(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一クラッチは、前記3つの要素間のうち前記第一プラネタリ機構の前記第一要素と前記第二プラネタリ機構の前記第二要素の要素間の要素同士を選択的に連結する位置に配置されている、請求項2の変速装置。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の変速装置を具体化した実施形態について図面を参照して説明する。実施形態において、変速装置は、車両に搭載されたエンジンが出力する回転駆動力を変速する装置として用いられる。車両は、変速装置により変速された回転駆動力が図示しない差動装置などを介して車両の駆動輪に伝達されて、変速装置において成立した所定の変速段で前進または後進するように構成されている。
【0020】
<第一実施形態>
(変速装置の構成)
変速装置1の構成について
図1を参照して説明する。変速装置1は、ハウジングHに回転軸線L周りに回転可能に支承された4つのプラネタリ機構P1〜P4と、複数の要素同士を選択的に連結可能な4つのクラッチC1〜C4と、所定の要素の回転を制動する2つのブレーキB1,B2と、各要素を連結する連結部材51〜54,61〜63,71〜73,81と、外部出力部材91と、ハウジングHに回転軸線L周りに回転可能に支承された入力軸Nと、ハウジングHに回転軸線L周りに回転可能に支承された出力軸Tとを備えて構成される。
【0021】
また、この変速装置1において、車両の制御ECU2は、各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1,B2からなる係合要素の作動状態を、制御信号に基づいて制御する。そして、本実施形態においては、上記の係合要素のうち3つの係合要素を作動させることによって、入力軸Nから入力される回転駆動力を、前進10速段および後進1速段の何れかに変速して、出力軸Tから出力可能な構成となっている。変速装置1における係合要素の作動状態と成立する変速段に関する詳細については後述する。
【0022】
各プラネタリ機構P1〜P4は、サンギヤ、リングギヤ、キャリアの3要素を有する。回転軸線L方向において、入力側(
図1の左側)から出力側(
図1の右側)に向けて、順に第一、第二、第三、および第四プラネタリ機構P1〜P4とする。プラネタリ機構は、シングルピニオン式とダブルピニオン式を含む。シングルピニオン式においては、キャリアに回転可能に支持されたピニオンギヤが、サンギヤおよびリングギヤに噛合する。ダブルピニオン式においては、互いに噛合する2つのピニオンギヤの一方がサンギヤに噛合し、且つ他方がリングギヤに噛合する。シングルピニオン式は部品点数が少なく構成を簡易にできるという利点があり、ダブルピニオン式はプラネタリ機構における変速比の設計自由度を高くできるという利点がある。
【0023】
本実施形態に係る変速装置1において、前進10速段、後進1速段の多段変速を得るという観点からは、シングルピニオン式またはダブルピニオン式の何れも各プラネタリ機構P1〜P4に適用することが可能である。但し、シングルピニオン式とダブルピニオン式とでは、例えばキャリアを固定してサンギヤを回転させた場合にリングギヤの回転方向が異なるという違いがある。そのため、シングルピニオン式のプラネタリ機構とダブルピニオン式のプラネタリ機構との間で変更を行う場合には、当該プラネタリ機構のリングギヤおよびキャリアに連結される要素を互いに入れ換えることにより、変更に対応することができる。
【0024】
そこで、以下では、シングルピニオン式の場合にはリングギヤを第一要素、キャリアを第二要素と定義し、ダブルピニオン式の場合にはキャリアを第一要素、リングギヤを第二要素と定義する。具体的には、本実施形態において、第一プラネタリ機構P1、第三プラネタリ機構P3、および第四プラネタリ機構P4は、シングルピニオン式であり、各リングギヤが第一要素、各キャリアが第二要素と定義される。第二プラネタリ機構P2は、ダブルピニオン式であり、キャリアが第一要素、リングギヤが第二要素と定義される。
【0025】
また、プラネタリ機構の3要素を表記するため、サンギヤに関しては各プラネタリ機構の符号”P1,P2,P3,P4”に対して符号’s’を、第一要素に関しては各プラネタリ機構の符号”P1,P2,P3,P4”に対して符号’1’を、第二要素に関しては各プラネタリ機構の符号”P1,P2,P3,P4”に対して符号は’2’をそれぞれ付加して示す。即ち、シングルピニオン式の第一プラネタリ機構P1については、3要素をサンギヤP1s、リングギヤP11、およびキャリアP12のように示す。同様に、ダブルピニオン式の第二プラネタリ機構については、3要素をサンギヤP2s、リングギヤP22、およびキャリアP21のように示す。その他の第三および第四プラネタリ機構P3,P4の3要素についても同様に示す。
【0026】
各クラッチC1〜C4は、複数の要素同士を選択的に連結可能な係合要素である。本実施形態においては、各クラッチC1〜C4は、常開型であり、供給される油圧によって作動する油圧式としている。例えば、制御ECU2が制御指令に基づいて油圧ポンプを作動することにより、入力軸NやハウジングHに形成された油路を介して、油圧ポンプから各クラッチC1〜C4に油圧が供給される。各クラッチC1〜C4は、供給された油圧により複数のクラッチ板(不図示)を接触させることにより、対象の要素間の要素同士で駆動力が伝達されるように要素同士を連結する。そして、各クラッチC1〜C4は、上記の油圧ポンプによる油圧の供給が遮断されると、クラッチ板同士を離間させて、対象の要素間の要素同士で駆動力が伝達されないように要素同士を離脱させる。各クラッチC1〜C4が配置される位置については後述する。
【0027】
各ブレーキB1,B2は、ハウジングHに設けられ、所定の要素の回転を制動する係合要素である。本実施形態においては、各クラッチC1〜C4と同様に、ハウジングHに形成された油路から供給される油圧によって作動する油圧式としている。例えば、制御ECU2が制御指令に基づいて油圧ポンプを作動することにより、入力軸NやハウジングHに形成された油路を介して、油圧ポンプから各ブレーキB1、B2に油圧が供給される。各ブレーキB1、B2は、供給された油圧によりディスク(不図示)にパッド(不図示)を押圧させることにより、対象とする所定の要素の回転を制動する。そして、各ブレーキB1,B2は、油圧ポンプによる油圧の供給が遮断されると、ディスクからパッドを離間させて、所定の要素の回転を許容する。
【0028】
第一ブレーキB1は、連結部材であるP1sB1部材51によって、第一プラネタリ機構P1のサンギヤP1sと連結されている。つまり、第一ブレーキB1は、制動対象である第一プラネタリ機構P1のサンギヤP1sの回転を制動する。第二ブレーキB2は、連結部材であるP31B2部材71によって、第三プラネタリ機構P3の第一要素であるリングギヤP31と連結されている。つまり、第二ブレーキB2は、制動対象である第三プラネタリ機構P3のリングギヤP31の回転を制動する。
【0029】
入力軸Nは、クラッチ装置などを介して車両のエンジンの回転駆動力を変速装置1に入力する軸部材である。入力軸Nは、連結部材であるP12N部材52によって、第一プラネタリ機構P1の第二要素であるキャリアP12に常時連結されている。P1cN部材52の一端は、変速装置1における出力側(
図1の右側)から、キャリアP1cに対して連結している。P1cN部材52の他端は、入力軸Nの外周に対して固定されている。
【0030】
出力軸Tは、入力軸Nと同軸上に配置され、変速された回転駆動力を車両の差動装置などを介して駆動輪に出力する軸部材である。出力軸Tは、連結部材であるP32P41T部材72によって、第三プラネタリ機構P3の第二要素であるキャリアP32、および第四プラネタリ機構P4の第一要素であるリングギヤP41に常時連結されている。P32P41T部材72の一端は、変速装置1における出力側から、キャリアP32およびリングギヤ41に対して連結している。また、P32P41T部材72の他端は、出力軸Tの外周に対して固定されている。
【0031】
ここで、第一クラッチC1は、変速装置1における以下の3つの要素間W1〜W3のうち何れか1つの要素間の要素同士を選択的に連結する。また、他の2つの要素間の要素同士は連結部材により常時連結される。本実施形態においては、第一クラッチC1が、3つの要素間W1〜W3のうち第一の要素間W1の要素同士を選択的に連結する位置に配置されている。即ち、連結部材であるP11P22部材53が、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11と、第二プラネタリ機構P2の第二要素であるリングギヤP22との間を連結している。そして、第一クラッチC1は、P11P22部材53に設けられている。これにより、第一クラッチC1は、第一の要素間W1の要素同士を選択的に連結している。
【0032】
P11P22部材53は、第一連結部位53aと第二連結部位53bとにより構成される。第一連結部位53aの一端は、リングギヤP11の外周側から、リングギヤP11に対して連結している。第一連結部位53aの他端は、第一クラッチC1の外周側から、第一クラッチC1に対して連結している。第二連結部位53bの一端は、第一クラッチC1の外周側から、第一クラッチC1に対して連結している。第二連結部位53bの他端は、リングギヤP22の外周側から、リングギヤP22に対して連結している。第一連結部位53aは筒状部を有する。第一連結部位53aの筒状部の外周面は、ハウジングHの内周面と対向する。第二連結部位53bは、第一連結部位53aの内周側に配置されている。
【0033】
第二の要素間W2の要素同士は、第二プラネタリ機構P2の第一要素であるキャリアP21と入力軸Nとの間を、連結部材であるP21N部材61により常時連結している。本実施形態においては、P21N部材61は、P12N部材52と一体的に形成されている。P21N部材61は、変速装置1における入力側から、キャリアP21に対して連結している。また、第三の要素間W3の要素同士は、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sと、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sとの間を、連結部材であるP2sP3s部材62により常時連結している。P2sP3s部材62の一端は、サンギヤP2sの内周側から、サンギヤP2sに対して連結している。P2sP3s部材62の他端は、サンギヤP3sの内周側から、サンギヤP3sに対して連結している。P2sP3s部材62は筒状部を有する。P2sP3s部材62の筒状部の内周面は、入力軸Nの外周面と対向する。
【0034】
ここで、プラネタリ機構は、3要素のうち2要素の回転数が決定されることにより、残りの1要素の回転数が決定される。第一プラネタリ機構P1においては、キャリアP12が入力軸Nと常時連結されている。このため、第一プラネタリ機構P1において、サンギヤP1sが第一ブレーキB1により制動されると、増速された回転駆動力がリングギヤP11から出力側へと伝達される。そして、3つの要素間W1〜W3のうち何れか1つの要素間に配置された第一クラッチC1が作動した状態においては、第二プラネタリ機構P2において、第一プラネタリ機構P1により増速された回転駆動力がリングギヤP22から入力され、且つ入力軸Nによる回転駆動力がキャリアP21から入力され、減速された回転駆動力がサンギヤP2sから出力側に伝達される。なお、この回転駆動力は、第一クラッチC1が3つの要素間W1〜W3の何れの要素間に配置されたとしても、同様に伝達される。
【0035】
一方で、第一クラッチC1が作動しない状態においては、第二プラネタリ機構P2は、第一クラッチC1により回転駆動力の伝達が遮断されるので、変速を行わない。3要素のうち2要素の回転数が決定した場合においても、第二プラネタリ機構P2は同様に変速を行わない。このように、第一クラッチC1は、第二プラネタリ機構P2による変速の実行と不実行とを切り換え可能となるように、3つの要素間W1〜W3の何れかの要素間に適宜配置される。また、本実施形態において、第一の要素間W1の要素同士を選択的に連結する位置に第一クラッチC1を配置する構成としたことにより、所定の変速段において第二プラネタリ機構P2が変速を行わない場合に、第一プラネタリ機構P1により増速された回転駆動力が、第二プラネタリ機構P2に入力されることを防止することができる。
【0036】
また、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sは、連結部材であるP3sP4s部材73によって、第四プラネタリ機構P4のサンギヤP4sに常時連結されている。P3sP4s部材73は、P2sP3s部材62と一体的に形成されている。P3sP4s部材73の一端は、サンギヤP3sの内周側から、サンギヤP3sに対して連結している。P3sP4s部材73の他端は、サンギヤP4sの内周側から、サンギヤP4sに対して連結している。これにより、第二、第三、および第四プラネタリ機構P2〜P4の各サンギヤP2s〜P4sは、常に一体的に回転するように構成されている。
【0037】
第二クラッチC2は、第一クラッチC1とともに作動した場合に第二プラネタリ機構P2の3要素のうち2要素を選択的に連結する位置に配置される。また、第二クラッチC2は、第一ブレーキB1とともに作動した場合に、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11の回転を第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達可能とする位置に配置される。同時に、第二クラッチC2は、第一クラッチC1とともに作動した場合に、入力軸Nの回転を第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達可能とする位置に配置される。具体的には、第二クラッチC2は、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sと第二要素であるリングギヤP22との要素間に配置される。
【0038】
つまり、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sとリングギヤP22は、連結部材であるP2sP22部材63により連結されている。P2sP22部材63には、第二クラッチC2が設けられている。P2sP22部材63は、第三連結部位63aと第四連結部位63bとにより構成される。第三連結部位63aは、P11P22部材53の第一連結部位53aと一体的に形成される。第四連結部位63bは、P2sP3s部材62と一体的に形成される。第三連結部位63aの一端は、第一クラッチC1の外周側から、第一クラッチC1に対して連結している。第三連結部位63aの他端は、第二クラッチC2の外周側から、第二クラッチC2に対して連結している。第三連結部位63aは筒状部を有する。第三連結部位63aの筒状部の外周面は、ハウジングHの内周面と対向する。第三連結部位63aの一部は、第三連結部位63aの筒状部の内周面から回転軸線Lに向かう方向に延在する。第四連結部位63bの一端は、第二クラッチC2の内周側から、第二クラッチC2に対して連結している。第四連結部位63bの他端は、サンギヤP2sの外周側から、サンギヤP2sに対して連結している。
【0039】
ここで、プラネタリ機構は、3要素のうち2要素が連結されると、残りの1要素とともにプラネタリ機構が全体として一体的に回転するロック状態となる。第二クラッチC2は、所定の作動状態において、第二プラネタリ機構P2をロック状態にできるように配置される。そのため、第二クラッチC2の配置候補として、第二プラネタリ機構P2に対しては、(a)サンギヤP2sとリングギヤP22との間の位置、(b)サンギヤP2sとキャリアP21との間の位置、および(c)リングギヤP22とキャリアP21との間の位置の3箇所を配置候補として挙げることができる。そして、第二クラッチC2の配置候補(a)〜(c)のうち、下記の条件(m),(n)を全て満たす位置に第二クラッチC2を配置することができる。
【0040】
第一の条件(m):第二クラッチC2が第一ブレーキB1とともに作動した場合に、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11の回転が、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達されること。
そうすると、上記の配置候補(b)、(c)に関しては、第一クラッチC1が配置された位置を考慮すると第一クラッチC1が作動しない場合には当該回転を伝達できないため、第二クラッチC2の配置位置から除外される。
【0041】
第二の条件(n):第二クラッチC2が第一クラッチC1とともに作動した場合に、入力軸Nの回転が、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達されること。
第一の条件(m)を満たす上記の配置候補(a)に第二クラッチC2が配置された場合、第一クラッチC1および第二クラッチC2によって、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sとリングギヤP22が連結されて、第二プラネタリ機構P2がロック状態となる。
【0042】
そうすると、P21N部材61によりキャリアP21は入力軸Nと常時連結されているので、第二プラネタリ機構P2が入力軸Nと一体的に回転することにより、P2sP3s部材62を介して、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに入力軸Nの回転が伝達される。よって、本実施形態においては、上記の配置候補(a)が第一の条件(m)および第二の条件(n)を満たすため、第二クラッチC2は、P2sP22部材63に設けられる。
【0043】
第三クラッチC3は、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11と、第三プラネタリ機構P3の第一要素であるリングギヤP31と、を選択的に連結する位置に配置される。つまり、第一プラネタリ機構P1のリングギヤP11と第三プラネタリ機構P3のリングギヤP31の要素間の要素同士は、連結部材であるP11P31部材54により連結されている。P11P31部材54には、第三クラッチC3が設けられている。
【0044】
また、P11P31部材54は、第五連結部位54aと第六連結部位54bとにより構成される。第五連結部位54aは、P2sP22部材63に一体的に形成される。第六連結部位54bは、P31B2部材71に一体的に形成される。第五連結部位54aは筒状部を有する。第五連結部位54aの筒状部の外周面は、ハウジングHの内周面と対向する。第五連結部位54aの一部は、第五連結部位54aの筒状部の内周面から回転軸線Lに向かう方向に延在する。第五連結部位54aの一端は、第三クラッチC3の外周側から、第三クラッチC3に対して連結している。第五連結部位54aの他端は、リングギヤP11の外周側から、リングギヤP11に対して連結している。第六連結部位54bの一端は、第三クラッチC3の内周側から、第三クラッチC3に対して連結している。第六連結部位54bの他端は、リングギヤP31の外周側から、リングギヤP31に対して連結している。
【0045】
第四クラッチC4は、入力軸Nと、第四プラネタリ機構P4の第二要素であるキャリアP42と、を選択的に連結する位置に配置される。つまり、入力軸Nと第四プラネタリ機構P4のキャリアP42の要素間の要素同士は、連結部材であるP42N部材81により連結されている。P42N部材81には、第四クラッチC4が設けられている。よって、第四プラネタリ機構P4は、第四クラッチC4が作動した場合にはキャリアP42が入力軸Nと一体的に回転し、第四クラッチC4が作動していない場合には入力軸Nからの回転は伝達されずに変速装置1における変速に寄与しない。
【0046】
また、P42N部材81は、第七連結部位81aと第八連結部位81bとにより構成される。第七連結部位81aの一端は、変速装置1における出力側(
図1の右側)から、キャリアP42に対して連結している。第七連結部位81aの他端は、第四クラッチC4の外周側から、第四クラッチC4に対して連結している。第八連結部位81bの一端は、第四クラッチC4の内周側から、第四クラッチC4に対して連結している。第八連結部位81bの他端は、入力軸Nの外周側に対して固定されている。
【0047】
外部出力部材91は、第一プラネタリ機構P1の第二要素であるキャリアP12に常時連結されている。外部出力部材91は、入力軸Nから入力される回転駆動力を変速装置1の外周側に出力可能に構成されている。ところで、変速装置1は、変速した回転駆動力の他に、例えばハウジングHの外周側に配置された車両の補機などに回転駆動力を出力したい場合がある。このような場合に、本実施形態のレイアウトにおいては、例えばハウジングH内の外周側に位置するP11P22部材53やP32P41T部材72に、回転駆動力の取り出しを目的とした部材を配置することが考えられる。
【0048】
しかし、成立する変速段によっては、連結部材53,72の回転数は入力軸Nの回転数と比較して大きく変動することがあり、また回転しない場合もある。さらに、後進段が成立している場合には回転方向が反転することから、回転駆動力の取り出しという観点からは、連結部材53,72から回転駆動力の取り出しを行うことは好適でない。そこで、本実施形態においては、第一プラネタリ機構P1のキャリアP12に、外部出力部材91を常時連結する構成としている。これにより、第一プラネタリ機構P1のキャリアP12は、P12N部材52によって入力軸Nと常時連結されるため、外部出力部材91は、変速装置における変速段の成否、および成立させている変速段に関わらず、入力軸Nと常に同じ回転数の回転駆動力を外部へ出力することが可能となる。
【0049】
また、外部出力部材91の一端は、変速装置1における入力側(言い換えると、第二要素から見て、第一ブレーキB1が配置される側)から、第一プラネタリ機構P1の第二要素に対して連結される。第一プラネタリ機構P1の第二要素は、入力軸Nと常時連結される。ここで、第一プラネタリ機構P1の第二要素は、キャリアP12である。そして、変速装置1の外周側に回転駆動力を出力するために、外部出力部材91は、P1sB1部材51と、第一要素に連結されるP11P22部材53との間に介在されて、変速装置1の外周側に向かって延在するように形成される。ここで、第一プラネタリ機構P1の第一要素は、リングギヤP11である。第一プラネタリ機構P1をシングルピニオン式とし、第一プラネタリ機構P1の第一要素、第二要素、および第一ブレーキB1の位置関係をこのように構成することにより、外部出力部材91の配置を可能としている。
【0050】
(変速装置の動作)
続いて、上記のように構成された変速装置1の動作について
図2および
図3を参照して説明する。変速装置1において、制御ECU2は、各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1,B2からなる6つの係合要素の作動状態を制御する。そして、変速装置1は、
図2の係合表に示すように、6つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、前進10速段(
図2における1st、2nd、〜10th)および後進1速段(
図2におけるRev)を成立させる。
【0051】
より詳細には、
図2の係合表において、係合要素の作動状態がONである場合、対応する係合要素について’○’を付して示している。つまり、各クラッチC1〜C4が、対象とする要素間の要素同士を連結する作動状態にあることを示している。また、各ブレーキB1,B2が、対象とする要素の回転を制動する作動状態にあることを示している。
図2の係合表において、係合要素の作動状態がOFFである場合、対応する係合要素について’○’を付していない。これは、例えば、各クラッチC1〜C4が常閉型であっても同様である。
【0052】
変速装置1における第1速段は、係合表によると、第一クラッチC1、第二クラッチC2、および第二ブレーキB2の作動状態がONである。このような係合状態においては、先ず、第一クラッチC1および第二クラッチ2により第二プラネタリ機構P2がロック状態とされ、キャリアP21に入力された入力軸Nの回転駆動力が、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達される。第三プラネタリ機構P3は、リングギヤP31を第二ブレーキB2により制動されているので、サンギヤP3sから入力された回転駆動力は歯数に応じた変速比で減速し、減速した回転駆動力は、P32P41T部材72を介して、出力軸Tに伝達される。
【0053】
変速装置1は、第1速段から第2速段に移行する場合、第二クラッチC2および第二ブレーキB2の作動状態を維持しつつ、作動させる係合要素を第一クラッチC1から第一ブレーキB1に切り換える。このような係合状態においては、先ず、第一プラネタリ機構P1のキャリアP12に入力軸Nの回転駆動力が入力され、且つ第一ブレーキB1によりサンギヤP1sが制動されているので、増速した回転駆動力が、リングギヤP11からP11P22部材53、第二クラッチC2などを介して第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達される。
【0054】
そして、第三プラネタリ機構P3において、リングギヤP31を第二ブレーキB2により制動されているので、サンギヤP3sから入力された回転駆動力は歯数に応じた変速比で減速し、減速した回転駆動力は、P32P41T部材72を介して出力軸Tに伝達される。このとき、各変速段における各プラネタリ機構P1〜P4の3要素の速度比は、
図3の速度線図で示される。この速度線図は、第三プラネタリ機構P3および第四プラネタリ機構P4の各要素を、ギヤ比(λ)に対応させた間隔(1:λ)で横軸方向に配置し、各要素に対してその速度比を縦軸方向に取ったものである。また、
図3においては、上記の速度比に対応する第一プラネタリ機構P1および第二プラネタリ機構P2の各要素を、同図の右側に表記している。
【0055】
このように、変速装置1は、6つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、
図3の速度線図に示すように、それぞれ異なる変速比となる変速段を成立可能である。また、変速装置1は、
図2の係合表に示すように、作動させる3つの係合要素のうち1つを切り換えることによって、隣り合う変速段に移行可能である。
【0056】
ところで、変速装置1のレイアウトを採用した場合、第一ブレーキB1を作動させて成立させる各変速段においては、入力軸Nの回転駆動力が第一プラネタリ機構P1により増速される。また、P11P22部材53に第一クラッチC1を設ける構成を採用することにより、第二プラネタリ機構P2は、第一クラッチC1を作動させない場合には第二プラネタリ機構P2は変速を行わないため、増速された回転の伝達が遮断されている。このようなレイアウトによって、例えば第8速段において、第二プラネタリ機構P2のキャリアP21が支持するピニオンギヤが高回転となることを防止することができる。
【0057】
また、変速装置1のレイアウトにおいては、回転駆動力が入力軸Nに入力されている場合には、入力軸Nと同じ回転数の回転駆動力が外部出力部材91から出力される。これは、変速装置1が所定の変速段を成立させている状態、および何れの係合要素も作動させずに出力軸Tから回転駆動力を出力しない状態の何れであっても同様である。
【0058】
(第一実施形態の構成による効果)
上記の変速装置1によれば、4つのクラッチC1〜C4と2つのブレーキB1,B2のうち3つの係合要素を作動させることによって、前進10速段、後進1速段の多段変速を得ることができる。また、変速装置1は、各前進段において、作動させる3つの係合要素のうち1つを切り換えることによって、隣り合う変速段に移行することができる。よって、変速装置1は、上記のようなレイアウトによって多段階の変速を可能とするとともに、運用状態における高い制御性を確保することができる。
【0059】
また、第一クラッチC1は、P11P22部材53に設けられる構成とした。P11P22部材53は、第一プラネタリ機構P1のリングギヤP11と第二プラネタリ機構P2のリングギヤP22とを連結している。ここで、第一プラネタリ機構P1のリングギヤP11と第二プラネタリ機構P2のリングギヤP22は、変速装置1における3つの要素間W1〜W3のうちの第一の要素間W1の要素同士である。これにより、変速を行わない第二プラネタリ機構P2に伝達される回転駆動力に関して、第一クラッチC1は、第一ブレーキB1が作動し且つ第一クラッチC1が作動しない場合に、増速された回転駆動力が第二プラネタリ機構P2に伝達されることを遮断することができる。よって、所定の変速段において、第二プラネタリ機構P2のピニオンギヤが高回転となることを防止し、変速装置1における負荷を軽減できる。
【0060】
また、外部出力部材91は、入力軸Nに常時連結された第一プラネタリ機構P1のキャリアP12に連結される構成とした。また、第一プラネタリ機構P1において、サンギヤP1sが第一ブレーキB1により制動される。そして、第一プラネタリ機構P1において、第三クラッチC3により、第一要素であるリングギヤP11が、第三プラネタリ機構P3の第一要素であるリングギヤP31と選択的に連結される。この構成を採用することにより、回転軸線L方向における第一ブレーキB1とキャリアP12との間に所定の間隔を適宜確保することができ、その間隔に外部出力部材91を配置することができる。これにより、外部出力部材91は、変速装置1が成立させている何れの変速段においても入力軸Nと一体的に回転させることができ、入力軸Nからの回転駆動力を出力軸Tとは別に出力することが可能となる。
【0061】
<第二実施形態>
第二実施形態の変速装置101について、
図4を参照して説明する。第二実施形態の構成は、主として、第一クラッチC1の配置候補となる3つの要素間が相違するとともに、何れのプラネタリ機構もシングルピニオン式を適用した点が相違する。その他の共通する構成については、第一実施形態と実質的に同一であるため、詳細な説明を省略する。以下、相違点のみについて説明する。
【0062】
本実施形態では、上記のように第二プラネタリ機構P2にシングルピニオン式を適用する。よって、第二プラネタリ機構P2は、リングギヤが第一要素、キャリアが第二要素と定義される。つまり、第二プラネタリ機構P2では、3要素をサンギヤP2s、リングギヤP21、およびキャリアP22としてそれぞれ示す。他の第一、第三、および第四プラネタリ機構P1,P3,P4の3要素については、第一実施形態と同様に示す。
【0063】
ここで、第一クラッチC1は、変速装置101における以下の3つの要素間W4〜W6のうち何れか1つの要素間の要素同士を選択的に連結する。また、他の2つの要素間の要素同士は連結部材により常時連結される。本実施形態においては、第一クラッチC1が、3つの要素間W4〜W6のうち第二の要素間W5の要素同士を選択的に連結する位置に配置されている。即ち、連結部材であるP2sN部材65が、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sと入力軸Nとの間を連結している。そして、第一クラッチC1は、P2sN部材65に設けられている。これにより、第一クラッチC1は、第二の要素間W5の要素同士を選択的に連結している。
【0064】
P2sN部材65は、第九連結部位65aと第十連結部位65bとにより構成される。第九連結部位65aの一端は、サンギヤP2sの内周側から、サンギヤP2sに対して連結している。第九連結部位65aの他端は、第一クラッチC1の外周側から、第一クラッチC1に対して連結している。第十連結部位65bの一端は、第一クラッチC1の内周側から、第一クラッチC1に対して連結している。第十連結部位65bの他端は、入力軸Nの外周側から、入力軸Nに連結している。
【0065】
第一の要素間W4は、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11と、
第二プラネタリ機構P2の第二要素であるキャリアP22との間である。第一の要素間W4の要素同士は、連結部材であるP11P22部材53により常時連結されている。また、第三の要素間W6は、第二プラネタリ機構P2の第一要素であるリングギヤP21と、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sとの間である。第三の要素間W6の要素同士は、連結部材であるP21P3s部材66により常時連結されている。P21P3s部材66は、リングギヤP21の外周側からリングギヤP21に固定される大径部と、サンギヤP3sの内周側からサンギヤP3sに固定される小径部と、大径部と小径部を連結する環状部とにより構成される。
【0066】
3つの要素間W4〜W6のうち何れか1つの要素間に配置される第一クラッチC1が作動すると、第二プラネタリ機構P2において、第一プラネタリ機構P1により増速された回転駆動力がキャリアP12から入力されるとともに入力軸Nによる回転駆動力がサンギヤP2sから入力され、リングギヤP21から減速された回転駆動力が出力側に伝達される。この回転駆動力は、第一クラッチC1が何れの要素間に配置されたとしても、同様に伝達される。一方で、第一クラッチC1が作動しない状態では、第二プラネタリ機構P2において、第一クラッチC1により回転駆動力の伝達が遮断されるので、変速が行われない。なお、第二プラネタリ機構P2において、3要素のうち2要素の回転数が決定した場合においても、同様に変速が行われない。
【0067】
このように、第一クラッチC1は、第一実施形態と同様に、第二プラネタリ機構P2による変速の実行と不実行とを切り換え可能となるように、3つの要素間W4〜W6の何れかに適宜配置される。また、本実施形態において、第二の要素間W5の要素同士を選択的に連結する位置に第一クラッチC1を配置する構成を採用することにより、変速装置101の内周側に第一クラッチC1を配置し、第一クラッチC1に油圧を供給する油路の構成を簡易にすることができる。
【0068】
詳細には、変速装置101は、第一クラッチC1および第四クラッチC4を入力軸Nの外周面に設け、入力軸Nの軸内油路から油圧を第一クラッチC1および第四クラッチC4に供給することにより、第一クラッチC1および第四クラッチC4を作動する。ここで、油圧式のクラッチは、変速装置を構成する各部材は高速で回転するため、遠心力による影響を勘案する必要がある。このため、油圧式のクラッチは、回転の中心側から外周側に向かって油圧を供給する構成を採用する。そこで、変速装置101は、変速装置101の中心に位置する入力軸Nに軸内油路を形成し、この油路を介して各クラッチの油圧室に作動油を流通させることにより、第一、第三、および第四クラッチC1,C3,C4に油圧を供給する。
【0069】
ここで、変速装置においては、外径の異なる複数の軸部材が相対回転可能に同軸上に配置され、且つ、異なる軸部材間を跨いで上記の油路が形成される場合には、作動油の漏出を防止するためのシール機構が必要とされる。これに対して、本実施形態では、油圧式の第一および第四クラッチC1,C4を入力軸Nの外周面に設けることができるので、少なくとも第一、第四クラッチC1,C4に油圧を供給するための油路に対して、シール機構を設ける必要がない。このように、本実施形態では、3つの要素間W1〜W3のうち第二の要素間W5の要素同士を選択的に連結する位置に第一クラッチC1を配置し、且つ第一クラッチC1および第四クラッチC4を入力軸Nの外周面に設ける構成を採用することにより、変速装置101の構造の簡素化や、油圧供給におけるシール機構の数量の減少を図ることができる。
【0070】
第二クラッチC2は、第一実施形態と同様に、第一クラッチC1とともに作動した場合に、第二プラネタリ機構P2の3要素のうち2要素を選択的に連結する位置に配置される。第二クラッチC2は、第一ブレーキB1とともに作動した場合に、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11の回転を、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達可能とする位置に配置される。同時に、第二クラッチC2は、第一クラッチC1とともに作動した場合に、入力軸Nの回転を、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達可能とする位置に配置される。本実施形態では、第二クラッチC2は、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sと第一要素であるリングギヤP21との要素間に配置される。
【0071】
つまり、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sとリングギヤP21は、第二クラッチC2を設けられた連結部材であるP2sP21部材67により連結されている。P2sP21部材67は、第十一連結部位67aと第十二連結部位67bとにより構成されている。第十一連結部位67aは、P21P3s部材66と一体的に形成されている。第十一連結部位67aの一端は、第二クラッチC2の外周側から、第二クラッチC2に対して連結している。第十一連結部位67aの他端は、リングギヤP22の外周側から、リングギヤP22に対して連結している。第十二連結部位67bの一端は、第二クラッチC2の内周側から、第二クラッチC2に対して連結している。第十二連結部位67bの他端は、サンギヤP21の内周側から、サンギヤP21に対して連結している。このように、第二クラッチC2は、所定の作動状態において、第二プラネタリ機構P2をロック状態にできるように配置される。
【0072】
なお、第二クラッチC2は、第二プラネタリ機構P2に対しては、(d)サンギヤP2sとリングギヤP21との間の位置、(e)サンギヤP2sとキャリアP22との間の位置、および(f)リングギヤP21とキャリアP22との間の位置の3箇所を配置候補として挙げることができる。そして、第二クラッチC2は、上記の配置候補(d)〜(f)のうち、下記の条件(m),(n)を全て満たす位置に配置される。また、この条件(m),(n)は、第一実施形態で示したものと同一である。
【0073】
第一の条件(m):第二クラッチC2が第一ブレーキB1とともに作動した場合に、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11の回転が、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達されること。
上記の配置候補(d)〜(f)の何れにおいても、第二クラッチ2が作動すると、第二プラネタリ機構P2がロック状態とされ、キャリアP21から入力する第一プラネタリ機構P1のリングギヤP11の回転が、P21P3s部材66を介して第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達される。
【0074】
第二の条件(n):第二クラッチC2が第一クラッチC1とともに作動した場合に、入力軸Nの回転が、第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達されること。
上記の配置候補(d)〜(f)の何れにおいても、第二クラッチC2が作動すると、第二プラネタリ機構P2がロック状態とされ、サンギヤP2sから入力される入力軸Nの回転が、P21P3s部材66を介して第三プラネタリ機構P3のサンギヤP3sに伝達される。よって、上記の配置候補(d)〜(f)の何れも第一の条件(m)および第二の条件(n)を満たすことになり、本実施形態においては、上記の配置候補(d)に対応するP2sP22部材63に、第二クラッチC2を設ける構成を採用する。
【0075】
(変速装置の動作)
続いて、上記のように構成された変速装置101の動作について
図5を参照して説明する。ここで、変速装置101において、制御ECU2は、各クラッチC1〜C4、各ブレーキB1,B2からなる6つの係合要素の作動状態を制御する。そして、変速装置101は、第一実施形態の変速機1と同一の係合表(
図2を参照)に示すように、6つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、前進10速段(
図2における1st、2nd、〜10th)および後進1速段(
図2におけるRev)を成立させる。
【0076】
なお、変速装置101は、何れのプラネタリ機構もシングルピニオン式を適用していることから、第一実施形態の変速装置1と比較して変速比が相違する構成も想定されるが、各変速段における各プラネタリ機構P1〜P4の3要素の速度比は、
図5に示すように、第一実施形態の変速装置1と同様の速度線図により示される。但し、第二プラネタリ機構P2にシングルピニオン式を適用し、第二プラネタリ機構P2において入力軸Nに連結され得る要素がキャリアからサンギヤに変更されたことから、第二プラネタリ機構P2の3要素の表記を変更している。
【0077】
具体的には、シングルピニオン式の適用により第一要素と第二要素を入れ換え、且つ第一プラネタリ機構P1の第二要素であるキャリアP12に対応する要素を、キャリアからサンギヤに入れ換えている。よって、
図3の速度線図では、下からP21→P22→P2sの順として表記したが、
図5の速度線図では、下からP2s→P22→P21の順に表記している。但し、第一実施形態と第二実施形態とでは、係合表(
図2)が共通であり、且つ速度線図(
図3および
図5)に上記の表記以外の変更がないことから明らかなように、各要素の機能は相互に対応している。
その他、各変速段を成立させるための係合要素の作動状態の制御、および外部出力部材91による回転駆動力の取り出しについては、第一実施形態と実質的に同様であるため、詳細な説明を省略する。
【0078】
(第二実施形態の構成による効果)
上記の変速装置101によると、第一実施形態と同様の効果を奏する。また、本実施形態では、第一クラッチC1は、P2sN部材65に設けられる構成とした。そして、第一クラッチC1は、変速装置101における3つの要素間W4〜W6のうち第二の要素間W5の要素同士である、第二プラネタリ機構P2のサンギヤP2sと入力軸Nとを連結する。さらに、第一および第四クラッチC1,C4は、入力軸Nの外周面に設けられ、且つ油圧式であるものとした。
【0079】
このような構成によると、変速装置101では、第一および第四クラッチC1,C4に対して油圧を供給するための油路に、シール機構を設ける必要がない。よって、従来と比較して変速装置101の構造を簡素にして、製造コストの低減を図ることができる。また、シール機構が介在しない分だけ、油圧供給におけるシール機構の数量を減少させることができる。
【0080】
<第一、第二実施形態の変形態様>
第一クラッチC1について、第一実施形態では3つの要素間W1〜W3のうち第一の要素間W1の要素同士を、第二実施形態では3つの要素間W4〜W6のうち第二の要素間W5の要素同士を選択的に連結する位置に配置される構成とした。本発明はこれに限定されず、第一クラッチC1は、変速装置1における他の要素間W2,W3、または変速装置101における他の要素間W4,W6の何れかの要素間の要素同士を選択的に連結する位置に配置されるようにしてもよい。
【0081】
例えば、第一実施形態の変速装置1において、第一クラッチC1をP21N部材61に設ける構成としてもよい。即ち、第一クラッチC1を、第二の要素間W4に配置し、第一クラッチC1により、第二プラネタリ機構P2の第一要素であるキャリアP21と入力軸Nとの間を連結する。このような構成では、さらに第一および第四クラッチC1,C4を入力軸Nの外周面に設け、且つ油圧式とすることにより、第二実施形態と同様に、変速装置1に設けられるシール機構の数量を低減できる。
【0082】
また、第二実施形態の変速装置101において、第一クラッチC1をP11P22部材53に設ける構成としてもよい。即ち、第一クラッチC1を第一の要素間W5に配置し、第一クラッチC1により、第一プラネタリ機構P1の第一要素であるリングギヤP11と第二プラネタリ機構P2の第二要素であるキャリアP22とを連結する。このような構成では、第一実施形態と同様に、所定の変速段において第二プラネタリ機構P2が変速を行わない場合に、第一プラネタリ機構P1により増速された回転駆動力が第二プラネタリ機構P2に入力されることを防止することができる。
【0083】
第一実施形態では第二プラネタリ機構P2にダブルピニオン式を適用し、第二実施形態では何れのプラネタリ機構にシングルピニオン式を適用した。これに対して、変速装置1,101は、何れのプラネタリ機構についても、シングルピニオン式またはダブルピニオン式を適宜適用することが可能である。例えば、第二実施形態の変速装置101の第二プラネタリ機構P2にダブルピニオン式を適用すると、
図6に例示するレイアウトを採用することができる。
【0084】
上記のように、第一クラッチC1を何れかの要素間に配置し、シングルピニオン式またはダブルピニオン式を適用したとしても、
図2の係合表に示すように、6つの係合要素のうち3つの係合要素を選択的に作動させることによって、前進10速段および後進1速段を成立させることができる。また、各プラネタリ機構P1〜P4の3要素の速度比は、シングルピニオン式およびダブルピニオン式における第一要素と第二要素の定義に従って各要素の表記が入れ替わることはあるが、
図3および
図5と同様の速度線図で示される。
【0085】
但し、第一クラッチC1の配置位置などのレイアウトによっては、第二クラッチC2の配置候補(a)〜(c),(d)〜(f)のうち、上記の条件(m),(n)を満たすか否かが変動することがある。そのため、第二クラッチC2の配置が制限される場合があるが、第一、第二の条件(m),(n)を満たす位置に第二クラッチC2を配置することで、同様の多段変速を得ることが可能である。また、変速装置1,101のように、外部出力部材91を設ける場合には、第一プラネタリ機構P1がシングルピニオン式とすることができる。
【0086】
また、第一、第二実施形態では、変速装置1,101は、
図2の係合表で示すように、作動させる3つの係合要素を組み合わせて多段変速を得るものとした。ここで、係合要素の組合せとしては、
図2の係合表には記載されていないものの、出力軸Tから回転駆動力を出力可能な組み合わせも考えられる。しかしながら、そのような変速段における変速比や、隣り合う変速段に移行する際に切り換える係合要素の数量などの観点から、第一、第二実施形態では前進10速段、および後進1速段を成立させる11通りの組み合わせを採用している。もちろん、変速装置1,101の用途などによっては、他の組み合わせを採用してもよい。