャフト42を回転させて行なう。ここで、反力モータ8がステアリングホイール32へ出力する操舵反力は、転舵輪24に作用しているタイヤ軸力やステアリングホイール32の操舵状態に応じて演算する。この演算は、クラッチ6を開放状態に切り替えて、ステアリングホイール32と転舵輪24との間のトルク伝達経路を機械的に分離させている状態で行なう。これにより、ステアリングホイール32を操舵する運転者へ、適切な操舵反力を伝達する。すなわち、反力モータ8がステアリングホイール32へ出力する操舵反力は、運転者がステアリングホイール32を操舵する操作方向とは反対方向へ作用する反力である。なお、反力アクチュエータとしては、電動モータ以外に、動力シリンダーや、ソレノイドを備えた油圧回路等を用いることが可能である。
【0028】
反力モータ角度センサ38は、反力モータ8に設けるセンサである。
また、反力モータ角度センサ38は、反力モータ8の回転角を検出し、この検出した回転角(以降の説明では、「反力モータ回転角」と記載する場合がある)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
反力モータ制御部10は、転舵モータ制御部4と、通信ライン28を介して、情報信号の入出力を行う。これに加え、反力モータ制御部10は、通信ライン28を介して、車速センサ50及びエンジンコントローラ52が出力する情報信号の入力を受ける。
また、反力モータ制御部10は、通信ライン28を介して入力を受けた情報信号や、各種センサから入力を受けた情報信号に基づき、反力モータ8を駆動制御する。
【0029】
車速センサ50は、例えば、公知の車速センサであり、車両の車速を検出し、この検出した車速を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
エンジンコントローラ52(エンジンECU)は、エンジン(図示せず)の状態(エンジン駆動、または、エンジン停止)を含む情報信号を、反力モータ制御部10へ出力する。
また、反力モータ制御部10は、指令演算部54と、反力サーボ制御部56と、クラッチ制御部58と、反力側前回処理内容記憶部MBを有する。
【0030】
指令演算部54は、車速センサ50、操舵角センサ34、エンジンコントローラ52、操舵トルクセンサ36、反力モータ角度センサ38、タイヤ軸力センサ26及び転舵モータ角度センサ16が出力した情報信号の入力を受ける。
なお、指令演算部54の詳細な構成についての説明は、後述する。
反力サーボ制御部56は、反力モータ8を駆動させるための反力モータ駆動電流を反力モータ8へ出力する。
また、反力サーボ制御部56は、実際に反力モータ8へ通電している電流(反力モータ実電流)の値(以降の説明では、「反力モータ電流値Ih」と記載する場合がある)を計測する。
【0031】
ここで、反力モータ駆動電流の演算は、指令演算部54が出力する反力モータ電流指令(後述)と、反力モータ電流値Ihに基づいて行う。具体的には、反力モータ電流値Ihを用いて反力モータ電流指令を補正し、反力モータ駆動電流を演算する。
また、反力サーボ制御部56は、計測した反力モータ電流値Ihに基づいて、反力モータ8の温度Thを推定する。なお、反力モータ8の温度Thの推定は、例えば、転舵位置サーボ制御部30が行う転舵モータ2の温度Ttの推定と、同様の手順で行う。
クラッチ制御部58は、指令演算部54が出力するクラッチ電流指令(後述)に基づいて、開放状態のクラッチ6を締結状態へ切り替えるために必要な電流を、クラッチ駆動電流として演算する。そして、演算したクラッチ駆動電流を、クラッチ6へ出力する。
なお、反力側前回処理内容記憶部MBに関する説明は、後述する。
【0032】
次に、
図1及び
図2を参照しつつ、
図3を用いて、詳細なステアリング構造について説明する。
図3は、SBWシステムのステアリング構造を示す図である。
ステアリングホイール32は、ステアリングシャフト42の一端に連結してある。
ステアリングシャフト42は、ステアリングコラム5によって回転自在に保持されている。
また、ステアリングシャフト42の他端は、ユニバーサルジョイント7を介して操舵側中間シャフト9の一端に連結している。
ステアリングコラム5には、ステアリングシャフト42に連結した反力モータ8を設けている。
【0033】
反力モータ8は、転舵角に応じて転舵輪側からステアリングホイール方向へ伝達される路面反力に応じた反力トルクをステアリングシャフト42へ付与する。これにより、クラッチ6が解放されているときであっても、運転者は、転舵状態に応じた路面反力を把握できる。
操舵側中間シャフト9の他端は、ユニバーサルジョイント11を介してクラッチ入力軸13の一端に連結してある。
クラッチ入力軸13の他端は、クラッチ6を介してクラッチ出力シャフト17の一端に同軸で対向しており、クラッチ6は、クラッチ入力軸13とクラッチ出力シャフト17との断続(締結及び遮断)を行う。
【0034】
クラッチ出力シャフト17の他端は、ユニバーサルジョイント19を介して転舵側中間シャフト21の一端に連結してある。
転舵側中間シャフト21の他端は、ユニバーサルジョイント23を介してピニオンシャフト25の一端に連結してあり、ピニオンシャフト25の他端は、ラック&ピニオン式のステアリングギヤ27に連結してある。なお、図示は省略するが、ステアリングギヤ27の出力側となるラックの両端は、夫々、左右のタイロッドの一端に連結してあり、タイロッドの他端は、車輪に連結してある。以上により、トルク伝達経路は、複数のユニバーサルジョイント(7、11、19、23)で連結されている。
【0035】
したがって、クラッチ6を締結した状態では、ステアリングホイール32を回転させると、ピニオン46及びピニオンシャフト25が回転する。ここで、ピニオン46及びピニオンシャフト25は、ステアリングシャフト42、操舵側中間シャフト9、クラッチ入力軸13、クラッチ出力シャフト17及び転舵側中間シャフト21を介して回転する。ピニオンシャフト25の回転運動は、ステアリングギヤ27によってラックの進退運動となり、ラックの進退に応じてタイロッドを押したり引いたりすることで、車輪が転舵される。
ステアリングシャフト42には、反力モータ8を連結してあり、クラッチ6を遮断した状態で、反力モータ8を駆動すると、ステアリングシャフト42に反力トルクが付与される。したがって、車輪を転舵したときに路面から受ける反力を検出又は推定し、検出又は推定した反力に応じて反力モータ8を駆動制御することで、運転者のステアリング操作に対して操作反力が付与される。
【0036】
通常は、クラッチ6を遮断した状態で、転舵モータ31を駆動制御すると共に、反力モータ8を駆動制御することで、ステア・バイ・ワイヤを実行し、所望のステアリング特性や旋回挙動特性を実現し、且つ良好な操作フィーリングを実現する。一方、システムに異常が生じた場合には、ステア・バイ・ワイヤを中止し、フェールセーフとしてクラッチ6を締結状態に戻すことで、機械的なバックアップを確保する。
ステアリングコラム5は、チルトピボット41を介して揺動可能な状態で車体に支持してある。車体横方向から見て、ステアリングシャフト42及び操舵側中間シャフト9間のユニバーサルジョイント7の中心位置と、チルトピボット41の中心位置とは相違させたレイアウトとしている。
【0037】
操舵側中間シャフト9、及び転舵側中間シャフト21は、夫々、軸方向に伸縮可能に構成してある。
クラッチ6は、ブラケット43を介してダッシュパネル45に固定してある。
以上により、ユニバーサルジョイント7及びユニバーサルジョイント11は、ステアリングホイール32とクラッチ6との間を機械的に連結する操舵側ユニバーサルジョイントを形成する。また、ユニバーサルジョイント19及びユニバーサルジョイント23は、転舵輪24とクラッチ6との間を機械的に連結する転舵側ユニバーサルジョイントを形成する。すなわち、トルク伝達経路は、ステアリングホイール32とクラッチ6との間を機械的に連結する操舵側ユニバーサルジョイントと、転舵輪24とクラッチ6との間を機械的に連結する転舵側ユニバーサルジョイントを備える。
【0038】
(指令演算部54の詳細な構成)
次に、
図1から
図3を参照しつつ、
図4を用いて、指令演算部54の詳細な構成について説明する。
図4は、指令演算部54の構成を示すブロック図である。
図4中に示すように、指令演算部54は、中立位置記憶部60と、転舵モータ電流指令演算部62と、クラッチ状態切り替え部64を備える。これに加え、指令演算部54は、操舵側クラッチ角算出部66と、転舵側クラッチ角算出部68と、クラッチ角偏差算出部70と、クラッチ角偏差記憶部72と、転舵角記憶部74と、転舵角算出部76と、EPS制御ブロック78を備える。
【0039】
中立位置記憶部60は、例えば、車両の製造時や、車両の出荷前に行なう調整工程等において、ステアリングホイール32の操舵角と転舵輪24の実転舵角を共に中立位置:0[°]へ調整した状態における、操舵角と転舵モータ回転角との関係を記憶する。なお、ステアリングホイール32の操舵角と転舵輪24の実転舵角を共に中立位置へ調整した状態における、操舵角と転舵モータ回転角との関係とは、操舵角に対する転舵モータ回転角の偏差(偏差角[deg])である。本実施形態では、一例として、ステアリングホイール32の操舵角と転舵輪24の実転舵角を共に中立位置へ調整した状態における、操舵角と転舵モータ回転角との関係を、操舵角に対する転舵モータ回転角の偏差が0[°]とした場合を説明する。
【0040】
また、中立位置記憶部60は、転舵角算出部76が算出した転舵輪24の転舵角に応じて、記憶している操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正(上書き)する処理を行う。この処理は、例えば、転舵角算出部76が算出した転舵輪24の転舵角が、右回り(車両を右旋回させる方向)へ10[°]である場合、操舵角に対する転舵モータ回転角の偏差を、左回りへ10[°]に補正(上書き)する処理である。
転舵モータ電流指令演算部62は、中立位置記憶部60が記憶している操舵角と転舵モータ回転角との関係と、操舵角センサ34が検出した現在操舵角θHと、車速センサ50が検出した車速に基づき、転舵モータ電流指令を演算する。そして、演算した転舵モータ電流指令を含む情報信号を、転舵位置サーボ制御部30へ出力する。
クラッチ状態切り替え部64は、エンジンコントローラ52からエンジンの状態を含む情報信号の入力を受ける。
【0041】
そして、クラッチ状態切り替え部64は、エンジンの状態を含む情報信号が、エンジン駆動の状態を含む場合、車両のイグニッションスイッチがオン状態であると判定し、クラッチ6を開放状態に切り替えるためのクラッチ電流指令を生成する。そして、生成したクラッチ電流指令を含む情報信号を、クラッチ角偏差算出部70と、クラッチ角偏差記憶部72及びクラッチ制御部58へ出力する。なお、車両のイグニッションスイッチがオン状態であるとの判定は、エンジンの状態を含む情報信号がエンジン駆動の状態を含む場合に限定するものではない。この場合、運転者等によりイグニッションスイッチが操作されたことを検出すると、エンジンが停止していても、車両のイグニッションスイッチがオン状態であると判定してもよい。これは、以降の説明においても同様である。また、エンジンが停止していても、車両のイグニッションスイッチがオン状態であるとは、例えば、イグニッションスイッチの操作位置が、ACC(アクセサリーポジション)となっている場合である。
【0042】
また、クラッチ状態切り替え部64は、エンジンの状態を含む情報信号が、エンジン停止の状態を含む場合、車両のイグニッションスイッチがオフ状態であると判定し、クラッチ6を連結状態に切り替えるためのクラッチ電流指令を生成する。そして、生成したクラッチ電流指令を含む情報信号を、操舵側クラッチ角算出部66と、転舵側クラッチ角算出部68と、クラッチ角偏差算出部70と、クラッチ角偏差記憶部72及びクラッチ制御部58へ出力する。
操舵側クラッチ角算出部66は、クラッチ状態切り替え部64から、クラッチ電流指令を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、操舵側クラッチ角算出部66は、操舵角センサ34から、ステアリングホイール32の現在操舵角を含む情報信号の入力を受ける。さらに、操舵側クラッチ角算出部66は、操舵トルクセンサ36から、トルクセンサ値Vtsを含む情報信号の入力を受ける。
【0043】
そして、操舵側クラッチ角算出部66は、クラッチ6を連結状態へ切り替えると、操舵角センサ34が検出した現在操舵角θHに基づいて、トルク伝達経路のステアリングホイール32側における回転角である操舵側クラッチ角を算出する。さらに、算出した操舵側クラッチ角を含む情報信号を、クラッチ角偏差算出部70へ出力する。
ここで、本実施形態の操舵側クラッチ角算出部66は、操舵角センサ34が検出した現在操舵角が、操舵側ユニバーサルジョイントを介してクラッチ6へ伝達された回転角である操舵側出力角に基づいて、操舵側クラッチ角を算出する。なお、操舵側クラッチ角算出部66が操舵側クラッチ角を算出する処理については、後述する。
【0044】
転舵側クラッチ角算出部68は、クラッチ状態切り替え部64から、クラッチ電流指令を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、転舵側クラッチ角算出部68は、転舵モータ角度センサ16から、転舵モータ回転角を含む情報信号の入力を受ける。さらに、転舵側クラッチ角算出部68は、操舵トルクセンサ36から、トルクセンサ値Vtsを含む情報信号の入力を受ける。
そして、転舵側クラッチ角算出部68は、クラッチ6を連結状態へ切り替えると、転舵モータ角度センサ16が検出した転舵モータ回転角に基づいて、トルク伝達経路の転舵輪24側における回転角である転舵側クラッチ角を算出する。さらに、算出した転舵側クラッチ角を含む情報信号を、クラッチ角偏差算出部70へ出力する。なお、転舵側クラッチ角算出部68が転舵側クラッチ角を算出する処理については、後述する。
【0045】
ここで、本実施形態の転舵側クラッチ角算出部68は、転舵モータ角度センサ16が検出した転舵モータ回転角が、転舵側ユニバーサルジョイントを介してクラッチ6へ伝達された回転角である転舵側逆出力角に基づいて、操舵側クラッチ角を算出する。なお、操舵側クラッチ角算出部66が操舵側クラッチ角を算出する処理については、後述する。
クラッチ角偏差算出部70は、クラッチ状態切り替え部64から、クラッチ電流指令を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、クラッチ角偏差算出部70は、操舵側クラッチ角算出部66から、操舵側クラッチ角を含む情報信号の入力を受ける。さらに、クラッチ角偏差算出部70は、転舵側クラッチ角算出部68から、転舵側クラッチ角を含む情報信号の入力を受ける。
【0046】
そして、クラッチ角偏差算出部70は、操舵側クラッチ角と転舵側クラッチ角との偏差であるクラッチ角偏差を算出し、この算出したクラッチ角偏差を含む情報信号を、クラッチ角偏差記憶部72及び転舵角算出部76へ出力する。なお、クラッチ角偏差算出部70がクラッチ角偏差を算出する具体的な処理については、後述する。
クラッチ角偏差記憶部72は、クラッチ状態切り替え部64から、クラッチ電流指令を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、クラッチ角偏差記憶部72は、クラッチ角偏差算出部70から、クラッチ角偏差を含む情報信号の入力を受ける。
そして、クラッチ角偏差記憶部72は、クラッチ6を連結状態へ切り替えた時点の、クラッチ角偏差を記憶する。また、クラッチ角偏差記憶部72は、記憶しているクラッチ角偏差を更新(上書き)すると、クラッチ角偏差を更新した内容を含む情報信号を、トルク比マップ記憶部84へ出力する。
【0047】
転舵角記憶部74は、クラッチ状態切り替え部64から、クラッチ電流指令を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、転舵角記憶部74は、転舵モータ角度センサ16から、転舵モータ回転角を含む情報信号の入力を受ける。
そして、転舵角記憶部74は、イグニッションスイッチがオフ状態となった時点の、転舵輪24の転舵角を記憶する。
転舵角算出部76は、クラッチ状態切り替え部64から、クラッチ電流指令を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、転舵角算出部76は、クラッチ角偏差算出部70から、クラッチ角偏差を含む情報信号の入力を受ける。また、転舵角算出部76は、操舵トルクセンサ36から、トルクセンサ値Vtsを含む情報信号の入力を受ける。
【0048】
そして、転舵角算出部76は、イグニッションスイッチがオン状態となると、クラッチ6を開放状態へ切り替える前に、クラッチ角偏差算出部70が算出したクラッチ角偏差とユニバーサルジョイント変化角に基づいて、転舵輪24の転舵角を算出する。さらに、算出した転舵輪24の転舵角を含む情報信号を、転舵位置サーボ制御部30へ出力する。
ここで、上記のユニバーサルジョイント変化角とは、操舵角センサ34が検出した現在操舵角に基づき、トルク伝達経路上で、予め転舵角算出部76が記憶したモデルを用いて算出した角度である。なお、転舵角算出部76が転舵輪24の転舵角を算出する処理と、転舵角算出部76が記憶したモデルについては、後述する。
【0049】
ここで、本実施形態では、一例として、転舵角算出部76の構成を、イグニッションスイッチがオフ状態である間に、操舵角センサ34が検出した現在操舵角が変化しない場合、転舵角記憶部74が記憶した転舵角を、転舵輪24の転舵角として算出する構成とする。なお、転舵角記憶部74が記憶した転舵角は、イグニッションスイッチがオフ状態である間に、操舵角センサ34が検出した現在操舵角が変化しない場合に、転舵角記憶部74から取得する。
EPS制御ブロック78は、操舵角センサ34から、ステアリングホイール32の現在操舵角を含む情報信号の入力を受ける。また、EPS制御ブロック78は、転舵モータ角度センサ16から、転舵モータ回転角を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、EPS制御ブロック78は、車速センサ50から、車速を含む情報信号の入力を受ける。さらに、EPS制御ブロック78は、ピニオン軸トルクセンサ46tから、トルクセンサ値Vtpを含む情報信号の入力を受ける。
【0050】
そして、EPS制御ブロック78は、上述したEPS制御を行なう際に、開放状態のクラッチ6を連結状態へ切り替えると、入力を受けた各情報信号に基づいて、アシストトルクに応じた転舵モータ電流指令を演算する。そして、演算した転舵モータ電流指令を含む情報信号を、転舵位置サーボ制御部30へ出力する。
ここで、転舵モータ電流指令の演算は、操舵角センサ34が検出した現在操舵角θHと、転舵モータ角度センサ16が検出した転舵モータ回転角と、車速センサ50が検出した車速と、転舵モータトルクセンサ2tが検出したトルクセンサ値Vtmに基づいて行なう。
なお、EPS制御ブロック78の詳細な構成については、後述する。
【0051】
(クラッチ角偏差算出部70がクラッチ角偏差を算出する処理)
以下、
図1から
図4を参照しつつ、
図5及び
図6を用いて、クラッチ角偏差算出部70がクラッチ角偏差を算出する具体的な処理について説明する。
図5は、クラッチ角偏差算出部70がクラッチ角偏差を算出する処理を示すブロック図である。
クラッチ角偏差を算出する処理では、操舵側クラッチ角算出部66により操舵側クラッチ角θcl_inを算出し、転舵側クラッチ角算出部68により転舵側クラッチ角θcl_outを算出する。そして、転舵側クラッチ角θcl_outから操舵側クラッチ角θcl_inを減算した値を、クラッチ角偏差dθCLとして算出(
図5中に示す「dθCL=θcl_out−θcl_in」)する。
【0052】
以下、操舵側クラッチ角θcl_inを算出する処理と、転舵側クラッチ角θcl_outを算出する処理を具体的に説明する。
・操舵側クラッチ角算出部66が操舵側クラッチ角を算出する処理
操舵側クラッチ角算出部66が操舵側クラッチ角を算出する処理では、まず、操舵トルクセンサ36から入力を受けたトルクセンサ値Vtsを含む情報信号を参照する。そして、トルクセンサ値Vtsが、予め設定した操舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であるか否かを判定する。ここで、操舵側クラッチ角算出用トルク閾値は、操舵側クラッチ角を算出する処理を行うために適切なトルクとなる値に設定し、操舵側クラッチ角算出部66に記憶する。したがって、トルクセンサ値Vtsが操舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であれば、運転者がステアリングホイール32に加えている操舵トルクが、操舵側クラッチ角を算出する処理を行うために適切なトルクである。
【0053】
そして、トルクセンサ値Vtsが操舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であると判定すると、以下の処理を行う。
イグニッションスイッチがオフ状態となると、操舵角センサ34が検出した現在操舵角を、ユニバーサルジョイント7の入力角tanθ
Inとして以下の式(1)に入力し、ユニバーサルジョイント7の出力角θ
outを算出する。なお、以下の式(1)は、各ユニバーサルジョイントの出力角を算出するためのモデルとして用いることが可能な、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルを示す式である。また、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルが成立する原理については、後述する。
ここで、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルは、例えば、車両の出荷前に行なう調整工程等において設定し、操舵側クラッチ角算出部66及び転舵角算出部76に記憶させておく。
【0055】
ここで、上記の式(1)中に示す「α」は、予め設定した平面(例えば、上下方向及び車両前後方向に平行な平面)への平面視における、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)の入力側の軸と出力側の軸がなす角度である。
したがって、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルは、操舵輪側入力角と転舵輪側出力角の関係を示すモデル式となる。ここで、操舵輪側入力角は、ユニバーサルジョイントへステアリングホイール32側から入力した角度であり、転舵輪側出力角は、ユニバーサルジョイントを介して操舵輪側入力角を転舵輪24側へ出力した角度である。
【0056】
すなわち、ユニバーサルジョイント7の出力角θ
outを算出する際には、上記の式(1)中に示す「α」が、ユニバーサルジョイント7の入力側の軸(ステアリングシャフト42)とユニバーサルジョイント7の出力側の軸(操舵側中間シャフト9)がなす角度となる。なお、以降の説明では、ステアリングシャフト42と操舵側中間シャフト9とのなす角度αを、ユニバーサルジョイント7のジョイント角αと規定し、「ジョイント角α
1」と記載する場合がある。
ジョイント角α
1は、例えば、現在操舵角θHと、予め生成した波形マップを用いて、車両の出荷前に行なう調整工程等において算出し、操舵側クラッチ角算出部66、転舵側クラッチ角算出部68及び転舵角算出部76に記憶する。なお、ジョイント角α
1の算出及び記憶は、車両の出荷後は、例えば、整備工場等において行なってもよい。
【0057】
また、ジョイント角α
1の算出は、ステアリングホイール32の現在操舵角と転舵輪24の実転舵角とを、互いに対応する角度に調整した状態(例えば、現在操舵角及び実転舵角を、共に中立位置:0[°]に調整した状態)で行なう。
ここで、波形マップは、
図6中に示すマップであり、例えば、クラッチ角偏差算出部70に記憶させておく。なお、
図6は、波形マップを示す図であり、車両の諸元等に因らず、数式等により規定されるマップである。
また、
図6中では、横軸に操舵角(図中では、「操舵角[deg]」と記載する)を示し、縦軸にピニオン46の角度(ピニオン角)と操舵角との偏差(図中では、「偏差角[deg]」と記載する)を示す。
【0058】
ここで、各ユニバーサルジョイントには不等速性が有るため、
図6中に示すように、例えば、操舵角が0[deg]の状態等を除き、操舵角とピニオン角との関係は一定の関係とはならず、ピニオン角と操舵角との偏差は、操舵角に応じて変化する。
そして、ジョイント角α1を算出する際には、例えば、ステアリングホイール32の操舵角を変化させて、波形マップ中の偏差角[deg]を変化させる。この場合、操舵角を変化させて偏差角[deg]の上限値及び下限値を検出し、これらの検出した上限値及び下限値に基づいて、ジョイント角α
1を算出する。
また、上記の式(1)中に示す「θ
offset」は、トルク伝達経路における、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)の、入力側の軸に対する出力側の軸のねじれ角を示す位相角である。
【0059】
すなわち、ユニバーサルジョイント7の位相角θ
offsetを算出する際には、上記の式(1)中に示す「θ
offset」が、ステアリングシャフト42に対する操舵側中間シャフト9のねじれ角を示す位相角となる。なお、以降の説明では、ステアリングシャフト42に対する操舵側中間シャフト9のねじれ角を示す位相角を、ユニバーサルジョイント7の位相角θ
offsetと規定し、「位相角θ
offset1」と記載する場合がある。
位相角θ
offsetは、車両の設計事項であるため、例えば、車両の製造時等において、操舵側クラッチ角算出部66、転舵側クラッチ角算出部68及び転舵角算出部76に記憶する。なお、位相角θ
offsetは、例えば、車両の出荷前に検出及び記憶してもよい。また、位相角θ
offsetの検出及び記憶は、車両の出荷後は、例えば、整備工場等において行なってもよい。
【0060】
また、位相角θ
offsetを検出する際には、ステアリングホイール32の現在操舵角と転舵輪24の実転舵角とを、互いに対応する角度に調整した状態(例えば、現在操舵角及び実転舵角を、共に中立位置:0[°]に調整した状態)とする。
次に、上記のように算出したユニバーサルジョイント7の出力角θ
outを、ユニバーサルジョイント11の入力角tanθ
Inとして上記の式(1)に入力し、ユニバーサルジョイント11の出力角θ
outを算出する。そして、ユニバーサルジョイント11の出力角θ
outを、操舵側クラッチ角θcl_inとして算出する。
【0061】
ここで、ユニバーサルジョイント11の出力角θ
outを算出する際には、上記の式(1)中に示す「α」が、ユニバーサルジョイント11の入力側の軸(操舵側中間シャフト9)とユニバーサルジョイント11の出力側の軸(クラッチ入力軸13)がなす角度となる。なお、以降の説明では、操舵側中間シャフト9とクラッチ入力軸13とのなす角度αを、ユニバーサルジョイント11のジョイント角αと規定し、「ジョイント角α
2」と記載する場合がある。
また、ユニバーサルジョイント11の出力角θ
outを算出する際には、上記の式(1)中に示す「θ
offset」が、操舵側中間シャフト9に対するクラッチ入力軸13のねじれ角を示す位相角となる。なお、以降の説明では、操舵側中間シャフト9に対するクラッチ入力軸13のねじれ角を示す位相角を、ユニバーサルジョイント11の位相角θ
offsetと規定し、「位相角θ
offset2」と記載する場合がある。
【0062】
以上により、操舵側クラッチ角算出部66は、予め設定した操舵側ユニバーサルジョイント出力角算出モデルに、操舵角センサ34が検出した現在操舵角を入力して、操舵側クラッチ角θcl_inを算出する。
ここで、操舵側ユニバーサルジョイント出力角算出モデルは、以下に示す二つのモデル式(E1、E2)である。
E1.上記の式(1)に、「α」としてジョイント角α
1を入力し、「θ
offset」として位相角θ
offset1を入力したモデル式
E2.上記の式(1)に、「α」としてジョイント角α
2を入力し、「θ
offset」として位相角θ
offset2を入力したモデル式
【0063】
・転舵側クラッチ角算出部68が転舵側クラッチ角を算出する処理
転舵側クラッチ角算出部68が転舵側クラッチ角を算出する処理では、まず、操舵トルクセンサ36から入力を受けたトルクセンサ値Vtsを含む情報信号を参照する。そして、トルクセンサ値Vtsが、予め設定した転舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であるか否かを判定する。ここで、転舵側クラッチ角算出用トルク閾値は、転舵側クラッチ角を算出する処理を行うために適切なトルクとなる値に設定し、転舵側クラッチ角算出部68に記憶する。したがって、トルクセンサ値Vtsが転舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であれば、運転者がステアリングホイール32に加えている操舵トルクが、転舵側クラッチ角を算出する処理を行うために適切なトルクである。
【0064】
そして、トルクセンサ値Vtsが転舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であると判定すると、以下の処理を行う。
イグニッションスイッチがオフ状態となった時点における転舵モータ回転角を、ユニバーサルジョイント23の逆入力角tanθ
Inとして以下の式(2)に入力し、ユニバーサルジョイント23の逆出力角θ
outを算出する。なお、以下の式(2)は、各ユニバーサルジョイントの逆出力角を算出するためのモデルとして用いることが可能な、ユニバーサルジョイント逆出力角算出モデルを示す式である。
ここで、ユニバーサルジョイント逆出力角算出モデルは、例えば、車両の出荷前に行なう調整工程等において設定し、転舵側クラッチ角算出部68に記憶させておく。
【0066】
ここで、ユニバーサルジョイント23の逆出力角θ
outを算出する際には、上記の式(2)中に示す「α」が、ユニバーサルジョイント23の入力側の軸(転舵側中間シャフト21)とユニバーサルジョイント23の出力側の軸(ピニオンシャフト25)がなす角度となる。なお、以降の説明では、転舵側中間シャフト21とピニオンシャフト25とのなす角度αを、ユニバーサルジョイント23のジョイント角αと規定し、「ジョイント角α
4」と記載する場合がある。
したがって、ユニバーサルジョイント逆出力角算出モデルは、転舵輪側逆入力角と操舵輪側逆出力角の関係を示すモデル式となる。ここで、転舵輪側逆入力角は、転舵側ユニバーサルジョイントへ転舵輪24側から入力した角度であり、操舵輪側逆出力角は、転舵側ユニバーサルジョイントを介して転舵輪側逆入力角をステアリングホイール32側へ出力した角度である。
【0067】
また、ユニバーサルジョイント23の逆出力角θ
outを算出する際には、上記の式(2)中に示す「θ
offset」が、転舵側中間シャフト21に対するピニオンシャフト25のねじれ角を示す位相角となる。なお、以降の説明では、転舵側中間シャフト21に対するピニオンシャフト25のねじれ角を示す位相角を、ユニバーサルジョイント23の位相角θ
offsetと規定し、「位相角θ
offset4」と記載する場合がある。
次に、上記のように算出したユニバーサルジョイント23の逆出力角θ
outを、ユニバーサルジョイント19の逆入力角tanθ
Inとして上記の式(2)に入力し、ユニバーサルジョイント19の逆出力角θ
outを算出する。そして、ユニバーサルジョイント19の逆出力角θ
outを、転舵側クラッチ角θcl_outとして算出する。
【0068】
ここで、ユニバーサルジョイント19の逆出力角θ
outを算出する際には、上記の式(2)中に示す「α」が、ユニバーサルジョイント19の入力側の軸とユニバーサルジョイント19の出力側の軸がなす角度となる。ここで、ユニバーサルジョイント19の入力側の軸は、クラッチ出力シャフト17であり、ユニバーサルジョイント19の出力側の軸は、転舵側中間シャフト21である。なお、以降の説明では、クラッチ出力シャフト17と転舵側中間シャフト21とのなす角度αを、ユニバーサルジョイント19のジョイント角αと規定し、「ジョイント角α
3」と記載する場合がある。
また、ユニバーサルジョイント19の逆出力角θ
outを算出する際には、上記の式(2)中に示す「θ
offset」が、クラッチ出力シャフト17に対する転舵側中間シャフト21のねじれ角を示す位相角となる。なお、以降の説明では、クラッチ出力シャフト17に対する転舵側中間シャフト21のねじれ角を示す位相角を、ユニバーサルジョイント19の位相角θ
offsetと規定し、「位相角θ
offset3」と記載する場合がある。
【0069】
以上により、転舵側クラッチ角算出部68は、予め設定したユニバーサルジョイント逆出力角算出モデルに、転舵モータ角度センサ16が検出した転舵モータ回転角を入力して、転舵側クラッチ角θcl_outを算出する。
なお、上記の説明では、式(1)及び(2)を用いて処理を行ったが、これに限定するものではない。すなわち、例えば、現在操舵角と操舵側クラッチ角θcl_inとの関係を示すマップと、転舵モータ回転角と転舵側クラッチ角θcl_outとの関係を示すマップを用いて処理を行ってもよい。
【0070】
(転舵角算出部76が転舵輪24の転舵角を算出する処理)
以下、
図1から
図6を参照しつつ、
図7を用いて、転舵角算出部76が転舵輪24の転舵角を算出する具体的な処理について説明する。
図7は、転舵角算出部76が転舵輪24の転舵角を算出する処理を示すブロック図である。
転舵輪24の転舵角を算出する処理では、まず、操舵トルクセンサ36から入力を受けたトルクセンサ値Vtsを含む情報信号を参照する。そして、トルクセンサ値Vtsが、予め設定した転舵角算出用トルク閾値の範囲内であるか否かを判定する。ここで、転舵角算出用トルク閾値は、転舵角を算出する処理を行うために適切なトルクとなる値に設定し、転舵角算出部76に記憶する。したがって、トルクセンサ値Vtsが転舵角算出用トルク閾値の範囲内であれば、運転者がステアリングホイール32に加えている操舵トルクが、転舵角を算出する処理を行うために適切なトルクである。
【0071】
そして、トルクセンサ値Vtsが転舵角算出用トルク閾値の範囲内であると判定すると、以下の処理を行う。
イグニッションスイッチをオン状態とした時点において操舵角センサ34が検出した現在操舵角を、ユニバーサルジョイント7の入力角tanθ
Inとして上記の式(1)に入力する。これにより、ユニバーサルジョイント7の出力角θ
outを算出する。
次に、上記のように算出したユニバーサルジョイント7の出力角θ
outを、ユニバーサルジョイント11の入力角tanθ
Inとして上記の式(1)に入力し、ユニバーサルジョイント11の出力角θ
outを算出する。そして、ユニバーサルジョイント11の出力角θ
outを、操舵側クラッチ角θcl_inとして算出する。
【0072】
ここで、転舵輪24の転舵角を算出する処理では、クラッチ角偏差記憶部72が記憶しているクラッチ角偏差dθCLに、上記のように算出した操舵側クラッチ角θcl_inを加算する。これにより、転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outを算出(
図7中に示す「Pθcl_out=θcl_in+dθCL」)する。すなわち、転舵角算出部76は、転舵輪24の転舵角を算出する際に、クラッチ角偏差記憶部72から記憶しているクラッチ角偏差dθCLの情報を取得する。
そして、上記のように算出した転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outを、ユニバーサルジョイント19の入力角tanθ
Inとして上記の式(1)に入力し、ユニバーサルジョイント19の出力角θ
outを算出する。
【0073】
次に、上記のように算出したユニバーサルジョイント19の出力角θ
outを、ユニバーサルジョイント23の入力角tanθ
Inとして上記の式(1)に入力し、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outを算出する。
ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outを算出した後、この算出したユニバーサルジョイント23の出力角θ
outから、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)のオフセット成分を減算する。これにより、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outから各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)のオフセット成分による影響を除去して、転舵輪24の転舵角を算出する。
【0074】
ここで、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)のオフセット成分は、以下の式(3)で示される。なお、以下の式(3)は、各ユニバーサルジョイントのオフセット成分を算出するためのモデルとして用いることが可能な、ユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルを示す式である。また、ユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルが成立する原理については、後述する。
ここで、ユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルは、例えば、車両の出荷前に行なう調整工程等において設定し、転舵角算出部76に記憶させておく。
【0076】
したがって、ユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルは、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)の入力軸に対する出力軸のねじれ角を示す位相角を示すモデル式となる。
これに加え、転舵輪24の転舵角を算出する処理では、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)のオフセット成分を除算したユニバーサルジョイント23の出力角θ
outを、上述したトルクセンサ値Vtpに基づいて補正する。
ここで、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outの補正には、トルクセンサ値Vtpに基づく各シャフト及び各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)のねじれ角を用いる。なお、各シャフトとは、ステアリングシャフト42、操舵側中間シャフト9、クラッチ出力シャフト17、転舵側中間シャフト21、ピニオンシャフト25である。
【0077】
また、各シャフト及び各ユニバーサルジョイントのねじれ角は、以下の式(4)で示される。なお、以下の式(4)は、転舵輪24の転舵角を算出する際に、各シャフト及び各ユニバーサルジョイントのねじれ角による補正を行うためのモデルとして用いることが可能な、トルクセンサモデルを示す式である。
ねじれ角=トルクセンサ値Vtp[Nm]/各シャフト及び各ユニバーサルジョイントのねじり剛性[Nm/rad] … (4)
したがって、トルクセンサモデルは、ピニオン軸トルクセンサ46tが検出したピニオン軸トルクに基づく操舵トルクと、各ユニバーサルジョイントのねじり剛性と、各ユニバーサルジョイントの入力軸及び出力軸のねじり剛性との関係を示すモデル式となる。
【0078】
ここで、トルクセンサモデルは、例えば、車両の出荷前に行なう調整工程等において設定し、転舵角算出部76に記憶させておく。
なお、本実施形態では、一例として、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outを、各シャフト及び各ユニバーサルジョイントのねじれ角を用いて補正する際に、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outにねじれ角を加算する場合を説明する。
以上により、転舵角算出部76は、転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outが転舵側ユニバーサルジョイントを介して変化した変化角に基づいて、転舵輪24の転舵角を算出する。
また、本実施形態の転舵角算出部76は、予め設定した転舵側ユニバーサルジョイント出力角算出モデルに転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outを入力した値に基づいて、転舵輪24の転舵角を算出する。
【0079】
ここで、転舵側ユニバーサルジョイント出力角算出モデルは、以下に示す二つのモデル式(E3、E4)である。
E3.上記の式(1)に、「α」としてジョイント角α
3を入力し、「θ
offset」として位相角θ
offset3を入力したモデル式
E4.上記の式(1)に、「α」としてジョイント角α
4を入力し、「θ
offset」として位相角θ
offset4を入力したモデル式
したがって、操舵側ユニバーサルジョイント出力角算出モデルと、転舵側ユニバーサルジョイント出力角算出モデルは、上記の式(1)で示すユニバーサルジョイント出力角算出モデルに基づくモデル式である。
【0080】
また、本実施形態の転舵角算出部76は、転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outが転舵側ユニバーサルジョイントを介して変化した変化角から、各ユニバーサルジョイントのオフセット成分を減算した値に基づいて、転舵輪24の転舵角を算出する。
また、本実施形態の転舵角算出部76は、転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outが転舵側ユニバーサルジョイントを介して変化した変化角を、トルクセンサモデルを用いて算出したトルク伝達経路のねじれ角を用いて補正する。そして、この補正した値に基づいて、転舵輪24の転舵角を算出する。
【0081】
(EPS制御ブロック78の詳細な構成)
以下、
図1から
図7を参照しつつ、
図8及び
図9を用いて、EPS制御ブロック78の詳細な構成について説明する。
図8中に示すように、EPS制御ブロック78は、トルク比演算部80と、トルク比マップ生成部82と、トルク比マップ記憶部84と、入出力トルク比記憶部86と、アシストトルク算出部88を備える。なお、
図8は、EPS制御ブロック78の構成を示すブロック図である。
トルク比演算部80は、ステアリングホイール32の現在操舵角を含む情報信号と、転舵モータ回転角を含む情報信号と、トルクセンサ値Vtpを含む情報信号の入力を受ける。
【0082】
そして、トルク比演算部80は、入力を受けた各情報信号に基づいて、トルク伝達経路に入力された操舵角と、入力された操舵角に基づきトルク伝達経路から出力される出力角との比に基づくパラメータである入出力トルク比を演算する。そして、演算した入出力トルク比を含む情報信号を、トルク比マップ生成部82と、入出力トルク比記憶部86及びアシストトルク算出部88へ出力する。なお、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理については、後述する。
トルク比マップ生成部82は、ステアリングホイール32の現在操舵角を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、トルク比マップ生成部82は、トルク比演算部80から、入出力トルク比を含む情報信号の入力を受ける。
【0083】
そして、トルク比マップ生成部82は、トルク伝達経路に入力された現在操舵角と、現在操舵角に対応する入出力トルク比との関係を示す入出力トルク比マップを生成する。
具体的には、現在操舵角が0[°]〜180[°]まで変化する間、すなわち、現在操舵角が180度の変化幅で変化する間における、現在操舵角に対応する入出力トルク比を検出する。そして、現在操舵角が0[°]〜180[°]まで変化する間における入出力トルク比の変動を算出し、この算出した入出力トルク比の変動と現在操舵角とを対応させて、入出力トルク比マップを生成する。
ここで、入出力トルク比マップは、
図9中に示すように、横軸に現在操舵角(図中では、「操舵角」と記載する)を示し、縦軸に入出力トルク比(図中では、「トルク比」と記載する)を示すマップである。なお、
図9は、入出力トルク比マップを示す図である。
【0084】
また、
図9中に示すように、入出力トルク比マップは、現在操舵角が0[°]〜180[°]まで変化する間で、入出力トルク比の変化が一周期となるマップである。すなわち、現在操舵角に対する入出力トルク比は、現在操舵角が0[°]〜180[°]まで変化する間で一周期分の変動を生じる。
また、入出力トルク比マップの生成は、例えば、車両の出荷前に行なう処理や、車両の出荷後に行なう処理で行う。
トルク比マップ記憶部84は、トルク比マップ生成部82から、入出力トルク比マップを含む情報信号の入力を受ける。これに加え、トルク比マップ記憶部84は、クラッチ角偏差記憶部72から、クラッチ角偏差を更新した内容を含む情報信号の入力を受ける。
【0085】
そして、例えば、車両の出荷前に行なう調整工程時等、入出力トルク比マップを記憶していない状態では、トルク比マップ生成部82から入力を受けた情報信号に基づいて、入出力トルク比マップを記憶する。
また、トルク比マップ記憶部84は、クラッチ角偏差を更新した内容を含む情報信号の入力を受けると、トルク比マップ生成部82から入力を受けた情報信号に基づいて、記憶している入出力トルク比マップを更新する。
すなわち、トルク比マップ記憶部84は、クラッチ角偏差算出部70が算出したクラッチ角偏差dθCLが変化すると、記憶しているトルク比マップを、変化したクラッチ角偏差dθCLに対応する入出力トルク比マップに変更する。
入出力トルク比記憶部86は、トルク比演算部80から、入出力トルク比を含む情報信号の入力を受け、トルク比演算部80が演算した入出力トルク比を記憶する。
【0086】
また、入出力トルク比記憶部86は、トルク比演算部80が行なう処理に応じて、記憶している入出力トルク比を、トルク比演算部80が演算した入出力トルク比に変更する。なお、入出力トルク比記憶部86が記憶している入出力トルク比を変更する処理については、後述する。
アシストトルク算出部88は、ステアリングホイール32の現在操舵角を含む情報信号と、転舵モータ回転角を含む情報信号と、トルクセンサ値Vtpを含む情報信号と、車速を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、アシストトルク算出部88は、トルク比演算部80から、入出力トルク比を含む情報信号の入力を受ける。さらに、アシストトルク算出部88は、トルク比マップ記憶部84から、記憶している入出力トルク比マップを含む情報を取得する。また、アシストトルク算出部88は、入出力トルク比記憶部86から、記憶している入出力トルク比を含む情報を取得する。
【0087】
そして、アシストトルク算出部88は、入力を受けた各情報信号と、トルク比マップ記憶部84が記憶している入出力トルク比マップと、入出力トルク比記憶部86が記憶している入出力トルク比に基づいて、アシストトルクの指令値を算出する。そして、算出したアシストトルクの指令値を含む情報信号(図中では、「アシストトルク指令値」と示す)を、転舵モータ制御部4へ出力する。なお、アシストトルク算出部88の詳細な構成と、アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理についての説明は、後述する。
ここで、アシストトルクは、EPS制御中に、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に応じて、転舵輪24の転舵を転舵モータ2により補助(アシスト)するためのトルクである。
【0088】
また、アシストトルクの指令値を算出する際には、トルク比演算部80から入力を受けた情報信号が含む入出力トルク比または入出力トルク比記憶部86が記憶している入出力トルク比と、上述した入出力トルク比マップのうち、少なくとも一方を用いる。
すなわち、アシストトルク算出部88は、トルクセンサ値Vtpと、入出力トルク比と上述した入出力トルク比マップのうち少なくとも一方に基づいて、アシストトルクの指令値を算出する。
また、本実施形態のアシストトルク算出部88は、トルクセンサ値Vtpをトルク比演算部80が演算した入出力トルク比により補正して、アシストトルクの指令値を算出する。
【0089】
(アシストトルク算出部88の詳細な構成)
以下、
図1から
図9を参照しつつ、
図10を用いて、アシストトルク算出部88の詳細な構成について説明する。
図10は、アシストトルク算出部88の構成を示すブロック図である。
図10中に示すように、アシストトルク算出部88は、第一ハンドル端トルク変換部90と、ハンドル端アシストトルク算出部92と、第一ピニオン端トルク変換部94と、ハンドル側角速度変換部96と、操舵系摩擦制御部98を備える。これに加え、アシストトルク算出部88は、第二ピニオン端トルク変換部100と、ピニオン側角速度変換部102と、直進安定制御部104と、第二ハンドル端トルク変換部106を備える。さらに、アシストトルク算出部88は、慣性モーメント推定部108と、第三ハンドル端トルク変換部110と、慣性補償F/F制御部112と、第三ピニオン端トルク変換部114と、指令値合算部116を備える。
【0090】
第一ハンドル端トルク変換部90は、トルクセンサ値Vtpと入出力トルク比に基づき、トルクセンサ値Vtpを、運転者がステアリングホイール32に加えているトルク(ハンドル端トルク)に変換する。そして、第一ハンドル端トルク変換部90は、変換したハンドル端トルクを含む情報信号を、ハンドル端アシストトルク算出部92へ出力する。
ハンドル端アシストトルク算出部92は、アシスト特性マップを記憶しており、ハンドル端トルクと車速をアシスト特性マップに入力して、ハンドル端トルクに応じたアシストトルク(ハンドル端アシストトルク)を算出する。そして、ハンドル端アシストトルク算出部92は、算出したハンドル端アシストトルクを含む情報信号を、第一ピニオン端トルク変換部94へ出力する。
【0091】
第一ピニオン端トルク変換部94は、ハンドル端アシストトルクと入出力トルク比に基づき、ハンドル端アシストトルクをピニオン軸トルクに変換して、第一ピニオン端トルクを算出する。そして、第一ピニオン端トルク変換部94は、算出した第一ピニオン端トルクを含む情報信号を、指令値合算部116へ出力する。これにより、転舵モータ2から出力するアシストトルクが、ステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、ハンドル端アシストトルクを入出力トルク比に換算して変換する。
【0092】
なお、第一ピニオン端トルク変換部94は、本実施形態のように、アシストトルクを出力するアクチュエータを転舵モータ2(転舵側アクチュエータ)とした場合にのみ、上述した処理を行う。したがって、本実施形態と異なり、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8(操舵側アクチュエータ)とした場合には、上述した処理を行わない。すなわち、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合、第一ピニオン端トルク変換部94は、ハンドル端アシストトルク算出部92から入力を受けた情報信号を、変換せずに指令値合算部116へ出力する。
ハンドル側角速度変換部96は、現在操舵角θHを操舵角速度に変換する。なお、現在操舵角θHの操舵角速度への変換は、例えば、予め設定した時間内における現在操舵角θHの変化量(変化角度)を参照して行なう。そして、ハンドル側角速度変換部96は、変換した操舵角速度を含む情報信号を、操舵系摩擦制御部98へ出力する。
【0093】
操舵系摩擦制御部98は、操舵角速度に基づき、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に対して出力する操舵系摩擦成分を算出する。なお、操舵系摩擦成分とは、操舵角速度の増加を抑制するために、ステアリングホイール32へ付加するトルクに応じた値である。そして、操舵系摩擦制御部98は、算出した操舵系摩擦成分を含む情報信号を、第二ピニオン端トルク変換部100へ出力する。
第二ピニオン端トルク変換部100は、操舵系摩擦成分と入出力トルク比に基づき、操舵系摩擦成分をピニオン軸トルクに変換して、第二ピニオン端トルクを算出する。そして、第二ピニオン端トルク変換部100は、算出した第二ピニオン端トルクを含む情報信号を、指令値合算部116へ出力する。これにより、転舵モータ2から出力するアシストトルクが、ステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、操舵系摩擦成分を入出力トルク比に換算して変換する。
【0094】
なお、第二ピニオン端トルク変換部100は、第一ピニオン端トルク変換部94と同様、本実施形態のように、アシストトルクを出力するアクチュエータを転舵モータ2とした場合にのみ、上述した処理を行う。したがって、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合、第二ピニオン端トルク変換部100は、操舵系摩擦制御部98から入力を受けた情報信号を、変換せずに指令値合算部116へ出力する。
ピニオン側角速度変換部102は、転舵モータ回転角をピニオン角速度に変換する。なお、転舵モータ回転角のピニオン角速度への変換は、例えば、予め設定した時間内における転舵モータ回転角の変化量(変化角度)を参照して行なう。そして、ピニオン側角速度変換部102は、変換したピニオン角速度を含む情報信号を、直進安定制御部104と慣性モーメント推定部108へ出力する。
【0095】
直進安定制御部104は、ピニオン角速度に基づき、ピニオン軸44の回転に応じて出力する直進安定成分を算出する。なお、直進安定成分とは、ピニオン角速度の増加を抑制するために、ピニオン軸44へ付加するトルクに応じた値である。そして、直進安定制御部104は、算出した直進安定成分を含む情報信号を、第二ハンドル端トルク変換部106へ出力する。
第二ハンドル端トルク変換部106は、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合にのみ、以下に記載する処理を行う。したがって、本実施形態のように、アシストトルクを出力するアクチュエータを転舵モータ2とした場合、第二ハンドル端トルク変換部106は、直進安定制御部104から入力を受けた情報信号を、変換せずに指令値合算部116へ出力する。
【0096】
アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合、第二ハンドル端トルク変換部106は、直進安定成分と入出力トルク比に基づき、直進安定成分をハンドル端トルクに変換する。そして、第二ハンドル端トルク変換部106は、変換したハンドル端トルクを含む情報信号を、指令値合算部116へ出力する。これにより、反力モータ8から出力するアシストトルクが、トルク伝達経路のうちユニバーサルジョイントよりも転舵輪24側で発生するトルクに応じた値となるように、直進安定成分を入出力トルク比に換算して変換する。
慣性モーメント推定部108は、ピニオン角速度に基づき、トルク伝達経路を通じて伝達される慣性モーメントの推定値(慣性モーメント推定値)を算出する。そして、慣性モーメント推定部108は、算出した慣性モーメント推定値を含む情報信号を、第三ハンドル端トルク変換部110へ出力する。
【0097】
なお、本実施形態では、一例として、慣性モーメント推定値を算出する際に用いる入出力トルク比を、以下の手順で演算する。
まず、上記の式(1)で示すユニバーサルジョイント出力角算出モデルに、操舵角センサ34が検出した現在操舵角θHを入力した値に基づき、ユニバーサルジョイントのピニオン角を算出する。そして、算出したユニバーサルジョイントのピニオン角を機械角で45[deg]位相変位させて位相補正値を算出し、この算出した位相補正値に基づいて、入出力トルク比を演算する。
具体的には、トルクセンサ値Vtpを、機械角で−45[deg]位相変位(45[deg]遅延)させて、上記の位相補正値を算出し、この算出した位相補正値に基づいて、入出力トルク比を演算する。
【0098】
ここで、上記のように、トルクセンサ値Vtpを−45[deg]位相変位させる理由は、ピニオン角と操舵角との偏差である入出力角偏差と操舵トルクとの間には、操舵角(機械角)に換算して45[deg]の位相遅れが発生するためである。
第三ハンドル端トルク変換部110は、ピニオン角速度と、慣性モーメント推定値と、入出力トルク比に基づき、ステアリングホイール32で発生する慣性モーメント推定値(ハンドル端慣性モーメント推定値)を算出する。なお、ハンドル端慣性モーメント推定値の算出は、例えば、ピニオン角速度と、慣性モーメント推定値と、入出力トルク比を乗算して行なう。そして、第三ハンドル端トルク変換部110は、算出したハンドル端慣性モーメント推定値を含む情報信号を、慣性補償F/F制御部112へ出力する。
【0099】
慣性補償F/F制御部112は、ハンドル端慣性モーメント推定値に基づき、転舵輪24側からトルク伝達経路を通じてステアリングホイール32へ伝達される慣性モーメントを補償するための、慣性モーメント補償トルクを算出する。そして、慣性補償F/F制御部112は、算出した慣性モーメント補償トルクを含む情報信号を、第三ピニオン端トルク変換部114へ出力する。これにより、転舵モータ2から出力するアシストトルクを、運転者がステアリングホイール32から伝達されるトルクとなるように変換する。
すなわち、慣性補償F/F制御部112は、ピニオン側角速度変換部102がピニオン角速度に変換した転舵モータ回転角を用いたフィードフォワード制御(F/F制御)を用いて、ステアリングホイール32へ伝達される慣性モーメントを補償する制御を行なう。
【0100】
第三ピニオン端トルク変換部114は、慣性モーメント補償トルクと入出力トルク比に基づき、慣性モーメント補償トルクをピニオン軸トルクに変換して、第三ピニオン端トルクを算出する。そして、第三ピニオン端トルク変換部114は、算出した第三ピニオン端トルクを含む情報信号を、指令値合算部116へ出力する。これにより、転舵モータ2から出力するアシストトルクが、ステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、慣性モーメント補償トルクを入出力トルク比に換算して変換する。
なお、第三ピニオン端トルク変換部114は、第一ピニオン端トルク変換部94と同様、本実施形態のように、アシストトルクを出力するアクチュエータを転舵モータ2とした場合にのみ、上述した処理を行う。したがって、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合、第三ピニオン端トルク変換部114は、慣性補償F/F制御部112から入力を受けた情報信号を、変換せずに指令値合算部116へ出力する。
【0101】
指令値合算部116は、第一ピニオン端トルクと、第二ピニオン端トルクと、第三ピニオン端トルクと、直進安定成分を合算して、アシストトルク算出部88から転舵モータ制御部4へ最終的に出力するアシストトルク指令値である、最終指令値を算出する。
すなわち、本実施形態の指令値合算部116は、以下の(A1)から(D1)を合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する。
(A1)転舵モータ2から出力するアシストトルクが、ステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、ハンドル端アシストトルクを入出力トルク比に換算して変換した指令値である第一ピニオン側変換指令値
【0102】
(B1)転舵モータ2から出力するアシストトルクが、ステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、操舵系摩擦成分を入出力トルク比に換算して変換した指令値である第二ピニオン側変換指令値
(C1)転舵モータ2から出力するアシストトルクが、ステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、慣性モーメント補償トルクを入出力トルク比に換算して変換した指令値である第三ピニオン側変換指令値
(D1)ピニオン角速度の増加を抑制するために、トルク伝達経路のうちピニオン軸44へ付加するトルクに応じて算出した指令値である直進安定成分
【0103】
(ユニバーサルジョイント出力角算出モデルが成立する原理)
以下、
図1から
図10を参照しつつ、
図11から
図13を用いて、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルが成立する原理について説明する。
図11は、単体のユニバーサルジョイントが有する回転軸と、回転軸周りの回転運動との関係を示す図である。なお、
図11中には、説明のために、ステアリングホイール32を模式的に示している。すなわち、
図11中に示す単体のユニバーサルジョイントは、ユニバーサルジョイント7を示す。
図11中に示すように、ユニバーサルジョイントは、三本の回転軸(x軸、y軸、z軸)を有しており、各回転軸周りの回転行列Rは、それぞれ、以下の式(5)〜(7)で示される。なお、式(5)は、x軸周りの回転行列R(x,θ)を示す式であり、式(6)は、y軸周りの回転行列R(y,θ)を示す式であり、式(7)は、z軸周りの回転行列R(z,θ)を示す式である。
【0105】
そして、上記の式(5)〜(7)中に示す各回転軸周りの回転行列R(x,θ)、R(y,θ)、R(z,θ)は、以下の式(8)に示すように、一つの回転行列Rに変換することが可能である。
【0107】
また、
図12中に示すように、入力側の軸の回転を
図11中に示すθ
0から記号「φ」で置き換え、z軸を基準とした出力側の軸の傾斜角を記号「θ
z」で規定し、出力側の軸の回転角(以降の説明では、「出力角」と記載する場合がある)を記号「Ψ」で規定する。これにより、ユニバーサルジョイントにおける姿勢角の定義は、以下の式(9)〜(11)で示される。なお、
図12は、ユニバーサルジョイントにおける入力側の軸と出力側の軸との関係を示す図である。また、
図12中には、説明のために、入力側の軸から出力側の軸への力の流れを、直線の矢印で示している。
【0109】
ここで、上記の式(9)〜(11)に、以下の式(12)及び(13)で示す拘束条件を追加すると、ユニバーサルジョイントへの入力角tanθ
0と出力角Ψとの関係は、以下の式(14)で示される。
【0111】
そして、上記の式(14)において、出力角Ψをユニバーサルジョイントの出力角θ
outに置き換え、入力角tanθ
0をユニバーサルジョイントの入力角tanθ
Inに置き換えると、以下の式(15)が成立する。
【0113】
ここで、上記の式(15)は、ユニバーサルジョイントの位相角θ
offsetが存在していない状態における、ユニバーサルジョイントの入力角tanθ
Inと出力角θ
outとの関係を示す式となる。
また、車両の構成としては、ステアリングホイール32と転舵輪24との間における各種構成部品のレイアウト等に応じて、各ユニバーサルジョイントの入力軸と出力軸を直列に配列することは少ない。このため、ユニバーサルジョイントの位相角θ
offsetが存在する構成が一般的である。
【0114】
すなわち、
図13中に示すように、一般的な構成の車両では、ユニバーサルジョイントの入力角tanθ
Inと出力角θ
outとの間に、位相角θ
offsetが存在することとなる。なお、
図13は、ユニバーサルジョイントにおける入力側の軸及び出力側の軸と、位相角との関係を示す図である。また、
図13中には、説明のために、入力側の軸から出力側の軸への力の流れを、直線の矢印で示している。
したがって、上記の式(15)で示す、ユニバーサルジョイントの入力角tanθ
Inと出力角θ
outとの関係に対して、入力角tanθ
Inに位相角θ
offsetを加算すると、上記の式(1)で示されるユニバーサルジョイント出力角算出モデルが成立する。
【0115】
(ユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルが成立する原理)
以下、
図1から
図13を参照して、ユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルが成立する原理について説明する。
転舵輪24の転舵角を算出する際には、上述したように、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outから、各ユニバーサルジョイントのオフセット成分による影響を除去する。したがって、上記の式(15)において、ユニバーサルジョイントの入力角tanθ
In及び出力角θ
outを0[°]とすると、以下の式(16)からオフセット成分を減算することにより、各ユニバーサルジョイントのオフセット成分による影響を除去する。
【0117】
したがって、上記の式(15)で示す、ユニバーサルジョイントの入力角tanθ
Inと出力角θ
outとの関係から、ユニバーサルジョイントのオフセット成分を減算すると、上記の式(3)で示されるユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルが成立する。
【0118】
(転舵側前回処理内容記憶部MA、反力側前回処理内容記憶部MB)
以下、
図1から
図13を参照して、転舵側前回処理内容記憶部MAの構成と、反力側前回処理内容記憶部MBの構成について説明する。
転舵側前回処理内容記憶部MAは、例えば、EEPROM(Electrically Erasable Programmable Read‐Only Memory)を用いて形成する。
また、転舵側前回処理内容記憶部MAは、エンジンコントローラ52から、エンジンの状態を含む情報信号の入力を受け、さらに、操舵角センサ34から、ステアリングホイール32の現在操舵角を含む情報信号の入力を受ける。これに加え、転舵側前回処理内容記憶部MAは、クラッチ角偏差算出部70から、クラッチ角偏差を含む情報信号の入力を受け、さらに、転舵角算出部76から、転舵輪24の転舵角を含む情報信号の入力を受ける。
【0119】
そして、転舵側前回処理内容記憶部MAは、イグニッションスイッチがオフ状態となった時点における、現在操舵角と、クラッチ角偏差と、転舵輪24の転舵角を記憶する。
反力側前回処理内容記憶部MBは、転舵側前回処理内容記憶部MAと同様、例えば、EEPROMを用いて形成する。
また、反力側前回処理内容記憶部MBは、転舵側前回処理内容記憶部MAと同様、エンジンコントローラ52、操舵角センサ34、クラッチ角偏差算出部70、転舵角算出部76から、それぞれ、情報信号の入力を受ける。
そして、反力側前回処理内容記憶部MBは、転舵側前回処理内容記憶部MAと同様、イグニッションスイッチがオフ状態となった時点における、現在操舵角と、クラッチ角偏差と、転舵輪24の転舵角を記憶する。
【0120】
(指令演算部54が行なう処理)
次に、
図1から
図13を参照しつつ、
図14から
図16を用いて、指令演算部54が行なう処理について説明する。
指令演算部54が行なう処理としては、例えば、車両の出荷前に行なう処理と、出荷後の車両に対して行なう処理がある。
【0121】
・車両の出荷前に行なう処理
図14は、車両の出荷前に行なう処理を示すフローチャートである。
指令演算部54が車両の出荷前に行なう処理としては、ジョイント角αを算出及び記憶する処理と、位相角θ
offsetを記憶する処理がある。
図14中に示すように、車両の出荷前に行なう処理を開始(START)すると、まず、ステップS10の処理を行う。
ステップS10では、例えば、整備工場等において、ステアリングホイール32の操舵角と転舵輪24の実転舵角を、共に中立位置へ調整(図中に示す「操舵角と実転舵角を中立位置に調整」)する。ステップS10において、操舵角及び実転舵角を中立位置へ調整すると、車両の出荷前に指令演算部54が行なう処理は、ステップS20へ移行する。
【0122】
ステップS20では、ジョイント角α
1〜α
4を算出し、操舵側クラッチ角算出部66、転舵側クラッチ角算出部68及び転舵角算出部76に記憶(図中に示す「ジョイント角αを算出・記憶」)する。ステップS20において、ジョイント角αを算出及び記憶すると、車両の出荷前に指令演算部54が行なう処理は、ステップS30へ移行する。
ステップS30では、位相角θ
offset1〜θ
offset4を、操舵側クラッチ角算出部66、転舵側クラッチ角算出部68及び転舵角算出部76に記憶(図中に示す「位相角θ
offsetを記憶」)する。ステップS30において、位相角θ
offsetを記憶すると、車両の出荷前に指令演算部54が行なう処理は、ステップS40へ移行する。
ステップS40では、操舵角に対する転舵モータ回転角の偏差を、操舵角と転舵モータ回転角との関係として、中立位置記憶部60に記憶(図中に示す「中立位置を記憶」)する。ステップS40において、操舵角と転舵モータ回転角との関係を記憶すると、車両の出荷前に指令演算部54が行なう処理は終了(END)する。
【0123】
・出荷後の車両に対して行なう処理
出荷後の車両に対して指令演算部54が行なう処理としては、クラッチ角偏差を算出・記憶する処理と、転舵輪24の転舵角を算出する処理と、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理がある。
図15は、出荷後の車両に対して行なう処理のうち、クラッチ角偏差を算出・記憶する処理を示すフローチャートである。なお、指令演算部54は、予め設定した周期(例えば、5[ms])で、以下に説明する処理を行う。
図15中に示すように、クラッチ角偏差を算出する処理を開始(START)すると、まず、ステップS100の処理を行う。
【0124】
ステップS100では、イグニッションスイッチがオフ状態であるか否かを判定する処理(図中に示す「IGN−OFF?」)を行う。
ステップS100において、イグニッションスイッチがオフ状態である(図中に示す「Yes」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS110へ移行する。
一方、ステップS100において、イグニッションスイッチがオフ状態ではない(図中に示す「No」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS100の処理を繰り返す。
【0125】
ステップS110では、クラッチ状態切り替え部64により、クラッチ6を連結状態に切り替えるためのクラッチ電流指令をクラッチ6へ出力する。これに加え、クラッチ6へ出力したクラッチ駆動電流を参照して、クラッチ6が締結状態(滑り締結状態を含まない完全締結状態)であるか否かを判定する処理(図中に示す「クラッチ締結?」)を行う。
ステップS110において、クラッチ6が締結状態である(図中に示す「Yes」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS120へ移行する。
一方、ステップS110において、クラッチ6が締結状態ではない(図中に示す「No」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS110の処理を繰り返す。
【0126】
ステップS120では、トルクセンサ値Vtsが操舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であるか否かを判定する処理(図中に示す「Vtsが操舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内?」)を行う。
ステップS120において、トルクセンサ値Vtsが操舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内である(図中に示す「Yes」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS130へ移行する。
一方、ステップS120において、トルクセンサ値Vtsが操舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲外である(図中に示す「No」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS120の処理を繰り返す。
【0127】
ステップS130では、操舵側クラッチ角算出部66により、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルを用いて、操舵側クラッチ角θcl_inを算出(図中に示す「操舵側クラッチ角θcl_inを算出」)する処理を行う。ステップS130において、操舵側クラッチ角θcl_inを算出すると、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS140へ移行する。
ステップS140では、トルクセンサ値Vtsが転舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内であるか否かを判定する処理(図中に示す「Vtsが転舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内?」)を行う。
ステップS140において、トルクセンサ値Vtsが転舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲内である(図中に示す「Yes」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS150へ移行する。
【0128】
一方、ステップS140において、トルクセンサ値Vtsが転舵側クラッチ角算出用トルク閾値の範囲外である(図中に示す「No」)と判定した場合、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS140の処理を繰り返す。
ステップS150では、転舵側クラッチ角算出部68により、ユニバーサルジョイント逆出力角算出モデルを用いて、転舵側クラッチ角θcl_outを算出(図中に示す「転舵側クラッチ角θcl_outを算出」)する処理を行う。ステップS150において、転舵側クラッチ角θcl_outを算出すると、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS160へ移行する。
【0129】
ステップS160では、ステップS150で算出した転舵側クラッチ角θcl_outから、ステップS130で算出した操舵側クラッチ角θcl_inを減算する。これにより、ステップS160では、クラッチ角偏差算出部70が、クラッチ角偏差dθCLを算出(図中に示す「クラッチ角偏差dθCLを算出」)する処理を行う。ステップS160において、クラッチ角偏差dθCLを算出すると、クラッチ角偏差を算出する処理は、ステップS170へ移行する。
ステップS170では、クラッチ角偏差記憶部72が、ステップS160で算出したクラッチ角偏差dθCLを記憶(図中に示す「クラッチ角偏差dθCLを記憶」)する処理を行う。ステップS170において、クラッチ角偏差dθCLを記憶すると、クラッチ角偏差を算出する処理は終了(END)する。
【0130】
・転舵輪24の転舵角を算出する処理と、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理
図16は、出荷後の車両に対して行なう処理のうち、転舵輪24の転舵角を算出する処理と、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理を示すフローチャートである。
図16中に示すフローチャートは、イグニッションスイッチがオフ状態からオン状態となると開始(START)し、まず、ステップS200の処理を行う。
ステップS200では、トルクセンサ値Vtsが転舵角算出用トルク閾値の範囲内であるか否かを判定する処理(図中に示す「Vtsが転舵角算出用トルク閾値の範囲内?」)を行う。
【0131】
ステップS200において、トルクセンサ値Vtsが転舵角算出用トルク閾値の範囲内である(図中に示す「Yes」)と判定した場合、転舵輪24の転舵角を算出する処理は、ステップS210へ移行する。
一方、ステップS200において、トルクセンサ値Vtsが転舵角算出用トルク閾値の範囲外である(図中に示す「No」)と判定した場合、転舵輪24の転舵角を算出する処理は、ステップS200の処理を繰り返す。
【0132】
ステップS210では、イグニッションスイッチをオン状態とした時点の現在操舵角を、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルに入力して、ユニバーサルジョイント11の出力角θ
outを、操舵側クラッチ角θcl_inとして算出する。これにより、ステップS210では、操舵側ユニバーサルジョイントの出力角を算出(図中に示す「操舵側ユニバーサルジョイントの出力角を算出」)する処理を行う。ステップS210において、操舵側ユニバーサルジョイントの出力角を算出すると、転舵輪24の転舵角を算出する処理は、ステップS220へ移行する。
【0133】
ステップS220では、ステップS210で算出した操舵側ユニバーサルジョイントの出力角である操舵側クラッチ角θcl_inに、ステップS170で記憶したクラッチ角偏差dθCLを加算する。これにより、ステップS220では、転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outを算出(図中に示す「転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outを算出」)する処理を行う。ステップS220において、転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outを算出すると、転舵輪24の転舵角を算出する処理は、ステップS230へ移行する。
【0134】
ステップS230では、ステップS220で算出した転舵角算出用転舵側クラッチ角Pθcl_outを、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルに入力して、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outを算出する。これにより、ステップS230では、転舵側ユニバーサルジョイントの出力角を算出(図中に示す「転舵側ユニバーサルジョイントの出力角を算出」)する処理を行う。ステップS230において、転舵側ユニバーサルジョイントの出力角を算出すると、転舵輪24の転舵角を算出する処理は、ステップS240へ移行する。
【0135】
ステップS240では、ステップS230で算出したユニバーサルジョイント23の出力角θ
outから、ユニバーサルジョイントオフセット成分算出モデルに基づくオフセット成分を減算(図中に示す「オフセット成分を減算」)する処理を行う。これにより、ステップS240では、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outから各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)のオフセット成分による影響を除去する。ステップS240において、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outからオフセット成分を減算すると、転舵輪24の転舵角を算出する処理は、ステップS250へ移行する。
【0136】
ステップS250では、ステップS240オフセット成分を減算したユニバーサルジョイント23の出力角θ
outを、トルクセンサモデルを用いて補正(図中に示す「トルクセンサモデルにより補正」)する処理を行う。ステップS250において、ユニバーサルジョイント23の出力角θ
outをトルクセンサモデルにより補正すると、転舵輪24の転舵角を算出する処理は、ステップS260へ移行する。そして、転舵輪24の転舵角を算出する処理から、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理へ移行する。
ステップS260では、ステップS210で用いた現在操舵角とステップS250で補正した出力角θ
outとの関係と、上述したステップS40で中立位置記憶部60に記憶した操舵角と転舵モータ回転角との関係を参照する。そして、ステップS210で用いた現在操舵角とステップS250で補正した出力角θ
outとの偏差である出荷後偏差と、中立位置記憶部60に記憶した偏差である出荷前偏差が異なるか否かを判定(図中に示す「出荷後偏差≠出荷前偏差?」)する処理を行う。
【0137】
ステップS260において、出荷後偏差と出荷前偏差が異なる(図中に示す「Yes」)と判定した場合、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理は、ステップS270へ移行する。
一方、ステップS260において、出荷後偏差と出荷前偏差が等しい(図中に示す「No」)と判定した場合、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理は、ステップS280へ移行する。
ステップS270では、ステップS40で中立位置記憶部60に記憶した操舵角と転舵モータ回転角との関係を、ステップS250で補正した出荷後偏差に基づく関係に補正(図中に示す「中立位置を補正」)する処理を行う。ステップS270において、中立位置記憶部60に記憶した操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正すると、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理は、ステップS290へ移行する。
【0138】
ステップS280では、ステップS40で中立位置記憶部60に記憶した操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正せずに維持(図中に示す「中立位置を維持」)する処理を行う。ステップS280において、中立位置記憶部60に記憶した操舵角と転舵モータ回転角との関係を維持すると、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理は、ステップS290へ移行する。
ステップS290では、クラッチ状態切り替え部64により、クラッチ6を開放状態に切り替えるためのクラッチ電流指令をクラッチ6へ出力(図中に示す「クラッチ開放指令を出力」)を行う。ステップS290において、クラッチ6を開放状態に切り替えるためのクラッチ電流指令をクラッチ6へ出力すると、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正する処理は終了(END)する。
【0139】
(トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理)
以下、
図1から
図16を参照しつつ、
図17を用いて、EPS制御ブロック78が行なう処理のうち、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理について説明する。
図17は、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理を示すフローチャートである。
図17中に示すフローチャートを開始(START)すると、まず、ステップS300の処理として、イグニッションスイッチをオン状態に維持しつつ、クラッチ6を締結状態(図中に示す「クラッチ締結」)とする処理を行う。なお、ステップS300では、クラッチ6を、滑り締結状態を含まない完全締結状態とする処理を行う。ステップS300において、クラッチ6を締結状態とすると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS310へ移行する。
【0140】
ステップS310では、クラッチ角偏差記憶部72が記憶しているクラッチ角偏差が、最新のクラッチ角偏差dθCLに更新されているか否かを判定する処理(図中に示す「クラッチ角偏差更新済み?」)を行う。
ステップS310において、クラッチ角偏差dθCLが更新されていない(図中に示す「No」)と判定した場合、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS320へ移行する。
一方、ステップS310において、クラッチ角偏差dθCLが更新されている(図中に示す「Yes」)と判定した場合、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS340へ移行する。
【0141】
ステップS320では、クラッチ角偏差算出部70によりクラッチ角偏差dθCLを算出(図中に示す「クラッチ角偏差算出」)する処理を行う。ステップS320において、クラッチ角偏差dθCLを算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS330へ移行する。なお、クラッチ角偏差dθCLを算出する処理としては、例えば、イグニッションスイッチをオン状態としてクラッチ6を締結状態とした時点の現在操舵角及び転舵モータ回転角を用いる点を除き、上述したステップS120〜S160と同様の処理を用いる。
【0142】
ステップS330では、クラッチ角偏差記憶部72に記憶しているクラッチ角偏差を、ステップS320で算出したクラッチ角偏差dθCLに更新(図中に示す「クラッチ角偏差更新」)する処理を行う。ステップS330において、クラッチ角偏差dθCLを更新すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS310へ移行する。なお、クラッチ角偏差dθCLを更新する処理としては、例えば、上述したステップS170と同様の処理を用いる。
ステップS340では、操舵角センサ34により、クラッチ6を締結状態とした時点の現在操舵角θHを検出(図中に示す「現在操舵角検出」)する処理を行う。ステップS340において、現在操舵角θHを検出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS350へ移行する。
【0143】
ステップS350では、転舵角算出部76により、クラッチ6を締結状態とした時点における転舵輪24の転舵角を、ピニオン角の現在の推定値として算出(図中に示す「現在ピニオン角推定」)する処理を行う。ステップS350において、ピニオン角の現在の推定値を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS360へ移行する。なお、以降の説明では、ステップS350で算出したピニオン角の現在の推定値を、「現在ピニオン角f(θH)」と示す場合がある。また、ピニオン角の現在の推定値を算出する処理としては、上述したステップS200〜S250と同様の処理を用いる。
【0144】
ステップS360では、ユニバーサルジョイント7の出力角θ
outを算出するためのユニバーサルジョイント出力角算出モデルに対し、現在操舵角θHに仮想変位角ΔθHを加算して、仮想操舵角を入力(図中に示す「仮想操舵角入力」)する処理を行う。ステップS360において、ユニバーサルジョイント7の出力角θ
outを算出するためのユニバーサルジョイント出力角算出モデルに仮想操舵角を入力すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS370へ移行する。なお、以降の説明では、ステップS360で入力した仮想操舵角を、「θH+ΔθH」と示す場合がある。
ここで、仮想変位角ΔθHは、予め設定した微小時間Δt(例えば、5[ms])の間における操舵角の変化量に対応するパラメータである。また、仮想変位角ΔθHと微小時間Δtとの関係は、微小時間Δtの間における操舵角の角速度を「ωθH」と定義すると、以下の式(17)で示される。
【0146】
ステップS370では、転舵角算出部76により、仮想操舵角θH+ΔθHを入力したユニバーサルジョイント出力角算出モデルに基づく転舵輪24の転舵角を、ピニオン角の仮想の推定値として算出(図中に示す「仮想ピニオン角推定」)する処理を行う。ステップS370において、ピニオン角の仮想の推定値を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS380へ移行する。なお、以降の説明では、ステップS370で算出したピニオン角の仮想の推定値を、「仮想ピニオン角f(θH+ΔθH)」と示す場合がある。
【0147】
ステップS380では、ピニオン角の偏差であるピニオン角偏差を算出(図中に示す「ピニオン角偏差算出」)する処理を行う。ここで、ピニオン角偏差は、ステップS370で算出した仮想ピニオン角f(θH+ΔθH)から、ステップS350で算出した現在ピニオン角f(θH)を減算して算出する。ステップS380において、ピニオン角偏差を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS390へ移行する。なお、以降の説明では、ステップS380で算出したピニオン角偏差を、「ΔθP」と示す場合がある。
ここで、ピニオン角偏差ΔθPは、予め設定した微小時間Δtの間におけるピニオン角の変化量に対応するパラメータである。また、ピニオン角偏差ΔθPと微小時間Δtとの関係は、微小時間Δtの間におけるピニオン角の角速度を「ωθP」と定義すると、以下の式(18)で示される。
【0149】
ステップS390では、仮想変位角ΔθHとピニオン角偏差ΔθPとの偏差比である入出力偏差比を算出(図中に示す「入出力偏差比算出」)する処理を行う。ここで、入出力偏差比は、ステップS380で算出したピニオン角偏差ΔθPを、ステップS360の処理で用いた仮想変位角ΔθHにより除算して算出する。ステップS390において、入出力偏差比を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS400へ移行する。なお、以降の説明では、ステップS390で算出した入出力偏差比を、「ΔθP/ΔθH」と示す場合がある。
ここで、入出力偏差比ΔθP/ΔθHは、以下の式(19)に示すように、微小時間Δtの間における操舵角の角速度ωθHとピニオン角の角速度ωθPとの速度比に応じたパラメータである。このため、上述したステップS360で仮想変位角ΔθHを用いることにより、ユニバーサルジョイント出力角算出モデルを用いて、角速度ωθHと角速度ωθPとの速度比を算出することが可能となる。
【0151】
すなわち、仮想操舵角θH+ΔθHをユニバーサルジョイント出力角算出モデルに入力して、仮想ピニオン角f(θH+ΔθH)を算出することが可能である。これは、現在操舵角θHをユニバーサルジョイント出力角算出モデルに入力して現在ピニオン角f(θH)を算出する処理に対応する。
したがって、仮想操舵角θH+ΔθHから現在操舵角θHを減算して仮想変位角ΔθHを算出する処理は、仮想ピニオン角f(θH+ΔθH)から現在ピニオン角f(θH)を減算してピニオン角偏差ΔθPを算出する処理に対応する。
【0152】
ステップS400では、ステップS390で算出した入出力偏差比ΔθP/ΔθHの逆数を演算して、入出力偏差比ΔθP/ΔθHを入出力トルク比に変換(図中に示す「入出力トルク比に変換」)する処理を行う。すなわち、ステップS400では、以下の式(20)により、入出力トルク比T
ratioを算出する。ステップS400において、入出力トルク比T
ratioを算出すると、入出力トルク比を演算する処理は終了(END)する。
T
ratio=1/(ΔθP/ΔθH) … (20)
ここで、角速度ωθHと角速度ωθPとの速度比は、入出力トルク比T
ratioの逆数となるため、入出力偏差比ΔθP/ΔθHに基づいて算出した入出力トルク比T
ratioを用いて、トルク伝達経路におけるトルクの増幅率を推定することが可能となる。
【0153】
(アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理)
以下、
図1から
図17を参照しつつ、
図18を用いて、本実施形態のアシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理について説明する。
図18は、アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理を示すフローチャートである。なお、アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理は、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算した状態で開始する。
図18中に示すフローチャートを開始(START)すると、ステップS500において、第一ハンドル端トルク変換部90により、トルクセンサ値Vtpをハンドル端トルクに変換(図中に示す「トルクセンサ値をハンドル端トルクに変換」)する処理を行う。ステップS500において、トルクセンサ値Vtpをハンドル端トルクに変換すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS510へ移行する。
【0154】
ステップS510では、ハンドル端アシストトルク算出部92によりハンドル端アシストトルクを算出(図中に示す「ハンドル端アシストトルク算出」)する処理を行う。ステップS510において、ハンドル端アシストトルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS520へ移行する。
ステップS520では、第一ピニオン端トルク変換部94により、ハンドル端アシストトルクをピニオン軸トルクに変換して、第一ピニオン端トルクを算出(図中に示す「第一ピニオン端トルクに変換」)する処理を行う。ステップS520において、第一ピニオン端トルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS530へ移行する。
【0155】
ステップS530では、ピニオン側角速度変換部102により、転舵モータ回転角をピニオン角速度に変換して、ピニオン角速度を検出(図中に示す「ピニオン角速度検出」)する処理を行う。ステップS530において、ピニオン角速度を検出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS540へ移行する。
ステップS540では、直進安定制御部104により、直進安定成分を算出して、ピニオン角速度の増加を抑制するためにピニオン軸44へ付加するトルクを算出(図中に示す「ピニオン角速度抑制トルク算出」)する処理を行う。ステップS540において、ピニオン角速度の増加を抑制するためにピニオン軸44へ付加するトルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS550へ移行する。
【0156】
ステップS550では、ハンドル側角速度変換部96により、現在操舵角θHを操舵角速度に変換して、操舵角速度を検出(図中に示す「ハンドル角速度検出」)する処理を行う。ステップS550において、操舵角速度を検出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS560へ移行する。
ステップS560では、操舵系摩擦制御部98により、操舵系摩擦成分を算出して、操舵角速度の増加を抑制するために、ステアリングホイール32へ付加するトルクを算出(図中に示す「ハンドル角速度抑制トルク算出」)する処理を行う。ステップS560において、操舵角速度の増加を抑制するために、ステアリングホイール32へ付加するトルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS570へ移行する。
【0157】
ステップS570では、第二ピニオン端トルク変換部100により、操舵系摩擦成分をピニオン軸トルクに変換して、第二ピニオン端トルクを算出(図中に示す「第二ピニオン端トルクに変換」)する処理を行う。ステップS570において、第二ピニオン端トルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS580へ移行する。
ステップS580では、慣性モーメント推定部108と第三ハンドル端トルク変換部110により、ハンドル端慣性モーメント推定値を算出(図中に示す「ハンドル端慣性モーメント推定値算出」)する処理を行う。ステップS580において、ハンドル端慣性モーメント推定値を算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS590へ移行する。
【0158】
ステップS590では、慣性補償F/F制御部112により、慣性モーメント補償トルクを算出(図中に示す「慣性モーメント補償トルク算出」)する処理を行う。ステップS590において、慣性モーメント補償トルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS600へ移行する。
ステップS600では、第三ピニオン端トルク変換部114により、慣性モーメント補償トルクをピニオン軸トルクに変換して、第三ピニオン端トルクを算出(図中に示す「第三ピニオン端トルクに変換」)する処理を行う。ステップS600において、第三ピニオン端トルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS610へ移行する。
【0159】
ステップS610では、指令値合算部116により、第一ピニオン端トルク、第二ピニオン端トルク、直進安定成分、第三ピニオン端トルクを合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する。さらに、算出したアシストトルクの最終指令値を、転舵モータ制御部4へ出力(図中に示す「アシストトルク最終指令値出力」)する処理を行う。ステップS610において、アシストトルクの最終指令値を、転舵モータ制御部4へ出力すると、アシストトルク指令値を算出する処理は終了(END)する。
【0160】
(動作)
次に、
図1から
図18を参照しつつ、
図19を用いて、本実施形態の車両用操舵制御装置1を用いて行なう動作の一例を説明する。なお、
図19は、本実施形態の車両用操舵制御装置1を用いた車両の動作を示すタイムチャートである。
図19中に示すタイムチャートは、車両の走行中等、イグニッションスイッチがオン状態であり、トルク伝達経路を機械的に分離させて、SBWシステムの制御を実施している状態(図中に示す「SBWシステム制御中」)からスタートする。なお、SBWシステムの制御とは、例えば、高速走行時には低速走行時よりも操舵角に対する転舵角の変化度合いを減少させる制御(可変ギヤ制御)等、車速に応じた転舵角の制御である。また、SBWシステムの制御は、中立位置記憶部60に記憶した操舵角と転舵モータ回転角との関係と、操舵角センサ34が検出した現在操舵角θHと、車速センサ50が検出した車速を用いて行なう。
【0161】
そして、例えば、運転者が制御切り替えスイッチを操作して、SBWシステムによる制御からEPS制御へ切り替えた時点t1で、SBWシステムの制御を終了し、EPS制御の開始時における処理(図中に示す「EPS制御開始時の処理」)を行う。
時点t1で行なう処理は、クラッチ6を連結状態(図中に示す「クラッチ締結」)に切り替えてトルク伝達経路を機械的に連結し、さらに、クラッチ角偏差dθCLを算出・記憶する処理である。これに加え、時点t1では、入出力トルク比を演算する処理を行なう。
そして、演算した入出力トルク比に基づいて算出したアシストトルクの指令値を用いて、EPS制御を実施する。
EPS制御を実施している状態(図中に示す「EPSシステム制御中」)から、EPS制御からSBWシステムによる制御へ切り替えた時点t2で、SBWシステム制御の起動時における処理(図中に示す「SBWシステム起動時の処理」)を行う。
【0162】
なお、EPS制御からSBWシステムによる制御へ切り替えは、例えば、運転者が制御切り替えスイッチを操作すると行なう。
時点t2で行なう処理は、クラッチ6を開放状態(図中に示す「クラッチ開放」)に切り替える前に行なう処理であり、転舵輪24の転舵角を算出する処理と、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正または維持する処理である。
そして、転舵輪24の転舵角を算出する処理と、操舵角と転舵モータ回転角との関係を補正または維持する処理を終了すると、連結状態のクラッチ6を開放状態に切り替え、SBWシステムの制御を開始(図中に示す「SBWシステム制御中」)する。
【0163】
ここで、本実施形態の車両用操舵制御装置1では、EPS制御時に、ハンドル端トルクと、トルク比演算部80が演算した入出力トルク比に基づいて、ハンドル端トルクに応じたアシストトルクの指令値を算出する。すなわち、EPS制御時に、ピニオン軸トルクセンサ46tが検出したピニオン側トルクをステアリングホイール32で発生するトルクに変換したハンドル端トルクと、入出力トルク比に基づいて、アシストトルクの指令値を算出する。
さらに、算出したアシストトルクの指令値に基づいて、EPS制御を実施する。
したがって、ユニバーサルジョイントの不等速性によりトルク伝達経路に発生するトルク変動に応じた入出力トルク比と、ハンドル端トルクに基づいて、アシストトルクの指令値を算出することが可能となる。このため、EPS制御において、運転者の操舵操作に対して転舵角を適切に制御することが可能となる。
【0164】
なお、上述したピニオン軸トルクセンサ46tは、ピニオン側トルク検出部に対応する。
また、上述した第一ハンドル端トルク変換部90は、第一ハンドル端トルク算出部に対応する。
また、上述したハンドル側角速度変換部96は、操舵角速度算出部に対応する。
また、上述したピニオン側角速度変換部102は、ピニオン角速度算出部に対応する。
また、上述した慣性補償F/F制御部112は、慣性補償制御部に対応する。
また、上述したように、本実施形態の車両用操舵制御装置1の動作で実施する車両用操舵制御方法は、ハンドル端トルクと入出力トルク比に基づいて、アシストトルクの指令値を算出する方法である。
【0165】
(第一実施形態の効果)
本実施形態では、以下に記載する効果を奏することが可能となる。
(1)ハンドル端アシストトルク算出部92が、第一ハンドル端トルク変換部90が算出したハンドル端トルクと、トルク比演算部80が演算した入出力トルク比に基づいて、アシストトルクの指令値を算出する。
このため、トルク伝達経路に発生したトルク変動に応じた入出力トルク比と、ハンドル端トルクに基づいて、アシストトルクの指令値を算出することが可能となる。
その結果、トルク伝達経路にトルク変動が発生した場合であっても、EPS制御において、運転者の操舵操作に対して転舵モータ2を適切に制御することが可能となる。
【0166】
なお、トルク伝達経路に発生するトルク変動は、以下の要因により発生する。
ユニバーサルジョイントを用いて連結した二つのシャフトには、ユニバーサルジョイントの不等速性により、回転角の位相が互いに異なる状態となるため、回転時に互いの角速度が異なる状態が発生する。これにより、ユニバーサルジョイントを用いて連結した二つのシャフトには、ユニバーサルジョイントの不等速性によって、予測が困難なトルク変動が発生する。このため、トルク伝達経路を伝達するトルクは、トルク伝達経路へ入力する操舵角の変化に伴って変動することとなる。
【0167】
(2)操舵系摩擦制御部98が、ハンドル側角速度変換部96が算出した操舵角速度の増加を抑制するためにステアリングホイール32へ付加するトルクに応じた、アシストトルクの指令値を算出する。
このため、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に対し、操舵角速度の増加を抑制するように、転舵モータ2からアシストトルクを出力することが可能となる。
その結果、EPS制御において、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に対し、操舵角を保持するために必要な力(保舵力)を低減させて、操舵操作の安定性を向上させることが可能となる。
【0168】
(3)慣性モーメント推定部108が、ピニオン角速度に基づき、トルク伝達経路を通じて伝達される慣性モーメントの推定値を算出する。これに加え、慣性補償F/F制御部112が、慣性モーメント補償トルクに応じたアシストトルクの指令値を算出する。
このため、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に対し、転舵輪24側からトルク伝達経路を通じてステアリングホイール32へ伝達される慣性モーメントを補償するように、転舵モータ2からアシストトルクを出力することが可能となる。
その結果、EPS制御において、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に対し、大きな慣性モーメントが発生した場合であっても、小さい操舵力でステアリングホイール32の操舵操作を行なうことが可能となる。
【0169】
(4)直進安定制御部104が、ピニオン側角速度変換部102が算出したピニオン角速度の増加を抑制するためにトルク伝達経路へ付加するトルクに応じて、アシストトルクの指令値を算出する。
このため、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に対し、ピニオン角速度の増加を抑制するように、転舵モータ2からアシストトルクを出力することが可能となる。
その結果、EPS制御において、運転者によるステアリングホイール32の操舵操作に応じ、転舵輪24の転舵角が変化する速度の増加を抑制して、車両の直進安定性を向上させることが可能となる。
【0170】
(5)第一ピニオン端トルク変換部94が、ハンドル端アシストトルク算出部92が算出したアシストトルクの指令値を、入出力トルク比に換算して変換する。この変換は、転舵モータ2が出力するアシストトルクがステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように行なう。
その結果、EPS制御において、ステアリングホイール32を操舵操作する運転者に伝達するトルクを、トルク伝達経路に発生したトルク変動に応じた入出力トルク比に換算して変換することが可能となる。
【0171】
(6)第二ピニオン端トルク変換部100が、転舵モータ2が出力するアシストトルクがステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、操舵系摩擦制御部98が算出した指令値である操舵系摩擦成分を、入出力トルク比に換算して変換する。
その結果、EPS制御において、ステアリングホイール32を操舵操作する運転者に伝達して、保舵力を低減させるトルクを、トルク伝達経路に発生したトルク変動に応じた入出力トルク比に換算して変換することが可能となる。
【0172】
(7)第三ピニオン端トルク変換部114が、転舵モータ2が出力するアシストトルクがステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように、慣性補償F/F制御部112が算出した指令値を、入出力トルク比に換算して変換する。
その結果、EPS制御において、ステアリングホイール32を操舵操作する運転者に伝達して、慣性モーメントを補償するトルクを、トルク伝達経路に発生したトルク変動に応じた入出力トルク比に換算して変換することが可能となる。
【0173】
(8)指令値合算部116が、第一ピニオン端トルク、第二ピニオン端トルク、直進安定成分、第三ピニオン端トルクを合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する。
その結果、アシストトルクを、入出力トルク比に換算して変換したハンドル端アシストトルク、保舵力を低減させるトルク、車両の直進安定性を向上させるトルク、慣性モーメントを補償するトルクに応じて補正することが可能となる。これに加え、アシストトルクを、ステアリングホイール32で発生するトルクに応じた値となるように補正することが可能となる。
【0174】
(9)アシストトルク算出部88が、ピニオン軸トルクセンサ46tが検出したトルクセンサ値Vtpをトルク比演算部80が演算した入出力トルク比により補正して、アシストトルクの指令値を算出する。
このため、運転者がステアリングホイール32に加えているトルクをトルク伝達経路に発生したトルク変動に応じて補正し、アシストトルクの指令値を算出することが可能となる。
その結果、トルク伝達経路にトルク変動が発生した場合であっても、運転者がステアリングホイール32に加えているトルク及びトルク変動に応じて、運転者の操舵操作に対して転舵モータ2を適切に制御することが可能となる。
【0175】
(10)本実施形態の車両用操舵制御方法では、ハンドル端トルクと入出力トルク比に基づいて、アシストトルクの指令値を算出する。
このため、トルク伝達経路に発生したトルク変動に応じた入出力トルク比と、ハンドル端トルクに基づいて、アシストトルクの指令値を算出することが可能となる。
その結果、トルク伝達経路にトルク変動が発生した場合であっても、EPS制御において、運転者の操舵操作に対して転舵モータ2を適切に制御することが可能となる。
【0176】
(変形例)
(1)本実施形態では、アシストトルクを出力するアクチュエータを転舵モータ2としたが、アシストトルクを出力するアクチュエータは、転舵モータ2に限定するものではなく、反力モータ8としてもよい。
この場合、第二ハンドル端トルク変換部106が、反力モータ8から出力するアシストトルクが、トルク伝達経路のうちユニバーサルジョイントよりも転舵輪24側で発生するトルクに応じた値となるように、直進安定成分を入出力トルク比に換算して変換する。
その結果、EPS制御において、ステアリングホイール32を操舵操作する運転者に伝達して、車両の直進安定性を向上させるトルクを、トルク伝達経路に発生したトルク変動に応じた入出力トルク比に換算して変換することが可能となる。
【0177】
(2)本実施形態では、指令値合算部116が、上述した(A1)から(D1)、すなわち、第一ピニオン端トルク、第二ピニオン端トルク、直進安定成分、第三ピニオン端トルクを合算して、アシストトルクの最終指令値を算出したが、これに限定するものではない。
すなわち、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合、指令値合算部116の構成を、以下の(A2)から(D2)を合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する構成とする。ここで、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合、アシストトルクの最終指令値は、アシストトルク算出部88から反力モータ制御部10へ最終的に出力するアシストトルク指令値である。
【0178】
(A2)ハンドル端アシストトルク算出部92が算出した指令値であるハンドル端アシストトルク
(B2)操舵系摩擦制御部98が、操舵角速度の増加を抑制するためにステアリングホイール32へ付加するトルクに応じて算出した指令値である操舵系摩擦成分
(C2)慣性補償F/F制御部112が、転舵輪24側からトルク伝達経路を通じてステアリングホイール32へ伝達される慣性モーメントを補償するための慣性モーメント補償トルクに応じて算出した指令値
(D2)反力モータ8から出力するアシストトルクがトルク伝達経路のうちユニバーサルジョイントよりも転舵輪24側で発生するトルクに応じた値となるように、直進安定成分を入出力トルク比に換算して変換したハンドル側変換指令値
【0179】
この場合、アシストトルクを、ハンドル端アシストトルク、保舵力を低減させるトルク、車両の直進安定性を向上させるトルク、慣性モーメントを補償するトルクに応じて補正することが可能となる。これに加え、反力モータ8から出力するアシストトルクを、トルク伝達経路のうちユニバーサルジョイントよりも転舵輪24側で発生するトルクに応じた値となるように補正することが可能となる。
ここで、
図1から
図17を参照しつつ、
図20を用いて、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合に、アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理を説明する。なお、アシストトルクを出力するアクチュエータを転舵モータ2とした場合に、アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理を同様の処理については、その説明を省略する場合がある。
【0180】
図20は、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合に、アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理を示すフローチャートである。なお、アシストトルク算出部88がアシストトルク指令値を算出する処理は、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算した状態で開始する。
図20中に示すフローチャートを開始(START)すると、ステップS700において、上述したステップS500と同様の処理を行い、ステップS710へ移行する。
ステップS710では、上述したステップS510と同様の処理を行い、ステップS720へ移行する。ステップS720では、上述したステップS530と同様の処理を行い、ステップS730へ移行する。ステップS730では、上述したステップS540と同様の処理を行い、ステップS740へ移行する。
【0181】
ステップS740では、第二ハンドル端トルク変換部106により、直進安定成分をハンドル端トルクに変換して、ハンドル端トルクを算出(図中に示す「ハンドル端トルクに変換」)する処理を行う。ステップS740において、ハンドル端トルクを算出すると、アシストトルク指令値を算出する処理は、ステップS750へ移行する。
ステップS750では、上述したステップS550と同様の処理を行い、ステップS760へ移行する。ステップS760では、上述したステップS560と同様の処理を行い、ステップS770へ移行する。ステップS770では、上述したステップS580と同様の処理を行い、ステップS780へ移行する。
ステップS780では、上述したステップS590と同様の処理を行い、ステップS790へ移行する。ステップS790では、上述したステップS610と同様の処理を行い、アシストトルク指令値を算出する処理を終了(END)する。
【0182】
(3)本実施形態では、トルク比演算部80が、仮想操舵角θH+ΔθHを用いて入出力トルク比を演算したが、トルク比演算部80の構成は、これに限定するものではない。
すなわち、例えば、
図21中に示すように、トルク比演算部80の構成を、操舵角速度ωθHを用いて入出力トルク比を演算する構成としてもよい。なお、
図21は、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理の変形例を示すフローチャートである。
図21中に示すフローチャートのうち、ステップS300からS350の処理は、本実施形態のトルク比演算部80が行なう処理と同様であるため、その説明を省略する。
【0183】
ステップS350から移行したステップS800では、予め設定した角速度算出時間Δt(例えば、100[ms])と仮想変位角ΔθHを、上記の式(17)へ入力する。これにより、ステップS800では、角速度算出時間Δt内における操舵角の変化量に基づく操舵角速度を算出(図中に示す「操舵角速度算出」)する処理を行う。ステップS800において、操舵角速度を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS810へ移行する。
【0184】
ステップS810では、ステップS800で算出した操舵角速度ωθHを、以下の式(21)に入力し、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)における出力角速度を算出(図中に示す「出力角速度算出」)する処理を行う。ステップS810において、出力角速度を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS820へ移行する。
なお、以下の式(21)は、各ユニバーサルジョイントの出力角速度を算出するためのモデルとして用いることが可能な、ユニバーサルジョイント出力角速度算出モデルを示す式である。
【0186】
ここで、出力角速度ωθPは、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)に入力して、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)を介して転舵輪24側へ出力した角度の、角速度算出時間Δt内における変化量に基づく速度である。
したがって、ユニバーサルジョイント出力角速度算出モデルは、操舵角速度ωθHと出力角速度ωθPの関係を示すモデル式である。
ステップS820では、ステップS810で用いた操舵角速度ωθHと各出力角速度ωθPを用いて、各ユニバーサルジョイント(7、11、19、23)における速度比を積算(図中に示す「各速度比を積算」)する処理を行う。ステップS820において、各ユニバーサルジョイントにおける速度比を積算すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS830へ移行する。なお、以降の説明では、ステップS820で積算した速度比を、「積算速度比ωθP
int/ωθH」と示す場合がある。
【0187】
ステップS830では、ステップS820で算出した積算速度比ωθP
int/ωθHの逆数を演算して、積算速度比ωθP
int/ωθHを入出力トルク比に変換(図中に示す「入出力トルク比に変換」)する処理を行う。すなわち、ステップS830では、以下の式(22)により、入出力トルク比T
ratioを算出する。ステップS830において、入出力トルク比T
ratioを算出すると、入出力トルク比を演算する処理は終了(END)する。
T
ratio=1/(ωθP
int/ωθH) … (22)
ここで、操舵角速度ωθHと出力角速度ωθPとの速度比は、入出力トルク比T
ratioの逆数となる。このため、積算速度比ωθP
int/ωθHに基づいて算出した入出力トルク比T
ratioを用いて、トルク伝達経路におけるトルクの増幅率を推定することが可能となる。
【0188】
また、例えば、
図22中に示すように、トルク比演算部80の構成を、入出力速度比ωθP/ωθHに対してカットオフ周波数以上の周波数を減衰させる処理を行って、入出力トルク比を演算する構成としてもよい。なお、
図22は、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理の変形例を示すフローチャートである。
図22中に示すフローチャートのうち、ステップS300からS350の処理は、本実施形態のトルク比演算部80が行なう処理と同様であるため、その説明を省略する。
ステップS350から移行したステップS900では、予め設定した角速度算出時間Δt(例えば、100[ms])と仮想変位角ΔθHを、上記の式(17)へ入力する。これにより、ステップS900では、角速度算出時間Δt内における操舵角の変化量に基づく操舵角速度を算出(図中に示す「操舵角速度算出」)する処理を行う。ステップS900において、操舵角速度を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS910へ移行する。
【0189】
ステップS910では、上述した角速度算出時間Δt内におけるピニオン角の変化量に基づき、角速度算出時間Δt内における転舵角の変化量に基づく出力角速度を算出(図中に示す「出力角速度算出」)する処理を行う。ここで、出力角速度の算出は、ステップS350で算出したピニオン角の現在の推定値f(θH)と、角速度算出時間Δtに基づいて行なう。これは、例えば、角速度算出時間Δt内におけるピニオン角の現在の推定値f(θH)の変化量を、角速度算出時間Δtで除算して行なう。ステップS910において、出力角速度を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS920へ移行する。
ステップS920では、ステップS900で算出した操舵角速度ωθHが、予め設定した角速度閾値以下であるか否かを判定する処理(図中に示す「操舵角速度が角速度閾値以下?」)を行う。
【0190】
ここで、角速度閾値は、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理において、演算精度が保持可能な値であり、例えば、車両の諸元に応じて設定して、トルク比演算部80に記憶しておく。
ステップS920において、操舵角速度ωθHが角速度閾値以下である(図中に示す「Yes」)と判定した場合、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS930へ移行する。
一方、ステップS920において、操舵角速度ωθHが角速度閾値を超えている(図中に示す「No」)と判定した場合、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS940へ移行する。
【0191】
ステップS930では、入出力トルク比記憶部86に記憶している、前回行なった処理で演算した入出力トルク比を、変更せずに維持(図中に示す「前回の入出力トルク比を維持」)する処理を行う。ステップS930において、前回の入出力トルク比を維持する処理を行うと、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS920へ移行する。
ステップS940では、ステップS900で算出した操舵角速度ωθHと、ステップS370で算出した出力角速度ωθPを用いて、操舵角速度ωθHと出力角速度ωθPとの比である入出力速度比を算出(図中に示す「入出力速度比算出」)する処理を行う。この処理は、例えば、出力角速度ωθPを操舵角速度ωθHで除算して行なう。ステップS940において、入出力速度比を算出すると、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS950へ移行する。なお、以降の説明では、ステップS940で算出した入出力速度比を、「入出力速度比ωθP/ωθH」と示す場合がある。
【0192】
ステップS950では、ステップS940で算出した入出力速度比ωθP/ωθHに対し、ローパスフィルタ(LPF:Low‐Pass Filter)を用いて、予め設定したカットオフ周波数以上の周波数を減衰させる処理(図中に示す「LPF処理」)を行う。ステップS950において、入出力速度比ωθP/ωθHに対してカットオフ周波数以上の周波数を減衰させる処理を行うと、入出力トルク比を演算する処理は、ステップS960へ移行する。
【0193】
ステップS960では、ステップS940で算出した入出力速度比ωθP/ωθHの逆数を演算して、入出力速度比ωθP/ωθHを入出力トルク比に変換(図中に示す「入出力トルク比に変換」)する処理を行う。すなわち、ステップS960では、以下の式(23)により、入出力トルク比T
ratioを算出する。ステップS960において、入出力トルク比T
ratioを算出すると、入出力トルク比を演算する処理は終了(END)する。
T
ratio=1/(ωθP/ωθH) … (23)
【0194】
(4)本実施形態では、指令値合算部116が、上述した(A1)から(D1)を合算して、アシストトルクの最終指令値を算出したが、これに限定するものではない。すなわち、アシストトルクを出力するアクチュエータを転舵モータ2とした場合、指令値合算部116の構成を、例えば、上述した(A1)と、(B1)から(D1)のうち少なくとも一つとを合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する構成としてもよい。この構成は、(B1)から(D1)のうち演算が行なわれた値のみを(A1)に合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する構成を含む。
同様に、アシストトルクを出力するアクチュエータを反力モータ8とした場合、指令値合算部116の構成を、例えば、上述した(A2)と、(B2)から(D2)のうち少なくとも一つとを合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する構成としてもよい。この構成は、(B2)から(D2)のうち演算が行なわれた値のみを(A2)に合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する構成を含む。
【0195】
(5)本実施形態では、アシストトルク算出部88の構成を、第一ピニオン端トルク変換部94、第二ピニオン端トルク変換部100、第二ハンドル端トルク変換部106及び第三ピニオン端トルク変換部114を備える構成としたが、これに限定するものではない。すなわち、ハンドル端アシストトルク算出部92、操舵系摩擦制御部98、直進安定制御部104及び慣性補償F/F制御部112が算出した指令値を指令値合算部116により合算して、アシストトルクの最終指令値を算出する構成としてもよい。この構成は、操舵系摩擦制御部98、直進安定制御部104及び慣性補償F/F制御部112が算出した指令値のうち算出された値のみをハンドル端アシストトルク算出部92が算出した指令値に合算する構成を含む。
【0196】
(6)本実施形態では、トルク伝達経路が四つのユニバーサルジョイント(7,11,19,23)を備える構成としたが、これに限定するものではなく、ユニバーサルジョイントの数は、例えば、車両のレイアウト等に応じた数であればよい。
この場合、例えば、操舵側ユニバーサルジョイントと転舵側ユニバーサルジョイントを、共に一つのユニバーサルジョイントのみで形成した場合、転舵輪24の転舵角は、以下の式(24)を用いて算出する。
【0198】
(7)本実施形態では、車両に、操舵側クラッチ角算出部66、転舵側クラッチ角算出部68、クラッチ角偏差算出部70を備える構成としたが、これに限定するものではない。すなわち、例えば、車両の出荷後に、整備工場において、現在操舵角及び実転舵角を共に中立位置に調整した状態で、車外の設備を用いて、操舵側クラッチ角、転舵側クラッチ角及びクラッチ角偏差を算出してもよい。これに加え、算出したクラッチ角偏差を、ケーブル接続等によりクラッチ角偏差記憶部72へ入力してもよく、また、不揮発性メモリ(Non‐volatile Memory)等の記憶媒体を介してクラッチ角偏差記憶部72に記憶させてもよい。
【0199】
(8)本実施形態では、転舵側クラッチ角θcl_outを算出する処理において、イグニッションスイッチがオフ状態となった時点における転舵モータ回転角を、ユニバーサルジョイント23の逆入力角tanθ
Inとして上記の式(2)に入力した。しかしながら、転舵側クラッチ角θcl_outを算出する処理は、これに限定するものではない。
すなわち、イグニッションスイッチがオフ状態となった時点における転舵モータ回転角に、転舵側ユニバーサルジョイント(19、23)のオフセット成分を加算した値を、ユニバーサルジョイント23の逆入力角tanθ
Inとして上記の式(2)に入力してもよい。
【0200】
(9)本実施形態では、転舵側クラッチ角θcl_outを算出する処理において、イグニッションスイッチがオフ状態となった時点における転舵モータ回転角を、ユニバーサルジョイント23の逆入力角tanθ
Inとして上記の式(2)に入力した。しかしながら、転舵側クラッチ角θcl_outを算出する処理は、これに限定するものではない。
すなわち、イグニッションスイッチがオフ状態となった時点における転舵モータ回転角から、トルクセンサ値Vtp及びトルクセンサモデルに基づき、転舵側シャフト及び転舵側ユニバーサルジョイント(19、23)のねじれ角を減算した値を算出する。そしてこの算出した値を、ユニバーサルジョイント23の逆入力角tanθ
Inとして上記の式(2)に入力してもよい。なお、上記の転舵側シャフトとは、クラッチ出力シャフト17、転舵側中間シャフト21、ピニオンシャフト25である。
【0201】
(10)本実施形態では、車両用操舵制御装置1を備えた車両を、SBWシステムを適用した車両としたが、これに限定するものではない。すなわち、車両の構成を、SBWシステムを適用しておらず、クラッチ6を備えずに、トルク伝達経路が常にユニバーサルジョイントにより機械的に連結されている構成としてもよい。
この場合、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理は、ステップS300からステップS330の処理を行なわない(
図17、21、22参照)。すなわち、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理を開始すると、ステップS340の処理を行う。
【0202】
(11)本実施形態では、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理において、クラッチ6を締結状態とした時点における転舵輪24の転舵角を、ピニオン角の現在の推定値として算出する処理を行った(
図17のステップS350を参照)。しかしながら、トルク比演算部80が入出力トルク比を演算する処理は、これに限定するものではない。すなわち、クラッチ6を締結状態とした時点における転舵輪24の転舵角を、ピニオン角の現在の検出値として算出する処理を行ってもよい。この場合、ピニオン角の現在の検出値は、転舵モータ角度センサ16が検出した転舵モータ回転角に基づいて算出する。もっとも、本実施形態のように、ピニオン角の現在の推定値として算出する処理を行うことにより、ピニオン角の現在の検出値として算出する処理を行う場合と比較して、算出誤差の影響を減少させることが可能となる。