(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
内燃機関の一次振動を低減するバランサーと、前記内燃機関の二次振動を低減する慣性体を設けた電動機とを備えると共に、前記内燃機関のクランク軸と前記バランサーとの間の動力を伝達するギア伝動機構と、前記バランサーと前記慣性体との間の動力を伝達する無端体伝動機構と、前記無端体伝動機構の無端体の張力を保持するテンショナーとを備える振動低減装置において、
前記クランク軸のクランク角速度を取得する手段と、前記電動機の角速度を取得する手段と、制御装置とを備えて、
前記制御装置が、前記クランク角速度が加速し始めるときに前記電動機の力行駆動を開始する制御を行い、前記電動機の角速度が減速し始めるときに前記電動機の回生駆動を開始する制御を行うことを特徴とする振動低減装置。
前記制御装置に、前記クランク軸のクランク角速度に基づいて前記電動機の基準制御波形を算出し、該基準制御波形における前記電動機の力行駆動の開始タイミングを、前記クランク軸のクランク角速度の微分波形から算出された前記電動機の力行駆動の開始タイミングに変更して、及び前記基準制御波形における前記電動機の回生駆動の基準開始タイミングを、前記電動機の角速度の微分波形から算出された前記電動機の回生駆動の開始タイミングに変更して、前記電動機の制御波形を作成する制御波形作成手段を設けることを特徴とする請求項1に記載の振動低減装置。
内燃機関の一次振動を低減するバランサーと、前記内燃機関の二次振動を低減する慣性体を設けた電動機とを備えると共に、前記内燃機関のクランク軸と前記バランサーとの間の動力を伝達するギア伝動機構と、前記バランサーと前記慣性体との間の動力を伝達する無端体伝動機構と、前記無端体伝動機構の無端体の張力を保持するテンショナーとを備える振動低減装置を設けた内燃機関の振動低減方法において、
前記クランク軸のクランク角速度を取得すると共に、前記電動機の角速度を取得し、
取得したそのクランク角速度に基づいて、そのクランク角速度が加速し始めるときを特定し、
特定した前記クランク角速度が加速し始めるときに、前記電動機の力行駆動を開始し、
取得した前記電動機の角速度に基づいて、前記電動機の角速度が減速し始めるときを特定し、
特定した前記電動機の角速度が減速し始めるときに、前記電動機の回生駆動を開始することを特徴とする内燃機関の振動低減方法。
前記クランク軸のクランク角速度に基づいて前記電動機の基準制御波形を算出し、該基準制御波形における前記電動機の力行駆動の開始タイミングを、前記クランク軸のクランク角速度の微分波形から算出された前記電動機の力行駆動の開始タイミングに変更して、及び前記基準制御波形における前記電動機の回生駆動の基準開始タイミングを、前記電動機の角速度の微分波形から算出された前記電動機の回生駆動の開始タイミングに変更して成形した前記電動機の制御波形で、前記電動機を制御することを特徴とする請求項4に記載の内燃機関の振動低減方法。
【背景技術】
【0002】
現在、燃費低減のために、排気量のダウンサイジング及び気筒数の減筒が盛んに研究され、実用化されているが、気筒数の減筒により増大するトルク変動が小気筒数エンジン(内燃機関)の実現を拒んでいる。一般的に気筒数の少ないレシプロエンジン、特に三気筒以下のレシプロエンジンでは、トルク変動によるローリング振動が問題となる。
【0003】
これに関して、エンジンと逆転する慣性系を追加し、その慣性系に生じるトルク反力で、クランク周りに生ずるトルク反力を打ち消しあい、エンジンのローリング振動を低減する装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
この装置は所謂、ヘロンバランサーと呼ばれている装置である。この装置でエンジンと逆転する慣性系を生み出すものとしては、ジェネレータを利用したもの、新たにウェイトを追加したもの、又は一次バランサーにウェイトを追加したものがある。
【0005】
また、クランクシャフトの回転中心軸と平行な回転軸として二本のバランサシャフトを配設し、少なくとも一方に発電駆動装置を配設して、発電駆動装置の制動トルク及び駆動トルクでトルク変動を相殺する装置も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
しかし、これらの装置はエンジンと逆転する慣性系をギア駆動することに起因して、別の問題が発生する。エンジンは、間欠な燃焼のためトルク変動を伴うトルク反力を生じる。特に気筒数が少なくなるとその値は大きくなる。結果として、そのトルク変動を伴うトルク反力によって、回転変動が生じ、加速時には、従動側のギアの歯面を押し付けて回転させているが、減速時には従動側は別の慣性系のため、ギアの歯面が離れ、次のギアの背面と接触する。このとき歯打ち音が発生する。
【0007】
そして、次の加速時に、従動側のギアの歯面は元の歯面と接触して従動される。このときも歯打ち音は発生する。特に、ローリング振動を低減するために、受動側の軸にフライホイールを取り付けると、軸のねじり振動と歯打ち音が共振して、著しいノイズを発生する。
【0008】
この歯の移動する距離がギアのバックラッシュであり、これをゼロとすることは出来ない。そして、トルク反力を打ち消すために従動側の慣性モーメントを大きくすればするほど、この現象は顕著となり、また、従動側の慣性モーメントが大きければ大きいほど、この打音は大きくなる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記の問題を鑑みてなされたものであり、その課題は、内燃機関の振動を低減すると共に、その振動の低減に伴い発生する騒音を低減することができる振動低減装置、内燃機関、及び内燃機関の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の課題を解決するための本発明の振動低減装置は、内燃機関の一次振動を低減するバランサーと、前記内燃機関の二次振動を低減する慣性体を設けた電動機とを備えると共に、前記内燃機関のクランク軸と前記バランサーとの間の動力を伝達するギア伝動機構と、前記バランサーと前記慣性体との間の動力を伝達する無端体伝動機構と、前記無端体伝動機構の無端体の張力を保持するテンショナーとを備える振動低減装置において、
前記クランク軸のクランク角速度を取得する手段と、前記電動機の角速度を取得する手段と、制御装置とを備えて、前記制御装置が、前記クランク角速度が加速し始めるときに前記電動機の力行駆動を開始
する制御を行い、
前記電動機の角速度が減速し始めるときに前記電動機の回生駆動を開始する制御を行
うことを特徴とする。
【0012】
この構成によれば、クランク軸の回転が加速し始めるときに電動機の力行駆動を開始し、電動機の回転が減速し始めるときに電動機の回生駆動を開始することにより、無端体伝動機構の無端体の伸びに起因するクランク軸と電動機との間に回転位相差が発生しても、内燃機関の振動の低減と騒音の低減の両方に効果的な電動機の制御タイミングを容易に決定することができる。この決定された制御タイミングで電動機を制御することで、内燃機関の振動とその振動の抑制に伴って発生する騒音の両方を低減することができる。
【0013】
具体的には、第一に、内燃機関の一次振動をバランサーでキャンセルし、電動機に設けた慣性体回りのトルクにより、クランク軸回りのトルク反力をキャンセルし、内燃機関の二次振動を低減することができる。
【0014】
第二に、無端体の張力を保持するテンショナーの動きでギア伝動機構に慣性体の反力が直ぐに伝わることを回避して、二次振動に起因する回転変動により発生し、内燃機関の圧縮行程から爆発行程に移る圧縮上死点近傍で最も大きくなるギアノイズを低減することができる。
【0015】
第三に、電動機を力行駆動、及び回生駆動することにより、慣性体回りのトルクを大きくして、ギア伝動機構に慣性体の反力を直ぐに伝えないことで低減するトルク反力の低下を回避することができる。このときのギア伝達力は、エンジントルクと同じとなり、ギアの駆動力も低減されるため、ギアノイズの悪化を伴わない。
【0016】
この慣性体回りのトルクを大きくする際の電動機の制御タイミングは、無端体伝動機構の無端体の伸びにより発生するクランク軸の回転と電動機の回転との回転位相差のために難しい。例えば、クランク軸の回転に同期させて力行駆動、及び回生駆動すればクランク軸にトルクを及ぼさないため、ギアノイズは悪化しないが、電動機による回転変動を大きく取れずに、反力が低減しない。一方、電動機の回転に同期させれば、電動機による回転変動が増加して反力が低減するが、ギアノイズが悪化する。
【0017】
そこで、上記の構成のようにクランク軸の回転が加速し始めるときに電動機の力行駆動を開始し、電動機の回転が減速し始めるときに電動機の回生駆動を開始することで、電動機による回転変動を大きくしながら、クランク軸にトルクを及ぼさないため、内燃機関の振動とその振動の抑制に伴って発生する騒音の両方を低減することができる。
【0018】
これにより、内燃機関のダウンサイジングを図ることができるので、より熱効率の高い領域の使用頻度を増やすと共に、内燃機関本体のフリクションも低減して、燃費を低減す
ることができる。
【0019】
また、上記の振動低減装置において、前記クランク軸のクランク角速度に基づいて前記電動機の基準制御波形を算出し、該基準制御波形における前記電動機の力行駆動の開始タイミングを、前記クランク軸のクランク角速度の微分波形から算出された前記電動機の力行駆動の開始タイミングに変更して、及び前記基準制御波形における前記電動機の回生駆動の基準開始タイミングを、前記電動機の角速度の微分波形から算出された前記電動機の回生駆動の開始タイミングに変更して、前記電動機の制御波形を作成する制御波形作成手段を設けることが望ましい。
【0020】
この構成によれば、クランク角速度、電動機の角速度を入力として微分回路を通して、クランク角速度の微分波形と電動機の角速度の微分波形を算出し、クランク角速度に基づいて算出された基準制御波形と各微分波形を比較して電動機の制御波形を作成するので、電動機をクランク角速度の増加時にクランク角速度に同期して力行駆動し、クランク角速度の減少時で、且つ電動機の角速度の減少時に電動機の角速度に同期して回生駆動することができる。
【0021】
そして、上記の課題を解決するための内燃機関は、上記に記載の振動低減装置を設けて構成される。この構成によれば、内燃機関のダウンサイジングを図る上で問題となる内燃機関の振動と騒音の両方を解決して、ダウンサイジングを図ることができるので、燃費を低減することができる。
【0022】
そして、上記の課題を解決するための内燃機関の制御方法は、内燃機関の一次振動を低減するバランサーと、前記内燃機関の二次振動を低減する慣性体を設けた電動機とを備えると共に、前記内燃機関のクランク軸と前記バランサーとの間の動力を伝達するギア伝動機構と、前記バランサーと前記慣性体との間の動力を伝達する無端体伝動機構と、前記無端体伝動機構の無端体の張力を保持するテンショナーとを備える振動低減装置を設けた内燃機関の振動低減方法において、
前記クランク軸のクランク角速度を取得すると共に、前記電動機の角速度を取得し、取得したそのクランク角速度に基づいて、そのクランク角速度が加速し始めるときを特定し、特定した前記クランク角速度が加速し始めるときに、前記電動機の力行駆動を開始し、
取得した前記電動機の角速度に基づいて、前記電動機の角速度が減速し始めるときを特定し、特定した前記電動機の角速度が減速し始めるときに、前記電動機の回生駆動を開始することを特徴とする方法である。
【0023】
また、上記の内燃機関の制御方法において、前記クランク軸のクランク角速度に基づいて前記電動機の基準制御波形を算出し、該基準制御波形における前記電動機の力行駆動の開始タイミングを、前記クランク軸のクランク角速度の微分波形から算出された前記電動機の力行駆動の開始タイミングに変更して、及び前記基準制御波形における前記電動機の回生駆動の基準開始タイミングを、前記電動機の角速度の微分波形から算出された前記電動機の回生駆動の開始タイミングに変更して成形した前記電動機の制御波形で、前記電動機を制御することが望ましい。
【発明の効果】
【0024】
本発明の振動低減装置、内燃機関、及び内燃機関の振動低減方法によれば、クランク軸の回転が加速し始めるときに電動機の力行駆動を開始し、電動機の回転が減速し始めるときに電動機の回生駆動を開始することにより、無端体伝動機構の無端体の伸びに起因するクランク軸と電動機との間に回転位相差が発生しても、内燃機関の振動の低減と騒音の低減の両方に効果的な電動機の制御タイミングを容易に決定することができる。この決定された制御タイミングで電動機を制御することで、電動機による回転変動を大きくしながら、クランク軸にトルクを及ぼさないため、内燃機関の振動とその振動の抑制に伴って発生する騒音の両方を低減することができる。
【0025】
これにより、内燃機関のダウンサイジングを図ることができるので、より熱効率の高い
領域の使用頻度を増やすと共に、内燃機関本体のフリクションも低減して、燃費を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明に係る実施の形態の振動低減装置、内燃機関、及び内燃機関の制御方法について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の実施の形態は、直列3気筒のディーゼルエンジンを例に説明するが、本発明はディーゼルエンジンに限定せずに、ガソリンエンジンにも適用することができ、その気筒数や、気筒の配列は限定しない。
【0028】
まず、本発明に係る実施の形態の振動低減装置と内燃機関について、
図1〜6を参照しながら説明する。
図1に示すように、このエンジン(内燃機関)1は、エンジン本体2に振動低減装置10を設けて構成され、振動低減装置10は、ギア伝動機構11、一次バランサー(バランサー)12、ベルト伝動機構(無端体伝動機構)13、及び電動機14に加えて、副フライホイール(慣性体)15と、副フライホイール用クラッチ(以下、クラッチに統一する)16と、テンショナー20とを備えて構成される。
【0029】
エンジン本体2は、三つのピストン3a〜3cの上下運動を回転運動に変換するクランクシャフト(クランク軸)4と、主フライホイール5とを備える。このエンジン本体2は主フライホイール5を介して図示しない変速装置と接続されているが、この主フライホイール5を必ずしも必要としない。
【0030】
ギア伝動機構11は、駆動ギア11aと従動ギア11bとを備える。この従動ギア11bは、一次バランサー12をクランク軸4の回転に対して等速で逆回転させるように、駆動ギア11aと同一径のギアであり、好ましくは一次バランサー12とのバランスを考慮して、偏心させるとよい。この振動低減装置10では、クランク軸4と一次バランサー12との間の動力の伝達に、ギア伝動機構11の一段しか介さないので、ギアノイズの制御を容易にする。
【0031】
一次バランサー12は、クランク軸4の軸線と略平行に配置され、前述したように回転する。この一次バランサー12はクランク軸4と等速で逆回転することによって、1次の慣性偶力によるピッチング振動と、1.5次のトルク反力によるローリング振動を低減することができる。
【0032】
ベルト伝動機構13は、一次バランサー12の軸先端に取り付けた第一プーリー13aの回転を、無端状のベルト(無端体)13bを介して第二プーリー13cへ伝達し、そのときに、クランク軸4の回転に対して、増速するように構成される。また、トルクを伝達するために、ベルト13bの張力を保持するテンショナー20とアイドラー13dとを備える。
【0033】
テンショナー20は、
図2に示すように、プーリー21、固定部22、テンションアーム23、及びテンションスプリング(弾性体)24を備える。このテンショナー20は、プーリー21がテンションスプリング24によって、ベルト13bに付勢されることにより、ベルト13bの張力を保持し、且つベルト13bの張力の変動により、テンションアーム23が固定部22を軸に回動して、プーリー21の位置を移動するものであり、所謂オートテンショナーである。
【0034】
また、このテンショナー20は、サイクル内変動でクランク軸4の回転が正のとき、つまり一次バランサー12が加速しながら回転するときに、ベルト13bの緩む側Aに配置される。以降、クランク軸4が正で回転するときと記載した場合は、クランク軸4の回転のクランク角加速度が正のときであり、図中の矢印aの方向の加速度のときを示す。
【0035】
このベルト13bの緩む側Aは、クランク軸4が正で回転するときに緩む側であって、サイクル内変動でクランク軸4の回転が負のとき、つまり一次バランサー12が減速しながら回転するときに、緩む側Aとは逆にベルト13bの張る側となる。以降、クランク軸4が負で回転するときと記載した場合は、クランク角加速度が負のときであり、図中の矢印bの方向の加速度のときを示す。
【0036】
このテンショナー20のテンションスプリング24は、ベルト13bのバネ定数を大きくした際に、例えば、伸びの少ないアラミド繊維系の芯線を使ったベルト13bを用いて、そのベルト13bの初張力を600N〜800N程度とした際に、テンションスプリング24のバネ定数を大きくすることが望ましい。
【0037】
ベルト13bのバネ定数を大きくした場合に、このプーリー21がトルク反力と同じ、回転2次に同調して移動し、プーリー21の慣性力によって、振動が増加してしまうことが発生するが、ベルト13bのバネ定数を大きくした場合に、合わせてテンションスプリング24のバネ定数を大きくすることで、ベルト13bの張力によるプーリー21の位置の移動距離を小さくすることができる。
【0038】
また、
図4に示すように、テンショナー20をベルト13bの緩み側Aに設けることによるベルト13bの初張力T
0は、第二プーリー13cに掛かる力より、電動機14側の慣性モーメントを駆動するために必要な力Teより大きく設定する。このベルト13bの初張力T
0は、クランク軸4側の、つまりエンジン1の回転変動により設定することができる。
【0039】
アイドラー13dは、クランク軸4が正で回転するときに、ベルト13bの張り側Bに設けられ、ベルト13bの張力の変動があっても、移動しない固定のプーリーである。
【0040】
電動機14は、
図3に示すように、第二プーリー13cと接続され、力行駆動、及び回生駆動可能で、所謂ジェネレータ、又はスタータジェネレータと呼ばれるもので、発電可能に構成される。
【0041】
副フライホイール15は、クラッチ16を接状態、又は断状態とすることで自身の駆動トルクを、第二プーリー13cを介してギア伝動機構11へと伝達するように構成される
。
【0042】
そして、このエンジン1は、クランク角センサ17と、電圧入力に応じてトルク制御を行うインバータ18と、インバータ18及びクラッチ16の動作を制御するECU(制御装置)19を備えて構成される。
【0043】
インバータ18は、電圧の正負で電動機14の力行駆動、及び回生駆動を制御し、その電圧の大きさで負荷が決まるインバータである。
【0044】
ECU19は、エンジンコントロールユニットと呼ばれる制御装置であり、電気回路によってエンジン1の制御を担当している電気的な制御を総合的に行うマイクロコントローラである。
【0045】
そして、この実施の形態では、
図3に示すように、ECU19に、エンジン1の運転状況に合わせてクラッチ16を接状態、又は断状態にする断接手段M1と、クランク軸4の回転が加速し始めるときに電動機14の力行駆動を開始し、電動機14の回転が減速し始めるときに電動機14の回生駆動を開始する制御を行う駆動制御手段M2とを設けて構成される。
【0046】
駆動制御手段M2は、微分回路C1及びC2、F/V変換回路C3、電動機角速度算出手段M3、及び制御波形作成手段M4を備え、制御波形作成手段M5で作成された制御波形W4に基づいてインバータ18を制御して、電動機14を制御する手段である。
【0047】
微分回路C1は、クランク角センサ17の測定値が入力され、実際のクランク角速度の微分波形W1を出力する回路である。このクランク角速度の微分波形W1は、時間とクランク角加速度に基づいた波形である。
【0048】
微分回路C2は、電動機角速度算出手段M3で算出された実際の測定値に準ずる電動機14の角速度が入力され、実際の測定値に準ずる電動機14の角速度の微分波形W2を出力する回路である。この電動機14の角速度の微分波形W2は、時間と電動機14の角加速度に基づいた波形である。
【0049】
電動機角速度算出手段M3は、クランク角加速度の増加時とクランク角加速度の減少時の二つの事象から、実際の測定値に準ずる電動機14の角速度を算出する手段である。詳しくは、クランク角加速度の増加時の電動機14がベルト伝動機構13により駆動されるときと、クランク角加速度の減少時の電動機14が慣性により回転するときの二つの事象から電動機14の角速度を算出する手段である。
【0050】
この方法について、
図4及び
図5を参照しながら説明する。なお、以下では、電動機14の負荷は考慮せず、無負荷運転の場合を示す。また、ベルト伝動機構13であることより、フリクションやスリップを考慮する必要があるが、伝導効率、スリップ率として一義的に処理することとする。
【0051】
図4に示すように、クランク角加速度の増加時で、電動機14がベルト伝動機構13により駆動される場合は、ベルト13bの張り側Bのベルト13bが伸び、緩み側Aにできる緩み分をテンションスプリング24の付勢力で押し出されたプーリー21で吸収して回転している状態である。
【0052】
ここで、第一プーリー13aの半径をr
1、第二プーリー13cの半径をr
2、第一プーリー13aの角速度をω
1、第二プーリー13cの角速度をω
2とすると、電動機14が駆動されるときは、移動するベルト13bの伸びの長さをδとすると、次の数式(1)が成り立つ。この第一プーリー13aの角速度ω
1が、クランク角速度であり、第二プーリー13cの角速度ω
2が、電動機14の角速度である。
【数1】
【0053】
δ>0のときに、ベルト13bの初張力T
0は、テンションスプリング24によるベルト13bを押し付ける荷重のベルト方向の成分であるから、僅かなベルト13bの伸びによる変化は少なく、一定として計算する。ここで、電動機14が駆動されるときの張力差(電動機14側の慣性モーメントを駆動するために必要な力)をTeとすれば、電動機14の前後のベルト張力T
1は、T
1=T
0、及びベルト張力T
2は、T
2=T
0+Teとなり、張力差Teのみを考えればよい。張力差Teは、第二プーリー13cの慣性モーメントをI
2とすると、以下の数式(2)となる。
【数2】
【0054】
よって、数式(1)及び(2)から、ベルト13bのバネ定数をKとすると、次の数式(3)が成り立つ。
【数3】
【0055】
ベルト13bの伸びがδ>0の場合は、ベルト13bの伝導効率をη、積分定数をQとすると、次の数式(4)が成り立つ。
【数4】
【0056】
Δt後の変化値をkθ
2、及びkω
2を、次の数式(5)及び数式(6)から求める。
【数5】
【数6】
【0057】
初期値として第一プーリー13aの角速度ω
1の値を用いて、結果が収束するように積分定数Qの値を変えて上記の数式(4)〜数式(6)から四階のルンゲクッタ法で解いて、実際の測定値に準ずる電動機14の角速度ω
2を求めることができる。
【0058】
図5に示すように、クランク角加速度の減少時で、電動機14が慣性により回転する場合は、ベルト13bの伸びの長さδの積算値がマイナスとなったときであり、δ<0となる。
【0059】
このとき、ベルト13bの張り側Bに撓みができ、ベルト13bが大きく振動する。このときの電動機14の前後のベルト張力T
1は、T
1=T
0、及びベルト張力T
2は、T
2=0となり、電動機14は等加速度で減速していくことから、次の数式(7)が成り立つ。
【数7】
【0060】
δ<0の場合は、上記の数式(7)をそのまま解いて、次の数式(8)から電動機14の角速度ω
2を求めることができる。
【数8】
【0061】
以上により、実際の測定値に準ずる電動機14の角速度ω
2を求めることができる。
【0062】
F/V変換回路C3は、クランク角速度の微分波形(パルス周波数)W1入力し、その微分波形W1を電圧波形に変換し、微分波形である基準制御波形W3を出力する回路である。
【0063】
制御波形作成手段M4は、
図6に示すように、F/V変換回路C3で出力された基準制御波形W3における電動機14の力行駆動の開始タイミングt1を、微分回路C1で出力されたクランク角速度の微分波形W1から算出された電動機14の力行駆動の開始タイミングt1’に変更して、及び基準制御波形W3における電動機14の回生駆動の開始タイミングt2を、微分回路C2で出力された電動機14の角速度の微分波形W2から算出された電動機14の回生駆動の開始タイミングt2’に変更して、電動機14の制御波形W4を作成する手段である。
【0064】
よって、この制御波形作成手段M5では、クランク角速度、つまりエンジン1のトルク変動に合わせて算出された基準制御波形W3を、クランク角速度の加速時に実際のクランク角速度に同期するように、また、クランク角速度の減速時で、且つ電動機14の減速時に実際の電動機14の角速度に同期するように成形して、制御波形W4を作成している。
【0065】
そして、本発明に係る実施の形態のエンジン1の振動低減方法は、クランク軸4の回転が加速し始めるときに電動機14の力行駆動を開始し、電動機14の回転が減速し始めるときに電動機14の回生駆動を開始することを特徴とする方法である。
【0066】
まず、エンジン1の運転状況が通常走行時の場合について説明する。通常走行時は、ECU19が断接手段M1によりクラッチ16を接状態にして、一次バランサー12と副フライホイール15とを、クランク軸4の回転に対して逆回転させて、エンジン1のトルク変動に伴うトルク反力を低減する。
【0067】
このとき、副フライホイール15が、ベルト伝動機構13を介して駆動されることで、ベルト13bのスリップや伸縮を原因とした位相ずれとトルク低下によって、トルク反力を低減させるトルクが低減する。
【0068】
これは、クランク角速度が加速時に数式(2)に示す張力が必要となりベルト13bのバネ定数により伸びる分だけ位相がずれるからである。なお、この位相はベルト伝動機構13のレイアウト、ベルト13bの材質、及びクランク角加速度により変わる。
【0069】
このとき、駆動制御手段M2により電動機14を、クランク角加速度が増加したときに力行駆動を開始し、電動機14の角加速度が減少したときに回生駆動を開始する制御を行う。
【0070】
このエンジン1の振動低減方法について、
図7のフローチャートを参照して説明する。
【0071】
まず、クランク角センサ17でクランク角速度を検知するステップS10を行う。次に、クランク角速度を微分回路C1に入力し、クランク角速度の微分波形W1を出力するステップS20を行う。次に、電動機角速度算出手段M3で、電動機14の角速度を算出するステップS30を行う。次に、電動機14の角速度を微分回路C2に入力し、電動機14の角速度の微分波形W2を出力するステップS40を行う。
【0072】
次に、クランク角速度の微分波形をF/V変換回路C3に入力して、基準制御波形W3を出力するステップS50を行う。電動機14の出力は、電圧に比例することから、このステップS50でクランク角速度の微分波形W1からF/V変換で電圧波形である基準制御波形W3を求めることで、クランク角速度の変化、つまりエンジン1の回転変動に応じ
た電動機14の出力を算出することができる。
【0073】
次に、ステップS20で出力された微分波形W1から力行駆動の開始タイミングt1’を算出し、基準制御波形W3の力行駆動の開始タイミングt1を開始タイミングt1’に変更するステップS60を行う。次に、ステップS40で出力された微分波形W2から回生駆動の開始タイミングt2’を算出し、基準制御波形W3の回生駆動の開始タイミングt2を開始タイミングt2’に変更するステップS70を行う。
【0074】
次に、ステップS60とステップS70で成形された制御波形W4を出力するステップS80を行う。次に、ステップS80で出力された制御波形W4で電動機14を制御するステップS90を行って、この振動低減方法は完了する。
【0075】
これにより、クランク軸4が正で回転する場合には、テンショナー20により、副フライホイール15側にエンジン1の回転変動を伝え、そのときに電動機14が力行駆動するので、ベルト伝動機構13を介すことで発生する、位相の遅れと駆動トルクの低減を起因とする副フライホイール15のトルクの損失分を補って、トルク反力を低減すると共に、ギアノイズを低減することができる。
【0076】
一方、クランク軸4が負で回転する場合は、ベルト13bの長さが張力の変動によりテンショナー20のプーリー21の位置の移動に伴って長くなるので、副フライホイール15側にエンジン1の回転変動がなまされてしまう。このとき、電動機14を回生駆動することで、副フライホイール15がエンジン1の回転変動と同期するので、トルク反力を低減することができる。また、ベルト13bの長さが長くなることで、ギアノイズが低減し、また、それに伴い発生するスリップ音を、電動機14が回生駆動して、副フライホイール15をエンジン1の回転変動と同期させて、低減する。
【0077】
ここで、
図8の(a)に示す電動機14の制御無しの場合と、
図8の(b)に示す電動機14の制御有りの場合とを比較すると、電動機14を上記のように制御することで、エンジン1の回転変動に合わせて、電動機14と副フライホイール15の回転変動を制御することで、クランク角速度が増加したときに、電動機14による回転変動を大きくして、エンジン1の反力を低減し、クランク角速度が減少したときに、電動機14による回転変動を小さくして、ギアノイズを低減することができる。
【0078】
ここで、このエンジン1のトルク反力を低減する原理について、
図9を参照しながら説明する。
図9に示す回転体30は、一次バランサー12と副フライホイール15とを合わせたものとして説明する。
【0079】
ここで、θをクランク角、T(θ)をクランクトルク、T
rをトルク反力、I
1をクランク軸4周りの慣性モーメント、I
iをi番目の回転体30の慣性モーメント、及びg
iをi番目の回転体30のギア比とする。トルク反力T
rは次の数式(9)で表すことができる。
【数9】
【0080】
このとき、分母の(I
1+Σg
i2I
i)が、エンジン1の有効慣性モーメントであり、回転の向きに関係なく全て正の値である。数式(9)からトルク反力T
rは、(I
1+Σg
iI
i)が最小となるように、エンジン1とは逆回転の増速された回転体30を設けることで最小とすることができる。
【0081】
数式(9)の分母は、クランク軸4周りの有効慣性モーメントであり、その大部分はクランク軸4、主フライホイール5、及び図示しないクラッチプレッシャープレートが占める。分子は、各軸の慣性モーメントにギア比、又はプーリー比を乗じたもので、逆転するものがあれば、その値は負となり、分子が小さくなり、トルク反力は小さくなる。
【0082】
よって、一次バランサー12と副フライホイール15とで、エンジン1のトルク変動に伴う反力を低減することができることが分かる。
【0083】
次に、エンジン1の運転状況が始動時を除く加速時の場合について説明する。加速時は、ECU19が断接手段M1によりクラッチ16を断状態にしている。エンジン1の運転状況が加速時であれば、トルク反力は小さく、ギア伝動機構11の噛み合い力も小さい。そのため、副フライホイール15の駆動トルクは必要なく、クラッチ16を断状態にすることにより、エンジン加速時の有効慣性モーメントの増加を抑制して、エンジン1の加速性能を向上し、且つ燃費を向上する。
【0084】
次に、エンジン1の運転状況がアイドル時で、且つアイドルストップが動作していない場合について説明する。アイドル時で、且つアイドルストップが動作していない場合は、ECU19が断接手段M1によりクラッチ16を断状態にしている。クランク軸4からの駆動トルクが副フライホイール15の駆動トルクよりも小さいため、クラッチ16を断状態にすることにより、一次バランサー12を駆動するギア伝動機構11の噛み合い力を低減して、ギアノイズを低減する。
【0085】
このアイドル時に電動機14を駆動制御手段M2により制御することで、エンジン1のトルク変動を抑制する。これにより、アイドル時に発生するローリング振動を、電動機14を単独で駆動して低減することができる。
【0086】
さらに、電動機14を駆動させる分、燃費が悪化する可能性があるが、大部分のアイドリングは、アイドリングストップが動作中であり、その影響は少なく、アイドリングストップ中は、一種のデュアルマスフライホイールとして動作するため、トータルの燃費を向上することができる。
【0087】
上記の実施の形態の振動低減装置10、それを備えるエンジン1、及びエンジン1の振動低減方法によれば、クランク軸4の回転が加速し始めるときに電動機14の力行駆動を開始し、電動機14の回転が減速し始めるときに電動機14の回生駆動を開始することにより、ベルト伝動機構13のベルト13bの伸びに起因するクランク軸4の回転と電動機14の回転との回転位相差が発生しても、電動機14の制御タイミングを容易に決定することができる。
【0088】
そして、その制御タイミングで電動機14を制御することで、電動機14による回転変動を大きくしながら、クランク軸4にトルクを及ぼさないため、エンジン1の振動とその振動の抑制に伴って発生する騒音の両方を低減することができる。
【0089】
具体的には、第一に、エンジン1の一次振動を一次バランサー12でキャンセルし、電動機14に設けた副フライホイール15回りのトルクにより、クランク軸回りのトルク反力をキャンセルし、エンジン1の二次振動を低減することができる。
【0090】
第二に、ベルト13bの張力を保持するテンショナー20の動きでギア伝動機構11に副フライホイール15の反力が直ぐに伝わることを回避して、二次振動に起因する回転変動により発生し、エンジン1の圧縮行程から爆発行程に移る圧縮上死点近傍で最も大きくなるギアノイズを低減することができる。
【0091】
第三に、電動機14を力行駆動、及び回生駆動することにより、副フライホイール15回りのトルクを大きくして、ギア伝動機構11に副フライホイール15の反力が直ぐに伝わらないことで低減するトルク反力の低下を回避することができる。
【0092】
これにより、エンジン1のダウンサイジングを図ることができるので、より熱効率の高い領域の使用頻度を増やすと共に、エンジン本体2のフリクションも低減して、燃費を低減することができる。
【0093】
なお、上記の実施の形態では、クラッチ16を設け、副フライホイール15とベルト伝動機構13及び電動機14との間の動力の伝達を制御したが、本発明はこれに限定されずに、クラッチ16を設けない構成としてもよい。但し、クラッチ16を設けることで、前述したように、エンジン1の運転状況に応じてクラッチ16を接状態、あるいは断状態とすることで、エンジン1の運転状況に応じた振動を低減することができる。
【0094】
また、上記の実施の形態では、クランク角センサ17の測定値を微分回路C1に入力して微分波形W1を出力し、電動機角速度算出手段M3で算出された電動機14の角速度を微分回路C2に入力して微分波形W2を出力するように構成した。この構成は一例であり、実際の、あるいは実際の測定値に準ずるクランク角速度と電動機14の角速度から微分波形W1及びW2を出力することができればよい。例えば、電動機角速度算出手段M3の代わりに電動機14の角速度を測定するセンサを用いる構成や、微分回路C1及びC2で微分波形を出力する代わりに、角速度の変化に基づいて力行駆動の開始タイミングt1’及び回生駆動の開始タイミングt2’を算出可能なマップなどを用いる構成としてもよい。
【0095】
加えて、上記の実施の形態では、制御装置としてECU19を用いたが、インバータ18にクランク角センサ17を接続するなどして、駆動制御手段M2を、ECU19を介さずに、インバータ18のみで行えるようにしてもよい。