(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
[発明の実施形態の説明]
最初に本発明の実施形態の内容を列記して説明する。
本発明の一局面は、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、ナトリウム塩およびナトリウム塩を溶解させるイオン性液体を含む溶融塩電解質と、を含み、負極活物質は、難黒鉛化性炭素を含み、イオン性液体は、前記難黒鉛化性炭素との間でファラデー反応を起こさない第一オニウムカチオンと、ビス(スルフォニル)イミドアニオンとの塩であり、前記溶融塩電解質は、質量割合で
50ppm〜500ppmの第二オニウムカチオンを含み、前記第二オニウムカチオンは、一般式(1):R
1R
2R
3R
4N
+で表され、R
1〜R
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である、ナトリウム溶融塩電池に関する。
【0011】
第二オニウムカチオンは、通常、溶融塩電解質に2000ppm以上の質量割合で含まれる不純物である。第二オニウムカチオンは、イオンサイズが小さいことから、充電時に難黒鉛化性炭素に吸蔵されることがある。第二オニウムカチオンと難黒鉛化性炭素との反応の詳細については不明であるが、このような反応により、ナトリウムイオンの難黒鉛化性炭素への吸蔵と難黒鉛化性炭素からの放出が阻害され、ナトリウム溶融塩電池の充放電サイクルにおける容量維持率が低下するものと考えられる。一方、溶融塩電解質に含まれる第二オニウムカチオンの濃度を、質量割合で
50ppm〜500ppmとすることにより、容量維持率の低下を抑制することができる。
【0012】
第一オニウムカチオンは、溶融塩電解質の主成分として安定して機能する必要がある。従って、第一オニウムカチオンとしては、イオンサイズが比較的大きく、ナトリウムイオンの難黒鉛化性炭素への吸蔵と難黒鉛化性炭素からの放出を阻害しないイオン種が選択される。第一オニウムカチオンは、難黒鉛化性炭素に吸蔵されず、難黒鉛化性炭素との間でファラデー反応を起こさない。
【0013】
第一オニウムカチオンが、窒素含有オニウムカチオンである場合、溶融塩電解質は、質量割合で
50ppm〜500ppmの第二オニウムカチオンを含むことが好ましい。これにより、充放電サイクルにおける容量維持率の低下を更に抑制することができるとともに、長期間の充放電サイクルを繰り返す場合のガス発生を抑制することができる。
【0014】
第一オニウムカチオンは、例えば、窒素含有ヘテロ環を有する有機オニウムカチオンであることが好ましい。窒素含有ヘテロ環を有する有機オニウムカチオンは、耐熱性が高く、かつ粘度の低いイオン性液体を形成するため、溶融塩電解質の主成分として適している。
【0015】
窒素含有へテロ環は、ピロリジン骨格を有することが好ましい。ピロリジン骨格を有する有機オニウムカチオンを含むイオン性液体は、特に耐熱性が高く、かつ粘度が低いため、溶融塩電解質の主成分として有望である。
【0016】
イオン性液体に溶解させるナトリウム塩は、ナトリウムイオンと、ビス(スルフォニル)イミドアニオンとの塩であることが好ましい。ナトリウムイオンと、ビス(スルフォニル)イミドアニオンとの塩を用いることで、耐熱性が高く、かつイオン伝導性の高い溶融塩電解質を得ることが可能である。
【0017】
正極活物質は、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出する材料であればよい。また、負極活物質は、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出する材料でもよく、金属ナトリウム、ナトリウム合金(Na−Zn合金など)、ナトリウムと合金化する金属(Znなど)でもよい。
【0018】
[発明の実施形態の詳細]
次に、本発明の実施形態の詳細について説明する。
以下、上記ナトリウム溶融塩電池の構成要素について詳述する。
なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0019】
[溶融塩電解質]
溶融塩電解質は、ナトリウム塩およびナトリウム塩を溶解させるイオン性液体を含む。ただし、イオン性液体は、難黒鉛化性炭素との間でファラデー反応を起こさない第一オニウムカチオンと、ビス(スルフォニル)イミドアニオンとの塩である。溶融塩電解質は、ナトリウム溶融塩電池の作動温度域で液体であればよい。ナトリウム塩は、溶融塩電解質の溶質に相当する。イオン性液体は、ナトリウム塩を溶解させる溶媒として機能する。
【0020】
溶融塩電解質は、耐熱性が高く、不燃性を有する点にメリットがある。よって、溶融塩電解質は、ナトリウム塩とイオン性液体以外の成分を極力含まないことが望ましい。ただし、耐熱性および不燃性を大きく損なわない量の様々な添加剤を溶融塩電解質に含ませることもできる。耐熱性および不燃性を損なわないように、溶融塩電解質の90質量%以上、更には95質量%以上が、ナトリウム塩とイオン性液体により占められていることが好ましい。
【0021】
溶融塩電解質は、不純物として、微量の一般式(1):R
1R
2R
3R
4N
+で表される第二オニウムカチオンを含む。ただし、R
1〜R
4は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である。すなわち、第二オニウムカチオンは、無機アンモニウムイオン(NH
4+)、メチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリメチルアンモニウムイオンおよびテトラメチルアンモニウムイオンよりなる群から選択される少なくとも1種である。第二オニウムカチオンは、イオン性液体に1種が単独で含まれる場合もあれば、複数種が含まれる場合もある。
【0022】
第二オニウムカチオンがナトリウム溶融塩電池に及ぼす影響についての詳細は不明である。しかし、難黒鉛化性炭素を負極活物質として用いる場合には、第二オニウムカチオンが原因と推測される充放電容量の低下が観測される。一方、充放電容量の低下は、負極として金属ナトリウムやナトリウム合金を用いるナトリウム溶融塩電池では観測されない。このことから、ナトリウム溶融塩電池の充放電時に、難黒鉛化性炭素と第二オニウムカチオンとの副反応が起っていると考えられる。
【0023】
実際、負極活物質が難黒鉛化性炭素を含み、イオン性液体が窒素含有へテロ環を有する有機オニウムカチオンとビス(スルフォニル)イミドアニオンとの塩であり、溶融塩電解質が不純物として5000ppm程度のアンモニウムカチオン(NH
4+)を含むナトリウム溶融塩電池の充放電カーブを分析すると、アンモニウムカチオンの吸蔵および放出に関連するピークが観測される。
【0024】
第二オニウムカチオンは、ビス(スルフォニル)イミドアニオンを含むイオン性液体を工業的に製造する際に、不可避不純物としてイオン性液体に混入する。例えば、ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオンは、以下のような反応により製造される。
【0025】
(SO
2Cl)
2NH + 2[F
-・R
1R
2R
3R
4N
+]
⇒ (SO
2F)
2N
-・H
+ + 2[Cl
-・R
1R
2R
3R
4N
+]
【0026】
製造されたビス(スルフォニル)イミドアニオンを含むイオン性液体は、水洗などの洗浄工程により精製される。しかし、イオン性液体には、相当量の第二オニウムカチオン(R
1R
2R
3R
4N
+)が不純物として残存する。
【0027】
溶融塩電解質に含まれる第二オニウムカチオンの濃度は、質量割合
で500ppm以下であることが好ましく、300ppm以下であることが更に好ましい。これにより、充放電サイクルにおける容量維持率の低下を抑制する効果が大きくなる。
【0028】
第一オニウムカチオンが窒素含有オニウムカチオンである場合、溶融塩電解質に含まれる第二オニウムカチオンの濃度は、質量割合で5ppm以上であることが好ましく、20ppm以上であることが更に好ましい。これにより、長期間の充放電サイクルを繰り返す場合に、ガス発生を抑制する効果が得られる。すなわち、溶融塩電解質は、僅かな量であれば、むしろ第二オニウムカチオンを含むことが望ましい場合がある。ガス発生が抑制される理由は明らかではないが、おそらく、
5ppm以上(例えば50ppm以上)の第二オニウムカチオンが溶融塩電解質中に存在することにより、平衡の原理により、第一オニウムカチオンの分解反応が抑制されるものと考えられる。窒素を含有する第一オニウムカチオンの分解反応は、NH
4+や1級〜4級メチルアンモニウムカチオンの生成を伴うためである。
【0029】
上記の第二オニウムカチオンの濃度の上限と下限は、任意に組み合わせて、好ましい範囲を設定することができる。例えば、第二オニウムカチオンの濃度の好ましい範囲は、5〜1000ppmでもあり得るし、20〜500ppmでもあり得る。
【0030】
溶融塩電解質もしくはイオン性液体中の第二オニウムカチオンの濃度を低減する方法としては、溶融塩電解質もしくはイオン性液体を吸着剤で精製する方法や、再結晶によりイオン性液体を精製する方法などが挙げられる。ただし、溶融塩電解質もしくはイオン性液体を精製する方法は、特に限定されない。
【0031】
吸着剤としては、活性炭、活性アルミナ、ゼオライト、モレキュラーシーブなどを用いることができるが、特に限定されない。なお、これらの吸着剤には、通常、カリウム、ナトリウムなどのアルカリ金属が含まれている。従って、吸着剤を通過させたイオン性液体は、リチウム溶融塩電池もしくはリチウムイオン二次電池には、使用することができない。カリウムイオン、ナトリウムイオンなどのアルカリ金属イオンがイオン性液体に溶出すると、リチウムイオン二次電池の充放電特性が大きく劣化するためである。例えば、ナトリウムおよびカリウムの酸化還元電位はリチウムよりも高いため、リチウムイオンの電池反応が阻害される。一方、ナトリウム溶融塩電池には、元来、ナトリウムイオンが含まれるため、ナトリウム溶融塩電池の充放電特性が劣化することはない。また、ナトリウムの酸化還元
電位は、カリウムより高く、カリウムがナトリウム溶融塩電池の充放電特性に大きく影響することはない。
【0032】
溶融塩電解質に含まれる第二オニウムカチオンの濃度は、イオンクロマトグラフィーなどの方法により、測定することができる。
【0033】
溶融塩電解質に含まれるナトリウムイオン濃度(ナトリウム塩が一価の塩であれば、ナトリウム塩濃度と同義)は、溶融塩電解質に含まれるカチオンの2モル%以上であることが好ましく、5モル%以上であることが更に好ましく、8モル%以上であることが特に好ましい。このような溶融塩電解質は、優れたナトリウムイオン伝導性を有し、高レートの電流で充放電を行う場合でも、高容量を達成することが容易となる。また、ナトリウムイオン濃度は、溶融塩電解質に含まれるカチオンの30モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることが更に好ましく、15モル%以下であることが特に好ましい。このような溶融塩電解質は、イオン性液体の含有率が高く、低粘度であり、高レートの電流で充放電を行う場合でも、高容量を達成することが容易となる。
【0034】
上記のナトリウムイオン濃度の好ましい上限と下限は、任意に組み合わせて、好ましい範囲を設定することができる。例えば、ナトリウムイオン濃度の好ましい範囲は、2〜20モル%でもあり得るし、5〜15モル%でもあり得る。
【0035】
イオン性液体に溶解させるナトリウム塩は、ホウ酸アニオン、リン酸アニオン、イミドアニオンなどの様々なアニオンと、ナトリウムイオンとの塩であり得る。ホウ酸アニオンとしては、テトラフルオロホウ酸アニオンが挙げられ、リン酸アニオンとしては、ヘキサフルオロリン酸アニオンが挙げられ、イミドアニオンとしては、ビス(スルフォニル)イミドアニオンが挙げられるが、これらに限定されない。これらにうちでは、ナトリウムイオンと、ビス(スルフォニル)イミドアニオンとの塩が好ましい。ビス(スルフォニル)イミドアニオンを用いることで、耐熱性が高く、かつイオン伝導性の高い溶融塩電解質を得ることが容易となる。
【0036】
第一オニウムカチオンとしては、窒素含有オニウムカチオン;イオウ含有オニウムカチオン;リン含有オニウムカチオンなどが例示できる。これらのうちでは、特に窒素含有オニウムカチオンが好ましく、脂肪族アミン、脂環族アミンや芳香族アミンに由来するカチオン(第4級アンモニウムカチオンなど)の他、窒素含有へテロ環を有する有機オニウムカチオン(つまり、環状アミンに由来するカチオン)などが用いられる。
【0037】
第4級アンモニウムカチオンとしては、例えば、エチルトリメチルアンモニウムカチオン、ヘキシルトリメチルアンモニウムカチオン、
テトラエチ
ルアンモニウムカチオン(TEA
+:
tetraethy
lammonium cation)、メチルトリエチルアンモニウムカチオン(TEMA
+:methyltriethylammonium cation)などのテトラアルキルアンモニウムカチオン(テトラC
1-10アルキルアンモニウムカチオンなど)などが例示できる。
【0038】
イオウ含有オニウムカチオンとしては、第3級スルホニウムカチオン、例えば、トリメチルスルホニウムカチオン、トリヘキシルスルホニウムカチオン、ジブチルエチルスルホニウムカチオンなどのトリアルキルスルホニウムカチオン(例えば、トリC
1-10アルキルスルホニウムカチオンなど)などが例示できる。
【0039】
リン含有オニウムカチオンとしては、第4級ホスホニウムカチオン、例えば、テトラメチルホスホニウムカチオン、テトラエチルホスホニウムカチオン、テトラオクチルホスホニウムカチオンなどのテトラアルキルホスホニウムカチオン(例えば、テトラC
1-10アルキルホスホニウムカチオン);トリエチル(メトキシメチル)ホスホニウムカチオン、ジエチルメチル(メトキシメチル)ホスホニウムカチオン、トリヘキシル(メトキシエチル)ホスホニウムカチオンなどのアルキル(アルコキシアルキル)ホスホニウムカチオン(例えば、トリC
1-10アルキル(C
1-5アルコキシC
1-5アルキル)ホスホニウムカチオンなど)などが挙げられる。なお、アルキル(アルコキシアルキル)ホスホニウムカチオンにおいて、リン原子に結合したアルキル基およびアルコキシアルキル基の合計個数は、4個であり、アルコキシアルキル基の個数は、好ましくは1または2個である。
【0040】
なお、第4級アンモニウムカチオンの窒素原子、第3級スルホニウムカチオンのイオウ原子、または第4級ホスホニウムカチオンのリン原子に結合したアルキル基の炭素数は、1〜8が好ましく、1〜4がさらに好ましく、1、2または3であるのが特に好ましい。
【0041】
窒素含有ヘテロ環骨格としては、ピロリジン、イミダゾリン、イミダゾール、ピリジン、ピペリジンなど、環の構成原子として1または2個の窒素原子を有する5〜8員ヘテロ環;モルホリンなど、環の構成原子として1または2個の窒素原子と他のヘテロ原子(酸素原子、イオウ原子など)とを有する5〜8員ヘテロ環が例示できる。
【0042】
環の構成原子である窒素原子は、アルキル基などの有機基を置換基として有していてもよい。アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基などの炭素数が1〜10個のアルキル基が例示できる。アルキル基の炭素数は、1〜8が好ましく、1〜4がさらに好ましく、1、2または3であるのが特に好ましい。
【0043】
窒素含有ヘテロ環骨格の中では、特にピロリジン、ピリジンまたはイミダゾ
ール骨格を有するものが好ましい。ピロリジン骨格を有する第一オニウムカチオンは、ピロリジン環を構成する1つの窒素原子に、2つの上記アルキル基を有することが好ましい。ピリジン骨格を有する第一オニウムカチオンは、ピリジン環を構成する1つの窒素原子に、1つの上記アルキル基を有することが好ましい。また、イミダゾ
ール骨格を有する第一オニウムカチオンは、イミダゾ
ール環を構成する2つの窒素原子に、それぞれ、1つの上記アルキル基を有することが好ましい。
【0044】
ピロリジン骨格を有する第一オニウムカチオンの具体例としては、1,1−ジメチルピロリジニウムカチオン、1,1−ジエチルピロリジニウムカチオン、1−エチル−1−メチルピロリジニウムカチオン、1−メチル−1−プロピルピロリジニウムカチオン(MPPY
+:1-methyl-1-propylpyrrolidinium cation)、1−ブチル−1−メチルピロリジニウムカチオン(MBPY
+:1-butyl-1-methylpyrrolidinium cation)、1−エチル−1−プロピルピロリジニウムカチオンなどが挙げられる。これらのうちでは、特に電気化学的安定性が高いことから、MPPY
+、MBPY
+などの、メチル基と、炭素数2〜4のアルキル基とを有するピロリジニウムカチオンが好ましい。
【0045】
ピリジン骨格を有する第一オニウムカチオンの具体例としては、1−メチルピリジニウムカチオン、1−エチルピリジニウムカチオン、1−プロピルピリジニウムカチオンなどの1−アルキルピリジニウムカチオンが挙げられる。これらのうち、炭素数1〜4のアルキル基を有するピリジニウムカチオンが好ましい。
【0046】
イミダゾ
ール骨格を有する第一オニウムカチオンの具体例としては、1,3−ジメチルイミダゾリウムカチオン、1−エチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(EMI
+: 1-ethyl-3-methylimidazolium cation)、1−メチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウムカチオン(BMI
+:1-buthyl-3-methylimidazolium cation)、1−エチル−3−プロピルイミダゾリウムカチオン、1−ブチル−3−エチルイミダゾリウムカチオンなどが挙げられる。これらのうち、EMI
+、BMI
+などのメチル基と炭素数2〜4のアルキル基とを有するイミダゾリウムカチオンが好ましい。
【0047】
イオン性液体は、上記の第一オニウムカチオンのうち一種のみを含んでもよく、二種以上を含んでもよい。また、イオン性液体は、ナトリウム以外のアルカリ金属カチオンと、ビス(スルフォニル)イミドアニオンとの塩を含んでもよい。このようなアルカリ金属カチオンとしては、カリウム、リチウム、ルビジウムおよびセシウムが挙げられる。これらのうちでは、カリウムが好ましい。
【0048】
イオン性液体やナトリウム塩のアニオンを構成するビス(スルフォニル)イミドアニオンとしては、例えば、ビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン[(N(SO
2F)
2-)]、(フルオロスルフォニル)(パーフルオロアルキルスルフォニル)イミドアニオン[(フルオロスルフォニル)(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン((FSO
2)(CF
3SO
2)N
-)など]、ビス(パーフルオロアルキルスルフォニル)イミドアニオン[ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン(N(SO
2CF
3)
2-)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミドアニオン(N(SO
2C
2F
5)
2-)など]などが挙げられる。パーフルオロアルキル基の炭素数は、例えば、1〜10、好ましくは1〜8、さらに好ましくは1〜4、特に1、2または3である。これらのアニオンは、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて使用できる。
【0049】
ビス(スルフォニル)イミドアニオンの中では、特にビス(フルオロスルフォニル)イミドアニオン(FSI
-:bis(fluorosulfonyl)imide anion));ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオン(TFSI
-:bis(trifluoromethylsulfonyl)imide anion)、ビス(ペンタフルオロエチルスルフォニル)イミドアニオン、(フルオロスルフォニル)(トリフルオロメチルスルフォニル)イミドアニオンなどのビス(パーフルオロアルキルスルフォニル)イミドアニオン(PFSI
-:bis(
perfluoro
alkylsulfonyl)imide anion)などが好ましい。
【0050】
溶融塩電解質の具体例としては、ナトリウム塩としてナトリウムイオンとFSI
-との塩(Na・FSI)を含み、イオン性液体としてMPPY
+とFSI
-との塩(MPPY・FSI)を含む溶融塩電解質や、ナトリウム塩としてナトリウムイオンとTFSI
-との塩(Na・TFSI)を含み、イオン性液体としてMPPY
+とTFSI
-との塩(MPPY・TFSI)を含む溶融塩電解質などが挙げられる。この場合、溶融塩電解質の融点、粘度およびイオン伝導性のバランスを考慮すると、ナトリウム塩とイオン性液体とのモル比(ナトリウム塩/イオン性液体)は、例えば
2/
98〜
20/
80であればよく、
5/
95〜
15/
85であることが好ましい。
【0051】
[正極]
図1は、本発明の一実施形態に係る正極の正面図であり、
図2は
図1のII−II線断面図である。
ナトリウム溶融塩電池用正極2は、正極集電体2aおよび正極集電体2aに付着した正極活物質層2bを含む。正極活物質層2bは、正極活物質を必須成分として含み、任意成分として導電性炭素材料、結着剤等を含んでもよい。
【0052】
正極活物質としては、ナトリウム含有金属酸化物を用いることが好ましい。ナトリウム含有金属酸化物は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。ナトリウム含有金属酸化物の粒子の平均粒径(体積粒度分布の累積体積50%における粒径D50)は、2μm以上、20μm以下であることが好ましい。平均粒径D50は、例えば、レーザ回折式の粒度分布測定装置を用いて、レーザ回折散乱法によって測定される値であり、以下も同様である。
【0053】
ナトリウム含有金属酸化物としては、例えば、亜クロム酸ナトリウム(NaCrO
2)を用いることができる。亜クロム酸ナトリウムは、CrまたはNaの一部が他元素で置換されていてもよく、例えば、一般式:Na
1-xM
1xCr
1-yM
2yO
2(0≦x≦2/3、0≦y≦0.7、M
1およびM
2は、それぞれ独立にCrおよびNa以外の金属元素である)で表される化合物であることが好ましい。上記一般式において、xは、0≦x≦0.5を満たすことがより好ましく、M
1およびM
2は、例えばNi、Co、Mn、FeおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、M
1はNaサイト、M
2はCrサイトを占める元素である。
【0054】
ナトリウム含有金属酸化物として、鉄マンガン酸ナトリウム(Na
2/3Fe
1/3Mn
2/3O
2など)を用いることもできる。鉄マンガン酸ナトリウムのFe、MnまたはNaの一部は、他元素で置換されていてもよい。例えば、一般式:Na
2/3-xM
3xFe
1/3-yMn
2/3-zM
4y+zO
2(
0≦x
<2/3、0≦y
<1/3、0≦z≦1/3、M
3およびM
4は、それぞれ独立にFe、MnおよびNa以外の金属元素である)で表される化合物であることが好ましい。上記の一般式において、xは、0≦x≦1/3を満たすことがより好ましい。M
3は、例えばNi、C
oおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、M
4は、Ni、CoおよびAlよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。なお、M
3はNaサイト、M
4はFeまたはMnサイトを占める元素である。
【0055】
また、ナトリウム含有金属酸化物として、Na
2FePO
4F、NaVPO
4F、NaCoPO
4、NaNiPO
4、NaMnPO
4、NaMn
1.5Ni
0.5O
4、NaMn
0.5Ni
0.5O
2などを用いることもできる。
【0056】
正極に含ませる導電性炭素材料としては、黒鉛、カーボンブラック、炭素繊維などが挙げられる。導電性炭素材料は、良好な導電経路を確保
するために用いられる。導電性炭素材料のうちでは、少量使用で十分な導電経路を形成しやすいことから、カーボンブラックが特に好ましい。カーボンブラックの例としては、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、サーマルブラック等を挙げることができる。導電性炭素材料の量は、正極活物質100質量部あたり、2〜15質量部が好ましく、3〜8質量部がより好ましい。
【0057】
結着剤は、正極活物質同士を結合させるとともに、正極活物質を正極集電体に固定する役割を果たす。結着剤としては、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド等を用いることができる。フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等を用いることができる。結着剤の量は、正極活物質100質量部あたり、1〜10質量部が好ましく、3〜5質量部がより好ましい。
【0058】
正極集電体2aとしては、金属箔、金属繊維製の不織布、金属多孔体シートなどが用いられる。正極集電体を構成する金属としては、正極電位で安定であることから、アルミニウムやアルミニウム合金が好ましいが、特に限定されない。アルミニウム合金を用いる場合、アルミニウム以外の金属成分(例えばFe、Si、Ni、Mnなど)は0.5質量%以下であることが好ましい。正極集電体となる金属箔の厚さは、例えば10〜50μmであり、金属繊維の不織布や金属多孔体シートの厚さは、例えば100〜600μmである。正極集電体2aには、集電用のリード片2cを形成してもよい。リード片2cは、
図1に示すように、正極集電体と一体に形成してもよく、別途形成したリード片を溶接などで正極集電体に接続してもよい。
【0059】
[負極]
図3は、本発明の一実施形態に係る負極の正面図であり、
図4は
図3のIV−IV線断面図である。
負極3は、負極集電体3aおよび負極集電体3aに付着した負極活物質層3bを含む。負極活物質層3bは、電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質を必須成分として含み、任意成分として結着剤、導電材等を含んでもよい。負極に用いる結着剤および導電材としても、正極の構成要素として例示した材料を用いることができる。結着剤の量は、負極活物質100質量部あたり、1〜10質量部が好ましく、3〜5質量部がより好ましい。導電材の量は、負極活物質100質量部あたり、5〜15質量部が好ましく、5〜10質量部がより好ましい。
【0060】
電気化学的にナトリウムイオンを吸蔵および放出可能な負極活物質としては、熱的安定性や電気化学的安定性の観点から、難黒鉛化性炭素(ハードカーボン:non-graphitizable carbon)が好ましく用いられる。難黒鉛化性炭素は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0061】
難黒鉛化性炭素とは、不活性雰囲気中、高温(例えば、3000℃)で加熱しても、黒鉛構造が発達しない炭素材料であり、微小な黒鉛の結晶がランダムな方向に配置され、結晶層と結晶層との間にナノオーダーの空隙を有する材料をいう。代表的なアルカリ金属であるナトリウムイオンの直径は、0.95オングストロームであることから、空隙の大きさは、これより十分に大きいことが好ましい。
【0062】
難黒鉛化性炭素の平均粒径(体積粒度分布の累積体積50%における粒径D50)は、例えば3〜20μmであればよく、5〜15μmであることが、負極における負極活物質の充填性を高め、かつ電解質(溶融塩)との副反応を抑制する観点から望ましい。
【0063】
難黒鉛化性炭素の比表面積は、ナトリウムイオンの受け入れ性を確保するとともに、電解質との副反応を抑制する観点から、例えば1〜10m
2/gであればよく、3〜8m
2/gであることが好ましい。
【0064】
炭素材料における黒鉛型結晶構造の発達の程度の指標の1つとして、炭素材料のX線回折(XRD)スペクトルで測定される(002)面の平均面間隔d
002が使用されている。一般に、黒鉛に分類される炭素材料の平均面間隔d
002は0.337nm未満と小さいが、乱層構造を有する難黒鉛化性炭素の平均面間隔d
002は大きく、例えば、0.37nm以上である。難黒鉛化性炭素の平均面間隔d
002の上限は、特に制限されないが、平均面間隔d
002を、例えば、0.42nm以下とすることができる。難黒鉛化性炭素の平均面間隔d
002は、例えば、0.37〜0.42nmであり、0.38〜0.4nmであってもよい。
【0065】
負極集電体3aとしては、金属箔、金属繊維製の不織布、金属多孔体シートなどが用いられる。負極集電体を構成する金属としては、ナトリウムと合金化せず、負極電位で安定であることから、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金などが好ましい。これらのうち、軽量性に優れる点では、アルミニウムやアルミニウム合金が好ましい。アルミニウム合金は、例えば、正極集電体として例示したものと同様のアルミニウム合金を用いてもよい。負極集電体となる金属箔の厚さは、例えば10〜50μmであり、金属繊維の不織布や金属多孔体シートの厚さは、例えば100〜600μmである。負極集電体3aには、集電用のリード片3cを形成してもよい。リード片3cは、
図3に示すように、負極集電体と一体に形成してもよく、別途形成したリード片を溶接などで負極集電体に接続してもよい。
【0066】
[セパレータ]
正極と負極との間には、セパレータを配置することができる。セパレータの材質は、電池の使用温度を考慮して選択すればよいが、溶融塩電解質との副反応を抑制する観点からは、ガラス繊維、シリカ含有ポリオレフィン、フッ素樹脂、アルミナ、ポリフェニレンサルファイト(PPS)などを用いることが好ましい。なかでもガラス繊維の不織布は、安価であり、耐熱性も高い点で好ましい。また、シリカ含有ポリオレフィンやアルミナは、耐熱性に優れる点で好ましい。また、フッ素樹脂やPPSは、耐熱性と耐腐食性の点で好ましい。特にPPSは、溶融塩に含まれるフッ素に対する耐性に優れている。
【0067】
セパレータの厚さは、10μm〜500μm、更には20〜50μmであることが好ましい。この範囲の厚さであれば、内部短絡を有効に防止でき、かつ電極群に占めるセパレータの容積占有率を低く抑えることができるため、高い容量密度を得ることができるからである。
【0068】
[電極群]
ナトリウム溶融塩電池は、上記の正極と負極を含む電極群および溶融塩電解質を、電池ケースに収容した状態で用いられる。電極群は、正極と負極とを、これらの間にセパレータを介在させて積層または捲回することにより形成される。このとき、金属製の電池ケースを用いるとともに、正極および負極の一方を電池ケースと導通させることにより、電池ケースの一部を第1外部端子として利用することができる。一方、正極および負極の他方は、電池ケースと絶縁された状態で電池ケース外に導出された第2外部端子と、リード片などを用いて接続される。
【0069】
次に、本発明の一実施形態に係るナトリウム溶融塩電池の構造について説明する。ただし、本発明に係るナトリウム溶融塩電池の構造は、以下の構造に限定されるものではない。
図5は、電池ケースの一部を切り欠いたナトリウム溶融塩電池100の斜視図であり、
図6は、
図5におけるVI−VI線断面を概略的に示す縦断面図である。
【0070】
溶融塩電池100は、積層型の電極群11、電解質(図示せず)およびこれらを収容する角型のアルミニウム製の電池ケース10を具備する。電池ケース10は、上部が開口した有底の容器本体12と、上部開口を塞ぐ蓋部13とで構成されている。溶融塩電池100を組み立てる際には、まず、電極群11が構成され、電池ケース10の容器本体12に挿入される。その後、容器本体12に溶融塩電解質を注液し、電極群11を構成するセパレータ1、正極2および負極3の空隙に溶融塩電解質を含浸させる工程が行われる。あるいは、溶融塩電解質に電極群を含浸し、その後、溶融塩電解質を含んだ状態の電極群を容器本体12に収容してもよい。
【0071】
蓋部13の一方側寄りには、電池ケース10と
絶縁した状態で蓋部13を貫通する外部正極端子14が設けられ、蓋部13の他方側寄りの位置には、電池ケース10と
導通した状態で蓋部13を貫通する外部負極端子15が設けられている。蓋部13の中央には、
電池ケース10の内圧が上昇したときに内部で発生したガスを放出するための安全弁16が設けられている。
【0072】
積層型の電極群11は、いずれも矩形のシート状である、複数の正極2と複数の負極3およびこれらの間に介在する複数のセパレータ1により構成されている。
図6では、セパレータ1は、正極2を包囲するように袋状に形成されているが、セパレータの形態は特に限定されない。複数の正極2と複数の負極3は、電極群11内で積層方向に交互に配置される。
【0073】
各正極2の一端部には、正極リード片2cを形成してもよい。複数の正極2の正極リード片2cを束ねるとともに、電池ケース10の蓋部13に設けられた外部正極端子14に接続することにより、複数の正極2が並列に接続される。同様に、各負極3の一端部には、負極リード片3cを形成してもよい。複数の負極3の負極リード片3cを束ねるとともに、電池ケース10の蓋部13に設けられた外部負極端子15に接続することにより、複数の負極3が並列に接続される。正極リード片2cの束と負極リード片3cの束は、互いの接触を避けるように、電極群11の一端面の左右に、間隔を空けて配置することが望ましい。
【0074】
外部正極端子14および外部負極端子15は、いずれも柱状であり、少なくとも外部に露出する部分が螺子溝を有する。各端子の螺子溝にはナット7が嵌められ、ナット7を回転することにより蓋部13に対してナット7が固定される。各端子の電池ケース内部に収容される部分には、鍔部8が設けられており、ナット7の回転により、鍔部8が、蓋部13の内面に、ワッシャ9を介して固定される。
【0075】
[実施例]
次に、実施例に基づいて、本発明をより具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
【0076】
《
参考例1》
(負極の作製)
平均粒子径9μm、比表面積6m
2/g、真密度1.52g/cm
3の難黒鉛化性炭素(負極活物質)92質量%およびポリイミド(結着剤)8質量部を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に分散させて、負極ペーストを調製した。得られた負極ペーストを、厚さ18μmの銅箔の片面に塗布し、十分に乾燥させ、圧延して、厚さ30μmの負極合剤層を有する総厚48μmの負極を作製した。負極は、直径12mmのコイン型または30mm×60mmの矩形に打ち抜いた。
【0077】
(対極の作製)
厚さ20μmのアルミニウム箔の片面に、厚さ100μmの金属ナトリウムを貼り付け、対極とした。対極は、直径14mmのコイン型または32mm×62mmの矩形に打ち抜いた。
【0078】
(セパレータ)
厚さ50μm、空隙率90%のポリオレフィン製のセパレータを準備した。セパレータも、直径16mmのコイン型または34mm×64mmの矩形に打ち抜いた。
【0079】
(溶融塩電解質)
市販のナトリウム・ビス(フルオロスルフォニル)イミド(Na・FSI:ナトリウム塩)と、市販の1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・ビス(フルオロスルフォニル)イミド(MPPY・FSI:イオン性液体)とのモル比10:90の混合物からなる溶融塩電解質A1を調製した。
【0080】
溶融塩電解質A1の不純物をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、5000ppm以上の無機アンモニウムイオン(NH
4+)が不純物として含まれていた。
【0081】
次に、市販のMPPY・FSIを、ゼオライト(和光純薬工業(株)製のHS−320)を充填したカラムに通して精製し、その後、Na・FSIと混合し、MPPY・FSIとNa・FSIとのモル比90:10の混合物からなる溶融塩電解質B1を調製した。
【0082】
溶融塩電解質B1の不純物をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、無機アンモニウムイオン(NH
4+)は検出されなかった。なお、検出限界濃度は1ppmである。
【0083】
(コイン型ナトリウム溶融塩電池の作製)
コイン型の負極、対極およびセパレータを、0.3Paの減圧下で、90℃以上で加熱して十分に乾燥させた。その後、浅底の円筒型のAl/SUSクラッド製容器に、コイン型の負極を載置し、その上にコイン型のセパレータを介してコイン型の対極を載置し、所定量の溶融塩電解質B1を容器内に注液した。その後、周縁に絶縁ガスケットを具備する浅底の円筒型のAl/SUSクラッド製封口板で、容器の開口を封口した。これにより、容器底面と封口板との間で、負極、セパレータおよび対極からなる電極群に圧力を印加し、部材間の接触を確保した。こうして、設計容量1.5mAhのコイン型ナトリウム溶融塩電池(ハーフセル)B1を作製した。
【0084】
(矩形ナトリウム溶融塩電池の作製)
矩形の負極、対極およびセパレータを、0.3Paの減圧下で、90℃以上で加熱して十分に乾燥させた。その後、負極と対極にそれぞれリード片を接続し、負極と対極とをセパレータを介して対向配置し、平坦な電極群を形成した。次に、バリア層としてアルミニウム箔を具備するラミネートフィルムの袋体の容器に、電極群を収容し、所定量の溶融塩電解質B1を容器内に注液した。その後、減圧雰囲気中で、袋体の入口を溶着させて密閉した。ただし、容器の溶着部分からリード片をそれぞれ導出させた。次に、電極群を厚さ方向に加圧し、部材間の接触を確保した。こうして、設計容量24mAhの矩形ナトリウム溶融塩電池(ハーフセル)B1を作製した。
【0085】
《比較例1》
溶融塩電解質A1を溶融塩電解質B1の代わりに用いたこと以外、
参考例1と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池A1および矩形ナトリウム溶融塩電池A1を作製した。
【0086】
[評価1]
実施例1および比較例1のコイン型ナトリウム溶融塩電池を恒温室内で90℃になるまで加熱し、温度が安定した状態で、以下の(1)〜(2)の条件を1サイクルとして、100サイクルの充放電を行い、1サイクル目の放電容量に対する50サイクル目または100サイクル目の放電容量の割合(容量維持率)を求めた。
【0087】
(1)充電電流0.2Cで、充電終止電圧0.005Vまで充電
(2)放電電流0.2Cで、放電終止電圧1.5Vまで放電
【0088】
容量維持率の結果を表1に示す。また、実施例1の電池B1の充放電カーブを
図1に示す。更に、比較例1の電池A1の充放電カーブを
図2に示す。
【0089】
《
実施例1、2および参考例2》
市販のMPPY・FSIを、ゼオライトを充填したカラムに通して精製する際、カラムの長さを調整して、イオン性液体に含まれる不純物の濃度を変化させた。これにより、50ppm
(実施例1)、500ppm
(実施例2)または1000ppm
(参考例2)の無機アンモニウムイオン(NH
4+)が不純物として含まれる、MPPY・FSIとNa・FSIとのモル比90:10の混合物からなる溶融塩電解質B2〜B4を調製した。溶融塩電解質B2〜B4を溶融塩電解質B1の代わりに用いたこと以外、
参考例1と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池B2〜B4および矩形ナトリウム溶融塩電池B2〜B4を作製した。その後、上記と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池B2〜B4の容量維持率を評価した。結果を表1に示す。
【0090】
《比較例2》
市販のMPPY・FSIを、ゼオライトを充填したカラムに通して精製する際、カラムの長さを調整して、2000ppmの無機アンモニウムイオン(NH
4+)が不純物として含まれる、MPPY・FSIとNa・FSIとのモル比90:10の混合物からなる溶融塩電解質A2を調製した。溶融塩電解質A2を溶融塩電解質B1の代わりに用いたこと以外、実施例1と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池A2および矩形ナトリウム溶融塩電池A2を作製した。その後、上記と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池A2の容量維持率を評価した。結果を表1に示す。
【0092】
表1より、溶融塩電解質に含まれる不純物のアンモニウムカチオンの濃度が1000ppm以下の場合に、容量維持率が大きく向上することが理解できる。
【0093】
また、図
7、8より、比較例1の充放電カーブには、アンモニウムカチオンの吸蔵および放出に関連するピークが観測されることが理解できる。このピークは副反応に起因するものであり、容量維持率の低下に関連している。
【0094】
[評価2]
実施例1、2、参考例1、2および比較例1、2の矩形ナトリウム溶融塩電池B1〜B4およびA1〜A2の充放電を1000サイクル繰り返し、1サイクル目の電池厚みに対する1000サイクル目の電池厚みの増加率を求めた。
厚みの増加率の結果を表2に示す。
【0096】
表2より、溶融塩電解質に含まれる不純物のアンモニウムカチオンの濃度が50ppm以上、1000ppm以下(好ましくは500ppm以下)の場合、長期間の充放電サイクルを繰り返す際に、ガス発生を抑制する効果が得られることが理解できる。
【0097】
《
実施例3、4および参考例3、4》
市販のナトリウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(Na・TFSI:ナトリウム塩)と、市販の1−メチル−1−プロピルピロリジニウム・ビス(トリフルオロメチルスルフォニル)イミド(MPPY・TFSI:イオン性液体)とのモル比10:90の混合物からなる溶融塩電解質C1を調製した。
【0098】
溶融塩電解質C1の不純物を、イオンクロマトグラフィーで分析したところ、5000ppm以上の無機アンモニウムイオン(NH
4+)が不純物として含まれていた。
【0099】
次に、市販のMPPY・TFSIを、ゼオライト(和光純薬工業(株)製のHS−320)を充填したカラムに通して精製し、その後、Na・TFSIと混合し、MPPY・TFSIとNa・TFSIとのモル比90:10の混合物からなる溶融塩電解質D1を調製した。
【0100】
溶融塩電解質D1の不純物をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、無機アンモニウムイオン(NH
4+)は検出されなかった。
【0101】
また、市販のMPPY・TFSIを、ゼオライトを充填したカラムに通して精製する際、カラムの長さを調整して、イオン性液体に含まれる不純物の濃度を変化させた。これにより、50ppm
(実施例3)、500ppm
(実施例4)または1000ppm
(参考例4)の無機アンモニウムイオン(NH
4+)が不純物として含まれる、MPPY・TFSIとNa・TFSIとのモル比90:10の混合物からなる溶融塩電解質D2〜D4を調製した。
【0102】
溶融塩電解質D1〜D4を溶融塩電解質B1の代わりに用いたこと以外、
参考例1と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池D1〜D4を作製した。
【0103】
《比較例3》
溶融塩電解質C1を溶融塩電解質B1の代わりに用いたこと以外、
参考例1と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池C1を作製した。
【0104】
[評価3]
実施例3、4、参考例3、4および比較例3においても、上記と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池D1〜D4およびC1の容量維持率を測定した。結果を表3に示す。
【0106】
表3より、イオン性液体の種類が異なる場合にも、溶融塩電解質に含まれる不純物のアンモニウムカチオンの濃度が1000ppm以下の場合に、容量維持率が大きく向上することが理解できる。
【0107】
《
実施例5、6および参考例5、6》
市販のナトリウム・ビス(フルオロスルフォニル)イミド(Na・FSI:ナトリウム塩)と、市販の1−ブチル−1−メチルピロリジニウム・ビス(フルオロスルフォニル)イミド(MBPY・FSI:イオン性液体)とのモル比10:90の混合物からなる溶融塩電解質E1を調製した。
【0108】
溶融塩電解質E1の不純物を、イオンクロマトグラフィーで分析したところ、5000ppm以上の無機アンモニウムイオン(NH
4+)が不純物として含まれていた。
【0109】
次に、市販のMBPY・FSIを、ゼオライト(和光純薬工業(株)製のHS−320)を充填したカラムに通して精製し、その後、Na・FSIと混合し、MBPY・FSIとNa・FSIとのモル比90:10の混合物からなる溶融塩電解質F1を調製した。
【0110】
溶融塩電解質F1の不純物をイオンクロマトグラフィーで分析したところ、無機アンモニウムイオン(NH
4+)は検出されなかった。
【0111】
また、市販のMBPY・FSIを、ゼオライトを充填したカラムに通して精製する際、カラムの長さを調整して、イオン性液体に含まれる不純物の濃度を変化させた。これにより、50ppm
(実施例5)、500ppm
(実施例6)または1000ppm
(参考例6)の無機アンモニウムイオン(NH
4+)が不純物として含まれる、MBPY・FSIとNa・FSIとのモル比90:10の混合物からなる溶融塩電解質F2〜F4を調製した。
【0112】
溶融塩電解質F1〜F4を溶融塩電解質B1の代わりに用いたこと以外、
参考例1と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池F1〜F4を作製した。
【0113】
《比較例4》
溶融塩電解質E1を溶融塩電解質B1の代わりに用いたこと以外、
参考例1と同様に、コイン型ナトリウム溶融塩電池E1を作製した。
【0114】
[評価3]
実施例5、6、参考例5、6および比較例4においても、上記と同様に容量維持率を測定した。結果を表4に示す。
【0116】
表4より、イオン性液体の種類が異なる場合にも、溶融塩電解質に含まれる不純物のアンモニウムカチオンの濃度が1000ppm以下の場合に、容量維持率が大きく向上することが理解できる。