(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6194718
(24)【登録日】2017年8月25日
(45)【発行日】2017年9月13日
(54)【発明の名称】誘導電動機の定数測定装置及び定数測定方法
(51)【国際特許分類】
H02P 21/14 20160101AFI20170904BHJP
【FI】
H02P21/14
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-195807(P2013-195807)
(22)【出願日】2013年9月20日
(65)【公開番号】特開2015-61492(P2015-61492A)
(43)【公開日】2015年3月30日
【審査請求日】2016年8月1日
(73)【特許権者】
【識別番号】000106276
【氏名又は名称】サンケン電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097113
【弁理士】
【氏名又は名称】堀 城之
(74)【代理人】
【識別番号】100162363
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】中島 洋一郎
【審査官】
池田 貴俊
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4540674(JP,B2)
【文献】
米国特許第07423401(US,B2)
【文献】
特開平03−261394(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸を回転させない拘束試験によって、三相交流電源で駆動する誘導電動機のセンサレスベクトル制御に用いる複数のモータ定数を測定する誘導電動機の定数測定装置であって、
前記誘導電動機に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記誘導電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に印加する電圧値と前記電流検出手段によって検出した電流値とを用いて前記モータ定数を演算するモータ定数演算手段とを具備し、
前記モータ定数演算手段は、前記電圧値と前記電流値とを用いて直接演算可能な前記モータ定数と、受け付けたモータ情報とを用いて演算できる前記誘導電動機の有効電力と皮相電力から力率を演算し、当該力率から前記モータ定数の一つである励磁電流を演算することを特徴とする誘導電動機の定数測定装置。
【請求項2】
前記モータ定数演算手段は、演算した前記力率を予め設定された上限と下限との範囲に収めるリミット処理を行うことを特徴とする請求項1記載の誘導電動機の定数測定装置。
【請求項3】
軸を回転させない拘束試験によって、三相交流電源で駆動する誘導電動機のセンサレスベクトル制御に用いる複数のモータ定数を測定する誘導電動機の定数測定装置であって、
前記誘導電動機に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記誘導電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、
前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に印加する電圧値と前記電流検出手段によって検出した電流値とを用いて前記モータ定数を演算するモータ定数演算手段とを具備し、
前記モータ定数演算手段は、前記電圧値と前記電流値とを用いて直接演算可能な前記モータ定数と、受け付けた前記誘導電動機の定格電圧、定格電流及び容量とを用いて前記モータ定数の一つである励磁電流を演算することを特徴とする誘導電動機の定数測定装置。
【請求項4】
軸を回転させない拘束試験によって、三相交流電源で駆動する誘導電動機のセンサレスベクトル制御に用いる複数のモータ定数を測定する誘導電動機の定数測定方法であって、
電圧印加手段によって前記誘導電動機に直流電圧を印加すると共に、電流検出手段によって前記誘導電動機に流れる電流を検出し、モータ定数演算手段によって、前記誘導電動機に印加する電圧値と前記誘導電動機に流れる電流値とを用いて一次抵抗を演算する一次抵抗演算処理工程と、
前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に交流電圧を印加すると共に、前記電流検出手段によって前記誘導電動機に流れる電流を検出し、前記モータ定数演算手段によって、有効電力と前記誘導電動機に流れる電流値と前記一次抵抗とから二次抵抗を演算する二次抵抗演算処理工程と、
前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に交流電圧を印加すると共に、前記電流検出手段によって前記誘導電動機に流れる電流を検出し、前記モータ定数演算手段によって、前記電動機のそれぞれの入力に一括で交流電圧を印加し、前記誘導電動機に流れる電流値と印加した交流電圧の周波数とから漏れインダクタンスを演算する漏れインダクタンス演算処理工程と、
モータ情報として前記誘導電動機の定格電圧、定格電流及び容量を受け付け、前記モータ定数演算手段によって、前記モータ情報と前記一次抵抗と前記二次抵抗とから演算できる前記誘導電動機の有効電力と皮相電力とから力率を演算し、当該力率から励磁電流を演算する励磁電流演算処理工程と、
前記モータ情報として前記誘導電動機の定格周波数を受け付け、前記モータ定数演算手段によって、前記励磁電流と前記モータ情報と前記一次抵抗とから一次インダクタンスを演算する一次インダクタンス演算処理工程と、
前記モータ定数演算手段によって、前記一次インダクタンスと前記漏れインダクタンスとから相互インダクタンスを演算する相互インダクタンス演算処理工程とを備えることを特徴とする誘導電動機の定数測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、拘束試験で誘導電動機のモータ定数を測定する誘導電動機の定数測定装置及び定数測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
誘導電動機を高性能に制御する場合、磁束とトルクを個別に制御するベクトル制御が使用される。特に最近は、速度(PG)センサ等による誘導電動機の速度検出を行わずに制御を行う、センサレスベクトル制御の市場ニーズが高まっている。センサレスベクトル制御を精度よく行う場合、制御対象となる誘導電動機の複数のモータ定数を把握する必要がある。従って、使用する誘導電動機が不特定となる汎用インバータでは、様々な誘導電動機が使用されても、常に精度の高いベクトル制御を行うことができるよう、誘導電動機のモータ定数を自動で測定するオートチューニング機能を有している。
【0003】
例えば、特許文献1には、交流電動機を定常状態で運転し、この時の1次角周波数指令を積分した位相と交流電動機の電流検出値から、電動機電流ベクトル有効パワー分電流と、無効パワー分電流を演算し、1次角周波数指令値及び1次電圧指令値と、有効パワー分電流及び無効パワー分電流に基づいて、電動機の1次自己インダクタンスを演算することが示されている。
【0004】
誘導電動機のモータ定数のオートチューニング(自動測定)は、JEC−37(電気学会電気規格調査会標準規格)に示され、拘束試験及び無負荷試験に基づいた処理を行うことで実現している。拘束試験において、直流電圧を印加することで一次抵抗が測定でき、単相交流電圧を印加することで二次抵抗と漏れインダクタンスが測定でき、また、無負荷試験において励磁電流と自己インダクタンス及び相互インダクタンスが測定できることが知られている。
【0005】
ここで、無負荷試験は基本的に何も負荷がつながっていない状態で実施する必要があるが、実際に誘導電動機が使用される機器では、誘導電動機単体を切り離すことが困難であり、誘導電動機を回転させないでモータ定数の測定を行わなければならないことが多い。そこで、誘導電動機1のモータ定数を測定する従来の定数測定装置10では、
図7に示すように、誘導電動機1を回転させないと直接計測できないモータ定数である励磁電流と自己インダクタンス及び相互インダクタンスについて、誘導電動機1の容量毎に予め記憶されたモータデータテーブル19を設け、直接測定可能なモータ定数のみ更新を行っていた。
【0006】
従来の定数測定装置10は、
図7を参照すると、整流回路11と、平滑回路12と、インバータ回路13と、U相電流検出器14と、W相電流検出器15と、PWMゲート信号生成器16と、チューニング電圧指令値演算器17と、電流実効値演算器18と、モータデータテーブル19と、モータ定数演算器20とを備えている。なお、整流回路11は、ダイオードによって、平滑回路12は、コンデンサによって、インバータ回路13は、パワースイッチング素子によってそれぞれ実現される。また、PWMゲート信号生成器16、チューニング電圧指令値演算器17、電流実効値演算器18及びモータ定数演算器20は、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等で構成されたコンピュータと、ROM,RAM等に格納されたプログラムとによって実現される。さらに、モータデータテーブル19は、フラッシュメモリ等の記憶手段である。
【0007】
商用三相交流電源2から供給された交流電圧は、整流回路11によって直流電圧に変換され、変換された直流電圧は、平滑回路12によって平滑化される。そして、平滑回路12によって平滑化された直流電圧は、インバータ回路13に供給され、インバータ回路13によって誘導電動機1を直流励磁や交流励磁する。
【0008】
チューニング電圧指令値演算器17は、拘束試験においてオートチューニングが指示されると、三相電圧指令信号Vu* 、Vv* 、Vw*をPWMゲート信号生成器16に出力することで、誘導電動機1のU相とV相とW相とを一括にした端子間に、インバータ回路13から直流電圧と単相交流電圧とを順次印加する。モータ定数演算器20は、三相電圧指令信号Vu*、Vv*、Vw*と、U相電流検出器14によって検出されたU相電流Iuと、W相電流検出器15によって検出されたW相電流Iwとに基づいて、直流電圧印加時に、一次抵抗を演算すると共に、単相交流電圧印加時に、二次抵抗と漏れインダクタンスとを演算する。そして、モータ定数演算器20は、励磁電流と自己インダクタンス及び相互インダクタンスについては、図示しない入力手段によって誘導電動機1の容量の入力を受け付け、受け付けた容量に基づいてモータデータテーブル19に予め記憶されているモータ定数を特定するように構成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2011−199024号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、従来技術では、励磁電流と自己インダクタンス及び相互インダクタンスとを直接測定できないため、誤差が大きく、センサレスベクトル制御でトルクの誤差が大きくなってしまうという問題点があった。また、従来技術では、駆動する誘導電動機1に対応する類似のモータ定数を予め記憶させたモータデータテーブル19を用意しなければならず、誘導電動機1が特殊モータ等でモータデータテーブル19に類似のモータ定数が記憶されていない場合には、駆動する誘導電動機1のモータ定数を特定することができず、センサレスベクトル制御での駆動ができないという問題点があった。
【0011】
本発明の目的は、上記問題点に鑑み、従来技術の問題を解決し、無負荷試験で測定していたモータ定数を、拘束試験で直接測定可能な測定結果に基づいて演算することができる誘導電動機の定数測定装置及び定数測定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の誘導電動機の定数測定装置は、軸を回転させない拘束試験によって、三相交流電源で駆動する誘導電動機のセンサレスベクトル制御に用いる複数のモータ定数を測定する誘導電動機の定数測定装置であって、前記誘導電動機に電圧を印加する電圧印加手段と、前記誘導電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に印加する電圧値と前記電流検出手段によって検出した電流値とを用いて前記モータ定数を演算するモータ定数演算手段とを具備し、前記モータ定数演算手段は、前記電圧値と前記電流値とを用いて直接演算可能な前記モータ定数と、受け付けたモータ情報とを用いて
演算できる前記誘導電動機の有効電力と皮相電力から力率を演算し、当該力率から前記モータ定数の一つである励磁電流を演算することを特徴とする
。
さらに、本発明の誘導電動機の定数測定装置において、前記モータ定数演算手段は、演算した前記力率を予め設定された上限と下限との範囲に収めるリミット処理を行うようにしても良い。
また、本発明の誘導電動機の定数測定装置は、軸を回転させない拘束試験によって、三相交流電源で駆動する誘導電動機のセンサレスベクトル制御に用いる複数のモータ定数を測定する誘導電動機の定数測定装置であって、前記誘導電動機に電圧を印加する電圧印加手段と、前記誘導電動機に流れる電流を検出する電流検出手段と、前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に印加する電圧値と前記電流検出手段によって検出した電流値とを用いて前記モータ定数を演算するモータ定数演算手段とを具備し、前記モータ定数演算手段は、前記電圧値と前記電流値とを用いて直接演算可能な前記モータ定数と、受け付けた前記誘導電動機の定格電圧、定格電流及び容量とを用いて前記モータ定数の一つである励磁電流を演算することを特徴とする。
また、本発明の誘導電動機の定数測定方法は、軸を回転させない拘束試験によって、三相交流電源で駆動する誘導電動機のセンサレスベクトル制御に用いる複数のモータ定数を測定する誘導電動機の定数測定方法であって、電圧印加手段によって前記誘導電動機に直流電圧を印加すると共に、電流検出手段によって前記誘導電動機に流れる電流を検出し、モータ定数演算手段によって、前記誘導電動機に印加する電圧値と前記誘導電動機に流れる電流値とを用いて一次抵抗を演算する一次抵抗演算処理工程と、前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に交流電圧を印加すると共に、前記電流検出手段によって前記誘導電動機に流れる電流を検出し、前記モータ定数演算手段によって、有効電力と前記誘導電動
機に流れる電流値と前記一次抵抗とから二次抵抗を演算する二次抵抗演算処理工程と、前記電圧印加手段によって前記誘導電動機に交流電圧を印加すると共に、前記電流検出手段によって前記誘導電動機に流れる電流を検出し、前記モータ定数演算手段によって、前記電動機のそれぞれの入力に一括で交流電圧を印加し、前記誘導電動機に流れる電流値と印加した交流電圧の周波数とから漏れインダクタンスを演算する漏れインダクタンス演算処理工程と、モータ情報として前記誘導電動機の定格電圧、定格電流及び容量を受け付け、前記モータ定数演算手段によって、前記モータ情報と前記一次抵抗と前記二次抵抗とから演算できる前記誘導電動機の有効電力と皮相電力とから力率を演算し、当該力率から励磁電流を演算する励磁電流演算処理工程と、前記モータ情報として前記誘導電動機の定格周波数を受け付け、前記モータ定数演算手段によって、前記励磁電流と前記モータ情報と前記一次抵抗とから一次インダクタンスを演算する一次インダクタンス演算処理工程と、前記モータ定数演算手段によって、前記一次インダクタンスと前記漏れインダクタンスとから相互インダクタンスを演算する相互インダクタンス演算処理工程とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、無負荷試験で測定していたモータ定数である励磁電流I
0を、モータデータテーブルに頼らずに、拘束試験で直接測定可能な測定結果に基づいて演算することができるため、精度の高い誘導電動機の定数計測が可能になり、センサレスベクトル制御を高精度に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明に係る誘導電動機の定数測定装置の実施の形態の構成を示す回路構成図である。
【
図2】
図1に示すモータ定数演算器の演算動作を示すフローチャートである。
【
図3】
図1に示す誘導電動機に直流電圧を印加した時の等価回路図である。
【
図4】
図1に示す誘導電動機に単相交流電圧を印加した時の等価回路図である。
【
図5】
図1に示す誘導電動機の定格負荷時における電流ベクトル図である。
【
図6】
図1に示す誘導電動機の無負荷運転時における等価回路図である。
【
図7】従来の定数測定装置の実施の形態の構成を示す回路構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に、本発明の実施の形態を、図面を参照して具体的に説明する。なお、各図において、同一の構成には、同一の符号を付して一部説明を省略している。
【0016】
本実施の形態の定数測定装置10aは、
図1を参照すると、モータデータテーブル19が設けられておらず、モータ定数演算器20aにおいて、従来は無負荷試験で測定していたモータ定数(励磁電流と自己インダクタンス及び相互インダクタンス)を、拘束試験で直接測定可能な測定結果に基づいて演算するように構成されている。
【0017】
以下、本実施の形態の定数測定装置10aにおけるオートチューニング動作について
図2乃至
図6を参照して詳細に説明する。
チューニング電圧指令値演算器17は、拘束試験においてオートチューニングが指示されると、三相電圧指令信号Vu* 、Vv* 、Vw*をPWMゲート信号生成器16に出力することで、誘導電動機1のU相と、V相とW相とを一括にした端子間に、インバータ回路13から直流電圧を印加する直流電圧印加処理を実行すると共に、モータ定数演算器20は、誘導電動機1に印加される電圧Vuと、誘導電動機1を流れる電流iuの平均値を演算する電圧・電流平均値演算処理を実行する(ステップ101)。ステップ101において、チューニング電圧指令値演算器17には、電流実効値演算器18で演算された電流実効値Iがフィードバックされ、誘導電動機1に流れる電流が大きすぎないよう、印加電圧(三相電圧指令信号Vu* 、Vv* 、Vw*)の大きさを調整する。
【0018】
図3は、ステップ101における直流電圧印加時の誘導電動機1の等価回路であり、モータ定数演算器20は、ステップ101で平均を演算した電圧Vumと電流iumとを用いて、一次抵抗R
1を下式〔数1〕によって演算する一次抵抗演算処理を実行する(ステップ102)。なお、一次抵抗R
1の演算に用いる電圧Vumと電流iumとに、定常状態における一定期間での平均値を用いることで、検出精度を高めている。
【0020】
次に、チューニング電圧指令値演算器17は、三相電圧指令信号Vu* 、Vv* 、Vw*をPWMゲート信号生成器16に出力することで、誘導電動機1のU相と、V相とW相とを一括にした端子間に、インバータ回路13から単相交流電圧を印加する単相交流電圧印加処理を実行すると共に、モータ定数演算器20は、有効電力Pmと無効電力Qmとを演算する有効電力・無効電力演算処理を実行する(ステップ103)。ステップ103においても、直流電圧印加時と同様に、チューニング電圧指令値演算器17には、電流実効値演算器18で演算された電流実効値Iがフィードバックされ、誘導電動機1に流れる電流が大きすぎないよう、印加電圧(三相電圧指令信号Vu* 、Vv* 、Vw*)の大きさを調整する。
【0021】
図4は、ステップ103における単相交流電圧印加時の誘導電動機1の等価回路である。モータ定数演算器20は、単相交流印加時の電圧指令値Vu*(実効値)を√2倍し、位相θによるsinθを乗じて瞬時電圧値とした上で、瞬時電流とを乗じて下式〔数2〕による積分処理により有効電力Pmを演算する。また、モータ定数演算器20は、単相交流印加時の電圧指令値Vu*(実効値)を√2倍し、位相θによるcosθを乗じて瞬時電圧値とした上で、瞬時電流とを乗じて下式〔数2〕による積分処理により無効電力Qmを演算する。
【0023】
次に、モータ定数演算器20は、二次抵抗R
2と漏れインダクタンスl
1とを演算する二次抵抗・漏れインダクタンス演算処理を実行する(ステップ104)。モータ定数演算器20は、上式〔数1〕で求めた一次抵抗R
1と、U相平均電流iumと、上式〔数2〕で求めた有効電力Pmとを用いて、下式〔数3〕によって二次抵抗R
2を演算する。
【0025】
また、モータ定数演算器20は、単相交流印加時の周波数fと、U相平均電流iumと、上式〔数2〕で無効電力Qmとを用いて、下式〔数4〕によって漏れインダクタンスl
1を演算する。
【0027】
次に、モータ定数演算器20は、励磁電流I
0を演算する励磁電流演算処理を実行する(ステップ105)。励磁電流I
0は、拘束試験において測定できる測定結果から直接導くことができない。そこで、モータ定数演算器20は、図示しない入力手段から誘導電動機1の定格銘板等に記載されている既知のモータ情報(ユーザが容易に把握可能な数値)の入力を受け付け、受け付けた定数を用いて励磁電流I
0の演算を行う。
【0028】
図5は、誘導電動機1の定格負荷時における電流ベクトル図を示している。ベクトル制御中は、常に一定の励磁電流I
0を流すため、定格出力時の電流ベクトルI
nは励磁電流I
0となす角(90°−θm)の関係となる。ここでθmは定格負荷時における誘導電動機1の力率角である。また電流ベクトルI
nの大きさは、大抵、誘導電動機1の定格電流であることから比較的容易に把握可能であり、力率角θmが分かれば励磁電流I
0を演算することができる。ここで力率角θmは、力率cosθmとして誘導電動機1の定格出力時の有効電力Pと皮相電力Wとを用いて、下式〔数5〕によって演算できる。なお、皮相電力Wは、定格電圧Vnと、定格電流Inとを用いて、下式〔数5〕によって演算できる。
【0030】
また、有効電力Pは、誘導電動機1の容量Pmotと、誘導電動機1の効率ηと下式〔数6〕によって演算できる。
【0032】
ここで、誘導電動機1の定格電圧Vn、定格電流In及び容量Pmotは、誘導電動機1の定格銘板等に記載されている既知のモータ情報(ユーザが容易に把握可能な数値)であり、図示しない入力手段によって受け付けることが可能であるが、効率ηは把握が難しい値である。
【0033】
効率ηは、誘導電動機1の損失を電気損失Welossと機械損失Wmlossとに分けると、下式〔数7〕によって表される。
【0035】
ここで、電気損失Welossは、上式〔数1〕で求めた一次抵抗R
1と、上式〔数3〕で求めた二次抵抗R
2と、定格電流Inとによって、下式〔数8〕によって演算できる。
【0037】
また、機械損失Wmlossは、直接測定が困難であるが、容量Pmotに対する割合として設定する。容量Pmot毎に代表的な誘導電動機1の機械損失Wmlossを把握しておくことにより、受け付けた容量Pmotにより機械損失Wmlossを設定する。
【0038】
従って、モータ定数演算器20は、誘導電動機1の定格銘板等に記載されている既知の定数(容易に把握可能な定数)として、誘導電動機1の定格電圧Vn、定格電流In及び容量Pmotを図示しない入力手段によって受け付け、受け付けた誘導電動機1の定格電圧Vn、定格電流In及び容量Pmotと、上式〔数1〕で求めた一次抵抗R
1と、上式〔数3〕で求めた二次抵抗R
2とを用いて、上式〔数5〕によって力率cosθmを演算する。
【0039】
そして、モータ定数演算器20は、上式〔数5〕によって演算した力率cosθmに対して上限と下限においてリミット処理を行う。力率cosθmの上限については「1」に近い値が有りえないことから、0.95を上限値として設定されている。また、力率cosθmの下限については比較的力率の良くないモータを参考に、「0.65」に設定されている。なお、この力率の上限値と下限値とは任意の値を設定可能とする。
【0040】
さらに、モータ定数演算器20は、リミット処理後の力率cosθmと、定格電流Inとを用いて、下式〔数9〕によって励磁電流I
0を演算する。
【0042】
次に、モータ定数演算器20は、自己インダクタンスL1と、相互インダクタンスLmとを演算するインダクタンス(自己・相互)演算処理を実行する(ステップ106)。モータ定数演算器20は、
図7に示す無負荷運転時の誘導電動機1の等価回路から、上式〔数9〕で求めた励磁電流I
0と、定格電圧Vnと、定格周波数fnと、上式〔数1〕で求めた一次抵抗R
1とを用いて、下式〔数10〕によって一次インダクタンスL
1を演算する。なお、定格周波数fnは、誘導電動機1の定格銘板等に記載されている既知の定数(容易に把握可能な定数)として、図示しない入力手段によって受け付ける。また、二次インダクタンスL
2は一次インダクタンスL
1とほぼ変わらないことから、下式〔数10〕で求めた一次インダクタンスL
1の値をそのまま使用することができる。
【0044】
そして、モータ定数演算器20は、上式〔数10〕で求めた一次インダクタンスL
1と、上式〔数4〕で求めた漏れインダクタンスl
1とを用いて、下式〔数11〕によって相互インダクタンスLmを演算し、オートチューニング処理を終了する。
【0046】
以上説明したように、本実施の形態は、軸を回転させない拘束試験によって、三相交流電源で駆動する誘導電動機1のセンサレスベクトル制御に用いる複数のモータ定数を測定する誘導電動機1の定数測定装置10aであって、三相電圧指令信号Vu* 、Vv* 、Vw*をPWMゲート信号生成器16に出力することで、誘導電動機1にインバータ回路13から電圧を印加するチューニング電圧指令値演算器17と、誘導電動機1に流れる電流を検出するU相電流検出器14と、電圧Vuと電流値iuとを用いてモータ定数(一次抵抗、二次抵抗及び漏れインダクタンス)を演算するモータ定数演算器20とを具備し、モータ定数演算器20は、電圧Vuと電流値iuとを用いて直接演算可能なモータ定数(一次抵抗、二次抵抗及び漏れインダクタンス)と、受け付けたモータ情報とを用いてモータ定数の一つである励磁電流I
0を演算するように構成されている。
この構成により、無負荷試験で測定していたモータ定数である励磁電流I
0を、モータデータテーブルに頼らずに、拘束試験で直接測定可能な測定結果に基づいて演算することができるため、精度の高い誘導電動機の定数計測が可能になり、センサレスベクトル制御を高精度に行うことができる。
【0047】
さらに、本実施の形態によれば、モータ定数演算器20は、誘導電動機1の有効電力Pと皮相電力Wから力率cosθmを演算し、力率cosθmから励磁電流I
0を演算するように構成されている。
この構成により、励磁電流I
0を拘束試験で直接測定可能な測定結果に基づいて演算することができる。
【0048】
さらに、本実施の形態によれば、モータ定数演算器20は、演算した力率cosθmを予め設定された上限と下限との範囲と収めるリミット処理を行うように構成されている。
この構成により、力率cosθmを適正な範囲に収めることができる。なお、上限と下限とは任意の値を設定可能とする。
【0049】
さらに、本実施の形態によれば、モータ定数演算器20は、モータ情報として誘導電動機1の定格電圧Vn、定格電流In及び容量Pmotを受け付けるように構成されている。
この構成により、誘導電動機1の定格銘板等に記載されている既知の定数(容易に把握可能な定数)である誘導電動機1の定格電圧Vn、定格電流In及び容量Pmotを受け付けるだけで、励磁電流I
0を拘束試験で直接測定可能な測定結果に基づいて演算することができる。
【0050】
なお、本発明が上記各実施の形態に限定されず、本発明の技術思想の範囲内において、各実施の形態は適宜変更され得ることは明らかである。また、上記構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本発明を実施する上で好適な数、位置、形状等にすることができる。なお、各図において、同一構成要素には同一符号を付している。
【符号の説明】
【0051】
1 誘導電動機
2 商用三相交流電源
10、10a 定数測定装置
11 整流回路
12 平滑回路
13 インバータ回路
14 U相電流検出器
15 W相電流検出器
16 PWMゲート信号生成器
17 チューニング電圧指令値演算器
18 電流実効値演算器
19 モータデータテーブル
20、20a モータ定数演算器